IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ Joyson Safety Systems Japan株式会社の特許一覧

特許7354015プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置
<>
  • 特許-プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置 図1
  • 特許-プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置 図2
  • 特許-プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置 図3
  • 特許-プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置 図4
  • 特許-プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置 図5
  • 特許-プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/46 20060101AFI20230925BHJP
【FI】
B60R22/46 142
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020028108
(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公開番号】P2021130440
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 清史
(72)【発明者】
【氏名】浅子 忠之
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-072671(JP,A)
【文献】特開2008-273447(JP,A)
【文献】特開2011-102099(JP,A)
【文献】特開2015-054651(JP,A)
【文献】特表2002-503168(JP,A)
【文献】特開2000-225920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールの回転軸に接続されたリングギアと、緊急時に前記リングギアに動力を伝達する動力伝達装置と、を含むプリテンショナにおいて、
前記動力伝達装置は、前記リングギアを回転させる樹脂製の動力伝達部材を含み、
前記リングギアは、初動時に前記回転軸に対して一定量だけ相対回転可能に構成されている、
ことを特徴とするプリテンショナ。
【請求項2】
前記リングギアは、少なくとも前記動力伝達部材が衝突した歯と隣接する後続歯が前記動力伝達部材に食い込むまで相対回転するように構成されている、請求項1に記載のプリテンショナ。
【請求項3】
前記リングギアは、前記回転軸に挿通される開口部の内縁に形成された凸部を備え、前記回転軸は、前記凸部の相対回転を許容する凹部を備えている、請求項1に記載のプリテンショナ。
【請求項4】
前記凹部は、初期状態で前記凸部に対して周方向の隙間を有するように構成されている、請求項3に記載のプリテンショナ。
【請求項5】
前記凹部は、初期状態で前記凸部に対して径方向の隙間を有するように構成されている、請求項3に記載のプリテンショナ。
【請求項6】
前記凹部は、前記凸部の初期状態の位置決めを行う突起を有する、請求項3に記載のプリテンショナ。
【請求項7】
請求項1~請求項6の何れか一項に記載されたプリテンショナを備える、ことを特徴とするリトラクタ。
【請求項8】
請求項1~請求項6の何れか一項に記載されたプリテンショナを備えたリトラクタを有する、ことを特徴とするシートベルト装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置に関し、特に、樹脂製の動力伝達部材を含む構成に適した、プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、一般に、乗員が着座する腰掛部と乗員の背面に位置する背もたれ部とを備えたシートに乗員を拘束するシートベルト装置が設けられている。かかるシートベルト装置は、乗員を拘束するウェビングと、ウェビングの巻き取りを行うリトラクタと、シートの側面に配置されたバックルと、ウェビングに配置されたトングとを含み、トングをバックルに嵌着させることによってウェビングにより乗員をシートに拘束している。また、リトラクタは、車両衝突時等の緊急時にウェビングの弛みを除去するプリテンショナを有していることが一般的になってきている。
【0003】
かかるプリテンショナは、ウェビングの巻き取りを行うスプールを回転させる動力伝達部材と、該動力伝達部材を案内する細長い筒形状のパイプ(案内部材)と、該パイプ内に作動ガスを供給することによって動力伝達部材に推進力を付与するガス発生器と、を含む動力伝達装置を備えていることが多い。
【0004】
近年、プリテンショナの動力伝達部材として、樹脂製の細長いロッド形状の部品を用いることが研究・開発されている。例えば、特許文献1には、動力伝達部材にピニオン(駆動輪)の歯を食い込ませながら移動させることによってピニオン(駆動輪)を回転させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5770853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された発明のように、樹脂製の動力伝達部材を用いた場合、動力伝達部材は、駆動輪の歯が食い込む際に変形可能な材料でなければならない。一方で、駆動輪は、スプールの回転軸に固定されていることから、動力伝達部材が最初に駆動輪の歯に衝突した際の負荷が大きく、この負荷に耐え得る強度も必要となる。これらは相反する要求であり、樹脂製の動力伝達部材の設計が難しいという問題がある。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、樹脂製の動力伝達部材の設計条件を緩和することができる、プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールの回転軸に接続されたリングギアと、緊急時に前記リングギアに動力を伝達する動力伝達装置と、を含むプリテンショナにおいて、前記動力伝達装置は、前記リングギアを回転させる樹脂製の動力伝達部材を含み、前記リングギアは、初動時に前記回転軸に対して一定量だけ相対回転可能に構成されている、ことを特徴とするプリテンショナが提供される。
【0009】
前記リングギアは、少なくとも前記動力伝達部材が衝突した歯と隣接する後続歯が前記動力伝達部材に食い込むまで相対回転するように構成されていてもよい。
【0010】
前記リングギアは、前記回転軸に挿通される開口部の内縁に形成された凸部を備え、前記回転軸は、前記凸部の相対回転を許容する凹部を備えていてもよい。
【0011】
また、前記凹部は、初期状態で前記凸部に対して周方向の隙間を有するように構成されていてもよい。
【0012】
また、前記凹部は、初期状態で前記凸部に対して径方向の隙間を有するように構成されていてもよい。
【0013】
また、前記凹部は、前記凸部の初期状態の位置決めを行う突起を有していてもよい。
【0014】
また、本発明によれば、上述した構成のプリテンショナを備えることを特徴とするリトラクタが提供される。
【0015】
また、本発明によれば、上述した構成のプリテンショナを備えたリトラクタを有する、ことを特徴とするシートベルト装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明に係るプリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置によれば、リングギアを初動時に回転軸に対して相対回転するように構成したことから、動力伝達部材がリングギアに衝突した際の衝撃を緩和することができ、樹脂製の動力伝達部材の設計条件を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るリトラクタを示す部品展開図である。
図2図1に示したプリテンショナの初期状態を示す断面図であり、(A)は本実施形態、(B)は第一変形例、を示している。
図3図1に示したプリテンショナの作動を示す断面図であり、(A)は動力伝達部材がリングギアに到達した状態、(B)はリングギアが相対回転している状態、を示している。
図4図1に示したプリテンショナの作動を示す断面図であり、(A)はリングギアの相対回転が終了した状態、(B)は作動完了状態、を示している。
図5】プリテンショナの他の変形例を示す部分拡大図であり、(A)は第二変形例、(B)は第三変形例、を示している。
図6】本発明の一実施形態に係るシートベルト装置を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図1図6を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の一実施形態に係るリトラクタを示す部品展開図である。図2は、図1に示したプリテンショナの初期状態を示す断面図であり、(A)は本実施形態、(B)は第一変形例、を示している。
【0019】
本発明の一実施形態に係るリトラクタ1は、図1及び図2(A)に示したように、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプール2と、緊急時にウェビングを巻き取って弛みを除去するプリテンショナ3と、を含み、プリテンショナ3は、スプール2に接続されたリングギア31と、緊急時にリングギア31に動力を伝達する動力伝達装置32と、を含んでいる。なお、図1において、ウェビングの図は省略してある。
【0020】
動力伝達装置32は、例えば、リングギア31に動力を伝達する樹脂製のロッド形状の動力伝達部材32aと、動力伝達部材32aをリングギア31に案内する筒形状の案内部材32bと、案内部材32bの内部に作動ガスを供給するガス発生器32cと、動力伝達部材32aとリングギア31との噛合開始時に動力伝達部材32aを支持するガイド部材32dと、を備えている。
【0021】
スプール2は、ウェビングを巻き取る巻胴であり、リトラクタ1の骨格を形成するベースフレーム11内に回転可能に収容されている。ベースフレーム11は、例えば、対峙する第一端面111及び第二端面112と、これらの端面を連結する側面113と、を有している。ベースフレーム11は、側面113と対峙し第一端面111及び第二端面112に接続されるタイプレート114を備えていてもよい。
【0022】
また、例えば、第一端面111側にスプリングユニット4が配置され、第二端面112側にプリテンショナ3及びロック機構5が配置される。なお、スプリングユニット4、プリテンショナ3、ロック機構5等の配置は、図示した構成に限定されるものではない。
【0023】
また、ベースフレーム11の第一端面111には、スプール2の軸部を挿通する開口部111aが形成されており、ベースフレーム11の第二端面112には、ロック機構5のパウル51と係合可能な内歯を有する開口部112aが形成されている。また、ベースフレーム11の第二端面112の内側には、プリテンショナ3の一部(例えば、リングギア31)が配置される。また、ベースフレーム11の第二端面112の外側にはロック機構5が配置され、ロック機構5はリテーナカバー52内に収容される。
【0024】
リテーナカバー52には、車体の急減速や傾きを検出するビークルセンサ6が配置されていてもよい。ビークルセンサ6は、例えば、球形の質量体61と、質量体61の移動によって揺動されるセンサレバー62と、を有している。ビークルセンサ6は、ベースフレーム11の第二端面112に形成した開口部112bに嵌め込まれて固定されていてもよい。
【0025】
スプール2は、中心部に空洞を有し、軸心を形成するトーションバー21が挿通されていてもよい。トーションバー21は、第一端部21aがスプール2に固定されるとともにスプリングユニット4のスプリングコアに接続されており、第二端部21bがスプール2の端部に接続されたロック機構5のロッキングベース53に接続されている。したがって、スプール2は、トーションバー21を介してスプリングユニット4に接続されており、スプリングユニット4に格納されたゼンマイバネによりウェビングを巻き取る方向に付勢されている。
【0026】
なお、スプール2に巻き取り力を付与する手段は、スプリングユニット4に限定されるものではなく、電動モータ等を用いた他の手段であってもよい。また、スプール2とベースフレーム11の第一端面111に形成された開口部111aとの間にはベアリング23が配置されていてもよい。
【0027】
ロッキングベース53は、その側面部から出没可能に配置されたパウル51を備えている。パウル51は、例えば、パウルピン51aによりロッキングベース53に回動可能に配置される。ロック機構5の作動時には、パウル51をロッキングベース53の側面部から突出させることにより、ベースフレーム11の開口部112aに形成された内歯に係合させ、ロッキングベース53のウェビング引き出し方向の回転を拘束する。
【0028】
したがって、ロック機構5が作動した状態で、ウェビング引き出し方向に荷重が負荷された場合であっても、トーションバー21に閾値以上の荷重が生じるまでは、スプール2を非回転状態に保持することができる。そして、トーションバー21に閾値以上の荷重が生じた場合には、トーションバー21が捻れることによって、スプール2が相対的に回転運動を生じ、ウェビングが引き出される。
【0029】
また、ロック機構5は、ロッキングベース53に隣接するように配置されたロックギア54を備えている。ロックギア54は、揺動可能に配置されたフライホイール55を備えており、ウェビングが通常の引き出し速度よりも早い場合には、フライホイール55が揺動してリテーナカバー52に形成された内歯に係合する。また、ビークルセンサ6が作動した場合には、センサレバー62がロックギア54の側面に形成された外歯に係合する。
【0030】
このように、ロックギア54は、フライホイール55又はビークルセンサ6の作動により回転が規制される。そして、ロックギア54の回転が規制されると、ロッキングベース53とロックギア54との間に相対回転が生じ、この相対回転に伴ってパウル51がロッキングベース53の側面部から突出される。
【0031】
なお、ロック機構5は、図示した構成に限定されるものではなく、従来から存在している種々の構成のものを任意に選択して使用することができる。また、スプール2は、トーションバー21の代わりに、シャフトとワイヤ状又はプレート状の塑性変形部材との組み合わせによって構成される衝撃吸収機構を備えていてもよい。
【0032】
プリテンショナ3は、例えば、外周に複数の係合歯を備えたリングギア31と、動力伝達装置32と、リングギア31を格納するプリテンショナカバー33と、動力伝達部材32aの移動を規制するピン34と、を備えている。また、図示しないが、プリテンショナ3は、プリテンショナカバー33内において、動力伝達部材32aの移動空間を形成するガイドスペーサを備えていてもよい。
【0033】
リングギア31は、プリテンショナカバー33とベースフレーム11(第二端面112)との間に形成された空間に位置するようにロッキングベース53に配置される。なお、リングギア31はピニオン、駆動輪、回転部材等と称することもある。また、本実施形態では、リングギア31がベースフレーム11の内側に配置されているが、リングギア31はベースフレーム11の外側に配置されていてもよい。
【0034】
プリテンショナカバー33は、例えば、ベースフレーム11の第二端面112の内側に配置される。また、プリテンショナカバー33は、例えば、複数の留め具35a~35cにより、案内部材32bとともに又は直にベースフレーム11(第二端面112)に固定される。なお、リングギア31がベースフレーム11の外側に配置されている場合には、プリテンショナカバー33は第二端面112の外側に配置される。
【0035】
案内部材32bは、例えば、図1に示したように、第一端面111の上部、タイプレート114の上部、第二端面112の上部を通り、第二端面112及び側面113によって形成される角隅部内側の上部から下方に向かって延設するように湾曲した形状を有している。
【0036】
ガイド部材32dは、例えば、案内部材32bの先端部に配置可能な略円柱形状を有し、その上端部に動力伝達部材32aをリングギア31に案内する摺動面32eが斜めに形成されている。摺動面32eは、動力伝達部材32aの外形に沿って湾曲した溝形状を有していてもよい。
【0037】
ここで、リングギア31とロッキングベース53との結合方法について説明する。ロッキングベース53は、例えば、スプール2の開口部22に挿通される胴部53aと、ベースフレーム11の第二端面112に形成された開口部112aよりも大きな径を有するフランジ部53bと、リテーナカバー52に回転可能に支持される軸部53cと、を備えている。本実施形態では、ロッキングベース53及びトーションバー21によりスプール2の回転軸が構成されている。
【0038】
胴部53aは、例えば、先端に窪みが形成された略円柱形状を有している。胴部53aの先端は、スプール2の開口部22に回転可能に挿通され、胴部53aの先端の窪みにはスプール2の第二端部21bが係合するように挿入される。また、胴部53aの外周には、フランジ部53bに近い側から順にリングギア31及びベアリング36が挿通される。ベアリング36は、胴部53aに対して相対回転しないように嵌合される。
【0039】
リングギア31は、例えば、図2(A)に示したように、胴部53aに挿通される開口部31aの内縁に形成された凸部31bを備えている。また、胴部53aは、凸部31bの相対回転を許容する凹部53dを備えている。凹部53dの周方向の幅は、凸部31bの周方向の幅よりも大きく形成されている。
【0040】
凸部31bは、プリテンショナ3の作動前の初期状態では、プリテンショナ3の作動時に回転する方向(図の時計回り方向)に隙間Gcを有するように凹部53d内に配置されている。具体的には、凸部31bの回転方向と反対側の端面が凹部53dの側面に接触し、凸部31bの回転方向の側面に隙間Gcが形成されている。換言すれば、凹部53dは、初期状態で凸部31bに対して周方向の隙間Gcを有するように構成されている。
【0041】
したがって、プリテンショナ3が作動すると、凸部31bが凹部53dに沿って隙間Gcに沿って移動し、隙間Gcが消失し凸部31bの回転方向の端面が凹部53dの側面に接触する。凸部31bが凹部53dに接触した後は、リングギア31の回転によってロッキングベース53も一緒に回転されることとなる。
【0042】
また、図2(B)に示した第一変形例のように、凹部53dは、凸部31bの初期状態の位置決めを行う突起53eを備えていてもよい。突起53eは、リングギア31(凸部31b)の回転によって変形又は破断するように構成されている。図では、突起53eを二箇所に配置しているが、一箇所に配置してもよいし、全ての凹部53dに配置してもよい。
【0043】
次に、プリテンショナ3の作動について、図2(A)及び図3(A)~図4(B)を参照しつつ説明する。ここで、図3は、図1に示したプリテンショナの作動を示す断面図であり、(A)は動力伝達部材がリングギアに到達した状態、(B)はリングギアが相対回転している状態、を示している。図4は、図1に示したプリテンショナの作動を示す断面図であり、(A)はリングギアの相対回転が終了した状態、(B)は作動完了状態、を示している。
【0044】
図2(A)に示したように、プリテンショナ3の作動前の状態において、動力伝達部材32aは案内部材32b内に収容されている。このとき、リングギア31の凸部31bは、凹部53d内において、回転方向と反対側の位置に寄せられた状態に配置されており、回転方向に所定の隙間Gcが形成されている。
【0045】
車両衝突時等の緊急時にはプリテンショナ3が作動し、ガス発生器32cから案内部材32b内に作動ガスが供給され、動力伝達部材32aが案内部材32bに沿って移動する。このとき、動力伝達部材32aの先端部は、ガイド部材32dの摺動面32eに沿って移動し、リングギア31の外周に形成された係合歯に向かって放出される。
【0046】
案内部材32bから放出された動力伝達部材32aは、図3(A)に示したように、リングギア31の一つ係合歯311に衝突する。リングギア31が係合歯311に衝突すると、図3(B)に示したように、動力伝達部材32aはリングギア31を回転させる。このとき、リングギア31の凸部31bとロッキングベース53の凹部53dとの間には回転方向(周方向)に隙間Gcが形成されていることから、凸部31bが凹部53dに沿って移動し、リングギア31はロッキングベース53に対して相対回転する。
【0047】
リングギア31が相対回転している途中、すなわち、凸部31bが凹部53dに沿って移動している途中において、図3(B)に示したように、動力伝達部材32aが衝突した係合歯311と隣接する後続歯312が動力伝達部材32aの表面に接触する。
【0048】
その後、さらに動力伝達部材32aが移動すると、図4(A)に示したように、隙間Gcが消失し、凸部31bが凹部53dに接触する。このとき、後続歯312は動力伝達部材32aに食い込んだ状態になる。
【0049】
その後、さらに動力伝達部材32aが移動すると、図4(B)に示したように、凸部31bが凹部53dに接触した状態が保持されることから、リングギア31とロッキングベース53とは一体となって回転する。なお、図4(B)において、動力伝達部材32aの一部のみを断面図として図示してある。
【0050】
このように、本実施形態に係るプリテンショナ3によれば、リングギア31の初動時に回転軸(ロッキングベース53)に対して相対回転するように構成したことから、動力伝達部材32aがリングギア31に衝突した際の衝撃を緩和することができ、樹脂製の動力伝達部材32aの設計条件を緩和することができる。
【0051】
また、本実施形態では、リングギア31の後続歯312が動力伝達部材32aに食い込むまで一定量だけ相対回転させていることから、動力伝達部材32aの動力を効率よくリングギア31に伝達することができる。
【0052】
なお、本実施形態では、リングギア31の相対回転時に一本の後続歯312を動力伝達部材32aに食い込ませるようにしているが、二本の後続歯312を食い込ませるようにリングギア31を相対回転させてもよい。また、リングギア31の係合歯のピッチが狭い場合(係合歯の本数が多い場合)には、複数の後続歯312を食い込ませるようにリングギア31を相対回転させてもよい。
【0053】
次に、プリテンショナ3の変形例について、図5(A)~図5(B)を参照しつつ説明する。ここで、図5は、プリテンショナの他の変形例を示す部分拡大図であり、(A)は第二変形例、(B)は第三変形例、を示している。なお、各図において、説明の便宜上、リングギア31及びロッキングベース53のみを図示してある。
【0054】
図5(A)に示した第二変形例は、凸部31b及び凹部53dの形状を変更したものである。具体的には、凸部31bは、例えば、リングギア31の回転方向の先端に形成された端面31cと、端面31cの頂部から回転方向の反対側に隣接する凸部31bの端面の底部まで徐々に径が小さくなるように形成された曲面31dと、によって構成される。
【0055】
また、凹部53dは、凸部31bと対応した形状に形成されており、左図に示したように、初期状態で回転方向に隙間Gcを形成するように構成されている。プリテンショナ3が作動してリングギア31が回転されると、中図に示したように、最初はリングギア31のみが回転する。リングギア31の相対回転により隙間Gcが消失すると、凸部31bが凹部53dに係止し、右図に示したように、リングギア31及びロッキングベース53は一体となって回転する。
【0056】
図5(B)に示した第三変形例は、凹部53dが、初期状態で凸部31bに対して径方向の隙間Grを有するように構成したものである。具体的には、凸部31bは、例えば、リングギア31の回転方向の後端に形成された端面31eと、端面31eの頂部から回転方向側に隣接する凸部31bの端面の底部まで徐々に径が大きくなるように形成された曲面31fと、によって構成される。
【0057】
また、凹部53dは、凸部31bと対応した形状に形成されており、左図に示したように、初期状態で端面31eが凹部53dの側面に接近した状態にあり、径方向に隙間Grが形成されている。プリテンショナ3が作動してリングギア31が回転されると、中図に示したように、最初はリングギア31のみが回転する。リングギア31の相対回転により隙間Grが消失すると、凸部31bが凹部53dに押し付けられて摩擦力によって係止し、右図に示したように、リングギア31及びロッキングベース53は一体となって回転する。
【0058】
これらの変形例に示したように、凸部31b及び凹部53dは、リングギア31が初動時に回転軸(ロッキングベース53)に対して一定量だけ相対回転することができるように構成されていればよく、上述した実施形態及び変形例の構成に限定されるものではない。
【0059】
また、上述した実施形態及び変形例では、リングギア31側に凸部31bを形成し、回転軸(ロッキングベース53)側に凹部53dを形成した場合について説明しているが、リングギア31側に凹部が形成され、回転軸(ロッキングベース53)側に凸部が形成されていると換言することもできる。
【0060】
要するに、リングギア31と回転軸(ロッキングベース53)との結合部は、リングギア31の初動時にリングギア31が回転軸(ロッキングベース53)に対して一定量だけ相対回転可能な凹凸の組み合わせによって構成されていればよい。
【0061】
次に、本発明の一実施形態に係るシートベルト装置について、図6を参照しつつ説明する。ここで、図6は、本発明の一実施形態に係るシートベルト装置を示す全体構成図である。なお、図6において、説明の便宜上、シートベルト装置以外の構成部品については、一点鎖線で図示している。
【0062】
図6に示した本実施形態に係るシートベルト装置100は、乗員を拘束するウェビングWと、ウェビングWの巻き取りを行うリトラクタ1と、車体側に設けられウェビングWを案内するガイドアンカー101と、ウェビングWを車体側に固定するベルトアンカー102と、シートSの側面に配置されたバックル103と、ウェビングWに配置されたトング104と、を備え、リトラクタ1は、例えば、図1に示した構成を有している。
【0063】
以下、リトラクタ1以外の構成部品について、簡単に説明する。シートSは、例えば、乗員が着座する腰掛部S1と、乗員の背面に位置する背もたれ部S2と、乗員の頭部を支持するヘッドレスト部S3とを備えている。リトラクタ1は、例えば、車体のBピラーRに内蔵される。また、一般に、バックル103は腰掛部S1の側面に配置されることが多く、ベルトアンカー102は腰掛部S1の下面に配置されることが多い。また、ガイドアンカー101は、BピラーRに配置されることが多い。そして、ウェビングWは、一端がベルトアンカー102に接続され、他端がガイドアンカー101を介してリトラクタ1に接続されている。
【0064】
したがって、トング104をバックル103に嵌着させる場合、ウェビングWはガイドアンカー101の挿通孔を摺動しながらリトラクタ1から引き出されることとなる。また、乗員がシートベルトを装着した場合や降車時にシートベルトを解除した場合には、リトラクタ1のスプリングユニット4の作用により、ウェビングWは一定の負荷がかかるまで巻き取られる。
【0065】
上述したシートベルト装置100は、前部座席における通常のシートベルト装置に、上述した実施形態に係るリトラクタ1を適用したものである。したがって、本実施形態に係るシートベルト装置100によれば、リングギア31を初動時に回転軸(ロッキングベース53)に対して相対回転するように構成したことから、動力伝達部材32aがリングギア31に衝突した際の衝撃を緩和することができ、樹脂製の動力伝達部材32aの設計条件を緩和することができる。
【0066】
なお、本実施形態に係るシートベルト装置100は、前部座席への適用に限定されるものではなく、例えば、ガイドアンカー101を省略して後部座席にも容易に適用することができる。また、本実施形態に係るシートベルト装置100は、車両以外の乗物にも使用することができる。
【0067】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0068】
1 リトラクタ
2 スプール
3 プリテンショナ
4 スプリングユニット
5 ロック機構
6 ビークルセンサ
11 ベースフレーム
21 トーションバー
21a 第一端部
21b 第二端部
22 開口部
23 ベアリング
31 リングギア
31a 開口部
31b 凸部
31c,31e 端面
31d,31f 曲面
32 動力伝達装置
32a 動力伝達部材
32b 案内部材
32c ガス発生器
32d ガイド部材
32e 摺動面
33 プリテンショナカバー
34 ピン
35a~35c 留め具
36 ベアリング
51 パウル
51a パウルピン
52 リテーナカバー
53 ロッキングベース
53a 胴部
53b フランジ部
53c 軸部
53d 凹部
53e 突起
54 ロックギア
55 フライホイール
61 質量体
62 センサレバー
100 シートベルト装置
101 ガイドアンカー
102 ベルトアンカー
103 バックル
104 トング
111 第一端面
111a 開口部
112 第二端面
112a,112b 開口部
113 側面
114 タイプレート
311 係合歯
312 後続歯

図1
図2
図3
図4
図5
図6