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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】分析装置及び分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20230925BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20230925BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20230925BHJP
   G01N 33/2025 20190101ALI20230925BHJP
【FI】
G01N1/22 U
G01N30/06 G
G01N30/88 G
G01N33/2025
G01N1/22 L
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019211615
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021081388
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149216
【弁理士】
【氏名又は名称】浅津 治司
(74)【代理人】
【識別番号】100158610
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 新吾
(74)【代理人】
【識別番号】100121120
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 尚
(72)【発明者】
【氏名】田中 克之
(72)【発明者】
【氏名】翁長 一夫
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-187441(JP,A)
【文献】国際公開第2006/137448(WO,A1)
【文献】特開2006-329954(JP,A)
【文献】特開2005-207769(JP,A)
【文献】特開2017-044692(JP,A)
【文献】特開昭53-101488(JP,A)
【文献】特開2001-221723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/22
G01N 30/06
G01N 30/88
G01N 33/2025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルである金属片を収容する炉心管を含み、前記炉心管及び前記金属片を、0℃以下の第1温度から100℃以上の第2温度まで昇温して前記金属片から分析対象成分を脱離させる炉と、
前記炉心管から運ばれてくる前記分析対象成分を分離する分離カラム及び、前記分離カラムで分離された前記分析対象成分を検出する半導体ガスセンサを有するガスクロマトグラフと、
前記第1温度から前記第2温度まで前記炉心管及び前記金属片を所定の昇温速度で昇温するように前記炉を制御するコントローラと、を備え、
前記炉は、前記炉心管を加熱する第1ヒータ及び、前記炉心管を冷却する冷却流体が流れる冷却管を含み、
前記炉心管の中の少なくとも前記金属片の収容領域が、前記冷却管の中に位置するように前記炉心管が設置された、分析装置。
【請求項2】
記炉心管は、前記第1ヒータの伝導熱で実質的に加熱されずに前記第1ヒータの輻射熱により加熱されるように設置されている、
請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記冷却管が、前記冷却流体の一部を前記冷却管から漏洩させるための隙間を前記炉心管との間に有する、
請求項1または請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
液体状の物質を気化して前記冷却流体を発生させるために前記物質を加熱する第2ヒータを備え、
前記コントローラは、前記第2ヒータの消費電力を目標温度が高くなるほど小さくしつつ目標温度以上のときの高電力印加と目標温度より小さいときの低電力印加とを切り替える制御をすることにより前記冷却流体の発生量を制御して前記昇温速度を制御する、
請求項2または請求項3に記載の分析装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記冷却流体で前記炉心管が氷点下に冷却されている期間においても、前記炉心管が目標温度になるようにPID制御しながら前記炉心管と前記金属片を前記第1ヒータで加熱しつつ前記昇温速度を制御する、
請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
前記第2ヒータが内部に配置され、前記冷却管に接続され、前記冷却流体を貯留している断熱性容器と、
キャスターを有し、前記断熱性容器、前記炉、前記ガスクロマトグラフ及び前記コントローラを収納する架台と
を備える、
請求項4または請求項5に記載の分析装置。
【請求項7】
前記炉は、大気圧下で前記金属片から前記分析対象成分を脱離させる、
請求項1から6のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項8】
前記金属片が鉄、鉄合金、軽金属または軽金属合金であり、
前記分析対象成分が水素ガスであり、
前記炉心管が石英ガラスからなり、
前記第1温度が-150℃以上-80℃以下の範囲内で設定され、前記第2温度が200℃以上600℃以下の範囲内で設定されている、
請求項1から7のいずれか一項に記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の分析を行うための分析装置及び分析方法に関し、特に、0℃以下の低温から100℃以上の高温まで金属片を昇温して金属片から脱離するガスを分析する分析装置及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1(特許第5405218号公報)に記載されているように、昇温脱離ガス分析法、昇温脱離法またはTDS(Thermal Desorption Spectroscopy)などと呼ばれる分析方法が従来から知られている。従来のTDSには、大気圧よりも気圧が低い減圧下で試料を加熱し、試料から脱離するガスを測定し、ガスの脱離速度と試料温度の関係(TDSスペクトル)を求め、試料に関する様々な情報を得ようとする分析方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5405218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、昇温脱離ガス分析法を用いて金属の分析をする場合、減圧下(真空中)で金属から微量のガスを発生させ、特許文献1のような質量分析計を用いて分析している。しかし、金属から微量のガスを減圧下(真空中)で発生させて分析する質量分析計が大掛かりな装置となるため、特許文献1に記載されている分析装置は非常に大きなものとなる。特に、試料を冷却した後に昇温させる場合には、分析装置の大型化が顕著になる。また、試料から発生する極めて微量なガスの検出を行う必要があるため、分析装置が高価なものとなる。さらには、特許文献1のような分析方法では、真空中で金属の分析を行うための前処理を金属に施すことが必要になり、前処理で金属から微量のガスが脱離して感度が低下したり、前処理の段階で金属に付着する異物で感度が低下したりするといった取り扱いの難しさがある。
【0005】
本発明の課題は、金属のサンプルを冷却した後に昇温して昇温中にサンプルから脱離するガスを用いてサンプルの分析を行う分析方法を簡素化して取り扱い易くし、前述の分析を行うための分析装置を安価に且つ小型にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明の一見地に係る分析装置は、炉とガスクロマトグラフとコントローラとを備える。炉は、サンプルである金属片を収容する炉心管を含み、炉心管及び金属片を0℃以下の第1温度から100℃以上の第2温度まで昇温して金属片から分析対象成分を脱離させる。ガスクロマトグラフは、炉心管から運ばれてくる分析対象成分を分離する分離カラム及び、分離カラムで分離された分析対象成分を検出する半導体ガスセンサを有する。コントローラは、第1温度から第2温度まで炉心管及び金属片を所定の昇温速度で昇温するように炉を制御する。
このように構成されている分析装置では、0℃以下の第1温度から0℃までの氷点下で脱離する極めて微量の分析対象成分をガスクロマトグラフの分離カラムで分離して半導体ガスセンサで検出できる。そのため、氷点下で金属片から脱離する極めて微量の分析対象成分を分析する分析装置が、炉と、分離カラム及び半導体ガスセンサを有するガスクロマトグラフと、コントローラで安価に且つコンパクトに構成できる。
【0007】
分析装置は、炉が、炉心管を加熱する第1ヒータ及び、炉心管を冷却する冷却流体が流れる冷却管を含み、炉心管の中の少なくとも金属片の収容領域が、冷却管の中に位置するように炉心管が設置され、炉心管が、第1ヒータの伝導熱で実質的に加熱されずに第1ヒータの輻射熱により加熱されるように設置されている、ように構成することもできる。
このように構成されている分析装置では、炉心管から熱伝導で逃げる熱量を少なくできるので、炉心管を0℃以下の第1温度まで冷却するのに要する時間が短縮される。また、分析装置では、炉心管を0℃以下の第1温度まで冷却するのに要する冷却流体の量が削減される。
【0008】
分析装置は、冷却管が、冷却流体の一部を冷却管から漏洩させるための隙間を炉心管との間に有する、ように構成することもできる。
このように構成されている分析装置は、漏洩した冷気が冷却管の外周を覆うことで冷却管への結露を防ぎ、炉心管の冷却効率を良くすることができる。また、炉心管が冷却管により炉壁から遮断されているために、その熱伝導の影響を低減することができる。
【0009】
分析装置は、液体状の物質を気化して冷却流体を発生させるために物質を加熱する第2ヒータを備え、コントローラが、第2ヒータの消費電力を目標温度が高くなるほど小さくしつつ目標温度以上のときの高電力印加と目標温度より小さいときの低電力印加とを切り替える制御をすることにより冷却流体の発生量を制御して昇温速度を制御する、ように構成することもできる。
このように構成されている分析装置では、所定の昇温速度で昇温する際のハンチングが小さくなり、目標温度と実際の炉心管の温度との間の乖離が小さくなる。
【0010】
分析装置は、コントローラは、冷却流体で炉心管が氷点下に冷却されている期間においても、炉心管が目標温度になるようにPID制御しながら炉心管と金属片を第1ヒータで加熱しつつ昇温速度を制御する、ように構成することもできる。
このように構成されている分析装置では、冷却から加熱への切換をスムーズに行うことができ、所定の昇温速度で昇温する際のハンチングが小さくなる。
【0011】
分析装置は、第2ヒータが内部に配置され、冷却管に接続され、冷却流体を貯留している断熱性容器と、キャスターを有し、断熱性容器、炉、ガスクロマトグラフ及びコントローラを収納する架台とを備える、ように構成することもできる。
このように構成されている分析装置では、分析装置のために必要なスペースを小さくでき、また分析装置の移動が容易になる。
【0012】
分析装置は、炉が、大気圧下で金属片から分析対象成分を脱離させる、ように構成することもできる。
このように構成されている分析装置では、減圧などに必要な装置を省くことができ、コンパクト化を容易に実現できる。
【0013】
分析装置は、金属片が鉄、鉄合金、軽金属または軽金属合金であり、分析対象成分が水素ガスであり、炉心管が石英ガラスからなり、第1温度が-150℃以上-80℃以下の範囲内で設定され、第2温度が200℃以上600℃以下の範囲内で設定されている、ように構成することもできる。
このように構成されている分析装置では、鉄、鉄合金、軽金属または軽金属合金の金属片に含まれる水素が-80℃から200℃で脱離する状態を分析でき、鉄、鉄合金、軽金属または軽金属合金の水素脆化の分析が容易になる。
【0014】
本発明の一見地に係る分析方法では、サンプルである金属片を炉の中の炉心管に収容し、炉により炉心管及び金属片を0℃以下の第1温度から100℃以上の第2温度まで所定の昇温速度で昇温して、金属片から分析対象成分を脱離させ、分析対象成分を分離カラムに運び、分離カラムで分離される分析対象成分を半導体ガスセンサで検出する。
このように構成されている分析方法では氷点下で金属片から脱離する極めて微量の分析対象成分を炉心管から分離カラムに運んで分離カラムで分離された分析対象成分を半導体ガスセンサで分析できるので、氷点下で金属片から脱離する極めて微量の分析対象成分の分析が簡素化される。
【0015】
分析方法では、炉心管の中の少なくとも金属片の収容領域が内部に位置する冷却管に冷却流体を流し、炉心管及び金属片を0℃以下の第1温度に冷却し、炉の第1ヒータの伝導熱では実質的に加熱せずに第1ヒータの輻射熱により炉心管を加熱する、ように構成することもできる。
このように構成されている分析方法では、炉心管から熱伝導で逃げる熱量を少なくできるので、炉心管を0℃以下の第1温度まで冷却するのに要する時間が短縮される。また、このような分析方法では、炉心管を0℃以下の第1温度まで冷却するのに要する冷却流体の量が削減される。
【0016】
分析方法では、炉心管と冷却管の間の隙間から冷却流体を漏洩させつつ冷却流体で炉心管を冷却する、ように構成することもできる。
このように構成されている分析方法では、炉心管と冷却管の隙間から漏れる冷却流体により、昇温速度の制御の精度を向上させることができる。
【0017】
分析方法では、液体状の物質を加熱する第2ヒータの消費電力を目標温度が高くなるほど小さくしつつ第2ヒータの目標温度以上のときの高電力印加と目標温度より小さいときの低電力印加とを切り替える制御を行って液体状の物質から冷却流体を発生させて炉心管及び金属片を所定の昇温速度で昇温させる、ように構成することもできる。
このように構成されている分析方法では、所定の昇温速度で昇温する際のハンチングが小さくなり、目標温度と実際の炉心管の温度との間の乖離が小さくなる。
【0018】
分析方法では、冷却流体で炉心管が氷点下に冷却されている期間においても、炉心管が目標温度になるようにPID制御しながら炉心管を第1ヒータにより加熱して昇温速度を制御する、ように構成することもできる。
このように構成されている分析方法では、冷却から加熱への切換をスムーズに行うことができ、所定の昇温速度で昇温する際のハンチングが小さくなる。
【0019】
分析方法は、金属片が鉄、鉄合金、軽金属または軽金属合金であり、分析対象成分が水素ガスであり、炉心管が石英ガラスからなり、第1温度が-150℃以上-80℃以下の範囲内で設定され、第2温度が200℃以上600℃以下の範囲内で設定され、炉は、大気圧下で金属片から水素ガスを脱離させる、ように構成することもできる。
このように構成されている分析方法では、鉄、鉄合金、軽金属または軽金属合金の金属片に含まれる水素が-80℃から200℃で脱離する状態を分析でき、鉄、鉄合金、軽金属または軽金属合金の水素脆化の分析が容易になる。
【0020】
本願発明の他の見地に係る分析装置は、
サンプルである金属片を収容する炉心管を含み、前記炉心管及び前記金属片を、0℃以下の第1温度から100℃以上の第2温度まで昇温して前記金属片から分析対象成分を脱離させる炉と、
前記炉心管から運ばれてくる前記分析対象成分を分離する分離カラム及び、前記分離カラムで分離された前記分析対象成分を検出する半導体ガスセンサを有するガスクロマトグラフと、
前記第1温度から前記第2温度まで前記炉心管及び前記金属片を所定の昇温速度で昇温するように前記炉を制御するコントローラと
を備え、
前記炉心管は、前記金属片から脱離される前記分析対象成分と同じ成分のガスを前記第1温度から前記第2温度までは実質的に脱離しない材料からなる。
【0021】
本願発明の他の見地に係る分析方法は、
サンプルである金属片を炉の中の炉心管に収容し、
前記炉により前記炉心管及び前記金属片を0℃以下の第1温度から100℃以上の第2温度まで所定の昇温速度で昇温して、前記金属片から分析対象成分を脱離させる一方、前記炉心管からは前記分析対象成分と同じ成分のガスを実質的に脱離させず、
前記分析対象成分を分離カラムに運び、
前記分離カラムで分離される前記分析対象成分を半導体ガスセンサで検出する。
このように構成された分析装置または分析方法では、第1温度から第2温度までは炉心管自体が分析対象成分と同じ成分のガスを実質的に発生させないので、第1温度から氷点下で脱離する極めて微量の分析対象成分をガスクロマトグラフの分離カラムで分離して半導体ガスセンサで検出できる。そのため、氷点下で金属片から脱離する極めて微量の分析対象成分を分析する分析装置が、安価に且つコンパクトに構成される。氷点下で金属片から脱離する極めて微量の分析対象成分を分析する分析方法が簡素化される。
【0022】
本願発明の他の見地に係る分析装置は、
サンプルである金属片を収容する炉心管を含み、前記炉心管及び前記金属片を、0℃以下の第1温度から100℃以上の第2温度まで昇温して前記金属片から分析対象成分を脱離させる炉と、
前記炉心管から運ばれてくる前記分析対象成分を分離する分離カラム及び、前記分離カラムで分離された前記分析対象成分を検出する半導体ガスセンサを有するガスクロマトグラフと、
前記第1温度から前記第2温度まで前記炉心管及び前記金属片を所定の昇温速度で昇温するように前記炉を制御するコントローラと
を備え、
前記ガスクロマトグラフは、大気圧の空気をキャリアガスとして、前記分析対象成分を含む一定量のサンプルガスを前記分離カラムに流す検量管を有する。
【0023】
本願発明の他の見地に係る分析方法は、
サンプルである金属片を炉の中の炉心管に収容し、
前記炉により前記炉心管及び前記金属片を0℃以下の第1温度から100℃以上の第2温度まで所定の昇温速度で昇温して、前記金属片から分析対象成分を脱離させ、
前記分析対象成分を含む一定量のサンプルガスを検量管に溜めて空気をキャリアとして前記サンプルガスを分離カラムに運び、
前記分離カラムで分離される前記分析対象成分を半導体ガスセンサで検出する。
このように構成された分析装置または分析方法では、検量管に一定量のサンプルガスを溜めて空気をキャリアとしてサンプルガスを分離カラムに流すことができるので、第1温度から氷点下で脱離する極めて微量の分析対象成分をガスクロマトグラフの分離カラムで分離して半導体ガスセンサで検出できる。そのため、氷点下で金属片から脱離する極めて微量のサンプルガスを分析する分析装置が、安価に且つコンパクトに構成される。氷点下で金属片から脱離する極めて微量の分析対象成分を分析する分析方法が簡素化される。
【0024】
分析装置は、前記金属片が前記炉心管に収納されていない状態で前記第1温度から前記第2温度まで前記炉心管及び前記金属片を所定の昇温速度で昇温したときの分析結果(バックグラウンド)と前記金属片が前記炉心管に収納されている状態で前記第1温度から前記第2温度まで前記炉心管及び前記金属片を所定の昇温速度で昇温したときの分析結果とを比較するコンピュータを備える、ように構成されてもよい。
分析方法は、前記金属片が前記炉心管に収納されていない状態で前記第1温度から前記第2温度まで前記炉心管及び前記金属片を所定の昇温速度で昇温したときの分析結果(バックグラウンド)と前記金属片が前記炉心管に収納されている状態で前記第1温度から前記第2温度まで前記炉心管及び前記金属片を所定の昇温速度で昇温したときの分析結果とを比較する、ように構成されてもよい。
このように構成された分析装置または分析装置は、バックグラウンドの影響を除いて金属片から分離する極めて微量のガス成分を分析することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る分析装置は、金属のサンプルを冷却した後に昇温して昇温中にサンプルから脱離するガスを用いたサンプルの分析を、安価で且つ小型の装置で行うことができる。また、本発明に係る分析方法は、金属のサンプルを冷却した後に昇温して昇温中にサンプルから脱離するガスを用いてサンプルの分析を行う分析方法を簡素化して取り扱い易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態に係る分析装置の構成の概要を説明するための模式的な概念図。
図2】実施形態に係る分析方法の概要を説明するためのフローチャート。
図3】実施形態の分析装置のサンプルの冷却能力を説明するためのグラフ。
図4】実施形態の分析装置による分析結果を説明するためのグラフ。
図5】分析装置の炉の一例を示す模式的な部分拡大断面図。
図6】炉の冷却管の一例を示す模式的な斜視図。
図7】炉の炉心管で発生する分析対象成分を説明するための炉温度と発生水素濃度の関係の一例を示すグラフ。
図8】目標温度と第1ヒータ及び第2ヒータの動作との関係を説明するための図。
図9】ガスクロマトグラフの構成の一例を示す概念図。
図10】ガスクロマトグラフで用いられる半導体ガスセンサの構成の一例を示す概念図。
図11】分析装置の概観の一例を示す模式的な正面図。
図12A】変形例Aの炉心管及び冷却管の一例を示す模式図。
図12B】変形例Bの炉心管及び冷却管の一例を示す模式図。
図12C】変形例Cの炉心管及び冷却管の一例を示す模式図。
図12D】変形例Dの炉心管及び冷却管の一例を示す模式図。
図12E】変形例Eの炉心管及び冷却管の一例を示す模式図。
図12F】変形例Fの炉心管及び冷却管の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(1)分析装置の基本構成
本発明に係る分析装置は、金属のサンプルを冷却した後に所定の昇温速度で昇温して昇温中にサンプルから脱離するガスを用いてサンプルの分析を行う分析装置である。
図1に示されているように、分析装置1は、炉10と、コントローラ40と、ガスクロマトグラフ50とを備えている。
炉10は、サンプルである金属片90を収容する炉心管20を含んでいる。炉10は、0℃以下の第1温度に冷却した後に100℃以上の第2温度まで昇温して金属片90から分析対象成分を脱離させる。
炉10の炉心管20には、サンプリングガスが流されている。分析対象成分は、炉心管20からガスクロマトグラフ50の分離カラム51(図9参照)に運ばれる分離カラム51によって分離される。分離カラム51で分離された分析対象成分は、半導体ガスセンサ52(図9参照)により検出される。サンプリングガスには、例えば乾燥した不活性ガスが用いられる。乾燥した不活性ガスとしては、例えば、乾燥したアルゴンガスがある。
【0028】
コントローラ40は、第1温度から第2温度まで炉心管20及び金属片90を所定の昇温速度で昇温するように炉10を制御する。コントローラ40は、単位時間当たりに一定の温度ずつ炉心管20及び金属片90を昇温させることが好ましい。言い換えると、コントローラ40は、例えば、α℃/分(ただし、αは一定)の昇温速度で炉心管20及び金属片90をリニアに昇温させることが好ましい。一定の昇温速度でリニアに昇温させると、時間の経過と温度変化とを容易に関連付けられ、温度と脱離の関係についての分析が容易になる。αの値は、例えば、100℃/hourである。所定の昇温速度は、リニアに変化するものだけに限られず、例えば、温度がステップ状に上昇するものであってもよい。また、所定の昇温速度は、期間に応じて変化するように設定されていてもよく、例えばある期間ではα℃/分であり、他の期間ではβ℃/分(ただし、α,βは一定でα≠β)であってもよい。
炉心管20は、金属片90から脱離される分析対象成分と同じ成分のガスを第1温度から第2温度までは実質的に脱離しない材料からなる。炉心管20は、例えば、後述する石英ガラスからなる。
ここで、「分析対象成分と同じ成分のガスを第1温度から第2温度までは実質的に脱離しない」とは、分析対象成分と同じ成分のガスを発生しても、半導体ガスセンサ52で測定できる下限値よりも小さいということである。
【0029】
(2)分析方法の基本構成
本発明に係る分析方法は、図2に示されているように、まず、炉10により炉心管20を第1温度以下に冷却した後に、サンプルである金属片90を、炉10の中の炉心管20に収容する(ステップST1)。
第1温度から第2温度まで所定の昇温速度で昇温して、金属片90から分析対象成分を脱離させる(ステップST2)。
分析対象成分を炉心管20から分離カラム51に運ぶ(ステップST3)。
分離カラム51で分析対象成分を分離する。分離カラム51で分離された分析対象成分を半導体ガスセンサ52で検出する(ステップST4)。
【0030】
(3)分析装置1の詳細構成
(3-1)分析装置1の全体構成
炉心管20には、サンプリングガスを供給するガスボンベ70が流路72を介して接続されている。ガスボンベ70から炉心管20に、一定の流量で、サンプリングガスが供給される。ガスボンベ70の流路72には、炉心管20に供給するサンプリングガスの流量を制御する流量制御バルブ71が取り付けられている。流量制御バルブ71は、コントローラ40の制御信号に応じて流量を増減させることができる電動バルブである。
炉心管20を通過したサンプリングガスは、流路73を通ってガスクロマトグラフ50に流入する。なお、以下の説明において、サンプリング後の分析対象成分を含むサンプリングガスをサンプルガスと呼ぶ場合がある。
サンプリングガスを炉心管20に導くための流路72及び、サンプリングガスを炉心管20からガスクロマトグラフ50に導くための流路73は、外気が漏れ込まないように処置されている。流路73は分析対象成分が漏れ難い材料で構成することが好ましい。このような材料としては、例えば、石英ガラス、フッ素ゴム、ポリウレタンまたはステンレスがある。
【0031】
炉10は、炉心管20以外に、冷却管30と、第2ヒータ12と、第1ヒータ11とを含んでいる。冷却管30には、炉心管20を冷却する冷却流体80が流れる。炉心管20は、サンプルである金属片90を収容する収容領域21を有している。この炉心管20の収容領域21が冷却管30の中に位置するように、炉心管20が設置されている。
冷却流体80は、断熱性容器81から供給される。冷却流体80は、例えば、低温のガスである。低温のガスには、例えば、液体窒素を気化した窒素ガスがある。断熱性容器81としては、例えば、デュワー瓶がある。
断熱性容器81の中には、冷却流体80を供給するための第2ヒータ12が配置されている。断熱性容器81の中には、冷却流体が液化した状態で貯留されている。炉10は、第2ヒータ12によって、液化した冷却流体に熱を与えて冷却流体を気化することで、断熱性容器81から冷却管30に冷却流体を供給する。第2ヒータ12が単位時間当たりに与える熱量が多いほど、断熱性容器81から冷却管30に流れる冷却流体の単位時間当たりの流量が増加する。
【0032】
第2ヒータ12において、コントローラ40から電力を供給されている状態が通電状態であり、電力の供給がない状態が非通電状態である。コントローラ40は、第2ヒータ12の通電状態と非通電状態のデューティ比を変更することによって第2ヒータ12の消費電力を変更し、冷却流体80の冷却管30への単位時間当たりの供給量を変更する。デューティ比における第2ヒータ12の通電状態が長いほど、第2ヒータ12が冷却流体80に単位時間当たりに与える熱量が大きくなり、冷却管30を流れる冷却流体の単位時間当たりの流量が増加する。第2ヒータ12の制御の詳細については後述する。
図3には、第2ヒータ12の消費電力と炉心管20の温度との関係が示されている。曲線Cr1は、120ワットの電力を第2ヒータ12が消費し続けた場合の炉心管20の温度変化を示している。曲線Cr2は、160ワットの電力を第2ヒータ12が消費し続けた場合の炉心管20の温度変化を示している。図3に示されている炉心管20の温度変化は、第1ヒータ11がオフ状態のときの変化である。
分析時には、第2ヒータ12を用いて、0℃以下の第1温度以下の低温度まで炉心管20を冷やす。例えば、第2ヒータ12で液体窒素を加熱して液体窒素の一部を窒素ガスに変えて冷却管30に供給する。このとき、第1ヒータ11をオフ状態にしておくことで、図3に示されているように-100℃まで炉心管20の温度を下げることができる。この場合、第1温度は-100℃である。そこから第2ヒータ12を制御して目標温度以上のときの高電力印加と目標温度より小さいときの低電力印加とを切り替え、第1ヒータ11をPID制御することで、一定の昇温速度で600℃まで炉心管20の温度を上昇させてサンプルから脱離する分析対象成分の分析を行う。このような分析の結果、図4に、模式的に示されているような炉10の温度(サンプルの温度)と発生水素濃度との関係が得られる。
サンプルの金属片90は、例えば、鉄、鉄合金、銅、銅合金、軽金属または軽金属合金からなる。軽金属としては、例えば、アルミニウム、チタンがある。また、軽金属合金としては、例えば、アルミニウム合金、チタン合金がある。ただし、分析対象の金属片90の成分は、鉄、鉄合金、銅、銅合金、軽金属または軽金属合金に限られるものではなく、他の金属であってもよい。
サンプルの金属片90の質量は、例えば、0.01グラムから数グラムである。
金属の脆化を調べるために、例えば、サンプルの金属片90に含まれる水素を分析することができる。
【0033】
(3-2)分析装置1での分析の概要
分析装置1では、図2に示されているように、まず、炉10により炉心管20を第1温度以上に冷却し、サンプリングガスを流して温度を安定させた後に、サンプルである金属片90を、炉10の中の炉心管20に収容する。
炉心管20にサンプリングガスを導入し、炉心管20からガスクロマトグラフ50にサンプリングガスを流す。サンプリングガスの密度が小さいので、サンプリングガスは、炉心管20に導入されて直ぐに炉心管20と同じ温度になる。
第1温度から第2温度まで所定の昇温速度で昇温して、金属片90から分析対象成分を脱離させる。金属片90から脱離される分析対象成分は、一定の流量で炉心管20の中を流れるサンプリングガスによって運ばれる。
サンプリングガスによって分析対象成分が炉心管20から検量管53に運ばれてくる。検量管53の中に溜まった一定量のサンプルガスが、大気圧の空気をキャリアとして分離カラム51に注入される。
大気圧の空気をキャリアとして、分離カラム51で分析対象成分が分離される。分離カラム51で分離された分析対象成分を半導体ガスセンサ52で検出する。
【0034】
(3-3)分析装置1の各部の詳細構成
(3-3-1)炉10の構成
図5には、炉10の構成のうち第1ヒータ11と、炉心管20と、冷却管30とが模式的に示されている。図6は、冷却管30の模式的な斜視図である。第1ヒータ11として、例えば、電気炉を用いることができる。電気炉は、セラミック製の円筒体11aの周囲に配置された金属発熱体を有している。金属発熱体としては、例えば、カンタル線またはニクロム線がある。
炉心管20は、透明な石英ガラスからなる。内部の金属片90を視認できるので、炉心管20の材料は、透明な石英ガラスであることが好ましい。しかし、炉心管20の材料に、不透明な石英ガラスを用いることもできる。炉心管20は、主要部が、例えば、外径が15mmで、長さが300mmの円筒の形状である。炉心管20の主要部の一部が、金属片90の収容領域21である。この収容領域21は、冷却管30の中に位置する。言い換えると、収容領域21の周囲に冷却管30が配置されている。
冷却管30は、透明な石英ガラスからなる。しかし、冷却管30は、サンプリングガスと接触しないので、例えば金属またはセラミックで形成してもよい。冷却管30には、ガス流入管31とガス流出管32が接続されている。例えば、低温の窒素ガスがガス流入管31から冷却管30の中に流入し、炉心管20を冷却した後の窒素ガスがガス流出管32を通して冷却管30から排出される。
冷却管30は、例えば内径が40mmで、長さが70mmの石英ガラス管である。冷却管30の外径は、セラミック製の円筒体11aの内径D1(図5参照)と実質的に同じである。言い換えると、冷却管30は、電気炉のセラミック製の円筒体11aの内面に接し、円筒体11aに支えられるように設置される。
冷却管30には、直径D2(図6参照)の開口33が2つ形成されている。この2つの開口33を炉心管20が貫通している。この直径D2は、炉心管20の外径よりも大きい。そのため、冷却管30が、冷却流体の一部を冷却管30から漏洩させるための隙間34を炉心管20との間に有することになる。
【0035】
ガス流入管31が接続されている箇所の冷却管30の開口35が面積S1を持っている。ガス流出管32が接続されている箇所の冷却管30の開口36が面積S2を持っている。隙間34は、2つの開口33に生じる。従って、隙間34の面積S3は、(π×(D2/2)2-π×(D1/2)2)×2になる。隙間34の面積S3は、開口35の面積S1(=ガス流入管31の断面積)よりも小さい(S3/S1<1)。隙間34の面積S3を開口35の面積で除した値(S3/S1)は、例えば、0.6<S3/S1<0.9の式を満たすように設定される。ここでは、開口35の面積S1と開口36の面積S2が同じになるように設定されている。隙間34の面積S3が開口35の面積S1(=ガス流入管31の断面積)よりも小さい(S3/S1<1)ので、冷却流体の一部は、ガス流出管32を通ってセラミック製の円筒体11aの外に排出される。例えば、窒素ガスの場合には、そのまま大気に放出するように構成してもよい。
【0036】
図7には、石英ガラス製の炉心管20に、サンプルの金属片90を入れない状態で、サンプリングガスとしてアルゴンガスを流してガスクロマトグラフで検出される発生水素濃度と炉10の温度(炉心管20の温度)との関係が示されている。図7に示されているように、石英ガラス製の炉心管20は、検出対象の水素ガスを600℃以下では実質的に発生しない。従って、このような石英ガラス製の炉心管20を備える分析装置1を用いると、例えば-100℃を第1温度、600℃を第2温度として、第1温度から第2温度までの間に、鉄または鉄合金から発生する水素の濃度を精度良く検出することができる。
炉心管20は、冷却管30を貫通し、冷却管30に支持されている。言い換えると、炉心管20は、電気炉のセラミック製の円筒体11aには接触していない。そのため、炉心管20は、第1ヒータ11の輻射熱によって加熱され、第1ヒータからの伝導熱によって実質的に加熱されていない。炉心管20の冷却時に、炉心管20は、熱伝導によって電気炉から熱を与えられない。その結果、分析装置1の炉心管20の冷却時間は、円筒体11aに炉心管20が接触している場合に比べて短くなる。
第2ヒータ12は、液体状の冷却流体、例えば液体窒素の中に浸漬して用いることができるヒータである。例えば、投げ込みヒータが、第2ヒータ12として用いられる。
【0037】
(3-3-2)コントローラ40の構成
コントローラ40は、例えば、中央演算処理回路(図示せず)と、メモリ(図示せず)と、第1電力供給装置(図示せず)と、第2電力供給装置(図示せず)とを備えている。コントローラ40は、炉心管20の収容領域21の温度を検出する温度センサ41に接続されている。温度センサ41には、例えば熱伝対を用いることができる。中央演算処理回路には、例えばCPUを用いることができる。第1電力供給装置は、第1ヒータ11に電力を供給する装置である。第2電力供給装置は、第2ヒータ12に電力を供給する装置である。コントローラ40の第1電力供給装置及び第2電力供給装置は、中央演算処理回路からの命令に応じて、第1ヒータ11及び第2ヒータ12に電力を供給する。第1電力供給装置は、温度センサ41が検知する炉心管20の温度に基づき、中央演算処理回路により第1ヒータ11による発熱量(電力)を操作量としてよりPID制御されている。ここでは、PID制御を用いる場合について説明するが、制御方法はPID制御には限られない。PID制御以外の制御、例えば、比例制御(P制御)または比例積分制御(PI制御)を用いてもよい。第2電力供給装置は、温度センサ41が検知する炉心管20の温度に基づき、中央演算処理回路により制御されている。
コントローラ40による炉心管20の温度制御の一例が図11に示されている。コントローラ40は、-100℃が第1温度であるとすると、図3を用いて説明したように、第1ヒータ11をオフした状態で、第2ヒータ12を使って炉心管20の温度を-100℃まで冷却する。
【0038】
コントローラ40のメモリには、一定の昇温速度で昇温される炉心管20の目標温度が記憶されている。コントローラ40は、-100℃から一定の昇温速度で昇温するため、-100℃から第1ヒータ11のPID制御を開始する。また、コントローラ40は、低温を保ちつつ-100℃から一定の昇温速度で昇温するため、第2ヒータ12も目標温度以上のときの高電力印加と目標温度より小さいときの低電力印加とを切り替える制御を開始する。
第2ヒータ12は、温度センサ41の測定温度が目標温度よりも小さいときに比べて、温度センサ41の測定温度が目標温度以上のときに第2ヒータ12の消費電力を大きくする。しかし、第2ヒータ12は、PWM制御されており、通電状態と非通電状態を周期的に繰り返している。コントローラ40は、通電状態と非通電状態のデューティ比を変更することで、第2ヒータ12の消費電力を変更している。デューティ比Duが、繰返し周期P1と周期ごとの通電状態の期間P2を用いて、Du=P2/P1で与えられるとする。例えば、-100℃近傍のデューティ比Du100と-5℃近傍のデューティ比Du5を比較すると、測定温度が目標温度よりも小さいときも測定温度が目標温度以上のときも、Du100>Du5となる。
目標温度が高くなるに従って、第1ヒータ11に供給される電力が大きくなり、逆に第2ヒータ12に供給される電力は小さくなる。例えば、図8に示されているように、0℃以上でも第2ヒータ12をオンして冷却流体を供給するようにしてもよい。しかし、無駄な消費電力を削減するために、第1ヒータ11に供給される電力が所定電力PW1以上のとき(時刻t1以上のとき)には第2ヒータ12を常にオフにする。
【0039】
(3-3-3)ガスクロマトグラフ50の構成
図9に示されているように、ガスクロマトグラフ50は、分離カラム51と半導体ガスセンサ52と検量管53とポンプ54a,54bとフィルタ55と流量調整器56と流量センサ57とニードル弁58と4つの電磁弁59とを備えている。
分離カラム51は、サンプリングガスにより導入される試料を、所定のカラム温度において複数の成分に分離する筒状の器材である。ここでは、分離カラム51が充填カラムである場合について説明するが、分離カラム51にキャピラリーカラムを使用してもよい。
分離カラム51は、例えば所定のカラム温度で試料の分離を行う。分離カラム51を所定のカラム温度にするために、分離カラム51にはカラムヒータ(図示せず)が取り付けられている。分離カラム51では、分析対象成分を含まない空気がキャリアガスとして使用される。キャリアガスは、分離カラム51の中を定流速で流される。
分離カラム51の外殻には、例えば分析対象成分が透過しないフッ素樹脂製の円筒管である。円筒管の内部には、固定相を形成する充填材が充填されている。充填材は、例えば珪藻土、モレキュラシーブ、ポーラスポリマー、又はアルミナである。また、固定相を形成するために、充填材には液相がコーティングされていてもよい。
ガスクロマトグラフ50のキャリアガスには、例えば空気を用いることができる。このポンプ54aは、キャリアガスとしての空気をガスクロマトグラフ50に流す装置である。流量調整器56はキャリアガスの量を調整する。フィルタ55は、キャリアガスを浄化する器材である。フィルタ55は、例えば、細かな塵埃を取除くように構成されている。フィルタ55は、キャリアガスを浄化するために例えばガス吸着剤及び/又はガス分解触媒を備えていてもよい。
流量調整器56は、分離カラム51に送られるキャリアガスの流量が一定量になるように調整する。流量調整器56には、例えば所定の範囲で流量が弁開度に比例する特性を有するリニアバルブが用いられる。流量センサ57は、分離カラム51に送られるキャリアガスの流量を測定する。
検量管53は、所定量のサンプルガスを検量するための管である。検量管53は、例えば石英ガラスまたは分離カラム51と同じ材料のフッ素樹脂で構成される。
ニードル弁58は、弁体が針状の弁であって、サンプルガスの流量を調節する弁である。このガスクロマトグラフ50では、一度流量が調整された後は、ニードル弁58による流量の調整は行わない。しかし、ニードル弁58の開度をコンピュータ60で調整できるように構成してもよい。ポンプ54bは、サンプルガスを検量管53に流す装置である。ポンプ54bには、例えばピエゾポンプを用いることができる。
図9には、サンプルガス採取状態のときにキャリアガスが流れる流路が一点鎖線で示され、サンプルガスが流れる流路が破線で示されている。図9には、計測状態のときにキャリアガスが流れる流路が二点差線で示されている。サンプルガス採取状態と計測状態は、4つの電磁弁59により切り替えられる。
サンプルガス採取状態では、フィルタ55を通過したキャリアガスは、流量調整器56から流量センサ57を経由して分離カラム51に流れる。また、サンプルガス採取状態では、サンプルガスは、炉10から検量管53、ニードル弁58及びポンプ54bに流れる。
計測状態では、フィルタ55を通過したキャリアガスは、流量調整器56から流量センサ57、検量管53を経由して分離カラム51に流れる。その結果、検量管53で検量された一定量のサンプルガスを分離カラム51に流すことができる。
例えば、検量管53の1本分のサンプルガスに要する測定時間は、例えば、4分から8分である。1回の測定状態において、検量管53で検量された一定量(例えば、2ccから5cc)のサンプルガスを分離カラム51に流し込んで半導体ガスセンサ52で測定することができる。ある測定状態から次の測定状態までの待機時間は、例えば1分程度である。
【0040】
図10は、図9のガスクロマトグラフ50で用いられる半導体ガスセンサ52を示す概念図である。図10に示されている半導体ガスセンサ52は、金属酸化物半導体を主成分とする感ガス体52aを備えている。金属酸化物半導体には、例えば、酸化錫、酸化タングステン、酸化チタンまたは酸化亜鉛が用いられる。
半導体ガスセンサ52は、感ガス体52a以外に、感ガス体52a中に埋設したコイル状のヒータ兼用電極52bと、ヒータ兼用電極52bのコイルの中心又はその近傍を貫通するように感ガス体52a中に埋設した半導体抵抗検出用電極52cと、電極パッド52d,52eとを備えている。
ヒータ兼用電極52bの両端は、2つの電極パッド52dに接続されている。半導体抵抗検出用電極52cは電極パッド52eに接続されている。電極パッド52d,52eは、ヒータ兼用電極52bと半導体抵抗検出用電極52cとの間の負荷抵抗の変化を取り出すために用いられる。半導体ガスセンサ52は、感ガス体52aの抵抗値の変化に基づいて検知対象のガス成分を検出する。感ガス体52aの抵抗値の変化は、コンピュータ60に入力される。
【0041】
(3-3-4)コンピュータ60の構成
分析装置1は、コンピュータ60をさらに備えている。コンピュータ60には、コントローラ40から昇温に関する情報が送信され、ガスクロマトグラフ50から半導体ガスセンサ52の検出結果に関する情報が送信される。半導体ガスセンサ52の検出結果に関する情報には、感ガス体52aの抵抗値の変化が含まれている。コンピュータ60は、昇温に関する情報と半導体ガスセンサ52の検出結果に関する情報から、金属片90の温度と脱離された分析対象成分(例えば、水素ガス)とを関連付けることができる。
ユーザは、コンピュータ60のキーボード(図示せず)を用いて分析に必要なパラメータを入力することができる。分析に必要なパラメータとしては、例えば、第1温度の値、第2温度の値、昇温速度がある。
コンピュータ60は、金属片90が炉心管20に収納されていない状態で第1温度から第2温度まで炉心管20及び金属片90を所定の昇温速度で昇温したときのブランク状態の分析結果(バックグラウンド)を記憶している。コンピュータ60は、金属片90が炉心管20に収納されている状態で第1温度から第2温度まで炉心管20及び金属片90を所定の昇温速度で昇温したときのサンプルの分析結果を記憶している。そして、コンピュータ60は、サンプルの分析結果からブランク状態の分析結果の値を差し引く。コンピュータ60は、このような計算をすることにより、サンプルの分析結果に生じる測定誤差を低減する。その結果、分析装置1は、金属片90から分離する極めて微量のガス成分を分析することができる。
【0042】
(3-3-5)分析装置1の外観
分析装置1は、架台100に収納されている。架台100の大きさは、例えば、高さH1が70cm、幅W1が90cm、奥行き(図示せず)が50cmである。この架台100の70cm×90cm×50cmの直方体状の空間の中に、炉10と、コントローラ40と、ガスクロマトグラフ50と、断熱性容器81と、断熱性容器81の重量を計る重量秤82とが収納される。架台100の天板101には、コンピュータ60が載置される。コンピュータ60を含めた分析装置1の全体の高さは、例えば、100cmである。
上述のように、分析装置1の全体を上面から見たときの分析装置1の占有面積は、90cm×50cmである。このように、分析装置1の占有面積を0.5m2以下にできると、分析装置1は、事務机などと並べて配置することができ、場所をとらず、使い勝手がよい。
架台100の底部102には、底部102の四隅にキャスター110が取り付けられている。架台100は、キャスター110により容易に移動することができる。
【0043】
(4)変形例
(4-1)変形例A
上記実施形態では、ガス流入管31とガス流出管32を冷却管30の同一側面に配置している。このように、ガス流入管31とガス流出管32を冷却管30の同一側面に配置すると、冷却流体(例えば、窒素ガス)の流出と流入を一方向に限定できるので、炉10をコンパクト化し易くなる。しかし、図12Aに示されているように、ガス流入管31とガス流出管32を冷却管30の異なる側面に配置してもよい。冷却管30を挟んで対極の位置にガス流入管31とガス流出管32を配置すると、冷却管30の中の冷却流体の流れの偏りを減らすことができる。
(4-2)変形例B
上記実施形態では、炉心管20の外径が冷却管30の内部で同じになるように構成されている。しかし、図12Bに示されているように、炉心管20に外径が太い部分38と外径が細い部分39を設け、太い部分38と外径が細い部分39の境界が冷却管30の内部に配置されるように炉10を構成してもよい。
図12Bに示されているように、炉心管20の外径に細い部分39を設けると、炉心管20のデッドスペースを減らすことができる。また、太い部分38と外径が細い部分39の境界が金属片90のストッパーの役割を果たすので、金属片90をセットし易くなる。
(4-3)変形例C
温度センサ41は、図12Cに示されているように冷却管30の中で炉心管20の管壁に接触させてもよい。冷却管30の中においては、炉心管20の管壁の温度と金属片90の温度は実質的に等しいので、図12Cのように温度センサ41、例えば熱伝対で管壁の温度を計測することで、金属片90の温度を計測することができる。
【0044】
(4-4)変形例D
温度センサ41は、図12Dに示されているように冷却管30の中の炉心管20の外において金属片90の温度を計測してもよい。この場合、温度センサ41が接触する部分には、炉心管20の温度を推定し易くするために、炉心管20と同様の石英ガラス製で同じ厚みの部材を用いることが好ましい。
(4-5)変形例E
温度センサ41は、図12Dに示されているように冷却管30の中で炉心管20の内部に向って突出した袋状の部分22を設け、この袋状の部分22に配置してもよい。冷却管30の中においては、炉心管20の管壁の温度と金属片90の温度は実質的に等しいので、図12Cのように温度センサ41、例えば熱伝対で管壁の温度を計測することで、金属片90の温度を計測することができる。この袋状の部分22は、金属片90のストッパーとしても持ちることができる。
(4-6)変形例F
炉心管20の中に石英ガラスで突起23を設け、この突起23を金属片90のストッパーとしてもよい。
(4-7)変形例G
上記実施形態では、第2ヒータ12を制御する際に、例えば、-100℃近傍のデューティ比Du100と-5℃近傍のデューティ比Du5を比較すると、測定温度が目標温度よりも小さいときも測定温度が目標温度以上のときも、Du100>Du5となるように制御する場合について説明した。
しかし、測定温度が目標温度よりも小さいときのみ、例えば、Du100>Du5となるように制御してもよい。あるいは、測定温度が目標温度以上のときのみ、例えば、Du100>Du5となるように制御してもよい。
(4-8)変形例H
上記実施形態では、サンプリングガス(アルゴンガス)とキャリアガス(空気)とを異ならせる場合について説明した。しかし、サンプリングガスとキャリアガスに同じ種類のガスを用いてもよい。
【0045】
(5)特徴
(5-1)
以上説明した実施形態の分析装置1及び分析方法では、図3を用いて説明したように、0℃以下の第1温度(例えば、-100℃)から100℃以上の第2温度(例えば、600℃)まで、炉心管20は、分析対象成分と同じ成分のガスを実質的に発生しない材料で構成されている。この分析装置1及びこの分析方法は、0℃以下の第1温度から0℃までの氷点下で脱離する極めて微量の分析対象成分をガスクロマトグラフ50の分離カラム51で分離して半導体ガスセンサ52で検出できる。上述のように、分析装置1が、炉10と、コントローラ40と、分離カラム51及び半導体ガスセンサ52を有するガスクロマトグラフ50とで、安価に且つコンパクトに構成されている。また、上述のように、分析方法が、氷点下で金属片から脱離する極めて微量の分析対象成分を炉心管20から分離カラム51に運んで分離カラム51で分離された分析対象成分を半導体ガスセンサ52で分析するというように、従来に比べて簡素化されている。
(5-2)
実施形態に係る分析装置1及び分析方法では、図5に示されている炉心管20が、第1ヒータ11の伝導熱で実質的に加熱されずに、第1ヒータ11の輻射熱により加熱されるように設置されている。そのため、炉心管20から熱伝導で逃げる熱量が少なく、炉心管20を0℃以下の第1温度(例えば、-100℃)まで冷却するのに要する時間が短縮される。例えば、図3に示されている例では、炉心管20が、-100℃まで数分で冷却される。また、このような分析装置1及び分析方法では、炉心管20を0℃以下の第1温度まで冷却するのに要する冷却流体(例えば、液体窒素を気化して得られる窒素ガス)の量が削減される。
【0046】
(5-3)
実施形態に係る分析装置1及び分析方法では、冷却管30が、冷却流体の一部を冷却管30から漏洩させるための隙間34を炉心管20との間に有している。そして、炉心管20と冷却管30の間の隙間34から冷却流体(例えば、窒素ガス)を漏洩させつつ冷却流体で炉心管20を冷却する。その結果、漏洩した冷気が冷却管30の外周を覆うことで冷却管30への結露を防ぎ、炉心管20の冷却効率を良くすることができる。また、炉心管20が冷却管30により炉壁である円筒体12aから遮断されているために、その熱伝導の影響を低減することができる。
(5-4)
実施形態に係る分析装置1及び分析方法では、第2ヒータ12が、液体状の物質(例えば、液体窒素)を気化して冷却流体(窒素ガス)を発生させるために物質を加熱する。第2ヒータ12に供給される電力が大きくなれば、第2ヒータ12が液体状の物質を気化する量が多くなり、冷却流体を多く供給できるようになる。コントローラ40が、第2ヒータ12の消費電力を目標温度が高くなるほど小さくしつつ目標温度以上のときの高電力印加と目標温度より小さいときの低電力印加とを切り替える制御をすることにより冷却流体の発生量を制御して昇温速度を制御する。例えば、-100℃の近傍では第2ヒータ12の目標温度以上ときの消費電力を100ワットとし、-5℃近傍では20ワットとするなどのように、コントローラ40は、目標温度以上のとき(高電力印加時)、目標温度が高くなるほど第2ヒータ12に供給する電力を小さくする。さらに、例えば、-100℃の近傍では第2ヒータ12の目標温度より小さいときの消費電力を50ワットとし、-5℃近傍では10ワットとするなどのように、目標温度より小さいとき(低電力印加時)も、コントローラ40は、目標温度が高くなるほど第2ヒータ12に供給する電力を小さくする。このような制御により、所定の昇温速度で昇温する際のハンチングが小さくなり、目標温度と実際の炉心管20の温度との間の乖離が小さくなる。
(5-5)
実施形態に係る分析装置1及び分析方法では、コントローラ40が、冷却流体で炉心管20が氷点下に冷却されている期間においても、炉心管20が目標温度になるようにPID制御しながら炉心管20と金属片90を第1ヒータ11で加熱しつつ昇温速度を制御する。例えば、冷却流体の量を減少させるだけで昇温する場合と比較すると、分析装置1及び分析方法のように炉心管20を冷却しつつ加熱することで、冷却から加熱への切換をスムーズに行うことができ、所定の昇温速度で昇温する際のハンチングを小さくすることができる。
【0047】
(5-6)
実施形態に係る分析装置1及び分析方法では、炉10が、大気圧下で金属片90から分析対象成分(例えば、水素ガス)を脱離させる。そのため、減圧下(例えば、真空中)で分析対象成分を脱離させる従来の方法と比較すると、減圧などに必要な装置を省くことができ、分析装置1のコンパクト化及び分析方法の簡素化を容易に実現できる。
(5-7)
実施形態に係る分析装置1及び分析方法では、炉心管20が石英ガラスからなり、金属片が鉄または鉄合金であり、第1温度が-150℃以上-80℃以下の範囲内で設定され、第2温度が200℃以上600℃以下の範囲内で設定して、分析対象成分として水素ガスを脱離させると、鉄または鉄合金の水素脆化の分析を容易に行うことができる。
(5-8)
実施形態に係る分析装置1は、キャスター110が付いた架台100に、炉10、コントローラ40、ガスクロマトグラフ50、コンピュータ60及び断熱性容器81を収納している。この分析装置1は、架台100によって分析装置1を構成している主要な機器を移動できる。図11に示されているように、このようにキャスター110付きの架台100によってまとめられた分析装置1は、占有するスペースは小さく、また移動が容易である。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 分析装置
10 炉
11 第1ヒータ
12 第2ヒータ
20 炉心管
30 冷却管
34 隙間
40 コントローラ
41 温度センサ
50 ガスクロマトグラフ
51 分離カラム
52 半導体ガスセンサ
80 冷却流体
90 金属片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F