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  • 特許-体積型ディスプレイ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】体積型ディスプレイ
(51)【国際特許分類】
   G02B 30/54 20200101AFI20230925BHJP
   G02B 3/14 20060101ALI20230925BHJP
   H04N 13/346 20180101ALI20230925BHJP
   H04N 13/365 20180101ALI20230925BHJP
   H04N 13/398 20180101ALI20230925BHJP
   H04N 13/322 20180101ALI20230925BHJP
   H04N 13/344 20180101ALI20230925BHJP
   G02B 27/02 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
G02B30/54
G02B3/14
H04N13/346
H04N13/365
H04N13/398
H04N13/322
H04N13/344
G02B27/02 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019162573
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021043232
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】奥 寛雅
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0301313(US,A1)
【文献】特開2016-099631(JP,A)
【文献】特表2009-535665(JP,A)
【文献】特開2004-163644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 30/00 - 30/60
G02B 27/01 - 27/02
G02B 3/14
H04N 13/30 - 13/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像投影部と、共振型液体レンズとを備えており、
前記共振型液体レンズの焦点距離は、液体の共振を用いて周期的に調節されるようになっており、かつ、前記焦点距離の変動周期(T)は、前記画像投影部における1フレームの時間間隔(V)の間に複数回の前記変動周期(T)を含むように設定されており、
前記画像投影部は、前記共振型液体レンズを介して、前記1フレームの時間間隔(V)の間に、異なる時間であって同じ前記焦点距離となるタイミングで、同じ画像をユーザの視点位置に向けて投影する構成となっており、
かつ、前記画像投影部は、前記焦点距離の変動周期の1/10よりも短い時間内に前記画像を投影する構成となっている
体積型ディスプレイ。
【請求項2】
前記画像投影部は、発光部と表示素子とを備えており、
前記表示素子は、前記画像を形成する構成となっており、
前記発光部は、前記表示素子に光を照射することにより、前記表示素子に形成された前記画像を前記視点位置に向けて投影する構成となっている
請求項1に記載の体積型ディスプレイ。
【請求項3】
前記発光部は、前記光を発生するLEDを備えており、
前記表示素子は、DMDにより構成されている
請求項2に記載の体積型ディスプレイ。
【請求項4】
さらに制御部を備えており、
前記制御部は、前記発光部の発光タイミングを、ユーザに提示すべき画像の焦点位置に応じて制御する構成となっている
請求項2又は3に記載の体積型ディスプレイ。
【請求項5】
さらにハーフミラーを備えており、
前記共振型液体レンズを透過した前記画像は、前記ハーフミラーを介して前記ユーザの視点位置に投影される構成となっている
請求項1~4のいずれか1項に記載の体積型ディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積型ディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のVR及びARへの関心の高まりをうけて、様々なヘッドマウントディスプレイ(HMD)が開発され、注目を集めている。中でも透過型のHMDは、実世界にアノテーション(追加情報)を重畳させてユーザに提示することが可能となるため、AR等での応用に特に重要となると考えられる。
【0003】
特に動的な現実世界へのアノテーションの重畳を考えると、映像を提示するディスプレイにはミリ秒程度の高速性があることが理想とされる。例えば、タッチパネルのように遅延による位置ずれが認識しやすい状況では、人間が遅延を感じない限界の値として2.38msという報告がある(下記非特許文献1)。
【0004】
HMDではないが、プロジェクターを用いて情報を投影するprojection based Mixed Reality (MR)もしくはプロジェクションマッピングの分野では、動的プロジェクションマッピング技術という、高速性が重要である技術も知られている(下記非特許文献2及び3)。HMDにおいても高速な映像提示について研究が進められており、映像提示の遅延を少なくする手法(下記非特許文献4及び5)や、予測による補正を用いる手法(下記非特許文献6)が提案されてきている。これらの研究は、異なる二次元的な映像をそれぞれの目に提示するステレオ視による三次元情報提示が前提となっている。
【0005】
一方、ステレオ視による三次元情報提示では、眼の焦点調節と輻輳の矛盾であるVergence Accomodation Conflict(VAC)が存在することが知られており、これがいわゆる立体酔いと呼ばれる疲労・酔いの症状の原因と言われている。これを解消するためには、視差のみではなく焦点の手がかりも人間に提示することが必要となる。これに対する解決方法として、ライトフィールド(light field)を利用する手法(下記非特許文献7及び8)や、可変焦点レンズ(下記非特許文献9~11)を利用する手法、可変ハーフミラー(下記非特許文献12)による手法、ホログラムを利用する手法(下記非特許文献13)、SLM(Spacial Light Modulator)による波面制御を利用する手法(下記非特許文献14)などが提案されている。また、ライトフィールドによる手法は、アイボックス(eye box)が小さくなってしまうという問題があるが、この手法に近い構成をとりながら比較的広いアイボックスを実現するSMV(Super multi-view)による手法(下記非特許文献15)も提案されている。人間の焦点調節の影響をなくしてしまうアプローチとして、Maxwell視による深いDOF(Depth of Focus)とHOE(Holographic Optical Element)によって広いアイボックスを実現した手法(下記非特許文献16)などが存在する。
【0006】
しかしながら一般にVACを低減する方式のディスプレイでは、焦点調節に整合する光線場を提示する必要があるために、フレームレートの高速化が難しくなる傾向にあり、いまのところVACの低減と高速性とを両立するディスプレイ方式は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開2014/062912
【文献】国際公開2017/112084
【文献】米国特許出願公開2017/0184848
【非特許文献】
【0008】
【文献】R. Jota, A. Ng, P. Dietz, and D. Wigdor, "How fast is fast enough?," in Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems - CHI '13, 2013, p. 2291.
【文献】K. Okumura, H. Oku, and M. Ishikawa, "Lumipen: Projection-Based Mixed Reality for Dynamic Objects," 2012 IEEE Int. Conf. Multimed. Expo (ICME 2012), pp. 699 - 704, 2012.
【文献】G. Narita, Y. Watanabe, and M. Ishikawa, "Dynamic Projection Mapping onto Deforming Non-Rigid Surface Using Deformable Dot Cluster Marker," IEEE Trans. Vis. Comput. Graph., vol. 23, no. 3, pp. 1235 - 1248, Mar. 2017.
【文献】F. Zheng et al., "Minimizing latency for augmented reality displays: Frames considered harmful," in ISMAR 2014 - IEEE International Symposium on Mixed and Augmented Reality - Science and Technology 2014, Proceedings, 2014, pp. 195 - 200.
【文献】P. Lincoln et al., "From Motion to Photons in 80 Microseconds: Towards Minimal Latency for Virtual and Augmented Reality," IEEE Trans. Vis. Comput. Graph., vol. 22, no. 4, pp. 1367 - 1376, 2016.
【文献】Y. Itoh, J. Orlosky, K. Kiyokawa, and G. Klinker, "Laplacian Vision," in Proceedings of the 7th Augmented Human International Conference 2016 on - AH '16, 2016, pp. 1 - 8.
【文献】A. Maimone, D. Lanman, K. Rathinavel, K. Keller, D. Luebke, and H. Fuchs, "Pinlight displays," ACM Trans. Graph., vol. 33, no. 4, pp. 1 - 11, Jul. 2014.
【文献】F.-C. Huang, K. Chen, and G. Wetzstein, "The light field stereoscope," ACM Trans. Graph., vol. 34, no. 4, pp. 60:1-60:12, Jul. 2015.
【文献】R. Konrad, N. Padmanaban, E. Cooper, and G. Wetzstein, "Computational focus-tunable near-eye displays," 2016, pp. 1 - 2.
【文献】J.-H. R. Chang, B. V. K. V. Kumar, and A. C. Sankaranarayanan, "Towards Multifocal Displays with Dense Focal Stacks," vol. 37, no. 6, 2018.
【文献】Sheng Liu, Hong Hua, and Dewen Cheng, "A Novel Prototype for an Optical See-Through Head-Mounted Display with Addressable Focus Cues," IEEE Trans. Vis. Comput. Graph., vol. 16, no. 3, pp. 381 - 393, May 2010.
【文献】D. Dunn et al., "Wide Field of View Varifocal Near-Eye Display Using See-Through Deformable Membrane Mirrors," IEEE Trans. Vis. Comput. Graph., vol. 23, no. 4, pp. 1275 - 1284, 2017.
【文献】A. Maimone, A. Georgiou, and J. S. Kollin, "Holographic near-eye displays for virtual and augmented reality," ACM Trans. Graph., vol. 36, no. 4, pp. 1 - 16, Jul. 2017.
【文献】N. Matsuda, A. Fix, and D. Lanman, "Focal surface displays," ACM Trans. Graph., vol. 36, no. 4, pp. 1 - 14, 2017.
【文献】T. Ueno and Y. Takaki, "Super multi-view near-eye display to solve vergence - accommodation conflict," Opt. Express, vol. 26, no. 23, p. 30703, Nov. 2018.
【文献】S.-B. Kim and J.-H. Park, "Optical see-through Maxwellian near-to-eye display with an enlarged eyebox," Opt. Lett., vol. 43, no. 4, p. 767, 2018.
【文献】A. Mermillod-Blondin, E. McLeod, and C. B. Arnold, "High-speed varifocal imaging with a tunable acoustic gradient index of refraction lens," Opt. Lett., vol. 33, no. 18, pp. 2146 - 2148, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の状況に鑑み、本発明者は、VACを解消した三次元光線場を高速に提示することが可能なディスプレイ原理について研究を進めた。
【0010】
眼の焦点調節に整合するディスプレイ原理について考えると、大きくわけて、三つの方法がある。第1は、いわゆる体積型ディスプレイ原理(前記特許文献1~3参照)であり、これは、ディスプレイ共役像の奥行位置を光学的に走査しながら(つまり奥行き位置を変更しながら)異なる映像を提示する手法である。第2は、CGH(Computer Generated Holography)によって光を、位相も含めて波面として生成する手法である。第3はライトフィールドに基づくもので、これは空間中の各座標と方向の両方について光線場を生成するものである。
【0011】
これらの手法にはそれぞれ得失があるが、高速な映像の生成を目的として考えるとき、前記した第2と第3の手法は、比較的演算量が多いという問題を抱えている。それに比べて体積型ディスプレイ原理は、比較的単純な演算で映像の生成が可能であり、高速化に適していると考えられる。
【0012】
本発明は、前記した状況に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、高速な画像提示が可能な体積型ディスプレイを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記した課題を解決する手段は、以下の項目のように記載できる。
【0014】
(項目1)
画像投影部と、共振型液体レンズとを備えており、
前記共振型液体レンズの焦点距離は、液体の共振を用いて周期的に調節されるようになっており、
前記画像投影部は、前記共振型液体レンズを介して、ユーザの視点位置に向けて画像を投影する構成となっており、
かつ、前記画像投影部は、前記焦点距離の変動周期の1/10よりも短い時間内に前記画像を投影する構成となっている
体積型ディスプレイ。
【0015】
(項目2)
前記画像投影部は、発光部と表示素子とを備えており、
前記表示素子は、前記画像を形成する構成となっており、
前記発光部は、前記表示素子に光を照射することにより、前記表示素子に形成された前記画像を前記視点位置に向けて投影する構成となっている
項目1に記載の体積型ディスプレイ。
【0016】
(項目3)
前記発光部は、前記光を発生するLEDを備えており、
前記表示素子は、DMDにより構成されている
項目2に記載の体積型ディスプレイ。
【0017】
(項目4)
さらに制御部を備えており、
前記制御部は、前記発光部の発光タイミングを、ユーザに提示すべき画像の焦点位置に応じて制御する構成となっている
項目2又は3に記載の体積型ディスプレイ。
【0018】
(項目5)
さらにハーフミラーを備えており、
前記共振型液体レンズを透過した前記画像は、前記ハーフミラーを介して前記ユーザの視点位置に投影される構成となっている
項目1~4のいずれか1項に記載の体積型ディスプレイ。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高速な画像提示が可能な体積型ディスプレイを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る体積型ディスプレイの概略的構成を示す説明図である。
図2図2(a)は、結像位置とLEDの発光タイミングとの関係を模式的に示しており、横軸は時間(ns)、縦軸は結像位置(任意単位)である。図2(b)は、DMDのON/OFFタイミングを模式的に示しており、横軸は時間(μs)、縦軸はON/OFFを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る体積型ディスプレイを、図1を参照しながら説明する。
【0022】
本実施形態の体積型ディスプレイは、画像投影部1と、共振型液体レンズ2とを主要な構成として備えている。さらに、この体積型ディスプレイは、ハーフミラー3と制御部4とを追加的な要素として備えている。
【0023】
(共振型液体レンズ)
共振型液体レンズ2の焦点距離は、液体の共振を用いて周期的に調節されるようになっている。より具体的には、本実施形態の共振型液体レンズ2としては、TAG(Tunable Acoustic Gradient index)レンズが用いられている。
【0024】
このTAGレンズについて以下において説明する。TAGレンズは、数10kHzから数100kHzで焦点距離を振動させることのできる液体レンズの一種である(前記非特許文献17参照)。このデバイスは、円筒形容器に封入された透明な液体に軸対称な疎密波(超音波)の共振を励起し、それによって生成される軸対称の屈折率分布をレンズとして利用するものである。屈折率分布は、物質の屈折率がその密度に依存しているために生成される。適切な振動モードを選ぶと、屈折率分布は、軸対称のベッセル関数を振幅とする単振動となり、光軸付近では放物面に近い分布となる。TAGレンズは、屈折率分布の高さが時間とともに振動するため、凸レンズと凹レンズとの間を振動し続けることになる。振動の周期は、粗密波の固有周波数となる。レンズのサイズや液体の物性値にも依存するが、手のひらサイズのデバイスにより、数10kHzから数100kHzの固有振動周波数が得られるため、非常に高速な焦点距離の振動を得ることができる。共振型液体レンズとしては、例えばTAG optics社から市販されているTAGレンズを用いることができる。本実施形態では、固有振動周波数69kHzで屈折力が-1[dpt=1/m]から1[dpt]の範囲を振動するTAGレンズを仮定するが、これに限るものではない。
【0025】
(画像投影部)
画像投影部1は、共振型液体レンズ2を介して、ユーザの視点位置5(図1参照)に向けて画像を投影する構成となっている。
【0026】
より具体的には、本実施形態の画像投影部1は、発光部11と表示素子12と集光レンズ13とを備えている。
【0027】
表示素子12は、ユーザに向けて投影されるべき画像を形成する構成となっている。より具体的には、本実施形態の表示素子は、DMD(Digital Micromirror Device)により構成されている。
【0028】
発光部11は、表示素子12に光を照射することにより、表示素子12に形成された画像をユーザの視点位置5に向けて投影する構成となっている。より具体的には、本実施形態の発光部11は、表示素子12に向けて照射されるべき光を発生するLEDにより構成されている。発光部11からの光線を図1において符号14で示している。
【0029】
発光部11は、共振型液体レンズ2における焦点距離の変動周期の1/10よりも短い時間内に(つまり短いタイムスロットで)、表示素子12に向けて光を照射する構成となっている。これにより、本実施形態では、ユーザに向けて投影されるべき画像を、焦点距離の変動周期の1/10よりも短い時間内に投影できるようになっている。この点についてはディスプレイの動作として後述する。
【0030】
図1においては、表示素子12において形成される模式的な像を符号15により示し、表示素子12による像を形成するための光線束を符号6で示している。また、符号61は光線束6の主軸方向を示している。
【0031】
(集光レンズ)
集光レンズ13は、発光部11からの光を集光して表示素子12に送るものである。図1の例では、集光レンズ13として単レンズを用いているが、複数のレンズの組み合わせにより必要な機能を発揮する構成とすることも可能である。
【0032】
(ハーフミラー)
ハーフミラー3は、共振型液体レンズ2を透過した画像を、ユーザの視点位置5に向けて反射できる位置に配置されている。すなわち、本実施形態では、共振型液体レンズ2を透過した画像が、ハーフミラー3を介してユーザの視点位置5に投影される構成となっている。
【0033】
また、ハーフミラー3は、外部からの光を透過させ、ユーザの視点位置に送るようになっている。これにより、外部の像(例えば実空間の像)に投影像を重畳できるようになっている。
【0034】
(制御部)
制御部4は、発光部11(具体的にはLED)の発光タイミングを、ユーザに提示すべき画像の焦点位置に応じて制御する構成となっている。制御部4は、適宜なコンピュータハードウエア若しくはコンピュータソフトウエア、又はこれらの組み合わせによって構成することができる。この制御部4の詳しい動作についても後述する。
【0035】
(本実施形態の動作)
次に、本実施形態に係る体積型ディスプレイの動作を、図2をさらに参照しながら説明する。
【0036】
(基本的動作)
まず、共振型液体レンズ2を共振させることにより、その焦点距離を変動させる。これにより、共振型液体レンズ2からユーザに向けて投影される像の結像位置も変化する。結像位置の変化を図2(a)に示す。典型的には、結像位置は正弦波状に変化するが、これに制約されるものではない。共振型液体レンズ2として用いるTAGレンズの周波数が69kHzであるとすれば、結像位置の変動周期Tは14.5μs程度となる。ただしこれもこの数値に制約されるものではない。
【0037】
この結像位置の変動周期Tは、一般的に入手できる現在のディスプレイのフレーム周期よりも速い。例えば、DMDは最速のフレームレートを持つディスプレイの一つであるが、DMDであってもフレームレートは32000fps程度が限界であり、そのフレーム周期は31.3μs程度である。このフレームレートの画像をそのまま共振型液体レンズ2に入射すると、1フレームの間に結像位置(つまり焦点距離)がほぼ2周期分変動してしまう。これでは特定の焦点距離に像を提示することができない。
【0038】
本実施形態の発光部11は、共振型液体レンズ2における焦点距離の変動周期T(図2(a)参照)の1/10よりも短い時間内に、表示素子12に向けて光を照射する。より具体的には、本実施形態では、500ns程度あるいはそれ以下の時間W(図2(a)参照)内に発光部11のLEDを発光させる。発光部12からの光の発生タイミングは、本例では、制御部4により制御される。
【0039】
例えば、図2における時間t図2(a)参照)において発光部11を時間Wだけ発光させる。これにより、実質的に(すなわち人間の感覚における)特定の結像位置x図2(a)参照)において像をユーザに提示することができる。
【0040】
さらに、1フレームの時間間隔V(例えば31μs、図2(b)参照)内において、同じ結像位置xに対応する時間t~t図2(a)ではtまで)に発光部11を発光させれば、同じ結像位置において同じ像を、短い時間間隔で断続的にユーザに提示することができる。これにより、ユーザに明るい像を提示できるという利点がある。
【0041】
三次元像をユーザに提示する場合、結像位置(つまり奥行き)に対応した像を、1フレームの間にユーザに提示する。この場合、その結像位置xに対応した時間tにおいて発光部11を発光させれば、その結像位置における像を提示することができる。例えば、図1は、特定の位置(結像位置に対応する虚像位置)z~zに虚像を表示できることを模式的に示している。さらに、図1は、虚像の表示位置の変動範囲7も模式的に示している。これらの位置及び範囲も単なる例示であり、これらには制約されない。
【0042】
このようにして、ユーザに三次元像を提示することができる。三次元像の模式的な例を図1において符号8で示す。なお、三次元像が現れる位置は、虚像位置の変動範囲7の内部である。前記した通り、1フレームの間に、同じ結像位置で複数の像を提示できるように発光部11を発光させることにより、ユーザに明るい像を提示できる。
【0043】
また、本実施形態では、ハーフミラー3を介してユーザに投影像を提示しているので、ユーザは、外部の像(例えば実空間の像)に投影像が重畳された画像を視認することができる。したがって、本実施形態の技術は、ARやMRの実現に寄与することができる。
【0044】
(実施例)
前記の説明を前提として、より具体的な例を以下に説明する。以下では、1ms以内に1volume(つまり一つの三次元像の提示)の提示が行えることを示す。
【0045】
仮に、DMDのフレームレートを32000fpsとし,1000volumes/sのレートで三次元像を提示することを考えると、1volumeの提示に最大でDMDの32フレームを割り当てることができる。
【0046】
例えば、モノクロ1bit階調の画像を提示することを考える場合、奥行方向で32段階に別々の像を提示できる。つまり、32段階の奥行き情報を持つ三次元像を、1000volumes/sのレートでユーザに提示することができる。
【0047】
ここで、像の階調を増やして、モノクロ3bit階調の画面表示を考える。すると、一枚の画像の提示に、DMDの7フレーム分(=1+2+4)が必要となる。奥行方向で4段階までの像を提示する例であれば、7×4=28フレームを要することになる。これは32フレーム未満なので、本実施形態の構成により、1ms以内に、階調表現のある一つの三次元像をユーザに提示可能であることが分かる。
【0048】
図2(b)は、DMDのON/OFFにより階調を表す動作を示す例である。良く知られているように、DMDでは各マイクロミラーのON/OFFを切り替えることにより階調表現を行うことができる。DMDのフレーム周期Vが例えば31μsであれば、その間は、マイクロミラーのON/OFFは一定である。前記したように、そのフレーム周期の間に、図2(a)に示すように発光部を動作させることで、特定の結像位置における像をユーザに提示することができる。したがって、前記の例によれば、1/1000秒ごとに、表示内容が更新された立体像をユーザに提示することができる。ここで、図2はあくまで模式的なものであり、図2(a)の縮尺と、図2(b)の縮尺は厳密なものではないことに注意する。
【0049】
なお、本発明の内容は、前記実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、具体的な構成に対して種々の変更を加えうるものである。
【0050】
例えば、前記した実施形態では、LEDを用いた発光部11とDMDを用いた表示素子12を用いて画像投影部1を構成したが、これには制約されない。例えば、LEDに代えて、LEDと同程度あるいはさらに高速な発光時間制御が可能な発光素子を用いることもできる。また例えば、画像投影部としてOLED、μLED、LEDアレイのようなデバイスを用いることもできる。ただし、それらのデバイスのフレームレートが十分に速いものであることが好ましい。すなわち、特定の結像位置に対応する短い時間間隔で投影を行えるものであることが好ましい。
【0051】
さらに、前記した実施形態では、ハーフミラー3を用いてユーザに像(虚像)を提示しているが、ハーフミラーを用いる必要はない。例えば、共振型液体レンズ2により焦点調節された像を、ユーザの目に直接に、又は何らかの光学系を介して投影することにより、ユーザに像(虚像)を提示することも可能である。
【0052】
さらに、前記した実施形態では、画像投影部1が、共振型液体レンズ2の焦点距離の変動周期の1/10よりも短い時間内に画像を投影する構成とした。しかし、1/10よりもさらに短い時間、例えば焦点距離の変動周期の1/20や1/30であることも可能である。画像の投影時間が短いほど、精密な立体像を呈示できると考えられる。画像の投影時間が短い場合、立体像が暗くなることも考えられるが、同じ焦点位置において複数回の投影を行うことにより、明るい立体像をユーザに提示できる。
【符号の説明】
【0053】
1 画像投影部
11 発光部
12 表示素子
13 集光レンズ
14 光線
15 提示画像
2 共振型液体レンズ
3 ハーフミラー
4 制御部
5 視点位置(ユーザの目)
6 光線束
61 主軸方向
7 虚像位置の変動範囲
8 三次元像
図1
図2