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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/42 20060101AFI20230925BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
B60N2/42
B60R21/207
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018229419
(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公開番号】P2020090226
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】弁理士法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田邉 仁一
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-076736(JP,A)
【文献】特開平11-115676(JP,A)
【文献】特開平9-71212(JP,A)
【文献】特開2011-68199(JP,A)
【文献】特開2009-23494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-90
B60R 21/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーム(F2)に支持されるバックパッド(P)が、中央パッド部(Pc)の左右両側に連なり且つ該中央パッド部(Pc)よりも前方に張り出す左右の土手パッド部(Ps)を備えると共に、該土手パッド部(Ps)の前面が前面表皮(8f)で、また側面が側面表皮(8s)でそれぞれ覆われ、ドア側の前記土手パッド部(Ps)には、エアバッグ(A)を含むエアバッグモジュール(M)が内蔵され、前記前面表皮(8f)と側面表皮(8s)とが、基部(1b)を前記フレーム(F2)に固定した非伸長性のイン力布(C1)の先部(1a)と共に縫着され、その縫着部(T1)は、前記エアバッグ(A)の膨張初期段階に、該エアバッグ(A)を前記土手パッド部(Ps)の側方で前記イン力布(C1)と側面表皮(8s)との間に膨出させることで破断する車両用シートにおいて、
前記膨張初期段階のエアバッグ(A)の前記膨出に伴い前記前面表皮(8f)がドア側に伸びるのを抑制する非伸長性の土手力布(C2)が、前記前面表皮(8f)の裏側に配設されて、前記イン力布(C1)と前記土手力布(C2)とがドア側の土手パッド部(Ps)に配設され、
前記イン力布(C1)の前記基部(1b)が、前記フレーム(F2)のサイドフレーム(20)と前記エアバッグモジュール(M)との間に挟持、固定されて、該基部(1b)の後端が、前記サイドフレーム(20)の後端面より前側に位置するか、または前記エアバッグモジュール(M)の後端面より前側に位置することを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記前面表皮(8f)は、前記土手力布(C2)が無い場合には前記膨張初期段階の前記エアバッグ(A)の前記膨出に連動して伸びる程度に伸び易い素材で構成されることを特徴とする、請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記土手力布(C2)は、基部(2b)が前記フレーム(F2)又は前記バックパッド(P)に固定されると共に、先部(2a)が前記縫着部(T1)に結合され、前記土手力布(C2)の中間部は、前記ドア側の土手パッド部(Ps)の前面を横切り且つ前記前面表皮(8f)の裏面に重なるように配置されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記イン力布(C1)は、前記基部(1b)から前記先部(1a)に亘り前記エアバッグモジュール(M)の上下幅と略同じか又はそれ以上の上下幅に形成されることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記土手力布(C2)は、少なくとも前記先部(2a)が上下方向で前記イン力布(C1)よりも小幅に形成されることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の車両用シート。
【請求項6】
前記土手力布(C2)は、上下方向で前記イン力布(C1)よりも小幅の帯板状に形成されることを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載の車両用シート。
【請求項7】
前記エアバッグモジュール(M)は、折り畳み状態の前記エアバッグ(A)と、該エアバッグ(A)内に高圧ガスを噴出させてエアバッグ(A)を車両前方側に膨張させ得るインフレータ(I)とを少なくとも備え、
前記土手力布(C2)の、前記縫着部(T1)との結合部位は、前記インフレータ(I)の、車両前方側に開口した高圧ガス噴出孔(Ia)と略同じ高さに配置されることを特徴とする、請求項5又は6に記載の車両用シート。
【請求項8】
前記縫着部(T1)は、前記ドア側の土手パッド部(Ps)の前面と側面との接続部又はその近傍部に配置されることを特徴とする、請求項1~7の何れか1項に記載の車両用シート。
【請求項9】
前記土手パッド部(Ps)の前記前面表皮(8f)を、該土手パッド部(Ps)と前記中央パッド部(Pc)との間に設けた凹溝(g)内に引き込むための引込み部材(J1,J2)が、前記フレーム(F2)又は前記バックパッド(P)に取付けられ、
前記土手力布(C2)の前記基部(2b)は、前記引込み部材(J1,J2)に固定されることを特徴とする、請求項1~8の何れか1項に記載の車両用シート。
【請求項10】
前記エアバッグ(A)を車両の概ね前方側に膨張展開させるように、前記土手力布(C2)は、前記膨張初期段階でエアバッグ(A)の前記膨出に伴い前記前面表皮(8f)がドア側に伸びるのを抑制することを特徴とする、請求項1~9の何れか1項に記載の車両用シート。
【請求項11】
乗員の尻部を下方から支持するシート座部(S1)と、乗員の背中を後方から支持するシートバック(S2)と、前記シートバック(S2)の上部に装着されるヘッドレスト部(S3)を備え、前記シートバック(S2)は、バックパッド(P)と、バックパッド(P)を裏面側から支持するバックフレーム(F2)と、を備え、前記バックフレーム(F2)は、起立角度を任意に調節、固定するリクライニング機構(32)を介して前記座部フレーム(F1)の後部に支持されており、前記シート座部(S1)は、表皮(10)で覆われた座部パッドと、座部パッドを支持する座部フレーム(F1)とを備え、前記座部フレーム(F1)は車体フロア(30)に、前後位置調整機構を介して前後位置調節可能に支持されることを特徴とする、請求項1~10の何れか1項に記載の車両用シート
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート、特にフレームに支持されるバックパッドが、中央パッド部の左右両側にそれぞれ連なり且つ中央パッド部よりも前方に張出す左右の土手パッド部を備えると共に、土手パッド部の前面が前面表皮で、また側面が側面表皮でそれぞれ覆われ、ドア側の土手パッド部にエアバッグモジュールが内蔵される車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
上記車両用シートにおいて、ドア側の土手パッド部の前面表皮と側面表皮とが、基部をフレームに固定される非伸長性のイン力布の先部と共に縫着され、その縫着部が、エアバッグの膨張初期段階にエアバッグを土手パッド部の側方でイン力布と側面表皮との間に膨出させる(即ちイン力布に受け止められてドア側に向かうエアバッグの膨張力を縫着部が受ける)ことで破断され、その破断部からエアバッグを車両の概ね前方側へ展開させるようにしたものが、例えば特許文献1に示される如く従来より知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-210475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の車両用シートでは、土手パッド部の前面表皮が伸びにくい素材で構成されていたので、エアバッグの膨張初期段階にドア側に向かうエアバッグの膨張力を縫着部が受けても前面表皮はドア側へ伸びない。そのため、ドア側に向かうエアバッグ膨張力で縫着部を適正位置で速やかに破断させることができ、エアバッグが車両の前方側へ適切に展開可能となっている。
【0005】
ところが上記した車両用シートにおいて、仮に前面表皮を伸び易い素材で構成した場合には、膨張初期段階のエアバッグの前記膨出に伴い(即ちドア側に向かうエアバッグの膨張力を受けて)前面表皮がドア側に伸びてしまい、その伸びと共に前記縫着部もドア側に相当量移動した状態(例えば図5(b)二点鎖線を参照)で縫着部が破断する破断タイミングとなる。そのため、エアバッグが、ドア寄りの斜め前方側に膨張展開する展開形態となってしまい(例えば図5(c)二点鎖線を参照)、乗員頭部を適切に保護する上で有利な構造とはならない。
【0006】
本発明は、上記に鑑み提案されたものであり、土手パッド部の前面表皮の材質に依らず上記問題が生じないようにした車両用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、フレームに支持されるバックパッドが、中央パッド部の左右両側に連なり且つ該中央パッド部よりも前方に張り出す左右の土手パッド部を備えると共に、該土手パッド部の前面が前面表皮で、また側面が側面表皮でそれぞれ覆われ、ドア側の前記土手パッド部には、エアバッグを含むエアバッグモジュールが内蔵され、前記前面表皮と前記側面表皮とが、基部を前記フレームに固定した非伸長性のイン力布の先部と共に縫着され、その縫着部は、前記エアバッグの膨張初期段階に、該エアバッグを前記土手パッド部の側方で前記イン力布と前記側面表皮との間に膨出させることで破断する車両用シートにおいて、前記膨張初期段階のエアバッグの前記膨出に伴い前記前面表皮がドア側に伸びるのを抑制する非伸長性の土手力布が、前記前面表皮の裏側に配設されて、前記イン力布と前記土手力布とがドア側の土手パッド部に配設され、前記イン力布の前記基部が、前記フレームのサイドフレームと前記エアバッグモジュールとの間に挟持、固定されて、該基部の後端が、前記サイドフレームの後端面より前側に位置するか、または前記エアバッグモジュールの後端面より前側に位置することを第1の特徴としている。
【0008】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記前面表皮は、前記土手力布が無い場合には前記膨張初期段階の前記エアバッグの前記膨出に連動して伸びる程度に伸び易い素材で構成されることを第2の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記土手力布は、基部が前記フレーム又は前記バックパッドに固定されると共に、先部が前記縫着部に縫着され、前記土手力布の中間部は、前記ドア側の土手パッド部の前面を横切り且つ前記前面表皮の裏面に重なるように配置されることを第3の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第1~第3の何れかの特徴に加えて、前記イン力布は、前記基部から前記先部に亘り前記エアバッグモジュールの上下幅と略同じか又はそれ以上の上下幅に形成されることを第4の特徴とする。
【0011】
また本発明は、第1~第4の何れかの特徴に加えて、前記土手力布は、少なくとも前記先部が上下方向で前記イン力布よりも小幅に形成されることを第5の特徴とする。
【0012】
また本発明は、第1~第4の何れかの特徴に加えて、前記土手力布は、上下方向で前記イン力布よりも小幅の帯板状に形成されることを第6の特徴とする。
【0013】
また本発明は、第5又は第6の特徴に加えて、前記エアバッグモジュールは、折り畳み状態の前記エアバッグと、該エアバッグ内に高圧ガスを噴出させてエアバッグを車両前方側に膨張させ得るインフレータとを少なくとも備え、前記土手力布の、前記縫着部との結合部位は、前記インフレータの、車両前方側に開口した高圧ガス噴出孔と略同じ高さに配置されることを第7の特徴とする。
【0014】
また本発明は、第1~第7の何れかの特徴に加えて、前記縫着部は、前記ドア側の土手パッド部の前面と側面との接続部又はその近傍部に配置されることを第8の特徴としている。
【0015】
また本発明は、第1~第8の何れかの特徴に加えて、土手パッド部の前記前面表皮を、該土手パッド部と前記中央パッド部との間に設けた凹溝内に引き込むための引込み部材が、前記フレーム又は前記バックパッドに取付けられ、前記土手力布の前記基部は、前記引込み部材に固定されることを第9の特徴とする。
【0016】
また本発明は、第1~第9の何れかの特徴に加えて、前記エアバッグを車両の概ね前方側に膨張展開させるように、前記土手力布は、前記膨張初期段階でエアバッグの前記膨出に伴い前記前面表皮がドア側に伸びるのを抑制することを第10の特徴とする。
【0017】
また本発明は、第1~第10の何れかの特徴に加えて、乗員の尻部を下方から支持するシート座部と、乗員の背中を後方から支持するシートバックと、前記シートバックの上部に装着されるヘッドレスト部を備え、前記シートバックは、バックパッドと、バックパッドを裏面側から支持するバックフレームと、を備え、前記バックフレームは、起立角度を任意に調節、固定するリクライニング機構を介して前記座部フレームの後部に支持されており、前記シート座部は、表皮で覆われた座部パッドと、座部パッドを支持する座部フレームとを備え、前記座部フレームは車体フロアに、前後位置調整機構を介して前後位置調節可能に支持されることを第11の特徴とする。
【0018】
尚、本発明において、「前面表皮がドア側に伸びるのを抑制する」とは、前面表皮のドア側への伸びを完全に阻止するものが含まれることは元より、本発明の効果を達成し得る範囲内で前面表皮の少々の伸びを許容しつつ抑制するものも含まれる概念である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の特徴によれば、ドア側の土手パッド部の前面表皮と側面表皮とが、イン力布の先部と共に縫着され、その縫着部が、エアバッグの膨張初期段階にエアバッグをイン力布の側方でイン力布と側面表皮との間に膨出させることで破断するシートにおいて、エアバッグの上記膨出に伴い前面表皮がドア側に伸びるのを抑制する土手力布が前面表皮の裏側に配設されるので、前面表皮が伸び易い素材の場合でも、エアバッグの膨張初期段階にエアバッグの前記膨出に伴い(即ちイン力布で受け止められてドア側に向かうエアバッグの膨張力で)前面表皮がドア側に伸びるのを土手力布で効果的に抑制できる。これにより、縫着部もドア側への変位が最小限に抑えられて適正位置で破断するため、前面表皮の材質に関係なくエアバッグを車両の概ね前方側に膨張展開させることができ、乗員頭部をより適切に保護する上で有利である。
【0020】
また第2の特徴によれば、前面表皮を伸び易い素材としたにも拘わらず、エアバッグの膨張初期段階にドア側に向かうエアバッグの膨張力で前面表皮がドア側に伸びるのを土手力布で効果的に抑制できるため、エアバッグを車両の概ね前方側に膨張展開させることができ、乗員頭部をより適切に保護することができる。
【0021】
また第3の特徴によれば、土手力布は、基部がフレーム又はバックパッドに固定されると共に、先部が縫着部に縫着され、土手力布の中間部は、ドア側の土手パッド部の前面を横切り且つ前面表皮の裏面に重なるように配置されるので、土手力布を前面表皮の裏面と土手パッド部の前面との間に無理なく容易に取り回すことができる。
【0022】
また第4の特徴によれば、イン力布は、基部から先部に亘りエアバッグモジュールの上下幅と略同じか又はそれ以上の上下幅に形成されるので、エアバッグの膨張初期段階でエアバッグの膨張圧を幅広のイン力布で有効に受け止めることができ、これにより、ドア側に向かうエアバッグの膨張力で縫着部を効率よく破断させることができ、併せて、土手パッド部の側面を有効に保護することができる。
【0023】
また第5の特徴によれば、土手力布は、少なくとも先部が上下方向でイン力布よりも小幅に形成されるので、エアバッグの膨張初期段階でドア側に向かうエアバッグの膨張力で前面表皮がドア側に伸びるのを土手力布で抑制可能としつつ、土手力布自体の小型化、延いてはコスト節減を図ることができる。
【0024】
また第6の特徴によれば、土手力布は、上下方向でイン力布よりも小幅の帯板状に形成されるので、エアバッグの膨張初期段階でドア側に向かうエアバッグの膨張力で前面表皮がドア側に伸びるのを土手力布で抑制可能としつつ、土手力布自体を必要最小限に小型化して、更なるコスト節減を達成することができる。
【0025】
また第7の特徴によれば、土手力布の、縫着部との結合部位は、インフレータの、車両前方側に開口した高圧ガス噴出孔と略同じ高さに配置されるので、その高圧ガス噴出孔からの高圧ガス噴出流を縫着部の一部領域に集中作用させ得るばかりか、その集中作用部に対応した位置で土手力布の幅狭先部が縫着部に結合されることから、先部が幅狭の(従って比較的小型の)土手力布であっても、前面表皮に対する伸び抑制効果を効率よく発揮させることができる。
【0026】
また第8の特徴によれば、縫着部は、ドア側の土手パッド部の前面と側面との接続部又はその近傍部に配置されるので、土手パッド部の前面を横切る方向で土手力布を極力短縮化することができ、これにより、エアバッグの膨張初期段階に、土手力布が早期に緊張状態となって、前面表皮に対する伸び抑制効果を迅速且つ的確に発揮可能となる。
【0027】
また第9の特徴によれば、表皮引込み用の引込み部材に土手力布の基部が固定されるので、引込み部材を土手力布の支持手段に兼用でき、構造簡素化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第1実施形態に係る自動車用シートを示す全体斜視図
図2】シートバックにおいてバックパッドを取り外してバックフレームを露出させた状態を示す斜視図
図3】(A)は、シートバックにおいてバック表皮をバックパッドから取り外した状態を示す斜視図、(B)は、バックパッドにバック表皮を取付けた状態を示す斜視図
図4図1の4-4線拡大断面図
図5】エアバッグの膨張展開プロセスを簡略的に示す図4対応図であって、(a)は、エアバッグが膨張開始によりエアバッグケースの蓋を開いた直後の状態を示し、(b)は、イン力布と側面表皮との間でエアバッグの前方膨出が進み、縫着部が破断する直前の状態を示し、(c)は、縫着部が破断してエアバッグが車両前方側に膨張展開した状態を示す
図6】本発明の第2実施形態を示す図4対応断面図
図7】本発明の第3実施形態を示す図4対応断面図
図8】本発明の第4実施形態を示す図4対応断面図
図9】本発明の第5実施形態を示す図4対応断面図
図10】(1)~(3)は土手力布C2の第1~第3変形例を示す力布展開図
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。尚、本明細書において、前後・左右・上下は、シートに座る乗員から見ての前後・左右・上下をそれぞれいう。
【0031】
先ず、図1図4を参照して、第1実施形態の構造を説明する。車両用シートとしての自動車用シートSは、乗員の尻部を下方から支持するシート座部S1と、乗員の背中を後方から支持するシートバックS2と、シートバックS2の上部に装着されるヘッドレスト部S3とを備える。
【0032】
尚、図示例では、運転席用シートが示されるが、助手席用シートも、後述するエアバッグモジュールMの配設部位が左右逆になる点を除いて運転席用シートと基本的に同一である。
【0033】
シート座部S1は、表皮10で覆われた不図示の座部パッドと、座部パッドを支持する座部フレームF1とを備える。座部フレームF1は車体フロア30に、従来周知の前後位置調整機構(図示せず)を介して前後位置調節可能に支持される。
【0034】
一方、シートバックS2は、バックパッドPと、バックパッドPを裏面側から支持するバックフレームF2と、バックパッドPの表面を被覆するシートバック用表皮8とを備える。バックフレームF2は、従来周知のリクライニング機構32を介して座部フレームF1の後部に支持されており、そのリクライニング機構32により、シートバックS2は、起立角度を任意に調節、固定できるようになっている。
【0035】
次にシートバックS2の具体的構造を説明する。
【0036】
シートバックS2の骨格フレームとなるバックフレームF2は、図2に示すように、上下方向に延びる左右一対のサイドフレーム20,20と、その両サイドフレーム20,20の上部間、及び下部間をそれぞれ結合すべく左右方向に延びる上,下部クロスメンバ21,22と、両サイドフレーム20,20の上端部間を一体に接続するヘッドレスト支持フレーム部23とを備えた金属製のフレーム枠で構成される。而して、バックフレームF2は、本発明のフレームの一例である。
【0037】
左右のサイドフレーム20の各フレーム上部20aとヘッドレスト支持フレーム23とは、逆u字状に形成される一繋がりのパイプ材で構成される。そして、各サイドフレーム20は、上記パイプ材の一部よりなるフレーム上部20aと、フレーム上部20aが上端部に結合(例えば溶接)されて上下方向に延びる板状のフレーム主部20bとを備える。フレーム主部20bは、シート中心側が開放した横断面コ字状のチャンネル材で構成され、このチャンネル材は、これの座部フレームF1との結合部(即ち下端部)に近づくにつれて前後幅が徐々に拡大して剛性強度が増すように形成される。
【0038】
またフレーム主部20bの幅方向中間部には、厚さ方向即ち左右方向で一方側(本実施形態ではシート内方側)に凹んで上下方向に延びる凹曲部20baが一体成形されており、この凹曲部20baが補強リブ効果を発揮することでフレーム主部20b(従ってサイドフレーム20)の剛性強度が高められる。
【0039】
各々のサイドフレーム20の内側面には、山部と谷部が交互に並ぶ波形の棒材より成る支持部材としての支持フレーム41の複数の外向き張出部41oが結合(例えば溶接)される。この支持フレーム41は、後述するシートバック用表皮8の引込み部材J1を係止、連結するために用いられる。尚、支持フレーム41の形状構造は、実施形態に限定されず、例えば帯板材を波形に屈曲成形したものを使用してもよく、また、支持フレーム41には、これに適度な弾性を付与すべくスリットや薄肉部を設けてもよく、或いはまた補強用リブを設けてもよい。
【0040】
バックフレームF2の上、下部クロスメンバ21,22には、両クロスメンバ21,22間に掛け渡した左右一対のワイヤ28,28を介して、合成樹脂製又は金属製の受圧板24が架設、支持される。更にこの受圧板24の下部寄りの背面を支持する少なくとも1本の波形スプリング29が、左右のサイドフレーム20,20間に横架、支持される。そして、これら受圧板24、波形スプリング29及びワイヤ28は、互いに協働してバックパッドPを裏面側から支持する。
【0041】
次にバックパッドPの構造を説明する。バックパッドPは、パッド材(例えばウレタンフォーム)で所定形状に成形されるものであって、例えば、前面が乗員の背中に対する支持面となる中央パッド部Pcと、中央パッド部Pcの左右両側にそれぞれ連なり且つ中央パッド部Pcよりも前方に各々張出して背中の外側方を支持する左、右土手パッド部Psとを一体に備えており、左、右の各土手パッド部Psの裏面側がサイドフレーム20で支持(図4参照)される。そして、左、右の各土手パッド部Psは、サイドフレーム20の前、後端面及び外側面を被覆する。
【0042】
また左、右の土手パッド部Psのうち特にドア側の(例えば実施形態では右側の)土手パッド部Psには、エアバッグモジュールMが内蔵される。即ち、このドア側の土手パッド部Psにはモジュール収容空間60が設けられ、更にその土手パッド部Psの、モジュール収容空間60の外側を覆うパッド部分Psaには、図3(A)及び図4にも示すようにモジュール取付用のコ字状スリットOが形成されており、例えば、スリットOに囲まれたパッド部分Psaを捲るように弾性変形させることでエアバッグモジュールMがモジュール収容空間60に装入可能である。そして、その装入状態でエアバッグモジュールMがサイドフレーム20のフレーム主部20bの外側面に固定される。
【0043】
エアバッグモジュールMは、図3図4からも明らかなように、フレーム主部20bの外側面に沿って延びる、車幅方向に扁平な箱状のモジュールケース50と、モジュールケース50内に格納、固定されるインフレータIと、インフレータIからの高圧ガスで車両前方側に急速に膨張可能なエアバッグAと、平時はエアバッグAを折り畳み状態に保持する保持袋53とを備えており、インフレータIは、車両衝突時の衝撃を検知可能な衝突センサ(図示せず)の検知信号に基づいて作動してエアバッグA内に高圧ガスを供給可能である。
【0044】
そして、インフレータIは、上下方向に延びる筒状のインフレータケースの前面に、エアバッグA内に高圧ガスを車両の略前方側に噴出させる高圧ガス噴出孔Iaを前向きに開口させている。また、保持袋53は、エアバッグAの膨張により即座に破断可能な肉厚・強度を有する。
【0045】
モジュールケース50は、車両前方側に開口する扁平箱状のケース本体50mと、ケース本体50mの前端開口を開閉する蓋板50tとを備えており、ケース本体50mの扁平な内側壁がフレーム主部20bに複数組のボルトb・ナットnで固定される。尚、本実施形態のボルトbは、ケース本体50mに頭部が一体的に植設されたスタッドボルトで構成されるが、ボルトbの固定手法は実施形態に限定されない。
【0046】
蓋板50tは、上下に長い帯板状に形成されており、これのサイドフレーム20側の内側縁部がケース本体50mの開口縁に揺動可能に枢支連結50hされる。また蓋板50tは、これがケース本体50mの開口を閉じた状態で、外側縁部がケース本体50mの開口縁に係脱可能に係合される。その係合部50kは、エアバッグAの膨張により容易に係合解除されて蓋板50tを自動開放できるような凹凸係合構造に構成される。
【0047】
ところでバックパッドPの前面には、図2に示すように中央パッド部Pcと左、右土手パッド部Psとの各境界部でそれぞれ上下方向に延びる凹溝としての左右一対の引込み溝gが凹設される。更にバックパッドPには、図4に示すように各引込み溝gの底面に一端が開口し且つバックパッドPの背面即ち裏面に他端が開口する複数の引込み孔Phが、各々の引込み溝gの長手方向(即ち上下方向)に間隔をおいて形成される。
【0048】
またシートバック用表皮8は、バックパッドPの形状に対応して、中央パッド部Pcの前面を覆う中央側の前面表皮部分8cと、左、右土手パッド部Psの前面及び側面をそれぞれ覆う土手側の前面表皮部分8f及び側面表皮部分8sと、バックパッドPのその他の外表面(例えば上側面や後側面の少なくとも一部)を覆う表皮部分とを備えており、それら表皮部分8c,8f,8sの相互の接続端縁部は、表皮8の裏側において互いに重なり合せて縫い糸で縫着され、全体が袋状一体となってバックパッドPを覆う。
【0049】
また特に土手パッド部Psにおいて、シートバック用表皮8の前面表皮部分8fと側面表皮部分8sとの縫着部T1は、図4に示されるように土手パッド部Psの前面と側面との接続部又はその近傍部に配置される。
【0050】
本実施形態において、前面表皮部分8c,8fは伸び易いシート状素材(例えば布材)で構成される。その伸び易さは、後述する土手力布C2を仮に設けない場合に膨張初期段階のエアバッグAの前方膨出に連動して前面表皮部分8fがドア側に伸びる程度の伸び易さに設定される。また側面表皮部分8sは、本実施形態では前面表皮部分8fよりも伸びにくいシート状素材(例えば布材)で構成される。而して、前面表皮部分8f・側面表皮部分8sは、それぞれ本発明の前面表皮・側面表皮の一例である。
【0051】
また側面表皮部分8sは、図4に示すように左右の土手パッド部Ps及びサイドフレーム20にそれらの各後端面に回り込むように固定(例えば接着)される。尚、シートバックS2の背面のうち、シートバック用表皮8では被覆されない部位は、図示しないカバー部材をシートバックS2背面に装着することで体裁よく被覆することも可能である。
【0052】
次にシートバック用表皮8のバックパッドPへの引込み固定構造について、図4を参照して説明する。シートバック用表皮8のうち中央側の前面表皮部分8cと土手側の前面表皮部分8fとの縫着部T1は、前記した左右の引込み溝gにそれぞれ対応した位置に在って引込み溝g内に引き込まれ、その引込み部分は、バックパッドPを前後方向に貫通する複数の引込み部材J1と、前述の支持フレーム41とを介してサイドフレーム20の内側面に連結、支持される。
【0053】
より具体的に説明すると、中央側の前面表皮部分8cと土手側の前面表皮部分8fとの縫着部T1には、前後方向に延びる複数の引込み部材J1の前端部が固定(例えば縫着T2)され、それら引込み部材J1は、引込み溝gに上下に間隔をおいて開口する複数の引込み孔Phをそれぞれ貫通してバックパッドPの後面に達する。引込み部材J1は、例えば帯板状に形成されて前後方向に延びる部材本体Jaと、部材本体Jaの後端部に結合、固定される係止片Jkとを各々備える。係止片Jkは、本実施形態ではJ字状のフック体で構成され、係止片Jkは、図4に示すようにサイドフレーム20に固定した支持フレーム41の内向き張出部41iに係止、連結される。
【0054】
尚、一部の引込み孔Phがワイヤ28又は波形スプリング29の対向部又はその近傍部に位置する場合には、この引込み孔Phを貫通する引込み部材J1の係止片Jkをワイヤ28又は波形スプリング29に係止、連結させてもよい。また引込み部材J1の係止片Jkとしては、上記したフック体に限定されず、即ち支持フレーム41やワイヤ28,スプリング29、受圧板24の貫通孔等に係止、連結可能な種々の形状に形成可能である。
【0055】
ところでエアバッグAは、これの膨張初期段階に、その膨張変化に応じて係止部50kの係止を自動解除し且つ蓋板50tを開放揺動(即ち内側端の枢支連結50h部回りに前方側に揺動)させる。これにより、膨張初期段階のエアバッグAが、蓋板50tとケース本体50mの前端開口との間に生じた隙間(図5(a)を参照)から車両前方側に膨出し、さらに土手パッド部Psの外側面と側面表皮8sとの間に膨出する。
【0056】
そして、このような膨張初期段階のエアバッグAの膨出に伴い、シートバック用表皮8の前面表皮部分8fと側面表皮部分8sとの縫着部T1が、ドア側に向かうエアバッグAの膨張力で破断するに至る。かくして、その縫着部T1の破断部位を通してエアバッグAが車両の概ね前方側に膨張、展開するが、その展開方向を的確に制御するために、本発明では、非伸長性の2個の力布(即ちイン力布C1及び土手力布C2)がドア側の土手パッド部Psに配設される。
【0057】
イン力布C1は、エアバッグAの膨張初期段階でエアバッグAを受け止めて、ドア側に向かうエアバッグAの膨張力で縫着部T1を効率よく破断させることを主目的とする力布である。そして、イン力布C1の基部1bは、本実施形態ではバックフレームF2に固定(より具体的にはサイドフレーム20とモジュールケース50のケース本体50mとの間に挟持されてボルトb・ナットnで共締め)される。
【0058】
また、イン力布C1の中間部は、モジュールケース50の表面と土手パッド部Psとの間、並びに土手パッド部Psと側面表皮部分8sとの間を経由するよう屈曲しながら前方に延びる。更にイン力布C1の前端部即ち先部1aは、前面表皮部分8f及び側面表皮部分8sと共に共通の縫い糸で縫着され、その縫着部T1は、エアバッグAの膨張初期段階に、エアバッグAを土手パッド部Psの側方でイン力布C1と側面表皮8sとの間に膨出させる(即ちその膨出に伴いドア側に向かうエアバッグAの膨張力を受ける)ことで破断される。
【0059】
またイン力布C1は、基部1bから先部1aに亘りエアバッグモジュールMの上下幅と略同じか又はそれ以上の上下幅に(即ち展開状態で略矩形状に)形成される。
【0060】
一方、土手力布C2は、膨張初期段階のエアバッグAの前記膨出に伴い前面表皮部分8fが横方向、即ちドア側に伸びるのを抑制することを主目的とする力布であって、これの基部2bは、バックフレームF2のサイドフレーム20に間接に(より具体的には前面表皮部分8c,8fを引込み溝Ph内に引き込むための引込み部材J1及び支持フレーム41を介して)固定される。
【0061】
尚、バックフレームF2の配置や形態によっては、土手力布c2の基部2bを引込み部材J1を介さずにバックフレームF2に直接に、又は間接(例えばバックパッド部Pの、引込み孔Phとは別の位置に設けた通し孔を貫通する不図示の中継部材を介して)固定するしてもよい。また、土手力布C2の基部2bをバックフレームF2に直接固定する場合には、バックパッド部Pの上記通し孔を通して土手力布C2をバックフレームF2の近傍まで延ばし、その基部2bをバックフレームF2に直接係止又は固着すればよい。
【0062】
また土手力布C2の先部2aは、前記縫着部T1に結合(本実施形態では、共通の縫い糸で前面表皮部分8f、側面表皮部分8s及びイン力布C1の先部1aと共に縫着)される。更に土手力布C2の中間部は、ドア側の土手パッド部Psの前面を横切るように該前面に沿って延び且つ前面表皮部分8fの裏面に重なるように配置される。
【0063】
また、土手力布C2は、これの先部2aが基部2bよりも、またイン力布C1よりも上下方向で小幅に形成される。特に本実施形態の土手力布C2は、イン力布C1よりも上下方向で小幅の帯板状に形成される。しかも土手力布C2の先部2aの、縫着部T1との結合部位(即ち縫着部位)は、図3図4にも示されるようにインフレータIの、車両前方側に開口した高圧ガス噴出孔Iaと略同じ高さに配置される。
【0064】
次に第1実施形態の作用を図5も併せて参照して、説明する。図4は、平時の(即ちエアバッグAが未作動)のシートバックS2の状態を示している。
【0065】
自動車が万一、衝突事故を起こしたような場合に、バックパッドPに内蔵のエアバッグモジュールMにおいては、衝突時の衝撃を感知した不図示のセンサからの信号に基づいてインフレータIが作動してエアバッグAに高圧ガスを供給し、これにより、エアバッグAが車両前方側に急速に膨張、展開しようとする。
【0066】
このエアバッグAの膨張初期段階においては、図5(a)→(b)に簡略的に示すようにエアバッグAがモジュールケース50の蓋板50tを開放即ち前方揺動させ、その蓋板50tとケース本体50mの開口端との間に生じた隙間を通して前方側、即ち、イン力布C1と側面表皮部分8sとの間の隙間に膨出し、その隙間を押し拡げながら前方へ膨張しようとする。このとき、エアバッグAの膨張圧は、特に土手パッド部Ps側ではイン力布C1により受け止められる。そして、ドア側に向かうエアバッグAの膨張力が、縫着部T1やこれに連なる前面表皮部分8fをドア側に引き寄せようとするが、その力は非伸長性の土手力布C2で効果的に受け止められる。
【0067】
これにより、前面表皮部分8fが伸び易い素材で構成されても、縫着部T1は、ドア側に殆ど変位しない適正位置で迅速に破断して、前面表皮部分8f及び側面表皮部分8s間が速やかに切り離され、エアバッグAが車両の概ね前方側に一気に膨張、展開(図5(c)を参照)するため、その展開エアバッグAで乗員頭部を適切に保護できる。
【0068】
尚、前記実施形態において、仮に土手力布C2を省略した場合には、膨張初期段階のエアバッグAの、イン力布C1と側面表皮部分8sとの間への前記膨出に伴い(即ち、ドア側に向かうエアバッグAの膨張力で)前面表皮部分8fがドア側に伸びてしまい、その伸びと共に縫着部T1もドア側に相当量移動した状態(図5(b)の二点鎖線を参照)で縫着部T1が破断する。そのため、エアバッグAがドア寄りの斜め前方側に膨張展開する展開形態となってしまい(図5(c)の二点鎖線を参照)、乗員頭部を適切に保護する上で有利な構造とはならない。
【0069】
以上説明した本実施形態によれば、ドア側の土手パッド部Psの前面表皮部分8fと側面表皮部分8sとがイン力布C1の先部1aと共に縫着され、エアバッグAの膨張初期段階にエアバッグAを土手パッド部Psの側方でイン力布C1と側面表皮部分8sとの間に膨出させることで縫着部T1が破断するシートSにおいて、エアバッグAの上記膨出に伴い前面表皮部分8fがドア側に伸びるのを抑制する土手力布C2が、前面表皮部分8fの裏側に配備されている。これにより、前面表皮部分8fが伸び易い素材であっても、エアバッグAの膨張初期段階にドア側に向かうエアバッグAの膨張力で前面表皮部分8fが伸びるのを、非伸長性の土手力布C2が有効に抑制できるため、縫着部T1もドア側への変位が最小限に抑えられて、適正位置で破断するに至る。かくして、エアバッグAを自動車の概ね前方側に膨張展開させることができ、乗員頭部をより適切に保護可能となる。
【0070】
また本実施形態の土手力布C2は、基部2bがバックフレームF2に固定されると共に、先部2aが縫着部T1に縫着され、土手力布C2の中間部は、ドア側の土手パッド部Psの前面を横切り且つ前面表皮部分8fの裏面に重なるように配置されている。これにより、土手力布C2を前面表皮部分8fの裏面と土手パッド部Psの前面との間に無理なく容易に配備可能となる。
【0071】
また特にイン力布C1は、これの基部1bから先部1aに亘りエアバッグモジュールMの上下幅と略同じか又はそれ以上の上下幅に形成されるため、エアバッグAの膨張初期段階でエアバッグAの膨張圧を幅広のイン力布C1で有効に受け止めることができる。これにより、ドア側に向かうエアバッグAの膨張力で縫着部T1を効率よく破断させることができ、併せて、土手パッド部Psの側面を有効に保護可能である。
【0072】
一方、土手力布C2は、先部2aが上下方向でイン力布C1よりも小幅に形成される。これにより、エアバッグAの膨張初期段階にドア側に向かうエアバッグAの膨張力で前面表皮部分8fがドア側に伸びるのを土手力布C2で抑制可能としつつ、土手力布C2自体の小型化、延いてはコスト節減が図られる。この場合、特に本実施形態では土手力布C2が上下方向でイン力布C1よりも小幅の帯板状に形成されるため、土手力布C2自体を必要最小限に小型化して、更なるコスト節減が図られる。
【0073】
また本実施形態では、土手力布C2及びイン力布C1の各先部2a、前面表皮部分8f及び側面表皮部分8s相互の縫着部T1が、インフレータIの、車両前方側に開口した高圧ガス噴出孔Iaと略同じ高さに配置される。これにより、高圧ガス噴出孔Iaからの高圧ガス噴出流を縫着部T1の一部領域に集中作用させ得るばかりか、その集中作用部に対応した位置で土手力布C2の幅狭先部2aが縫着部T1に結合される配置となるため、先部2aが幅狭の(従って比較的小型の)土手力布C2であっても前面表皮部分8fに対する伸び抑制効果を効率よく的確に発揮させることができる。
【0074】
また本実施形態では、前記縫着部T1が、ドア側の土手パッド部Psの前面と側面との接続部又はその近傍部に配置されている。これにより、土手パッド部Psの前面を横切る方向で土手力布C2を極力短縮化されるため、エアバッグAの膨張初期段階に、土手力布C2が早期に緊張状態となって、前面表皮部分8fに対する伸び抑制効果を迅速且つ的確に発揮可能となる。
【0075】
更に本実施形態では、シートバック用表皮8の前面表皮部分8f,8cを土手パッド部Psと中央パッド部Pc間の引込み溝Ph内に引き込むための引込み部材J1が、バックフレームF2に直接、又は支持フレーム41を介して間接に取付けられ、その引込み部材J1に土手力布C2の基部2bが固定される。これにより、表皮8引込み用の引込み部材J1を、土手力布C2の支持手段に兼用でき、構造簡素化が図られる。
【0076】
また図6には、本発明の第2実施形態が示される。第2実施形態では、バックパッドPに、支持部材としてのインサートワイヤ70が固定(より具体的には一体的に埋設)されており、このインサートワイヤ70は、これの一部を引込み溝gの底部に露出させるようにして上下方向(即ち引込み溝gに沿う方向)に延びていて、インサート成形によりバックパッドPに固定、一体化される。
【0077】
また土手力布C2は、それの長手方向全域に亘り、前面表皮としての前面表皮部分8fの裏面に縫い付けられていて、その縫着部100を介して前面表皮部分8fと一体化されている。尚、図6では、縫着部100に関して、その縫着領域を判り易く表示するために縫合表示を簡略化して図示(以下に説明する第3~第5実施形態を示す図7図9においても同様)している。
【0078】
また、土手力布C2の先部2aは、第1実施形態と同様、側面表皮部分8s、前面表皮部分8f及びイン力布C1の先部1aと共に縫着T1される。一方、土手力布C2の基部2bは、前面表皮部分8f,8c及び引込み部材J2と共に縫着T2されて引込み溝g内に引き込まれる。そして、その引込み部材J2を、引込み溝g底部に露出するインサートワイヤ70に係止させることで、土手力布C2の基部2bと、前面表皮部分8f,8c相互の接続部分とが、引込み部材J2を介してインサートワイヤ70に引込み状態で結合される。
【0079】
これにより、前面表皮部分8fを結合、一体化した土手力布C2の基部2bが、引込み部材J2及びインサートワイヤ70を介してバックパッドPにしっかりと固定、支持可能となる。尚、第2実施形態に示すようなインサートワイヤを用いたバックパッドへの表皮引込み構造は、従来周知であり、例えば特開2004-337号公報、同2009-22534号公報にも明示されている。また第2実施形態に示す如く土手力布C2の基部2bと前面表皮部分8f,8c相互の接続部分とを引込み部材J2を介してインサートワイヤ70に引込み結合する構造を、第1実施形態に適用してもよい。
【0080】
またイン力布C1の基部1bは、第1実施形態ではバックフレームF2(サイドフレーム20)にモジュールケース本体50と共にボルトb・ナットnで固定するものを示したが、第2実施形態では、イン力布C1の基部1bを予め固定した合成樹脂製の係止爪付きクリップ80がバックフレームF2(サイドフレーム20)の係止孔81に係脱可能に係止される。これにより、イン力布C1は、基部1bがクリップ80を介してバックフレームF2に容易且つ迅速に固定可能である。
【0081】
尚、第2実施形態のようなクリップ80による力布のバックフレームF2への固定構造は、従来周知であり、例えば前記特許文献1にも明示されている。また第2実施形態のクリップ80によるイン力布C1のバックフレームF2への固定構造を、第1実施形態に適用してもよい。
【0082】
第2実施形態のその他の構成は、第1実施形態と同様であるので、各構成要素には第1実施形態の対応する構成要素と同様の参照符号を付すにとどめ、それ以上の説明は省略する。
【0083】
而して第2実施形態によれば、第1実施形態の前記した作用効果と同様の作用効果を達成可能である。更に第2実施形態では、土手力布C2がそれの長手方向全域に亘り前面表皮部分8fに縫い付けられて結合、一体化されるため、土手力布C2の前面表皮部分8fに対する拘束性が増し、土手力布C2による前面表皮部分8fの伸び抑制効果が更に高められる。しかも土手力布C2が前面表皮部分8fに予め縫い付けられて単一部品化されることで、部品管理や取り扱い作業が簡便化される利点もある。
【0084】
また図7には本発明の第3実施形態が示される。第3実施形態は、第2実施形態をベースとしており、これに非伸長性のアウタ力布C3が追加される。アウタ力布C3は、基部3aがバックフレームF2(より具体的にはサイドフレーム20)にモジュールケース本体50と共にボルトb・ナットnで共締めされることで固定される。またアウタ力布C3の中間部は、モジュールケース50の後端面及び外側面に沿うようにして前方側に延び、更にイン力布C1と側面表皮部分8sとの間を通って土手パッド部Psの前面と側面の接続部近傍まで延びている。またアウタ力布C3の前端部即ち先部3aは、前面表皮部分8f及び側面表皮部分8s並びにイン力布C1及び土手力布C2の各先部1a,2aと共に縫着部T1で縫着される。
【0085】
第3実施形態のその他の構成は、第2実施形態と同様であるので、各構成要素には第2実施形態の対応する構成要素と同様の参照符号を付すにとどめ、それ以上の説明は省略する。
【0086】
而して第3実施形態によれば、第2実施形態の前記した作用効果と同様の作用効果を達成可能である。この場合、エアバッグAの膨張初期段階において、モジュールケース50を出たエアバッグAは、土手パッド部Psの側方でイン力布C1とアウタ力布C3との間を前方に膨出するため、エアバッグAのドア側へ向かう膨張力を縫着部T1に効果的に作用させることができて縫着部T1を迅速に破断可能となる。
【0087】
また図8には本発明の第4実施形態が示される。第4実施形態は、第3実施形態をベースとしている。但し、第4実施形態では、イン力布C1の基部1b及び基部1bに連なる中間部が合成樹脂製の取付プレート90に固定(より具体的には縫着T3)されており、この取付プレート90は、モジュールケース50のケース本体50mとバックフレームF2(より具体的にはサイドフレーム20)との間に挟持されて、モジュールケース50と共にバックフレームF2にボルトb・ナットnで共締め固定される。
【0088】
またイン力布C1の基部1b(特に基端部)と、アウタ力布C3の基部3bとの相互間が一体的に接続(より具体的には縫着T4)される。かくして、アウタ力布C3の基部3bは、イン力布C1の基部1b及び取付プレート90を介してバックフレームF2(より具体的にはサイドフレーム20)に固定される。尚、第4実施形態に示すようなアウタ力布C3及びイン力布C1の基部3b,1b相互間の縫着T4構造は、従来公知であり、例えば国際公開WO2017/56521A1 の図29にも明示されている。
【0089】
第4実施形態のその他の構成は、第3実施形態と同様であるので、各構成要素には第3実施形態の対応する構成要素と同様の参照符号を付すにとどめ、それ以上の説明は省略する。
【0090】
而して第4実施形態によれば、第3実施形態の前記した作用効果と同様の作用効果を達成可能である。更に第4実施形態では、アウタ力布C3の基部3bは、これを単にイン力布C1の基部1bに縫着部T4するだけで、そのイン力布C1の基部1bを介してバックフレームF2に実質的に固定されるため、アウタ力布C3の基部3bの固定構造が簡素化される。
【0091】
また図9には本発明の第5実施形態が示される。第5実施形態は、第2実施形態をベースとしている。但し、第2実施形態では、土手力布C2がそれの長手方向全域に亘り、前面表皮としての前面表皮部分8fの裏面に縫い付けられていて前面表皮部分8fと一体化されるのに対し、第5実施形態では、土手力布C2がそれの長手方向の一部の領域(より具体的には基部2b及びこれに続く小領域、並びに先部2a及びこれに続く小領域)においてだけ、前面表皮としての前面表皮部分8fの裏面に縫い付けられていて、この一部の領域のみが前面表皮部分8fと一体化されている。
【0092】
第5実施形態のその他の構成は、第2実施形態と同様であるので、各構成要素には第2実施形態の対応する構成要素と同様の参照符号を付すにとどめ、それ以上の説明は省略する。
【0093】
而して第5実施形態によれば、第2実施形態の前記した作用効果と同様の作用効果を達成可能である。更に第5実施形態では、土手力布C2と、前面表皮としての前面表皮部分8fとの縫着部100の領域長さを極力短くしているため、それだけコスト節減が達成可能である。
【0094】
尚、第5実施形態の土手力布C2と、前面表皮としての前面表皮部分8fとの縫着部100の構造を、第3,第4実施形態に適用してもよい。
【0095】
また、第2~第5実施形態では、バックパッドPに土手力布C2の基部2bを、引込み部材J2及び支持部材としてのインサートワイヤ70を介して間接的に固定したものを示したが、バックパッドPに土手力布C2の基部2bを直接固定してもよい。
【0096】
或いはまた、第2~第5実施形態において、それらの各実施形態の前面表皮部分8f,8c及び土手力布C2の基部2bの、引込み部材J2及びインサートワイヤ70を用いた引込み構造を、第1実施形態の前面表皮部分8f,8c及び土手力布C2の基部2bの、引込み部材J1及び支持フレーム41を用いた引込み構造と置換したものも、実施可能である。
【0097】
以上、本発明の第1~第5実施形態について説明したが、本発明は、各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0098】
例えば、前記各実施形態では、車両用シートとして自動車用シートSを例示したが、本発明では、自動車以外の車両(例えば鉄道車両)に用いるシートにも適用可能である。
【0099】
また前記各実施形態では、土手力布C2として上下方向に幅狭の帯板状としたものを例示したが、本発明の土手力布C2は、実施形態の構造に限定されず、例えば、図10(1)(2)に示す第1,第2変形例のように土手力布C2を、基部2bから先部2aに向かうにつれて徐々に幅狭になるよう形成してもよく、或いは図10(3)に示す第3変形例のように土手力布C2を、基部2bから先部2aにかけて略同幅の矩形状に形成してもよい。
【0100】
また前記各実施形態では、イン力布C1として、基部2bから先部2aにかけて略同幅の矩形状に形成したものを例示したが、本発明のイン力布C1は、実施形態の構造に限定されず、例えば、図10(1)(2)に示す土手力布C2の変形例のように、イン力布C1を基部1bから先部1aに向かうにつれて徐々に幅狭になるよう形成してもよい。
【0101】
また前記各実施形態では、側面表皮としての側面表皮部分8sが、前面表皮としての前面表皮部分8f,8cよりも伸びにくい素材で構成されたものが示されたが、本発明では、側面表皮部分8sを前面表皮部分8f,8cと同等の伸び易い素材で構成することも可能である。
【0102】
また前記各実施形態では、側面表皮としての側面表皮部分8s、および前面表皮としての前面表皮部分8f,8cが、それぞれ単層のシート材(例えば布材)で構成されるものを例示したが、側面表皮部分8sを、例えば特開2014-129059 号公報の図3に示されるように、外皮(例えば布材)の裏面に薄肉のクッション材層を積層させた積層体で構成してもよく、また前面表皮部分8f,8cについても、同様の積層体で構成してもよい。
【0103】
また前記各実施形態では、土手パッド部Psにおいて、シートバック用表皮8の前面表皮部分8fと側面表皮部分8sとの縫着部T1が、土手パッド部Psの前面と側面との接続部又はその近傍部に配置されるものを例示したが、本発明では、縫着部T1の位置を上記接続部より後方側に多少ずらしてもよい。この場合、前面表皮部分8fの、最前端部(即ち土手頂部)より土手パッド部Ps側面に沿うよう後方に延びる後方反転部の後端が側面表皮部分8sの前端と縫着されることになるが、その後方反転部分の領域長さは、あくまで本発明の所期の作用効果が達成可能な最小限の長さに設定される。
【0104】
また前記各実施形態では、エアバッグモジュールMが、折り畳み状態のエアバッグAやインフレータIを収納した扁平箱状のモジュールケース50を備えていて、このモジュールケース50で、エアバッグAのバックパッドP表面からの展開方向を制御できるようにしているが、本発明では、モジュールケースを省略したケースレスのエアバッグモジュール(例えば前記特許文献1の図3を参照)を使用してもよい。
【0105】
また第1実施形態では、引込み孔Phを貫通する引込み部材J1を、サイドフレーム20(より具体的にはフレーム主部20b)の内側面に固定した支持フレーム41に係止、連結させるものを示したが、引込み孔Phとサイドフレーム20とが近いシート構造の場合には、支持フレーム41を省略して引込み部材J1を、サイドフレーム20に設けた不図示の被係止部(例えば貫通孔、鉤状突起部等)に直接係止、連結させるようにしてもよい。また第1実施形態では引込み部材J1の部材本体Jaを剛性のある帯板材より構成したものを示したが、引込み部材の部材本体Jaの形状は第1実施形態に限定されず、引込み孔Phを通過可能な形状であればよい。例えば、部材本体Jaを棒状材としてもよく、或いはまた必要な連結強度を確保可能であれば部材本体Jaを可撓性材料より構成してもよい。
【0106】
また前記各実施形態では、引込み部材J1,J2をシートバック用表皮8の、引込み溝g内へ引込まれた前面表皮部分8c,8fに直接結合(縫着T2)したものを示したが、その引込まれた前面表皮部分8c,8fに取付けられて引込み溝gの長手方向に延びる縁補強部材(例えばワイヤ)を介して、該前面表皮部分8c,8fに引込み部材J1,J2を結合するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0107】
A・・・・・・エアバッグ
C1・・・・・イン力布
C2・・・・・土手力布
F2・・・・・フレームとしてのバックフレーム
I・・・・・・インフレータ
Ia・・・・・高圧ガス噴出孔
J1,J2・・引込み部材
M・・・・・・エアバッグモジュール
P・・・・・・バックパッド
Ph・・・・・凹溝としての引込み溝
Pc・・・・・中央パッド部
Ps・・・・・土手パッド部
S・・・・・・車両用シートとしての自動車用シート
S2・・・・・シートバック
T1・・・・・縫着部
1a,1b・・イン力布の先部,基部
2a,2b・・土手力布の先部,基部
8f・・・・・前面表皮としての前面表皮部分
8s・・・・・側面表皮としての側面表皮部分
70・・・・・支持部材としてのインサートワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10