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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】回転電機の回転子
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/22 20060101AFI20230925BHJP
   H02K 19/10 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
H02K1/22 Z
H02K19/10 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019082034
(22)【出願日】2019-04-23
(65)【公開番号】P2020182264
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2020-01-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 活徳
(72)【発明者】
【氏名】松下 真琴
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄司
(72)【発明者】
【氏名】松本 昌明
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】五十嵐 康弘
【審判官】窪田 治彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/51690(WO,A1)
【文献】特開平10-290542(JP,A)
【文献】特開2002-199675(JP,A)
【文献】特開2003-9484(JP,A)
【文献】特開2001-186735(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147945(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線の回りで回転自在なシャフトと、
円周方向に並んだ4つの磁極を有し前記シャフトに同軸的に固定された回転子鉄心と、
を備え、
前記中心軸線に直交する前記回転子鉄心の横断面において、隣合う磁極間の境界および前記中心軸線を通り径方向に延在する軸をd軸、前記d軸に対して磁気的に直交する軸をq軸とすると、
前記回転子鉄心は、周方向に隣合う2つのq軸間の領域において径方向に間隔を置いて並んで形成された複数層のバリア領域を有し、
各バリア領域は、前記回転子鉄心の外周面の一部の近傍から前記d軸を通って前記外周面の他の部分の近傍まで延在するフラックスバリアと、前記フラックスバリアの一端と前記外周面との間に位置する回転子鉄心で形成された第1ブリッジ部と、前記フラックスバリアの他端と前記外周面との間に位置する回転子鉄心で形成された第2ブリッジ部と、を有し、少なくとも最も前記外周面側に設けられた前記バリア領域のフラックスバリアに非磁性導電体が充填され、
前記外周面に接する外接円の半径をR、周方向に隣合う2つのq軸をX座標およびY座標とする双曲線の方程式をxy-a=0としたとき、
前記径方向において最も前記外周面側に設けられた前記バリア領域を規定している前記外周面側のバリア側縁が前記外接円と一致し、前記中心軸側のバリア側縁が前記双曲線に沿って延び、さらに、0.55< 2a/R <0.84の範囲内に位置している
回転子。
【請求項2】
前記中心軸線側のバリア側縁は、0.55< 2a/R <0.78の範囲内に位置している請求項1に記載の回転子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、回転電機の回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機として、同期リラクタンスモータが提供されている。このリラクタンスモータの回転子には、非磁性体で構成されたフラックスバリアが設けられている。回転子鉄心とフラックスバリアとの透磁率の違いによって突極性を得ることにより、トルクを発生する。非磁性体(比透磁率がほぼ1である)の代表例としては空気が挙げられる。このため、インバータ駆動形の同期リラクタンスモータの実用例としては,フラックスバリアを空洞(何も充填しない)とすることが多い。
【0003】
一方、アルミニウムや銅なども非磁性体であるが、これらは同時に導電体でもある。そのため、アルミニウムや銅などをフラックスバリアに充填することで二次導体を構成することができる。すなわち,非同期状態(固定子の回転磁界の回転速度と回転子の物理的な回転速度が一致せず、滑っている状態)においては、誘導トルクが発生するため、商用直入れ運転が可能な自己始動形の同期リラクタンスモータを実現することが可能となる。
自己始動型の同期リラクタンスモータは、駆動用のインバータが不要となるため、モータドライブシステム全体としての効率を改善することができ、システムコストも削減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4098939号公報
【文献】特許第4588255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、十分な誘導トルクを確保できず、要求仕様を満足する始動性能が得られないという問題がある。例えば、同一出力の負荷であっても、慣性モーメントが大きいリラクタンスモータにおいては、同期速度まで加速できない(同期引き入れできない)場合がある。
誘導トルクを大きくするためには、二次導体の断面積を大きくして、二次抵抗を小さくする必要がある。しかし、二次導体の面積を大きくした場合、回転子の磁気的なバランスが崩れ、回転子の突極性が低下する。すなわち、同期引き入れできても、同期運転時のトルクや力率が低く、同期リラクタンスモータとしての性能を十分に発揮することが困難となる。
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その課題は、リラクタンストルクを低下させることなく、誘導トルクを大きくすることができる回転電機の回転子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、回転電機の回転子は、中心軸線の回りで回転自在なシャフトと、円周方向に並んだ4つの磁極を有し前記シャフトに同軸的に固定された回転子鉄心と、を備えている。前記中心軸線に直交する前記回転子鉄心の横断面において、隣合う磁極間の境界および前記中心軸線を通り径方向に延在する軸をd軸、前記d軸に対して磁気的に直交する軸をq軸とすると、前記回転子鉄心は、周方向に隣合う2つのq軸間の領域において径方向に間隔を置いて並んで形成された複数層のバリア領域を有している。各バリア領域は、前記回転子鉄心の外周面の一部の近傍から前記d軸を通って前記外周面の他の部分の近傍まで延在するフラックスバリアと、前記フラックスバリアの一端と前記外周面との間に位置する回転子鉄心で形成された第1ブリッジ部と、前記フラックスバリアの他端と前記外周面との間に位置する回転子鉄心で形成された第2ブリッジ部と、を有し、少なくとも最も前記外周面側に設けられた前記バリア領域のフラックスバリアに非磁性導電体が充填されている。前記外周面に接する外接円の半径をR、周方向に隣合う2つのq軸をX座標およびY座標とする双曲線の方程式をxy-a=0としたとき、前記径方向において最も前記外周面側に設けられた前記バリア領域を規定している前記外周面側のバリア側縁が前記外接円と一致し、前記中心軸側のバリア側縁が前記双曲線に沿って延び、さらに、0.55< 2a/R <0.84の範囲内に位置している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係る回転電機の横断面図。
図2図2は、前記回転電機の回転子の周方向に隣合う2つのq軸間の領域(1磁極間部分と称する)を拡大して示す横断面図。
図3図3は、前記回転子の各バリア領域のフラックスバリアに非磁性導電体を充填した場合の誘導トルクの発生状態を比較して示す図。
図4図4は、回転子鉄心の外周に接する半径Rの外接円と比例定数aの双曲線gを示す図。
図5図5は、バリア領域が最外層の1層の場合の誘導トルクとリラクタンストルクとの関係を示す図。
図6図6は、バリア領域が複数層設けられた回転子における誘導トルクとリラクタンストルクとの関係を示す図。
図7図7は、複数層のバリア領域が設けられた回転子において、最外層のバリア領域の形成位置を種々変化させた場合の回転子鉄心の1磁極間部分の断面図である。
図8図8は、前記回転子の1磁極間部分を拡大して示す横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、図面を参照しながら、実施形態について説明する。なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0009】
(実施形態)
図1は、実施形態に回転電機の横断面図、図2は、回転子の1磁極分を拡大して示す断面図である。
図1に示すように、回転電機10は、例えば、インナーロータ型の回転電機として構成され、図示しない固定枠に支持された環状あるいは円筒状の固定子12と、固定子の内側に中心軸線Cの回りで回転自在に、かつ固定子12と同軸的に支持された回転子14と、を備えている。実施形態において、回転電機10は、自己始動型のリラクタンスモータを構成している。
【0010】
固定子12は、円筒状の固定子鉄心16と固定子鉄心16に巻き付けられた電機子巻線18とを備えている。固定子鉄心16は、磁性材、例えば、ケイ素鋼などの円環状の電磁鋼板を多数枚、同芯状に積層して構成されている。固定子鉄心16は、軟磁性粉を加圧成形して形成することも可能である。固定子鉄心16の内周部には、複数のスロット20が形成されている。複数のスロット20は、円周方向に等間隔を置いて並んでいる。各スロット20は、固定子鉄心16の内周面に開口し、この内周面から放射方向に延出している。また、各スロット20は、固定子鉄心16の軸方向の全長に亘って延在している。複数のスロット20を形成することにより、固定子鉄心16の内周部は、回転子14に面する複数(例えば、本実施形態では48個)の固定子ティース21を構成している。複数のスロット20に電機子巻線18が埋め込まれ、各固定子ティース21に図示しないインシュレータや絶縁被膜を介して巻き付けられている。電機子巻線18に電流を流すことにより、固定子12(固定子ティース21)に所定の鎖交磁束が形成される。
【0011】
回転子14は、円柱形状のシャフト(回転軸)22と、このシャフト22の軸方向ほぼ中央部に同軸的に固定された円柱形状の回転子鉄心24と、を有している。シャフト22は、図示しない軸受により中心軸線Cの回りで回転自在に支持されている。回転子14は、固定子12の内側に僅かな隙間(エアギャップ)を置いて同軸的に配置されている。すなわち、回転子鉄心24の外周面は、僅かな隙間をおいて、固定子12の内周面に対向している。回転子鉄心24は中心軸線Cと同軸的に形成された内孔25を有している。シャフト22は内孔25に挿通および嵌合され、回転子鉄心24と同軸的に延在している。回転子鉄心24は、磁性材、例えば、ケイ素鋼などの円環状の電磁鋼板を多数枚、同芯状に積層した積層体として構成されている。回転子鉄心24は、軟磁性粉を加圧成形して形成することも可能である。
【0012】
本実施形態において、回転子14は、複数磁極、例えば、4磁極に設定されている。回転子鉄心24において、中心軸線Cと直交する方向を径方向、中心軸線C回りに周回する方向を周方向と称する。また、中心軸線Cおよび隣合う磁極間の境界を通り中心軸線Cに対して径方向あるいは放射方向に延びる軸をd軸、およびd軸に対して電気的、磁気的に直交する軸をq軸と称する。ここでは、固定子12によって形成される鎖交磁束の流れ易い方向をq軸としている。d軸およびq軸は、回転子鉄心24の円周方向に交互に、かつ、所定の位相で設けられている。回転子鉄心24の1磁極間部分とは、隣合う2本のq軸間の領域(1/4周の周角度領域)をいう。このため、回転子鉄心24は、4極(磁極)に構成されている。1磁極間部分のうちの周方向中央はd軸となる。
【0013】
図2は、回転子の1磁極間部分(周方向に隣合う2つのq軸間の領域)、すなわち、1/4周の周角度領域分を示す断面図である。図1および図2に示すように、回転子鉄心24は、1磁極間部分ごとに、複数層、例えば、4層のバリア領域30a、30b、30c、30dを有している。各1磁極間部分において、4層のバリア領域30a~30dは、回転子鉄心24の径方向(d軸方向)に互いに間隔を置いて、中心軸線C側から外周面側に順に並んで設けられている。すなわち、バリア領域30a~30dの各々は、回転子鉄心24の外周面におけるある箇所からd軸を通り外周面の他の箇所に至り、中心軸線Cに向かって凸状に湾曲して延在している。複数のバリア領域30a~30dは、固定子12により形成された磁束が通過する複数の磁路の間に形成され、各磁路を区画している。
【0014】
本実施形態において,各バリア領域30a~30dは、d軸を中心とするほぼ双曲線状に延在するフラックスバリア(空隙層)32と、フラックスバリア32の一端と外周面との間に位置する鉄心で形成された薄肉連結部(第1ブリッジ部)32aと、フラックスバリア32の他端と外周面との間に位置する鉄心で形成された薄肉連結部(第2ブリッジ部)32bと、を有している。
例えば、最も内周側に設けられたバリア領域30aにおいて、フラックスバリア32の一端は、外周面の近傍、かつ、一方のq軸の近傍に位置し、フラックスバリア32の他端は外周面の近傍、かつ、他方のq軸の近傍に位置している。フラックスバリア32は、上記一端から他端まで、q軸に沿うと共に周方向の中央部が最も径方向内側に位置するように、外周側から径方向内側の中心軸線Cに向かって凸形状に湾曲して延在している。
2層目、3層目、および最外層のバリア領域30b、30c、30dは、最内層のバリア領域30aに対して、d軸方向に間隔を置いて並んでいる。なお、バリア領域は、4層に限らず、2層、3層、あるいは5層以上に形成されてもよい。また、各フラックスバリアは、連続した一層に限らず、複数に分割されたバリア層としてもよい。
【0015】
少なくとも最外層のバリア領域30dのフラックスバリア32には、アルミニウム、銅等の非磁性導電体が充填され、2次導体34を構成している。本実施形態では、4層のバリア領域30a~30dのフラックスバリア32に非磁性導電体が充填され、それぞれ2次導体34を構成している。これらの2次導体34は、回転子鉄心24の軸方向一端に設けられた図示しない短絡部材により互いに短絡され、二次巻線を構成している。
【0016】
先に説明したように、バリア領域は略双曲線状に複数層設けられている。図3は、各バリア領域のフラックスバリア32に非磁性導電体を充填した場合に、各2次導体領域がどの程度の誘導トルクを発生しているかを比較して示している。図示のように、誘導トルクのほとんどは、最も回転子14の外周面に近い、最外周側のバリア領域30dのフラックスバリア32に充填された2次導体34で発生していることが分かる。これは、外周面に近い2次導体34の方が、鎖交するq軸磁束が多いためである。すなわち、誘導トルクを大きくするためには、フラックスバリア32の面積を大きくし、そこに非磁性導電体を充填することが効果的である。以下では,バリア領域30dのフラックスバリア32をどの程度まで大きくすることが可能であるか検証する。
【0017】
図4は、回転子鉄心の外周に接する半径Rの外接円f(x、y)=0と、比例定数aの双曲線g(x、y)=0を表している。図4において、互いに直交するX座標およびY座標は、それぞれq軸に対応しているものとしている。図4では、外接円fおよび双曲線gは
【数1】

となる。これらの曲線で囲まれた領域の面積Sは、次式のように算出することができる。
【数2】

上記式において、t=2a/Rであり、tをバリア定数と称することにする。f(x、y)=0とg(x、y)=0とで囲まれた面積が存在する(2つの交点を持つ)という条件から、0≦t<1となる。
【0018】
外接円:f(x、y)=0が回転子鉄心の外周を表し、この外接円と双曲線g(x,y)=0とで囲まれた領域が2次導体領域、g(x、y)<0の領域が鉄心部となっている場合を考える。電機子巻線から与えられる磁位は、ほぼ正弦波状に分布しており、固定子内周と回転子外周との間のギャップに発生する磁束密度もほぼ正弦波状に分布していると考えられる。従って、q軸磁束を発生たせた場合のギャップの磁束密度Bqは,以下のように表すことができる。
【数3】

ただし、θは、極座標で表した時の周方向成分である。f(x,y)=0とg(x,y)=0との交点のうち、x軸に近い交点をAとすれば、極座標表示において、
(r、θ)=(R,(sin―1t)/2)となる。従って、q軸磁束Фqは、Bqをx軸から交点Aに向かって積分した結果に比例する。
【数4】

q軸磁束Фqが角速度ωで変化しているとすれば、ファラデーの法則により、2次導体領域には誘起電圧Vが発生する。
【数5】

2次導体領域の抵抗値が、2次導体領域の面積Sに反比例することから、2次導体領域に流れる電流Iは、次のように表される。
【数6】

この時発生する誘導トルクTmは、電流Iと磁束Фqに比例するため、次のように書ける。
【数7】
【0019】
次に、リラクタンストルクTrを考える。リラクタンストルクTrは、d軸の磁束とq軸の磁束との差によって生じる。q軸磁束Фqと同様の考え方で、d軸磁束Фdを計算すると、次のようになる。
【数8】

従って、リラクタンストルクTrは次のように書ける。
【数9】

TmとTrを図示すると、図5のようになる。ただし、TmとTrの最大値でそれぞれ規格化している。図5に示すように、Tmはt=0.55で最大となり、Trはt=0.71で最大となる。したがって,理論上は、t=0.71となるようにバリア領域30dを配置すれば,リラクタンストルクTrを低下させることなく,誘導トルクTmが最大化できる。また、t=0.55とすれば、リラクタンストルクTrの低下を最小限に抑えながら、誘導トルクTmを最大化することができる。このように、リラクタンストルクを優先した設計(定常特性重視)とするか、誘導トルクを最大化した設計(始動特性重視)とするかによって、0.55<t<0.71の範囲でtを使い分けることが望ましい。
なお,特許第4588255号と同様に極孤率θとして考えた場合、次のように換算することができる。
【数10】

よって、t=0.55はθ=57度、t=0.71はθ=45度、t=0.84はθ=33度にそれぞれ対応する。
【0020】
これまでの考察は、図4に示したように、バリア領域を最外周層の1層だけ設けた場合の理論検討をベースとしている。しかし、通常、リラクタンストルクをより大きくするために、バリア領域は複数層設けられる。すなわち、本実施形態のように、バリア領域30dよりも中心軸線Cに近い位置にバリア領域30c、30b、30aなどが設けられる。この場合、バリア領域30dだけでなく、バリア領域30c、30b、30aによってもリラクタンストルクが発生する。そのため、リラクタンス卜ルクを最大化するバリア定数tの値は、0.71から変化することが予想される。
【0021】
そこで、バリア領域30c、30b、30aを設けた構成において、最外層のバリア領域30dのみを変化させた場合のトルクを磁界解析によって計算した。図7(a)~(d)は、バリア領域30dを種々変化させた場合の回転子鉄心の1磁極分の横断面を示している。図示のように、バリア定数tが小さくなる程、バリア領域30dの占める領域が大きくなっている。例えば、図7(a)は、t=0の場合の横断面を示し、図7(d)は、t=0.7の場合の横断面を示している。
図6は、トルクの解析結果を示している。なお、あるバリア定数tを固定した時に、電流の位相角を変化させた計算を行い、トルクが最大となる位相で得られた値をプロッ卜している。このように、複数層のバリア領域(フラックスバリア)が設けられている場合、バリア領域30dが消滅するt=1の条件においても、バリア領域30c、30b、30aによってリラクタンストルクTrが発生している。そのため、リラクタンストルクが最大となるのはt=0.84となり、バリア領域を1層だけ設けた場合の理論計算で得られた値t=0.71よりも大きくなっている。その結果、最適なバリア定数tの設定値は、0.55<t<0.84となる。リラクタンストルク効率を重視した場合、バリア定数t(2a/R)の設定値は、0.55<t<0.78に設定されていることが望ましい。
【0022】
図8に示すように、最外層のバリア領域30dのフラックスバリア32は、内周側縁(バリア側縁)35aとこれに隙間をおいて対向する外周側縁35bとの間に規定されている。そして、内周側縁(バリア側縁)35aがt=0.84の双曲線とt=0.55の双曲線との間の領域内に位置するようにフラックスバリア32を形成している。これにより、リラクタンストルクTrを低下させることなく、誘導トルクTmを大きくすることができる回転電機の回転子が得られる。
なお、バリア領域の層数を変えた場合、トルクリップルなどの脈動成分が大きく変化するが、実際の出力に寄与する平均トルクは大きく変化しない。すなわち、本実施形態では、バリア領域を4層設けているが、3層以下、あるいは5層以上の場合においても、上記と同様の傾向が得られるものと考えられる。
また、フラックスバリア32の内周側縁(バリア側縁)35aの形状は完全な双曲線でなくてもよい。すなわち、フラックスバリア32の内周側縁35aは、前述した領域0.55~0.84の範囲内に延在していればよく、バスタブ形のような多角形でもよいし、円弧に近似した形状としてもよい。
【0023】
なお、この発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
例えば、実施形態では、4磁極の回転子を示しているが、これに限らず、回転子は、2磁極あるいは6磁極の回転子としてもよい。回転子の磁極数、寸法、形状、バリア領域の層数等は、前述した実施形態に限定されることなく、設計に応じて種々変更可能である。
【符号の説明】
【0024】
10…回転電機、12…固定子、14…回転子、16…固定子鉄心、
18…電機子巻線、20…スロット、22…シャフト、24…回転子鉄心、
30a、30b、30c、30d…バリア領域、32…フラックスバリア、
32a…第1ブリッジ部、32b…第2ブリッジ部、34…2次導体、
35a…内周側縁(バリア側縁)、35b…外周側縁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8