(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】癌幹細胞インヒビター
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4168 20060101AFI20230925BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230925BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230925BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
A61K31/4168
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 101
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2019546712
(86)(22)【出願日】2018-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2018036792
(87)【国際公開番号】W WO2019069891
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-09-15
(32)【優先日】2017-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】512073600
【氏名又は名称】サンファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐谷 秀行
(72)【発明者】
【氏名】サンペトラ オルテア
(72)【発明者】
【氏名】小池 直義
(72)【発明者】
【氏名】久保田 信雄
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-027515(JP,A)
【文献】Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys.,1982年,Vol.8,pp.647-650
【文献】Oncotarget,2016年06月21日,Vol. 7, No. 28,pp. 42844-42858
【文献】Cancer Biology & Therapy,2016年11月28日,Vol. 17, Issue 12,pp. 1266-1273
【文献】Clinical Cancer Research,2016年04月01日,Vol.22, Issue 7,pp. 1687-1698
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4168
A61P 35/00
A61P 35/04
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラニダゾール、ミソニダゾール又はエタニダゾールを有効成分とする、癌幹細胞におけるミトコンドリア阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌幹細胞抑制用の医薬に関し、更に詳細には、ミトコンドリア阻害に基づく癌幹細胞抑制用の医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
癌幹細胞は、自己複製しつつ、癌細胞の供給源にもなる非常に未分化な悪性細胞であり、抗酸化能の高い細胞(抗酸化防御機構の発達した細胞)と言われている。普通の癌細胞は、化学療法、放射線、分子標的薬などで死滅するが、癌幹細胞はこれらの治療では、たたくことができないため、癌の完治が難しいものになっている(例えば、特許文献1を参照)。また、未分化故、転移癌となりやすく、逆に転移によって生じる癌には癌幹細胞の占める割合が多いと言われている。癌幹細胞が多い癌としては、メラノーマ、グリオーマ、サルコーマなどが知られている。更に、癌幹細胞に対する治療剤は実質的に開発されていないのが現状であり、癌治療における最大のネックになっている。
【0003】
癌幹細胞のでき方は、大きく2通りに分けられ、1つは、正常な幹細胞そのものが癌化したもので、小児癌や血液癌などで多く見られる。このタイプは一般的な幹細胞の性質をよく保っており、増殖がゆっくりであるために抗癌剤などが効きにくい。もう1つは、ある程度分化した細胞が長期にわたる炎症を背景に癌幹細胞化したもので、壮年期以降に発症する一般的な癌に見られ、比較的増殖が早いものの、酸化ストレスや抗癌剤に抵抗性を示す。即ち、癌治療において、癌幹細胞の存在が治療を困難になさしめている。癌幹細胞が治療抵抗性、特に放射線に対する、治療抵抗性を有し、癌幹細胞が有酸素条件下でも存在すること、有酸素条件でも治療抵抗性が存することが、通常の癌治療との決定的な差異となっている。また、低酸素性細胞が、代謝が抑制されているのに対し、癌幹細胞では代謝の有意な抑制は起こらず、ミトコンドリアでの代謝も行われ、生じた活性酸素種を処理する能力も亢進していることである。このことがまた治療困難性の原因ともなっている(例えば、非特許文献1、2を参照)。即ち、癌幹細胞の増殖を抑制し、治療する手段が求められていた。
【0004】
一方、下記に構造が示されるドラニダゾールやミソニダゾール、エタニダゾールに代表得される2-ニトロイミダゾール誘導体は、低酸素性細胞放射線増感剤としての作用が知られているが、低酸素条件(hypoxic)、有酸素条件(normoxic)の条件では、通常の分化した癌細胞に対して毒性はほとんど示さない。低酸素条件で放射線を照射したときのみ、DNAのチミジンの水酸化物を攻撃し、癌細胞のアポトーシスを誘導し、癌治療効果を示すことが知られている(例えば、特許文献2、3を参照)。この作用は放射線療法を温熱療法に変えても同様に奏する(例えば、特許文献4、5を参照)。これらの検討は何れも分化誘導因子の存在下で行われている。未分化の癌細胞における2-ニトロイミダゾール誘導体の作用は今まで検討がなされていない。
【0005】
【0006】
更に、膵臓癌に対して、ハイポキシックな条件で癌の抑制効果を示すとの報告があるが(例えば、特許文献6を参照)、その割合は極めて低く、殺癌細胞効果が明確にあるとは言いがたい(例えば、非特許文献4を参照)し、かかる検討は何れも分化誘導因子の存在下行われており、分化した癌細胞に対する作用と推認され、未分化の癌幹細胞とは関係がない。
【0007】
癌幹細胞では、ミトコンドリアでの呼吸・代謝が重要な役割を果たしており、この過程で発生する活性酸化種(ROS)の処理が重要な生存課題となっているが、2-ニトロイミダゾール誘導体とROSの関係については全く検討がなされていないし、情報も存しない。
【0008】
総括すれば、ドラニダゾールに代表される2-ニトロイミダゾール誘導体について、癌幹細胞への作用はまったく知られていないと言える。
【0009】
即ち、癌幹細胞を抑制する実用的な手段が求められているにもかかわらず、得られていないのが現状と言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-31059号公報
【文献】特開平09-077667号公報
【文献】特開2005-27515号公報
【文献】特開2007-326814号公報
【文献】特開2007-302610号公報
【文献】特開平08-291064号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Shideng Bao et.al,Nature,2006, doi:10.1038/nature05236
【文献】Heddleston JM. et.al., Cell Cycle, 2009, 8(20):3274-3284
【文献】Justin D. Lathia et.al,PLoS One,2011(6),e24807
【文献】Matsuoka H. et.al.,Oncol. Rep.;2000(1) ,23-26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、新規の癌幹細胞抑制用の医薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、このような状況に鑑みて、新規の癌幹細胞抑制用の医薬を求めて、鋭意研究を重ねた結果、ドラニダゾール、ミソニダゾールに代表される2-ニトロイミダゾール誘導体が、癌幹細胞において、ミトコンドリアを阻害し、以て、癌幹細胞を細胞死に至らしめる作用を有することを見いだし、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
【0014】
〔1〕2-ニトロイミダゾール誘導体を有効成分とする、癌幹細胞におけるミトコンドリア阻害剤。
〔2〕前記2-ニトロイミダゾール誘導体がドラニダゾール、ミソニダゾール又はエタニダゾールである〔1〕に記載のミトコンドリア阻害剤。
〔3〕2-ニトロイミダゾール誘導体を有効成分とする、DNAのダブルストランドブレーク誘起剤。
〔4〕2-ニトロイミダゾール誘導体を有効成分とする、癌幹細胞抑制用の医薬。
〔5〕前記癌幹細胞がグリオーマ、メラノーマ又はサルコーマである〔4〕に記載の癌幹細胞抑制用の医薬。
〔6〕前記癌幹細胞が転移癌由来のものである〔4〕又は〔5〕に記載の癌幹細胞抑制用の医薬。
〔7〕癌障害手段とともに使用される〔4〕~〔6〕の何れかに記載の癌幹細胞抑制用の医薬。
〔8〕前記癌障害手段は、癌化学療法剤の投与または放射線照射である〔4〕~〔7〕の何れかに記載の癌幹細胞抑制用の医薬。
〔9〕前記癌障害手段の前処理、同時処置又は後処理で使用される態様である〔7〕又は〔8〕に記載の癌幹細胞抑制用の医薬。
〔10〕2-ニトロイミダゾール誘導体を投与することを特徴とする、癌幹細胞の抑制方法。
〔11〕癌幹細胞抑制に使用するための、2-ニトロイミダゾール誘導体。
〔12〕癌幹細抑制用の医薬を製造するための、2-ニトロイミダゾール誘導体の使用。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、新規の癌幹細胞の治療手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】in vitroアッセイの為の細胞の調製方法を示す図である。
【
図2】in vitroアッセイの結果を示す図である。
【
図3】in vitroアッセイの結果を示す図である。
【
図5】実施例1の細胞死の形態の検討結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のミトコンドリア阻害剤、DNAのダブルストランドブレーク誘起剤及び癌幹細胞抑制用の医薬は、上記に示す2-ニトロイミダゾール誘導体を有効成分とする。2-ニトロイミダゾール誘導体の代表的な例としては、例えば、ドラニダゾール、ミソニダゾール、エタニダゾールなどが例示できる。かかる化合物は、ドラニダゾールであれば、特開平3-223258号公報或いはWO1994/014778に記載された方法に従って製造することが出来、例えば、2-ニトロ-1-トリメチルシリルイミダゾールと2-アセトキシメトキシ-1,3,4-トリアセトキシブタンとをルイス酸の存在下で縮合させ、しかる後に、ナトリウムメトキシドなどを反応させて脱アセチル化することにより、製造することが出来る。ミソニダゾールであれば、2-ニトロイミダゾールと、グリジシジルメチルエーテルとを炭酸ナトリウムなどを触媒にして反応させれば得ることが出来る。エタニダゾールであれば、2-ニトロイミダゾールとブロモメチル酢酸エチルを炭酸ナトリウムなどのアルカリとともに反応させ、1-(2-エトキシカルボニル)メチル-2-ニトロイミダゾールと為し、しかる後にモノエタノールアミンと反応させれば得ることが出来る。かくして得られた化合物は適宜、再結晶やカラムクロマトグラフィーで精製し、ミトコンドリア阻害剤等とすることが出来る。
【0018】
かかる2-ニトロイミダゾール誘導体は、癌幹細胞において、ミトコンドリアのエネルギー代謝を阻害する。阻害はTCAサイクル,ミトコンドリアのコンプレックスIIを阻害することによる。これにより、癌幹細胞はG1期でセルサイクルを停止せしめる。また、ミトコンドリアの阻害により、ROSが上昇し、以て、細胞死が誘発される。この細胞死は、フェロスタチンの添加により抑制することから、フェロトーシスであると認識される。カスパーゼ阻害剤によって細胞死は抑制されない。この作用は、癌幹細胞においてのみ認められることであり、分化した癌細胞においては、有酸素条件であれ、低酸素条件であれ、毒性は示さないことから、2-ニトロイミダゾール誘導体は前記の作用は示していないものと考えられる。又、同様に正常な分化した細胞、幹細胞にも毒性を示さないことから、この作用は示していないと考えられる。
【0019】
更に、2-ニトロイミダゾール誘導体は、上記の作用とは独立して、放射線照射を併用する条件下、ダブルストランドブレーク(DNA切断作用)も誘起する。増感効果は低酸素条件においても、有酸素条件においても観察され、ダブルストランドブレークは低酸素条件で著しい。2-ニトロイミダゾール誘導体が、分化した癌細胞においては、放射線非照射条件及び有酸素放射線照射条件ではほとんど作用を示さず、低酸素放射線照射条件でのみ増感効果を示す現象と比較すると、癌幹細胞と分化した癌細胞とでは大きくその作用の波及が異なることがわかる。又、細胞の分化により、この作用は発現しなくなることから、正常細胞においても起こらないことが推察される。言い換えれば、癌幹細胞に特異的に障害を生じせしめる作用であるといえる。特に、低酸素条件において、分化した癌細胞に放射線を照射した場合には、チミンの水酸化等の部分的な障害を経由してアポトーシスが誘導されることはあるものの、DNAの切断に至るまでの障害は生じない。癌幹細胞では低酸素下であっても、放射線照射によって、DNA切断を促すことから、本発明の薬剤は癌幹細胞治療に極めて有用な薬剤であると言える。
【0020】
前述のごとく、本発明の2-ニトロイミダゾール誘導体は、優れた抗癌幹細胞作用を示すが、分化した癌細胞には、ほとんど毒性を示さないことから、癌治療において、2-ニトロイミダゾール誘導体を用いる場合には、分化した癌細胞を処理するための障害手段と併用することが好ましい。前記障害手段としては、放射線照射や、タキサン製剤、白金製剤、アルキル化剤などの癌化学療法剤の投与が好ましく例示できる。これらの障害手段は、通常の癌治療指針に従って処置に用いることができる。本発明のミトコンドリア阻害剤は、前記障害手段に対し、前処置、同時処理、後処置のいずれでも用いることができる。好ましい態様は、前処置、同時処理、後処置の全てで用いることである。正常細胞に対して毒性を示さないことから、体力回復のための障害手段のインターバル期間中も投与することができ、このような期間中も投与することが好ましい。これは、癌化学療法や放射線治療では癌幹細胞は生き残るので、癌化学療法や放射線療法に先立ち、癌幹細胞を死滅させたり、前記治療実施の後に生き残った癌幹細胞を死滅させることが、治療上有用であるためである。このように2-ニトロイミダゾール誘導体は癌幹細胞のミトコンドリアに特異的に障害を与え、阻害することから、癌の治療の目的に癌幹細胞処置の医薬として用いる場合、癌幹細胞の多い癌に適用することが好ましい。このような癌としては、例えば、メラノーマ、グリオーマ、サルコーマが好適に例示できる(参考文献;非特許文献3及びElsa Quintana et.al,Nature. 2008 December 4; 456(7222): 593-598)。更に、癌幹細胞が癌の転移に大きな役割を果たしていることから、転移によって生じた癌や、転移しやすい癌の転移の防止の目的で使用することも好ましい。
【0021】
かくのごとくに、2-ニトロイミダゾール誘導体は癌幹細胞を細胞死に至らしめ、癌幹細胞の増殖を抑える作用に優れており、癌幹細胞の医薬として有用である。2-ニトロイミダゾール誘導体のうち、ドラニダゾールあるいはエタニダゾールを癌幹細胞抑制用の医薬として用いる場合、1日あたり、0.5~10gのドラニダゾール又はエタニダゾールを、経口乃至は注射(点滴を含む)で投与することが好ましい。これは、ドラニダゾール、エタニダゾールには、癌幹細胞以外の分化した癌細胞には、低酸素細胞放射線増感剤としての効果しか存しない為である。尚、ドラニダゾール、エタニダゾールの毒性は、LD50で5g/Kg以上であり、極めて低い。ミソニダゾールのLD50は約1g/kgなので、ドラニダゾール、エタニダゾールの投与量の約1/5を目安とすれば良い。
【0022】
かかる化合物は、通常使用されている製剤化のための任意成分とともに医薬製剤に加工して使用することができる。以上の記述の理解のために、癌幹細胞と分化した癌細胞の比較の表を以下に示す。
【0023】
【実施例】
【0024】
以下に、実施例を示して本発明について更に詳細に説明を加える。
【0025】
実施例1
文献(Sampetrean O. et.al.,Neoplasia,13(9) 2011, 784-791)に従って、Ink4a/Arf欠失マウスから、脳室下帯を取り出し、トリプシン処理を行い、細胞を取り出し、スフェロイドを形成せしめ、分化誘導成分を含まない培地(20ng/mLのEGFと20ng/mLのFGF、ビタミンAを抜いたB27サプリメント、200ng/mLのヘパラン硫酸、100U/mLのペニシリン及び100U/mLのストレプトマイシンを加えたDMEM/F12)で5%炭酸ガス加の気流中で37℃で培養し、恒常活性を有するH-Ras遺伝子の変異体及び、所望により、蛍光リポーター等の検出するためのリポーターカセットあるいは細胞選択の為の、選択因子例えば薬剤耐性カセットを組み込み、癌幹細胞化させ、スフェロイドの形で培養した。これをC57BL/6マウスの脳に移植し、できた脳腫瘍を取り出し、トリプシン処理を行い、細胞を取り出した。薬剤耐性あるいは蛍光リポーター陽性の細胞を分取したのち、一部の細胞にはセルサイクルマーカーを導入し、スフェロイドを形成させて前述の培養条件で培養し、検体とした。概略を
図1に示す。
【0026】
前記の細胞を96穴のプレートで各種濃度の検体を加えた、前記の培地で培養した。結果を
図2に示す。ドラニダゾールの添加により幹細胞の特徴であるスフェロイドとしての増殖が抑制されていることが分かる。
前期の細胞を単相培養し、各種濃度の検体を加え、前記の培地で培養した。セルサイクルマーカーはG1期が赤、G1期とS期の境が黄色、それ以外が緑の蛍光を示す。結果を
図3に示す。ドラニダゾールの添加により、G1期でセルサイクルが止まり、増殖が抑制されていることがわかる。
【0027】
更に、ドラニダゾール及びpropidium iodide(PI)を添加した1個のスフェロイドに注目し、経時的にその状況を追った結果を
図4に示す。時間とともにPI陽性面積が増加し、細胞死が誘導されることがわかる。また、細胞死はドラニダゾール濃度依存的に誘導されることがわかる。この細胞死は、
図5に示すようにDMSO(溶媒コントロール)、ネクロトーシス阻害剤であるネクロスタチン1、カスパーゼ(アポトーシス)阻害剤であるZ-VAD-FMKの添加と比べ、フェロスタチン1の添加によって優位に抑制されることから、フェロトーシスであることがわかる(参考文献;Y Xie et.al, Cell Death and Differentiation ,(2016) 23, 369-379)。
【0028】
この細胞死について、ミソニダゾールを用いて同様に検討したところ、同様に確認された。5-ニトロイミダゾール誘導体であるメトロニダゾールについては、細胞死が認められず、2-ニトロイミダゾール誘導体に特有の現象であることがわかった。
【0029】
実施例2
セルサイクルがG1期で止まることから、エネルギー代謝の低下を疑い、実施例1と同じ細胞を用いて、21%酸素下(有酸素条件)、1%酸素下(低酸素条件)でのATP量とを調べた。結果を
図6に示す。ドラニダゾール投与によって癌幹細胞のATP含有量が低下したことがわかる。このことからミトコンドリアの機能抑制を疑い、細胞外フラックス解析にてミトコンドリア機能を評価した。結果を
図6に示す。21%酸素下(有酸素条件)、1%酸素下(低酸素条件)で培養された細胞においてドラニダゾール濃度依存的に酸素消費及びミトコンドリアの予備能が低下していることがわかる。
【0030】
実施例3
さらに、実施例1の細胞よりタンパクを抽出し、電気泳動、ウェスタンブロットにてミトコンドリア コンプレックスI~Vの発現量を調べた。結果を
図7に示す。ドラニダゾール、ミソニダゾール投与によりコンプレックスIIの発現が優位に低下していることがわかった。
【0031】
実施例4
MitoSox染色を用いて、実施例1の通り培養した細胞における、ドラニダゾール、ミソニダゾール、メトロニダゾール存在下、非存在下でミトコンドリア内の活性酸素種(ROS)をフローサイトメトリで定量した。結果を
図8に示す。ドラニダゾール、ミソニダゾール存在下では有意にROSが増加していることがわかる。即ち、2-ニトロイミダゾール誘導体により、生じたROSの処理が阻害されROSが増加している。5-ニトロイミダゾール誘導体のメトロニダゾールではこの様な現象は観察されない。
【0032】
実施例5
実施例1と同様の方法で、培地の切替によって分化誘導の程度を変えてその影響を見た。
即ち、1群は実施例1の非血清培地のまま4日間培養し、1群は非血清培地で3日培養し、その後血清培地で1日間培養し、1群は血清培地で3日間培養し、その後1日間非血清培地で培養し、残る1群は4日間血清培地で培養した。この様な培養をすることにより、血清による分化誘導の程度を変え、ドラニダゾールの効果を確かめた。結果を
図9に示す。血清による分化誘導の程度が低いほどドラニダゾールの効果が著しいことがわかる。即ち、ドラニダゾールは分化をしていない癌幹細胞に対して、特異的に著効を示すことがわかる。
【0033】
実施例6
実施例1の方法で、ドラニダゾール存在下、非存在下で培養した細胞を放射線照射後、ヘキスト33324と、γH2AXとで二重染色し、ダブルストランドブレークを定量した。結果を
図10に示す。これより、低酸素条件下ドラニダゾールは、放射線による癌幹細胞のダブルストランドブレーク有意に増加させていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、癌幹細胞を含む癌の治療用の医薬に応用できる。