(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】レーダ装置及びその運用方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/12 20060101AFI20230925BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20230925BHJP
G01S 7/282 20060101ALI20230925BHJP
G01S 13/66 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
G01S13/12
G01S7/03 234
G01S7/282 200
G01S13/66
(21)【出願番号】P 2019130459
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三上 成
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-194366(JP,A)
【文献】特開2017-215294(JP,A)
【文献】特開平10-051213(JP,A)
【文献】特開2015-055573(JP,A)
【文献】特開2009-141706(JP,A)
【文献】特開2005-011009(JP,A)
【文献】特開昭61-004984(JP,A)
【文献】特開2010-181273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標からの反射波が戻ってから次のパルスを送信して前記反射波の受信信号から目標を検出するLPRF(Low Pulse Repeat Frequency:低パルス繰り返し周波数)レーダ処理と、反射波の戻り時間よりも前に次のパルスを送信して前記反射波の受信信号から目標を検出するHPRF(High Pulse Repeat Frequency:高パルス繰り返し周波数)レーダ処理とが選択的に稼働するレーダ処理部と、
前記LPRFレーダ処理及び前記HPRFレーダ処理で共用
し、少なくとも前記LPRFレーダ処理の稼働状態で素子の発熱を抑圧する冷却装置を搭載する空中線と、
前記LPRFレーダ処理及び前記HPRFレーダ処理それぞれの目標検出結果を統合して検出情報を出力する統合処理部と、
前記空中線の素子温度を検出する温度センサと、
前記レーダ処理部に対して前記LPRFレーダ処理及び前記HPRFレーダ処理を選択的に切り替えて稼働させ、前記HPRFレーダ処理の稼働状態で、前記温度センサで得られる前記空中線の素子温度が閾値を超えるとき、前記LPRFレーダ処理の稼働状態に切換制御する運用管理部と
を具備するレーダ装置。
【請求項2】
前記運用管理部は、一定間隔で前記LPRFレーダ処理を前記HPRFレーダ処理に切り替える請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記運用管理部は、所定のスケジュールで前記LPRFレーダ処理を前記HPRFレーダ処理に切り替える請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記運用管理部は、ユーザの指示に応じて前記LPRFレーダ処理を前記HPRFレーダ処理に切り替える請求項1記載のレーダ装置。
【請求項5】
目標からの反射波が戻ってから次のパルスを送信して前記反射波の受信信号から目標を検出するLPRF(Low Pulse Repeat Frequency:低パルス繰り返し周波数)レーダ処理と、反射波の戻り時間よりも前に次のパルスを送信して前記反射波の受信信号から目標を検出するHPRF(High Pulse Repeat Frequency:高パルス繰り返し周波数)レーダ処理とが選択的に稼働するレーダ処理部と、
前記LPRFレーダ処理及び前記HPRFレーダ処理で共用
し、少なくとも前記LPRFレーダ処理の稼働状態で素子の発熱を抑圧する冷却装置を搭載する空中線と、
前記LPRFレーダ処理及び前記HPRFレーダ処理それぞれの目標検出結果を統合して検出情報を出力する統合処理部と、
前記空中線の素子温度を検出する温度センサと
を具備するレーダ装置に用いられ、
前記レーダ処理部に対して前記LPRFレーダ処理及び前記HPRFレーダ処理を選択的に切り替えて稼働させ、
前記HPRFレーダ処理の稼働状態で、前記温度センサで得られる前記空中線の素子温度が閾値を超えるとき、前記LPRFレーダ処理の稼働状態に切換制御する
レーダ装置の運用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、レーダ装置及びその運用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、LPRF(Low Pulse Repeat Frequency:低パルス繰り返し周波数)方式のレーダ装置は、最も遠くの目標からの反射波が戻ってから次のパルスを送信するもので、距離方向に不確定性がないが、クラッタの影響を受けやすい。
【0003】
一方、HPRF(High Pulse Repeat Frequency:高パルス繰り返し周波数)方式のレーダ装置は、反射波の戻り時間よりも前に次のパルスを送信するもので、距離方向は不明確であるが、ドップラ積分によってクラッタの影響を小さくすることが可能な特徴を有する。ただし、HPRFレーダ装置は、送信期間の割合が大きく(高デューティ比)、空中線の発熱が大きくなり、冷却能力の制約を受けるという問題を有している。
【0004】
以上のことから、従来では、使用環境に応じてLPRFレーダ装置、HPRFレーダ装置を使い分けて運用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上述べたように、従来では、LPRF方式、HPRF方式それぞれのレーダ装置を使用環境に応じて使い分けて運用しているため、使用環境によっては両方式のレーダ装置を個別に配置する必要があった。
【0007】
本実施形態は上記課題に鑑みなされたもので、LPRF方式、HPRF方式それぞれの特徴を活かして、距離方向の確実性を保持しつつ、クラッタの影響を小さくすることができ、発熱の影響も低減されて冷却能力の制約から解放することのできるレーダ装置とその運用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本実施形態に係るレーダ装置は、目標からの反射波が戻ってから次のパルスを送信して前記反射波の受信信号から目標を検出するLPRF(Low Pulse Repeat Frequency:低パルス繰り返し周波数)レーダ処理と、反射波の戻り時間よりも前に次のパルスを送信して前記反射波の受信信号から目標を検出するHPRF(High Pulse Repeat Frequency:高パルス繰り返し周波数)レーダ処理とが選択的に稼働するレーダ処理部と、前記LPRFレーダ処理及び前記HPRFレーダ処理で共用し、少なくとも前記LPRFレーダ処理の稼働状態で素子の発熱を抑圧する冷却装置を搭載する空中線と、前記LPRFレーダ処理及び前記HPRFレーダ処理それぞれの目標検出結果を統合して検出情報を出力する統合処理部と、前記空中線の素子温度を検出する温度センサと、前記レーダ処理部に対して前記LPRFレーダ処理及び前記HPRFレーダ処理を選択的に切り替えて稼働させる運用管理部とを備える。前記運用管理部は、前記HPRFレーダ処理の稼働状態で、前記温度センサで得られる前記空中線の素子温度が閾値を超えるとき、前記LPRFレーダ処理の稼働状態に切換制御する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す実施形態において、
図1に示すレーダ装置の具体的な構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すレーダ装置のLPRF/HPRF切替処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図1に示すレーダ装置において、
図3に示すLPRF/HPRF切替処理を具体的に示すタイミング波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
図1は本実施形態に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、レーダ処理部11として、LPRFレーダ処理部11a、HPRFレーダ処理部11bを備える。また、運用管理部12、空中線13、統合処理部14及び温度センサ15を備える。
【0012】
上記LPRFレーダ処理部11a、HPRFレーダ処理部11bは、それぞれ運用管理部12からの切替制御に応答して稼働状態となり、共用の空中線13を通じてLPRFまたはHPRFによる送信/受信RF信号を送受して目標検出処理を行い、その検出処理結果を統合処理部14に送る。統合処理部14は、LPRF/HPRFレーダ処理部11a,11bからの目標検出結果をレンジ軸、時間軸に沿って取りまとめ、検出情報として出力する。
【0013】
上記運用管理部12は、LPRF/HPRFレーダ処理部11a,11bの切替制御を行う。さらに、運用管理部12は、空中線13に取り付けられた温度センサ15で測定される空中線の温度情報を入力し、HPRFレーダ処理の選択中に空中線13の発熱によって測定温度が許容値を超えた場合に、強制的にLPRFレーダ処理に切り替えるセーフティ機能を備えている。
【0014】
図2は、
図1に示すレーダ装置の具体的な構成を示すブロック図である。
図2において、レーダ処理部11は、送信信号生成器111とHPRF/LPRF信号処理器112とを備える。上記送信信号生成器111は統合処理部14から与えられる送信パルス種信号からLPRF/HPRF用送信信号を生成する。HPRF/LPRF信号処理部112は、上記LPRFレーダ処理部11a及び上記HPRFレーダ処理部11bの機能をあわせ持ち、運用管理部12からのLPRF/HPRF切替制御によっていずれかの機能を切替設定可能な構成であり、位相制御を受けた受信信号から不要波を抑圧し、送信信号の反射成分を抽出して目標検出を行う。
【0015】
上記空中線13は、送信信号をn系統に分配し、n系統の受信信号を合成する合成/分配器131と、送受信系統A1~Anを備えるアレイアンテナとを備える。送受信系統A1~Anは、それぞれ移相器132、パワーアンプ(PA)133、サーキュレータ134、アンテナ素子135、ローノイズアンプ(LNA)136、移相器137、冷却器138、電源139を備える。
【0016】
上記移相器132は、送信信号の位相を送信ビームの形状に合わせて制御する。上記パワーアンプ133は、LPRF/HPRF切替制御に合わせて送信信号を電力増幅して出力する。
【0017】
上記サーキュレータ134は、送信信号をアンテナ素子135に導き、アンテナ素子135で得られた受信信号をローノイズアンプ136に出力する。このローノイズアンプ136は受信信号を低雑音で増幅して移相器137に出力する。この移相器137は、増幅された受信信号の位相を受信ビームの指向方向に合わせて制御する。上記冷却器138は、運用管理部12からの指示に応じて上記パワーアンプ133及びローノイズアンプ136を冷却して発熱を抑制する。上記電源139は、運用管理部12からの指示によりLPRF方式、HPRF方式それぞれに対応する電力供給を行う。
【0018】
上記統合処理部14は、上記レーダ処理部11のHPRF/LPRF信号処理器112レーダ送受信系統A1~Anで行ったLPRF方式またはHPRF方式の目標検出結果を出力する。上記運用管理部12は、レーダ処理の運用を開始すると、定期的に、あるいはスケジュールに従って、あるいはユーザの要求に応じてレーダ処理をLPRF方式またはHPRF方式に切替設定する。また、運用開始と共に、送受信系統A1~Anの冷却器138を稼働してパワーアンプ(PA)133及びローノイズアンプ(LNA)136の発熱を抑制する。
【0019】
上記構成において、
図3に示す運用管理のフローチャート、
図4に示すLPRF/HPRF切替(a)及び温度変化(b)のタイミング波形図を参照して、運用管理部15の処理手順を説明する。
【0020】
運用管理部12では、運用開始が指示されると、レーダ処理部11をLPRFに設定する(ステップS11)。これにより、運用開始時には、遠方の目標を探索するレーダとして機能する。このとき、運用管理部12は、温度センサ15で検出される空中線13の温度を監視し、その温度が基準値を超えた場合には、空中線13の冷却器138を稼働して、空中線13の発熱を抑制する。この結果、
図4(b)に示すように、LPRF運用中は空中線13の発熱を抑制し、ほぼ一定に維持することができる。
【0021】
次に、スケジュールにより、LPRFからHPRFへの切替指示があると(ステップS12)、レーダ処理部11及び空中線13をHPRFに設定する(ステップS13)。これにより、近傍の目標を探索するレーダとして機能する。このとき、運用管理部12は、LPRFへの切替指示を待機する(ステップS14)と共に、空中線13に取り付けられた温度センサ15で検出される温度情報を監視して、空中線13の温度が閾値以上となったか判定する(ステップS15)。すなわち、HPRFでは、
図4(a)に示すように、パルスの送信繰り返し周波数が高いため、温度上昇が大きく、LPRFの冷却では温度上昇を抑制することができない。その結果、HPRFを継続稼働すると、空中線13が高温となって損傷してしまう。そこで、本実施形態では、HPRF稼動中では、基本的にLPRFへの切替指示を待機するが、その前に空中線13の温度が閾値以上となった場合には、強制的にLPRFに切り替え、空中線素子の損傷を抑制しつつ、目標捜索を継続する。
【0022】
以上のように、HPRFレーダ単体では、送信期間の割合が大きく(高デューティ比)空中線13の発熱が大きくなって冷却能力の制約を受けるが、本実施形態に係るレーダ装置は、HPRFレーダ処理とLPRFレーダ処理の2つのレーダ処理を有し、これを所定のスケジュールタイミングで切り替えるとともに、統合処理にて各検出情報の一元化を行い、検出情報として出力するようにしているので、HPRFレーダとして動作する期間の割合を変化させることができ、空中線の発熱量をコントロールすることが可能である。また、HPRFレーダの「目標距離が不明確であるが、クラッタの影響を受けずに目標を検出できる」という特徴と、LPRFレーダの「目標距離が正確にわかる」という特徴を統合することで、HPRFレーダの有する短所をカバーした運用が可能となる。
【0023】
なお、上記実施形態では、スケジュールに従ってLPRFとHPRFを切り替える運用を説明したが、一定周期で、あるいはユーザの指示に応じて切り替える運用でもよい。
【0024】
その他、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0025】
11…レーダ処理部、11a…LPRFレーダ処理部、11b…HPRFレーダ処理部、111…送信信号生成器、112…HPRF/LPRF信号処理器、12…運用管理部、13…空中線、A1~An…送受信系統、131…送信信号生成器、132…移相器、133…パワーアンプ(PA)、134…サーキュレータ、135…アンテナ素子、136…ローノイズアンプ(LNA)、137…移相器、138…冷却器、139…電源、14…統合処理部、15…温度センサ。