IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大口電子株式会社の特許一覧

特許7354011廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法
<図1>
  • 特許-廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法 図1
  • 特許-廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法 図2
  • 特許-廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法 図3
  • 特許-廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法 図4
  • 特許-廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法 図5
  • 特許-廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/40 20220101AFI20230925BHJP
   C22B 15/00 20060101ALN20230925BHJP
   B09B 101/17 20220101ALN20230925BHJP
【FI】
B09B3/40
C22B15/00
B09B101:17
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020026915
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021130092
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】503404707
【氏名又は名称】大口電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】吉元 亮一
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-071521(JP,A)
【文献】特開昭49-091985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00- 5/00
C22B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元雰囲気下で廃電子基板を焙焼処理することで得た廃基板焙焼物に残留する水素の含有率を定量分析し、得られた水素含有率の値が所定の閾値よりも低い場合に該廃基板焙焼物中に炭化水素が残留していないと判断する廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法であって、
前記定量分析によって得た廃基板焙焼物中の水素含有率が、前記廃基板焙焼物を不活性ガス雰囲気下で600~800℃に加熱する熱処理を行なうことで発生するガスを硫酸溶液に接触させたときに該硫酸溶液を着色させない程度に低減しているとき、前記炭化水素が残留していないと判断することを特徴とする廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法。
【請求項2】
前記炭化水素が残留していないと判断する前記廃基板焙焼物中の水素含有率の閾値が0.3質量%以下であることを特徴とする、請求項に記載の廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法に基づいて前記焙焼処理の処理条件を調整することを特徴とする廃基板の焙焼方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃基板焙焼物に含まれる難分析対象物である炭化水素が該廃基板焙焼物に残留していないことを確認する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自溶炉や転炉等を用いた熔錬工程及び電解精製工程により電気銅を作製する銅製錬プロセスにおいては、主原料の銅品位30%程度の銅精鉱に加えて、リサイクル原料として故銅類や廃電子基板等を使用することがある。このリサイクル原料のうち、廃電子基板には例えば特許文献1に記載されているように、回収対象となる銅、金、銀のみならず、銅製錬プロセスにとって好ましくない成分である製錬忌避成分が含まれている。この製錬忌避成分としては、例えばアルミニウム、可燃性樹脂、ガラス繊維、難燃剤成分、ステンレス成分、ハンダ成分などを挙げることができる。
【0003】
上記のように廃電子基板は製錬忌避成分を含んでいるため、上記熔錬工程で処理する前に還元雰囲気下において焙焼処理が施される。これにより、該製錬忌避成分の溶融や、該製錬忌避成分に含まれる有機物の灰化や脆化が生じるので、該製錬忌避成分を容易に除去することが可能になる。このようにして製錬忌避成分が除去された後の廃基板焙焼物は、銅精鉱と共に上記熔錬工程において処理される。その際、主として銅精鉱に含まれる硫黄分が酸化することで亜硫酸ガス(SO)が発生する。
【0004】
上記の亜硫酸ガスを含んだ排ガスは隣接する硫酸製造プラントに送られ、ここで一般的には固体触媒を用いた接触法により原料の亜硫酸ガスから硫酸溶液が生成される。得られた硫酸溶液は商品として販売されるが、上記廃基板焙焼物中に炭化水素が残留していると、上記硫酸製造プラントで生成した硫酸溶液を着色させてしまい、商品価値を毀損するおそれがある。そこで、上記の銅精錬の原料に用いる廃基板焙焼物に対しては、炭化水素が残留していないこと、換言すれば銅製錬に付随して生成される硫酸溶液を着色させない程度に焙焼処理において炭化水素が十分に除去されていることを確認する必要がある。
【0005】
ところで、物質中の残留炭化水素の有無を確認する方法としては、例えば特許文献2に示すようなガスクロマトグラフ質量分析法や近赤外分光分析法等の定量分析法を適用することが考えられる。また、対象物を加熱することで発生するガスを硫酸に接触させたときの該硫酸の着色の程度に基づいて、残留炭化水素の有無を確認する方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-165262号公報
【文献】特許5190371号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の定量分析法は、廃基板焙焼物に含まれる炭化水素を定量的に評価するのは困難であるため、得られた分析結果は信頼性が高いとはいえなかった。また、上記の硫酸の着色を用いる確認方法は、結果を得るまでに比較的長時間を要するため、得られた結果に基づいて例えば焙焼処理時の焙焼条件を調整するなどのタイムリーな対応をとるのが難しかった。本発明は、かかる従来の廃基板焙焼物中に含まれる炭化水素の分析方法が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、該廃基板焙焼物中に炭化水素が残留していないことを短時間で効果的に確認する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法は、還元雰囲気下で廃電子基板を焙焼処理することで得た廃基板焙焼物中に残留する水素の含有率を定量分析し、得られた水素含有率の値が所定の閾値よりも低い場合に該廃基板焙焼物中に炭化水素が残留していないと判断する廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法であって、前記定量分析によって得た廃基板焙焼物中の水素含有率が、前記廃基板焙焼物を不活性ガス雰囲気下で600~800℃に加熱する熱処理を行なうことで発生するガスを硫酸溶液に接触させたときに該硫酸溶液を着色させない程度に低減しているとき、前記炭化水素が残留していないと判断することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、廃基板焙焼物中に難分析対象物である炭化水素が残留していないことを短時間で効果的に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】焙焼処理前の廃電子基板の水素含有量と発熱量との関係を示すグラフである。
図2】焙焼処理前後の廃電子基板の水素含有率の変化を示すグラフである。
図3】硫酸着色確認試験装置の概略の構成図である。
図4】焙焼処理前の廃電子基板に対して、残留水素の含有率を分析した結果を示すグラフ、及び図3の装置を用いて行った硫酸着色確認試験の結果である。
図5】焙焼処理済みの廃電子基板に対して、残留水素の含有率を分析した結果を示すグラフ、及び図3の装置を用いて行った硫酸着色確認試験の結果である。
図6】焙焼処理済みの廃電子基板に対して、残留炭素の含有率を分析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法について、図面を参照しながら説明する。この本発明の実施形態に係る廃基板焙焼物中の炭化水素の不残留の確認方法は、該廃基板焙焼物中の残留炭化水素の含有率を直接分析する代わりに、該廃基板焙焼物中の残留水素の含有率を定量分析することで、炭化水素が残留していないことを間接的に確認するものである。
【0012】
より具体的に説明すると、本発明の実施形態の確認方法は、先ず対象となる廃基板焙焼物に対して、必要に応じて破砕機を用いて好ましくは1~3ミリメーター程度のサイズまで細かく破砕し、得られた廃基板破砕物全体を縮分機に装入してばらつきの少ないできるだけ均一なサンプルを採取する。このサンプルを定量分析することで得た水素含有率(水素濃度)の値に基づいて、該廃基板焙焼物中に炭化水素が残留していないか、又は炭化水素が残留している可能性があるか判断する。
【0013】
このように水素含有率で炭化水素の残留を確認できる理由は、銅精錬においてリサイクル原料として用いる廃電子基板中に含まれる炭化水素の含有率は、該廃電子基板を定量分析することで得られる水素の含有率と正の相関関係を有していると考えられるからである。このことは、下記に示すように、焙焼処理前の廃電子基板から複数の試料をサンプリングし、それらの水素含有量及び発熱量を測定した実験結果から判断することができる。
【0014】
すなわち、廃電子基板の複数のロットからそれぞれサンプリングして破砕機で破砕することで得た試料1~8に対して、各々その一部を採取して環整第95号別紙2の3.(6)に準じた熱量計を用いて発熱量を測定した。更に、上記試料1~8の各々に対して、上記採取した残りを2つに小分けし、それらの一方を800℃の還元性雰囲気下で60分間保持することで焙焼処理を施した。このようにして得た焙焼処理済みの廃電子基板(すなわち廃基板焙焼物)と、上記の小分けした焙焼処理を施していないもう一方の廃電子基板とに対して、株式会社住化分析センター製の酸素循環燃焼式-GC/TCD検出方式の燃焼法元素分析装置であるスミグラフNCH-22F型を使用して水素含有率を測定した。
【0015】
そして、図1に示すように、焙焼処理を施していない廃電子基板の水素含有率(水素濃度)を横軸、その低位発熱量を縦軸とするグラフに上記の試料1~8の測定結果をプロットしたところ、焙焼処理前の廃電子基板は、その水素含有率と発熱量とが強い正の相関関係を有していることが認められた。上記の発熱量は、後述する廃電子基板に含まれる製錬忌避元素の定量分析の結果や廃電子基板の納入元等の情報から判断して、廃電子基板に含まれる炭化水素が燃焼するときに生ずる燃焼熱が大半を占めると考えることができるので、上記水素含有率は炭化水素含有率の指標になると考えられる。また、上記試料1~8の焙焼処理前後の水素含有率を示す図2から、廃電子基板は焙焼処理を施すことによって水素含有率(水素濃度)がおおむね0.9~3.9質量%から0.2質量%以下まで約86~95%低減しており、この結果からも廃電子基板中の水素は炭化水素に由来するものであると裏付けることができる。
【0016】
従って、焙焼処理された廃電子基板(すなわち廃基板焙焼物)に対して、銅製錬プラントのリサイクル原料として用いたときに、該銅製錬プラントに付随する硫酸製造プラントで生成した硫酸溶液を着色させることのないことを指標として、水素含有率の上限の閾値を予め定めておくことで、単に該廃基板焙焼物中に残留する水素(以降、単に残留水素とも称する)の含有率を定量分析することによって、上記硫酸溶液を着色させる程度には該廃基板焙焼物中に炭化水素が残留していないことを確認することができる。
【0017】
なお、上記の廃電子基板の複数のロットから別途任意にサンプリングした試料9~11に対して、それらに含まれる主たる製錬忌避元素であるN、C、H、O、S、Cl及びBrの定量分析を行ったところ、下記表1に示す結果となった。なお、N、C及びHの定量分析は株式会社住化分析センター製の酸素循環燃焼式・GC/TCD検出方式の燃焼法元素分析装置であるスミグラフNCH-22F型を使用し、Oの定量分析には株式会社堀場製作所製の不活性ガス中インパルス加熱・融解-NDIR検出方式の酸素分析装置であるEMGA-920を使用し、Sの定量分析には株式会社堀場製作所製の酸素気流中燃焼-NDIR方式の硫黄分析装置であるEMIA-810Wを使用し、Cl及びBrの定量分析にはサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製の酸素燃焼/イオンクロマトグラフ法の分析装置であるIntegrionを使用した。
【0018】
【表1】
【0019】
上記の硫酸を着色させることのない水素含有率の許容上限値(すなわち閾値)は、例えば図3に示す硫酸着色確認試験装置を用いて定めることができる。すなわち、この図3に示す装置は、好ましくは石英ガラスからなる炉芯管1が水平方向に貫通するように設けられた管状炉2と、該炉芯管1にその一端部から窒素ガスを導入する窒素ガスボンベ3と、該窒素ガスボンベ3と炉芯管1とを接続する導入管に設けられた流量計4と、該炉芯管1の他端部から排出されるガスを硫酸溶液に気液接触させるインピンジャー5とから構成され、該インピンジャー5で気液接触が行われた後のガスは、図示しないスクラバーに導入されて除害処理が行われる。
【0020】
そして、ロットや焙焼条件が種々に異なる水素含有率既知の複数種類の廃基板焙焼物の試料を用意し、それらを各々所定の大きさまで破砕した後に炉芯管1の内部に充填し、管状炉2における加熱を開始すると共に所定の流量で窒素ボンベ3から窒素ガスを流すことで、還元雰囲気下で該廃基板焙焼物を熱処理する。この熱処理は雰囲気温度600~800℃の温度条件下で行うのが好ましい。このようにして得た各試料の水素含有率と硫酸溶液の着色の有無の結果から、上記の許容水素含有率を求めることができる。なお、硫酸溶液の着色の程度を測定器で測定して数値化し、得られた数値とそれらに対応する水素含有率とから検量線を作成し、この検量線に基づいて炭化水素が残留していないと判断する閾値を定めてもよい。
【実施例
【0021】
(実施例)
焙焼処理が施されていない廃電子基板及び焙焼処理済みの廃電子基板を、いずれも納入元や形態が別々になるように10種類ずつ合計20種類の試料を用意し、各々破砕機を用いて破砕した。次に、各試料から一部サンプリングして水素の含有率を分析した。この分析には株式会社住化分析センター製の燃焼法元素分析装置であるスミグラフNCH-22F型を用いた。その結果、焙焼処理が施されていない10種類の廃電子基板においては、水素含有量が1~10質量%の範囲内でばらついた。一方、焙焼処理済みの10種類の廃電子基板においては、水素含有率が0.11~0.27質量%の範囲内でばらついた。なお、これら20種類の試料全ての分析結果を得るのに5時間(1試料あたり15分)を要した。
【0022】
次に、上記の20種類の試料の各々を図3に示す試験装置の管状炉2内の炉芯管1に装入し、不活性元素である窒素ガスを流量計4での指示が2L/minとなるように通気させながら700℃で熱処理した。そして、該熱処理により発生するガスを含む上記窒素ガスをインピンジャー5に導入し、ここで98%硫酸水溶液内に放出することで気液接触させた。なお、これら20種類の試料全ての硫酸着色確認試験には40時間(1試料当たり2時間)かかった。すなわち、図3の試験装置を用いて廃基板焙焼物に炭化水素が残留していないことを確認する場合は、上記の水素含有率を定量分析する場合に比べて約8倍の時間がかかった。
【0023】
上記の硫酸着色確認試験の結果、図4に示すように、焙焼処理が施されていない10種類の廃電子基板においては、水素含有量(水素濃度)の値が高くなればなるほど硫酸の着色が濃くなる傾向が見られた。すなわち、廃電子基板中に含まれる残留水素の含有率と硫酸の着色の程度との間に正の相関が認められた。一方、図5に示すように、焙焼処理済みの10種類の廃電子基板においては、硫酸の着色がいずれも確認されなかった。これらの結果より、焙焼処理済み廃電子基板に対して水素含有率を定量分析し、例えばその閾値として定めた0.3質量%よりも少ないか否か確認することによって、液体製品である硫酸溶液を着色させる程度には炭化水素が残留していないことを確認できることが分かる。
【0024】
(比較例)
焙焼処理済みの廃電子基板を納入元や形態が別々になるように10種類用意し、各々破砕機を用いて破砕した。次に、各試料から一部サンプリングして炭素の含有率を分析した。この炭素の分析には、株式会社住化分析センター製の燃焼法元素分析装置であるスミグラフNCH-22F型を用いた。なお、これら20種類の試料全ての分析結果を得るのに5時間(1試料あたり15分)を要した。
【0025】
次に、各々の試料について、図3に示す試験装置を用いて、上記実施例と同様に硫酸の着色の試験を行った。その結果、全ての試料において硫酸の着色が見られなかったが、図6に示すように、試料中の残留炭素の含有量(炭素濃度)は約2.5~11.0質量%の範囲内でばらついた。すなわち、残留炭素の分析結果と硫酸の着色の程度との間に相関関係を認めることができなかった。よって、残留炭素の分析結果に基づいて、廃基板焙焼物中に炭化水素が残留していないことを判断するのは困難であることが分かる。
【符号の説明】
【0026】
1 炉芯管(石英ガラス)
2 管状炉
3 窒素ガスボンベ
4 流量計
5 インピンジャー
図1
図2
図3
図4
図5
図6