(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】吊荷の旋回制御補助装置及びその方法
(51)【国際特許分類】
B66C 13/08 20060101AFI20230925BHJP
B66C 1/34 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
B66C13/08 L
B66C1/34 D
(21)【出願番号】P 2019192739
(22)【出願日】2019-10-23
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】509328928
【氏名又は名称】株式会社日立プラントコンストラクション
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】和田 政臣
(72)【発明者】
【氏名】森 敬仁
(72)【発明者】
【氏名】横川 穣
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 卓行
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-111570(JP,A)
【文献】特開平06-080383(JP,A)
【文献】特開平10-007378(JP,A)
【文献】実開平06-025276(JP,U)
【文献】実開昭50-012470(JP,U)
【文献】特開2019-151470(JP,A)
【文献】特開平06-156970(JP,A)
【文献】米国特許第05871249(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00-3/20;
13/00-15/06
G01C 19/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊上げた吊荷を旋回させる旋回手段と、前記吊荷の旋回時に作用する反力をジャイロ効果でキャンセルする旋回制御手段を備え、
前記旋回制御手段は、高速回転するフライホイールと、前記フライホイールを回転自在に支持するジンバルを有し、前記フライホイールが釣り合う基本位置から所定角度に傾斜可能とし、前記ジャイロ効果により前記基本位置に戻ろうとする力を補助する第1補助手段
と、旋回軸回りに沿って正又は逆回転方向に送風して前記ジャイロ効果により前記基本位置に戻ろうとする力を補助する第2補助手段を有
し、
前記第2補助手段は、
前記旋回制御手段の旋回軸回りを正又は逆回転方向に切り替えて送風可能な送風ファンと、
前記ジンバルの傾斜角を検出する傾斜センサと、
前記吊荷が地面に対して垂直をなす軸回りの角速度を検出する角速度センサと、
前記傾斜センサ及び角速度センサの検出値に基づいて前記フライホイールが所定角度傾斜したときに前記吊荷の回転を戻す方向に前記送風ファンで送風する制御を行う制御部を備えたことを特徴とする吊荷の旋回制御補助装置。
【請求項2】
請求項1に記載された吊荷の旋回制御補助装置であって、
前記第1補助手段は、
一端が前記ジンバルを回転自在に支持するジンバルサポートに接続し、他端が前記ジンバルの回転軸より上側に接続する第1引張コイルばねと、一端が前記ジンバルを回転自在に支持するジンバルサポートに接続し、他端が前記ジンバルの回転軸より下側に接続する第2引張コイルばねであることを特徴とする吊荷の旋回制御補助装置。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載された吊荷の旋回制御補助装置であって、
前記旋回手段は、前記吊荷を吊り上げるダブルフックを備え、
前記ダブルフックと係止する係止ピンを中心に備え、前記中心を通る水平面に沿って直線方向に延出する天秤を有することを特徴とする吊荷の旋回制御補助装置。
【請求項4】
吊上げた吊荷を旋回手段で旋回させる工程と、
前記吊荷の旋回時に作用する反力をジャイロ効果でキャンセルする旋回制御を行う工程と、
前記旋回制御を行う工程のとき、高速回転するフライホイールが釣り合う基本位置から所定角度に傾斜して前記ジャイロ効果により前記基本位置に戻ろうとする力を補助する工程を有
し、
前記補助する工程は、一端が前記フライホイールを回転自在に支持するジンバルに接続し、他端が前記ジンバルを回転自在に支持するジンバルサポートに接続する引張コイルばねの伸縮運動と、
傾斜センサで前記ジンバルの傾斜角を検出する工程と、
角速度センサで前記吊荷が地面に対して垂直をなす軸回りの角速度を検出する工程と、
前記傾斜センサ及び角速度センサの検出値に基づいて前記フライホイールが所定角度傾斜したときに前記吊荷の回転を戻す方向に送風ファンで旋回軸回りに沿って正又は逆回転方向に送風することを特徴とする吊荷の旋回制御補助方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン等で吊り上げた吊荷を旋回する旋回手段を備えた吊荷の旋回制御装置のジャイロをリセット位置に戻すことを補助する手段を有する吊荷の旋回制御補助装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吊搬作業において、例えば吊荷下の干渉物を回避するために吊荷を旋回させる動作が必要となる。本発明者らは、クレーンロープの捩じれによる吊荷回転を抑制すると共に、吊荷を自動旋回させる装置を開発した(特許文献1)。
図11は吊荷旋回制御装置の説明図である。
図12は旋回制御手段の説明図であり、(1)は側面図(高速回転モータ側)、(2)は正面図である。この吊荷旋回制御装置1は、シーブブロック(滑車)型のクレーンフック2を対象とし、吊荷3と、吊荷3の吊上げ手段(クレーン等)の間に、吊荷3を旋回する旋回手段4と、旋回制御手段5を備えている。吊荷3は旋回手段4によって任意の位置に旋回させることができる。このとき、旋回制御手段5によって旋回時の装置1自体にかかる反力をキャンセルして、なおかつ風等の外乱によって生じる吊荷3の旋回を抑制している。
【0003】
より具体的な旋回制御手段5の構成は、フライホイール6の回転軸上の一方に高速回転モータ7を取り付け、他方にモータ7と同質量のカウンタウェイト8を取り付けている。フライホイール6の両側面はジンバル9構造で、ベアリングによって(回転軸9bで)両持ち支持してx軸回りに自由回転できる構造になっている。フライホイール6の基本位置は、回転面がz軸とx軸が成す平面と平行(垂直方向)に釣り合っている。そしてフライホイール6は、x軸と直交するz軸を0°としたときに±45°の範囲内でx軸回りを回転するようにジンバル9にストッパ9aを取り付けている。
これによりフライホイール6が上記範囲より傾斜してジャイロ効果が減少することを防止できるが、フライホイール6の可動範囲が限定されること、及びフライホイール6をもとのリセット位置(0°;垂直線上)に戻すまでに時間を要する問題があった。
【0004】
これに対し特許文献2に開示の装置は、ワイヤにより水平な姿勢で吊り下げられる吊り治具にジャイロスコープと、ジンバルの回転軸の回転位置を検出可能な回転位置検出センサを搭載し、そのジャイロ効果を利用して吊り治具の水平旋回力を得ている。また、ジンバル回転軸の検出センサでフライホイールの傾きを検出し、空気の噴射に伴う反作用によるジンバルの回転位置をオフセットする技術を開示しているが、フライホイールをリセットする時間を要するため、短時間にオフセットする技術が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5824206号公報
【文献】特許第3113209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点に鑑み、吊荷の旋回手段を備えた旋回制御装置に掛かる外力に対して応答性良く継続的に旋回動作を行える吊荷の旋回制御補助装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための第1の手段として、吊上げた吊荷を旋回させる旋回手段と、前記吊荷の旋回時に作用する反力をジャイロ効果でキャンセルする旋回制御手段を備え、
前記旋回制御手段は、高速回転するフライホイールと、前記フライホイールを回転自在に支持するジンバルを有し、前記フライホイールが釣り合う基本位置から所定角度に傾斜可能とし、前記ジャイロ効果により前記基本位置に戻ろうとする力を補助する第1補助手段と、旋回軸回りに沿って正又は逆回転方向に送風して前記ジャイロ効果により前記基本位置に戻ろうとする力を補助する第2補助手段を有し、
前記第2補助手段は、
前記旋回制御手段の旋回軸回りを正又は逆回転方向に切り替えて送風可能な送風ファンと、
前記ジンバルの傾斜角を検出する傾斜センサと、
前記吊荷が地面に対して垂直をなす軸回りの角速度を検出する角速度センサと、
前記傾斜センサ及び角速度センサの検出値に基づいて前記フライホイールが所定角度傾斜したときに前記吊荷の回転を戻す方向に前記送風ファンで送風する制御を行う制御部を備えたことを特徴とする吊荷の旋回制御補助装置を提供することにある。
上記第1の手段によれば、吊荷の旋回手段を備えた旋回制御装置に外力が作用しても旋回反力を打ち消すジャイロ効果の迅速な復元が可能となり応答性の良い旋回動作が行える。
また、吊荷の旋回手段を備えた旋回制御装置に風などの外的要因が連続的に作用してもフライホイールの傾斜角度に基づいて反力を打ち消す方向へ装置を旋回軸回りで容易に回転でき、応答性良く継続的な旋回動作が行える。また角速度センサは、吊荷が地面に対して垂直をなす軸回りの角速度を検出可能とし、装置と一体となった吊荷の揺れを検知し、角速度が0となるようにファン駆動を制御することにより吊荷の揺れを停止させることができる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための第2の手段として、第1の手段において、前記第1補助手段は、一端が前記ジンバルを回転自在に支持するジンバルサポートに接続し、他端が前記ジンバルの回転軸より上側に接続する第1引張コイルばねと、一端が前記ジンバルを回転自在に支持するジンバルサポートに接続し、他端が前記ジンバルの回転軸より下側に接続する第2引張コイルばねであることを特徴とする吊荷の旋回制御補助装置を提供することにある。
上記第2の手段によれば、フライホイールを基本位置に戻す際に、引張コイルばねの伸縮力によりフライホイールのリセットを補助することができる。従って、応答性良く短時間でジャイロ効果を復元させることができる。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するための第5の手段として、第1ないし第4のいずれか1の手段において、前記旋回手段は、前記吊荷を吊り上げるダブルフックを備え、
前記ダブルフックと係止する係止ピンを中心に備え、前記中心を通る水平面に沿って直線方向に延出する天秤を有することを特徴とする吊荷の旋回制御補助装置を提供することにある。
上記第5の手段によれば、旋回手段のフック下のねじり剛性を高めて、旋回時にフックと吊荷を同期させることができる。また旋回停止時に荷振れすることがなく、任意位置に停止させることができる。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するための第4の手段として、吊上げた吊荷を旋回手段で旋回させる工程と、
前記吊荷の旋回時に作用する反力をジャイロ効果でキャンセルする旋回制御を行う工程と、
前記旋回制御を行う工程のとき、高速回転するフライホイールが釣り合う基本位置から所定角度に傾斜して前記ジャイロ効果により前記基本位置に戻ろうとする力を補助する工程を有し、
前記補助する工程は、一端が前記フライホイールを回転自在に支持するジンバルに接続し、他端が前記ジンバルを回転自在に支持するジンバルサポートに接続する引張コイルばねの伸縮運動と、
傾斜センサで前記ジンバルの傾斜角を検出する工程と、
角速度センサで前記吊荷が地面に対して垂直をなす軸回りの角速度を検出する工程と、
前記傾斜センサ及び角速度センサの検出値に基づいて前記フライホイールが所定角度傾斜したときに前記吊荷の回転を戻す方向に送風ファンで旋回軸回りに沿って正又は逆回転方向に送風することを特徴とする吊荷の旋回制御補助方法を提供することにある。
上記第4の手段によれば、吊荷の旋回手段を備えた旋回制御装置に外力が連続的に作用しても反力を打ち消すジャイロ効果を復元して、応答性良く継続的な旋回動作が行える。
また吊荷の旋回手段を備えた旋回制御装置に外力が連続的に作用し、または風などの外的要因が連続的に作用しても反力を打ち消す方向へ装置を旋回軸回りに容易に回転でき、継続的な旋回動作が行える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、吊り上げた吊荷に外力が作用しても応答性良く継続的に吊荷の旋回動作を行える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の吊荷の旋回制御補助装置の説明図である。
【
図6】本発明の吊荷の旋回制御補助方法の処理フロー図である。
【
図7】吊荷が地面に対して垂直をなす軸回りの吊荷旋回速度と時間の関係を示すグラフである。
【
図8】ジンバルの傾斜角度と時間の関係を示すグラフである。
【
図9】ジンバルの傾斜角速度と時間の関係を示すグラフである。
【
図10】旋回軸角度と時間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の吊荷の旋回制御補助装置及びその方法の実施形態について、図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
[吊荷の旋回制御補助装置10]
図1は、本発明の吊荷の旋回制御補助装置の構成概略図である(第1補助手段20は省略)。
図2は第1補助手段の説明図であり、(1)は正面図、(2)は(1)のA-A矢視図である。本発明の吊荷の旋回制御補助装置10は、クレーン等の吊上げ手段のシーブブロック(滑車)型のクレーンフック2で吊り上げる吊荷の旋回制御手段5に取り付けて、吊荷3の旋回制御を補助するものである。
旋回制御補助装置10は、第1及び第2補助手段20,40を有している。また装置の駆動源となる発電機12を有している。
【0018】
[第1補助手段20]
図2に示すように第1補助手段20は、旋回制御手段5のジンバルに取り付けた引張コイルばねである。
ここで旋回制御装手段5は主面を水平面に沿って配置したベース30と、ベース30から垂直方向に延出するジンバルサポート32を有し、フライホイール6を回転自在に支持するジンバル9は、ベース30上の一対のジンバルサポート32に回転軸9bが軸支されている。
【0019】
より具体的な第1補助手段20の構成は、ばねの一端がジンバル9を回転自在に支持するジンバルサポート32(のジンバル9の回転軸9bを通る水平線yよりも上側)に接続し、他端がジンバルサポート32から突出した箇所で軸心と直交する方向に延出してジンバル9と一体的に軸回りを回転可能な支持プレート34の上側(回転軸9bよりも上側)に接続する第1引張コイルばね22と、一端がジンバル9を回転自在に支持するジンバルサポート32(のジンバル9の回転軸9bを通る水平線yよりも下側)に接続し、他端がジンバルサポート32の下側(回転軸9bよりも下側)に接続する第2引張コイルばね24である。
このような構成の第1補助手段20は、高速回転するフライホイール6が基本位置であるx軸(ジンバル9の回転軸9bの軸線と同軸)線上の基本位置にあるとき(x軸を通る垂直面)、中立位置(引っ張り荷重がかかっていない状態)にある。
そしてフライホイール6が-Y方向へ傾いたとき第1補助手段20が伸長する。そして第1補助手段20の縮小する方向の引っ張り力が作用してフライホイール6が基本位置に戻ろうとする力を補助できる。
またフライホイール6が+Y方向へ傾いたとき第2補助手段40が伸長する。そして第2補助手段40の縮小する方向の引っ張り力が作用してフライホイール6が基本位置に戻ろうとする力を補助できる。
【0020】
[第2補助手段40]
図1に示すように第2補助手段40は旋回制御手段5の旋回軸回りを正又は逆回転方向に切り替えて送風可能な送風ファン42及びダクト45と、ジンバル9の傾斜角を検出する傾斜センサ41と、旋回軸の角速度を検出する角速度センサ44と、傾斜センサ41及び角速度センサ44の検出値に基づいてフライホイール6が所定角度傾斜したときに風などの外力をキャンセルする方向に送風ファン42で送風する制御を行う制御部46を有している。
図4は送風ファンの説明図であり、(1)は斜視図、(2)及び(3)は上面の断面図である。
送風ファン42は、旋回制御手段5の旋回軸心から所定距離離れた箇所、本実施形態では、一例として旋回軸から水平方向に延出するフレーム43の両端に取り付けている。
送風ファン42は、旋回軸と直交する水平面上で直径方向に送風可能としフレーム43に固定している。送風ファン42の排気口はダクト45に接続している。ダクト45はフレーム43の両端に配置し、旋回軸回りの接線方向に排気可能な配管である。ダクト45は筒状とし、内部中心に電動駆動の仕切板47を備え配管の両端のいずれか一方に切り替えて排気可能としている。このような構成の送風ファン42は、
図4(2)に示すような仕切板47の切り替えによって時計回りに旋回できる。また仕切板47を
図4(2)の逆に切り替えることにより半時計回りに旋回できる(
図4(3)参照)。
【0021】
図5は変形例の送風ファンの説明図である。図示のように変形例の送風ファンは、ダクト45の両端に着脱可能なエアノズル48を取り付けている。エアノズル48の先端は先細り状に形成し、ノズルの軸心をダクト45の軸心と交差させて斜め上方に排気させている。
傾斜センサ41は、ジンバル9の傾斜角を検出可能なジャイロセンサである。本実施形態の傾斜センサ41は、ジンバル9の回転軸9b回りに内蔵している。
角速度センサ44は、吊荷が地面に対して垂直をなす軸回りの角速度を検出可能なジャイロセンサである。本実施形態のジャイロセンサは、旋回手段4の旋回軸回りに内蔵している。
制御部46は、送風ファン42と傾斜センサ41と角速度センサ44と電気的に接続して、傾斜センサ41及び角速度センサ44の検出値に基づいてフライホイール6が所定角度傾斜したときに反力をキャンセルする方向に送風ファン42で送風する制御を行う。
このような構成の第2補助手段40は、風などの外的要因が継続した場合に特に有効となる。
【0022】
[天秤50]
図3は天秤の説明図である。旋回手段4は、吊荷3を吊り上げるダブルフック52を備えている。図示のように天秤50は、ダブルフック52と係止する係止ピン54を中心に備え、旋回軸心と直交する水平面に沿って直線方向に延出している。天秤50の両端には吊フック56を備えている。
このような構成の天秤50は、旋回手段4のダブルフック52と係止する係止ピン54により、ダブルフック52と一体的に、かつ同期して旋回軸回りを旋回できる。また旋回軸を中心として所定長さ直線方向に延出させたことにより、旋回軸心と吊フック56が所定距離離れる位置関係にあり、旋回時の捩じり剛性が大きくなる。従って、旋回時にフックと吊荷を同期させることができ、旋回停止時に荷振れすることがなく、任意位置に停止させることができる。
【0023】
[吊荷の旋回制御補助方法]
上記構成による本発明の吊荷の旋回制御補助装置10を用いた旋回制御補助方法について、以下説明する。
図6は本発明の吊荷の旋回制御補助方法の処理フロー図である。
図6は傾斜センサ41(ジャイロセンサ)を用いた吊荷3の旋回制御補助方法である。
吊上げ手段により吊上げた吊荷を旋回手段4により旋回させる(ステップ1)。
吊荷3の旋回時に、吊荷3の旋回方向と逆方向に反力が発生する。旋回制御手段5のジャイロ効果で反力をキャンセルする旋回制御が行われる(ステップ2)。また、第1補助手段20により、フライホイール6が基本位置に戻ろうとするのを引張コイルばねの伸縮力により補助することができる。従って、応答性良くジャイロ効果を復元させることができる。
【0024】
ジンバル9の傾斜角が所定角度α(例えば10°)であるか否かを判定する(ステップ3)。本実施形態では傾斜センサ41でジンバル9の傾斜角を検出して、検出値が傾斜角の所定角度αよりも大きいか否か判定している。
ジンバル9の傾斜角が所定角度α[deg]に達していない場合(NO)、第2補助手段40の送風ファン42による送風の停止状態を保持する(ステップ4)。
旋回制御手段5によるジャイロモーメント及び第1補助手段によるジャイロモーメントを補助する力で反力を抑制する(ステップ5)。
ジンバル9の傾斜角が所定角度αに達した場合(YES)、吊荷と装置が一体となって揺れていると認識し、例えば、連続した風などの外的要因により、旋回制御手段5では抑制できなくなるなどの場合、第2補助手段40の送風ファン42を起動させる。(ステップ6)。このように本実施形態の傾斜センサ41は第2補助手段40を起動させるトリガーとなる。
【0025】
外乱と反対方向の風モーメントで連続的な外乱を抑制する(ステップ7)。
旋回軸角速度が±β(例えば0.1)[deg/s]以内であるか否かの判定を行う(ステップ8)。本実施形態では角速度センサ44で吊荷が地面に対して垂直をなす軸回りの角速度を検出して、検出値が角速度±β以内であるか否か判定している。
旋回軸角速度が±β[deg/s]以内に達していない場合(NO)、ステップ6に戻って、第2補助手段40による風モーメントで連続的な外乱を抑制する。
旋回軸角速度が±β[deg/s]以内に達した場合(YES)、第2補助手段40の送風ファン42を停止する(ステップ9)。これにより吊荷の揺れを停止させることができる。このように本実施形態の角速度センサ44は第2補助手段40を停止させるトリガーとなる。
その後、旋回動作が終了する。
【0026】
[実験結果]
(吊荷を約100°旋回させたときの停止精度)
図7は吊荷が地面に対して垂直をなす軸回りの吊荷旋回速度と時間の関係を示すグラフであり、縦軸は吊荷旋回角度(°)、横軸は時間(秒)を示している。
同図中の実線Aは旋回制御手段のない装置、二点鎖線Bは旋回制御手段を有する装置、一点鎖線Cは旋回制御手段及び第1補助手段を有する装置をそれぞれ示している。
旋回制御手段のない(非旋回制御)装置(実線A)は、旋回反力がクレーンのフック部の摩擦しかないため100°に至るまでの時間が二点鎖線B及び一点鎖線Cと比較して遅れている。旋回制御手段を備えた装置(二点鎖線B)は、100°旋回して停止できる。このとき、吊荷の停止後の慣性力をジャイロによってキャンセルできるので高精度の制御が可能となる。また旋回制御手段及び第1補助手段を備えた装置(一点鎖線C)は、旋回制御手段を備えた装置と同様の精度で吊荷を停止することができ、第1補助手段を備えたことによる時間的な遅れは少ない。すなわちジャイロをばねで拘束することによる悪影響な見られない。
【0027】
(吊荷を約100°旋回させたときのジャイロの傾斜角度、傾斜角速度を比較)
図8はジンバル(フライホイール又はジャイロ)の傾斜角度と時間の関係を示すグラフであり、縦軸は吊荷旋回角度(°)、横軸は時間(秒)を示している。
同図中の二点鎖線Bは旋回制御手段を有する装置、一点鎖線Cは旋回制御手段及び第1補助手段を有する装置をそれぞれ示している。
旋回制御手段を備えた装置(二点鎖線B)は、吊荷停止後(20秒付近)でジャイロ効果により傾斜角度が0°に戻るときに振動している(20秒~80秒)。
旋回制御手段及び第1補助手段を備えた装置(一点鎖線C)は、傾斜角度が0°になった後、第1補助手段のバネの伸縮力により振動が収まっている(25秒~80秒)。
図9はジンバルの傾斜角速度と時間の関係を示すグラフであり、縦軸はジンバル傾斜角速度(deg/s)、横軸は時間(秒)を示している。
第1補助手段の有無に関わらず、傾斜角速度がほとんど変わらない同等のジャイロモーメントが発生しており、第1補助手段によるパワーの減少は見られない(30秒未満)。
【0028】
(風速25m/s相当で押したときの吊荷の振れ止め性能)
図10は旋回軸角度と時間の関係を示すグラフであり、縦軸は吊荷旋回角度(°)、横軸は時間(秒)を示しており、同図中の実線Dは第2補助手段のない装置、一点鎖線Eは第2補助手段を有する装置をそれぞれ示している。
第2補助手段のない装置(実線D)は、吊荷が地面に対して垂直をなす軸回りが200°以上回って90秒後に停止している。
第2補助手段を有する装置(一点鎖線E)は、傾斜センサでジャイロの傾きが45°になったことを検出してから第2補助手段を起動し、約15秒後に旋回軸角度20°で停止している。
【0029】
このような本発明の吊荷の旋回制御補助装置及びその方法によれば、吊り上げた吊荷に外力が作用しても応答性良く継続的に吊荷の旋回動作を行える。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明した。しかしながら、本発明は、上記実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能である。
また、本発明は、実施形態において示された組み合わせに限定されることなく、種々の組み合わせによって実施可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 吊荷旋回制御装置
2 クレーンフック
3 吊荷
4 旋回手段
5 旋回制御手段
6 フライホイール
7 モータ
8 カウンタウェイト
9 ジンバル
9a ストッパ
9b 回転軸
10 吊荷の旋回制御補助装置
12 発電機
20 第1補助手段
22 第1引張コイルばね
24 第2引張コイルばね
30 ベース
32 ジンバルサポート
34 支持プレート
40 第2補助手段
41 傾斜センサ
42 送風ファン
43 フレーム
44 角速度センサ
45 ダクト
46 制御部
47 仕切板
48 エアノズル
50 天秤
52 ダブルフック
54 係止ピン
56 吊フック