(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】難燃性ポリアミド組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 77/06 20060101AFI20230925BHJP
C08K 5/5313 20060101ALI20230925BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20230925BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20230925BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230925BHJP
C08K 3/011 20180101ALI20230925BHJP
C08K 3/016 20180101ALI20230925BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K5/5313
C08K5/098
C08K5/20
C08K3/013
C08K3/011
C08K3/016
(21)【出願番号】P 2020516673
(86)(22)【出願日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 US2018048692
(87)【国際公開番号】W WO2019060117
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-08-13
(32)【優先日】2017-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519393129
【氏名又は名称】デュポン ポリマーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】アンナクッティ マシュー
(72)【発明者】
【氏名】野崎 雅裕
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/126381(WO,A1)
【文献】特開2017-025298(JP,A)
【文献】特開2007-254613(JP,A)
【文献】特開2016-050247(JP,A)
【文献】特開平11-012462(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106751800(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106751807(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド組成物であって、
(a)
(i)63~70モルパーセントのヘキサメチレンテレフタルアミド繰り返し単位、及び
(ii)30~37モルパーセントのヘキサメチレンデカンアミド又はヘキサメチレンドデカンアミド繰り返し単位、
を含む、少なくとも1種の半芳香族ポリアミド30~60重量パーセント;
(b)式(I)のホスフィネート、式(II)のジホスフィネート、並びに(I)及び/又は(II)のポリマー:
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、独立に、水素、直鎖、分岐、若しくは環状のC
1~C
6アルキル基であるか、C
6~C
10アリールから選択され;R
3は直鎖又は分岐のC
1~C
10アルキレン基、C
6~C
10アリーレン基、C
6~C
12アルキル-アリーレン基、又はC
6~C
12アリール-アルキレン基であり;Mは、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アンチモンイオン、スズイオン、ゲルマニウムイオン、チタンイオン、鉄イオン、ジルコニウムイオン、セリウムイオン、ビスマスイオン、ストロンチウムイオン、マンガンイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びそれらの組み合せからなる群から選択され;m、n、及びxはそれぞれ、1~4の同一であるか又は異なる整数である)のうちの1種以上を含む少なくとも1種の難燃剤3~30重量パーセント;
(c)潤滑剤0.02~0.65重量パーセント;
(d)少なくとも1種の無機強化剤5~50重量パーセント;
(e)造核剤0~5重量パーセント;並びに
(f)少なくとも1種の難燃剤相乗剤0.2~10重量パーセント;
を含むポリアミド組成物であって、
ここで、
(a)~(f)の重量パーセントが前記ポリアミド組成物の総重量基準であり、
(a)~(f)の重量パーセントが100重量パーセントに等しく、
9秒以下の成形冷却時間を示し、
少なくとも270℃のリフローピーク温度を示し、
UL-94可燃性試験に従って測定されるV-0の可燃性を示す、
ポリアミド組成物。
【請求項2】
前記潤滑剤(c)は、N-ステアリルエルカミド、メチレンベヘニルアミド、エチレンビスベヘニルアミド、ジオクタデシルアジパミド、ジオクタデシルスクシンアミド、エルカミド、ステアリルアミド、エルシルステアルアミド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される
脂肪酸アミド潤滑剤(c)である、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項3】
前記潤滑剤(c)は、ベヘン酸アルミニウム、ベヘン酸ナトリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸アルミニウム、ベヘン酸カルシウム、及びモンタン酸カルシウム、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される
脂肪酸金属塩潤滑剤(c)である、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項4】
(a)
(i)60~63未満モルパーセントのヘキサメチレンテレフタルアミド繰り返し単位、及び
(ii)37~40モルパーセントのヘキサメチレンデカンアミド又はヘキサメチレンドデカンアミド繰り返し単位、
を含む、少なくとも1種の半芳香族ポリアミド30~60重量パーセント;
(b)式(I)のホスフィネート、式(II)のジホスフィネート、並びに(I)及び/又は(II)のポリマー:
【化2】
(式中、R
1及びR
2は、独立に、水素、直鎖、分岐、若しくは環状のC
1~C
6アルキル基、C
6~C
10アリールから選択され;R
3は直鎖又は分岐のC
1~C
10アルキレン基、C
6~C
10アリーレン基、C
6~C
12アルキル-アリーレン基、又はC
6~C
12アリール-アルキレン基であり;Mは、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アンチモンイオン、スズイオン、ゲルマニウムイオン、チタンイオン、鉄イオン、ジルコニウムイオン、セリウムイオン、ビスマスイオン、ストロンチウムイオン、マンガンイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びそれらの組み合せからなる群から選択され;m、n、及びxはそれぞれ、1~4の同一であるか又は異なる整数である)のうちの1種以上を含む少なくとも1種の難燃剤3~30重量パーセント;
(c)潤滑剤0.02~0.65重量パーセント;
(d)少なくとも1種の無機強化剤5~50重量パーセント;
(e)造核剤0.02~5重量パーセント;並びに
(f)難燃剤相乗剤0.2~10重量パーセント;
を含むポリアミド組成物であって、
ここで、
(a)~(f)の重量パーセントがポリアミド組成物の総重量基準であり、
(a)~(f)の重量パーセントが100重量パーセントに等しく、
9秒以下の成形冷却時間を示し、
少なくとも270℃のリフローピーク温度を示し、
UL-94可燃性試験に従って測定されるV-0の可燃性を示す、
ポリアミド組成物。
【請求項5】
前記潤滑剤(c)は、N-ステアリルエルカミド、メチレンベヘニルアミド、エチレンビスベヘニルアミド、ジオクタデシルアジパミド、ジオクタデシルスクシンアミド、エルカミド、ステアリルアミド、エルシルステアルアミド、N-ステアリルエルカミド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される
脂肪酸アミド潤滑剤(c)である、請求項4に記載のポリアミド組成物。
【請求項6】
前記潤滑剤(c)は、ベヘン酸アルミニウム、ベヘン酸ナトリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸アルミニウム、ベヘン酸カルシウム、及びモンタン酸カルシウム、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される
脂肪酸金属塩潤滑剤(c)である、請求項4に記載のポリアミド組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のポリアミド組成物を含む物品。
【請求項8】
請求項4に記載のポリアミド組成物を含む物品。
【請求項9】
電気及び電子コネクタ、SMTコネクタ、非電気コネクタ、モーターハウジング、絶縁体、モーター絶縁体、絶縁体ハウジング、ボビン、接触器ハウジング、スイッチ、SMTスイッチ、バッテリーハウジング、端子台、及びブレーカーハウジングの形態である、
請求項7に記載の物品。
【請求項10】
電気及び電子コネクタ、SMTコネクタ、非電気コネクタ、モーターハウジング、絶縁体、モーター絶縁体、絶縁体ハウジング、ボビン、接触器ハウジング、スイッチ、SMTスイッチ、バッテリーハウジング、端子台、及びブレーカーハウジングの形態である、
請求項8に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、成形冷却時間、難燃性、リフローピーク温度、及び水分吸着を含む望ましい物理的特性の組み合わせを有する新規な半芳香族ポリアミド組成物が記述される。本明細書では、これらの組成物の調製方法、及びこれらの半芳香族ポリアミド組成物から作製された物品も記述される。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は優れた機械的特性、成形性、及び耐薬品性を備えており、そのため、自動車部品、電気/電子部品、機械部品、及び多くの他の用途で使用されてきた。ポリアミド樹脂から製造される物品は、非常に望ましい物理的特性を有することができる。しかしながら、特定の用途では、ポリアミド組成物は、難燃性であること及び高度の難燃性についてのUL-94規格を満たすことが望まれる。この要求のため、ポリアミド樹脂に難燃性を付与するための様々な方法の研究が促進された。難燃性添加剤としてのホスフィネート又はジスホスフィネート(disphosphinate)のポリアミド樹脂への添加は知られているものの、それらの存在は組成物の特定の特性に影響を与える可能性がある。
【0003】
そのため、リフローピーク温度、成形冷却時間、難燃性、及び水分吸着などの望まれる物理的特性の組み合わせを有する非ハロゲン化難燃性半芳香族ポリアミド組成物を得ることが望ましいであろう。
【0004】
米国特許出願第2009/0030124号明細書には、半芳香族ポリアミド、難燃剤、ホウ酸亜鉛、及び任意選択的な充填剤を含む難燃性ポリアミド組成物が開示されている。
【0005】
国際公開第2005/033192号パンフレットには、5~75mol%の半芳香族モノマー由来の半芳香族ポリアミド、難燃剤、並びに任意選択的な強化剤及び相乗剤を含む難燃性ポリアミド組成物が開示されている。
【0006】
米国特許出願公開第2014/0179851号明細書には、半芳香族ポリアミドがテレフタル酸を含み得る半芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの混合物が開示されている。
【0007】
米国特許出願公開第2016/0271921号明細書には、a)ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との組み合わせ41~90mol%、及びb)ヘキサメチレンジアミンと8~19個の炭素原子を有する直鎖脂肪族ジカルボン酸との組み合わせ59~10mol%、から得られる半芳香族ポリアミドを含む第1の層を有する多層複合材料が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
略語
特許請求の範囲及び本明細書の記述は、以下に示される略語及び定義を用いて解釈されるべきである。
「%」は、用語パーセントを意味する。
「wt%」は、重量パーセントを意味する。
「mp」は融点を意味する。
「DSC」は示差走査熱量測定を意味する。
「℃」は摂氏温度を意味する。
「mol%」は、モルパーセントを意味する。
「s」は秒を意味する。
「dl/g」はサンプルのデシリットル/グラムを意味する。
【0009】
定義
本明細書において使用される冠詞「1つの(a)」は、1つだけでなく2つ以上も意味し、その指示対象の名詞を単数の文法上のカテゴリーに必ずしも限定しない。
【0010】
本明細書において使用される用語「物品」は、その全体又は一部を更に処理することなしに特定の用途/目的に適している形態、形状、構成にある品物、物、構造体、物体、要素、装置等を意味する。
【0011】
本明細書において使用される用語「繰り返し単位」は、その繰り返しにより完全なポリマー鎖が生成されるポリマーの一部を指す。例えば、ポリアミド66については、繰り返し単位は、ヘキサメチレンジアミンモノマーに結合したアジピン酸モノマーであるため、繰り返し単位は、アミド結合により一体に結合したアジピン酸-ヘキサメチレンジアミンである。得られるポリマーはヘキサメチレンアジパミドである。
【0012】
本明細書において使用される用語「ポリアミド樹脂」、「ポリアミド」、及び「ポリマー樹脂」は、ポリマー組成物において使用される無希釈のポリマーを指し、それぞれのモノマーから生成するポリマー鎖のみを含む。つまり、製造プロセスで使用された少量の残り得る残留物質を除いては、ポリマー中に追加の添加剤は存在しない。
【0013】
本明細書において使用される用語「ポリアミド組成物」は、ポリアミド樹脂と、UV安定剤、潤滑剤、難燃剤、及び充填剤などの、組成物中で使用される任意選択的な任意の追加の材料を指す。
【0014】
本明細書において使用される用語「リフローピーク温度」は、ポリアミド組成物がブリスターを生じる或いは他の表面欠陥を示すことなしに、SMTコネクタなどの物品の製造又は加工中にポリアミド組成物を含む物品がさらされ得る最高温度を指す。
【0015】
本明細書において使用される用語「ブリスター」は、成形品の表面に存在する肉眼で見ることができる気泡又は欠陥を指す。つまり、ブリスターは、成形品の表面上の隆起した領域であり、成形品を成形品の上から見る際に見られる。
【0016】
本出願に明記された様々な範囲での数値の使用は、特に明確に示さない限り、規定範囲内の最小値及び最大値が両方とも語「約」によって先行されているかのように近似値として記述されている。この形式では、規定範囲の上下のわずかな変動を用いてこの範囲内の値と実質的に同じ結果を達成することができる。また、これらの範囲の開示は、最小値と最大値との間の各値及びあらゆる値を含む連続的な範囲として意図されている。
【0017】
範囲及び好ましい変形形態
本明細書に記載される任意の範囲は、特に明記されない限り、その端点を明確に包含する。範囲としての量、濃度又は他の値又はパラメーターの記載は、このような範囲の上限及び下限の対が本明細書に明示的に開示されるか否かに関わらず、任意の可能な範囲の上限及び任意の可能な範囲の下限から形成される全ての可能な範囲を具体的に開示する。本明細書に記載の化合物、プロセス及び物品は、本明細書での範囲の定義で開示される具体的な値に限定されない。
【0018】
本明細書に記載のプロセス、化合物及び物品の材料、化学物質、方法、工程、値及び/又は範囲等についての任意の変形形態の本明細書における開示は、好ましい又は好ましくないとして特定されているかどうかに関わらず、材料、方法、工程、値、範囲等の任意の可能な組み合わせを含むことが具体的に意図されている。請求項についての正確且つ十分な裏付けを与えることを目的として、任意の開示の組み合わせは、本明細書に記載のプロセス、化合物及び物品の好ましい変形形態である。
【0019】
本明細書において、式(I)の硬化剤などの、本明細書に記載される任意の化学種の化学名に関しての命名法上の誤り又は誤字が存在する場合には、化学構造が化学名に優先する。また、本明細書に記載の任意の化学種の化学構造中に誤りが存在する場合、当業者が意図されている記述を理解する化学種の化学構造が優先される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
本明細書では、ホスフィネート及び/又はジホスフィネート難燃剤、難燃剤相乗剤、潤滑剤、強化剤、並びに特定の追加の添加剤と組み合わされることで望まれる物理的性質の組み合わせを示す半芳香族ポリアミド組成物を提供する、新規な半芳香族ポリアミドが開示される。
【0021】
本明細書に開示の半芳香族ポリアミド中の6T(ヘキサメチレンテレフタルアミド)のモル濃度に応じて、これらの半芳香族ポリアミドから調製されたポリアミド組成物は、成形冷却時間、難燃性、水分吸着、及び少なくとも270℃のリフローピーク温度の望ましい組み合わせを示し得る。
【0022】
本明細書では、これらの半芳香族ポリアミド組成物から作製された物品及びこれらの組成物の調製方法も開示される。
【0023】
具体的には、本明細書では、
(a)
(i)63~約70モルパーセントのヘキサメチレンテレフタルアミド繰り返し単位、及び
(ii)約30~約37モルパーセントのヘキサメチレンデカンアミド又はヘキサメチレンドデカンアミド繰り返し単位、
を含む、少なくとも1種の半芳香族ポリアミド30~約60重量パーセント;
(b)式(I)のホスフィネート、式(II)のジホスフィネート、並びに(I)及び/又は(II)のポリマー:
【0024】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、独立に、水素であるか、直鎖、分岐、若しくは環状のC
1~C
6アルキル基であるか、C
6~C
10アリールであり;R
3は直鎖又は分岐のC
1~C
10アルキレン基、C
6~C
10アリーレン基、C
6~C
12アルキル-アリーレン基、又はC
6~C
12アリール-アルキレン基であり;Mは、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アンチモンイオン、スズイオン、ゲルマニウムイオン、チタンイオン、鉄イオン、ジルコニウムイオン、セリウムイオン、ビスマスイオン、ストロンチウムイオン、マンガンイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びそれらの組み合せからなる群から選択され;m、n、及びxはそれぞれ、1~4の同一であるか又は異なる整数である)のうちの1種以上を含む少なくとも1種の難燃剤3~30重量パーセント;
(c)潤滑剤0.02~0.65重量パーセント;
(d)少なくとも1種の無機強化剤5~50重量パーセント;
(e)造核剤0~5重量パーセント;並びに
(f)難燃剤相乗剤0.2~10重量パーセント;
を含む半芳香族ポリアミド組成物が開示され、
ここで、
(a)~(f)の重量パーセントはポリアミド組成物の総重量基準であり、
(a)~(f)の重量パーセントは100重量パーセントに等しく、
前記ポリアミド組成物は9秒以下の成形冷却時間を示し、
前記ポリアミド組成物は少なくとも270℃のリフローピーク温度を示し、
前記ポリアミド組成物は、UL-94可燃性試験に従って測定されるV-0の可燃性を示す。
【0025】
本明細書では、
(a)
(i)約60モルパーセントから約63モルパーセント未満のヘキサメチレンテレフタルアミド繰り返し単位、及び
(ii)約37~約40モルパーセントのヘキサメチレンデカンアミド又はヘキサメチレンドデカンアミド繰り返し単位、
を含む、少なくとも1種の半芳香族ポリアミド30~約60重量パーセント;
(b)式(I)のホスフィネート、式(II)のジホスフィネート、並びに(I)及び/又は(II)のポリマー:
【0026】
【化2】
(式中、R
1及びR
2は、独立に、水素であるか、直鎖、分岐、若しくは環状のC
1~C
6アルキル基であるか、C
6~C
10アリールであり;R
3は直鎖又は分岐のC
1~C
10アルキレン基、C
6~C
10アリーレン基、C
6~C
12アルキル-アリーレン基、又はC
6~C
12アリール-アルキレン基であり;Mは、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アンチモンイオン、スズイオン、ゲルマニウムイオン、チタンイオン、鉄イオン、ジルコニウムイオン、セリウムイオン、ビスマスイオン、ストロンチウムイオン、マンガンイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びそれらの組み合せからなる群から選択され;m、n、及びxはそれぞれ、1~4の同一であるか又は異なる整数である)のうちの1種以上を含む少なくとも1種の難燃剤3~30重量パーセント;
(c)潤滑剤0.02~0.65重量パーセント;
(d)少なくとも1種の無機強化剤5~50重量パーセント;
(e)造核剤0.02~5重量パーセント;並びに
(f)難燃剤相乗剤0.2~10重量パーセント;
を含むポリアミド組成物が更に開示され、
ここで、
(a)~(f)の重量パーセントはポリアミド組成物の総重量基準であり、
(a)~(f)の重量パーセントは100重量パーセントに等しく、
前記ポリアミド組成物は9秒以下の成形冷却時間を示し、
前記ポリアミド組成物は少なくとも270℃のリフローピーク温度を示し、
前記ポリアミド組成物は、UL-94可燃性試験に従って測定されるV-0の可燃性を示す。
【0027】
半芳香族ポリアミド(a)
本明細書に開示のポリアミド組成物において使用される半芳香族ポリアミドは、(i)約60~約75モルパーセントのヘキサメチレンテレフタルアミド繰り返し単位と、(ii)約25~約40モルパーセントのヘキサメチレンデカンアミド又はヘキサメチレンドデカンアミド繰り返し単位を含む。
【0028】
好ましくは、本明細書に開示のポリアミド組成物において使用される半芳香族ポリアミドは、(i)約63~約70モルパーセントのヘキサメチレンテレフタルアミド繰り返し単位と、(ii)約30~約37モルパーセントのヘキサメチレンデカンアミド又はヘキサメチレンドデカンアミド繰り返し単位とを含む。
【0029】
より好ましくは、本明細書に開示のポリアミド組成物において使用される半芳香族ポリアミドは、(i)約63~約68モルパーセントのヘキサメチレンテレフタルアミド繰り返し単位と、(ii)約32~約37モルパーセントのヘキサメチレンデカンアミド又はヘキサメチレンドデカンアミド繰り返し単位を含む。
【0030】
これらの半芳香族ポリアミドは、60/40~75/25、好ましくは63/37~70/30の範囲の、6T/610又は6T/612のモル比を有するポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンデカンアミド)(PA6T/610)及びポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンドデカンアミド)(PA6T/612)と記述される場合もある。
【0031】
本明細書に開示のポリアミド組成物中の半芳香族ポリアミドの重量パーセントは、ポリアミド組成物中の成分(a)~(f)の総重量濃度を基準として、約25~60重量パーセント、好ましくは35~60重量パーセント、より好ましくは約40~55重量パーセントの範囲である。
【0032】
難燃剤(b)
本明細書に開示のポリアミド組成物において使用される少なくとも1種の難燃剤(b)は、式(I)のホスフィネート、式(II):
【0033】
【化3】
(式中、R
1及びR
2は、独立に、水素であるか、直鎖、分岐、若しくは環状のC
1~C
6アルキル基であるか、C
6~C
10アリールであり;R
3は直鎖又は分岐のC
1~C
10アルキレン基、C
6~C
10アリーレン基、C
6~C
12アルキル-アリーレン基、又はC
6~C
12アリール-アルキレン基であり;Mは、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アンチモンイオン、スズイオン、ゲルマニウムイオン、チタンイオン、鉄イオン、ジルコニウムイオン、セリウムイオン、ビスマスイオン、ストロンチウムイオン、マンガンイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びそれらの組み合せからなる群から選択され;m、n、及びxはそれぞれ、1~4の同一であるか又は異なる整数である)のジホスフィネート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるリン系難燃剤である。
【0034】
好ましくは、少なくとも1種のリン系難燃剤は、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、メチルエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチルエチルホスフィン酸亜鉛、イソプロピルイソブチルホスフィン酸アルミニウム、イソプロピルtertブチルホスフィン酸アルミニウム、ジイソブチルホスフィン酸アルミニウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0035】
本明細書に開示のポリアミド組成物中の難燃剤(b)の重量パーセントは、ポリアミド組成物中の成分(a)~(f)の総重量濃度を基準として、約3~30重量パーセント、好ましくは5~25重量パーセント、より好ましくは約10~25重量パーセントの範囲である。
【0036】
潤滑剤(c)
本明細書に開示のポリアミド組成物は、ポリアミド組成物の総重量を基準として、0.02~0.65重量パーセント、好ましくは0.04~0.60重量パーセント、より好ましくは0.1~0.55重量パーセント、最も好ましくは0.1~0.5重量パーセントの潤滑剤を含んでいてもよい。潤滑剤は、ポリアミド組成物を調製するための他の成分との混合中に添加されてもよく、或いは潤滑剤は、パレチゼーション(palletization)後にポリアミド組成物の表面に添加されてもよい。
【0037】
潤滑剤は、脂肪酸アミド及び脂肪酸金属塩からなる群から選択することができる。
【0038】
脂肪酸アミド潤滑剤を調製するために本明細書で使用される脂肪酸は、10~30個の炭素原子、好ましくは12~30個、より好ましくは18~30個の炭素原子を含む酸である。脂肪酸は、直鎖又は分岐の炭素鎖を含んでいてもよい。好ましくは、本明細書に開示の脂肪族アミド潤滑剤を調製するために使用される脂肪酸は、直鎖炭素鎖に12~30個の炭素原子を含む。
【0039】
脂肪酸の例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、12-ヒドロリ(hydroly)ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、及びモンタン酸が挙げられる。脂肪酸アミドの例としては、脂肪酸モノアミド(メチルステアリルアミド、エチルステアリルアミド、ジオクタデシルステアリルアミド、ジオクタデシルスクシンアミド、ステアリルステアリルアミド、ステアリルエルカミド、フェニルステアリルアミド、メチロールスレアリルアミド(methylolsrearylamide)等)、及び脂肪酸ビスアミド(メチレン-ビスステレイルアミド(steraylamide)、エチレン-ビスステアリルアミド、エチレン-ビス(12ヒドロキシフェニル)ステアリルアミド等)が挙げられる。
【0040】
脂肪酸金属塩潤滑剤を調製するために本明細書で使用される脂肪酸は、18~30個の炭素原子、好ましくは18~28個、より好ましくは22~28個の炭素原子を含む酸である。脂肪酸は、直鎖又は分岐の炭素鎖を含んでいてもよい。好ましくは、本明細書に開示の脂肪酸金属塩潤滑剤を調製するために使用される脂肪酸は、直鎖炭素鎖中に18~28個の炭素原子を含む。脂肪酸金属塩の例としては、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、12-ヒドロリ(hydroly)ステアリン酸アルミニウム、12-ヒドロリ(hydroly)ステアリン酸ナトリウム、12-ヒドロリ(hydroly)ステアリン酸亜鉛、12-ヒドロリ(hydroly)ステアリン酸カルシウム、ベヘン酸アルミニウム、ベヘン酸ナトリウム、ベヘン酸亜鉛、ベヘン酸カルシウム、モンタン酸アルミニウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸亜鉛、及びモンタン酸カルシウムが挙げられる。
【0041】
ポリアミド組成物に有用な市販の潤滑剤としては、PXC Biotech.,Philadelphia,PAから入手可能なKemamide(登録商標)E180(N-ステアリルエルカミド、CAS No.[10094-45-8]);Croda Chemicals,Hull UKから入手可能なCrodamide(登録商標)212潤滑剤、ステアリルエルカミド;Clariant Corp.から入手可能なLicomont(登録商標)CaV 102潤滑剤、微粒子モンタン酸カルシウム;Clariant,Muttenz,Switzerlandにより製造されるHostamont(登録商標)NAV 101潤滑剤、モンタン酸ナトリウム;PMC Global,Inc.Sun Valley,CA,USAにより供給されるステアリン酸アルミニウム、ワックス;及びLonza Chemical Co.からのAcrawax(登録商標)C潤滑剤、N,N’-エチレンビスステアルアミドが挙げられる。
【0042】
ポリアミド組成物において使用できる好ましい潤滑剤としては、モンタン酸カルシウム、N-ステアリルエルカミド、N、N’-エチレンビスステアルアミド、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ベヘン酸カルシウム、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0043】
強化剤(d)
本明細書に記載のポリアミド組成物は、機械的強度及び他の特性を改善するための少なくとも1種の強化剤を含む。強化剤は、繊維状、板状、粉末状、又は顆粒状の材料であってもよい。繊維強化剤の例としては、ガラス繊維、炭素繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、及び炭化ケイ素繊維が挙げられる。
【0044】
強化剤は、マイカ、タルク、カオリン粘土、シリカ、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、ウォラストナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、及び黒鉛などの粉末状、顆粒状、又は平板状であってもよい。これらのポリアミド組成物において2種以上の強化剤が組み合わせられてもよい。また、本明細書に明示的に記載されていないものの、これらの組成物は、本明細書に記載の強化剤のあらゆる組み合わせを含んでいてもよい。
【0045】
好ましい強化剤としては、ガラス繊維、ガラスフレーク、カオリン粘土、ウォラストナイト、マイカ、炭酸カルシウム、シリカ、炭素繊維、チタン酸カリウム、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0046】
ガラス繊維、フレーク、又はビーズは、大きさが合わせられててもいなくてもよい。好適なガラス繊維は、長い又は短いガラス繊維のチョップドストランド、及びこれらの粉砕された繊維であってもよい。
【0047】
強化剤は、公知の任意のカップリング剤(例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤)又は他の任意の表面処理剤でその表面を処理されていてもよい。
使用される場合、繊維の断面は円形であっても非円形であってもよい。非円形断面を有する繊維とは、繊維の長手方向と垂直にあり、断面の最長直線距離に対応する長軸を有する繊維を指す。非円形断面は、長軸に垂直な方向の断面の最長直線距離に対応する短軸を有する。繊維の非円形断面は、繭型(8の字型);長方形;楕円形;半楕円形;略三角形;多角形;及び長方形などの様々な形状を有していてもよい。当業者に理解されるように、断面は他の形状を有していてもよい。主軸の長さとマイナーアクセスの長さとの比は、好ましくは約1.5:1~約6:1である。この比は、より好ましくは約2:1~5:1、更に好ましくは約3:1~約4:1である。非円形の断面を有する好適な繊維は、欧州特許第190001号明細書及び欧州特許第196194号明細書に開示されている。非円形繊維は、長繊維、チョップドストランド、粉砕短繊維、又は当業者に公知の他の適切な形態であってもよい。
【0048】
ポリアミド組成物中の強化剤の濃度は、本明細書に記載のポリアミド組成物の総重量の約5~約50重量パーセント、好ましくは約10~約50重量パーセント、より好ましくは約20~約50重量パーセントの範囲であってもよい。本明細書で明示的に記載されていないものの、これらの組成物ではポリアミド組成物の総重量の5~50パーセントの強化剤の全ての可能な範囲が想定される。
【0049】
造核剤(e)
本明細書に開示の造核剤は、ポリアミド組成物中に存在する場合、任意の従来の造核剤であってもよい。したがって、造核剤は、熱可塑性組成物の融点よりも高い融点を有するポリマーなどの有機物であってもよく、或いはこれはタルク、二硫化モリブデン、窒化ホウ素、又はアルカリ若しくはアルカリ土類金属ハロゲン化物(LiF、CaF2、及びZnCl2等)などの無機材料であってもよい。
【0050】
ポリアミド組成物中に存在する場合、ポリアミド組成物中の造核剤の濃度は、ポリアミド組成物の総重量を基準として、好ましくは約0.02~5重量パーセント、より好ましくは0.05~4重量パーセント、最も好ましくは0.1~2重量パーセントの範囲である。
【0051】
難燃剤相乗剤(f)
ポリアミド組成物は、1種以上の難燃剤相乗剤を更に含んでいてもよい。本明細書に開示のポリアミド組成物中で使用される難燃剤相乗剤としては、例えば、酸化ケイ素、ベーマイト、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニッケル、酸化銅、及び酸化タングステンなどの金属酸化物が挙げられる。追加の難燃剤相乗剤としては、アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、亜鉛、モリブデン、コバルト、ビスマス、クロム、スズ、アンチモン、ニッケル、銅、及びタングステンなどの金属粉末が挙げられる。追加の難燃剤相乗剤としては、メタホウ酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、及び炭酸バリウムなどの金属塩が挙げられる。これらの難燃剤相乗剤の任意の混合物が使用されてもよい。好ましい難燃剤相乗剤としては、ベーマイト、酸化アルミニウム、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0052】
本明細書に開示のポリアミド組成物中の難燃相乗剤(f)の重量パーセントは、ポリアミド組成物中の成分(a)~(f)の総重量濃度を基準として、約0.1~10重量パーセント、好ましくは0.5~10重量パーセント、より好ましくは約1~10重量パーセントの範囲である。
【0053】
ポリアミド組成物の調製
本明細書に開示のポリアミド組成物は、全てのポリマー成分が十分に混合され、全ての非ポリマー成分がポリアミド樹脂マトリックス中に十分に分散される溶融ブレンドによって調製することができる。本発明のポリマー成分と非ポリマー成分とを混合するために、任意の溶融ブレンド法を使用することができる。例えば、ポリマー成分と非ポリマー成分は、一軸押出機又は二軸押出機、撹拌機、一軸又は二軸混練機、又はバンバリーミキサーなどの溶融ミキサーに供給されてもよく、その添加工程は、全ての成分を一度に添加することであってもバッチ式で徐々に添加することであってもよい。ポリマー成分と非ポリマー成分がバッチ式で徐々に添加される場合、ポリマー成分及び/又は非ポリマー成分の一部が最初に添加され、次いでその後に添加される残りのポリマー成分と非ポリマー成分が、十分に混合された組成物が得られるまで溶融混合される。強化充填剤が長い物理的形状(例えば長いガラス繊維)である場合、強化された組成物を調製するために延伸押出成形が使用されてもよい。
【0054】
ポリアミド組成物
本明細書に開示のポリアミド組成物は、6T繰り返し単位、及び特定の追加の成分、特に本明細書に開示され特定の狭い濃度範囲内に存在する潤滑剤のモル濃度に応じて、難燃性、成形冷却時間、及びリフローピーク温度の望ましい組み合わせを示す。ポリアミド中の6T濃度が60モルパーセントから63モルパーセント未満の範囲であり、且つポリアミド組成物が難燃剤、難燃剤相乗剤、潤滑剤、強化剤、及び造核剤を含む場合、ポリアミド組成物は、9秒以下の成形冷却時間、少なくとも270℃のリフローピーク温度、及びV-0の可燃性を示す。ポリアミド中の6T濃度が63~70モルパーセントの範囲であり、且つポリアミド組成物が難燃剤、難燃剤相乗剤、潤滑剤、及び強化剤を含む場合、ポリアミド組成物は、9秒以下の成形冷却時間、少なくとも270℃のリフローピーク温度、及びV-0の可燃性を示す。ポリアミド樹脂中の6T濃度が少なくとも63モルパーセントである場合、造核剤は、望まれる特性の組み合わせを達成するためのポリアミド組成物の必須成分ではない。
【0055】
高いリフローピーク温度を有するポリアミド組成物は、表面実装技術(SMT)コネクタ及びその他の電子デバイスの作製に有用である。ポリアミド組成物のリフローピーク温度が低すぎる場合には、加工中にポリマー表面にブリスターが発生する可能性がある。
【0056】
本明細書に開示されているポリアミド組成物から射出成形により作製される物品の製造の際に、生産性を改善するために成形サイクルをできるだけ短くすることが望ましい。成形冷却時間は、射出成形されたサンプルを、モールドから取り出すことができる前に冷却し、欠陥をないものにするために必要とされる最小時間である。欠陥がないとは、以下の基準:i)成形品をモールドに付着させずに成形品をモールドから取り出すことができる;ii)取り出し中に成形品が壊れない;iii)成形品がその表面に肉眼で見える亀裂を有さない;iv)成形品が取り出し後もモールドの寸法を保持する;を満たす成形品を意味する。
【0057】
例えば、8秒の成形冷却時間を有する成形試験片を5秒でモールドから取り出そうとする場合、成形試験片がモールドに付着してエジェクタピンで押し出されない場合があり、成形試験片が取り出し中に壊れる場合があり、或いはエジェクタピンが成形試験片を貫通して成形試験片を押し出さない場合がある。8秒の成形冷却時間を有する成形試験片を8秒後に取り出すと、成形試験片を5秒で取り出す試みに関連する問題なしに、成形試験片をモールドからうまく取り出すことができる。
【0058】
ポリアミド組成物は、電気部品及び車両部品を含む多くの用途分野で使用するための物品へと成形又は押出することができる。物品の具体例としては、電気及び電子コネクタ、SMTコネクタ、非電気コネクタ、モーターハウジング、絶縁体、モーター絶縁体、絶縁体ハウジング、ボビン、接触器ハウジング、スイッチ、SMTスイッチ、バッテリーハウジング、端子台、及びブレーカーハウジングが挙げられる。
【実施例】
【0059】
本明細書に開示の新規な方法及びポリアミドを、以下の実施例によって更に定義する。これらの実施例は、本開示の特定の好ましい態様を示しているが、例示のためにのみ示されていることが理解されるべきである。上記の考察及びこれらの実施例から、当業者は、本開示の本質的な特徴を確認することができ、それの趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正を行ってそれを様々な使用及び条件に適応させることができる。
【0060】
例示的な物品は、下表で「E」で識別され、本明細書に記載される及び列挙される化合物、プロセス、及び物品の範囲を更に例証することのみを意図し、限定することを意図するものではない。比較例は、下表で「C」で識別される。
【0061】
試験方法
融点
本明細書では、融点は、ASTM D3418:2015に従い、最初の加熱スキャンで10℃/分のスキャン速度で、DSC(TA Instruments Q2000,TA Instruments,New Castle,Delaware,USA)によって決定し、吸熱ピークの最大値を融点とした。
【0062】
成形冷却時間
成形冷却時間は以下のプロセスを使用して決定した:
試験するポリアミド組成物は、住友重機械工業株式会社のSumitomo SE30D射出成形機を使用して射出成形した。成形した試験サンプルは、55mmの第1の長さ、50mmの長さを有する底部、及び140mmの最大長さを有する戻り部の、上面図(i)によって示される寸法を有する。成形試験サンプルは、上面図(i)に示されていない第1の部分の始まりにある長方形の部分を除いては、試験サンプルの全体の長さに沿って幅及び高さ(厚さ)がそれぞれ10mm及び0.8mmである。上面図(i)は、4つのエジェクタピンの位置を示している。試験サンプルの側面図(ii)は、試験サンプルの始まり(注入ポート)の長方形部分の7mmの高さと55mmの第1の長さを示している。試験サンプルの長方形の部分又はセクションは、端面図(iii)に示されるように、幅10mm×高さ7mmの寸法及び0.8mmの厚さを有する。端面図(iii)は、試験サンプルの最初の55mmの長さの部分の長方形部分への位置又は取り付け地点も点線で示している。端面図(iii)は、更に、試験サンプルの注入に使用される直径0.3mmのトンネルゲートの位置も示している。トンネルゲートは、長方形部分の幅10mmに沿った中央(5mm)に位置しており、長方形部分の上部から4mmに位置している。長方形部分を含む試験サンプル全体が、1回の注入で成形される。図(i)~(iii)は縮尺通りではない場合がある。試験されるポリマーの流動特性に応じて、試験サンプルの戻り部の長さは様々である。典型的には、本明細書で試験したポリアミド組成物については、戻り部はXからYの範囲の長さを有していた。
【0063】
【0064】
表中の実施例及び比較例の成形温度は、335℃(注入中のポリアミド組成物の温度)で、125℃のモールド温度で行った。元々の成形温度が330℃でモールド温度が120℃では、試験サンプルの成形冷却時間を明確に分離するには不十分であることが示された。
【0065】
ポリアミド組成物をモールドの中に注入した後、モールドを放冷してからモールドを開け、射出成形した試験片を、図(i)で4個の黒いひし形で示した位置で、直径4.5mmの4個の丸いモールドエジェクタピンにより押し出した。5mmの丸い5番目のエジェクタピンは、エジェクタピンが長方形部分の底部の中心にある状態で押し出し中に使用される。ポリアミド組成物のモールドへの注入完了(注入停止)から、成形試験片をモールドから取り出すのに十分に冷却されるまでの時間が成形冷却時間であり、秒単位で測定される。本明細書に開示のポリアミド組成物の最大冷却時間は9秒である。
【0066】
成形冷却時間は、モールドへの注入後、ポリアミド組成物が以下の要件を満たすために必要とされる時間である:
- 成形試験片は、エジェクタピンによってモールドから押し出せる必要がある
- 成形試験片がモールドに付着しない
- 成形試験片が取り出し中に壊れたり、肉眼で見える亀裂を表面に示さない
- 成形試験片が取り出し後もモールドの寸法を保持する
【0067】
成形冷却時間を決定するためには、異なる時間間隔で試験サンプルを押し出す複数回の試行が必要になる場合がある。比較例は、成形冷却時間の要件を満たしていない場合や、9秒間の最大冷却時間を満たしていない場合がある。
【0068】
可燃性
可燃性は、厚さ1/32”の試験片でUL-94可燃性試験に従って決定した。
【0069】
リフローピーク温度
リフローピーク温度は、厚さ1/16”、幅1/2”、長さ5”の寸法の曲げ試験片を使用して測定した。曲げ試験片は、330℃の溶融温度及び140℃のモールド温度での射出成形によって作製した。成形後、曲げ試験片を、IPC/JEDEC J-STD-020D.1に従って260℃又は270℃の定義されたリフローピーク温度で、千住金属工業株式会社製のIRリフローオーブンSNR-725GTを通過させた。
【0070】
IRオーブン中での暴露後、曲げ試験片を肉眼で視覚的に検査した。曲げ試験片が260℃ではなく270℃にさらされた際に視覚的な表面欠陥又はブリスターを示した場合、リフローピーク温度は260℃として記録した。曲げ試験片が270℃にさらされた際に視覚的な表面欠陥又はブリスターを示さなかった場合、リフローピーク温度は270℃以上として記録した。
【0071】
固有粘度(IV)
固有粘度は、ISO307:2007に記載されている方法に従って、Schott AVS370粘度測定ユニットとSchott CK300冷却ユニットとCT72温度制御水浴を使用して、25℃でm-クレゾール中の0.5%のポリアミド樹脂溶液で測定した。結果はdl/g単位で示されている。
【0072】
材料
下の表で例示される化合物、プロセス、及び物品において、次の原材料を使用した。全てのパーセント値は、特に明記しない限り重量による。
【0073】
ポリアミドA~Gは、欧州特許第2459639B1号明細書の段落[0063]に開示されているような連続プロセスによって調製した。ポリアミドH及びIは、国際公開第201557557A1号パンフレットの11ページ及び12ページ(実施例1)に開示されている通りに、オートクレーブ中でバッチ式プロセスを使用して調製した。
【0074】
ポリアミドAは、テレフタル酸と、セバシン酸と、ヘキサメチレンジアミンとから製造されたPA6T/610を指し、2つの酸は62:38のモル比で使用され、融点は308℃であり、固有粘度(IV)は0.89dl/gである。
【0075】
ポリアミドBは、テレフタル酸と、セバシン酸と、ヘキサメチレンジアミンとから製造されたPA6T/610を指し、2つの酸は63:37のモル比で使用され、融点は310℃であり、固有粘度(IV)は0.81dl/gである。
【0076】
ポリアミドCは、テレフタル酸と、セバシン酸と、ヘキサメチレンジアミンとから製造されたPA6T/610を指し、2つの酸は64:36のモル比で使用され、融点は313℃であり、固有粘度(IV)は0.80dl/gである。
【0077】
ポリアミドDは、テレフタル酸と、セバシン酸と、ヘキサメチレンジアミンとから製造されたPA6T/610を指し、2つの酸は65:35のモル比で使用され、融点は315℃であり、固有粘度(IV)は0.81dl/gである。
【0078】
ポリアミドEは、テレフタル酸と、セバシン酸と、ヘキサメチレンジアミンとから製造されたPA6T/610を指し、2つの酸は67:33のモル比で使用され、融点は321℃であり、固有粘度(IV)は0.82dl/gである。
【0079】
ポリアミドFは、テレフタル酸と、アジピン酸と、ヘキサメチレンジアミンとから製造されたPA6T/66を指し、2つの酸は55:45のモル比で使用され、融点は310℃であり、固有粘度(IV)は0.97dl/gである。
【0080】
ポリアミドGは、テレフタル酸と、セバシン酸と、ヘキサメチレンジアミンとから製造されたPA6T/610を指し、2つの酸は58:42のモル比で使用され、融点は304℃であり、固有粘度(IV)は0.88dl/gである。
【0081】
ポリアミドHは、テレフタル酸と、ドデカン二酸と、ヘキサメチレンジアミンとから製造されたPA6T/612を指し、2つの酸は55:45のモル比で使用され、融点は299℃であり、固有粘度(IV)は1.04dl/gである。
【0082】
ポリアミドIは、テレフタル酸と、ドデカン二酸と、ヘキサメチレンジアミンから製造されたPA6T/612を指し、2つの酸は62:38のモル比で使用され、融点は310℃であり、固有粘度(IV)は0.77dl/gである。
【0083】
ガラス繊維:CPIC,Chongqing,ChinaからECS301HPとして入手可能な平均長Xmm、平均径Yミクロンのチョップドストランド。
【0084】
難燃剤(FR):-Exolit(登録商標)OP1230:Clariant,DE,USAから入手可能なジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩。
【0085】
潤滑剤A:Clariant Corporation,Muttenz,SwitzerlandからLicomont(登録商標)CaVとして入手可能なモンタン酸カルシウム。
【0086】
潤滑剤B:PMX Biogenix,Memphis,TN,USAからKemamide(登録商標)E180として入手可能なN-ステアリルエルカミド。
【0087】
潤滑剤C:日東化成工業株式会社(横浜市、日本)からAL-103として入手可能なステアリン酸アルミニウム。
【0088】
潤滑剤D:花王株式会社(東京、日本)からKaoワックスEB-ffとして入手可能なエチレンビスステアルアミド。
【0089】
潤滑剤E:日東化成工業株式会社(横浜市、日本)からCS-7として入手可能なベヘン酸カルシウム。
【0090】
FR相乗剤A:河合石灰工業株式会社(日本)からBMT-33として入手可能なべーマイト。
【0091】
FR相乗剤B:Chemtura,Philadelphia,PA,USAからFirebrake ZBとして入手可能なホウ酸亜鉛。
【0092】
FR相乗剤C:日本軽金属株式会社(日本)から入手可能なFlamtard Sとして入手可能なスズ酸亜鉛。
【0093】
造核剤A:富士タルク工業株式会社(日本)からFH-105として入手可能なタルク
【0094】
造核剤B:デンカ株式会社(日本)から入手可能な窒化ホウ素
【0095】
カーボンブラックは、大日精化工業からマスターバッチとして入手し、着色剤として使用した。
【0096】
【0097】
表1の結果は、6T:610のモル比が成形冷却時間に与える影響を示している。C1は、62:38のモル比の繰り返し単位を有するポリアミド、難燃剤及び相乗剤、ガラス繊維、並びに潤滑剤を含有する。C1は、9秒以下の成形冷却時間と少なくとも270℃の最大リフローピーク温度を得ることができない。E1及びE2は、共に、C1の組成物には存在しない造核剤を含む。C1のポリアミド組成物に造核剤を添加すると、63:37未満の6T:610モル比を有する半芳香族ポリアミドを使用した場合であっても、E1及びE2で示されるように、成形冷却時間が9秒以下に短縮される。
【0098】
E3、E4、及びE5は全て、63:37~67:33の6T:610モル比を有する半芳香族ポリアミドを含み、3つ全ての実施例は、造核剤を必要とすることなしに9秒以下の成形冷却時間を示す。
【0099】
【0100】
表2は、6T:610モル比が64:36(E6対E11)であり、造核剤及び潤滑剤を含有する半芳香族ポリアミド組成物を示している。E6及びE7は、成形冷却時間、難燃性、及びリフローピーク温度の望ましい組み合わせを示している。
【0101】
【0102】
表3は、6Tのモル濃度がPA6T/610及びPA6T/612ポリアミドに与える影響を示している。C3はPA6T/610中に58モルパーセントの6Tを含み、C4はPA6T/612中に55モルパーセントの6Tを含む。E12の組成はC3及びC4と同じであるが、使用するポリアミドのみ異なる。E12は、62モルパーセントの6Tを含むPA6T/612を使用する。C3とC4は、共に、9秒以下の成形冷却時間、少なくとも270℃の最大リフローピーク温度、及びV-0の難燃性の望ましい組み合わせを示さない。
【0103】
【0104】
表4は、62モルパーセントの6Tを含むポリアミド組成物の結果を示す(64モルパーセントの6Tを含むE14を除く)。E13及びE14は、難燃剤、単一の難燃剤相乗剤、潤滑剤、ガラス繊維、及び造核剤を含み、9秒以下の成形冷却時間、少なくとも270℃の最大リフローピーク温度、及びV-0の難燃性の望ましい組み合わせを示す。C5は潤滑剤を含まず、9秒以下の望ましい成形冷却時間を示さない。
【0105】
表4のE15~E17及びC6~C7は、潤滑剤の濃度を除いて、全て同じ組成を有する。約0.65重量パーセント以下の潤滑剤濃度では、E22~E24は特性の望ましい組み合わせを示す。しかしながら、潤滑剤濃度がC6及びC7によって示されるように約0.65重量パーセントを超える場合、得られるポリアミド組成物はV-0の難燃性を示さない。