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特許7353689バチルス・コアグランス胞子の組成物を利用した有機廃棄物からの乳酸の生成
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  • 特許-バチルス・コアグランス胞子の組成物を利用した有機廃棄物からの乳酸の生成 図1A
  • 特許-バチルス・コアグランス胞子の組成物を利用した有機廃棄物からの乳酸の生成 図1B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】バチルス・コアグランス胞子の組成物を利用した有機廃棄物からの乳酸の生成
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/56 20060101AFI20230925BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230925BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
C12P7/56
C12M1/00 C
C12N1/20 A
C12N1/20 F
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022557203
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 IL2021050327
(87)【国際公開番号】W WO2021191901
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】62/993,759
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522327348
【氏名又は名称】トリプルダブリュー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】アヴィダン,オフィール
(72)【発明者】
【氏名】グリーナー,ツヴィカ
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0218408(US,A1)
【文献】国際公開第2008/043368(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/56
C12M 1/00
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
AGRICOLA(STN)
BIOTECHNO(STN)
FSTA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機廃棄物から乳酸またはその塩を生成させるための方法であって、
(i)粒子サイズの低減を含む前処理に供された、前処理された有機廃棄物を提供するステップ
(ii)バチルス・コアグランス胞子の乾燥組成物を提供するステップ
(iii)発酵反応器内の前記前処理された有機廃棄物を1種または複数の糖分解酵素およびB.コアグランス胞子の前記乾燥組成物と混合し、前記発酵反応器内の混合物をインキュベートして前記有機廃棄物を糖化させ、前記胞子の発芽を誘導し、次に前記胞子から発芽した栄養型B.コアグランス細胞によ乳酸生成を誘導するステップであって、
前記混合物が、少なくとも10^4胞子/mlを含み、
前記1種または複数の糖分解酵素が、C5糖(ペントース)、C6糖(ヘキソース)、またはそれらの組み合わせを含む発酵可能な炭水化物を生成し、
pHを5~7の範囲内に調整するために前記インキュベートの間にアルカリ性化合物が前記発酵反応器内に添加され、
前記インキュベートの間にラクタート濃度がモニタリングされる、ステップ
ならびに
(iv)発酵ブロスから乳酸またはその塩を回収するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記前処理が、滅菌をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(iii)において前記前処理された有機廃棄物との前記混合に先立ってB.コアグランス胞子の前記乾燥組成物を水酸化マグネシウムスラリーに懸濁させ、それにより微生物汚染物が不活性化されたB.コアグランス胞子懸濁液を得ることをさらに含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
B.コアグランス胞子の前記乾燥組成物が、乳酸マグネシウムを含む
求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
B.コアグランス胞子の前記乾燥組成物が、10%w/w以下の水分量を特徴とする、
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機廃棄物が、食品廃棄物、農業廃棄物、植物材料およびそれらの混合物または組み合わせからなる群から選択される、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
テップ(iii)の前記インキュベートが、45~60℃の範囲内の温度で実行される
求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(iii)の前記インキュベートが、20~48時間の範囲内の期間、実行される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記1種または複数の糖分解酵素が、アミラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、およびグルコアミラーゼからなる群から選択される多糖分解酵素である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
有機廃棄物から乳酸またはその塩を生成させるためのシステムであって、前記システムが、
(a)粒子サイズの低減を含む前処理に供された、前処理された有機廃棄物の供給源と;
(b)バチルス・コアグランス胞子の乾燥組成物と;
(c)C5糖(ペントース)、C6糖(ヘキソース)、またはそれらの組み合わせを含む発酵可能な炭水化物を生成する、1種または複数の糖分解酵素と;
(d)前記前処理された有機廃棄物と、前記1種または複数の糖分解酵素と、B.コアグランス胞子の前記乾燥組成物と、を内部で混合するための発酵反応器であって、混合物が少なくとも10^4胞子/mlを含む、発酵反応器と、
を含み、
前記混合物が、前記発酵反応器内でインキュベートされて前記有機廃棄物を糖化し、前記胞子の発芽を誘導し、次に前記胞子から発芽した栄養型B.コアグランス細胞によ乳酸生成を誘導する、
システム。
【請求項11】
前記前処理が、滅菌をさらに含む、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記システムが、
(a)粒子サイズの低減を含む前処理に供された、前処理された有機廃棄物の供給源と;
(b)水酸化マグネシウムスラリーに懸濁されたB.コアグランス胞子の乾燥組成物と;
(c)C5糖(ペントース)、C6糖(ヘキソース)、またはそれらの組み合わせを含む発酵可能な炭水化物を生成する、1種または複数の糖分解酵素と;
(d)前記前処理された有機廃棄物と、前記1種または複数の糖分解酵素と、水酸化マグネシウムスラリーに懸濁されたB.コアグランス胞子の前記乾燥組成物と、を内部で混合するための発酵反応器であって、混合物が少なくとも10^4胞子/mlを含む、発酵反応器と、
を含み、
前記混合物が、前記発酵反応器内でインキュベートされて前記有機廃棄物を糖化し、前記胞子の発芽を誘導し、次に前記胞子から発芽した栄養型B.コアグランス細胞によ乳酸生成を誘導する、
請求項10~11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記前処理が、滅菌をさらに含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
バチルス・コアグランスの胞子と、乳酸マグネシウムと、を含む乳酸発酵のための粉末形態の乾燥接種材料であって、乾燥されており、乳酸生成発酵槽に接種する前に胞子の活性化またはコンディショニングを必要としない、乾燥接種材料。
【請求項15】
前記乾燥接種材料が、108~1010胞子/g粉末を含み、前記乾燥接種材料中の前記乳酸マグネシウムの濃度が、40~60%(w/w)の範囲内である、請求項14に記載の乾燥接種材料。
【請求項16】
有機廃棄物から乳酸またはその塩を生成させるための方法であって、
(i)B.コアグランス胞子と、乳酸マグネシウムと、を含む請求項1415のいずれか1項に記載の乾燥接種材料を提供するステップ
(ii)前記乾燥接種材料を水酸化マグネシウムスラリーに懸濁させ、それにより微生物汚染物が不活性化されたB.コアグランス胞子懸濁液を得るステップ
(iii)発酵反応器内のステップ(ii)で得られた前記懸濁液を、1種または複数の糖分解酵素、および粒子サイズの低減を含む前処理に供された、前処理された有機廃棄物と混合し、前記発酵反応器内の混合物をインキュベートして前記有機廃棄物を糖化させ、前記胞子の発芽を誘導し、次に前記胞子から発芽した栄養型B.コアグランス細胞によ乳酸生成を誘導するステップであって、
前記混合物が、少なくとも10^4胞子/mlを含み、
前記1種または複数の糖分解酵素が、C5糖(ペントース)、C6糖(ヘキソース)、またはそれらの組み合わせを含む発酵可能な炭水化物を生成し、
pHを5~7の範囲内に調整するために前記インキュベートの間にアルカリ性化合物が前記発酵反応器内に添加され、
前記インキュベートの間にラクタート濃度がモニタリングされる、ステップ;ならびに
(iv)発酵ブロスから乳酸またはその塩を回収するステップ
を含む、方法。
【請求項17】
乳酸マグネシウムを生成させるための方法であり、以下のステップ;
粒子サイズの低減を含む前処理に供された、前処理された有機廃棄物を提供するステップと;
B.コアグランス胞子と、乳酸マグネシウムと、を含む請求項1415のいずれか1項に記載の乾燥接種材料を提供するステップと;
B.コアグランス胞子の前記乾燥接種材料を水酸化マグネシウムスラリーに懸濁させ、それにより微生物汚染物が不活性化されたB.コアグランス胞子懸濁液を得るステップと;
発酵反応器内の前記前処理された有機廃棄物を1種または複数の糖分解酵素および前記B.コアグランス胞子懸濁液と混合するステップであって、
前記1種または複数の糖分解酵素が、C5糖(ペントース)、C6糖(ヘキソース)、またはそれらの組み合わせを含む発酵可能な炭水化物を生成し、
混合物が、少なくとも10^4胞子/を含む、ステップと;
前記発酵反応器内の前記混合物をインキュベートして前記有機廃棄物を糖化させ、前記胞子の発芽を誘導し、次に前記胞子から発芽した栄養型B.コアグランス細胞によ乳酸生成を誘導し、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムから選択されるアルカリ性化合物がpHを5~7の範囲内に調整するために前記インキュベーの間に前記発酵反応器に添加され、前記インキュベートの間にラクタート濃度がモニタリングされ、それによりラクタートモノマーおよびMg2+イオンを得るステップと;
酵ブロスから乳酸マグネシウムを回収するステップと、
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
有機廃棄物から乳酸またはその塩を生成させるための方法であって、
(i)粒子サイズの低減を含む前処理に供された、前処理された有機廃棄物を提供するステップ
(ii)15%~30%(w/w)の範囲内の水分量を特徴とする、または15%~25%(w/w)の範囲内の水分量を特徴とする、バチルス・コアグランス胞子の部分乾燥組成物を提供するステップ
(iii)発酵反応器内の前記前処理された有機廃棄物を1種または複数の糖分解酵素およびB.コアグランス胞子の前記部分乾燥組成物と混合し、前記発酵反応器内の混合物をインキュベートして前記有機廃棄物を糖化させ、前記胞子の発芽を誘導し、次に前記胞子から発芽した栄養型B.コアグランス細胞によ乳酸生成を誘導するステップであって、
前記混合物が、少なくとも10^4胞子/mlを含み、
前記1種または複数の糖分解酵素が、C5糖(ペントース)、C6糖(ヘキソース)、またはそれらの組み合わせを含む発酵可能な炭水化物を生成し、
pHを5~7の範囲内に調整するために前記インキュベートの間にアルカリ性化合物が前記発酵反応器内に添加され、
前記インキュベートの間にラクタート濃度がモニタリングされる、ステップ;ならびに
(iv)発酵ブロスから乳酸またはその塩を回収するステップ
を含む、方法。
【請求項19】
前記前処理が、滅菌をさらに含む、請求項17~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
有機廃棄物から乳酸またはその塩を生成させるための方法であって、
(i)粒子サイズの低減、滅菌、および1種または複数の糖分解酵素を使用した糖化、のうちの少なくとも1つを含む前処理に供された、前処理された有機廃棄物を提供するステップであって、前記前処理された有機廃棄物が、C5糖(ペントース)、C6糖(ヘキソース)、またはそれらの組み合わせを含む発酵可能な炭水化物を含む、ステップ;
(ii)バチルス・コアグランス胞子の乾燥組成物を提供するステップ;および
(iii)前記前処理された有機廃棄物とB.コアグランス胞子の前記乾燥組成物を発酵反応器内で混合し、混合物をインキュベートして前記胞子の発芽を誘導し、次に前記胞子から発芽した栄養型B.コアグランス細胞による乳酸生成を誘導するステップであって、
前記混合物が、少なくとも10^4胞子/mlを含み、
pHを5~7の範囲内に調整するために前記インキュベートの間にアルカリ性化合物が前記発酵反応器内に添加され、
前記インキュベートの間にラクタート濃度がモニタリングされる、ステップ;
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、乳酸生成細菌バチルス・コアグランスの胞子の乾燥または部分乾燥組成物を利用する、発酵工程により乳酸を生成させるための有機廃棄物の工業的リサイクルに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
乳酸発酵、即ち、微生物発酵を介した炭水化物源からの乳酸の生成は、バイオプラスチックの製造において乳酸をビルディングブロックとして使用する能力により、近年になり関心が高まってきた。乳酸は、石油から製造されたプラスチックの潜在的代用物と見なされる生分解可能およびリサイクル可能なポリエステルポリ乳酸(PLA)を形成するために重合され得る。PLAは、食品包装、ディスポーザブル品、織物の繊維および衛生製品業界などをはじめとする様々な製品の製造で用いられる。PLAは、3D印刷において最も広く用いられるプラスチックフィラメント材料である。
【0003】
発酵のバイオプロセスによる乳酸の生成は、化学合成により鏡像異性的に純粋な乳酸を発生させることの環境問題、コストおよび難しさなど、様々な検討事項について化学合成法より好ましく、PLAのほとんどの工業的適用に望ましい。従来の発酵工程は、典型的には炭水化物発酵の主要な代謝性最終産物として乳酸を生成する乳酸生成微生物による嫌気性発酵に基づく。PLAの生成では、発酵の間に発生した乳酸は、発酵ブロスから分離され、様々な下流工程により精製され、その後、精製された乳酸が重合を受ける。
【0004】
乳酸は、キラル炭素原子を有し、それゆえ2種の鏡像異性形態D-およびL-乳酸として存在する。工業的適用に適したPLAを発生するために、重合工程は、1種のみの鏡像異性体を利用しなければならない。不純物またはD-およびL-乳酸のラセミ混合物の存在は、低い結晶性および低い融解温度など、望ましくない特徴を有するポリマーをもたらす。したがってL-ラクタート鏡像異性体のみ、またはD-ラクタート鏡像異性体のみを生成する乳酸細菌が、典型的には用いられる。
【0005】
現在利用可能な商業的工程では、乳酸発酵のための炭水化物源は、典型的にはトウモロコシおよびキャッサバ根などのデンプンを含有する再生可能な供給源である。セルロースに富むサトウキビバガスなどの追加的供給源もまた、提案された。
【0006】
提案された乳酸発酵のための炭水化物の追加的供給源は、自治体の、工業的な、そして商業的な起源からの混合された食品廃棄物などの複合的な有機廃棄物である。そのような有機廃棄物は、即座に利用可能であり、乳酸発酵の他の炭水化物源に比較して高価でないため、有利である。しかし、工業規模での乳酸などの有用な発酵生成物への複合的有機廃棄物の変換は、数多くの技術的難題に直面し、前処理、pH、温度、微生物などをはじめとする操作的条件への精密な制御を必要とする。工程を工業規模で経済的に実現可能にするためには、改善が必要とされる。
【0007】
Rosenberg et al.(2005) Biotechnology Letters, 27:1943-1947には、LentiKats(登録商標)として知られるポリビニルアルコール(PVA)ハイドロゲルのレンズ形カプセル中でのバチルス・コアグランス胞子の固定、およびグルコースからの乳酸生成における固定胞子の使用が報告されている。
【0008】
欧州特許第1504109号には、デンプンが同時の糖化および発酵の工程に供される、乳酸またはその塩の生成のための方法が開示されており、その方法は、少なくともグルコアミラーゼを含む培地中でデンプンを糖化すること、デンプンが固体形態なら液化ステップ、および微生物を用いてデンプンを同時に発酵すること、そして場合により培地から乳酸を単離すること、を含み、5~5.80のpH範囲に適応される適度に好熱性の乳酸生成微生物が用いられることを特徴とし、前記微生物は、バチルス・コアグランス、バチルス・サーモアミロボランス、バチルス・スミシー、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラスまたはそれらの混合物の株に由来する。
【0009】
欧州特許第3174988号には、乳酸を含む発酵生成物を調製するための方法が開示され、前記方法は、a)水の存在下でリグノセルロース材料を苛性マグネシウム塩(caustic magnesium salt)で処理して、処理された水性リグノセルロース材料を提供すること;b)加水分解酵素の存在下で処理された水性リグノセルロース材料を糖化して、発酵可能な炭水化物および固体リグノセルロース画分を含む糖化水性リグノセルロース材料を提供すること;c)ステップb)と同時に、乳酸形成微生物および苛性マグネシウム塩の両方の存在下で、糖化水性リグノセルロース材料を発酵して、乳酸マグネシウムおよび固体リグノセルロース画分を含む水性発酵ブロスを提供すること;d)前記ブロスから乳酸マグネシウムを回収すること、を含み、前記糖化および前記発酵は、同時に実行される。
【0010】
WO2008/043368号には、熱親和性胞子形成微生物株、例えばバチルス・コアグランスSIM7 DSM 14043の内生胞子を生成する方法、および発酵工程の接種のための使用が開示される。
【0011】
WO2018/163094号には、過剰な芽胞形成が特定の栄養素およびミネラルの存在により10胞子/mlのレベルまで誘導される、プロバイオティクスとしての使用のためにバチルス・コアグランス株における芽胞形成を誘導するための方法が開示される。
【0012】
本発明の出願者に譲渡されたWO2017/122197号には、廃棄物中に存在する乳酸を排除するため、そして複合的多糖を分解するため、の両方のために有機廃棄物を加工するのに有用なセルラーゼ、ヘミセルラーゼおよびアミラーゼなどの多糖分解酵素を分泌するように遺伝子修飾された二重作用乳酸(LA)利用細菌が開示される。
【0013】
該工程をより経済的に実現可能にするために、工業的規模で有機廃棄物からの乳酸の生成を改善することが、依然として必要とされる。該工程を簡便化してコストを低減し、全体的収量を改善するシステムおよび方法を有することが、高度に有利になろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
発明の概要
本発明は、バチルス・コアグランス胞子の乾燥または部分乾燥組成物を利用する、有機廃棄物をリサイクルして乳酸を工業的規模で生成させるためのシステムおよび方法を提供する。本発明のシステムおよび方法は、乳酸を有機廃棄物管理施設の現場で生成させることが可能であり、生成発酵槽の接種に先立って細胞を発育するための複雑なシードライン(seed lines)および制御された条件を必要としない。
【0015】
本発明はさらに、場合により糖分解酵素(複数可)と組み合わせて、任意の活性化またはコンディショニングを必要とせずに乳酸生成発酵槽に接種できる状態になったB.コアグランス胞子の乾燥組成物を提供する。本明細書に開示された組成物は、乳酸マグネシウムが配合された胞子を含み、室温での胞子の長期安定性を特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
幾つかの実施形態によれば、乾燥組成物は、乳酸生成発酵槽への胞子の接種に先立って、水酸化マグネシウムスラリーに懸濁される。驚くべきことに、胞子が水酸化マグネシウムスラリーへの懸濁で生き残り、そのような処理後に好成績で発芽することが、本発明の発明者らにより見出された。それゆえ本発明は、生成発酵槽への接種に先立って、乾燥組成物中に存在し得る微生物汚染物を不活性化するための簡単な手段を提供する。
【0017】
特有の実施形態によれば、本発明は、混合された食物廃棄物、自治体の廃棄物、および農業廃棄物からの乳酸の生成を対象とする。本明細書に開示された通り、バチルス・コアグランス胞子の乾燥または部分乾燥(半乾燥)組成物が、粒子サイズの低減と、場合により滅菌を含む前処理に供された前処理された有機廃棄物と共に乳酸生成物発酵槽に接種される。本明細書に開示された通り、乾燥または部分乾燥接種材料からのバチルス・コアグランスの胞子が、様々な供給源からの有機廃棄物の存在下で、発酵槽内で好成績で発芽し、有機廃棄物を発酵して乳酸を高収量で生成させる。
【0018】
本発明は、有利には有機廃棄物からの乳酸の現場生成のために、有機廃棄物管理施設への乳酸生成の簡単な組み入れを可能にする。従来は、工業的発酵工程は、シードトレインとも称されるシードラインを含み、保存された細胞試料を増殖させて、最終的に主要発酵槽に接種するのに充分なバイオマスを提供する。従来のシードトレイン工程は、凍結保存された細胞保存バイアルを解凍することにより開始し、続いで徐々により大きな培養容器に複数回の逐次増殖を行う。培養容量および細胞密度が、所定の基準に適合すれば、培養は生成バイオリアクターに移されて、細胞が引き続き発育および分裂して、所望の生成物を生成する。従来のシードトレイン工程は、複数の培養ステップのせいで、そして凍結保存された細胞保存バイアルでの低細胞数のせいで、時間を消費する。加えて、主要な生成発酵槽をはじめとし、滅菌性が、各培養容器に接種するために必要となる。
【0019】
本発明は、生成部位でのシードラインの必要性を回避して、滅菌接種のための簡単な手段を提供し、こうして設備投資(CAPEX)および事業経費(OPEX)の両方を削減する。本明細書に開示された、乾燥または部分乾燥胞子の組成物は、容易に有機廃棄物管理場所に運搬され、貯蔵され、必要の際に貯蔵場所から取り出され得る。驚くべきことに、乾燥または部分乾燥組成物中の胞子が、貯蔵庫から好成績で回復し、発芽して、有機廃棄物を乳酸に高収量で発酵させ得ることが、見出された。有利には、胞子の乾燥または部分乾燥組成物は、冷却を必要とせず、様々な貯蔵条件を長期間、持続する。本明細書の以下に例示される通り、胞子の生存可能性が、貯蔵の間ずっと維持されて、乾燥および貯蔵後の細胞損失が最小限である。
【0020】
本明細書に記載された発酵のための基質としての有機廃棄物の利用は、ヒトの食品としての価値が高い供給材料を利用する、過去に記載された乳酸生成工程に比較して高度に有利である。
【0021】
本明細書にさらに開示された通り、胞子の乾燥または半乾燥組成物は、糖分解酵素と共に発酵槽に接種されて、同時に糖化および発酵を得ることができる。注目すべきは、乳酸が生成されるまで、ラグタイムが観察されないか、または最小限のラグタイムが観察される。
【0022】
一態様によれば、本発明は、有機廃棄物をリサイクルして乳酸またはその塩を生成させるための方法であって、
(i)粒子サイズの低減および場合により滅菌を含む前処理に供された、前処理された有機廃棄物を提供すること;
(ii)バチルス・コアグランス胞子の乾燥組成物を提供すること;
(iii)発酵反応器内の前処理された有機廃棄物を1種または複数の糖分解酵素およびB.コアグランス胞子の該乾燥組成物と混合し、発酵反応器内の混合物をインキュベートして有機廃棄物を糖化させ、胞子の発芽を誘導し、次に胞子から発芽した栄養型B.コアグランス細胞により乳酸生成を誘導すること;ならびに
(iv)発酵ブロスから乳酸またはその塩を回収すること、
を含む、方法を提供する。
【0023】
幾つかの実施形態において、該方法は、ステップ(iii)において前処理された有機廃棄物との混合に先立ってB.コアグランス胞子の乾燥組成物を水酸化マグネシウムスラリーに懸濁させ、それにより微生物汚染物が不活性化されたB.コアグランス胞子懸濁液を得ることをさらに含む。幾つかの実施形態において、スラリー中の水酸化マグネシウムの濃度は、1%~25%の範囲内である。追加的実施形態において、スラリー中の水酸化マグネシウムの濃度は、10%~20%の範囲内である。さらなる追加的実施形態において、スラリー中の水酸化マグネシウムの濃度は、5%~25%の範囲内である。水酸化マグネシウムの例示的濃度としては、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%が挙げられる。各可能性は、別の実施形態を表す。
【0024】
水酸化マグネシウムへの懸濁は、2、3分から数時間までの間、実行されてもよい。好ましくは水酸化マグネシウムスラリーへの懸濁は、懸濁液を25~60℃の間の温度、好ましくは50~60℃の間の温度で15分~3時間の間、インキュベートすることを含む。幾つかの実施形態において、水酸化マグネシウムスラリーへの懸濁は、懸濁液を25~60℃の間の温度で15~90分間、インキュベートすることを含む。追加的実施形態において、水酸化マグネシウムスラリーへの懸濁は、懸濁液を50~55℃の間の温度で15~90分間、インキュベートすることを含む。幾つかの実施形態において、水酸化マグネシウムスラリーへの懸濁は、懸濁液を25~60℃の間の温度で30~90分または30~60分間、インキュベートすることを含む。各可能性は、別の実施形態を表す。追加的実施形態において、水酸化マグネシウムスラリーへの懸濁は、懸濁液を50~55℃の間の温度で30~90分または30~60分間、インキュベートすることを含む。幾つかの実施形態において、水酸化マグネシウムスラリーへの懸濁は、室温で実行される。
【0025】
幾つかの実施形態において、B.コアグランス胞子の乾燥組成物は、乳酸マグネシウムを含む。
【0026】
幾つかの実施形態において、有機廃棄物は、食品廃棄物、自治体の廃棄物、農業廃棄物、植物材料およびそれらの混合物または組み合わせからなる群から選択される。
【0027】
幾つかの実施形態において、インキュベートは、5~7の範囲内のpHで実行される。幾つかの特有の実施形態において、インキュベートは、5.5~6.5の範囲内のpHで実行される。
【0028】
幾つかの実施形態において、インキュベートは、45~60℃の範囲内の温度で実行される。幾つかの特有の実施形態において、インキュベートは、50~55℃の範囲内の温度で実行される。
【0029】
幾つかの実施形態において、ステップ(iii)のインキュベートは、20~48時間の範囲内の期間、実行される。幾つかの特有の実施形態において、ステップ(iii)のインキュベートは、20~36時間の範囲内の期間、実行される。
【0030】
幾つかの実施形態において、1種または複数の糖分解酵素は、アミラーゼ、セルラーゼおよびヘミセルロースからなる群から選択される多糖分解酵素である。
【0031】
幾つかの実施形態において、1種または複数の糖分解酵素は、グルコアミラーゼを含む。
【0032】
幾つかの実施形態において、ステップ(iii)の混合は、B.コアグランスの乾燥組成物を発酵反応器に添加して、少なくとも104胞子/ml発酵培地を得ることを含む。追加的実施形態において、ステップ(iii)の混合は、B.コアグランスの乾燥組成物を発酵反応器に添加して、少なくとも106胞子/ml発酵培地を得ることを含む。
【0033】
開示された胞子の乾燥接種材料は、15%(w/w)まで、またはその間の任意の量の水分量を特徴とする。幾つかの実施形態において、B.コアグランス胞子の乾燥組成物は、10%(w/w)までの水分量を特徴とする。幾つかの実施形態において、B.コアグランス胞子の乾燥組成物は、4%~15%(w/w)、例えば4%~10%(w/w)の水分量を特徴とする。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。
【0034】
本明細書に提供された通り、B.コアグランス胞子を含む乾燥または半乾燥接種材料、配合物または組成物の水分量は、胞子の外側の水の量を指す(即ち、本明細書で用いられる「水分量」は、胞子の内側で見出される水を含まない)。水分量は、接種材料、配合物または組成物の総重量に対するパーセンテージとして提供される。胞子の「接種材料」、「配合物」および「組成物」という用語は、組成物が乾燥または半乾燥であり得る、胞子を含有する組成物を記載するために本明細書で互換的に用いられる。
【0035】
さらなる態様によれば、本発明は、有機廃棄物をリサイクルして乳酸またはその塩を生成させるためのシステムであって、該システムが、
(a)粒子サイズの低減および場合により滅菌を含む前処理に供された、前処理された有機廃棄物の供給源と;
(b)バチルス・コアグランス胞子の乾燥組成物と;
(c)1種または複数の糖分解酵素と;
(d)前処理された有機廃棄物と、1種または複数の糖分解酵素と、B.コアグランス胞子の乾燥組成物と、を内部で混合するための発酵反応器と、
を含み、
該混合物が、発酵反応器内でインキュベートされて有機廃棄物を糖化し、胞子の発芽を誘導し、次に胞子から発芽した栄養型B.コアグランス細胞により乳酸生成を誘導する、
システムを提供する。
【0036】
幾つかの実施形態において、該システムは、
(a)粒子サイズの低減および場合により滅菌を含む前処理に供された、前処理された有機廃棄物の供給源と;
(b)水酸化マグネシウムスラリーに懸濁されたB.コアグランス胞子の乾燥組成物と;
(c)1種または複数の糖分解酵素と;
(d)前処理された有機廃棄物と、1種または複数の糖分解酵素と、水酸化マグネシウムスラリーに懸濁されたB.コアグランス胞子の乾燥組成物と、を内部で混合するための発酵反応器と、
を含み、
該混合物は、発酵反応器内でインキュベートされて有機廃棄物を糖化し、胞子の発芽を誘導し、次に胞子から発芽した栄養型B.コアグランス細胞により乳酸生成を誘導する。
【0037】
さらなる態様によれば、本発明は、バチルス・コアグランスの胞子と、乳酸マグネシウムと、を含む乳酸発酵のための粉末形態の乾燥接種材料を提供し、該接種材料は、乾燥されて、乳酸生成を提供するために乳酸生成発酵槽に接種できる状態になっている。
【0038】
幾つかの実施形態において、乾燥接種材料は、108~1010胞子/g粉末を含み、乾燥接種材料中の乳酸マグネシウムの濃度は、40~60%(w/w)の範囲内である。
【0039】
幾つかの実施形態において、有機廃棄物をリサイクルして乳酸またはその塩を生成させるための方法であって、
(i)B.コアグランス胞子と、乳酸マグネシウムと、を含む乾燥接種材料を提供すること;
(ii)乾燥接種材料を水酸化マグネシウムスラリーに懸濁させ、それにより微生物汚染物が不活性化されたB.コアグランス胞子懸濁液を得ること;
(iii)発酵反応器内のステップ(ii)で得られた懸濁液を、1種または複数の糖分解酵素、ならびに粒子サイズの低減および場合により滅菌を含む前処理に供された、前処理された有機廃棄物と混合し、インキュベートして有機廃棄物を糖化させ、胞子の発芽を誘導し、次に胞子から発芽した栄養型B.コアグランス細胞により乳酸生成を誘導すること;ならびに
(iv)発酵ブロスから乳酸またはその塩を回収すること、
を含む、方法が提供される。
【0040】
本明細書に開示された方法は、乳酸マグネシウムの生成にとって特に有益である。幾つかの実施形態において、該方法は、乳酸マグネシウムを生成させるための方法である。幾つかの実施形態において、有機廃棄物をリサイクルして乳酸マグネシウムを生成させるための方法であって、
粒子サイズの低減および場合により滅菌を含む前処理に供された、前処理された有機廃棄物を提供すること;
B.コアグランスと、乳酸マグネシウムと、を含むB.コアグランス胞子の乾燥組成物を提供すること;
B.コアグランス胞子の乾燥組成物を水酸化マグネシウムスラリーに懸濁させ、それにより微生物汚染物が不活性化されたB.コアグランス胞子懸濁液を得ること;
発酵反応器内の前処理された有機廃棄物を1種または複数の糖分解酵素およびB.コアグランス胞子懸濁液と混合すること;
発酵反応器内の混合物をインキュベートして有機廃棄物を糖化させ、胞子の発芽を誘導し、次に胞子から発芽した栄養型B.コアグランス細胞により乳酸生成を誘導し、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムから選択されるアルカリ性化合物がpHを調整するためにインキュベーションの間に発酵反応器に添加され、それによりラクタートモノマーおよびMg2+イオンを得ること;ならびに
発酵ブロスから乳酸マグネシウムを回収すること、
を含む、方法が、提供される。
【0041】
幾つかの特有の実施形態において、pHを調整するためにインキュベーションの間に発酵反応器に添加されるアルカリ性化合物は、水酸化マグネシウムである。
【0042】
さらなる態様によれば、有機廃棄物をリサイクルして乳酸またはその塩を生成させるための方法であって、
(i)粒子サイズの低減および場合により滅菌を含む前処理に供された、前処理された有機廃棄物を提供すること;
(ii)15%~30%(w/w)の範囲内の水分量を特徴とする、バチルス・コアグランス胞子の部分乾燥組成物を提供すること;
(iii)発酵反応器内の前処理された有機廃棄物を1種または複数の糖分解酵素およびB.コアグランス胞子の部分乾燥組成物と混合し、発酵反応器内の混合物をインキュベートして有機廃棄物を糖化させ、胞子の発芽を誘導し、次に胞子から発芽した栄養型B.コアグランス細胞により乳酸生成を誘導すること;ならびに
(iv)発酵ブロスから乳酸またはその塩を回収すること、
を含む、方法が、提供される。
【0043】
幾つかの実施形態において、B.コアグランス胞子の部分乾燥組成物は、15%~25%(w/w)の範囲内の水分量を特徴とする。
【0044】
本発明の他の目的、特色および利点は、以下の記載および実施例から明白となろう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1A】Mg(OH)による生存微生物細胞の阻害。エシェリヒア・コリBL21、バチルス・サブチリス169株、およびサッカロマイセス・セレビシエをLB(A)または15%Mg(OH)(B)中、52℃で2時間インキュベートし、次にLB寒天プレートに播種した。プレート上の発育を、52℃での一夜インキュベーション後に検査した。
図1B】Mg(OH)による生存微生物細胞の阻害。エシェリヒア・コリBL21、バチルス・サブチリス169株、およびサッカロマイセス・セレビシエをLB(A)または15%Mg(OH)(B)中、52℃で2時間インキュベートし、次にLB寒天プレートに播種した。プレート上の発育を、52℃での一夜インキュベーション後に検査した。
【発明を実施するための形態】
【0046】
発明の詳細な記載
本発明は、バチルス・コアグランス胞子の乾燥または半乾燥接種材料が用いられる、有機廃棄物からの乳酸の生成のための工業的発酵工程を対象とする。
【0047】
有機廃棄物管理施設は、廃棄材料の回収、運搬、加工、リサイクル/処分およびモニタリングを取り扱う。廃棄物を乳酸などの有用な化学薬品にリサイクルするため、即ち、有機廃棄物を工業的発酵工程の基質として利用するために、現場発酵システムが、典型的には必要とされる。工業的発酵槽に接種する従来法は、栄養型細菌の湿式接種(湿式シードトレイン)を利用する。この方法は、(i)湿式シード調製を生成発酵槽の厳密な接種時間と緊密に同調させる必要性、(ii)湿式シードトレインの生成のために2、3のより小規模な発酵槽(典型的には1:10比からほんの2、3リットルのフラスコまで)を含む現場シードトレイン生成ラインを有する必要性をはじめとする、廃棄物管理施設において実行を困難にする多くの欠点を有する。
【0048】
湿式シードトレインは、時間がかかり、資源を消耗する工程である。それは、生成時間を増加させ、結果的に所与の期間あたりの実施され得る発酵サイクルの数を限定する。
【0049】
本発明は、有利には有機廃棄物からの乳酸の現場生成のための、有機廃棄物管理施設への乳酸生成の簡単な組み入れを可能にする。本明細書に開示された乾燥または半乾燥胞子の組成物は、容易に廃棄物管理場所に運搬され、貯蔵され、必要の際に貯蔵部から取り出され得る。
【0050】
幾つかの実施形態において、シードラインの必要性が、本発明により排除される。
【0051】
乾燥または部分乾燥胞子の接種材料を用いることは、(i)シード調製を生成発酵槽の接種時間と緊密に同調させる必要性が回避されること;(ii)湿性シードの生成のために2、3のより小規模の発酵槽(典型的には1:10比からほんの2、3リットルのフラスコまで)を含む現場シードトレイン生成ラインを有する必要性が回避されること;(iii)長期の貯蔵寿命、例えば数か月以上(実際に湿性シードは、任意の貯蔵寿命を有さない)であり、胞子の生存可能性に対する影響が最小限;(iv)乾燥または部分乾燥シードが、非制御の運搬条件にかなり耐性があることによる、特別な容器および条件を用いない運搬の容易さ;および(v)調製の間の水の除去によりシードの重量を有意に低減して(例えば、湿性接種材料に比較して95%を超える重量低減)、運搬コストが有意に低減されること、をはじめとする、従来の湿性接種材料を上回る主要な利点を有する。
【0052】
重要なこととして、乾燥または部分乾燥シードの調製は、廃棄物管理施設から時間および位置の離れた場所で実行することができ、それにより廃棄物管理施設でシードを調製するために専念された熟練のバイオテクノロジーエンジニアの必要性が低減される。
【0053】
加えて、乾燥または部分乾燥シードが数週間または数か月先に調整され、貯蔵庫に入れて、生成発酵槽に接種するために直ちに利用可能になり得るという事実は、乳酸生成工程を有意に短縮させる。
【0054】
有機廃棄物からの乳酸生成は、典型的には(i)発酵(「糖化」)に適した可溶性還元糖を放出するために、1種または複数の多糖分解酵素を用いた、廃棄物中に存在する多糖の分解と;(ii)乳酸生成微生物(例えば、本明細書に開示されたバチルス・コアグランス)による還元糖から乳酸への発酵と、を含む。
【0055】
乳酸生成のための再生可能な炭水化物供給源は、典型的には還元糖(グルコース、フルクトース、ラクトースほか)を様々な比で含むが、デンプン、そして場合によりリグノセルロース材料などの多糖を多量に含む。典型的には乳酸生成微生物は、グルコースおよびフルクトースの様な還元糖を利用し得るが、デンプンおよびセルロースの様な多糖を分解する能力を有さない。したがって、そのような多糖を利用するために、この工程は、場合により化学的処理との組み合わせで、多糖分解酵素を添加して、多糖を分解し、還元糖を放出することを必要とする。この工程への多糖分解酵素の組み入れは、基質が1種もしくは複数の多糖分解酵素で処理され、次に乳酸生成微生物が添加され、還元糖を発酵するように、逐次であってもよく、または1種もしくは複数の多糖分解酵素および乳酸生成微生物が一緒に混合されて、同時の糖化および発酵を実施するように、同時であってもよい。同時工程は、複合的炭化水素供給源から乳酸を得るのに必要となる全体的時間を低減するが、主な難題の1つが、細菌発育および酵素活性の両方に条件を適合させる必要性である。
【0056】
幾つかの実施形態によれば、本発明の方法は、同時の糖化および発酵を利用する。多糖分解酵素(複数可)は、バチルス・コアグランス胞子の乾燥または部分乾燥組成物と一緒に有機廃棄物に添加されて、同時での、廃棄物中に存在する多糖の分解と乳酸生成を得る。
【0057】
糖化および発酵が、別の逐次ステップとして実行される場合、各ステップは、約18~24時間の間、費やしてもよい。2つのステップを同時に実行することは、所与の時間あたりにより多くの有機廃棄物が乳酸に変換され得るため、工程を有意に短縮して改善された生産性をもたらす。
【0058】
バチルス・コアグランス胞子組成物
バチルス・コアグランスは、乳酸、特にL-乳酸を生成させるグラム陽性好熱性通性嫌気性胞子形成細菌である。B.コアグランスは、L-乳酸を生成させる工業的発酵工程のために提案された。B.コアグランスはまた、正常な腸内微生物叢を維持すること、および消化性を改善することが示されており、腸内微生物叢の生態学的バランスおよび正常な消化管機能を維持するプロバイオティクスとして慣例的に販売されている。例えばLactoSpore(登録商標)は、マルトデキストリンと混合されたB.コアグランス胞子の噴霧乾燥粉末を含有する、プロバイオティクスとしての使用を意図したバチルス・コアグランス(MTCC5856)胞子調製物である。
【0059】
Yadav et al.(2009) Indian Journal of Chemical Technology, 16: 519-522では、噴霧乾燥の間のバチルス・コアグランスのプロバイオティック保護物質として、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、スピルリナ属、およびマルトデキストリンが検査された。
【0060】
本発明により使用され得るバチルス・コアグランス株としては、B.コアグランスATCC 8038 DSM 2312、B.コアグランスATCC 23498 DSM 2314、B.コアグランスMTCC 5856、B.コアグランスPTA-6086(GBI-30,6086)、B.コアグランスSNZ 1969が挙げられるが、これらに限定されない。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。
【0061】
胞子は、例えば以下の通り調製されてもよい:第一のステップでは、純粋なB.コアグランス培養物が滅菌シード培地に接種され、50~55℃の振とう機上で12~24時間インキュベートされる。シード培養物はその後、芽胞形成培地に移されて、50~55℃で24~48時間インキュベートされる。芽胞形成の誘導は、ストレス条件、例えば炭素およびリンの制限と共に、栄養素の欠如、酵母エキスなどの相対的に窒素に富む供給源の欠如、Mn2+およびCa2+イオンの存在、5~6.5の範囲内のpH、24~48時間(好ましくは24時間)のインキュベーション、および前述のストレス誘導因子の組み合わせを必要とする。得られた胞子培養物中の胞子濃度は、好ましくは少なくとも107胞子/ml、より好ましくは少なくとも108胞子/mlである。各可能性は、別の実施形態を表す。
【0062】
インキュベーション後に、ブロスを採取して遠心分離し、ペレットを回収する。幾つかの実施形態において、本明細書で胞子の「半乾燥」または「部分乾燥」調製物(15%~30%w/wの範囲内の水分量)と称される採取されたペレットが、重量測定され、次に乳酸マグネシウム溶液と混合されて、採取された胞子および15~25%の乳酸マグネシウム(組成物の総重量のw/w)を含む組成物を得る。幾つかの実施形態において、採取された胞子(乾燥に先立って)を含む組成物中の乳酸マグネシウムの濃度は、組成物の総重量の15~20%(w/w)の範囲内、例えば15%、16%、17%、18%、19%または20%(w/w)である。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。幾つかの実施形態において、組成物は乾燥され、例えば噴霧乾燥または80℃で熱乾燥され、乾燥された胞子組成物を粉末形態で得る。本発明による乾燥された胞子組成物の水分量は、15%(w/w)まで、好ましくは10%(w/w)まで、典型的には4%~10%w/wの間である。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。
【0063】
幾つかの実施形態において、70℃~80℃の温度での熱選択は、典型的にはインキュベーション後、および乾燥に先立って実行される。
【0064】
幾つかの実施形態において、乾燥後に、本発明による粉末形態の乾燥組成物は、少なくとも108胞子/g粉末、例えば108~1010胞子/g粉末を含む。幾つかの実施形態において、本発明による乾燥組成物は、例えば108、109、1010胞子/g粉末を含む。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。本発明による乾燥組成物はさらに、乳酸マグネシウムを40~60%(w/w)、例えば45%~55%(w/w)、40%~50%(w/w)、50%~60%(w/w)の濃度で含む。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。
【0065】
幾つかの実施形態において、本発明によるB.コアグランス胞子の乾燥組成物はさらに、アミラーゼ、セルラーゼおよびヘミセルラーゼから選択される1種または複数の多糖分解酵素を含む。幾つかの特有の実施形態において、本発明によるB.コアグランス胞子の乾燥組成物は、グルコアミラーゼを含む。幾つかの例示的実施形態において、本発明によるB.コアグランス胞子の乾燥組成物は、アスペルギルス・ニガーからのグルコアミラーゼを含む。
【0066】
幾つかの実施形態において、本発明による乾燥組成物は、使用に先立って低温貯蔵を必要としない。したがって幾つかの実施形態において、乳酸生成微生物の低温貯蔵の必要性が、本発明の方法により排除される。
【0067】
本発明によれば、未固定の胞子が、用いられる。
【0068】
本発明の実施形態によれば、発酵槽への接種に先立つ胞子の活性化は、必要とされない。例えば発酵槽への接種に先立つ熱活性化は、必要とされない。さらなる例として、発酵槽への接種に先立って、または接種後に、酸活性化が必要とされない。幾つかの実施形態において、本明細書に開示された通りの有機廃棄物基質との接触後に、胞子の少なくとも90%が発芽して植物細胞を生成し、例えば胞子の90%~100%が発芽して、植物細胞を生成する。
【0069】
有機廃棄物からの乳酸生成
本明細書で用いられる用語「乳酸」は、化学式CHCH(OH)COHを有するヒドロキシカルボン酸を指す。乳酸またはラクタート(非プロトン化乳酸)という用語は、乳酸、つまりL-乳酸/L-ラクタート、D-乳酸/D-ラクタート、またはそれらの組み合わせの立体異性体を指し得る。
【0070】
ほとんどの工業的適用では、高純度(光学純度)のL-乳酸モノマーが、適切な特性を有するポリ乳酸(PLA)を生成させるために必要とされる。したがって本発明の方法およびシステムは、特に高収量でのL-乳酸またはL-乳酸塩の生成のための工程を対象とする。
【0071】
本発明による使用に適した有機廃棄物は、典型的には固形および非固形材料を含む複合的有機廃棄物である。複合的有機廃棄物は、発酵のための炭水化物(発酵に利用可能な可溶性炭水化物および/または酵素を介して分解されて発酵のための可溶性炭水化物を放出する必要がある多糖)を含み、さらに塩、脂質、タンパク質、有色成分、不活性材料などの不純物を含有する。本発明による使用のための有機廃棄物の例としては、食品廃棄物、自治体の廃棄物の有機画分、農業廃棄物、植物材料、およびそれらの混合物または組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。各可能性は、別の実施形態を表す。本発明による食品廃棄物は、植物起源の食品廃棄物を包含する。本発明による食品廃棄物は、家庭の食品廃棄物、商業的食品廃棄物および工業的食品廃棄物を包含する。有機食品廃棄物は、野菜および果実の残渣、植物、調理された食品、タンパク質残渣、屠殺廃棄物、およびそれらの組み合わせから生じてもよい。工業的有機食品廃棄物としては、副生物、工場の不合格品、返品または摂食不能の食品部分の切り屑(皮など)などの工場の廃棄物を挙げることができる。商業的な有機食品廃棄物は、ショッピングモール、レストラン、スーパーマーケットなどからの廃棄物を包含してもよい。本発明による植物材料は、農業廃棄物および紙屑などの人工製品を包含する。典型的には有機廃棄物は、例えば乳製品中の、例えば自然な発酵工程から生じた、内因性D-乳酸、L-乳酸、またはL-乳酸とD-乳酸の両方を含む。
【0072】
本発明の方法およびシステムでの使用のための有機廃棄物は、典型的にはデンプン、セルロース、ヘミセルロースおよびそれらの組み合わせをはじめとする複合的な多糖を含む。有機廃棄物はまた、可溶性還元糖を含み、そして/または1種または複数の多糖分解酵素で糖化されて、可溶性還元糖(発酵可能な炭水化物)を得る。本明細書で用いられる用語「発酵可能な炭水化物」は、発酵工程の間にバチルス・コアグランスにより乳酸に発酵され得る炭水化物を指す。還元糖は、典型的にはC5糖(ペントース)、C6糖(ヘキソース)、またはそれらの組み合わせを含む。幾つかの実施形態において、前記還元糖は、グルコースを含む。幾つかの実施形態において、前記還元糖は、キシランを含む。
【0073】
本発明による有機廃棄物は、典型的には複合的多糖および還元糖を種々の比で含む。組成は、廃棄物の供給源に依存し、幾つかの有機廃棄物は、よりデンプンに富んでいてもよく(例えば、ベーカリーの食品廃棄物、自治体の混合された食品廃棄物)、その他は、リグノセルロース材料(例えば、農業廃棄物)に富んでいてもよい。幾つかの実施形態において、有機廃棄物は、異なる供給源の廃棄物の組み合わせを含む。
【0074】
幾つかの実施形態において、有機廃棄物中のデンプン、セルロースおよびヘミセルロースのうちの少なくとも1つのパーセンテージは、1種または複数の多糖分解酵素での処理に先立って決定される。幾つかの実施形態において、可溶性還元糖のパーセンテージは、発酵に先立って決定される。
【0075】
有機廃棄物は、典型的には窒素供給源、ならびに細菌発育および乳酸生成に必要となる他の栄養素が挙げられるが、そのような栄養素は、必要ならば、別々に乳酸生成発酵槽に供給されてもよい。
【0076】
本発明による有機廃棄物の前処理としては、典型的には粒子サイズを減少させること、および表面積を増加させること、ならびに廃棄物中の内在性細菌を不活性化することも挙げられる。幾つかの実施形態において、前処理は、破砕、切り刻み、および滅菌を含む。
【0077】
滅菌は、例えば高圧流れ、UV照射または音波処理をはじめとする当該技術分野で公知の方法により実行されてもよい。
【0078】
前処理としては、例えば破砕および滅菌を挙げることができる。前処理としては、例えば押出し機、音波処理機、シュレッダーまたはブレンダーなどの廃棄物ミンサーを利用して同量の水と共に切り刻むことを挙げることもできる。
【0079】
幾つかの実施形態において、1種または複数の糖分解酵素およびB.コアグランス胞子の乾燥または部分乾燥組成物が、前処理された有機廃棄物を含有する発酵反応器に同時に添加される。追加的実施形態において、1種または複数の糖分解酵素の添加とB.コアグランス胞子の乾燥または部分乾燥組成物の添加の間の時間は、範囲内の各値を含む0~5時間の範囲内である。他の実施形態において、1種または複数の糖分解酵素は、B.コアグランス胞子の乾燥または部分乾燥組成物が添加されて1~5時間後に発酵槽に添加され、例えばB.コアグランス胞子の乾燥または部分乾燥組成物が添加されて1時間、少なくとも2時間、2時間、3時間、4時間または5時間後に添加される。各可能性は、別の実施形態を表す。他の実施形態において、1種または複数の糖分解酵素は、B.コアグランス胞子の乾燥または部分乾燥組成物が添加される前に、発酵槽に添加される。
【0080】
本明細書で用いられる「B.コアグランス胞子の乾燥組成物を発酵反応器内で混合すること」、「B.コアグランス胞子の乾燥組成物を発酵反応器に添加すること」および同様のことは、乾燥粉末を発酵反応器に直接添加すること、または粉末を再構成培地中で再構成することを包含する。本発明は特に、再構成と、存在し得る微生物汚染物の阻害の両方を実行するために、水酸化マグネシウムスラリー中での再構成を開示する。
【0081】
幾つかの実施形態において、B.コアグランス胞子の乾燥組成物は、発酵反応器への接種に先立って、水酸化マグネシウムスラリーに懸濁される。追加的実施形態において、B.コアグランス胞子の乾燥組成物は、発酵反応器への接種に先立って、他のアルカリ性抗微生物化合物の溶液またはスラリーに、例えば酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化亜鉛(ZnO)および炭酸カルシウム(CaCO)からなる群から選択されるアルカリ性抗菌微生物化合物の溶液またはスラリーに懸濁される。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。
【0082】
本発明による乳酸発酵は、典型的にはバッチ、フェドバッチ、連続または半連続発酵を利用して嫌気性または微好気性条件下で実行される。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。
【0083】
バッチ発酵では、炭素基質および他の成分が、反応器に負荷され、発酵が完了すれば、生成物が回収される。pH制御のためのアルカリ性化合物を除く他の原料は、反応が完了する前に添加されない。発酵は、実質的に一定の温度およびpHを保持され、pHは、アルカリ性化合物を添加することにより維持される。
【0084】
フェドバッチ発酵において、基質は、発酵ブロスの除去を行わずに反応器に連続または逐次、供給される(即ち、生成物(複数可)は、操作の終了まで反応器内に入ったままである)。慣例的供給方法としては、間欠的、一定、パルス供給および指数関数的供給が挙げられる。
【0085】
連続発酵では、基質は、一定速度で連続的に反応器に添加され、発酵生成物は、連続的に取り出される。
【0086】
半連続工程では、培養物の一部が間隔をおいて引き出されて、新鮮な培地がシステムに添加される。無期限に維持され得る繰返しのフェドバッチ培養が、半連続工程の別名である。
【0087】
有機酸などの酸性生成物を生成する発酵は、典型的には金属酸化物、炭酸塩または水酸化物などのアルカリ性化合物の存在下で実施される。アルカリ性化合物は、発酵ブロスのpHを所望の値、典型的には指定された範囲内の各値を含む4~7の範囲内に調整するために添加される。アルカリ性化合物は、さらにL-乳酸から乳酸塩への中和をもたらす。発酵の間、発酵槽のpHは、乳酸の生成により低下し、バチルス・コアグランスの生産性に悪影響を及ぼす。水酸化/酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または水酸化カルシウムなどの塩基を添加することが、乳酸を中和することによりpHを調整し、それにより乳酸塩の形成をもたらす。
【0088】
幾つかの特有の実施形態において、本発明は、有機廃棄物をリサイクルして、乳酸マグネシウムを生成させる。幾つかの実施形態において、そのような工程は、発酵の間にpHを調整するために水酸化マグネシウムをアルカリ性化合物として利用する。発酵は、ラクタートモノマーおよびMg2+イオンをもたらし、それらは乳酸マグネシウムとして回収され得る。
【0089】
乳酸発酵は、典型的には約1~4日間、またはそれらの間の任意の量、例えば指定された範囲内の各値を含む、1~2日間、または2~4日間、または3~4日間実行される。
【0090】
発酵が、完了した後、ブロスが遠心分離により透明化されてもよく、またはフィルタープレスを通過させて、発酵液から固形残渣を分離してもよい。濾液は、例えばロータリー真空エバポレータを用いて、濃縮されてもよい。
【0091】
本発明による発酵ブロスは、有機廃棄物から生じたD-乳酸を含有し得る。D-LAは、PLLA最終産物の品質に悪影響を及ぼすD,D-ラクチドおよびメソラクチドのより多くの形成をもたらすため、重合のためのL-LAの生成に望ましくない。幾つかの実施形態において、本発明の方法およびシステムは、有利には、乳酸生成に先立って有機廃棄物の、または発酵の間および/もしくは発酵後に発酵ブロスの、D-乳酸分解酵素もしくはD-乳酸活用微生物を利用することによりD-乳酸を排除する。各可能性は、別の実施形態を表す。
【0092】
目下好ましいのは、D-乳酸分解酵素としてのD-乳酸オキシダーゼの使用である。D-乳酸オキシダーゼは、Oを電子受容体として使用してD-ラクタートからピルバートおよびHへの酸化を触媒する酵素である。酵素は、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を、触媒活性のための補因子として利用する。本発明によるD-乳酸オキシダーゼは、典型的には可溶性D-乳酸オキシダーゼ(膜結合ではなく)である。有利には該酵素は、直接有機廃棄物中で作用し、発酵ブロス中でも作用して、D-乳酸を排除する。幾つかの実施形態において、D-乳酸オキシダーゼは、グルコノバクターspのものである。幾つかの実施形態において、D-乳酸オキシダーゼは、グルコノバクター・オキシダンスのものである(例えば、GenBankアクセション番号:AAW61807参照)。D-乳酸オキシダーゼを用いた有機廃棄物由来の発酵ブロスからのD-ラクタートの排除は、本発明の出願者に譲渡されたWO2020/208635号に記載される。
【0093】
本発明の範囲内の適切なD-乳酸活用微生物としては、3つのL-乳酸デヒドロゲナーゼの全てが欠如したエシェリヒア・コリが挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
本明細書で用いられる、D-乳酸/D-ラクタートを参照する場合の「排除」は、L-乳酸を生成する下流工程と、次の工業的適用に適したポリ(L-乳酸)への重合を妨害しないような残留量までの低減を指す。「残留量」は、発酵終了時の発酵ブロスの処理混合物中の全ラクタート(L+D)に対して1%(w/w)未満のD-ラクタート、より好ましくは0.5%(w/w)未満のD-ラクタートを示す。幾つかの特有の実施形態において、D-ラクタートの排除は、発酵の終了時の発酵ブロス中の全ラクタートに対して0.5%(w/w)未満のD-乳酸の低減である。
【0095】
さらなる態様および実施形態によれば、L-ラクタートモノマーは、さらに精製される。L-ラクタートモノマーは、L-乳酸塩として精製されてもよい。あるいは、例えば硫酸での、再酸性化ステップは、粗製のL-乳酸を得るために実行され、続いて精製されたL-乳酸を得るための精製ステップが実行されてもよい。
【0096】
精製工程としては、蒸留、抽出、電気透析、吸着、イオン交換、結晶化、およびこれらの方法の組み合わせを挙げることができる。複数の方法が、例えばGhaffar et al.(2014) Journal of Radiation Research and Applied Sciences, 7(2): 222-229);およびLopez-Garzon et al.(2014) Biotechnol Adv., 32(5):873-904)にレビューされている。あるいは一段階での乳酸の回収および乳酸からラクチドへの変換が、利用されてもよい(Dusselier et al. (2015) Science, 349(6243):78-80)。
【0097】
本発明の幾つかの特有の実施形態において、発酵の間にpH調整に用いられるアルカリ性化合物は、水酸化マグネシウム(Mg(OH))であり、それは、ラクタートモノマーおよびMg2+を含む発酵ブロスをもたらして、乳酸マグネシウムとして回収され得る。結晶化を介して乳酸マグネシウムを精製するための特有の下流精製工程は、本発明の出願者に譲渡されたWO2020/110108号に記載される。精製工程は、適宜、D-ラクタートモノマーを排除する処理の後に発酵ブロスに適用され得る。
【0098】
糖分解酵素
本明細書で用いられる「糖分解酵素」は、ビサッカライド(bi-saccharides)(二糖)、オリゴ糖、多糖およびグリココンジュゲートをはじめとする糖の分解を触媒する加水分解酵素(またはその酵素活性部分)を指す。糖分解酵素は、グリコシドヒドロラーゼ、多糖分解酵素および炭水化物エステラーゼからなる群から選択されてもよい。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。本発明での使用のための糖分解酵素は、食物廃棄物および植物材料をはじめとする有機廃棄物中に見出される糖(多糖など)に対して活性であるものから選択される。幾つかの実施形態において、糖分解酵素は、修飾された酵素(即ち、修飾されていて対応する野生型酵素と異なる酵素)であってもよい。幾つかの実施形態において、修飾としては、酵素の改善された活性をもたらす1つまたは複数の変異を挙げることができる。幾つかの実施形態において、糖分解酵素は、野生型(WT)酵素である。
【0099】
糖分解酵素の広範囲の群は、標準の分類システムに従って複数の酵素分類に分割され、さらに酵素ファミリーに分割される(Cantarel et al. 2009 Nucleic Acids Res 37: D233-238)。そのような酵素の情報的分類および更新された分類は、Carbohydrate-Active Enzymes(CAZy) server(www.cazy.org)で入手できる。
【0100】
幾つかの実施形態において、本発明で用いられる糖分解酵素は、多糖分解酵素である。幾つかの実施形態において、多糖分解酵素は、デンプンおよび非デンプンの植物性多糖から選択される多糖を分解する酵素である。
【0101】
幾つかの実施形態において、多糖分解酵素は、グリコシドヒドロラーゼである。
【0102】
幾つかの実施形態において、多糖分解酵素は、アミラーゼ、セルラーゼおよびヘミセルラーゼから選択される。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。
【0103】
セルラーゼは、非限定的に、エンド-(1,4)-D-グルカナーゼ、エキソ-(1,4-)β-v-グルカナーゼ、β-グルコシダーゼ、カルボキシメチルセルラーゼ(CMCase);エンドグルカナーゼ;セロビオヒドロラーゼ;アビセラーゼ、セルデクストリナーゼ、セルラーゼA、セルロシンAP、アルカリセルラーゼ、およびパンセラーゼSSから選択されてもよい。各可能性は、別の実施形態を表す。
【0104】
ヘミセルラーゼは、キシラナーゼであってもよい。追加的なヘミセルラーゼの非限定的例としては、アラビノフラノシダーゼ、アセチルエステラーゼ、マンナナーゼ、a-D-グルクロニダーゼ、β-キシロシダーゼ、β-マンノシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アセチル-マンナンエステラーゼ、a-ガラクトシダーゼ、a-L-アラビナナーゼ、およびβ-ガラクトシダーゼが挙げられる。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。
【0105】
アミラーゼは、非限定的に、グルコアミラーゼ、a-アミラーゼ;(1,4-a-D-グルカングルカノヒドロラーゼ;グリコゲナーゼ)β-アミラーゼ;(1,4-a-D-グルカンマルトヒドロラーゼ;グリコゲナーゼ;サッカロゲンアミラーゼ)γ-アミラーゼ;(グルカン1,4-a-グルコシダーゼ;アミログルコシダーゼ;エキソ-1,4-a-グルコシダーゼ;リソソマルa-グルコシダーゼおよび1,4-a-D-グルカングルコヒドロラーゼから選択されてもよい。各可能性は、別の実施形態を表す。
【0106】
幾つかの実施形態において、本発明で用いられる糖分解酵素は、二糖分解酵素である。幾つかの実施形態において、二糖分解酵素は、ラクターゼおよびインバーターゼから選択される。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。
【0107】
本発明による糖分解酵素は、細菌供給源のものであってもよい。幾つかの実施形態において、細菌供給源は、好熱性細菌である。本明細書で用いられる用語「好熱性細菌」は、約45℃より高い、好ましくは50℃を超える温度で成長する細菌を示す。典型的には、本発明による好熱性細菌は、約45℃~約75℃、好ましくは約50~70℃の間の最適発育温度を有する。糖分解酵素のための好熱性細菌の非限定的例としては、セルラーゼおよびヘミセルラーゼ - クロストリジウムsp.(例えば、クロストリジウム・サーモセラム)、パエニバチルスsp.、サーモビフィダ・フスカ;アミラーゼ - バチルスsp.(例えば、バチルス・ステアロサーモフィラス)、ゲオバチルスsp.(例えば、ゲオバチルス・サーモレオボランス)、クロモハロバクターsp.、ロドサーマス・マリナスが挙げられる。各可能性は、別の実施形態を表す。
【0108】
追加的実施形態において、糖分解酵素の細菌供給源は、中温性細菌である。本明細書で用いられる用語「中温性細菌」は、約20℃~45℃の間の温度で成長する細菌を示す。糖分解酵素のための中温性細菌供給源の非限定的例としては、セルラーゼおよびヘモセルラーゼ - クレブシエラsp.(例えば、クレブシエラ・ニューモニエ)、コーネルsp.(Cohnel sp.)、ストレプトマイセスsp.、アセチビブリオ・セルロリティカス、ルミノコッカス・アルバス;アミラーゼ - バチルスsp.(例えば、バチルス・アミロリクエファシエンス、バチルス・サブチリス、バチルス・リケニフォルミス)、ラクトバチルス・ファーメンタムが挙げられる。当業者は、幾つかの中温性細菌(例えば、複数のバチルスsp.)が熱安定性酵素を生成することを、理解している。
【0109】
本発明による糖分解酵素はまた、真菌供給源のものであってもよい。糖分解酵素の真菌供給源の非限定的例としては、セルラーゼおよびヘミセルラーゼ - トリコデルマ・リセイ、フミコラ・インソレンス、フザリウム・オキシスポラム;アミラーゼ(例えば、グルコアミラーゼ) - アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・オリゼー、ペニシリウム・フェルタナム、サーモマイセス・ラヌギノサが挙げられる。
【0110】
本発明による使用のための糖分解酵素のための追加的供給源は、例えば上述のCAZyサーバーで見出され得る。
【0111】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態をより完全に示すために提示されている。しかしそれらは、本発明の広い範囲を限定するものと解釈されてはならない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、本明細書に開示された原理の多くの変更および修正を即座に考案することが可能である。
【0112】
実施例
実施例1
フラスコでの胞子の調製
バチルス・コアグランスを、凍結貯蔵液からLB 5ml(50ml Falcon中)に接種した。52℃、200rpmでの一夜培養の後、200μlを芽胞形成培地25ml(40mMリン酸カリウム pH6.2で緩衝された0.4%酵母エキス)に添加した。培養(52℃、200rpm)の24時間後、試料を胞子数および総数(栄養型細胞および胞子)のために取り出した。
【0113】
計数を以下のとおり実施した:加熱(80℃で30分)の前および後の試料を系列希釈し、LB寒天に播種して、計数した。非加熱試料のプレート数は、栄養型細胞および胞子の両方の総数を表すが、加熱試料のプレート数は、胞子数のみを表す(栄養型細菌は、高温では生存しない)。
【0114】
胞子数は、約107胞子/mlに達し、総細菌数と等しかった。胞子培地でのより長いインキュベーション時間(72時間まで)は、胞子数に影響を有さなかった。
【0115】
実施例2
発酵槽での胞子調製
A. LB中で発育した一夜B.コアグランス6mlを、芽胞形成培地300ml(40mMリン酸カリウム pH6.2で緩衝された0.4%酵母エキス)を含有する500ml発酵容器に接種した。胞子発酵の間、10%リン酸を用いてpHを6.5~7.0に維持した。一夜培養(52℃、700rpm、0.3VVM)の後、先に記載された通り試料を胞子数および総数のために取り出した。胞子数は、約5*106~107胞子/mlに達し、同じ総数であり、つまり細菌細胞の実質的に全てが発芽したことになる。
【0116】
さらなる実験において、より高いパーセンテージの酵母エキス(2.5%)を、芽胞形成培地中で用いた。10%リン酸を用いてpHを制御し、pHを6.8に維持すると、胞子数は107胞子/mlに達した。
【0117】
B. LB中で発育した一夜B.コアグランス6mlを、芽胞形成培地300ml(40mMリン酸カリウムで緩衝された1%大豆ペプトンを有する0.4%酵母エキス)を含有する500ml発酵容器に接種した。10%リン酸を用いて、pH6.8を維持した。48~72時間発育(45℃、400rpm、0.3VVM)は、約108胞子/mlを産し、同じ総数であった。
【0118】
さらなる実験において、より高いパーセンテージの酵母エキス(40mMリン酸カリウムで緩衝された1%大豆ペプトンを有する2.5%酵母エキス)を用い、胞子収量(約3108胞子/ml)に有意差はなかった。
【0119】
実施例3
B.コアグランス胞子を用いた乳酸発酵 - 第一のプロトコル
以下の実験は、有機廃棄物(食品廃棄物)中で、好成績で発芽して廃棄物中に存在する糖から乳酸を生成するB.コアグランス胞子の能力をテストした。実験は、B.コアグランス胞子を接種し、次に(3時間後)多糖分解酵素(グルコアミラーゼ)を添加することにより、有機食品廃棄物からの乳酸生成をテストした。この設定では、胞子発芽を発酵槽内部の温度により誘導し(熱活性化)、多糖分解酵素の添加前に有機食品廃棄物中で既に見出されて利用可能な還元糖により支援する。
【0120】
実験は、スーパーマーケットの不合格品から回収された有機食品廃棄物で実行した。食品廃棄物を粉砕して滅菌した。次に、前処理された食品廃棄物300mLを、B.コアグランス胞子6104胞子/ml(接種された食品廃棄物中の最終濃度)と共に最大作業容量500mLの発酵槽に接種した。胞子を、4℃の低温貯蔵庫内の調製された培地中で、使用まで保持した。胞子を、貯蔵庫から取り出した後、直ちに食品廃棄物中に接種した。
【0121】
胞子を接種された食品廃棄物を、52℃、pH6.2で発酵させた。水酸化マグネシウムを用いて、pHを維持した。3時間のインキュベーションの後、0.5g/Lグルコアミラーゼ(GA)(アスペルギルス・ニガー)を添加して、インキュベーションを同じpHおよび温度条件下で継続した。グルコースおよびラクタート濃度を、工程の間、適正なスティックを含むRQflex10(Merk)リーダを用いることによりモニタリングした。ラクタート合成は、胞子の添加の4.5時間後に開始した。わずか22時間後に、95g/Lラクタートが測定された。グルコースの能力(廃棄物から生成され得る最大グルコース量)を対照として別に測定し、93g/Lのグルコースの能力を示した。結果は、グルコースからラクタートへの実質的に完全な変換を示し、胞子を接種して3時間後にGAを添加した場合の良好なGA活性(糖化)および良好なB.コアグランス活性(胞子始動およびラクタート生成)の両方が示される。
【0122】
実施例4
B.コアグランス胞子を用いた乳酸発酵 - 第二のプロトコル
実験は、スーパーマーケットの不合格品から回収された有機食品廃棄物で実行した。食品廃棄物を粉砕して滅菌した。次に、前処理された食品廃棄物300mLを、B.コアグランス胞子7104胞子/ml(接種された食品廃棄物中の最終濃度)と共に500mLの発酵槽に接種して、さらに0.5g/Lのグルコアミラーゼと共に混合した。発酵を、52℃、pH6.2で実行した。水酸化マグネシウムを用いて、pHを維持した。グルコースおよびラクタート濃度を、モニタリングした。ラクタート合成は、胞子の添加の4時間後に開始した。合計でわずか23時間後に、73g/Lラクタートが測定された。グルコースの能力(廃棄物から生成され得る最大グルコース量)を対照として別に測定し、72g/Lのグルコースの能力を示した。結果は、グルコースからラクタートへの実質的に完全な変換を示し、GAおよび胞子を同時に食品廃棄物と混合した場合の良好なGA活性(糖化)および良好なB.コアグランス活性(胞子始動およびラクタート生成)の両方が示される。
【0123】
実施例5
乾燥された胞子配合物の調製
A. B.コアグランス胞子(CFU 4.2107胞子/ml、芽胞形成培地:0.4%酵母エキス+40mMリン酸カリウム)を13000g、4℃で30分間遠心分離した。上清除去の後、ペレットを重量測定し、次に乳酸マグネシウム溶液に懸濁させて、乳酸マグネシウム濃度が15~25%(w/w)(組成物の総重量に対する%wt)の範囲内、例えば17%(w/w)である配合物を得た。配合物を80℃で乾燥させて乾燥粉末を得て、室温の暗所に貯蔵した。乳酸マグネシウムを有する乾燥配合物の水分量は、4%~10%w/wの範囲内であった。
【0124】
試料を、胞子数のために1日目および7日目に取り出した。胞子数のために、乾燥胞子粉末の試料を滅菌水道水に再懸濁させ、混合した。次に、LB寒天への播種後の胞子から発芽した生存細胞のプレート数により、胞子計数を例1に記載された通り実行した。胞子数は、1日目には1.1107胞子/mlに達し、7日目に1.5107胞子/mlに達した。これらの結果から、胞子生存力が乾燥手順後および室温での貯蔵期間全体で維持されたことが示唆される。
【0125】
B. 芽胞形成培地(108胞子/ml)中のB.コアグランス胞子の懸濁液を13000gで遠心分離して、容量を70倍低減した。ペレットを重量測定して、乳酸マグネシウム溶液に再懸濁し、乳酸マグネシウム濃度が17%(組成物の総重量に対するw/w)である配合物を得た。配合物を80℃で乾燥させて、胞子および乳酸マグネシウムの乾燥粉末を得た。乾燥配合物の水分量は、9%(w/w)であった。胞子濃度は、51010胞子/gであった。
【0126】
実施例6
半乾燥胞子配合物の調製
B.コアグランス胞子(CFU 4.2107胞子/ml、芽胞形成培地:0.4%酵母エキス+40mMリン酸カリウム)を13000g、4℃で30分間遠心分離した。上清除去の後、ペレットを重量測定し、次に乳酸マグネシウム溶液に懸濁させて、乳酸マグネシウム濃度が15~25%(w/w)(組成物の総重量に対する%wt)の範囲内、例えば17%(w/w)である組成物を得た。乳酸マグネシウムを有する半乾燥配合物の水分量は、約25%w/wであり、即ち、15%~30w/wの範囲内であった。配合物を、室温の暗所で貯蔵した。先に記載された通り胞子数のために、試料を1日目および7日目に取り出した。
【0127】
胞子数は、1日目に2107、7日目に1.8107に達した。これらの結果から、胞子生存力が半乾燥手順後および室温での貯蔵期間全体で維持されたことが示唆される。
【0128】
実施例7
水酸化マグネシウムスラリーへの乾燥胞子配合物の再構成
以下の実験において、B.コアグランス胞子の乾燥配合物を15%Mg(OH)水性スラリーに懸濁させ、次に15%Mg(OH)スラリー中で種々のインキュベーション時間、インキュベートした。スラリーは、9.5を超えるpHに達する。インキュベーション後の胞子発芽への影響および微生物汚染物の発育を予防するスラリーの能力を検査した。
【0129】
A. 実施例5に記載された通り調製された乾燥形態のB.コアグランス胞子を15%Mg(OH)w/w水性スラリーに懸濁させて、108胞子/mlを得た。懸濁液を4本のアリコートに分取し、室温で5、30、60または90分間撹拌した。次に試料をLB寒天プレートに播種し、52℃で一夜発育させた。総細菌計数および胞子計数を、実施例1に記載された通り一夜インキュベーションの後に実施した。結果を表1に概説する。
【表1】
【0130】
結果から、B.コアグランス胞子が15%Mg(OH)中でのインキュベーションで生存し、そのような処理後に好成績で発芽することが示された。異なるインキュベーション時間の間で、胞子から発芽した細菌細胞の規模に差は観察されなかった。
【0131】
B. 実施例5に記載された通り調製された乾燥形態のB.コアグランス胞子を、15%Mg(OH)w/w水性スラリーに懸濁させて、108胞子/mlを5%グルコアミラーゼ乾燥粉末と共に得た。懸濁液を5本のアリコートに分取し、室温で5、30、60、90分間または19時間撹拌した。次に試料をLB寒天プレートに播種し、52℃で一夜発育させた。総細菌計数および胞子計数を、実施例1に記載された通り一夜インキュベーションの後に実施した。結果を表2に概説する。
【表2】
【0132】
結果から、B.コアグランス胞子が15%Mg(OH)中でのインキュベーションで生存し、そのような処理後に好成績で発芽することが示された。異なるインキュベーション時間の間で、胞子から発芽した細菌細胞の規模に変化は観察されなかった。加えて、15%Mg(OH)スラリー中での90分までのインキュベーション後のデンプンでのグルコアミラーゼの活性の検査から、グルコアミラーゼが依然として活性であることが示された。
【0133】
C. 微生物汚染物の発育を予防するMg(OH)スラリーの能力を検査し、それによりB.コアグランス胞子を乳酸生成発酵槽に接種するための無菌条件を提供するために、以下のアッセイを実行した:エシェリヒア・コリBL21、バチルス・サブチリス169株およびサッカロマイセス・セレビシエを15%Mg(OH)(107細胞/ml)に添加して、浸透しながら52℃で2時間キュベートした。対照試料をLB中でインキュベートした。インキュベーション後に、15%Mg(OH)ミックスおよびLBミックスをそれぞれLB寒天プレートに播種して、発酵条件を模倣するために52℃でインキュベートした。プレート上の発育を、一夜インキュベーション後に検査した。
【0134】
図1は、対照プレートでは微生物コロニーが明白に可視であるが(8107CFU)、Mg(OH)プレートで発育が観察されないことを示しており、15%Mg(OH)中のインキュベーションによる微生物発育の好成績の阻害が示される。
【0135】
実施例8
B.コアグランス胞子の乾燥配合物を用いた乳酸発酵
A. 新鮮なB.コアグランス胞子、およびB.コアグランス胞子の乾燥配合物(17%乳酸マグネシウム中で乾燥させて滅菌水道水に再懸濁)を用いて、有機廃棄物をラクタートに発酵した。先に記載された実験と同様に、スーパーマーケットの不合格品から回収された有機食品廃棄物で発酵を実行し、粉砕して滅菌した。5104細菌/mlに達するように、各接種材料を発酵槽に添加した。グルコアミラーゼを、細菌/胞子と共に発酵槽に添加した。発酵を52℃、pH6.2で実行した。水酸化マグネシウムを用いて、pHを維持した。グルコースおよびラクタート濃度をモニタリングした。
【0136】
結果から、新鮮な接種材料および乾燥接種材料の両方で、実質的に同様のラグタイム(細菌/胞子の接種とラクタート合成の検出の間の時間)および同様のグルコース変換を示し、ラグタイムは、新鮮な接種材料と乾燥接種材料の両方で4時間であり、グルコースは、接種材料のタイプにかかわらずラクタートに完全に変換された。それゆえ結果から、乳酸生成が発酵物に接種する乾燥胞子配合物の使用により負の影響を受けないことが示される。
【0137】
B. 乾燥形態の(17%乳酸マグネシウム中で乾燥された)B.コアグランス胞子を滅菌水道水または15%Mg(OH)スラリーに再懸濁させた。乾燥胞子配合物200mgを各液体2mlに懸濁させ、ボルテックスにより充分に混合して、1107細菌/mlに達するように、前処理された食品廃棄物(粉砕され滅菌された)を含有する発酵槽に添加した。グルコアミラーゼを、細菌/胞子と共に発酵槽に添加した。発酵を52℃、pH6.2で実行した。水酸化マグネシウムを用いて、pHを維持した。グルコースおよびラクタート濃度をモニタリングした。
【0138】
ラグタイムは、水を基にした接種材料では1.5時間、Mg(OH)を基にした接種材料では3時間であったが、全体的工程時間は、両方の接種材料で実質的に同様であり、グルコースは、接種材料のタイプにかかわらずラクタートに完全に変換された。
【0139】
実施例9
様々な配合物中の例示的な胞子濃度
1.胞子の湿性配合物
1.1. 芽胞形成培地中の胞子濃度:少なくとも108胞子/ml(=グラムあたり)
1.2. 15%~25%w/w乳酸マグネシウムを有する芽胞形成培地:少なくとも107胞子/ml(=グラムあたり)
1.3. 15%~25%w/w乳酸カルシウムを有する芽胞形成培地:少なくとも107胞子/ml(=グラムあたり)
【0140】
2.胞子の半乾燥配合物(遠心分離または膜濾過の後)
2.1.乳酸マグネシウム:毛管水を含む水分量が20%~30%w/wの範囲内である(乾燥なし)
2.2.15%~25%w/w乳酸マグネシウムを有する胞子の半乾燥配合物:少なくとも108胞子/ml(=グラムあたり)
2.3.乳酸カルシウム:毛管水を含む水分量が20%~30%w/wの範囲内である(乾燥なし)
2.4.15%~25%乳酸カルシウムを有する胞子の半乾燥配合物:少なくとも108胞子/ml(=グラムあたり)
【0141】
3.胞子の乾燥配合物(熱乾燥または噴霧乾燥の後)
3.1.15%~25%乳酸マグネシウムを有する配合物:少なくとも109胞子/グラム
3.2.15%~25%乳酸カルシウムを有する配合物:少なくとも109胞子/グラム
【0142】
前述の具体的実施形態の記載は、他者が現行の知識を適用することにより、過度の実験を行わずに、そして上位概念から逸脱することなく、そのような具体的実施形態を様々な適用に向けて即座に修正する、そして/または適応させることができるという本発明の一般的性質を非常に完全に明らかにしており、それゆえそのような適応および修正は、開示された実施形態の均等物の意味および範囲内で解釈されなければならず、そしてそれを意図されている。本明細書で用いられる句法または用語法が記載を目的とし、限定を目的としないことが、理解されなければならない。様々な開示された機能を実行するための手段、材料、およびステップは、本発明を逸脱することなく種々の代わりの形態をとってもよい。
図1A
図1B