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特許7353531リチウム二次電池の電極用結着剤、電極用結着剤組成物、負極、及びリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-21
(45)【発行日】2023-09-29
(54)【発明の名称】リチウム二次電池の電極用結着剤、電極用結着剤組成物、負極、及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20230922BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20230922BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230922BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230922BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/134
H01M4/48
H01M4/58
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023120555
(22)【出願日】2023-07-25
【審査請求日】2023-07-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 明良
(72)【発明者】
【氏名】坂本 紘一
(72)【発明者】
【氏名】金子 文弥
(72)【発明者】
【氏名】松本 真昌
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特許第7161078(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/134
H01M 4/48
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジフェニルメタンジイソシアネート及びその変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含むポリイソシアネート成分、(B)水添ポリブタジエンポリオールを含むポリオール成分、(C)活性水素基含有カルボン酸、及び、(D)鎖伸長剤としての水を反応させて得られるポリウレタンの塩の水分散体を含み、前記ポリウレタンの塩はアミン系鎖伸長剤由来の構造を含まないか、含むとしても含有量が0.01mol/kg未満である、リチウム二次電池の電極用結着剤。
【請求項2】
前記活性水素基含有カルボン酸が、2個のヒドロキシ基を有する脂肪族カルボン酸を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の電極用結着剤。
【請求項3】
前記ポリオール成分が、分子量500以下の3官能以上のポリオールを更に含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の電極用結着剤。
【請求項4】
前記ポリウレタンの酸価が8~35mgKOH/gである、請求項1に記載のリチウム二次電池の電極用結着剤。
【請求項5】
前記ポリウレタンの塩がアルカリ金属塩である、請求項1に記載のリチウム二次電池の電極用結着剤。
【請求項6】
負極活物質としてSiO、SiC、Si及びこれらにリチウムイオンをプレドープしたものからなる群から選択される少なくとも1種を含むリチウム二次電池の負極用である、請求項1に記載のリチウム二次電池の電極用結着剤。
【請求項7】
(A)ジフェニルメタンジイソシアネート及びその変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含むポリイソシアネート成分、(B)水添ポリブタジエンポリオールを含むポリオール成分、(C)活性水素基含有カルボン酸、及び、(D)鎖伸長剤としての水を反応させて得られ、アミン系鎖伸長剤由来の構造を含まないか、含むとしても含有量が0.01mol/kg未満であるポリウレタンの塩、
導電剤、並びに、
水を含む、リチウム二次電池の電極用結着剤組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の電極用結着剤又は請求項7に記載の電極用結着剤組成物の固形分と、
SiO、SiC、Si及びこれらにリチウムイオンをプレドープしたものからなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質と、
を含む、リチウム二次電池の負極。
【請求項9】
請求項8に記載の負極を備えるリチウム二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、リチウム二次電池の電極用結着剤、電極用結着剤組成物、負極、及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、リチウムイオン二次電池とも称され、高電圧、高エネルギー密度の蓄電デバイスとして、例えば電子機器の駆動用電源に用いられている。リチウム二次電池の電極は、通常、電極活物質、導電剤及び結着剤の混合物を集電体表面へ塗布・乾燥することにより製造される。結着剤は、電極活物質と集電体との間に接着力を付与するために用いられる。そのため、結着剤がリチウム二次電池の特性に与える影響は大きい。
【0003】
リチウム二次電池の電極用結着剤として、特許文献1には、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートの少なくとも一方、水添ポリブタジエンポリオール、1個以上の活性水素基を有するカルボン酸、及び鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタンのナトリウム塩の水分散体を含むものが開示されている。特許文献1によれば、これにより、充放電による電極の膨張を低減して、充放電サイクル特性の向上が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第7161078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば負極活物質としてSiO等のシリコン系活物質を用いた場合、充放電により内部抵抗が上昇し、充放電サイクル特性の低下につながる。そのため、充放電による内部抵抗の上昇を抑えることができる電極用結着剤が求められる。
【0006】
上記特許文献1には、上記ポリウレタンの水分散体を構成する成分として水添ポリブタジエンポリオール及び活性水素基含有カルボン酸を用いることは開示されているが、ポリイソシアネートとして脂肪族又は脂環式ポリイソシアネートが用いられ、またアミン系鎖伸長剤で鎖伸長されている。そのため、ジフェニルメタンジイソシアネート及び/又はその変性体を水添ポリブタジエンポリオールとともに用い、水で鎖伸長させてなるポリウレタンの水分散体については、特許文献1には記載されていない。
【0007】
本発明の実施形態は、充放電による内部抵抗の上昇を抑えることができるリチウム二次電池の電極用結着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] (A)ジフェニルメタンジイソシアネート及びその変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含むポリイソシアネート成分、(B)水添ポリブタジエンポリオールを含むポリオール成分、(C)活性水素基含有カルボン酸、及び、(D)鎖伸長剤としての水を反応させて得られるポリウレタンの塩の水分散体を含み、前記ポリウレタンの塩はアミン系鎖伸長剤由来の構造を含まないか、含むとしても含有量が0.01mol/kg未満である、リチウム二次電池の電極用結着剤。
[2] 前記活性水素基含有カルボン酸が、2個のヒドロキシ基を有する脂肪族カルボン酸を含む、[1]に記載のリチウム二次電池の電極用結着剤。
[3] 前記ポリオール成分が、分子量500以下の3官能以上のポリオールを更に含む、[1]又は[2]に記載のリチウム二次電池の電極用結着剤。
[4] 前記ポリウレタンの酸価が8~35mgKOH/gである、[1]~[3]のいずれか1項に記載のリチウム二次電池の電極用結着剤。
[5] 前記ポリウレタンの塩がアルカリ金属塩である、[1]~[4]のいずれか1項に記載のリチウム二次電池の電極用結着剤。
[6] 負極活物質としてSiO、SiC、Si及びこれらにリチウムイオンをプレドープしたものからなる群から選択される少なくとも1種を含むリチウム二次電池の負極用である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のリチウム二次電池の電極用結着剤。
【0009】
[7] (A)ジフェニルメタンジイソシアネート及びその変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含むポリイソシアネート成分、(B)水添ポリブタジエンポリオールを含むポリオール成分、(C)活性水素基含有カルボン酸、及び、(D)鎖伸長剤としての水を反応させて得られ、アミン系鎖伸長剤由来の構造を含まないか、含むとしても含有量が0.01mol/kg未満であるポリウレタンの塩、導電剤、並びに、水を含む、リチウム二次電池の電極用結着剤組成物。
[8] [1]~[6]のいずれか1項に記載の電極用結着剤又は[7]に記載の電極用結着剤組成物の固形分と、SiO、SiC、Si及びこれらにリチウムイオンをプレドープしたものからなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質と、を含む、リチウム二次電池の負極。
[9] [8]に記載の負極を備えるリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、リチウム二次電池の充放電による内部抵抗の上昇を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係るリチウム二次電池の電極用結着剤は、(A)ジフェニルメタンジイソシアネート及びその変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含むポリイソシアネート成分、(B)水添ポリブタジエンポリオールを含むポリオール成分、(C)活性水素基含有カルボン酸、及び、(D)鎖伸長剤としての水を反応させて得られる、ポリウレタンの塩(以下、単に「ポリウレタン」ということがある。)の水分散体を含む。このように水添ポリブタジエンポリオールと反応させるポリイソシアネートとしてジフェニルメタンジイソシアネート及び/又はその変性体を用い、かつ水で鎖伸長させることにより、後記の実施例に示されるように、リチウム二次電池の充放電による内部抵抗の上昇を抑えて、充放電サイクル特性を向上することができる。
【0012】
[(A)ポリイソシアネート成分]
本実施形態では、(A)ポリイソシアネート成分として、芳香族ポリイソシアネートの中でも、(A1)ジフェニルメタンジイソシアネート及びその変性体からなる群から選択される少なくとも1種(以下、「MDI系イソシアネート」ということがある。)が用いられる。
【0013】
ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)としては、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,2’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI、モノメリックMDI)、及び、ポリメリックMDI(ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート)が挙げられる。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、周知の通り、ポリメリックMDIは、モノメリックMDIとその多核体の混合物であり、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)に包含される。
【0014】
ジフェニルメタンジイソシアネートの変性体としては、ジフェニルメタン骨格(Ph-CH-Ph)を持つものであれば特に限定されず、例えば、MDIの2量体、カルボジイミド変性MDI、ウレトンイミン変性MDI、(3量体)イソシアヌレート変性MDI等が挙げられる。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
(A)ポリイソシアネート成分は、基本的には(A1)MDI系イソシアネートで構成されるが、その効果が損なわれない限り、その他のポリイソシアネートが含まれてもよい。より詳細には、(A)ポリイソシアネート成分100質量%中の(A1)MDI系イソシアネートの量は、特に限定されないが、80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
【0016】
上記他のポリイソシアネートとしては、MDI系イソシアネート以外の芳香族ポリイソシアネート(例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びそれらの変性体等)、脂肪族ポリイソシアネート(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、テトラメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、及びそれらの変性体等)、脂環式ポリイソシアネート(例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、及びそれらの変性体等)が挙げられる。
【0017】
ポリウレタン中における(A1)MDI系イソシアネートの量は、特に限定されず、ポリウレタンの塩100質量%に対するMDI系イソシアネート由来の構造の含有量として、例えば10~45質量%でもよく、15~40質量%でもよく、20~35質量%でもよい。
【0018】
[(B)ポリオール成分]
本実施形態では、(B)ポリオール成分として、(B1)水添ポリブタジエンポリオールが用いられる。ここで、(B)ポリオール成分には、(C)成分としての活性水素基含有カルボン酸が1分子中に複数のヒドロキシ基を有する場合であっても、当該活性水素基含有カルボン酸は含まれないものとする。
【0019】
(B1)水添ポリブタジエンポリオールとしては、1分子当たり平均1.3個以上のヒドロキシ基を有するものが好ましく用いられ、より好ましくは平均1.5~2.5個のヒドロキシ基を有するもの、更に好ましくは平均1.7~2.2個のヒドロキシ基を有するものである。本明細書において、1分子当たりのヒドロキシ基の数(官能基数)は、下記式により算出される値である。
官能基数={(水酸基価)×(Mn)}/(56.1×1000)
【0020】
(B1)水添ポリブタジエンポリオールとしては、分子中に1,4-結合型、1,2-結合型又はそれらが混在したポリブタジエン構造を有し、かつ末端にヒドロキシ基を有するポリブタジエンポリオールに対して水添(水素添加)した構造を持つものが好ましく用いられる。より好ましくは、(B1)水添ポリブタジエンポリオールは、ポリブタジエン構造の両末端にそれぞれヒドロキシ基を有するポリブタジエンポリオールに対して水添した構造を持つものである。
【0021】
(B1)水添ポリブタジエンポリオールは、ポリブタジエンポリオールに含まれている不飽和二重結合の一部又は全てが水添されたものである。(B1)水添ポリブタジエンポリオールの水添の度合いは特に限定されず、例えばヨウ素価が40g/100g以下でもよく、30g/100g以下でもよく、25g/100g以下でもよく、15g/100g以下でもよい。本明細書において、ヨウ素価はJIS K0070:1992に準じて測定される。
【0022】
(B1)水添ポリブタジエンポリオールの分子量は特に限定されず、例えば、数平均分子量(Mn)が600~10000でもよく、800~6000でもよく、1000~5000でもよく、1200~4000でもよく、1500~3500でもよい。
【0023】
本明細書において、数平均分子量(Mn)は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)により測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて算出した値である。詳細には、GPCの条件として、カラム:東ソー(株)製「TSKgel G4000HXL+TSKgel G3000HXL+TSKgel G2000HXL+TSKgel G1000HXL+TSKgel G1000HXL」、移動相:THF(テトラヒドロフラン)、移動相流量:1.0mL/min、カラム温度:40℃、試料注入量:50μL、試料濃度:0.2質量%として測定することができる。
【0024】
(B1)水添ポリブタジエンポリオールの水酸基価は特に限定されず、例えば10~200mgKOH/gでもよく、15~120mgKOH/gでもよく、20~100mgKOH/gでもよく、30~90mgKOH/gでもよく、40~80mgKOH/gでもよい。本明細書において、水酸基価はJIS K1557-1:2007のA法に準じて測定される。
【0025】
(B)ポリオール成分は、(B1)水添ポリブタジエンポリオールのみで構成されてもよいが、(B1)水添ポリブタジエンポリオールとともに(B2)非水添のポリブタジエンポリオールを含んでもよい。
【0026】
(B2)ポリブタジエンポリオールの官能基数、数平均分子量、及び水酸基価は特に限定されず、(B1)水添ポリブタジエンポリオールと同様の数値範囲のものを用いてもよい。
【0027】
(B)ポリオール成分は、(B1)水添ポリブタジエンポリオールのみ又は(B1)水添ポリブタジエンポリオールと(B2)ポリブタジエンポリオールのみで構成されてもよい。好ましくは、(B)ポリオール成分は、(B1)水添ポリブタジエンポリオール及び任意成分としての(B2)ポリブタジエンポリオールとともに、(B3)分子量500以下の3官能以上のポリオール(以下、「多官能ポリオール」ということがある。)を含むことである。(B3)多官能ポリオールを含むことにより、充放電時における電極の膨張・収縮に追従しやすく、充放電後の電極の変形を低減しやすい。そのため、充放電サイクル特性を更に向上することができる。
【0028】
(B3)多官能ポリオールとしては、例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリメチロールエタン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール等の三価アルコール、ペンタエリスリトール等の四価アルコール、又はこれらの多価アルコールを開始剤としてラクトン及び/又はエポキシドを開環付加させて得られるものが挙げられる。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。好ましくは、三価アルコール及び/又はそのエチレンオキシド付加体である。
【0029】
(B3)多官能ポリオールの分子量は92~350であることが好ましく、より好ましくは100~200である。なお、(B3)多官能ポリオールの分子量は、上記のラクトン及び/又はエポキシドを複数モル付加した付加体の場合、数平均分子量(Mn)である。
【0030】
(B)ポリオール成分100質量%中の(B1)水添ポリブタジエンポリオールの量は、特に限定されないが、40~100質量%であることが好ましく、より好ましくは70~100質量%であり、更に好ましくは80~99.5質量%であり、更に好ましくは90~99質量%であり、更に好ましくは95~98質量%である。(B1)水添ポリブタジエンポリオールと(B2)ポリブタジエンポリオールの合計量も特に限定されないが、(B)ポリオール成分100質量%中、80~100質量%であることが好ましく、より好ましくは85~99.5質量%であり、更に好ましくは90~99質量%であり、更に好ましくは95~98質量%である。
【0031】
(B)ポリオール成分100質量%中の(B3)多官能ポリオールの量は、特に限定されないが、0~15質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5~10質量%であり、更に好ましくは1~7質量%であり、更に好ましくは2~5質量%である。
【0032】
ポリウレタン中における(B1)水添ポリブタジエンポリオールの量は、特に限定されず、ポリウレタンの塩100質量%に対する水添ポリブタジエンポリオール由来の構造の含有量として、例えば30~85質量%でもよく、40~80質量%でもよく、50~78質量%でもよく、55~75質量%でもよい。ポリウレタン中における(B1)水添ポリブタジエンポリオールと(B2)ポリブタジエンポリオールの合計量も特に限定されず、ポリウレタンの塩100質量%に対する水添ポリブタジエンポリオール由来の構造とポリブタジエンポリオール由来の構造との合計量として、40~85質量%でもよく、50~80質量%でもよく、55~75質量%でもよい。
【0033】
ポリウレタン中における(B3)多官能ポリオールの量は、特に限定されず、ポリウレタンの塩100質量%に対する多官能ポリオール由来の構造の含有量として、例えば0~7質量%でもよく、0.5~5質量%でもよく、1~3質量%でもよい。
【0034】
[(C)活性水素基含有カルボン酸]
本実施形態では、(A)成分と反応する活性水素基を有する化合物として、(B)成分とともに、(C)活性水素基含有カルボン酸が用いられる。(C)活性水素基含有カルボン酸は、1個以上の活性水素基とカルボキシ基を有する化合物である。該カルボン酸の活性水素基の数は1~3個でもよく、より好ましくは1個又は2個である。活性水素基とは、イソシアネート基と反応する活性水素を含む基であり、例えばヒドロキシ基、一級アミノ基(-NH)、二級アミノ基(-NHR)が挙げられる。
【0035】
ここで、カルボキシ基は、酸型(-COOH)だけでなく、塩型、即ちカルボン酸塩基(-COOX。X:カルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。但し、電極用結着剤又は電極用結着剤組成物に含まれるポリウレタンにおいて、該カルボン酸に由来するカルボキシ基は、塩型として存在する。これにより、ポリウレタンを水分散性にすることができる。
【0036】
(C)活性水素基含有カルボン酸としては、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール吉草酸、ジヒドロキシマレイン酸、ジヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシ酸及びその誘導体、並びにそれらの塩が挙げられる。活性水素基含有カルボン酸としては、また、例えば、アラニン、アミノ酪酸、アミノカプロン酸、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、ジアミノ安息香酸等のアミノ酸が挙げられる。これらのいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
(C)活性水素基含有カルボン酸としては、(C1)2個のヒドロキシ基を有する脂肪族カルボン酸が好ましい。2個のヒドロキシ基を有する脂肪族カルボン酸としては、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール吉草酸等が挙げられ、炭素数が5~10であるものが好ましく用いられる。これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0038】
(C)活性水素基含有カルボン酸は、上記(C1)成分のみで構成されることが好ましいが、(C1)成分以外の活性水素基含有カルボン酸が含まれてもよい。(C)活性水素基含有カルボン酸100質量%中の(C1)成分の量は、特に限定されないが、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。
【0039】
ポリウレタン中における(C)活性水素基含有カルボン酸の量は、特に限定されず、ポリウレタンの塩100質量%に対する活性水素基含有カルボン酸由来の構造の含有量として、例えば1~15質量%でもよく、2~10質量%でもよく、3~8質量%でもよい。
【0040】
[(D)鎖伸長剤]
本実施形態では、(D)成分の鎖伸長剤として水が用いられる。一般に鎖伸長剤としてはジエチレントリアミン等のアミン系鎖伸長剤が用いられるが、上記(A1)MDI系イソシアネート及び(B1)水添ポリブタジエンポリオールとともにアミン系鎖伸長剤を用いると、リチウム二次電池の充放電により内部抵抗が上昇し、充放電サイクル特性が損なわれる。そのため、本実施形態ではアミン系鎖伸長剤を実質的に使用しないこと、即ちポリウレタンの塩がアミン系鎖伸長剤由来の構造を実質的に含まないことが好ましい。
【0041】
ここで、アミン系鎖伸長剤とは、ポリウレタンの鎖伸長剤として一般に使用されている一級及び/又は二級アミノ基を複数持つ化合物をいい、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミン等のジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミンが挙げられる。
【0042】
アミン系鎖伸長剤由来の構造を実質的に含まないとは、ポリウレタンの塩がアミン系鎖伸長剤由来の構造を含まないか、含むとしてもポリウレタンの塩1kgに対するアミン系鎖伸長剤由来の構造の含有量が0.01モル未満、即ち0.01mol/kg未満であることをいう。従って、ポリウレタンの塩を調製する際に用いられるアミン系鎖伸長剤の量が、生成されるポリウレタンの塩1kg当たり0.01モル未満である。該アミン系鎖伸長剤由来の構造の含有量は、より好ましくは0.005mol/kg未満であり、更に好ましくは0mol/kg(即ち、アミン系鎖伸長剤を使用しないこと)である。
【0043】
[電極用結着剤]
本実施形態に係る電極用結着剤は、上記(A)~(D)成分を反応させて得られるポリウレタンの塩の水分散体を含む。すなわち、(A)~(D)成分を反応させて得られるポリウレタンは、(C)成分に由来するカルボキシ基が塩となって水中に分散している。そのため、電極用結着剤は、水と、水中に分散したポリウレタンの塩とを含む。
【0044】
上記のポリウレタン水分散体は、より詳細には、(A)~(C)成分を反応させて得られるイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを水で鎖伸長してなるポリウレタンの塩を含む。
【0045】
上記ポリウレタンの塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、1級アミン、2級アミン、3級アミン等のアミン塩が挙げられる。これらの中でも、集電体に対する電極の接着性や充放電後の電極の変形抑制の観点から、ポリウレタンの塩としてはアルカリ金属塩が好ましく、より好ましくはナトリウム塩である。
【0046】
ポリウレタンのカルボキシ基は、中和により塩にすることができる。その場合の中和は、ウレタン化反応前、反応中、又は反応後のいずれにおいても行うことができる。中和するための中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の第三級アミン、アンモニア等が挙げられる。
【0047】
上記ポリウレタンにおけるカルボキシ基の含有量の指標となる酸価は8~35mgKOH/gであることが好ましい。ポリウレタンの酸価が8mgKOH/g以上であることにより、水への分散性を向上することができ、酸価が35mgKOH/g以下であることにより、耐電解液性を向上することができる。ポリウレタンの酸価は、より好ましくは10~30mgKOH/g以下であり、更に好ましくは15~25mgKOH/g以下である。
【0048】
本明細書において、酸価は、JIS K0070-1992(中和滴定法)に準拠して、ポリウレタン水分散体の固形分1g中に含まれる遊離カルボキシル基を中和するのに要するKOH量(mg)より求めることができる。
【0049】
本実施形態において、ポリウレタン水分散体の平均粒子径は、特に限定されず、例えば、0.005~0.5μmの範囲でもよく、0.1~0.3μmでもよい。また、ポリウレタンの数平均分子量(Mn)は特に限定されず、例えば10,000以上でもよく、50,000以上でもよい。
【0050】
上記ポリウレタン水分散体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、次の方法を用いてもよい。(B)成分と(C)成分に対し、(A)成分を溶剤なしに又は活性水素基を有しない有機溶媒中で反応させて、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成する。その際、(A)成分は、(B)成分と(C)成分に含まれる活性水素基の合計量よりも、イソシアネート基が化学量論的に過剰、例えばイソシアネート基と活性水素基との当量比NCO/OHが1.05~1.80(より好ましくは1.10~1.60)となるように用いられる。上記ウレタンプレポリマーの合成後、中和剤により(C)成分のカルボキシ基の中和を行い、また分散媒と鎖伸長剤を兼ねる水を添加してウレタンプレポリマーを水中に乳化分散させる。その後、乳化分散体を攪拌することで水による鎖伸長反応を完了させ、次いで必要に応じて使用した有機溶媒を除去することにより、ポリウレタンの塩の水分散体を得ることができる。
【0051】
上記ウレタンプレポリマーの合成においては、イソシアネート基と不活性で、かつ、生成するウレタンプレポリマーを溶解し得る有機溶媒を用いてもよい。そのような有機溶媒としては、例えば、ジオキサン、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。本実施形態に係る電極用結着剤において、ポリウレタンの塩を分散させる分散媒には、水とともにこれらの有機溶媒が含まれてもよく、含まれなくてもよい。これらの有機溶媒は、最終的に除去されることが好ましい。有機溶媒を含む場合、分散媒100質量%に対して、水の量が70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上である。
【0052】
本実施形態に係る電極用結着剤において、上記ポリウレタンの塩の濃度は特に限定されず、例えば5~50質量%でもよく、10~40質量%でもよい。
【0053】
[電極用結着剤組成物]
本実施形態に係るリチウム二次電池の電極用結着剤組成物は、上記(A)~(D)成分を反応させて得られるポリウレタンの塩、導電剤、及び、水を含む。詳細には、該電極用結着剤組成物は、上記ポリウレタンの塩と導電剤を水に分散した状態に含むものである。電極用結着剤組成物は、例えば、上記ポリウレタンの水分散体と、導電剤の水分散体とを混合することにより調製されてもよい。
【0054】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料を使用することができる。導電剤の具体例としては、繊維状ナノカーボン、アセチレンブラックやケッチンブラック等のカーボンブラック、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛など)、人造黒鉛、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料が挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0055】
導電剤は、分散媒に分散させた状態で用いられることが好ましい。分散媒としては、通常は水が用いられるが、アルコール、ケトン系溶媒などの極性有機溶媒、又はそれらの極性有機溶媒と水の混合溶媒を用いてもよい。導電剤を分散媒に分散させる分散装置としては、例えばジェットミル、高圧分散装置、超音波ホモジナイザー等が挙げられる。
【0056】
導電剤を水に分散させた水分散体を調製する際には、分散剤を添加してもよい。分散剤としては、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びそのアルカリ金属塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース類、セルロースナノファイバー、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダなどのポリカルボン酸系化合物、ポリビニルピロリドンなどのビニルピロリドン構造を有する化合物、ポリビニルアルコール、アルギン酸ソーダ、キサンタンガム、カラギーナン、グアーガム、カンテン、デンプンなどが挙げられる。これらの中でもカルボキシメチルセルロース塩が好適に使用できる。
【0057】
電極用結着剤組成物において、上記ポリウレタンの塩の濃度は特に限定されず、例えば5~50質量%でもよく、10~40質量%でもよい。導電剤の濃度も特に限定されず、例えば5~35質量%でもよく、15~30質量%でもよい。電極用結着剤組成物が分散媒に有機溶媒を含む場合、分散媒100質量%に対して、水の量が70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上である。
【0058】
[電極用塗工液組成物]
本実施形態に係る電極用結着剤及び電極用結着剤組成物は、リチウム二次電池の電極を製造するための電極用塗工液組成物を調製するために用いられる。電極用結着剤を用いる場合、電極用塗工液組成物(1)は、電極用結着剤と、電極活物質と、導電剤とを含む。電極用結着剤組成物を用いる場合、電極用塗工液組成物(2)は、電極用結着剤組成物と、電極活物質とを含む。
【0059】
これらの電極用塗工液組成物は、リチウム二次電池の負極を製造するために好ましく用いられる。そのため、電極活物質は、好ましくは負極活物質である。負極活物質としては、金属リチウム又はリチウムイオンを挿入/脱離することができるものを用いることができる。
【0060】
負極活物質の具体例としては、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素などの炭素材料、金属リチウムや合金、スズ化合物などの金属材料、リチウム遷移金属窒化物、結晶性金属酸化物、非晶質金属酸化物、ケイ素化合物、導電性ポリマー等が挙げられる。これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0061】
これらの中でも、高容量化を図ることができることから、負極活物質は、SiO(一酸化ケイ素)、SiC(炭化ケイ素)、Si、及びこれらにリチウムイオンをプレドープしたもの(例えばLi-SiO)からなる群から選択される少なくとも1種のシリコン系活物質を含むことが好ましい。負極活物質としては、シリコン系活物質と黒鉛との混合物でもよく、シリコン系活物質のみを負極活物質として用いてもよい。
【0062】
電極用塗工液組成物において、上記ポリウレタンの塩の含有量は、特に限定されないが、電極活物質(負極活物質)の含有量に対して1~20質量%であることが好ましく、より好ましくは2~13質量%である。
【0063】
上記電極用塗工液組成物(1)において、導電剤の具体例は、電極用結着剤組成物において上述したとおりであり、説明は省略する。
【0064】
電極用塗工液組成物において、導電剤の含有量は、特に限定されないが、電極活物質(負極活物質)の含有量に対して0.1~20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2~10質量%である。
【0065】
電極用塗工液組成物は、当該組成物をスラリー化するための粘性調整剤として、水溶性高分子などの増粘剤を含んでもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダなどのポリカルボン酸系化合物、ポリビニルピロリドンなどのビニルピロリドン構造を有する化合物、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、アルギン酸ソーダ、キサンタンガム、カラギーナン、グアーガム、カンテン、デンプン等が挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でもカルボキシメチルセルロース塩が好ましい。
【0066】
電極用塗工液組成物の固形分における電極活物質(負極活物質)の含有量は特に限定されず、例えば65~99質量%でもよく、75~97質量%でもよい。電極用塗工液組成物における水等の分散媒の含有量は特に限定されず、例えば20~80質量%でもよく、40~70質量%でもよい。
【0067】
電極用塗工液組成物の調製方法は特に限定されない。上記各成分を混合する際には、例えば、乳鉢、ミルミキサー、遊星型ボールミル又はシェイカー型ボールミルなどのボールミル、メカノフュージョン等を用いることができる。
【0068】
[リチウム二次電池の負極]
実施形態に係るリチウム二次電池の負極は、上記電極用塗工液組成物を集電体に塗布し、分散媒を蒸発させることにより製造することができる。すなわち、負極は、集電体と、該集電体上に形成された負極合材層(活物質層とも称される。)とを備え、該負極合材層が上記電極用塗工液組成物の固形物からなる。
【0069】
一実施形態において、電極用塗工液組成物は、上記電極用結着剤又は電極用結着剤組成物とともに、負極活物質としてSiO、SiC、Si及びこれらにリチウムイオンをプレドープしたものからなる群から選択される少なくとも1種のシリコン系活物質を含む。そのため、一実施形態に係るリチウム二次電池の負極は、電極用結着剤又は電極用結着剤組成物の固形分と、上記シリコン系活物質を含む負極活物質と、を含む。
【0070】
集電体としては、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体を用いることができる。負極用の集電体としては、例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金等の他に、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理したものが挙げられる。これらの集電体材料は表面が酸化処理されてもよい。集電体の形状としては、例えば、フォイル状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発泡体等の成形体が挙げられる。集電体の厚みは特に限定されないが、1~100μmのものが通常用いられる。
【0071】
負極合材層の厚みは特に限定されず、例えば15~150μmでもよい。
【0072】
[リチウム二次電池]
実施形態に係るリチウム二次電池は、上記負極を備えるものである。詳細には、リチウム二次電池は、負極と、正極と、負極と正極との間に配置されたセパレータと、電解質とを備え、該負極に、上記電極用塗工液組成物を用いて作製した電極が用いられる。正極、セパレータ及び電解質については、特に限定されず、公知の構成を採用することができる。
【0073】
実施形態に係るリチウム二次電池は、円筒型、コイン型、角型、その他任意の形状に形成することができ、電池の基本構成は形状によらず同じであり、目的に応じて設計変更して実施することができる。例えば、円筒型では、負極集電体に負極活物質を塗布してなる負極と、正極集電体に正極活物質を塗布してなる正極とを、セパレータを介して捲回した捲回体を電池缶に収納し、非水電解液を注入し上下に絶縁板を載置した状態で密封して得られる。また、コイン型リチウム二次電池に適用する場合では、円盤状負極、セパレータ、円盤状正極、及びステンレスの板が積層された状態でコイン型電池缶に収納され、非水電解液が注入され、密封される。
【実施例
【0074】
以下、実施例及び比較例に基づいて、より詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0075】
実施例で使用したポリイソシアネート成分及び水添ポリブタジエンポリオールの詳細は以下のとおりである。
【0076】
[ポリイソシアネート成分]
・モノメリックMDI:東ソー(株)製「ミリオネートMT-F」
・変性MDI:カルボジイミド変性MDI、東ソー(株)製「ミリオネートMTL」
・ポリメリックMDI:東ソー(株)製「ミリオネートMR-200」
・TDI:三井化学(株)製「タケネート500」
・HDI:旭化成(株)製「デュラネート50M-HDI」
【0077】
[水添ポリブタジエンポリオール]
・水添ポリブタジエンポリオール1:CRAY VALLEY社製「Krasol HLBH-P2000」(Mn:2100、水酸基価:50.8mgKOH/g、官能基数:1.9)
・水添ポリブタジエンポリオール2:CRAY VALLEY社製「Krasol HLBH-P3000」(Mn:3100、水酸基価:34.4mgKOH/g、官能基数:1.9)
【0078】
[ポリブタジエンポリオール]
・ポリブタジエンポリオール:CRAY VALLEY社製「Krasol LBH-P2000」(Mn:2000、水酸基価:53.3mgKOH/g、官能基数:1.9)
【0079】
[ポリウレタン水分散体の合成]
(実施例1:結着剤1)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、65.66質量部の水添ポリブタジエンポリオール1と、4.2質量部のジメチロールプロピオン酸と、1.8質量部のトリメチロールプロパンと、28.34質量部のモノメリックMDIと、150質量部のメチルエチルケトンを加え、75℃で4時間反応させ、固形分に対する遊離のイソシアネート基含有量2.53質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た(NCO/OH=1.36)。この溶液を45℃まで冷却し、中和剤としての水酸化ナトリウム1.25質量部と水270質量部からなる水酸化ナトリウム水溶液を徐々に加えてホモジナイザーを使用して乳化分散させた。続いて、乳化分散体を40℃で1時間攪拌し、水による鎖伸長反応を完了させた。これを加熱減圧下、メチルエチルケトンを留去して、固形分32質量%のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤1)を得た。
【0080】
(実施例2~4,6~9:結着剤2~4,6~9)
(A)ポリイソシアネート成分、(B)ポリオール成分、及び(C)活性水素基含有カルボン酸の種類及び仕込み量、並びに水酸化ナトリウムの量を、下記表1に示す通りに変更し、その他は実施例1と同様にして、実施例2~4,6~9のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤2~4,6~9)を得た。但し、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得る際のウレタン反応終了時の遊離イソシアネート基の量を、実施例2では2.27質量%、実施例3では2.48質量%、実施例4では1.99質量%、実施例6では2.53質量%、実施例7では2.03質量%、実施例8では2.31質量%、実施例9では3.04質量%とした。また、分散媒としての水の添加量は、水分散体の固形分濃度が32質量%になるように調整した。
【0081】
(実施例5:結着剤5)
実施例1の合成方法において、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得て45℃まで冷却した後、中和剤としてトリエチルアミン3.17質量部を加えることにより中和した後、ホモジナイザーを用いて攪拌しながら、分散媒として水270質量部を添加して乳化分散させた。その他は実施例1と同様にして、固形分32質量%のポリウレタンのトリエチルアミン塩の水分散体(結着剤5)を得た。
【0082】
(実施例10:結着剤10)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、32.83質量部の水添ポリブタジエンポリオール1と32.83質量部のポリブタジエンポリオール、4.2質量部のジメチロールプロピオン酸と、1.8質量部のトリメチロールプロパンと、28.34質量部のモノメリックMDIと、150質量部のメチルエチルケトンを加え、75℃で4時間反応させ、固形分に対する遊離のイソシアネート基含有量2.53質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た(NCO/OH=1.35)。この溶液を45℃まで冷却し、中和剤としての水酸化ナトリウム1.25質量部と水270質量部からなる水酸化ナトリウム水溶液を徐々に加えてホモジナイザーを使用して乳化分散させた。続いて、乳化分散体を40℃で1時間攪拌し、水による鎖伸長反応を完了させた。これを加熱減圧下、メチルエチルケトンを留去して、固形分32質量%のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤10)を得た。
【0083】
(比較例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、78.47質量部の水添ポリブタジエンポリオール1と、1.8質量部のトリメチロールプロパンと、19.73質量部のモノメリックMDIと、150質量部のメチルエチルケトンを加え、75℃で4時間反応させ、固形分に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.76質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た(NCO/OH=1.37)。このプレポリマー溶液を45℃まで冷却した後、ホモジナイザーを用いて攪拌しながら、分散媒として水270質量部を添加して乳化分散させようとしたが、乳化させることはできなかった。そのため、比較例1については下記のポリウレタン水分散体の評価、及び電池の作製・評価はしなかった。
【0084】
(比較例2~3:結着剤C2~C3)
(A)ポリイソシアネート成分、(B)ポリオール成分、及び(C)活性水素基含有カルボン酸の種類及び仕込み量を、下記表1に示す通りに変更し、その他は実施例1と同様にして、比較例2~3のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤C2~C3)を得た。但し、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得る際のウレタン反応終了時の遊離イソシアネート基の量を、比較例2では2.64質量%、比較例3では2.66質量%とした。また、分散媒としての水の添加量は、水分散体の固形分濃度が32質量%になるように調整した。
【0085】
(比較例4:結着剤C4)
実施例1の合成方法において、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得て45℃まで冷却した後、中和剤としての水酸化ナトリウム1.25質量部と水270質量部からなる水酸化ナトリウム水溶液を徐々に加えてホモジナイザーを使用して乳化分散させた。続いて、ジエチレントリアミン0.41質量部を水5質量部で希釈した水溶液を加え、1時間鎖伸長反応を行った。その他は実施例1と同様にして、固形分32質量%のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤C4)を得た。該ポリウレタンのナトリウム塩において、アミン系鎖伸長剤由来の構造の含有量は0.04mol/kgである。
【0086】
(比較例5:結着剤C5)
比較例4の合成方法において、鎖伸長剤として0.41質量部のジエチレントリアミンの代わりに、0.44質量部のトリエチレンテトラミンを用い、その他は比較例4と同様にして、固形分32質量%のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体(結着剤C5)を得た。該ポリウレタンのナトリウム塩において、アミン系鎖伸長剤由来の構造の含有量は0.03mol/kgである。
【0087】
[ポリウレタン水分散体の評価]
得られた結着剤1~10及び結着剤C2~C5について、ポリウレタンの酸価と、ポリウレタン水分散体の平均粒子径を測定した。結果を下記表1に示す。測定方法は以下のとおりである。なお、表1において、「ポリウレタンの塩の量」は、(A)~(C)成分の合計量「(A)+(B)+(C)」を100質量部としたときの、鎖伸長反応を経て生成されたポリウレタンの塩の質量部である。また、「プレポリマー:NCO/OH」は、ウレタンプレポリマーにおけるヒドロキシ基とイソシアネート基との当量比である。
【0088】
・ポリウレタンの酸価:JIS K0070-1992(中和滴定法)に準じて測定した。
【0089】
・ポリウレタン水分散体の平均粒子径:日機装(株)製「Microtrac UPA-UZ152」にて測定し、50%累積の粒子径、すなわちd50(メジアン径)として算出した。
【0090】
[リチウム二次電池の作製]
(負極の作製)
負極活物質としてSiO(平均粒径4.5μm、比表面積5.5m/g)を88.5質量部、導電剤として繊維状ナノカーボン水分散体(固形分濃度:0.4質量%)を40質量部とアセチレンブラック水分散体(固形分濃度:25質量%)を4.0質量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の2.0質量%水溶液を50.0質量部、および、結着剤1のポリウレタンのナトリウム塩の水分散体28質量部、イオン交換水6質量部を用い、これらを遊星型ミキサーで混合し、固形分46質量%になるように負極スラリーを調製した。集電体として厚み10μmの電解銅箔を用いて、電解銅箔上に上記負極スラリーからなる負極合材層を形成した。詳細には、上記負極スラリーを塗工機で電解銅箔上にコーティングを行い、ロールプレス処理後、130℃で減圧乾燥することにより、負極活物質2.7mg/cmの負極を得た。
結着剤としては、上記の結着剤1~10及び結着剤C2~C6を用いた。
【0091】
(正極の作製)
正極活物質であるLiNiCoAlO(NCA)を92質量部、導電剤としてアセチレンブラック(デンカ(株)製「Li-400」)を4質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン4質量部、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン49.2質量部を遊星型ミキサーで混合し、固形分67質量%になるように正極スラリーを調製した。この正極スラリーを塗工機で厚み15μmのアルミニウム箔上にコーティングを行い、130℃で乾燥後、ロールプレス処理を行い、正極活物質16.6mg/cmの正極を得た。
【0092】
(電池の作製)
上記で得られた正極と負極を組み合わせて、電極間にセパレータとしてポリオレフィン系(PE/PP/PE)セパレータを挟んで積層し、各正負極に正極端子と負極端子を超音波溶接した。この積層体をアルミラミネート包材に入れ、注液用の開口部を残しヒートシールした。正極面積18cm、負極面積19.8cmとした注液前電池を作製した。次にエチレンカーボネートとジエチルカーボネート(30/70vol比)とを混合した溶媒にLiPF(1.0mol/L)を溶解させた電解液を注液し、開口部をヒートシールし、評価用電池を得た。
【0093】
[負極及び電池性能の評価]
作製した負極について接着力(剥離強度)を評価した。また、評価用電池について、充放電サイクル特性、充放電後の内部抵抗及び電極膨張率を評価した。評価試験方法は以下のとおりである。
【0094】
(接着力)
負極を3×6cmに切り出し、塗工面を内側に3×3cmになるように180°折り曲げて戻した後に、塗工面の活物質の脱落程度(折り曲げ部に対する脱落部の長さ)を目視で判断した。評価基準は以下のとおりである。
A:脱落0%(脱落無し)
B:脱落5%以下(ごくわずかに電解銅箔が見える)
C:脱落5%を超えて30%未満
D:脱落30%以上
【0095】
(充放電サイクル特性)
評価用電池について、充放電装置にて以下の条件で充放電サイクル試験を行った。1C相当の電流密度で4.2VまでCC(定電流)充電を行い、続いて4.2VでCV(定電圧)充電に切り替え、1.5時間もしくは電流密度0.1Cになるまで充電した後、1C相当の電流密度で2.7VまでCC放電するサイクルを20℃で200回行い、初回1C放電容量に対する200回後の1C放電容量比を充放電サイクル保持率(%)として求めた。充電と放電の間の休止は10分間とした。評価基準は以下のとおりである。
A:充放電サイクル保持率95%以上
B:充放電サイクル保持率90%以上95%未満
C:充放電サイクル保持率80%以上90%未満
D:充放電サイクル保持率80%未満
【0096】
(充放電後の内部抵抗)
上記充放電サイクル特性の評価後の電池について、ACミリオームハイテスター(日置電機(株)製「3560」)を使用して、周波数1kHzでのセルインピーダンス(mΩ)を測定した。評価基準は以下のとおりである。
A:セルインピーダンスが110mΩ未満
B:セルインピーダンスが110mΩ以上115mΩ未満
C:セルインピーダンスが115mΩ以上120mΩ未満
D:セルインピーダンスが120mΩ以上
【0097】
(充放電後の電極膨張率)
評価用電池組立時の負極厚み、上記充放電サイクル特性の評価前の電池の厚み(評価前セル厚み)、及び上記充放電サイクル特性の評価後の電池の厚み(評価後セル厚み)をマイクロメーターで測定し、以下の計算式より算出した。
電極膨張率=(評価後セル厚み-評価前セル厚み)/負極合材層厚み×100%
負極合材層厚み=負極厚み-銅箔厚み
評価基準は以下のとおりである。
A:電極膨張率が30%未満
B:電極膨張率が30%以上35%未満
C:電極膨張率が35%以上45%未満
D:電極膨張率が45%以上
【0098】
【表1】
【0099】
結果は表1に示すとおりである。実施例1~10では、水添ポリブタジエンポリオールを含むポリオールと組み合わせるポリイソシアネート成分としてMDI系イソシアネートを用い、かつ水で鎖伸長した実施例1~10であると、充放電後の内部抵抗の上昇を抑えることができ、良好な充放電サイクル特性が得られた。また、集電体と電極活物質との間の接着力が良好であり、充放電後の電極の変形も抑制されていた。
【0100】
これに対し、ポリイソシアネート成分としてMDI系イソシアネート以外の芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートを用いた比較例2~3では、充放電後の内部抵抗の上昇が大きく、充放電サイクル特性に劣っていた。また、集電体と電極活物質との間の接着力に劣り、充放電後の電極の変形も大きかった。
【0101】
水添ポリブタジエンポリオールとMDI系イソシアネートとを組み合わせたものの、アミン系鎖伸長剤で鎖伸長した比較例4,5では、シリコン系活物質を用いたことによる電極の膨張に追従することができなかったためか、充放電後の内部特性の上昇を抑えることができず、充放電サイクル特性に劣っていた。
【0102】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0103】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。

【要約】
【課題】充放電による内部抵抗の上昇を抑えることができるリチウム二次電池の電極用結着剤を提供する。
【解決手段】実施形態に係るリチウム二次電池の電極用結着剤は、(A)ジフェニルメタンジイソシアネート及びその変性体からなる群から選択される少なくとも1種を含むポリイソシアネート成分、(B)水添ポリブタジエンポリオールを含むポリオール成分、(C)活性水素基含有カルボン酸、及び、(D)鎖伸長剤としての水を反応させて得られるポリウレタンの塩の水分散体を含み、上記ポリウレタンの塩はアミン系鎖伸長剤由来の構造を実質的に含まない。
【選択図】なし