(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】アプタマーの製造方法とその応用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/115 20100101AFI20230925BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20230925BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20230925BHJP
C12Q 1/6811 20180101ALI20230925BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20230925BHJP
A61K 31/7088 20060101ALN20230925BHJP
A61P 31/16 20060101ALN20230925BHJP
【FI】
C12N15/115 Z
G01N33/531 Z ZNA
G01N33/569 L
C12Q1/6811 Z
C12Q1/6888 Z
A61K31/7088
A61P31/16
(21)【出願番号】P 2019142905
(22)【出願日】2019-08-02
【審査請求日】2022-06-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31(2019)年4月30日 ウェブサイト(https://www.nature.com/articles/s41598-019-43187-6)を通じて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】マニッシュ ビヤニ
(72)【発明者】
【氏名】高村 禅
(72)【発明者】
【氏名】クシュワハ アンキタ
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-014292(JP,A)
【文献】特開2012-100636(JP,A)
【文献】特開2009-195187(JP,A)
【文献】KUSHWAHA, Ankita,DNAアプタマの高選択性多重in vitroセレクションのための競争的濃縮によるリガンド系統的進化法SELCOの開発,JAIST 学術研究結果リポジトリ,2019年06月,http://hdl.handle.net/10119/16071
【文献】OGASAWARA, Daisuke et al.,Prion,2007年,Vol. 1, Issue 4,pp. 248-254,DOI: 10.4161/pri.1.4.5803
【文献】LAI, Hsien-Chih et al.,Lab on a Chip,2014年06月21日,Vol. 14, No. 12,pp. 2002-2013,DOI: 10.1039/c4lc00187g
【文献】LUM, Jacob et al.,sensors,2015年07月29日,Vol. 15, No. 8,pp. 18565-18578,DOI: 10.3390/s150818565
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
G01N 33/48-33-98
C12Q 1/00- 3/00
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子に結合する核酸アプタマーの製造方法であって、
i) 標的分子を固定した固相担体と、競合分子を固定した固相担体を提供する工程であって、競合分子は、標的分子と、一本鎖核酸ライブラリとの結合について競合する分子である、工程、
ii) 一本鎖核酸ライブラリと、前記標的分子を固定した固相担体と、前記競合分子を固定した固相担体とを共存及び接触させることにより、標的分子及び競合分子に前記一本鎖核酸ライブラリの一本鎖核酸を結合させる工程、
iii) 工程ii)で得られた標的分子を固定した固相担体を洗浄することにより、少なくとも非結合の一本鎖核酸を除去する工程、及び
iv) 標的分子を固定した固相担体から一本鎖核酸を分離することにより、一本鎖核酸を含む候補アプタマープールを得て、次に当該候補アプタマープールから核酸アプタマーを単離する工程
を含
み、
工程iv)の前に、工程ii)及びiii)が2ラウンド以上実施され
、
工程ii)及びiii)のラウンドにおいて、下記a)~c)に記載の条件の少なくとも一が採用される、
方法。
a)工程ii)で用いる一本鎖核酸ライブラリ中の一本鎖核酸分子の数を、1ラウンドごとに漸次的に増加させる。
b)工程ii)の接触のためのインキュベート時間の長さを、1ラウンドごとに漸次的に減少させる。
c)工程iii)の洗浄条件の厳しさを、1ラウンドごとに漸次的に減少させる。
【請求項2】
工程iv)が、核酸アプタマーの単離前に、得られた候補アプタマープールに競合分子を固定した固相担体を接触させること、次に競合分子を固定した固相担体を除去することを含む、請求項1
に記載の方法。
【請求項3】
工程iv)の後に、工程iv)で単離された核酸アプタマーの塩基配列を決定する工程v)を更に含む、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記競合分子が前記標的分子と共通する部位を有する、請求項1から
3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記競合分子が2種類以上用いられる、請求項1から
4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記一本鎖核酸がプライマー結合領域を有する、請求項1から
5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
配列番号1から8に記載の塩基配列のいずれかを含む、インフルエンザウイルスに結合するアプタマー。
【請求項8】
請求項
7に記載のアプタマーの何れかを使用する、生物試料中におけるインフルエンザウイルスの検出方法。
【請求項9】
アプタマーとインフルエンザウイルスとの結合が蛍光法により又は電気化学的に検出される、請求項
8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的分子に結合する核酸アプタマーの製造方法、及び当該製造方法により製造されたインフルエンザウイルスに結合する核酸アプタマーに関する。
【背景技術】
【0002】
SELEX(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment;指数関数的濃縮によるリガンドの系統的進化)は、ランダムな塩基配列を含む核酸ライブラリから標的に結合する核酸分子を製造する方法であり、試験管内分子進化法やインビトロ選択法ともいわれる。SELEXは、3つの基本的ステップである結合、分離及び増幅の反復サイクルを用いて操作され、標的に結合するDNA/RNA分子を徐々に濃縮することができる(非特許文献1及び2)。
【0003】
SELEXにより単離される核酸分子を「アプタマー」という。SELEXプロトコルは長い間、成功裏に用いられているが、このプロトコルにより高い特異性を有するアプタマーを選択することは困難である(非特許文献3-5)。
【0004】
高い特異性を有するアプタマーを選択するために、「ネガティブセレクション」を適用するアプローチがある。このアプローチは広く適用されており、例えば、SELEXの場合には、ネガティブセレクションが細胞特異的アプタマーの選択において、非常にポジティブな結果をもたらしたという報告がある(非特許文献6)。
【0005】
このアプローチは有用であるが、原則として、ネガティブセレクションとポジティブセレクションを複数回繰り返す必要がある。また、SELEXプロセスは、PCRを用いたセレクションのための多数回のラウンドを必要とするが、PCRは本質的に望ましくない偏った増幅を生じる(非特許文献7-9)。いくつかの成功例はあるものの(非特許文献10及び11)、SELEXベースの実験の成功率は高くないという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Tuerk, C.; Gold, L. Systematic evolution of ligands by exponential enrichment: RNA ligands to bacteriophage T4 DNA polymerase. Science 1990, 249, 505-510.
【文献】Ellington, A. D.; Szostak, J. W. In vitro selection of RNA molecules that bind specific ligands. Nature 1990, 346, 818-822.
【文献】Zhou, W.; Huang, P. J.; Ding, J.; Liu, J. Aptamer-based biosensors for biomedical diagnostics. Analyst 2014, 139, 2627-2640.
【文献】Bowser, M.T. SELEX: Just another separation? Analyst 2005, 130, 128-130.
【文献】Baird, G.S. Where are all the aptamers? Am. J. Clin. Pathol. 2010, 134, 529-531.
【文献】Thiel, H. W.; Bair, T.; Thiel, W. K.; Dassie, P. J.; Rockey, M. W.; Howell, A. C.; Liu, Y. X.; Dupuy, J. A.; Huang, L.; Owczarzy, R.; Behlke, A. M.; Mc.Namara, J. O.; Giangrande, H. P. Nucleotide Bias Observed with a short SELEX RNA Aptamer Library. Nucleic Acid Ther. 2011, 21, 253-263.
【文献】Joyce, F. G. Amplification, mutation and selection of catalytic RNA. Gene 1989, 82, 83-87.
【文献】Tolle, F.; Wilke, J.; Wengel, J.; Mayer, G. By-Product Formation in Repetitive PCR amplification of DNA Libraries during SELEX. Plos One 2014, 9, e114693.
【文献】Djordjevic, M. SELEX experiments: new prospects, applications and data analysis in inferring regulatory pathways. Biomol Eng, 2007, 24, 1179-1189.
【文献】Blind, M.; Blank, M. Aptamer Selection Technology and Recent Advances. Mol Ther Nucleic Acids. 2015, 4, e223.
【文献】Ozer, A.; Pagano, M. J.; Lis, T. J. New technologies provide quantum changes in the scale, speed and success of SELEX methods and aptamer characterization. Mol.Therapy. Nuc. Acids. 2014, 3, e183.20.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のSELEX法では、標的に特異的に且つ高い親和性で結合するアプタマーを製造することは困難であるという課題があった。
よって、本発明は、標的に特異的に且つ高い親和性で結合するアプタマーを製造することができる、改良された試験管内分子進化法を提供することを課題する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ライブラリの濃縮に、競争的要素を取り入れることにより、標的に特異的に且つ高い親和性で結合するアプタマーを製造することに成功した。本発明はこの知見に基づくものである。
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]標的分子に結合する核酸アプタマーの製造方法であって、
i)標的分子を固定した固相担体と、競合分子を固定した固相担体を提供する工程であって、競合分子は、標的分子と、一本鎖核酸ライブラリとの結合について競合する分子である、工程、
ii)一本鎖核酸ライブラリと、上記標的分子を固定した固相担体と、上記競合分子を固定した固相担体とを共存及び接触させることにより、標的分子及び競合分子に前記一本鎖核酸ライブラリの一本鎖核酸を結合させる工程、
iii)工程ii)で得られた標的分子を固定した固相担体を洗浄することにより、少なくとも非結合の一本鎖核酸を除去する工程、及び
iv)標的分子を固定した固相担体から一本鎖核酸を分離することにより、一本鎖核酸を含む候補アプタマープールを得て、次に当該候補アプタマープールから核酸アプタマーを単離する工程
を含む、方法。
[2]工程iv)の前に、工程ii)及びiii)が2ラウンド以上実施される、[1]に記載の方法。
[3]工程ii)及びiii)のラウンドにおいて、下記a)~c)に記載の条件の少なくとも一が採用される、[2]に記載の方法。
a)工程ii)で用いる一本鎖核酸ライブラリ中の一本鎖核酸分子の数を、1ラウンドごとに漸次的に増加させる
b)工程ii)の接触のためのインキュベート時間の長さを、1ラウンドごとに漸次的に減少させる
c)工程iii)の洗浄条件の厳しさを、1ラウンドごとに漸次的に減少させる。
[4]工程iv)が、核酸アプタマーの単離前に、得られた候補アプタマープールに競合分子を固定した固相担体を接触させること、次に競合分子を固定した固相担体を除去することを含む、[1]から[3]の何れか一に記載の方法。
[5]工程iv)の後に、工程iv)で単離された核酸アプタマーの塩基配列を決定する工程v)を更に含む、[1]から[4]の何れか一に記載の方法。
[6]上記競合分子が前記標的分子と共通する部位を有する、[1]から[5]の何れか一に記載の方法。
[7]上記競合分子が2種類以上用いられる、[1]から[6]の何れか一に記載の方法。
[8]上記一本鎖核酸が5′末端側及び3′末端側にプライマー結合領域を有する、[1]から[7]の何れか一に記載の方法。
[9]配列番号1から8に記載の塩基配列のいずれかを含む、インフルエンザウイルスに結合するアプタマー。
[10][9]に記載のアプタマーの何れかを使用する、生物試料中におけるインフルエンザウイルスの検出方法。
[11]アプタマーとインフルエンザウイルスとの結合が蛍光法により又は電気化学的に検出される、[10]に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1はSELCOSの実験スキームの一例を示す。
図1では、4つの標的についての競合が示されている(後記の実施例では2つの標的による競合を用いている)。PCR増幅を行わずに4回の分離を行った後、最終段階でネガティブセレクション(又はカウンターセレクションという)を行う。4回の連続溶出ステップでは、ライブラリ成分の濃度を徐々に(例えば、1倍から8倍に)増加させ、同時に徐々に洗浄回数を減少させる。これらの濃度の増加と洗浄回数の減少についての操作は結合に有利であると考えられる。
【
図2】
図2は、標的タンパク質へのリガンド結合様式における、従来のSELEXとSELCOSの比較を示す。
図2の例では、リガンド(アプタマー候補)のプールは、共通部位(C)及び特異的部位(S
1又はS
2)からなる2つの異なる標的(Tα及びTβ)へのそれらの結合様式により、次の7種類(L
S、L
S1、L
S2、L
S1/S2、L
S/C、L
C、及びL
X)に分類される。各リガンドはそれらの結合部位に結合する。例えば、L
Sは両方の標的(Tα及びTβ)の特定の部位に結合することができるリガンドであり、一方L
S1及びL
S2はそれぞれS
1又はS
2部位にのみ結合する。これは、標的の同じ部位が、リガンドによって異なって認識され得ることを示している。具体的には、L
S1/S2はTα中のS
1とTβ中のS
2の両方に結合する。L
S/Cは部位S(すなわちS
1及びS
2)及び部位Cの両方に結合する。L
CはTα及びTβの共通部位に結合する。L
XはTαにもTβにも結合しない。
【
図3】
図3の上図は、抗標的(インフルエンザウイルスタンパク質)-DNAアプタマー被覆金ナノ粒子(AuNP)が装填された、標的に結合するApta-DEPSOR電極(アプタマーに基づく使い捨て電気化学プリントセンサー)の概略図である。センサーチップの作用極上に続いてAuNPとセンサー表面との間の電子移動が起こり、結果としてDPV(微分パルスボルタンメトリー)パターンが生成される。下図は、DPVのウイルスタンパク質濃度依存的測定の概略図である。試料溶液が大量のウイルスタンパク質を含む場合、AuNPは遊離タンパク質と共に運び去られる。DPV曲線のへこみは、結合したAuNPに比例したシグナルである。
【
図4】
図4は選択されたアプタマーについて予測された二次構造を示す。(a
1-a
4)標的H1N1について選択されたアプタマーであり、順にApt01>T
H1N1、Apt02>T
H1N1、Apt03>T
H1N1、Apt04>T
H1N1である。(b
1-b
2)標的H3N2について選択されたアプタマーであり、順にApt01>T
H3N2、Apt02>T
H3N2である。
【
図5】
図5はSELCOSにより得られた、インフルエンザウイルスに結合するアプタマー(配列番号1~8)に関する情報を記載した表である。各塩基配列の両端に記載されているPBSは、プライマー結合領域である。5'PBS及び3'PBSの塩基配列は、それぞれ、AGCAGCACAGAGGTCAGATG(配列番号9)、及びCCTATGCGTGCTACCGTGAA(配列番号10)である。デルタG(kcal/mol)は、Mfoldオンラインツールにより計算された自由エネルギー値である。KD(M)は、単一サイクルカイネティクスを使用してBiacore X100により得た。Ipc(μA)は、DPV曲線から得た平均電流値である。標的H1N1に特異的なアプタマーと標的H3N2に特異的なアプタマーの両方が、SELCOSの一回のトライアルにより得られた。
【
図6】
図6は、SELEX又はSELCOSによって選択されたプールと標的H1N1タンパク質の相互作用についての単一サイクルカイネティクスSPR分析結果を示す。
【
図7】
図7は、標的H1N1との相互作用について、SELCOSにより選択されたアプタマーH1N1-apt03とモノクローナル抗体との比較を示す。
【
図8】
図8は、SELCOSによって標的H1N1(A)及び標的H3N2(C)について選択されたアプタマーの評価のための電気化学測定により得られたDPV曲線、及び対応する棒グラフ(B、D)である。
【
図9】
図9は、アプタマーApt03>T
H1N1(a)及びApt01>T
H3N2(b)に関する電気化学測定のDPV曲線(左)及び対応する棒グラフ(右)である。
【
図10】
図10は、標的H1N1及びH3N2について各々選択された2つのSELCOSプール(H1N1プール及びH3N2プール)に関する電気化学測定のDPV曲線(a)及び対応する棒グラフ(b)である。
【
図11】
図11は、標的H1N1(a)及びH3N2(b)に対する電気化学測定を示すDPV曲線(左)とキャリブレーション曲線(右)である。H1N1又はH3N2タンパク質の濃度の関数としての電流のプロットについて、線形回帰分析を行った。
【
図12】
図12は、ヒト血清中のインフルエンザウイルスA H1N1亜型を測定するための検量線である。回帰分析から、相関係数rは-0.88であった。検出下限は0.51であった。データは3回の実験から得られた平均である。
【
図13】
図13は、インフルエンザA H1N1(A/California/04/2009)ヘマグルチニン/HAタンパク質(Genbank: ACP41105.1)とインフルエンザA H3N2 (A/Aichi/2/1968) ヘマグルチニン/HAタンパク質(Genbank: AAA43178.1)のアミノ酸配列アライメントである。アライメントはClustal W(Nucleic Acids Res. 1994, 22, 4673-4680)で行った。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に記載する本発明の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
(SELCOS)
本発明は、標的分子に結合する核酸アプタマーの製造方法であって、下記の工程i)~iv)を含む。
i)標的分子を固定した固相担体と、競合分子を固定した固相担体を提供する工程であって、競合分子は、標的分子と、一本鎖核酸ライブラリとの結合について競合する分子である、工程、
ii)一本鎖核酸ライブラリと、上記標的分子を固定した固相担体と、上記競合分子を固定した固相担体とを共存及び接触させることにより、標的分子及び競合分子に前記一本鎖核酸ライブラリの一本鎖核酸を結合させる工程、
iii)工程ii)で得られた標的分子を固定した固相担体を洗浄することにより、少なくとも非結合の一本鎖核酸を除去する工程、及び
iv)標的分子を固定した固相担体から一本鎖核酸を分離することにより、一本鎖核酸を含む候補アプタマープールを得て、次に当該候補アプタマープールから核酸アプタマーを単離する工程。
【0012】
本発明者らは、PCR増幅なしに選択的アプタマーを得るための新規なアプローチ、すなわち「SELCOS」(Systematic Evolution of Ligands by COmpetitive Evolution;競合選択によるリガンドの系統的進化)を開発した。SELCOSでは陽性及び陰性標的のすべてを含む溶液を用いてインビトロ選択が行われる。
図1に、SELCOSの実験スキームを示す。
【0013】
核酸アプタマーは、標的分子に特異的に結合する核酸分子である。本発明において、核酸アプタマーを構成する核酸の種類は特に制限されず、RNA、DNA、修飾核酸又はそれらの組み合わせであってもよい。特に、本発明において核酸アプタマーは、DNAアプタマーであってもよい。修飾核酸としては、リボースの2’位のOH基をF基やOMe基に置換した核酸や、ホスホロチオエート型のDNAやRNAなどを挙げることができる。本明細書において、核酸アプタマーを単にアプタマーと記載する場合がある。
【0014】
本発明において標的分子は、アプタマーにより結合、認識、検出又は特定されることが期待される、任意の分子を表す。標的分子として用いられる物質の種類は、アプタマーが結合可能な任意の分子であれば制限はなく、例えば、タンパク質、ペプチド(ポリペプチドやオリゴペプチド)、ヌクレオチド(オリゴヌクレオチドやポリヌクレオチド)、糖類や脂質などの分子等を例示することができる。本発明で使用する標的分子は、天然に存在する分子、精製された分子、人工的に処理された分子、又は合成された分子であってもよい。また、標的分子がタンパク質の場合、タグ配列を融合した融合タンパク質であってもよい。タグ配列としては、例えば、His、FLAG、myc又はGFPが挙げられる。本発明の一実施形態において、標的分子は病原体又はその一部であり、病原体は例えば真菌、細菌、ウイルス及び酵母であってもよい。病原体の一部は病原体タンパク質やペプチドであってもよい。
【0015】
本発明において競合分子は、一本鎖核酸ライブラリとの結合について標的分子と競合しうる、標的分子以外の任意の分子を表す。競合分子は、一本鎖核酸ライブラリの一本鎖核酸に結合する可能性がある、標的分子以外の任意の分子であり、例えば、タンパク質、ペプチド(ポリペプチドやオリゴペプチド)、ヌクレオチド(オリゴヌクレオチドやポリヌクレオチド)、糖類や脂質などの分子等を例示することができる。本発明で使用する競合分子は、天然に存在する分子、精製された分子、人工的に処理された分子、又は合成された分子であってもよい。競合分子は、標的分子と同一ではなく、これらがタンパク質である場合には、両者のアミノ酸配列は同一ではなく、互いに相違するアミノ酸配列部分を有する。また、競合分子がタンパク質の場合、タグ配列を融合した融合タンパク質であってもよい。タグ配列としては、例えば、His、FLAG、myc又はGFPが挙げられる。本発明の一実施形態において、標的分子として病原体を使用する場合に、競合分子は、標的分子として使用する病原体に近縁な別の種、型、及び亜型等から選択することができる。本明細書中、競合分子をカウンター標的という場合がある。
【0016】
競合分子は、標的分子と共通する部位を有するものであってもよい。共通する部位は立体構造であってもよい。共通する部位とは、タンパク質を例にすると、アミノ酸配列同一性が高い特定の領域部分や、同一の機能を有するドメイン部分であってもよい。例えば、標的分子がタンパク質である場合に、競合分子は、標的分子と共通する部位やドメインを含むタンパク質(ポリペプチド)を設計するか、又はそのようなタンパク質を天然に存在するものから選択することにより用意することができる。
【0017】
標的分子と競合分子がタンパク質である場合に、競合タンパク質は、その全体では、標的タンパク質に対して、必ずしも高いアミノ酸配列同一性を有する必要はなく、競合タンパク質は、その一部に、標的タンパク質と共通するアミノ酸配列部分を有していればよい。例えば、競合タンパク質のアミノ酸配列は、標的タンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、全体ではアミノ酸同一性は低いが、共通するアミノ酸配列部分では、標的タンパク質のアミノ酸配列に対して少なくとも50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、あるいは90%以上のアミノ酸同一性を有する領域を含むことができる。競合タンパク質と標的タンパク質の共通するアミノ酸配列部分の長さに制限はないが、例えば10アミノ酸以上、20アミノ酸以上、30アミノ酸以上、40アミノ酸以上、50アミノ酸以上の長さの領域であってもよい。
【0018】
本発明の製造方法において用いる競合分子の数には制限はないが、特異性の高いアプタマーを得るためには、複数の競合分子を用いることが好ましい。具体的には、2種類以上、3種類以上、4種類以上、又は5種類以上の競合分子を用いることができる。
【0019】
本発明において一本鎖核酸ライブラリは、同一又は異なる複数の核酸で構成される、ランダムな配列を有する核酸のプール(集合物)を表す。一本鎖核酸ライブラリは、核酸アプタマーの候補分子を含む。一本鎖核酸ライブラリ中には、一本鎖核酸が対合することによって形成される二本鎖核酸がその一部に含まれていてもよい。一本鎖核酸ライブラリ中の核酸は、5′末端側及び3′末端側にプライマー結合領域を有していてもよく、その場合、両末端のプライマー結合領域の間にランダム領域が存在する。ランダム領域は10mer~50merであってもよい。プライマー結合領域はそれぞれ15~40merであってもよい。したがって、一本鎖核酸ライブラリを構成する一本鎖核酸の塩基長は、40~130merの範囲内とすることができる。一本鎖核酸ライブラリを構成する一本鎖核酸分子の数は、例えば10pmol~100nmolの範囲に設定することができる。一本鎖核酸ライブラリは、合成により作成することができる。本明細書中、標的による選択が実施される前の一本鎖核酸ライブラリを初期ライブラリ又は初期ランダムプールという場合がある。
【0020】
本発明において固相担体は、固定化や分離などに用いられている、公知の担体であってもよい。固相担体の形態は、粒子(磁気ビーズや非磁気ビーズ)、シート、ゲル、フィルター、膜、繊維、スライド、アレイもしくはストリップ、チューブ、プレート、又はウェルなどから選択することができる。固相担体の素材は、セファロース、セファデックス、アガロース、ガラス、シリカ、セラミックス、樹脂、プラスチック、金属又はこれらの組み合わせなどから選択することができる。
【0021】
上記の工程i)は、標的分子が固定された固相担体の他に、競合分子が固定された別の固相担体を提供する工程である。分子を固相担体に固定化する技術は当該技術分野においてよく知られている。標的分子や競合分子がタンパク質やペプチドである場合、固相担体への固定化方法は、特に制限されず、固相担体の種類に応じて、タンパク質やペプチドの固定化に一般的に用いられる方法を用いることができる。例えば、物理吸着法、親和性物質(例、ビオチン-アビジン、ヒスチジン等)を利用する方法や、所定の官能基(アミノ基)を利用する方法等が挙げられる。標的分子を固定した固相担体と競合分子を固定した固相担体とは、容易に区別又は分離できるものであることが好ましい。例えば、標的分子を固定した固相担体と競合分子を固定した固相担体のうち一方を磁気ビーズとし、他方を非磁気ビーズとすることができる。後の工程のiv)工程で、標的分子を固定した固相担体と競合分子を固定した固相担体を容易に分けることができるためである。競合分子は2種類以上用いることができる。競合分子を2種類以上用いる場合も、各競合分子が容易に区別又は分離できるように、それぞれに異なるタイプの固相担体を用いることが好ましい。
【0022】
上記の工程ii)は、標的分子と競合分子とがライブラリの一本鎖核酸への結合について競合するような条件において実施される。具体的には、同じ溶液中に、標的分子を固定した固相担体と競合分子を固定した固相担体と一本鎖核酸ライブラリとが同時に存在するような条件で行われる。例えば、一本鎖核酸ライブラリを溶解した溶液を含む容器(チューブなど)に、標的分子を固定した固相担体及び競合分子を固定した固相担体を加えて、インキュベートすることができる。
【0023】
本工程で使用する溶液は、核酸と標的分子又は競合分子とが結合できる溶液であれば、任意の種類を使用することができる。例えば、水又は緩衝液であってもよい。緩衝液として、例えば、リン酸バッファー、クエン酸-リン酸バッファー、トリス-塩酸バッファー又はHEPESバッファーを使用することができる。緩衝液のpHは標的分子などの性質に応じて設定することができるが、一般的には6.0~8.0、特に6.5~7.6の範囲に設定することができる。緩衝液の最終塩濃度は標的分子などの性質に応じて設定することができるが、一般的には50~300mM、特に90~180mMの範囲に設定することができる。上記緩衝液の組成は、例えば、Green M. R. and Sambrook, J., Molecular Cloning: A Laboratory Manual(Fourth Edition)Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 2012等を参考にすることができる。
【0024】
一本鎖核酸ライブラリは、標的分子を固定した固相担体と競合分子を固定した固相担体とに接触させる前に、加熱処理することができる。一本鎖核酸が対合することによって形成される二本鎖核酸を一本鎖化するためである。一本鎖核酸ライブラリと、標的分子を固定した固相担体及び競合分子を固定した固相担体とを接触させるインキュベーション時間の長さは、結合が生じるための十分な時間であれば制限はないが、例えば5分間から120分間に設定することができる。各ラウンドの条件を変化させる場合のインキュベーション時間については後述する。
【0025】
上記の工程iii)は、固相担体から、標的分子又は競合分子に結合していないか、又は弱く結合した一本鎖核酸を除去する工程である。洗浄は、工程ii)で使用した溶液を用いてもよく、この溶液に界面活性剤などを加えた溶液を用いてもよく、あるいはpHや塩濃度の異なる適当な溶液を用いてもよい。洗浄は、1回から10回程度行うことができる。界面活性剤の例としては、Triton X-100、Triton X-114、Brij-35、Brij-58、Tween-20、Tween-40、Tween-60、Tween-80、n-オクチル-β-グルコシド、MEGA-8、MEGA-9、MEGA-10が挙げられる。溶液中の界面活性剤の最終濃度は、0.005~0.5(v/v)%に設定することができる。
【0026】
上記の工程iv)は、標的分子を固定した固相担体から一本鎖核酸を分離することにより、一本鎖核酸を含む候補アプタマープールを得て、候補アプタマープールから核酸アプタマーを単離する工程である。工程iv)を実施する際に、まず、標的分子を固定した固相担体と競合分子を固定した固相担体を分離する。例えば、標的分子を固定した固相担体と競合分子を固定した固相担体のうち一方を磁気ビーズとし、他方を非磁気ビーズとした場合には、磁石(磁気スタンド)を用いて分離することができる。固相担体からの一本鎖核酸の分離は、当該技術分野においてよく知られるように、標的分子と核酸との結合を解離させることができる溶液を用いて、核酸を溶出させることにより行うことができるし、また、熱処理により行うこともできる。例えば、標的分子がタンパク質やペプチドの場合、アルカリ法やフェノール/クロロホルム法のようなタンパク質変性法や熱変性法によってタンパク質を凝固、除去することによって、目的の一本鎖核酸を分離し回収することができる。標的分子を固定した固相担体から溶出された一本鎖核酸の溶液を、複数の一本鎖核酸を含む候補アプタマープールとすることができる。
【0027】
候補アプタマープールから核酸アプタマーを単離する工程は、当該技術分野で知られている任意の方法を実施することができる(例えば、Green M. R. and Sambrook, J.、上掲)。例えば、候補アプタマープール中の一本鎖核酸をPCR増幅し、PCR増幅断片をTAクローニングし、大腸菌に形質転換し、コロニースクリーニングを行い、核酸アプタマーを単離することができるが、この方法に限られない。ライブラリの一本鎖核酸は、プライマー結合領域がランダム領域の両端に付与されており、これを利用してPCR増幅を実施することができる。
【0028】
工程iv)の前に、工程ii)及びiii)を2ラウンド以上実施することができる。工程ii)及びiii)を2ラウンド以上実施することとは、工程ii)及びiii)を続けて2回以上繰り返して実施することであってもよい。2回目の工程ii)では、新たに用意した一本鎖核酸ライブラリと、1回目の工程iii)において洗浄された標的分子を固定した固相担体と競合分子を固定した固相担体とを接触させて、標的分子又は競合分子に一本鎖核酸を結合させ、続いて2回目の工程iii)で標的分子を固定した固相担体と競合分子を固定した固相担体を洗浄し、担体から非結合又は弱く結合した一本鎖核酸を除去する。同様に、3ラウンド目では、新たに用意した一本鎖核酸ライブラリと、2回目の工程iii)において洗浄された標的分子を固定した固相担体と競合分子を固定した固相担体とを用いて、3回目の工程ii)及びiii)を続けて実施することができる。4ラウンド目以降も、同様に工程ii)及びiii)を繰り返すことができる。2ラウンド目以降に工程ii)及びiii)を実施する際の条件は、1ラウンド目と同じ条件を使用してもよいし、ラウンド毎に変えることも。工程ii)及びiii)は、2から10ラウンド実施してもよいが、SELCOSでは通常早いラウンドで標的に特異的な一本鎖核酸が濃縮できるため、4ラウンド程度の実施でもよい。各ラウンドの条件を変化させる場合における、2ラウンド目以降の工程ii)及びiii)の実施条件については、後述する。
【0029】
本発明の一実施態様において、上記ラウンドの実施条件をラウンド毎に変えることができる。例えば、工程ii)及びiii)のラウンドにおいて、下記のa)~c)に記載の条件の少なくとも一を採用することができる。
a)工程ii)で用いる一本鎖核酸ライブラリ中の一本鎖核酸分子の数を、1ラウンドごとに漸次的に増加させる
b)工程ii)の接触のためのインキュベート時間の長さを、1ラウンドごとに漸次的に減少させる
c)工程iii)の洗浄条件の厳しさを、1ラウンドごとに漸次的に減少させる
【0030】
上記工程iv)の前に、工程ii)及びiii)を2ラウンド以上実施する場合において、1ラウンドごとに工程ii)及び/又はiii)の実施条件を段階的に変化させることができる。概念図を
図1の左側部分(ライブラリー分子間の競争)に示す。
上記条件a)では、工程ii)で用いる一本鎖核酸ライブラリ中の一本鎖核酸分子の数を、1ラウンドごとに漸次的に増加させることができる。2ラウンド目以降の工程ii)に用いる新たに用意した一本鎖核酸ライブラリの一本鎖核酸分子の数を、1ラウンド目に使用した一本鎖核酸分子の数に対して、例えば2倍、4倍、8倍と段階的に増加させることが好ましい。一本鎖核酸分子の数は、前のラウンドよりも増加していればよく、増加の割合は適宜変化させることができる。ライブラリ中の一本鎖核酸分子の数の増加により、ライブラリ中の一本鎖核酸間において、標的分子及び競合分子への結合の競争が誘導されると考えられる。
【0031】
上記条件b)では、工程ii)の接触のためのインキュベート時間の長さを、1ラウンドごとに漸次的に減少させることができる。2ラウンド目以降の工程ii)の接触のインキュベート時間の長さを、1ラウンド目のインキュベート時間の長さに対して、例えば1/2倍、1/4倍、1/8倍と段階的に減少させることが好ましい。インキュベート時間の長さは、前のラウンドよりも減少していればよく、減少の割合は適宜変化させることができる。インキュベート時間の長さの減少により、ライブラリ中の一本鎖核酸間において、標的分子及び競合分子への結合の競争が誘導されると考えられる。
【0032】
上記条件c)では、工程iii)の洗浄条件の厳しさを、1ラウンドごとに漸次的に減少させることができる。洗浄条件の厳しさは、洗浄時間の長さ、洗浄の回数、洗浄液中の界面活性剤や塩の濃度などに依存して変更することができる。洗浄条件の厳しさは、例えば、洗浄時間が長いほど、洗浄回数が多いほど、洗浄液中の界面活性剤濃度が高いほど、洗浄液中の塩濃度が高いほど、高くなる。洗浄条件の厳しさが高い場合には、低い場合に比較して、担体から除去される一本鎖核酸の割合は多くなる。2ラウンド目以降の工程iii)の洗浄条件の厳しさを、1ラウンド目の洗浄条件の厳しさに対して、例えば1/2倍、1/4倍、1/8倍と段階的に減少させることが好ましい。洗浄条件の厳しさについては、前のラウンドよりも減少していればよく、減少の割合は適宜変化させることができる。洗浄条件の厳しさの減少により、ライブラリ中の一本鎖核酸間において、標的分子及び競合分子への結合の競争が誘導されると考えられる。
工程ii)及びiii)のラウンドにおいて、上記の条件a)~c)の何れかが採用されてもよいし、すべてが採用されてもよい。
【0033】
本発明の一実施態様において、工程iv)が、核酸アプタマーの単離前に、得られた候補アプタマープールに競合分子を固定した固相担体を接触させること、次に競合分子を固定した固相担体を除去することを更に含むことができる。これにより、候補アプタマープールから偽陽性の一本鎖核酸を排除することができる。偽陽性の一本鎖核酸とは、標的分子よりも、競合分子に特異的に結合する一本鎖核酸である。競合分子を固定した固相担体は、新たに調製したものが用いられる。偽陽性分子の除去処理後の候補アプタマープールから核酸アプタマーを単離することができる。本明細書において、偽陽性分子の除去処理をカウンターセレクションという場合がある。工程iv)でも、競合分子は2種類以上用いることができ、工程i)で提供した競合分子の全てを用いることが好ましい。
【0034】
後記の実施例では、最終段階で標的分子に対して8倍過剰のリガンドを加えているため、リガンドにより標的の結合部位がほぼ飽和していると考えられる。このようにして得られた選択生成物(リガンド)をネガティブセレクションのために処理した。具体的には、選択されたリガンドを本来の標的以外の全ての可能な標的の混合物で処理し、次いで結合しなかったリガンドを回収した。但し、ネガティブセレクションは、省略することができる。
【0035】
(塩基配列決定)
工程iv)の後に、核酸アプタマーの塩基配列を決定する工程v)を実施し、アプタマーを特定することができる。塩基配列の決定は、当該技術分野においてよく知られる方法、例えばジデオキシ法やDNAシークエンサーを用いて容易に行うことができる。このようにして、候補アプタマープールから複数の候補アプタマーの塩基配列を決定することができる。
【0036】
(候補アプタマーの解析)
塩基配列が決定されたアプタマーについて、二次構造の解析や候補アプタマープールでの検出頻度、更には決定された配列間の系統関係を解析してもよい。二次構造の解析には、ソフトウェアのmfold(Nucleic Acids Res. 2003, 31, 3406-3415)などを使用することができる。配列系統解析はソフトウェアのClustal W(Nucleic Acids Res. 1994, 22, 4673-4680)などを使用することができる。安定な二次構造を有するアプタマーや検出頻度の高いアプタマーについて、優先的に、標的分子への結合親和性解析を実施してもよい。
【0037】
標的分子への結合親和性解析は、表面プラズモン共鳴(SPR)分析法などにより実施することができる。SPR法では、表面プラズモン共鳴(SPR)を利用して分子の相互作用をセンサーチップ上に再現することで、結合の強さ、速さ、選択性を測定して結合速度定数や解離速度定数を算出する。標的分子への結合親和性が高い一本鎖核酸を、標的分子に特異的に結合するアプタマーとして採用することができる。
【0038】
本発明により提供される方法により製造されたアプタマーを使用して、生物試料中における標的分子を検出することができる。例えば、標的分子が病原体又はその一部である場合には、本発明により提供される方法により製造されたアプタマーを使用して、患者の感染症を診断することができる。アプタマーによる標的分子の検出は、標的分子とアプタマーの結合の検出に基づき、当該結合は、以下に具体的に記載するように、例えば、蛍光法により又は電気化学的に検出することができる。
【0039】
(従来のSELEX及びSELCOSの比較)
図2に、標的タンパク質へのリガンド結合様式における、従来のSELEX及びSELCOSの比較を示す。
図2では、リガンド(アプタマー候補)のプールは、標的分子Tα及びTβへの結合性に応じてL
S、L
S1、L
S2、L
S1/S2、L
C及びL
Xと名付けられた分子からなる。従来のSELEXと、2つ以上の標的分子を保持するSELCOSの挙動は異なる。SELCOSでは、標的Tα及びTβに結合することができる共通のリガンド(アプタマー候補)(特にL
S、L
S1/S2及びL
S/C)に関して標的Tα及びTβは互いに競合するが、従来のSELEXではもっぱらTαだけである。この特徴が、「SELCOS」の由来である。このため、S
1部位(すなわち、Tα特異的部位)に結合するリガンドは、L
S1(S
1部位に排他的に結合するリガンド)を除いて半分に減少し、L
S1が濃縮される。この効果は従来のSELEXでは期待できない。したがって、標的とリガンドプールとの間の相互作用が平衡状態であれば、SELEXよりもSELCOSにおいて、L
S1をより濃縮できる(言い換えれば、Tα特異的リガンドが濃縮できる)と考えられる。なお、
図2では標的分子が2つとして説明しているが、本明細書中では、標的分子の一方を競合分子という。
【0040】
従来のSELEXとSELCOSの典型的な違いは、複数の標的が共存できるかどうかに関係している。後記の実施例では、SELCOSについて、4段階に課した選択圧(洗浄効果の段階的な減少と、結合リガンドの増加の間の段階的な結合時間の減少)、リガンドライブラリの連続的な添加(PCR増幅なし)及び最終段階でのネガティブセレクションを実施した(
図1)。一方、従来のSELEXは、RNA/DNAライブラリを使用して、i)厳しさが増す選択圧の下で、ii)材料を「結合」と「非結合」の2つのグループ(通常は「ビーズ又は樹脂の固相」と「バルク溶液」)に分離し、iii)(通常はPCRによる)ライブラリの増幅を伴う。SELCOSは、従来のSELEXとは、中間増幅工程、すなわちPCRを実施しない点で少なくとも異なっており、さらにSELCOSは分離の反復工程の間に元のライブラリを使用したストック供給が追加されている点でも異なっている。
【0041】
SELEXは、指数関数的濃縮によるリガンドの系統的進化(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)の略称である。この指数関数的濃縮は目的のアプタマー(リガンド)をかならずしも濃縮させるとは限らない可能性がある。本発明者らは、ライブラリ成分はPCRによって指数関数的に増幅されるが、この指数関数的増幅段階の間に特定の要素の相対的濃縮は起こらないと考えている。リガンドプールのPCR増幅は以下に示すように表される。
【数1】
式中、L
i(t)、L
1(t)、及びL
2(t)は、それぞれ時間tにおけるリガンドL
i、L
1、及びL
2の濃度を表し、L
i(0)、L
1(0)、及びL
2(0)は時間0におけるリガンド濃度を表し、これらは一定である。e(t)は時間tにおける増幅効率を表す(時間は整数である)。PCRでは、理想的にはe=1である。ただし、この値は通常、ポリメラーゼの失活、プライマーの減少、反応物の増加などによる時間に依存する。これらの要因は各テンプレートに共通して影響を与えるので、各テンプレートに同じe(t)値が期待できる。したがって、式(3)は、PCRの前後で構成要素の割合が変化しないことを示している。言い換えれば、PCR中に濃縮は起こらないが、同じ要素(すなわち、・(1+e(t))t)による各成分の単純な増幅は濃縮につながる。特に、PCRはライブラリの集団に変化を生じさせることでよく知られている。集団における比率の変化及びDNA/RNAの変異は、適合するアプタマーの濃縮とは関係がない。これらの核酸はそれらの配列に固有の二次構造及び三次構造を生成するので、パラメータeもテンプレートDNA/RNA自体に依存し、それらの構造は重合反応にとってしばしば不利である(したがってパラメータe値を小さくする)。この効果は集団に偏りを生じさせる可能性があるが、それは適切なアプタマーの濃縮を意味するものではない。
【0042】
(SELCOSの応用)
SELCOSによれば、標的分子に特異的なアプタマーを迅速に開発することができる。例えば、SELCOSを用いれば、新規病原体の出現後短期間のうちに、病原体を特異的に検出することができるアプタマーを開発することができるので、それを用いて患者の感染症を診断し、感染症拡大の範囲を早期に把握することができる。これは、感染力が強い感染症のパンデミックを防ぐことに役立つと考えられる。
【0043】
後記の実施例は、A型インフルエンザウイルスの2つの亜型H1N1及びH3N2のヘマグルチニンをモデル標的として使用して、SELCOSによるアプタマー製造を実証する。ヘマグルチニン(HA)は、インフルエンザウイルスなどの表面に存在する糖たんぱく質で、HAが動物細胞の表面にあるレセプターと結合することで、ウイルス粒子が細胞に取り込まれ、感染が開始される。インフルエンザウイルスのHAタンパク質は、インフルエンザウイルスの全ての型によって共有される結合ポケットを有しており、結合ポケット領域をコードするアミノ酸配列もインフルエンザウイルスでは保存的である。インフルエンザウイルスについては、新型ウイルスの出現が懸念されており、医療分野における関心が高いため、モデル標的として使用することとした。
【0044】
インフルエンザA H1N1(A/California/04/2009)ヘマグルチニン/HAタンパク質(Genbank: ACP41105.1)とインフルエンザA H3N2 (A/Aichi/2/1968)ヘマグルチニン/HAタンパク質(Genbank: AAA43178.1)のアミノ酸配列アライメントを、
図13に示す。タンパク質の中央部からC末端側のアミノ酸配列部分は、亜型間で非常に保存的である。
【0045】
後記の実施例では、インフルエンザウイルスをモデル標的としたSELCOSにおいて、複数標的による競争を誘導するために、1つのライブラリについて、2つのHAタンパク質を同時に用いている。この場合、H1N1亜型のHAタンパク質を標的分子とするとき、H3N2亜型のHAタンパク質は競合分子の役割を果たす。その逆に、H3N2亜型のHAタンパク質を標的分子とするとき、H1N1亜型のHAタンパク質は競合分子の役割を果たす。ライブラリの分子間の競争は、結合と洗浄を複数回繰り返す工程の間、ラウンドごとに、ライブラリ中の一本鎖核酸分子の数を増加させること、ライブラリと2つの標的を接触させるためのインキュベーション時間の長さを減少させること、及び/又は洗浄条件の厳しさを減少させることにより、誘導される。結合と洗浄を繰り返す工程では、指数関数的増幅(すなわち、PCR増幅)は実施されない(
図1)。
【0046】
結合と洗浄を繰り返した後、2つの標的タンパク質を分離して、標的タンパク質に結合した候補核酸分子を回収することができる。H1N1のNAタンパク質について選択されたH1N1アプタマー候補分子プールについて、さらに、競合分子H3N2を接触させ、もし存在するならば、競合分子H3N2に結合する分子を除去することができる。反対に、H3N2について選択されたH3N2アプタマー候補分子プールについて、競合分子H1N1のNAタンパク質を接触させ、もし存在するならば、競合分子H1N1に結合する分子を除去することができる。競合分子に結合しなかった候補分子を回収し、同定し、会合及び解離の動態を研究することによって、親和性及び特異性について評価することができる。
【0047】
インフルエンザウイルスをモデル標的としたSELCOSにより、以下の通り、H1N1亜型のNAタンパク質について特異的に選択された4つのアプタマー(配列番号1~4)及びH3N2亜型のNAタンパク質について特異的に選択された4つのアプタマー(配列番号5~8)を得ている。
AGCAGCACAGAGGTCAGATGATTGGATCGTGACGGTTGTTGGGGCTCCGCCTATGCGTGCTACCGTGAA(配列番号1)
AGCAGCACAGAGGTCAGATGAGGTGATGAGATTTGTACCTCTCGCGGCACCCTATGCGTGCTACCGTGAA(配列番号2)
AGCAGCACAGAGGTCAGATGTAGGTCGTACTCTGGCGGCCTGTTTGGCCCTATGCGTGCTACCGTGAA(配列番号3)
AGCAGCACAGAGGTCAGATGTGTGCGTGCTTGGGGTATAGTCGGGTCGGCCTATGCGTGCTACCGTGAA(配列番号4)
AGCAGCACAGAGGTCAGATGCTAGCCGTGAGCGTGGTGAGCTCGGTTGACCCTATGCGTGCTACCGTGAA(配列番号5)
AGCAGCACAGAGGTCAGATGGTGGTTGTTTTGGGCGAAGTGGCCATGGTCCCTATGCGTGCTACCGTGAA(配列番号6)
AGCAGCACAGAGGTCAGATGGCGCGGGCGGTGCGTCGGTGTCCCGCTGGCCTATGCGTGCTACCGTGAA(配列番号7)
AGCAGCACAGAGGTCAGATGTCTGCAGCGTGCAGGGCTGTGTGCTTACCCCCTATGCGTGCTACCGTGAA(配列番号8)
【0048】
したがって、本発明は、配列番号1~8の何れかの塩基配列を含む、インフルエンザウイルスに結合するアプタマーを提供する。本発明により提供されるアプタマーは、配列番号1~8の何れかの塩基配列中の1もしくは数個の塩基が欠失、置換、あるいは付加された塩基配列からなるものであってもよい。本発明により提供されるアプタマーは、少なくとも一つの化学修飾を含むように改変することができ、化学修飾は、核酸の、塩基部位、糖部位、及びリン酸部位での化学的置換からなる群より選択することができる。
【0049】
本発明により提供されるアプタマーは、その5’末端又は3’末端をビオチン化することができる。本発明により提供されるアプタマーは、5’末端又は3’末端に蛍光標識を有することができる。蛍光標識は、当該技術分野で一般に使用されている蛍光標識剤、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)や、ローダミン(テトラメチルローダミンイソチオシアネート、TRITC)、6-カルボキシフルオロセイン-アミノヘキシル(FAM)、シアニン系蛍光色素(Cy3、Cy5)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、量子ドットなどを使用することができる。さらに、蛍光標識剤の近傍に該蛍光標識剤の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャーがさらに結合されていてもよい。標的検出反応の際に蛍光物質とクエンチャーとが分離して蛍光が検出される。
本発明により提供されるアプタマーは、金属ナノ粒子にコンジュゲートすることができる。金属ナノ粒子は、金(Au)、銀(Ag)、及び銅(Cu)のナノ粒子からなる群から選択することができる。
【0050】
SELCOSにより、A型インフルエンザウイルスのHAタンパク質に高い親和性を有する新規なアプタマーが提供されたので、これらを用いて試料中のA型インフルエンザウイルスを高感度に測定することが可能である。本アプタマーは、標的のA型インフルエンザウイルスの検出及び定量に使用することができる。本アプタマーを用いた、試料中のA型インフルエンザウイルスの検出又は定量は、アプタマーによる周知の通常の方法により行うことができ、例えば抗体の代わりに、本アプタマーを利用した、免疫測定法(ELISA:Enzyme linked Immunosorbent Assay)を包含するサンドイッチ法、競合法、イムノクロマトグラフィー等で行うことが可能である。また、アプタマーとA型インフルエンザウイルスの結合を電気化学測定により検出するバイオセンサーにより、試料中のA型インフルエンザウイルスを検出することができる。特に、本発明者らが開発した競合的電気化学アッセイは、特に高感度でインフルエンザウイルスを検出及び定量することができる。また、A型インフルエンザウイルスのアプタマーによる検出又は定量は、下記実施例に具体的に記載する表面プラズモン共鳴法(SPR)等の周知の方法によっても行うことができる。
【0051】
従って、本発明は、上記のインフルエンザウイルスに結合するアプタマーを使用する、生物試料中におけるインフルエンザウイルスの検出方法を提供する。生物試料とは、検出対象が含まれる可能性がある、生物由来の材料であれば特に制限されない。生物試料としては、例えば、ヒト、鳥、ブタなど動物の鼻腔吸引液、鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、気管ぬぐい液、唾液、喀痰、血液(全血、血清及び血漿を含む)、尿、細胞や組織、臓器の抽出液等が挙げられる。
【0052】
本発明により提供されるインフルエンザウイルスの検出方法において、アプタマーとインフルエンザウイルスとの結合を蛍光法により又は電気化学的に検出することができる。アプタマーとインフルエンザウイルスとの結合を蛍光法により検出するには、分光蛍光光度計及び蛍光マイクロプレートリーダーなどを使用することができ、電気化学的に検出するには、酸化還元電流,電位,電気伝導度等の変化を測定するセンサーを使用することができる。
【0053】
SELCOSで製造したアプタマーの診断への応用可能性を示すために、本発明者らは、自ら開発した携帯型の使い捨ての電気化学プリント(DEP)チップベースの三電極検出システムDEPSOR(Disposable Electrochemical Printed Sensor)を用いるApta-DEPSORと呼ばれる競合的電気化学アッセイを設計した。DEPSORは、微分パルスボルタンメトリー(DPV)の原理で機能する。電圧に対する電流のプロットは、酸化還元反応に基づいて電気化学分析器によって生成した。
図3に示すように、SELCOSで選択されたアプタマーをDEPSORと組み合わせて、認識エレメントとしてアプタマー結合AuNPを用いて競合アッセイを実施することによって、アプタマーが標的とDEPチップの作用極上で結合するときに、明確なシグナルピークを敏感に検出することができる。
【0054】
このDEPSORモードの電気化学センシングコンポーネント(Apta-DEPSOR:
図3を参照)を用いることにより、アプタマーの品質を迅速にモニターすることができる。後記の実施例では、標的(H1N1及びH3N2)とリガンド(標的H1N1及びH3N2に対するリガンドプール)の組み合わせについてDPV応答曲線(
図9のパネルa)及び対応する棒グラフ(
図9のパネルb)を示している。この結果は、標的とリガンドプールの適切なマッチングは不適切なマッチングのシグナルよりはるかに高いシグナルを提供し、SELCOSとApta-DEPSORの両方が十分にうまくいっているといえる。また、このアプローチが相対的結合強度を測定できることも示している。電気化学的検知は非常に単純であり、SELCOSと電気化学的検知を組合せは、迅速かつ選択的なアプタマー選択に非常に有望である。
【実施例】
【0055】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、本明細書において、特に記載しない限り、「%」等は質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0056】
本実施例では、SELCOS法によるアプタマー製造を実証するため、インフルエンザAウイルスタンパク質の2つの亜型であるH1N1及びH3N2をモデル標的として使用し、アプタマーを製造した。
【0057】
組換えタンパク質であるインフルエンザA H1N1(A/California/04/2009)ヘマグルチニン/HAタンパク質(His Tag)、及びインフルエンザA H3N2 (A/Aichi/2/1968)ヘマグルチニン/HAタンパク質(His Tag)は、Sino Biological社(米国)から購入した(順に、Catalog Number: 11055-V08H2. Expression Host: HEK293 Cells、Catalog Number: 11707-V08H. Expression Host: HEK293 Cells)。以下、これらの組換えタンパク質を、それぞれ、標的H1N1(TH1N1)及び標的H3N2(TH3N2)という。DNA配列の合成はEurofins社(日本、東京)に依頼した。
【0058】
[実施例1]
競争的濃縮(competitive enrichment)によるDNAアプタマーのインビトロ選択
(1)Ni-NTAビーズへの標的の固定化
SELCOSを実施するために、インフルエンザAウイルスの近縁な亜型であるH1N1及びH3N2を使用した。標的H1N1タンパク質及び標的H3N2タンパク質は、それぞれNi-NTA磁気ビーズ(20~70μm、キアゲン社)及びNi-NTAアガロースレジンビーズ(45~165μm、キアゲン社)に固定化した。
【0059】
固定化は、次のように実施した。Ni-NTAビーズを2分間遠心し、10μLのビーズ懸濁液を100μLの溶解/結合バッファー(50mM NaH2PO4、300mM NaCl、20mMイミダゾール、0.05(v/v)% Tween 20、pH8.0)で洗浄した。ビーズを洗浄後に、磁気ビーズ用磁気分離器又は非磁性ビーズ用遠心分離機(1000xg/10秒)で回収し、100μLの溶解/結合バッファーを洗浄したビーズに加えた。20μLのヌクレアーゼフリー水に1μgの標的タンパク質(濃度0.05μg/μL)を溶解し、4℃で60分間インキュベートした。インキュベート後、磁気分離器/遠心分離によってそれぞれ未結合タンパク質を含む上清を除去した。100μLの溶解/結合バッファーで標的タンパク質結合ビーズを洗浄して、ゆるく結合したタンパク質を除去した。
【0060】
(2)ライブラリ設計及びプライマー
ssDNAライブラリを、標的H1N1及びH3N2用の候補アプタマープローブの選択のために使用した。ssDNAライブラリは、30ヌクレオチドからなるランダム領域の両端に20ヌクレオチドのプライマー結合領域(5′-AGCAGCACAGAGGTCAGATG-[ランダム領域(N30)]-CCTATGCGTGCTACCGTGAA-3′:配列番号9及び10)が付加されている。ssDNAライブラリを、以下においてssDNAプールという場合がある。
【0061】
(3)選択方法
(結合)プラス鎖ssDNAプールは90℃で5分間加熱した直後に、4℃で15分間冷却し、さらに25℃で15分間インキュベートした。続いて、Ni-NTA磁気ビーズ及びアガロースレジンビーズに固定した標的H1N1及びH3N2を、100pmolのssDNA初期プールとともに、結合バッファー(PBS緩衝液(pH7.4)、100mM NaCl、5mM KCl、2mM MgCl2及び1mM CaCl2)の存在下、60分間インキュベートした。これにより、ビーズに固定された標的と核酸分子とが結合する。
【0062】
(洗浄)Ni-NTA磁気ビーズ及びアガロースレジンビーズを、洗浄バッファー(PBST緩衝液(pH7.4、0.05(v/v)% Tween20添加)、100mM NaCl、5mM KCl、2mM MgCl2、及び1mM CaCl2)で3回洗浄し、上清を除去した。洗浄ごとに、サンプルを簡単に遠心し(1000g、10秒)、上清を丁寧に除去した。これにより、標的に結合していないか、又は弱く結合した核酸がビーズから除去される。
【0063】
(4ラウンド繰り返し)上記結合と洗浄を4ラウンド繰り返した。2から4ラウンドの結合では、洗浄されたNi-NTA磁気ビーズ及びアガロースレジンビーズに、それぞれ200pmol、400pmol及び800pmolのssDNAプールを添加して、結合バッファーの存在下、インキュベートした。インキュベート時間及び洗浄の回数は、それぞれ30分間(3回洗浄)、15分間(2回洗浄)、及び7.5分間(1回洗浄)に変えた。
【0064】
(回収)磁気ビーズ又は非磁気ビーズに固定化されている標的を、それぞれ磁気スタンドを用いて磁力又は遠心力(1000g、10秒)により分離し、続いて上清を除去した。ビーズ上に結合している選択されたアプタマーDNAを熱処理(90℃で5分間、その後上清を直ちに除去すること)によって分離回収し、標的H1N1について選択したアプタマーDNAプール及びH3N2について選択したアプタマーDNAプールとした。
【0065】
(偽陽性分子の除去)標的H1N1及びH3N2について選択したアプタマーDNAプールを、それぞれ、粗Ni-NTAビーズとともに短時間(15~20分間)インキュベートした。非特異的候補が存在している場合には、それを除去するためである。次に、偽陽性(false positives)を示す分子を取り除くために、標的H1N1について選択したアプタマーDNAプールは、ビーズに固定したカウンター標的H3N2と共にインキュベートした。インキュベート後、ビーズを除去することで、カウンター標的に結合した核酸分子を取り除き、カウンター標的に結合しなかった核酸分子を含む上清を回収し、標的H1N1特異的プールとした。逆の組み合わせで、標的H3N2について選択したアプタマーDNAプールはビーズに固定したカウンター標的H1N1と共にインキュベートした。インキュベート後、同様に、カウンター標的に結合しなかった核酸分子を含む上清を回収し、標的H3N2特異的プールとした。
【0066】
[実施例2]
候補の同定
SELCOSで選択された標的H1N1特異的プール及び標的H3N2特異的プールについて、それぞれPCRで増幅した。増幅には、フォワードプライマー5′-AGCAGCACAGAGGTCAGATG-3′(配列番号11)及びビオチン化リバースプライマーBioON 5′-TTCACGGTAGCAGCGATAGG-3′(配列番号12)を使用した。PCR増幅に、Ex-Taq HS DNAポリメラーゼ(Takara Bio社)を使用した。増幅反応は、98℃2分間に続いて、20サイクルの98℃10秒間、59℃5秒間及び72℃10秒間を実施し、最後に72℃4分間の反応で行った。変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(8M尿素、8%ポリアクリルアミドゲル、温度0℃)で、増幅を確認し、DNA断片が正しいサイズであることを確認した。
【0067】
その後、クローニングと候補分子の塩基配列決定を行った。クローニング及び形質転換のために、TOPO TA クローニングキット(Invitrogen)のpCR2.1 TOPOベクター及びTOP10F'-competent大腸菌を使用した。各標的特異的プールにつき20のコロニーを選択し、M13フォワード及びM13リバースプライマーを用いて増幅し、ゲル電気泳動により正しい長さ280bpを有することを確認し、配列決定を行った。いくつかのアプタマーの二次構造解析は、インターネットツールmfold(Nucleic Acids Res. 2003, 31, 3406-3415)を使用して、自由エネルギー最小化アルゴリズムによって実施した。配列系統解析はオンラインソフトウェアClustal W(Nucleic Acids Res. 1994, 22, 4673-4680)を用いて行った。配列の二次構造の点から、高いGC含量及び低い遊離エネルギー値を有する突出ループ及びステムを含む二次構造を示す4つのアプタマー配列を、各標的特異的プールから選択し、実施例4及び5に用いた。二次構造解析の結果を
図4に、塩基情報を
図5に示す。選択したアプタマーは何れも、配列決定で各標的特異的プールから繰り返し得られた(4~12%)。SELCOSで選択されたH1N1特異的プール及びH3N2特異的プールから選択した4つのアプタマー、それぞれApt01>T
H1N1からApt04>T
H1N1、及びApt01>T
H3N2からApt04>T
H3N2と名付けた。なお、本明細書中、これらのアプタマーをそれぞれ、H1N1-apt01からH1N1-apt04、及びH3N2-apt01からH3N2-apt04と記載する場合もある。
【0068】
標的H1N1に対して選択されたアプタマーの二次構造(すなわち、Apt01>T
H1N1からApt04>T
H1N1)は、共通の配列が関与する「ループ1-スペース-ループ2」の共通モチーフ(ループ1はGGTCAGであり、ループ2はT(又はC)T(又はA)GTである)を有する(なお、GGTCAGは偶然にもプライマー結合領域に由来する)。一方、標的H3N2に対して選択されたアプタマーは、このような特徴を有さない。これらの保存されたループ領域(ループ1とループ2)は標的分子と相互作用することが予測される。SELCOSは、従来のSELEXよりもはるかに単純で迅速な方法であるが、SELCOSは上記のように推定上の機能的なモチーフを見つけることができる。
図5の表において、各選択で出現した頻度スコアは、KDの結合親和性と比較的高い相関値(r=0.55)を有し、親和性が高いほど、多く出現する(the higher the affinity is, the higher the population)というルールに一致することは注目に値する。
【0069】
[実施例3]
SELCOSプールとSELEXプールの比較
実施例1で得た、標的H1N1及びH3N2について各々選択された2つのSELCOSプール(標的H1N1特異的プール及び標的H3N2特異的プール)、従来のSELEXを標的H1N1について実施して得たSELEXプール、及び対照として初期ランダムプールをアナライトとして、SPR測定を実施し、バルクの親和性を測定した。
【0070】
SPR測定はBIACORE X100機器を用いて実施した。センサーChip-NTA及びNTA試薬キット(GE Healthcare、スウェーデン、ウプサラ)を、製造元の指示に従って、相互作用解析のためのHisタグ付きタンパク質標的の固定化に使用した。ランニングバッファーHBS-Pを全ての実験に使用し、0.35M EDTAを再生に使用した。
分析は、単一サイクルモードで実施した。上記4つのプールについての4つの独立した実験は、ランニング緩衝液中、センサー表面に2500-3000RUレベルで固定化した標的H1N1(0.01mg/mL)について、接触時間60秒、安定化時間60秒で実施した。
【0071】
アナライトとして、各5段階の濃度0.0592、0.296、1.48、7.4、及び37μg/mL(ランニング緩衝液中)の初期ランダムプールのssDNA溶液、SELEXプール、及び標的H3N2について選択したSELCOSプール(標的H3N2特異的プール)を用意し、更に5段階の濃度0.0299、0.149、0.746、3.73及び18.66μg/mL(ランニング緩衝液中)の標的H1N1について選択したSELCOSプール(標的H1N1特異的プール)を用意した。アナライトは、最低濃度から順次注入した(30μL/分の流速で60秒間、続いて60秒間の解離)。
【0072】
結果
結果を表1及び
図6に示す。予想通り、初期ランダムプールは、SELEXによって標的H1N1について選択したプール(SELEXプール>T
H1N1)と比較して、無視できる応答を示した(初期ランダムプール:16RU、SELEXプール:809RU)。しかしながら、SELCOSによって標的H1N1について選択したプール(SELCOSプール>T
H1N1)は、高い親和性(K
D=1.01×10
-10M)で有意に高いレスポンス(2651RU)を示した。SELCOSによって選択されたプール(SELCOSプール>T
H1N1)は、SELEXによって選択されたプール(SELEXプール>T
H1N1)の300倍強いK
Dを有していた。SELCOSによって選択されたプール(SELCOSプール>T
H1N1)は、下記の表2に示すアプタマーApt03>T
H1N1のK
D 0.82×10
-10Mに、すでに近い値を示している。
【0073】
【0074】
単一サイクルモードで得られた会合/解離の速度論的近似曲線(1:1結合モデル)は、H1N1について選択したSELCOSプールの解離速度定数koff値の明らかな減少を示し、競争によるプールの濃縮を確認した。
【0075】
H3N2について選択したSELCOSプールについて、標的H1N1との交差反応を解析したところ、H3N2について選択したSELCOSプールのkoff値は最も速く、KD=1.99×10-7Mであった。このことから、SELCOSプールは、標的に特異的に選択されていることが示唆された。SELCOSによって選択されたプールの分析結果は、選択されたアプタマーについて行った分析結果と合致するものであった。SELCOSプールは、その大部分が、いくつかの特定の配列から構成されている可能性がある。
【0076】
[実施例4]
標的とアプタマーの相互作用解析
標的タンパク質に対する、Apt01>TH1N1からApt04>TH1N1及びApt01>TH3N2からApt04>TH3N2の相互作用解析(結合/解離)を、Biacore X100(GEヘルスケア)を用いた表面プラズモン共鳴法(SPR法)により決定した。センサーチップNTAに、標的のHis-tagタンパク質を、NTA試薬キット(GEヘルスケア)を用いて固定した。測定はHES-P緩衝液(GEヘルスケア)を用いて泳動し、再生には0.35M EDTAを使用した。単一サイクルモードで行った(流速:30μL/分、サンプルの添加時間:60秒)。測定は3回繰り返して実施し、解離定数は、BiacoreX100 Evaluation Softwareにおいて、反応モデルは1:1結合を用いて算出した。
【0077】
標的H1N1とアプタマーの相互作用を分析する場合、濃度0.01mg/mLのHisタグ付きタンパク質H1N1(ランニング緩衝液中)を、センサー表面に2000RUレベルで固定した(接触時間60秒、安定化時間60秒)。アナライトとして、5段階の濃度26.66、5.33、1.07、0.213及び0.0427μg/mL(ランニング緩衝液中)のアプタマー溶液を用意した。アナライトは、最低濃度から順次注入した(30μL/分の流速で60秒間、続いて60秒間の解離)。
【0078】
標的H3N2とアプタマーの相互作用を分析する場合、濃度0.01mg/mLのHisタグ付きタンパク質H3N2(ランニング緩衝液中)を、センサー表面に1000RUレベルで固定した(接触時間120秒、安定化時間60秒)。アナライトとして、5段階の濃度44.44、8.89、1.78、0.356及び0.0711μg/mL(ランニング緩衝液中)のアプタマー溶液を用意した。アナライトは、最低濃度から順次注入した(30μL/分の流速で60秒間、続いて60秒間の解離)。
【0079】
結果
表2及び、
図5の表に標的とアプタマーの相互作用分析結果を示す。SELCOS法により選択されたアプタマーのK
D値が、モノクローナル抗体(mAb)に匹敵するかどうかを確かめるために、Apt03>T
H1N1を市販のインフルエンザAウイルスH1N1(A/California/04/2009) ヘマグルチニン/HA抗体(ウサギIgG、#11055-RM10、Sino Biological社)と比較した。表2には、上記モノクローナル抗体についての解析結果のほか、以前報告されているDNAアプタマーRHA0006の解析結果を併記する(Shiratori, I., et al. Biochem. Biophys. Res. Commun.443, 37-41 (2014))。
【0080】
【表2】
アプタマーApt03>T
H1N1がK
D 0.82×10
-10Mであり、Apt01>T
H3N2カ゛K
D 0.14×10
-9Mという、高い親和性を示した。Apt03>T
H1N1は、RHA0006よりも100倍以上強いK
Dを有していた。モノクローナル抗体は、非常に強い親和性を示した(K
D 2.53×10
-13M)。興味深いことに、Apt03>T
H1N1アプタマーは、市販の抗体と同様のパターンの近似曲線を示し、動力学的パラメータについて市販の抗体と高い類似性を示した(
図7)。SELCOS法により選択されたアプタマーは、抗体の代わりに使用できる可能性がある。このように、SELCOS法は非常に選択的であるため、優れたアプタマーを製造するために使用できる。
【0081】
[実施例5]
電気化学測定
3電極式スクリーン印刷により製造された(three-electrode screen-printed)の使い捨て電気化学プリント(DEP)チップを、株式会社バイオデバイステクノロジー(石川、日本)から入手し実験に使用した。DEPチップは、炭素系作用極(直径3mm)、対極、及びAg/AgCl参照極とともに、電気化学的分析用の3極式システムの主要部として作動する。
【0082】
濃度0.25μg/μLの組換えタンパク質H1N1及びH3N2の2μLを、DEPチップの作用極に滴下し、4℃で1時間インキュベートした。これにより、標的タンパク質が、作用極表面上に、受動的に吸着する。インキュベーション後、100mMのPBSで3回リンスし過剰な標的タンパク質を除き、チップを穏やかにエアブロし乾燥させた。非特異的吸着を抑制するために、3.5μLのブロッキングバッファー(1%BSAを含む100nM PBS)をチップに添加し、4℃で一晩インキュベートした。電気化学的分析のため、更にチップを3回、100mMのPBSバッファーでリンスし、乾燥してから、分析に使用した。
【0083】
Auナノ粒子(AuNP)にコンジュゲートされた、選択されたDNAアプタマー候補を含む2μLのサンプルを、標的を修飾したDEPチップ表面に滴下した。チップはその後、室温で15分間インキュベートした。その後、チップを100mMのPBSバッファーで3回リンスし、電気化学的分析機器(Model 650 A, CH Instruments, Inc., Austin, USA)に接続した。30μLの0.1M HClをDEPチップに滴下し、AuNPの電気酸化を、+1.4Vの定電位で40秒間実施し、直後にDPV検出を+0.6Vから0V(4mVの段階電位、50mMのパルス振幅、2秒のパルス周期)で行った。
【0084】
選択されたアプタマーを、インフルエンザウイルスの各亜型についてテストした。すべての実験は3回繰り返し、分析の一貫性を確認した。
図8に結果を示す。最も結果がよいアプタマーApt03>T
H1N1及びApt01>T
H3N2を次の分析のために選択した。
【0085】
続いて、クロスバリデーションのため、Apt03>T
H1N1及びApt01>T
H3N2をAuNPにコンジュゲートし、それぞれの標的タンパク質(250μg/mL)をDEPSORの作用極上に物理的に吸着させ、上記のとおり分析した。標的H1N1又はH3N2タンパク質に対する、裸のAuNP(コントロール)、Apt03>T
H1N1をコンジュゲートしたAuNP、及びApt01>T
H3N2をコンジュゲートしたAuNPのDVPを分析した(
図9)。各標的と、各標的に特異的に選択されたアプタマーとの結合に基づく明確なシグナルピークが、観察された。裸のAuNP(コントロール)及び、標的に特異的ではないアプタマーについては、ほとんど無視できる程度のシグナルであった。Apt01>T
H3N2は、標的H1N1に対してよりも、標的H3N2に対して約9倍高い電流信号(Ipc カソードピーク電流)を示した(
図9bの右パネル)。同様に、Apt03>T
H1N1は、本来の標的でない標的H3N2に対してよりも、本来の標的である標的H1N1に対してより選択的であった。
【0086】
更に、実施例1で得た2つのSELCOSプール(標的H1N1及びH3N2について選択したプール)の特異性を更に検証するために、上記装置と方法を用いて電気化学的実験を行った。特異性の検証は、標的H1N1について選択されたアプタマーをH3N2修飾したDEPチップを用いて行い、その逆に、H3N2について選択されたアプタマーをH1N1修飾したDEPチップを用いて行った。すべての実験は3回繰り返し、分析の一貫性を確認した。
図10は、各SELCOSプールと標的又はカウンター標的との間の結合アッセイのDPV測定値を示す。これらの結果は実施例3のSPR結果と一致しており、SELCOSとして選択されたプールは高度に選択されていることが確認された。
【0087】
[実施例6]
迅速な臨床検査のためには、血清中のインフルエンザAウイルスの直接的かつ容易な測定が必要である。この目的のために、本発明者らは、アプタマーが組み込まれたDEPSOR(Disposable Electrochemical Printed Sensor、使い捨て電気化学プリントセンサー)を用いてワンステップの電気化学的競合アッセイを設計し、ヒト血清中のH1N1及びH3N2タンパク質濃度を測定した。アッセイに含まれるステップを
図3に示す。
【0088】
本実施例のアッセイの原理は、AuNPにコンジュゲートされたアプタマー(Apt03>T
H1N1及びApt01>T
H3N2)に対する、試料中のタンパク質(未知の濃度)とDEPSOR表面に結合されたタンパク質との結合イベントの競合に基づく。このアッセイの競合的性質のために、DPVによって生成される電気化学的シグナルは、試料中のタンパク質の量に反比例する。
図11a及びbは、試料中のタンパク質(濃度0、50、150及び250μg/mL)とDEPSOR表面に結合されたタンパク質(250μg/mL)との間の競合アッセイにおけるDPV測定を示す。DEPSOR表面に結合されたH1N1又はH3N2タンパク質に、アプタマーをコンジュゲートしたAuNPが結合し、DPV信号が生成される。各濃度のタンパク質を含む試料で実験を行い、シグナルを得た。測定は独立に3回繰り返して実施した。試料中のタンパク質濃度が低い場合は、電極上において、アプタマーをコンジュゲートしたAuNPのほとんどがDEPSOR表面に結合されたタンパク質に結合している。これは、最大DPV信号が生成される条件である。試料中タンパク質の濃度が増加するにつれて、シグナルは減少する。両方のアプタマーの感度について、対応するプロットによって分析することができ、濃度の増加に伴ってシグナルが直線的に減少する傾向が示された。新しく開発されたA型インフルエンザウイルスH1N1及びH3N2に結合するアプタマーをプローブとして使用して得られた結果は、スマートアプタマー分子に基づく新しいバイオセンサーの開発への重要な一歩を示すものである。
【0089】
[実施例7]
インフルエンザH1N1亜型特異的アプタマー(Apt03>T
H1N1)を装填したApta-DEPSORを
図3に示すように作製した。最初に、DEPチップの作用極表面を遊離の標的H1N1タンパク質(T
H1N1)で覆い、次いでウイルス試料と混合した一定量のAuNP(金ナノ粒子)を電極に導入した。ウイルス試料の遊離T
H1N1に対して過剰のAuNPが存在する場合、アプタマーでコーティングされた過剰量の遊離AuNP(Apt03>T
H1N1)は、電極の表面上の標的H1N1に結合し、次いで捕捉され、そしてセンサーによって検出され得る。この実験系では、電気化学信号は、電極表面上の標的H1N1によって捕捉されたAuNPの量に応じて増加し、試料溶液中の標的H1N1タンパク質の量に応じて比例して減少する。
図12は、適用した標的H1N1濃度に、DEPSORシグナル(電流)が依存することを示す。得られた検量線から、測定のダイナミックレンジは5%ヒト血清中で0.4~100μg/mLの範囲であり、わずか1.23ng/Lで標的H1N1の検出に成功した。
【配列表フリーテキスト】
【0090】
配列番号1から4:H1N1亜型について選択されたアプタマー
配列番号5から8:H3N2亜型について選択されたアプタマー
配列番号9及び10:ライブラリのランダム配列の両端に付与したプライマー結合領域
配列番号11及び12:ライブラリ増幅用のプライマー
配列番号13:インフルエンザA H1N1(A/California/04/2009)ヘマグルチニン/HAタンパク質(Genbank: ACP41105.1)のアミノ酸配列
配列番号14:インフルエンザA H3N2(A/Aichi/2/1968)ヘマグルチニン/HAタンパク質(Genbank: AAA43178.1)のアミノ酸配列
【配列表】