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特許7354231負極活性材料、その製造方法及び該負極活性材料を用いた装置
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  • 特許-負極活性材料、その製造方法及び該負極活性材料を用いた装置 図1
  • 特許-負極活性材料、その製造方法及び該負極活性材料を用いた装置 図2A
  • 特許-負極活性材料、その製造方法及び該負極活性材料を用いた装置 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】負極活性材料、その製造方法及び該負極活性材料を用いた装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20230925BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20230925BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230925BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230925BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230925BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230925BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230925BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230925BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/1395
H01M4/38 Z
H01M4/62 Z
H01M4/48
H01M4/36 C
H01M4/587
H01M4/36 E
H01M10/0566
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2021516456
(86)(22)【出願日】2019-11-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 CN2019119436
(87)【国際公開番号】W WO2020186799
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】201910214567.1
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 志煥
(72)【発明者】
【氏名】姜 道義
(72)【発明者】
【氏名】崔 航
(72)【発明者】
【氏名】謝 遠森
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-508934(JP,A)
【文献】特表2012-501515(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002288(WO,A1)
【文献】特開2014-146519(JP,A)
【文献】国際公開第2017/061514(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105406044(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107799723(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106415894(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105304858(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを有する負極活物質粒子と、第1の導電性材料と、第2の導電性材料とを含む負極活性材料であって、
前記第1の導電性材料と前記第2の導電性材料は、三次元導電ネットワーク構造を形成し、
前記負極活物質粒子の少なくとも一部は、三次元導電ネットワーク構造に収容され、 前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比は、1000未満であり、
前記第1の導電性材料は、少なくとも1種の極性基を有するカーボンナノチューブを含み、前記第2の導電性材料は、炭素繊維を含み、
前記第1の導電性材料の質量が導電性材料の全質量の2.5%~15%を占めており、 前記負極活物質粒子の平均粒径D50が0.5μm~30μmであり、前記第2の導電性材料の平均長さL50と前記負極活物質粒子のD50が、
関係式:(L50-D50)/D50≧1を満たし、
前記L50と前記D50との単位は、いずれもμmである
ことを特徴とする負極活性材料。
【請求項2】
前記第1の導電性材料は、アスペクト比が50~3000であり、直径が2nm~30nmであり、
前記第2の導電性材料は、アスペクト比が20~500であり、直径が50nm~500nmである、請求項1に記載の負極活性材料。
【請求項3】
前記負極活物質粒子の全質量に対する、前記第1の導電性材料と前記第2の導電性材料との全質量の比が、1:5~100である、請求項1に記載の負極活性材料。
【請求項4】
前記極性基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、エポキシ基、アミノ基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の負極活性材料。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、又はこれらの両方の組み合わせを含む、請求項1に記載の負極活性材料。
【請求項6】
前記炭素繊維は、気相成長炭素繊維、ナノ炭素繊維、又はこれらの両方の組み合わせを含む、請求項1に記載の負極活性材料。
【請求項7】
前記第1の導電性材料は、1種以上の共有結合により前記負極活物質粒子の表面に結合されている、請求項2に記載の負極活性材料。
【請求項8】
前記負極活物質粒子は、ケイ素単体、ケイ素化合物、ケイ素合金、又はこれらの任意の組み合わせを含む、請求項1に記載の負極活性材料。
【請求項9】
前記負極活物質粒子は、SiO(但し、x=0.5~1.5)を含み、前記SiOは結晶性SiO、非晶質SiO又はこれらの両方の組み合わせを含む、請求項8に記載の負極活性材料。
【請求項10】
前記負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が酸化物で被覆されている、請求項1に記載の負極活性材料。
【請求項11】
前記酸化物は、金属酸化物、非金属酸化物、又はこれらの両方の組み合わせを含む、請求項10に記載の負極活性材料。
【請求項12】
第3の導電性材料をさらに含み、前記第3の導電性材料の質量が導電性材料の全質量の1%~20%を占める、請求項1に記載の負極活性材料。
【請求項13】
前記第3の導電性材料は、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、導電性黒鉛、グラフェン、又はこれらの任意の組み合わせを含む、請求項12に記載の負極活性材料。
【請求項14】
前記負極活物質粒子は、さらに炭素材料を含む、請求項1に記載の負極活性材料。
【請求項15】
前記炭素材料は、人造黒鉛、天然黒鉛、又はこれらの組み合わせを含む、請求項14に記載の負極活性材料。
【請求項16】
前記人造黒鉛は、メソフェーズカーボンマイクロスフェアを含む、請求項15に記載の負極活性材料。
【請求項17】
さらに結合剤を含む、請求項1に記載の負極活性材料。
【請求項18】
前記結合剤は、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、メチロールセルロースナトリウム、メチロールセルロースカリウム、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項17に記載の負極活性材料。
【請求項19】
負極シートであって、
集電体と、請求項1~18のいずれか一項に記載の負極活性材料とを含み、
前記負極活性材料は、前記集電体の少なくとも一つの表面に塗布される、負極シート。
【請求項20】
厚みが50μm~200μmであり、片面圧縮密度が1.2g/cm~2.0g/cmであり、電気抵抗率が0.001Ω・cm~1000Ω・cmである、請求項19に記載の負極シート。
【請求項21】
前記負極活性材料と前記集電体との間の剥離強度が20N/mより大きい、請求項19に記載の負極シート。
【請求項22】
正極シートと、
請求項19~21のいずれか一項に記載の負極シートと、
セパレータと、
電解液とを含む電気化学デバイス。
【請求項23】
請求項22に記載の電気化学デバイスを含む電子設備。
【請求項24】
負極活性材料スラリーの製造方法であって、
シリコンを有する負極活物質粒子、第1の導電性材料及び溶媒を混合して第1の混合スラリーを得る工程(a)と、
第2の導電性材料及び溶剤を前記第1の混合スラリーに添加して第2の混合スラリーを得る工程(b)と、
前記第2の混合スラリーを濾過して負極活性材料スラリーを得る工程(c)とを含み、 前記負極活性材料スラリーは、請求項1~18のいずれか1項に記載の負極活性材料のスラリーである
ことを特徴とする製造方法。
【請求項25】
工程(a)において、さらに結合剤を添加し、
前記結合剤は、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、メチロールセルロースナトリウム、メチロールセルロースカリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項24に記載の製造方法。
【請求項26】
工程(b)において、さらに第3の導電性材料を第1の混合スラリーに添加し、
前記第3の導電性材料は、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、導電性黒鉛、グラフェン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項25に記載の製造方法。
【請求項27】
工程(b)において、さらに炭素材料を前記第1の混合スラリーに添加し、
前記炭素材料は、人造黒鉛、天然黒鉛、又はこれらの組み合わせを含む、請求項24に記載の製造方法。
【請求項28】
前記人造黒鉛は、メソフェーズカーボンマイクロスフェアを含む、請求項27に記載の製造方法。
【請求項29】
工程(b)において、さらに結合剤を添加し、
前記結合剤は、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、メチロールセルロースナトリウム、メチロールセルロースカリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項24に記載の製造方法。
【請求項30】
工程(a)及び工程(b)において、溶媒の使用量を制御することにより、前記第1の混合スラリーと前記第2の混合スラリーの粘度を制御する、請求項24に記載の製造方法。
【請求項31】
工程(a)及び工程(b)において、前記溶媒は、脱イオン水又はN-メチルピロリドンを含む、請求項24に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵の分野に関し、具体的には、負極活性材料、その製造方法及び該負極活性材料を用いた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコン、携帯電話、ハンドヘルドゲーム機やタブレットなどの電子類製品の普及にしたがって、電気化学デバイス(例えば、電池)に対する要求もますます厳しくなっている。多くの種類の電池の中で、リチウムイオン電池は、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池などに比べて、エネルギー貯蔵密度が高く、電力密度が大きく、安全性が良く、環境に優しく、寿命が長く、自己放電率が低く、動作温度範囲が広いなどの利点を有する。負極材料は、リチウムイオン電池の重要な構成部材として、リチウムイオン電池の性能に顕著な影響を与えるため、負極材料に対する絶え間ない最適化や改善は特別に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
シリコンは、可逆容量が4200mAh/gと高いため、大規模な応用の可能性が最も高いリチウムイオン負極材料と考えられている。しかし、シリコン材料は、数回の充放電サイクルを経た後、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴って大きな体積の変化が発生し、体積膨張率が300%に達し、大きな機械的応力が発生するため、シリコン粒子の粉末化、活性材料と集電体との剥離を引き起こし、その結果、リチウムイオン電池のサイクル特性を低下させる。また、シリコンの導電性が悪いため、深刻な分極を引き起こし、サイクル特性をさらに低下させる。
【0004】
現在、シリコン材料のサイクル過程中における大きな体積変化や悪い導電性を解決する主な方法として、シリコン材料のナノ化、シリコン含有材料と黒鉛や他の材料(金属や非金属)との複合化、及びシリコン負極に使用される結合剤の最適化などが挙げられる。しかし、ナノ材料は、凝集しやすく、比表面積が大きい(>100m/g)ので、固体電解質界面膜(SEI膜)の形成のためにより多くの電解液を消費し、その結果、初回クーロン効率の低下や導電性の低下などの問題を引き起こし、ナノシリコン材料の更なる応用を制限する。黒鉛等の材料の良好な導電性及び延性を利用することにより、サイクル過程中のシリコン材料の体積膨張を大幅に緩和し、系の導電性を向上することができる。シリコン含有複合材料は、サイクル前期に一定の束縛作用を果たすことができる。しかしながら、サイクルが進むにつれてシリコン膨張が十分に抑制されなくなり、電池の性能も急激に低下する。また、既存の結合剤は、シリコンが体積の膨張・収縮の過程中で発生する巨大な応力(1Gpaまでに可能)に適応することができず、サイクル過程中で疲労破壊が発生しやすい。
【0005】
そのため、より一層良好なサイクル特性をシリコン材料に与えるためには、新たな改良が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、
シリコンを有する負極活物質粒子と、第1の導電性材料と、第2の導電性材料とを含む負極活性材料であって、
前記第1の導電性材料と前記第2の導電性材料は、三次元導電ネットワーク構造を形成し、
前記負極活物質粒子の少なくとも一部は、前記三次元導電ネットワーク構造に収容されており、
前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比は、1000未満であることを特徴とする負極活性材料を提供する。
【0007】
いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料は、アスペクト比が約50~約3000であり、直径が約2nm~約30nmであり、
前記第2の導電性材料は、アスペクト比が約20~約500であり、直径が約50nm~約500nmである。
【0008】
いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の平均粒径D50が約0.5μm~約30μmであり、前記第2の導電性材料の平均長さL50と前記負極活物質粒子のD50(L50-D50)/D50≧1を満たす。
【0009】
いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料と第2の導電性材料との質量比が、約0.01~約0.5である。
【0010】
いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料の質量が導電性材料の全質量の約5%~約30%を占める。
【0011】
いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全質量に対する前記第1の導電性材料と前記第2の導電性材料との全質量の比が、約1:5~100である。
【0012】
いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料は、極性基を少なくとも1種含有するカーボンナノチューブを含み、前記第2の導電性材料は、炭素繊維を含む。
【0013】
いくつかの実施例において、前記極性基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、エポキシ基、アミノ基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0014】
いくつかの実施例において、前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、又はこれらの両方の組み合わせを含む。
【0015】
いくつかの実施例において、前記炭素繊維は、気相成長炭素繊維(VGCF)、ナノ炭素繊維、又はこれらの両方の組み合わせを含む。
【0016】
いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料は、1種以上の共有結合により前記負極活物質粒子の表面に結合されている。
【0017】
いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子は、ケイ素単体、ケイ素化合物、ケイ素合金、又はこれらの任意の組み合わせを含む。
【0018】
いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子は、SiO(但し、x=0.5~1.5)を含み、前記SiOは結晶性SiO、非晶質SiO又はこれらの両方の組み合わせを含む。
【0019】
いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が酸化物で被覆されている。
【0020】
いくつかの実施例において、前記酸化物は、金属酸化物、非金属酸化物、又はこれらの両方の組み合わせを含む。
【0021】
いくつかの実施例において、前記負極活性材料は、第3の導電性材料をさらに含み、前記第3の導電性材料の質量が導電性材料の全質量の約1%~約20%を占める。
【0022】
いくつかの実施例において、前記第3の導電性材料は、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、導電性黒鉛、グラフェン、又はこれらの任意の組み合わせを含む。
【0023】
いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子は、さらに炭素材料を含む。
【0024】
いくつかの実施例において、前記炭素材料は、人造黒鉛、天然黒鉛、又はこれらの組み合わせを含み、前記人造黒鉛又は天然黒鉛は、メソフェーズカーボンマイクロスフェア、ソフトカーボン、ハードカーボン、又はこれらの任意の組み合わせを含む。
【0025】
いくつかの実施例において、前記負極活性材料はさらに結合剤を含む。
【0026】
いくつかの実施例において、前記結合剤は、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、メチロールセルロースナトリウム、メチロールセルロースカリウム、又はそれらの任意の組み合わせを含む。
【0027】
本発明の第2の態様によれば、集電体と、前記した負極活性材料とを含む負極シートであって、
前記負極活性材料は、前記集電体の少なくとも一つの表面に塗布されている、負極シートを提供する。
【0028】
いくつかの実施例において、前記負極シートは、厚みが約50μm~約200μmであり、片面圧縮密度が約1.2g/cm~約2.0g/cmであり、電気抵抗率が約0.001Ω・cm~約1000Ω・cmである。
【0029】
いくつかの実施例において、前記負極活性材料と前記集電体との剥離強度が約20N/mより大きい。
【0030】
本発明の第3の態様によれば、正極シートと、前記した負極シートと、セパレータと、電解液とを含む電気化学デバイスを提供する。
【0031】
本発明の第4の態様によれば、前記した電気化学デバイスを含む電子設備を提供する。
【0032】
本発明の第5の態様によれば、
シリコンを有する負極活物質粒子、第1の導電性材料及び溶媒を混合して第1の混合スラリーを得る工程(a)と、
第2の導電性材料及び溶剤を前記第1の混合スラリーに添加して第2の混合スラリーを得る工程(b)と、
前記第2の混合スラリーを濾過して負極活性材料を得る工程(c)とを含む負極活性材料スラリーの製造方法であって、
前記第1の導電性材料と前記第2の導電性材料は、三次元導電ネットワーク構造を形成し、
シリコンを有する前記負極活物質粒子の少なくとも一部は、前記三次元導電ネットワーク構造に収容されており、
前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比が約1000未満であることを特徴とする負極活性材料スラリーの製造方法を提供する。
【0033】
いくつかの実施例において、工程(a)において、さらに結合剤を添加し、前記結合剤は、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、メチロールセルロースナトリウム、メチロールセルロースカリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0034】
いくつかの実施例において、工程(b)において、さらに第3の導電性材料を第1の混合スラリーに添加し、前記第3の導電性材料は、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、導電性黒鉛、グラフェン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0035】
いくつかの実施例において、工程(b)において、さらに炭素材料を前記第1の混合スラリーに添加し、前記炭素材料は、人造黒鉛、天然黒鉛、メソフェーズカーボンマイクロスフェア、ソフトカーボン、ハードカーボン、又はこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0036】
いくつかの実施例において、工程(b)において、さらに結合剤を添加し、前記結合剤は、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、メチロールセルロースナトリウム、メチロールセルロースカリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0037】
いくつかの実施例において、工程(a)及び工程(b)において、溶媒の使用量を制御することにより前記第1の混合スラリーと前記第2の混合スラリーの粘度を制御する。
【0038】
いくつかの実施例において、工程(a)及び工程(b)において、前記溶媒は、脱イオン水又はN-メチルピロリドンを含む。
【0039】
本発明の実施例のさらなる態様及び利点の一部は、後続の内容において説明、表示されるか、又は本発明の実施例の実施により説明される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
本願の図面は、本発明の一実施形態を示しており、上記の説明と共に本発明の技術の趣旨を当業者にさらに理解させるために提供される。しかしながら、本発明の保護範囲をこれらの図面に限定するわけがない。
図1】は、本発明のシリコン含有負極活性材料中の導電性材料により形成された三次元導電ネットワークの概略図である。
図2A】及び
図2B】は、本発明の実施例4で得られたシリコン含有負極活性材料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、明細書及び特許請求の範囲において使用される用語は、一般的な及び辞書における意味に限られて解釈されるべきではなく、発明者らが最適な解釈のために用語を適切に定義することができるという原則に基づいて、本発明の技術構成に適応する意味及び概念にしたがって解釈される。よって、明細書に記載の実施形態及び図面で示された内容は、説明を目的とする具体例にすぎず、本発明のすべての技術的態様を示すことを意図しているわけではない。そして、本発明が提出された時に、当業者であれば、複数の任意の等価体及び変形体で本発明を実施することができると理解できる。
【0042】
本明細書において、用語「略」、「大体」、「実質的に」、及び「約」は、小さな変化を記述・説明するために使用される。イベント又は状況と組み合わせて使用される場合、前記用語は、イベント又は状況が正確に発生する例、及びイベント又は状況が非常に近似して発生する例を指すことができる。例えば、数値と組み合わせて使用される場合、前記用語は、前記数値から±10%以下の変動範囲を指してもよく、例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下などを指すことが可能である。例えば、2つの数値の差が前記2つの数値の平均値の±10%以下(例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下)である場合、前記2つの数値は「大体」同じであると考えられる。
【0043】
さらに、本明細書において、量、比率、及び他の数値は、範囲の形で表現されることがある。なお、そのような範囲の形は、便宜上及び簡潔のために使用され、明示的に指定された該数値範囲だけでなく、該数値範囲内に含まれる個々の数値及び任意のサブ数値範囲も含む意味で(即ち、該数値範囲内に含まれる個々の数値及び任意のサブ数値範囲が明示されたことに相当するように)、柔軟に理解すべきである。
【0044】
一、負極活性材料
本発明は、シリコンを有する負極活物質粒子と、第1の導電性材料と、第2の導電性材料とを含む負極活性材料であって、
前記第1の導電性材料と前記第2の導電性材料は、三次元導電ネットワーク構造を形成し、
前記負極活物質粒子の少なくとも一部は、前記三次元導電ネットワーク構造に収容されており、
前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比が1000未満であることを特徴とする負極活性材料を提供する。
【0045】
いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の平均直径D50は、約0.5μm~約30μmである。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の平均直径D50は、約1.0μm~約20μmである。ここで、D50は、前記負極活物質粒子の体積基準の粒度分布において、小粒径側から体積を累積して全体積の50%に達する際の粒子の粒子径である。負極活物質粒子の平均粒子径D50の測定は、マルバーン粒度測定装置で行うことができる。具体的には、負極材料を分散剤(エタノール若しくはアセトン、又はその他の界面活性剤)に分散させ、30min超音波処理後、得られたサンプルをマルバーン粒度測定装置に加えて測定を開始する。
【0046】
本発明の実施例では、シリコン粒子の平均粒径(D50)が制御されたものである。シリコン粒子のD50が約0.5μm未満の場合、シリコン粒子の全表面積が大きすぎて、より多くの電解液を消耗し、製造されたリチウムイオン電池の初回クーロン効率とサイクル特性を劣化することがある。シリコン粒子のD50が約30μmを超えると、シリコン粒子のサイズが大きすぎて、リチウムイオン吸蔵後の体積膨張が大きくなり、シリコン粒子の内部応力を大きくさせ、しかも当該内部応力を適時に解放できず、その結果、シリコン粒子にマイクロクラックひいては破砕が発生しやすくなり、SEI膜が繰り返し破砕されて生成され、それによって、製造されたリチウムイオン電池の電気化学的特性を劣化する。したがって、シリコン粒子のサイズは合理的な範囲内に制御する必要がある。
【0047】
いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子は、シリコン単体、シリコン化合物、シリコン合金、又はこれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子はSiOx(ただし、x=0.5~1.5)を含み、前記SiOxは結晶性SiOx、非晶質SiOx、又はそれらの両方の組み合わせを含む。
【0048】
いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が酸化物で被覆されている。いくつかの実施例において、前記酸化物は、金属酸化物、非金属酸化物、又はこれらの両方の組み合わせを含む。
【0049】
いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子はさらに炭素材料を含む。いくつかの実施例において、前記炭素材料は、人造黒鉛、天然黒鉛、又はこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施例において、前記人造黒鉛又は天然黒鉛は、メソフェーズカーボンマイクロスフェア、ソフトカーボン、ハードカーボン、又はそれらの任意の組み合わせを含む。
【0050】
前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比は1000未満である。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比は約500未満である。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比は約200未満である。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比は約50未満である。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比は約20未満である。
【0051】
材料の全表面積は、BET測定法(Brunauer-Emmett-Teller、BET)で比表面積を測定してから算出することができる。BET測定法では、まずTri Star II比表面分析計を用いて、サンプル管にサンプル3g~6gを充填し、サンプルを脱気ステーションに入れ、サンプルに加熱、真空引きをした後、加熱及び真空引きを停止し、サンプル温度を室温まで下げ、サンプル管を取り外してサンプル管とサンプルの質量を測定し、分析ステーションに入れて分析し、データ処理と計算を行い、材料の比表面積(m/g)を得る。材料の比表面積(m/g)に材料の全質量(g)を掛けると、材料の全表面積(m)は得られる。
【0052】
いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料のアスペクト比(すなわち、直径に対する長さの比)は、約50~約3000である。いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料のアスペクト比(すなわち、直径に対する長さの比)は、約100~約2000である。いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料の直径は、約2nm~約30nmである。ここで、材料の直径は、統計的方法により求められる。導電性材料粉末を電子顕微鏡(TEM又はSEM)下に置き、100本超の導電性材料の直径をランダムに統計した後、それらの平均値を前記導電性材料の直径とする。材料の長さも統計的方法により得られる。まず、導電性材料粉末を分散剤(エタノール若しくはアセトン、又はその他の界面活性剤)に分散させ、導電性材料の固形分を0.1wt%未満とし、30min超音波処理後、ゴムヘッド付きスポイトで少量の導電性材料スラリーを吸引して銅箔又は他の支持体上に滴下し、電子顕微鏡(TEM又はSEM)下で観察し、ランダムに100本超の導電性材料の長さを統計した後、それらの平均値を前記材料の長さとする。しかしながら、材料の長さ及び直径の測定方法は、上記の測定方法に限定されるものではなく、当業者に周知される他の測定方法も利用可能である。
【0053】
いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料の質量は、導電性材料の全質量の約5%~約30%を占める。いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料の質量は、導電性材料の全質量の約7%~約27%を占める。いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料の質量は、導電性材料の全質量の約10%~約26%を占める。いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料の質量は、導電性材料の全質量の約10%~約15%を占める。
【0054】
いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料は、1種以上の共有結合により前記負極活物質粒子の表面に結合されている。
【0055】
いくつかの実施例において、第1の導電性材料はCNTを含む。該CNTは表面に、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、エポキシ基、アミノ基及びそれらの組み合わせからなる群を含む極性基を含み、該CNTは、水系中でより均一に分散することができる。また、CNT表面の極性基は、シリコン粒子表面の基と結合作用を形成することができ、それにより、CNTでシリコン粒子表面を良好に被覆し、粒子同士の間を架橋する。CNTは、結合作用により、シリコン粒子表面をしっかりと被覆し、リチウムイオンの吸蔵・放出過程中においてシリコン粒子の体積が大きく変化する場合にも、シリコン粒子が表面から脱落しにくく、このように、シリコン粒子の体積膨張を拘束する作用効果を効果的に達成することができる。また、CNTはシリコン粒子の表面を被覆することにより、シリコン材料の導電性を効果的に向上させることができる。サイクル過程中にCNTが脱落することがないので、サイクルが進んでも、シリコン材料の導電性を効果的に維持することができ、導電ネットワークを効果的かつ安定的にさせることができる。しかし、CNTの含有量は多すぎてはならない(つまり、導電性材料の全質量の約30%を超えてはならない)。CNTが多すぎると、スラリーの加工難度が増加し(その理由として、大量のCNTにより、スラリーは、分散均一度が低下し、粘度が高くなるため、粘度を下げるために大量の水を加える必要があり、この結果、固形分の低下、塗布の均一性の低下を招く。他の理由として、大量のCNTは凝集しやすいので、スラリーのふるい分けが難しくなり、それに時間がかかることが挙げられるが、これらに限られない。)、それにより、電池の初回クーロン効率と容量を低下し、サイクル特性を劣化することがある。また、CNTの量が少なすぎる(導電性材料の全質量の約5%未満)と、シリコン材料を良好に被覆することができず、シリコン材料の導電性を高め、サイクル過程中のシリコン材料の膨張を抑制する効果が大幅に低減される。
【0056】
いくつかの実施例において、前記第2の導電性材料のアスペクト比は、約20~約500である。いくつかの実施例において、前記第2の導電性材料のアスペクト比は、約40~約200である。いくつかの実施例において、前記第2の導電性材料の直径は約50nm~約500nmである。
【0057】
いくつかの実施例において、前記第2の導電性材料の平均長さL50と前記負極活物質粒子のD50は、下記関係式:(L50-D50)/D50≧1を満たし、ここで、前記L50と前記D50との単位は、いずれもμmである。
【0058】
本発明のいくつかの実施例において、第2の導電性材料は、剛性がより高い(弾性率は最大1000GPa)との特性を有するVGCFを含む。前記VGCFは、活物質粒子間に介在し、リチウムイオンを吸蔵して膨張したシリコン粒子の変位を抑制し、シリコン負極材料の体積膨張を低減することができる。VGCFの平均長さL50がシリコン粒子の平均粒径D50と同等以下であれば、VGCFはシリコン粒子の表面に粘着しているだけであり、粒子同士の間を効果的に架橋することができず、シリコン粒子の変位を効果的に抑制する効果を発揮することができない。VGCFの平均長さL50とシリコン粒子の平均粒径D50とは、関係式:(L50-D50)/D50≧1を満たす場合にのみ、VGCFは、結合剤により2つ以上の粒子同士の間を効果的に架橋し、粒子間の粘着力、活性材料と集電体との粘着力を高めながら、シリコン粒子の変位を抑制し、シリコン粒子の体積膨張を拘束する作用や効果を発揮し、サイクル過程中の電極の構造安定性を確保することができる。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全質量に対する、前記第1の導電性材料と前記第2の導電性材料の全質量の比は、約1:5~100である。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全質量に対する、前記第1の導電性材料と前記第2の導電性材料の全質量の比は、約1:10~90である。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全質量に対する、前記第1の導電性材料と前記第2の導電性材料の全質量の比は、約1:20~80である。
【0059】
いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料は、少なくとも1種の極性基を有するカーボンナノチューブを含み、前記第2の導電性材料は、炭素繊維を含む。いくつかの実施例において、前記極性基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、エポキシ基、アミノ基、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施例において、前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、又はこれらの両方の組み合わせを含む。いくつかの実施例では前記、炭素繊維は、気相成長炭素繊維(VGCF)、ナノ炭素繊維、又はこれらの両方の組み合わせを含む。
【0060】
本発明のいくつかの実施例において、第1の導電性材料(例えば、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるカーボンナノチューブ(CNT))及び第2の導電性材料(例えば、気相成長炭素繊維(VGCF)、ナノ繊維、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される炭素繊維)を使用して、有効な三次元導電ネットワークを形成し、シリコン粒子をこの三次元導電ネットワークに収容することにより(図1の概略図及び図2のSEM画像を参照)、サイクル過程中のシリコン粒子の膨張を抑制し、粒子間の導電性を向上させ、リチウムイオン電池の電気化学的特性をさらに向上させる。
【0061】
いくつかの実施例において、第3の導電性材料をさらに添加することにより、シリコン粒子間、シリコン粒子と黒鉛粒子との間の電気的接触を向上することができ、それにより、三次元導電ネットワークをより完全かつ十分に形成し、サイクル特性の向上により有利である。
【0062】
いくつかの実施例において、前記負極活性材料はさらに結合剤を含む。いくつかの実施例において、前記結合剤は、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、メチロールセルロースナトリウム、メチロールセルロースカリウム、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0063】
二、負極材料の製造方法
本発明は、
シリコンを有する負極活物質粒子、第1の導電性材料及び溶媒を混合して第1の混合スラリーを得る工程(a)と、
第2の導電性材料及び溶剤を前記第1の混合スラリーに添加して第2の混合スラリーを得る工程(b)と、
前記第2の混合スラリーを濾過して負極活性材料スラリーを得る工程(c)とを含む負極活性材料スラリーの製造方法であって、
前記第1の導電性材料と前記第2の導電性材料は、三次元導電ネットワーク構造を形成し、
シリコンを有する前記負極活物質粒子の少なくとも一部は、三次元導電ネットワーク構造に収容されており、
前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比が1000未満であることを特徴とする負極活性材料スラリーの製造方法を提供する。
【0064】
いくつかの実施例において、工程(a)において、さらに結合剤を添加する。前記結合剤は、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、メチロールセルロースナトリウム、メチロールセルロースカリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0065】
いくつかの実施例において、工程(b)において、さらに第3の導電性材料を前記第1の混合スラリーに添加する。
【0066】
いくつかの実施例において、工程(b)において、さらに炭素材料を前記第1の混合スラリーに添加する。前記炭素材料は、人造黒鉛、天然黒鉛、又はそれらの組み合わせであり、前記人造黒鉛又は天前記然黒鉛は、メソフェーズカーボンマイクロスフェア、ソフトカーボン、ハードカーボン、又はそれらの任意の組み合わせを含む。
【0067】
いくつかの実施例において、工程(b)において、さらに結合剤を添加する。前記結合剤は、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、メチロールセルロースナトリウム、メチロールセルロースカリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0068】
いくつかの実施例において、工程(a)及び工程(b)において、溶媒の使用量を制御することにより前記第1の混合スラリーと前記第2の混合スラリーの粘度を制御する。
【0069】
いくつかの実施例において、工程(a)及び工程(b)において、前記溶媒は、脱イオン水又はN-メチルピロリドンを含む。
【0070】
いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比は約1000未満である。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比は約500未満である。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比は約200未満である。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比は約50未満である。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全表面積に対する前記第1の導電性材料の全表面積の比は約20未満である。
【0071】
いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子はSiOx(ただし、x=0.5~1.5)を含む。前記SiOxは、結晶性SiOx、非晶質SiOx、又はそれらの両方の組み合わせを含む。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の表面の少なくとも一部が酸化物で被覆されている。いくつかの実施例において、前記酸化物は、金属酸化物、非金属酸化物、又はこれらの両方の組み合わせを含む。
【0072】
いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の平均直径D50は、約0.5μm~約30μmである。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の平均直径D50は、約1.0μm~約20μmである。いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料のアスペクト比(すなわち、直径に対する長さの比)は、約50~約3000である。いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料のアスペクト比(すなわち、直径に対する長さの比)は、約100~約2000である。いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料の直径は、約2nm~約30nmである。
【0073】
いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料の質量は、導電性材料の全質量の約5%~約30%を占める。いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料の質量は、導電性材料の全質量の約7%~約27%を占める。いくつかの実施例では前記、第1の導電性材料の質量は、導電性材料の全質量の約10%~約26%を占める。いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料の質量は、導電性材料の全質量の約10%~約15%を占める。
【0074】
いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料は、少なくとも1種の極性基を有するカーボンナノチューブを含み、前記第2の導電性材料は、炭素繊維を含む。いくつかの実施例において、前記極性基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、エポキシ基、アミノ基、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施例において、前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、又はこれらの両方の組み合わせを含む。いくつかの実施例において、前記炭素繊維は、気相成長炭素繊維(VGCF)、ナノ炭素繊維、又はこれらの両方の組み合わせを含む。
【0075】
いくつかの実施例において、前記第1の導電性材料は、1種以上の共有結合により負極活物質粒子の表面に結合されている。
【0076】
いくつかの実施例において、前記第2の導電性材料のアスペクト比は、約20~約500である。いくつかの実施例において、前記第2の導電性材料のアスペクト比は、約40~約200である。いくつかの実施例において、前記第2の導電性材料の直径は、約50nm~約500nmである。
【0077】
いくつかの実施例において、前記第2の導電性材料の平均長さL50と前記負極活物質粒子のD50は、関係式:(L50-D50)/D50≧1を満たし、ここで、前記L50と前記D50との単位はいずれもμmである。
【0078】
いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全質量に対する、前記第1の導電性材料と前記第2の導電性材料の全質量の比は、約1:5~100である。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全質量に対する、前記第1の導電性材料と前記第2の導電性材料の全質量の比は約1:10~90である。いくつかの実施例において、前記負極活物質粒子の全質量に対する、前記第1の導電性材料と前記第2の導電性材料の全質量の比は約1:20~80である。いくつかの実施例において、前記第3の導電性材料は、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、導電性黒鉛、グラフェン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施例において、前記第3の導電性材料の質量は、導電性材料の全質量の約1%~約20%を占める。
【0079】
三、負極シート
本発明は、集電体と、前記いずれかの負極活性材料とを含む負極シートであって、前記負極活性材料は、前記集電体の少なくとも一つの表面に塗布されている負極シートを提供する。
【0080】
いくつかの実施例において、前記負極シートは、厚さが約50μm~約200μmであり、片面圧縮密度が約1.2g/cm~約2.0g/cmであり、電気抵抗率が約0.001Ω・cm~約1000Ω・cmである。
【0081】
いくつかの実施例において、前記負極シートの厚さは約70μm~約150μmである。いくつかの実施例において、前記負極シートの厚さは約80μm~約100μmである。
【0082】
いくつかの実施例において、前記負極シートの片面圧縮密度は約1.4g/cm~約1.8g/cmである。いくつかの実施例において、前記負極シートの片面圧縮密度は約1.5g/cm~約1.7g/cmである。
【0083】
いくつかの実施例において、前記負極シートの電気抵抗率は、約0.01Ω・cm~約100Ω・cmである。いくつかの実施例において、前記負極シートの電気抵抗率は約0.02Ω・cm~約50Ω・cmである。
【0084】
いくつかの実施例において、前記負極活性材料と前記集電体との間の剥離強度は、約20N/mよりも大きい。
【0085】
本発明のいくつかの実施例において、前記負極集電体は、銅箔又はニッケル箔であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0086】
四、電気化学デバイス
本発明は、正極シートと、前述した負極シートと、セパレータと、電解液とを含む電気化学デバイスを提供する。
【0087】
いくつかの実施例において、本発明の電気化学デバイスとして、すべての種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池、又はキャパシタンスが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、前記電気化学デバイスは、リチウム二次電池である。いくつかの実施例において、リチウム二次電池として、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、又はリチウムイオンポリマー二次電池が挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
いくつかの実施例において、前記電気化学デバイスはリチウムイオン電池であり、以下の方法を用いて製造される。
【0089】
<負極シートの製造>
上記方法の工程(c)で得られたろ過された負極活性材料スラリーを集電体上に塗布し、この電極シートを乾燥又は冷間圧縮して負極シートを得る。
いくつかの実施例において、負極材料の塗布厚さは約50μm~200μmである。
いくつかの実施例において、負極シートの片面圧縮密度は約1.2g/cm~約2.0g/cmである。
【0090】
<正極シートの製造>
正極活物質(コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムなど)、導電性材料、及び正極結合剤を一定の質量比で溶媒系に分散させて十分に撹拌混合した後、正極集電体に塗布し、乾燥、冷間圧縮を経て、正極シートを得る。
【0091】
いくつかの実施例において、導電性材料は、前記正極活物質に導電経路を提供することによって、前記正極活物質の導電性を向上する。前記導電性材料は、アセチレンブラック、コーチンブラック、天然黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維、金属粉末、又は金属繊維(例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、又は銀)のうちの少なくとも1種を含んでもよいが、前記導電性材料の例はこれらに限定されるものではなく、本分野で利用可能な任意の適宜な導電性材料を使用してもよい。いくつかの実施例において、導電性材料の量を適宜調整してもよい。前記導電性材料の量は、正極活物質、導電性材料及び結合剤の合計100重量部に対して、約1重量部~約30重量部の範囲である。
【0092】
いくつかの実施例において、前記溶媒の例として、N-メチルピロリドン、アセトン、又は水が挙げられるが、本開示の内容はこれらに限定されず、本分野で利用可能な任意の適宜な溶媒を使用してもよい。いくつかの実施例において、溶媒の量は適宜調整されてもよい。
【0093】
いくつかの実施例において、前記結合剤は、前記活物質と前記導電性材料との間の粘着、又は前記活物質と前記集電体との間の粘着に寄与することができる。前記結合剤の例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレン、ポリエチレン、及び様々なポリマーが挙げられるが、本開示の内容はこれらに限定されない。本分野で利用可能な任意の適宜な結合剤を使用してもよい。前記結合剤の量は、活物質、導電性材料及び結合剤の合計100重量部に対して、約1~約30重量部の範囲である。
【0094】
いくつかの実施例において、前記集電体は約3μm~約20μmの範囲の厚さを有するが、本開示の内容はこれに限定されない。前記集電体は、導電性を持ち、製造された電池に好ましくない化学変化を生じさせない限り、特に限定されない。前記集電体の実施例としては、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、又は合金(例えば、銅-ニッケル合金)が挙げられるが、本開示の内容はこれに限定されない。いくつかの実施例において、前記集電体の表面には、前記集電体の表面への活物質の粘着を強めるために、微細な非規則物(例えば、表面粗さ)を有してもよい。いくつかの実施例において、集電体は、フィルム、シート、箔、メッシュ、多孔質構造体、発泡体、又は不紡物などの様々な形態で使用されてもよいが、本開示の内容はこれらに限定されない。
【0095】
<セパレータ>
セパレータとして、ポリエチレン(PE)多孔質重合薄膜を用いることが挙げられる。前記セパレータの材質は、ガラス繊維、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、又はこれらの組み合わせが挙げられる。前記セパレータ中の孔は、約0.01μm~約1μmの範囲の直径を有し、前記セパレータの厚さは、約5μm~約500μmの範囲である。
【0096】
<電解液>
前記電解液は、有機溶媒、リチウム塩及び添加剤を含む。有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート、及びプロピオン酸エチルのうちの少なくとも1種を含む。リチウム塩は、有機リチウム塩及び無機リチウム塩のうちの少なくとも1種を含む。例えば、リチウム塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO;LiTFSI)、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(Li(N(SO)F));LiFSI)、ジシュウ酸ホウ酸リチウム(LiB(C;LiBOB)、ジフルオロシュウ酸ホウ酸リチウム(LiBF(C);LiDFOB)のうちの少なくとも1種を含む。
【0097】
セパレータが正極と負極の間に介在して二者を分離する役割を果たすように、正極シート、セパレータ、及び負極シートを順に積層し、巻回してベアセルを得る。巻き取って得られたベアセルを外装材に入れ、電解液を注入して封口し、化成、脱ガス、エッジカットなどのプロセスを経て、完全な電池セルを得る。
【0098】
五、電子設備
本発明は、前述した電気化学デバイスを含む電子設備を提供する。
【0099】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記電子設備としては、ノートパソコン、ペン入力型コンピュータ、モバイルコンピュータ、電子書籍プレーヤー、携帯電話、ポータブルコピー機、ポータブルプリンタ、ヘッドマウントステレオヘッドフォン、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、ポータブルCDプレーヤー、ミニディスク、送受信機、電子手帳、電卓、メモリーカード、ポータブルレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、電動アシスト自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機、時計、電動工具、フラッシュ、カメラ、家庭用大型蓄電池又はリチウムイオンキャパシタなどが挙げられるが、これらに制限されない。
【0100】
六、具体的な実施例
以下、実施例を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例は例示的なものに過ぎず、本発明の実施方式はこれらに限定されない。
【0101】
1.負極活性材料の製造
実施例1~11及び比較例1~5の負極材料は、次のように製造された。
(1)シリコン含有材料(SiO、ただし、x=0.5-1.5、粒子の平均粒径D50は約6μm)約300g、黒鉛材料約2700g、導電性材料約40g(カーボンナノチューブ(CNT)と気相成長炭素繊維(VGCF)の総量は約40g)、結合剤約120g、他の導電性材料約0~12gをそれぞれ秤量した。
【0102】
前記他の導電性材料は、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、コチェンブラック、導電性黒鉛、グラフェン及びその組み合わせからなる群から選択された。
【0103】
前記結合剤は、ポリアクリル酸、アルギン酸ナトリウム、メチロールセルロースナトリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択された。
【0104】
前記CNTは、極性基を有するCNT又は極性基を有しないCNTであった。CNTの極性基はヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、エポキシ基、アミノ基及びこれらの組み合わせからなる群から選択された。
【0105】
前記VGCFは、寸法とシリコン粒径の寸法が関係式:(L50-D50)/D50≧1を満たすVGCF、又は寸法とシリコン粒径の寸法が関係式:(L50-D50)/D50≧1を満たさないVGCFであり、ここで、L50とD50との単位はいずれもμmであった。
【0106】
(2)シリコン含有材料約300g、秤量された全部のCNT粉末、秤量された結合剤の約40~60%質量、適量の脱イオン水をMSK-SFM-10真空撹拌機に加え、公転速度を約10r/min~30r/min、自転速度を約1000r/min~約1500r/min、撹拌時間を約1h~約4hに制御して、均一に撹拌して分散させ、シリコン含有材料とCNTの第1の混合スラリーを得た。
【0107】
(3)黒鉛材料2700g、秤量された全部のVGCF、残りの結合剤、他の導電性材料0~12g、適量の脱イオン水を、工程(2)で得られた第1の混合スラリーに加え、公転速度を約10r/min~30r/min、自転速度を約1000r/min~約1500r/min、撹拌時間を約1h~約4hに制御して、均一に撹拌分散させ、第2の混合スラリーを得た。
【0108】
(4)工程(3)で得られた第2の混合スラリーを175メッシュの二層スクリーンで濾過して、リチウムイオン電池用負極活性材料スラリーを得た。
【0109】
工程(2)における脱イオン水の使用量を制御することにより、第1の混合スラリーの粘度を約10000mPa・S~約20000mPa・Sの間に制御する。
【0110】
工程(3)における脱イオン水の使用量を制御することにより、第2の混合スラリーの粘度を約2500mPa・S~約4000mPa・S、固形分を約35%~約50%に制御する。
【0111】
下記の表1には、各実施例及び比較例に使用された材料の使用量及びパラメータが詳細に記載されている。
【表1】
【0112】
簡単に言えば、実施例1~11及び比較例1~5では、CNTとVGCFの含有量の違い、CNT表面の極性基の有無、及び極性基の種類の違い、VGCFの寸法とシリコン粒子の寸法が関係式:(L50-D50)/D50≧1を満たすか否か、他の導電性材料の有無、結合剤の種類の違い以外、製造方法はほぼ同じであった。
【0113】
具体的には、実施例1~3では、CNT及びVGCFの含有量だけが異なり、実施例2、4、5では、他の導電性材料の有無及びその種類だけが異なり、実施例2、実施例6、実施例7、実施例8及び比較例1では、極性基の有無及び極性基の種類だけが異なり、実施例2、実施例9、実施例10、実施例11では、結合剤の種類だけが異なり、実施例2と比較例1~3では、CNTが極性基を含有するか否か、VGCFの寸法とシリコン粒子の寸法が関係式:(L50-D50)/D50≧1を満たすか否かだけが異なった。
【0114】
2.実施例1~11及び比較例1~5で得られた負極材料の性能評価
上記実施例1~11及び比較例1~5の負極活性材料をそれぞれ用いて、以下のように負極シート及びリチウムイオン電池を製造し、負極シートの電気抵抗率及び粘着力、リチウムイオン電池の初回クーロン効率、25℃、400サイクル時の容量維持率、及び25℃、400サイクル時の満充電膨張率を測定した。また、本発明の有効な三次元導電ネットワークをよりよく認識するために、実施例4で得られた負極活性材料の表面の形態に対してSEM測定を実施した。
【0115】
(リチウムイオン電池の製造)
<負極シートの製造>
前記「1.負極活性材料の製造」の工程(4)で得られた各実施例及び比較例の負極活性材料スラリーを銅箔製集電体上に塗布し、乾燥、冷間圧縮をして、負極シートを得た。塗布厚さは約50μm~約200μmであり、電極シートの片面圧縮密度は約1.2g/cm~約2.0g/cmである。
【0116】
<正極シートの製造>
正極活物質としてのコバルト酸リチウム、導電性カーボンブラック、結合剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)を約96.7:1.7:16の質量比でN-メチルピロリドン溶媒系中にて十分に撹拌混合した後、Al箔に塗布し、乾燥、冷間圧縮をして、正極シートを得た。
【0117】
<セパレータ>
セパレータとしてポリエチレン(PE)多孔質重合薄膜を用いた。
セパレータが正極と負極の間に介在して二者を分離する役割を果たすように、正極シート、セパレータ、及び負極シートを順に積層し、巻回してベアセルを得た。ベアセルを外装材に入れ、電解液(ECとDMCとDECの体積比=1:1:1、六フッ化リン酸リチウムの濃度は約1mol/L、電解液に対するFECの質量割合は約10wt%)を注入して封口し、化成、脱ガス、エッジカット等のプロセスを経て、リチウムイオン電池を得た。
【0118】
(負極活性材料、負極シート及びリチウムイオン電池の性能測定)
<SEM測定>
走査型電子顕微鏡(SEM)は、電子ビームとサンプルとの相互作用により、二次電子信号を用いて結像し、サンプルの形態構造を得るものである。本実験で使用した走査型電子顕微鏡は、JEOL社のJSM-6360LV型及びそれに付属するX線分光器でサンプルの形態構造と元素分布を分析した。
【0119】
<電極シートの電気抵抗率の測定>
四探針法を用いて電極シートの電気抵抗率を測定した。四探針法での測定に用いた装置は、精密直流電圧電流源(SB118型)であり、長さ1.5cm×幅1cm×厚さ2mmの銅板4枚を等間隔に1本の線上に固定し、中間の2枚の銅板の間隔をL(1cm~2cm)とし、銅板を固定するための基材は絶縁材料であった。測定時に、4枚の銅板の下端面を測定対象とする電極シートに押し付けて、両端の銅板に直流電流Iを流して、中間の2枚の銅板で電圧Vを測定し、3回のIとVの値を読み取って、IとVの平均値を取った。測定後、スパイラルマイクロメータを用いて電極シート材料の厚さd(cm)を測定した。電気抵抗率定義式:ρ=R×S/Lから、電気抵抗率計算式:ρ=V×d/(I×L)を導出し、ここで、ρは電気抵抗率(Ω.cm)、Rは電気抵抗(Ω)、S=サンプルの幅(1cm)×材料の厚さd、Lは電圧を測定するための2枚の銅板の内側の間の距離(cm)、dは電極シート材料の厚さ(cm)、V、Iはそれぞれ測定された電圧値(V)と電流値(mA)である。
【0120】
<電極シートの粘着力測定>
実施例1~11及び比較例1~5の負極活性材料を用いて製造された負極シートの粘着力を引張試験機で測定した。負極シートを15mm×2mmの大きさに切出し、切り出された負極シートを3M両面テープでステンレス板に接着し、引張試験機に載置して、電極シートの粘着力を測定した。
【0121】
<リチウムイオン電池の初回クーロン効率>
0.5C倍率で4.4Vまで定電流充電し、さらに4.4Vの定電圧条件下で0.025Cより低い電流まで充電して、リチウムイオン電池の充電容量C0を得た。そして、5分間静置した後、0.5C倍率で3.0Vまで定電流放電して、リチウムイオン電池の放電容量D0を得た。D0/C0は、リチウムイオン電池の初回クーロン効率であった。
【0122】
<リチウムイオン電池のサイクル特性測定>
全ての比較例及び実施例の電解液を用いて製造されたリチウムイオン電池を5本ずつ取り、以下の工程によりリチウムイオン電池に対して充放電を繰り返して行い、リチウムイオン電池の放電容量維持率を算出した。
25℃の環境中において、0.7C倍率で4.4Vまで定電流充電し、さらに4.4Vの定電圧条件下で0.025Cよりも低い電流まで充電した。5分間静置した後、0.5C倍率で3.0Vまで定電流放電した容量を初期容量とした。前述の工程に従って、0.7C倍率充電/0.5C倍率放電のサイクル測定を行い、各サイクル時の容量と初期容量との比から容量減衰曲線を得た。
【0123】
<リチウムイオン電池の満充電膨張率測定>
ヘリカルマイクロメータを使用して、最初の半充電時のリチウムイオン電池の厚さを測定した。400回までサイクルしたとき、満充電状態でのリチウムイオン電池の厚さをヘリカルマイクロメータで測定し、初期の半充電時のリチウムイオン電池の厚さと比較することで、このときの満充電リチウムイオン電池の膨張率を得た。
【0124】
本発明における負極活性材料の構造をより直感的に認識するために、図1図2A及び図2Bを参照すればよい。図1に示すシリコン含有負極における第1の導電性材料のCNTと第2の導電性材料のVGCFとから形成された三次元導電ネットワークの概略図を参照すると、VGCFはシリコン粒子と黒鉛粒子との間を架橋しており、CNTはシリコン粒子と黒鉛粒子の表面を被覆して粒子間を架橋している。CNT及びVGCFは、シリコン粒子及び黒鉛粒子を収容した三次元導電ネットワークを共同で形成している。図2A図2Bに示す実施例4の負極活性材料の表面SEM形態を参照すると、VGCFはシリコン粒子と黒鉛粒子との間を架橋しており、CNTはシリコン粒子と黒鉛粒子の表面を被覆し、粒子間を架橋している。CNT及びVGCFは、シリコン粒子及び黒鉛粒子を収容した三次元導電ネットワークを共同で形成している。ここで、シリコン粒子の寸法は、0.5μm~約30μmである。
【0125】
下記の表2には、実施例及び比較例の電極シートの電気抵抗率、粘着力、及びリチウムイオン電池の初回クーロン効率などの測定結果が示されている。
【表2】
【0126】
実施例1~3と比較例4、5を分析して分かるように、導電性材料がCNTを含まず、VGCFだけで三次元導電ネットワークを形成する場合、VGCFによる電気的接点が少ないため、シリコン含有負極全体の導電性が低下し、サイクル特性が劣化した。導電性材料にVGCFが含まれておらず、CNTのみが含まれる場合、CNTの含有量が多すぎて分散できず、スラリーの調製に失敗した。したがって、シリコン含有負極に1種類だけの導電性材料を添加することでは、三次元導電ネットワークを効果的に形成できず、シリコン粒子の膨張を抑制することができなかった。
【0127】
実施例1~3を分析して分かるように、VGCF含有量の増加とCNT含有量の減少に伴い、電極シートにおける粘着力がさらに向上し、リチウムイオン電池の膨張率が低下し、リチウムイオン電池の初回クーロン効率が向上した。上記の特性の変化の主な原因について、下記のように考えている。まず、VGCF含有量の増加により、VGCFが粒子の間に有効な三次元導電ネットワーク構造を構築してきた(図1図2を参照)ため、電極シートにおける粘着力を高め、電池セルの膨張を下げ、それによって電極シート全体の構造安定性を高めるのに有利であるからである。また、CNTがより大きい比表面積を有し、リチウムイオンを多く消耗しうるため、CNT含有量の増加によって、初回クーロン効率が低下することがある。また、CNTは、優れた導電性を有するため、CNTの含有量の増加によって負極シートの電気抵抗率が低下することもあるが、CNTの含有量が高すぎると、過量のCNTにより加工が困難になり、そして凝集しやすくなり、電極シートの電気抵抗率が上昇し、さらにサイクル特性を劣化させることがある。したがって、CNTの含有量を適切にする必要がある。本発明の実施例では、CNTの含有量は、約5g(このとき、CNTは、全部の導電性材料に対して約12.5質量%である)であることが好ましい。
【0128】
実施例2、4、5を分析して分かるように、CNT及びVGCFのほかに、別の導電性材料を添加することで、負極シートの電気抵抗率をさらに低下させ、リチウムイオン電池のサイクル特性を向上させることができる。この原因としては、主に、別の導電性材料の添加によりシリコン粒子と黒鉛粒子との間の電気的接点を増加し、三次元導電ネットワークを完備したためである。2次元導電性材料であるグラフェンは、シリコン粒子の表面を被覆してシリコン粒子の膨張を抑制することによって、サイクル特性を向上することができる。
【0129】
実施例2、6、7、8と比較例1を分析して分かるように、極性基を有するCNTを含む負極活性材料は、極性基を有しないCNTかを含む負極活性材料に比べて、製造された負極シートの粘着力が良好であり、製造されたリチウムイオン電池の400サイクル時の容量維持率と満充電膨張率が良好であった。負極活性材料中のCNT表面に異なる極性基が含まれる場合には、この負極活性材料を用いて製造された負極シートの結着力、この負極活性材料を用いて製造されたリチウムイオン電池の400サイクル時の容量維持率及び満充電膨張率は、程度が異なるが、向上した。負極活性材料中のCNT表面に複数の異なる極性基が含まれる場合には、CNTの分散がより容易になり、CNT表面の極性基とシリコン粒子表面の基とがより多くの結合作用を形成し、シリコン粒子の表面に対するCNTの被覆強度が向上し、それにより、シリコン粒子の膨張がよりよく拘束され、シリコン含有材料で製造されたリチウムイオン電池のサイクル特性が向上した。
【0130】
実施例2、9、10、及び11を分析してわかるように、結合剤に含まれる極性基がCNT表面の極性基と結合した場合、CNTは結合剤とよりよく結合することができ、電極シートの粘着力をさらに高めることができた。特に実施例11では、ポリアクリル酸とメチロールセルロースナトリウムからなる結合剤が多種の極性基を含み、2種の粘着力を提供し、極性基の間に結合作用を生じることができるので、電極シートの粘着力を高め、シリコン粒子の膨張を拘束し、リチウムイオン電池のサイクル特性を向上させることにより一層有利であった。
【0131】
実施例2と比較例1、2、3を分析し、特に実施例2と比較例1を、実施例2と比較例2をそれぞれ比較して分かるように、CNTにカルボキシ基が含まれる場合、電極シートの粘着力が優れており、400サイクル時のリチウムイオン電池の容量維持率及び膨張率が優れている。その原因として、主に、CNTにカルボキシ基が含まれる場合に、CNTが分散しやすく、シリコン粒子の表面に対するCNTの被覆効果が高くなり、効果的な導電作用を発揮し、シリコン粒子の膨張を抑制することができるためである。実施例2を比較例2、比較例1、及び比較例3のそれぞれと比較して分かるように、VGCFの寸法とシリコン粒子の寸法が関係式:(L50-D50)/D50≧1を満たす場合、電極シートの粘着力が優れており、400サイクル時のリチウムイオン電池の容量維持率及び膨張率が優れている。その原因として、主に、VGCFの寸法とシリコン粒子の寸法が関係式:(L50-D50)/D50≧1を満たすことにより、VGCFがシリコン粒子と黒鉛粒子との間を効果的に架橋でき、有効な三次元導電ネットワークを形成でき、それにより、シリコン粒子の変位を効果的に抑制し、リチウムイオン電池の膨張率及びサイクル特性をさらに改善することができるためである。
【0132】
以上のように、CNTとVGCFの2種類の導電性材料から形成された有効な三次元導電ネットワークは、そのうちの1種類のみから形成された構造よりも優れており、CNTは、全部の導電性材料に対して約5質量%~約30質量%であることが好ましい。また、適量の追加導電性材料を添加することにより、三次元導電ネットワークをさらに効果的に強化することができ、CNTの表面に極性基を有することにより、CNTの分散にさらに有利であり、CNTにシリコン粒子の表面を均一に被覆させて、シリコン粒子の表面に三次元導電ネットワークを形成し、シリコン粒子の膨張を効果的に抑制することができる。結合剤の極性基は、CNTの極性基と作用することができ、結合剤同士の間の極性基は互いに作用することもでき、このように、電極シートの粘着力を向上し、電極シートの安定性を向上することができ、それによって、シリコン含有負極のサイクル特性を向上する。なお、VGCFの寸法とシリコン粒子の寸法が関係式:(L50-D50)/D50≧1を満たすことにより、VGCFは活物質粒子の間を効果的に架橋し、電極全体にわたって導電性ネットワークを形成し、シリコン粒子の変位を抑制することができる。
【0133】
以上は、本発明に列挙された実施例である。しかしながら、出願人はすべての実施例を網羅することはできないので、本発明の教示に基づいて作成された他の同等の実施例はすべて本発明の保護範囲に属する。従来技術と比較して、本発明は、少なくとも次の1又は2以上の有益な技術的効果を有する。シリコンを含む負極活物質粒子を第1の導電性材料と第2の導電性材料とで形成された有効な三次元導電ネットワークに収容することにより、サイクル過程中のシリコン粒子の膨張を効果的に抑制し、粒子同士間の導電性を向上し、リチウムイオン電池の電気化学的特性をさらに改善する。さらに、本発明に係る製造方法は、簡単であり、操作及び制御が容易であり、コストが低く、工業化生産に適する。
【0134】
以上のように、本発明は、高導電性、高サイクル特性及び低いサイクル膨張率を有するシリコン含有負極材料を提供するために、簡単で実行しやすく、工業化生産に適した方法を提供している。
【0135】
明細書全文にわたって、「いくつかの実施例」、「一部の実施例」、「一実施例」、「別の例」、「例」、「具体例」、又は「一部の例」の使用は、本発明の範囲内における少なくとも1つの実施方式は、当該実施例又は例に説明された特定の特徴、構造、材料、又は特性を含むことを意味する。したがって、明細書全文にわたって記載された「いくつかの実施例では」、「実施例では」、「一実施例では」、「別の例では」、「一例では」、「具体例では」、又は「例として」などは、必ずしも本発明に記載の同一の実施例又は例を引用するわけではない。さらに、本明細書における特定の特徴、構造、材料、又は特性は、1つ以上の実施例又は例において、任意の適切な方式で組み合わせることができる。
【0136】
前述の明細書には、複数の実施例で本発明の構成や特徴をまとめて記載しているのは、当業者に本発明の様々な態様をよりよく理解させるためである。当業者は、本発明に記載された実施例と同じ目的を達成する、及び/又は同じ利点を達成するために、本発明の上記実施形態に基づいて他の組成物を設計又は修正することができる。また、当業者が理解できるように、これらの同等な例が本発明の趣旨及び範囲から逸脱しておらず、また、本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに、本発明についてさらに様々な変更、置換及び修正を加えることができる。また、本発明で開示された方法は、特定の順序で実行される特定の操作を参照して説明されたが、これらの操作は、本発明の教示から逸脱せずに、組み合せ、細分化、又は順序変更されて、同等の方法を形成することができることを理解できる。したがって、本明細書で特に示されない限り、操作の順序及び組み分けは、本発明を限定することを意図するものではない。
図1
図2A
図2B