(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】騒音低減装置、車両、騒音低減システム、及び騒音低減方法
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20230925BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20230925BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
G10K11/178 140
B60R11/02 B
H04R3/00 310
(21)【出願番号】P 2019131408
(22)【出願日】2019-07-16
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】田地 良輔
(72)【発明者】
【氏名】丹野 慶太
(72)【発明者】
【氏名】勇 萌音
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】上杉 治輝
【審査官】上田 雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-027971(JP,A)
【文献】特開2009-255735(JP,A)
【文献】特開平06-250674(JP,A)
【文献】特開2018-072770(JP,A)
【文献】特開2018-169439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00-13/00
B60R 9/00-11/06
H04R 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の各座席に対応するスピーカ及びマイクを用いて、座席ごとに騒音を低減する騒音低減装置であって、
設定された補助フィルタを用いて、所定の座席における乗員の耳の位置で騒音を低減するキャンセル音を生成する信号処理部と、
前記車両の座席のうち、乗員がいない座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を無効に設定する動作設定部と、
前記所定の座席の騒音に影響を与える他の座席における乗員の数に応じて、前記信号処理部が前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタの設定値を変更する補助フィルタ設定部と、
を有
し、
前記補助フィルタ設定部は、前記他の座席の一部に乗員がいる場合、前記信号処理部が前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタに、前記他の座席のうち、一方の座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を有効に設定し、かつ他方の座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を無効に設定した状態で学習した補助フィルタの設定値を設定する、
騒音低減装置。
【請求項2】
車両の各座席に対応するスピーカ及びマイクを用いて、座席ごとに騒音を低減する騒音低減装置であって、
設定された補助フィルタを用いて、所定の座席における乗員の耳の位置で騒音を低減するキャンセル音を生成する信号処理部と、
前記車両の座席のうち、乗員がいない座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を無効に設定する動作設定部と、
前記所定の座席の騒音に影響を与える他の座席における乗員の数に応じて、前記信号処理部が前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタの設定値を変更する補助フィルタ設定部と、
を有し、
前記所定の座席に乗員が乗車した場合、
前記補助フィルタ設定部は、前記所定の座席の騒音に影響を与える他の座席における乗員の数に応じて、前記信号処理部が前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタの設定値を設定し、
前記動作設定部は、
前記所定の座席に対応するスピーカの動作を有効に設定し、
前記スピーカの動作を有効に設定した後、又は前記スピーカの動作を有効に設定したときに、前記マイクの動作を有効に設定する、
騒音低減装置。
【請求項3】
前記補助フィルタ設定部は、前記他の座席の各々に乗員がいる場合、前記信号処理部が前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタに、前記他の座席の各々に対応するスピーカ及びマイクの動作を有効に設定した状態で学習した補助フィルタの設定値を設定する、請求項1
又は2に記載の騒音低減装置。
【請求項4】
前記所定の座席は、前記乗員の左耳の近傍に設けられた第1のスピーカ及び第1のマイクと、前記乗員の右耳の近傍に設けられた第2のスピーカ及び第2のマイクとを備え、
前記信号処理部は、前記乗員の左耳の位置で騒音を低減する第1のキャンセル音と、前記乗員の右耳の位置で騒音を低減する第2のキャンセル音とを生成する、
請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の騒音低減装置。
【請求項5】
前記所定の座席は、前記車両の運転席又は助手席であり、
前記他の座席は、前記車両の後部座席である、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の騒音低減装置。
【請求項6】
前記所定の座席は、前記車両の後部座席の一つであり、
前記他の座席は、前記車両の運転席及び助手席である、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の騒音低減装置。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の騒音低減装置を搭載した車両。
【請求項8】
車両の各座席に対応するスピーカ及びマイクを用いて、座席ごとに騒音を低減する騒音低減システムであって、
設定された補助フィルタを用いて、所定の座席における乗員の耳の位置で騒音を低減するキャンセル音を生成する信号処理部と、
前記車両の座席のうち、乗員がいない座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を無効に設定する動作設定部と、
前記所定の座席の騒音に影響を与える他の座席における乗員の数に応じて、前記信号処理部が前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタの設定値を変更する補助フィルタ設定部と、
を有
し、
前記補助フィルタ設定部は、前記他の座席の一部に乗員がいる場合、前記信号処理部が前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタに、前記他の座席のうち、一方の座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を有効に設定し、かつ他方の座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を無効に設定した状態で学習した補助フィルタの設定値を設定する、
騒音低減システム。
【請求項9】
車両の各座席に対応するスピーカ及びマイクを用いて、座席ごとに騒音を低減する騒音低減システムであって、
設定された補助フィルタを用いて、所定の座席における乗員の耳の位置で騒音を低減するキャンセル音を生成する信号処理部と、
前記車両の座席のうち、乗員がいない座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を無効に設定する動作設定部と、
前記所定の座席の騒音に影響を与える他の座席における乗員の数に応じて、前記信号処理部が前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタの設定値を変更する補助フィルタ設定部と、
を有し、
前記所定の座席に乗員が乗車した場合、
前記補助フィルタ設定部は、前記所定の座席の騒音に影響を与える他の座席における乗員の数に応じて、前記信号処理部が前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタの設定値を設定し、
前記動作設定部は、
前記所定の座席に対応するスピーカの動作を有効に設定し、
前記スピーカの動作を有効に設定した後、又は前記スピーカの動作を有効に設定したときに、前記マイクの動作を有効に設定する、
騒音低減システム。
【請求項10】
車両の各座席に対応するスピーカ及びマイクを用いて、座席ごとに騒音を低減する騒音低減システムが実行する騒音低減方法であって、
前記騒音低減システムが、
設定された補助フィルタを用いて、所定の座席における乗員の耳の位置で騒音を低減するキャンセル音を生成する信号処理と、
前記車両の座席のうち、乗員がいない座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を無効に設定する動作設定処理と、
前記所定の座席の騒音に影響を与える他の座席における乗員の数に応じて、前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタの設定値を変更する補助フィルタ設定処理と、
を実行
し、
前記補助フィルタ設定処理は、前記他の座席の一部に乗員がいる場合、前記信号処理が前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタに、前記他の座席のうち、一方の座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を有効に設定し、かつ他方の座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を無効に設定した状態で学習した補助フィルタの設定値を設定する、
騒音低減方法。
【請求項11】
車両の各座席に対応するスピーカ及びマイクを用いて、座席ごとに騒音を低減する騒音低減システムが実行する騒音低減方法であって、
前記騒音低減システムが、
設定された補助フィルタを用いて、所定の座席における乗員の耳の位置で騒音を低減するキャンセル音を生成する信号処理と、
前記車両の座席のうち、乗員がいない座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を無効に設定する動作設定処理と、
前記所定の座席の騒音に影響を与える他の座席における乗員の数に応じて、前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタの設定値を変更する補助フィルタ設定処理と、
を実行し、
前記所定の座席に乗員が乗車した場合、
前記補助フィルタ設定処理は、前記所定の座席の騒音に影響を与える他の座席における乗員の数に応じて、前記信号処理が前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタの設定値を設定し、
前記動作設定処理は、
前記所定の座席に対応するスピーカの動作を有効に設定し、
前記スピーカの動作を有効に設定した後、又は前記スピーカの動作を有効に設定したときに、前記マイクの動作を有効に設定する、
騒音低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音低減装置、車両、騒音低減システム、及び騒音低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両内において騒音を制御する技術として、車両のエンジン音等を低減するANC(Active Noise Control)がある。また、ANCの技術を応用して、車両内の各座席で別々のコンテンツを再生するACTC(Active Cross Talk Control)の需要も高まっている。
【0003】
これらに関連する技術として、使用時に所望の騒音制御箇所にエラーマイクを設置することができない場合に、設置された環境の音場が変動しても、騒音を低減することができるアクティブ消音装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ANCや、ACTCで適応フィルタを用いて広帯域の騒音の低減を行う場合、フィードフォワード型を使用することが一般的であるが、騒音はマイクの位置で低減されるため、マイクと耳の位置が離れていると、騒音が十分に低減されない場合がある。
【0006】
これに対して、特許文献1に開示された技術では、予め作成した補助フィルタを用いて、仮想的に耳の位置における音声信号を取得することにより、耳の位置における騒音の低減を実現している。
【0007】
このように、予め作成した補助フィルタを用いて、各座席における乗員の耳の位置における騒音を低減する技術を用いて、車両内の各座席で別々のコンテンツを再生する騒音低減システムを実現することが考えられる。
【0008】
また、このような騒音低減システムでは、車両内に乗員がいない座席がある場合、当該座席に備えられたスピーカの出力を無効にしたいという要求がある。これにより、騒音低減装置の消費電力を削減すると共に、他の座席に対する騒音の発生を抑制する効果が期待できる。
【0009】
しかし、実際には、乗員がいない座席のスピーカの出力を無効にしてしまうと、補助フィルタに含まれる1次経路の特性が変化してしまい、騒音の低減効果が劣化してしまうという問題があることが判った。
【0010】
本発明の一実施形態は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、車両の各座席に対応するスピーカ及びマイクを用いて各座席の騒音を低減する騒音低減システムにおいて、乗員がいない座席のスピーカの出力を無効にしつつ、騒音の低減効果を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態に係る騒音低減装置は、車両の各座席に対応するスピーカ及びマイクを用いて、座席ごとに騒音を低減する騒音低減装置であって、設定された補助フィルタを用いて、所定の座席における乗員の耳の位置で騒音を低減するキャンセル音を生成する信号処理部と、前記車両の座席のうち、乗員がいない座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を無効に設定する動作設定部と、前記所定の座席の騒音に影響を与える他の座席における乗員の数に応じて、前記信号処理部が前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタの設定値を変更する補助フィルタ設定部と、を有し、前記補助フィルタ設定部は、前記他の座席の一部に乗員がいる場合、前記信号処理部が前記キャンセル音の生成に用いる補助フィルタに、前記他の座席のうち、一方の座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を有効に設定し、かつ他方の座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を無効に設定した状態で学習した補助フィルタの設定値を設定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、車両の各座席に対応するスピーカ及びマイクを用いて各座席の騒音を低減する騒音低減システムにおいて、乗員がいない座席のスピーカの出力を無効にしつつ、騒音の低減効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係る騒音低減システムのシステム構成の例を示す図である。
【
図2】一実施形態に係る騒音低減装置の構成例を示す図である。
【
図3】一実施形態に係る信号処理部の構成例を示す図である。
【
図4】一実施形態に係る制御部の機能構成の例を示す図である。
【
図5】一実施形態に係る騒音低減システムの処理の概要について説明するための図である。
【
図6】一実施形態に係る動作設定処理の例を示すフローチャートである。
【
図7】一実施形態に係る運転席における補助フィルタの設定処理の例を示すフローチャートである。
【
図8】一実施形態に係る所定の座席における補助フィルタの設定処理の例を示すフローチャートである。
【
図9】一実施形態に係る騒音低減方法の効果について説明するための図である。
【
図10】一実施形態に係るコンテンツ信号を出力するときの構成例を示す図である。
【
図11】一実施形態に係る第1の学習処理部の構成例を示す図である。
【
図12】一実施形態に係る第2の学習処理部の構成例を示す図である。
【
図13】バーチャルセンシングのイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照して説明する。
【0015】
<システム構成>
図1は、一実施形態に係る騒音低減システムのシステム構成の例を示す図である。騒音低減システム1は、例えば、自動車等の車両10に搭載される騒音低減装置100と、車両10内の各座席に対応して設けられたスピーカ111L、111R、マイク112L、112Rとを含む。また、騒音低減システム1は、車両10内の各座席における乗員の有無を判断するために用いられるカメラ105、又はシートセンサ等を備えている。
【0016】
図1の例では、例えば、運転席101のヘッドレスト110に、運転席101に対応するスピーカ111L、111R、及びマイク112L、112Rが備えられている。また、助手席102、後席(後部座席)103、及び後席(後部座席)104の各々のヘッドレスト110にも、各座席に対応するスピーカ111L、111R、及びマイク112L、112Rが備えられている。
【0017】
各座席に対応するスピーカ111L(第1のスピーカ)、及びマイク112L(第1のマイク)は、各座席に着座した乗員の左耳の近傍に配置される。また、各座席に対応するスピーカ111R(第2のスピーカ)、及びマイク112R(第2のマイク)は、各座席に着座した乗員の右耳の近傍に配置される。
【0018】
騒音低減装置100は、各座席のスピーカ111L、111R、及びマイク112L、112Rと接続され、各座席において、騒音に対して同振幅、逆位相のキャンセル音を出力することにより、騒音を低減するANC(Active Noise Control)を実現する。例えば、騒音低減装置100は、各座席に着座した乗員の左耳の位置で騒音を低減するキャンセル音(第1のキャンセル音)と、乗員の右耳の位置で騒音を低減するキャンセル音(第2のキャンセル音)とを生成し、出力する。
【0019】
好ましくは、騒音低減装置100は、車両10内の各座席で別々のコンテンツ(例えば、音楽、音声、環境音等)を再生するACTC(Active Cross Talk Control)に対応している。これにより、運転者は、例えば、後席103、104で、映画等のコンテンツが再生されているときでも、再生されている映画等の音の影響が抑制され、運転席101で音楽等の別のコンテンツを楽しむことができる。
【0020】
(バーチャルセンシングについて)
通常のANCシステムは、例えば、
図13(A)に示すように、騒音源1301から出力される騒音1302をマイク1305で取得し、騒音をキャンセルするキャンセル音1304を生成する。また、ANCシステムは、生成したキャンセル音1304をスピーカ1303から出力することにより、マイク1305の地点における騒音をキャンセルする。したがって、例えば、
図13(A)に示すように、マイク1305と耳1306との間の距離dが離れている場合、十分に騒音を低減できない場合がある。
【0021】
そこで、本実施形態では、例えば、ダミーヘッド等を用いて予め学習した補助フィルタを用いて、例えば、
図13(B)に示すように、仮想的なマイク1311が、耳1306の位置にあるように信号処理を行うバーチャルセンシングという技術を利用している。これにより、騒音低減装置100は、例えば、予め作成した補助フィルタを用いて、乗員の耳の位置で騒音をキャンセルするキャンセル音1312を生成することができる。また、騒音低減装置100は、生成したキャンセル音1312をスピーカ1303から出力することにより、仮想的なマイク1311の地点、すなわち、耳1306の近傍における騒音をキャンセルすることができる。
【0022】
(処理の概要)
本実施形態では、各座席において同様の騒音低減処理が実行されるが、ここでは、一例として、運転席101の騒音を低減する場合の処理を中心に説明する。また、ここでは、主に、後席103、104のスピーカ111L、111Rから出力される音(コンテンツ)が、運転席101の騒音に影響を与える騒音源であるものとして以下の説明を行う。
【0023】
一方、助手席102のスピーカ111L、111Rは、例えば、前方に指向性を有しており、側方には殆ど音を放射しないため、助手席102のスピーカ111L、111Rから出力される音は、運転席101への騒音の影響を無視できる(又は影響が小さい)ものとする。
【0024】
本実施形態に係る騒音低減装置100は、例えば、カメラ105を用いて、車両10内を撮影した画像から、各座席の乗員の有無を判断し、乗員がいない座席に対応するスピーカ及びマイクの動作を無効に設定する機能を有している。
【0025】
例えば、騒音低減装置100は、後席104に乗員がいない場合、後席104に対応するスピーカ111L、111R、及びマイク112L、112Rを無効(例えば、ミュートオン)に設定して、後席104に対する騒音低減処理を中止する。一方、騒音低減装置100は、後席104に乗員がいる場合、後席104に対応するスピーカ111L、111R、及びマイク112L、112Rを有効(例えば、ミュートオフ)に設定して、後席104に対する騒音低減処理を実行する。
【0026】
これにより、騒音低減装置100は、乗員がいない座席(例えば、後席104)の騒音低減処理に必要な消費電力を削減することができると共に、他の座席(例えば、運転席101)の騒音源となるコンテンツの出力を中止することができる。
【0027】
しかし、実際には、例えば、乗員がいない後席104のスピーカの出力を無効にしてしまうと、補助フィルタに含まれる1次経路の特性が変化してしまい、例えば、運転席101の騒音の低減効果が劣化してしまうことが判った。
【0028】
そこで、騒音低減装置100は、運転席101の騒音に影響を与える他の座席である後席103、104における乗員の数に応じて、運転席101の騒音を低減するキャンセル音の生成に用いる補助フィルタを変更する機能を有している。
【0029】
例えば、騒音低減装置100は、運転席101の騒音に影響を与える後席103、104に対応するスピーカ111L、111R、及びマイク112L、112Rを有効に設定した状態で学習処理を実行し、取得した補助フィルタ(補助フィルタA)を記憶しておく。
【0030】
また、騒音低減装置100は、運転席101の騒音に影響を与える後席103、104のうち、一方の座席(例えば、後席104)に対応するスピーカ及びマイクを無効に設定した状態で学習処理を実行し、取得した補助フィルタ(補助フィルタB)を記憶しておく。
【0031】
さらに、騒音低減装置100は、運転席101の騒音に影響を与える後席103、104の各々に乗客がいる場合、予め記憶した補助フィルタAを適用して、運転席101の騒音を低減するキャンセル音を生成する。
【0032】
一方、騒音低減装置100は、運転席101の騒音に影響を与える後席103、104のうち、一方に座席に乗客がいない場合、予め記憶した補助フィルタBを適用して、運転席101の騒音を低減するキャンセル音を生成する。
【0033】
なお、運転席101の騒音に影響を与える後席103、104の両方に乗客がいない場合、運転席101の騒音に影響を与える騒音源がなくなるので、騒音低減装置100は、例えば、運転席101における騒音低減処理を停止しても良い。
【0034】
なお、乗客がいない座席において、スピーカ111L、111Rの出力だけを無効にしてしまうと、乗客がいない座席で適応フィルタの適応が進んでしまい、スピーカの出力を再び有効にした際に、大きな騒音(爆音)が発生してしまう場合がある。
【0035】
そのため、本実施形態に係る騒音低減装置100では、乗客がいない座席において、スピーカ111L、111Rの出力に加えて、マイク112L、112Rの入力を無効化して、不適切な適応が進まないように制御している。
【0036】
なお、上記の説明では、運転席101において騒音を低減する場合について説明したが、騒音低減装置100は、車両10の各席において同様の処理を実行することができる。
【0037】
例えば、騒音低減装置100が、助手席102の騒音を低減する場合、後席103、104のスピーカ111L、111Rから出力される音(コンテンツ)が、助手席102の騒音に影響を与える騒音源となる。したがって、騒音低減装置100は、助手席102の騒音に影響を与える他の座席である後席103、104における乗員の数に応じて、助手席102の騒音を低減するキャンセル音の生成に用いる補助フィルタを変更すれば良い。
【0038】
また、騒音低減装置100が、後席(例えば、後席103)の騒音を低減する場合、運転席101、及び助手席102のスピーカ111L、111Rから出力される音(コンテンツ)が、後席の騒音に影響を与える騒音源となる。したがって、騒音低減装置100は、後席の騒音に影響を与える他の座席である運転席101、及び助手席102における乗員の数に応じて、後席の騒音を低減するキャンセル音の生成に用いる補助フィルタを変更すれば良い。
【0039】
なお、
図1に示す騒音低減システム1のシステム構成は一例である。例えば、車両10内の各座席に対応するスピーカ111L、111R、又はマイク112L、112Rは、ヘッドレスト110の外部に設けられていても良い。また、騒音低減装置100は、カメラ105が撮影した画像に限られず、例えば、車両10に搭載された車載ECU(Electronic Control Unit)から取得した情報や、シートセンサ等から出力される信号に基づいて、各座席の乗員の有無を判断しても良い。
【0040】
<騒音低減装置の構成例>
図2は、一実施形態に係る騒音低減装置の構成例を示す図である。なお、
図2には、説明を容易にするため、騒音低減装置100が、車両10内の各座席における騒音を低減するための構成のみを記載している。騒音低減装置100が、音楽や音声等のコンテンツを出力する場合の構成については、
図11を用いて後述する。
【0041】
騒音低減装置100は、車両10内の各座席に対応する信号処理部210-1~210-4、及び制御部220を有する。例えば、信号処理部210-1は、
図1の運転席101における騒音低減処理を実行し、信号処理部210-2は、助手席102における騒音低減処理を実行する。また、信号処理部210-2は、例えば、
図1の後席103における騒音低減処理を実行し、信号処理部210-4は、後席104における騒音低減処理を実行する。
【0042】
なお、信号処理部210-1~210-4の構成は共通なので、ここでは、1つの信号処理部210(例えば、信号処理部210-1)について説明を行う。また、以下の説明において、信号処理部210-1~210-4のうち、任意の信号処理部を示す場合、「信号処理部210」を用いる。
【0043】
なお、
図2において、信号処理部210-2~210-4の各々には、信号処理部210-1と同様に、各信号処理部210に対応する騒音源、スピーカ、及びマイクが接続されているものとする。
【0044】
信号処理部210-1~210-4は、例えば、騒音低減装置100が備えるDSP(Digital Signal Processor)によって実現され、制御部220からの制御に従って、車両10内の各座席における騒音低減処理を実行する。
【0045】
信号処理部210には、第1の騒音源201が発生する騒音信号x1(n)、及び第2の騒音源202が発生する騒音信号x2(n)が入力される。騒音信号x1(n)、及び騒音信号x2(n)は、ANCにおけるレファレンス信号に相当する。
【0046】
例えば、運転席101の騒音低減処理を実行する信号処理部210-1には、騒音信号x1(n)として、後席103で出力される音楽等のコンテンツ信号が入力され、騒音信号x2(n)として、後席104で出力されるコンテンツ信号が入力される。
【0047】
また、信号処理部210には、マイク112Lから出力されるエラー信号errp1(n)、及びマイク112Rから出力されるエラー信号errp2(n)が入力される。
【0048】
信号処理部210は、騒音信号x1(n)、騒音信号x2(n)、エラー信号errp1(n)、及びエラー信号errp2(n)を用いて、第1のキャンセルポイントで騒音をキャンセルするキャンセル信号CA1(n)を生成する。また、信号処理部210は、生成したキャンセル信号CA1(n)を、スピーカ111Lから出力することにより、第1のキャンセルポイント(例えば、乗員の左耳)における騒音を低減する。
【0049】
同様に、信号処理部210は、騒音信号x
1(n)、騒音信号x
2(n)、エラー信号err
p1(n)、及びエラー信号err
p2(n)を用いて、第2のキャンセルポイントで騒音をキャンセルするキャンセル信号CA2(n)を生成する。また、信号処理部210は、生成したキャンセル信号CA2(n)を、スピーカ111Rから出力することにより、第2のキャンセルポイント(例えば、乗員の右耳)における騒音を低減する。なお、信号処理部の具体的な構成例については、
図3を用いて後述する。
【0050】
制御部220は、騒音低減装置100の全体を制御するコンピュータであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、ストレージデバイス、及び通信I/F(Interface)等によって構成される。制御部220は、所定のプログラムを実行することにより、
図4で後述する機能構成を実現している。
【0051】
(信号処理部の構成例)
図3は、一実施形態に係る信号処理部の構成例を示す図である。信号処理部210には、主に第1のキャンセルポイントに関する処理を行う第1系と、主に第2キャンセルポイントに関する処理を行う第2系とが含まれる。
【0052】
図3に示されるように、信号処理部210は、伝達関数H
11(z)が設定された第1系の第1補助フィルタ1111、伝達関数H
12(z)が設定された第2系の第1補助フィルタ1112、第1系の第1可変フィルタ1113、第1系の第1適応アルゴリズム実行部1114、第2系の第1可変フィルタ1115、第2系の第1適応アルゴリズム実行部1116、第1系のエラー補正用加算器1117、及び第1系のキャンセル音生成用加算器1118を備える。
【0053】
第1系の第1可変フィルタ1113と第1系の第1適応アルゴリズム実行部1114は、適応フィルタを構成しており、第1系の第1適応アルゴリズム実行部1114は、第1系の第1可変フィルタ1113の伝達関数W11(z)をMEFX LMS(Multiple Error Filtered X Least Mean Squares)アルゴリズムにより更新する。また、第2系の第1可変フィルタ1115と第2系の第1適応アルゴリズム実行部1116は適応フィルタを構成しており、第2系の第1適応アルゴリズム実行部1116は、第2系の第1可変フィルタ1115の伝達関数W12(z)をMEFX LMSアルゴリズムにより更新する。
【0054】
また、信号処理部210は、予め伝達関数H21(z)が設定された第1系の第2補助フィルタ1121、予め伝達関数H22(z)が設定された第2系の第2補助フィルタ1122、第1系の第2可変フィルタ1123、第1系の第2適応アルゴリズム実行部1124、第2系の第2可変フィルタ1125、第2系の第2適応アルゴリズム実行部1126、第2系のエラー補正用加算器1127、及び第2系のキャンセル音生成用加算器1128を備える。
【0055】
そして、第1系の第2可変フィルタ1123と第1系の第2適応アルゴリズム実行部1124は適応フィルタを構成しており、第1系の第2適応アルゴリズム実行部1124は、第1系の第2可変フィルタ1123の伝達関数W21(z)をMEFX LMSアルゴリズムにより更新する。
【0056】
また、第2系の第2可変フィルタ1125と第2系の第2適応アルゴリズム実行部1126は適応フィルタを構成しており、第2系の第2適応アルゴリズム実行部1126は、第2系の第2可変フィルタ1125の伝達関数W22(z)をMEFX LMSアルゴリズムにより更新する。
【0057】
このような構成において、信号処理部210に入力する騒音信号x1(n)は、第1系の第1補助フィルタ1111と第2系の第1補助フィルタ1112と第1系の第1可変フィルタ1113と第2系の第1可変フィルタ1115とに送られる。
【0058】
また、マイク112Lから入力されるエラー信号errp1(n)は、第1系のエラー補正用加算器1117に送られ、マイク112Rから入力されるエラー信号errp2(n)は、第2系のエラー補正用加算器1127に送られる。
【0059】
そして、第1系の第1補助フィルタ1111の出力は第1系のエラー補正用加算器1117に送られ、第2系の第1補助フィルタ1112の出力は第2系のエラー補正用加算器1127に送られる。また、第1系の第1可変フィルタ1113の出力は第1系のキャンセル音生成用加算器1118に送られ、第2系の第1可変フィルタ1115の出力は第2系のキャンセル音生成用加算器1128に送られる。
【0060】
また、信号処理部210に入力する騒音信号x2(n)は、第1系の第2補助フィルタ1121と第2系の第2補助フィルタ1122と第1系の第2可変フィルタ1123と第2系の第2可変フィルタ1125とに送られる。
【0061】
そして、第1系の第2補助フィルタ1121の出力は第1系のエラー補正用加算器1117に送られ、第2系の第2補助フィルタ1122の出力は第2系のエラー補正用加算器1127に送られる。また、第1系の第2可変フィルタ1123の出力は第1系のキャンセル音生成用加算器1118に送られ、第2系の第2可変フィルタ1125の出力は第2系のキャンセル音生成用加算器1128に送られる。
【0062】
第1系のエラー補正用加算器1117は、第1系の第1補助フィルタ1111の出力と、第1系の第2補助フィルタ1121の出力と、エラー信号errp1(n)とを加算して、エラー信号errh1(n)を生成する。また、第2系のエラー補正用加算器1127は、第2系の第1補助フィルタ1112の出力と、第2系の第2補助フィルタ1122の出力と、エラー信号errp2(n)とを加算して、エラー信号errh2(n)を生成する。
【0063】
そして、エラー信号errh1(n)とエラー信号errh2(n)とを、マルチエラーとして第1系の第1適応アルゴリズム実行部1114、第2系の第1適応アルゴリズム実行部1116、第1系の第2適応アルゴリズム実行部1124、及び第2系の第2適応アルゴリズム実行部1126に出力する。
【0064】
また、第1系のキャンセル音生成用加算器1118は、第1系の第1可変フィルタ1113の出力と第1系の第2可変フィルタ1123の出力とを加算して第1のキャンセル信号CA1(n)を生成してスピーカ111Lから出力する、また、第2系のキャンセル音生成用加算器1128は、第2系の第1可変フィルタ1115の出力と第2系の第2可変フィルタ1125の出力とを加算して第2のキャンセル信号CA2(n)を生成してスピーカ111Rから出力する。
【0065】
そして、第1系の第1適応アルゴリズム実行部1114は、マルチエラーとして入力するエラー信号errh1(n)とエラー信号errh2(n)とが0となるように第1系の第1可変フィルタ1113の伝達関数W11(z)をMEFX LMSアルゴリズムにより更新する。また、第2系の第1適応アルゴリズム実行部1116は、マルチエラーとして入力するエラー信号errh1(n)とエラー信号errh2(n)とが0となるように第2系の第1可変フィルタ1115の伝達関数W12(z)をMEFX LMSアルゴリズムにより更新する。
【0066】
さらに、第1系の第2適応アルゴリズム実行部1124は、マルチエラーとして入力するエラー信号errh1(n)とエラー信号errh2(n)とが0となるように第1系の第2可変フィルタ1123の伝達関数W21(z)をMEFX LMSアルゴリズムにより更新する。さらにまた、第2系の第2適応アルゴリズム実行部1126は、マルチエラーとして入力するエラー信号errh1(n)とエラー信号errh2(n)とが0となるように第2系の第2可変フィルタ1125の伝達関数W22(z)をMEFX LMSアルゴリズムにより更新する。
【0067】
なお、信号処理部210の第1系の第1補助フィルタ1111の伝達関数H11(z)、第2系の第1補助フィルタ1112の伝達関数H12(z)、第1系の第2補助フィルタ1121の伝達関数H21(z)、及び第2系の第2補助フィルタ1122の伝達関数H22(z)は、後述する学習処理によって決定することができる。
【0068】
なお、本実施形態では、第1系の第1補助フィルタ1111、第2系の第1補助フィルタ1112、第1系の第2補助フィルタ1121、及び第2系の第2補助フィルタ1122の組合せを「補助フィルタ」と呼ぶ。また、補助フィルタの伝達関数H11(z)、H12(z)、H21(z)、及びH22(z)を、「補助フィルタの設定値」と呼ぶ。
【0069】
(制御部の機能構成)
図4は、一実施形態に係る制御部の機能構成の例を示す図である。制御部200は、例えば、制御部200が備えるCPUで所定のプログラムを実行することにより、乗員判断部501、動作設定部502、補助フィルタ設定部503、記憶部504、及び学習制御部505等を実現している。なお、上記の各機能構成のうち、少なくとも一部はハードウェアによって実現されるものであっても良い。
【0070】
乗員判断部501は、車両10内における各座席の乗員の有無を判断する。例えば、乗員判断部501は、カメラ105で車両10内を撮影した画像を解析して、運転席101、助手席102、後席103、及び後席104の各々に、乗員がいるか否かを判断する。
【0071】
ただし、これに限られず、乗員判断部501は、車両10に備えられたシートセンサ等からの出力信号を取得して、車両10内における各座席の乗員の有無を判断しても良い。或いは、乗員判断部501は、車両10に搭載された車載ECU等から取得した情報等に基づいて、車両10内における各座席の乗員の有無を判断しても良い。
【0072】
動作設定部502は、信号処理部210-1~210-4を制御して、乗員判断部501によって乗員がいないと判断された座席に対応するスピーカ111L、111R、及びマイク112L、112Rを無効(例えば、ミュートオン)に設定する。また、動作設定部502は、信号処理部210-1~210-4を制御して、乗員判断部501によって乗員がいると判断された座席に対応するスピーカ111L、111R、及びマイク112L、112Rを有効(例えば、ミュートオフ等)に設定する。
【0073】
例えば、動作設定部502は、
図5(A)に示すように、車両10内の各座席に乗員がいる場合、各座席に対応するスピーカ及びマイクの設定を有効な状態に維持する。また、動作設定部502は、例えば、
図5(B)に示すように、後席104の乗員が降車した場合、後席104に対応するスピーカ及びマイクを無効に設定する。
【0074】
また、動作設定部502は、例えば、
図5(B)に示すように、乗員がいない後席104に乗員が乗車した場合、乗員が乗車した後席104に対応するスピーカの動作を有効に設定する。さらに、動作設定部502は、後席104に対応するスピーカ、マイクの順に、スピーカ及びマイクの設定を有効に設定する。或いは、動作設定部502は、後席104に対応するスピーカ及びマイクの設定を、同時に有効にしても良い。
【0075】
このように、スピーカの動作が無効の期間に、マイクの動作が有効にならないように制御することにより、不正な状態で適応フィルタの適応が進み、不快な騒音や雑音が出力されてしまうことを抑制することができる。
【0076】
なお、動作設定部502は、乗員判断部501によって乗員がいないと判断された座席に対応するスピーカ及びマイクを無効に設定すると共に、信号処理部210を省電力状態等に移行させても良い。これにより、騒音低減装置100の消費電力の削減効果が期待できると共に、不正な状態で適応フィルタの適応が進むことを抑制することができる。
【0077】
補助フィルタ設定部503は、信号処理部210-1~210-4の補助フィルタの設定値を設定する。ここで、補助フィルタとは、前述したように、
図3の第1系の第1補助フィルタ1111、第2系の第1補助フィルタ1112、第1系の第2補助フィルタ1121、及び第2系の第2補助フィルタ1122の組合せに対応している。また、補助フィルタの設定値とは、前述したように、補助フィルタの伝達関数H
11(z)、H
12(z)、H
21(z)、及びH
22(z)に対応している。
【0078】
本実施形態に係る補助フィルタ設定部503は、所定の座席の騒音に影響を与える他の座席における乗員の数に応じて、所定の座席に対応する信号処理部210がキャンセル音の生成に用いる補助フィルタの設定値を変更する機能を有している。
【0079】
例えば、補助フィルタ設定部503は、運転席101の騒音に影響を与える後席103、104に対応するスピーカ及びマイクを有効に設定した状態で、後述する学習処理を実行し、取得した補助フィルタ(以下、補助フィルタAと呼ぶ)の設定値を記憶しておく。
【0080】
また、補助フィルタ設定部503は、後席103、104のうち、一方の座席(例えば、後席104)に対応するスピーカ及びマイクを無効に設定した状態で学習処理を実行し、取得した補助フィルタ(以下、補助フィルタBと呼ぶ)の設定値を記憶しておく。
【0081】
さらに、補助フィルタ設定部503は、例えば、
図5(A)に示すように、運転席101の騒音に影響を与える後席103、104の各々に乗客がいる場合、予め記憶した補助フィルタAの設定値を、信号処理部210-1の補助フィルタに設定する。
【0082】
一方、補助フィルタ設定部503は、例えば、
図5(B)に示すように、運転席101の騒音に影響を与える後席103、104のうち、一方に座席に乗客がいない場合、予め記憶した補助フィルタBの設定値を、信号処理部210-1の補助フィルタに設定する。
【0083】
なお、運転席101は、所定の座席の一例である。例えば、所定の座席が後席103、又は後席104である場合、所定の座席の騒音に影響を与える座席は、運転席101、及び助手席になる。また、例えば、所定の座席が助手席102である場合、所定の座席の騒音に影響を与える座席は、後席103、104になる。
【0084】
記憶部504は、例えば、学習処理等により予め取得された補助フィルタAの設定値、及び補助フィルタBの設定値等を含む様々な情報を記憶する。
【0085】
学習制御部505は、補助フィルタAの設定値、及び補助フィルタBの設定値を取得するため学習処理を制御する。なお、学習処理については後述する。
【0086】
なお、補助フィルタAの設定値、及び補助フィルタBの設定値は、例えば、騒音低減システム1と同様の構成を有する他の車両等で、予め学習処理を実行し、取得した設定値を適用することができる。したがって、騒音低減装置100は、学習制御部505を必ずしも有していなくても良い。
【0087】
<処理の流れ>
続いて、本実施形態に係る騒音低減方法の処理の流れについて説明する。
【0088】
(動作設定処理)
図6は、一実施形態に係る動作設定処理の例を示すフローチャートである。この処理は、騒音低減システム1が実行する動作設定処理の例を示している。
【0089】
ステップS601において、制御部220の乗員判断部501は、車両10内の各座席における乗員の有無を判断する。例えば、乗員判断部501は、カメラ105で撮影した車両10内の撮影画像を解析して、各座席の乗員の有無を判断する。或いは、乗員判断部501は、車両10が備えるシートセンサの出力信号や、車載ECUから取得した情報等に基づいて、各座席の乗員の有無を判断する。
【0090】
ステップS602において、制御部220の動作設定部502は、車両10内の座席のうち、乗員がいる座席のスピーカ111L、111R、及びマイク112L、112Rの動作を有効に設定する。
【0091】
例えば、動作設定部502は、乗員がいる座席に対応する信号処理部210が、スピーカ出力、及びマイク入力のミュートしている場合、当該信号処理部210に対して、スピーカ出力、マイク入力の順にミュートの解除を指示する。また、動作設定部502は、乗員がいる座席に対応する信号処理部210が省電力状態に設定されている場合、信号処理部210に対して、通常状態への復帰を指示する。
【0092】
なお、乗員がいる座席のスピーカ及びマイクの動作が、既に有効に設定されている場合、動作設定部502は、当該座席のスピーカ及びマイクの動作が有効に設定されている状態を維持すれば良い。
【0093】
ステップS603において、制御部220の動作設定部502は、車両10内の座席のうち、乗員がいない座席のスピーカ111L、111R、及びマイク112L、112Rの動作を無効に設定する。
【0094】
例えば、動作設定部502は、乗員がいない座席に対応する信号処理部210が、スピーカ出力、及びマイク入力をミュートしていない場合、当該信号処理部210に対して、スピーカ出力、及びマイクの入力のミュートを指示する。或いは、動作設定部502は、乗員がいない座席に対応する信号処理部210の処理を中止させて、当該信号処理部210を省電力状態に設定しても良い。
【0095】
騒音低減システム1は、例えば、上記の処理を繰り返し実行することにより、車両10内の座席のうち、乗員がいない座席おける騒音低減処理、及び音楽、音声等のコンテンツの出力を停止させることができる。
【0096】
(運転席における補助フィルタ設定処理)
図7は、一実施形態に係る運転席における補助フィルタの設定処理の例を示すフローチャートである。この処理は、騒音低減装置100の制御部220が、例えば、運転席101に対応する信号処理部210-1に対して実行する補助フィルタ設定処理の一例を示している。この処理は、例えば、
図6に示す動作設定処理と並行して、或いは、
図6に示す動作設定処理の前に実行される。
【0097】
ステップS701において、制御部220の乗員判断部501は、車両10内の各座席における乗員の有無を判断する。なお、この処理は、
図6のステップS601の処理と共通で良い。
【0098】
ステップS702において、制御部220の補助フィルタ設定部503は、運転席101の騒音に影響を与える後席103、104の乗員が2名であるか否か(後席103、104の各々に乗員がいるか否か)に応じて、処理を分岐させる。
【0099】
後席103、104の乗員が2名である場合、補助フィルタ設定部503は、処理をステップS703に移行させる。一方、後席103、104の乗員が2名でない場合、補助フィルタ設定部503は、処理をステップS704に移行させる。
【0100】
ステップS703に移行すると、補助フィルタ設定部503は、運転席101に対応する信号処理部210-1がキャンセル音の生成に用いる補助フィルタに、予め記憶した補助フィルタAの設定値を設定する。例えば、補助フィルタ設定部503は、後席103、104のスピーカ及びマイクを有効に設定した状態で学習した、補助フィルタAの伝達関数H11(z)、H12(z)、H21(z)、及びH22(z)を、信号処理部210-1の補助フィルタに設定する。なお、補助フィルタ設定部503は、信号処理部210-1に、既に補助フィルタAの設定値が設定されている場合、現在の設定値を維持すれば良い。
【0101】
ステップS704に移行すると、補助フィルタ設定部503は、後席103、104の乗員が1名であるか、乗員がいないかに応じて、処理を分岐させる。
【0102】
後席103、104の乗員が1名である場合、補助フィルタ設定部503は、処理をステップS705に移行させる。一方、後席103、104に乗員がいない場合、補助フィルタ設定部503は、
図7の処理を終了させる。
【0103】
ステップS705に移行すると、補助フィルタ設定部503は、運転席101に対応する信号処理部210-1がキャンセル音の生成に用いる補助フィルタに、予め記憶した補助フィルタBの設定値を設定する。例えば、補助フィルタ設定部503は、後席103、104のうち、一方のスピーカ及びマイクを無効にした状態で学習した、補助フィルタBの伝達関数H11(z)、H12(z)、H21(z)、及びH22(z)を、信号処理部210-1の補助フィルタに設定する。なお、補助フィルタ設定部503は、信号処理部210-1に、既に補助フィルタBの設定値が設定されている場合、現在の設定値を維持すれば良い。
【0104】
上記の各処理により、例えば、車両10の後席104に乗員がいない場合、後席104のスピーカ及びマイクの動作を無効に設定すると共に、後席の乗員が1名である状態で学習した補助フィルタを用いて、運転席101のキャンセリング音が生成される。
【0105】
(所定の座席における補助フィルタ設定処理)
なお、
図7に示すような補助フィルタの設定処理は、車両10内の各座席(所定の座席)に対しても実行可能である。
【0106】
図8は、一実施形態に係る運転席のおける補助フィルタ設定処理の例を示すフローチャートである。この処理は、
図7で説明した補助フィルタの設定処理を、車両10内の所定の座席に適用した場合のフローチャートを示している。なお、基本的な処理内容は、
図7に示す補助フィルタ設定処理と同様なので、ここでは同様の処理内容に対する詳細な説明は省略する。
【0107】
ステップS801において、制御部220の乗員判断部501は、車両10内の各座席における乗員の有無を判断する。なお、この処理は、
図6のステップS601、及び
図7のステップS701の処理と同様である。
【0108】
ステップS802において、制御部220の補助フィルタ設定部503は、所定の座席の騒音に影響を与える他の座席の各々に乗員がいるか否かに応じて、処理を分岐させる。
【0109】
例えば、所定の座席が助手席102(又は運転席101)である場合、所定の座席に騒音に影響する他の座席は、後席103、104になる。また、所定の座席が後席103、又は後席104である場合、所定の座席の騒音に影響する他の座席は、運転席101、及び助手席102になる。
【0110】
所定の座席の騒音に影響する他の座席の各々に乗員がいる場合、補助フィルタ設定部503は、処理をステップS803に移行させる。一方、所定の座席の騒音に影響する他の座席の各々に乗員がいない場合(他の座席のいずれか、又は両方に乗員がいない場合)、補助フィルタ設定部503は、処理をステップS804に移行させる。
【0111】
ステップS803に移行すると、補助フィルタ設定部503は、所定の座席に対応する信号処理部210がキャンセル音の生成に用いる補助フィルタに、予め記憶した補助フィルタAの設定値を設定する。
【0112】
例えば、所定の座席が後席103である場合、補助フィルタ設定部503は、運転席101、及び助手席102に対応するスピーカとマイクとを有効に設定した状態で学習した、補助フィルタAの設定値を、信号処理部210-3に設定する。同様に、所定の座席が後席104である場合、補助フィルタ設定部503は、運転席101、及び助手席102に対応するスピーカとマイクとを有効に設定した状態で学習した、補助フィルタAの設定値を、信号処理部210-4に設定する。
【0113】
また、所定の座席が助手席102である場合、補助フィルタ設定部503は、後席103、104に対応するスピーカとマイクとを有効に設定した状態で学習した、補助フィルタAの設定値を、信号処理部210-2に設定する。なお、所定の座席が運転席101である場合の処理は、
図7のステップS703と同様である。
【0114】
ステップS804に移行すると、補助フィルタ設定部503は、所定の座席の騒音に影響を与える他の座席の一部に乗員がいるか、乗員がいなかに応じて、処理を分岐させる。
【0115】
所定の座席の騒音に影響を与える他の座席の一部に乗員がいる場合、補助フィルタ設定部503は、処理をステップS805に移行させる。一方、所定の座席の騒音に影響を与える他の座席に乗員がいない場合、補助フィルタ設定部503は、
図8の処理を終了させる。
【0116】
ステップS805に移行すると、補助フィルタ設定部503は、所定の座席に対応する信号処理部210が、キャンセル音の生成に用いる補助フィルタに、予め記憶した補助フィルタBの設定値を設定する。
【0117】
例えば、所定の座席が後席103である場合、補助フィルタ設定部503は、運転席101又は助手席102のいずれか一方に対応するスピーカとマイクとを無効に設定した状態で学習した、補助フィルタBの設定値を、信号処理部210-3に設定する。同様に、所定の座席が後席104である場合、補助フィルタ設定部503は、運転席101及び助手席102のいずれか一方に対応するスピーカとマイクとを無効に設定した状態で学習した、補助フィルタBの設定値を、信号処理部210-4に設定する。
【0118】
また、所定の座席が助手席102である場合、補助フィルタ設定部503は、後席103、104のいずれか一方に対応するスピーカとマイクとを無効に設定した状態で学習した、補助フィルタBの設定値を、信号処理部210-2に設定する。なお、所定の座席が運転席101である場合の処理は、
図7のステップS705と同様である。
【0119】
上記の処理により、制御部220は、車両10内の各座席に影響を与える他の座席における乗員の数に応じて、各座席に対応する信号処理部210がキャンセル音の生成に用いる補助フィルタの設定を、適切に変更することができる。
【0120】
<効果について>
図9は、一実施形態に係る騒音低減方法の効果について説明するための図である。
図9は、騒音低減システム1による騒音低減効果を示すグラフであり、横軸は周波数、縦軸は騒音の音圧を示している。
【0121】
図9において、線901は、騒音源となるレファレンス信号の音圧を示している。また、線902は、後席103、104のスピーカを有効に設定し、騒音低減処理を無効に設定した状態で、運転席101で測定される騒音の音圧を示している。
【0122】
一方、
図9の線903は、後席103のスピーカを有効、後席104のスピーカを無効に設定し、騒音低減処理を無効に設定した状態で、運転席101で測定される騒音の音圧を示している。このように、騒音低減装置100による騒音低減処理を無効に設定した場合でも、後席104のスピーカを無効に設定すると、運転席101に影響を与える騒音源が減るので、運転席101における騒音の音圧を下げることができる。
【0123】
また、
図9の線904は、後席103、104のスピーカを有効に設定し、補助フィルタAを適用した騒音低減処理を有効に設定した状態で、運転席101で測定される騒音の音圧を示している。このように、騒音低減装置100による騒音低減処理により、運転席101における騒音の音圧を大幅に低減することができる。
【0124】
一方、
図9の線905は、後席103のスピーカを有効、後席104のスピーカを無効に設定し、補助フィルタA(2座席用フィルタ)を適用した騒音低減処理を有効に設定した状態で、運転席101で測定される騒音の音圧を示している。このように、補助フィルタAを適用して騒音低減処理を実行しているときに、騒音源となる後席103、104のうち、一方の座席のスピーカを無効に設定してしまうと、運転席101における騒音の低減効果が劣化してしまうことが判る。これは、例えば、後席103、104のうち、一方の座席におけるスピーカの出力を無効にしてしまうと、補助フィルタに含まれる1次経路の特性が変化してしまうためと考えられる。
【0125】
そこで、本実施形態に係る騒音低減装置100は、後席103、104のうち、一方の座席におけるスピーカの出力を無効にするときに、補助フィルタB(1座席用フィルタ)を適用する。
図9の線906は、後席103のスピーカを有効、後席104のスピーカを無効に設定し、補助フィルタBを適用した騒音低減処理を有効に設定した状態で、運転席101で測定される騒音の音圧を示している。このように、後席103、104のうち、一方の座席におけるスピーカの出力を無効にするときには、補助フィルタBを適用して騒音低減処理を実行することにより、運転席101における騒音低減効果を、大幅に改善できることが確認できた。
【0126】
また、これにより、乗員がいない座席に対応する騒音低減処理のための消費電力を節約することもできるようになる。
【0127】
<コンテンツ信号を出力するときの構成例>
図10は、一実施形態に係るコンテンツ信号を出力するときの構成例を示す図である。例えば、
図2に示す騒音低減装置100において、スピーカ111L、111Rから、音楽、音声、環境音等のコンテンツを出力する場合、
図10に示すように、各信号処理部210に、音量調整部1001、音質調整部1002、及び合成部1003等を追加すれば良い。
【0128】
音量調整部1001は、例えば、信号処理部210を実現するDSP、又は音量調整回路等によって実現され、スピーカ111L、111Rから出力する音楽等のコンテンツ信号(L、R)の音量を、ユーザの操作等に応じて変更する。
【0129】
音質調整部1002は、例えば、信号処理部210を実現するDSP、又は音質調整回路等によって実現され、コンテンツ信号(L、R)の周波数特性、遅延時間、ゲイン等を、ユーザの操作等に応じて変更する。
【0130】
合成部1003は、例えば、信号処理部210を実現するDSP、又は音声合成回路等によって実現され、コンテンツ信号(L)と、キャンセル信号CA1(n)とを合成して、スピーカ111Lに出力する。また、合成部1003は、コンテンツ信号(R)と、キャンセル信号CA2(n)とを合成して、スピーカ111Rに出力する。
【0131】
上記の構成により、例えば、運転席101に対応する信号処理部210-1は、運転席101に対して、ユーザの好みの音量、音質でコンテンツを出力すると共に、後席103、104からの騒音を低減することができる。
【0132】
<学習処理>
続いて、信号処理部210の補助フィルタに設定する設定値、すなわち、伝達関数H11(z)、H12(z)、H21(z)、H22(z)を取得するための学習処理について説明する。
【0133】
学習処理は、騒音低減システム1が適用される標準的な音響環境である標準音響環境下(例えば、車両10の車内等)において行う。また、学習処理は、第1段階の学習処理と第2段階の学習処理とを含む。
【0134】
図11は、一実施形態に係る第1の学習処理部の構成例を示す図である。第1段階の学習処理は、
図11に示すように、騒音低減装置100の信号処理部210を第1の学習処理部1100に置き換えた構成において行う。ここで、第1の学習処理部1100は、
図11に示すように、
図3に示した信号処理部210から、第1系の第1補助フィルタ1111、第2系の第1補助フィルタ1112、第1系の第2補助フィルタ1121、第2系の第2補助フィルタ1122、第1系のエラー補正用加算器1117、及び第2系のエラー補正用加算器1127を取り除いた構成を備えている。
【0135】
また、第1段階の学習処理は、第1のキャンセルポイントに配置したダミーマイク1102Lと、第2キャンセルポイントに配置したダミーマイク1102Rとを第1の学習処理部1100に接続して行う。
【0136】
また、第1の学習処理部1100において、ダミーマイク1102Lの出力する音声信号であるerrv1(n)とダミーマイク1102Rの出力する音声信号であるerrv2(n)とを、第1系の第1適応アルゴリズム実行部1114、第2系の第1適応アルゴリズム実行部1116、第1系の第2適応アルゴリズム実行部1124、及び第2系の第2適応アルゴリズム実行部1126のマルチエラーとして用いるように構成されている。
【0137】
なお、このような、第1の学習処理部1100において、第1系の第1適応アルゴリズム実行部1114は、マルチエラーとして入力するerrv1(n)とerrv2(n)とが0となるように第1系の第1可変フィルタ1113の伝達関数W11(z)をMEFX LMSアルゴリズムにより更新する。また、第2系の第1適応アルゴリズム実行部1116は、マルチエラーとして入力するerrv1(n)とerrv2(n)とが0となるように第2系の第1可変フィルタ1115の伝達関数W12(z)をMEFX LMSアルゴリズムにより更新する。さらに、第1系の第2適応アルゴリズム実行部1124は、マルチエラーとして入力するerrv1(n)とerrv2(n)とが0となるように第1系の第2可変フィルタ1123の伝達関数W21(z)をMEFX LMSアルゴリズムにより更新する。さらにまた、第2系の第2適応アルゴリズム実行部1126は、マルチエラーとして入力するerrv1(n)とerrv2(n)とが0となるように第2系の第2可変フィルタ1125の伝達関数W22(z)をMEFX LMSアルゴリズムにより更新する。
【0138】
なお、ダミーマイク1102Lの第1キャンセルポイントへの配置、及びとダミーマイク1102Rの第2キャンセルポイントへの配置には、例えば、ダミーマイク1102L、1102Rを備えたダミーヘッド等が用いられる。また、第1の学習処理部1100は、例えば、制御部220の学習制御部505が、信号処理部210を構成するDSPのプログラムを書き換えること等によって実現される。
【0139】
さて、このような第1の学習処理部1100を用いた第1段階の学習処理では、騒音信号x1(n)と騒音信号x2(n)とを第1の学習処理部1100に入力する。また、この状態で、第1系の第1可変フィルタ1113の伝達関数W11(z)、第2系の第1可変フィルタ1115の伝達関数W12(z)、第1系の第2可変フィルタ1123の伝達関数W21(z)、及び第2系の第2可変フィルタ1125の伝達関数W22(z)が収束するのを待つ。さらに、各伝達関数が収束したならば、各伝達関数W11(z)、W12(z)、W21(z)、及びW22(z)を取得する。
【0140】
ここで、
図11に示すように、騒音信号x
1(n)のダミーマイク1102Lの出力までの伝達関数をV
11(z)、騒音信号x
1(n)のダミーマイク1102Rの出力までの伝達関数をV
12(z)とする。また、騒音信号x
2(n)のダミーマイク1102Lの出力までの伝達関数をV
21(z)、騒音信号x
2(n)のダミーマイク1102Rの出力までの伝達関数をV
22(z)とする。さらに、キャンセル信号CA1(n)のダミーマイク1102Lの出力までの伝達関数をS
V11(z)、キャンセル信号CA1(n)のダミーマイク1102Rの出力までの伝達関数をS
V12(z)とする。
【0141】
また、キャンセル信号CA2(n)のダミーマイク1102Lの出力までの伝達関数をSV21(z)、キャンセル信号CA2(n)のダミーマイク1102Rの出力までの伝達関数をSV22(z)とする。さらに、xi(n)のZ変換をxi(z)、errvi(n)のZ変換をerrvi(z)とすると、ダミーマイク1102Lが出力するerrv1(z)は、
【0142】
【数1】
となり、ダミーマイク1102Rが出力するerr
v2(z)は、同様に、
【0143】
【0144】
ここで、x1(z)≠0、x2(z)≠0であるので、errv1(z)=0、errv2(z)=0となるのは、
【0145】
【数3】
のときであり、この連立方程式を、W
11、W
12、W
21、W
22について解くと、
【0146】
【数4】
となり、第1の学習処理部1100において、伝達関数W
11(z)、W
12(z)、W
21(z)、W
22(z)は、この値に収束する。
【0147】
また、この収束した伝達関数W11、W12、W21、W22の値は、第1キャンセルポイントと第2キャンセルポイントで、第1の騒音源201が発生する騒音と第2の騒音源202が発生する騒音をキャンセルするものとなる。
【0148】
さて、このような第1の学習処理部1100を用いた第1段階の学習処理で収束した伝達関数W11(z)、W12(z)、W21(z)、W22(z)を取得したならば、第1段階の学習処理を終了し、第2段階の学習処理を行う。
【0149】
図12は、一実施形態に係る第2の学習処理部の構成例を示す図である。第2段階の学習処理は、
図12に示すように、騒音低減システム1の信号処理部210を第2の学習処理部60に置き換えた構成において行う。ここで、第2の学習処理部60は、
図12に示すように、
図3に示した信号処理部210において、第1系の第1適応アルゴリズム実行部1114、第2系の第1適応アルゴリズム実行部1116、第1系の第2適応アルゴリズム実行部1124、第2系の第2適応アルゴリズム実行部1126を省略した構成を備えている。
【0150】
さらに、
図12に示すように、第1系の第1可変フィルタ1113は、第1の学習処理で取得した伝達関数W
11(z)に伝達関数を固定した第1系の第1固定フィルタ61に置換されている。また、第2系の第1可変フィルタ1115は、第1の学習処理で取得した伝達関数W
12(z)に伝達関数を固定した第2系の第1固定フィルタ62に置換されている。さらに、第1系の第2可変フィルタ1123は、第1の学習処理で取得した伝達関数W
21(z)に伝達関数を固定した第1系の第2固定フィルタ63に置換されている。さらにまた、第2系の第2可変フィルタ1125は、第1の学習処理で取得した伝達関数W
22(z)に伝達関数を固定した第2系の第2固定フィルタ64に置換されている。
【0151】
また、第2の学習処理部60では、
図12に示すように、
図3に示した信号処理部210における、第1系の第1補助フィルタ1111が、第1系の第1可変補助フィルタ71に置換されている。さらに、第1系の第1可変補助フィルタ71の伝達関数H
11(z)をFXLMSアルゴリズムにより更新する第1系の学習用第1適応アルゴリズム実行部81が設けられている。
また、第2の学習処理部60では、第2系の第1補助フィルタ1112が、第2系の第1可変補助フィルタ72に置換されている。さらに、第2系の第1可変補助フィルタ72の伝達関数H
12(z)をFXLMSアルゴリズムにより更新する第2系の学習用第1適応アルゴリズム実行部82が設けられている。
【0152】
また、第2の学習処理部60では、第1系の第2補助フィルタ1121が、第1系の第2可変補助フィルタ73に置換されている。さらに、第1系の第2可変補助フィルタ73の伝達関数H21(z)をFXLMSアルゴリズムにより更新する第1系の学習用第2適応アルゴリズム実行部83が設けられている。
また、第2の学習処理部60では、第2系の第2補助フィルタ1122が、第2系の第2可変補助フィルタ74に置換されている。さらに、第2系の第2可変補助フィルタ74の伝達関数H22(z)をFXLMSアルゴリズムにより更新する第2系の学習用第2適応アルゴリズム実行部84が設けられている。
【0153】
また、第2の学習処理部60では、第1系のエラー補正用加算器1117が出力するエラー信号errh1(n)が、エラーとして第1系の学習用第1適応アルゴリズム実行部81と、第1系の学習用第2適応アルゴリズム実行部83に出力される。さらに、第2系のエラー補正用加算器1127が出力するエラー信号errh2(n)が、エラーとして第2系の学習用第1適応アルゴリズム実行部82と、第2系の学習用第2適応アルゴリズム実行部84に出力されるように構成されている。
【0154】
そして、第1系の学習用第1適応アルゴリズム実行部81は、エラーとして入力するエラー信号errh1(n)が0となるように第1系の第1可変補助フィルタ71の伝達関数H11(z)をFXLMSアルゴリズムにより更新する。また、第2系の学習用第1適応アルゴリズム実行部82は、エラーとして入力するエラー信号errh2(n)が0となるように第2系の第1可変補助フィルタ72の伝達関数H12(z)をFXLMSアルゴリズムにより更新する。
【0155】
また、第1系の学習用第2適応アルゴリズム実行部83は、エラーとして入力するエラー信号errh1(n)が0となるように第1系の第2可変補助フィルタ73の伝達関数H21(z)をFXLMSアルゴリズムにより更新する。さらに、第2系の学習用第2適応アルゴリズム実行部84は、エラーとして入力するerrh2(n)が0となるように第2系の第2可変補助フィルタ74の伝達関数H22(z)をFXLMSアルゴリズムにより更新する。なお、第2の学習処理部60は、例えば、制御部220の学習制御部505が、信号処理部210を構成するDSPのプログラムを書き換えること等によって実現される。
【0156】
さて、このような第2の学習処理部60を用いた第2段階の学習処理では、騒音信号x1(n)と騒音信号x2(n)を第2の学習処理部60に入力する。また、この状態で、第1系の第1可変補助フィルタ71の伝達関数H11(z)、第2系の第1可変補助フィルタ72の伝達関数H12(z)、第1系の第2可変補助フィルタ73の伝達関数H21(z)、及び第2系の第2可変補助フィルタ73の伝達関数H22(z)が収束するのを待つ。さらに、各伝達関数が収束したならば、各伝達関数H11(z)、H12(z)、H21(z)、及びH22(z)を取得する。
【0157】
ここで、
図12に示すように、騒音信号x
1(n)のマイク112Lの出力までの伝達関数をP
11(z)、騒音信号x
1(n)のマイク112Rの出力までの伝達関数をP
12(z)とする。また、騒音信号x
2(n)のマイク112Lの出力までの伝達関数をP
21(z)、騒音信号x
2(n)のマイク112Rの出力までの伝達関数をP
22(z)とする。さらに、キャンセル信号CA1(n)のマイク112Lの出力までの伝達関数をS
P11(z)、キャンセル信号CA1(n)のマイク112Rの出力までの伝達関数をS
P12(z)とする。
【0158】
また、キャンセル信号CA2(n)のマイク112Lの出力までの伝達関数をSP21(z)、キャンセル信号CA2(n)のマイク112Rの出力までの伝達関数をSP22(z)とする。さらに、errpi(n)のZ変換をerrpi(z)、errhi(n)のZ変換をerrhi(z)とすると、マイク112Lが出力するerrp1(z)は、
【0159】
【数5】
となり、
マイク112Rが出力するerr
p2(z)は、同様に、
【0160】
【0161】
したがって、第1系のエラー補正用加算器1117が出力するエラー信号errh1(n)が0となるとき、
【0162】
【0163】
また、同様に、エラー信号errh2(n)が0となるとき、
【0164】
【0165】
ここで、x1(z)≠0、x2(z)≠0であるので、errh1(z)=0、errh2(z)=0となるのは、
【0166】
【数9】
のときであり、これに、第1の学習処理で取得し、第1系の第1固定フィルタ61、第2系の第1固定フィルタ62、第1系の第2固定フィルタ63、及び第2系の第2固定フィルタ64に設定した伝達関数W
11(z)、W
12(z)、W
21(z)、W
22(z)を代入すると、
【0167】
【数10】
となり、第2の学習処理部60において、伝達関数H
11(z)、H
12(z)、H
21(z)、H
22(z)は、この値に収束する。
【0168】
さて、このような第2の学習処理部60を用いた第2段階の学習処理で収束した伝達関数H11(z)、H12(z)、H21(z)、H22(z)を取得したならば、第2段階の学習処理を終了する。
【0169】
ここで、このようにして取得した伝達関数H11(z)、H12(z)は、各騒音信号x1(n)、x2(n)、各キャンセル信号CA1(n)、CA2(n)の、第1のキャンセルポイントまでとマイク112Lの位置までの伝達関数の差を補正するものとなる。同様に、このようにして取得した伝達関数H21(z)、H22(z)は、各騒音信号x1(n)、x2(n)、各キャンセル信号CA1(n)、CA2(n)の、第2のキャンセルポイントまでとマイク112Rの位置までの伝達関数の差を補正するものとなる。
【0170】
上記の学習処理により取得した伝達関数H
11(z)、H
12(z)、H
21(z)、H
22(z)は、前述したように、本実施形態の「補助フィルタの設定」に対応している。また、
図3の第1系の第1補助フィルタ1111、第2系の第1補助フィルタ1112、第1系の第2補助フィルタ1121、及び第2系の第2補助フィルタ1122は、前述したように、本実施形態の「補助フィルタ」に対応している。
【0171】
この「補助フィルタの設定」を「補助フィルタ」に適用することにより、例えば、
図2の第1のキャンセルポイント、及び第2のキャンセルポイントにおいて、第1の騒音源201、及び第2の騒音源202の発生する騒音をキャンセルすることができる。
【0172】
騒音低減装置100は、例えば、運転席101の騒音に影響を与える後席103、104に対応するスピーカ及びマイクを有効に設定した状態で上記の学習処理を実行し、取得した補助フィルタの設定を、補助フィルタAの設定として予め記憶しておく。さらに、騒音低減装置100は、運転席101の騒音に影響を与える後席103、104のうち、一方の座席に対応するスピーカ及びマイクを無効に設定した状態で上記の学習処理を実行し、取得した補助フィルタの設定を、補助フィルタBの設定として予め記憶しておく。
【0173】
好ましくは、騒音低減装置100は、車両10内の他の座席についても、同様の学習処理で取得した補助フィルタA、補助フィルタBの設定を予め記憶しておく。
【0174】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、様々な変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0175】
1 騒音低減システム
10 車両
100 騒音低減装置
210 信号処理部
220 制御部
502 動作設定部
503 補助フィルタ設定部
1111 第1系の第1補助フィルタ
1112 第2系の第1補助フィルタ
1121 第1系の第2補助フィルタ
1122 第2系の第2補助フィルタ