(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20230925BHJP
B60C 11/24 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
B60C19/00 B
B60C11/24 Z
B60C19/00 E
(21)【出願番号】P 2019134607
(22)【出願日】2019-07-22
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸川 広人
(72)【発明者】
【氏名】越智 淳
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/107296(WO,A1)
【文献】特開2003-214808(JP,A)
【文献】特開2019-064432(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0276044(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00
B60C 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸部および凹溝によってパターンが形成されたトレッド部において、前記凸部の1つ以上に、接地面側から径方向内方に向けて内腔部表面まで達する貫通孔が設けられ、前記貫通孔に磁性体が埋め込まれて内包されており、
前記磁性体により形成される磁場の磁束密度を検知する磁気センサが、前記磁性体の径方向内側の端部に近接して配置され、
前記磁性体は、硬磁性材料の粉粒体が高分子材料中に分散されて形成されると共に一方向に着磁されて成り、着磁方向とタイヤ半径方向とが一致するように内包されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記磁気センサが配置されている位置が、内腔部表面であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記磁性体により形成される磁場の前記磁性体の表面における磁束密度が、0.05mT以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記硬磁性材料が、アルニコ系磁石、フェライト系磁石、サマリウム系磁石、ネオジム系磁石作製用の磁性粉から選択された1種または2種以上の磁性粉であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記磁性体により形成される磁場の磁束密度を検知する磁気センサ、電源、および送受信手段が、センサモジュールに収納されており、前記センサモジュールが、前記磁性体の径方向内側の端部に近接して配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用の空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に装着された空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ともいう)は、走行に伴って地面と接するトレッド部が摩耗していき、トレッド溝が徐々に浅くなってくる。そして、このトレッド溝の深さが摩耗限度を超えて浅くなると、走行中にスリップが発生するなどして、事故の発生を招く危険性が増す。このため、従来より、トレッド部の摩耗量が摩耗限度を超えないように管理し、摩耗限度に達した場合には早期にタイヤを交換して、走行時の安全性を確保することが定められている。
【0003】
具体的にトレッド部の摩耗状態をチェックする方法として、一般的には、トレッド部に例えばスリップサイン等の目印を設けておき、この目印が現れると摩耗量が摩耗限度に達したと判断している。しかし、一般のユーザーに対して、この目印の確実なチェックについて過大には期待できないため、このようなユーザーによる目視確認に替えて、タイヤの摩耗状態を技術的に把握してユーザーが交換時期が来たことを正確に認識できる技術が提案されている。
【0004】
例えば、摩耗が摩耗限度となる箇所に磁性材料からなる被検出体を埋設しておき、磁気センサなどを検知手段として用いて、摩耗により露出した被検出体を検知することでタイヤが摩耗限度まで摩耗したことを検出するタイヤ摩耗限度検出装置(例えば特許文献1)や、トレッドの溝部やタイヤ内部に埋設された磁性体がトレッド部の摩耗に合わせて形状変化することに伴う磁場の強さの変化を、磁気センサなどの検知手段を用いて検知することによってタイヤの摩耗状態を測定するタイヤの摩耗測定方法(例えば特許文献2)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭62-83704号公報
【文献】特許第4054196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のタイヤ摩耗限度検出装置および特許文献2のタイヤの摩耗測定方法のいずれも、磁気センサなどの検知手段は、車体側の、例えばタイヤハウスに設けられている。このため、回転するタイヤ側に設けられた磁性体が検知手段に近接した場合しか磁性体を検知することができず、間欠的な測定しかできない。また、検知手段と磁性体との間の位置関係は、車体の傾斜や、走行中の路面の性状、タイヤの空気圧などで、変化しやすいため、磁場の強さを安定して正確に測定することができない。このため、近年の車両の安全性に対する強い要請に合わせて、タイヤの摩耗状態をより正確に把握できる技術が求められている。
【0007】
本発明者は、上記の問題を解決し磁場の強さをより安定して正確に測定する方法を検討した結果、磁性体を備えたタイヤ自体の内腔部に磁気センサを配置することにより上記の問題を解決できることを見出した。しかし、このようなタイヤを装着した車両を実際に走行させて磁性体の摩耗を検知することによるタイヤの摩耗の測定を試験したところ、検出感度の点において上記の構成のタイヤでは安定して十分な検出感度を得ることができない場合があることが分かった。
【0008】
そこで、本発明は、摩耗により変化する磁場の強さを常時、安定して十分な検出感度で正確に測定することにより、タイヤの摩耗状態を常時正確に把握することができる空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、以下に記載する発明により上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
請求項1に記載の発明は、
凸部および凹溝によってパターンが形成されたトレッド部において、前記凸部の1つ以上に、接地面側から径方向内方に向けて内腔部表面まで達する貫通孔が設けられ、前記貫通孔に磁性体が埋め込まれて内包されており、
前記磁性体により形成される磁場の磁束密度を検知する磁気センサが、前記磁性体の径方向内側の端部に近接して配置され、
前記磁性体は、硬磁性材料の粉粒体が高分子材料中に分散されて形成されると共に一方向に着磁されて成り、着磁方向とタイヤ半径方向とが一致するように内包されていることを特徴とする空気入りタイヤである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、
前記磁気センサが配置されている位置が、内腔部表面であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤである。
【0012】
請求項3に記載の発明は、
前記磁性体により形成される磁場の前記磁性体の表面における磁束密度が、0.05mT以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤである。
【0013】
請求項4に記載の発明は、
前記硬磁性材料が、アルニコ系磁石、フェライト系磁石、サマリウム系磁石、ネオジム系磁石作製用の磁性粉から選択された1種または2種以上の磁性粉であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤである。
【0014】
請求項5に記載の発明は、
前記磁性体により形成される磁場の磁束密度を検知する磁気センサ、電源、および送受信手段が、センサモジュールに収納されており、前記センサモジュールが、前記磁性体の径方向内側の端部に近接して配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、摩耗により変化する磁場の強さを常時、安定して十分な検出感度で正確に測定することにより、タイヤの摩耗状態を常時正確に把握することができる空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る空気入りタイヤにおける磁性体の配置を説明する模式的断面図である。
【
図2】本発明の一実施例においてタイヤへの磁気センサの配置の一例を示す図である。
【
図3】ベースペン構造を有するタイヤにおける磁性体および磁気センサの配置の一例を示す図である。
【
図4】ベースペン構造を有するタイヤの製造において、ベースペン構造を形成する工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を用いて説明する。
【0018】
[1]本実施の形態に係る空気入りタイヤ
1.本実施の形態に係る空気入りタイヤの概要
本発明者は検出感度が安定して十分に得られない場合がある原因について検討した結果、タイヤには通常、ブレーカー、ベルトなどのトレッド補強層、カーカスなど金属コードを構成材料に有するタイヤ部材が用いられているため、内腔部表面側に磁気センサを配置した場合、金属コードによる磁気遮蔽の影響によって十分な検出感度が得られない場合があることが分かった。このため、本実施の形態では、内腔部表面まで達する貫通孔に磁性体を配置しており、これにより磁性体と内腔部表面との間に磁気を遮蔽する物が存在しないため、内腔部表面にまで磁束密度のロスが抑制された磁場が形成され、安定した十分な検出感度を得ることができる。
【0019】
また、本実施の形態のタイヤにおいては、磁気センサがタイヤ自体に配置されているため、磁束密度の変化量を連続的に検出することができ、車両に装着されたタイヤの摩耗状態を経時的に把握することができる。また、両者の間隔が常に一定に維持され、車体の傾斜、走行中の路面の性状、タイヤの空気圧などの影響を受けることなく、磁性体における磁束密度の変化を磁気センサによって検知することができるため、タイヤの摩耗状態を高い精度で常時把握することができる。
【0020】
2.本実施の形態に係る空気入りタイヤの特徴部
本実施の形態に係る空気入りタイヤは、硬磁性材料の粉粒体が高分子材料中に分散されて形成された磁性体が、トレッドの凸部に設けられた貫通孔に埋め込まれて内包されており、磁性体により形成される磁場の磁束密度を検知する磁気センサが、磁性体の径方向内側の端部に近接して配置されていることを特徴としている。そこで、以下においては、はじめに、この磁性体と磁気センサとの位置関係について説明し、その後、磁性体と磁気センサのそれぞれについて説明する。
【0021】
(1)磁性体と磁気センサとの位置関係
図1は、本実施の形態に係る空気入りタイヤにおける磁性体の配置を説明する模式的断面図であり、凹溝に囲まれて形成された1つの凸部を示している。
図1において、トレッド部1は、凹溝9に囲まれて凸部2が形成されて、接地面8で地面と接する。そして、凸部2には所定の形状の貫通孔3が設けられ、磁性体4が埋め込まれて内包されている。そして、5はブレーカー、6はブレーカーコード、7は内腔部表面、10は磁気センサである。
【0022】
本実施の形態においては、
図1に示すように、貫通孔3の内部に一方向に着磁された磁性体4が、着磁方向とタイヤ半径方向とが一致するように埋め込まれて、凸部2の厚み方向に所定の強さの磁場を形成している。そして、磁気センサ10は、磁性体4の径方向内側の端部に近接するタイヤ内腔部に配置されている。
【0023】
このように、1つのタイヤの径方向の内と外のそれぞれに対向して磁気センサ10と磁性体4とが配置されていることにより、両者の間隔が常に一定に維持され、車体の傾斜、走行中の路面の性状、タイヤの空気圧などの影響を受けることなく、磁性体4における磁束密度の変化を磁気センサ10によって検知することができるため、タイヤの摩耗状態を高い精度で常時把握することができる。
【0024】
また、磁性体4は、接地面から金属コードを有する全てのタイヤ部材を貫通して設けられているため、金属コードによる磁気遮蔽の影響を受けることがなく、高感度で磁束密度の変化を測定することができる。
【0025】
磁性体および磁気センサの対は、トレッド部1に形成される1つの凸部にのみ設けられる態様であってもよく、複数の凸部に設けられる態様であってもよい。さらに、磁性体および磁気センサの対は、トレッド部1に形成される1つの凸部において、タイヤの周方向に1つのみ設けられる態様であってもよく、例えば等間隔に、複数設けられる態様であってもよい。尚、磁性体および磁気センサの対としては、1つの磁性体に対して、1つの磁気センサが磁性体の埋設位置に対応したタイヤ内腔部表面に設置される態様であってもよく、複数の磁気センサが磁性体の埋設位置に対応したタイヤ内腔部表面に設置される態様であってもよい。
【0026】
(2)磁性体
磁性体4は、硬磁性材料の粉粒体(磁性粉)が高分子材料中に分散されて形成され、一方向に着磁されて構成され、その着磁方向がタイヤ半径方向と一致するような姿勢でトレッド部に埋設される。このような硬磁性材料の粉粒体を用いて磁性体を形成した場合、この磁性体は着磁によって永久磁石となるため、その周囲に所定の磁束密度で磁場を形成させることができる一方、着磁後は容易に減磁することがない。
【0027】
そして、本実施の形態においては、貫通孔3の内部に磁性体4が埋め込まれて、凸部2の厚み方向に所定の強さの磁場を形成している。このため、タイヤの摩耗に合わせて摩耗される磁性体4における磁束密度の変化量を知ることにより、タイヤの摩耗状況を知ることができる。
【0028】
磁性体4の形状は、磁性体4で貫通孔3の全体または前記した領域に埋め込むことができるように貫通孔3の形状に合わせて形成されている。磁性体4としては、硬磁性材料の粉粒体(磁性粉)を高分子材料中に分散させた弾性体が用いられる。
【0029】
磁性粉としては、着磁後の保磁力が大きく容易に減磁することがないという観点から、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄を主成分とするアルニコ系磁石、酸化鉄を主成分とするフェライト系磁石、サマリウム、鉄を主成分とするサマリウム系磁石、ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とするネオジム系磁石作製用の磁性材料を好ましく挙げることができる。
【0030】
そして、具体的なアルニコ系磁石としてはAl-Ni-Co-Fe-Cuなどが、フェライト系磁石としてはFe2O3-SrOなどが、サマリウム系磁石としてはSm-Co-Fe-Cu、Sm-Fe-Nなどが、ネオジム系磁石としてはNd-Fe-B-Dy、Nd-Fe-Nb-B、Nd-Pr-Fe-Nb-Bなどが挙げられる。
【0031】
また、上記した各磁性粉は2種以上を選択して用いてもよく、例えば、フェライト系の磁性粉とサマリウム系の磁性粉との混合、サマリウム系の磁性粉とネオジム系の磁性粉との混合により、それぞれ、サマリウム・フェライト系の磁性体、サマリウム・ネオジム系の磁性体を形成させることができる。
【0032】
磁性粉の粒径としては、磁性体の形成に際しての高分子材料への分散性と、金属粒子であることに伴う摩耗性を考慮すると、400μm以下であることが好ましく、250μm以下であるとより好ましい。
【0033】
また、高分子材料としては、タイヤとしての特性を十分に発揮させるという観点から、硬化した状態において弾性を発揮することができる樹脂材料またはゴム材料が好ましく、また、磁性粉を分散させて成る磁性体がトレッドゴムと同じように摩耗して安定した乗り心地を提供するという観点から、硬化後はトレッドゴム組成物と同等の摩耗特性を発揮することができる樹脂材料またはゴム材料が好ましい。
【0034】
上記した高分子材料の内でも、磁性体が設けられる箇所がトレッド部であることを考慮すると、トレッド部に用いられるトレッドゴム組成物と同じ配合のゴム材料が好ましい。すなわち、磁性体は、トレッドゴム組成物と同じ配合のゴム材料に磁性粉を分散させて形成されるのが好ましく、例えば、トレッドゴム組成物の配合における一部の充填材を磁性粉に置換する形で配合してもよい。磁性体中に占める磁性粉の配合量としては、10~70質量%が好ましく、より好ましくは30~70質量%であり、さらに好ましくは40~70質量%である。
【0035】
磁性体への着磁は、公知の着磁装置、例えば、コンデンサー式着磁電源装置、着磁コイル、着磁ヨークなどを用いて行うことができる。なお、着磁を行うタイミングとしては、トレッド部に埋設される前に実施してもよく、トレッド部に埋設した後に実施してもよい。そして、着磁に際しては、磁性体が形成する磁束密度を磁気センサによって十分に検知するという観点から、磁気センサへ向けた方向に磁化させて、磁気センサに向けて密な磁力線を形成させることが好ましい。
【0036】
また、別途成形した磁性体4を貫通孔3に埋め込む方法の場合、磁性体4を成形後、貫通孔3に埋め込む前に着磁すると大型の着磁装置を必要とせず、また、一度に複数の磁性体4を着磁することができるため、効率良く磁性体4を製造することができる。
【0037】
磁性体としては、地磁気に影響されず確実に磁性体の磁束密度の測定ができるという観点から磁気センサが配置されている測定位置で0.05mT以上の磁束密度を有するように構成されていることが好ましい。このような観点を考慮して、磁性体は、磁性体表面で0.05mT以上の磁束密度を有するように構成されていることが好ましい。
【0038】
一方、磁性体の磁力によって車載される他の電子機器などに悪影響を与えないようにするという観点から、磁性体の表面磁束密度は600mT以下であることが好ましく、道路走行時に路面に落ちている釘などの金属片を吸着しないようにするという観点から、磁性体の表面磁束密度は60mT以下であるとより好ましい。なお、磁性体の表面磁束密度は、着磁された磁性体の表面にテスラメーターを直接接触させることにより測定される値である。
【0039】
(3)磁気センサ
磁気センサは、トレッド部の摩耗に合わせて磁性体が摩耗されることにより変化する磁性体の磁束密度を測定するために設けられている。本実施の形態においては、
図1に示すように、磁性体の径方向内側の端部に近接して配置されている。
【0040】
このように、磁気センサを磁性体の径方向内側の端部に近接して配置して、磁気センサに向けて一方向に密に形成された磁力線を磁気センサにおいて検知することにより、磁性体の摩耗により連続的に変化する磁束密度を、常時、安定して正確に測定することができる。
【0041】
具体的な磁気センサとしては、タイヤの内腔部表面に取り付け可能な小さなサイズで、回転するタイヤの振動や変形などにも十分に耐え得るという観点から、ホール素子、磁気抵抗素子(MR)、磁気インピーダンス(MI)素子などを好ましく挙げることができ、これらの内でも、測定精度の観点から磁気抵抗素子がより好ましい。
【0042】
そして、センサモジュール11は、
図2に示すように、この磁気センサと共に、検知されたデータを受信する受信部、受信したデータを車両本体に設けられた摩耗状態判定装置に向けて有線または無線で送信する送信部、それに伴うアンテナ、電源などが筐体内に収納されて構成されている。
【0043】
また、このセンサモジュール11には、磁気センサ以外に、タイヤの内圧を検知する圧力センサ、温度を計測する温度センサ、加速度を検知する加速度センサなどが併せて収納されていてもよく、これらの複数のセンサを用いることにより、磁束密度に加えて、タイヤの内圧、タイヤの温度、加速度データなどをリアルタイムで取得することができる。そして、これらの複数のセンサで取得された各データを利用して総合的に分析することにより、タイヤの状態をより詳細に把握することができ、今後期待されている車両の自動運転制御に有効に利用することができる。
【0044】
センサモジュール11としては、上記のような構成に限らず、後述する摩耗量と磁束密度との関係を示す照合用のデータを記憶する記憶部、および、記憶部に記憶される照合用のデータを用い、磁気センサによって検知された磁束密度に基づいてトレッド部の摩耗状態を測定する測定部を備え、測定部によって測定された摩耗状態のデータを送信部によって車両本体に設けられた装置へ送信するように構成されても良い。
【0045】
タイヤへのセンサモジュール11の取付方法としては、例えば、タイヤ内腔部表面に設けられたソケットに装着する方法、タイヤ内腔部表面に直接接着する方法、タイヤに埋め込む方法などを適宜採用することができ、この内でも、タイヤ内腔部表面に設けられたソケットへのセンサモジュールの装着は、取り付け、交換が容易であるため、特に好ましい。
【0046】
[2]本実施の形態に係る空気入りタイヤの製造方法
本実施の形態に係る空気入りタイヤは、通常の空気入りタイヤの製造工程に加えて、貫通孔形成工程と磁性体埋込工程とを備えた製造方法により製造することができる。以下、この貫通孔形成工程と磁性体埋込工程について説明する。
【0047】
1.貫通孔形成工程
本工程は、加硫成形された空気入りタイヤのトレッド部の凸部の1つ以上に、接地面側から径方向内方に向けて、磁性体を埋め込むための貫通孔を形成する工程である。
【0048】
具体的には、加硫成形された空気入りタイヤのトレッド部の1つ以上に、コルクボーラー、ドリル、ホールカッターなどの穿孔治具を用いて、接地面側から径方向内方に向けて穿孔することにより、貫通孔を形成する。これらの穿孔治具の内でも、穿孔作業の容易さを考慮すると、コルクボーラーが好ましい。
【0049】
2.磁性体埋込工程
本工程は、貫通孔形成工程において形成された貫通孔に、磁性体を埋め込む工程である。磁性体は別途作製されたものを用いても、貫通孔内に硬磁性材料が分散された高分子材料を流し込み硬化することにより作製してもよい。以下においては、まず、磁性体の作製について説明し、その後、磁性体の埋め込みについて説明する。
【0050】
別途作製された磁性体を使用する場合は、磁性粉を用いた磁性体は、磁性粉および高分子材料を適宜選択して、適切に配合して混練し、所定の形状、即ち、磁性体の埋込に適した形状に形成した後、着磁することにより、作製することができる。その後、着磁された磁性体が貫通孔に埋め込まれる。磁性体の埋込後、センサモジュールが磁性体の近傍に設置される。
【0051】
また、磁性体を貫通孔内で作製する場合、上記した磁性粉および高分子材料を適宜選択して、液状の高分子材料に所定の配合比率で磁性粉を分散させて適切に配合して混練した液状または粘性体状の磁性体の材料を、硬化する前に貫通孔3に注入して充填した後、硬化する方法を用いることができる。硬化後、磁性体は着磁され、センサモジュールが磁性体の近傍に設置される。
【0052】
[3]タイヤ摩耗測定方法
次に、本実施の形態に係るタイヤにおける摩耗測定方法について説明する。
【0053】
本実施の形態においては、上記した空気入りタイヤに対して、以下の手順に従ってその摩耗状態を測定する。
【0054】
1.事前のデータ取得
測定に先立って、予め、測定対象と同じ種類のタイヤについて、磁性体の摩耗により変化する磁場の磁束密度を内腔部表面に設けられている磁気センサにより測定し、データを取得する。
【0055】
具体的には、まず、製造直後の新品タイヤ(測定対象と同じ種類のタイヤ)における磁束密度を測定し、その後、このタイヤに対して、タイヤ摩耗ドラム試験機を用いて、摩耗限度を超えるまで、タイヤを摩耗させていく。そして、途中、所定時間毎に装置を停止させて、その時点での摩耗量と磁束密度とを測定する。
【0056】
このとき、磁気センサはタイヤ内部の磁性体に対応した径方向内方の位置に配置されて、磁気センサと磁性体との間の位置関係が一定に維持されているため、変化する磁束密度を安定して正確に測定することができる。
【0057】
その後、測定された各時点での摩耗量と磁束密度とに基づいて摩耗量と磁束密度との関係を示す照合用のデータを作成し、作成されたデータを車両本体に設けられた摩耗状態判定装置に記憶させる。
【0058】
2.測定対象タイヤの実車への装着と走行
次に、測定対象のタイヤを実車に装着して走行する。走行することにより、トレッド部と共に磁性体が摩耗していくため、磁気センサにより検知される磁束密度が変化する。
【0059】
そして、磁気センサにより測定されたこの磁束密度の変化を、磁気センサから受信した摩耗状態判定装置において、予め記憶されている照合用のデータと照合することにより、測定対象のタイヤにおいて、どの程度まで摩耗が進行しているかを判定することができる。
【0060】
なお、磁束密度の測定に当たっては、外部の磁界変化などによって生じる磁束密度の変化(外乱)の影響が考えられるが、これらの影響は、徐々に進行するタイヤの摩耗に伴い徐々に変更する磁束密度と異なり、大きな変化として現れるため、統計的な処理を施すことによって、これらの外乱を排除することができる。
【0061】
以上のように、本実施の形態に係るタイヤにおいて、上記した摩耗測定方法を適用することにより、磁気センサと磁性体との間の位置関係を一定に維持して、摩耗に合わせて変化する磁束密度を常時安定して正確に測定することができるため、タイヤの摩耗状態をより正確に安定して測定することができる。
【0062】
次に、上記した摩耗測定技術の応用技術について述べる。
【0063】
近年、車両に蓄積された静電気を路面に逃がすために、トレッドに通電層を設けたベースペン構造を有するタイヤが製造されているが、このようなベースペン構造を有するタイヤにおいては、タイヤの摩耗を検知しようとすると磁性体や検知手段の配置には大きな制約があるため、ベースペンを一方向に着磁された磁性体により形成し、磁気センサを磁性体(ベースペン)に対応した径方向内方の位置に配置して、タイヤの摩耗を検知することが好ましい。
【0064】
即ち、ベースペン構造を有するタイヤでは、凸部および凹溝によってパターンが形成されたトレッド部において、前記凸部の1つ以上に、磁性体により形成されたベースペンが埋め込まれており、磁性体により形成される磁場の磁束密度を検知する磁気センサが、磁性体に対応した径方向内方の位置に配置され、磁性体は、硬磁性材料の粉粒体が高分子材料中に分散されて形成されると共に一方向に着磁されて成り、着磁方向とタイヤ半径方向とが一致するようにトレッド部に内包されている。
【0065】
このとき、着磁された磁性体は導電性を有する硬磁性体であるため、このようなベースペンが埋め込まれて、凸部の厚み方向に磁場が形成されていると、従来のベースペンと同様に車両に蓄積された静電気を路面に逃がすことができることに加えて、凸部の摩耗に伴って磁性体が変形することによって生じる磁場の磁束密度の変化を計測することにより、摩耗の開始から摩耗限度に至る間の摩耗の度合いを連続的に検出することができる。
【0066】
そして、磁束密度の変化を計測する磁気センサがタイヤ内部の磁性体に対応した径方向内方の位置、即ちタイヤ自体に配置されているため、タイヤが、車体の傾斜、走行中の路面の性状、タイヤの空気圧などの影響を受けた場合でも、磁気センサと磁性体との間の位置関係を一定に維持することができ、磁束密度の変化を安定して正確に測定することができ、タイヤの摩耗状態を高い精度で把握することができる。
【0067】
そして、磁性体によりベースペンを形成するため、磁性体の埋め込みに際しては、従来のベースペンの形成技術を適用することができ、磁性体の配置のための新たな工程を設ける必要がなく、効率的にタイヤを製造して生産性を高めることができる。
【0068】
図3は、このようなベースペン構造を有するタイヤにおける磁性体および磁気センサの配置の一例を示す図であり、凹溝に囲まれて形成された1つの凸部2を示している。
図3において、トレッド部1には、一端が接地面8に露出し、他端が径方向内方の導電性部材であるタイヤ部材のブレーカー5に接している磁性体13により形成されたベースペンが埋め込まれている。
【0069】
ベースペンを形成する磁性体13は、一方向に着磁されて成り、着磁方向とタイヤ半径方向とが一致するようにトレッド部に内包されている。そして、磁気センサは、磁性体13が埋め込まれた凸部の位置に対応するタイヤの径方向内方に設けられている。
【0070】
ここで、磁性体としては、前記した磁性体が使用できるが、ベースペンとして用いることから以下の特性を備えていることが好ましい。
【0071】
まず、磁性体13がベースペンとして機能するためには、磁性体13の固有抵抗が1×108Ω・cm以下であることが好ましく、1×106Ω・cm以下であることがより好ましい。
【0072】
そして、磁性体13に使用される磁性材料としては、導電材を添加しなくてもベースペンとして機能する点から、導電性の磁性材料が好ましく用いられることが好ましい。このような導電性の磁性材料としては、アルニコ系磁石、サマリウム系磁石、ネオジム系磁石などの金属磁石、あるいはポリアニリン骨格上にテトラシアノキノジメタンの構造を持たせた磁性ポリマーから作られた非金属磁石などが挙げられる。
【0073】
また、ベースペンとしての十分な導電性を確保するという観点から、必要に応じて磁性体13を形成する材料にカーボンブラックを添加してもよい。添加するカーボンブラックとしては、長期に亘って接地性及び帯電防止機能を発揮させるという観点からアグリゲート特性としてストークス相当径の分布曲線の最大頻度径(Dmod)が43~79nm、Dmodに対する分布曲線半値幅(ΔD50)の比(ΔD50/Dmod)が0.78~2.5のカーボンブラックが好ましく用いられる。
【0074】
磁性体13は、通常のベースペン構造の空気入りタイヤの製造工程におけるベースペン形成工程が、磁性体形成工程を兼ねることにより形成することができる。
【0075】
一例として、硬磁性材料の粉粒体が高分子材料中に分散されて形成される磁性体は、トレッド部を押し出し成形する工程でベースペンを形成する公知の方法である共押し出しを用いて形成することができる。具体的には、例えば、3軸押出機を用いて、ベース層、キャップ層、磁性体(ベースペン)を一体押出した後、磁性体を所定の方向に着磁することにより形成される。
【0076】
また、別の方法として、例えば、ストリップワインド工法を用いて形成することができる。即ち、トレッドリング成形工程で、通常のベースペン形成用のゴム組成物からなるゴムストリップに替えて、磁性体形成用のゴム組成物からなるゴムストリップをブレーカー5上のベースペン形成位置に巻き付けることによって、磁性体(ベースペン)13を形成する。
【0077】
図4は、ベースペン構造を有するタイヤの製造において、ベースペン構造を形成する工程を説明する図であり、(a)から(c)の手順に従ってベースペンが形成される。まず、
図4(a)に示すように、ゴムストリップを積層して、トレッド層14を形成する。次に、
図4(b)に示すように、トレッド層14に沿わせる形で磁性体を積層して、磁性体15により形成されたベースペンを形成する。その後、
図4(c)に示すように、磁性体15から形成されたベースペンの外側に、再度、トレッド層14を形成する。これにより、磁性体から形成されたベースペンを有するトレッドが形成される。
【0078】
なお、着磁には、上記したように公知の着磁装置、例えば、コンデンサー式着磁電源装置、着磁コイル、着磁ヨークなどが用いられる。
【0079】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 トレッド部
2 凸部
3 貫通孔
4 磁性体
5 ブレーカー
6 ブレーカーコード
7 内腔部表面
8 接地面
9 凹溝
10 磁気センサ
11 センサモジュール
13、15 磁性体(ベースペン)
14 トレッド層