(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】水電解用複極式ゼロギャップ電解槽
(51)【国際特許分類】
C25B 13/02 20060101AFI20230922BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20230922BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230922BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230922BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20230922BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20230922BHJP
C25B 9/77 20210101ALI20230922BHJP
【FI】
C25B13/02 302
C25B13/08 302
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B9/65
C25B9/77
(21)【出願番号】P 2022531843
(86)(22)【出願日】2021-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2021022740
(87)【国際公開番号】W WO2021256472
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2020103302
(32)【優先日】2020-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 章
(72)【発明者】
【氏名】藤本 則和
(72)【発明者】
【氏名】内野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】山浦 大滋
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/111832(WO,A1)
【文献】特開平06-049675(JP,A)
【文献】特開平03-249189(JP,A)
【文献】特表昭62-502125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極を備えた陽極室と、陰極を備えた陰極室と、前記陽極室と前記陰極室との間に設けられた導電性隔壁と、前記導電性隔壁を縁取る外枠とを備えた複数の複極式エレメントが、ガスケット及び隔膜を挟んでスタックされ、前記ガスケットと前記隔膜との間、及び前記ガスケットと前記外枠との間に面圧を与え、電解液の封止を実現する水電解用複極式電解槽において、
前記導電性隔壁
の一方の表面
のみに突起を有し、
前記導電性隔壁の前記一方の表面の反対側の表面と電極との間に導電性弾性体が配置され、
一方の電極は少なくとも前記突起を介して、他方の電極は少なくとも前記導電性弾性体を介して、前記導電性隔壁と導通を形成し、
前記導電性弾性体の弾性応力によって隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に前記隔膜が挟持され
、
前記導電性隔壁は、表面に突起、凹み、及び平坦部を有し、前記突起は前記一方の表面のみに配され、少なくとも一組の隣り合う突起間に前記平坦部が配され、前記凹みは前記一方の表面の反対側の表面のみに配され、少なくとも一組の隣り合う凹み間に前記平坦部が配されること、
を特徴とする、水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
【請求項2】
前記導電性隔壁において、前記突起
は一方の表面
のみにあり、前記一方の表面の反対側の表面には前記突起に対応する凹みがある、請求項1に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
【請求項3】
前記導電性隔壁の前記一方の表面と、前記一方の表面側の電極室に備えられた電極との間に導電性弾性体が配置された、
請求項1
又は2に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
【請求項4】
前記導電性弾性体が少なくとも陰極室にある、請求項1~
3のいずれか一項に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
【請求項5】
前記突起の間隔が10mm以上100mm以下である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
【請求項6】
前記突起の間隔が10mm以上100mm以下であり、
前記突起の径が1mm以上70mm以下であり、
前記突起の高さが0.1mm以上20mm以下である、
請求項1~
5のいずれか一項に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
【請求項7】
前記隔膜が多孔膜である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
【請求項8】
前記導電性弾性体と前記導電性隔壁の間に集電体が配置され、
前記集電体の接触抵抗が1mΩcm
2以上150mΩcm
2以下である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
【請求項9】
前記陽極の弾性率が0.01GPa以上200GPa以下である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
【請求項10】
前記陰極の弾性率が0.01GPa以上200GPa以下である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
【請求項11】
前記導電性弾性体が、導電性クッションマットあり、
前記導電性クッションマットが、線径が0.05mm以上1mm以下、圧縮時厚みが1mm以上20mm以下、50%圧縮変形時の弾性応力が1kPa以上1000kPa以下である、
請求項1~
10のいずれか一項に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
【請求項12】
前記導電性隔壁がニッケルメッキ層を有する、請求項1~
11のいずれか一項に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
【請求項13】
前記陽極及び/又は前記陰極が、材質がニッケルであり、金属発泡体、平織メッシュ型の多孔体、パンチング型の多孔体、及びエキスパンド型の多孔体からなる群から選ばれる少なくても1つの多孔体であり、
前記導電性弾性体の上に、前記多孔体が配置される、請求項1~
12のいずれか一項に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
【請求項14】
スタック圧力が0.5MPa以上100MPa以下である、請求項1~
13のいずれか一項に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれか一項に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽を使用することを特徴とする、水素の製造方法。
【請求項16】
電解運転圧力が3~4000kPaである、請求項
15に記載の水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電解用複極式ゼロギャップ電解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素等の温室効果ガスによる地球温暖化、化石燃料の埋蔵量の減少等の問題を解決するため、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを利用した風力発電や太陽光発電等の技術が注目されている。
【0003】
再生可能エネルギーは、出力が気候条件に依存するため、その変動が非常に大きいという性質がある。そのため、再生可能エネルギーによる発電で得られた電力(以下、「変動電源」とも称する)を一般電力系統に輸送することが常に可能とはならず、電力需給のアンバランスや電力系統の不安定化等の社会的な影響が懸念されている。また、再生可能エネルギーから得られる電力と電力需要のアンバランスが一日の中でも起こるばかりでなく、季節によってもアンバランスを生じることはよく知られている。
【0004】
そこで、再生可能エネルギーから発電された電力を、貯蔵及び輸送が可能な形に代えて、これを利用しようとする研究が行われている。具体的には、再生可能エネルギーから発電された電力を利用した水の電気分解(電解)により、貯蔵及び輸送が可能な水素を発生させ、発生した水素をエネルギー源や原料として利用することが検討されている。
【0005】
水素は、石油精製、化学合成、金属精製等の場面において、工業的に広く利用されており、近年では、燃料電池車(FCV)向けの水素ステーションやスマートコミュニティ、水素発電所等における利用の可能性も広がっている。このため、再生可能エネルギーから特に高純度の水素を得る技術の開発に対する期待は高い。
【0006】
水の電気分解の方法としては、固体高分子型水電解法、高温水蒸気電解法、アルカリ水電解法等がある。中でも、数十年以上前から工業化されていること、大規模に実施することができること、他の水電解装置に比べると安価であること等の理由から、アルカリ水電解は特に有力なものの一つとされている。
【0007】
しかしながら、アルカリ水電解を今後エネルギーの貯蔵及び輸送のための手段として適応させるためには、前述のとおり出力の変動が大きい電力を効率的且つ安定的に利用して水電解を行う必要がある。前記の需給のアンバランス、特に再生可能エネルギーからの電力の供給が大幅に変動すると、水電解装置に供給される電力も変動する。その結果、電解セル単位面積当たりの電流密度が変動するため、既存のアルカリ水電解装置では、水素生成の電力原単位の悪化及び発生した水素中酸素及び/または酸素中水素濃度が増えて精製ロスの増加等が懸念される。このような状況下では、水電解装置の容量を大きくし幅広い電流を受けられるようにせざるを得ず、設備投資が増えて採算性に問題が生じる。従って、水電解装置には、広い電流密度で効率的に水素製造ができることが望まれる。
【0008】
アルカリ水電解において電解電圧を低く抑えて、水素製造の電力原単位を改善するという課題を解決するために、電解セルの構造として、特に、隔膜と電極との隙間を実質的に無くした構造である、ゼロギャップ構造と呼ばれる構造の採用が有効なことはよく知られている(特許文献1、2参照)。ゼロギャップ構造では、発生するガスを電極の細孔を通して電極の隔膜側とは反対側に素早く逃がすことによって、電極間の距離を低減しつつ、電極近傍におけるガス溜まりの発生を極力抑えて、電解電圧を低く抑制している。そのため、ゼロギャップ構造は、電解電圧の抑制にきわめて有効であり、種々の電解装置に採用されている。
【0009】
また近年、効率的且つ安定的なアルカリ水電解を実現するために、電解セルの構造の最適化に加えて、電極や隔膜の最適化等によって上述の諸課題に取り組む研究が盛んに行われている(特許文献3、4参照)。
更に、コストの観点から、コンパクトで薄型の水電解槽が好ましく、一方で、電極室の幅が狭くても、液流の圧力損失が低く、且つ、発熱による温度分布が均一であることが望まれる。また、電力変動運転においては、電解槽内の内圧変動によって、陽極室、陰極室の間の差圧変動が生じることで、ゼロギャップ部分の圧力を一定に制御することが出来ずに、ゼロギャップの形成不良が生じることで、電解効率が悪化する。また、前記陽極室、陰極室の差圧変動によって、隔膜が損傷し、酸素ガスと水素ガスの混合が生じる恐れがある。そして、差圧変動が生じると、その他の部材間の接触部分においても、接触部分が摩擦によって損傷する恐れがある。特に、電解槽を形成する電解枠にニッケルメッキなどの保護層を形成している場合、保護層が損傷し、腐食の原因となる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第4530743号明細書
【文献】特開昭59-173281号公報
【文献】国際公開第2013/191140号
【文献】特開2015-117417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明の目的は、広い電流密度の範囲において効率的に水素を製造でき、変動電源に対応可能な電解槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は以下の通りである。
[1]
陽極を備えた陽極室と、陰極を備えた陰極室と、前記陽極室と前記陰極室との間に設けられた導電性隔壁と、前記導電性隔壁を縁取る外枠とを備えた複数の複極式エレメントが、ガスケット及び隔膜を挟んでスタックされ、前記ガスケットと前記隔膜との間、及び前記ガスケットと前記外枠との間に面圧を与え、電解液の封止を実現する水電解用複極式電解槽において、
前記導電性隔壁の一方の表面のみに突起を有し、
前記導電性隔壁の前記一方の表面の反対側の表面と電極との間に導電性弾性体が配置され、
一方の電極は少なくとも前記突起を介して、他方の電極は少なくとも前記導電性弾性体を介して、前記導電性隔壁と導通を形成し、
前記導電性弾性体の弾性応力によって隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に前記隔膜が挟持され、
前記導電性隔壁は、表面に突起、凹み、及び平坦部を有し、前記突起は前記一方の表面のみに配され、少なくとも一組の隣り合う突起間に前記平坦部が配され、前記凹みは前記一方の表面の反対側の表面のみに配され、少なくとも一組の隣り合う凹み間に前記平坦部が配されること、
を特徴とする、水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
[2]
前記導電性隔壁において、前記突起は一方の表面のみにあり、前記一方の表面の反対側の表面には前記突起に対応する凹みがある、[1]に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
[3]
前記導電性隔壁の前記一方の表面と、前記一方の表面側の電極室に備えられた電極との間に導電性弾性体が配置された、
[1]又は[2]に記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
[4]
前記導電性弾性体が少なくとも陰極室にある、[1]~[3]のいずれかに記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
[5]
前記突起の間隔が10mm以上100mm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
[6]
前記突起の間隔が10mm以上100mm以下であり、
前記突起の径が1mm以上70mm以下であり、
前記突起の高さが0.1mm以上20mm以下である、
[1]~[5]のいずれかに記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
[7]
前記隔膜が多孔膜である、[1]~[6]のいずれかに記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
[8]
前記導電性弾性体と前記導電性隔壁の間に集電体が配置され、
前記集電体の接触抵抗が1mΩcm2以上150mΩcm2以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
[9]
前記陽極の弾性率が0.01GPa以上200GPa以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
[10]
前記陰極の弾性率が0.01GPa以上200GPa以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
[11]
前記導電性弾性体が、導電性クッションマットあり、
前記導電性クッションマットが、線径が0.05mm以上1mm以下、圧縮時厚みが1mm以上20mm以下、50%圧縮変形時の弾性応力が1kPa以上1000kPa以下である、
[1]~[10]のいずれかに記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
[12]
前記導電性隔壁がニッケルメッキ層を有する、[1]~[11]のいずれかに記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
[13]
前記陽極及び/又は前記陰極が、材質がニッケルであり、金属発泡体、平織メッシュ型の多孔体、パンチング型の多孔体、及びエキスパンド型の多孔体からなる群から選ばれる少なくても1つの多孔体であり、
前記導電性弾性体の上に、前記多孔体が配置される、[1]~[12]のいずれかに記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
[14]
スタック圧力が0.5MPa以上100MPa以下である、[1]~[13]のいずれかに記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽。
[15]
[1]~[14]のいずれかに記載の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽を使用することを特徴とする、水素の製造方法。
[16]
電解運転圧力が3~4000kPaである、[15]に記載の水素の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、広い電流密度の範囲において効率的に水素を製造でき、変動電源に対応できる、複極式電解槽及び水素製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽の一例の全体について示す側面図である。
【
図2】本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽の一例を備えるアルカリ水電解装置の概要を示す図である。
【
図3】本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽のゼロギャップ構造の一例の概要を示す図である。(A)は、2つの複極式エレメントを並べたスタック前の断面図である。(B)、(C)は、複極式エレメントをスタックしてゼロギャップ構造を形成した水電解用複極式ゼロギャップ電解槽の一例の断面図である。
【
図4】導電性隔壁の表面に設けられる突起の配置の一例を示す、導電性隔壁の平面図(a)及び断面図(b)である。
【
図5】本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽の多孔体電極の一例のエキスパンド型基材の網目部分について示す平面図、及び、前記平面図の線A-Aに沿う面により切断したときの断面図である。
【
図6】本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽の多孔体電極の一例の平織メッシュ型基材の網目部分について示す平面図である。
【
図7】本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽の多孔体電極の一例のパンチング型基材について示す平面図である。
【
図8】本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽の多孔体電極の一例の開口部を拡大して示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽は、片面が陽極、片面が陰極となる複数の複極式エレメントを、隔膜を挟んで同じ向きに並べて直列に接続し、両端のみを電源に接続した、複極式電解槽である。言い換えると、本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された隔膜との組み合わせ(「電解セル」とも称する)を、複数備える、複極式電解槽である。
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽は、陽極を備えた陽極室と、陰極を備えた陰極室と、前記陽極室と前記陰極室との間に設けられる導電性隔壁と、を備える複極式エレメントが、ガスケット及び隔膜を挟んでスタックされ、前記導電性隔壁の少なくとも一方の表面に突起を有し、前記導電性隔壁の前記一方の表面の反対側の表面と電極との間に導電性弾性体が配置され、一方の電極は少なくとも前記突起を介して、他方の電極は少なくとも前記導電性弾性体を介して、前記導電性隔壁と導通を形成することが好ましい。
また、本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽は、陽極を備えた陽極室と、陰極を備えた陰極室と、前記陽極室と前記陰極室との間に設けられた導電性隔壁と、前記導電性隔壁を縁取る外枠とを備えた複数の複極式エレメントが、ガスケット及び隔膜を挟んでスタックされ、前記ガスケットと前記隔膜との間、及び前記ガスケットと前記外枠との間に面圧を与え、電解液の封止を実現する水電解用複極式電解槽である。加えて、前記導電性隔壁の少なくとも一方の表面に突起を有し、前記導電性隔壁の前記一方の表面の反対側の表面と電極との間に導電性弾性体が配置され、一方の電極は少なくとも前記突起を介して、他方の電極は少なくとも前記導電性弾性体を介して、前記導電性隔壁と導通を形成し、前記導電性弾性体の弾性応力によって隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に前記隔膜が挟持されることが好ましい。
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽は、広い電流密度の範囲において効率的に水素を製造ができ、変動電源に対応できる。また、電極室の厚さまたは幅を小さくすることで、コンパクトで構造物材料費用を削減でき、また、電解槽内の圧力損失が低いことによって、槽内の電解液の線速度を上げることができ、その結果槽内の異常温度上昇の防止、及び脱泡性を向上することができる。また、電力変動により、差圧変動が生じても、ゼロギャップ構造を維持でき、隔膜、電解枠、電極、そのほかの部材の損傷を防止する事ができる。
【0017】
以下、本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽を特徴付ける重要な構成要素である、導電性隔壁、導電性弾性体、陽極、陰極、集電体、隔膜について、詳細に説明する。
アルカリ水電解反応では、電源に接続されている電極対(すなわち、陽極及び陰極)を備える電解槽で、アルカリ水を電気分解して、陽極で酸素ガスを発生させ、陰極で水素ガスを発生させる。
なお、本明細書中において、「電極」と称する場合には、陽極及び陰極のいずれか一方又は両方を意味するものとする。また、一方の電極とは陽極又は陰極の一方をいい、他方の電極とは前記一方の電極と異なる電極をいう。また、「導通」とは電気的に接続されることをいう。
【0018】
[導電性隔壁]
前記導電性隔壁は、前記陽極室と前記陰極室との間に設けられる(
図3)。導電性隔壁は、陽極室と接する表面と、陰極室と接する表面との2つの表面を有する形状であってよい。また、前記導電性隔壁は、電解液を透過しない構造であってよい。
本明細書において、導電性隔壁の一方の表面とは、陽極室側又は陰極室側の表面をいい、反対側の表面とは前記一方の表面と異なる電極室側の表面をいう。
【0019】
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽において、前記導電性隔壁の少なくとも一方の面に突起を有している。
突起は、電極を支持するとともに、電極と導電性隔壁との導通パスを形成する。さらに、電極と隔壁間に突起があることで、電解液や発生するガスの流体にとって、圧力損失が小さい好適な流路を形成する事ができる。また、前記突起により、発生したガスによって電解液の撹拌が促進されることで、電解槽内で局所的に発生する発熱による温度分布が均一化される。これにより、電解槽内部での局所的な温度上昇に伴う、隔膜等の部材損傷を防ぐことが出来る。
また、本明細書の突起は、リブを含まない。突起により、導電性隔壁へのリブの溶接が不要となり、コストダウンにつながる。さらに、電解槽を形成する電解枠にニッケルメッキなどの保護層を形成している場合、リブを導電性隔壁に溶接する箇所がないため、ニッケルメッキのめっき不良を抑制でき、低コストと高耐久性を両立した電解槽を実現できる。
【0020】
前記導電性隔壁において、前記突起は一方の面のみにあり、前記突起に対応する凹みが一方の表面の反対側の表面のみにあることが好ましい(
図3)。上記凹みは、突起の導電性隔壁の厚み方向の反対側の位置にあることが好ましい(
図3)。この凹みが圧力のバッファリング効果を発現し、急激にガス発生量が変化した場合の圧力変動を平準化でき、その結果、陽極室、陰極室間の差圧を小さくすることができ、隔膜、電解枠、電極、そのほかの部材の損傷を防止する事ができる。また、前記凹みにより、前記導電性弾性体などの電解槽構成部材の脱落が抑制されるとともに、接触抵抗が低減することで、好適な電子伝導パスを形成する事が出来る。
【0021】
前記突起は、前記導電性隔壁の両方の表面にあっても良い。両方の表面に突起がある場合、突起がある表面とは反対側の表面に、各突起の反対側の位置に対応する凹みがあってもよい。すなわち、表面に、突起と凹みとがあってよい。
【0022】
前記突起は、電極表面と平行な導電性隔壁表面(
図3(B))の陽極2a、弾性体2eと接する面)のみに設けられることが好ましい。電極表面に垂直であって電極室と接する表面には設けられていないことが好ましい。
【0023】
加工性の観点から、前記突起は、前記導電性隔壁の一方の面にのみあり、他方の面には前記突起に対応する凹みがあることが好ましい(
図4)。
前記凹みの設置場所は、特に指定されないが、ガス発生量が多い電極室側に設置されることで、よりバッファリング効果による圧力変動の平準化効果が得られ、差圧変動が抑制され、隔膜、電解枠、電極、そのほかの部材の損傷を防止する事ができる。
【0024】
前記突起の形状は、波形、半球状、球状、円形、楕円形、台形、錐体などの任意の幾何学的形状とできる。電極への損傷が少ない点から、半球状(
図4)や球状が好ましい。
突起は、ある間隔のもと配置することができる。前記突起の配置は、60°千鳥や45°千鳥、並列など、任意の配列とできる。ここで、60°千鳥とは、正三角形の頂点に突起があり、突起の中心を結ぶ線の角度が60゜で配列されることをいう(
図4(a)パターン例a)。並列とは、正方形の四隅に突起があり、突起の中心を結ぶ四角形が90゜で配列されることをいう(
図4(a)パターン例b)。45°千鳥とは、正方形の四隅とそれぞれの対角線の交差するところに突起があり、突起の中心を結ぶ線の角度が45゜・90゜の方向で配列されることをいう。
導電性隔壁表面を平面視したときの突起の形状は、円形状、多角形状等であってよい。
【0025】
前記突起の間隔は、10mm以上100mm以下であることが好ましい。圧力損失を抑制する観点から、間隔は、20mm以上がより好ましく、30mm以上が更に好ましい。また、電極の撓みを抑制する観点から、間隔は、70mm以下であることがより好ましく、50mm以下であることが更に好ましい。
突起の間隔とは、隣り合う2つの突起の、突起の中心間の距離としてよい(
図4)。また、突起の間隔とは、ある突起と該突起の最も近くに存在する他の突起との距離をいう。突起の間隔は、例えば、導電性隔壁上に存在する任意の10個の突起について、突起の間隔を求め、その平均値としてよい。
【0026】
突起径は1mm以上70mm以下であることが好ましい。接触抵抗を低くする観点から、径は、3mm以上がより好ましく、5mm以上が更に好ましい。また、圧力損失を抑制する観点から、径は、50mm以下であることがより好ましく、30mm以下であることが更に好ましい。
突起の径は、平面視した突起形状の外端の2点を結ぶ線分の長さであって、最大の長さをいう(
図4)。例えば、円である場合直径であり、四角形である場合対角線の長さである。突起の径は、例えば、導電性隔壁上に存在する任意の10個の突起について、突起の径を求め、その平均値としてよい。
【0027】
突起高さは、0.1mm以上20mm以下であることが好ましい。圧力損失の観点から、高さは、1mm以上であることがより好ましく、2mm以上であることが更に好ましい。加工性の観点から、高さは、10mm以下であることがより好ましく、6mm以下であることが更に好ましい。
図4に、突起の一例の断面図を示す。
突起の高さは、導電性隔壁の厚さ方向断面において、突起が設けられる側の導電性隔壁の表面(例えば、平坦部の表面)から、突起の最高点までの距離としてよい。突起の高さは、例えば、導電性隔壁上に存在する任意の10個の突起について、突起の高さを求め、その平均値としてよい。
【0028】
前記導電性隔壁は、同一表面上の隣り合う突起のうち、少なくとも一組の隣り合う突起間に平坦部があることが好ましく、全ての隣り合う突起間に平坦部があることがより好ましい(
図4)。また、前記導電性隔壁は、少なくとも一組の隣り合う凹み間に平坦部があることが好ましく、全ての隣り合う凹み間に平坦部があることがより好ましい(
図4)。
前記導電性隔壁は、表面に前記突起、前記凹み、及び平坦部を有し、前記突起は一方の表面のみに配され、前記凹みは一方の表面の反対側の表面のみに配されることが好ましい。さらに、前記導電性隔壁の凹みを有する側の表面に導電性弾性体が隣接して配置され、一方の電極は少なくとも前記突起を介して導電性隔壁と導通を形成し、他方の電極は少なくとも前記導電性弾性体を介して、前記導電性隔壁の凹みを有する側の表面の平坦部と導通を形成し、前記導電性弾性体の弾性応力によって両電極間に前記隔膜が挟持されることが、接触抵抗の低減と差圧変動の抑制による隔膜、電解枠、電極、そのほかの部材の損傷防止の観点から好ましい。
ここで、前記導電性隔壁の平坦部とは、凸部も凹部もない平坦な部分を指す。突起とは、前記導電性隔壁の突起を有する表面の平坦部から、該表面側の電極に向けた凸部を指す。凹みとは、前記導電性隔壁の凹みを有する表面の平坦部から、該表面の反対側の表面に向けた凹みを指す。なお、凹みに貫通孔やヘッダー部は含まない。
前記突起は一方の表面に配され、前記凹みは一方の表面の反対側の表面に配され、その表面上の突起や凹みの位置はそれぞれに任意にとることができる。加工性の観点から、前記突起に対応する位置に凹みがあることが好ましい。
また、ここで、前記導電性弾性体は、導電性隔壁の表面と、該表面側の電極室に備えられる電極(例えば、陽極又は陰極)との間に配置される(
図3)。前記導電性弾性体と前記導電性隔壁とは導通を形成することが好ましく、前記導電性弾性体と導電性隔壁の表面とは隣接していてもよいし、他の部材(例えば、集電体等の導電性を有する部材)を介して配置されていてもよい。例えば、前記導電性隔壁の凹みを有する側の表面と、導電性弾性体の間に、他の導電性部材を介してもよい(
図3(C))。
前記複極式エレメントは、前記導電性隔壁の一方の表面のみに突起があり、他方の表面に導電性弾性体を介して電極が配置される構造(
図3)、前記導電性隔壁の両表面に突起があり、一方の表面のみに導電性弾性体を介して電極が配置される構造、前記導電性隔壁の両表面に突起があり、両方の表面に導電性弾性体を介して電極が配置される構造、が含まれる。
前記導電性隔壁の凹みを有する側の表面の平坦部と導通を形成することで、突起部と導通を形成する場合に比べて接触面積が広くなり接触抵抗が低減でき、好適な電子伝導パスを形成する事が出来る。さらに、前記凹みのバッファリング効果によって圧力変動の平準化ができ、その結果、陽極室、陰極室間の差圧変動が抑制され、隔膜、電解枠、電極、そのほかの部材の損傷を防止する事ができる。
【0029】
[導電性弾性体]
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽において、前記導電性隔壁の少なくとも一方の表面と該表面側の電極室に備えられる電極との間に導電性弾性体が配置される(
図3)。中でも、前記導電性隔壁の少なくとも一方の表面に、導電性弾性体が隣接する形で配置されることが好ましい(
図3(A)、(B))。導電性弾性体は、突起が設けられる表面の反対側の表面に、少なくとも配置されることが好ましい。導電性弾性体は、少なくとも陰極室にあってよく、陰極室のみにあってもよい。
導電性弾性体は、電極を支持するとともに、電極と導電性隔壁の導通を形成する。さらに、導電性弾性体は、電解液や発生するガスが流れる流路としての役割も果たす。電解槽を形成するために、隣接するアルカリ水電解エレメント同士の間に隔膜を配置し、一方のアルカリ水電解エレメントの陰極と他方のアルカリ水電解エレメントの陽極とで隔膜を挟み付けた際に、導電性隔壁に対して陰極又は陽極を移動可能に支持する前記導電性弾性体を備えることで、陰極、隔膜、及び陽極を均一に密着でき、ゼロギャップ構造を実現することが可能となる。その結果、発生するガスは陰極や陽極の背面(すなわち、隔膜と接する面とは反対側の表面)から抵抗なく抜き出せるだけでなく、気泡の滞留や、発生ガスを払い出す際の振動などを防止でき、電解電圧が非常に低い状態で安定した電解が長期間に渡り可能となる。
【0030】
前記導電性弾性体が、前記導電性隔壁の両側に配置されていてもよい。例えば、前記導電性隔壁の一方の表面と一方の電極(例えば陰極)との間、及び前記導電性隔壁の他方の表面と他方の電極(例えば陽極)との間、に導電性弾性体が設けられていてもよい。導電性弾性体は、導電性隔壁の両側の表面に隣接して配置されていてよい。導電性隔壁の両側に前記弾性体を配置する場合は、同じ導電性弾性体を用いてもよいし、それぞれ異なる弾性体を用いてもよい。
導電性隔壁の両側に導電性弾性体が配置される場合、前記突起と前記導電性弾性体と一方の電極とがこの順に隣接して設けられ、前記平坦部と前記導電性弾性体と他方の電極とがこの順に隣接して設けられてよい。なお、一方の電極と他方の電極とが導通を形成できれば、導電性隔壁、導電性弾性体、電極の間には、他の導電性の部材が設けられていてもよい。
【0031】
導電性弾性体の最も重要な役割は、隔膜に接している電極に対し均一で隔膜を損傷させない程度の適切な圧力を加えて、隔膜と電極とを密着させることである。導電性弾性体としては、バネやスプリング、ワイヤー織物、クッションマット等を用いることができる。例えば、ニッケル製ワイヤーを織ったものを波付け加工したクッションマット(好ましくは導電性クッションマット)を用いることができる。
クッションマットは、加工性の観点から、線径が0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましく、0.15mm以上であることが更に好ましい。膜損傷の観点から、線径は1mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましく、0.3mm以下であることがさらに好ましい。クッションマットは折り返して使用したり、重ねて使用したりしてもよい。
圧力損失の観点から、マットの圧縮時厚みは1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることが更に好ましい。電解槽コンパクト化の観点から、マットの圧縮時厚みは20mm以下であることが好ましく、15mm以下であることがより好ましく、8mm以下であることが更に好ましい。マットの圧縮時厚みは、実際に電解槽内にマットを組み込んで圧縮した際のマット厚みの平均値をいう。
内圧変動時の差圧耐性の観点から、50%圧縮変形時の弾性応力は、1kPa以上であることが好ましく、5kPa以上であることがより好ましく、10kPa以上であることが更に好ましい。膜損傷の観点から、1000kPa以下であることが好ましく、500kPa以下であることがより好ましく、100kPa以下であることが更に好ましい。
なお、50%圧縮変形時の弾性応力は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0032】
[電極(陽極、陰極)]
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽において、発生するガスの脱泡性の観点から、陽極及び陰極の少なくとも一方が、多孔体電極であることが好ましい。
【0033】
隔膜との接触面の裏側から発生するガスの脱泡性の観点から、多孔体電極は、隔膜に接する面と反対に位置する面とが、貫通していること(例えば、貫通する孔が存在すること)が好ましい。
【0034】
前記多孔体電極としては、特に限定されないが、平均孔径の制御の観点から、平織メッシュ型、パンチング型、エキスパンド型などの網(メッシュ)状構造を有する電極、金属発泡体等が挙げられる。
前記多孔体電極の材質は、ニッケルが好ましい。
陽極及び/又は陰極が、材質がニッケルであり、金属発泡体、平織メッシュ型の多孔体、パンチング型の多孔体、及びエキスパンド型の多孔体からなる群から選ばれる少なくとも1つの多孔体であり、前記導電性弾性体の上に多孔体が配置されることが好ましい。
【0035】
平織メッシュ型は、金属や樹脂などからなる線材を、一方向に平行な複数の線材に対して、別方向に平行な複数の線材が一定の間隔を保ちつつ互いに1本ずつ交差するように織られた網状構造である。
図6に、平織メッシュ型の多孔体電極の一例の開口部を拡大して示す。
なお、平織メッシュ型の開口部の形状は、開口部を平面として垂直方向から観察した場合に、一方向に平行な隣接する2本の線材1組と、別方向に平行な隣接する2本の線材1組とが交差して形成される平行四辺形であり、正方形、長方形、菱形のいずれであってもよい。
本実施形態において、平織メッシュ型の多孔体電極を用いる場合、寸法は特に制限されないが、電解表面積増加によるガス発生量の増加と、電解により発生するガスの電極表面からの効率的な除去を両立させるために、目開き(A)は、0.1mm以上5.0mm以下とすることができ、0.2mm以上4.0mm以下が好ましく、0.3mm以上3.0mm以下がより好ましい。
ここで、目開き(A)は、
図6に示すように、平織メッシュ型の開口部を構成する4本の線材のうち、平行な隣接する2本1組の線材間の垂直距離と、他方の2本1組の線材間の垂直距離との平均値を意味する。1つの基材上の開口部間で目開き(A)が異なる場合には、平均値とする。
なお、目開きは、後述する線径及びメッシュ数から下記式で求めることができる。
目開き=(25.4/メッシュ数)-線径
【0036】
本実施形態において、目開き以外の寸法については、特に制限されないが、線径は0.05mm以上1.0mm以下、メッシュ数は5以上70以下が好ましい。より好ましくは、線径は0.1mm以上0.3mm以下、メッシュ数は10以上65以下である。
線径は、
図6に示すように、平織メッシュ型を構成する線材の直径である。メッシュ数は、1インチ(25.4mm)の中にある目の数であり、下記式で求めることができる。
メッシュ数=25.4/(目開き+線径)。
【0037】
パンチング型は、金属や樹脂などからなる板に丸型や角型のパンチ穴を一定間隔で複数開けた網状構造である。パンチ穴の形状は、特に限定されないが、機械的強度の観点から、円形が好ましく、真円形がより好ましい。
図7に、パンチング型の多孔体電極の一例の平面図を示す。
本実施形態において、パンチング型の多孔体電極を用いる場合、寸法は特に制限されないが、電解表面積増加によるガス発生量の増加と、電解により発生するガスの電極表面からの効率的な除去を両立させるため、穴径(D)は0.5mm以上12.0mm以下、穴間ピッチ(P)は0.5mm以上15mm以下とすることができる。好ましくは、穴径(D)が1.0mm以上10.0mm以下、穴間ピッチ(P)が1.0mm以上10.0mm以下であり、より好ましくは、穴径(D)が1.5mm以上8.0mm以下、穴間ピッチ(P)が1.5mm以上8.0mm以下である。
ここで、穴径(D)は、パンチ穴が真円形の場合は直径を意味し、パンチ穴が楕円形の場合には長軸径と短軸径の平均値を意味する。穴間ピッチ(P)は、1つのパンチ穴と最近接するパンチ穴との中心間距離を意味する。言い換えると、1つのパンチ穴に隣接する複数のパンチ穴の中心から当該1つのパンチ穴中心までの距離のうち最短のものを意味する。1つの基材上のパンチ穴間で穴径(D)、穴間ピッチ(P)が異なる場合は、平均値とする。
【0038】
エキスパンド型は、金属や樹脂などからなる板に千鳥状に切れ目を入れながら押し広げて、菱形の開口部を成形した網状構造である。ここで、エキスパンド型における「菱形」は、四辺の長さが等しく、対角線同士が直交し、4つの内角のうちの1つの角度が0°超180°未満である、平行四辺形を意味する。1つの内角の角度が90°である場合、すなわち「正方形」も含むものとする。
図5に、エキスパンド型の多孔体電極の一例の開口部を拡大した平面図及び断面図を示す。
本実施形態において、エキスパンド型の多孔体電極を用いる場合、寸法は特に制限されないが、電解表面積増加によるガス発生量の増加と、電解により発生するガスの電極表面からの効率的な除去を両立させるため、メッシュの長目方向の中心間距離(LW)は1.0mm以上10.0mm以下、メッシュの短目方向の中心間距離(SW)は0.5mm以上8.0mm以下とすることができる。好ましくは、LWが2.0mm以上6.0mm以下、SWが1.0mm以上5.0mm以下、より好ましくは、LWが3.0mm以上5.0mm以下、SWが1.0mm以上4.0mm以下である。
ここで、メッシュの長目方向の中心間距離(LW)は、開口部を平面として垂直方向から観察した場合の、隣接するボンド(メッシュ交差部)中心間の最長距離を意味する。メッシュの短目方向の中心間距離(SW)は、開口部を平面として垂直方向から観察した場合の、LWに対し直角方向で隣接するボンド中心間の最短距離を意味する。1つの基材上のメッシュ間でLW、SWが異なる場合は、平均値とする。
【0039】
金属発泡体を多孔体電極として用いる場合、寸法は特に制限されないが、電解表面積増加によるガス発生量の増加と、電解により発生するガスの電極表面からの効率的な除去を両立させるため、気孔率は50%以上95%以下が好ましく、金属発泡体の孔径は、0.1mm以上10mm以下が好ましく、0.4mm以上5mm以下がより好ましい。
図8に、金属発泡体の多孔体電極の一例の開口部を拡大して示す。
【0040】
本実施形態において、多孔体電極の表面開口率としては、特に限定されないが、電解効率の向上の観点から、例えば8%以上85%以下とすることができ、30%以上80%以下が好ましく、31%以上70%以下がより好ましく、35%以上65%以下が更に好ましい。
なお、多孔体電極の表面開口率は、多孔体電極の表面上に占める孔部分の割合を示す。多孔体電極の表面開口率は、測定用サンプルを、電極表面の垂直方向から走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像し、孔が電極表面内を占める割合として求めることができる。
【0041】
多孔体電極の厚みとしては、特に限定されないが、機械的強度と電解により発生するガスの電極表面からの効率的な除去を両立させる観点から、0.2mmから5mm程度が好ましく、0.5mmから3mm程度が更に好ましい。
【0042】
陽極の弾性率としては、0.01GPa以上200GPa以下であることが好ましい。電極の撓みの観点から、陽極の弾性率は、0.1GPa以上がより好ましく、1GPa以上が更に好ましい。多少の柔軟性があることで使用環境における熱や圧力変動等が起こった際にもゼロギャップ構造の維持が容易なことから、陽極の弾性率は、100GPa以下がより好ましく、80GPa以下が更に好ましい。
【0043】
陰極の弾性率としては、0.01GPa以上200GPa以下であることが好ましい。電極の撓みの観点から、陰極の弾性率は、0.1GPa以上がより好ましく、1GPa以上が更に好ましい。ゼロギャップ構造の維持の観点から、陰極の弾性率は、100GPa以下がより好ましく、80GPa以下が更に好ましい。
【0044】
陽極の曲げ剛性としては、0.1kN・mm2以上200kN・mm2以下であることが好ましい。電極の撓みの観点から、陽極の曲げ剛性は、1kN・mm2以上がより好ましく、5kN・mm2以上が更に好ましい。多少の柔軟性があることで使用環境における熱や圧力変動等が起こった際にもゼロギャップ構造の維持が容易なことから、150kN・mm2以下がより好ましく、100kN・mm2以下が更に好ましい。
【0045】
陰極の曲げ剛性としては、0.1kN・mm2以上200kN・mm2以下であることが好ましい。電極の撓みの観点から、陰極の曲げ剛性は、1kN・mm2以上がより好ましく、5kN・mm2以上が更に好ましい。ゼロギャップ構造の維持の観点から、150kN・mm2以下がより好ましく、100kN・mm2以下が更に好ましい。
電極の弾性率や曲げ剛性は、引張試験機を用いて算出することができる。より具体的には、後述する実施例に示す方法で測定することができる。
【0046】
本実施形態における多孔体電極は、基材そのものとしてもよく、基材の表面に反応活性の高い触媒層を有するものとしてもよいが、基材の表面に反応活性の高い触媒層を有するものが好ましい。
多孔体電極は、上記の平織メッシュ型、パンチング型、エキスパンド型などの網(メッシュ)状構造を有する電極、金属発泡体等から1種類の多孔体を用いても良いし、厚みや孔径や構造の異なる2種類以上の多孔体を使用してもよい。例えば、陽極ないし陰極として、触媒層を有する多孔体を第1の電極、触媒層を有さない多孔体を第2の電極としてその2種類を重ねて使用してもよい。
【0047】
本実施形態において、多孔体電極が、基材のみで構成される場合、多孔体電極について上述する、平均孔径、表面開口率は、基材表面についてのものとする。
本実施形態において、多孔体電極が、基材と、基材の表面を被覆する触媒層とを備える場合、多孔体電極について上述する、平均孔径、表面開口率は、電極触媒層表面についてのものとする。
【0048】
基材の材料としては、特に制限されず、ニッケル、鉄、軟鋼、ステンレス、バナジウム、モリブデン、銅、銀、マンガン、白金族、黒鉛及びクロム等から群より選ばれる少なくとも一種からなる導電性基材が挙げられる。二種以上の金属からなる合金又は、二種以上の導電性物質の混合物からなる導電性基材を用いてもよい。中でも、基材の導電性及び使用環境への耐性の観点から、ニッケル及びニッケル基合金などが好ましい。
【0049】
陽極の触媒層は、酸素発生能が高いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄もしくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、或いはそれらの混合物として、触媒層を形成できる。耐久性や基材との接着性を向上させるために高分子等の有機物が含まれていてもよい。
【0050】
陰極の触媒層は、水素発生能が高いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄もしくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、或いはそれらの混合物として、触媒層を形成できる。耐久性や基材との接着性を向上させるために高分子材料等の有機物が含まれていてもよい。
【0051】
基材上に触媒層を形成させる方法としては、めっき法、プラズマ溶射法等の溶射法、基材上に前駆体層溶液を塗布した後に熱を加える熱分解法、触媒物質をバインダー成分と混合して基材に固定化する方法、及び、スパッタリング法等の真空成膜法といった手法が挙げられる。
【0052】
ゼロギャップ構造では、隔膜が、従来の電解セルより強く電極に押しつけられる。例えばエキスパンド型基材を用いた電極では開口部の端部で、隔膜が破損すること或いは、開口部に隔膜が食い込んで、陰極と隔膜の間に隙間ができて電圧が上昇する場合がある。
上記の課題を解決するためには、できるだけ平面的な電極形状とすることが好ましい。例えば、エキスパンド加工した基材(例えば、エキスパンド型基材)をローラーでプレスして平面状に加工する方法が適用できる。この際、エキスパンド加工前の元の金属平板厚みに対し、95%から110%までプレスし、平面化することが望ましい。
上記の処理を施して製造した電極は、隔膜の損傷を防げるだけでなく、意外なことに電圧も低減できる。この理由は明確ではないが隔膜の表面と電極面が均一に接触するので電流密度が均―化するためと予想される。
【0053】
電極のサイズとしては、特に限定されず、後述する水電解用複極式ゼロギャップ電解槽、電解セル、複極式エレメント、隔壁などの形状やサイズに合わせて、また所望する電解能力などに応じて、定めることができる。例えば、隔壁が板状の形状の場合、隔壁のサイズに合わせて定められてよい。
【0054】
[集電体]
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽において、前記導電性弾性体と前記導電性隔壁の間に集電体が配置され、前記集電体の接触抵抗が1mΩcm2以上150mΩcm2以下であることが好ましい。前記集電体は、電解槽中の前記導電性弾性体と前記導電性隔壁の間のうち少なくとも一か所の間に配置されることが好ましく、全ての前記導電性弾性体と前記導電性隔壁の間に配置されることがより好ましい。前記導電性弾性体と前記導電性隔壁の間に集電体を配置することで、前記導電性弾性体の圧縮率をより均一にでき、陰極、隔膜、及び陽極をより均一に密着でき、より好ましいゼロギャップ構造を形成できる。
電子伝導パスの形成の観点から、集電体の接触抵抗は、150mΩcm2以下が好ましく、100mΩcm2以下がより好ましく、50mΩcm2以下がさらに好ましい。集電体の厚みや表面開口率の観点から、集電体の接触抵抗は、1mΩcm2以上が好ましく、10mΩcm2以上がより好ましく、15mΩcm2以上がさらに好ましい。具体的には、集電体の接触抵抗は、後述の方法で算出したものである。
電子伝導パスの形成と、組付け性の観点から、前記導電性弾性体と前記集電体は、スポット溶接などで一体化されていることが好ましい。
前記集電体の材質としては、発生するガスの脱泡性の観点から、導電性多孔体であることが好ましい。前記導電性多孔体としては、特に限定されないが、平均孔径の制御の観点から、平織メッシュ型、パンチング型、エキスパンド型などの網(メッシュ)状構造を有する多孔体、金属発泡体等が挙げられる。
前記集電体の材質は、耐薬品性の観点から、ニッケルないしニッケルメッキ層を有する導電性多孔体が好ましい。
前記集電体の表面開口率としては、特に限定されないが、脱泡性の観点から、例えば8%以上85%以下とすることができ、30%以上80%以下が好ましく、31%以上70%以下がより好ましく、35%以上65%以下が更に好ましい。
なお、集電体の表面開口率は、集電体の表面上に占める孔部分の割合を示す。集電体の表面開口率は、測定用サンプルを、集電体表面の垂直方向から走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像し、孔が集電体表面内を占める面積割合として求めることができる。
集電体の厚みとしては、特に限定されないが、機械的強度と電解により発生するガスの良好な脱泡性を両立させる観点から、0.2mmから5mm程度が好ましく、0.5mmから3mm程度が更に好ましい。
集電体の弾性率としては、0.01GPa以上200GPa以下であることが好ましい。集電体の撓みの観点から、集電体の弾性率は、0.1GPa以上がより好ましく、1GPa以上が更に好ましい。多少の柔軟性があることで使用環境における熱や圧力変動等が起こった際にもゼロギャップ構造の維持が容易なことから、集電体の弾性率は、100GPa以下がより好ましく、80GPa以下が更に好ましい。
集電体の曲げ剛性としては、0.1kN・mm2以上200kN・mm2以下であることが好ましい。集電体の撓みの観点から、集電体の曲げ剛性は、1kN・mm2以上がより好ましく、5kN・mm2以上が更に好ましい。多少の柔軟性があることで使用環境における熱や圧力変動等が起こった際にもゼロギャップ構造の維持が容易なことから、150kN・mm2以下がより好ましく、100kN・mm2以下が更に好ましい。
前記導電性隔壁が、表面に突起、凹み、及び平坦部を有し、前記突起は一方の表面に配され、前記凹みは前記一方の表面の反対側の表面に配され、前記導電性隔壁の凹みを有する側の表面と電極との間に導電性弾性体が配置され、さらに、前記導電性弾性体と前記隔壁の間に集電体が配置されることで、前記導電性弾性体が凹みに落ち込むことを防ぎ、導電性弾性体の圧縮率をより均一にでき、陰極、隔膜、及び陽極をより均一に密着でき、より好ましいゼロギャップ構造を形成できる。
【0055】
[隔膜]
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽において、隔膜は、隣り合う複極式エレメントの陽極室と陰極室との間に設けられる(
図3)。
前記隔膜としては、イオンを透過しつつ、発生する水素ガスと酸素ガスを隔離するために、イオン透過性の隔膜が使用される。このイオン透過性の隔膜は、イオン交換能を有するイオン交換膜と、電解液を浸透することができる多孔膜が使用できる。このイオン透過性の隔膜は、ガス透過性が低く、イオン伝導率が高く、電子電導度が小さく、強度が強いものが好ましい。
【0056】
--多孔膜--
多孔膜は、複数の微細な貫通孔を有し、隔膜を電解液が透過できる構造を有する。電解液が多孔膜中に浸透することにより、イオン伝導を発現するため、孔径や気孔率、親水性といった多孔構造の制御が非常に重要となる。一方、電解液だけでなく、発生ガスを通過させないこと、すなわちガスの遮断性を有することが求められる。この観点でも多孔構造の制御が重要となる。
【0057】
多孔膜は、複数の微細な貫通孔を有するものであるが、高分子多孔膜、無機多孔膜、織布、不織布等が挙げられる。これらは公知の技術により作製することができる。
高分子多孔膜の製法例としては、相転換法(ミクロ相分離法)、抽出法、延伸法、湿式ゲル延伸法等が挙げられる。
【0058】
多孔膜は、高分子材料と親水性無機粒子とを含むことが好ましく、親水性無機粒子が存在することによって多孔膜に親水性を付与することができる。
【0059】
---高分子材料---
高分子材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリビニリデンフロライド、ポリカーボネート、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロスルホン酸、パーフルオロカルボン酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。これらの中でも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、であることが好ましく、ポリスルホンであることがより好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
多孔膜は、分離能、強度等適切な膜物性を得る為に、孔径を制御することが好ましい。また、アルカリ水電解に用いる場合、陽極から発生する酸素ガス及び陰極から発生する水素ガスの混合を防止し、かつ電解における電圧損失を低減する観点から、多孔膜の孔径を制御することが好ましい。
多孔膜の平均孔径が大きいほど、単位面積あたりの多孔膜透過量は大きくなり、特に、電解においては多孔膜のイオン透過性が良好となり、電圧損失を低減しやすくなる傾向にある。また、多孔膜の平均孔径が大きいほど、アルカリ水との接触表面積が小さくなるので、ポリマーの劣化が抑制される傾向にある。
一方、多孔膜の平均孔径が小さいほど、多孔膜の分離精度が高くなり、電解においては多孔膜のガス遮断性が良好となる傾向にある。更に、後述する粒径の小さな親水性無機粒子を多孔膜に担持した場合、欠落せずしっかりと保持することができる。これにより、親水性無機粒子が持つ高い保持能力を付与でき、長期に亘ってその効果を維持することができる。
【0061】
かかる観点から、上記多孔膜においては、平均孔径は、0.1~1.0μmの範囲であることが好ましい。多孔膜は、孔径がこの範囲であれば、優れたガス遮断性と高いイオン透過性とを両立することができる。また、多孔膜の孔径は実際に使用する温度域において制御されることが好ましい。従って、例えば90℃の環境下での電解用隔膜4として使用する場合は、90℃で上記の孔径の範囲を満足させることが好ましい。また、多孔膜は、アルカリ水電解用隔膜4として、より優れたガス遮断性と高いイオン透過性とを発現できる範囲として、平均孔径が0.1~0.5μmであることがより好ましい。
【0062】
多孔膜の平均孔径は、以下の方法で測定することができる。
多孔膜の平均孔径とは、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP-Plus」)を使用して以下の方法で測定した平均透水孔径をいう。まず、多孔膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとする。このサンプルを任意の耐圧容器にセットして、容器内を純水で満たす。次に、耐圧容器を所定温度に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が所定温度になってから測定を開始する。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から純水が透過してくる際の圧力及び透過流量の数値を記録する。平均透水孔径は、圧力が10kPaから30kPaの間の圧力と透水流量との勾配を使い、以下のハーゲンポアズイユの式から求めることができる。
平均透水孔径(m)={32ηLμ0/(εP)}0.5
ここで、ηは水の粘度(Pa・s)、Lは多孔膜の厚み(m)、μ0は見かけの流速であり、μ0(m/s)=流量(m3/s)/流路面積(m2)である。また、εは空隙率、Pは圧力(Pa)である。
【0063】
アルカリ水電解用隔膜は、ガス遮断性、親水性の維持、気泡の付着によるイオン透過性低下の防止、更には長時間安定した電解性能(低電圧損失等)が得られるといった観点から、多孔膜の気孔率を制御することが好ましい。
ガス遮断性や低電圧損失等を高いレベルで両立させるといった観点から、多孔膜の気孔率の下限は30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましい。また、気孔率の上限は70%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましく、55%以下であることが更に好ましい。多孔膜の気孔率が上記上限値以下であれば、膜内をイオンが透過しやすく、膜の電圧損失を抑制できる。
【0064】
多孔膜の気孔率とは、アルキメデス法により求めた開気孔率をいい、以下の式により求めることができる。
気孔率P(%)=ρ/(1+ρ)×100
ここで、ρ=(W3-W1)/(W3-W2)であり、W1は多孔膜の乾燥質量(g)、W2は多孔膜の水中質量(g)、W3は多孔膜の飽水質量(g)である。
【0065】
気孔率の測定方法としては、純水で洗浄した多孔膜を3cm×3cmの大きさで3枚に切出して、測定サンプルとする。まず、サンプルのW2及びW3を測定する。その後、多孔膜を50℃に設定された乾燥機で12時間以上静置して乾燥させて、W1を測定する。そして、W1、W2、W3の値から気孔率を求める。3枚のサンプルについて気孔率を求め、それらの算術平均値を気孔率Pとする。
【0066】
多孔膜の厚みは、特に限定されないが、100~700μmであることが好ましく、より好ましくは100~600μm、更に好ましくは200~600μmである。
多孔膜の厚みが、上記下限値以上であると、突刺し等で破れにくく、電極間がショートしにくい。また、ガス遮断性が良好となる。また、上記上限値以下であると、電圧損失が増大しにくい。また、多孔膜の厚みのばらつきによる影響が少なくなる。
また、隔膜の厚みが、100μm以上であると、突刺し等で破れにくく、電極間がショートしにくい。また、ガス遮断性が良好となる。600μm以下であると、電圧損失が増大しにくい。また、多孔膜の厚みのばらつきによる影響が少なくなる。
多孔膜の厚みが、250μm以上であれば、一層優れたガス遮断性が得られ、また、衝撃に対する多孔膜の強度が一層向上する。この観点より、多孔膜の厚みの下限は、300μm以上であることがより好ましく、350μm以上であることが更に好ましく400μm以上でることがより一層好ましい。一方で、多孔膜の厚みが、700μm以下であれば、運転時に孔内に含まれる電解液の抵抗によりイオンの透過性を阻害されにくく、一層優れたイオン透過性を維持することができる。かかる観点から、多孔膜の厚みの上限は、600μm以下であることがより好ましく、550μm以下であることが更に好ましく、500μm以下であることがより一層好ましい。
【0067】
---親水性無機粒子---
多孔膜は、高いイオン透過性及び高いガス遮断性を発現するために親水性無機粒子を含有していることが好ましい。親水性無機粒子は多孔膜の表面に付着していても良いし、一部が多孔膜を構成する高分子材料に埋没していても良い。また親水性無機粒子が多孔膜の空隙部に内包されると、多孔膜から脱離しにくくなり、多孔膜の性能を長時間維持できる。
【0068】
親水性無機粒子としては、例えば、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物又は水酸化物;周期律表第IV族元素の酸化物;周期律表第IV族元素の窒化物、及び周期律表第IV族元素の炭化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物が挙げられる。これらの中でも、化学的安定性の観点から、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物、周期律表第IV族元素の酸化物がより好ましく、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物が更に好ましく、酸化ジルコニウムがより更に好ましい。
【0069】
親水性無機粒子の形態は、微粒子形状であることが好ましい。
【0070】
--多孔性支持体--
隔膜として多孔膜を用いる場合、多孔膜は多孔性支持体と共に用いてよい。好ましくは、多孔膜が多孔性支持体を内在した構造であり、より好ましくは、多孔性支持体の両面に多孔膜を積層した構造である。また、多孔性支持体の両面に対称に多孔膜を積層した構造であってもよい。
【0071】
多孔性支持体としては、例えば、メッシュ、多孔質膜、不織布、織布、不織布及びこの不織布に内在する織布とを含む複合布等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。多孔性支持体のより好適な態様としては、例えば、ポリフェニレンサルファイドのモノフィラメントで構成されるメッシュ基材、又は不織布及び該不織布内に内在する織布とを含む複合布等が挙げられる。
【0072】
--イオン交換膜--
イオン交換膜としては、カチオンを選択的に透過させるカチオン交換膜とアニオンを選択的に透過させるアニオン交換膜があり、いずれの交換膜でも使用することができる。
イオン交換膜の材質としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、含フッ素系樹脂やポリスチレン・ジビニルベンゼン共重合体の変性樹脂が好適に使用できる。特に耐熱性及び耐薬品性等に優れる点で、含フッ素系イオン交換膜が好ましい。
【0073】
含フッ素系イオン交換膜としては、電解時に発生するイオンを選択的に透過する機能を有し、かつイオン交換基を有する含フッ素系重合体を含むもの等が挙げられる。ここでいうイオン交換基を有する含フッ素系重合体とは、イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体、を有する含フッ素系重合体をいう。例えば、フッ素化炭化水素の主鎖を有し、加水分解等によりイオン交換基に変換可能な官能基をペンダント側鎖として有し、かつ溶融加工が可能な重合体等が挙げられる。
【0074】
イオン交換基を有する含フッ素系共重合体の分子量は、特に限定されないが、ASTM:D1238に準拠して(測定条件:温度270℃、荷重2160g)測定されたメルトフローインデックス(MFI)の値で0.05~50(g/10分)であることが好ましく、0.1~30(g/10分)であることがより好ましい。
【0075】
イオン交換膜が有するイオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等のカチオン交換基、4級アンモニウム基等のアニオン交換基が挙げられる。
【0076】
イオン交換膜は、イオン交換基の当量質量EWを調整することによって、優れたイオン交換能と親水性を付与することができる。また、より小さなクラスター(イオン交換基が水分子を配位及び/又は吸着した微小部分)を数多く有するように制御でき、耐アルカリ性やイオン選択透過性を向上する傾向にある。
この当量質量EWは、イオン交換膜を塩置換し、その溶液をアルカリ又は酸溶液で逆滴定することにより測定することができる。当量質量EWは、原料であるモノマーの共重合比、モノマー種の選定等により調整することができる。
イオン交換膜の当量質量EWは、親水性、膜の耐水性の観点から300以上であることが好ましく、親水性、イオン交換能の観点から1300以下であることが好ましい。
【0077】
イオン交換膜の厚みは特に制限されないが、イオン透過性や強度の観点から、5~300μmの範囲が好ましい。
【0078】
イオン交換膜の表面の親水性を向上させる目的で、表面処理を施してもよい。具体的には、酸化ジルコニウム等の親水性無機粒子をコーティングする方法や、表面に微細な凹凸を付与する方法が挙げられる。
【0079】
イオン交換膜は、膜強度の観点から、補強材と共に用いることが好ましい。補強材としては、特に限定されず、一般的な不織布や織布、各種素材からなる多孔膜が挙げられる。この場合の多孔膜としては、特に限定されないが、延伸されて多孔化したPTFE系膜が好ましい。
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽においては、これらいずれの膜も制限なく使用できるが、コストの観点から、前記隔膜は多孔膜であることが好ましい。
【0080】
(水電解用複極式ゼロギャップ電解槽)
以下、上述した導電性隔壁、導電性弾性体、陰極、陽極、隔膜を備える、本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽の一例について、図を参照しながら説明する。
なお、本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽は、下記で説明するものに限定されるものではない。また、水電解用複極式ゼロギャップ電解槽に含まれる、陽極、陰極及び隔膜以外の部材も、下記で挙げられるものに限定されず、公知のものを適宜選択、設計等して用いることができる。
【0081】
図1に、本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽の一例の全体についての側面図を示す。
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽は、
図1に示すとおり、陽極と、陰極と、陽極を備えた陽極室と陰極を備えた陰極室とを隔離する導電性隔壁と、導電性隔壁を縁取る外枠とを備える複数の複極式エレメント60が隔膜を挟んで重ね合わせられている複極式電解槽50である。外枠3は、隔壁1の外縁に沿って隔壁1を取り囲むように設けられていてよい。隣り合う複極式エレメントは、互いに絶縁された状態であることが好ましい。例えば、隣り合う複極式エレメントは、外枠同士、又はガスケットを介して隣接することにより、電気的に絶縁されていることが好ましい。導電性隔壁が外枠を兼ねてもよい。外枠、ガスケットは、絶縁性であってもよい。
【0082】
((複極式エレメント))
一例の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽に用いられる複極式エレメント60は、陽極2aと陰極2c・2rとを隔離する隔壁1を備え、隔壁1を縁取る外枠3を備えている。より具体的には、隔壁1は導電性を有し、外枠3は隔壁1の外縁に沿って隔壁1を取り囲むように設けられている。
【0083】
本実施形態では、
図1に示すとおり、複極式電解槽50は複極式エレメント60を必要数積層することで構成されている。
図1に示す一例では、複極式電解槽50は、一端からファストヘッド51g、絶縁板51i、陽極ターミナルエレメント51aが順番に並べられ、更に、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7、複極式エレメント60が、この順番で並べて配置される。このとき、複極式エレメント60は、陽極ターミナルエレメント51a側に陰極2cを向けるよう配置する。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までは、設計生産量に必要な数だけ繰り返し配置される。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までを必要数だけ繰り返し配置した後、再度、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7を並べて配置し、最後に陰極ターミナルエレメント51c、絶縁板51i、ルーズヘッド51gをこの順番で配置する。
図1中の破線四角枠は、電解セル内部のゼロギャップ構造部分を示す。
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽は、締め付け方法が油圧制御であることが好ましい。複極式電解槽50は、全体をタイロッド51r(
図1参照)や油圧シリンダー方式等の締め付け機構で締め付けることにより一体化され、複極式電解槽50となる。
内圧変動時においてもシール面圧を一定に保ち、ガスリークを抑制できる観点から、締付方法は油圧制御であることが好ましい。前記油圧制御は、例えば、電解槽に備えられた、油圧式の締め付け手段による制御等が挙げられる。締め付け手段は、例えば、シリンダー(例えば油圧シリンダー)、遮断弁、逃がし弁(例えば、油圧逃がし弁)、タンク(例えば油タンク)、ポンプ(例えば油圧ポンプ)等で形成されていてもよい。
ガスケットのシーリング性能の観点から、スタック圧力は、0.5MPa以上であることが好ましい。耐久性の観点から、スタック圧力は100MPa以下であることが好ましい。なおスタック圧力とは、任意の隣り合う複極式エレメント間にかかる面圧としてよい。
複極式電解槽50を構成する配置は、陽極2a側からでも陰極2c・2r側からでも任意に選択でき、上述の順序に限定されるものではない。
【0084】
図1に示すように、複極式電解槽50では、複極式エレメント60が、陽極ターミナルエレメント51aと陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置され、隔膜4は、陽極ターミナルエレメント51aと複極式エレメント60との間、隣接して並ぶ複極式エレメント60同士の間、及び複極式エレメント60と陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。
【0085】
また、本実施形態における複極式電解槽50では、隔壁1と外枠と隔膜4とガスケット7とにより、電解液が通過する電極室が画成されている。例えば、導電性隔壁1、隔壁の縁に設けられる外枠3(
図1では省略)、ガスケット7、隔膜4で区画される部分を電極室とし、陰極2cがある電極室を陰極室5c、陽極2aがある電極室を陽極室5aとしてよい(
図3)。例えば、陰極室5cでは、導電性隔壁1、導電性弾性体2e、陰極2r・2c(例えば、第1の陰極2cと第2の陰極2r)、隔膜4が、それぞれ隣接して積層されていてもよい(
図3(B))し、導電性隔壁1、集電体2x、導電性弾性体2e、陰極2c、隔膜4が、それぞれ隣接して積層されていてもよい(
図3(C))。
【0086】
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽は、前記導電性弾性体の弾性応力によって両電極間に前記隔膜が挟持されることが好ましい。
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽は、前記導電性弾性体の弾性応力によって、隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に前記隔膜が挟持されることが好ましい(
図3)。例えば、陰極室と陽極室とに導電性弾性体が配置される場合、隣り合う複極式エレメントのうち、一方の複極式エレメントの陰極室の導電性弾性体と、他方の複極式エレメントの陽極室の導電性弾性体とに挟まれた陰極と陽極との間に、電極に隣接して隔膜が挟まれていることが好ましい。
上記弾性応力としては、50%圧縮変形時の弾性応力1~1000kPaとしてよい。内圧変動時の差圧耐性の観点から、50%圧縮変形時の弾性応力は、1kPa以上であることが好ましく、5kPa以上であることがより好ましく、10kPa以上であることが更に好ましい。膜損傷の観点から、1000kPa以下であることが好ましく、500kPa以下であることがより好ましく、100kPa以下であることが更に好ましい。なお、50%圧縮変形時の弾性応力は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。上記弾性応力は、例えば、電解槽内に設ける導電性弾性体の種類や数、厚み等により調整することができる。
【0087】
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽は、隣り合う複極式エレメントの陽極室と陰極室との間にガスケット及び隔膜を設け、複数の複極式エレメントがガスケット及び隔膜を挟んで積み重ねられることが好ましい。隣り合う複極式エレメント間において、陽極室、ガスケット、隔膜、ガスケット、陰極室、の順に積層されていてもよい(
図1)。
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽は、電解液の封止が実現されている。隣り合う複極式エレメント間は、陽極室及び陰極室内に流入する電解液が漏れない構造であることが好ましい。すなわち、隣り合う複極式エレメント間の電解液の封止を実現することが好ましい。隣り合う複極式エレメント間に設けられる、ガスケットと隔膜との間に面圧が与えられてガスケットと隔膜との間から電解液が漏れない構造とし、ガスケットと外枠との間に面圧が与えられてガスケットと外枠との間から電解液が漏れない構造となることが好ましい(
図3)。また、各電極室は、外枠に囲まれ、後述のヘッダー部を除き、電解液が外部に漏れないことが好ましい。
上記電解液の封止とは、例えば、後述の実施例に記載の電解試験(好ましくは、電解試験と変動試験の両方)を行ったのちに、ガスケットと隔膜との間、及びガスケットと外枠との間から電解液のもれがないこととしてよい。
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽において、前記ガスケットと前記隔膜との間、及び前記ガスケットと前記外枠との間の面圧は、0.1MPa以上10MPa以下であってよい。なお、上記面圧は、プレス荷重をシール面の投影面積で除することで換算することができる。上記面圧は、例えば、油圧プレスによる締付方式の場合は油圧で、タイロッド方式の締付の場合はタイロッドの本数やトルクで、電解槽のプレス荷重を調整すること等により調整することができる。また、相対する部材の形状や材質を変えることで、電解槽のプレス荷重を各部材間の所望の面圧に分配することができる。
【0088】
複極式電解槽50には、通常、電解液を配液又は集液する管であるヘッダーが取り付けられ、隔壁の端縁にある外枠のうちの下方に、陽極室に電解液を入れる陽極入口ヘッダーと、陰極室に電解液を入れる陰極入口ヘッダーとを備えている。また、同様に、隔壁の端縁にある外枠のうちの上方に、陽極室から電極液を出す陽極出口ヘッダーと、陰極室から電解液を出す陰極出口ヘッダーとを備えている。
なお、
図1に示す複極式電解槽50に取り付けられるヘッダーの配設態様として、代表的には、内部ヘッダー型と外部ヘッダー型とがあるが、本発明では、いずれの型を採用してもよく、特に限定されない。
【0089】
なお、
図1に示す例では、隔壁、陽極2a、陰極2c・2rがいずれも所定の厚みを有する板状の形状であるが、本発明はこれに限定されることなく、断面において全部又は一部がジグザグ状、波状となる形状であってもよく、端部が丸みを帯びている形状であってもよい。
【0090】
((ゼロギャップ構造))
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽では、隔膜が陽極及び陰極と接触した、いわゆる「ゼロギャップ構造」が形成されている。「ゼロギャップ構造」は、電極全面にわたり、陽極と隔膜とが互いに接触し、且つ、陰極と隔膜とが互いに接触している状態、又は、電極全面にわたり、極間距離が隔膜の厚みとほぼ同じとなる距離で、陽極と隔膜との間及び陰極と隔膜との間に隙間のほとんど無い状態、に保つことのできる構造である。(
図3)。
アルカリ水電解において、隔膜と、陽極や陰極との間に隙間がある場合、この部分には電解液の他に電解で発生した大量のガスバブルが滞留することで、電気抵抗が非常に高くなる。
一方、ゼロギャップ構造を形成すると、発生するガスを電極の細孔を通して電極の隔膜側とは反対側に素早く逃がすことによって、陽極と陰極の間隔(以下、「極間距離」ともいう。)を低減しつつ、電解液による電圧損失や電極近傍におけるガス溜まりの発生を極力抑え、電解電圧を低く抑制することができる。
【0091】
ゼロギャップ構造を構成する手段は、既にいくつか提案されており、例えば、陽極と陰極を完全に平滑に加工して、隔膜を挟むように押し付ける方法や、電極と隔壁との間にバネ等の弾性体を配置し、この弾性体で電極を支持する方法が挙げられる。
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽において、極間距離を小さくする手段として、電極と隔壁との間に弾性体(例えば、導電性弾性体)を配置し、この弾性体で電極を支持する形態をとることができる。なお、このような弾性体を用いた形態を採用する場合には、電極が隔膜に接する圧力が不均一にならないように、弾性体の強度、弾性体の数、形状等必要に応じて適宜調節する。
【0092】
また弾性体を介して支持した電極の対となるもう一方の電極、及び電極支持体の剛性を強くすることで、平坦性の高いゼロギャップを形成することができる。―方で、弾性体を介して支持した電極については、隔膜を押しつけると変形する柔軟な構造とすることで、電解槽の製作精度上の公差や電極の変形等による凹凸を吸収してゼロギャップ構造を保つことができる。水素を製造する場合、陰極室を陽極室に比べて高圧にすることで、陰極室側への酸素のクロスリークを抑制し、水素純度を高く維持する事が出来る。そのため、陽極室側を高圧に耐えうる、剛性が強い電極及び電極支持体とし、陰極室に弾性体を設置することが好ましい。
図3には、本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽の一例の概要を示した。極間距離を小さくする手段として、電極(例えば、陽極2a、陰極2c、2r)と導電性隔壁1との間に導電性弾性体2eを配置し、この導電性弾性体で電極2を支持する(
図3(B))。
図3(B)では、陰極室5cに導電性弾性体2eを入れた例となっており、導電性弾性体2eは、突起11に対応する凹み12のある導電性隔壁1に隣接する形で配置される。また、
図3(C)では、陰極室5cに、集電体2xと、導電性弾性体2eと、陰極2cとが隣接して配置されている。
導電性弾性体2eの上に配置する電極としては、材質がニッケルの金属発泡体、平織メッシュ型、パンチング型、エキスパンド型の多孔体の少なくても1つを配置することが好ましい。電極としては、厚みや孔径や構造の異なる2種類以の多孔体を使用してもよい。例えば、陰極として、孔径が小さく厚みの薄い多孔体(第1の陰極)2cと、孔径が大きく厚い第2の陰極2rの2種類を重ねて使用してもよい。この際、第1の陰極2cは触媒層を有していてもよい。2rは、導電性弾性体2eの上に配置することが好ましい。
【0093】
また導電性弾性体2eを介して支持した電極(例えば、陰極2c、2r)の対となるもう一方の電極(例えば、陽極2a)の剛性を強くすること(陽極の剛性を陰極の剛性よりも強くすること)で、押しつけても変形の少ない構造としている。―方で、導電性弾性体を介して支持した電極(例えば、陰極2c、2r)については、隔膜4を押しつけると変形する柔軟な構造とすることで、電解槽50の製作精度上の公差や電極の変形等による凹凸を吸収してゼロギャップ構造を保つことができる。陽極2aは、隔壁にある突起11を介して、導電性隔壁と導通を形成する。
【0094】
導電性隔壁1の材質は、導電性の金属が用いられる。例えば、ニッケルや、ニッケルメッキを施した軟鋼、ステンレススチール、表面にラネーニッケル、多孔質ニッケル、多孔質酸化ニッケルから選ばれたがいずれかがコーティングされた金属(すなわち、コーティング層を有する金属)等が利用できる。コストとアルカリ耐性の観点から、ニッケルメッキ層を有することが好ましい。
【0095】
本実施形態の別の形態としては、前記導電性隔壁1の両方の表面に隣接して、導電性弾性体2eが配置されていてもよい。
本実施形態の別の形態としては、前記導電性隔壁1の両方の表面に突起11を有し、導電性弾性体2eが導電性隔壁の両側の表面に隣接して配置されていてもよい。
本実施形態の別の形態としては、前記導電性隔壁1の両方の表面に突起11とその突起に対応する凹み12を有し、導電性弾性体2eが隔壁の両側の表面に隣接して配置されていてもよい。
本実施形態の水電解用複極式電解槽において、電極が複数ある場合(例えば、第1の陰極と第2の陰極とがある場合)、少なくとも1つの電極が、少なくとも突起及び/又は少なくとも導電性弾性体を介して導電性隔壁と導通を形成することが好ましく、全ての電極が少なくとも突起及び/又は少なくとも導電性弾性体を介して導電性隔壁と導通を形成することがより好ましい。例えば、
図3において、第2の陰極2rのみが導電性弾性体2eを介して導通していてもよいし、第1の陰極2cが導電性弾性体2e及び第2の陰極2rを介して導通していてもよい。
【0096】
(アルカリ水電解装置)
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽を用いることができる、アルカリ水電解装置の一例を
図2に示す。
アルカリ水電解装置70は、本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽50に加えて、送液ポンプ71、気液分離タンク72、水補給器73以外にも、整流器74、酸素濃度計75、水素濃度計76、流量計77、圧力計78、熱交換器79、圧力制御弁80などを備えてよい。
【0097】
(アルカリ水電解)
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽を備えたアルカリ水電解装置に電解液を循環させて電解を行うことにより、高密度電流運転の場合でも、優れた電解効率及び高い発生ガス純度を維持して、高効率なアルカリ水電解を実施することができる。
【0098】
本実施形態のアルカリ水電解に用いることができる電解液としては、アルカリ塩が溶解されたアルカリ性の水溶液としてよく、例えば、NaOH水溶液、KOH水溶液等が挙げられる。
アルカリ塩の濃度としては、特に限定されないが、20質量%~50質量%が好ましく、25質量%~40質量%がより好ましい。
中でも、イオン導電率、動粘度、冷温化での凍結の観点から、25質量%~40質量%のKOH水溶液が特に好ましい。
【0099】
電解セル内にある電解液の温度は、特に限定されないが、60℃~130℃であることが好ましい。
上記温度範囲とすれば、高い電解効率を維持しながら、ガスケット、隔膜等の電解装置の部材が熱により劣化することを効果的に抑制することができる。
電解液の温度は、85℃~125℃であることがさらに好ましく、90℃~115℃であることが特に好ましい。
【0100】
本実施形態のアルカリ水電解において、電解セルに与える電流密度としては、特に限定されないが、0.1kA/m2~20kA/m2であることが好ましく、0.5kA/m2~15kA/m2であることがさらに好ましい。
特に、変動電源を使用する場合には、電流密度の上限を上記範囲にすることが好ましい。
【0101】
本実施形態のアルカリ水電解において、電解運転圧力がとしては、コストの観点から、ゲージ圧が3kPa~4000kPaであることが好ましく、3kPa~1000kPaであることがさらに好ましい。
前記電解運転圧力は、アルカリ水電解装置に備え付けた圧力計78により測定することができ、陰極側の圧力と陽極側の圧力との平均としてよい。
【0102】
電極室当たりの電解液の流量その他の条件は、水電解用複極式ゼロギャップ電解槽の各構成に応じて適宜制御すればよい。
【0103】
(水素製造方法)
本実施形態の水素の製造方法としては、上述の本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽を使用する方法が好ましい。本実施形態の水素製造方法は、アルカリを含有する水を複極式電解槽により水電解し、水素を製造するものであり、本実施形態の複極式電解槽、本実施形態の電解装置、本実施形態の水電解方法を用いて実施されてよい。
【0104】
本実施形態の水素製造方法における、本実施形態の電解槽の詳細、本実施形態の電解装置の詳細、本実施形態の水電解方法の詳細は、前述のとおりである。
【0105】
以上、図面を参照して、本発明の実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽、アルカリ水電解装置及びアルカリ水電解方法について例示説明したが、本発明の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽、アルカリ水電解装置及びアルカリ水電解方法は、上記の例に限定されることはなく、上記実施形態には、適宜変更を加えることができる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0107】
(弾性率)
電極の弾性率は、引張圧縮試験機(島津製作所製オートグラフAG-Xplus)を使用して以下のように求めた。2.5cm×8cmのサイズの電極をサンプルとして用い、0.1Nのときの変位を0として、電極を設置し試験力0.1Nから支点間距離5cmで3点曲げ試験を行い、歪0.01%から0.05%の間または0.1%から0.5%の間における、歪―応力曲線の傾きを弾性率とした。
【0108】
(曲げ剛性)
電極の曲げ剛性は、上記で得られた電極の弾性率を用いて、以下のように算出した。
【数1】
ここで、EIは曲げ剛性(kN・mm
2)、Eは弾性率(kN/mm
2)、Iは断面二次モーメント(mm
4)をそれぞれ表す。断面二次モーメントは、下記のように算出した。
【数2】
ここで、bは電極サンプルサイズ(25mm)、hは電極の厚み(mm)を表す。
【0109】
(50%圧縮変形時の弾性応力)
導電性弾性体の50%圧縮変形時の弾性応力は、引張圧縮試験機(島津製作所製オートグラフAG-Xplus)を使用して以下のように求めた。10cm×10cmのサイズの導電性弾性体をサンプルとして用い、導電性弾性体がない状態で10Nのときの変位を0として、導電性弾性体を設置し試験力10Nから圧縮試験を行い、歪50%のときの応力を50%圧縮変形時の弾性応力とした。
【0110】
(集電体の接触抵抗)
集電体の接触抵抗は、引張圧縮試験機(島津製作所製オートグラフAG-Xplus)と抵抗計(HIOKI、RM3544-01)を使用して以下のように求めた。10cm×10cmのサイズの集電体をサンプルとして用い、銅板(10cm×10cmで厚み3mmの平板)を2枚用意し、2枚の銅板の間に集電体を設置し、室温で試験力200Nで圧縮試験を行い、そのときの2枚の銅板に挟まれた集電体の抵抗値(mΩ)にサンプル面積(100cm2)をかけたものを、集電体の接触抵抗(mΩcm2)とした。
【0111】
[実施例1]
(隔壁)
実施例1の隔壁として、厚み3mmのニッケル板の一方の表面に、径が20mm高さ4mmの半球状突起が間隔25mmで60°千鳥で配置され、反対側の表面に半球状の凹部が上記半球状の突起と対応する位置に配置された、導電性の隔壁を使用し、陽極室側に突起があり、陰極室側に対応する凹みがあるように設置した。隔壁が外枠を兼ねた。当該隔壁を以下及び表1において「隔壁1」と表記する。
隣り合う複極式エレメントの、後述の陽極を含む陽極室と後述の陰極を含む陰極室との間に隔膜が設けられ、陽極室と陰極室とが区画化されていた。
なお、以下の実施例、比較例において、隔壁表面上の隣り合う突起間及び隣り合う凹み間は、全て平坦部のものを使用した。
(陽極)
実施例1の陽極として、ニッケルエキスパンド型多孔体電極(触媒層ニッケル)を用いた。メッシュの長目方向の中心間距離(LW)は4.5mm、基材メッシュの短目方向の中心間距離(SW)は3mm、基材の厚みは1mmであった。なお、当該陽極を以下及び表1において「陽極1」と表記する。陽極1の弾性率は12GPa、曲げ剛性は32kN・mm2であった。
(陰極)
実施例1の陰極として、直径0.15mmのニッケルの細線を40メッシュに編んだ平織メッシュ型多孔体電極(触媒層白金・パラジウム)を第1の陰極として用いた。なお、当該陰極を以下及び表1において「陰極1」と表記する。第2の陰極として、平均孔径0.5mm厚み1mmの発泡ニッケル(陰極1’)を使用し、隔膜に近い位置に陰極1、弾性体上に陰極1’を置いた。陰極1’の弾性率は0.4GPa、曲げ剛性は1kN・mm2であった。
(弾性体)
実施例1の弾性体として、0.25mmのニッケルワイヤーを用いて織物とし更に波型に加工した厚さ8mmの導電性のクッションマットを使用し、陰極室の隔壁と陰極の間に、隔壁の表面に隣接させて設置し、4mmまで圧縮した。当該弾性体を以下及び表1において「弾性体1」と表記する。弾性体1の50%圧縮変形時の弾性応力は40kPaであった。
各複極式エレメント内において、隔壁の突起を介して、陽極と隔壁とが導通していた。また、隔壁と隣接する弾性体を介して、弾性体に隣接する陰極と隔壁とが導通していた。
また、弾性体の弾性応力によって、隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に隔膜を挟持していた。
(隔膜)
実施例1の隔膜として、市販の水電解用多孔膜(「Zirfon Perl UTP500」、Agfa社製)を用いた。なお、当該隔膜を以下及び表1において「隔膜1」と表記する。
【0112】
[実施例2]
(隔壁)
実施例2の隔壁として、隔壁1を使用し、陽極室側に突起があり、陰極室側に対応する凹みがあるように設置した。
後述の陽極を含む陽極室と後述の陰極を含む陰極室との間に隔膜が設けられ、陽極室と陰極室とが区画化されていた。
(陽極)
実施例2の陽極として、穴径4mm、穴間ピッチ6mm、基材の厚み1mmのニッケルパンチング型多孔体電極(触媒層ニッケル)を使用した。なお、当該陽極を以下及び表1中において「陽極2」と表記する。陽極2の弾性率は49GPa、曲げ剛性は100kN・mm2であった。
(陰極)
実施例2の陰極としては、第1の陰極として陰極1を、第2の陰極として陰極1’を使用し、隔膜に近い位置に陰極1、弾性体上に陰極1’を置いた。
(隔膜)
実施例2の隔膜としては、隔膜1を使用した。
(弾性体)
実施例2の弾性体としては、弾性体1を使用し、陰極室の隔壁と陰極の間に、隔壁の表面に隣接させて設置し、4mmまで圧縮した。
各複極式エレメント内において、隔壁の突起を介して、陽極と隔壁とが導通していた。また、隔壁と隣接する弾性体を介して、弾性体に隣接する陰極と隔壁とが導通していた。
また、弾性体の弾性応力によって、隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に隔膜を挟持していた。
【0113】
[実施例3]
(隔壁)
実施例3の隔壁として、厚み3mmのニッケル板の一方の表面に、径15mm高さ3mmの半球状突起が間隔40mmで並列に配置され、反対側の表面に半球状の凹部が上記半球状の突起と対応する位置に配置された、導電性の隔壁を使用し、陽極室側に突起があり、陰極室側に対応する凹みがあるように設置した。隔壁が外枠を兼ねた。当該隔壁を以下及び表1において「隔壁2」と表記する。
後述の陽極を含む陽極室と後述の陰極を含む陰極室との間に隔膜が設けられ、陽極室と陰極室とが区画化されていた。
(陽極)
実施例3の陽極として、平均孔径0.9mm、基材の厚み2mmの発泡ニッケル多孔体電極(触媒層ニッケル)を使用した。なお、当該陽極を表1において「陽極3」と表記する。陽極3の弾性率は0.7GPa、曲げ剛性は10kN・mm2であった。
(陰極)
実施例3の陰極としては、第1の陰極として陰極1を、第2の陰極として陰極1’を使用し、隔膜に近い位置に陰極1、弾性体上に陰極1’を置いた。
(隔膜)
実施例3の隔膜としては隔膜1を使用した。
(弾性体)
実施例3の弾性体として、0.17mmのニッケルワイヤーを用いて織物とし更に波型に加工した厚さ8mmの導電性のクッションマットを折り返して使用し、陰極室の隔壁と陰極の間に隔壁の表面に隣接させて設置し、6mmまで圧縮した。当該弾性体を以下及び表1において「弾性体2」と表記する。弾性体2の50%圧縮変形時の弾性応力は11kPaであった。
各複極式エレメント内において、隔壁の突起を介して、陽極と隔壁とが導通していた。また、隔壁と隣接する弾性体を介して、弾性体に隣接する陰極と隔壁とが導通していた。
また、弾性体の弾性応力によって、隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に隔膜を挟持していた。
【0114】
[実施例4]
(隔壁)
実施例4の隔壁として、隔壁1を使用し、陽極室側に突起があり、陰極室側に対応する凹みがあるように設置した。
後述の陽極を含む陽極室と後述の陰極を含む陰極室との間に隔膜が設けられ、陽極室と陰極室とが区画化されていた。
(陽極)
実施例4の陽極としては、陽極2を使用した。
(陰極)
実施例4の陰極としては、第1の陰極として陰極1を、第2の陰極として陰極1’を使用し、隔膜に近い位置に陰極1、弾性体上に陰極1’を置いた。
(隔膜)
実施例4の隔膜としては、隔膜1を使用した。
(弾性体)
実施例4の弾性体としては、弾性体2を使用し、陰極室の隔壁と陰極の間に、隔壁の凹みがある表面と隣接させて設置し、6mmまで圧縮した。
更に、0.25mmのニッケルワイヤーを用いて織物とし更に波型に加工した厚さ5mmの導電性のクッションマットを使用し、陽極室の隔壁と陽極の間に、隔壁の突起がある表面と隣接させて設置し、3mmまで圧縮した。当該弾性体を以下及び表1において「弾性体3」と表記する。弾性体3の50%圧縮変形時の弾性応力は60kPaであった。
各複極式エレメント内において、隔壁の突起と弾性体とを介して、陽極と隔壁とが導通していた。また、隔壁と隣接する弾性体を介して、弾性体に隣接する陰極と隔壁とが導通していた。
また、弾性体の弾性応力によって、隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に隔膜を挟持していた。
【0115】
[実施例5]
(隔壁)
実施例5の隔壁として、厚み3mmのニッケル板の片面に径10mm高さ3mmの半球状突起が間隔50mmの60°千鳥で配置され、その反対面にも径10mm高さ3mmの半球状突起が間隔50mmで60°千鳥で配置され、両側の突起は、一方の面の3つの突起からなる正三角形の重心の位置に、反対面の突起が位置する関係で配置された、導電性の隔壁を使用した。上記隔壁は、両側の表面に突起と凹みとがあり、各半球状の突起の反対側の面の対応する位置に半球状の凹みがある。隔壁が外枠を兼ねた。当該隔壁を以下及び表1において「隔壁3」と表記する。
一方の面にある径10mm高さ3mmの半球状突起が陽極室側に、もう一方の面にある径10mm高さ3mmの半球状突起が陰極室側になるように設置した。
後述の陽極を含む陽極室と後述の陰極を含む陰極室との間に隔膜が設けられ、陽極室と陰極室とが区画化されていた。
(陽極)
実施例5の陽極としては、陽極1を使用した。
(陰極)
実施例5の陰極としては、第1の陰極として陰極1を、第2の陰極として陰極1’を使用し、隔膜に近い位置に陰極1、弾性体上に陰極1’を置いた。
(隔膜)
実施例5の隔膜としては、隔膜1を使用した。
(弾性体)
実施例5の弾性体としては、弾性体2を使用し、陰極室の隔壁と陰極の間に、隔壁の表面に隣接させて設置し、6mmまで圧縮した。更に、弾性体3を陽極室の隔壁と陽極の間に、隔壁に隣接させて設置し、3mmまで圧縮した。
各複極式エレメント内において、隔壁の突起及び弾性体を介して、陽極と隔壁とが導通していた。また、隔壁の突起及び弾性体を介して、陰極と隔壁とが導通していた。
また、弾性体の弾性応力によって、隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に隔膜を挟持していた。
【0116】
[実施例6]
(隔壁)
実施例6の隔壁として、隔壁1を使用し、陽極室側に突起があり、陰極室側に対応する凹みがあるように設置した。
後述の陽極を含む陽極室と後述の陰極を含む陰極室との間に隔膜が設けられ、陽極室と陰極室とが区画化されていた。
(陽極)
実施例6の陽極としては、LW4.5mm、SW3mm、厚み1.0mmのニッケルエキスパンド型多孔体電極(触媒層なし)を使用した。なお、当該陽極を以下及び表1中において「陽極4」と表記する。陽極4の弾性率は12GPa、曲げ剛性は32kN・mm2であった。
(陰極)
実施例6の陰極としては、第1の陰極として、直径0.15mmのニッケルの細線を40メッシュに編んだ平織メッシュ型多孔体電極(触媒層なし)を使用した。なお、当該陰極を以下及び表1において「陰極2」と表記する。第2の陰極として陰極1’を使用し、隔膜に近い位置に陰極2、弾性体上に陰極1’を置いた。
(隔膜)
実施例6の隔膜としては、隔膜1を使用した。
(弾性体)
実施例6の弾性体としては、弾性体1を使用し、陰極室の隔壁と陰極の間に、隔壁の表面に隣接させて設置し、4mmまで圧縮した。
各複極式エレメント内において、隔壁の突起を介して、陽極と隔壁とが導通していた。また、隔壁と隣接する弾性体を介して、弾性体に隣接する陰極と隔壁とが導通していた。
また、弾性体の弾性応力によって、隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に隔膜を挟持していた。
【0117】
[実施例7]
(隔壁)
実施例7の隔壁として、厚み3mmのニッケル板の一方の表面に、径が20mm高さ4mmの半球状突起が間隔25mmで60°千鳥で配置され、反対側の表面には突起も凹部もない平らである、導電性の隔壁を使用し、陽極室側に突起があり、陰極室側には突起も凹みもないように設置した。隔壁が外枠を兼ねた。当該隔壁を以下及び表1において「隔壁4」と表記する。
隣り合う複極式エレメントの、後述の陽極を含む陽極室と後述の陰極を含む陰極室との間に隔膜が設けられ、陽極室と陰極室とが区画化されていた。
(陽極)
実施例7の陽極としては、陽極1を使用した。
(陰極)
実施例7の陰極としては、第1の陰極として陰極1を、第2の陰極として陰極1’を使用し、隔膜に近い位置に陰極1、弾性体上に陰極1’を置いた
(隔膜)
実施例7の隔膜としては、隔膜1を使用した。
(弾性体)
実施例7の弾性体としては、弾性体1を使用し、陰極室の隔壁と陰極の間に、隔壁の表面に隣接させて設置し、4mmまで圧縮した。
各複極式エレメント内において、隔壁の突起を介して、陽極と隔壁とが導通していた。また、隔壁と隣接する弾性体を介して、弾性体に隣接する陰極と隔壁とが導通していた。
また、弾性体の弾性応力によって、隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に隔膜を挟持していた。
【0118】
[実施例8]
(隔壁)
実施例8の隔壁として、厚み3mmのSPCCの表面にニッケルメッキ層を有する板の一方の表面に、径が20mm高さ4mmの半球状突起が間隔25mmで60°千鳥で配置され、反対側の表面に半球状の凹部が上記半球状の突起と対応する位置に配置された、導電性の隔壁を使用し、陽極室側に突起があり、陰極室側に対応する凹みがあるように設置した。隔壁が外枠を兼ねた。当該隔壁を以下及び表1において「隔壁5」と表記する。
後述の陽極を含む陽極室と後述の陰極を含む陰極室との間に隔膜が設けられ、陽極室と陰極室とが区画化されていた。
(陽極)
実施例8の陽極としては、陽極1を使用した。
(陰極)
実施例8の陰極としては、第1の陰極として陰極1を、第2の陰極として陰極1’を使用し、隔膜に近い位置に陰極1、弾性体上に陰極1’を置いた
(隔膜)
実施例8の隔膜としては、隔膜1を使用した。
(弾性体)
実施例8の弾性体としては、弾性体1を使用し、陰極室の隔壁と陰極の間に、隔壁の表面に隣接させて設置し、4mmまで圧縮した。
各複極式エレメント内において、隔壁の突起を介して、陽極と隔壁とが導通していた。また、隔壁と隣接する弾性体を介して、弾性体に隣接する陰極と隔壁とが導通していた。
また、弾性体の弾性応力によって、隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に隔膜を挟持していた。
【0119】
[実施例9]
(隔壁)
実施例9の隔壁として、隔壁1を使用し、陽極室側に突起があり、陰極室側に対応する凹みがあるように設置した。
後述の陽極を含む陽極室と後述の陰極を含む陰極室との間に隔膜が設けられ、陽極室と陰極室とが区画化されていた。
(陽極)
実施例9の陽極としては、陽極1を使用した。
(陰極)
実施例9の陰極としては、陰極1を用いた。第2の陰極は用いなかった。
(隔膜)
実施例9の隔膜としては、隔膜1を使用した。
(弾性体、集電体)
実施例9の集電体として、LW4.5mm、SW3mm、厚み1.0mmのニッケルエキスパンドを使用した。なお、当該集電体を以下において「集電体1」と表記する。集電体1の接触抵抗は20mΩcm2、弾性率は12GPa、曲げ剛性は32kN・mm2であった。弾性体としては、弾性体1を使用した。
集電体1を陰極室の隔壁の表面に接する形で置き、さらに、集電体1に接する形で弾性体1を設置し、4mmまで圧縮した。
各複極式エレメント内において、隔壁の突起を介して、陽極と隔壁とが導通していた。また、隔壁と隣接する弾性体を介して、弾性体に隣接する陰極と隔壁とが導通していた。
また、弾性体の弾性応力によって、隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に隔膜を挟持していた。
【0120】
[実施例10]
(隔壁)
実施例10の隔壁として、厚み3mmのニッケル板の一方の表面に、径が50mm高さ9mmの半球状突起が間隔70mmで60°千鳥で配置され、反対側の表面に半球状の凹部が上記半球状の突起と対応する位置に配置された、導電性の隔壁を使用し、陽極室側に突起があり、陰極室側に対応する凹みがあるように設置した。隔壁が外枠を兼ねた。当該隔壁を以下及び表1において「隔壁6」と表記する。
後述の陽極を含む陽極室と後述の陰極を含む陰極室との間に隔膜が設けられ、陽極室と陰極室とが区画化されていた。
(陽極)
実施例10の陽極としては、陽極1を使用した。
(陰極)
実施例10の陰極としては、第1の陰極として陰極1を、第2の陰極として、平均孔径0.9mm、基材の厚み2mmの発泡ニッケル(陰極2’)を使用し、隔膜に近い位置に陰極1、弾性体上に陰極2’を置いた。陰極2’の弾性率は0.7GPa、曲げ剛性は10kN・mm2であった。
(隔膜)
実施例10の隔膜としては、隔膜1を使用した。
(弾性体、集電体)
実施例10の集電体として、集電体1を用いた。集電体1を陰極室の隔壁の表面に接する形で置き、さらに、集電体1に接する形で弾性体を設置した。弾性体としては0.25mmのニッケルワイヤーを用いて織物とし更に波型に加工した厚さ8mmの導電性のクッションマットを折り返して使用し、10mmまで圧縮した。当該弾性体を以下及び表1において「弾性体4」と表記する。弾性体4の50%圧縮変形時の弾性応力は40kPaであった。
各複極式エレメント内において、隔壁の突起を介して、陽極と隔壁とが導通していた。また、隔壁と隣接する弾性体を介して、弾性体に隣接する陰極と隔壁とが導通していた。
また、弾性体の弾性応力によって、隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に隔膜を挟持していた。
【0121】
[実施例11]
(隔壁)
実施例11の隔壁として、厚み3mmのニッケル板の一方の表面に、径が55mm高さ12mmの半球状突起が間隔105mmで60°千鳥で配置され、反対側の表面に半球状の凹部が上記半球状の突起と対応する位置に配置された、導電性の隔壁を使用し、陽極室側に突起があり、陰極室側に対応する凹みがあるように設置した。隔壁が外枠を兼ねた。当該隔壁を以下及び表1において「隔壁7」と表記する。
後述の陽極を含む陽極室と後述の陰極を含む陰極室との間に隔膜が設けられ、陽極室と陰極室とが区画化されていた。
(陽極)
実施例11の陽極としては、陽極1を使用した。
(陰極)
実施例11の陰極としては、第1の陰極として陰極1を、第2の陰極として、平均孔径0.9mm、基材の厚み2mmの発泡ニッケル(陰極2')を使用し、隔膜に近い位置に陰極1、弾性体上に陰極2'を置いた。陰極2'の弾性率は0.7GPa、曲げ剛性は10kN・mm2であった。
(隔膜)
実施例11の隔膜としては、隔膜1を使用した。
(弾性体、集電体)
実施例11の集電体として、集電体1を用いた。集電体1を陰極室の隔壁の表面に接する形で置き、さらに、集電体1に接する形で弾性体を設置した。弾性体としては0.25mmのニッケルワイヤーを用いて織物とし更に波型に加工した厚さ8mmの導電性のクッションマットを折り返して使用し、10mmまで圧縮した。当該弾性体を以下及び表1において「弾性体4」と表記する。弾性体4の50%圧縮変形時の弾性応力は40kPaであった。
各複極式エレメント内において、隔壁の突起を介して、陽極と隔壁とが導通していた。また、隔壁と隣接する弾性体を介して、弾性体に隣接する陰極と隔壁とが導通していた。
また、弾性体の弾性応力によって、隣り合う複極式エレメントの陰極と陽極との間に隔膜を挟持していた。
【0122】
[比較例1]
(隔壁)
比較例1の隔壁として、隔壁1を使用し、陽極室側に突起があり、陰極室側に対応する凹みがあるように設置した。
(陽極)
比較例1の陽極として、陽極4を使用した。
(陰極)
比較例1の陰極としては、第1の陰極として陰極2を、第2の陰極として陰極1’を使用し、隔膜に近い位置に陰極2、遠い位置に陰極1’を置いた
(隔膜)
比較例1の隔膜としては、隔膜1を使用した。
(弾性体)
比較例1では、弾性体を使用しなかった。
各複極式エレメント内において、隔壁の突起を介して、陽極と隔壁とが導通していた。また、隔壁と陰極とが隣接しており、陰極と隔壁とが導通していた。
【0123】
[比較例2]
(隔壁)
比較例2の隔壁として、隔壁3を使用した(陽極室側と陽極室側の両方に突起とそれ対応する凹みがある)。
(陽極)
比較例2の陽極として、陽極4を使用した。
(陰極)
比較例2の陰極としては、第1の陰極として陰極2を、第2の陰極として陰極1'を使用し、隔膜に近い位置に陰極2、遠い位置に陰極1’を置いた
(隔膜)
比較例2の隔膜としては、隔膜1を使用した。
(弾性体)
比較例2では、弾性体を使用しなかった。
各複極式エレメント内において、隔壁の突起を介して、陽極と隔壁とが導通していた。また、隔壁の突起を介して、陰極と隔壁とが導通していた。
【0124】
[比較例3]
(隔壁)
比較例3の隔壁として、突起も凹みもない厚み3mmのニッケル平板を使用した。隔壁が外枠を兼ねた。当該隔壁を以下及び表1において「隔壁8」と表記する。
(陽極)
比較例3の陽極として、陽極4を使用した。
(陰極)
比較例3の陰極としては、第1の陰極として陰極2を、第2の陰極として陰極1'を使用し、隔膜に近い位置に陰極2、遠い位置に陰極1’を置いた
(隔膜)
比較例3の隔膜としては、隔膜1を使用した。
(弾性体)
比較例3では、弾性体を使用しなかった。
各複極式エレメント内において、隔壁と陽極とが隣接しており、陽極と隔壁とが導通していた。また、隔壁と陽極とが隣接しており、陽極と隔壁とが導通していた。
【0125】
以下、使用した複極式電解槽及び電解システムについて説明する。上述した隔壁、電極隔膜及び弾性体以外は、実施例及び比較例の全てにおいて同一条件とした。
【0126】
[複極式電解槽]
陽極ターミナルエレメント、陰極ターミナルエレメント、4個の複極式エレメントから構成される、
図1のような、複極式ゼロギャップ構造の電解槽を作製した。各電解槽にはそれぞれの実施例及び比較例の陽極、陰極、及び隔膜が同様に組み込まれている。陽極、陰極、及び隔膜以外の部材は、本技術分野で一般的なものを使用した。
なお、電解槽のスタック圧力は0.8MPaであり、ガスケットと隔膜との間、及びガスケットと外枠との間の面圧は2.5MPaであった。
【0127】
<複極式エレメント>
複極式エレメントは、1200mm×200mmの長方形で、陽極及び陰極の面積は1150mm×180mmとした。このゼロギャップ複極式エレメントを、1150mm×180mmの隔膜を介してスタックさせることで、陰極と陽極が隔膜に押し付けられたゼロギャップ構造を形成した。
【0128】
[電解システム]
上記複極式電解槽を、
図2に示す電解装置70に組み込んでアルカリ水電解に使用した。以下、
図2を参照しながら、電解システムの概略を説明する。
気液分離タンク72及び複極式電解槽50には、電解液として30%KOH水溶液が封入されている。この電解液は、送液ポンプ71により、陽極室と陽極用気液分離タンク(酸素分離タンク72o)との間、陰極室と陰極用気液分離タンク(水素分離タンク72h)との間をそれぞれ循環している。電解液の流量は、流量計77で測定して電解槽中の線速度が平均3mm/sになるように調整した。温度は、熱交換器79によって、電解槽出側温度が90℃になるように調整した。
整流器74から、各電解セルの陰極及び陽極に対して、所定の電極密度で通電した。
通電開始後のセル内圧力は、圧力計78で測定し、陰極側圧力が500kPa、酸素側圧力が499kPaとなるとように調整した。圧力調整は、圧力計78の下流に圧力制御弁80を設置し、これにより行った。
整流器74、酸素濃度計75、水素濃度計76、流量計77、圧力計78、熱交換器79、送液ポンプ71、気液分離タンク72(72h及び72o)、水補給器73等は、いずれも当該技術分野において通常使用されるものを用いた。
【0129】
[電解試験]
実施例1~11及び比較例1~3の電解槽構成で、電流密度1、6、10kA/m2の電流密度下で連続して24時間通電し、アルカリ水電解を行った。
24時間後、各実施例及び比較例ごとに4つの電解セルの対電圧の平均値を算出し、セル電圧(V)として評価し、その結果を表1に示す。
なお、実施例1~11、比較例1~3のいずれにおいても、電解試験後に電解液の漏れはなかった。
【0130】
[変動試験]
実施例1~11及び比較例1~3の電解槽構成で、電流密度1から10kA/m2まで約3秒間で上昇させ、電流密度10から1kA/m2まで約3秒間で降下させる変動を10000回繰り返した。その後、電流密度を10kA/m2に設定し、24時間後、各実施例及び比較例ごとに4つの電解セルの対電圧の平均値を算出し、セル電圧(V)として評価し、その結果を表1に示す。
変動試験後の10kA/m2でのセル電圧と、上記電解試験での10kA/m2でのセル電圧の差をΔV(V)として算出した。その結果を表1に示す。
なお、実施例1~11、比較例1~3のいずれにおいても、変動試験後に電解液の漏れはなかった。
【0131】
[槽内温度差]
電解試験にて、電流密度10kA/m2で連続して24時間通電時の槽内温度差ΔTを、槽の入側(T1)と出側(T2)の温度を測定することで算出した。
ΔT(℃)=T2-T1
【0132】
[変動試験後の部材損傷確認]
変動試験後に、電解槽を解体し、隔膜、電解枠、電極等の損傷状態を目視で観察した。
そして、以下の基準で評価を行った。
優れる(〇):損傷なし
良好(△):軽微な損傷
不良(×):重度の損傷
【0133】
実施例1-5の電解槽において、1~10kA/m2の範囲において、低いセル電圧を示したため、広い電流密度の範囲において効率的に水素を製造できることが示された。また、槽内温度上昇も小さく、更に、変動試験後のセル電圧の上昇が小さく、部材損傷も見られなかったことから、変動電源に対応できることが示された。
実施例6より、触媒がなくても、本効果が得られることが示された。
実施例7は、1~10kA/m2の範囲において、低いセル電圧を示したため、広い電流密度の範囲において効率的に水素を製造できることが示された。一方、変動試験後に、若干のセル電圧の上昇が見られ、また、一部軽微な部材損傷が見られたが、運転には支障は無く、変動電源に対応できることが示された。
実施例8より、導電性隔壁がニッケルメッキ層を有しても、1~10kA/m2の範囲において、低いセル電圧を示したため、広い電流密度の範囲において効率的に水素を製造できることが示された。また、槽内温度上昇も小さく、更に、変動試験後のセル電圧の上昇が小さく、ニッケルメッキ層を含めて部材損傷も見られなかったことから、変動電源に対応できることが示された。
実施例9、10より、集電体を有する場合においても、1~10kA/m2の範囲において、低いセル電圧を示したため、広い電流密度の範囲において効率的に水素を製造できることが示された。また、槽内温度上昇は小さく、変動試験後に若干のセル電圧の上昇がみられたが、部材損傷はほとんど見られなかったことから、集電体を有する場合においても、変動電源に対応できることが示された。
実施例11では、1~10kA/m2の範囲において、多少高いセル電圧を示したものの、広い電流密度の範囲において効率的に水素を製造できることが示された。これは、突起間の間隔が広くなり、電極のたわみによって、ゼロギャップ構造の均一性が下がったことによるものと考える。槽内温度上昇は小さく、変動試験後に若干のセル電圧の上昇がみられたが、部材損傷はほとんど見られなかったことから、変動電源に対応できることが示された。
比較例1-3では、1~10kA/m2の範囲において、高いセル電圧を示し、また、槽内温度上昇も大きく、更に、変動試験後のセル電圧の上昇が大きく、部材損傷も見られたことから、広い電流密度の範囲において効率的に水素を製造する事が出来ず、変動電源に対応することが困難である事が示された。
【0134】
【産業上の利用可能性】
【0135】
本実施形態の水電解用複極式ゼロギャップ電解槽によれば、広い電流密度の範囲において効率的に水素を製造でき、変動電源に対応できる。例えば、アルカリ水電解用の電解槽として用いることができる。
【符号の説明】
【0136】
1 導電性隔壁
11 突起
12 凹み
13 平坦部
2 電極
2a 陽極
2c 第1の陰極
2e 弾性体
2r 第2の陰極
2x 集電体
3 外枠
4 隔膜
5a 陽極室
5b 陰極室
7 ガスケット
50 複極式電解槽
51g ファストヘッド、ルーズヘッド
51i 絶縁板
51a 陽極ターミナルエレメント
51c 陰極ターミナルエレメント
51r タイロッド
60 複極式エレメント
65 電解セル
70 電解装置
71 送液ポンプ
72 気液分離タンク
72h 水素分離タンク
72o 酸素分離タンク
73 水補給器
74 整流器
75 酸素濃度計
76 水素濃度計
77 流量計
78 圧力計
79 熱交換器
80 圧力制御弁
SW メッシュの短目方向の中心間距離
LW メッシュの長目方向の中心間距離
C メッシュの目開き
TE メッシュの厚み
B メッシュのボンド長さ
T 板厚
W 送り幅(刻み幅)
A 平織メッシュ型の目開き
d 平織メッシュ型の線径
D パンチング型の穴径
P パンチング型の穴間ピッチ