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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】シアノアクリレート系接着剤用増粘剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 4/04 20060101AFI20230925BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20230925BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20230925BHJP
   C08F 220/14 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
C09J4/04
C09J11/08
C09K3/00 103G
C08F220/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022553776
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2021033602
(87)【国際公開番号】W WO2022070868
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2020164130
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】岩田 昂
(72)【発明者】
【氏名】千葉 大二郎
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-507631(JP,A)
【文献】特開平11-209699(JP,A)
【文献】特表2003-507494(JP,A)
【文献】特開昭58-103568(JP,A)
【文献】国際公開第2018/199268(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 4/04
C09J 11/08
C09K 3/00
C08F 220/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル単量体単位95~99.9質量%、炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル単量体単位0.1~5質量%を含有するメタクリル樹脂を含む、ことを特徴とするシアノアクリレート系接着剤用増粘剤。
【請求項2】
前記メタクリル樹脂5mgを60℃で10分加熱した時のMMA揮発量が10質量ppm以下である、請求項1に記載のシアノアクリレート系接着剤用増粘剤。
【請求項3】
前記シアノアクリレート系接着剤用増粘剤100質量%に対して、粒径710μm以上の粒子の質量割合が5質量%以下である、請求項1又は2に記載のシアノアクリレート系接着剤用増粘剤。
【請求項4】
前記シアノアクリレート系接着剤用増粘剤を水に分散させたときのpHが2.0以上9.0以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のシアノアクリレート系接着剤用増粘剤。
【請求項5】
前記シアノアクリレート系接着剤用増粘剤の分子量分布(Mw/Mn)が2.5以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のシアノアクリレート系接着剤用増粘剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のシアノアクリレート系接着剤用増粘剤とアルキルシアノアクリレートとを含有する、ことを特徴とする接着剤。
【請求項7】
粘度が0.5~10Pa・sである、請求項6に記載の接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアノアクリレート系接着剤用増粘剤及び接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料、接着剤等の製造においては、製品の粘度を調整してハンドリング性を向上させる目的から有機系の増粘剤が用いられる。有機系の増粘剤の中でも、メタクリル系樹脂組成物を用いたものは透明樹脂として高い透過率、耐候性を有しているうえ、アルキルシアノアクリレート等との親和性や耐薬品性にも優れている。メタクリル系樹脂組成物は透明性を維持しながら迅速にモノマー中に溶解することから、接着剤用増粘剤として広く利用されている。
接着剤の中でも特にシアノアクリレート系接着剤は、主成分であるアルキルシアノアクリレートが有する高いアニオン重合性により、わずかな水分や不純物などの微弱なアニオンによって重合を開始し、各種材料を短時間で強固に接合することができる。そのため、瞬間接着剤として、工業用、医療用及び家庭用等の広範な分野において使用されている。
その高い重合性から、シアノアクリレート系接着剤は密閉容器に注入されるなど、ある程度外気と遮断された環境下で運搬、保管される。しかし、運搬・保管・使用条件によっては高温多湿条件となりうる環境下で扱われることもよくあることであり、このような条件下に長期間置かれた場合、シアノアクリレート系接着剤の粘度が上昇してしまうこともあるため、改良が求められている。
また、シアノアクリレート系接着剤はシアノアクリレート自体の臭気だけでなく、溶解する増粘剤に起因する特異な臭気を有することがあり、臭気の低減化も求められている。
特許文献1には、分子量分布に特徴を持たせたメタクリル酸メチルへの溶解性に優れるアクリル系増粘剤が開示されている。
特許文献2では、メタクリル酸メチル中で50℃/95%Rh下で曝した際の安定性に優れたメタクリル系樹脂を含む増粘剤が開示されている。
特許文献3はシアノアクリレート系接着剤組成物中に20~50万の重量平均分子量を有するポリ(メタ)アクリル酸アルキルを増粘剤として含有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許5131956号公報
【文献】特開2018-178076号公報
【文献】特公平4-15267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のあるような、分子量分布に特徴を持たせたアクリル系増粘剤においては、メタクリル酸メチルへの溶解性は良好であることは開示されているが、アルキルシアノアクリレートへの溶解性、及びわずかな水分や不純物の影響で重合しやすいアルキルシアノアクリレートへ溶解した際の長期間の貯蔵・保管安定性については考慮されていない。また、アルキルシアノアクリレートへ溶解した際の“におい”ついても考慮されておらず、改良が求められている。
特許文献2においては、樹脂の末端に特定の構造を導入することで、メタクリル酸メチル中での長期安定性に優れた増粘剤を提供しているが、アルキルシアノアクリレート中での長期安定性については考慮されていないうえ、“溶解時のにおい”についても考慮されていない。
特許文献3においては、比較的分子量の高いアクリル樹脂をシアノアクリレート系接着剤の増粘剤として用いることが記載されているが、においについては考慮されていない。
【0005】
そこで本発明においては、接着剤用増粘剤として好適に利用でき、接着剤用途、とりわけシアノアクリレート系接着剤用増粘剤として利用した時に、においを改善できる増粘剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、メタクリル酸メチル単量体単位95~99.9質量%、炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル単量体単位0.1~5質量%を含有するメタクリル樹脂を用いると、においが少ない接着剤が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
メタクリル酸メチル単量体単位95~99.9質量%、炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル単量体単位0.1~5質量%を含有するメタクリル樹脂を含む、ことを特徴とするシアノアクリレート系接着剤用増粘剤。
[2]
前記メタクリル樹脂5mgを60℃で10分加熱した時のMMA揮発量が10質量ppm以下である、[1]に記載のシアノアクリレート系接着剤用増粘剤。
[3]
前記シアノアクリレート系接着剤用増粘剤100質量%に対して、粒径710μm以上の粒子の質量割合が5質量%以下である、[1]又は[2]に記載のシアノアクリレート系接着剤用増粘剤。
[4]
前記シアノアクリレート系接着剤用増粘剤を水に分散させたときのpHが2.0以上9.0以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のシアノアクリレート系接着剤用増粘剤。
[5]
前記シアノアクリレート系接着剤用増粘剤の分子量分布(Mw/Mn)が2.5以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のシアノアクリレート系接着剤用増粘剤。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載のシアノアクリレート系接着剤用増粘剤とアルキルシアノアクリレートとを含有する、ことを特徴とする接着剤。
[7]
粘度が0.5~10Pa・sである、[6]に記載の接着剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、接着剤用増粘剤として好適に利用でき、接着剤用途、とりわけシアノアクリレート系接着剤用増粘剤として利用した時に、においを改善できる増粘剤を提供することができる。
また、本実施形態の一例の増粘剤は、増粘対象の保管・貯蔵中の粘度増大、固化を抑制し、製品の貯蔵・保管安定性を改善することができる。
また、本実施形態の一例の増粘剤は溶解後の安定性に優れており、溶解後長時間放置された場合であっても粘度上昇が起こりにくい特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
なお、以下において、重合体を構成する構成単位のことを、「~単量体単位」、及び/又は複数の該「~単量体単位」を含む「~構造単位」と称する場合がある。
また、かかる「~単量体単位」の構成材料のことを、「単位」を省略して、単に「~単量体」と称する場合がある。
【0010】
[増粘剤]
本実施形態の増粘剤は、モノマー単位としてメタクリル酸メチル単量体単位95~99.9質量%、炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル単量体単位0.1~5質量%を含有するメタクリル樹脂を少なくとも含む。
上記増粘剤は、上記メタクリル樹脂のみからなっていてもよい。
上記増粘剤は、樹脂成分が、上記メタクリル樹脂のみであることが好ましい。上記増粘剤は、メタクリル樹脂として、さらに、上記以外のその他のメタクリル樹脂を不純物として含んでいてもよいが、上記メタクリル樹脂のみからなることが好ましく、1種の上記メタクリル樹脂のみからなることがより好ましい。
【0011】
上記増粘剤は、シアノアクリレート系接着剤用増粘剤であることが好ましい。
【0012】
上記増粘剤の重量平均分子量は、増粘剤としての特性を付与するという観点から、85,000以上1,500,000以下であることが好ましい。
上記増粘剤中に含まれる上記メタクリル樹脂の重量平均分子量が85,000以上300,000未満の場合、エチルシアノアクリレートに20質量%の濃度で溶かして25℃にて測定した粘度をη1、エチルシアノアクリレートに20質量%の濃度で溶かしたのち60℃で48時間放置した後、25℃にて測定した粘度をη2とした時に下記式を満たすことが好ましい。この場合、上記メタクリル樹脂の乾燥法にて測定した水分率は、0.01%以上1%以下であることが好ましい。
1.0<η2/η1<5.0
また、上記増粘剤中に含まれる上記メタクリル樹脂の重量平均分子量が300,000以上1,500,000以下の場合、エチルシアノアクリレートに10質量%の濃度で溶かして25℃にて測定した粘度をη3、エチルシアノアクリレートに10質量%の濃度で溶かしたのち60℃で48時間放置した後、25℃にて測定した粘度をη4とした時、下記式を満たすことが好ましい。この場合、上記メタクリル樹脂の乾燥法にて測定した水分率は、0.01%以上1%以下であることが好ましい。
1.0<η4/η3<5.0
【0013】
(メタクリル樹脂)
上記炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル単量体単位としては、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等の炭素数4~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルに由来する単量体単位が好ましく用いられる。入手のしやすさ、シアノアクリレートへ溶解時のにおい低減の観点から、アクリル酸n-ブチル単量体単位が特に好ましい。
【0014】
上記メタクリル樹脂は、上記メタクリル酸メチル単量体単位と上記炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル単量体単位とのみから構成されていてもよいし、上記メタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位等のその他の単量体単位をさらに含んでいてもよい。
上記その他の単量体単位としては、メタクリル酸メチルと共重合可能なビニル単量体であってよく、具体的には、アルキル基の炭素数が2~3のメタクリル酸アルキル;アルキル基の炭素数が1~3のアクリル酸アルキル;アクリル酸やメタクリル酸等のα,β-不飽和酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸及びそれらのアルキルエステル;スチレン、α-メチルスチレン、ベンゼン環に置換基を有するスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;無水マレイン酸、マレイミド、N-置換マレイミド;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のエチレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸またはメタクリル酸でエステル化したもの;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート等の2個のアルコールの水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール誘導体をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;ジビニルベンゼン等の多官能モノマー;等が挙げられ、これらは、単独或いは2種類以上を併用して用いることが出来る。におい抑制の観点から、アルキル基の炭素数が1~3のアクリル酸アルキルを含有する場合は、上記メタクリル樹脂を構成する全単量体単位100質量%に対して、アルキル基の炭素数が1~3のアクリル酸アルキルに由来する単量体単位の質量割合が、0.1質量%未満であることが好ましく、含有しないことがより好ましい。
【0015】
上記メタクリル樹脂100質量%に対する、メタクリル酸メチルに由来する単量体単位の質量割合は、溶解した時(例えば、アルキルシアノアクリレートに溶解した時)のにおい抑制の観点から、95~99.9質量%である。より好ましくは97.5~99.8質量%、さらに好ましくは99~99.8質量%、特に好ましくは99.5~99.8質量%である。
上記メタクリル樹脂100質量%に対する、上記炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル単量体単位の質量割合は0.1~5質量%である。より好ましくは0.2~2.5質量%、さらに好ましくは0.2~1質量%、特に好ましくは0.2~0.5質量%である。5質量%超となると、アルキルシアノアクリレート等へ溶解した時に、残存する炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル単量体やそれに由来する不純物等により特異なにおいが発生するため好ましくない。0.1質量%未満では炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル単量体単位を共重合させて得られるにおいの改善効果を発揮しないため好ましくない。
【0016】
本実施形態においては、本願の効果を損ねない範囲で、その他の単量体単位を共重合させてもよい。アルキルシアノアクリレート等への溶解性や溶解時のにおいなどを考慮すると、メタクリル酸メチル及び炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル単量体単位の合計量を100質量部としたときに、上記メタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体に由来する単量体単位の質量割合は、0~20質量部であることが好ましく、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下、特に好ましくは5質量部以下である。
上記メタクリル樹脂100質量部中、上記メタクリル酸メチルに由来する単量体単位及び上記炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル単量体単位の合計質量割合は、80質量部以上であることが好ましく、より好ましくは85質量部以上、さらに好ましくは90質量部以上、さらに好ましくは95質量部以上、特に好ましくは100質量部である。
【0017】
本実施形態の増粘剤は、シアノアクリレート系接着剤用である。ここでシアノアクリレート系接着剤としては、主成分としてアルキルシアノアクリレートを含有するもの(例えば、接着剤100質量%に対して、アルキルシアノアクリレートの質量割合が50質量%以上であるもの、より好ましくは70質量%以上であるもの)が好ましい。
上記アルキルシアノアクリレートとしては、メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、プロピルシアノアクリレート、イソプロピルシアノアクリレート、ブチルシアノアクリレート、イソブチルシアノアクリレート、オクチルシアノアクリレート等の炭素数1~10のアルキル基を有するシアノアクリレート;メトキシエチルシアノアクリレート、エトキシエチルシアノアクリレート等が挙げられる。一般にエチルシアノアクリレートが用いられることが多い。
【0018】
<水分率>
上記メタクリル樹脂は水分率が0.01%以上1%以下であることが好ましい。水分率をより低く抑えようとすると、長時間乾燥の必要性が生じることがある。生産性の観点からから、0.01%以上であることが好ましい。一方、1%を超えるとエチルシアノアクリレート等のシアノアクリレートへ溶解後の貯蔵安定性が悪くなる傾向があるため、1%以下であることが好ましい。より好ましくは0.01%以上0.8%以下、更に好ましくは0.02%以上0.7%以下、最も好ましくは0.03%を超えて0.7%未満である。
ここで水分率は、後述の実施例に記載の方法で測定することができ、乾燥法にて測定する。10.0gのメタクリル樹脂を70℃に保持し、10秒間の重量減少率が0.02%以下になったところで測定終了し、合計の重量減少率を水分率とする。
上記メタクリル樹脂(例えば、ペレットやビーズのメタクリル樹脂)の水分率は、例えば、重合後のスラリー等を乾燥することで調整することができる。
上記メタクリル樹脂を乾燥する方法としては、熱風機やブローヒーター等から槽内に熱風を送ることにより乾燥を行う熱風乾燥、系内を減圧した上で必要に応じて加温することで乾燥を行う真空乾燥、得られた重合体を容器中で回転させることにより水分を飛ばすバレル乾燥、遠心力を利用して乾燥させるスピン乾燥、熱風で配管内の樹脂を移送しながら乾燥させる気流乾燥、特定の温度で一定時間乾燥した後槽底が開閉し次の乾燥槽へ落下させる流動床乾燥機等が挙げられる。
水分率を上記範囲とするためには、懸濁重合終了後、得られたスラリーを気流乾燥機及び/又は流動床乾燥機で乾燥させることが好ましい。この際、最終的な水分量が低いと処理に時間がかかるため生産性が悪く、またスラリー送液工程においてポンプアップ不良が起きる等の問題が生じることがある。
【0019】
<重量平均分子量>
上記メタクリル樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が、85,000~1,500,000であることが好ましい。接着剤としたときの機械強度及び使用樹脂量の観点から、85,000以上が好ましい。85,000未満では、シラップを所定の粘度にするためのメタクリル樹脂の使用量が増えるため、増粘剤として使用した場合に、得られる接着剤等の機械特性に影響を与えることもあるため、好ましくない。また、増粘剤として使用する際の溶解性や特性安定性の観点から、1,500,000以下であることが好ましい。特に好ましい分子量については、溶解させた際に所望する粘度、要求特性によりことなるが、比較的低粘度での使用の場合や、溶解速度を向上したい場合は、85,000以上300,000未満が好ましい。一方、高粘度での使用の場合や、少量添加で所望の粘度を得たい場合は、300,000以上1,500,000以下が好ましい。
【0020】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した、上記メタクリル樹脂の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnは、1.7以上2.5以下であることが好ましい。製造の容易さの観点から、より好ましくは1.8以上である。また、溶解時の溶け残り抑制、溶解性向上の観点から、より好ましくは2.5未満、さらに好ましくは2.4以下、とりわけ好ましくは2.3以下、特に好ましくは2.3未満である。
なお、重量平均分子量及び数平均分子量は、GPCで測定される。あらかじめ、単分散の重量平均分子量が既知である試薬として入手可能な標準メタクリル樹脂と、高分子量成分から溶出される分析ゲルカラムを用い、溶出時間と重量平均分子量から検量線を作成しておく。その検量線から各試料の分子量を測定することが出来る。具体的に、後述の実施例に記載の方法により測定してよい。
【0021】
上記メタクリル樹脂の形状は特に規定されないが、ペレット状、フレーク状、ビーズ状または粉体状であることが好ましい。溶解時間を短縮したり、未溶融物を減少させたりする観点から、ビーズ状または粉体状であることが好ましい。
【0022】
<体積平均粒子径>
上記メタクリル樹脂では、ビーズ状で使用する際の体積平均粒子径は100~500μmであることが好ましい。溶解時間は粒子径が小さいほど短くなるため、450μm以下であることが好ましく、作業時のビーズの飛散を抑制する点と未溶融物を減少させる観点から、100μm以上であることが好ましい。上記体積平均粒子径は、より好ましくは150~400μm、最も好ましくは160~350μmである。
本明細書において、体積平均粒子径は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる体積粒子径をいう。
【0023】
上記メタクリル樹脂は、体積粒子径の標準偏差(SD値)が40~180μmであることが好ましく、より好ましくは60~180μmである。標準偏差を上記範囲とすることにより、重合制御が容易となるうえ、重合したビーズを洗浄する際、スラリー移送時などでのライン詰まりを防止でき、また、シアノアクリレート溶解時の溶け残りを防止できる。より好ましくは60~150μm、さらに好ましくは60~140μm、さらに好ましくは70~135μmである。
ここでSD値は下記式で表され、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【数1】
上記式において、xiは体積粒子径、x-(エックスバー)は体積平均粒子径、fiはレーザー散乱におけるxiの体積頻度である。
【0024】
上記メタクリル樹脂の10%体積粒子径D10は、50~300μmであることが好ましく、より好ましくは70~250μmである。
【0025】
体積粒子径の標準偏差及び10%体積粒子径D10をこれらの範囲とする方法としては、重合時に平均粒子径が10~40μmである懸濁剤を用いること、懸濁剤及び水相のpHを4~7の範囲に調整すること、あらかじめ懸濁剤を50℃~90℃に昇温して調整したうえで、重合反応器内の水中(50℃~90℃)に投入すること、攪拌速度を適宜調整すること、等が挙げられ、これらを複数組み合わせることが好ましい。
【0026】
上記メタクリル樹脂(好ましくはメタクリル樹脂ビーズ)100質量%に対する粒径710μm以上である粒子の質量割合は、アルキルシアノアルキレートに対して高い溶解性を得る観点から、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、とりわけ好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下である。粒径710μm以上の粒子の質量割合は、例えば後述する実施例記載の方法で測定することができる。
【0027】
<重合方法>
上記メタクリル樹脂は、例えば、メタクリル樹脂を構成する単量体と、重合開始剤、連鎖移動剤、懸濁剤、その他添加剤等を用いて製造することができる。
【0028】
上記重合開始剤としては、フリーラジカル重合を用いる場合は、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキサイド系や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカボニトリル)等のアゾ系の一般的なラジカル重合開始剤を用いることができ、これらは単独でもあるいは2種類以上を併用しても良い。これらのラジカル開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として実施しても良い。
上記重合開始剤は、単量体の合計質量100質量%に対して、0.001~1質量%の範囲で用いるのが一般的である。
【0029】
上記メタクリル樹脂の製造方法では、ラジカル重合法で製造する場合には、分子量を調整するために、一般的に用いられている連鎖移動剤を使用できる。
上記連鎖移動剤としては、例えば、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、2-エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコート、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)などのメルカプタン類が好ましく用いられる。
上記連鎖移動剤は、単量体の合計質量100質量%に対して、0.001~1質量%の範囲で用いてよい。連鎖移動剤の量は望む分子量に依存して決定される。
【0030】
上記メタクリル樹脂の重合方法としては、懸濁重合または乳化重合を用いることが好ましい。懸濁重合は粒子状、乳化重合は粉末状の樹脂ビーズを与える為、シラップを所望の粘度に調整するための増粘剤として適量を溶解させる際に操作上有利である。
乳化重合よりも懸濁重合の方の重合時間が短い為、懸濁重合の方が好ましい。
特に上記メタクリル樹脂にあって懸濁重合法を用いる場合は、分子量分布を上述の範囲とすることが好ましく、アルキルシアノアクリレート等への溶解時に分子量分布の広さに起因する未溶融物の発生の抑制、溶解後に高い保存安定性を保持すること、を高いレベルで求められる場合、分子量分布が広くなる多段重合ではなく、一段での懸濁重合により得られることが好ましい。
【0031】
また、上記メタクリル樹脂の重合方法としては、平均粒子径が10~40μmである懸濁剤を水中に分散させて重合する方法を用いることが好ましい。中でも、平均粒子径が10~40μmである懸濁剤を水中に分散させて一段懸濁重合することが好ましい。
上記メタクリル樹脂の製造方法においては、懸濁重合水中に分散する懸濁剤の平均粒子径を10~40μmとして重合することが好ましい。これにより、メタクリル樹脂(例えばメタクリル樹脂ビーズ)の体積粒子径の標準偏差を制御でき、また重合挙動が安定化し徐熱量が下がり、生産性を向上することができる。
懸濁剤の平均粒子径は、使用する懸濁剤の粒子径を適宜選定することで調整できる。さらに粒子径の異なる粉体を混ぜ合わせることで、適切な平均粒径の懸濁剤を得ることができる。
【0032】
上記メタクリル樹脂の製造方法においては、水相のpHを4~7の範囲に調整することが好ましい。pHが当該範囲に入ることによって、ビーズの粒子径の標準偏差を制御でき、また重合挙動の安定化をはかることができる。
【0033】
上記メタクリル樹脂の製造方法においては、あらかじめ懸濁剤を50℃~90℃に昇温して調整したうえで、反応器内の水中(50℃~90℃)に投入することが好ましい。これによりメタクリル樹脂(例えばメタクリル樹脂ビーズ)の平均粒子径と、そのバラつきを調整することができる。
【0034】
上記メタクリル樹脂の製造方法によっては、有機系の懸濁剤より無機系の懸濁剤を使用することが好ましい。有機系の懸濁剤の場合はビーズの平均粒子径のバラつきが小さくなりすぎる傾向にある。ここで有機系の懸濁剤としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ酢酸ビニル、等が挙げられる。
上記無機懸濁剤としては、アルキルシアノアクリレートへの溶解後の安定性等を考慮するとカルシウム及び/又はアルミニウムを含む無機化合物を含むことが好ましく、例えば、リン酸三カルシウム(第3リン酸カルシウム)等のリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の無機化合物が挙げられる。特に、溶解後の安定性の観点から、アルミニウムを含む無機化合物を含むことがより好ましい。
また、上記懸濁剤は、さらに、ポリエチレングリコール、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、等の懸濁助剤を含んでいてもよい。上記懸濁助剤は、懸濁剤100質量%に対して、0.01~10質量%含んでいてよい。
上記懸濁剤は、水中にモノマー原料とともに混合して用いることが好ましい。
【0035】
<洗浄方法>
上記メタクリル樹脂の製造方法においては、懸濁剤除去のために、酸洗浄や水洗、アルカリ洗浄等の操作を行うことが好ましい。これらの洗浄操作を行う回数は、作業効率と懸濁剤の除去効率から最適な回数を選べばよく、一回でも複数回繰り返してもよい。
洗浄を行う際の温度は懸濁剤の除去効率や得られる重合体の着色度合等を考慮して最適な温度を選べばよく、20~100℃であることが好ましい。より好ましくは30~95℃、更に好ましくは40~95℃、特に好ましくは50~80℃である。
また、洗浄時の一回あたりの洗浄時間は、洗浄効率、増粘剤として使用した際のにおいの低減、シアノアクリレートへの溶解安定性の観点から10~180分であることが好ましく、より好ましくは20~150分である。
洗浄時に使用する洗浄液のpHは、懸濁剤除去が可能な範囲であればよいが、好ましくはpH1~12である。酸洗浄を行う場合のpHは、懸濁剤の除去効率や得られる重合体の色調の観点からpH1~5であることが好ましく、より好ましくはpH1.2~4である。その際使用する酸としては、懸濁剤除去が可能なものであればよく、特に規定はされないが、従来公知の無機酸、有機酸を使用することができる。好適に使用される酸の一例を挙げると、無機酸としては塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、硼酸等が挙げられ、それぞれ水等で希釈された希釈溶液で使用してもよい。有機酸としては、カルボキシル基やスルホ基、ヒドロキシ基、チオール基、エノールを有するものが挙げられる。懸濁剤の除去効果や得られる樹脂の色調を考慮すると、より好ましくは硝酸、硫酸、カルボキシル基を有する有機酸である。
酸洗浄後には、シアノアクリレートへの溶解時の溶け残りを抑制する観点から、更に水洗やアルカリ洗浄を行うことが好ましい。より好ましくは50℃以上の温水で洗浄を実施する方法であり、さらに好ましくは50℃以上の温水で洗浄を実施した後にさらにアルカリ洗浄及び/又は50℃以上の温水で洗浄を実施する方法である。
洗浄後のスラリーのpHが2以上9以下、好ましくは4以上7以下、さらに好ましくは5以上6.8以下、特に好ましくは5.5以上6.5以下に調整することで、シアノアクリレートへ溶解させたときの貯蔵安定性に優れ、耐光性にも優れた増粘剤を得ることができる。
【0036】
(添加剤)
本実施形態の増粘剤は、任意選択的にその他の添加剤を配合してもよい。添加剤は、本発明の効果を発揮できる限り特に限定されることなく、目的に応じて、適宜選択されてよい。
【0037】
添加剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤;可塑剤;難燃剤;難燃助剤;硬化剤;硬化促進剤;帯電防止剤;導電性付与剤;応力緩和剤;離型剤;結晶化促進剤;加水分解抑制剤;潤滑剤;衝撃付与剤;摺動性改良剤;相溶化剤;核剤;フィラー等の強化剤;流動調整剤;染料;増感剤;着色剤;沈降防止剤;タレ防止剤;充填剤;消泡剤;光拡散性微粒子;防錆剤;抗菌・防カビ剤;防汚剤;導電性高分子等が挙げられる。
【0038】
<熱安定剤>
上記好適に使用される熱安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、1種又は2種以上を併用してしてもよい。
【0039】
熱安定剤の含有量は、熱安定性を向上させる効果が得られる量であればよく、含有量が過剰である場合、溶解時に析出するおそれがあることから、メタクリル樹脂100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下、さらにより好ましくは0.8質量部以下であり、よりさらに好ましくは0.01~0.8質量部、特に好ましくは0.01~0.5質量部である。
【0040】
<紫外線吸収剤>
紫外線吸収剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物等が挙げられる。
【0041】
また、上記紫外線吸収剤の融点(Tm)は、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましく、160℃以上であることがさらにより好ましい。
上記紫外線吸収剤は、23℃から260℃まで20℃/分の速度で昇温した場合の質量減少割合が50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることがさらにより好ましく、5%以下であることがよりさらに好ましい。
【0042】
上記紫外線吸収剤の含有量は、本発明の効果を発揮する量であればよいが、多量に入れて過ぎた場合、接着剤として溶解させた際に析出する可能性もあることから、メタクリル樹脂100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2.5質量部以下、さらにより好ましくは2質量部以下、よりさらに好ましくは1.8質量部以下であり、また、配合の効果を発揮する観点から0.01質量部以上であることが好ましい。
【0043】
本実施形態の増粘剤は、上述の方法で得られた上記メタクリル樹脂をそのまま増粘剤として用いてもよいし、さらに、その他のメタクリル樹脂組成物と混合して増粘剤としてもよい。
本実施形態の増粘剤は、特にシアノアクリレート(好ましくはアルキルシアノアクリレート、より好ましくはエチルシアノアクリレート)系増粘剤用途に好適に使用できる。
【0044】
上記増粘剤中の上記メタクリル樹脂の質量割合としては、増粘剤100質量%に対して、80~100質量%であることが好ましく、より好ましくは90~100質量%、特に好ましくは99~100質量%である。
【0045】
<重量平均分子量>
上記増粘剤は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が、85,000~1,500,000であることが好ましい。接着剤としたときの機械強度及び使用樹脂量の観点から、85,000以上が好ましい。85,000未満では、シラップを所定の粘度にするための増粘剤の使用量が増えるため、得られる接着剤等の機械特性に影響を与えることもあるため、好ましくない。また、溶解性や特性安定性の観点から、1,500,000以下であることが好ましい。特に好ましい分子量については、溶解させた際に所望する粘度、要求特性によりことなるが、比較的低粘度での使用の場合や、溶解速度を向上したい場合は、85,000以上300,000未満が好ましい。一方、高粘度での使用の場合や、少量添加で所望の粘度を得たい場合は、300,000以上1,500,000以下が好ましい。
【0046】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した、上記増粘剤の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnは、2.5以下であることが好ましく、より好ましくは1.7以上2.5以下である。製造の容易さの観点から、より好ましくは1.8以上である。また、溶解時の溶け残り抑制、溶解性向上の観点から、より好ましくは2.5未満、さらに好ましくは2.4以下、とりわけ好ましくは2.3以下、特に好ましくは2.3未満である。
なお、重量平均分子量及び数平均分子量は、GPCで測定でき、具体的に、後述の実施例に記載の方法により測定してよい。
【0047】
<溶解安定性>
上記増粘剤(好ましくは、重量平均分子量が85,000以上300,000未満である上記メタクリル樹脂を含む増粘剤)は、50℃のエチルシアノアクリレートに20質量%の濃度で溶かしたのち、25℃にて測定した粘度をη1、エチルシアノアクリレートに20質量%の濃度で溶かしたのち、60℃で48時間放置した後、25℃にて測定した粘度をη2とした時、
1.0<η2/η1<5.0
を満たすことが好ましい。
ここで、60℃で48時間放置とは、60℃のオーブンに入れてからの経過時間が46時間~50時間の間であればよい。
η2/η1が上記範囲となることで、上記増粘剤をアルキルシアノアクリレートに溶解させた後、常温で長時間(例えば数か月)放置された場合であっても粘度および接着性能を維持することができる。
η2/η1を1.0超5.0未満に調整するための手段としては、炭素数4以上の(メタ)アルキル基を有するアクリル酸アルキル単量体単位を一定量共重合すること、メタクリル樹脂の水分率を調整すること、粒子径の標準偏差を一定の範囲内とすること、粒径710μm以上の粒子の重量割合を低減すること、などが挙げられ、これらを複数組み合わせることが好ましい。
好ましくは1.0<η2/η1<4.5、より好ましくは1.0<η2/η1<4.0である。1.0以下であると溶解後に粘度が下がってしまい増粘剤としての効果を果たさないので好ましくない。5以上であると数か月間などの長期の保管や、移送時に気温が上がるなどした場合に固化してしまったり、固化後の接着剤としての強度が劣ったりすることが懸念され、好ましくない。
【0048】
上記増粘剤は、重量平均分子量が300,000以上1,500,000の範囲にある上記メタクリル樹脂を含む場合、50℃のエチルシアノアクリレートに10質量%の濃度で溶かしたのち、25℃にて測定した粘度をη3、エチルシアノアクリレートに10質量%の濃度で溶かしたのち60℃で48時間放置した後、25℃にて測定した粘度をη4とした時、
1.0<η4/η3<5.0
を満たすことが好ましい。
当該範囲となることで、上記増粘剤をアルキルシアノアクリレートに溶解させた後、常温で長時間(数か月)放置された場合であっても粘度および接着性能を維持することができる。
好ましくは1.0<η4/η3<4.5、より好ましくは1.0<η4/η3<4.0である。
1.0以下であると溶解後に粘度が下がってしまい増粘剤としての効果を果たさないので好ましくない。5以上であると数か月間などの長期の保管や、移送時に気温が上がるなどした場合に固化してしまったり、固化後の接着剤としての強度が劣ったりすることが懸念され、好ましくない
なお上記粘度η1、η2、η3、η4は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0049】
<MMA揮発量>
上記増粘剤は、においを抑制する観点から、上記増粘剤5mgを60℃で10分加熱した時のMMA揮発量が、10質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは5質量ppm以下、更に好ましくは1質量ppm以下である。
中でも、上記増粘剤中に含まれる上記メタクリル樹脂5mgを60℃で10分加熱した時のMMA揮発量が、10質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは5質量ppm以下、更に好ましくは1質量ppm以下である。
揮発量を当該範囲とする方法としては、例えば、重合で得られたスラリーを100℃以上、好ましくは120℃以上の温度の気流下で乾燥させる方法が挙げられる。このMMA揮発量は熱分解GC/MSにて測定できる。
【0050】
<アセトン溶液のYI値>
上記増粘剤は、上記増粘剤を10質量%の濃度でアセトンに溶かし、厚み1cmセルで測定したYI値が、0.1~2であることが好ましく、より好ましくは0.2~1.9、更に好ましくは0.3~1.8である。
また、上記増粘剤中に含まれる上記メタクリル樹脂を10質量%の濃度でアセトンに溶かし、厚み1cmセルで測定したYI値が、0.1~2であることが好ましく、より好ましくは0.2~1.9、更に好ましくは0.3~1.8である。
YI値が上記範囲に入ることで、色相、耐光性に優れた接着剤を得ることができる。YI値を上記範囲とする方法としては、2段重合ではなく1段重合によりメタクリル樹脂を得る方法等が挙げ/られる。
【0051】
<増粘剤を水に分散させた際のpH>
上記増粘剤は、上記増粘剤20gと100gの純水とを攪拌分散させたあと静置し、固形分を沈降させた後に常温で測定した上澄み液水相のpHが、2以上9以下であることが好ましい。増粘剤を溶解させて使用する際の色相を特に良好に保つこと、シアノアクリレートへの溶解性、残存物に由来するにおいを抑制する観点から、より好ましくは3以上、とりわけ好ましくは3.5以上である。シアノアクリレート等への溶解後の貯蔵安定性を高める観点から、8.5以下であることが好ましく、さらに好ましくは8以下、とりわけ好ましくは7.5以下である。
また、上記増粘剤中に含まれる上記メタクリル樹脂20gと100gの純水とを攪拌分散させたあと静置し、固形分を沈降させた後に常温で測定した上澄み液水相のpHが、2以上9以下であることが好ましい。増粘剤を溶解させて使用する際の色相を特に良好に保つこと、シアノアクリレートへの溶解性、残存物に由来するにおいを抑制する観点から、より好ましくは3以上、とりわけ好ましくは3.5以上である。シアノアクリレート等への溶解後の貯蔵安定性を高める観点から、8.5以下であることが好ましく、さらに好ましくは8以下、とりわけ好ましくは7.5以下である。
【0052】
<粒径710μm以上の粒子の質量割合>
上記増粘剤100質量%に対する、粒径710μm以上の粒子の質量割合は、シアノアクリレート系接着剤に対して高い溶解性を得る観点から、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、とりわけ好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下である。粒径710μm以上の粒子の質量割合は、例えば後述する実施例記載の方法で測定することができる。
【0053】
[接着剤]
本実施形態の接着剤は、上記メタクリル樹脂を含む上記増粘剤とシアノアクリレート(好ましくは、アルキルシアノアクリレート)とを含む。さらに上記添加剤を含んでいてもよい。
上記接着剤は、上記増粘剤とアルキルシアノアクリレートのみからなっていてもよい。
【0054】
上記接着剤は、25℃での粘度が0.5~10Pa・sであることが好ましい。ここでこの粘度はB型粘度計で測定した粘度である。
より好ましくは1~9Pa・s、更に好ましくは2~8Pa・sである。当該範囲となることでハンドリング性に優れた接着剤が得られる。接着剤の粘度を上記範囲に調整する方法としては、メタクリル樹脂の重量平均分子量を調整すること、接着剤中のメタクリル樹脂又は増粘剤の濃度を調整すること等が挙げられる。具体的には、重量平均分子量の高いメタクリル樹脂を用いる場合には濃度を低くくし、重量平均分子量の低いメタクリル樹脂を用いる場合には濃度を高くすることが挙げられる。一般的に重量平均分子量が高い方が添加量を少なくすることができるため好ましいが、高分子量のメタクリル樹脂は溶解に時間がかかる場合もあり、接着剤としての要求特性に合わせて適宜設定すればよい。
具体的な濃度としては、重量平均分子量が85,000以上300,000未満のメタクリル樹脂は、接着剤100質量%に対して、10~30%の質量パーセント濃度でシアノアクリレート(好ましくはアルキルシアノアクリレート、より好ましくはエチルシアノアクリレート)に溶解することが好ましく、より好ましくは12~28%の質量パーセント濃度、さらに好ましくは15~25%の質量パーセント濃度である。
重量平均分子量が300,000以上1,500,000以下のメタクリル樹脂は、接着剤100質量%に対して、1%~20%の質量パーセント濃度でシアノアクリレート(好ましくはアルキルシアノアクリレート、より好ましくはエチルシアノアクリレート)に溶解することが好ましく、より好ましくは3~18%の質量パーセント濃度、さらに好ましくは5~15%の質量パーセント濃度である。
溶解させる際の温度は溶けやすさの観点から30℃以上が好ましく、安定性の観点から80℃以下が好ましい。
【実施例
【0055】
以下の実施例、比較例を用いて更に具体的に説明する。
<原料>
用いた原料は下記のものである。
メタクリル酸メチル(MMA):旭化成製(重合禁止剤として中外貿易製2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール(2,4-di-methyl-6-tert-butylphenol)を2.5質量ppm添加されているもの)
アクリル酸メチル(MA):三菱ケミカル製(重合禁止剤として、4-メトキシフェノールを15ppm含有するもの)
アクリル酸ブチル(BA):東亜合成製(重合禁止剤として、4-メトキシフェノールを15質量ppm含有するもの)
アクリル酸エチルヘキシル(EHA):東京化成工業製
n-オクチルメルカプタン(n-octyl mercaptan、NOM):アルケマ製
2-エチルヘキシルチオグリコレート(2-ethylhexyl thioglycolate、EHTG):アルケマ製
ラウロイルパーオキサイド(lauroyl peroxide、LPO):日本油脂製
第3リン酸カルシウム(calcium phospate):日本化学工業製
炭酸カルシウム(Calcium calbonate):日東粉化工業製、NN#200、平均粒子径14.8μm
ラウリル硫酸ナトリウム(sodium lauryl sulfate):和光純薬製、懸濁助剤として使用
エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム2水和物(EDTA):キシダ化学製
水酸化アルミニウム:日本軽金属株式会社製、SBX73,B303,B153,B103を用いて、それぞれを適宜混合することで平均粒径を調整した
【0056】
[I.増粘剤の製造]
(実施例1)
-懸濁剤-
4枚傾斜パドル翼を取り付けた攪拌機を有する容器に、水5kg、平均粒子径33μmの水酸化アルミニウム130g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39g、EDTA2.3gを投入、攪拌混合し、混合液(a2)を得た。混合液(a2)中の懸濁剤の平均粒子径は33μmであり、得られた混合液のpHは5.5であった。得られた混合液(a2)を70℃まで加熱した。
次いで、60Lの反応器に水25kgを投入して80℃に昇温し、上記懸濁剤混合液(a2)3kgと、表1に示す配合割合のモノマー原料21kgと、EHTG60gと、LPO43gとを混合した調合溶液を投入した。その後、約80℃を保って懸濁重合を行い、モノマーを投入してから140分後に発熱のピークが観測された。
その後、93℃に1℃/minの速度で昇温した後、45分間約93℃の温度を保持し、重合反応を実質終了して重合体スラリーを得た。
次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入した。次に、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去した上で、濾布を通して濾過し、ビーズ状のメタクリル樹脂粒子と懸濁廃液とに分離した。その際の懸濁廃液のpHは3.3であった。
その後、ビーズ状の重合体とおおよそ等量の約70℃に温めたイオン交換水を加えて攪拌・洗浄、濾過を実施し、同様に約70℃のイオン交換水での洗浄操作をさらにもう一度実施し、スラリー状重合体溶液を得た(合計で2回水洗浄)。得られたスラリー状重合体溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを8.5に調整し、攪拌・洗浄を行った。濾し布で濾過し、さらに70℃に加温したイオン交換水を加えて攪拌、洗浄したところ、得られたスラリー状重合体溶液のpHは6.1であった。その後、濾し布で濾過し、樹脂ビーズを得た。得られた未乾燥の樹脂ビーズは、気流乾燥機を用いて150℃の気流(30Nm/hr)で乾燥した後、流動床乾燥機(25Nm/hr)で90℃、5分乾燥を行い、メタクリル樹脂ビーズを得た。得られたビーズの重量平均分子量は14.2万、Mw/Mn=1.9であった。NMR(日本電子株式会社製、JNM-ECA500)測定の結果、仕込み通りの組成のメタクリル樹脂が得られていることを確かめた。
【0057】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で懸濁剤混合液(a2)を調製した。
次いで、60Lの反応器に水25kgを投入して80℃に昇温し、上記懸濁剤混合液(a2)3kg及び、表1に示す配合割合のモノマー原料21kgとEHTG60g、LPO43gを混合した調合溶液を投入した。その後、約80℃を保って懸濁重合を行い、モノマーを投入してから140分後に発熱のピークが観測された。
その後、93℃に1℃/minの速度で昇温した後、45分間約93℃の温度を保持し、重合反応を実質終了して重合体スラリーを得た。
次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入した。次に、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去した上で、濾布を通して濾過し、ビーズ状のメタクリル樹脂粒子と懸濁廃液とに分離した。その際の懸濁廃液のpHは3.3であった。
その後、ビーズ状の重合体とおおよそ等量の約70℃に温めたイオン交換水を加えて攪拌・洗浄、濾過を実施し、同様に約70℃のイオン交換水での洗浄操作をさらにもう二度実施し、スラリー状重合体溶液を得た(合計で3回水洗浄)。得られたスラリー状重合体溶液のpHは6.0であった。その後、濾し布で濾過し、樹脂ビーズを得た。得られた未乾燥の樹脂ビーズは、気流乾燥機を用いて150℃の気流(30Nm/hr)で乾燥した後、流動床乾燥機(25Nm/hr)で90℃で5分乾燥を行い、メタクリル樹脂ビーズを得た。得られたビーズの重量平均分子量は13.6万、Mw/Mn=2.0であった。
【0058】
(実施例3、比較例1、2)
表1に記載の組成で重合をした以外は実施例1と同様にして、メタクリル樹脂ビーズを得た。
【0059】
(実施例4)
気流乾燥機の温度を100℃とした以外は実施例1と同様の組成、重合方法でメタクリル樹脂ビーズを得た。
【0060】
(実施例5)
-懸濁剤-
4枚傾斜パドル翼を取り付けた攪拌機を有する容器に、水5kg、平均粒子径23μmの水酸化アルミニウム130g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39g、EDTA2.3gを投入、攪拌混合し、混合液(a2)を得た。混合液(a2)中の懸濁剤の平均粒子径は23μmであり、得られた混合液のpHは5.5であった。得られた混合液(a2)を70℃まで加熱した。
60Lの反応器に水27kg、実施例1と同様に調製した懸濁剤3kg、表2に示す配合割合のモノマー原料16kg、EHTG13g、LPO25gを投入し攪拌混合し、反応器の反応温度を80℃で150分重合を行い、その後、93℃に1℃/minの速度で昇温した後、45分間熟成し、重合反応を実質終了して重合体スラリーを得た。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入した。
次に、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去した上で、得られた懸濁液を、濾布を通して濾過し、ビーズ状のメタクリル樹脂粒子と、懸濁廃液とに分離した。その後、ビーズ状の重合体とおおよそ等量の70℃に加温したイオン交換水を加えて以降の操作は実施例1と同様に行い、樹脂ビーズを得た。得られた樹脂ビーズの重量平均分子量は40.2万、Mw/Mn=2.2であった。
【0061】
(実施例6)
モノマー原料中、EHTGの量を8gとした以外は実施例5と同様の組成、重合方法で、メタクリル樹脂ビーズを得た。モノマー投入から発熱ピークが観測されるまでの時間は120分であった。得られた樹脂ビーズの重量平均分子量は65.4万、Mw/Mn=2.2であった。
【0062】
(実施例7)
使用する水の量を30kgとし、EHTGを添加せずに重合を行った以外は実施例5と同様の組成、重合方法で、メタクリル樹脂ビーズを得た。モノマー投入から発熱ピークが観測されるまでの時間は100分であった。得られた樹脂ビーズの重量平均分子量は125万、Mw/Mn=2.4であった。
【0063】
(実施例8、比較例3、4)
BAの代わりにアクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸メチルを用いた以外は実施例1と同様にしてメタクリル樹脂ビーズを得た。
【0064】
(実施例9)
実施例1と同様の組成、重合方法で重合体スラリーを得た。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入し、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去した上で、濾布を通して濾過し、ビーズ状のメタクリル樹脂粒子と懸濁廃液とに分離した。
その後、ビーズ状の重合体とおおよそ等量の常温(約25℃)のイオン交換水を加えて攪拌・洗浄したところ、スラリー液のpHは4.6であった。濾し布で濾過し、樹脂ビーズを得た。得られた未乾燥の樹脂ビーズは、気流乾燥機を用いて150℃の気流(30Nm/hr)で乾燥した後、流動床乾燥機(25Nm/hr)で90℃で5分乾燥を行い、メタクリル樹脂ビーズを得た。
【0065】
(実施例10)
実施例3と同様の組成、重合方法で重合体スラリーを得た。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入し、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去した上で、濾布を通して濾過し、ビーズ状のメタクリル樹脂粒子と懸濁廃液とに分離した。
その後、ビーズ状の重合体とおおよそ等量の常温の水を加えたのち水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10.5となるように調整して攪拌・洗浄し、濾し布で濾過して樹脂ビーズを得た。得られた未乾燥の樹脂ビーズは、気流乾燥機を用いて150℃の気流(30Nm/hr)で乾燥した後、流動床乾燥機(25Nm/hr)で90℃、5分乾燥を行い、メタクリル樹脂ビーズを得た。
【0066】
(実施例11)二段重合での重合例
4枚傾斜パドル翼を取り付けた攪拌機を有する容器に、水2kg、第三リン酸カルシウム65g、炭酸カルシウム39g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39gを投入し、懸濁剤液(A)を得た。
次いで、60Lの反応器に水26kgを投入して80℃に昇温し、懸濁剤液(A)全量、及びメタクリル酸メチル3900g、アクリル酸ブチル20g、EHTG42g、LPO28gをあらかじめ配合したモノマー原料を投入した。
約80℃を保って150分間懸濁重合を行い、反応を実質終了して重合体(I)を得た。その後、80℃で60分間攪拌したのち、次にメタクリル酸メチル20kg、アクリル酸ブチル100g、NOM35g、LPO40gを予め配合したモノマー原料を反応器に投入し、引き続き約80℃で90分懸濁重合を行い、次いで92℃に1℃/minの速度で昇温した後、60分間保持し、重合反応を実質終了した。
次に、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入した。次に、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去した上で、濾布を通して濾過し、ビーズ状のメタクリル樹脂粒子と懸濁廃液とに分離した。その際の懸濁廃液のpHは3.3であった。
その後、ビーズ状の重合体とおおよそ等量の約70℃に温めたイオン交換水を加えて攪拌・洗浄、濾過を実施し、同様に約70℃のイオン交換水での洗浄操作をさらにもう一度実施し、スラリー状重合体溶液を得た(合計で2回水洗浄)。得られたスラリー状重合体溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを8.5に調整し、攪拌・洗浄を行った。濾し布で濾過し、さらに70℃に加温したイオン交換水を加えて攪拌、洗浄したところ、得られたスラリー状重合体溶液のpHは6.1であった。その後、濾し布で濾過し、樹脂ビーズを得た。得られた未乾燥の樹脂ビーズは、気流乾燥機を用いて150℃の気流(30Nm/hr)で乾燥した後、流動床乾燥機(25Nm/hr)で90℃で5分乾燥を行い、メタクリル樹脂ビーズを得た。得られたビーズの重量平均分子量は12.4万、Mw/Mn=2.6であった。
【0067】
〔比較例5〕
4枚傾斜パドル翼を取り付けた攪拌機を有する容器に、水2kg、第三リン酸カルシウム65g、炭酸カルシウム39g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39gを投入し、懸濁剤液(A)を得た。
次いで、60Lの反応器に水21kgを投入して80℃に昇温し、懸濁剤液(A)及び、表3に示す配合割合のモノマー原料及び、EHTG60g、LPO63gを混合した調合溶液を投入した。その後、約80℃を保って110分間懸濁重合を行い、次いで93℃に1℃/minの速度で昇温した後、45分間約93℃の温度を保持し、重合反応を実質終了して重合体スラリーを得た。開始剤のLPOを増量したため、重合時間が短縮された。
次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入した。次に、重合反応溶液を、濾布を通して濾過し、ビーズ状のメタクリル樹脂粒子と懸濁廃液とに分離した。その際の懸濁廃液のpHは3.3であった。
その後、ビーズ状の重合体とおおよそ等量の約70℃に温めたイオン交換水を加えて攪拌・洗浄、濾過を実施し、同様に約70℃のイオン交換水での洗浄操作をさらにもう一度実施し、スラリー状重合体溶液を得た(合計で2回水洗浄)。得られたスラリー状重合体溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを8.5に調整し、攪拌・洗浄を行った。濾し布で濾過し、さらに70℃に加温したイオン交換水を加えて攪拌、洗浄したところ、得られたスラリー状重合体溶液のpHは6.1であった。その後、濾し布で濾過し、樹脂ビーズを得た。得られた未乾燥の樹脂ビーズは、気流乾燥機を用いて150℃の気流(30Nm/hr)で乾燥した後、流動床乾燥機(25Nm/hr)で90℃、5分乾燥を行い、メタクリル樹脂ビーズを得た。得られたビーズ中の710μm以上の粒子割合は5.1%であった。
【0068】
(実施例12)
-懸濁剤-
4枚傾斜パドル翼を取り付けた攪拌機を有する容器に、水5kg、平均粒子径33μmの水酸化アルミニウム130g、ラウリル硫酸ナトリウム0.39g、EDTA2.3gを投入、攪拌混合し、混合液(a2)を得た。混合液(a2)中の懸濁剤の平均粒子径は33μmであり、得られた混合液のpHは5.5であった。得られた混合液(a2)を70℃まで加熱した。
次いで、60Lの反応器に水25kgを投入して80℃に昇温し、上記懸濁剤混合液(a2)3kgと、表1に示す配合割合のモノマー原料21kgと、EHTG60gと、LPO43gとを混合した調合溶液を投入した。その後、約80℃を保って懸濁重合を行い、モノマーを投入してから140分後に発熱のピークが観測された。
その後、93℃に1℃/minの速度で昇温した後、45分間約93℃の温度を保持し、重合反応を実質終了して重合体スラリーを得た。
次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入した。次に、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去した上で、濾布を通して濾過し、ビーズ状のメタクリル樹脂粒子と懸濁廃液とに分離した。その際の懸濁廃液のpHは3.3であった。
その後、ビーズ状の重合体とおおよそ等量の約70℃に温めたイオン交換水を加えて攪拌・洗浄、濾過を実施し、同様に約70℃のイオン交換水での洗浄操作をさらにもう一度実施し、スラリー状重合体溶液を得た(合計で2回水洗浄)。得られたスラリー状重合体溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを8.5に調整し、攪拌・洗浄を行った。濾し布で濾過し、さらに70℃に加温したイオン交換水を加えて攪拌、洗浄したところ、得られたスラリー状重合体溶液のpHは6.1であった。その後、濾し布で濾過し、樹脂ビーズを得た。得られた未乾燥の樹脂ビーズは、気流乾燥機を用いて80℃の気流(30Nm/hr)で乾燥した後、流動床乾燥機(25Nm/hr)で90℃、5分乾燥を行い、メタクリル樹脂ビーズを得た。得られたビーズの重量平均分子量は14.7万、Mw/Mn=1.8であった。
【0069】
[II.メタクリル樹脂の物性]
(II-1)(重量平均分子量、分子量分布)
実施例、比較例で得られたメタクリル樹脂ビーズの重量平均分子量、分子量分布を下記の装置、及び条件で測定した。
測定装置:東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-83
20GPC) カラム:TSKguardcolumn SuperH-H 1本、TSKgel SuperHM-M 2本、TSKgel SuperH2500 1本を順に直列接続して使用した。
本カラムでは、高分子量が早く溶出し、低分子量は溶出する時間が遅い。
検出器 :RI(示差屈折)検出器
検出感度 :3.0mV/min
カラム温度:40℃
サンプル :0.02gのメタクリル樹脂のテトラヒドロフラン20mL溶液
注入量 :10μL
展開溶媒 :テトラヒドロフラン、流速;0.6mL/min
内部標準として、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を、0.1g/L添加。
検量線用標準サンプルとして、単分散のピークトップ分子量が既知で分子量が異なる以下の10種のポリメタクリル酸メチル(Polymer Laboratories製;PMMA Calibration Kit M-M-10)を用いた。
ピークトップ分子量(Mp)
標準試料1 1,916,000
標準試料2 625,500
標準試料3 298,900
標準試料4 138,600
標準試料5 60,150
標準試料6 27,600
標準試料7 10,290
標準試料8 5,000
標準試料9 2,810
標準資料10 850
上記の条件で、メタクリル樹脂の溶出時間に対する、RI検出強度を測定した。
GPC溶出曲線におけるエリア面積と、3次近似式の検量線を基にメタクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0070】
(II-2)(体積平均粒子径、D10)
ベックマン・コールター社製LS13320のレーザー散乱方式にて、体積平均粒子径、SD値、10%粒子径、及び懸濁剤の粒子径を測定した。
【0071】
(II-3)(水分率の測定)
SHIMADZU MOISTURE BALANCE MOC-120Hを用いて、10.0gのビーズを70℃に保持し、10秒間の重量減少率が0.02%以下になったところで測定終了し、合計の重量減少率を水分率とした。
【0072】
(II-4)(揮発分の測定)
Agilent社製GC-6890,MSD-5973を用いて、MMA揮発量を測定した。メタクリル樹脂5mgを熱分解炉で60℃で10分加熱し、発生したガスを液体窒素で冷却したカラムHP5-MSでトラップした。トラップされた発生ガス分をGC/MSで分析し、MMA揮発量を定量した。
【0073】
(II-5)(YI値の測定)
得られたメタクリル樹脂を10%の質量パーセント濃度でアセトンに溶かした溶液を、厚み1cmセルに入れて、色差計(有限会社東京電色社製、TC-8600A、光源:10-C)を用いて、JIS K7105に準拠してYI値を測定した。
【0074】
(II-6)(分散させた際の水相pH)
メタクリル樹脂20gと100gの純水とを攪拌分散させたあと静置し、固形分を沈降させた後に常温でpHを測定した。
測定機器 : pHメーター F-52(HORIBA)
電極 : スタンダードToupH 電極 9615S-10D
【0075】
(II-7)(710μm以上の粒子の含有量の測定)
メタクリル樹脂約100gを用いて、JIS-Z8801に基づく、篩(東京スクリーン製JTS-200-45-31(目開き710μm)、JTS-200-45-44(目開き500μm),35(目開き355μm),36(目開き300μm),37(目開き250μm),38(目開き150μm),61(受け皿))を用いて篩い分け試験機TSK B-1を用いて振動力MAXにて10分間篩いを行ったときの各篩に残った粒子重量を測定し、目開き710μmの篩上に残った粒子の含有量(710μm以上の粒子径成分含有量)を測定した。測定は3回実施し、その平均値で含有量を算出した。
[710μm以上含有量]=100×[目開き710μmの篩上に残った粒子重量]/[篩分け試験機に供したサンプル重量](%)
【0076】
(II-8)(シラップの粘度)
スターラー付きオイルバスにシリコーンオイルを入れ、50℃に加熱する。110ccネジ口瓶(直径50mm)に樹脂ビーズ16g、エチルシアノアクリレート64g(増粘剤20質量%の場合)と回転子を入れ、ネジ口瓶の蓋を閉める。オイルバスにネジ口瓶を入れ、スターラーを回転(150rpm)させ、樹脂ビーズをエチルシアノアクリレートに溶解した。10質量%の場合は樹脂ビーズ8g、エチルシアノアクリレート72gの比率で溶解させた。
重量平均分子量が85,000以上300,000未満のものはエチルシアノアクリレートに20質量%の濃度で溶解させ、冷却し、25℃にて測定した粘度η1、60℃で48時間放置した後、25℃にて測定した粘度η2を測定した。
重量平均分子量が30万以上のものは10質量%の濃度で溶解させて冷却し25℃にて測定した粘度η3、60℃で48時間放置した後、25℃にて測定した粘度η4を測定した。
粘度測定機器はB型粘度計(英弘精機製デジタル粘度計LVDV Next)を使用した。上記溶解速度に記載の方法で作製したシラップを25℃まで冷却した。シラップ液を40cc測定管に量り取り、測定管を粘度計に設置して粘度測定を開始した。ロータの回転数60rpmで粘度を測定した。(60rpmで測定範囲を越えた場合は回転数を落として測定する)
粘度の高いものは、シラップ製造時に添加量を調整し、適切な粘度に調整すればよい。
実施例7は重量平均分子量が125万と高く、10%溶液での粘度が43Pa・sと高かったため、7%溶液としたところ、5.4Pa・sのシラップが得られた。
【0077】
[III.増粘剤の評価]
実施例、比較例で得られたメタクリル樹脂ビーズを増粘剤として用いて、以下の評価を行った。
【0078】
(III-1)(におい)
400gのメタクリル樹脂をポリ容器(密閉式、500mLのアイボーイ広口瓶)に入れ、60℃で2時間加熱した後30℃まで放冷した後臭いを嗅ぎ、以下の基準で点数化した。
6:耐えられない臭い
5:非常に鼻につく臭い
4:鼻につく臭い
3:強烈に感じられるが鼻につかない
2:感じる(軽微)が鼻につかない
1:感じにくい。
この評価を5人で行い、その平均が
2以下:A(非常に優れる)
2超3以下:B(優れる)
3超4以下:C(良好)
4超:D(不良)
とした。
【0079】
(III-2)(溶解速度)
スターラー付きオイルバスにシリコーンオイルを入れ、50℃に加熱する。110ccネジ口瓶(直径50mm)に増粘剤16g、エチルシアノアクリレート単量体64g(増粘剤20wt%の場合)と回転子を入れ、ネジ口瓶の蓋を閉める。オイルバスにネジ口瓶を入れ、スターラーを回転(150rpm)させたら測定開始。瓶中の増粘剤がエチルシアノアクリレートに溶けるまでの時間を測定する。10wt%の場合は増粘剤8g、エチルシアノアクリレート単量体72gの比率で溶解させた。
45分以内にすべて溶けたもの:A(非常に優れる)
60分以内にすべて溶けたもの:B(優れる)
溶解に60分以上かかったがほぼ溶解したもの:C(良好)
未溶融物がみられたもの:D(不良)
【0080】
(III-3)(溶解後の長期安定性)
上記と同様にメタクリル樹脂ビーズを50℃でエチルシアノアクリレートに溶解した。重量平均分子量が85,000以上300,000未満のものはエチルシアノアクリレートに20%の質量パーセント濃度で溶解させ、重量平均分子量が300,000以上のものは10%の質量パーセント濃度で溶解させたのち、冷却し、25℃にて測定した粘度η5と、25℃で90日放置後の粘度η6を求めた。
η6/η5が
5未満であれば安定性A(極めて優れる)
5以上10未満であればB(優れる)
10以上20未満であればC(良好)
20以上であればD(不良)とした。
【0081】
(III-4)(耐光性)
上記でエチルシアノアクリレートに溶解させたサンプルについて、一部を抜き出し、透明な100mLの容器(密閉式)にいれ、直射日光の当たる室外にて1か月放置した。放置後、サンプルが固化してしまったものは不良(C)、固化はしないものの明確に流動性が低下したものは良好(B)、流動性を保っていたものは優れる(A)とした。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
実施例1~4と比較例1~4を比較すると、炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル単量体単位を所定量含有することで、シアノアクリレート溶解後のにおいが低減することがわかる。
また、実施例1と実施例11を比較すると、双方ともに炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル単量体単位を共重合させているため、シアノアクリレート溶解後のにおいは低減されているが、分子量分布の広い多段重合品と比較して分子量分布の狭い単重合品ではより高い溶解安定性を有していることがわかる。
実施例1と実施例9、10を比較すると増粘剤を水に分散させたときの水相のpHが異なる。いずれも高度ににおいは改善されているが、実施例1ではより高いレベルで溶解安定性と耐光性を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の増粘剤は、においが改良され、シアノアクリレート溶解後の安定性に優れており産業上の利用可能性がある。