(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20230925BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20230925BHJP
G01N 24/08 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
A61B5/055 311
A61B5/055 370
G01N24/00 520Y
G01N24/08 510Y
(21)【出願番号】P 2018147795
(22)【出願日】2018-08-06
【審査請求日】2021-06-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】新田 修平
(72)【発明者】
【氏名】今村 那芳
(72)【発明者】
【氏名】大牟禮 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】高井 博司
(72)【発明者】
【氏名】市之瀬 伸保
(72)【発明者】
【氏名】葛西 由守
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-289862(JP,A)
【文献】特開2008-264499(JP,A)
【文献】特開2016-041384(JP,A)
【文献】特開2016-073710(JP,A)
【文献】特開平09-182729(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0271023(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1組織および前記第1組織とは異なる第2組織について、それぞれの共鳴周波数分布を取得する取得部と、
前記第1組織および前記第2組織のいずれか一方を抑制または強調する周波数選択的パルスの種類と前記共鳴周波数分布とに応じて、前記周波数選択的パルスの中心周波数を算出する算出部と、
算出した前記中心周波数で前記周波数選択的パルスを印加したのち、磁気共鳴信号を収集する収集部と、を具備し、
前記算出部は、前記周波数選択的パルスが収集対象となる組織からの信号を抑制する周波数帯域範囲と
前記共鳴周波数分布とから計算される面積の大きさ
に基づく値、または前記周波数選択的パルスが抑制対象となる組織からの信号を励起する周波数帯域範囲と
前記共鳴周波数分布とから計算される面積の大きさ
に基づく値が閾値以上である場合、前記周波数選択的パルスのパルス幅を調整する磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記取得部は、3点Dixon法を用いて前記共鳴周波数分布を取得する請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記共鳴周波数分布を、静磁場シミング処理で得られる強度画像に基づいて取得する請求項1または請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記周波数選択的パルスは、脂肪抑制のためのパルスである請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記周波数選択的パルスは、水励起のためのパルスである請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記共鳴周波数分布と、前記周波数選択的パルスの周波数特性と、推定される脂肪抑制結果とを表示する表示部を、さらに具備する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記算出部は、撮像範囲における対象領域に基づいて、中心周波数を最適化する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静磁場分布に基づいて静磁場に対するシミング(以下、静磁場シミングと呼ぶ)を実行する磁気共鳴イメージング(以下、MRI(Magnetic Resonance Imaging)とも呼ぶ)装置の技術が知られている。例えば、MRI装置は、マルチスライス撮像における静磁場シミングにより、スライスごとにプリパルスの中心周波数とRFパルスの中心周波数とを最適化する。
しかし、撮像に用いる脂肪抑制パルスの周波数特性によっては、最適化された中心周波数でも脂肪抑制効果が変わり、性能が落ちる場合がある。結果として、磁気共鳴画像の画質が向上しないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、磁気共鳴画像の画質を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、取得部と、算出部と、収集部とを含む。取得部は、第1組織および前記第1組織とは異なる第2組織について、それぞれの共鳴周波数分布を取得する。算出部は、前記第1組織および前記第2組織のいずれか一方を抑制または強調する周波数選択的パルスの種類と前記共鳴周波数分布とに応じて、前記周波数選択的パルスの中心周波数を算出する。収集部は、算出した前記中心周波数で前記周波数選択的パルスを印加したのち、磁気共鳴信号を収集する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る脂肪抑制パルスの種類と周波数特性とについて説明する図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る中心周波数の最適化についてペナルティを設ける場合の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る中心周波数の最適化についてペナルティを設ける場合の別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置について説明する。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作をおこなうものとして、重複する説明を適宜省略する。
図1は、本実施形態における磁気共鳴イメージング装置1の構成を示す図である。
図1に示すように、磁気共鳴イメージング装置1は、静磁場磁石100と、シムコイル101と、シムコイル電源102と、傾斜磁場コイル103と、傾斜磁場電源105と、寝台107と、寝台制御回路109と、送信回路113と、送信コイル115と、受信コイル117と、受信回路119と、撮像制御回路121と、インタフェース125と、ディスプレイ127と、記憶装置129と、処理回路131とを備える。寝台制御回路109と、撮像制御回路121と、インタフェース125と、ディスプレイ127と、記憶装置129と、処理回路131とは、無線、有線を問わず、データの伝送のために接続される。なお、被検体Pは、磁気共鳴イメージング装置1に含まれない。
【0008】
静磁場磁石100は、中空の略円筒状に形成された磁石である。静磁場磁石100は、内部の空間に略一様な静磁場を発生する。静磁場磁石100としては、例えば、超伝導磁石等が使用される。
図1に示すように、Z軸方向は、静磁場の方向と同方向であるとする。また、Y軸方向は、鉛直方向とし、X軸方向は、Z軸及びY軸に垂直な方向とする。
【0009】
シムコイル101は、静磁場磁石100により発生された静磁場の不均一性の2次以上の複数次成分を補正する補正磁場を発生する。シムコイル101は、傾斜磁場コイル103の外周面上に、不図示の絶縁層を介して接合される。一般的に、静磁場の不均一性は、0次成分、1次成分X1、Y1、Z1、および2次成分X2、Y2、Z2、XY、YZ、ZXなどの各成分に分けて表される。また、静磁場の不均一性には、3次成分以上の高次の成分も存在する。複数次成分は、2次成分以上の高次の成分に対応する。
【0010】
以下、説明を簡単にするために、高次の成分は、2次成分であるものとする。このとき、シムコイル101は、2次シムの構造を有する。このとき、シムコイル101は、例えば、静磁場の不均一性の2次成分ZX、XY、YZ、(Z2-(X2+Y2)/2)、(X2-Y2)に対応する5つのコイルパターンの構造を有する。シムコイル101における5つのコイルパターンは、シムコイル電源102から供給された電流に応じて、静磁場の不均一性の2次成分ZX、XY、YZ、(Z2-(X2+Y2)/2)、(X2-Y2)を補正するための5チャンネルの補正磁場をそれぞれ発生する。なお、静磁場の不均一性の複数次成分を加味した静磁場シミングを実行する場合、シムコイル101は、複数次成分に応じたコイルパターンを有する。本実施形態に関する静磁場シミングについては、後程説明する。
【0011】
シムコイル電源102は、撮像制御回路121による制御のもとで、シムコイル101に電流を供給する電源装置である。具体的には、シムコイル電源102は、シムコイル101における5つのコイルパターン各々に対して独立に電流を供給する。すなわち、シムコイル電源102は、本実施形態に関する静磁場シミングにより決定された2次シミング値に対応する電流を、シムコイル101における5つのコイルパターン各々に供給する。
【0012】
傾斜磁場コイル103は、中空の略円筒状に形成されたコイルである。傾斜磁場コイル103は、シムコイル101の内側に配置される。傾斜磁場コイル103は、互いに直交するX、Y、Zの各軸に対応する3つのコイルが組み合わされて形成される。傾斜磁場コイル103における3つのコイルは、傾斜磁場電源105から個別に電流供給を受けて、X、Y、Zの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生する。
【0013】
傾斜磁場コイル103により発生するX、Y、Z各軸の傾斜磁場は、例えば、周波数エンコード用傾斜磁場(リードアウト傾斜磁場ともいう)、位相エンコード用傾斜磁場およびスライス選択用傾斜磁場を形成する。スライス選択用傾斜磁場は、任意に撮像断面を決めるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場は、空間的位置に応じて磁気共鳴信号(以下、MR(Magnetic Resonance)信号と呼ぶ)の位相を変化させるために利用される。周波数エンコード用傾斜磁場は、空間的位置に応じてMR信号の周波数を変化させるために利用される。加えて、傾斜磁場コイル103により発生するX、Y、Z各軸の傾斜磁場は、静磁場の1次シミングのオフセットとして用いられる。
【0014】
傾斜磁場電源105は、撮像制御回路121による制御のもとで、傾斜磁場コイル103に電流を供給する電源装置である。具体的には、X軸に対応する傾斜磁場コイルは、傾斜磁場電源105からの電流の供給により、静磁場の不均一性のX1成分と略同様な磁場方向を有する補正磁場と、周波数エンコード用傾斜磁場とを発生する。また、Y軸に対応する傾斜磁場コイルは、傾斜磁場電源105からの電流の供給により、静磁場の不均一性のY1成分と略同様な磁場方向を有する補正磁場と、位相エンコード用傾斜磁場とを発生する。Z軸に対応する傾斜磁場コイルは、傾斜磁場電源105からの電流の供給により、静磁場の不均一性のZ1成分と略同様な磁場方向を有する補正磁場と、スライス選択用傾斜磁場とを発生する。すなわち、X軸、Y軸およびZ軸にそれぞれ対応する3つの傾斜磁場コイルは、撮像に関する傾斜磁場の発生に加えて、静磁場の不均一性の1次成分を補正するためにも用いられる。
【0015】
寝台107は、被検体Pが載置される天板1071を備えた装置である。寝台107は、寝台制御回路109による制御のもと、被検体Pが載置された天板1071を、ボア111内へ挿入する。寝台107は、例えば、長手方向が静磁場磁石100の中心軸と平行になるように、検査室内に設置される。
【0016】
寝台制御回路109は、寝台107を制御する回路である。寝台制御回路109は、インタフェース125を介した操作者の指示により寝台107を駆動することで、天板1071を長手方向および上下方向、場合によっては左右方向へ移動させる。
【0017】
送信回路113は、撮像制御回路121による制御のもとで、ラーモア周波数で変調された高周波パルスを送信コイル115に供給する。
【0018】
送信コイル115は、傾斜磁場コイル103の内側に配置されたRFコイルである。送信コイル115は、送信回路113からの出力に応じて、高周波磁場に相当するRF(Radio Frequency)パルスを発生する。送信コイル115は、例えば、複数のコイルエレメントを有する全身用コイル(以下、WB(Whole Body)コイルと呼ぶ)である。WBコイルは、送受信コイルとして使用されてもよい。また、送信コイル115は、1つのコイルにより形成されるWBコイルであってもよい。
【0019】
受信コイル117は、傾斜磁場コイル103の内側に配置されたRFコイルである。受信コイル117は、高周波磁場によって被検体Pから放射されるMR信号を受信する。受信コイル117は、受信されたMR信号を受信回路119へ出力する。受信コイル117は、例えば、1以上、典型的には複数のコイルエレメントを有するコイルアレイである。なお、
図1において送信コイル115と受信コイル117とは別個のRFコイルとして記載されているが、送信コイル115と受信コイル117とは、一体化された送受信コイルとして実施されてもよい。送受信コイルは、被検体Pの撮像対象部位に対応し、例えば、頭部コイルのような局所的な送受信RFコイルである。
【0020】
受信回路119は、撮像制御回路121による制御のもとで、受信コイル117から出力されたMR信号に基づいて、デジタルのMR信号(以下、MRデータと呼ぶ)を生成する。具体的には、受信回路119は、受信コイル117から出力されたMR信号に対して各種信号処理を施した後、各種信号処理が施されたデータに対してアナログ/デジタル(A/D(Analog to Digital))変換を実行する。受信回路119は、A/D変換されたデータを標本化(サンプリング)する。これにより、受信回路119は、MRデータを生成する。受信回路119は、生成されたMRデータを、撮像制御回路121に出力する。
【0021】
撮像制御回路121は、処理回路131から出力された撮像プロトコルに従って、シムコイル電源102、傾斜磁場電源105、送信回路113及び受信回路119等を制御し、被検体Pに対する撮像を行う。撮像プロトコルは、撮像対象部位および検査内容に応じた各種パルスシーケンスを有する。撮像プロトコルには、傾斜磁場電源105により傾斜磁場コイル103に供給される電流の大きさ、傾斜磁場電源105により電流が傾斜磁場コイル103に供給されるタイミング、送信回路113により送信コイル115に供給される高周波パルスの大きさや時間幅、送信回路113により送信コイル115に高周波パルスが供給されるタイミング、受信コイル117によりMR信号が受信されるタイミング等が定義されている。
【0022】
インタフェース125は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付けるための、スイッチボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、及び音声入力回路等によって実現される。インタフェース125は、処理回路131等に接続されており、操作者から受け取った入力操作を電気信号へ変換し処理回路131へと出力する。なお、本明細書において、インタフェースは、マウス、キーボードなどの物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を制御回路へ出力する電気信号の処理回路もインタフェース125の例に含まれる。
【0023】
ディスプレイ127は、処理回路131におけるシステム制御機能1311による制御のもとで、画像生成機能1313により生成された各種MR画像、撮像および画像処理に関する各種情報などを表示する。ディスプレイ127は、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、又は当技術分野で知られている他の任意のディスプレイ、モニタ等の表示デバイスである。
【0024】
記憶装置129は、画像生成機能1313を介してk空間に充填されたMRデータ、画像生成機能1313により生成された画像データ、各種撮像プロトコル、撮像プロトコルを規定する複数の撮像パラメータを含む撮像条件等を記憶する。記憶装置129は、処理回路131で実行される各種機能に対応するプログラムを記憶する。記憶装置129は、本実施形態に関する静磁場シミングにより0次シミング値と1次シミング値と2次シミング値とを算出するプログラム(以下、算出プログラムと呼ぶ)を記憶する。
【0025】
0次シミング値は、マルチスライス収集に関する収集領域における複数のスライス各々において、水の共鳴周波数に相当する。すなわち、0次シミング値は、静磁場の不均一性の0次成分について、収集領域における複数のスライス毎の補正に関連する。1次シミング値は、マルチスライス収集に関する複数のスライス各々において、静磁場の不均一性のX1成分、Y1成分、Z1成分を補正するために、傾斜磁場電源105から3つの傾斜磁場コイルにそれぞれ供給される電流値に相当する。すなわち、1次シミング値は、静磁場の不均一性の1次成分について、収集領域における複数のスライス毎の補正に関連する。2次シミング値は、マルチスライス収集における収集領域の全体に亘って、静磁場の不均一性のZX成分、XY成分、YZ成分、(Z2-(X2+Y2)/2)成分、および(X2-Y2)成分を補正するために、シムコイル電源102からシムコイル101における5つのコイルパターンにそれぞれ供給される電流値に相当する。すなわち、2次シミング値は、静磁場の不均一性の2次成分について、収集領域の全体に亘る補正に関連する。
【0026】
記憶装置129は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(Solid State Drive)、光ディスク等である。また、記憶装置129は、CD-ROMドライブやDVDドライブ、フラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置等であってもよい。
【0027】
処理回路131は、ハードウェア資源として図示していないプロセッサ、ROM(Read-Only Memory)やRAM等のメモリ等を有し、本磁気共鳴イメージング装置1を制御する。処理回路131は、システム制御機能1311、画像生成機能1313、静磁場シミング機能1315、取得機能1317、算出機能1319および収集機能1321を有する。なお、システム制御機能1311、画像生成機能1313、静磁場シミング機能1315、取得機能1317、算出機能1319および収集機能1321は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶装置129に記憶されてもよい。この場合、処理回路131は、これら各種機能に対応するプログラムを記憶装置129から読み出し、読み出したプログラムを実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサであってもよい。
【0028】
なお、
図1においては単一のプロセッサにてこれら各種機能が実現されるものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路131を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。換言すると、上述のそれぞれの機能がプログラムとして構成され、1つの処理回路が各プログラムを実行する場合であってもよいし、特定の機能が専用の独立したプログラム実行回路に実装される場合であってもよい。また、
図1においては、単一の記憶装置129が各処理機能に対応するプログラムを記憶するものとして説明したが、複数の記憶装置を配置して、処理回路131は、個別の記憶装置から、対応するプログラムを読み出す構成としても構わない。
【0029】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)もしくはGPU(Graphics Processing Unit)、または、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。
【0030】
プロセッサは、記憶装置129に記憶されたプログラムを読み出し実行することで各種機能を実現する。なお、記憶装置129にプログラムを記憶する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成してもかまわない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、寝台制御回路109、送信回路113、受信回路119、撮像制御回路121等も同様に、上記プロセッサなどの電子回路により構成される。
【0031】
処理回路131は、システム制御機能1311により、磁気共鳴イメージング装置1を制御する。具体的には、処理回路131は、記憶装置129に記憶されたシステム制御プログラムを読み出してメモリ上に展開し、展開されたシステム制御プログラムに従って本磁気共鳴イメージング装置1における各種回路および各種電源を制御する。例えば、処理回路131は、インタフェース125を介して操作者から入力された撮像条件に基づいて、撮像プロトコルを記憶装置129から読み出す。なお、処理回路131は、撮像条件に基づいて、撮像プロトコルを生成してもよい。処理回路131は、撮像プロトコルを撮像制御回路121に送信し、被検体Pに対する撮像を制御する。
【0032】
処理回路131は、画像生成機能1313により、例えば、リードアウト傾斜磁場の強度に従って、k空間のリードアウト方向に沿ってMRデータを充填する。処理回路131は、k空間に充填されたMRデータに対してフーリエ変換を行うことにより、MR画像を生成する。処理回路131は、生成されたMR画像を、ディスプレイ127や記憶装置129に出力する。
以上が本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の全体構成についての概略的な説明である。
【0033】
次に、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の動作例について
図2のフローチャートを参照して説明する。
ステップS201では、位置決めスキャンが実行される。具体的には、撮像制御回路121が、例えば処理回路131からの指示に従って、位置決めスキャンを実行する。処理回路131は、位置決めスキャンにより収集されたMR信号を用いて、位置決め画像を生成する。処理回路131は、生成された位置決め画像を、ディスプレイ127に出力してもよい。
【0034】
ステップS202では、静磁場シミング機能1315を実行することで処理回路131が、静磁場シミング処理を実行する。なお、静磁場シミング処理の詳細については後述する。
ステップS203では、取得機能1317を実行することで処理回路131が、被検体の撮像範囲において、第1組織の共鳴周波数分布と、第1組織とは異なる第2組織の共鳴周波数分布とを取得する。以下、本実施形態では、第1組織を水とし、第2組織を脂肪として説明するが、第1組織を水、第2組織をシリコンと設定するなど、共鳴周波数が異なる他の物質に対しても同様に適用できる。
【0035】
ステップS204では、算出機能1319を実行することで処理回路131が、設定された周波数選択的パルスの種類を判定する。周波数選択的パルスは、第1組織または第2組織のいずれか一方を抑制または強調するパルスである。周波数選択的パルスの種類としては、例えば、水と脂肪との共鳴周波数の差を利用した脂肪抑制法として、CHESS(Chemical Shift Selective imaging)法、SPIR(Spectral Pre-saturation with Inversion Recovery)法、SPAIR(Spectral Attenuated inversion recovery)法がある。また、相対的に脂肪抑制が可能な選択的水励起法として、Binomial pulse法、PROSET(Principle of Selective Exitation Technique)法、PASTA(Polarity Altered Specral-spatial selective Acquisition)法がある。また、水と脂肪とのT1緩和の差を利用した非選択的脂肪抑制法として、STIR(Short TI inversion Recovery)法がある。さらに、水と脂肪との位相差を利用した3点Dixon法がある。
【0036】
算出機能1319を実行することで処理回路131は、例えば検査オーダーに含まれるシーケンス情報から周波数選択的パルスの種類を判定する。なお、ユーザがインタフェース125を介して、使用する撮像法(または周波数選択的パルス)を入力することで、当該種類が判定されてもよい。例えば、ディスプレイ127に周波数選択的パルスの種類が表示され、ユーザがタッチパネルなどで周波数選択的パルスを選択することで、周波数選択的パルスの種類が決定されてもよい。
【0037】
ステップS205では、算出機能1319を実行することで処理回路131が、ステップS203で算出した共鳴周波数分布と、ステップS204で判定された周波数選択的パルスの種類とに応じて、周波数選択的パルスの中心周波数を算出する。
ステップS206では、収集機能1321を実行することで処理回路131が、ステップS205で算出した中心周波数で周波数選択的パルスを印加する。
ステップS207では、収集機能1321を実行することで処理回路131が、ステップS202で算出されるRFパルスの中心周波数で撮像用のRFパルスを印加し、MR信号を収集する。以上で本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の動作例を終了する。
【0038】
次に、本実施形態のステップS202で実行される静磁場シミング処理の詳細について説明する。
撮像制御回路121は、被検体Pに対して、シミング撮像を実行する。撮像制御回路121は、例えば、2つの異なるエコー時間間隔を用いたダブルエコー法を用いたマルチスライス撮像により、シミング撮像を実行する。なお、シミング撮像は、例えば、3つの異なるエコー時間間隔を用いたトリプルエコー法を用いたマルチスライス撮像など他の撮像法により実行されてもよい。シミング撮像が実行される領域は、位置決め画像の領域において、複数の断面位置に対応するスライスにより形成される3次元の第1領域に対して実行される。具体的には、撮像制御回路121は、ダブルエコー法に従って、傾斜磁場電源105、送信回路113、受信回路119を制御する。撮像制御回路121は、シミング撮像により、受信コイル117及び受信回路119を介して、2つのエコー時間間隔に対応するMR信号を収集する。
【0039】
処理回路131は、静磁場シミング機能1315により、シミング撮像により収集されたMR信号に基づいて、第2領域における複数のスライスにそれぞれ対応する複数の静磁場分布を生成する。具体的には、処理回路131は、第2領域における複数のスライス各々におけるMR信号に基づいて、2つのエコー時間間隔にそれぞれ対応する2つの複素画像を生成する。処理回路131は、2つの複素画像のうち一方の複素画像に対して複素共役演算を実施し、複素共役演算が実施された複素画像と複素共役演算が実施されていない他方の複素画像との積を計算する。処理回路131は、計算された積の位相を用いて位相差画像を生成する。
【0040】
処理回路131は、静磁場シミング機能1315により、2つの複素画像のうち少なくとも一つを用いて、強度画像を生成する。処理回路131は、強度画像に基づいて、位相差画像における背景領域を抽出する。処理回路131は、抽出された背景領域を用いて、位相差画像に対して背景を除去する。処理回路131は、背景が除去された位相差画像に対して、位相の連続性を考慮した位相アンラップ処理を実行する。処理回路131は、位相アンラップ処理が実行された位相差画像における複数のピクセル各々の位相差の値に対して2つのエコー時間間隔の差に相当するエコー間隔と磁気回転比とを用いた線形変換を行うことで、周波数情報としての2次元的な静磁場分布を生成する。処理回路131は、複数の2次元的な静磁場分布を結合することで、3次元的な静磁場分布(以下、シミング前分布と呼ぶ)を生成する。また、シミング前分布は、撮像対象部位、性別、年齢等に応じてデフォルトで記憶装置129に記憶されていてもよい。このとき、シミング撮像は不要となる。
【0041】
処理回路131は、静磁場シミング機能1315により、第1領域における複数の断面位置とシミング前分布とを用いて、第1領域における複数の断面位置にそれぞれ対応する複数のスライス各々に対して、スライス毎静磁場シミングを実行する。具体的には、処理回路131は、静磁場シミング機能1315により、記憶装置129から算出プログラムを読み出し、自身のメモリに展開する。処理回路131は、算出プログラムにより、第1領域における複数のスライス各々に対して、0次シミング値、1次シミング値および2次シミング値を計算する。処理回路131は、計算された0次シミング値、1次シミング値および2次シミング値を、表示断面の位置に対応するスライスに対応付ける。以下、静磁場シミングの基本式について説明し、次いでスライス毎静磁場シミングについて説明する。
静磁場シミングに関する基本式の一例を以下の式(1)に示す。
【0042】
【0043】
式(1)におけるx、y、zは、空間中の3次元位置である。具体的には、xは、水平方向(X軸)における静磁場の中心(以下、磁場中心と呼ぶ)を原点とした位置を表す。yは、鉛直方向(Y軸)における磁場中心を原点とした位置を表す。zは、軸長方向(Z軸)における磁場中心を原点とした位置を表す。x、y、zの単位は[m]とする。式(1)におけるa0は、0次シミング値である。a0は、RFパルスの中心周波数にマイナスを付与した値を表す。a0の単位は[ppm]とする。式(1)におけるa1、a2、a3は、1次シミング値である。
【0044】
具体的には、a1、a2、a3は、X、Y、Z軸のそれぞれについて単位長さあたりの共鳴周波数の変化量を表す。単位長さあたりの共鳴周波数の変化量は、傾斜磁場の傾き、すなわち傾斜磁場コイル103へ印加される電流値に相当する。a1、a2、a3の単位は[ppm/m]とする。式(1)におけるb0(x、y、z)は位置(x、y、z)における静磁場シミング前の共鳴周波数である。換言すれば、b0(x、y、z)は、上述のシミング前分布に相当する3次元的な静磁場分布を共鳴周波数に変換したもの、すなわち静磁場の不均一性を共鳴周波数の分布として表したものに相当する。b0(x、y、z)の単位は[ppm]とする。b0’(x、y、z)は位置(x、y、z)におけるシミング後の共鳴周波数とRFパルスの中心周波数a0との差分値である。b0’(x、y、z)の単位は[ppm]とする。
【0045】
式(1)の左辺、すなわちシミングの後の共鳴周波数とRFパルスの中心周波数との差分値は、小さければ小さいほど理想的な静磁場シミングの条件となる。シミング前分布を示す画像について、非背景領域に対応する前景領域における複数の画素(以下、前景画素と呼ぶ)全ての位置の集合(以下、位置集合Sと呼ぶ)を考えると、位置集合Sは、例えば、以下の式(2)で表される。
【0046】
【0047】
式(2)において、iは、前景画素の通し番号を表す。Nは、前景画素の総数を表す。
この時、式(1)は、シミング前分布の画像における全前景画素に亘ってN本分立てることができる。全前景画素に亘るN本の式をまとめると、以下の式(3)で表すことができる。
【0048】
【0049】
式(3)において、ベクトルb’、行列X、ベクトルa、ベクトルbを、
【0050】
【0051】
として定義すると、式(3)は、以下の式(4)のように表される。
【0052】
【0053】
上述のように、式(1)の左辺、すなわち式(3)または式(4)の左辺のベクトルの各要素は、小さいほど理想的な静磁場シミングとなる。そこで、静磁場の均一性をベクトルb’の大きさとして定義し、0次シミング値と1シミング値とをまとめたベクトルaに関するコスト関数Eを式(5)として定義する。
【0054】
【0055】
式(5)における行列Ωは、ベクトルb’の各要素の重要度や相関によって正規化するための行列である。例えば、行列Ωを単位行列とすると、コスト関数は単純なベクトル要素の二乗和となる。また、行列Ωをベクトルb’に関する共分散行列とすれば、コスト関数は、マハラノビス距離の二乗となる。式(5)のコスト関数を最小化する0次シミング値と1次シミング値との組み合わせであるベクトルaは、最小二乗法により以下の式(6)として求めることができる。
【0056】
【0057】
以下、スライス毎静磁場シミングについて説明する。スライス毎静磁場シミングを実行する第1領域について、第1領域のスライスごとの複数の前景画素の位置集合Sjを考えると、位置集合Sjは、例えば、以下の式(7)で表される。
【0058】
【0059】
式(7)において、jは、第1領域におけるスライスの通し番号を表す。また、式(7)におけるMは、第1領域におけるスライス数を表す。式(7)におけるiは、前景画素の通し番号を表す。Njは、スライスjにおける前景画素の総数を表す。
【0060】
スライス毎静磁場シミングにおいて、式(1)は、第1領域における各スライスjに対して前景画素Nj本分立てることができる。スライスjにおいて、ベクトルbj’、行列Xj、ベクトルaj、ベクトルbjを、
【0061】
【0062】
として定義する。ベクトルbjは、上述のシミング前分布に関する複数の静磁場分布のうち、スライスjに対応する静磁場分布における全前景画素に相当する。スライスjにおいて、全前景画素に亘るNj本の式をまとめると、以下の式(8)で表すことができる。
【0063】
【0064】
処理回路131は、静磁場シミング機能1315により、式(8)について、式(5)と同様にコスト関数を定義して解く。これにより、0次シミング値と1次シミング値との組み合わせであるベクトルajが、M通り算出される。すなわち、マルチスライスのスライスjごとに、ベクトルajの値を用いてシミングすることで、スライス毎静磁場シミングによる検査画像収集を実現できる。
【0065】
次に、空間的に2次の補正磁場分布を印加可能なシムコイルを用いた2次シミングに関する基本式を式(9)に示す。
【0066】
【0067】
式(9)におけるx、y、z、a0、a1、a2、a3、b0、b0’については式(1)と同様に定義される。a4、a5、a6、a7、a8は、2次シミング値である。具体的には、a4、a5、a6、a7、a8は、空間的に非線形な共鳴周波数の変化量を表す。空間的に非線形な共鳴周波数の変化量は、シムコイル101へ印加される電流値に相当する。a4、a5、a6、a7、a8の単位は[ppm/m2]とする。
【0068】
このとき、式(9)は、3次元の静磁場分布画像中の全前景画素についてN本分立てることができ、まとめると以下の式(10)となる。
【0069】
【0070】
式(10)において、ベクトルb’、ベクトルa、ベクトルb、行列X、行列X’、行列X’’を、
【0071】
【0072】
として定義すると、式(10)は、以下の式(11)のように表される。
【0073】
【0074】
式(11)は、式(4)に対して行列X’’と、ベクトルa’のサイズが異なるだけで同じ形式であるため、式(5)、式(6)と同じ考えで0次シミング値、1次シミング値および2次シミング値の組み合わせであるベクトルa’を求めることができる。
【0075】
上述した0次、1次および2次のシミング値を用いた本実施形態に関する静磁場シミングについて定式化する。0次のシミングおよび1次のシミングと異なり、2次のシミングはシムコイル101に電流を流してから磁場が安定するまでに時間がかかるため、マルチスライス収集時に、スライス単位で高速に補正磁場を切り替えることが難しい。そこで、本実施形態に関する静磁場シミングは、収集領域における全スライス共通で2次シミングを実施することを前提で、0次のシミングおよび1次のシミングについてスライス毎に最適な補正量を算出することを目的とする。上記内容をまとめると、本実施形態に関する静磁場シミングの基本式は、以下の式(12)となる。
【0076】
【0077】
ここで、式(12)におけるベクトルb’、行列X’’’、ベクトルa’’、ベクトルbは、
【0078】
【0079】
と表せる。
【0080】
式(12)は、式(4)と同じ形をしている。このため、処理回路131は、静磁場シミング機能1315により、式(5)、式(6)と同じ考えで収集領域におけるスライス毎の0次シミング値および1次のシミング値と、収集領域全体での2次シミング値との組み合わせであるベクトルa’’を求めることができる。具体的には、処理回路131は、式(12)について、式(5)と同様にコスト関数を定義する。処理回路131は、式(12)に関するコスト関数を最小化する最小二乗法により、0次シミング値と1次シミング値と2次シミング値との組み合わせであるベクトルa’’を計算すればよい。
【0081】
次に、取得機能1317による共鳴周波数分布の取得方法について説明する。
水と脂肪との共鳴周波数分布は、3点Dixon法により収集すればよい。3点Dixon法は、水と脂肪との位相差を利用して、脂肪の信号と水の信号との位相関係がそれぞれ異なる、3パターンの画像を収集する。具体的には、脂肪の信号と水の信号とが同位相の関係にあるときの第1画像と、脂肪の信号と水の信号とが逆位相の関係にあるときの第2画像と、脂肪の信号と水の信号とが逆位相かつ第2画像の位相関係とは異なる位相関係にあるときの第3画像とが収集される。第1画像、第2画像および第3画像を用いることで、磁場の不均一の影響が補正された、水の共鳴周波数分布と脂肪の共鳴周波数分布とが取得される。
また、取得機能1317を実行することで処理回路131が、ステップS202の静磁場シミング処理により得られる位相差に基づく強度画像に対し画像処理を実行することで、水と脂肪との共鳴周波数分布を取得してもよい。つまり、静磁場シミング処理で得られる2つの位相差画像から、3点Dixon法と同様に、水の共鳴周波数分布と脂肪の共鳴周波数分布を得ることができる。
【0082】
なお、脂肪抑制パルス(プリパルス)の有無によって、静磁場シミングの共鳴周波数の収集法を変更してもよい。すなわち、STAIR法やSTIR法により脂肪抑制した画像と脂肪抑制しない画像とから、水の共鳴周波数分布と脂肪の共鳴周波数分布とが取得されればよい。
【0083】
次に、周波数選択的パルスの一例となる脂肪抑制パルスの種類と周波数特性とについて、
図3を参照して説明する。
図3には、水の共鳴周波数分布301と、脂肪の共鳴周波数分布302とが示される。周波数選択的パルスの一例として、脂肪抑制型の脂肪抑制法であるSPAIR法の周波数特性303を破線で示す。
【0084】
SPAIR法では、脂肪の共鳴周波数が選択されないように、脂肪の共鳴周波数に応じた脂肪抑制パルス(プリパルスともいう)を印加する。続いて、脂肪の縦磁化がヌルポイントとなる反転回復時間(TI:inversion time)の後に、励起パルスを印加してMR信号を収集する。よって、
図3の周波数特性303のように、収集されるMR信号としては水の信号のみを取り出すように周波数を選択できる。
算出機能1319を実行することで処理回路131が、脂肪の共鳴周波数分布302に基づき脂肪抑制パルスの中心周波数を算出する。例えば、算出機能1319を実行することで処理回路131が、脂肪の共鳴周波数分布302のピーク値を脂肪抑制パルスの中心周波数に設定すればよい。これにより、適切に脂肪からのMR信号を抑制することができる。
【0085】
また、周波数選択的パルスの別例として、水励起型の脂肪抑制法であるPASTA法の周波数特性304を一点鎖線で示す。PASTA法では、周波数選択的な励起パルスの印加により水の信号を励起させて強調することで、相対的に脂肪を抑制する手法である。
励起パルスを印加する場合、算出機能1319を実行することで処理回路131は、水の共鳴周波数分布301のピーク値を、励起パルスの中心周波数に設定すればよい。これにより、適切に水からの信号を強調し、相対的に脂肪からの信号を抑制することができる。
【0086】
例えば、画像生成機能1313を実行することで処理回路131は、
図3から
図5に示すような、水および脂肪の共鳴周波数分布と、周波数選択的パルスの周波数特性と、これらの組合せ表示から推定される脂肪抑制結果とを、ディスプレイ127等にグラフ表示してもよい。これにより、操作者に上述の情報を可視化して提示できる。
【0087】
また、算出機能1319を実行することで処理回路131は、撮像範囲における対象領域を優先的に考慮し、周波数選択的パルスの中心周波数を最適化してもよい。撮像範囲は、例えば、位置決め画像に対し、ユーザの手動での範囲指定により決定されてもよい。また、撮像範囲は、磁場中心、撮像中心、検査部位に応じた一般的な自動検出結果などでもよい。
【0088】
なお、算出された中心周波数に調整された脂肪抑制パルスを印加する際に、水の共鳴周波数分布を抑制してしまう範囲の大きさ、または水励起型の励起パルスによって脂肪を励起してしまう範囲の大きさに応じたペナルティを計算してもよい。
中心周波数の最適化についてペナルティを設ける場合について
図4および
図5を参照して説明する。
図4は、
図3と同様に水と脂肪との共鳴周波数分布を示す。また、併せてSPAIR法の周波数特性401も示される。
【0089】
SPAIR法の周波数特性401と水の共鳴周波数分布301とに囲まれる範囲402は、脂肪抑制パルスが水の周波数成分を部分的に抑制してしまう部分である。ペナルティの値は、当該範囲402が大きいほどペナルティが大きくなると設定される。算出機能1319を実行することにより処理回路131は、範囲402の面積の大きさに基づきペナルティの値を計算する。算出機能1319を実行することで処理回路131は、計算されたペナルティの値が閾値以上となれば、周波数選択的パルスのパルス幅を変えればよい。
図4の例では、SPAIR法の脂肪抑制パルスのパルス幅が広く、水の周波数成分まで抑制している。よって、算出機能1319を実行することで処理回路131は、水の周波数成分を抑制しないよう脂肪抑制パルスのパルス幅を狭くすればよい。
【0090】
図5は、
図3および
図4と同様に水と脂肪との共鳴周波数分布を示す。また、併せてPASTA法の周波数特性403も示される。
PASTA法の周波数特性403と脂肪の共鳴周波数分布302とに囲まれる範囲404は、励起パルスが脂肪の周波数成分を励起してしまう部分である。この場合も同様に、算出機能1319を実行することで処理回路131が、範囲404の面積の大きさに基づくペナルティの値が閾値以上となれば、周波数選択的パルスのパルス幅を変えればよい。
図5の例では、PASTA法の周波数特性403のパルス幅が広く、脂肪の周波数成分まで励起している。よって、算出機能1319を実行することで処理回路131は、脂肪の周波数成分を励起しないように周波数選択的パルスのパルス幅を狭くすればよい。
【0091】
以上に示した本実施形態によれば、水および脂肪といった組織ごとに共鳴周波数分布を算出し、周波数選択的パルスを印加する場合に、抑制対象または励起対象の組織の共鳴周波数分布から、周波数選択的パルスの中心周波数を決定する。決定された中心周波数により周波数選択的パルスを印加することで、的確に抑制したい組織の周波数成分を抑制でき、または、的確に励起したい組織の周波数成分を励起することができる。結果として、例えば脂肪抑制パルスによる脂肪抑制効果を改善することができ、収集されるMR信号に基づくMR画像の画質も向上する。
【0092】
なお、本実施形態では、静磁場の不均一性に関し、2次以上の高次成分も考慮しているが、静磁場の強度が小さい場合(例えば、1.5T)などは、0(ゼロ)次成分および1次成分を補正する一方、高次成分は補正しなくともよい。この場合、磁気共鳴イメージング装置1は、シムコイル101及びシムコイル電源102を含まなくともよい。
【0093】
加えて、実施形態に係る各機能は、当該処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(ハードディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、DVD、Blu-ray(登録商標)ディスクなど)、半導体メモリなどの記憶媒体に格納して頒布することも可能である。
【0094】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0095】
1・・・MRI装置
100・・・静磁場磁石
101・・・シムコイル
102・・・シムコイル電源
103・・・傾斜磁場コイル
105・・・傾斜磁場電源
107・・・寝台
109・・・寝台制御回路
111・・・ボア
113・・・送信回路
115・・・送信コイル
117・・・受信コイル
119・・・受信回路
121・・・撮像制御回路
125・・・インタフェース
127・・・ディスプレイ
129・・・記憶装置
131・・・処理回路
1071・・・天板
1311・・・システム制御機能
1313・・・画像生成機能
1315・・・静磁場シミング機能
1317・・・取得機能
1319・・・算出機能
1321・・・収集機能