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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20230925BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
F16J15/34 G
F16C17/04 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021516130
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2020017170
(87)【国際公開番号】W WO2020218286
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2019082965
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】井村 忠継
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-033614(JP,B1)
【文献】特開昭58-109771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34-15/38
F16C 17/00-17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の駆動時に相対回転する箇所に配置される互いに対向する環であり、
対向する前記環の対向面のうち少なくとも一方には、当該対向面の少なくとも一部を構成する凸状の曲面部が形成されており、
一方の前記環の対向面に形成された前記曲面部は、他方の前記環の対向面より曲率半径が小さい摺動部品。
【請求項2】
前記曲面部は前記環の対向面の周方向に亘って形成されている請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記曲面部は前記環の外径端と内径端との少なくとも一方に形成されている請求項2に記載の摺動部品。
【請求項4】
静止側の前記環の対向面に前記曲面部が形成されている請求項1ないしのいずれかに記載の摺動部品。
【請求項5】
前記曲面部と該曲面部と対向する前記対向面とのいずれか一方もしくは両方に軸方向に開口する機能溝が形成されている請求項1ないしのいずれかに記載の摺動部品。
【請求項6】
前記機能溝は前記曲面部の表面形状に平行な底面を有して同じ深さで径方向に複数形成されている請求項に記載の摺動部品。
【請求項7】
前記曲面部は、前記対向面の周方向に沿うように径方向に複数形成された段部により構成されている請求項1ないしのいずれかに記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する摺動部品に関し、例えば自動車、一般産業機械、あるいはその他のシール分野の回転機械の回転軸を軸封する軸封装置に用いられる摺動部品、または自動車、一般産業機械、あるいはその他の軸受分野の回転機械の軸受に用いられる摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポンプやタービン等の回転機械の回転軸を軸封し、被密封流体の漏れを防止する軸封装置には、相対的に回転し、かつ平面状の端面同士が摺動するように構成された2部品からなるもの、例えばメカニカルシールがある。メカニカルシールは、ハウジングに固定される摺動部品としての静止密封環と、回転軸に固定され回転軸と共に回転する摺動部品としての回転密封環と備え、静止と回転との一方の密封環は付勢手段により他方の密封環方向に付勢され、これらの摺動面を相対回転させることにより、ハウジングと回転軸との間の隙間を軸封している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなメカニカルシールにあっては、密封環の対向面同士が平行に対向することで、密封環同士の間における有効な対向領域が確保され、所定の密封性能を発揮することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5271858号公報(第4頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、メカニカルシールは、回転側の密封環の対向面は、回転の慣性力などにより軸方向に僅かであるが傾くように変形することがある。特許文献1のようなメカニカルシールにあっては、このような変形が生じると、一方の密封環の外周縁部または内周縁部を構成する角部が、対向する他方の密封環の平坦な対向面と近接することになるため、角部が最近接部分となり、一方の密封環の対向面の内角部よりも内径側または外周側の箇所は他方の密封環の対向面から大きく離間し、密封環同士の間における有効な対向領域が径方向に極端に小さくなってしまう虞がある。つまり、回転側の密封環の変形が少ない場合には互いの密封環の対向面同士が平行に対向して所定の密封性能を発揮することができる反面、高い回転数や大きな負荷が存在する等の条件下において回転側の密封環の変形が大きい場合には、安定した密封性能を発揮することができないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、様々な条件下において安定した摺動性能を発揮できる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の摺動部品は、
回転機械の駆動時に相対回転する箇所に配置される互いに対向する環であり、
対向する前記環の対向面のうち少なくとも一方には、当該対向面の少なくとも一部を構成する凸状の曲面部が形成されている。
これによれば、いずれか一方の環の対向面が回転の慣性力などにより軸方向に傾くように変形した際において、一方の環の対向面に形成された凸状の曲面部と、対向する他方の環の対向面とが近接した状態で、環同士の間で径方向に有効な対向領域を確保でき、様々な条件下において安定した摺動性能を発揮することができる。
【0008】
前記曲面部は前記環の対向面の周方向に亘って形成されていてもよい。
これによれば、全周に亘って有効な対向領域を確保できる。
【0009】
前記曲面部は前記環の外径端と内径端との少なくとも一方に形成されていてもよい。
これによれば、他方の環が変形しても変形が顕著である外径端や内径端において、環同士の間で径方向に有効な対向領域を確保することができ、また仮に対向面同士が接触する際も線接触することなく、面での接触とさせることができる。
【0010】
一方の前記環の対向面に形成された前記曲面部は、他方の前記環の対向面より曲率半径が小さくてもよい。
これによれば、一方の環の対向面に形成された凸状の曲面部と、対向する他方の環の対向面とが近接した状態で、環同士の間で径方向に有効な対向領域を確実に確保できる。
【0011】
静止側の前記環の対向面に前記曲面部が形成されていてもよい。
これによれば、静止側の環は使用時の形状を予測しやすいため、回転側の環の変形度合いに対して、高い精度で有効な対向領域を確保できる。
【0012】
前記曲面部と該曲面部と対向する前記対向面とのいずれか一方もしくは両方に軸方向に開口する機能溝が形成されていてもよい。
これによれば、環同士の間で径方向に確保された有効な対向領域において、機能溝による例えば動圧発生等の機能を確実に発揮させることができる。
【0013】
前記機能溝は前記曲面部の表面形状に平行な底面を有して同じ深さで径方向に複数形成されていてもよい。
これによれば、回転側の環の変形度合いに関わらずに、機能溝による機能を発揮させることができる。
【0014】
前記曲面部は、前記対向面の周方向に沿うように径方向に複数形成された段部により構成されていてもよい。
これによれば、径方向に複数形成された段部に流体が保持され、環同士の対向面間に流体膜を形成しやすく、高い摺動性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1における摺動部品を備えるメカニカルシールを示す断面図である。
図2】静止密封環の対向面に形成された曲面形状を示す断面図である。
図3】曲面形状の表面形状をミクロ的視点で示す断面図である。
図4】静止密封環の対向面を軸方向から見た図である。
図5】回転軸の回転による回転密封環の変形を示す一部拡大断面図である。
図6図5とは異なる回転数で回転軸が回転したことによる回転密封環の変形を示す一部拡大断面図である。
図7】本発明の実施例2における回転密封環と静止密封環との関係を示す一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る摺動部品を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0017】
実施例1に係る摺動部品につき、図1から図6を参照して説明する。尚、本実施例においては、摺動部品がメカニカルシールである形態を例に挙げ説明する。また、メカニカルシールを構成する摺動部品の内径側を漏れ側であり気体側としての大気側(低圧側)、外径側を被密封液体側(高圧側)として説明する。
【0018】
図1に示される一般産業機械用のメカニカルシールは、摺動面の外径側から内径側に向かって漏れようとする被密封液体Fを密封するインサイド型のものであって、回転軸1にスリーブ2を介して回転軸1と共に回転可能な状態で設けられた円環状の摺動部品としての環である回転密封環20と、被取付機器のハウジング4に固定されたシールカバー5に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた円環状の摺動部品としての環である静止密封環10と、から主に構成され、ベローズ7によって静止密封環10が軸方向に付勢されることにより、静止密封環10の対向面11と回転密封環20の対向面21とが互いに密接摺動するようになっている。
【0019】
静止密封環10及び回転密封環20は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、これに限らず、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。尚、SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC-TiC、SiC-TiN等があり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0020】
図2に示されるように、静止密封環10の対向面11は、回転中心を挟んで一方側の径方向断面において対向方向、すなわち回転密封環20の対向面21に近接する方向に凸状に形成された曲面部を成している。曲面部の形状としては、対向面11の内径端から外径端に向けて回転密封環20から漸次離れていくような凸状の曲面形状となっている。この曲面形状は、後述する回転密封環20の回転時における変形を考慮して、回転密封環20の対向面21が斜めに近接する部分について予め除去したものである。
【0021】
尚、回転密封環20の対向面21における静止密封環10の対向面11に近接する方向の変形は、回転数や回転密封環20の大きさにもよるが、例えば45krpmの回転数で2~9μm程度である。そのため、静止密封環10の対向面11の曲面形状は非稼働時の回転密封環20の対向面21から最も離間する対向面11の外径端と、対向面21に最も近い対向面11の内径端との高低差が2~9μm程度に形成されるのが好ましい。
【0022】
上記したように、対向面11は内径端から外径端に向けて回転密封環20から漸次離れていくような凸状の曲面形状となっているため、対向面11の外径側が回転軸1に直交する方向に対して特に傾斜が大きく、対向面11の内径側が回転軸1に直交する方向に対して対向面11の外径側に比べて傾斜が小さくなっている。すなわち、対向面11は、外径側の曲率半径が小さく、内径側の曲率半径が大きくなっている。言い換えると、対向面11は、外径側の曲率が大きく、内径側の曲率が小さくなっている。
【0023】
また、曲面形状は、鏡面加工された平坦な対向面11にレーザ加工等による微細加工を施すことにより形成することができる。レーザ加工は鏡面加工された静止密封環10に、レーザを周方向に相対移動させつつ照射させるものであって、内径或いは外径にずらして軸方向の深さを変えることにより対向面11を全周に亘り削る、といった工法を採用できる。これによれば、図3のように全周に亘る段部30が径方向に複数並んで形成され、これらの段部30に挟まれる角部31を結んで曲面形状の対向面11が構成される。つまり、対向面11はマクロ的視点では径方向に曲率を持ちながら、ミクロ的視点では径方向に微小な段部30が形成されている。
【0024】
また、図2及び図4に示されるように、静止密封環10の対向面11の外径側には、周方向と径方向にそれぞれ等間隔で離間して複数の機能溝としての動圧発生溝13が形成され、対向面11の内径側には、周方向に等間隔で離間して複数の機能溝としての流体導入溝14と正圧発生溝15とが形成されている。動圧発生溝13は等角螺旋であり、対向面11の外径側における動圧発生溝13以外の部分、すなわち動圧発生溝13間は径方向に曲面を成すランド12となっている。また、流体導入溝14は内径側より流体を導入するための溝であり、正圧発生溝15は流体導入溝14と繋がる周方向に延びる溝となっている。また、動圧発生溝13よりも内径側は流体導入溝14と正圧発生溝15を除いて曲率半径の大きなランドとなっている。尚、動圧発生溝13の個数は使用環境に合わせて自由に変更することができる。
【0025】
図2及び図4に示されるように、各動圧発生溝13は、曲面であるランド12の表面形状にそれぞれ平行な曲面である底面13aを有してそれぞれ同じ深さで形成されている。動圧発生溝13は、後述のように静止密封環10と回転密封環20とを相対回転させたときに、動圧発生溝13内に動圧を発生させるようになっている。尚、動圧発生溝13の底面13aはランド12に平行な曲面形状に形成されているが、平坦面に微細凹部を設けることやランド12に対して傾斜するように形成することを妨げない。
【0026】
動圧発生溝13は曲面形状にレーザ加工された対向面11に、再度レーザによる微細加工を施すことにより形成することができる。動圧発生溝13は、軸方向から見て2つ並ぶ円弧状の側壁をなす面13bと、円弧状の面13b同士に交差して延び終端、すなわち内径端の壁をなす壁部13cと、対向面11に平行な前述の底面13aとの4面で囲まれており、動圧発生溝13の外径端は動圧発生溝13の外径側に開放されている(図4参照)。
【0027】
図2に示されるように、回転密封環20の対向面21は、回転軸1が停止している非稼動時において、回転軸1の軸方向に対して直交する平面となるように形成・配置されている。
【0028】
続いて、一般産業機械の非稼動時と稼動時における動作を説明する。回転密封環20が回転していない一般産業機械の非稼動時には、本実施例のメカニカルシールにあっては、図2に示されるように、回転密封環20の変形はなく、回転密封環20の対向面21と静止密封環10の対向面11とが内径側で当接している。
【0029】
一般産業機械の稼働時には、被密封液体Fが動圧発生溝13内に取り込まれ、動圧発生溝13の終端である壁部13cの周辺で発生する正圧により回転密封環20の対向面21と静止密封環10の対向面11とが僅かに離間された状態、いわゆる対向面間が非接触状態となり、低摩擦化される。
【0030】
この一般産業機械の稼働時にあっては、回転軸1の回転による慣性力や、回転軸1と共に回転するインペラなどの一般産業機械の部品の抵抗や荷重に起因する応力や、摺動発熱による熱的要因等により回転密封環20が変形する場合がある。
【0031】
例えば、回転密封環20の自由端となる外径側に向かうにつれて静止密封環10に近接する方向に傾くように変形する場合があり、この場合、図5に示されるように、回転密封環20の対向面21の外径側が静止密封環10の対向面11の外径側に近接する。尚、図5中の二点鎖線は非稼動時の回転密封環20の対向面21を示している。
【0032】
このとき、図5からも明らかなように、静止密封環10の対向面11は回転密封環20の回転時における変形を考慮して、回転密封環20の対向面21が斜めに近接する部分について予め除去された形状であるため、回転密封環20の対向面21は外径端に位置する先端の鋭利な角部22よりも内径側の領域X1において静止密封環10の対向面11と最近接するため、角部22や当該角部22が対向する対向面11の破損を防止することができる。
【0033】
また、静止密封環10の対向面11は凸状の曲面形状であるため、静止密封環10の対向面11と対向する回転密封環20の対向面21とが近接した状態で、回転密封環20の対向面21の変形による傾斜角と近似する角度である静止密封環10の対向面11の一部が、傾斜した回転密封環20の対向面21と平行に近い状態となる。詳しくは、静止密封環10の対向面11において回転密封環20の対向面21に最も近接している最近接部分P1を中心として、その最近接部分P1を挟んだ径方向両側にあっても、静止密封環10の対向面11が曲面形状であることから、回転密封環20の対向面21から大きく離間することがなく、静止密封環10の対向面11の一部が、傾斜した回転密封環20の対向面21と平行に近い状態となり、静止密封環10と回転密封環20の対向面11,21同士の間で径方向に有効な対向領域が確保できる。これにより、静止密封環10と回転密封環20とは様々な条件下において安定した密封性能を発揮することができる。
【0034】
尚、回転密封環20の変形の度合いは、外的要因により多様である。例えば図6に示すように図5に示すよりも回転密封環20の対向面21の傾斜が小さい場合には、最近接部分P2が図5に示す状態における最近接部分P1よりも内径側の領域X2に位置し、静止密封環10の対向面11の最近接部分P2を含む一部が、傾斜した回転密封環20の対向面21と平行に近い状態となる。
【0035】
このように、静止密封環10の対向面11は内径端から外径端に向けて回転密封環20から漸次離れていくような凸状の曲面形状となっているため、回転密封環20の変形の度合いの違いによる対向面21の傾斜角に関わらず、径方向に有効な対向領域を常に確保することができる。つまり、様々な仕様の一般産業機械や自動車などで汎用的に利用することができる。
【0036】
また、対向面11は内径端から外径端に亘って曲面形状となっており、回転密封環20の対向面21の傾斜角へ細かく対応できる。
【0037】
また、対向面11は周方向に亘って曲面形状の部分を備えているため、全周に亘って回転密封環20の対向面21との有効な対向領域を確保できる。
【0038】
ところで、密封するためには互いの面が接触、或いは、流体を密封可能な程度に近接した領域、すなわち対向領域が径方向にある程度の幅として必要だが、曲面形状の静止密封環10の対向面11の曲率半径が例えば曲面形状の回転密封環20の対向面21の曲率半径より大きいと、曲面形状の静止密封環10の対向面11と対向する回転密封環20の対向面21とが近接した状態で、対向面11と対向面21とが径方向において密封環の最外径、或いは最内径のいずれかで最近接することになり、この最近接部分よりも内径側、或いは外径側における対向面11と対向面21との間が大きく離間し、有効な対向領域を確保することができず適切に密封できない虞がある。しかしながら、本実施例における回転密封環20の対向面21は回転軸1の軸方向に直交する平面として形成され、静止密封環10の対向面11が内径端から外径端に向けて回転密封環20から漸次離れていくような凸状の曲面形状として形成されることから、最近接する箇所が密封環の最外径、或いは最内径となることが無く、密封環の最外径よりも内径側かつ、最内径よりも外径側に最近接する箇所が配置され、最近接箇所の径方向両側に近接領域を確保することができ、また、静止密封環10の対向面11が回転密封環20の対向面21に沿うような曲面に形成されるため、対向面11,21の間の平均面間距離を小さくすることができ、径方向に有効な対向領域を効果的に確保することができる。
【0039】
また、曲面形状は静止密封環10の対向面11に形成されていることで回転密封環20の変形度合いに対して、高い対応力で有効な対向領域を確保することができる。
【0040】
また、動圧発生溝13は静止密封環10の対向面11の曲面形状部分に形成されているため、静止密封環10と回転密封環20との間で径方向に確保された有効な対向領域において、動圧発生の機能を効果的に発揮させることができる。
【0041】
また、動圧発生溝13は対向面11のランド12の表面形状に平行な底面13aを有して同じ深さで径方向に複数形成されていているため、回転密封環20の変形度合いに関わらずに、動圧発生の機能を効果的に発揮させることができる。
【0042】
また、静止密封環10の対向面11の曲面形状は、ミクロ的視点では径方向に微小な段部30が形成されているため、段部30に被密封液体Fが保持され、静止密封環10の対向面11と回転密封環20の対向面21との間に流体膜を形成しやすく、高い摺動性と密封性を確保できる。
【実施例2】
【0043】
次に、実施例2に係る摺動部品につき、図7を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0044】
図7(a)に示されるように、回転密封環50の対向面51は対向方向に凸状の曲面形状に形成されて曲面部を成している。静止密封環40の対向面41は軸方向に直交する平面に形成されている。これによれば、図7(b)に示されるように、回転密封環50が回転軸1の回転時に変形した場合、その曲面形状である対向面51が平面である静止密封環40の対向面41に対して傾斜して最近接部分P3を中心とした領域X3で近接し、その対向面51の一部が対向面41と平行に近くなり、径方向に有効な対向領域を確保することができる。
【0045】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0046】
例えば、前記実施例1では、回転密封環20の対向面21は回転軸1の軸方向に直交する平面として形成されているが、回転密封環20の対向面21の曲率半径が静止密封環10の対向面11より大きければ、回転密封環20の対向面21が凹状の曲面形状であっても、径方向においては1点のみが最近接することになるため、径方向に有効な対向領域を効果的に確保することができる。
【0047】
また、実施例1のように軸方向に凸形状の曲面部を有する静止密封環に対して、実施例2のように軸方向に凸形状の曲面部を有する回転密封環を対向させる構成であってもよく、この場合には、静止密封環と回転密封環との対向面同士の傾斜角度に関わらずに摺動性能を確保でき、かつ応力集中による破損も防止できる。
【0048】
また、前記実施例1では、静止密封環10の対向面11は外径端から内径端に亘って内径端から外径端に向けて回転密封環から漸次離れていくような凸状の曲面形状を有しているが、これに限らず、対向面11の外径端から内径端に亘って外径端から内径端に向けて回転密封環から漸次離れていくような凸状の曲面形状を有していてもよい。また、対向面のすべてが曲面部を構成している必要はなく、例えば対向面11の外径端もしくは内径端から径方向の中央部まで延びるように曲面部が形成されていてもよく、径方向の全体に曲面部が形成されていなくてもよい。
【0049】
また、対向面11に形成される曲面部は、対向面11の外径端もしくは内径端のいずれか一方、もしくは対向面11の外径端と内径端との中央部に径方向に延びる平坦面を残して径方向両側にあってもよい。
【0050】
また、動圧発生溝等の対向面に形成された溝は静止密封環の対向面ではなく、回転密封環の対向面に形成されてもよいし、静止密封環の対向面と回転密封環の対向面との両方に形成されてもよい。
【0051】
また、静止密封環の対向面や回転密封環の対向面に形成される溝は、動圧発生溝でなくてもよく、レイリーステップ等の他の機能を有する機能溝であってよい。
【0052】
また、摺動部品が用いられるメカニカルシールが、静止密封環の対向面と回転密封環の対向面とを非接触状態にする態様でなければ、動圧発生溝等の溝を省略してもよい。
【0053】
また、本発明の摺動部品は、対向面の外周側から内周側方向に向かって漏れようとする被密封流体を密封する形式のインサイド形式のメカニカルシールに限らず、対向面の内周側から外周側方向に向かって漏れようとする被密封流体を密封する形式のアウトサイド形式のメカニカルシールに用いることができる。
【0054】
また、本発明の摺動部品が密封する被密封流体として液体を例に説明したが気体であってもよい。さらに、被密封流体側が大気側よりも高圧である例について説明したが、摺動部品の内径側と外径側の流体の圧力の関係はこれに限らず、例えば同圧であってもよい。
【0055】
また、本発明の摺動部品は、スラスト軸受等の軸受に用いることができる。
【符号の説明】
【0056】
1 回転軸
2 スリーブ
4 ハウジング
5 シールカバー
7 ベローズ
10 静止密封環(環)
11 対向面(曲面部)
12 ランド
13 動圧発生溝(機能溝)
13a 底面
14 流体導入溝(機能溝)
15 正圧発生溝(機能溝)
20 回転密封環(環)
21 対向面
22 角部
30 段部
31 角部
40 静止密封環(環)
41 対向面
50 回転密封環(環)
51 対向面(曲面部)
F 被密封液体
P1~P3 最近接部分
X1~X3 領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7