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特許7353639粘弾性係数測定方法、粘弾性係数測定装置およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】粘弾性係数測定方法、粘弾性係数測定装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20230925BHJP
   G01N 3/40 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
G01N3/00 K
G01N3/40 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019225858
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021096092
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 淳
(72)【発明者】
【氏名】福田 尚希
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/059878(WO,A1)
【文献】特開2010-133788(JP,A)
【文献】特開2008-292504(JP,A)
【文献】特開2007-101220(JP,A)
【文献】特開2011-137667(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0364151(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00
G01N 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を経時的に変形させるステップと、
前記試料を経時的に変形させるときの前記試料の歪み量を反映した第1物理量の履歴と前記試料に作用する応力を反映した第2物理量の履歴とを取得するステップと、
前記第1物理量の履歴に基づいて、前記第1物理量の変化速度の履歴を算出するステップと、
前記試料の粘性係数と弾性係数とを含み且つ前記第1物理量と前記第2物理量と前記変化速度との関係を表す関係式を用いて、前記第1物理量の履歴と前記第2物理量の履歴と前記変化速度の履歴とから前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を算出するステップと、
算出された前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を示す情報を、前記試料の前記粘性係数を示す粘性係数情報および前記弾性係数を示す弾性係数情報として出力するステップと、を含み、
前記関係式は、前記試料の粘弾性モデルの挙動を表す前記試料に作用する応力と前記試料の歪み量との時間についての一階微分方程式に、前記歪み量が変化したときの前記応力の変化量を表す変形抵抗率を代入することにより得られる関係式から導出される、
粘弾性係数測定方法。
【請求項2】
前記試料を経時的に変形させるステップにおいて、前記試料に圧子を押込むことにより前記試料を経時的に変形させ、
前記第1物理量は、前記圧子を前記試料に押し込んだときの前記圧子の押込み量であり、
前記第2物理量は、前記圧子に作用する押込み荷重であり、
前記変化速度は、前記圧子の押込速度である、
請求項1に記載の粘弾性係数測定方法。
【請求項3】
試料を経時的に変形させるステップと、
前記試料を経時的に変形させるときの前記試料の歪み量を反映した第1物理量の履歴と前記試料に作用する応力を反映した第2物理量の履歴とを取得するステップと、
前記第1物理量の履歴に基づいて、前記第1物理量の変化速度の履歴を算出するステップと、
前記試料の粘性係数と弾性係数とを含み且つ前記第1物理量と前記第2物理量と前記変化速度との関係を表す関係式を用いて、前記第1物理量の履歴と前記第2物理量の履歴と前記変化速度の履歴とから前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を算出するステップと、
算出された前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を示す情報を、前記試料の前記粘性係数を示す粘性係数情報および前記弾性係数を示す弾性係数情報として出力するステップと、を含み、
前記試料を経時的に変形させるステップにおいて、前記試料に圧子を押込むことにより前記試料を経時的に変形させ、
前記第1物理量は、前記圧子を前記試料に押し込んだときの前記圧子の押込み量であり、
前記第2物理量は、前記圧子に作用する押込み荷重であり、
前記変化速度は、前記圧子の押込速度であり、
前記圧子は、球状であり、
前記関係式は、下記式(A)で表される、
【数1】
ここで、Fは前記押込み荷重、δは前記押込み量、δは前記押込速度、E、Eveは前記弾性係数、Cは前記粘性係数、νは前記試料のポアソン比、φは前記圧子の直径、
弾性係数測定方法。
【請求項4】
試料を経時的に変形させるステップと、
前記試料を経時的に変形させるときの前記試料の歪み量を反映した第1物理量の履歴と前記試料に作用する応力を反映した第2物理量の履歴とを取得するステップと、
前記第1物理量の履歴に基づいて、前記第1物理量の変化速度の履歴を算出するステップと、
前記試料の粘性係数と弾性係数とを含み且つ前記第1物理量と前記第2物理量と前記変化速度との関係を表す関係式を用いて、前記第1物理量の履歴と前記第2物理量の履歴と前記変化速度の履歴とから前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を算出するステップと、
算出された前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を示す情報を、前記試料の前記粘性係数を示す粘性係数情報および前記弾性係数を示す弾性係数情報として出力するステップと、を含み、
前記試料を経時的に変形させるステップにおいて、前記試料をチャックにより把持し前記試料に周期的な振動を与えることにより前記試料を経時的に変形させ、
前記第1物理量は、前記試料の歪み量であり、
前記第2物理量は、前記チャックに作用する応力であり、
前記変化速度は、前記周期的な振動の角速度である、
弾性係数測定方法。
【請求項5】
前記関係式は、前記試料の粘弾性モデルの挙動を表す前記試料に作用する応力と前記試料の歪み量との時間についての一階微分方程式に、前記歪み量が変化したときの前記応力の変化量を表す変形抵抗率を代入することにより得られる関係式から導出される、
請求項3または4に記載の粘弾性係数測定方法。
【請求項6】
前記粘弾性モデルは、3要素固体モデルである、
請求項1、2または5に記載の粘弾性係数測定方法。
【請求項7】
前記試料を経時的に変形させるステップにおいて、前記試料の予め設定された一方向における両側それぞれを2つのチャックにより把持した状態で、前記2つのチャックを互いに遠ざかる方向へ移動させることにより前記試料を経時的に変形させ、
前記第1物理量は、前記試料の引っ張り量であり、
前記第2物理量は、前記チャックに作用する引っ張り荷重であり、
前記変化速度は、前記チャックの引っ張り速度である、
請求項1に記載の粘弾性係数測定方法。
【請求項8】
試料を経時的に変形させることにより試料の粘性係数および弾性係数を測定する粘弾性係数測定装置であって、
前記試料を経時的に変形させるときの前記試料の歪み量を反映した第1物理量の履歴と前記試料に作用する応力を反映した第2物理量の履歴とを取得する物理量履歴取得部と、
前記第1物理量の履歴に基づいて、前記第1物理量の変化速度の履歴を算出する速度算出部と、
前記試料の粘性係数と弾性係数とを含み且つ前記第1物理量と前記第2物理量と前記変化速度との関係を表す関係式を用いて、前記第1物理量の履歴と前記第2物理量の履歴と前記変化速度の履歴とから前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を算出する係数算出部と、
算出された前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を示す情報を、前記試料の前記粘性係数を示す粘性係数情報および前記弾性係数を示す弾性係数情報として出力する出力部と、を備え、
前記関係式は、前記試料の粘弾性モデルの挙動を表す前記試料に作用する応力と前記試料の歪み量との時間についての一階微分方程式に、前記歪み量が変化したときの前記応力の変化量を表す変形抵抗率を代入することにより得られる関係式から導出される、
粘弾性係数測定装置。
【請求項9】
圧子と、
前記圧子を駆動し、前記試料に前記圧子を押込むことにより前記試料を経時的に変形させるアクチュエータと、
前記圧子を前記試料に押し込んだときの前記圧子の押込み量を検出するポテンショメータと、
前記圧子に作用する押込み荷重を検出するロードセルと、を更に備え、
前記第1物理量は、前記圧子を前記試料に押し込んだときの前記圧子の押込み量であり、
前記第2物理量は、前記圧子に作用する押込み荷重であり、
前記変化速度は、前記圧子の押込速度である、
請求項に記載の粘弾性係数測定装置。
【請求項10】
コンピュータを、
試料を経時的に変形させるときの前記試料の歪み量を反映した第1物理量の履歴と前記試料に作用する応力を反映した第2物理量の履歴とを取得する物理量履歴取得部、
前記第1物理量の履歴に基づいて、前記第1物理量の変化速度の履歴を算出する速度算出部、
前記試料の粘性係数と弾性係数とを含み且つ前記第1物理量と前記第2物理量と前記変化速度との関係を表す関係式を用いて、前記第1物理量の履歴と前記第2物理量の履歴と前記変化速度の履歴とから前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を算出する係数算出部、
算出された前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を示す情報を、前記試料の前記粘性係数を示す粘性係数情報および前記弾性係数を示す弾性係数情報として出力する出力部、
として機能させるためのプログラムであって、
前記関係式は、前記試料の粘弾性モデルの挙動を表す前記試料に作用する応力と前記試料の歪み量との時間についての一階微分方程式に、前記歪み量が変化したときの前記応力の変化量を表す変形抵抗率を代入することにより得られる関係式から導出される、
プログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘弾性係数測定方法、粘弾性係数測定装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
物質の粘弾性とは、物質が有する弾性と粘性とを併せ持った特性のことである。物質の粘弾性の特性を把握するには、弾性係数と粘性係数とを同定する必要がある。弾性係数を同定する方法として、いわゆる引っ張り試験を用いる方法も提案されている(例えば特許文献1参照)。また、弾性係数を同定する方法として、いわゆる押込試験を用いる方法も提案されている(例えば特許文献2、3参照)。これらの方法では、構成モデル、即ち、複数の構成要素を有する物質の変形についての物理モデルを仮定する。例えば特許文献2、3に記載された方法では、構成モデルとしていわゆる3要素固体モデルを採用する。そして、前述の複数の構成要素の数以上の複数種類の条件下で引っ張り試験または押し込み試験を行い、複数種類の条件下それぞれでの試験結果から、各構成要素の力学的特性値(いわゆる物性値)を求める。例えば特許文献3に記載された方法では、3種類の押込速度で物質を押し込んだときそれぞれにおける物質の変形量と力との相関関係を計測し、3要素固体モデルにおける2つの弾性要素それぞれに関する弾性係数と1つの粘性要素に関する粘性係数とを求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-257321号公報
【文献】特開2011-137667号公報
【文献】国際公開第2015/059878号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1から3に記載された方法では、いずれも、構成モデルに含まれる構成要素の数以上の複数種類の条件下での引っ張り試験または押し込み試験を行う必要がある。このため、試験内容が煩雑になったり弾性係数および粘性係数を求めるまでの時間が長期化したりする虞がある。
【0005】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、物質の粘性係数および弾性係数を簡易且つ高速に求めることができる粘弾性係数算出方法、粘弾性係数算出装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る粘弾性係数測定方法は、
試料を経時的に変形させるステップと、
前記試料を経時的に変形させるときの前記試料の歪み量を反映した第1物理量の履歴と前記試料に作用する応力を反映した第2物理量の履歴とを取得するステップと、
前記第1物理量の履歴に基づいて、前記第1物理量の変化速度の履歴を算出するステップと、
前記試料の粘性係数と弾性係数とを含み且つ前記第1物理量と前記第2物理量と前記変化速度との関係を表す関係式を用いて、前記第1物理量の履歴と前記第2物理量の履歴と前記変化速度の履歴とから前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を算出するステップと、
算出された前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を示す情報を、前記試料の前記粘性係数を示す粘性係数情報および前記弾性係数を示す弾性係数情報として出力するステップと、を含み、
前記関係式は、前記試料の粘弾性モデルの挙動を表す前記試料に作用する応力と前記試料の歪み量との時間についての一階微分方程式に、前記歪み量が変化したときの前記応力の変化量を表す変形抵抗率を代入することにより得られる関係式から導出される
【0007】
他の観点から見た本発明に係る粘弾性係数測定装置は、
試料を経時的に変形させることにより試料の粘性係数および弾性係数を測定する粘弾性係数測定装置であって、
前記試料を経時的に変形させるときの前記試料の歪み量を反映した第1物理量の履歴と前記試料に作用する応力を反映した第2物理量の履歴とを取得する物理量履歴取得部と、
前記第1物理量の履歴に基づいて、前記第1物理量の変化速度の履歴を算出する速度算出部と、
前記試料の粘性係数と弾性係数とを含み且つ前記第1物理量と前記第2物理量と前記変化速度との関係を表す関係式を用いて、前記第1物理量の履歴と前記第2物理量の履歴と前記変化速度の履歴とから前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を算出する係数算出部と、
算出された前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を示す情報を、前記試料の前記粘性係数を示す粘性係数情報および前記弾性係数を示す弾性係数情報として出力する出力部と、を備え、
前記関係式は、前記試料の粘弾性モデルの挙動を表す前記試料に作用する応力と前記試料の歪み量との時間についての一階微分方程式に、前記歪み量が変化したときの前記応力の変化量を表す変形抵抗率を代入することにより得られる関係式から導出される
【0008】
他の観点から見た本発明に係るプログラムは、
コンピュータを、
試料を経時的に変形させるときの前記試料の歪み量を反映した第1物理量の履歴と前記試料に作用する応力を反映した第2物理量の履歴とを取得する物理量履歴取得部、
前記第1物理量の履歴に基づいて、前記第1物理量の変化速度の履歴を算出する速度算出部、
前記試料の粘性係数と弾性係数とを含み且つ前記第1物理量と前記第2物理量と前記変化速度との関係を表す関係式を用いて、前記第1物理量の履歴と前記第2物理量の履歴と前記変化速度の履歴とから前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を算出する係数算出部、
算出された前記粘性係数の近似解および前記弾性係数の近似解を示す情報を、前記試料の前記粘性係数を示す粘性係数情報および前記弾性係数を示す弾性係数情報として出力する出力部、
として機能させるためのプログラムであって、
前記関係式は、前記試料の粘弾性モデルの挙動を表す前記試料に作用する応力と前記試料の歪み量との時間についての一階微分方程式に、前記歪み量が変化したときの前記応力の変化量を表す変形抵抗率を代入することにより得られる関係式から導出される
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試料を経時的に変形させるときの試料の歪み量を反映した第1物理量の履歴と試料に作用する応力を反映した第2物理量の履歴とを取得し、第1物理量の履歴に基づいて、第1物理量の変化速度の履歴を算出する。そして、試料の粘性係数と弾性係数とを含み且つ第1物理量と第2物理量と変化速度との関係を表す関係式を用いて、第1物理量の履歴と第2物理量の履歴と変化速度の履歴とから粘性係数の近似解および弾性係数の近似解を算出する。これにより、試料を一度だけ経時的に変化させるだけで、試料の粘性係数の近似解および弾性係数の近似解を算出することができるので、試料の粘性係数および弾性係数を測定するための試験の内容を簡素化でき且つ弾性係数および粘性係数を求めるまでの時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る試料の粘弾性モデルの一例である3要素固体モデルを示す図である。
図2】実施の形態1に係る試料の応力歪み線図である。
図3】実施の形態1に係る圧子と試料との接触状態を示す図である。
図4】実施の形態1に係る押込み量と歪み速度との関係の一例を示す図である。
図5】(A)は実施の形態1に係る押込み速度と変形抵抗率との関係の一例を示す図であり、(B)は実施の形態1に係る押込み量と変形抵抗率との関係の一例を示す図である。
図6】実施の形態1に係る押込み荷重と押込み量との関係の一例を示す図である。
図7】実施の形態1に係る粘弾性係数測定装置の概略構成図である。
図8】実施の形態1に係る粘弾性係数測定装置のブロック図である。
図9】実施の形態1に係る押込み量と押込み荷重との関係の一例を示す図である。
図10】実施の形態1に係る解析処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図11】(A)は比較例1に係る試料の粘弾性モデルである2要素固体モデルを示す図であり、(B)は比較例1に係る解析処理により得られた押込み荷重と押込み量との関係を示す近似曲線と計測データとを示す図である。
図12】実施の形態1に係る解析処理により得られた押込み荷重と押込み量との関係を示す近似曲線と計測データとを示す図である。
図13】実施の形態1に係る解析処理および比較例1、2に係る解析処理により得られた押込み荷重と押込み量との関係を示す近似曲線を示す図である。
図14】実施の形態2に係る歪み量および応力の時間プロファイルの一例を示す図である。
図15】(A)は実施の形態2に係る位相遅れ量の角速度依存性を示す図であり、(B)は実施の形態2に係る損失正接の角速度依存性を示す図である。
図16】実施の形態2に係る変形抵抗率の角速度依存性を示す図である。
図17】実施の形態2に係る粘弾性係数測定装置の概略構成図である。
図18】実施の形態2に係る粘弾性係数測定装置のブロック図である。
図19】実施の形態2に係る解析処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図20】(A)は実施の形態3に係る歪み速度の時間プロファイルの一例を示す図であり、(B)は実施の形態3に係る歪み量の時間プロファイルの一例を示す図である。
図21】実施の形態3に係る粘弾性係数測定装置の概略構成図である。
図22】実施の形態3に係る粘弾性係数測定装置のブロック図である。
図23】実施の形態3に係る解析処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施の形態1)
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照しながら説明する。まず、本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法について説明する。
【0012】
本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法では、試料に圧子を押込むことにより試料を経時的に変形させたときの、圧子の押込み量の履歴と、圧子に作用する押込み荷重の履歴と、圧子の押込速度の履歴と、に基づいて、試料の粘性係数の値と弾性係数の値とを算出する。本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法では、試料が、図1に示すような、ばね要素を有する弾性部(elastic part)と、ばね要素およびダッシュポット要素を有する粘弾性部(viscoelastic part)と、から構成される粘弾性モデルである3要素固体モデルで表されるものと仮定する。ここで、弾性部の歪み量ε、弾性係数E、粘弾性部のばね要素の弾性係数Eve、粘弾性部のばね要素に生じる応力σve、粘弾性部のダッシュポット要素の粘性コンプライアンス(以下、「粘性係数」と称する。)C、ダッシュポット要素に生じる応力σおよび歪み量ε、応力σveと応力σとの和σについて、下記式(1)乃至式(7)の関係が成り立つ。なお、下記式(1)乃至式(7)について、各物理量を示す記号に付されたオーバードットは、時間微分を示し、以下文中では上付き「・」で表す。
【0013】
【数1】
【0014】
【数2】
【0015】
【数3】
【0016】
【数4】
【0017】
【数5】
【0018】
【数6】
【0019】
【数7】
【0020】
ここで、例えば式(5)に式(6)および式(7)を代入した後、式(1)および式(2)に基づいて、ε、εv・をε、ε、ε、εe・を含む式に変形する。そして、ε、εe・に式(3)および式(4)を代入することにより、下記式(8)に示すような、試料SP1の粘弾性モデルの挙動を表す関係式が導出される。
【0021】
【数8】
この式(8)で表される関係式は、試料に作用する応力σと試料の歪み量εとの時間についての一階微分方程式となっている。一方、粘弾性を有する試料の歪み量と試料に作用する応力の大きさとの関係は、例えば図2に示すような応力歪み曲線で表される。これは、試料が有する粘性の影響に依るものである。ここで、試料に作用する応力の大きさを歪み量εで偏微分して得られる量を変形抵抗率Dとすると、変形抵抗率Dは、下記式(9)で表される。
【0022】
【数9】
ここで、図1に示す3要素固体モデルの構成式は、下記式(10)で表される。
【0023】
【数10】
そして、式(10)に式(9)の関係式を代入すると、下記式(11)および式(12)の関係式が導出される。
【数11】
【0024】
【数12】
ここで、式(12)について、下記式(13)で表される微分方程式を考える。
【0025】
【数13】
そして、上記式(13)の微分方程式を解くと、下記式(14)の関係式が導出される。
【0026】
【数14】
ここで、式(14)の関係式に下記式(15)の関係式を代入したとする。
【0027】
【数15】
そうすると、下記式(16)の関係式が導出される。
【0028】
【数16】
ここで、kは、定数である。式(16)の関係式の両辺をεで偏微分すると、下記式(17)で表される関係式が導出される。
【0029】
【数17】
ここで、Dは変形抵抗率を示す。解析を簡便に実現するために、式(17)から下記式(18)の関係式が近似的に成立するものと考える。
【0030】
【数18】
そして、式(18)の関係式を前述の式(8)の関係式に代入することにより、下記式(19)の関係式が導出される。このとき、変形抵抗率Dは、歪み量εにおけるいわゆる見かけのヤング率に相当する。この場合、変形抵抗率Dは、式(8)および式(18)の関係式から、式(19)に示す関係式で表される。
【0031】
【数19】
【0032】
また、本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法において、例えば図3に示すように、球状の圧子15を試料SP1に押し込むものとする。この場合、Hertzの弾性接触理論から導出される関係式において、ヤング率をいわゆる見かけのヤング率に相当する変形抵抗率Dに置き換えることにより下記式(20)の関係式が算出できる。
【0033】
【数20】
ここで、F1は、圧子15に作用する押込み荷重(図3の白矢印AR2参照)、Eは試料SP1のヤング率、νは試料SP1のポアソン比、φは圧子15の直径、δは押込み量である。また、試料SP1は、表面が平坦な半無限体であり、圧子15は試料SP1に対して十分に硬いものとする。押込み量δは、試料SP1を経時的に変形させるときの試料SP1の歪み量を反映した第1物理量に相当する。また、押込み荷重F1は、試料SP1に作用する応力を反映した第2物理量に相当する。
【0034】
また、試料SP1を圧子15で押し込む過程において、試料SP1の荷重面にかかる表面形状が大きく変化する、即ち、圧子15の押込みによって試料SP1の変形領域が著しく変化する現象が現れる。そして、剛体上に置かれた有限体の試料SP1への押込み荷重は、半無限体の試料SP1に対する押込み荷重より大きくなる。ここで、実際の試料SP1が有限体であることの影響を考慮して、圧子15の押込みによる試料SP1の変形を、圧子15の接触変形と、軟性材料である場合に生じる圧縮変形との重ね合せで表現する。この場合、下記式(21)の関係式が成立する。なお、下記式(21)の各物理量を示す記号に付されたオーバーラインは、以下文中では上付き「-」で表す。
【0035】
【数21】
ここで、ε は、圧子15による接触変形によるヘルツ歪み量を表し、ε は、圧子15と試料SP1との間で生じる圧縮変形を示す体積歪み量を表す。この式(21)は、圧子15の押込み過程で試料SP1中に生じる3次元的な歪み量の分布を、それと等価な単軸歪み量で表すものである。また、ε は、「相当押込み歪み量」と称する。ヘルツ歪み量ε 、体積歪み量ε は、それぞれ、下記式(22)、式(23)の関係式で表される。
【0036】
【数22】
なお、式(22)におけるν、φ、δは、式(11)乃至(13)におけるν、φ、δと同じ意味を示す。
【0037】
【数23】
なお、式(23)におけるφ、δは、式(11)乃至式(13)におけるν、φ、δと同じ意味を示す。また、hは、試料SP1の厚さを示す。そして、式(21)に式(22)および式(23)の関係式を代入すると、下記式(24)に示す関係式が得られる。
【0038】
【数24】
なお、式(24)におけるν、φ、δは、式(11)乃至式(13)におけるν、φ、δと同じ意味を示し、式(24)におけるhは、式(23)におけるhと同じ意味を示す。ここで、相当押込み歪み量εI の時間微分εI について下記式(25)の関係式が成立する。
【0039】
【数25】
ここで、式(21)の関係式から下記式(26)の関係式が導出される。
【0040】
【数26】
そして、式(26)に式(22)および式(23)の関係式を代入すると、下記式(27)に示す関係式が導出される。
【0041】
【数27】
ここで、試料SP1が、その厚さhが無限大である半無限体試料であると仮定すると、相当押込み歪み量ε の時間微分、即ち、歪み速度ε は、下記式(28)の関係式で近似的に表される。
【0042】
【数28】
式(28)について、試料SP1のポアソン比νを0.45、圧子15の直径φを30mm、押込み速度δを2mm/secとした場合の歪み速度ε の押込み量δに対する依存性を示す理論曲線を図4に示す。図4に示す結果から、押込み量が大きくなるに伴い、歪み速度が小さくなる傾向になる。また、式(27)において、試料SP1が、その厚さhが無限大である半無限体試料であると仮定すると、相当押込み歪み量ε は、下記式(29)で表される。
【0043】
【数29】
そして、式(19)におけるεに相当押込み歪み量ε に関する式(29)を代入し、εに歪み速度ε に関する式(28)を代入すると、下記式(30)の関係式が得られる。
【0044】
【数30】
式(30)について、圧子15の押込み量を0.1mm、1mm、3mmとした場合の変形抵抗率Dの押込速度δに対する依存性を示す理論曲線を図5(A)に示す。図5(A)に示すように、押込み量の大きさによって、変形抵抗率Dの歪み速度に対する挙動が変化する。また、式(30)について、圧子15の押込み速度を0.1mm/sec、1mm/sec、10mm/sec、20mm/sec、50mm/sec、100mm/sec、1000mm/sec、10000mm/secとした場合の変形抵抗率Dの押込み量δに対する依存性を示す理論曲線を図5(B)に示す。図5(B)に示すように、圧子15の押込み速度の大きさによって、変形抵抗率Dの試料SP1の歪み量δに対する挙動が変化する。そして、式(20)の変形抵抗率Dに式(30)の関係式を代入すると、式(31)に示す関係式が導出される。
【0045】
【数31】
この式(31)で表される関係式は、試料SP1の粘性係数Cと弾性係数E、Eveとを含み、押込み量と押込み荷重との関係を表している。式(31)について、圧子15の押込み速度を0.1mm/sec、1mm/sec、10mm/sec、20mm/sec、50mm/sec、100mm/sec、1000mm/sec、10000mm/secとした場合の計算結果を図6に示す。図6に示すように、圧子15の押込み速度の大きさによって、押込み荷重F1と試料SP1の歪み量δとの関係が変化する。そして、本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法では、前述の式(31)の関係式を用いて、押込み荷重、押込み量の測定データに対して最小二乗法によるフィッティングを実行することにより、弾性係数E、Eveの近似解と粘性係数Cの近似解とを算出する。
【0046】
次に、本実施の形態に係る粘弾性係数測定装置について説明する。図7に示すように、本実施の形態に係る粘弾性係数測定装置100は、計測ユニット10と、制御ユニット20と、解析ユニット30と、を備える。計測ユニット10は、圧子15と、荷重軸14と、ステージ12と、ロードセル13と、アクチュエータ11と、ポテンショメータ17と、を有する。アクチュエータ11は、ステージ12を予め設定された方向へ駆動する(図7の矢印AR3の下方向)。荷重軸14は、ステージ12に取り付けられており、アクチュエータ11がステージ12を駆動すると、それに伴い、荷重軸14の位置も変更される。圧子15は、球状であり、荷重軸14の先端部に取り付けられている。アクチュエータ11がステージ12をテーブル16上に載置された試料SP1に近づく方向(矢印AR3の下方向)へ移動させると、圧子15が試料SP1に接触し押し込まれる。
【0047】
ロードセル13は、荷重軸14に取り付けられ、荷重軸14から圧子15に作用する荷重を計測する。ロードセル13は、試料SP1より圧子15に作用する荷重を計測し、この荷重情報を解析ユニット30へ出力する。ポテンショメータ17は、ステージ12の移動量を計測する。このステージ12の移動量は、圧子15の試料SP1への押込み量に相当する。ポテンショメータ17は、計測した圧子15の押込み量を示す押込み量情報を、制御ユニット20へ出力する。
【0048】
制御ユニット20は、アクチュエータ11へ制御信号を出力することによりアクチュエータ11を制御する。制御ユニット20は、CPU(Central Processing Unit)と記憶部とを有する。また、制御ユニット20は、アクチュエータ11へ制御信号を出力する際、圧子15の試料SP1への押込み動作の開始を通知する試験開始信号を解析ユニット30へ出力する。そして、制御ユニット20は、圧子15を予め設定された押込み量まで押込むと、圧子15の押込み動作を終了する旨を通知する試験終了信号を解析ユニット30へ出力する。更に、制御ユニット20は、ポテンショメータ17から入力される押込み量情報を解析ユニット30へ出力する。制御ユニット20は、CPUが記憶部に記憶されたアクチュエータ11の制御用のプログラムを実行することにより実現されている。
【0049】
解析ユニット30は、図8に示すように、CPU31と記憶部32と表示部33とを有する。表示部33は、例えば液晶表示装置である。CPU31は、記憶部32が記憶する解析用のプログラムを実行することにより、データ取得部311、修正部312、速度算出部313、係数算出部314および係数情報出力部315として機能する。また、記憶部32は、計測ユニット10から取得された押込み荷重を示す荷重情報と、押込み量を示す押込み量情報とを時系列で記憶する計測情報記憶部321を有する。更に、記憶部32は、前述の式(31)に示す関係式の情報を記憶する関係式記憶部322と、算出された弾性係数および粘性係数を示す情報を記憶する係数記憶部323と、を有する。
【0050】
データ取得部311は、制御ユニット20から試験開始信号が入力されたことを契機として、計測ユニット10から荷重情報と押込み量情報とを順次取得する物理量履歴取得部である。ここで、押込み量情報は圧子15の押込み量を示す情報であり、荷重情報は圧子15に作用する押込み荷重を示す情報である。そして、データ取得部311は、押込み量情報と荷重情報とを取得した順に計測情報記憶部321に記憶させていく。また、データ取得部311は、制御ユニット20から試験終了信号が入力されると、データの取得を停止する。
【0051】
修正部312は、押込み量の初期値である基準押込み量を特定する。ここで、基準押込み量は、図9に示すように、圧子15が試料SP1に接触していない状態から押込み量を増加させていったときに、押込み荷重が初めて0レベルよりも大きくなった時点における押込み量δ0に相当する。そして、修正部312は、押込み量が基準押込み量δ0以上の押込み量情報を、その押込みが示す押込み量δ1から基準押込み量δ0を差し引いて得られる押込み量δを示す情報で更新することにより、計測情報記憶部321が記憶する押込み量情報を修正する。
【0052】
速度算出部313は、計測情報記憶部321が記憶する押込み量情報が示す押込み量の履歴に基づいて、押込み量の変化速度、即ち、押込み速度の履歴を算出する。速度算出部313は、算出した押込み速度の履歴を示す情報を、係数算出部314に通知する。
【0053】
係数算出部314は、前述の式(31)の関係式を用いて、押込み荷重の履歴と押込み量の履歴と速度算出部313から通知される押込み速度の履歴とに対して最小二乗法によるフィッティングを実行する。このとき、係数算出部314は、関係式記憶部322から前述の式(31)の関係式を示す情報を取得して最小二乗法によるフィッティングを実行する。これにより、係数算出部314は、弾性係数E、Eveの近似解と粘性係数Cの近似解とを算出する。係数算出部314は、算出した弾性係数Ee、Eveの近似解を示す情報と粘性係数Cの近似解を示す情報とを係数記憶部323に記憶させる。
【0054】
係数情報出力部315は、係数記憶部323が記憶する、粘性係数Cの近似解を示す情報および弾性係数E、Eveの近似解を示す情報を、試料SP1の粘性係数Cを示す粘性係数情報および弾性係数E、Eveを示す弾性係数情報として表示部33へ出力する。このとき、表示部33は、係数情報出力部315から入力される粘性係数情報および弾性係数情報を表示する。
【0055】
次に、本実施の形態に係る粘弾性係数測定装置100の解析ユニット30が実行する解析処理について図10を参照しながら説明する。この解析処理は、例えば制御ユニット20から試験開始信号が入力されたことを契機として実行される。
【0056】
まず、データ取得部311は、計測ユニット10から荷重情報と押込み量情報とを順次取得して、計測情報記憶部321に記憶させていく(ステップS1)。そして、データ取得部311は、制御ユニット20から試験終了信号が入力されると、データの取得を停止する。
【0057】
次に、修正部312は、計測情報記憶部321から試料SP1について取得された一連の荷重情報および押込み量情報を読み込む(ステップS2)。続いて、修正部312は、読み込んだ一連の荷重情報および押込み量情報を用いて基準押込み量を特定し、特定した基準押込み量に基づいて押込み量情報を修正する(ステップS3)。ここで、修正部312は、圧子15が試料SP1に接触していない状態から押込み量を増加させていったときに、押込み荷重が初めて0レベルよりも大きくなった時点における押込み量δを基準押込み量として特定する。
【0058】
その後、速度算出部313は、計測情報記憶部321が記憶する押込み量情報が示す押込み量の履歴に基づいて、押込み速度の履歴を算出する(ステップS4)。
【0059】
次に、係数算出部314は、前述の式(31)の関係式を用いて、押込み荷重の履歴と押込み量の履歴と押込み速度の履歴とに対して最小二乗法によるフィッティングを実行することにより、弾性係数E、Eveの近似解と粘性係数Cの近似解とを算出する。そして、係数算出部314は、算出した弾性係数Ee、Eveの近似解を示す情報と粘性係数Cの近似解を示す情報とを係数記憶部323に記憶させる。(ステップS5)。
【0060】
続いて、係数情報出力部314は、係数記憶部323が記憶する、粘性係数Cの近似解を示す情報および弾性係数E、Eveの近似解を示す情報を、試料SP1の粘性係数Cを示す粘性係数情報および弾性係数E、Eveを示す弾性係数情報として表示部33へ出力する(ステップS6)。
【0061】
次に、本実施の形態に係る解析処理を実行した結果について比較例1、2に係る粘弾性係数測定方法と比較しながら説明する。比較例1に係る粘弾性係数測定方法では、Vigotの理論に基づいて、弾性係数Eおよび粘性係数Cを算出する。具体的には、試料SP1が、図11(A)に示すような、ばね要素を有する弾性部(elastic part)と、ダッシュポット要素を有する粘弾性部(viscoelastic part)と、から構成される2要素固体モデルで表されるものと仮定する。なお、図11(A)において、ε、E、C、σおよびεは、前述の図1に示したε、E、C、σおよびεと同じ意味を示す。
【0062】
図11(B)に、試料SP1として、バイリニア柔軟体である素材(株式会社SMPテクノロジーズ製 超弾性ポリマ材SMP Foam)を用いた場合の測定結果を曲線C10で示す。ここにおいて、計測ユニット10としては、株式会社堀内電機製作所製SoftMeasure HG1003を用いた。また、圧子15の直径は10mmとし、圧子15の押込速度は2.0mm/sとした。また、図11(B)の曲線C91は、比較例に係る解析処理により得られた押込み荷重と押込み量との関係を示す近似曲線を示す。図11(B)に示すように、比較例に係る解析処理により得られた曲線C91は、押込み量が0に近い領域において計測データとのずれが確認できる。
【0063】
ここで、本実施の形態に係る解析処理を実行した結果を図12に示す。図12の曲線C11は、本実施の形態に係る解析処理により得られた押込み荷重と押込み量との関係を示す近似曲線を示す。図12に示すように、本実施の形態に係る解析処理により得られた曲線C11は、押込み量の全領域において計測データと合致していることが確認できる。このことから、本実施の形態に係る解析処理を行うことにより、試料SP1の変形挙動を適切に再現でき、粘性係数Cおよび弾性係数E、Eveを精度良く算出することができることが判る。また、比較例1に係る粘弾性係数測定方法で得られる計算結果と、Maxwellの理論に基づいて弾性係数Eおよび粘性係数Cを算出する比較例2に係る粘弾性係数測定方法で得られる計算結果と、本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法で得られる計算結果と、を図13に示す。図13において、曲線C12は、本実施の形態に係る近似曲線、曲線C92は、比較例1に係る近似曲線、曲線C93は、比較例2に係る近似曲線を示す。なお、図13において、押込み速度はいずれも10mm/secとした。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法および粘弾性係数測定装置100によれば、試料SP1を経時的に変形させるときの試料SP1の押込み量の履歴と試料SP1に作用する押込み荷重の履歴とを取得し、押込み量の履歴に基づいて、押込み速度の履歴を算出する。そして、前述の式(31)に示す関係式を用いて、押込み量の履歴と押込み荷重の履歴と押込み速度の履歴とから、弾性係数E、Eveの近似解および粘性係数Cの近似解を算出する。これにより、試料SP1を一度だけ経時的に変化させるだけで、試料SP1の弾性係数E、Eveの近似解および粘性係数Cの近似解を算出することができる。従って、試料SP1の弾性係数E、Eveおよび粘性係数Cを測定するための試験の内容を簡素化でき且つ弾性係数E、Eveおよび粘性係数Cを求めるまでの時間を短縮することができる。
【0065】
(実施の形態2)
本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法では、試料を周期的に変形させたときの、試料の歪み量の履歴と、試料に作用する応力の大きさの履歴と、に基づいて、試料の粘性係数の値と弾性係数の値とを算出する。本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法でも、試料が、実施の形態1において図1を用いて説明した3要素固体モデルで表されるものと仮定する。
【0066】
粘弾性を有する試料を周期的に変形させた場合における試料の歪み量と試料に作用する応力の大きさとは、例えば図14に示すような時間挙動を示す。なお、図14において、ε(t)は、試料の歪み量を示し、σ(t)は、試料を変形させたときに観察できる応力の応答、即ち、試料に作用する応力の大きさを示す。また、ε、σは、それぞれ、試料の歪み量、試料に作用する応力の振幅値を示す。図14に示すように、試料の歪み量の波形は、試料に作用する応力の波形に対してΔ/ωだけ位相がずれる。これは、試料が有する粘性の影響に依るものである。また、歪み量ε(t)は、試料を周期的に変形させるときの第1物理量に相当し、応力σ(t)は、第2物理量に相当する。ここで、試料の歪み量ε(t)と試料に作用する応力の大きさσ(t)とは、それぞれ、下記式(32)および式(33)で表される。
【0067】
【数32】
【0068】
【数33】
ここで、ωは、試料を周期的に変形させるときの角速度を示し、Δは、粘弾性を有する試料の粘性の影響による位相遅れ量を示す。また、試料の歪み量ε(t)の時間微分と試料に作用する応力の大きさσ(t)の時間微分とは、それぞれ、下記式(34)および式(35)で表される。
【0069】
【数34】
【0070】
【数35】
そして、実施の形態1で説明した式(8)に、式(32)乃至式(35)の関係式を代入してから正弦定理を利用して変形すると、下記式(36)の関係式が導出される。
【0071】
【数36】
ここで、式(36)が全ての時刻tにおいて成立する条件から、下記式(37)の関係式が導出される。
【0072】
【数37】
そして、式(37)を変形すると、下記式(38)の関係式が得られる。
【0073】
【数38】
式(38)で示される、位相遅れ量Δの周波数ωに対する依存性を示す理論曲線の一例を図15(A)に示す。また、式(38)を変形すると、損失正接を表す下記式(39)の関係式が得られる。
【0074】
【数39】
式(39)で示される、損失正接tanΔの周波数ωに対する依存性を示す理論曲線の一例を図15(B)に示す。また、式(37)乃至式(39)に示す関係式が成立する場合、式(36)は下記式(40)に示す関係式で表すことができる。
【0075】
【数40】
また、実施の形態1で説明した変形抵抗率は、式(40)の関係式から、下記式(41)に示す関係式で表される。
【0076】
【数41】
ここで、D(ω)は、変形抵抗率を示す。式(41)で示される、変形抵抗率D(ω)の周波数ωに対する依存性を示す理論曲線の一例を図16に示す。そして、式(33)の関係式について、式(38)の関係式と式(40)の関係式とに基づいて、振幅σおよび位相遅れ量Δを置き換えることにより、下記式(42)の関係式が得られる。
【0077】
【数42】
そして、本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法では、前述の式(42)の関係式を用いて、歪み量、応力の測定データに対して最小二乗法によるフィッティングを実行することにより、弾性係数E、Eveの近似解と粘性係数Cの近似解とを算出する。
【0078】
次に、本実施の形態に係る粘弾性係数測定装置について説明する。図17に示すように、本実施の形態に係る粘弾性係数測定装置2100は、計測ユニット2010と、制御ユニット2020と、解析ユニット2030と、を備える。計測ユニット2010は、試料SP2を挟持する2つのプレート2142,2152と、プレート2142、2152それぞれの中央部に一端が固定された軸部2141、2151と、応力計測部2013と、アクチュエータ2011と、エンコーダ2017と、を有する。アクチュエータ2011は、軸部2141をその中心軸周りに回動させることにより、プレート2142を回転させる。ここで、アクチュエータ2011は、軸部2141を、矢印AR203に示す回転方向と矢印AR203に示す回転方向とは逆方向の矢印AR204に示す回転方向へ予め設定された角度だけ交互に回動させる。応力計測部2013は、軸部2151に取り付けられ、軸部2151を介して試料SP2からプレート2152に作用する応力を計測する。また、応力計測部2013は、応力を計測して得られる応力情報を解析ユニット2030へ出力する。エンコーダ2017は、計測した軸部2141の回転角度が反映された試料SP2の歪み量を示す歪み量情報を、制御ユニット2020へ出力する。
【0079】
制御ユニット2020は、アクチュエータ2011へ制御信号を出力することによりアクチュエータ2011を制御する。制御ユニット2020は、CPUと記憶部とを有する。また、制御ユニット2020は、アクチュエータ2011へ制御信号を出力する際、プレート2142の回転駆動の開始を通知する試験開始信号を解析ユニット2030へ出力する。そして、制御ユニット2020は、プレート2142の回転駆動を開始してから予め設定された試験時間だけ経過すると、圧子15の押込み動作を終了する旨を通知する試験終了信号を解析ユニット30へ出力する。更に、制御ユニット2020は、エンコーダ2017から入力される歪み量情報を解析ユニット2030へ出力する。制御ユニット2020は、CPUが記憶部に記憶されたアクチュエータ11の制御用のプログラムを実行することにより実現されている。
【0080】
解析ユニット2030は、実施の形態1に係る解析ユニット30と同様に、図18に示すように、CPU31と記憶部32と表示部33とを有する。なお、図18において、実施の形態1と同様の構成については図10と同一の符号を付している。CPU31は、記憶部32が記憶する解析用のプログラムを実行することにより、データ取得部2311、計時部2312、速度算出部2313、係数算出部2314および係数情報出力部315として機能する。また、記憶部32は、計測ユニット2010から取得された応力情報と、制御ユニット2020から取得した歪み量情報とを、計時部2312により計時された時刻を示す時刻情報に対応づけて記憶する計測情報記憶部2321を有する。更に、記憶部32は、前述の式(33)に示す関係式の情報を記憶する関係式記憶部2322と、係数記憶部323と、を有する。
【0081】
データ取得部2311は、制御ユニット20から試験開始信号が入力されたことを契機として、計測ユニット2010および制御ユニット2020から応力情報と歪み量情報とを順次取得する物理量履歴取得部である。計時部2312は、データ取得部2311が応力情報および歪み量情報を取得した時刻を計時する。そして、データ取得部2311は、押込み量情報と荷重情報とを、計時部2312により計時された時刻を示す時刻情報に対応づけて計測情報記憶部2321に記憶させていく。
【0082】
速度算出部2313は、計測情報記憶部321が記憶する歪み量情報が示す試料SP2の歪み量の履歴に基づいて、試料SP2を周期的に変化させるときの角速度を算出する。速度算出部2313は、算出した角速度を示す情報を、係数算出部2314に通知する。
【0083】
係数算出部2314は、前述の式(42)の関係式と、速度算出部2313から通知される情報が示す角速度と、に基づいて、試料SP2に作用する応力の履歴と試料SP2の歪み量の履歴とに対して最小二乗法によるフィッティングを実行する。このとき、係数算出部2314は、関係式記憶部2322から前述の式(42)の関係式を示す情報を取得して最小二乗法によるフィッティングを実行する。これにより、係数算出部2314は、弾性係数E、Eveの近似解と粘性係数Cの近似解とを算出する。係数算出部2314は、算出した弾性係数Ee、Eveの近似解を示す情報と粘性係数Cの近似解を示す情報とを係数記憶部323に記憶させる。そして、係数情報出力部314は、係数記憶部323が記憶する、粘性係数Cの近似解を示す情報および弾性係数E、Eveの近似解を示す情報を、試料SP1の粘性係数Cを示す粘性係数情報および弾性係数E、Eveを示す弾性係数情報として表示部33へ出力する。
【0084】
次に、本実施の形態に係る粘弾性係数測定装置2100の解析ユニット2030が実行する解析処理について図19を参照しながら説明する。この解析処理は、例えば制御ユニット20から試験開始信号が入力されたことを契機として開始される。
【0085】
まず、データ取得部2311は、計測ユニット2010および制御ユニット2020から応力情報と歪み量情報とを順次取得して、計測情報記憶部2321に記憶させていく(ステップS201)。このとき、データ取得部2311は、押込み量情報と荷重情報とを、計時部2312により計時された時刻を示す時刻情報に対応づけて計測情報記憶部2321に記憶させていく。そして、データ取得部2311は、制御ユニット2020から試験終了信号が入力されると、データの取得を停止する。
【0086】
次に、速度算出部2313は、計測情報記憶部321が記憶する歪み量情報が示す試料SP2の歪み量の履歴に基づいて、試料SP2を周期的に変化させるときの角速度を算出する(ステップS202)。
【0087】
続いて、係数算出部2314は、前述の式(42)の関係式と、速度算出部2313から通知される情報が示す角速度と、に基づいて、試料SP2に作用する応力の履歴と試料SP2の歪み量の履歴とから、弾性係数E、Eveの近似解と粘性係数Cの近似解とを算出する。そして、係数算出部2314は、算出した弾性係数Ee、Eveの近似解を示す情報と粘性係数Cの近似解を示す情報とを係数記憶部323に記憶させる。(ステップS203)。
【0088】
その後、係数情報出力部315は、係数記憶部323が記憶する、粘性係数Cの近似解を示す情報および弾性係数E、Eveの近似解を示す情報を、試料SP2の粘性係数Cを示す粘性係数情報および弾性係数E、Eveを示す弾性係数情報として表示部33へ出力する(ステップS204)。
【0089】
以上説明したように、本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法および粘弾性係数測定装置2100によれば、試料SP2を周期的に変形させたときの、試料SP2の歪み量の履歴に基づいて、試料SP2を周期的に変形させるときの角速度を算出する。そして、前述の式(42)に示す関係式と、算出した角速度と、に基づいて、試料SP2の歪み量の履歴と試料SP2に作用する応力の履歴とから、弾性係数E、Eveの近似解および粘性係数Cの近似解を算出する。これにより、試料SP2を周期的に変形させることにより、試料SP2の弾性係数E、Eveの近似解および粘性係数Cの近似解を算出することができる。従って、試料SP2の弾性係数E、Eveおよび粘性係数Cを測定するための試験の内容を簡素化でき且つ弾性係数E、Eveおよび粘性係数Cを求めるまでの時間を短縮することができる。
【0090】
(実施の形態3)
本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法では、試料に対して引っ張り歪みを加えたときの、試料の歪み量の履歴と、試料に作用する応力の大きさの履歴と、に基づいて、試料の粘性係数の値と弾性係数の値とを算出する。本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法でも、試料が、実施の形態1において図1を用いて説明した3要素固体モデルで表されるものと仮定する。
【0091】
本実施の形態では、実施の形態1と同様に、変形抵抗率Dが、式(19)に示す関係式で表されるものとする。また、試料を引っ張る過程において、試料の歪み速度と試料の引っ張り速度との関係は、下記式(43)の関係式で表される。
【0092】
【数43】
ここで、eは、試料の引っ張り速度を示し、e は、試料の引っ張り量の初期値を示す。また、εは、歪み量の変化速度、即ち、歪み速度を示す。式(43)について、歪み速度εの時間依存性を示す理論直線を図20(A)に示す。ここで、直線C31は、時間の経過に伴い歪み速度が増加する場合を示し、直線C32は、時間の経過に関わらず歪み速度が一定である場合を示している。そして、式(43)の関係式を時間積分することにより、下記式(44)の関係式が導出される。
【0093】
【数44】
ここで、ε0は、歪み量の初期値を示し、εは歪み量を示す。なお、e、e は、式(43)における物理量と同じ物理量を示す。式(44)について、歪み量εの時間依存性を示す理論直線を図20(B)に示す。ここで、直線C33は、歪み速度が時間の経過に伴い増加する場合を示し、直線C34は、歪み速度が時間の経過に関わらず一定である場合を示している。そして、実施の形態1で説明した式(19)に式(43)および式(44)の関係式を代入することにより下記式(45)の関係式が導出される。
【0094】
【数45】
ここで、引っ張り荷重が、変形抵抗率Dと引っ張り量との積で表されるとすると、下記式(46)の関係式が導出される。
【0095】
【数46】
ここで、F2は、引っ張り荷重を示し、eは、引っ張り量を示す。引っ張り量eは、試料を経時的に変形させるときの試料の歪み量を反映した第1物理量に相当する。また、引っ張り荷重F2は、試料に作用する応力を反映した第2物理量に相当する。そして、本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法では、前述の式(46)の関係式を用いて、引っ張り量、引っ張り荷重の測定データに対して最小二乗法によるフィッティングを実行することにより、弾性係数E、Eveの近似解と粘性係数Cの近似解とを算出する。
【0096】
次に、本実施の形態に係る粘弾性係数測定装置について説明する。図21に示すように、本実施の形態に係る粘弾性係数測定装置3100は、計測ユニット3010と、制御ユニット3020と、解析ユニット3030と、を備える。計測ユニット3010は、試料SP3を把持する2つのチャック3014、3015と、ロードセル3013と、アクチュエータ3011と、ポテンショメータ3017と、を有する。チャック3014およびロードセル3013は基台(図示せず)に固定されている。アクチュエータ3011は、チャック3014を矢印AR303に示す方向へ移動させることにより試料SP3に引っ張り荷重を印加する。ロードセル3013は、チャック3015に取り付けられ、チャック3015を介して試料SP3に作用する引っ張り荷重を計測する。また、ロードセル3013は、引っ張り荷重を計測して得られる荷重情報を解析ユニット3030へ出力する。ポテンショメータ3017は、チャック3014の移動量を計測する。このチャック3014の移動量は、試料SP3の引っ張り量に相当する。ポテンショメータ3017は、計測した試料SP3の引っ張り量を示す引っ張り量情報を、制御ユニット3020へ出力する。
【0097】
制御ユニット3020は、アクチュエータ3011へ制御信号を出力することによりアクチュエータ3011を制御する。制御ユニット3020は、CPUと記憶部とを有する。また、制御ユニット3020は、アクチュエータ3011へ制御信号を出力する際、チャック3014による試料SP3の引っ張り動作の開始を通知する試験開始信号を解析ユニット3030へ出力する。そして、制御ユニット3020は、チャック3014を、試料SP3の引っ張り量が予め設定された引っ張り量になるまで移動させると、チャック3014による引っ張り動作を終了する旨を通知する試験終了信号を解析ユニット3030へ出力する。更に、制御ユニット3020は、ポテンショメータ3017から入力される引っ張り量情報を解析ユニット3030へ出力する。制御ユニット3020は、CPUが記憶部に記憶されたアクチュエータ3011の制御用のプログラムを実行することにより実現されている。
【0098】
解析ユニット3030は、実施の形態1に係る解析ユニット30と同様に、図22に示すように、CPU31と記憶部32と表示部33とを有する。なお、図22において、実施の形態1と同様の構成については図10と同一の符号を付している。CPU31は、記憶部32が記憶する解析用のプログラムを実行することにより、データ取得部3311、計時部3312、速度算出部3313、係数算出部3314および係数情報出力部315として機能する。また、記憶部32は、計測ユニット3010から取得された荷重情報と、制御ユニット3020から取得した引っ張り量情報とを、計時部3312により計時された時刻を示す時刻情報に対応づけて記憶する計測情報記憶部3321を有する。更に、記憶部32は、前述の式(46)に示す関係式の情報を記憶する関係式記憶部3322と、係数記憶部323と、を有する。
【0099】
データ取得部3311は、制御ユニット3020から試験開始信号が入力されたことを契機として、計測ユニット3010および制御ユニット3020から荷重情報と引っ張り量情報とを順次取得する物理量履歴取得部である。計時部3312は、データ取得部3311が荷重情報および引っ張り量情報を取得した時刻を計時する。そして、データ取得部3311は、引っ張り量情報と荷重情報とを、計時部3312により計時された時刻を示す時刻情報に対応づけて計測情報記憶部3321に記憶させていく。
【0100】
速度算出部3313は、計測情報記憶部3321が記憶する引っ張り量情報が示す試料SP2の引っ張り量の履歴に基づいて、試料SP3の引っ張り速度を算出する。速度算出部3313は、算出した引っ張り速度を示す情報を、係数算出部3314に通知する。
【0101】
係数算出部3314は、前述の式(46)の関係式と、速度算出部3313から通知される情報が示す引っ張り速度と、に基づいて、試料SP3に作用する引っ張り荷重の履歴と試料SP3の引っ張り量の履歴とに対して最小二乗法によるフィッティングを実行する。このとき、係数算出部3314は、関係式記憶部3322から前述の式(46)の関係式を示す情報を取得して最小二乗法によるフィッティングを実行する。これにより、係数算出部3314は、弾性係数E、Eveの近似解と粘性係数Cの近似解とを算出する。係数算出部3314は、算出した弾性係数Ee、Eveの近似解を示す情報と粘性係数Cの近似解を示す情報とを係数記憶部323に記憶させる。そして、係数情報出力部314は、係数記憶部323が記憶する、粘性係数Cの近似解を示す情報および弾性係数E、Eveの近似解を示す情報を、試料SP1の粘性係数Cを示す粘性係数情報および弾性係数E、Eveを示す弾性係数情報として表示部33へ出力する。
【0102】
次に、本実施の形態に係る粘弾性係数測定装置3100の解析ユニット3030が実行する解析処理について図23を参照しながら説明する。この解析処理は、例えば制御ユニット3020から試験開始信号が入力されたことを契機として開始される。
【0103】
まず、データ取得部3311は、計測ユニット3010および制御ユニット3020から荷重情報と引っ張り量情報とを順次取得して、計測情報記憶部3321に記憶させていく(ステップS301)。このとき、データ取得部3311は、引っ張り量情報と荷重情報とを、計時部3312により計時された時刻を示す時刻情報に対応づけて計測情報記憶部3321に記憶させていく。そして、データ取得部3311は、制御ユニット3020から試験終了信号が入力されると、データの取得を停止する。
【0104】
次に、速度算出部3313は、計測情報記憶部3321が記憶する引っ張り量情報が示す試料SP3の引っ張り量の履歴に基づいて、試料SP3の引っ張り速度を算出する(ステップS302)。
【0105】
続いて、係数算出部3314は、前述の式(46)の関係式と、速度算出部3313から通知される情報が示す引っ張り速度と、に基づいて、試料SP3に作用する引っ張り荷重の履歴と試料SP3の引っ張り量の履歴とから、弾性係数E、Eveの近似解と粘性係数Cの近似解とを算出する。そして、係数算出部3314は、算出した弾性係数Ee、Eveの近似解を示す情報と粘性係数Cの近似解を示す情報とを係数記憶部323に記憶させる。(ステップS303)。
【0106】
その後、係数情報出力部315は、係数記憶部323が記憶する、粘性係数Cの近似解を示す情報および弾性係数E、Eveの近似解を示す情報を、試料SP2の粘性係数Cを示す粘性係数情報および弾性係数E、Eveを示す弾性係数情報として表示部33へ出力する(ステップS304)。
【0107】
以上説明したように、本実施の形態に係る粘弾性係数測定方法および粘弾性係数測定装置3100によれば、試料SP3に引っ張り荷重を印加したときの試料SP3の引っ張り量の履歴に基づいて、試料SP3の引っ張り速度を算出する。そして、前述の式(46)に示す関係式と、算出した引っ張り速度と、に基づいて、試料SP3の引っ張り量の履歴と試料SP3に印加される引っ張り荷重の履歴とから、弾性係数E、Eveの近似解および粘性係数Cの近似解を算出する。これにより、試料SP3を一度だけ引っ張り荷重を印加して経時的に変化させるだけで、試料SP3の弾性係数E、Eveの近似解および粘性係数Cの近似解を算出することができる。従って、試料SP3の弾性係数E、Eveおよび粘性係数Cを測定するための試験の内容を簡素化でき且つ弾性係数E、Eveおよび粘性係数Cを求めるまでの時間を短縮することができる。
【0108】
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明は前述の各実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば、例えば計測ユニット10、2010、3010および制御ユニット20、2020、3020を備える計測装置と、計測装置とは別体の解析ユニット30、2030、3030を備える解析装置とから、粘弾性係数測定システムが構成されてもよい。
【0109】
また、本発明に係る制御ユニット20、2020、3020および解析ユニット30、2030、3030の各種機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現されてもよい。この場合、ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述され、記憶部32に記憶される。また、本発明に係る制御ユニット20、2020、3020および解析ユニット30、2030、3030の各種機能は、専用のシステムによらず、コンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、ネットワークに接続されているコンピュータに、上記動作を実行するためのプログラムを、コンピュータシステムが読み取り可能な非一時的な記録媒体(フレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disc Read-Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc)、MO(Magneto-Optical Disc)等)に格納して配布し、当該プログラムをコンピュータシステムにインストールすることにより、上述の処理を実行する制御ユニット20、2020、3020および解析ユニット30、2030、3030を構成してもよい。
【0110】
また、コンピュータにプログラムを提供する方法は任意である。例えば、プログラムは、通信回線のサーバにアップロードされ、通信回線を介してコンピュータに配信されてもよい。そして、コンピュータは、このプログラムを起動して、OS(Operating System)の制御の下、他のアプリケーションと同様に実行する。これにより、コンピュータは、上述の処理を実行する制御ユニット20、2020、3020および解析ユニット30、2030、3030として機能する。
【0111】
以上、本発明の実施の形態および変形例(なお書きに記載したものを含む。以下、同様。)について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、実施の形態および変形例が適宜組み合わされたもの、それに適宜変更が加えられたものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、粘弾性体の粘性係数および弾性係数の評価に好適である。
【符号の説明】
【0113】
10,2010,3010:計測ユニット、11,2011,3011:アクチュエータ、12:ステージ、13,3013:ロードセル、14:荷重軸、15:圧子、16:テーブル、17,3017:ポテンショメータ、20,2020、3020:制御ユニット、30,2030,3030:解析ユニット、31:CPU、32:記憶部、33:表示部、100,2100,3100:粘弾性係数測定装置、311,2311,3311:データ取得部、312:修正部、313,2313,3313:速度算出部、314,2314,3314:係数算出部、315:係数情報出力部、321,2321,3321:計測情報記憶部、322,2322,3322:関係式記憶部、323:係数記憶部、2013:応力計測部、2017:エンコーダ、2312,3312:計時部、SP1,SP2,SP3:試料
図1
図2
図3
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