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特許7354119亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた鋼のブランクから物品を成形する方法
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  • 特許-亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた鋼のブランクから物品を成形する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた鋼のブランクから物品を成形する方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20230925BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230925BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20230925BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230925BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20230925BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20230925BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20230925BHJP
   B21D 22/26 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
C21D9/00 A
C22C38/00 301T
C22C38/00 302A
C22C38/38
C21D9/46 J
C21D9/46 P
C21D1/18 C
C23C2/06
B21D22/20 H
B21D22/26 D
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020542828
(86)(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2019053190
(87)【国際公開番号】W WO2019155014
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】18155866.9
(32)【優先日】2018-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ラダカンタ、ラナ
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/102051(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0312323(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106906421(CN,A)
【文献】特表2016-531200(JP,A)
【文献】国際公開第2017/131053(WO,A1)
【文献】特開2012-237054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00-9/50
C22C 38/00
C22C 38/38
C21D 1/18
C23C 2/06
B21D 22/20
B21D 22/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた鋼のブランクから物品を成形する方法であって、
前記鋼が、重量%で、
C:0.01~0.2、
Mn:3.1~9.0、
Al:0.5~3.0、
場合により、
Si:1.5未満、
Cr:2.0未満、
V:0.1未満、
Nb:0.1未満、
Ti:0.1未満、
Mo:0.5未満
のうちの1種以上の追加の合金元素、
不可避的不純物、および、
残部:Fe
からなり、
前記方法が、以下の工程:
a)前記亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた鋼のブランクを準備する工程;
b)工程a)で得られた前記ブランクを、前記鋼のAc3-200℃~Ac3の範囲の再加熱温度TRHに再加熱する工程;
c)前記ブランクを前記再加熱温度TRHで最大3分間、均熱する工程;
d)プレスで前記物品に成形する工程;
e)前記物品を冷却する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
再加熱工程b)が、前記再加熱温度TRHまで30℃/秒以上の速度で温度を上昇させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記再加熱温度TRHが、Ac3-100℃~Ac3の範囲、または変態区間温度範囲Ac1~Ac3、または700℃未満、または675℃未満である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程c)において、2分未満の間、前記再加熱されたブランクを均熱する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程e)が、プレス焼入れを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程e)が、周囲温度まで空冷することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程c)およびd)の間において、前記均熱されたブランクを前記プレスに移送する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程a)において、変態区間アニーリングされ、亜鉛または亜鉛合金でコーティングされ、冷間圧延または熱間圧延された鋼ストリップから前記ブランクが得られる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記再加熱温度TRHが、前記アニーリング温度よりも低い、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記鋼が、重量%で、0.05~0.20の範囲のC含有量、および/または3.5~9.0もしくは5.0~9.0もしくは5.5~9.0もしくは5.5~8.5もしくは6.0~7.5もしくは7.0~9.0もしくは7.2~8.8の範囲のMn含有量、および/または0.6~2.9の範囲のAl含有量を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
得られる成形物品が、体積%で、
フェライト:30%以上、
オーステナイト:20%以上、
マルテンサイト:0%以上50%以
含むミクロ組織を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
得られる成形物品が、以下の特性:
降伏強度:800MPa以上;
引張強度:980MPa以上;
全伸び:15%以上;
厚み1.0mmでの最小曲げ角度:90°以
有し、
ここで、曲げは、40mm×30mm×1.5mmの試料に対してVDA 238-100規格準拠で実施され、厚み1.5mmで測定された曲げ角度は、以下の式:
厚み1.0mmにおけるBA=測定されたBA×厚みの平方根
[式中、BAは曲げ角度を表す。]
を使用して1mm相当値に変換される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
重量%で、
C:0.01~0.2、
Mn:3.1~9.0、
Al:0.5~3.0、
場合により、
Si:1.5未満、
Cr:2.0未満、
V:0.1未満、
Nb:0.1未満、
Ti:0.1未満、
Mo:0.5未満
のうちの1種以上の追加の合金元素、
不可避的不純物、および
残部:Fe
からなる鋼組成からの亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた、プレスにより成形された物品であって、
以下の特性:
降伏強度:800MPa以上;
引張強度:980MPa以上;
全伸び:15%以上;
厚み1.0mmでの最小曲げ角度:90°以上
を有し、
ここで、曲げは、40mm×30mm×1.5mmの試料に対してVDA 238-100規格準拠で実施され、厚み1.5mmで測定された曲げ角度は、以下の式:
厚み1.0mmにおけるBA=測定されたBA×厚みの平方根
[式中、BAは曲げ角度を表す。]
を使用して1mm相当値に変換され、
体積%で、
フェライト:30%以上、
オーステナイト:20%以上、
マルテンサイト:0%以上50%以下
を含むミクロ組織
を有する、前記物品。
【請求項14】
記物品が、以下の特性:
降伏強度:850MPa以上;
引張強度:1000MPa以上;
全伸び:25%以上;
厚み1.0mmでの最小曲げ角度:100°以上
を有し、かつ/あるいは、
体積%で、
フェライト:40%以上、
オーステナイト:30%以上、
マルテンサイト:0%以上30%以下
を含むミクロ組織
を有する、請求項13に記載の物品。
【請求項15】
自動車部品である、請求項13および14のいずれか一項に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた鋼のブランクから物品を成形する方法、ならびに成形された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットスタンピング、プレススタンピングおよびプレス硬化としても知られるホットプレス成形は、成形された最終物品または部品に鋼のブランクを成形して硬化させる技術である。一般に、ブランクをオーステナイト化温度(典型的には、870~940℃)に再加熱し、均熱する。その後に続いて、プレスダイで成形し、プレス焼入れする。鋼を完全にオーステナイト化し、すべての炭化物を溶解させるために、高温が必要である。焼入れにより、鋼基材に頑丈なマルテンサイト組織が形成される。二相組織を発達させるために変態区間範囲(intercritical range)で熱間成形を実施した場合でも、再加熱温度は760℃以上となる。一般的に適用される加熱炉において、総再加熱時間は比較的長くなる。一般的な慣行では、炉内での合計時間は3~10分である。
【0003】
コーティングされていない鋼のブランクを熱間成形すると、酸化が引き起こされることが知られている。この影響を低減するために、ZnおよびAlベースのコーティングが適用されている。耐食性の観点で、電気防食も提供することから、Znベースのコーティングが、好ましい場合もある。しかしながら、ZnおよびZn-Fe化合物の溶融温度が低いこと、再加熱温度が高温かつ加熱速度が遅いこと、ならびに関連する加熱および均熱の合計時間が長いことによって、表面のクラック(surface cracking)が、熱間成形中に発生する可能性がある。このクラックは、液体亜鉛の粒界侵入に関連している。この問題を解決する、探求されてきた方法の1つは、Znコーティングの変更である。
【0004】
現在の(超)高強度の熱間成形品は、プレス焼入れにより得られるマルテンサイトミクロ組織またはマルテンサイト-ベイナイトミクロ組織に起因して、使用時の延性が非常に低い(<8%)。熱間成形品のマルテンサイトミクロ組織は、主に必要な強度レベル(>1000MPa)を提供することを目的としている。しかしながら、熱間成形品のそのようなミクロ組織は、最大でも約6%の全伸びを付与することができるのみである。単相マルテンサイトミクロ組織は、良好な曲げ性(例えば、1000MPaレベルで>100°、1500MPaレベルで約50°)を付与することができるが、これらの製造物の衝突エネルギー吸収能力は、全伸びが低いために低くなる。とりわけUS2016/0312323A1から、超高強度鋼合金を製造する方法が知られている。この既知の方法は、炭素と2.5重量%を超えるマンガンとを含む鉄合金を準備する工程と、鉄合金を第1の温度でアニーリングしてアニーリングされた合金を形成させ、アニーリングされた合金を第2の温度で熱間成形して変態区間組織またはオーステナイト組織(intercritical or austenite structure)を形成させ、このようにアニーリングされたオーステナイト合金を冷却して超高強度鋼を形成させる工程とを含む。一実施形態において、アニーリングされた合金は、変態区間アニーリング(intercritical annealing)の温度範囲で熱間成形に供される。別の実施形態において、熱間成形温度は、オーステナイト化アニーリング範囲である。均熱時間は約1分~約10分である。実施例では、冷間圧延されたシートの連続アニーリング工程の後、実際の変形を引き起こさない、熱間成形の熱サイクルがシミュレーションされた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、(超)高強度鋼用の亜鉛ベースのコーティングによって提供される電気防食の利益をもたらし、(マイクロ)クラックを発生させるリスクを低減することも目的とする。
【0006】
本発明の別の目的は、熱間成形された超高強度鋼の全伸びを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明による亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた鋼のブランクから物品を成形する方法であって、
前記鋼が、重量%で、
C:0.01~0.2、
Mn:3.1~9.0、
Al:0.5~3.0、
場合により、
Si:1.5未満、
Cr:2.0未満、
V:0.1未満、
Nb:0.1未満、
Ti:0.1未満、
Mo:0.5未満
のうちの1種以上の追加の合金元素、
不可避的不純物、および、
残部:Fe
からなり、
前記方法が、以下の工程:
a)前記亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた鋼のブランクを準備する工程;
b)工程a)で得られた前記ブランクを、前記鋼のAc3-200℃~Ac3の範囲の再加熱温度TRHに再加熱する工程;
c)前記ブランクを前記再加熱温度TRHで最大3分間、均熱する工程;
d)プレスで前記物品に成形する工程;
e)前記物品を冷却する工程
を含む、前記方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、熱間成形されたコンポーネントの断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、亜鉛または亜鉛合金ベースのコーティングが施された鋼基材の組成の変更に基づく。Mnの量が多いと、加熱の際にオーステナイト変態が開始する温度(Ac1)および完了する温度(Ac3)が低下する。再加熱は、Ac3より低い温度で行われ、オーステナイト中にMnが高富化された超微細な変態区間組織が得られる。先行の変態区間アニーリング中のMnの富化により、オーステナイトは室温で安定し、大量の残留オーステナイト(20体積%以上)を含む超微細なミクロ組織が得られる。以下で説明するように、先行のアニーリング温度と同様の温度での再加熱中に、ブランクの室温のミクロ組織は軟化し、オーステナイトへのさらなるMnの分配は、再加熱および均熱の時間が短いため、ごくわずかしか生じ得ない。なぜなら、大きな置換元素であるMnの拡散は、あまり起こり得ないためである。室温まで冷却すると、同様に高い残留オーステナイトが得られる。9重量%を超えるMn含有量では、極端な偏析のために鋼の連続鋳造が困難になり、3重量%未満の含有量では、オーステナイト中に十分なMnの富化が達成されず、十分な量の残留オーステナイトが室温で得られない。残留オーステナイトは変形中にマルテンサイトに変態し、変態誘発塑性(TRIP)効果を引き起こす。TRIP効果により、製造物は、高い全伸びおよび高い曲げ性を達成する。したがって、熱間成形された超高強度鋼の全伸びは、本発明によれば、変態誘発塑性(TRIP)効果を引き起こす残留オーステナイトを大量に含むミクロ組織を生成することによって達成されると考えられる。
【0010】
したがって、鋼基材の組成のこの変更により、2つの理由で、液体亜鉛に誘導されるマイクロクラックを回避することができる。第1に、再加熱温度TRHが比較的低く、これにより、Znの極度の酸化が回避され、第2に、再加熱および均熱の合計時間が短く、その結果、速度論的な観点から、コーティング中のZnが液化するのに十分な時間に至らない。さらに、この鋼組成は、高温再加熱およびプレス焼入れの必須の熱間成形工程を必要とせずに、強固な成形プロセスを適用可能であることを見出した。本発明による異なった基材コンセプト、すなわち中程度のMn鋼コンセプトを採用することにより、使用中の高い延性(>15%、好ましくは>20%)が保証される。これにより、曲げ性を損なうことなく、製造物の衝突エネルギー吸収能力が向上する。
【0011】
本成形方法によれば、規定の鋼組成を有する亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた鋼のブランクを、Ac3-200℃~Ac3の範囲の加熱温度TRHに再加熱し、3分未満の短時間、この温度で保持する。上記のように、Mn量により、Ac1およびAc3は低下する。したがって、Ac3-200~Ac3の範囲の再加熱温度TRHは比較的低い。この温度範囲および比較的短い均熱時間において、ブランクは、本質的に、軟化して次の成形工程を容易にするのみであり、一方で、このブランクの特性は、基本的に同じ状態で維持されている。この理由は、開始時のミクロ組織が実質的に変化しないためと、鋼基材の組成中で合金になる主な元素であるマンガンが、有意に拡散可能でないためとである。同じ理由で、亜鉛ベースのコーティングは溶融せず、ZnおよびFeの間の界面は弱体化しない。これにより、後続の成形中の荷重下での(マイクロ)クラックの発生が回避される。このように再加熱されたブランクを、変形のための成形ツール、典型的にはプレスに移送し、ブランクを所望の形状に変形する。成形後、物品を冷却する。大量のMnを含むオーステナイトは非常に安定であるため、従来の熱間成形に不可欠なプレス焼入れは必要ない。また、部分的にマルテンサイトに変態する場合、非常に高い焼入れ性が得られ、高速でのプレス焼入れが不要になる。成形物品をプレスから取り出し、周囲雰囲気中で冷却することができる。空気による強制冷却、またはプレス焼入れとその後の空気中での(強制)冷却との組み合わせも可能である。
【0012】
有利な実施形態において、再加熱工程b)はフラッシュ再加熱工程であり、再加熱温度TRHへのブランクの再加熱は高速で実施され、溶融および拡散プロセスを引き起こす時間はほとんどない。有利には、再加熱速度は30℃/秒以上である。一実施形態において、再加熱速度は、60℃/秒以上、好ましくは100℃/秒以上である。現在、熱間成形のための再加熱は、長い(例えば、約60m)炉で実施され、再加熱時間はあまり制御されていない。ブランクごとに再加熱時間が異なると、鋼基材中のZnコーティングの拡散が異なるため、コーティング挙動が異なる場合がある。
【0013】
上記の速い再加熱速度は、誘導加熱によって達成することができる。本発明による方法を実施する際に使用される場合、誘導炉は、より小さく設計可能であり、これにより、ブランクごとの加熱時間をより制御することができる。また、小型の誘導炉で必要な財政投資は少なくて済む。
【0014】
一実施形態において、再加熱温度TRHは、Ac3-100℃~Ac3の範囲、または変態区間温度範囲Ac1~Ac3である。一実施形態において、再加熱温度TRHは700℃未満である。別の実施形態において、Znの極度の酸化を回避するために、それは675℃未満である。
【0015】
工程c)において、再加熱されたブランクを均熱し、好ましくは可能な限り短時間で均熱する。上記のように、再加熱および均熱の目的は、鋼を軟化させることであり、受け取った状態のブランクのミクロ組織を変化させることではない。適切な均熱時間は3分未満であるが、2分未満の均熱時間が有利である。好ましくは、再加熱されたブランクを、1分未満、好ましくは30秒未満の間、均熱する。再加熱および均熱の合計時間を短縮することで、処理時間を大幅に短縮し、より高い製造速度を可能にする。
【0016】
炉またはその他の加熱装置から成形ツールに、再加熱されたブランクを移送して変形させる。移送時間は短く、好ましくは10~15秒以内であることが好ましい。有利な実施形態において、移送中の温度降下は150℃以下である。好ましくは、温度降下は100~150℃である。温度降下がこれよりも大きい場合、ブランクは冷えすぎて次の成形工程で変形することができない場合がある。
【0017】
本プロセスは、プレス焼入れが必要ないため、変形直後に、例えば、100~450℃(200~425℃など)の出口温度でプレスから成形物品を取り出すことを可能にする。
【0018】
工程e)において、約3~約5℃/秒の冷却速度は、現実的な値を表し、成形物品(厚み1~1.5mm)の空冷中に達成可能である。
【0019】
一実施形態において、冷却工程d)は、プレス焼入れによりプレス内で実施され、有利には100~250℃、好ましくは150~200℃の温度まで実施される。焼入れ性の観点から、3℃/秒以上の焼入れ速度が適切である。再加熱時間が短い場合でも、ブランク中のマルテンサイトは再加熱中にオーステナイトに変態するが、この比較的遅い冷却速度により、成形物品ではオーステナイトが再びマルテンサイトに変態することが保証される。有利には、焼入れ速度は5℃/秒以上である。プレスから取り出した後、成形物品を雰囲気温度までさらに冷却することができる。
【0020】
プレス焼入れの代替案、例えば、空冷や強制空冷も企図される。
【0021】
上記のように、鋼のブランクの組成の化学的性質により再加熱および均熱工程の条件は、Znが液化しやすい状況を回避し、その結果、後続の成形工程中にマイクロクラックが発生しやすい条件を回避する。さらに、亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた鋼のブランクのミクロ組織は、これらの工程中に本質的な変化はしない。
【0022】
好ましい実施形態では、工程a)で、亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた鋼のブランクを、亜鉛または亜鉛合金でコーティングされ、変態区間アニーリングされ、冷間圧延または熱間圧延されたストリップから得る。
【0023】
一実施形態では、以下の工程:
1)例えば、転炉または電気炉で精製した後、真空脱ガス炉で二次精製することにより鋼を製造する工程;
2)例えば、鋳造、直接ストリップ鋳造(direct strip casting)またはスラブ鋳造によりスラブを調製する工程;
3)必要に応じてスラブを再加熱する工程;
4)熱間圧延してストリップを形成させる工程;
5)冷却および巻き取りする工程;
6)場合により、バッチアニーリングする工程;
7)酸洗いする工程;
8)冷間圧延する工程;
9)変態区間アニーリング(連続またはバッチ式)する工程;および、
10)亜鉛コーティング、例えば、亜鉛コーティング溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっきまたはガルバニーリングする工程
によって、亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた鋼ブランクを製造する。
【0024】
工程4)から得られた熱間圧延されたストリップを、工程9)および10)に直接供することもできる。
【0025】
変態区間アニーリング工程9)は、典型的には、700℃未満のアニーリング温度で実施される。好ましくは、本発明による方法の工程b)およびc)における再加熱温度TRHは、工程9)において適用される変態区間アニーリング温度以下である。
【0026】
本発明による方法で使用される鋼は、中程度のMn鋼であり、これは主成分として炭素、マンガンおよびアルミニウムを含む。場合により、ケイ素、クロム、バナジウム、ニオブ、チタンおよびモリブデンから選択されるその他の合金元素が存在してもよい。不可避的不純物、例えば、N、P、S、O、Cu、Ni、Sn、Sbなど(鋼組成を調製するための出発材料に由来)が存在する場合がある。それらは、意図的に追加されたり、所定の制限内で具体的に制御されたりするものではない。鋼組成の残部は鉄である。
【0027】
炭素は、0.01~0.2重量%、例えば、0.05~0.20重量%、好ましくは0.07~0.20重量%で存在する。炭素はオーステナイトの安定化にも寄与するが、主に強度の観点から添加される。本組成において、マンガンのオーステナイト安定化効果は、その比率が高いため、はるかに顕著である。炭素の好ましい範囲は、0.1~0.2重量%であり、より好ましい範囲は0.1~0.19重量%である。Cが少なすぎると、980MPa、または好ましくは1000MPaの所望の強度レベルが得られず、Cが0.2を超えると、成形部品の溶接性が悪くなることがある。
【0028】
マンガンは、3.1~9.0重量%で存在する。マンガンは、Ac1およびAc3の温度を低下させ、オーステナイトを安定させ、強度および靭性を高め、室温のミクロ組織でオーステナイトを安定させることによりTRIP効果を引き起こす。3.1重量%未満のレベルでは、目的とする効果が達成されない一方で、9.0重量%を超える量では、鋳造および偏析で問題が発生する。また、変形メカニズムは、変態誘起塑性(TRIP)から双晶誘起塑性(TWIP)に変化する。Mn含有量が低すぎると、不良なオーステナイトが室温で保持され、残留オーステナイトの安定性が低すぎて、延性の利点を得ることができない結果となる。好ましくは、Mn含有量は3.5~9.0重量%の範囲である。一実施形態において、Mnは5.0~9.0重量%になる。他の実施形態において、それは5.5~8.5重量%、例えば、6.0~7.5重量%である。さらに別の実施形態において、Mnは、7.0~9.0重量%の範囲、例えば、7.2~8.8重量%で存在する。
【0029】
工業用途を考慮してプロセスのロバスト性を高めるために、アルミニウムを添加して、温度範囲Ac1~Ac3を拡張する。Alは、0.5~3.0重量%の量、例えば、0.6~2.9重量%、好ましくは1.0~2.25重量%の範囲で存在する。
【0030】
ケイ素は、存在する場合、固溶体強化によって強度を高めるために、1.5未満の量で添加される。存在する場合、その量は、典型的には、0.01重量%より多く、1.4重量%未満である。その好ましい範囲は、0.15~1.0重量%である。
【0031】
AlおよびSiは両方ともセメンタイトの析出を抑制し、延性の低下を回避することに寄与する。さらに、AlおよびSiは両方とも、最大のアニーリング温度を上昇させて、室温で最高量の残留オーステナイトを得る。したがって、変態区間アニーリング中のMnの拡散は、オーステナイト中での効果的なMnの分配を容易にする。
【0032】
V、Nb、Ti、MoおよびCrの群から選択される1種以上のさらなるマイクロアロイ元素が、場合により存在する。これらのマイクロアロイ元素は、それらの炭化物、窒化物または炭窒化物による析出硬化によって強度を高める。Crはまた、最大のアニーリング温度を上昇させて、室温で最高量の残留オーステナイトを得、アニーリング温度に関する残留オーステナイト含有量の感度を低下させる。これらによって、オーステナイト中の効果的なMn分配と、アニーリング中のプロセスのロバスト性の向上とがもたらされる。存在する場合、好ましい添加物は、V:0.01~0.1重量%および/またはNb:0.01~0.1重量%および/またはTi:0.01~0.1重量%および/またはMo:0.05~0.5重量%および/またはCr:0.1~2.0重量%である。
【0033】
亜鉛または亜鉛合金コーティングの組成は限定されない。コーティングは様々な方法で適用可能であるが、標準のGIコーティング浴を使用する溶融亜鉛めっきが好ましい。その他のZnコーティングも適用され得る。一例は、WO2008/102009による亜鉛合金コーティング、特に、0.3~4.0重量%のMgおよび0.05~6.0重量%のAl、および場合により0.2重量%以下の1種以上の追加の元素を不可避的不純物とともに含み、残部が亜鉛である亜鉛合金コーティング層を含む。典型的には、0.2重量%未満の少量で添加される追加の元素は、Pb、Sb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Ni、ZrおよびBiを含む群から選択可能である。スパンコールを形成するために、通常、Pb、Sn、BiおよびSbを添加する。好ましくは、亜鉛合金中の追加の元素の総量は、0.2重量%以下である。これらの少量の追加の元素は、通常の用途のためにコーティングの性質も浴の性質も有意な程度には変化させない。好ましくは、亜鉛合金コーティング中に1種以上の追加の元素が存在する場合、それぞれ0.02重量%未満の量で存在し、好ましくはそれぞれ0.01重量%未満の量で存在する。追加の元素は、通常、溶融亜鉛めっきのために溶融亜鉛合金を使用して浴中でドロスが形成されるのを防止するため、または、コーティング層中にスパンコールを形成するためにのみ添加される。
【0034】
得られる成形物品は、体積%で、
フェライト:30%以上、好ましくは40%以上、
オーステナイト:20%以上、好ましくは30%以上、
マルテンサイト:0%以上50%以下、好ましくは0%以上30%以下
を含む三層または二層のミクロ組織を有することが好ましい。
【0035】
有利には、得られる成形物品は、以下の特性:
降伏強度:800MPa以上、好ましくは850MPa以上、最も好ましくは900MPa以上;
引張強度:980MPa以上、好ましくは1000MPa以上;
全伸び:15%以上、好ましくは25%以上;
厚み1.0mmでの最小曲げ角度:90°以上、好ましくは100°以上;
を有する。
【0036】
上記のように鋼ストリップを製造する際に変態区間アニーリング工程を使用することにより、ストリップから切断されたブランクを再加熱する前に、フェライトからオーステナイトへのMnの分配が生じ、変態区間オーステナイト(intercritical austenite)がさらに安定する。変態区間アニーリング後の冷却中、変態区間オーステナイトは、Msが低いことによる高い安定性のため、マルテンサイトに有意に変態せず、フェライトおよび残留オーステナイトの二相ミクロ組織が得られる。Mn含有量が少ない場合、例えば7%未満では、一部の変態区間オーステナイトがマルテンサイトに変態する可能性があるが、マルテンサイト含有量は50体積%以下である。したがって、Mnのレベルを高めることで、低い再加熱温度TRH(例えば、700℃未満)および大量の残留オーステナイト(20体積%以上)を保証することができる。この大量の残留オーステナイトは、成形工程における変形中に部分的にマルテンサイトに変態し、変態誘発塑性(TRIP)効果を引き起こし、高いひずみ硬化速度(=高い伸び)を生じさせる。
【0037】
鋼ストリップを700℃未満の温度で変態区間アニーリング(バッチまたは連続)する場合、残留オーステナイトが大量に存在するため、鋼ストリップは、高い強度および高い延性を有する。700℃未満の変態区間温度範囲における、その後のフラッシュ再加熱中も、ブランクの軟化は変形を容易にするのみである。非常に短い再加熱および均熱時間のために、比較的大きなサイズの置換元素であるMnは、実質的な程度まで拡散することができず、したがって、機械的特性は実質的に元の状態を維持する。好ましくは、変態区間アニーリングの温度以下の温度を再加熱工程に対して使用して、オーステナイトからフェライトへのMnの分布が本質的に同じ状態を維持し、フェライト含有量が再加熱により変化しないことも保証する。マルテンサイトが存在する場合、それはわずかに焼戻しされる可能性があるが、それはより高い伸び値に寄与する。
【0038】
基材合金組成の設計上の理由から、物品の残留伸び(または使用中の延性)は、好ましくは25%以上である。中程度のMn鋼アプローチの変態区間再加熱工程を使用して、超微細フェライト(0.5~2.0ミクロン)とマルテンサイトおよび高残留オーステナイトの領域との混合ミクロ組織を得る。したがって、供給される状態のストリップで進展された高い延性が維持される。
【0039】
さらなる態様において、本発明は、成形物品、特に本発明による方法によって得られる成形物品であって、
重量%で、
C:0.01~0.2、
Mn:3.1~9.0、
Al:0.5-3.0、
場合により、
Si:1.5未満、
Cr:2.0未満、
V:0.1未満、
Nb:0.1未満、
Ti:0.1未満、
Mo:0.5未満
のうちの1種以上の追加の合金元素、
不可避的不純物、および
残部:Fe
からなる鋼組成からの前記成形物品に関する。
【0040】
好ましくは、成形物品は、上記で概説したようなミクロ組織および機械的特性を有する。様々な元素の好ましい組成範囲も適用可能である。
【0041】
好ましい成形物品は、自動車部品(例えば、シャーシの構造部品)、特に、高強度と相まって高エネルギー吸収を必要とする部品である。非限定的な例には、Bピラーおよび(フロントの)軸方向のバーが含まれる。
【実施例
【0042】
本発明は、以下に記載される実施例を参照して説明される。
【0043】
図1は、熱間成形されたコンポーネントの断面を示す。
【0044】
表1に示す組成で鋼のサンプルを、実験室規模で作製した。炭素、マンガン、シリコンおよびアルミニウムは、鋼に添加される元素である。その他の元素は、鋼中の不可避的不純物である。
【0045】
【表1】
【0046】
以下のプロセス工程を使用して、鋼のサンプルを作製した。200mm×100mm×100mmのインゴットを真空誘導炉で作製した。それを1250℃で2時間再加熱し、厚み25mmに粗圧延した。次いで、ストリップを再び1250℃で30分間再加熱し、厚み3mmに熱間圧延した。次いで、熱間圧延された鋼を室温まで空冷した。
【0047】
次いで、ストリップを650℃で96時間アニーリングし、室温まで空冷した。次いで、ストリップをHCl酸で酸洗いして酸化物を除去し、厚み1.5mmに冷間圧延した。次いで、サンプルを、675℃で5分間連続アニーリングし、Rhescaアニーリング/溶融亜鉛めっきシミュレーターを使用して、460℃でZn-Al0.4重量%浴(Zn-0.4Al wt.% bath)中で溶融亜鉛めっきした。
【0048】
次いで、表2に示す熱サイクルを使用して、寸法が200mm×100mmのZnコーティングされたストリップを、Schuler SMG GmbH&Co.KGから調達された熱間成形プレスで熱間成形した。成形ツールには2つのタイプを使用した。引張、曲げおよびミクロ組織の試料を得るためのフラットツール(flat tool)と、マイクロクラックの調査用のオメガ形状の外形(omega-shaped profiles)を達成するためのハットトップツール(hat-top tool)とである。
【0049】
【表2】
【0050】
表2の再加熱時間は、ストリップを室温から再加熱温度まで加熱するのに必要な時間と均熱時間とである。ストリップを室温から再加熱温度まで加熱する時間は約8秒である。再加熱温度に到達した後、ストリップを3秒で熱間成形プレスに移送し、次いで、ホットプレスし、200℃未満の温度に冷却し、プレスから取り出し、さらに空気中で冷却する。
【0051】
引張試験はNEN10002規格準拠で実施された。引張試料のゲージ長は50mmであり、幅は20mmであった。曲げ試験は、40mm×30mm×1.5mmの試料に対してVDA 238-100規格準拠で実施された。
【0052】
表3は熱間成形前の機械的特性の結果を示し、表4は熱間成形後の機械的特性の結果を示す。表3および表4において、Rp=降伏強度、Rm=最大引張強度(ultimate tensile strength)、Ag=一様伸び(uniform elongation)、At=全伸び。BA=曲げ角度、L=曲げ軸が圧延方向に平行な縦方向の試料、T=曲げ軸が圧延方向に垂直な横方向の試料である。厚み1.5mmで測定された曲げ角度は、以下の式:
厚み1.0mmにおけるBA=測定されたBA×厚みの平方根
を使用して1mm相当値に変換された。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
サンプルのミクロ組織を以下のように決定した。X線回折(XRD)によって、残留オーステナイトの量をサンプルの厚みの1/4の位置で決定した。Panalytical Xpert PRO標準粉末回折計(CoKα-放射線)によって、45~165°の範囲(2Θ)でXRDパターンを記録した。リートベルト法のためのBruker Topasソフトウェアパッケージを使用したリートベルト解析によって、相比率の定量的決定を実施した。回折図のフェライト回折位置におけるピーク分割からマルテンサイト含有量を決定した。
【0056】
ミクロ組織の構成を、熱間成形前のブランクについては表5に、熱間成形後の構成については表6に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
表3に示されている再加熱温度で鋼S2から作製されたコンポーネントであって、ハットトップツールで形成された該コンポーネントを、該コンポーネントの断面を作製することによって調べた。ハットトップ形状の側部を顕微鏡で観察した。基材組成S2の両方についての断面の写真を図1に示す。両方の写真は、基材がクラックの全くない亜鉛コーティングで覆われていることを示す。したがって、これらのコンポーネントは良好な耐食性を有する。
【0060】
比較で、図1の上の写真は、亜鉛コーティング22MnB5基材から作製されたハットトップの断面を示す。標準の熱間成形サイクルを使用して、ブランクを約850℃まで加熱し、約5分間オーステナイト化させ、プレスに移送し、上記のようにホットプレスすることによって、このハットトップを熱間成形した。22MnB5サンプルは、断面に多くのマイクロクラックを明確に示す。
図1