IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝メディカルシステムズ株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】X線CTシステム及び医用処理装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20230925BHJP
【FI】
A61B6/03 373
A61B6/03 350R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019165868
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021040991
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】プラブ ベーレカー アクシャイ
(72)【発明者】
【氏名】田口 博基
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/020136(WO,A1)
【文献】特開2008-148886(JP,A)
【文献】特開2016-131887(JP,A)
【文献】特開2016-193174(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2018-0057020(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線の焦点位置を被検体の周囲で回転させながら前記被検体に対してX線を照射し、1又は複数のビューごとに、第1のX線エネルギーと第2のX線エネルギーとの間で、前記被検体に対して照射するX線のエネルギーを変化させることで、前記第1のX線エネルギーに対応する投影データ及び前記第2のX線エネルギーに対応する投影データを少なくとも含む投影データセットを収集するスキャン部と、
前記投影データセットから前記第1のX線エネルギーに対応する第1投影データセットと前記第2のX線エネルギーに対応する第2投影データセットとを分離し、前記第1投影データセット及び前記第2投影データセットのそれぞれについて、対向するビューの投影データを用いた補正処理を行ない、補正後の前記投影データセットに基づいて複数の基準物質による物質弁別を行なう処理部と
を備えた、X線CTシステム。
【請求項2】
前記処理部は、前記補正処理として、前記第1投影データセット又は前記第2投影データセットにおける投影データの欠損部分を、対向するビューの投影データを用いて補間する、請求項に記載のX線CTシステム。
【請求項3】
前記処理部は、前記第1投影データセットに対する前記補正処理において対向するビューの投影データが前記第2のX線エネルギーに対応する場合、又は、前記第2投影データセットに対する前記補正処理において対向するビューの投影データが前記第1のX線エネルギーに対応する場合、対向するビューの投影データに対するスケーリング処理を行ない、スケーリング処理後の投影データを使用して、前記第1投影データセット又は前記第2投影データセットに対する前記補正処理を行なう、請求項1又は2に記載のX線CTシステム。
【請求項4】
前記処理部は、前記第1投影データセットに対する前記補正処理において対向するビューの投影データが前記第1のX線エネルギーに対応する場合、又は、前記第2投影データセットに対する前記補正処理において対向するビューの投影データが前記第2のX線エネルギーに対応する場合、対向するビューの投影データをそのまま使用して、前記第1投影データセット又は前記第2投影データセットに対する前記補正処理を行なう、請求項1~3のいずれか一項に記載のX線CTシステム。
【請求項5】
前記処理部は、前記第1投影データセット又は前記第2投影データセットに対する前記補正処理において、対向するビューの投影データが前記第1のX線エネルギーと前記第2のX線エネルギーとの切り替え期間に照射された第3のX線エネルギーに対応する場合、対向するビューの投影データを当該投影データの近傍の投影データを使用して補正し、補正後の投影データを使用して前記第1投影データセット又は前記第2投影データセットに対する前記補正処理を行なう、請求項1~4のいずれか一項に記載のX線CTシステム。
【請求項6】
X線の焦点位置を被検体の周囲で回転させながら前記被検体に対してX線を照射し、1又は複数のビューごとに、第1のX線エネルギーと第2のX線エネルギーとの間で、前記被検体に対して照射するX線のエネルギーを変化させることで収集された第1のX線エネルギーに対応する投影データ及び第2のX線エネルギーに対応する投影データを少なくとも含む投影データセットから前記第1のX線エネルギーに対応する第1投影データセットと前記第2のX線エネルギーに対応する第2投影データセットとを分離し、前記第1投影データセット及び前記第2投影データセットのそれぞれについて、対向するビューの投影データを用いた補正処理を行ない、補正後の前記投影データセットに基づいて複数の基準物質による物質弁別を行なう処理部と
を備えた、医用処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線CTシステム及び医用処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT(Computed Tomography)スキャナで収集した2種類以上のX線エネルギーに対応する投影データに基づいて、複数の基準物質による対象物の物質弁別を行い、その結果を画像として表示する技術がある。2種類のX線エネルギーを利用する場合、この技術はデュアルエナジー(Dual Energy:DE)と呼ばれ、2種類の基準物質による物質弁別が可能である。
【0003】
例えば、デュアルエナジーの技術によれば、被検体の体内における腎臓結石や脂肪、軟組織、骨といった物質を弁別することが可能である。また、デュアルエナジーの技術によれば、被検体の体内における腎臓結石がカルシウムタイプの結石であるか尿酸タイプの結石であるかを判定することができる。
【0004】
ここで、X線CTスキャナが収集する投影データには、種々の要因により、ノイズやアーチファクトが含まれてしまう場合がある。また、X線CTスキャナが収集する投影データは、種々の要因により、その一部が欠損してしまう場合がある。例えば、X線管において放電現象が発生した場合、対応するビューの投影データが欠損してしまう場合がある。また、kVスイッチング方式でデュアルエナジーのスキャンを行なう場合、高エネルギーに対応する投影データにおいては低エネルギーのX線を照射していたビューの投影データが欠損し、低エネルギーに対応する投影データにおいては高エネルギーのX線を照射していたビューの投影データが欠損することとなる。物質弁別の精度を高めるためには、これらのノイズやアーチファクト、投影データの欠損部分を適切に補正することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-142478号公報
【文献】特開2008-154784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、物質弁別の精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態のX線CTシステムは、スキャン部と、処理部とを備える。スキャン部は、X線の焦点位置を被検体の周囲で回転させながら前記被検体に対してX線を照射し、第1のX線エネルギーに対応する投影データ及び第2のX線エネルギーに対応する投影データを少なくとも含む投影データセットを収集する。処理部は、前記投影データセットについて、対向するビューの投影データを用いた補正処理を行ない、補正後の前記投影データセットに基づいて複数の基準物質による物質弁別を行なう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態に係るX線CTシステムの構成の一例を示すブロック図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る投影データセットの一例を示す図である。
図3A図3Aは、第1の実施形態に係る補間処理の一例を示す図である。
図3B図3Bは、第1の実施形態に係る補間処理の一例を示す図である。
図3C図3Cは、第1の実施形態に係る補間処理の一例を示す図である。
図4図4は、第1の実施形態に係る対向ビューについて説明するための図である。
図5A図5Aは、第1の実施形態に係るケース1及びケース2について説明するための図である。
図5B図5Bは、第1の実施形態に係るケース1における処理の一例を示す図である。
図6A図6Aは、第1の実施形態に係るケース3及びケース4について説明するための図である。
図6B図6Bは、第1の実施形態に係るケース3における処理の一例を示す図である。
図7A図7Aは、第1の実施形態に係るケース5及びケース6について説明するための図である。
図7B図7Bは、第1の実施形態に係るケース5における処理の一例を示す図である。
図8A図8Aは、第1の実施形態に係るケース7及びケース8について説明するための図である。
図8B図8Bは、第1の実施形態に係るケース7における処理の一例を示す図である。
図9A図9Aは、第1の実施形態に係るケース9、ケース10、ケース11及びケース12について説明するための図である。
図9B図9Bは、第1の実施形態に係るケース9における処理の一例を示す図である。
図10A図10Aは、第1の実施形態に係る学習済みモデルの生成処理の一例を示す図である。
図10B図10Bは、第1の実施形態に係る学習済みモデルの生成処理の一例を示す図である。
図11A図11Aは、第1の実施形態に係るX線CTシステムの処理の一連の流れを説明するためのフローチャートである。
図11B図11Bは、第1の実施形態に係るX線CTシステムの処理の一連の流れを説明するためのフローチャートである。
図12図12は、第2の実施形態に係る医用情報処理システム1の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、X線CTシステム及び医用処理装置の実施形態について詳細に説明する。なお、本願に係るX線CTシステム及び医用処理装置は、以下に示す実施形態によって限定されるものではない。
【0010】
(第1の実施形態)
まず、図1を参照しながら、第1の実施形態に係るX線CTシステム10の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係るX線CTシステム10の構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、X線CTシステム10は、架台装置110と、寝台装置130と、コンソール装置140とを有する。なお、X線CTシステム10は、X線CT装置又はX線CTスキャナとも呼ばれる。
【0011】
図1においては、非チルト状態での回転フレーム113の回転軸又は寝台装置130の天板133の長手方向をZ軸方向とする。また、Z軸方向に直交し、床面に対し水平である軸方向をX軸方向とする。また、Z軸方向に直交し、床面に対し垂直である軸方向をY軸方向とする。なお、図1は、説明のために架台装置110を複数方向から描画したものであり、X線CTシステム10が架台装置110を1つ有する場合を示す。
【0012】
架台装置110は、X線管111と、X線検出器112と、回転フレーム113と、X線高電圧装置114と、制御装置115と、ウェッジ116と、コリメータ117と、DAS118とを有する。
【0013】
X線管111は、熱電子を発生する陰極(フィラメント)と、熱電子の衝突を受けてX線を発生する陽極(ターゲット)とを有する真空管である。X線管111は、X線高電圧装置114からの高電圧の印加により、陰極から陽極に向けて熱電子を照射することで、被検体P1に対し照射するX線を発生する。
【0014】
X線検出器112は、X線管111から照射されて被検体P1を通過したX線を検出し、検出したX線量に対応した信号をDAS118へと出力する。X線検出器112は、例えば、X線管111の焦点を中心とした1つの円弧に沿ってチャンネル方向(チャネル方向)に複数の検出素子が配列された複数の検出素子列を有する。X線検出器112は、例えば、チャネル方向に複数の検出素子が配列された検出素子列が列方向に複数配列された構造を有する。なお、列方向については、スライス方向、row方向、又はセグメント方向とも記載する。また、列方向は、図1に示す被検体P1の体軸方向(Z軸方向)に対応する。
【0015】
例えば、X線検出器112は、グリッドと、シンチレータアレイと、光センサアレイとを有する間接変換型の検出器である。シンチレータアレイは、複数のシンチレータを有する。シンチレータは入射X線量に応じた光子量の光を出力するシンチレータ結晶を有する。グリッドは、シンチレータアレイのX線入射側の面に配置され、散乱X線を吸収するX線遮蔽板を有する。なお、グリッドはコリメータ(1次元コリメータ又は2次元コリメータ)と呼ばれる場合もある。光センサアレイは、シンチレータからの光量に応じた電気信号に変換する機能を有し、例えば、フォトダイオード等の光センサを有する。なお、X線検出器112は、入射したX線を電気信号に変換する半導体素子を有する直接変換型の検出器であっても構わない。
【0016】
回転フレーム113は、X線管111とX線検出器112とを対向支持し、制御装置115によってX線管111とX線検出器112とを回転させる円環状のフレームである。例えば、回転フレーム113は、アルミニウムを材料とした鋳物である。なお、回転フレーム113は、X線管111及びX線検出器112に加えて、X線高電圧装置114やウェッジ116、コリメータ117、DAS118等を更に支持することもできる。更に、回転フレーム113は、図1において図示しない種々の構成を更に支持することもできる。以下では、架台装置110において、回転フレーム113、及び、回転フレーム113と共に回転移動する部分を、回転部とも記載する。
【0017】
X線高電圧装置114は、変圧器(トランス)及び整流器等の電気回路を有し、X線管111に印加する高電圧を発生する高電圧発生装置と、X線管111が発生するX線に応じた出力電圧の制御を行なうX線制御装置とを有する。高電圧発生装置は、変圧器方式であってもよいし、インバータ方式であってもよい。なお、X線高電圧装置114は、回転フレーム113に設けられてもよいし、図示しない固定フレームに設けられても構わない。
【0018】
制御装置115は、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理回路と、モータ及びアクチュエータ等の駆動機構とを有する。制御装置115は、入力インターフェース143からの入力信号を受けて、架台装置110及び寝台装置130の動作制御を行なう。例えば、制御装置115は、回転フレーム113の回転や架台装置110のチルト、寝台装置130の動作等について制御を行なう。一例を挙げると、制御装置115は、架台装置110をチルトさせる制御として、入力された傾斜角度(チルト角度)情報により、X軸方向に平行な軸を中心に回転フレーム113を回転させる。なお、制御装置115は架台装置110に設けられてもよいし、コンソール装置140に設けられてもよい。
【0019】
ウェッジ116は、X線管111から照射されたX線量を調節するためのX線フィルタである。具体的には、ウェッジ116は、X線管111から被検体P1へ照射されるX線が予め定められた分布になるように、X線管111から照射されたX線を減衰させるX線フィルタである。例えば、ウェッジ116は、ウェッジフィルタ(wedge filter)やボウタイフィルタ(bow-tie filter)であり、所定のターゲット角度や所定の厚みとなるようにアルミニウム等を加工して作製される。
【0020】
コリメータ117は、ウェッジ116を透過したX線の照射範囲を絞り込むための鉛板等であり、複数の鉛板等の組み合わせによってスリットを形成する。なお、コリメータ117は、X線絞りと呼ばれる場合もある。また、図1においては、X線管111とコリメータ117との間にウェッジ116が配置される場合を示すが、X線管111とウェッジ116との間にコリメータ117が配置される場合であってもよい。この場合、ウェッジ116は、X線管111から照射され、コリメータ117により照射範囲が制限されたX線を透過して減衰させる。
【0021】
DAS118は、X線検出器112が有する各検出素子によって検出されるX線の信号を収集する。例えば、DAS118は、各検出素子から出力される電気信号に対して増幅処理を行なう増幅器と、電気信号をデジタル信号に変換するA/D変換器とを有し、検出データを生成する。DAS118は、例えば、プロセッサにより実現される。
【0022】
DAS118が生成したデータは、回転フレーム113に設けられた発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)を有する送信機から、光通信によって、架台装置110の非回転部分(例えば、固定フレーム等。図1での図示は省略している)に設けられた、フォトダイオードを有する受信機に送信され、コンソール装置140へと転送される。ここで、非回転部分とは、例えば、回転フレーム113を回転可能に支持する固定フレーム等である。なお、回転フレーム113から架台装置110の非回転部分へのデータの送信方法は、光通信に限らず、非接触型の如何なるデータ伝送方式を採用してもよいし、接触型のデータ伝送方式を採用しても構わない。
【0023】
寝台装置130は、スキャン対象の被検体P1を載置、移動させる装置であり、基台131と、寝台駆動装置132と、天板133と、支持フレーム134とを有する。基台131は、支持フレーム134を鉛直方向に移動可能に支持する筐体である。寝台駆動装置132は、被検体P1が載置された天板133を、天板133の長軸方向に移動する駆動機構であり、モータ及びアクチュエータ等を含む。支持フレーム134の上面に設けられた天板133は、被検体P1が載置される板である。なお、寝台駆動装置132は、天板133に加え、支持フレーム134を天板133の長軸方向に移動してもよい。
【0024】
コンソール装置140は、メモリ141と、ディスプレイ142と、入力インターフェース143と、処理回路144とを有する。なお、コンソール装置140は架台装置110とは別体として説明するが、架台装置110にコンソール装置140又はコンソール装置140の各構成要素の一部が含まれてもよい。
【0025】
メモリ141は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。例えば、メモリ141は、被検体P1に対するスキャンを実行することで収集される各種のデータを記憶する。また、例えば、メモリ141は、X線CTシステム10に含まれる回路がその機能を実現するためのプログラムを記憶する。なお、メモリ141は、X線CTシステム10とネットワークを介して接続されたサーバ群(クラウド)により実現されることとしてもよい。
【0026】
ディスプレイ142は、各種の情報を表示する。例えば、ディスプレイ142は、処理回路144が生成した表示用のCT画像を表示したり、物質弁別の結果を示す画像を表示したりする。また、例えば、ディスプレイ142は、ユーザからの各種操作を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)を表示する。例えば、ディスプレイ142は、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイである。ディスプレイ142は、デスクトップ型でもよいし、コンソール装置140本体と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。
【0027】
入力インターフェース143は、ユーザからの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路144に出力する。例えば、入力インターフェース143は、CT画像データを再構成する際の再構成条件や、CT画像データから表示用のCT画像を生成する際の画像処理条件等をユーザから受け付ける。例えば、入力インターフェース143は、マウスやキーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、操作面へ触れることで入力操作を行なうタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、音声入力回路等により実現される。なお、入力インターフェース143は、架台装置110に設けられてもよい。また、入力インターフェース143は、コンソール装置140本体と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。また、入力インターフェース143は、マウスやキーボード等の物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、コンソール装置140とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路144へ出力する電気信号の処理回路も入力インターフェース143の例に含まれる。
【0028】
処理回路144は、スキャン機能144a、処理機能144b、及び制御機能144cを実行することで、X線CTシステム10全体の動作を制御する。なお、スキャン機能144aは、スキャン部の一例である。また、処理機能144bは、処理部の一例である。
【0029】
例えば、処理回路144は、スキャン機能144aに相当するプログラムをメモリ141から読み出して実行することにより、被検体P1に対するスキャンを実行する。例えば、スキャン機能144aは、X線高電圧装置114を制御することにより、X線管111に高電圧を供給する。これにより、X線管111は、被検体P1に対し照射するX線を発生する。また、スキャン機能144aは、寝台駆動装置132を制御することにより、被検体P1を架台装置110の撮影口内へ移動させる。また、スキャン機能144aは、ウェッジ116の位置、及び、コリメータ117の開口度及び位置を調整することで、被検体P1に照射されるX線の分布を制御する。また、スキャン機能144aは、制御装置115を制御することにより回転部を回転させる。また、スキャン機能144aによってスキャンが実行される間、DAS118は、X線検出器112における各検出素子からX線の信号を収集し、検出データを生成する。また、スキャン機能144aは、DAS118から出力された検出データに対して、前処理を施す。例えば、スキャン機能144aは、DAS118から出力された検出データに対して、対数変換処理やオフセット補正処理、チャンネル間の感度補正処理、ビームハードニング補正等の前処理を施す。なお、前処理を施した後のデータについては生データとも記載する。また、前処理を施す前の検出データ及び前処理を施した後の生データを総称して、投影データとも記載する。
【0030】
また、処理回路144は、処理機能144bに相当するプログラムをメモリ141から読み出して実行することにより、前処理後の投影データに基づいて画像データを生成する。例えば、処理機能144bは、投影データに対して、フィルタ補正逆投影法や逐次近似再構成法、逐次近似応用再構成法等を用いた再構成処理を行なうことにより、CT画像データ(ボリュームデータ)を生成する。また、処理機能144bは、AI(Artificial Intelligence)による再構成処理を行なって、CT画像データを生成することもできる。例えば、処理機能144bは、DLR(Deep Learning Reconstruction)法により、CT画像データを生成する。また、処理機能144bは、投影データに基づいて、複数の基準物質による物質弁別を行なう。なお、処理機能144bは、再構成処理を施す前の段階(投影データの段階)で物質弁別を行なってもよいし、再構成処理を施した後の段階(CT画像データの段階)で物質弁別を行なってもよい。処理機能144bによる弁別処理については後述する。
【0031】
また、処理回路144は、制御機能144cに対応するプログラムをメモリ141から読み出して実行することにより、ディスプレイ142における表示の制御を行なう。例えば、制御機能144cは、入力インターフェース143を介してユーザから受け付けた入力操作等に基づいて、処理機能144bにより生成されたCT画像データを、公知の方法により表示用のCT画像(任意断面の断層像データや3次元画像データ等)に変換する。そして、制御機能144cは、変換した表示用のCT画像をディスプレイ142に表示させる。また、例えば、制御機能144cは、処理機能144bによる物質弁別の結果を示す画像をディスプレイ142に表示させる。また、制御機能144cは、ネットワークを介して各種のデータを送信する。一例を挙げると、制御機能144cは、処理機能144bにより生成されたCT画像データや物質弁別の結果を示す画像を、図示しない画像保管装置に送信して保管させる。
【0032】
図1に示すX線CTシステム10においては、各処理機能がコンピュータによって実行可能なプログラムの形態でメモリ141へ記憶されている。処理回路144は、メモリ141からプログラムを読み出して実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、プログラムを読み出した状態の処理回路144は、読み出したプログラムに対応する機能を有することとなる。
【0033】
なお、図1においては単一の処理回路144にて、スキャン機能144a、処理機能144b、及び制御機能144cが実現するものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路144を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。また、処理回路144が有する各処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。
【0034】
また、処理回路144は、ネットワークを介して接続された外部装置のプロセッサを利用して、機能を実現することとしてもよい。例えば、処理回路144は、メモリ141から各機能に対応するプログラムを読み出して実行するとともに、X線CTシステム10とネットワークを介して接続されたサーバ群(クラウド)を計算資源として利用することにより、図1に示す各機能を実現する。
【0035】
以上、X線CTシステム10の構成例について説明した。以下、X線CTシステム10が行なう処理について詳細に説明する。
【0036】
まず、デュアルエナジー収集を実行して物質弁別を行なうまでの一連の処理について説明する。なお、本実施形態では、kVスイッチング方式によるデュアルエナジー収集を行なう場合を例として説明する。
【0037】
例えば、デュアルエナジー収集を行なう本スキャンに先立って、まず、本スキャンのスキャン範囲を設定するための位置決めスキャンが実行される。ここで、位置決めスキャンは、2次元で実行されてもよいし、3次元で実行されてもよい。
【0038】
2次元の位置決めスキャンを実行する場合、スキャン機能144aは、X線の焦点位置を被検体P1の周囲で回転させないで、X線の焦点位置及び被検体P1の少なくともいずれかを被検体P1の体軸方向に沿って移動させながら、位置決め撮影を実行する。例えば、スキャン機能144aは、X線管111の位置を所定の回転角度に固定し、天板133をZ軸方向に移動させながらX線管111から被検体P1に対してX線を照射させることで、2次元の位置決め撮影を実行することができる。
【0039】
また、3次元の位置決めスキャンを実行する場合、スキャン機能144aは、X線の焦点位置を被検体P1の周囲で回転させながら、位置決め撮影を実行する。例えば、スキャン機能144aは、コンベンショナルスキャン、ヘリカルスキャン、ステップアンドシュートといった方式のスキャンを実行することで、3次元の位置決め撮影を実行することができる。
【0040】
次に、処理機能144bは、位置決めスキャンのスキャン結果に基づいて、位置決め画像データを生成する。なお、位置決め画像データは、スキャノ画像データやスカウト画像データと呼ばれる場合もある。次に、制御機能144cは、位置決め画像データに基づいて参照画像を生成し、生成した参照画像をディスプレイ142に表示させる。例えば、3次元の位置決めスキャンが実行されていた場合、制御機能144cは、位置決め画像データに対するレンダリング処理を実行することで参照画像を生成し、生成した参照画像をディスプレイ142に表示させる。また、制御機能144cは、参照画像を参照したユーザからの入力操作を受け付けることで、本スキャンのスキャン範囲を設定する。
【0041】
なお、レンダリング処理の例としては、断面再構成法(MPR:Multi Planar Reconstruction)により、3次元の画像データから任意断面の2次元画像を生成する処理が挙げられる。また、レンダリング処理の他の例としては、ボリュームレンダリング(Volume Rendering)処理や、最大値投影法(MIP:Maximum Intensity Projection)により、3次元の画像データから、3次元の情報を反映した2次元画像を生成する処理が挙げられる。
【0042】
また、本スキャンのスキャン範囲をユーザが設定するものとして説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、制御機能144cは、位置決め画像データ、又は位置決め画像データに基づいて生成した参照画像を解析し、診断対象の臓器等を抽出することで、本スキャンのスキャン範囲を自動設定してもよい。
【0043】
次に、スキャン機能144aは、設定されたスキャン範囲に対し、本スキャンとして、kVスイッチング方式のデュアルエナジー収集を実行する。具体的には、スキャン機能144aは、1又は複数のビューごとに、第1のX線エネルギーと第2のX線エネルギーとの間で、被検体P1に対して照射するX線のエネルギーを変化させる。これにより、スキャン機能144aは、第1のX線エネルギーに対応する投影データ及び第2のX線エネルギーに対応する投影データを少なくとも含む投影データセットを収集する。
【0044】
以下では、第1のX線エネルギーを「High kVp」とし、第2のX線エネルギーを「Low kVp」として説明する。即ち、スキャン機能144aは、1又は複数のビューごとに、「High kVp」と「Low kVp」との間で、被検体P1に対して照射するX線のエネルギーを変化させる。これにより、スキャン機能144aは、図2に示すように、「High kVp」に対応する投影データ、「Low kVp」に対応する投影データ、及び、「High kVp」と「Low kVp」との切り替え期間に被検体P1に照射されたX線のエネルギーである「Transition」に対応する投影データを含む投影データセットA11を収集する。なお、「Transition」は、第3のX線エネルギーの一例である。通常、「Transition」は、「Low kVp」と「High kVp」との間において変動する値である。また、図2に示す「Transition」の幅は、kVスイッチングにおけるスイッチングスピードに依存する。また、図2は、第1の実施形態に係る投影データセットの一例を示す図である。
【0045】
なお、図2では記載を省略しているものの、投影データセットA11は、通常、被検体P1の体軸方向を含む3次元データである。即ち、図2では投影データセットA11を2次元のサイノグラムとして示しているが、投影データセットA11は、チャンネル方向、ビュー方向及び体軸方向を有する3次元データである。以下では、説明を簡略化するため、投影データセットA11を、チャンネル方向及びビュー方向の2次元データとして説明する。
【0046】
次に、処理機能144bは、デュアルエナジー収集された投影データセットA11に対して、物質弁別を行なうための種々の処理を行なう。例えば、図2に示したように、投影データセットA11は、「High kVp」に対応する投影データ、「Low kVp」に対応する投影データ及び「Transition」に対応する投影データが混合したデータであり、各エネルギーについて言えばスパースなデータである。例えば、「High kVp」については、「Low kVp」及び「Transition」で示されるビューの投影データは欠損していると言える。そこで、処理機能144bは、各エネルギーの投影データについて補間処理を行なう。以下、補間処理の一例について、図3A図3B及び図3Cを用いて説明する。図3A図3B及び図3Cは、第1の実施形態に係る補間処理の一例を示す図である。
【0047】
例えば、処理機能144bは、まず、図3Aに示すように、投影データセットA11から、「High kVp」に対応する投影データセットB11、「Low kVp」に対応する投影データセットB12、及び、「Transition」に対応する投影データセットB13をそれぞれ抽出する。
【0048】
ここで、投影データセットB11及び投影データセットB12は、いずれも、欠損部分を有するスパースなデータとなる。例えば、図3Bに示すように、投影データセットB11においては、「Low kVp」又は「Transition」のビューが欠損部分となっている。そこで、処理機能144bは、図3Cに示すように、投影データセットB11について補間処理を行なう。
【0049】
具体的には、処理機能144bは、投影データセットB11における欠損部分の近傍の投影データを用いて、欠損部分の投影データを推定することにより、補間処理を行なうことができる。また、処理機能144bは、投影データセットB12に含まれる、投影データセットB11の欠損部分に対応するデータについてスケーリング処理を行なうことで補間処理を行なうことができる。即ち、処理機能144bは、「Low kVp」に対応する投影データセットB12に対してスケーリング処理を行ない、「High kVp」に対応するデータに加工することで、「High kVp」に対応する投影データセットB11の補間処理を行なうことができる。
【0050】
以下、補間処理後の投影データセットB11を、投影データセットC11と記載する。図3A及び図3Cに示すように、投影データセットC11は、欠損部分が補間されたフルデータ(full data)となる。また、処理機能144bは、投影データセットB11と同様に、投影データセットB12について補間処理を行ない、フルデータである投影データセットC12を生成することができる。
【0051】
なお、一般に、投影データセットB11及び投影データセットB12の補間処理において、「Transition」に対応する投影データセットB13は使用されない。これは、X線エネルギーの切り替え期間においては被検体P1に対して照射されるX線のエネルギー及び光子数にゆらぎが生じるため、投影データセットB13を補間処理に使用することでノイズを増加させてしまう可能性があるためである。
【0052】
そして、処理機能144bは、「High kVp」に対応する投影データセットC11及び「Low kVp」に対応する投影データセットC12に基づいて、複数の基準物質による物質弁別を行なう。
【0053】
一例を挙げると、処理機能144bは、投影データセットC11及び投影データセットC12を用いて、スキャン範囲内に存在する2つの基準物質を分離する。具体的には、処理機能144bは、投影データセットC11及び投影データセットC12それぞれについて線減弱係数の分布を求め、線減弱係数の各位置(各画素)について、以下の式(1)の連立方程式を解くことで、各位置における2つの基準物質の混合量や混合割合を算出する。
【0054】
【数1】
【0055】
ここで、「μ(E1)」は単色X線エネルギー「E1」における各位置の線減弱係数を示し、「μ(E2)」は単色X線エネルギー「E2」における各位置の線減弱係数を示す。また、「μα(E)」は基準物質αの線減弱係数を示し、「μβ(E)」は基準物質βの線減弱係数を示す。また、「cα」は基準物質αの混合量を示し、「cβ」は基準物質βの混合量を示す。なお、各基準物質のエネルギーごとの線減弱係数は既知である。例えば、処理機能144bは、「High kVp」として照射したX線エネルギーを「E1」に代入し、「Low kVp」として照射したX線エネルギーを「E2」に代入して式(1)の連立方程式を解くことで、2種類の基準物質「α、β」による物質弁別を行なう。
【0056】
そして、処理機能144bは、物質弁別の結果を示す画像を生成する。例えば、処理機能144bは、基準物質ごとに物質弁別画像を生成する。一例を挙げると、処理機能144bは、基準物質αを強調した物質弁別画像と、基準物質βを強調した物質弁別画像とをそれぞれ生成する。また、処理機能144bは、基準物質ごとに生成した複数の物質弁別画像を用いて、各基準物質の混合割合に基づく重み付け計算処理を行なうことにより、所定のエネルギーにおける仮想単色X線画像(モノクロマティック画像とも記載する)や、密度画像、実効原子番号画像等、種々の画像を生成することもできる。また、制御機能144cは、これら物質弁別の結果を示す画像を、ディスプレイ142に表示させる。
【0057】
なお、再構成処理を施す前の段階で物質弁別を行なうものとして説明したが、処理機能144bは、再構成処理を施した後の段階で物質弁別を行なってもよい。即ち、処理機能144bは、投影データセットC11及び投影データセットC12の各画素について式(1)の連立方程式を解くことで物質弁別を行なってもよいし、投影データセットC11に基づくCT画像データ及び投影データセットC12に基づくCT画像データの各画素について式(1)の連立方程式を解くことで物質弁別を行なってもよい。
【0058】
また、上記した式(1)について「μ」を線減弱係数、「c」を混合量として説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、処理機能144bは、各物質における「μ」を質量減弱係数とし、「c」を密度として、式(1)を解くこととしても構わない。
【0059】
ところで、図3A~3Cにおいて説明した補間処理は、近傍の投影データや別エネルギーで収集された投影データに基づいて、欠損部分を推定するものである。ここで、推定の精度を向上させるためには、より多くの情報を使用することが好ましい。
【0060】
そこで、X線CTシステム10は、近傍の投影データや別エネルギーで収集された投影データのみならず、対向ビューの投影データを更に用いて欠損部分の推定を行なう。これにより、X線CTシステム10は、欠損部分の推定の精度を向上させ、ひいては物質弁別の精度を向上させる。以下、対向ビューの投影データを用いた処理について詳細に説明する。
【0061】
まず、図4を用いて、対向ビューについて説明する。図4は、第1の実施形態に係る対向ビューについて説明するための図である。なお、図4においては、ビューV11を基準とし、ビューV11に対向するビューについて説明する。
【0062】
図4に示すように、ビューV11においては、チャンネル方向の各座標についての投影データが収集される。例えば、ビューV11においては、チャンネルW11の投影データ、チャンネルW12の投影データ、チャンネルW13の投影データといった複数の投影データが略同時に収集される。
【0063】
ビューV21、ビューV22及びビューV23についても同様に、チャンネル方向の各座標についての投影データが収集される。ここで、ビューV21におけるチャンネルW21の投影データは、X線の照射方向は反対であるものの、ビューV11におけるチャンネルW11の投影データと略同じX線経路を有する投影データである。また、ビューV22におけるチャンネルW22の投影データは、X線の照射方向は反対であるものの、ビューV11におけるチャンネルW12の投影データと略同じX線経路を有する投影データである。また、ビューV23におけるチャンネルW23の投影データは、X線の照射方向は反対であるものの、ビューV11におけるチャンネルW13の投影データと略同じX線経路を有する投影データである。
【0064】
このように、ビューV21、ビューV22及びビューV23は、ビューV11において収集される投影データと略同じX線経路を有する投影データを含んでいる。以下では、このようなビューを、対向するビューとして説明する。即ち、ビューV21、ビューV22及びビューV23は、ビューV11に対向するビューである。一例を挙げると、ビューV11に対向するビューは、ビューV11と「180°」異なるビューから、X線管111が照射するX線のファン角に相当する範囲内のビューである。
【0065】
なお、図4においては記載を省略しているが、通常、X線CTシステム10において収集される投影データセットは、チャンネル方向及びビュー方向に加えて、体軸方向(Z軸方向)を有する3次元データである。また、投影データセットを収集するためのスキャンには、コンベンショナルスキャン、ヘリカルスキャン、ステップアンドシュートといった種々の方式がある。
【0066】
コンベンショナルスキャン又はステップアンドシュートの方式でスキャンが実行される場合、X線CTシステム10の回転部が一回転する間に体軸方向の変化は生じない。従って、コンベンショナルスキャン又はステップアンドシュートの方式でスキャンが実行される場合、処理機能144bは、図4に示すような2次元空間において、対向するビューを容易に特定することができる。
【0067】
一方で、ヘリカルスキャンの方式でスキャンが実行される場合、回転部が一回転する間に体軸方向の変化が生じる。そして、処理機能144bは、かかる体軸方向の変化を考慮して、対向するビューを特定する必要がある。例えば、処理機能144bは、撮影のピッチに基づいて、対向するビューを特定する。ここで、撮影のピッチとは、例えば、ビームピッチやヘリカルピッチである。なお、ビームピッチは、回転部が1回転する間に架台装置110に対して被検体P1が移動する量と、スキャン範囲の体軸方向の幅との比である。また、ヘリカルピッチは、回転部が1回転する間に架台装置110に対して被検体P1が移動する量と、スキャン範囲において検出素子1列分に相当する幅(コリメーション幅)との比である。なお、撮影のピッチは、例えば、スキャン中の天板133の移動速度により調整することができる。
【0068】
また、ヘリカルスキャンの方式でスキャンが実行される場合、対向するビューを直接的には特定できない場合がある。即ち、体軸方向の変化に起因して、対向するビューにおいてはX線の照射が行なわれていなかったというケースが想定される。かかる場合、処理機能144bは、チャンネル方向又は体軸方向に隣接する投影データを使用した補間処理を行なうことで、対向するビューの投影データを生成することができる。
【0069】
また、図4に示したビューV11のように、スキャンによって実際に収集される投影データは、複数のチャンネルについて略同時に収集される。即ち、図2図3A図3B図3C図4等に示したように、実際に収集される投影データは、チャンネル方向及びビュー方向を有する平面において、チャンネル方向に平行な直線として示すことができる。一方で、対向するビューの投影データは、チャンネルごとにビュー方向にずれて収集される。即ち、対向するビューの投影データは、図4に示したように、チャンネル方向に対して傾いた斜線として表現することができる。以下では、実際に収集される投影データと対向するビューの投影データとの表現形式を揃えて説明を簡素化するため、対向するビューの投影データについても、チャンネル方向に平行な直線として表現することとする。
【0070】
ここで、kVスイッチング方式においては、補正対象のビューと対向するビューとで、被検体P1に対して照射するX線のエネルギーが異なっている場合がある。例えば、図4のビューV11において「High kVp」のX線を照射していた場合に、対向するビューで照射していたX線のエネルギーは、「High kVp」の場合もあれば、「Low kVp」の場合もあれば、「Transition」の場合もある。
【0071】
即ち、補正対象のビュー及び対向するビューにおけるX線エネルギーの組み合わせについては種々のケースが考えられる。そこで、処理機能144bは、補正対象のビューにおいて収集された投影データについての補正処理を行なう際、ケースに応じた処理を行なう。以下、処理機能144bが行なう処理について、ケースごとに説明する。
【0072】
まず、図5A及び図5Bを用いて、ケース1及びケース2の場合に処理機能144bが行なう処理について説明する。図5Aは、第1の実施形態に係るケース1及びケース2について説明するための図である。また、図5Bは、第1の実施形態に係るケース1における処理の一例を示す図である。
【0073】
図5Aに示すように、ケース1及びケース2は、補正対象のビューと対向するビューとで、被検体P1に対して照射されたX線エネルギーが同じケースである。より具体的には、ケース1は、補正対象のビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが「Low kVp」であり、対向するビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが「Low kVp」であるケースである。また、ケース2は、補正対象のビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが「High kVp」であり、対向するビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが「High kVp」であるケースである。
【0074】
なお、図5Aにおいては、説明の便宜のため、補正対象のビューに加えて、その前後のビューを示す。例えば、図5Aのケース1においては、「Low kVp」である補正対象のビューに加えて、その前後のビューである「Transition」や「High kVp」も併せて示す。
【0075】
なお、ケース1、ケース2、その他後述する各ケースのいずれに該当するかはビューごとに異なる。例えば、図4に示したビューV11において収集された投影データがケース1に該当する場合であっても、ビューV11の次のビューにおいて収集された投影データがケース1に該当するとは限らない。従って、処理機能144bは、各ビューの投影データについて、いずれのケースに該当するかの判定を行なう。
【0076】
例えば、スキャン機能144aは、まず、kVスイッチング方式のデュアルエナジー収集を行ない、投影データセットA21を収集する。投影データセットA21は、図2の投影データセットA11と同様、「High kVp」に対応する投影データと、「Low kVp」に対応する投影データと、「Transition」に対応する投影データとが混合したデータである。次に、処理機能144bは、投影データセットA21から、「High kVp」に対応する投影データセットB21と、「Low kVp」に対応する投影データセットB22とを分離する。なお、投影データセットB21は、第1投影データセットの一例である。また、投影データセットB22は、第2投影データセットの一例である。
【0077】
ここで、投影データセットB21及び投影データセットB22は、いずれも、ビュー方向に欠損部分を有するスパースなデータである。そこで、処理機能144bは、投影データセットB21及び投影データセットB22のそれぞれについて補間処理を行なう。図5Bにおいては、「High kVp」に対応する投影データセットB21について補間処理を行ない、「High kVp」に対応したフルデータを生成する場合について説明する。より具体的には、図5Bでは、ケース1において、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間する場合について説明する。
【0078】
図5Aに示したように、ケース1の場合、補正対象のビューの投影データは、「Low kVp」であり、「High kVp」に対応する投影データセットB21においては欠損部分に対応する。また、ケース1の場合、対向するビューの投影データも同様に「Low kVp」であり、「High kVp」に対応する投影データセットB21においては欠損部分に対応する。ここで、投影データセットB21の補間処理に、「Low kVp」である対向するビューの投影データをそのまま使用すれば、ノイズ増加の原因となる可能性がある。
【0079】
そこで、処理機能144bは、対向するビューの投影データを「Low kVp」から「High kVp」に変換して、補間処理に使用する。具体的には、処理機能144bは、まず、図5Bに示すように、対向するビューの投影データに対するスケーリング処理を行なう。なお、スケーリング処理は、X線のエネルギーに応じてX線の透過量が変化することに基づいて、異なるエネルギーのデータを生成する処理である。そして、処理機能144bは、スケーリング処理後の投影データを使用して、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間する。
【0080】
ここで、処理機能144bは、更に、投影データセットB22のうちの補正対象のビューの投影データを使用して、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間することとしてもよい。ここで、ケース1の場合、補正対象のビューの投影データは「Low kVp」であるため、処理機能144bは、スケーリング処理によって補正対象のビューの投影データを「Low kVp」から「High kVp」に変換し、スケーリング処理後の投影データを使用して、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間する。
【0081】
また、処理機能144bは、更に、補正対象のビューの近傍のビューの投影データ(「High kVp」に対応する投影データ)を使用して、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間することとしてもよい。なお、補正対象のビューの近傍のビューとは、例えば、補正対象のビューに隣接するビューを含んだ少なくとも1つのビューである。また、処理機能144bは、図5Bに示すように、対向するビューの近傍のビューの投影データ(「High kVp」に対応する投影データ)を使用して、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間することとしてもよい。即ち、処理機能144bは、欠損部分の近傍の投影データを、補間処理に更に使用することとしてもよい。また、図5Bではケース1について説明したが、処理機能144bは、「Low kVp」と「High kVp」とが入れ替わる点を除いて、ケース2についても同様に補間処理を行なうことができる。
【0082】
次に、図6A及び図6Bを用いて、ケース3及びケース4の場合に処理機能144bが行なう処理について説明する。図6Aは、第1の実施形態に係るケース3及びケース4について説明するための図である。また、図6Bは、第1の実施形態に係るケース3における処理の一例を示す図である。
【0083】
図6Aに示すように、ケース3及びケース4は、補正対象のビューと対向するビューとで、被検体P1に対して照射されたX線エネルギーが異なるケースである。より具体的には、ケース3は、補正対象のビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが「Low kVp」であり、対向するビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが「High kVp」であるケースである。また、ケース4は、補正対象のビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが「High kVp」であり、対向するビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが「Low kVp」であるケースである。なお、図6Aにおいては、説明の便宜のため、補正対象のビューに加えて、その前後のビューを示す。
【0084】
図6Bにおいては、「High kVp」に対応する投影データセットB21について補間処理を行ない、「High kVp」に対応したフルデータを生成する場合について説明する。より具体的には、図6Bでは、ケース3において、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間する場合について説明する。
【0085】
図6Aに示したように、ケース3の場合、補正対象のビューの投影データは、「Low kVp」であり、「High kVp」に対応する投影データセットB21においては欠損部分に対応する。ここで、ケース3の場合、対向するビューの投影データは「High kVp」である。従って、ケース3の場合、処理機能144bは、対向するビューの投影データをそのまま使用して、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間することができる。
【0086】
ここで、処理機能144bは、更に、投影データセットB22のうちの補正対象のビューの投影データを使用して、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間することとしてもよい。ここで、ケース3の場合、補正対象のビューの投影データは「Low kVp」であるため、処理機能144bは、スケーリング処理によって補正対象のビューの投影データを「Low kVp」から「High kVp」に変換し、スケーリング処理後の投影データを使用して、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間する。また、処理機能144bは、更に、補正対象のビューの近傍のビューの投影データ(「High kVp」に対応する投影データ)を使用して、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間することとしてもよい。また、図6Bではケース3について説明したが、処理機能144bは、「Low kVp」と「High kVp」とが入れ替わる点を除いて、ケース4についても同様に補間処理を行なうことができる。
【0087】
次に、図7A及び図7Bを用いて、ケース5及びケース6の場合に処理機能144bが行なう処理について説明する。図7Aは、第1の実施形態に係るケース5及びケース6について説明するための図である。また、図7Bは、第1の実施形態に係るケース5における処理の一例を示す図である。
【0088】
図7Aに示すケース5及びケース6は、補正対象のビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが「Transition」であるケースである。より具体的には、ケース5は、補正対象のビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが、「Low kVp」から「High kVp」への切り替え期間に被検体P1に照射されたX線のエネルギーであり、かつ、対向するビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが「High kVp」であるケースである。また、ケース6は、補正対象のビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが、「High kVp」から「Low kVp」への切り替え期間に被検体P1に照射されたX線のエネルギーであり、かつ、対向するビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが「Low kVp」であるケースである。なお、図7Aにおいては、説明の便宜のため、補正対象のビューに加えて、その後のビューを示す。
【0089】
図7Bにおいては、「High kVp」に対応する投影データセットB21について補間処理を行ない、「High kVp」に対応したフルデータを生成する場合について説明する。より具体的には、図7Bでは、ケース5において、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間する場合について説明する。
【0090】
図7Aに示したように、ケース5の場合、補正対象のビューの投影データは、「Transition」であり、「High kVp」に対応する投影データセットB21においては欠損部分に対応する。ここで、ケース5の場合、対向するビューの投影データは「High kVp」である。従って、ケース5の場合、処理機能144bは、図7Bに示すように、対向するビューの投影データをそのまま使用して、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間することができる。また、図7Bではケース5について説明したが、処理機能144bは、「Low kVp」と「High kVp」とが入れ替わる点を除いて、ケース6についても同様に補間処理を行なうことができる。
【0091】
次に、図8A及び図8Bを用いて、ケース7及びケース8の場合に処理機能144bが行なう処理について説明する。図8Aは、第1の実施形態に係るケース7及びケース8について説明するための図である。また、図8Bは、第1の実施形態に係るケース7における処理の一例を示す図である。
【0092】
図8Aに示すケース7及びケース8は、補正対象のビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが「Transition」であるケースである。より具体的には、ケース7は、補正対象のビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが、「Low kVp」から「High kVp」への切り替え期間に被検体P1に照射されたX線のエネルギーであり、かつ、対向するビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが「Low kVp」であるケースである。また、ケース8は、補正対象のビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが、「High kVp」から「Low kVp」への切り替え期間に被検体P1に照射されたX線のエネルギーであり、かつ、対向するビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが「High kVp」であるケースである。なお、図8Aにおいては、説明の便宜のため、補正対象のビューに加えて、その後のビューを示す。
【0093】
また、図8Bにおいては、「High kVp」に対応する投影データセットB21について補間処理を行ない、「High kVp」に対応したフルデータを生成する場合について説明する。より具体的には、図8Bでは、ケース7において、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間する場合について説明する。
【0094】
図8Aに示したように、ケース7において、補正対象のビューの投影データは、「Transition」であり、「High kVp」に対応する投影データセットB21においては欠損部分に対応する。また、ケース7において、対向するビューの投影データは「Low kVp」である。ここで、投影データセットB21の補間処理に、「Low kVp」である対向するビューの投影データをそのまま使用すれば、ノイズ増加の原因となる可能性がある。
【0095】
そこで、処理機能144bは、対向するビューの投影データを「Low kVp」から「High kVp」に変換して、補間処理に使用する。具体的には、処理機能144bは、まず、図8Bに示すように、対向するビューの投影データに対するスケーリング処理を行なう。そして、処理機能144bは、スケーリング処理後の投影データを使用して、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間する。また、図8Bではケース7について説明したが、処理機能144bは、「Low kVp」と「High kVp」とが入れ替わる点を除いて、ケース8についても同様に補間処理を行なうことができる。
【0096】
次に、図9A及び図9Bを用いて、ケース9、ケース10、ケース11及びケース12の場合に処理機能144bが行なう処理について説明する。図9Aは、第1の実施形態に係るケース9、ケース10、ケース11及びケース12について説明するための図である。また、図9Bは、第1の実施形態に係るケース9における処理の一例を示す図である。
【0097】
図8Aに示すケース9、ケース10、ケース11及びケース12は、補正対象のビュー及び対向するビューの双方において、被検体P1に照射されたX線エネルギーが「Transition」であるケースである。より具体的には、ケース9は、補正対象のビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが、「Low kVp」から「High kVp」への切り替え期間に被検体P1に照射されたX線のエネルギーであり、かつ、対向するビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが、「High kVp」から「Low kVp」への切り替え期間に被検体P1に照射されたX線のエネルギーであるケースである。また、ケース10は、補正対象のビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが、「High kVp」から「Low kVp」への切り替え期間に被検体P1に照射されたX線のエネルギーであり、かつ、対向するビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが、「Low kVp」から「High kVp」への切り替え期間に被検体P1に照射されたX線のエネルギーであるケースである。また、ケース11は、補正対象のビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが、「Low kVp」から「High kVp」への切り替え期間に被検体P1に照射されたX線のエネルギーであり、かつ、対向するビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが、「Low kVp」から「High kVp」への切り替え期間に被検体P1に照射されたX線のエネルギーであるケースである。また、ケース12は、補正対象のビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが、「High kVp」から「Low kVp」への切り替え期間に被検体P1に照射されたX線のエネルギーであり、かつ、対向するビューにおいて被検体P1に照射されたX線エネルギーが、「High kVp」から「Low kVp」への切り替え期間に被検体P1に照射されたX線のエネルギーであるケースである。なお、図9Aにおいては、説明の便宜のため、補正対象のビューに加えて、その前後のビューを示す。
【0098】
また、図9Bにおいては、「High kVp」に対応する投影データセットB21について補間処理を行ない、「High kVp」に対応したフルデータを生成する場合について説明する。より具体的には、図9Bでは、ケース9において、投影データセットB21のうちの補正対象のビューの投影データを補間する場合について説明する。
【0099】
図9Aに示したように、ケース9において補正対象のビューの投影データは、「Transition」であり、「High kVp」に対応する投影データセットB21においては欠損部分に対応する。また、ケース9においては対向するビューの投影データも「Transition」であり、投影データセットB21の補間処理に対向するビューの投影データをそのまま使用すれば、ノイズ増加の原因となる可能性がある。
【0100】
そこで、処理機能144bは、対向するビューの投影データを、近傍の投影データを使用して補正し、補正後の投影データを補正処理に使用する。具体的には、処理機能144bは、まず、図9Bに示すように、対向するビューの投影データに隣接する投影データのうち、「Low kVp」に対応する側の少なくとも1つの投影データに対してスケーリング処理を行ない、「High kVp」に対応する投影データに変換する。そして、処理機能144bは、スケーリング処理後の「High kVp」に対応する投影データと、対向するビューの投影データに隣接する投影データのうち「High kVp」に対応する側の少なくとも1つの投影データとに基づいて、対向するビューの投影データを補正する。例えば、処理機能144bは、近傍の投影データを使用して、対向するビューの投影データを、「Transition」から「High kVp」に変換する。或いは、処理機能144bは、近傍の投影データを使用して生成した「High kVp」に対応する投影データにより、「Transition」に対応する投影データを置換する。
【0101】
ここで、処理機能144bは、更に、補正対象のビューの投影データの近傍の投影データを使用して、補正対象のビューの投影データの補正を行なってもよい。また、図9Bではケース9について説明したが、処理機能144bは、「Low kVp」と「High kVp」とが入れ替わる点を除いて、ケース10、ケース11及びケース12についても同様に補間処理を行なうことができる。
【0102】
なお、図9Bに示すように、補正対象のビューの投影データに隣接する「Low kVp」に対応する投影データも、「High kVp」に対応する投影データセットB21においては欠損部分に対応する。この点はケース3に含まれるものであり、上述した手法で補間処理を行なうことができる。
【0103】
図5A図9Bにおいて説明した補間処理は、例えば、対向するビューの投影データを用いた補間処理を行なうように機能付けられた学習済みモデルM1を使用して実行することができる。例えば、処理機能144bは、学習済みモデルM1を事前に生成して、メモリ141に記憶させる。そして、被検体P1に対するスキャンが実行された際、処理機能144bは、メモリ141から読み出した学習済みモデルM1に対して、収集された投影データを入力することにより、補間処理を実行する。
【0104】
以下、学習済みモデルM1の生成処理について、図10A及び図10Bを用いて説明する。図10A及び図10Bは、第1の実施形態に係る学習済みモデルの生成処理の一例を示す図である。
【0105】
まず、処理機能144bは、学習データとして、デュアルエナジー収集された投影データセットA31と、同一対象からシングルエナジー収集された投影データセットA32との組を取得する。投影データセットA31及び投影データセットA32は、被検体P1や、被検体P1と異なる被検体P2、人体を模したファントム等について2回のスキャンを行なうことで収集される。また、投影データセットA31及び投影データセットA32は、X線CTシステム10において収集されてもよいし、他のシステムにおいて収集されてもよい。
【0106】
例えば、デュアルエナジー収集された投影データセットA31は、上述した投影データセットA11及び投影データセットA21と同様、「High kVp」に対応する投影データと、「Low kVp」に対応する投影データと、「Transition」に対応する投影データとが混合したデータである。また、以下では一例として、シングルエナジー収集された投影データセットA32が、「High kVp」に対応する投影データセットであるものとして説明する。
【0107】
例えば、処理機能144bは、まず、投影データセットA31から、「High kVp」に対応する投影データセットB31を分離する。即ち、処理機能144bは、投影データセットA31から、スパースな投影データセットを生成する。そして、処理機能144bは、スパースな投影データセットのうちの補正対象のビューの投影データと、対向するビューの投影データ及び近傍の投影データとを入力側データ、投影データセットA32を出力側データとする機械学習を実行することにより、学習済みモデルM1を生成する。
【0108】
ここで、学習済みモデルM1は、例えば、ニューラルネットワーク(Neural Network)により構成することができる。ニューラルネットワークとは、層状に並べた隣接層間が結合した構造を有し、情報が入力層側から出力層側に伝播するネットワークである。例えば、処理機能144bは、上述した学習データを用いて多層のニューラルネットワークについて深層学習(ディープラーニング)を実行することで、学習済みモデルM1を生成する。なお、多層のニューラルネットワークは、例えば、入力層と、複数の中間層(隠れ層)と、出力層とにより構成される。
【0109】
一例を挙げると、処理機能144bが入力側データをニューラルネットワークに入力した際、ニューラルネットワークにおいては、入力層側から出力層側に向かって一方向に隣接層間でのみ結合しながら情報が伝播し、出力層からは、投影データセットA32を推定した投影データセットが出力される。なお、入力層側から出力層側に向かって一方向に情報が伝播するニューラルネットワークについては、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convlutional Neural Network)とも呼ばれる。
【0110】
例えば、ニューラルネットワークにおいては、上述したケース1~12のいずれに該当するかの判定を行なうとともに、ケースに応じた補間処理が実行される。例えば、ケース1、ケース2、ケース7、ケース8、ケース9、ケース10、ケース11及びケース12に該当する場合、ニューラルネットワークにおいては、適当なパラメータを設定しつつ、スケーリング処理が実行される。また、例えば、ケース9、ケース10、ケース11及びケース12に該当する場合、ニューラルネットワークにおいては、対向するビューの投影データの近傍の投影データとして使用する範囲や、近傍の投影データそれぞれに付される重み等が調整される。そして、ニューラルネットワークの出力層からは、スパースな投影データセットを補間して、フルデータである投影データセットA32を推定した投影データセットが出力される。
【0111】
処理機能144bは、入力側データを入力した際にニューラルネットワークが好ましい結果を出力することができるよう、ニューラルネットワークのパラメータを調整することで、学習済みモデルM1を生成する。例えば、処理機能144bは、投影データセット間の近さを表す関数(誤差関数)を用いて、ニューラルネットワークのパラメータを調整する。
【0112】
一例を挙げると、処理機能144bは、投影データセットA32とニューラルネットワークが推定した投影データセットとの間のコスト関数を算出する。なお、コスト関数は、投影データセットA32とニューラルネットワークが推定した投影データセットとの間の近さを示す誤差関数に対して、過学習を防ぐための正則化項を追加したものである。また、処理機能144bは、ニューラルネットワークのパラメータを調整しながら繰り返しコスト関数を算出する。そして、処理機能144bは、図10Bに示すように、コスト関数が閾値(Threshold)を下回るまでニューラルネットワークのパラメータを調整することで、学習済みモデルM1を生成する。なお、図10Bにおける横軸は繰り返し回数(Iteration)であり、縦軸はコスト関数(Cost function)である。また、処理機能144bは、生成した学習済みモデルM1を、メモリ141に記憶させる。
【0113】
なお、学習済みモデルM1がニューラルネットワークにより構成されるものとして説明したが、処理機能144bは、ニューラルネットワーク以外の機械学習手法により、学習済みモデルM1を生成してもよい。また、処理機能144bが学習済みモデルM1を生成するものとして説明したが、学習済みモデルM1は、他の装置において生成されるものであっても構わない。
【0114】
例えば、被検体P1に対する検査において、スキャン機能144aは、kVスイッチング方式のデュアルエナジー収集を実行することにより、被検体P1から投影データセットA21を収集する。次に、処理機能144bは、投影データセットA21から、「High kVp」に対応する投影データセットB21と、「Low kVp」に対応する投影データセットB22とを分離する。
【0115】
次に、処理機能144bは、メモリ141から読み出した学習済みモデルM1を用いて、投影データセットB21及び投影データセットB22のそれぞれについて補間処理を行なう。例えば、処理機能144bは、投影データセットB21における補正対象のビューの投影データと、補正対象のビューに対向するビューの投影データと、対向するビューの投影データの近傍の投影データとを学習済みモデルM1に入力する。これにより、処理機能144bは、投影データセットB21における欠損部分が補間されたフルデータである投影データセットC21を取得する。同様にして、処理機能144bは、投影データセットB22における欠損部分が補間されたフルデータである投影データセットC22を取得する。
【0116】
次に、処理機能144bは、補正後の投影データセットに基づいて複数の基準物質による物質弁別を行なう。例えば、処理機能144bは、「High kVp」に対応する投影データセットC21及び「Low kVp」に対応する投影データセットC22に基づいて、複数の基準物質による物質弁別を行なう。これにより、処理機能144bは、例えば、軟組織から腎臓結石を分離することができる。なお、処理機能144bは、再構成処理を施す前の段階で物質弁別を行なってもよいし、再構成処理を施した後の段階で物質弁別を行なってもよい。
【0117】
そして、処理機能144bは、物質弁別の結果を示す画像を生成する。例えば、処理機能144bは、基準物質ごとに物質弁別画像を生成する。一例を挙げると、処理機能144bは、「カルシウム」を強調した物質弁別画像と、「水」を強調した物質弁別画像とをそれぞれ生成する。また、処理機能144bは、基準物質ごとに生成した複数の物質弁別画像を用いて、各基準物質の混合割合に基づく重み付け計算処理を行なうことにより、モノクロマティック画像や、密度画像、実効原子番号画像等、種々の画像を生成することもできる。また、制御機能144cは、これら物質弁別の結果を示す画像を、ディスプレイ142に表示させる。
【0118】
次に、X線CTシステム10による処理の手順の一例を、図11Aを用いて説明する。図11Aは、第1の実施形態に係るX線CTシステム10の処理の一連の流れを説明するためのフローチャートである。ステップS1は、スキャン機能144aに対応する。ステップS2、ステップS3及びステップS4は、処理機能144bに対応する。ステップS5は、制御機能144cに対応する。
【0119】
まず、処理回路144は、被検体P1に対して、kVスイッチング方式のデュアルエナジー収集を実行することにより、投影データセットA21を収集する(ステップS1)。次に、処理回路144は、投影データセットA21から、「High kVp」に対応する投影データセットB21、及び、「Low kVp」に対応する投影データセットB22と分離する(ステップS2)。
【0120】
次に、処理回路144は、投影データセットB21及び投影データセットB22のそれぞれについて補正処理を行ない、投影データセットC21及び投影データセットC22を生成する(ステップS3)。なお、ステップS3の詳細については後述する。そして、処理回路144は、補正処理後の投影データセットC21及び投影データセットC22に基づいて物質弁別を実行し(ステップS4)、物質弁別の結果をディスプレイ142に表示させて(ステップS5)、処理を終了する。
【0121】
次に、図11AのステップS3の詳細を、図11Bを用いて説明する。図11Bは、第1の実施形態に係るX線CTシステム10の処理の一連の流れを説明するためのフローチャートである。ステップS301、ステップS302、ステップS303、ステップS304、ステップS305、ステップS306、ステップS307、ステップS308、ステップS309及びステップS310は、処理機能144bに対応する。
【0122】
なお、処理回路144は、図11Bに示す各ステップを、学習済みモデルM1を用いて実行してもよいし、学習済みモデルM1を用いずに実行してもよい。例えば、処理回路144は、ケース1~12と、ケースごとの補正処理の内容とを対応付けたテーブルを用いて、図11Bに示す各ステップを実行してもよい。
【0123】
まず、処理回路144は、補正対象のビューを設定する(ステップS301)。例えば、処理回路144は、投影データセットB21又は投影データセットB22において欠損部分となっているビューを、補正対象のビューとして設定する。
【0124】
次に、処理回路144は、補正対象として設定したビュー及び対向するビューについて、ケース3~6に該当するか否かを判定する(ステップS302)。例えば、「High kVp」に対応する投影データセットB21に対する補正処理において、対向するビューの投影データが「High kVp」に対応する場合、処理回路144は、ケース3~6に該当すると判定する。また、例えば、「Low kVp」に対応する投影データセットB22に対する補正処理において、対向するビューの投影データが「Low kVp」に対応する場合、処理回路144は、ケース3~6に該当すると判定する。そして、ケース3~6に該当すると判定した場合(ステップS302肯定)、処理回路144は、対向するビューの投影データをそのまま使用して補正処理を行なう(ステップS303)。
【0125】
一方で、ケース3~6に該当しないと判定した場合(ステップS302否定)、処理回路144は、ケース1~2又はケース7~8に該当するか否かを判定する(ステップS304)。例えば、「High kVp」に対応する投影データセットB21に対する補正処理において、対向するビューの投影データが「Low kVp」に対応する場合、処理回路144は、ケース1~2又はケース7~8に該当すると判定する。また、例えば、「Low kVp」に対応する投影データセットB22に対する補正処理において、対向するビューの投影データが「High kVp」に対応する場合、処理回路144は、ケース1~2又はケース7~8に該当すると判定する。そして、ケース1~2又はケース7~8に該当すると判定した場合(ステップS304肯定)、処理回路144は、対向するビューの投影データに対するスケーリング処理を行ない(ステップS305)、スケーリング処理後の投影データを使用して補正処理を行なう(ステップS306)。
【0126】
一方で、ケース1~2又はケース7~8に該当しないと判定した場合(ステップS304否定)、処理回路144は、ケース9~12に該当すると判定する。この場合、処理回路144は、対向するビューの投影データを、近傍の投影データを使用して補正し(ステップS307)、補正後の投影データを使用して補正処理を行なう(ステップS308)。例えば、投影データセットB21又は投影データセットB22に対する補正処理において、対向するビューの投影データが「Transition」に対応する場合、処理回路144は、ケース9~12に該当すると判定することができる。
【0127】
ステップS303、ステップS306又はステップS308の後、処理回路144は、投影データセットB21及び投影データセットB22における全ての欠損部分についての補正処理が完了したか否かを判定する(ステップS309)。補正処理が完了していない欠損部分がある場合(ステップS309否定)、処理回路144は、補正対象のビューを変更し(ステップS310)、再度ステップS302に移行する。一方で、全ての欠損部分についての補正処理が完了した場合(ステップS309肯定)、処理回路144は、処理を終了する。
【0128】
上述したように、第1の実施形態によれば、スキャン機能144aは、X線の焦点位置を被検体P1の周囲で回転させながら被検体P1に対してX線を照射し、「High kVp」に対応する投影データ及び「Low kVp」に対応する投影データを少なくとも含む投影データセットA21を収集する。また、スキャン機能144aは、投影データセットA21について、対向するビューの投影データを用いた補正処理を行ない、補正後の投影データセットに基づいて複数の基準物質による物質弁別を行なう。
【0129】
従って、第1の実施形態に係るX線CTシステム10は、対向するビューの投影データを用いずに補正処理を行なう場合と比較して、投影データセットA21を精度よく補正することができる。例えば、X線CTシステム10は、投影データセットA21おける空間的な分解能やノイズ特性を改善することができる。また、例えば、X線CTシステム10は、投影データセットA21から、モーションアーチファクトや、X線光子数のゆらぎやトランジェント電圧に起因するアーチファクトといった各種のアーチファクトを適切に除去することができる。これにより、X線CTシステム10は、投影データセットA21に基づく物質弁別の精度を向上させ、ひいては診断精度を向上させることもできる。
【0130】
(第2の実施形態)
さて、これまで第1の実施形態について説明したが、上述した実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。
【0131】
例えば、上述した実施形態では、投影データセットA21について行なう補正処理として、投影データセットA21から分離した投影データセットB21又は投影データセットB22における投影データの欠損部分を補間する処理について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、処理機能144bは、投影データセットB21又は投影データセットB22において欠損していない部分の補正処理を行なってもよい。
【0132】
一例を挙げると、処理機能144bは、「High kVp」に対応する投影データセットB21における補正対象のビューの投影データと、対向するビューの投影データとのブレンドを行なう。なお、投影データセットB21における補正対象のビューの投影データは、「High kVp」に対応する。
【0133】
ここで、対向するビューの投影データが「High kVp」に対応する場合、処理機能144bは、そのまま、対向するビューの投影データと補正対象のビューの投影データとのブレンドを行なうことができる。また、対向するビューの投影データが「Low kVp」に対応する場合、処理機能144bは、対向するビューの投影データに対するスケーリング処理を行ない、スケーリング処理後の投影データと、補正対象のビューの投影データとのブレンドを行なうことができる。また、対向するビューの投影データが「Transition」に対応する場合、処理機能144bは、対向するビューの投影データを近傍の投影データを使用して補正し、補正後の投影データと、補正対象のビューの投影データとのブレンドを行なうことができる。
【0134】
また、上述した実施形態では、kVスイッチング方式のデュアルエナジー収集により、「High kVp」に対応する投影データ及び「Low kVp」に対応する投影データを少なくとも含む投影データセットを収集する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。
【0135】
例えば、スキャン機能144aは、kVスイッチング方式に代えて、積層型検出器方式(デュアルレイヤー方式とも記載する)のデュアルエナジー収集を行なってもよい。この場合、X線CTシステム10は、X線検出器112として、積層型検出器を備える。例えば、X線検出器112は、第1の層112aと、第2の層112bとから構成され、X線管111から照射されたX線を分光して検出する。一例を挙げると、スキャン機能144aは、第1の層112aの検出結果に基づく「High kVp」に対応する投影データと、第2の層112bの検出結果に基づく「Low kVp」に対応する投影データとを含む投影データセットを収集する。
【0136】
そして、処理機能144bは、収集された投影データセットについて、対向するビューの投影データを用いた補正処理を行なう。なお、デュアルレイヤー方式で収集される投影データセットは、通常、スパースなデータではない。しかしながら、例えばX線管において放電現象が発生した場合等には、デュアルレイヤー方式で収集される投影データセットにも欠損部分が生じる可能性がある。ここで、X線CTシステム10は、収集された投影データセットにおける投影データの欠損部分を、対向するビューの投影データを用いて補間することができる。更に、X線CTシステム10は、収集された投影データセットにおける補正対象のビューの投影データと、対向するビューの投影データとのブレンドを行なうこともできる。これにより、処理機能144bは、投影データセットについて、空間的な分解能を向上させることともに、光子統計(photon statistics)を改善することができる。ひいては、処理機能144bは、投影データセットに基づく物質弁別の精度を向上させることができる。
【0137】
また、例えば、スキャン機能144aは、kVスイッチング方式に代えて、デュアルソース方式のデュアルエナジー収集を行なってもよい。この場合、X線CTシステム10は、X線管111として、X線管1111及びX線管1112を備える。また、X線CTシステム10は、X線検出器112として、X線管1111から照射されたX線を検出するX線検出器1121と、X線管1112から照射されたX線を検出するX線検出器1122とを備える。そして、スキャン機能144aは、例えば、X線管1111から「High kVp」のX線を照射させ、X線管1112から「Low kVp」のX線を照射させることにより、「High kVp」に対応する投影データと「Low kVp」に対応する投影データとを含む投影データセットを収集する。
【0138】
そして、処理機能144bは、収集された投影データセットについて、対向するビューの投影データを用いた補正処理を行なう。なお、デュアルソース方式で収集される投影データセットは、通常、スパースなデータではない。しかしながら、例えばX線管において放電現象が発生した場合等には、デュアルソース方式で収集される投影データセットにも欠損部分が生じる可能性がある。また、デュアルソース方式においては、各撮影系において360°分の収集を行なわないケースもあり、撮影範囲外のビューは欠損部分となる。ここで、X線CTシステム10は、収集された投影データセットにおける投影データの欠損部分を、対向するビューの投影データを用いて補間することができる。更に、X線CTシステム10は、収集された投影データセットにおける補正対象のビューの投影データと、対向するビューの投影データとのブレンドを行なうこともできる。これにより、処理機能144bは、投影データセットについて、時間的な分解能を向上させることができる。ひいては、処理機能144bは、投影データセットに基づく物質弁別の精度を向上させることができる。また、X線管1111が照射するX線とX線管1112が照射するX線とでファン角が異なることにより、X線検出器1121により収集される投影データセットとX線検出器1122により収集される投影データセットとでFOV(Field Of View)のサイズが異なっている場合、処理機能144bは、FOVサイズが大きい方の投影データセットに基づいて他方の投影データセットを補正することにより、物質弁別等において使用するFOVのサイズを大きいまま維持することができる。
【0139】
また、例えば、スキャン機能144aは、kVスイッチング方式に代えて、スプリット方式のデュアルエナジー収集を行なってもよい。この場合、X線CTシステム10は、ウェッジ116として、X線管111から照射されたX線を、エネルギーの異なる複数のX線に分割するフィルタを備える。
【0140】
一例を挙げると、X線CTシステム10は、ウェッジ116として、X線フィルタ116a及びX線フィルタ116bを備える。X線フィルタ116a及びX線フィルタ116bは、材質や厚み等が異なり、同一エネルギーのX線を、エネルギーの異なる複数のX線に分割する。この場合、スキャン機能144aは、X線管111から照射されたX線を、X線フィルタ116aによって「High kVp」まで減衰させ、X線フィルタ116bによって「Low kVp」まで減衰させることができる。より具体的には、スキャン機能144aは、X線フィルタ116a及びX線フィルタ116bを図1に示したZ軸方向(列方向)に並べた状態において、X線フィルタ116a及びX線フィルタ116bに対してX線管111からX線を照射させる。これにより、スキャン機能144aは、列方向に「High kVp」のX線と「Low kVp」のX線とを分布させた状態においてスキャンを実行し、「High kVp」に対応する投影データと「Low kVp」に対応する投影データとを含む投影データセットを収集することができる。
【0141】
別の例を挙げると、X線CTシステム10は、ウェッジ116として、X線フィルタ116cのみを備える。例えば、スキャン機能144aは、X線管111から「High kVp」のX線を照射させるとともに、X線の一部をX線フィルタ116cによって「Low kVp」まで減衰させる。より具体的には、スキャン機能144aは、列方向の所定範囲のX線を、X線フィルタ116bによって「High kVp」から「Low kVp」まで減衰させて、被検体P1に照射させる。なお、X線フィルタ116bによる減衰を受けなかったX線については、「High kVp」のまま被検体P1に照射される。これにより、スキャン機能144aは、列方向に「High kVp」のX線と「Low kVp」のX線とを分布させた状態においてスキャンを実行し、「High kVp」に対応する投影データと「Low kVp」に対応する投影データとを含む投影データセットを収集することができる。
【0142】
そして、処理機能144bは、収集された投影データセットについて、対向するビューの投影データを用いた補正処理を行なう。なお、スプリット方式で収集される投影データセットは、通常、スパースなデータではない。しかしながら、例えばX線管において放電現象が発生した場合等には、スプリット方式で収集される投影データセットにも欠損部分が生じる可能性がある。ここで、X線CTシステム10は、収集された投影データセットにおける投影データの欠損部分を、対向するビューの投影データを用いて補間することができる。更に、X線CTシステム10は、収集された投影データセットにおける補正対象のビューの投影データと、対向するビューの投影データとのブレンドを行なうこともできる。これにより、処理機能144bは、投影データセットを精度よく補正し、ひいては、投影データセットに基づく物質弁別の精度を向上させることができる。
【0143】
別の例を挙げると、X線CTシステム10は、デュアルエナジー収集として、フォトンカウンティングCTを行なってもよい。この場合、X線CTシステム10は、X線検出器112として、フォトンカウンティング型のX線検出器1123を備える。例えば、X線CTシステム10は、X線検出器1123から出力された電気信号(パルス)の数を計数することで、各検出素子に入射したX線光子の数を計数するとともに、この信号に対して所定の演算処理を行なうことで、当該信号の出力を引き起こしたX線光子のエネルギー値を計測する。これにより、X線CTシステム10は、「High kVp」及び「Low kVp」のそれぞれについての計数値を取得することができる。換言すると、X線CTシステム10は、「High kVp」に対応する投影データと「Low kVp」に対応する投影データとを含む投影データセットを収集することができる。
【0144】
そして、処理機能144bは、収集された投影データセットについて、対向するビューの投影データを用いた補正処理を行なう。なお、フォトンカウンティングCTで収集される投影データセットは、通常、スパースなデータではない。しかしながら、例えばX線管において放電現象が発生した場合等には、フォトンカウンティングCTで収集される投影データセットにも欠損部分が生じる可能性がある。ここで、X線CTシステム10は、収集された投影データセットにおける投影データの欠損部分を、対向するビューの投影データを用いて補間することができる。更に、X線CTシステム10は、収集された投影データセットにおける補正対象のビューの投影データと、対向するビューの投影データとのブレンドを行なうこともできる。これにより、処理機能144bは、投影データセットを精度よく補正し、ひいては、投影データセットに基づく物質弁別の精度を向上させることができる。
【0145】
また、上述した実施形態では、「High kVp」のX線及び「Low kVp」のX線を使用したデュアルエナジーのスキャンについて説明したが、スキャン機能144aは、3種類以上のエネルギーのX線を用いたマルチエナジーのスキャンを実行してもよい。この場合、X線エネルギーの数に応じて、上述したケース1~12の他のケースが追加されるものの、これら追加のケースは、ケース1~12のいずれかと同様に処理できるものである。即ち、上述した補正方法は、3種類以上のエネルギーのX線を用いたマルチエナジーのスキャンが実行される場合についても同様に適用することができる。また、3種類以上のエネルギーのX線を用いたマルチエナジーのスキャンが実行された場合、処理機能144bは、3種類以上の基準物質による物質弁別を行なうことができる。
【0146】
また、これまで、投影データセットの補正処理をX線CTシステム10が実行するものとして説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、補正処理は、X線CTシステム10と異なる他の装置において実行されても構わない。以下、この点について、図12に示す医用情報処理システム1を例として説明する。図12は、第2の実施形態に係る医用情報処理システム1の構成の一例を示すブロック図である。医用情報処理システム1には、X線CTシステム10、及び、物質弁別を実行する医用処理装置20が含まれる。
【0147】
図12に示すように、X線CTシステム10と医用処理装置20とは、ネットワークNWを介して相互に接続される。ここで、ネットワークNWを介して接続可能であれば、X線CTシステム10及び医用処理装置20が設置される場所は任意である。例えば、医用処理装置20は、X線CTシステム10と異なる病院に設置されてもよい。即ち、ネットワークNWは、院内で閉じたローカルネットワークにより構成されてもよいし、インターネットを介したネットワークでもよい。また、図12においてはX線CTシステム10を1つ示すが、医用情報処理システム1は複数のX線CTシステム10を含んでもよい。
【0148】
医用処理装置20は、ワークステーション等のコンピュータ機器によって実現される。例えば、医用処理装置20は、図12に示すように、メモリ21と、ディスプレイ22と、入力インターフェース23と、処理回路24とを有する。
【0149】
メモリ21は、例えば、RAM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。例えば、メモリ21は、X線CTシステム10から送信された各種のデータを記憶する。また、例えば、メモリ21は、医用処理装置20に含まれる回路がその機能を実現するためのプログラムを記憶する。なお、メモリ21は、医用処理装置20とネットワークNWを介して接続されたサーバ群(クラウド)により実現されることとしてもよい。
【0150】
ディスプレイ22は、各種の情報を表示する。例えば、ディスプレイ22は、処理回路24による物質弁別の結果を示す画像を表示したり、ユーザからの各種操作を受け付けるためのGUI等を表示したりする。例えば、ディスプレイ22は、液晶ディスプレイやCRTディスプレイである。ディスプレイ22は、デスクトップ型でもよいし、医用処理装置20本体と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。
【0151】
入力インターフェース23は、ユーザからの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路24に出力する。例えば、入力インターフェース23は、CT画像データを再構成する際の再構成条件や、CT画像データから表示用のCT画像を生成する際の画像処理条件等をユーザから受け付ける。例えば、入力インターフェース23は、マウスやキーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、操作面へ触れることで入力操作を行なうタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、音声入力回路等により実現される。なお、入力インターフェース23は、医用処理装置20本体と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。また、入力インターフェース23は、マウスやキーボード等の物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、医用処理装置20とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路24へ出力する電気信号の処理回路も入力インターフェース23の例に含まれる。
【0152】
処理回路24は、処理機能24a及び制御機能24bを実行することで、医用処理装置20全体の動作を制御する。なお、処理機能24aは、処理部の一例である。処理回路24による処理については後述する。
【0153】
図12に示す医用処理装置20においては、各処理機能がコンピュータによって実行可能なプログラムの形態でメモリ21へ記憶されている。処理回路24は、メモリ21からプログラムを読み出して実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、プログラムを読み出した状態の処理回路24は、読み出したプログラムに対応する機能を有することとなる。
【0154】
なお、図12においては単一の処理回路24にて、処理機能24a及び制御機能24bが実現するものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路24を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。また、処理回路24が有する各処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。
【0155】
また、処理回路24は、ネットワークNWを介して接続された外部装置のプロセッサを利用して、機能を実現することとしてもよい。例えば、処理回路24は、メモリ21から各機能に対応するプログラムを読み出して実行するとともに、医用処理装置20とネットワークNWを介して接続されたサーバ群(クラウド)を計算資源として利用することにより、図12に示す各機能を実現する。
【0156】
例えば、まず、X線CTシステム10におけるスキャン機能144aは、X線の焦点位置を被検体P1の周囲で回転させながら被検体P1に対してX線を照射し、「High kVp」に対応する投影データ及び「Low kVp」に対応する投影データを少なくとも含む投影データセットを収集する。また、制御機能144cは、収集された投影データセットを、ネットワークNWを介して医用処理装置20に送信する。
【0157】
次に、医用処理装置20における処理機能24aは、X線CTシステム10から送信された投影データセットについて、対向するビューの投影データを用いた補正処理を行なう。例えば、kVスイッチング方式で投影データセットが収集されていた場合、処理機能24aは、まず、投影データセットから、「High kVp」に対応する投影データセットと「Low kVp」に対応する投影データセットとを分離し、分離した投影データセットのそれぞれについて、対向するビューの投影データを用いた補正処理を行なう。一例を挙げると、処理機能24aは、「High kVp」に対応する投影データセット又は「Low kVp」に対応する投影データセットにおける補正対象のビューの投影データと、対向するビューの投影データとのブレンドを行なう。別の例を挙げると、処理機能24aは、「High kVp」に対応する投影データセット又は「Low kVp」に対応する投影データセットにおける投影データの欠損部分を、対向するビューの投影データを用いて補間する。
【0158】
そして、処理機能24aは、補正後の投影データセットに基づいて物質弁別を行ない、制御機能24bは、処理機能24aによる物質弁別の結果を示す画像をディスプレイ22に表示させる。或いは、制御機能24bは、物質弁別の結果を示す画像をX線CTシステム10に送信する。この場合、X線CTシステム10における制御機能144cは、物質弁別の結果を示す画像をディスプレイ142に表示させる。
【0159】
或いは、制御機能24bは、処理機能24aによる補正後の投影データセットをX線CTシステム10に送信する。この場合、処理機能144bは、補正後の投影データセットに基づいて物質弁別を行ない、制御機能144cは、物質弁別の結果を示す画像をディスプレイ142に表示させる。
【0160】
また、これまで、第1のX線エネルギーが「High kVp」であり、第2のX線エネルギーが「Low kVp」である場合について説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。即ち、第1のX線エネルギーが「Low kVp」であり、第2のX線エネルギーが「High kVp」であっても構わない。
【0161】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、あるいは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサはメモリ141又はメモリ21に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。
【0162】
なお、図1においては、単一のメモリ141が処理回路144の各処理機能に対応するプログラムを記憶するものとして説明した。また、図12においては、単一のメモリ21が処理回路24の各処理機能に対応するプログラムを記憶するものとして説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、複数のメモリ141を分散して配置し、処理回路144は、個別のメモリ141から対応するプログラムを読み出す構成としても構わない。同様に、複数のメモリ21を分散して配置し、処理回路24は、個別のメモリ21から対応するプログラムを読み出す構成としても構わない。また、メモリ141又はメモリ21にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。
【0163】
上述した実施形態に係る各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。即ち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。更に、各装置にて行われる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現されうる。
【0164】
また、上述した実施形態で説明した処理方法は、予め用意された処理プログラムをパーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することによって実現することができる。この処理プログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、この処理プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO、DVD等のコンピュータで読み取り可能な非一過性の記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
【0165】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、物質弁別の精度を向上させることができる。
【0166】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0167】
1 医用情報処理システム
10 X線CTシステム
140 コンソール装置
144 処理回路
144a スキャン機能
144b 処理機能
144c 制御機能
20 医用処理装置
24 処理回路
24a 処理機能
24b 制御機能
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12