(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】コンパクトなアルミニウム合金熱処理方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/04 20060101AFI20230922BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230922BHJP
【FI】
C22F1/04 M
C22F1/00 691B
C22F1/00 623
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
(21)【出願番号】P 2022507538
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 IB2020056809
(87)【国際公開番号】W WO2021024062
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-02-04
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518412058
【氏名又は名称】ノベリス・コブレンツ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Novelis Koblenz GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー,フィリップ
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特公昭50-017009(JP,B1)
【文献】特開平06-031526(JP,A)
【文献】特開2008-248342(JP,A)
【文献】特開平10-029762(JP,A)
【文献】特開2001-335832(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0013810(KR,A)
【文献】特開平03-287748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/04
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動するアルミニウム合金ストリップの熱処理のための方法であって、前記アルミニウム
合金ストリップは、上面及び下面を有し、前記方法は、前記アルミニウム
合金ストリップを少なくとも2つの回転する加熱ロールに亘り移動させることを
含む熱処理を含み、前記加熱ロールは外面を含み、前記アルミニウム
合金ストリップの表面が前記加熱ロールの前記外面の一部と熱伝達接触して、前記アルミニウム合金ストリップに熱を誘導して前記アルミニウム合金ストリップをアニーリング温度に加熱するようにし、また前記アルミニウム合金ストリップを第1の回転する加熱ロールに亘り移動させ、続いて前記アルミニウム
合金ストリップを第2の回転する加熱ロールに亘り移動させて
、前記アルミニウム
合金ストリップの前記上面と前記下面とが、前記回転する加熱ロールの前記外面と
交互に熱伝達接触しているようにすること、を含
み、
前記加熱ロールの前記外面が、窒化チタン、炭化タングステン、及び窒化クロムからなる群から選択されるセラミックコーティングでコーティングされている、方法。
【請求項2】
前記アルミニウム合金ストリップが、一方の表面が回転する加熱ロールと熱伝達接触している間に移動し、前記アルミニウム合金ストリップの他方の表面の熱損失が、スクリーンの存在により調整される、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理後の前記アルミニウム合金ストリップを100℃未満にクエンチする、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱処理後の前記アルミニウム合金ストリップが、前記アルミニウム合金ストリップを少なくとも1つの回転する冷却ロールに亘り移動させることによって100℃未満にクエンチされ、前記回転する冷却ロールが外面を含み、前記アルミニウム合金ストリップの表面が前記回転する冷却ロールの前記外面と熱伝達接触して、前記アルミニウム合金ストリップから熱を除去し、前記アルミニウム合金ストリップを100℃未満の温度で冷却する、請求項1から
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アニーリング温度が400℃から590℃の範囲である、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記加熱ロールが1から3メートルの範囲の直径を有する、請求項1から
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱ロールが金属から作られ、
前記金属が鋳鉄、鋼、ステンレス鋼、銅、銅ベースの合金、及びアルミニウム合金の群から選択される、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記アルミニウム合金ストリップが、0.3mmから4.5m
mの範囲の厚さを有する、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記アルミニウム合金ストリップが、AA2XXX、AA5XXX、AA6XXX、またはAA7XXXシリーズのアルミニウム合金の中の組成を有する、請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項
3または4に記載の方法を実施するための設備であって、アルミニウム合金ストリップを使用して移動または移送する一方で、回転可能な加熱ロールの前記外面と熱伝達接触して、前記アルミニウム合金ストリップに熱を誘導して、アニーリング温度で前記アルミニウム合金ストリップを加熱するように適合された2つ以上の回転可能な加熱ロールを含む加熱セクション、及び前記アルミニウム合金ストリップを前記アニーリング温度から100℃未満に急冷またはクエンチするためのクエンチセクションを含むことを特徴とする、設備。
【請求項11】
移動するアルミニウム合金ストリップの熱損失を調整するために、
アルミニウム合金ストリップの一方の表面が回転可能な加熱ロールの前記外面と熱伝達接触してい
る間に、前記アルミニウム合金ストリップの
他方の表面に面するように配置された1つまたは複数のスクリーン
を備える、請求項
10に記載の設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金ストリップの熱処理のための方法及びコンパクトな装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は、自動車部品、構造部品、その他多くの用途など、様々な目的で広く使用されている。従来、アルミニウム合金は直接冷却鋳造であるか、または継続的に鋳造するかのいずれかである。多くの場合、インゴット、スラブ、またはストリップは最終ゲージに圧延され、顧客(自動車メーカーや部品加工工場など)に納品できる。場合によっては、アルミニウム合金は、望ましい焼き戻しの特性を達成するために、ある種の熱処理を受ける必要があることもある。例えば、アニーリングはアルミニウム製品の成形性を改善することができ、溶体化熱処理とそれに続くクエンチはアルミニウム製品の強度を向上させることができる。
【0003】
大量のスループットを達成するために、アルミニウム合金製品は、大規模な継続的な処理ラインで継続的にアニーリングまたは溶体化熱処理することができる。従来、そのような継続的な処理ラインは非常に大きな建物を占め、高価で複雑な機器を必要としている。例えば、このような継続的なアニーリング溶体化熱処理ラインでは、アルミニウム合金ストリップを多数のセクションに通して、アルミニウムストリップの温度を十分に上げて溶体化熱処理温度に維持する必要があり、その後、クエンチは、最大130メートル以上の処理ラインを時に必要とする。これらの継続的な処理ラインには、入口セクション、ストリップをステッチまたは溶接するデバイス、ルーパー、テンションコントローラ、アニーリングまたは溶体化熱処理前の脱脂、及びクエンチ及び最終リコイル後の他の冶金または表面処理操作などの追加の操作も含まれ、これらの継続的な処理ラインの展開された長さの合計は、最大800メートル以上に達する可能性がある。アルミニウムストリップが高温でクエンチセクションを移動している間、低い張力を維持せねばならず、また、表面の欠陥を避けるために、アルミニウムストリップは、これらのセクションにおいていずれの周囲の機器や構造にも接触することなく維持する必要がある。実際には、これは、アルミニウムストリップの2つの表面に強制換気を適用して、適切に空気中に浮遊させておくことによって実現される。アルミニウムストリップが機器または構造物と物理的に接触すると、アルミニウムストリップの表面が損傷するだけでなく、それが機器または構造物を損傷させる可能性があり、損傷したアルミニウムストリップ、及び影響を受ける最大130メートル以上のアニーリングまたは溶体化熱処理及びクエンチセクションにあるいずれかのアルミニウムストリップ、及び新しい処理の実行を開始するために必要ないずれかのアルミニウム(例えば、さらに800メートル以上)を、シャットダウン及びスクラッピングすることが必要になる。さらに、所望の温度を維持するために、アルミニウムストリップを浮かせる(suspend)ために利用される強制換気は、アニーリングまたは溶体化熱処理セクションでも同様に加熱されなければならない。
【0004】
アニーリングと溶体化熱処理には、アルミニウム製品を特定の温度に加熱及び冷却し、それらの温度で特定の時間保持することが含まれる。アルミニウム製品の温度時間プロファイルは、結果として生じる強度、延性、及びアルミニウム製品の他の全体的な特性(例えば、自動車のボディシートの耐衝撃性)に大きく影響する可能性がある。場合によっては、例えば自動車及び輸送用途で広く使用されているAA6XXX及びAA7XXXシリーズのアルミニウム合金の場合、アルミニウム合金のアニーリングまたは溶体化熱処理及びクエンチには、合金元素(主に、AA6XXXシリーズ合金の場合シリコン及びマグネシウム、またAA7XXXシリーズ合金の場合は亜鉛、マグネシウム、及び任意選択で銅)を金属物品の固溶体に溶解し、次に金属物品をクエンチしてこれらの元素を過飽和固溶体に固定するまで高温で物品を加熱することが含まれ得る。アニーリングまたは溶体化熱処理及びクエンチの後、アルミニウムは、アルミニウムマトリックス中の合金元素の漸進的な再結合及び析出によって硬化することができる。この硬化は、一定期間室温で(例えば、自然に時効させて)起きるか、またはわずかに高温で一定期間(例えば、人工的な時効または予備時効、通常は70℃から200℃の範囲)、及び/またはさらなる処理(例えば、洗浄、前処理、コーティング、またはその他)で生じ得る。自動車のボディの塗装作業とその塗装硬化サイクルは、アルミニウム合金の硬化に寄与するそのようなさらなる処理ステップの例である。
【0005】
この溶体化熱処理とクエンチは、析出によって硬化しないアルミニウム合金、例えば主にマグネシウムの固溶体によって硬化するAA5XXXシリーズのアルミニウム合金にとっても重要であり、それにおいて加熱は再結晶構造体を送達及び制御すること、並びに再結晶粒のサイズを制御するための時間と温度で保持することの後押しをする。再結晶の程度と結晶粒径は、特にAA5XXXシリーズ合金の機械的特性、表面アスペクト、及び降伏点伸び(YPE)に直接影響する。
【0006】
同様に、析出によって硬化したアルミニウム合金の場合、例えば、AA2XXX、AA6XXX、及びAA7XXXシリーズの合金では、アニーリングまたは溶体化熱処理への加熱速度を上げると、アルミニウムストリップ内の再結晶粒構造を送達及び制御すること、並びに再結晶粒のサイズを制御するための温度をその時点で保持することの後押しをする。再結晶の程度、材料のテクスチャー、及び再結晶粒のサイズは、アルミニウムストリップの成形能力に直接影響する。
【0007】
実際には、アルミニウムストリップの継続的な熱処理用の最先端の装置では、溶体化熱処理への加熱速度は、空気の流れと移動するアルミニウムストリップを浮遊させることによって加熱が行われるという事実によって制限され、したがってその加熱速度を加速させる可能性を大幅に減らす。
【0008】
利用可能なアルミニウムストリップの継続的な熱処理用の最先端の装置に関連する別の問題は、加熱され、主に最高温度で保持される炉のセクションでの溶体化熱処理(またはより一般的には高温での処理)中にアルミニウムストリップが変形する傾向である。変形の典型的なパターンは、横断面に沿った平らなMのような形状またはカモメの形状であり、加熱及び高温でのソーキング(soaking)中にアルミニウムストリップを所定の位置に保持及び浮かせる(suspend)空気を供給するノズルと、アルミニウムストリップとを接触させる可能性がある。これにより、アルミニウムストリップの表面に許容できない欠陥が生じる可能性があり、場合によっては、それが破損して、生産が大幅に停止する可能性がある。
【0009】
さらに、アニーリングまたは溶体化熱処理(またはより一般的には高温での処理)中に発生するこのM字形または他の表面の変形は、クエンチの操作が水または他のいずれかの液体を使用する場合、クエンチの操作をより困難にする。アルミニウムストリップの表面にポケットまたは谷があると、水またはその他いずれかの液体が局所的に蓄積する可能性があり、冷却が不均一になり、クエンチの操作中のアルミニウムストリップの変形が促進される。
【0010】
アニーリング後の急冷や溶体化熱処理も重要な役割を果たす。冷却が遅すぎると、合金元素の一部が固溶体から離れ、それ以上の硬化に寄与しなくなる。これらはまた、粒界で析出し、粒界で早期破壊を開始することによってアルミニウム合金の強度を弱める可能性があり、したがって、例えばAA6XXXシリーズの合金の場合の材料の性能、その耐衝撃性を低下させる。その観点から、冷却を最大化するべきであるが、アルミニウムストリップの継続的な熱処理用の最先端の装置では、冷却を最大化することは、アルミニウムストリップの変形を引き起こすスプレーまたは水のミストでストリップを冷却することを意味する。この変形は、その振幅がストリップと、アルミニウムストリップをクエンチセクションの位置に維持する空気を供給するデバイスのエアノズルなどの機器との接触を作出するのに十分な大きさである可能性があるため、問題になる。記載されている変形と接触のリスクは、一般に冷却の増加と共に増大し、実際には、急速な冷却と許容可能な変形との間で妥協する必要がある。
【0011】
このことから、アルミニウムストリップの継続的なアニーリングまたは溶体化熱処理及びクエンチのために市場で入手可能な最先端の産業機器 は、完全な満足をもたらさないということになる。熱気による加熱速度が遅いため、それらのアニーリングまたは溶体化熱処理セクションは長く、投資に費用がかかる。装置は、アニーリングまたは溶体化熱処理温度までの迅速な加熱、及びクエンチ操作中の高次の冷却速度を適用する可能性に限界があるが、両方とも様々な冶金学的理由から望ましい。それらはまた、水または別の液体が使用されるときに不均一なクエンチの一因になるストリップの歪みを生成し、それは、装置とのストリップの相互作用、及び製造中の主要なストリップの破損によってでさえ、表面の欠陥を作出する可能性がある。そのような継続的な熱処理ラインの操作は、依然として実際には困難であり、相当な費用がかかる。
【0012】
そのようなラインの弱点を修復するために、当技術分野でいくつかの改善が提案されてきた。
【0013】
特許文献WO2016/037922A1は、AA6XXXシリーズのアルミニウムシートを継続的にアニーリングする方法を開示しており、継続的なアニーリングをする炉の入口セクションの前または近くで、アルミニウムシートが好ましくは誘導的に、500℃から590℃の設定された溶体化熱処理温度より5℃から100℃低い温度に予熱される。特許文献WO2016/091550A1は、AA7XXXシリーズのアルミニウムシートを継続的にアニーリングする方法を開示しており、継続的なアニーリングをする炉の入口セクションの前または近くで、アルミニウムシートが好ましくは誘導的に、370℃から560℃の設定された溶体化熱処理温度より、5℃から100℃低い温度に予熱される。特許文献WO2018/064228A1は、永久磁気ローターなどの磁気ローターを使用して金属ストリップを溶液温度に急速に加熱するための短い加熱ゾーンを有するコンパクトな継続的な熱処理ラインを提案している。磁気ローターは、ガスで満たされたチャンバ内で金属ストリップを浮揚させるために使用できる。また、特許文書WO2018/064145A1は、一連の回転磁石を使用して金属物品を加熱、浮上、及び/または移動させる非接触加熱装置を開示している。
【0014】
しかし、これらの解決策はいずれも、アルミニウムストリップの継続的なアニーリングまたは熱処理及びクエンチのために市場で入手可能な最先端の装置の弱点を完全に解決するものではない。
【発明の概要】
【0015】
本明細書において以下で理解されるように、別段示される場合を除き、アルミニウム合金及び質別の名称は、2018年にthe Aluminium Associationによって発行されているAluminum Standards and Data and the Registration RecordsにおけるAluminium Associationという名称を指し、当業者によく知られている。質別名称は、欧州規格EN515にも記されている。
【0016】
合金組成物または好ましい合金組成物の任意の記載について、百分率に対するすべての言及は、別段示されない限り重量パーセントによる。
【0017】
「最大で」及び「最大で約」という用語は、本明細書で用いられる場合、限定されないが、それが言及する特定の合金成分のゼロ重量パーセントの可能性を明示的に含む。例えば、最大で0.25%のCuは、Cuを有さないアルミニウム合金を含み得る。
【0018】
本発明の目的は、アニーリングまたは溶体化熱処理温度でのアルミニウム合金ストリップの熱処理のためのコンパクトな方法、及び対応する装置を提供することである。
【0019】
この目的及び他の目的ならびにさらなる利点は、移動するアルミニウム合金ストリップの継続的な熱処理のための方法であって、アルミニウム合金ストリップは、上面及び下面を有し、方法は、アルミニウム合金ストリップを少なくとも2つの回転する加熱ロールに亘り移動及び移送(または輸送、transport)させることを含み、加熱ロールは外面を含み、アルミニウム合金ストリップの表面が加熱ロールの外面の一部と熱伝達接触して、アルミニウムストリップに熱を誘導してアルミニウムストリップをアニーリング温度に加熱するようにし、またアルミニウム合金ストリップを第1の回転する加熱ロールに亘り移動させ、続いてアルミニウム合金ストリップを第2の回転する加熱ロールに亘り移動させて、交互になるアルミニウム合金ストリップの上面と下面とが、回転する加熱ロールの外面と熱伝達接触しているようにすること、を含む、方法を提供する本発明により適合される、または越えられる。アルミニウム合金ストリップは、事前定義されたアニーリング温度に加熱することによって熱処理され、これは、アルミニウムシートがアニーリングまたは溶体化熱処理される温度を意味する。
【0020】
本発明は、アルミニウム合金ストリップの熱処理のためのコンパクトな装置を必要とする。アルミニウム合金ストリップを少なくとも2つの円筒形の回転可能な加熱ロールに亘り動かして、アルミニウム合金ストリップを、必要な事前定義されたアニーリング温度にし、アニーリング温度でのソーキング時間を制御する。
【0021】
この方法及び装置は、速度制御手段(すなわち、コイルからのアルミニウム合金ストリップを伸ばす速度及び加熱ロールの回転速度)、及び円筒形の回転可能な加熱ロールからアルミニウム合金ストリップへの熱の伝達を制御するためのストリップ張力制御手段を備え得る。各円筒形加熱ロールの回転速度は個別に調整可能である。
【0022】
アルミニウム合金ストリップの少なくとも上面及び下面が加熱ロールの外面と熱伝達接触することを確実にするために、少なくとも2つの加熱ロールが設けられ、アルミニウム合金ストリップが第1の加熱ロールに亘り移動してアルミニウム合金ストリップの上面が第1の加熱ロールと熱伝達接触し、続いてアルミニウム合金ストリップを第2の加熱ロールに亘り移動させ、それによりアルミニウム合金ストリップの下面が第2の加熱ロールの外面と熱伝達接触して、アルミニウムシートの高速で均一な加熱を可能な限り確実にする。あるいは、最初に下面が第1の加熱ロールと接触し、続いてアルミニウム合金ストリップの上面が第2の加熱ロールの外面と接触する。第1の円筒形加熱ロールは、第1の方向、すなわち時計回りまたは反時計回りに回転可能であり、第2の円筒形加熱ロールは、反対の第2の方向に回転可能である。
【0023】
円筒形の回転可能なロールに亘りアルミニウム合金ストリップを移動または移送することは、ストリップの表面に見られる応力が降伏応力を超える場合、アルミニウム合金ストリップの表面にいくらかの塑性変形を生じさせる可能性がある。反対方向に移動する少なくとも2つの回転可能な加熱ロールに亘りアルミニウム合金ストリップを交互にすることの利点はまた、アルミニウム合金ストリップの両面が変形することであり、その結果、作用が対称的になる。さらに、アルミニウム合金シートの平坦度の制御が向上するに至る。
【0024】
外面との直接的な接触から生じるアルミニウム合金ストリップへの熱伝達は、工業規模の継続的なアニーリングラインで行われるように、加熱された空気でアルミニウム合金ストリップを加熱するよりもはるかに効果的である。
一連の実験により、AA6016シリーズの1mmシート材料の場合、周囲温度から溶体化熱処理温度540℃に達するまでの時間は、片側から加熱した場合に30秒未満、540℃の温度を有する2つの金属ブロック間で直接的な接触させて両側から加熱したときに約10~15秒であることが示されている。誘導加熱などの追加の外部熱源を使用するなどして熱の投入を増やすことにより、この加熱時間を10秒未満に短縮できる。一方、工業規模の継続的なアニーリングの時間では、この溶体化熱処理温度になるまでに必要な加熱時間は、通常、45~55秒の範囲である。本発明の方法におけるこの相当な加熱時間の短縮は、とりわけ、アルミニウム合金ストリップの加熱速度の増加、及びこの効果を達成するのに必要な装置のサイズの大幅な縮小に起因し、より良好でより均一な結晶粒再結晶をもたらす。
【0025】
本発明の重要な態様は、アルミニウム合金ストリップが回転可能な加熱ロールと直接的な接触をしていること、すなわち、アルミニウム合金ストリップと、回転可能な加熱ロールの外面との間に、熱的な接触があることである。従来技術では、高温で移動するアルミニウム合金ストリップが装置のいずれかの静的部分に直接的な接触をすることは、アルミニウム合金ストリップの望ましくない表面の損傷につながる可能性があるため、回避されるべきである。しかし、本発明によれば、回転可能な加熱ロール表面のふさわしい表面コーティングを選択することにより、アルミニウム合金ストリップと、加熱中のアルミニウム合金ストリップの膨張以外の回転可能な加熱ロールの外面の間にいずれの差次的な速度の差もないタンジェントの接触があるため、損傷を問題にする必要はない。
【0026】
それにもかかわらず、本発明の方法における円筒形の回転可能な加熱ロールの数は制限されるべきであり、システムを可能な限りコンパクトに保つために、好ましくは2つまたは3つ、ただし4つを超えない加熱ロールが使用される。
【0027】
実施形態では、回転可能な加熱ロールの外面は、高い熱伝導率及び低い摩擦係数を備えた耐摩耗性材料でコーティングされている。好ましい実施形態では、回転可能な加熱ロールの外面は、複合的ダイヤモンドコーティングで均一にコーティングされ、例えば、市販のEndure Coatingsに由来するComposite Diamond Coatings、Series-1100の複合ダイヤモンドコーティングを使用することができる。全体的に低い摩擦係数0.10~0.20と、1,000ビッカース以上で通常は約1,200ビッカースという高い硬度が組み合わされて、ストリップの張力と速度の制御とを組み合わせて、移動するアルミニウム合金ストリップの表面の欠陥の発生を制限する。
【0028】
適切なコーティングのこの例は非限定的であり、他の技術、特に溶射、例えば高速酸素燃料噴霧(HVOF)を使用して、加熱ロールの表面に熱伝導性、耐摩耗性、及び高接着性のコーティングを付与することが、本発明によって想定される。他の適切な材料には、窒化チタン、炭化タングステン、窒化クロムなどのセラミックコーティングが含まれる。
【0029】
回転可能な加熱ロールは、鋳鉄、鋼、ステンレス鋼、超硬セメント、銅、銅ベースの合金、及びアルミニウムベースの合金の群から選択される金属から製造され、十分な圧縮強度及び耐摩耗性を備え、方法の動作中の弾性変形のみを経ることが好ましい。それは、様々な加熱手段によって、例えば、抵抗加熱によって、例えば、温度の測定及び温度制御の手段と共に回転可能なロールの内側に配置された一組のヒーターを用いて、加熱することができる。電源は、例えば、円筒形の回転可能な加熱ロールの軸を介した接続を介して作ることができる。加熱ロール材料の選択はまた、誘導加熱手段を介して効果的な加熱を得るようなものであり得る。これは、アルミニウム合金ストリップと回転可能な加熱ロールとの間にかなりの熱の投入が必要とされる、加熱ロールのセットにおける少なくとも最初の回転可能な加熱ロールにとって、特に利がある可能性がある。これは、回転可能な加熱ロールの内側から達成することができるが、代替的に、またはそれに加えて、回転可能な加熱ロールの外径に垂直に配置されたインダクタからも、達成することができる。
【0030】
実施形態では、誘導加熱手段が設けられ、アルミニウム合金ストリップ自体の加熱に直接寄与するか、またはアルミニウム合金ストリップが加熱ロールの外面と直接的に接触する前でさえも設けられる。これは、アルミニウム合金ストリップの効果的かつ迅速な加熱をもたらし、円筒形の回転可能な加熱ロール(複数可)の外面との必要な接触時間を短縮することになる。
【0031】
実施形態では、アルミニウム合金ストリップは、一方の表面が回転する加熱ロールと熱伝達接触し、アルミニウムストリップの他方の表面が熱の損失を調整するために熱シールドまたはスクリーンに面している間に、移動または移送している。熱シールドまたはスクリーンは、加熱ロールとアルミニウムシート、例えばステンレス鋼プレートに面する側で理想的に反射する材料で作られた壁(複数可)または屋根の構造からなる。熱シールドまたはスクリーンは、アルミニウム合金ストリップの赤外線を反射するか、赤外線を吸収して再放射することにより、回転する加熱ロールの外面での移動するアルミニウム合金ストリップの熱の損失を低減するためのものである。熱シールドまたはスクリーンはまた、加熱ロール及び熱シールドまたはスクリーンを回転させることによって定められる空間またはチャンバ内の移動するアルミニウムシートの周りの気流を防ぐことによって、制御されない温度損失を防止または制限する。
【0032】
より好ましくは、熱シールドまたはスクリーンは、移動するアルミニウム合金ストリップの改善された温度制御のための能動的加熱手段をさらに含む。能動的加熱は様々な方法で行うことができ、特に加熱は、赤外線、放射管、ガス燃焼加熱、直接抵抗、誘導加熱、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。実施形態では、能動的加熱手段は、加熱ロールの外面と熱伝達接触している間にアルミニウム合金ストリップからの熱の投入に加えて、アルミニウム合金ストリップに熱を誘導するために、熱シールドとは別に設けられる。
【0033】
アルミニウム合金ストリップと回転可能な加熱ロール(複数可)の外面との間の接触をより効果的にするために、レベラーを設けることができる。
【0034】
回転する加熱ロール(複数可)の外面と接触している間に、移動するアルミニウム合金ストリップの張力を制御するために、例えば当技術分野で通常であるように、張力コントローラを、レベラーと第1の回転可能な加熱ロールの入口セクションとの間に設けることができる。
【0035】
実施形態では、アルミニウム合金ストリップの継続的なアニーリング及びクエンチのための通常の工業的な方法及び装置と同様に、本発明の方法を実行するための装置または設備の入口セクションは、圧延機から来るコイルからアルミニウム合金ストリップを取り扱うアンコイラを備えるまたは設けることができ、例えばステッチングまたは摩擦攪拌溶接によって、異なる連続するコイルからのアルミニウム合金ストリップの端部を一緒に結合するための1つまたは複数のデバイスを伴い、加熱処理ラインの全体的な速度を大幅に低下させることなく、先行の操作を適用できるサイズのルーパーを備え、また、1つまたは複数の脱脂セクションが、アルミニウム合金ストリップの表面から圧延潤滑剤の残留物または圧延潤滑剤の燃焼を温度加熱前に除去して、それを避けて、そのような残留物が装置及びアルミニウム合金ストリップの表面を汚染しないようにする。
【0036】
実施形態では、熱処理後のアルミニウム合金ストリップは、約100℃未満、好ましくは50℃未満、より好ましくは周囲温度まで急冷またはクエンチされる。
【0037】
クエンチは、アルミニウムストリップが回転可能な加熱ロールから実質的に平坦に出るという利点を備えた従来型デバイスによって達成することができ、継続的なアニーリングまたは溶体化熱処理のための現在の産業機器よりもはるかに容易にクエンチ及びアルミニウムストリップに亘る均一性、及びアルミニウム合金ストリップのクエンチの制御をする。
【0038】
実施形態では、熱処理後のアルミニウム合金ストリップが、アルミニウム合金ストリップを少なくとも1つの回転可能な冷却ロール、及び好ましくは2つ以上の回転可能な冷却ロールのセットに亘り移動させることによって約100℃未満に急冷またはクエンチされ、回転可能な冷却ロールが外面を含み、アルミニウム合金ストリップの表面が円筒形の回転可能な冷却ロールの外面と熱伝達接触して、アルミニウム合金ストリップから熱を除去し、アルミニウムストリップを約100℃未満の温度、また好ましくは50℃未満、さらに好ましくは周囲温度で急速に冷却する。回転可能な冷却ロール(複数可)は、高度の熱伝達を達成するために水冷することができる。冷却ロールは、回転可能な加熱ロールと同じ材料で作ることができ、同じまたは同様の表面コーティングを施すことができる。1つまたは複数の回転可能な冷却ロールを使用することにより、アルミニウム合金ストリップのより均一な冷却が得られ、歪みが大幅に減少する。また、アルミニウム合金ストリップの幅全体に亘るいわゆるカモメの形状またはM様形状の望ましくない形成が回避される。1mmゲージのAA6016アルミニウム合金ストリップの冷却速度は、アルミニウム製の水冷冷却ロールを使用した場合、通常、アニーリング温度から約100~200℃/秒の範囲である。
【0039】
任意選択で、アルミニウムストリップは、冷却ロール(複数可)の外面と接触していないアルミニウムストリップの表面に、水、水ベースのエマルジョン、ウォーターミスト、または別の冷却媒体を積極的に噴霧して、熱の除去を加速することによって、さらに冷却される。好ましい実施形態では、微細な水滴の噴霧は、アルミニウム合金ストリップの衝撃の表面で、大半が蒸発する。この追加の冷却は、第1の冷却ロールで実行できるが、第2の冷却ロール、さらにいずれかの冷却ロールでも実行できる。このようにして、例えば、200~400℃/秒またはそれより速い急速冷却速度に到達させ、例えば最小のストリップの歪みを有する1mmのゲージのアルミニウム合金ストリップが得られる。最小のストリップの歪みは、ここでは、ストリップを従来のレベラーに通すことによって完全に除去できるほど低次であると定義する。
【0040】
任意選択で、円筒形の回転可能な冷却ロールによる冷却は、例えば1つまたはエアノズルのアレイを使用して、加圧空気を介して冷却ロール(複数可)の外面と接触していないアルミニウム合金ストリップの外面を能動的に冷却することによって、補うことができる。
【0041】
冷却ステップに続いて、アルミニウムストリップの継続的なアニーリングまたは溶体化熱処理及びクエンチのための最先端の装置と同様に、通常の処理ステップを適用することができる。これらの操作には、レベリング、出口ルーパー、せん断、及びリコイルが含まれる。これらには、表面処理(例えば、脱脂、すすぎ、及びエッチングのシーケンス)、コーティング(例えば、不動態化層を適用できる)、さらなるスタンピング及び成形操作という観点からのアルミニウムストリップの潤滑、及びプレエイジング(または予備時効、pre-ageing)のようないくつかの専用の熱サイクルも含まれ得る。アルミニウム合金ストリップは、コイル状のままにすることも、長さにカットすることもできる。
【0042】
次に、熱処理されたアルミニウム合金ストリップを成形操作で成形することができる。それは、三次元のコンポーネントを成形するために使用される任意の成形操作であり得、特に、スタンピング、深絞り、プレス、超塑性成形、プレス成形、及びロール成形、またはそれらの組み合わせのような操作を含む。
【0043】
実施形態では、アニーリングの温度は、400℃から590℃の範囲である。当業者によく知られているように、アニーリングの温度は合金に依存する。AA5XXXシリーズのアルミニウム合金の場合、アニーリングの温度は、典型的には、約400℃から540℃の範囲であり、好ましくは、約470℃から540℃の範囲である。AA6XXXシリーズのアルミニウム合金の場合、アニーリングの温度は、典型的には、約500℃から590℃の範囲であり、好ましくは、約510℃から580℃の範囲である。AA7XXXシリーズのアルミニウム合金の場合、アニーリングまたは溶体化熱処理の温度は通常、約400℃から560℃の範囲である。Cuを目的として添加する(すなわち、Cu>0.25%)AA7XXXシリーズ合金の場合、温度は、典型的には、約400℃から530℃、好ましくは、約450℃から520℃の範囲であり、Cuを意図的に添加しない(すなわち、Cu<0.25%)AA7XXXシリーズ合金は、温度が、典型的には約400℃から560℃、好ましくは約470℃から530℃の範囲である。
【0044】
実施形態では、アルミニウム合金シートは、約0.3mmから4.5mm、好ましくは約0.7mmから4mm、より好ましくは約0.8mmから4mmの範囲の厚さを有する。シートの幅は、通常、約600~2700mmの範囲である。
【0045】
実施形態では、アルミニウム合金ストリップは、AA2XXX、AA5XXX、AA6XXXまたはAA7XXXシリーズのアルミニウム合金の中の組成を有する。好ましい実施形態では、アルミニウム合金は、AA6XXXシリーズのアルミニウム合金の中にあり、これらに限定されないが、6005、6009、6010、6111、6014、6016、6022、6029、6451、6061、6181、6082、及び6182を含む。別の実施形態では、アルミニウム合金は、AA5XXXシリーズのアルミニウム合金の中にあり、5050、5051、5052、5454、5754、5456、5182、及び5083を含むが、これらに限定されない。
【0046】
本発明による方法によって得られるアルミニウム合金ストリップは、自動車の用途や、他の輸送の用途、例えば航空機の用途に使用できる。例えば、得られる開示のアルミニウム合金製造物を使用して、バンパー、サイドビーム、ルーフビーム、クロスビーム、ピラー補強材(例えば、Aピラー、Bピラー、及びCピラー)、インナーパネル、アウターパネル、サイドパネル、インナーフード、アウターフード、またはトランクリッドパネルなどの自動車構造部品を作ってもよい。本明細書に記載の生じるアルミニウム合金製造物及び方法は、航空機または鉄道車両の用途にも、例えば、外部及び内部パネル、例えば胴体のパネルを作るためにも使用され得る。本開示の特定の態様及び特徴は、改善された表面の質及び冶金学に関する金属物品を提供することができ、これは、改善された結合能力及び成形性をもたらすことができ、これは、本明細書で言及される任意の用途及び他の用途にとって、特に望ましい可能性がある。本明細書に記載されている生じるアルミニウム合金製造物及び方法は、電子機器の用途にも使用できる。非限定的な例として、本明細書に記載されている生じるアルミニウム合金製造物及び方法は、携帯電話及びタブレットコンピュータを含む電子デバイス用のハウジングを作るために使用され得る。いくつかの例では、生じるアルミニウム合金製造物は、携帯電話(例えば、スマートフォン)のアウターケーシング用のハウジング、タブレットボトムシャーシ、及び他の携帯電子機器を作るために使用してもよい。
【0047】
本発明のさらなる態様では、本明細書に記載及び特許請求される方法を実施するための装置または設備が提供され、装置は以下を含む。
- アルミニウム合金ストリップを使用して移動または移送する一方で、回転可能な加熱ロールの外面と熱伝達接触して、アルミニウム合金ストリップに熱を誘導して、アニーリング温度でアルミニウム合金ストリップを加熱するように適合された2つ以上の回転可能な加熱ロールを含む加熱セクション
- アルミニウム合金ストリップをアニーリング温度から100℃未満に急冷またはクエンチし、好ましくは少なくとも1つの回転可能な冷却ロールを含むクエンチセクション、
- 任意選択で、移動するアルミニウム合金ストリップの熱損失を調整し、回転可能な加熱ロールの外面と熱伝達接触していないアルミニウム合金ストリップの側面に面するように配置された、内部反射面を備えた1つ以上のヒートシールドまたはスクリーン、
- 任意選択で、回転可能な加熱ロールの外面と熱伝達接触している間のアルミニウム合金ストリップへの熱の投入に加えて、アルミニウム合金ストリップに熱を誘導するための、1つ以上の加熱手段、
- 任意選択で、レベラーが設けられるテンションコントローラ、及び
- 任意選択で、レベラーと第1の回転可能な加熱ロールの入口セクションとの間に設けられた張力コントローラ。
【0048】
これより、本発明を、添付の図面を参照して説明するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図2】例示的な方法及び装置を概略的に表したものである。
【
図3】別の例示的な方法及び装置を概略的に表したものである。
【
図4】別の例示的な方法及び装置を概略的に表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1は、本発明による方法の原理を概略的に表したものである。アルミニウム合金ストリップ1は、矢印の方向に移動または移送され、この場合、3つの回転可能な加熱ロール6、7、8の外面と熱伝達接触することによって熱処理される。回転可能な加熱ロールの必要な直径は、次のガイドラインによって一次推定できる。
【0051】
vは、移動するアルミニウム合金ストリップの速度(m/秒)である。
【0052】
Tcは、アルミニウム合金ストリップを必要なアニーリングまたは溶体化熱処理温度及び必要なソーキング時間で加熱するためアルミニウム合金ストリップ1と加熱ロールの外面との間の必要な接触の時間(秒)、及びこの温度での必要なソーキング(soaking)時間である。これはアルミニウム合金に依存し、当業者による簡単な実験または熱力学的コンピューターモデリング計算によって確立することができる。
【0053】
Lcは、必要な接点の全長(m)である。
【0054】
Diは直径(m)で、加熱損失番号iである。
【0055】
Kiは、加熱ロール番号iの接触係数(無次元)である。加熱ロールの相対的な位置及びアルミニウム合金ストリップの位置に応じて、Kiは、ストリップと接触している加熱ロールiの周囲の長さを、前記加熱ロールの周囲の長さの合計で割った比率である。
【0056】
Nはロールの数である。
【0057】
Lc=v.TcまたはLc=ΣDi.Ki.πである。
【0058】
このモデルの計算で、すべてのロールが同一のKiと同一の直径を有していると仮定すると、これは次のように簡略化できる。
【0059】
Lc=N.D.K、したがってD=Tc.v/(N.π.K)
Tcが15秒、vが1 m/秒、Nが3、Kが0.75である第1次の大きさを設けるには、3つの加熱ロールのそれぞれについて2.12メートルの加熱ロールの直径になる。
【0060】
当業者は、これが単なるモデル計算に関係し、同じ原理を使用しながら様々なバリエーションが可能または必要であることをすぐに認識する。
【0061】
実際には、加熱ロールのセットの直径はこのセットの中で変えることができるが、通常、各加熱ロールの直径は約1メートルから3メートルの範囲である。
【0062】
図2は、本発明による方法、及びそれにおいて使用される装置の実施形態を、概略的に表したものである。この構成では、下面2及び上面3を有するアルミニウム合金ストリップ1は、コイル4からほどかれ、3つの円筒形の回転可能な加熱ロール6、7、8を含む加熱セクションに移動または移送され、その後に、円筒形の3つの回転可能な冷却ロール9、10、11から構成され、続いてコイル5に再コイル化される急速冷却セクションに至る。加熱セクションにおいて、アルミニウム合金ストリップ1の上面3は、加熱ロール6の外面と熱伝達接触させ、アルミニウムストリップに熱を誘導して、アルミニウムストリップをアニーリング温度に加熱する。アルミニウム合金ストリップ1の下面2を漸進的に動かしながら、加熱ロール7の外面と熱伝達接触させ、続いてアルミニウム合金ストリップ1の上面3を加熱ロール8の外面と熱伝達接触させる。加熱ロール7及び9は両方とも、第1の方向、すなわち時計回りまたは反時計回りに回転可能であり、加熱ロール8は反対の第2の方向に回転可能である。移動するアルミニウム合金ストリップ1の移送速度またはライン速度を調整することにより、それは、対象のアルミニウム合金に必要なアニーリングを達成するのに十分な事前定義されたアニーリング温度に一定時間ソーキングすることによって、熱処理を受ける。ソーキング時間は、通常、最大1分、好ましくは最大30秒の範囲である。アルミニウム合金ストリップ1への熱の投入を高めるために、それは第1の回転可能な加熱ロールと接触する前に予熱することができる。予熱は、様々な加熱手段によって、例えば、誘導加熱デバイス13を使用することによって達成することができる。アルミニウム合金ストリップの温度の制御を補助し、ストリップの熱損失を調整するために、熱シールド12またはスクリーン12を使用することができる。スクリーンは、少なくとも加熱ロール及び移動するアルミニウムシートに面する側で反射し、移動するアルミニウム合金ストリップの赤外線放射を反射するか、または赤外線放射を吸着及び再放出することによって反射する。熱シールドまたはスクリーンはまた、加熱ロール及び熱シールドまたはスクリーンを回転させることによって定められる空間またはチャンバ内の移動するアルミニウムシートの周りの気流を防ぐことによって、無制御の温度損失を防止または回避する。必要に応じて、熱シールドまたは反射スクリーンに、能動的加熱手段(図示せず)をさらに設けることができる。熱処理に続いて、アルミニウム合金ストリップ1は、アルミニウムストリップを円筒形の回転可能な冷却ロール9、10、11に亘り移動または移送することによってクエンチセクションで急速に冷却またはクエンチされ、回転する冷却ロールは、アルミニウムストリップの表面が回転する冷却ロールの外面と熱伝達接触して、アルミニウムストリップから熱を除去し、アルミニウムストリップを100℃未満の温度に、好ましくはほぼ周囲温度に冷却するように、外面を備える。この設定では、アルミニウム合金ストリップ1はまた、ストリップ材料の冷却速度を高めるために、スプレーノズル14を介してアルミニウム合金ストリップのいずれかの表面2、3に水または水ミストを能動的に噴霧することによってさらに冷却される。代替的なアプローチが本明細書に記載されている。
【0063】
図3は、本発明による方法、及びそれにおいて使用される装置の別の実施形態を概略的に表したものである。この構成では、アルミニウム合金ストリップ1がほどかれ、円筒形の移送ロールまたは支持ロール15を介して、同じ直径の3つの円筒形の回転可能な加熱ロール6、7、8を含む加熱セクションに移動または移送され、次に急速冷却またはクエンチセクション(図示せず)に移送される。3つの回転可能な加熱ロールはすべて、熱シールド12または反射スクリーン12を備えている。この構成では、回転可能な加熱ロール6及び7は、外部誘導源16を介して加熱され、一方、回転可能な加熱ロール8は、電気抵抗加熱(図示せず)によって加熱される。
【0064】
図4は、本発明による方法、及びそれにおいて使用される装置の別の実施形態を概略的に表したものである。この構成ではまた、アルミニウム合金ストリップ1がほどかれ、円筒形の移送ロールまたは支持ロール15を介して、同じ直径の3つの円筒形の回転可能な加熱ロール6、7、8を含む加熱セクションに移動または移送され、次に急速冷却セクション(図示せず)に移送される。3つの回転可能な加熱ロール6、7、8はすべて、電気抵抗加熱によって加熱される。任意選択で、移動するアルミニウム合金ストリップ1は、誘導デバイス13を使用する誘導加熱によって予熱することができる。この構成では、第1の加熱ロール6の外面と熱伝達接触している間のアルミニウム合金ストリップ1は、誘導源16を使用する誘導加熱によってさらに加熱される。アルミニウム合金ストリップ1のそのような追加の誘導加熱は、1つの回転可能な加熱ロールで適用することができるが、より多くの回転可能な加熱ロールまたはその近くでも、適用することができる。
【0065】
この種の配置は、高強度の合金の処理、例えば、これらの例に限定されないが、航空機用途のAA2XXXシリーズのアルミニウム合金、または航空機または自動車用途のAA7XXXシリーズのアルミニウム合金のアルミニウムストリップに特に適している、なぜならこれらのアルミニウム合金は大量の合金元素を含んでおり、溶体化熱処理温度でのソーキング時間を長くする必要があるからである。アルミニウム合金ストリップの継続的なアニーリング及びクエンチに利用できる現在の通常の産業機器では、この長いソーキング時間により、ラインの速度(ストリップの出口での速度)を大幅に低下させる必要があり、通常、AA6XXXシリーズのアルミニウム合金に使用されるライン速度と比較して最大約70%低下するため、これらの継続的なアニーリングのラインは、これらの高強度のアルミニウム合金を製造するための操作に非常にコストがかかる。本発明のアプローチでは、これは、加熱ロールの直径を大きくするか、移動するアルミニウム合金ストリップの高いライン速度を維持しながら1つまたは複数の加熱ロールを追加することによって、非常に簡単かつ費用効果的に行うことができる。
【0066】
本発明は、前述した実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内で広く変更され得る。