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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】位相補正装置及び測距装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 11/08 20060101AFI20230925BHJP
   H03L 7/08 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
G01S11/08
H03L7/08 240
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020159785
(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公開番号】P2022053144
(43)【公開日】2022-04-05
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 正樹
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0187800(US,A1)
【文献】特開2002-076886(JP,A)
【文献】特開2010-141519(JP,A)
【文献】特開2018-155725(JP,A)
【文献】特開2018-155724(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0183447(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0175867(US,A1)
【文献】国際公開第93/022861(WO,A1)
【文献】実開平06-015349(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00-17/95
H03L 7/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照クロックに基づいて、前記参照クロックの周波数と希望発振出力周波数との比である周波数制御データを用いて複数種類の局部発振信号を生成する完全デジタル位相同期回路を有し、位相検出の対象となる入力された信号を前記局部発振信号及び前記参照クロックから生成された信号により周波数変換を行った後に前記入力された信号の位相を検出する装置に対して前記局部発振信号を与える局部発振器と、
前記完全デジタル位相同期回路に含まれる位相積分器の出力を所定のタイミングで取り込んで出力する位相検出器と、
前記位相検出器から出力される値を所定のタイミングで複数回取り込んでそれらの差を用いて前記入力された信号を周波数変換する際に前記局部発振信号の周波数変更により変動する初期位相あるいは基準時刻位相を補正する位相計算器と
を具備し
前記完全デジタル位相同期回路は、前記局部発振信号の波数をカウントするカウンタと、前記局部発振信号と前記参照クロックとの位相差を求める時間デジタル変換器と、前記参照クロック毎に前記周波数制御データを積算する前記位相積分器と、前記位相積分器の出力から前記カウンタ及び前記時間デジタル変換器の出力を減算する減算器と、前記減算器が求めた位相誤差に基づいて前記局部発振信号を出力するデジタル制御発振器とを含むこと
を特徴とする、位相補正装置。
【請求項2】
前記所定のタイミングは、前記複数種類の局部発振信号の周期の公倍数の周期もしくはそれらを間引いたものであることを特徴とする請求項1に記載の位相補正装置。
【請求項3】
キャリア位相検出に基づいて距離を算出する測距装置において、
少なくとも一方が移動自在な第1装置及び第2装置により取得した位相情報に基づいて前記第1装置と第2装置との間の距離を算出する算出部を有し、
前記第1装置は、
第1参照クロックに基づいて、前記第1参照クロックの周波数と希望発振出力周波数との比である周波数制御データを用いて複数種類の第1局部発振信号を生成する第1完全デジタル位相同期回路であって、前記第1局部発振信号の波数をカウントする第1カウンタと、前記第1局部発振信号と前記第1参照クロックとの位相差を求める第1時間デジタル変換器と、前記第1参照クロック毎に前記周波数制御データを積算する第1位相積分器と、前記第1位相積分器の出力から前記第1カウンタ及び前記第1時間デジタル変換器の出力を減算する第1減算器と、前記第1減算器が求めた位相誤差に基づいて前記第1局部発振信号を出力する第1デジタル制御発振器とを含む前記第1完全デジタル位相同期回路と、
前記第1完全デジタル位相同期回路を有し、前記第1局部発振信号を出力する第1局部発振器と、
前記第1局部発振器の出力を用いて2つ以上の第1キャリア信号を直接変調方式により送信する第1送信器と、
前記第1局部発振器の出力を用いて2つ以上の第2キャリア信号をスライディングIF方式により受信する第1受信器と、
前記第1完全デジタル位相同期回路に含まれる前記第1位相積分器の出力を第1の所定のタイミングで取り込んで出力する第1位相検出器と、
前記第1位相検出器から出力される値を所定のタイミングで複数回取り込んでそれらの差を用いて前記第2キャリア信号を周波数変換する際に前記第1局部発振信号の周波数変更により変動する初期位相あるいは基準時刻位相を補正する第1位相計算器を具備し、
前記第2装置は、
第2参照クロックに基づいて、前記第2参照クロックの周波数と希望発振出力周波数との比である周波数制御データを用いて複数種類の第2局部発振信号を生成する第2完全デジタル位相同期回路であって、前記第2局部発振信号の波数をカウントする第2カウンタと、前記第2局部発振信号と前記第2参照クロックとの位相差を求める第2時間デジタル変換器と、前記第2参照クロック毎に前記周波数制御データを積算する第2位相積分器と、前記第2位相積分器の出力から前記第2カウンタ及び前記第2時間デジタル変換器の出力を減算する第2減算器と、前記第2減算器が求めた位相誤差に基づいて前記第2局部発振信号を出力する第2デジタル制御発振器とを含む前記第2完全デジタル位相同期回路と、
前記第2完全デジタル位相同期回路を有し、前記第2局部発振信号を出力する第2局部発振器と、
前記第2局部発振器の出力を用いて2つ以上の第2キャリア信号を直接変調方式により送信する第2送信器と、
前記第2局部発振器の出力を用いて2つ以上の第1キャリア信号をスライディングIF方式により受信する第2受信器と、
前記第2完全デジタル位相同期回路に含まれる前記第2位相積分器の出力を第2の所定のタイミングで取り込んで出力する第2位相検出器と、
前記第2位相検出器から出力される値を所定のタイミングで複数回取り込んでそれらの差を用いて前記第1キャリア信号を周波数変換する際に前記第2局部発振信号の周波数変更により変動する初期位相あるいは基準時刻位相を補正する第2位相計算器を具備し、
前記算出部は、前記第1及び第2受信器による前記第1及び第2キャリア信号の受信によって得られる位相検出結果と、前記第1及び第2位相計算で求めた補正された位相に基づいて前記距離の算出を行う測距装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、位相補正装置及び測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車の施錠・開錠を容易にするキーレスエントリシステムが多くの自動車に採用されている。この技術によれば、自動車のユーザは、自動車のキーフォブと自動車間の通信を利用してドアを施錠・開錠することができる。更に近年、ユーザがキーフォブに触れることなくドアを施錠・開錠したり、エンジンを始動させたりすることができるスマートキーシステムも広く普及している。
【0003】
しかしながら、所謂リレーアタックを行う攻撃者がキーフォブと自動車間の通信に侵入し、車または車内物品を盗難する事件が多発している。そこで、上述した攻撃(所謂リレーアタック)の防御策としてキーフォブと自動車間の距離を測定し、距離が所定の距離以上と判断したときは通信による車の制御を禁止する策が検討されている。
【0004】
測距方式には時間検出方式、周波数差検出方式、位相検出方式などがあるが、実装の簡易性から、各装置間の通信によって各装置間の距離を求める通信型位相検出方式を採用した測距システムが注目されている。しかし、各装置間の基準信号は独立に動作することから、互いに基準時刻位相が異なるため一般に通信型位相検出方式では測距精度が大きく劣化する、という課題がある。
【0005】
なお、この提案では、測距装置内の局部発振器において基準となる時刻における位相(特に、時刻0における位相は初期位相と呼ばれる)、以下基準時刻位相が変動しないことを前提にして正確な測距を可能にしている。
【0006】
一方で、測距装置はキーフォブ側にも搭載されるため、キーフォブの電池の寿命を長くする要求があり、測距装置の低消費電力化が求められる。測距装置の消費電力の大半は無線部で消費されるので、無線部の低消費電力化が要望される。無線部の消費電力は無線部のアーキテクチャに強く依存する。送信部にデジタル制御発振器(DCO)直接変調方式(以下、DCO直接変調方式ともいう)を用い、受信部にスライディングIF方式を用いる構成が低消費電力の構成として広く知られている。ゆえに、送信部にDCO直接変調方式を用い、受信部にスライディングIF方式を用いた構成により測距装置を実現することが望まれる。
【0007】
しかしながら、送信部にDCO直接変調方式を用い、受信部にスライディングIF方式を用いて測距する場合には、測距装置内の局部発振器において、基準時刻位相が変動する。このため、送信部にDCO直接変調方式を用い、受信部にスライディングIF方式を用いた測距装置では、正確な測距ができない。
【0008】
なお、局部発振器における基準時刻位相の変動は、測距装置に限らず、局部発振器を用いて入力される信号の位相を検出する種々の装置において悪影響を及ぼすことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-155724公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、実施形態は、局部発振器および分周器における初期位相あるいは基準時刻位相の変動量を検出することができる位相補正装置及び測距装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態の位相補正装置は、参照クロックに基づいて、前記参照クロックの周波数と希望発振出力周波数との比である周波数制御データを用いて複数種類の局部発振信号を生成する完全デジタル位相同期回路を有し、位相検出の対象となる入力された信号を前記局部発振信号及び前記参照クロックから生成された信号により周波数変換を行った後に前記入力された信号の位相を検出する装置に対して前記局部発振信号を与える局部発振器と、前記完全デジタル位相同期回路に含まれる位相積分器の出力を所定のタイミングで取り込んで出力する位相検出器と、前記位相検出器から出力される値を所定のタイミングで複数回取り込んでそれらの差を用いて前記入力された信号を周波数変換する際に前記局部発振信号の周波数変更により変動する初期位相あるいは基準時刻位相を補正する位相計算器とを具備し、前記完全デジタル位相同期回路は、前記局部発振信号の波数をカウントするカウンタと、前記局部発振信号と前記参照クロックとの位相差を求める時間デジタル変換器と、前記参照クロック毎に前記周波数制御データを積算する前記位相積分器と、前記位相積分器の出力から前記カウンタ及び前記時間デジタル変換器の出力を減算する減算器と、前記減算器が求めた位相誤差に基づいて前記局部発振信号を出力するデジタル制御発振器とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る位相変動検出装置及び位相補正装置を含む測距装置により構成される測距システムを示すブロック図。
図2】通信型位相検出方式により、2つの装置間で測距を行う関連技術における測距システムの無線回路の構成図。
図3】送信部にDCO直接変調方式、受信部にスライディングIF方式を用いる測距装置を採用した場合における「8交番」測距シーケンスを示す説明図。
図4】横軸に時間をとり縦軸に位相θをとって、「8交番」測距シーケンスにおける信号S2,S5の位相の変化を示すグラフ。
図5図3の時刻tと時刻tとの間の装置1Aと装置2Aの設定を示す説明図。
図6図2の装置における動作を説明するための図。
図7図4と同様のグラフに、5通りの位相差の情報を説明する矢印を付加した図。
図8図4と同様のグラフに、5通りの位相差の情報を説明する矢印を付加した図。
図9】実施の形態に係る位相変動検出装置及び位相補正装置を含む測距装置を示すブロック図。
図10】mpl2及び位相計算器phscalc2の一部の更に具体的な構成を示す回路図。
図11】タイミング信号thとmpl2Aの出力信号の関係を説明する図。
図12】タイミング信号thとmpl2Aの出力信号の関係を説明する別の図。
図13】タイミング生成回路40の具体的な構成の一例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
(実施形態)
図1は実施の形態に係る位相変動検出装置及び位相補正装置を含む測距装置により構成される測距システムを示すブロック図である。図1の装置1,2間で単一波信号の送受信を行うことで、装置1と装置2との間の距離を求める測距が可能となる。なお、単一波信号は、無変調キャリア等の単一周波数の信号である。
【0015】
本実施の形態においては、位相変動検出装置及び位相補正装置を測距装置に適用する例について説明するが、測距装置以外にも、入力された信号の位相を検出する各種装置に適用することも可能である。例えば、測位装置への適用も可能である。
【0016】
図2は、通信型位相検出方式により、2つの装置間で測距を行う関連技術における測距システムの無線回路の構成図である。図1及び図2において同一の構成要素には同一符号を付し、同一構成については重複する説明を省略するものとする。
通信型位相検出方式では、一方の装置で検出した位相情報を他方の装置へ伝えることにより測距を可能にする。このように、対となる2つの測距装置の受信部で検出した信号の位相情報を用いて、所定の演算を施すことにより精度の良い距離を算出することができる場合があるが、受信部にスライディングIF方式を用いた場合には、正確な測距は困難である。
【0017】
先ず、図2を参照して、送信部にデジタル制御発振器(DCO)直接変調方式を用い、受信部にスライディングIF方式を用いた関連技術の測距装置では、対となる2つの測距装置の受信部で検出した信号の位相情報を用いても、正確な測距ができない理由を説明する。また、図3から図6図2の装置における動作を説明するための図である。
【0018】
測距システム100Aは、装置1Aと装置2Aを含む。装置1Aと装置2Aの少なくとも一方が移動自在である。測距システム100Aでは、キャリア位相検出に基づいて、装置1Aと装置2A間の距離が算出される。装置1Aと装置2Aの一方が、装置1A及び装置2Aにより取得した位相情報に基づいて距離を算出する場合を考える。
【0019】
装置1Aが第1の測距信号(単一波信号)を送信し、装置2Aが第2の測距信号(単一波信号)を送信する。第1及び第2の測距信号は、それぞれ装置1Aと装置2A間の伝搬経路PDLYを経由して、装置2A及び装置1Aへ到達する。装置1A及び装置2Aは、送信部に低消費電力のDCO直接変調方式を用い、受信部に低消費電力のスライディングIF方式を用いた無線回路を有している。
【0020】
図2では装置1A及び装置2Aの簡略化した無線部の構成を示している。装置1Aは、装置固有の発振器(OSC1)、周波数乗算器(mpl1A)、RF周波数変換器(RFMIX1)、第1周波数分周器(div11)、第2周波数分周器(div12)、第1中間(1stIF)周波数変換器(IFMIX11)、第2中間(2ndIF)周波数変換器(IFMIX12)を有する。装置2Aも、装置1Aと同様の無線アーキテクチャを有し、装置固有の発振器(OSC2)、周波数乗算器(mpl2A)、RF周波数変換器(RFMIX2)、第1周波数分周器(div21)、第2周波数分周器(div22)、第1中間(1stIF)周波数変換器(IFMIX21)、第2中間(2ndIF)周波数変換器(IFMIX22)を有する。なお、装置1A,2Aにおいては、mpl1A,mpl2Aの出力信号は装置1A,2Aの送信信号になると共に、ローカル信号(LO信号)としても用いられる。即ち、mpl1A,mpl2Aは、それぞれ局部発振器を構成する。
【0021】
以下、問題点を明確にするために、装置1Aと装置2Aは先ず最初に送信周波数を設定するものとする。即ち、初期設定において、例えば、装置1A,2Aの送信周波数は、それぞれOSC1,OSC2の発振周波数を所定倍数k倍にした周波数にする。
【0022】
装置1AのOSC1の出力信号(発振信号)S1(=lox1)は、OSC1の発振信号の周波数をfx1、装置1Aの動作において基準とする時刻ta1における位相(以下装置1Aにおける基準時刻での位相、もしくは装置1Aに関する記述であることが明らかである場合は単に基準時刻位相とよぶ)をθx1として、下記(1)式で表すことができる。
lox1=sin(2πfx1(t-ta1)+θx1) (1)
mpl1Aは、OSC1の発振周波数をk倍する。mpl1Aの出力信号S2の位相φtx1は、mpl1Aの出力信号S2の基準時刻位相をθLx1と置くと
φtx1=2πkx1(t-ta1)+θLx1 (2)
と表される。mpl1Aの出力は一般にデジタル制御発振器(DCO)技術とデジタル周波数/位相同期技術により生成される。なお、位相同期部にTDC(Time to Digital Converter)を用いたmpl1Aでは、θLx1=kθx1は一般に成立しない。そこで、上記(2)式では、mpl1Aの出力S2の基準時刻位相をθLx1と定義している。
【0023】
装置2Aについても、同様の送信周波数設定を行う。装置2AのOSC2の出力信号S4(=lox2)は、OSC2の発振信号の周波数をfx2、装置2Aの動作において基準とする時刻ta2における位相(以下装置2Aにおける基準時刻での位相、もしくは装置2Aに関する記述であることが明らかである場合は単に基準時刻位相とよぶ)をθx2として、下記(3)式で表すことができる。
lox2=sin(2πfx2(t-ta2)+θx2) (3)
mpl2Aにおいても、OSC2の発振周波数をk倍する。mpl2Aの出力信号S5の位相φtx2は、
φtx2=2πkx2(t-ta2)+θLx2 (4)
と表される。ここで、θLx2はmpl2Aの出力の基準時刻位相である。mpl2Aの出力についても、mpl1Aの出力と同様に、θLx2=kθx2は一般に成立しない。そこで、上記(4)式では、mpl2Aの出力の基準時刻位相をθLx2と定義した。
【0024】
特許文献1においては、同時に送受信を実施しないTDD(Time Division Duplex)のシステムの場合、装置1Aと装置2A間で単一波信号のやり取りをすることにより正しい測距ができることを開示している。なお、特許文献1の装置は、無線部の構成が図2とは異なる。特許文献1においては、装置1A,2A間で、それぞれ2波の単一波信号を用いて、合わせて4回ずつの送信と受信とを繰り返す「8交番」の測距シーケンスを採用することで、正しく測距できることを示している。このような周波数を変更しながらの送信及び受信は、装置1A,2Aにおいて、mpl1A,mpl2Aの設定を変更することで可能となる。
【0025】
図3は送信部にDCO直接変調方式、受信部にスライディングIF方式を用いる測距装置を採用した場合における「8交番」測距シーケンスの例を示している。図3の測距シーケンスについて、送信信号に注目して交番の順序を説明すると以下の通りとなる。装置1Aは時刻t=t,t=tにおいて、周波数kx1の信号を送信し、時刻D+t,D+tにおいて、周波数kx1の信号を送信する。一方、装置2Aは時刻tから、周波数kx2の信号を2回送信し、時刻D+tから、周波数kx2の信号を2回送信する。
【0026】
装置1A、装置2Aは、初期設定において、送信信号の周波数をそれぞれkx1、周波数kx2(以下、これらを低周波数ともいう)に設定した後、送信を行う。装置1A,2Aの送信のみを考慮した場合、先ず、装置1Aから装置2Aへ周波数kx1の単一波信号が送信され、装置2Aは装置1Aからの周波数kx1の単一波信号を受信する。図3では、装置1Aが装置2Aへ周波数kx1の単一波信号を送信する設定に所定の時間を要した後時刻tで送信が行われることを示している。
【0027】
次に装置2Aにおいて装置1Aへ周波数kx2の単一波信号を送信する設定に所定の時間を要した後、時刻tでこの単一波信号の送信が2回行われる。さらに、再度、装置1Aから装置2Aへ周波数kx1の単一波信号が送信され、装置2Aは装置1Aからの周波数kx1の単一波信号を受信する。装置1はこの送信のために所定の時間を要し、時刻tにおいて送信を行う。これらの信号のやり取りは時刻tで終了する。
【0028】
図4は横軸に時間をとり縦軸に位相θをとって、「8交番」測距シーケンスにおける信号S2,S5の位相の変化を示すグラフである。図4においては位相の変化が理解しやすいようにta1=ta2とした場合を示しており、縦軸と横軸の交点の時間を時刻ta1ないしは時刻ta2として図示している。なお、図4中の括弧で示す数字は、明細書中の式の番号に対応する。また、図4の縦軸に示した時刻における位相において、添え字に含まれるLは、単一波信号が低周波数であることを示し、x1は信号S2の基準時刻位相であることを示し、x2は信号S5の基準時刻位相であることを示し、mは周波数を(k+m)n/(n-1)倍する場合を示し、図4の位相θの下付括弧内の数字は括弧のない初期設定の周波数からの周波数の変化の順番に対応している。n,mの意味は後述する。なお、明細書中においては、以下同様の添え字を用い、信号S2,S5の基準時刻位相を示す記号中の添え字のHは、単一波信号が高周波数であることを示す。
【0029】
図4の破線直線(2)は、上記送信のみを考慮した場合において、装置1Aのmpl1Aの出力信号S2の位相φtx1を示し、破線直線(4)は、装置2Aのmpl2Aの出力信号S5の位相φtx2を示している。位相φtx1は、基準時刻位相をθLx1とし、2πkx1の傾斜を有する直線状の特性を有する。また、位相φtx2は、時刻tにおける位相をθLx2とし、2πkx2の傾斜を有する直線状の特性を有する。
【0030】
しかしながら、DCO直接変調方式及びスライディングIF方式を用いる図2の測距装置では、送信時と受信時とで、mpl1A,mpl2Aの送信信号の周波数を変更する必要がある。
【0031】
図5図3の時刻tと時刻tとの間の装置1Aと装置2Aの設定を示す説明図である。なお、この期間には、装置1Aの受信動作は行われないので、動作に不要な部分を一点鎖線にて示す。
【0032】
スライディングIF方式では、受信信号を1stIF周波数に変換してから2ndIF周波数に変換する。図5の例では、装置2AのRFMIX2は、受信信号をまず約-{(k+mn)/(n-1)}fx2の1stIF周波数信号S81に変換する必要がある。この理由から、装置1Aからの周波数kx1の単一波信号を受信する装置2Aにおいては、RFMIX2に与えるmpl2Aからのローカル信号(LO信号)S5の周波数をkx2ではなく、{(k+m)n/(n-1)}fx2とする。1stIF周波数S81に変換された受信信号は、第1IF周波数変換器(IFMIX21)により周波数変換されて、2ndIF周波数信号S82が得られる。div21は、LO信号S5を(1/n)倍した周波数を有する信号S61に分周し、それはIFMIX21用のLO信号として用いられる。2ndIF周波数に変換された受信信号は、第2IF周波数変換器(IFMIX22)により周波数変換されて、ベースバンドの出力信号S9が得られる。div22は、OSC2の出力信号S4をm倍した周波数を有する信号S62に分周し、それはIFMIX22用のLO信号として用いられる。信号S62の位相φb2は、下記(5)式で表される。
φb2=2πmfx2(t-ta2)+θBx2 (5)
ここで、θBx2はdiv22からのIFMIX22用LO信号の基準時刻位相である。
【0033】
装置2Aにおいて装置1Aからの信号を受信するために、mpl2Aの出力信号S5の位相φtx2を、上記(4)式を変形した下記(6)式に示すものに設定する。
φtx2=2π{(k+m)n/(n-1)}fx2(t-ta2)+θLmx2(1) (6)
ここで、θLmx2(1)は時刻tと時刻t間におけるmpl2Aの出力信号S5の基準時刻位相である。このとき、信号S61の位相φv2は、下記(6a)式で表される。
φv2=2π{(k+m)/(n-1)}fx2(t-ta2)+θLVx2(1) (6a)
ここで、θLVx2(1)は時刻tと時刻t間における信号S61の基準時刻位相である。なお、装置1Aにおいては、mpl1Aの周波数を変更する必要がないので、mpl1Aの出力信号S2の位相φtx1は(2)式のままである。
【0034】
図6図3の時刻tと時刻tとの間の装置1Aと装置2Aの設定を示す説明図である。なお、この期間には、装置2Aの受信動作は行われないので、動作に不要な部分を一点鎖線にて示す。
【0035】
スライディングIF方式を採用する装置1Aにおいても、図6の例では、RFMIX1は受信信号をまず約-{(k+mn)/(n-1)}fx1の1stIF周波数信号S111に変換する必要がある。この理由から、装置2Aからの周波数kx2の単一波信号を受信する装置1Aにおいては、RFMIX1に与えるmpl1Aからのローカル信号(LO信号)S2の周波数をkx1ではなく、{(k+m)n/(n-1)}fx1とする。1stIF周波数S111に変換された受信信号は、第1IF周波数変換器(IFMIX11)により周波数変換されて、2ndIF周波数信号S112が得られる。div11は、LO信号S2を(1/n)倍した周波数を有する信号S31に分周し、それはIFMIX11用のLO信号として用いられる。2ndIF周波数に変換された受信信号は、第2IF周波数変換器(IFMIX12)により周波数変換されて、ベースバンドの出力信号S12が得られる。div12は、OSC1の出力信号S1をm倍した周波数を有する信号S32に分周し、それはIFMIX12用のLO信号として用いられる。信号S32の位相φb1は、下記(7)式で表される。
φb1=m2πfx1(t-ta1)+θBx1 (7)
ここで、θBx1はdiv12からのIFMIX12用LO信号の基準時刻位相である。
【0036】
装置1Aにおいて装置2Aからの信号を受信するために、mpl1Aの出力信号S2の位相φtx1を、上記(2)式を変形した下記(8)式に示すものに設定する。
φtx1=2π{(k+m)n/(n-1)}fx1(t-ta1)+θLmx1(1) (8)
ここで、θLmx1(1)は時刻tと時刻t間におけるmpl1Aの出力信号S2の基準時刻位相である。このとき、信号S31の位相φv1は、下記(8a)式で表される。
φv1=2π{(k+m)/(n-1)}fx1(t-ta1)+θLVx1(1) (8a)
ここで、θLVx1(1)は時刻tと時刻t間における信号S31の基準時刻位相である。
【0037】
一方装置2Aはこの期間において、送信周波数の設定を{(k+m)n/(n-1)}fx2からkx2に戻す。このとき、mpl2Aの出力信号S5の位相φtx2は、下記(9)式で表される。なお、θLx2(2)は、この場合における信号S5の基準時刻位相である。
φtx2=2πkx2(t-ta2)+θLx2(2) (9)
次のシーケンスになる時刻tと時刻tとの間においては、装置1Aと装置2Aの設定は図5と同じになる。装置2Aは、装置1Aからの周波数kx1の単一波信号を受信するために、RFMIX2に与えるLO信号(信号S5)の周波数はkx2から{(k+m)n/(n-1)}fx2に変更される。なお、この場合に、IFMIX2に与えるIFMIX2用LO信号(信号S6)の位相φb2は、上記(5)式と同じである。
【0038】
装置2Aのmpl2Aの出力信号S5の位相φtx2は、上記(9)式を変形した下記(10)式で与えられる。
φtx2=2π{(k+m)n/(n-1)}fx2(t-ta2)+θLmx2(2) (10)
ここで、θLmx2(2)は時刻tと時刻t間におけるmpl2Aの出力信号S5の基準時刻位相である。このとき、信号S61の位相φv2は、下記(10a)式で表される。
φv2=2π{(k+m)/(n-1)}fx2(t-ta2)+θLVx2(2)
(10a)
ここで、θLVx2(2)は時刻tと時刻t間における信号S61の基準時刻位相である。
【0039】
一方、装置1Aは、送信周波数を{(k+m)n/(n-1)}fx1からkx1に戻す。このとき、mpl1Aの出力信号S2の位相φtx1は、下記(11)式に示すものに設定される。
φtx1=2πkx1(t-ta1)+θLx1(2) (11)
ここで、θLx1(2)は時刻tと時刻tとの間におけるmpl1Aの出力信号S2の基準時刻位相である。
【0040】
このように、時刻tと時刻tの間において、mpl1Aの信号S2の位相φtx1は、図4の太線特性C1に示すように変化し、mpl2Aの信号S5の位相φtx2は、図4の太線特性C2に示すように変化する。
【0041】
図3の時刻D+tから時刻D+tにおいては、装置1Aからは周波数がkx1の単一波信号が送信され、装置2Aからは周波数がkx2の単一波信号が出力される。以下、これらの周波数を高周波数ともいう。この場合のシーケンスは、図5及び図6において、kをkに変更するだけの違いなので、説明を省略する。
【0042】
次に、図5を参照して、mpl1A、mpl2Aの位相を考慮しつつ、時刻tと時刻tとの間に装置2Aにおいて検出されるベースバンド信号S9の位相φBB2L(T12)(t)を求める。伝搬経路PDLYの通過後の信号S7の位相φrx2は、下記(12)式で表される。
φrx2=2πkx1(t-ta1-τ)+θLx1 (12)
ここで、τは伝搬経路長Rの遅延時間である。信号S7は信号S5(LO信号)を用いて周波数変換される。(12)式と(6)式から、RFMIX2の出力信号S81の位相φif1x2(T12)(t)は、下記(13)式で表される。
φif1x2(T12)(t)=2πkx1(t-ta1)-2π{(k+m)n/(n-1)}fx2(t-ta2)+(θLx1-θLmx2(1))-2πkx1τ (13)
なお、(13)式は所望の信号のみを抽出した位相結果を示している。この信号が信号S61を用いて周波数変換される。(13)式と(6a)式から、IFMIX21の出力信号S82の位相φif2x2(T12)(t)は、下記(13a)式で表される。
φif2x2(T12)(t)=2πk(fx1-fx2)t-2πmfx2t+(θLx1-θLmx2(1)+θLVx2(1))-2πkx1τ-2πkx1a1+2π(k+m)fx2a2 (13a)
なお、(13a)式は所望の信号のみを抽出した位相結果を示している。この信号が信号S62を用いて周波数変換される。従って、式(13a)と式(5)から、装置2Aで検出される信号S9の位相φBB2L(T12)(t)は、下記(14)式で表されるものとなる。
φBB2L(T12)(t)=2πk(fx1-fx2)t+(θLx1-θLmx2(1)+θLVx2(1))+θBx2-2πk(fx1a1-fx2a2)-2πkx1τ (14)
なお、(14)式は、所望の直交復調した結果を示している。
【0043】
同様に、図5を参照して、時刻tと時刻tとの間に装置2Aで検出される信号S9の位相を求める。式(11)から伝搬経路PDLYの通過後の信号S7の位相は、
φrx2=2πkx1(t-ta1-τ)+θLx1(2) (15)
で表される。信号S7は信号S5(LO信号)により周波数変換される。式(15)と式(10)から、RFMIX2の出力信号S81の位相φif1x2(T34)(t)は、下記(16)式で表される。
φif1x2(T34)(t)=2πkx1(t-ta1)-2π{(k+m)n/(n-1)}fx2(t-ta2)+(θLx1(2)-θLmx2(2))-2πkx1τ
(16)
なお、(16)式は所望の信号のみを抽出した位相結果を示している。この信号が信号S61を用いて周波数変換される。(16)式と(10a)式から、IFMIX21の出力信号S82の位相φif2x2(T34)(t)は、下記(16a)式で表される。
φifx2(T34)(t)=2πk(fx1-fx2)t-2πmfx2t+(θLx1(2)-θLmx2(2)+θLVx2(2))-2πkx1τ-2πkx1a1+2π(k+m)fx2a2 (16a)
なお、(16a)式は所望の信号のみを抽出した位相結果を示している。この信号が信号S62を用いて周波数変換される。式(16a)と式(5)から、装置2Aで検出される信号S9の位相φBB2L(T34)(t)は、
φBB2L(T34)(t)=2πk(fx1-fx2)t+(θLx1(2)-θLmx2(2)+θLVx2(2))+θBx2-2πk(fx1a1-fx2a2)-2πkx1τ
(17)
となる。なお、(17)式は所望の直交復調した結果を記載している。
【0044】
次に、図6を参照して、時刻tと時刻tとの間に装置1Aにおいて検出する信号S12の位相を求める。上記(9)式から伝搬経路PDLYの通過後の信号S10の位相φrx1は、下記(18)式で与えられる。
φrx1=2πkx2(t-ta1-τ)+θLx2(2) (18)
信号S10は、RFMIX1において、信号S2(LO信号)を用いて周波数変換される。(18)式及び(8)式から、RFMIX1の出力信号S111の位相φif1x1(T23)(t)は、下記(19)式で表される。
φif1x1(T23)(t)=2πkx2(t-ta2)-2π{(k+m)n/(n-1)}fx1(t-ta1)+(θLx2-θLmx1(1))-2πkx2τ (19)
なお、(19)式は所望の信号のみを抽出した位相結果を示している。この信号が信号S31を用いて周波数変換される。(19)式と(8a)式から、IFMIX11の出力信号S112の位相φif2x2(T23)(t)は、下記(19a)式で表される。
φifx1(T23)(t)=2πk(fx2-fx1)t-2πmfx1t+(θLx2(2)-θLmx1(1)+θLVx1(1))-2πkx2τ+2π(k+m)fx1a1-2πkx2a2 (19a)
なお、(19a)式は所望の信号のみを抽出した位相結果を示している。この信号S112は信号S32を用いて周波数変換される。その結果、装置1Aで検出される信号S12の位相φBB2L(T23)(t)は、(19a)式及び(7)式から下記(20)式で表される。
φBB2L(T23)(t)=2πk(fx2-fx1)t+(θLx2(2)-θLmx1(1)+θLVx1(1))+θBx1+2πk(fx1a1-fx2a2)-2πkx2τ (20)
なお、(20)式は所望の直交復調した結果を記載している。
【0045】
特許文献1においては、測距シーケンスによって得られる受信信号の位相の加算によって、距離を求めることができることを示している。図3の例では、時刻tから時刻tにおける低周波数の単一波信号の送受信において得られる受信信号の4つの位相をそれぞれ、φ12-1L、φ21-1L、φ21-2L、φ12-2Lとすると、4つの位相の加算結果φBBLSUM(t)は、下記(21)式で表される。
φBBLSUM(t)=φ12-1L+φ21-1L+φ21-2L+φ12-2L (21)
時刻tと時刻tの間隔と時刻tと時刻tの間隔t
=t-t=t-t (22)
とし、装置1Aから1回目の測距信号を送信する時刻から装置2Aから2回目の測距信号を送信する時刻までの時間間隔をTとすると、(21)式の4位相加算結果は、下記(23)式に示すものとなる。
φBBLSUM(t)=φBB2L(T12)(t)+φBB2L(T23)(t+t)+φBB2L(T23)(t+T)+φBB2L(T34)(t+t+T) (23)
上記(23)式に、上記(14)式、(17)式及び(20)式を代入して、下記(24)及び(25)式が得られる。
φBBLSUM(t)=-4πk(fx1+fx2)τ+2(θBx1+θBx2)+θLSUM (24)
θLSUM=(θLx1-θLmx2(1)+θLVx2(1))+2×(θLx2(2)-θLmx1(1)+θLVx1(1))+(θLx1(2)-θLmx2(2)+θLVx2(2)) (25)
上記(24)式から遅延τを求めると、装置間距離に応じた遅延τは、下記(26)式によって示すものとなる。
τ=-(θBx1+θBx2)/{2πk(fx1+fx2)}-θLSUM/{4πk(fx1+fx2)}+φBBLSUM(t)/{4πk(fx1+fx2)} (26)
上記(26)式の第3項は4位相の加算結果であり、計測によって求められる。しかし、それ以外の項は、検出が困難である。従って、低周波数の単一波信号の4交番では正しい測距はできない。
【0046】
図3の測距シーケンスでは、装置1A,2Aは低周波数での送信に続けて、高周波数の単一波信号を用いたシーケンスを実施する。高周波数のシーケンスは低周波数のシーケンスと同じであるが、違いは周波数設定パラメータkをkに変更することである。解析に重要な式を以下に示す。
【0047】
時刻D+tと時刻D+tとの間において、装置2Aは、装置1Aからの周波数kx1の単一波信号を受信する。装置2Aが受信する信号S7の位相φBB2H(T12)(t)は、下記(27)式で表される。
φBB2H(T12)(t)=2πk(fx1-fx2)t+(θHx1-θHmx2(1)+θHVx2(1))+θBx2-2πk(fx1a1-fx2a2)-2πkx1τ (27)
ただし、θHx1は装置1Aの周波数kx1の信号S2の基準時刻位相であり、θHmx2(1)は装置2Aの周波数{(k+m)n/(n-1)}fx2の信号S5の基準時刻位相であり、θHVx2(1)はこの時の信号S61の基準時刻位相である。
【0048】
時刻D+tと時刻D+tとの間には、装置1Aが装置2Aからの周波数kx2の単一波信号を受信する。装置1Aで受信する信号S12の位相φBB2H(T23)(t)は、下記(28)式で表される。
φBB2H(T23)(t)=2πk(fx2-fx1)t+(θHx2(2)-θHmx1(1)+θHVx1(1))+θBx1+2πk(fx1a1-fx2a2)-2πkx2τ (28)
ただし、θHx2(2)は装置2Aの周波数kx2の信号S5の基準時刻位相であり、θHmx1(1)は装置1Aの周波数{(k+m)n/(n-1)}fx1の信号S2の基準時刻位相であり、θHVx1(1)はこの時の信号S31の基準時刻位相である。
【0049】
時刻D+tと時刻D+tとの間には、装置2Aは、装置1Aからの周波数kx1の単一波信号を受信する。装置2Aで受信する信号S7の位相φBB2H(T34)(t)は、下記(29)式で表される。
φBB2H(T34)(t)=2πk(fx1-fx2)t+(θHx1(2)-θHmx2(2)+θHVx2(2))+θBx2-2πk(fx1a1-fx2a2)-2πkx1τ (29)
ただし、位相θHx1(2)は装置1Aの周波数kx1の信号S2の基準時刻位相であり、θHmx2(2)は装置2Aの周波数{(k+m)n/(n-1)}fx2の信号S5の基準時刻位相であり、θHVx2(2)はこの時の信号S61の基準時刻位相である。
【0050】
図3の例において、時刻D+tから時刻D+tにおける高周波数の単一波信号の送受信において得られる受信信号の4つの位相をそれぞれ、φ12-1H、φ21-1H、φ21-2H、φ12-2Hとすると、4つの位相の加算結果φBBHSUM(t)は、下記(30)式で表される。
φBBHSUM(t)=φ12-1H+φ21-1H+φ21-2H+φ12-2H (30)
上記(30)式に、(22)式及び時刻Tの情報を加えると、下記(31)式が得られる。
φBBHSUM(t)=φBB2H(T12)(t)+φBB2H(T23)(t+t)+φBB2H(T23)(t+T)+φBB2H(T34)(t+T+t) (31)
(27)式、(28)式及び(29)式を用いて、(31)式を変形すると、下記(32)式及び(33)式が得られる。
φBBHSUM(t)=-4πk(fx1+fx2)τ+2(θBx1+θBx2)+θHSUM (32)
θHSUM=(θHx1-θHmx2(1)+θHVx2(1))+2×(θHx2(2)-θHmx1(1)+θHVx1(1))+(θHx1(2)-θHmx2(2)+θHVx2(2)) (33)
(32)式を装置間距離に応じた遅延τについて解くと、下記(34)式が得られる。
τ=-(θBx1+θBx2)/{2πk(fx1+fx2)}-θHSUM/{4πk(fx1+fx2)}+φBBHSUM(t)/{4πk(fx1+fx2)} (34)
(34)式の第3項は、4位相の加算結果であるので、測定による検出できる。しかし、それ以外の項は検出が困難である。従って、高周波数の単一波信号による4交番の送受信では正しい測距はできない。
【0051】
次に、低周波数および高周波数の2波を用いた測距を考える。すなわち、上記(23)式と(31)式の減算をすることにより、遅延τを求める。(23)式と(31)式の減算により、下記(35)式が得られる。
φBBLSUM(t)-φBBHSUM(t)=4π(k-k)(fx1+fx2)τ+θLSUM-θHSUM (35)
(35)式から、遅延τは、下記(36)式によって得られる。
τ=-(θLSUM-θHSUM)/4π(k-k)(fx1+fx2)+(φBBLSUM(t)-φBBHSUM(t))/4π(k-k)(fx1+fx2) (36)
(36)式の第2項は、受信した単一波信号の位相の演算により得られる値、即ち計測値である。しかし、(36)式の第1項は(25)式および(33)式で表される装置1A、2Aの信号S2,S5の基準時刻位相の加減算を示している。信号S2,S5の基準時刻位相は、図3の測距シーケンスでは図4に示すものとなる。特許文献1の提案では、基準時刻を時刻0としたときの基準時刻位相すなわち初期位相が測距シーケンスにおいて変化しない条件を用いて初期位相の成分を相殺することで、正確な測距が可能であった。しかしながら、DCO直接変調方式及びスライディングIF方式を用いた場合には、図4のように周波数設定を変えるたびに初期位相が変化してしまうことから、上記(36)式の第1項を求めることはできず、伝搬遅延時間τを正確に計算することができない。伝搬遅延時間に光速を乗算することにより距離が算出できるので、言い換えれば、距離を正確に算出できない。
【0052】
なお、上記説明は、測距装置において、局部発振器であるmpl1A,mpl2Aの出力信号の初期位相の変動により測距を正確に行うことができない問題について示した。しかし、測距装置に限らず、局部発振器を用いて信号の位相を検出する種々の装置において、その出力信号の初期位相の変動により所望の機能が達成できないことが考えられる。本実施の形態は、このような局部発振器を用いて信号の位相を検出する種々の装置に適用可能なものである。
【0053】
(変動する初期位相の補正方法)
本実施の形態においては、局部発振器と周波数分周器の出力位相を求めるための位相検出器を採用し、位相検出器は初期設定の周波数と再設定した周波数の公約数の周波数を基にしたタイミングで位相を検出し、位相検出器で検出した周波数再設定前の位相と周波数再設定後の位相との差を求めることで位相変化及び周波数変化による位相の変動量を求め、求めた変動量に応じて位相を補正することで、局部発振器と周波数分周器を用いる装置において、初期位相を変化させない場合と同様の機能を達成することを可能にする。
【0054】
(測距装置)
図1において、測距装置である装置1,2は、送信部にデジタル制御発振器(DCO)直接変調方式を用い、受信部にスライディングIF方式を用いた構成である。本実施の形態の測距システム100は、装置1と装置2を含み、装置1と装置2の少なくとも一方が移動自在である。装置1が第1の測距信号(単一波信号)を送信し、装置2が第2の測距信号(単一波信号)を送信する。第1及び第2の測距信号は、それぞれ装置1と装置2間の伝搬経路PDLYを経由して、装置2及び装置1へ到達する。
【0055】
図1において、装置1は、装置固有の発振器(OSC1)、周波数乗算器(mpl1)、RF周波数変換器(RFMIX1)、第1周波数分周器(div11)、第2周波数分周器(div12)、第1中間(1stIF)周波数変換器(IFMIX11)、第2中間(2ndIF)周波数変換器(IFMIX12)を有する。また、装置2は、装置1と同一構成であり、装置固有の発振器(OSC2)、周波数乗算器(mpl2)、RF周波数変換器(RFMIX2)、第1周波数分周器(div21)、第2周波数分周器(div22)、第1中間(1stIF)周波数変換器(IFMIX21)、第2中間(2ndIF)周波数変換器(IFMIX22)を有する。
【0056】
即ち、装置1,2が図2の装置1A,2Aとそれぞれ異なる主な点は、mpl1A,mpl2Aにそれぞれ代えてmpl1,mpl2を採用したことである。mpl1,mpl2においてもそれぞれの出力信号は装置1,2の送信信号になると共に、ローカル信号(LO信号)としても用いられる。即ち、mpl1,mpl2は、それぞれ局部発振器を構成する。
【0057】
mpl1及びmpl2は、それぞれmpl1A又はmpl2Aと同様のLO信号を発生することができる。従って、本実施の形態においても、図3に示す測距シーケンスを実施することができ、装置間距離に応じた遅延τを求める上記(36)式が成立する。本実施の形態は、mpl1,mpl2を採用して、上記(36)式の第1項の値を求めることにより、正確な測距を可能にする。
【0058】
先ず、図7のグラフを参照して、上記(36)式の第1項の計算に必要な、10種類の位相差について説明する。図7図4と同様のグラフに、低周波数における5通りの位相差の情報を説明する矢印を付加したものである。なお、図7及び後述の図8においても位相の変化が理解しやすいようにta1=ta2とした場合を示しており、縦軸と横軸の交点の時間を時刻ta1ないしは時刻ta2として図示している。また、5通りの位相差を示す記号中の添え字に含まれるTTは、周波数がk倍(図8においてはk倍。以下同じ)された信号の位相の変動に関するもの、RRは周波数が{(k+m)n/(n-1)}倍された信号の位相の変動に関するもの、TRは周波数がk倍された信号の位相と周波数が{(k+m)n/(n-1)}倍された信号の位相との変化に関するものであることを示している。また、これらの位相差を示す記号中の添え字に含まれるLは、単一波信号が低周波数であることを示し、Hは単一波信号が高周波数であることを示し、1は信号S2に関するものであることを示し、2は信号S5に関するものであることを示している。
【0059】
上述したように、装置1,2は、図3の時刻tまでに、送信周波数の初期設定を行う。即ち、装置1、装置2は、mpl1,mpl2によって、それぞれ送信周波数がkx1,kx2に設定される。図3の低周波数における測距シーケンスを再度説明すると、装置1のmpl1の出力信号S2の基準時刻位相は、時刻t以前の基準時刻位相θLx1、時刻tから時刻tにおける基準時刻位相θLmx1(1)、時刻tから時刻tの基準時刻位相θLx1(2)と変化する。また、装置2については、mpl2の出力信号S5の基準時刻位相は、時刻t以前の基準時刻位相θLx2、時刻tから時刻tにおける基準時刻位相θLmx2(1)、時刻tから時刻tにおける基準時刻位相θLx2(2)、時刻tから時刻tにおける基準時刻位相θLmx2(2)と変化する。
【0060】
図7の位相差ΔθLTT1,ΔθLTR1は、装置1に関する位相差である。位相差ΔθLTT1は、信号S2における時刻tから時刻tの基準時刻位相θLx1(2)と時刻t以前の基準時刻位相θLx1との差分である。また、位相差ΔθLTR1は、信号S2における時刻tから時刻tの基準時刻位相θLmx1(1)と時刻t以前の基準時刻位相θLx1との差分である。また、図示しないθLVx1(1)はこの時の信号S2を(1/n)倍した信号S31の基準時刻位相である。nが自然数であれば周波数分周器は入力信号を単純に整数分周する回路でよいので、これらの関係は、それぞれ(37)式、(38)式及び(38a)式で表すことができる。
θLx1(2)=θLx1+ΔθLTT1 (37)
θLmx1(1)=θLx1+ΔθLTR1 (38)
θLVx1(1)=θLmx1(1)/n=(θLx1+ΔθLTR1)/n (38a)
また、位相差ΔθLTT2,ΔθLRR2,ΔθLTR2は装置2に関する位相差である。位相差ΔθLTT2は、信号S5における時刻tから時刻tの基準時刻位相θLx2(2)と時刻t以前の基準時刻位相θLx2との差分である。位相差ΔθLRR2は、信号S5における時刻tから時刻tの基準時刻位相θLmx2(2)と時刻tから時刻tの基準時刻位相θLmx2(1)との差分である。位相差ΔθLTR2は、信号S5における時刻tから時刻tの基準時刻位相θLmx2(1)と時刻t以前の基準時刻位相θLx2との差分である。また、図示しないθLVx2(1)は時刻tと時刻t間における信号S5を(1/n)倍した信号S61の基準時刻位相であり、θLVx2(2)は時刻tと時刻t間における信号S5を(1/n)倍した信号S61の基準時刻位相である。これらの関係は、それぞれ下記(39)式から(41a)式で表すことができる。
θLx2(2)=θLx2+ΔθLTT2 (39)
θLmx2(1)=θLx2+ΔθLTR2 (40)
θLVx2(1)=θLmx2(1)/n=(θLx2+ΔθLTR2)/n (40a)
θLmx2(2)=θLmx2(1)+ΔθLRR2=θLx2+ΔθLTR2+ΔθLRR2 (41)
θLVx2(2)=θLmx2(2)/n=(θLx2+ΔθLTR2+ΔθLRR2)/n
(41a)
後述するように、これらの位相差のうちΔθLTT1,ΔθLTT2,ΔθLRR2については、mpl1,mpl2によって直接計測可能である。一方、(38)式のΔθLTR1及び(40)式のΔθLTR2は、直接計測することはできない。そこで、本実施の形態においては、後述するように、mpl1,mpl2は、ΔθLTR1及びΔθLTR2に関連した位相差を計測することで、ΔθLTR1及びΔθLTR2を求めるようになっている。
【0061】
ここでは、基準時刻位相計測方法の考え方を示すために、ΔθLTR1及びΔθLTR2を計測可能なものとして説明する。
【0062】
上記(25)式のθLSUMに上記(37)式~(41a)式を代入すると、上記(36)式中のθLSUMは、下記(42)式で与えられる。
θLSUM=-(2×ΔθLTR1+2×ΔθLTR2+ΔθLRR2)×(n-1)/n+ΔθLTT1+2×ΔθLTT2+2×(θLx1+θLx2)/n (42)
次に、(33)式に示した高周波数でのθHSUMを求める。
【0063】
図8のグラフは、高周波数の測距シーケンスにおける信号S2,S5の基準時刻位相の遷移を示しており、図7と同様に、上記(36)式の第1項の計算に必要な、5通りの位相差について説明するものである。図8は、図4と同様のグラフに、5通りの位相差の情報を説明する矢印を付加したものである。なお、説明の簡略化のために、図8のグラフは、図7と同じ形状の特性を有する例を示しているが、図7と同じ形状の特性を有している必要はない。また説明を簡潔にするため、高周波数での説明における時刻D+tは適宜「D+」を省いて時刻tのように表現するものとする。
【0064】
装置1のmpl1からの信号S2の基準時刻位相については、太線特性C3に示すように、時刻t以前の基準時刻位相θHx1、時刻tから時刻tの基準時刻位相はθHmx1(1)、時刻tから時刻tの基準時刻位相θHx1(2)と変化する。装置2のmpl2からの信号S5の基準時刻位相については、時刻t以前の基準時刻位相θHx2、時刻tから時刻tの基準時刻位相はθHmx2(1)、時刻tから時刻tの基準時刻位相θHx2(2)、時刻tから時刻tの基準時刻位相θHmx2(2)と変化する。
【0065】
位相差ΔθHTT1とΔθHTR1は装置1に関する位相差である。位相差ΔθHTT1は、信号S2における時刻tから時刻tの基準時刻位相θHx1(2)と時刻t以前の基準時刻位相θHx1の差分である。位相差ΔθHTR1は、信号S2における時刻tから時刻tの基準時刻位相θHmx1(1)と時刻t以前の基準時刻位相θHx1の差分である。また、図示しないθHVx1(1)はこの時の信号S2を(1/n)倍した信号S31の基準時刻位相である。これらの関係は、それぞれ下記(43)式、(44)式及び(44a)式で表される。
θHx1(2)=θHx1+ΔθHTT1 (43)
θHmx1(1)=θHx1+ΔθHTR1 (44)
θHVx1(1)=θHmx1(1)/n=(θHx1+ΔθHTR1)/n (44a)
同様に、位相差ΔθHTT2、ΔθHRR2、ΔθHTR2は装置2に関する位相差である。位相差ΔθHTT2は、信号S5における時刻tから時刻tの基準時刻位相θHx2(2)と時刻t以前の基準時刻位相θHx2との差分である。位相差ΔθHRR2は、信号S5における時刻tから時刻tの基準時刻位相θHmx2(2)と時刻tから時刻tの基準時刻位相θHmx2(1)との差分である。位相差ΔθHTR2は、信号S5における時刻tから時刻tの基準時刻位相θHmx2(1)と時刻t以前の基準時刻位相θHx2との差分である。また、図示しないθHVx2(1)は時刻tと時刻t間における信号S5を(1/n)倍した信号S61の基準時刻位相であり、θHVx2(2)は時刻tと時刻t間における信号S5を(1/n)倍した信号S61の基準時刻位相である。これらの関係は、それぞれ下記(45)式から(47a)式で表すことができる。
θHx2(2)=θHx2+ΔθHTT2 (45)
θHmx2(1)=θHx2+ΔθHTR2 (46)
θHVx2(1)=θHmx2(1)/n=(θHx2+ΔθHTR2)/n (46a)
θHmx2(2)=θHmx2(1)+ΔθHRR2=θHx2+ΔθHTR2+ΔθHRR2 (47)
θHVx2(2)=θHmx2(2)/n=(θHx2+ΔθHTR2+ΔθHRR2)/n
(47a)
また、θLx1とθHx1の差をΔθLHx1、θLx2とθHx2の差をΔθLHx2と定義し、次式で表せるものとする。
θHx1=θLx1+ΔθLHx1 (47b)
θHx2=θLx2+ΔθLHx2 (47c)
低周波数の場合と同様に、これらの位相差のうちΔθHTT1,ΔθHTT2,ΔθHRR2については、mpl1,mpl2によって直接計測可能である。一方、(44)式のΔθHTR1及び(46)式のΔθHTR2は、直接計測することはできない。そこで、本実施の形態においては、後述するように、mpl1,mpl2は、ΔθHTR1及びΔθHTR2に関連した位相差を計測することで、ΔθHTR1及びΔθHTR2を求めるようになっている。また、ΔθLHx1、ΔθLHx2を求める方法についても後述する。
【0066】
ここでは、基準時刻位相計測方法の考え方を示すために、ΔθHTR1及びΔθHTR2、ΔθLHx1、ΔθLHx2を計測可能なものとして説明する。
【0067】
上記(25)式のθHSUMに上記(43)式~(47c)式を代入すると、上記(36)式中のθHSUMは、下記(48)式で与えられる。
θHSUM=-(2×ΔθHTR1+2×ΔθHTR2+ΔθHRR2)×(n-1)/n+ΔθHTT1+2×ΔθHTT2+2×(ΔθLHx1+ΔθLHx2)/n+2×(θLx1+θLx2)/n (48)
以上のように、上記(42)式及び(48)式により、上記(36)式の第1項を計算する際に、2×(θLx1+θLx2)/nの項は相殺されるので、(36)式の第1項を求めることが可能である。
【0068】
図7及び図8の太線特性C1~C4において、傾斜が小さい区間は送信区間であり、傾斜が大きい区間は受信区間である。なお、装置1,2の一方が送信区間の場合には他方は受信区間である。上記(42)式及び(48)式において、位相差ΔθLTT1、ΔθLTT2、ΔθHTT1、ΔθHTT2は、装置1,2のそれぞれにおいて、受信区間を挟んだ2つの送信区間の各RF信号同士の位相差を表す。位相差ΔθLRR2、ΔθHRR2は送信区間を挟んだ2つの受信区間の各RF信号同士の位相差を表す。そして、位相差ΔθLTR1、ΔθLTR2、ΔθHTR1、ΔθHTR2は連続する送信区間と受信区間の各RF信号同士の位相差を表す。前者2つは同一周波数の基準時刻位相差であるが、後者は異なる周波数での基準時刻位相差である。また、ΔθLHx1、ΔθLHx2は、低周波数と高周波数の最初の送信区間のRF信号同士の位相差を表す。上記、「2つの送信区間の各RF信号同士の位相差」(以下、第1の位相差ともいう)、「2つの受信区間の各RF信号同士の位相差」(以下、第2の位相差ともいう)、「連続する送信区間と受信区間の各RF信号同士の位相差」(以下、第3の位相差ともいう)、「低周波数と高周波数の最初の送信区間のRF信号同士の位相差」(以下、第4の位相差ともいう)の全4種類を求めることができれば、上記(36)式により正確な測距が可能になる。
【0069】
本実施の形態においては、これらの4種類の位相差又はこれらの4種類の位相差を求めるための情報をmpl1,mpl2によって求めるようになっている。図1において、mpl1,mpl2は、求めたこれらの位相差に関する情報をそれぞれ演算装置CA1,CA2に出力する。演算装置CA1,CA2は、それぞれIFMIX1,IFMIX2から信号S12,S9が与えられ、これらの信号S12,S9の位相を検出する。演算装置CA1は、信号S12から得た位相情報とmpl1からの位相差に関する情報とを用いて、上記(36)式の演算を行って遅延τを求め更に距離Rを求める。なお、装置2において、演算装置CA2は、信号S9から得た位相情報とmpl2からの位相差に関する情報とを用いて、上記(36)式の演算を行って遅延τを求め更に距離Rを求めることもできる。なお、演算装置CA1,CA2は、それぞれ装置1,2における測距に関する各種制御、例えば測距シーケンスにおける周波数設定やタイミング制御等を行うことができるようになっている。
【0070】
(具体的な構成)
図9は実施の形態に係る位相変動検出装置及び位相補正装置を含む測距装置を示すブロック図であり、装置2において上記4種類の位相差に関する情報を算出するmpl2の具体的な構成を示すものである。また、装置1のmpl1の構成も図9と同様であり、図示及び説明を省略する。なお、図9において、位相変動検出装置は、主にOSC2及びmpl2により構成され、位相補正装置は、OSC2、mpl2、位相計算器phscalc2及び演算器dcalc2により構成される。上述したように、位相変動検出装置及び位相補正装置は、測距装置に限らず、入力された信号の位相を検出する各種装置に利用することも可能であり、その場合には、位相補正装置は、位相計算器phscalc2及び演算器dcalc2に代えてmpl2の出力を用いて基準時刻位相の変動量に応じて入力信号の位相を補正する他の回路が採用される。
【0071】
mpl2は、周波数乗算器mpl20及び位相検出器phsdet2により構成される。周波数乗算器mpl20は、図2のmpl2Aと同一の機能を有している。即ち、周波数乗算器mpl20は、局部発振器を構成するものであり、OSC2の発振出力である信号S4が与えられ、信号S4の周波数を所定倍して、局部発振信号である信号S5を生成して出力する。なお、周波数乗算器mpl20による逓倍数は、演算装置CA2の制御装置CN2によって指定されるようになっている。制御装置CN2は、周波数乗算器mpl20の逓倍数を決定するための周波数制御データを発生する。
【0072】
信号S5は、測距の受信区間にはLO信号としてRFMIX2に与えられると共に、測距の送信区間には単一波信号として送信される。更に、周波数乗算器mpl20は、信号S5の位相の情報を位相検出器phsdet2に出力することもできるようになっている。
【0073】
位相検出器phsdet2には、信号S5の位相の情報及びOSC2の発振出力である信号S4が入力される。
【0074】
位相検出器phsdet2は、入力された情報に基づいて、演算装置CA2の制御装置CN2によって指定されるタイミングで上記43種類の位相差を求めるための情報を取得して、その情報(S15)を演算装置CA2に出力する。
【0075】
演算装置CA2は、位相計算器phscalc2、演算器dcalc2及び制御装置CN2により構成される。制御装置CN2は、補正回路を構成する位相計算器phscalc2及び演算器dcalc2の演算を制御すると共に、mpl2及びdiv2を制御する。制御装置CN2は、装置2において測距に関する周波数制御やタイミング制御等が可能であり、例えば、上述した周波数制御データを設定することができる。
【0076】
位相計算器phscalc2は、位相検出器phsdet2の出力を用いて、上記(36)式のθLSUM,θHSUMを求めて演算器dcalc2に出力する。演算装置CA2には、IFMIX22からの信号S9も与えられており、演算器dcalc2は、位相計算器phscalc2の出力と信号S9とから、上記(36)式の演算により遅延τを求め、更に、距離Rを算出する。
【0077】
図10はmpl2及び位相計算器phscalc2の更に具体的な構成を示す回路図である。なお、装置1のmpl1及び位相計算器phscalc1の構成も図10と同様であり、図示及び説明を省略する。
【0078】
周波数乗算器mpl20は、デジタル制御発振器(DCO)を含むADPLL(完全デジタル位相同期回路)を有する一般的な構成の周波数乗算器の回路部分を含む。デジタル制御発振器DCOは、入力されるデジタル値に応じた発振周波数の発振出力を発生して出力する。後述するように、ADPLLのロック時には、デジタル制御発振器DCOは、参照発振器10が発生する参照クロックの周波数の有理数倍の周波数の発振出力を発生する。なお、参照発振器10は図1及び図9のOSC2に相当する
デジタル制御発振器DCOの発振出力は信号S5として出力されるとともに、
カウンタ11に供給される。カウンタ11はデジタル制御発振器DCOの発振出力をカウントしており、カウンタ11のカウント値は、減算器12に出力される。カウンタ11は、デジタル制御発振器DCOの発振出力の波数(パルス数)をカウントする。参照クロックの1周期中のカウンタ11のカウント値は、デジタル制御発振器DCOの発振出力が例えば参照クロックの何整数逓倍であるかを示している。
【0079】
デジタル制御発振器DCOの発振出力は、TDC13にも供給される。TDC13は、例えば、発振出力の周期よりも十分に短い遅延時間の複数の遅延素子により構成してもよい。TDC13には参照クロックも与えられており、TDC13は、デジタル制御発振器DCOの発振出力と参照クロックとの遅延時間(位相差に相当)を求めて、正規化回路14に出力する。正規化回路14は、参照クロックの1周期を1としてTDC13の出力を正規化する。即ち、正規化回路14の出力は、TDC13の出力(遅延時間)が参照クロック周期の何小数倍であるかを示していると共に、デジタル制御発振器DCO出力と参照クロックとの位相差を示している。正規化回路14の出力は減算器12に供給される。
【0080】
積分器(Σ)15は、周波数制御データ及び参照クロックが与えられる。周波数制御データはデジタル制御発振器DCOの希望発振出力周波数と参照クロック周波数との比の値である、参照クロックに対する有理数の逓倍数を示している。積分器15は、参照クロック毎に周波数制御データを積算して、積算結果を減算器12に出力する。
【0081】
カウンタ11の出力はデジタル制御発振器DCO出力の周波数の参照クロックに対する整数逓倍数の積算結果であり、正規化回路14の出力は、デジタル制御発振器DCO出力の周波数の参照クロックに対する小数逓倍数である。カウンタ11及び正規化回路14の出力は、発振中のデジタル制御発振器DCO出力の周波数の参照クロックに対する有理数の逓倍数を示している。すなわち、カウンタ11及び正規化回路14の出力は、参照クロックを基準としたデジタル制御発振器DCO出力の現在の位相を示している。
【0082】
減算器12は、積分器15の出力からカウンタ11及び正規化回路14の出力を減算することで、位相誤差を求める。減算器12は、求めた位相誤差をループフィルタ16及び正規化回路17を介してデジタル制御発振器DCOに与える。これにより、デジタル制御発振器DCOの発振出力は、減算器12の出力が0となるように周波数が変化する。なお、ループフィルタ16は参照クロック周期で動作し、正規化回路17はループフィルタ16の出力をデジタル制御発振器DCOの周波数制御に適した情報に正規化してデジタル制御発振器DCOに与える。こうして、ADPLLのロック時には、デジタル制御発振器DCOからは、参照クロックの周波数制御データに基づく有利数倍の周波数の発振出力が得られる。
【0083】
上述したように、カウンタ11及び正規化回路14の出力は、参照クロックを基準としたデジタル制御発振器DCO出力の現在の位相を示しており、カウンタ11の出力である2π(360度)の整数倍の位相差を無視すると、小数逓倍数を示す正規化回路14の出力が参照クロックを基準としたデジタル制御発振器DCO出力の現在の位相を示すものとなる。ロック時には、減算器12の出力が0となるので、積分器15の出力も参照クロックを基準としたデジタル制御発振器DCO出力の現在の位相を示すことになる。
【0084】
デジタル制御発振器DCOの発振出力は、分周器18にも供給される。分周器18は図1及び図9のdiv21に相当する。分周器18は入力された信号をn分周し、信号S61として出力する。分周器18とカウンタ11はどちらもデジタル制御発振器DCOの発振出力を数えて動作する回路であり、本質的には同等の動作をすることから、分周器18の出力信号の現在の位相はカウンタ11の出力をnで除算した余りから知ることができる。
【0085】
すなわちロック時には、積分器15の出力のうち、2πの整数倍の位相差に相当する整数逓倍数の出力をnで除算した余りと小数逓倍数を合わせた値を、nで割った値が、参照クロックを基準とした分周器18の出力の現在の位相を示すことになる。例えば、カウンタ11や積分器15が2進数で動作しておりn=8であれば、分周器18の出力信号の位相はカウンタ11の下位3ビットに対応し、積分器15の出力のうち整数逓倍数部分の下位3ビットと小数逓倍数部分を合わせた値を8で割った値が、参照クロックを基準とした分周器18の出力の現在の位相に一致する。
【0086】
本実施の形態においては、積分器15の出力のうち、2πの整数倍の位相差に相当する整数逓倍数(n=8であれば少なくとも下位3ビット)と小数逓倍数を合わせた値を、参照クロックを基準としたデジタル制御発振器DCO出力の現在の位相もしくは分周器18の出力の現在の位相として、ホールド回路30に出力するように構成される。
【0087】
タイミング生成回路40、ホールド回路30により図9の位相検出器phsdet2が構成され、制御回路50、メモリ51、計算回路52により、図9の位相計算器phscalc2が構成される。ホールド回路30は、タイミング生成回路40から与えられるタイミング信号thに基づいて、積分器15の出力により示される位相(以下、積分器15の出力位相という)をホールドし、ホールドして取得した位相をメモリ51に出力する。
【0088】
タイミング生成回路40から与えられるタイミング信号thについて説明する。ここで実数に拡張した公倍数を以下のように定義する。「あるM個の実数r(iは1~M)に対し、r×q=cを満たすM個の非零の整数qが存在するとき、実数cを実数rの公倍数と呼ぶ」。タイミング信号thは、参照クロックとデジタル制御発振器DCOの出力と分周器18の出力に必要とされるすべての信号の周期の、公倍数の周期の信号、またはそれらを間引いた信号である。また、このとき参照クロックの周波数をf、参照クロックの周波数とデジタル制御発振器DCOの出力と分周器18の出力に必要とされるすべての信号の周波数をfとし、前述の公倍数cを与える非零の整数qを用いると、周波数は周期の逆数であるから式(49)が成り立つのは明らかである。
/f=q/f (49)
式(49)を変形すると
/f×q=q(50)
が成立する。qは整数であるから、デジタル制御発振器DCOの出力周波数と分周器18の出力周波数(f)を参照クロックの周波数(f)で正規化した値に、前述の公倍数cを与える非零の整数qを掛けるといずれのfに対しても整数になることがわかる。よって整数qを周波数関係から求めてもよい。
【0089】
本実施例ではタイミング信号thを、参照クロックを分周して生成する。所定の分周数をpとし、タイミング信号thは参照クロック周期のp倍の間隔の信号、または参照クロック周期のp倍の間隔の信号を間引いた信号とする。この時、参照クロックをp分周した信号の周期が、デジタル制御発振器DCOの出力信号の周期と分周器18の出力信号の周期の公倍数の周期となるようにpを決める。具体的なpの決め方を説明するためのに、式(4)、式(6)、式(6a)、式(9)、式(10)、式(10a)を再掲する。
φtx2=2πkx2t+θLx2 (4)
φtx2=2π{(k+m)n/(n-1)}fx2t+θLmx2(1) (6)
φv2=2π{(k+m)/(n-1)}fx2t+θLVx2(1) (6a)
φtx2=2πkx2t+θLx2(2) (9)
φtx2=2π{(k+m)n/(n-1)}fx2t+θLmx2(2) (10)
φv2=2π{(k+m)/(n-1)}fx2t+θLVx2(2) (10a)
高周波数の場合は、kをkに変更するだけの違いなので、ここではkをkに置き換えて説明することにする。これらの式から、デジタル制御発振器DCOと分周器18の出力に必要とされる周波数は1つのkに対し、kfx2、{(k+m)n/(n-1)}fx2、{(k+m)/(n-1)}fx2の3つであることが分かる。装置2の参照クロックの周波数はfx2なので、k×p{(k+m)n/(n-1)}×p、{(k+m)/(n-1)}×pが整数となるpを求めればよい。この時、タイミング信号thは、デジタル制御発振器DCOの出力と分周器18の出力に必要とされるすべての信号の周期の、公倍数の周期の信号となる。kが複数ある場合はその分だけ必要とされる周波数の数が増えることになる。
【0090】
pを自然数としたときの具体的な計算例を示す。例えばnを8、fx2を32MHz、mfx2を5MHz、kfx2を2411と2417MHzとした場合、
{(k+m)n/(n-1)}fx2=19328/7または19336/7
{(k+m)/(n-1)}fx2=2416/7または2422/7
であるので、2411/32×p, 2417/32×p, 19328/7/32×p, 19336/7/32×p, 2416/7/32×p, 2422/7/32×pのすべてが整数となるpを求めればよい。p=224とすると、それぞれの値は16877、16919、19328、19336、2416、2422とすべて整数になり、かつこれらの最小公約数は1である。よってpは224の倍数であればよく、pの最小値は224である。
【0091】
参照クロックをp分周した信号をthとし、thの3つの立ち上がり時間をそれぞれt、t、tとする。参照クロックとthと式(4)、式(6)、式(6a)、式(9)、式(10)、式(10a)で表された信号の位相の例を、図11及び図12に示す。分周カウンタは参照クロックを分周する際のカウンタ値の例であり、0~p-1の値を参照クロックでカウントする様子を示し、この値がp-1から0に変化するごとにthが立ち上がる様子を示している。図11は時間tにおいて、式(4)、式(6)、式(6a)、式(9)、式(10)、式(10a)で表された信号の位相が0であった場合の例である。thの周期は式(4)、式(6)、式(6a)、式(9)、式(10)、式(10a)で表された信号のそれぞれの周期の整数倍なので、時間t、tのいずれにおいても位相は0になり、図11はこの様子を示している。
図12は時間tにおいて、式(4)、式(6)、式(6a)、式(9)、式(10)、式(10a)で表された信号の位相が0と異なる例を示している。この場合も、例えば(4)式で表された信号の位相をそれぞれθ、θ、θとすると、常にθ=θ=θが成り立ち、図12はこの様子を示している。このことは他の式についても同様である。すなわち、thの立ち上がり時間で観測した各式における位相は立ち上がり時間によらず常に別の立ち上がり時間における位相と同じ値になることが、図12から直感的にも理解できるだろう。この性質は異なる時間の位相の比較に利用することができる。
【0092】
ホールド回路30は、タイミング生成回路40から与えられる信号thの立ち上がり時間に、積分器15の出力位相をホールドする。よって、ホールド回路30の出力は、異なる時間の位相の比較に利用できる位相情報となる。後述するようにホールド回路30の出力を用いることで基準時刻位相の変動による影響を除去することが可能である。測距装置に適用した場合には、ホールド回路30の出力は、上述した第1~第4の位相を取得するための位相情報S15として、位相計算器phscalc2の一部を構成する、メモリ51に供給される。
【0093】
タイミング生成回路40には、参照クロックが与えられており、参照クロックを基準にして、所定のタイミング信号thを発生してホールド回路30に出力する。
【0094】
図13はタイミング生成回路40の具体的な構成の一例を示すブロック図である。タイミング生成回路40は、カウンタ41、デコーダ42及び遅延器43により構成される。カウンタ41は、参照クロックをカウントしてカウント値をデコーダ42に出力する。デコーダ42は、演算装置CA2の制御装置CN2により制御されて(図示省略)、あるいは図示しないメモリに記憶された情報に基づいて、カウント値に対応したタイミング信号を発生して遅延器43に出力する。遅延器43は、入力されたタイミング信号を所定の遅延時間だけ遅延させて前述のタイミング信号thを発生させる。なお、タイミング生成回路40は、受信区間及び送信区間中において周波数乗算器mpl20の出力周波数が安定した時刻にタイミングthを発生させるとよい。
【0095】
メモリ51に格納された位相情報は計算回路52に供給され、制御回路50からの制御に基づいて上述したθLSUM,θHSUMを求める。求めた結果は位相情報S16として計算回路52から出力される。
【0096】
計算回路52は、メモリ51から与えられた複数の位相情報の間の減算を行うことで、後述するように、上述した第1~第4の位相差を求めることができる。例えば、図7のΔθLTT2については、2回目の2_TX期間で取得した位相から1回目の2_TX期間で取得した位相を減算することで容易に得られることは明らかである。
【0097】
図7及び図8では太線特性C2で示す位相φtx2及び準基準位相は単純に増加するものとして示したが、実際には、位相は2πを超えることはない。そこで計算回路52は、前記減算結果の2πによる剰余を求めて出力してもよい。この剰余を用いて測距演算が可能である。
【0098】
次に、このように構成された実施の形態の動作について、図7および図8のグラフを参照して説明する。mpl2は、装置2Aのmpl2Aと同様に動作するものとする。即ち、装置2のmpl2の出力の位相、即ち、積分器15の出力位相φは、図7(特性C2)または図8(特性C2)によって示される。
【0099】
mpl20は、時刻t前の送信周波数の初期設定時に初期設定が行われているものとする。従って、mpl20の出力の位相φtx2を示す積分器15の出力位相φは、上記(4)式の右辺と等価であり、図12の太線特性C2で表される。(4)式中のkは、mpl20においては周波数制御データfで示される有理数のことである。この有理数のうちの整数値(整数逓倍数)は、位相換算では360°(2π)の倍数に対応し、計算回路52で位相差を求める剰余演算では省かれる。このため、mpl20の出力の位相φtx2に対応する積分器15の出力位相φを求めるに際して、整数逓倍数を考慮する必要は無く、小数値(小数逓倍数)による位相の変化のみを求めればよい。そこで、上述したように、積分器15は、周波数制御データfに含まれる小数逓倍数をホールド回路30に出力する。なお、以下の説明では、整数逓倍数による位相分を含む(4)式の右辺をそのまま用いるが、特に問題は無い。
【0100】
また、説明のため、時刻t前の期間を期間T1、時刻tと時刻tの間の期間を期間T12、時刻tと時刻tの間の期間を期間T23、時刻tと時刻tの間の期間を期間T34と呼ぶことにする。さらに装置2のメモリ51に取り込んだ位相を装置2での取得位相、図示しない装置1のメモリ51に対応するメモリに取り込んだ位相を装置1での取得位相と呼ぶことにする。
【0101】
(第1の位相差の算出)
上述したように、位相差ΔθLTT1、ΔθLTT2、ΔθHTT1、ΔθHTT2は、装置1,2のそれぞれにおいて、受信区間を挟んだ2つの送信区間の各RF信号同士の位相差であり、これらを第1の位相差と呼んでいる。これらの位相差は図7および図8から明らかなように、以下で説明する期間における装置1での取得位相もしくは装置2での取得位相の位相差から求めることができる。
ΔθLTT1は低周波数における期間34と期間1の間の装置1での取得位相の差。
ΔθLTT2は低周波数における期間23と期間1の間の装置2での取得位相の差。
ΔθHTT1は高周波数における期間34と期間1の間の装置1での取得位相の差。
ΔθHTT2は高周波数における期間23と期間1の間の装置2での取得位相の差。
【0102】
(第2の位相差の算出)
上述したように、位相差ΔθLRR2、ΔθHRR2は送信区間を挟んだ2つの受信区間の各RF信号同士の位相差であり、これらを第2の位相差と呼んでいる。これらの位相差は図7および図8から明らかなように、以下で説明する期間における装置2での取得位相の位相差から求めることができる。
ΔθLRR2は低周波数における期間34と期間12の間の装置2での取得位相の差。
ΔθHRR2は高周波数における期間34と期間12の間の装置2での取得位相の差。
【0103】
(第3の位相差の算出)
上述したように、位相差ΔθLTR1、ΔθLTR2、ΔθHTR1、ΔθHTR2は連続する送信区間と受信区間の各RF信号同士の位相差であり、これらを第3の位相差と呼んでいる。これらの位相差は図7および図8から明らかなように、以下で説明する期間における装置1での取得位相もしくは装置2での取得位相の位相差から求めることができる。
ΔθLTR1は低周波数における期間23と期間1の間の装置1での取得位相の差。
ΔθLTR2は低周波数における期間12と期間1の間の装置2での取得位相の差。
ΔθHTR1は高周波数における期間23と期間1の間の装置1での取得位相の差。
ΔθHTR2は高周波数における期間12と期間1の間の装置2での取得位相の差。
【0104】
(第4の位相差の算出)
上述したように、ΔθLHx1、ΔθLHx2は、低周波数と高周波数の最初の送信区間のRF信号同士の位相差であり、これらを第4の位相差と呼んでいる。これらの位相差はこれまでの説明から明らかなように以下で説明する期間における装置1での取得位相もしくは装置2での取得位相の位相差から求めることができる。
ΔθLHx1は高周波数における期間1と低周波数における期間1の間の装置1での取得位相の差。
ΔθLHx2は高周波数における期間1と低周波数における期間1の間の装置2での取得位相の差。
【0105】
このように、基準時刻位相差である第1~第4の位相差を図9で示した位相計算器phscalc2で求めることができる。演算器dcalc2は、求めた第1~第4の位相差を用いて測距演算を行う。
【0106】
(測距計算)
上記(36)式中のθLSUMは、上記(42)式に示すように、第1~第4の位相差を用いて算出可能である。同様に、上記(36)式中のθHSUMについても、上記(48)式に示すように、第1~第4の位相差を用いて算出可能である。すなわち、θLSUM,θHSUMは基準時刻位相の変動量で補正された値として求められる。位相計算器phscalc2は、算出したθLSUM,θHSUMを演算器dcalc2に出力する。演算器dcalc2は、位相計算器phscalc2の出力と信号S9とから、上記(36)式の演算により遅延τを求め、更に、距離Rを算出する。
【0107】
このように本実施の形態においては、前記完全デジタル位相同期回路に含まれる位相積分器の出力を所定のタイミングで取り込んで出力する位相検出器を採用し、位相検出器の出力により得られる複数の位相の差を求めることにより、基準時刻位相の変動量を求め、求めた変動量に応じて位相を補正することで、基準時刻位相を変化させない場合と同様の機能を達成することが可能である。
【0108】
例えば、装置間で単一波信号の送受信を行い受信位相から測距を行う測距装置であって、送信部に直接変調方式を用い受信部にスライディングIF方式を用いた測距装置に適用した場合には、測距シーケンス中の周波数変化に伴う基準時刻位相の変動分を検出して補正することができるので、位相情報から正確な測距が可能である。
【0109】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨は装置ごとに基準時刻位相の変動量を算出してその装置ごとに位相補正を行う点にあるので、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。例えば、上記の説明では図1を用いて装置1および装置2は同じ構成の受信機であるとして説明を行ったが、装置1と装置2は同じ構成である必要はなく、例えば装置1が特許文献1に示されたような装置構成であっても、装置2に本発明を適用し、測距を行うことができることは容易に理解できるであろう。また、測距装置に限らず、局部発振器を用いて入力される信号の位相を検出する種々の装置においても適用が可能なことはもちろんである。この場合、例えば図9に示した演算装置CA2は距離を計算する以外の用途にも用いることができる。また、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0110】
OSC1,OSC2…発振器、div11,div12、div21,div22…周波数分周器、mpl1,mpl2,mpl20…周波数乗算器、RFMIX1,RFMIX2…RF周波数変換器、IFMIX11,IFMIX21…第1中間周波数変換器、IFMIX21,IFMIX22…第2中間周波数変換器、phsdet2…位相検出器、phscalc2…位相計算器、dcalc2…演算器。
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