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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20230925BHJP
   B60C 11/24 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
B60C19/00 B
B60C11/24 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019134608
(22)【出願日】2019-07-22
(65)【公開番号】P2021017158
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸川 広人
(72)【発明者】
【氏名】越智 淳
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/107296(WO,A1)
【文献】特開2019-064433(JP,A)
【文献】特開2019-064432(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0276044(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00
B60C 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に磁性体が内包されており、
前記磁性体により形成される磁場の磁束密度を検知する磁気センサが、前記磁性体に対向した径方向内方で、径方向の内方側の端部が内腔部表面より前記磁性体側に位置するように埋設されており、
前記磁性体は、硬磁性材料の粉粒体が高分子材料中に分散されて形成されると共に一方向に着磁されて成り、着磁方向とタイヤ半径方向とが一致するようにトレッド部に内包されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記磁気センサは、径方向の内方側の端部がタイヤ部材を構成する金属部材よりも前記磁性体側に位置するように埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記磁気センサと有線接続され、前記磁気センサが検知したデータを受信して外部受信手段に無線送信する送受信手段が、センサモジュールに収納されており、
前記センサモジュールが、前記内腔部表面に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記センサモジュールが、さらに、圧力センサ、温度センサおよび加速度センサから選択された1または2以上のセンサを収納しており、
前記センサが検知したデータを前記送受信手段により前記外部受信手段に送信することを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記硬磁性材料が、アルニコ系磁石、フェライト系磁石、サマリウム系磁石、ネオジム系磁石作製用の磁性粉から選択された1種または2種以上の磁性粉であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用の空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に装着された空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ともいう)は、走行に伴って地面と接するトレッド部が摩耗していき、トレッド溝が徐々に浅くなってくる。そして、このトレッド溝の深さが摩耗限度を超えて浅くなると、走行中にスリップが発生するなどして、事故の発生を招く危険性が増す。このため、従来より、トレッド部の摩耗量が摩耗限度を超えないように管理し、摩耗限度に達した場合には早期にタイヤを交換して、走行時の安全性を確保することが定められている。
【0003】
具体的にトレッド部の摩耗状態をチェックする方法として、一般的には、トレッド部に例えばスリップサイン等の目印を設けておき、この目印が現れると摩耗量が摩耗限度に達したと判断している。しかし、一般のユーザーに対して、この目印の確実なチェックについて過大には期待できないため、このようなユーザーによる目視確認に替えて、タイヤの摩耗状態を技術的に把握してユーザーが交換時期が来たことを正確に認識できる技術が提案されている。
【0004】
例えば、摩耗が摩耗限度となる箇所に磁性材料からなる被検出体を埋設しておき、磁気センサなどを検知手段として用いて、摩耗により露出した被検出体を検知することでタイヤが摩耗限度まで摩耗したことを検出するタイヤ摩耗限度検出装置(例えば特許文献1)や、トレッドの溝部やタイヤ内部に埋設された磁性体がトレッド部の摩耗に合わせて形状変化することに伴う磁場の強さの変化を、磁気センサなどの検知手段を用いて検知することによってタイヤの摩耗状態を測定するタイヤの摩耗測定方法(例えば特許文献2)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭62-83704号公報
【文献】特許第4054196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のタイヤ摩耗限度検出装置および特許文献2のタイヤの摩耗測定方法のいずれも、磁気センサなどの検知手段は、車体側の、例えばタイヤハウスに設けられている。このため、回転するタイヤ側に設けられた磁性体が検知手段に近接した場合しか磁性体を検知することができず、間欠的な測定しかできない。また、検知手段と磁性体との間の位置関係は、車体の傾斜や、走行中の路面の性状、タイヤの空気圧などで、変化しやすいため、磁場の強さを安定して正確に測定することができない。このため、近年の車両の安全性に対する強い要請に合わせて、タイヤの摩耗状態をより正確に把握できる空気入りタイヤが求められている。
【0007】
そこで、本発明は、摩耗により変化する磁場の強さを常時、安定して正確に測定することにより、タイヤの摩耗状態を常時正確に把握することができる空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、以下に記載する発明により上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
請求項1に記載の発明は、
トレッド部に磁性体が内包されており、
前記磁性体により形成される磁場の磁束密度を検知する磁気センサが、前記磁性体に対向した径方向内方で、径方向の内方側の端部が内腔部表面より前記磁性体側に位置するように埋設されており、
前記磁性体は、硬磁性材料の粉粒体が高分子材料中に分散されて形成されると共に一方向に着磁されて成り、着磁方向とタイヤ半径方向とが一致するようにトレッド部に内包されていることを特徴とする空気入りタイヤである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、
前記磁気センサは、径方向の内方側の端部がタイヤ部材を構成する金属部材よりも前記磁性体側に位置するように埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、
前記磁気センサと有線接続され、前記磁気センサが検知したデータを受信して外部受信手段に無線送信する送受信手段が、センサモジュールに収納されており、
前記センサモジュールが、前記内腔部表面に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤである。
【0012】
請求項4に記載の発明は、
前記センサモジュールが、さらに、圧力センサ、温度センサおよび加速度センサから選択された1または2以上のセンサを収納しており、
前記センサが検知したデータを前記送受信手段により前記外部受信手段に送信することを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤである。
【0013】
請求項5に記載の発明は、
前記硬磁性材料が、アルニコ系磁石、フェライト系磁石、サマリウム系磁石、ネオジム系磁石作製用の磁性粉から選択された1種または2種以上の磁性粉であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、摩耗により変化する磁場の強さを常時、安定して正確に測定することにより、タイヤの摩耗状態を常時正確に把握することができる空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態に係る空気入りタイヤにおけるトレッド部の模式的斜視図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る空気入りタイヤにおける磁性体と磁気センサとの位置関係を説明する模式的断面図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る空気入りタイヤにおけるセンサモジュールの配置位置を説明する模式的断面図である。
図4】本発明の他の実施の形態に係る空気入りタイヤにおけるセンサーモジュールの配置位置を説明する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を用いて説明する。
【0017】
[1]本実施の形態に係る空気入りタイヤ
1.本実施の形態に係る空気入りタイヤの概要
はじめに、本実施の形態に係る空気入りタイヤの概要について説明する。本実施の形態に係る空気入りタイヤは、トレッド部に磁性体が内包されており、磁性体により形成される磁場の磁束密度を検知する磁気センサが、磁性体に対向した径方向内方で、径方向の内方側の端部が内腔部表面より磁性体側に位置するように埋設されていることを特徴としている。
【0018】
トレッド部に内包されている磁性体は、硬磁性材料の粉粒体が高分子材料中に分散されて形成されると共に一方向に着磁されて成り、着磁方向とタイヤ半径方向とが一致するようにトレッド部に内包されており、車両の走行に伴うトレッド部の摩耗に合わせて摩耗して、磁束密度が連続的に変化していく。このとき、磁束密度を検知する磁気センサがタイヤ内部の磁性体に対向した径方向内方で、径方向の内方側の端部が内腔部表面より磁性体側に位置するように埋設、即ちタイヤ自体に配置されているため、磁気センサによって磁性体の磁束密度の連続的変化を測定することができ、車両に装着されたタイヤの摩耗状態を経時的に把握することができる。
【0019】
そして、本実施の形態においては、タイヤが、車体の傾斜、走行中の路面の性状、タイヤの空気圧などの影響を受けた場合でも、磁気センサと磁性体との間の位置関係を一定に維持することができるため、磁束密度の変化を安定して正確に測定することができ、タイヤの摩耗状態を高い精度で把握することができる。
【0020】
また、本実施の形態においては、磁気センサが、磁性体に対向した径方向内方で、径方向の内方側の端部が内腔部表面より磁性体側に位置するように、即ち、タイヤの内腔部表面より磁性体に近い位置に位置するように埋設されている。磁気センサは磁性体と近い距離にあるほど高い検出感度で測定することができるため、内腔部表面に配置した場合に比べて磁束密度の検出感度が向上し、これにより磁場の強さを十分に正確に測定して、タイヤの摩耗状態を高い精度で把握することができる。特にタイヤに金属部材などが埋設されている場合、磁気センサを径方向の内方側の端部が金属部材より磁性体側に位置するように埋設することで、金属部材による検出感度の低下を回避することができる。
【0021】
2.本実施の形態に係る空気入りタイヤの特徴部
上記したように、本実施の形態に係る空気入りタイヤは、硬磁性材料の粉粒体が高分子材料中に分散されて形成された磁性体と磁気センサとが、同じタイヤの径方向の内と外のそれぞれに対向して配置され、磁性体が一方向に着磁されており、着磁方向とタイヤ半径方向とが一致するようにトレッド部に内包されていると共に、磁気センサが磁性体に対向した径方向内方で、径方向の内方側の端部が内腔部表面より磁性体側の位置に位置するように埋設されていることを特徴としている。そこで、以下においては、はじめに、この磁性体と磁気センサとの位置関係について説明し、その後、磁性体と磁気センサのそれぞれについて説明する。
【0022】
(1)磁性体と磁気センサとの位置関係
図1は本実施の形態に係る空気入りタイヤにおけるトレッド部の模式的斜視図であり、図2は本実施の形態に係る空気入りタイヤにおける磁性体と磁気センサとの位置関係を説明する模式的断面図である。図1、2において、1はトレッド部であり、凸部(陸部)2および凹部(海部)3によってトレッドパターンが形成されており、接地面8で地面と接している。そして、4は磁性体、5はブレーカー、6はブレーカーコード、7は内腔部表面、9は磁気センサである。
【0023】
本実施の形態においては、図1に示すように、磁性体4はトレッド部1における凸部2の一部を構成しており、タイヤ半径方向に沿って延びるように設けられている。より具体的には、磁性体4は、そのタイヤ半径方向の外方側の端部が凸部2における接地面8を形成するようにタイヤの外部に露出し、タイヤ半径方向の内方側の端部が、そのタイヤについて国の法令等で定められている摩耗限度の位置(例えば、乗用車タイヤ、ライトトラック用タイヤおよびトラックバス用タイヤでは、主溝の底面からの高さが1.6mmの位置)よりもタイヤ半径方向の内方側に位置するようにトレッド部1に埋設されている。また、図2に示すように、磁気センサ9は磁性体4に対向した径方向内方で、径方向の内方側の端部が内腔部表面7より磁性体4側に位置するように埋設されている。
【0024】
このように、1つのタイヤの径方向の内と外のそれぞれに対向して磁気センサ9と磁性体4とが配置されていることにより、両者の間隔が常に一定に維持され、車体の傾斜、走行中の路面の性状、タイヤの空気圧などの影響を受けることなく、磁性体4における磁束密度の変化を磁気センサ9によって検知することができるため、タイヤの摩耗状態を高い精度で常時把握することができる。
【0025】
さらに、タイヤには例えばブレーカーコードとしてスチールコードなどの各種金属部材が埋設されている場合があるが、この場合、磁性体と磁気センサの間に金属部材があることにより磁束密度の検出感度が低下する恐れがある。しかし、上記したように磁気センサを径方向の内方側の端部が金属部材よりも磁性体側に位置するように埋設した場合、金属部材による検出感度の低下を回避することができ、磁気センサによる磁束密度の検出感度が向上して、磁束密度をより一層正確に測定することができる。
【0026】
なお、磁性体の態様については、磁気センサと磁性体とが上記のような位置関係にあって、磁気センサで磁性体の変化する磁束密度を測定できる限り、特には限定されない。例えば、磁性体は、そのタイヤ半径方向の外方側の端部がタイヤの外部に露出せずトレッド部1の内部に位置するように埋設される態様であってもよく、そのタイヤ半径方向の内方側の端部が摩耗限度の位置に略一致、或いは摩耗限度の位置よりもタイヤ半径方向の外方側に位置するように埋設される態様であってもよい。
【0027】
磁性体および磁気センサの対は、トレッド部1に形成される1つの凸部にのみ設けられる態様であってもよく、複数の凸部に設けられる態様であってもよい。さらに、磁性体および磁気センサの対は、トレッド部1に形成される1つの凸部において、タイヤの周方向に1つのみ設けられる態様であってもよく、例えば等間隔に、複数設けられる態様であってもよい。尚、磁性体および磁気センサの対としては、1つの磁性体に対して、1つの磁気センサが磁性体の埋設位置に対向したタイヤ内腔部表面に設置される態様であってもよく、複数の磁気センサは径方向の内方側の端部が磁性体の埋設位置に対向したタイヤ内腔部表面より磁性体側に位置するように埋設されている態様であってもよい。
【0028】
図4は他の実施の形態に係る空気入りタイヤにおけるセンサモジュールの配置位置を説明する模式的断面図である。図2図3においてはトレッド部全体が磁性体からなる態様を示したが、図4に示すように、トレッド部に凹状部を設けて磁性体4を埋設する態様であってもよい。このような凹状部は、トレッド部にコルクボーラー、ドリル、ホールカッターなどの穿孔治具を用いて、接地面側から径方向内方に向けて穿孔することにより形成することができる。
【0029】
(2)磁性体
磁性体4は、硬磁性材料の粉粒体(磁性粉)が高分子材料中に分散されて形成され、一方向に着磁されて構成され、その着磁方向がタイヤ半径方向と一致するような姿勢でトレッド部に埋設される。このような硬磁性材料の粉粒体を用いて磁性体を形成した場合、この磁性体は着磁によって永久磁石となるため、その周囲に所定の磁束密度で磁場を形成させることができる一方、着磁後は容易に減磁することがない。
【0030】
磁性粉としては、着磁後の保磁力が大きく容易に減磁することがないという観点から、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄を主成分とするアルニコ系磁石、酸化鉄を主成分とするフェライト系磁石、サマリウム、鉄を主成分とするサマリウム系磁石、ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とするネオジム系磁石作製用の磁性粉を好ましく挙げることができる。
【0031】
そして、具体的なアルニコ系磁石としては、Al-Ni-Co-Fe-Cuなどが、フェライト系磁石としては、Fe-SrOなどが、サマリウム系磁石としては、Sm-Co-Fe-Cu、Sm-Fe-Nなどが、ネオジム系磁石としては、Nd-Fe-B-Dy、Nd-Fe-Nb-B、Nd-Pr-Fe-Nb-Bなどが挙げられる。
【0032】
また、上記した各磁性粉は2種以上を選択して用いてもよく、例えば、フェライト系の磁性粉とサマリウム系の磁性粉との混合、サマリウム系の磁性粉とネオジム系の磁性粉との混合により、それぞれ、サマリウム・フェライト系の磁性体、サマリウム・ネオジム系の磁性体を形成させることができる。
【0033】
磁性粉の粒径としては、磁性体の形成に際しての高分子材料への分散性と、金属粒子であることに伴う摩耗性を考慮すると、400μm以下であることが好ましく、250μm以下であるとより好ましい。高分子材料との均質性を考慮すると、10μm以下であるとさらに好ましい。
【0034】
また、高分子材料としては、タイヤとしての特性を十分に発揮させるという観点から、硬化した状態において弾性を発揮することができる樹脂材料またはゴム材料が好ましく、また、磁性粉を分散させて成る磁性体がトレッドゴムと同じように摩耗して安定した乗り心地を提供するという観点から、硬化後はトレッドゴム組成物と同等の摩耗特性を発揮することができる樹脂材料またはゴム材料が好ましい。
【0035】
上記した高分子材料の内でも、磁性体が設けられる箇所がトレッド部であることを考慮すると、トレッド部に用いられるトレッドゴム組成物と同じ配合のゴム材料が好ましい。すなわち、磁性体は、トレッドゴム組成物と同じ配合のゴム材料に磁性粉を分散させて形成されるのが好ましく、例えば、トレッドゴム組成物の配合における一部の充填材を磁性粉に置換する形で配合してもよい。磁性体中に占める磁性粉の配合量としては、10~70質量%が好ましく、より好ましくは30~70質量%であり、さらに好ましくは40~70質量%である。
【0036】
磁性体への着磁は、公知の着磁装置、例えば、コンデンサー式着磁電源装置、着磁コイル、着磁ヨークなどを用いて行うことができる。なお、着磁を行うタイミングとしては、トレッド部に埋設される前に実施してもよく、トレッド部に埋設した後に実施してもよい。
【0037】
磁性体としては、地磁気に影響されず確実に磁性体の磁束密度の測定ができるという観点から磁気センサが配置されている測定位置で0.05mT以上の磁束密度を有するように構成されていることが好ましく、タイヤ内部に設けられているスチールコードによる帯磁や減衰の影響下でも確実に磁性体の磁束密度の測定ができるという観点から前記測定位置で0.5mT以上の磁束密度を有するように構成されていることがより好ましい。このような観点を考慮して、磁性体は、磁性体表面で1mT以上の磁束密度を有するように構成されていることが好ましい。
【0038】
一方、磁性体の磁力によって車載される他の電子機器などに悪影響を与えないようにするという観点から、磁性体の表面磁束密度は600mT以下であることが好ましく、道路走行時に路面に落ちている釘などの金属片を吸着しないようにするという観点から、磁性体の表面磁束密度は60mT以下であるとより好ましい。なお、磁性体の表面磁束密度は、着磁された磁性体の表面にテスラメーターを直接接触させることにより測定される値である。
【0039】
(3)磁気センサ
磁気センサは、トレッド部の摩耗に合わせて磁性体が摩耗されることにより変化する磁性体の磁束密度を測定するために設けられている。本実施の形態においては、図2に示すように、磁気センサ9は磁性体4に対向した径方向内方で径方向の内方側の端部が内腔部表面7より磁性体側に位置するように埋設されている。
【0040】
このように、1本のタイヤ内の対向する位置で磁気センサ9の径方向の内方側の端部が内腔部表面より磁性体側に位置するように磁気センサ9と磁性体4を配置して、磁気センサ9に向けて一方向に密に形成された磁力線を磁気センサ9において検知することにより、磁性体の摩耗により連続的に変化する磁束密度を、常時、安定して正確に測定することができる。
【0041】
具体的な磁気センサとしては、タイヤの内部に埋設して取り付け可能な小さなサイズで、回転するタイヤの振動や変形などにも十分に耐え得るという観点から、ホール素子、磁気抵抗素子(MR)、磁気インピーダンス(MI)素子などを好ましく挙げることができ、これらの内でも、精度の観点から磁気抵抗素子がより好ましい。
【0042】
本実施の形態のタイヤにおいては、磁気センサ9を磁性体4に近づけるためにタイヤに埋設して取り付けている。上記したように磁気センサは小さいサイズであるためタイヤ内部に埋設して取り付け可能だが、電源や送受信装置などを備えたセンサモジュールは磁気センサと比べて大きなサイズであるため磁気センサと共にタイヤ内部に埋め込むとタイヤ性能の低下を招く恐れがある。そのため、センサモジュール10は磁気センサとセパレートしてタイヤ内腔部に設置する。
【0043】
センサモジュール10は、磁気センサ9が検出したデータを受信する受信部、受信したデータを車両本体に設けられた摩耗状態判定装置に向けて有線または無線で送信する送信部、それに伴うアンテナ、電源などが筐体内に収納されて構成されている。そして、磁気センサは送信コードを介してセンサモジュールに接続されている。
【0044】
また、このセンサモジュール10には、タイヤの内圧を検知する圧力センサ、温度を計測する温度センサ、加速度を検知する加速度センサなどが併せて収納されていてもよく、これらの複数のセンサを用いることにより、磁束密度に加えて、タイヤの内圧、タイヤの温度、加速度データなどをリアルタイムで取得することができる。そして、これらの複数のセンサで取得された各データを利用して総合的に分析することにより、タイヤの状態をより詳細に把握することができ、今後期待されている車両の自動運転制御に有効に利用することができる。
【0045】
センサモジュール10としては、上記のような構成に限らず、後述する摩耗量と磁束密度との関係を示す照合用のデータを記憶する記憶部、および、記憶部に記憶される照合用のデータを用い、磁気センサ9によって検知された磁束密度に基づいてトレッド部の摩耗状態を測定する測定部を備え、測定部によって測定された摩耗状態のデータを送信部によって車両本体に設けられた装置へ送信するように構成されても良い。
【0046】
タイヤへのセンサモジュール10の取付方法としては、例えば、タイヤ内腔部表面に設けられたソケットに装着する方法、タイヤ内腔部表面に直接接着する方法、タイヤに埋め込む方法などを適宜採用することができ、この内でも、タイヤ内腔部表面に設けられたソケットへのセンサモジュールの装着は、取り付け、交換が容易であるため、特に好ましい。
【0047】
図3は本実施の形態のタイヤにおけるセンサモジュールの配置位置を説明する模式的断面図である。図3では磁気センサ9はブレーカーコード6より磁性体4側に埋設されており、センサモジュール10はタイヤ内腔部に設置されている。そして磁気センサ9とセンサモジュール10は送信コード11で接続されている。このように、センサモジュールと磁気センサ9をセパレートすることにより磁気センサ9を磁性体4により近接して配置することができ検出感度を高めることができる。
【0048】
また、例えば、トラックバスタイヤにおいては、ブレーカーコード6にタイヤの補強のためにタイヤ部材を構成する金属部材であるスチールコードが使用される場合がある。このような場合でも、図3のような構成とし、磁性体4と磁気センサ9を近接させることにより、金属部材による検出感度の低下を回避し、磁束密度をより高い感度の下で測定することができる。
【0049】
[2]タイヤ摩耗測定方法
次に、本実施の形態に係る空気入りタイヤにおけるタイヤ摩耗測定方法について説明する。
【0050】
本実施の形態においては、上記した空気入りタイヤに対して、以下の手順に従ってその摩耗状態を測定する。
【0051】
1.事前のデータ取得
測定に先立って、予め、測定対象と同じ種類のタイヤについて、磁性体の摩耗により変化する磁場の磁束密度を径方向の内方側の端部が内腔部表面より磁性体側に位置するように埋設されている磁気センサにより測定し、データを取得する。
【0052】
具体的には、まず、製造直後の新品タイヤ(測定対象と同じ種類のタイヤ)における磁束密度を測定し、その後、このタイヤに対して、タイヤ摩耗ドラム試験機を用いて、摩耗限度を超えるまで、タイヤを摩耗させていく。そして、途中、所定時間毎に装置を停止させて、その時点での摩耗量と磁束密度とを測定する。
【0053】
その後、測定された各時点での摩耗量と磁束密度とに基づいて摩耗量と磁束密度との関係を示す照合用のデータを作成し、作成されたデータを車両本体に設けられた摩耗状態判定装置に記憶させる。
【0054】
2.測定対象タイヤの実車への装着と走行
次に、測定対象のタイヤを実車に装着して走行する。走行することにより、トレッド部と共に磁性体が摩耗していくため、磁気センサにより検知される磁束密度が変化する。
【0055】
そして、磁気センサにより測定されたこの磁束密度の変化を、磁気センサから受信した摩耗状態判定装置において、予め記憶されている照合用のデータと照合することにより、測定対象のタイヤにおいて、どの程度まで摩耗が進行しているかを判定することができる。
【0056】
なお、磁束密度の測定に当たっては、外部の磁界変化などによって生じる磁束密度の変化(外乱)の影響が考えられるが、これらの影響は、徐々に進行するタイヤの摩耗に伴い徐々に変更する磁束密度と異なり、大きな変化として現れるため、統計的な処理を施すことによって、これらの外乱を排除することができる。
【0057】
以上のように、本実施の形態に係るタイヤは、上記した摩耗測定方法を適用することにより、磁気センサと磁性体との間の位置関係を一定に維持して、摩耗に合わせて変化する磁束密度を常時安定して正確に測定することができるため、タイヤの摩耗状態をより正確に安定して測定することができる。
【0058】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 トレッド部
2 凸部
3 凹部
4 磁性体
5 ブレーカー
6 ブレーカーコード
7 内腔部表面
8 接地面
9 磁気センサ
10 センサモジュール
11 送信コード
図1
図2
図3
図4