(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】蛍光輝度を増加させるためのリンカー及び酵素により遊離可能な蛍光部分を有する接合体での可逆的な細胞検出
(51)【国際特許分類】
G01N 33/533 20060101AFI20230925BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
G01N33/533
G01N33/53 Y
(21)【出願番号】P 2021563193
(86)(22)【出願日】2019-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2019060403
(87)【国際公開番号】W WO2020216439
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】520094891
【氏名又は名称】ミルテニー バイオテック ベー.フェー. ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Miltenyi Biotec B.V. & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Friedrich-Ebert-Strasse 68, 51429 Bergisch Gladbach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ドーゼ
(72)【発明者】
【氏名】ジェニファー パンクラッツ
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138913(JP,A)
【文献】特開2017-002284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - G01N 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
(I) (X
o-L)
n-P-Y
m
[式中、Y:標的部分を認識する抗原認識部分
P:酵素により分解可能なスペーサー
X:蛍光部分
L:1つ以上のポリエチレングリコール残基
であるリンカーユニット
n、m:1~100までの整数
o:1~100までの整数
ここで、Lは、蛍光部分Xと酵素により分解可能なスペーサーPとを
共有結合し、Yは、酵素により分解可能なスペーサーPに共有結合し、かつ酵素により分解可能なスペーサーPは、多糖、ポリエステル、核酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される]
を特徴とする、細胞上で標的部分を標識付けするための接合体。
【請求項2】
リンカーユニットLが、ポリヒドロキシ化合物、ポリアミノ化合物、ポリチオ化合物からなる群から選択される少なくとも1つのコアユニットに結合する1つ以上のポリエチレングリコール残基
であることを特徴とする、請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
リンカーユニットLが、エチレングリコールの2~500繰り返し単位を有する1つ以上のポリエチレングリコール残基
であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の接合体。
【請求項4】
抗原認識部分Yが、抗体、断片化した抗体、断片化した抗体誘導体、TCR分子を標的とするペプチド/MHC複合体、細胞接着受容体分子、共刺激分子は人工的に操作した結合分子の受容体、ペプチド、レクチン又はアプタマー、RNA、DNA、オリゴヌクレオチド、及びそれらの類似体であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の接合体。
【請求項5】
蛍光部分が、キサンテン色素、ローダミン色素、クマリン色素、シアニン色素、ピレン色素、オキサジン色素、ピリジルオキサゾール色素、ピロメテン色素、アクリジン色素、オキサジアゾール色素、カルボピロニン色素、ベンズピリリウム色素、フルオレセイン色素、蛍光オリゴマー又は蛍光ポリマーからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の接合体。
【請求項6】
酵素により分解可能なスペーサーPが、一般式(X
o-L)
n-P(L)
l(X)
x-Y
m[式中、l及びxは0~100の整数である]に従って、蛍光部分Xに結合していない少なくとも1つの共有結合リンカーユニットL、及び/又はリンカーユニットLに結合していない少なくとも1つの共有結合蛍光部分Xをさらに備えていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の接合体。
【請求項7】
以下、
a) 一般式I
(I) (X
o-L)
n-P-Y
m
[式中、Y:標的部分を認識する抗原認識部分
P:酵素により分解可能なスペーサー
X:蛍光部分
L:1つ以上のポリエチレングリコール残基
であるリンカーユニット
n、m:1~100までの整数
o:1~100までの整数
ここで、Lは、蛍光部分Xと酵素により分解可能なスペーサーPとを
共有結合し、Yは、酵素により分解可能なスペーサーPに共有結合する]
を有する少なくとも1つの接合体を準備すること
b) 生物学的試験体の試料と式(I)による接合体とを接触させ、それにより抗原認識部分Yによって認識された標的部分を標識付けすること
c) 蛍光部分Xを有する接合体で標識付けした標的部分を検出すること
によって、生物学的試験体の試料において標的部分を検出するための方法。
【請求項8】
ステップd)において、酵素により分解可能なスペーサーPを酵素によって分解し、それにより、標識付けした標的部分から蛍光部分Xを切断することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップd)において、酵素により分解可能なスペーサーPを酵素によって分解し、それにより、標識付けした標的部分から蛍光部分X及び抗原認識部分Yを切断することを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
酵素により分解可能なスペーサーPを分解するために使用される酵素が、グリコシダーゼ、デキストラナーゼ、プルラナーゼ、アミラーゼ、イヌリナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、キトサナーゼ、キチナーゼ、プロテイナーゼ、エステラーゼ、リパーゼ、及びヌクレアーゼからなる群から選択されることを特徴とする、請求項7から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
さらに、一般式II
(II) (X)
n-P-Y
m
[式中、Y:標的部分を認識する抗原認識部分
P:酵素により分解可能なスペーサー
X:蛍光部分
n、m:1~100までの整数
ここで、X及びYは、酵素により分解可能なスペーサーPに共有結合し、生物学的試験体の試料と式(II)による接合体とを接触させ、それにより抗原認識部分Yによって認識された標的部分を標識付けする]
を有する少なくとも1つの接合体を提供することを特徴とする、請求項7から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
酵素により分解可能なスペーサーPが、一般式(X
o-L)
n-P(L)
l(X)
x-Y
m[式中、l及びxは0~100の整数である]に従って、蛍光部分Xに結合していない少なくとも1つの共有結合リンカーユニットL、及び/又はリンカーユニットLに結合していない少なくとも1つの共有結合蛍光部分Xをさらに備えていることを特徴とする、請求項7から11までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原認識部分と酵素により分解可能なスペーサーにより連結されている蛍光部分とポリエチレングリコールを含む親水性リンカー基とを有する接合体で標的部分を標識付けすることによる、生物学的試験体の試料における標的部分の検出のための方法に関し、その際、標的部分を検出又は単離した後に、検出可能なスペーサーが酵素により分解され、それによって少なくとも蛍光部分から標的細胞が遊離される。
【0002】
免疫蛍光標識及び免疫磁気標識は、研究適用及び臨床適用の双方において、生物学的試験体からの標的細胞の詳細な分析及び特異的単離のために重要である。この技術は、標的部分の特異的標識と、磁場内に細胞を保持して分離するための磁性粒子のような検出可能なユニットを有する接合体、又は顕微鏡検査もしくは血球計算によって細胞を検出及び特徴付けるための蛍光色素もしくは遷移金属同位体質量タグのような接合体とを組み合わせる。免疫蛍光分析について、抗体、蛍光色素、フローサイトメーター、フローソーター、及び蛍光顕微鏡を考慮した膨大な数のバリアントが過去20年間に開発され、標的細胞の特異的な検出及び単離を可能にした。免疫蛍光技術における1つの問題は、蛍光発光の検出閾値及び明るさであり、例えばより良好な検出器、フィルターシステム、レーザー、又は修飾蛍光色素によって、すなわちより優れた量子収率で向上される。免疫蛍光接合体は、典型的に、蛍光強度を高めるために複数の色素を含むが、明るさは、二量体、三量体又は多量体の形成によって生じる自己消光メカニズムによって制限される。
【0003】
近年、磁気細胞濃縮、フローソーティング又は蛍光顕微鏡のような種々の適用のための下流適用及び連続検出又は単離サイクルに関する順応性が、可逆的標識技術の開発により進化した。これらの技術は、細胞選別又は細胞分析の後の蛍光標識又は磁気標識の除去を可能にする。特に、例えばタンパク質ネットワークをマッピングするための高い多重化の可能性を有する標識付け-検出-除去の連続サイクルに基づく技術について、蛍光シグナルの除去が必須である。しかしながら、これらの技術は、光又は化学的漂白手順による共役蛍光部分の酸化的破壊に基づいており(米国特許第7741045号明細書(US7741045B2)、欧州特許第0810428号明細書(EP0810428B1)、又は独国特許第10143757号明細書(DE10143757))、検体に残っている抗体によって立体障害を受ける。
【0004】
これに関して、過去数年間に、明るい免疫蛍光接合体のための及び免疫接合体での可逆的な標識のためのいくつかのアプローチが開発された。
【0005】
例えば、Y.Guoら(J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 19338-19341)によって開示されているように、蛍光消光を減らすためのリンカーとしてPEGを使用することが公知である。ここでは、蛍光色素と生体分子との厄介な相互作用を抑制し、量子収率を向上させるためのリンカーとしてのPEGの使用が記載されている。しかしながら、多量体化におけるPEGの使用の指示はない。それぞれの蛍光色素は、前記PEGリンカーを介してRGDペプチドに連結される。
【0006】
欧州特許出願公開第3098269号明細書(EP3098269A1)は、分岐鎖状ポリエーテル足場上での蛍光色素の多量体化を教示している。20~200原子のコア部分は、リンカー鎖のもう一方の端で蛍光色素を有する複数のPEGリンカーの連結箇所として機能する。多量体化したポリエーテル足場を、抗体に接合できる。ポリエーテル足場は、蛍光色素の消光及び非特異的結合を妨げる。しかしながら、この刊行物は、可逆的な標識付け又は標識を遊離する方法を全く教示していない。コア部分が小さすぎるため、ポリエーテル足場の酵素分解及び蛍光色素のモノマー化ができない。したがって、欧州特許出願公開第3098269号明細書は、消光されていない蛍光色素の多量体化によって明るい蛍光標識を提供することを目的としているが、該標識を遊離する方法を開示していない。
【0007】
国際公開第96/31776号(WO96/31776)は、粒子コーティングの部分、又はコーティングと抗原認識部分との間の連結基に存在する部分を酵素により切断することによって、標的細胞から磁性粒子を分離した後に遊離する方法を記載している。一例は、デキストランでコーティングした、及び/又はデキストランを介して抗原認識部分に連結させた磁性粒子の適用である。その後の磁性粒子から単離した標的細胞の切断は、デキストラン分解酵素デキストラナーゼの添加によって開始される。したがって、国際公開第96/31776号は、酵素消化によって標的部分から磁気標識を遊離することを示しているが、蛍光標識の方法を開示していない。
【0008】
同様の方法(可逆的蛍光標識のための酵素により分解可能なスペーサーを有する接合体での、例えば蛍光シグナルによる標的部分の検出及び分離)が、欧州特許第3037821号明細書(EP3037821)に開示されている。
【0009】
欧州特許第3037821号明細書の実施形態は、低い親和性の抗原認識部分のための共有結合多量体化戦略に関する。この戦略は、共有結合し、したがって酵素により分解可能なスペーサーを介して共有結合により多量体化される低い親和性の抗原認識部分及び検出部分、例えば蛍光色素を提供する。共有結合は、安定した定義した多量体化及び複数のパラメーターの標識付けについての選択を可能にする。スペーサーの酵素分解中に、検出部分が遊離され、低い親和性の抗原認識部分が単量体化される。したがって、欧州特許第3037821号明細書は、酵素消化によって標的部分から蛍光標識を遊離することに関し、低い親和性の抗原認識部分の可逆的共有結合多量体化の方法を開示しているが、遊離する能力を維持しながら、蛍光消光を妨げる又は蛍光輝度を高めるための方法を提供していない。
【0010】
米国特許第5,719,031号明細書(US5,719,031)は、デキストラン-蛍光色素接合体を記載しており、標識の程度は、蛍光消光を提供するためには十分に高い。したがって、分解は、酵素消化プロセスの定量化のために使用される蛍光発光シグナルの増強を伴う。したがって、米国特許第5,719,031号明細書は、デキストラン-蛍光色素接合体における蛍光消光が所望され、かつ蛍光消光を妨げない方法を開示している。
【0011】
蛍光消光は、英国特許第2372256号明細書(GB2372256)においても記載されている。細胞は、リンカーを介して抗体に結合した複数の蛍光色素を含む接合体で染色される。高密度の蛍光色素が蛍光シグナルを消光するため、英国特許第2372256号明細書は、接合体から蛍光色素を遊離するためのリンカーの酵素分解を記載している。遊離された蛍光色素は、自己消光の影響を受けず、より強い蛍光シグナル、すなわちより良い解像度をもたらす。しかしながら、蛍光シグナルは標的から外れた後に検出されるため、英国特許第2372256号明細書に従った方法では、細胞表面上の標的部分の特定はできない。さらに、得られる蛍光シグナルの混合物を特定の接合体及び/又は標的に割り当てられないため、1超の標的を同時に検出できない。
【0012】
米国特許第9023604号明細書(US9023604)は、可逆的多量体での標的細胞上の受容体分子の間接的な非共有結合の標識付けに基づく可逆的標識付けの方法を開示している。結合パートナーCとの約0.5×10-4秒-1以上の解離速度定数によって特徴付けられる受容体結合試薬は、結合パートナーCと非共有結合的に可逆的に相互作用する少なくとも2つの結合部位Zを有する多量体化試薬によって多量体化されて、標的抗原に対して高い結合活性を有する複合体を提供する。検出可能な標識は、多価結合複合体に結合する。多量体化の可逆性は、結合パートナーCと多量体化試薬の結合部位Zとの間の結合の破壊時に開始される。戦略の例は、Fab-StreptagIFStreptactinの多量体であり、多量体化は拮抗的なビオチンによって逆転されうる。したがって、米国特許第9023604号明細書は、低い親和性の抗原認識部分の可逆的な非共有結合の多量体化のための方法を開示しているが、可逆的な共有結合の多量体化のための戦略及び蛍光輝度を増強するか又は遊離性を維持するための複数パラメーター標識又は戦略については言及していない。
【0013】
前述のように、欧州特許第3037821号明細書は、スペーサーPの酵素による分解によって複数のパラメーターの蛍光標識及び検出部分の切断を可能にする、検出部分X、酵素により分解可能なスペーサーP及び抗原認識部分Yからなる一般式Xn-P-Ymとの接合体を記載している。
【0014】
異なるアプローチが国際公開第2007109364号(WO2007109364)によって採用されており、遊離可能な接合体が、標的に結合した場合に消光される蛍光色素と共に開示されている。接合体は、「プロテアーゼ切断部位」、すなわちプロテアーゼ酵素によってのみ分解可能なスペーサー単位を含む。「プロテアーゼ切断部位」を消化した後に、蛍光色素は、検出目的のために自由に放射線を放出する。このアプローチは、細胞の間接的な検出を目的としており、細胞表面上の標的の局在化を目的としたものではない。
【0015】
可逆的標識のためのこれらの免疫蛍光接合体の開発における課題は、最大の蛍光輝度及び高い可逆性を確実にすることである。理論的には、酵素により分解可能なスペーサーP上の検出部分での標識の程度の増加は、蛍光発光強度を高める。しかし、その開発が、増加した標識の程度及び蛍光色素の近接性が蛍光消光をもたらし、したがって蛍光強度が低下し、酵素による切断効率が低下する、2つの制限要因を示した。すなわち、蛍光標識の量の増加は、蛍光シグナル強度の比例した増加を導かず、さらに、基質への酵素のアクセスを立体的に妨げることによって酵素放出を減少させる。
【0016】
発明の要約
したがって、本発明の目的は、蛍光消光を回避するさらなる標識を可能にするために、生物学的試験体の試料における標的部分の特異的な標識、検出及び脱標識のための接合体及びその方法を提供することであった。
【0017】
驚くべきことに、酵素により分解可能なユニットPと蛍光部分Xとの間でのPEGリンカーの実装は、消光によって失われる蛍光部分の蛍光を保持し、より低い程度の標識の使用を可能にし、酵素切断による遊離を改善する。
【0018】
本発明による接合体は、標的細胞に結合した場合、又は結合していない場合でさえも、蛍光放射を放出する、すなわち、国際公開第2007109364号において開示された色素のように消光された蛍光を示さないことに留意すべきである。この理論に拘束されることなく、消光された蛍光は、励起/発光プロセスを立体的に妨げる国際公開第2007109364号において使用したデンドリマーに由来するかもしれない。スペーサーの酵素分解によりデンドリマーから分離した後に、色素の蛍光能力が回復する。「消光された蛍光」は本発明の接合体において生じないため、国際公開第2007109364号による接合体は、本発明の接合体と化学的に異なる。
【0019】
したがって、本発明は、一般式
(I) (Xo-L)n-P-Ym
[式中、Y:標的部分を認識する抗原認識部分
P:酵素により分解可能なスペーサー
X:蛍光部分
L:1つ以上のポリエチレングリコール残基を含むリンカーユニット
n、m:1~100までの整数
o:1~100までの整数]
で特徴付けられる、細胞上で標的部分を標識付けするための接合体に関し、その際、Lは、蛍光部分Xと酵素により分解可能なスペーサーPとを結合し、Yは、酵素により分解可能なスペーサーPに共有結合し、かつ酵素により分解可能なスペーサーPは、多糖、ポリエステル、核酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される。
【0020】
本発明において使用される接合体は、例えば、一般的な配列「蛍光色素(X)-PEG(L)-デキストラン(P)-抗体(Y)」又は「蛍光色素(X)-PEG(L)-デキストラン(P)-Fab(Y)」を有しうる。それらの特異的な接合体を実施例において記載する。
【0021】
本発明の接合体は、先行技術の接合体と比較して、リンカーLによって導入される増加した蛍光強度を示し、かつ生物学的試験体の試料における1超の標的部分を標的とする複数のパラメーター標識に適している。接合体の蛍光部分は酵素の添加により標的細胞から除去できるため、同一の蛍光部分を保有する異なる抗原認識部分で細胞の再標識が可能であり、細胞分析又は単離のさらなる可能性を提供する。先行技術と比較して、本発明の方法は、速く侵襲性の低いプロトコルを可能にし、目的の対象に有害であってよい活性酸素種、高エネルギー又は熱の導入を回避する。
【0022】
さらに、本発明の目的は、
a) 一般式I
(I) (Xo-L)n-P-Ym
[式中、Y:標的部分を認識する抗原認識部分
P:酵素により分解可能なスペーサー
X:蛍光部分
L:1つ以上のポリエチレングリコール残基を含むリンカーユニット
n、m:1~100までの整数
o:1~100までの整数
ここで、Lは、蛍光部分Xと酵素により分解可能なスペーサーPとを結合し、Yは、酵素により分解可能なスペーサーPに共有結合する]を有する少なくとも1つの接合体を準備すること
b) 生物学的試験体の試料と式(I)による接合体とを接触させ、それにより抗原認識部分Yによって認識された標的部分を標識付けすること
c) 蛍光部分Xを有する接合体で標識付けされた標的部分を検出すること
によって、生物学的試験体の試料における標的部分を検出するための方法である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、高い親和性(a)又は低い親和性(b)の抗原認識部分Y、酵素により分解可能なスペーサーP、及びリンカーユニットLを介して酵素により分解可能なスペーサーPに接合させた蛍光部分Xの接合体を有する生物学的試験体としての細胞上の標的部分の特異的な標識及び遊離による本発明の方法を図示する。
【
図2】
図2は、異なる程度の一定濃度でのデキストランの標識を有するデキストラン-PEG-クマリン-色素及びデキストラン-クマリン-色素の吸光度及び蛍光発光の例示的な結果を示す。
【
図3】
図3は、抗CD4-Fab-デキストラン-クマリン-色素接合体(d)と比較した、本発明による異なる抗CD4-Fab-デキストラン-PEG-クマリン-色素コンジュゲート(a~c)でのる単一パラメーター標識のフローサイトメトリー分析の結果の例示的なヒストグラムを示す。
【0024】
詳細な説明
本発明の方法及び接合体は、標的細胞のインビトロ検出のために使用することが好ましい。
【0025】
本発明の目的のために、共有結合は、電子対を共有する原子間の結合、又は10E~9M未満の平衡解離定数を有する非共有相互作用パートナー間の準共有結合として定義される。非共有結合は、10E~9Mを超える平衡解離定数を有する結合として定義される。
【0026】
本発明の方法は、標的部分からの抗原認識部分Yの除去を含みうる。したがって、本発明の方法は、酵素により分解可能なスペーサーPを酵素によって分解し、それによって、標識付けした標的部分から蛍光部分Xを切断するステップd)を含んでよい。
【0027】
この点に関して、本発明は、高い親和性(a)又は低い親和性(b)の抗原認識部分Yを有する接合体を使用することによる2つの実施形態を包含する。
【0028】
図1は、高い親和性(a)又は低親和性(b)抗原認識部分Y、酵素により分解可能なスペーサーP、リンカーユニットL及び蛍光部分Xの接合体を有する生物学的試験体としての標的細胞上の標的部分の特異的な標識による本発明のこれらの実施形態を図示する。
【0029】
高い親和性の抗原認識部分Yは、1:1の比率で、すなわち式(I)においてn=1で標的部分に安定して結合する。スペーサーを酵素により分解する場合に、高い親和性の抗原認識部分は、安定した結合を提供し、蛍光部分X、リンカー部分L及びスペーサーPの除去をもたらす。
【0030】
ステップd)における本発明による方法の変法において、酵素により分解可能なスペーサーPは、酵素によって分解され、それにより、Xから蛍光部分、及び標識された標的部分から抗原認識部分Yを切断する。
【0031】
これは、低い親和性の抗原認識部分Yを有する接合体を提供することによって達成されうる。かかる低い親和性の抗原認識部分は、1:1の比率で標的部分への安定した結合を提供しないが、いくつかの低い親和性の抗原認識部分は、1つの接合体で多量体化でき、したがって、標的部分に結合する、すなわち式(I)においてn>1である。低い親和性の抗原認識部分は、分解中に単量体化されるであろう。したがって、単量体化された低い親和性の抗原認識部分の解離後に、標的部分は、蛍光部分X、リンカー部分L、スペーサーP及び抗原認識部分Yから除去される。非共有結合の安定性は、平衡解離定数(KD)、解離速度定数(k(オフ))及び結合速度定数(k(オン))によって説明でき、その際、KD=k(オフ)/k(オン)である。低い親和性の抗原認識部分は、平衡解離定数(KD)の範囲が0.5E-08M以上であり、解離速度定数(k(オフ))の範囲が1E-03秒-1であり、選択的に、平衡解離定数(KD)の範囲が0.5E-08Mから1E-04Mの間であり、かつ解離速度定数(k(オフ))の範囲は1E-03秒-1から1E-00秒-1の間であることにより特徴付けられる。
【0032】
本発明のさらなる実施形態において、酵素により分解可能なスペーサーPは、一般式(Xo-L)n-P(L)l(X)x-Ym・[式中、l及びxは0~100の整数であり、n、o、mはすでに開示されている意味を有する]に従って、蛍光部分Xに結合されていない少なくとも1つの共有結合リンカーユニットL、及び/又はリンカーユニットLに結合されていない少なくとも1つの共有結合蛍光部分Xをさらに備えている。
【0033】
言い換えれば、1つ以上の蛍光部分Xを、リンカーLなしで酵素により分解可能なスペーサーPに結合すること、及び/又は1つ以上のリンカーLを、蛍光部分Xなしで酵素により分解可能なスペーサーP、双方のバリアント(但し、少なくとも1つの(Xo-L)ユニットは酵素により分解可能なスペーサーPに共有結合する)に結合することが可能である。
【0034】
例えば、接合体は、一般式(Xo-L)n-P(L)l-Ym・[式中、lは1~100の範囲の整数である]又は(Xo-L)n-P(X)x-Ym[式中、xは1~100の範囲の整数である]又は(Xo-L)n-P(L)l(X)x-Ym[式中l及びmは1~100の範囲の整数である]を有する。
【0035】
標的部分
本発明の方法で検出される標的部分は、任意の生物学的試験体上、例えば組織スライス上、細胞集合体上、浮遊細胞上、又は付着細胞上であってよい。細胞は、生きているか又は死んでいてよい。好ましくは、標的部分は、生物学的試験体、例えば動物全体、器官、組織スライス、細胞集合体、又は無脊椎動物(例えば、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster))、脊椎動物(例えば、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis))及び哺乳類(例えば、ハツカネズミ(Mus musculus)、ホモ・サピエンス(Homo sapiens))の単一細胞上の細胞内又は細胞外で発現される抗原である。
【0036】
蛍光部分
適した蛍光部分Xは、免疫蛍光技術、例えばフローサイトメトリー又は蛍光顕微鏡法の技術から公知のものである。本発明のこれらの実施形態において、接合体で標識付けした標的部分は、蛍光部分Xを励起し、得られる発光(光ルミネッセンス)を検出することによって検出される。有用な蛍光部分は、有機小分子色素、例えばフルオレセインのようなキサンテン色素、又はローダミン色素、クマリン色素、シアニン色素、ピレン色素、オキサジン色素、ピリジルオキサゾール色素、ピロメテン色素、アクリジン色素、オキサジアゾール色素、カルボピロニン色素、ベンズピリリウム色素、フルオレセイン色素、又は有機金属錯体、例えばRu、Eu、Pt錯体であってよい。単一分子実体に加えて、有機小分子色素のクラスター、蛍光オリゴマー、又は蛍光ポリマー、例えばポリフルオレンも、蛍光部分として使用できる。さらに、蛍光部分は、タンパク質ベース、例えばフィコビリタンパク質、ナノ粒子、例えば量子ドット、アップコンバージョンナノ粒子、金ナノ粒子、染色したポリマーナノ粒子であってよい。
【0037】
蛍光部分Xは、リンカーユニットLに共有結合できる。共有結合の方法は、当業者に公知である。蛍光部分X又はリンカーユニットLのいずれかの活性化基と、リンカーユニットL又は蛍光部分Xのいずれか上の官能基との直接反応、又は最初に一方と反応し、次にもう一方の結合パートナーと反応する可能性があるヘテロ二官能性リンカー分子を介しての直接反応が可能である。
【0038】
例えば、蛍光色素は、アミノ基又はチオール基に対して反応性のある基、例えばリンカーユニット上のアミノ基と反応する活性エステル、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)、スルホジクロロフェニルエステル(SDP)、テトラフルオロフェニルエステル(TFP)、及びペンタフルオロフェニルエステル(PFP)、又はリンカーユニット上のチオール基、例えばマレイミド基、ヨードアセトアミド基、及びブロモマレイミド基と反応するマイケルアクセプターもしくはハロアセチル基で使用可能である。多数のヘテロ二官能性化合物が、実体に結合するために利用可能である。実例となる実体は、アジドベンゾイルヒドラジド、N-[4-(p-アジドサリシルアミノ)ブチル]-3’-[2’-ピリジルジチオ]プロピオンアミド)、ビス-スルホスクシンイミジルスベレート、ジメチルアジピミデート、ジスクシンイミジルタートレート、N-y-マレイミドブチルロキシスクシンイミドエステル、N-ヒドロキシスルホスクシンイミジル-4-アジドベンゾエート、N-スクシンイミジル[4-アジドフェニル]-1,3’-ジチオプロピオネート、N-スクシンイミジル[4-ヨードアセチル]アミノベンゾエート、グルタルアルデヒド、スクシンイミジル-[(N-マレイミドプロピオンアミド)ポリエチレングリコール]エステル(NHS-PEG-MAF)、及びスクシンイミジル4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシレートを含む。好ましい結合基は、蛍光部分上に反応性スルフヒドリル基及びリンカーユニット上に反応性アミノ基を有する、3-(2-ピリジルジチオプロピオン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(SPDP)、又は4-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(SMCC)である。
【0039】
本発明の方法において使用される接合体は、1~100、好ましくは2~30の蛍光部分Xを含みうる。
【0040】
抗原認識部分Y
「抗原認識部分Y」という用語は、細胞上で細胞内又は細胞外で発現した生物学的試験体、例えば抗原上で発現した標的部分に対して結合する任意の種類の分子をいう。「抗原認識部分Y」という用語は、特に、抗体、断片化した抗体、断片化した抗体誘導体、TCR分子を標的とするペプチド/MHC複合体、細胞接着受容体分子、共刺激分子の受容体、又は人工的に操作した結合分子、ペプチド、レクチンもしくはアプタマー、RNA、DNA、オリゴヌクレオチド及びそれらの類似体に関する。
【0041】
断片化した抗体誘導体は、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、sdAb、scFv、di-scFv、ナノボディである。かかる断片化した抗体誘導体は、これらの種類の分子を含む共有結合及び非共有結合の接合体を含む組換え手順によって合成されてよい。
【0042】
本発明の方法において使用される接合体は、1~100、好ましくは1~20の抗原認識部分Yを含んでよい。抗原認識部分と標的部分との相互作用は、高い親和性又は低い親和性でありうる。単一の低い親和性の抗原認識部分の結合相互作用は、抗原との安定した結合を提供するためには低すぎる。低い親和性の抗原認識部分は、酵素により分解可能なスペーサーPに接合することによって多量体化されて、高い結合力を提供することができる。
【0043】
好ましくは、「抗原認識部分Y」という用語は、細胞内の生物学的試験体(標的細胞)、例えばIL2、FoxP3、CD154、又は細胞外の生物学的試験体(標的細胞)、例えばCD3、CD14、CD4、CD8、CD25、CD34、CD56、及びCD133によって発現した抗原に対する抗体又はFabをいう。
【0044】
抗原認識部分Y、特に抗体は、側鎖アミノ基又はスルフヒドリル基を介してスペーサーPに結合されうる。場合により、抗体のグリオシド側鎖は、過ヨウ素酸塩によって酸化されてアルデヒド官能基が生じうる。
【0045】
抗原認識部分Yは、スペーサーPに共有結合又は非共有結合されうる。共有結合又は非共有結合の方法は当業者に公知であり、蛍光部分Xの接合について挙げたものと同一である。
【0046】
酵素により分解可能なスペーサーP
酵素により分解可能なスペーサーPは、特異的酵素、例えば加水分解酵素によって切断されうる任意の分子であってよい。酵素により分解可能なスペーサーPとして、例えば、多糖類、タンパク質、ペプチド、デプシペプチド、ポリエステル、核酸、及びそれらの誘導体が適している。
【0047】
適切な多糖類は、例えば、デキストランス、プルラン、イヌリン、アミロース、セルロース、ヘミセルロース、例えばキシラン又はグルコマンナン、ペクチン、キトサン、又はキチンであり、これらは、リンカーLと抗原認識部分Yとの共有又は非共有結合のための官能基を提供するために誘導体化されてよい。種々のかかる修飾は、当技術分野において公知であり、例えば、イミダゾリルカルバメート基を、多糖とN、N’-カルボニルジイミダゾールとを反応することによって導入してよい。続いて、アミノ基を、前記イミダゾリルカルバメート基とヘキサンジアミンとを反応することによって導入してよい。多糖類を、過ヨウ素酸塩を使用して酸化させてアルデヒド基を提供するか、又はN、N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド及びジメチルスルホキシドで酸化させてケトン基を提供してもよい。続いて、アルデヒド又はケトン官能基を、還元的アミノ化の条件下で、ジアミンと反応させてアミノ基を提供するか、又はタンパク質性結合部分上のアミノ置換基と直接反応させてよい。カルボキシメチル基を、多糖類をクロロ酢酸で処理することにより導入してよい。活性化エステル、例えばN-ヒドロキシスクシンミドエステル又はテトラフルオロフェニルエステルをもたらす当技術分野において公知の方法でカルボキシ基を活性化すると、ジアミンのいずれかのアミノ基と反応してアミノ基を提供するか、又はタンパク質性結合部分のアミノ基と直接反応できる。一般的に、アルカリ性条件下で多糖類をハロゲン化合物で処理することにより、アルキル基を保有する官能基を導入することが可能である。例えば、アリル基を、臭化アリルを使用して導入できる。アリル基を、さらに、チオール含有化合物、例えばシステアミンでのチオール-エン反応で使用して、アミノ基を導入するか、又はジスルフィド結合の還元によって遊離したチオール基もしくはチオール化によって、例えば2-イミノチオランで導入したチオール基を有するタンパク質性結合部分で直接導入できる。
【0048】
酵素により分解可能なスペーサーPとして使用されるタンパク質、ペプチド、及びデプシペプチドを、アミノ酸の側鎖官能基を介して官能化して、リンカーL及び抗原認識部分Yに結合できる。修飾のために適した側鎖官能基は、例えば、ジスルフィド架橋の還元後に、リジンによって提供されるアミノ基又はシステインによって提供されるチオール基である。
【0049】
酵素により分解可能なスペーサーPとして使用されるポリエステル及びポリエステルアミドを、側鎖官能性を提供するコモノマーで合成するか、又はその後官能化できる。分岐ポリエステルの場合に、官能基化は、カルボキシル末端基又はヒドロキシル末端基を介してであってよい。ポリマー鎖の重合後官能化は、例えば、不飽和結合への付加、すなわちチオレン反応もしくはアジド-アルキン反応を介して、又はラジカル反応による官能基の導入を介することができる。
【0050】
酵素により分解スペーサーPとして使用される核酸を、好ましくは、結合部分B及び抗原認識部分Aの付着に適した3’末端及び5’末端に官能基を有するように合成する。例えばアミノ官能基又はチオール官能基を提供する核酸合成に適したホスホルアミダイトビルディングブロックが当技術分野において公知である。
【0051】
酵素により分解可能なスペーサーPを、同一又は異なる酵素によって分解可能である、1超の異なる酵素により分解可能なユニットから構成してよい。
【0052】
リンカーL
リンカーLは、2~500、好ましくは4~30のエチレングリコールの繰り返し単位を含む、極性親水性オリゴマーである。
【0053】
リンカー基Lは、単一の蛍光部分Xの付着を可能にするために線形であってよい。リンカー部分は、直接反応するか、又は蛍光部分上の活性化基もしくは官能基及び酵素により分解可能なスペーサーP上の活性化基もしくは官能基を有するヘテロ二官能性架橋剤との事前の反応を介して反応する、オリゴマーのそれぞれの末端上に官能基又は活性化基を含んでよい。使用される方法及び基は、蛍光部分Xの共有結合について記載されたものと同一である。あるいは、蛍光部分Xは、酵素により分解可能なスペーサーPに接合できる活性化基又は官能基を有するポリエチレングリコール鎖を既に含んでいてよい。この場合に、ポリエチレングリコール鎖はリンカーLとして機能する。
【0054】
本発明の特に有用な実施形態において、市販のヘテロ二官能性ポリエチレングリコールは、酵素により分解可能なスペーサーPとの反応のために、一端で活性化蛍光部分と反応し、他端で活性化できる。
【0055】
他の実施形態において、リンカー基Lは、複数の蛍光部分の付着を可能にするために分岐されてよい。この実施形態において、リンカーユニットLは、ポリヒドロキシ化合物、ポリアミノ化合物、ポリチオ化合物からなる群から選択されるコア単位から選択される少なくとも1つ(例えば1つ~6つ)のポリヒドロキシ分岐単位に結合する1つ以上のポリエチレングリコール残基を含む。コア単位として、例えば、エーテル結合を介した3つのポリエーテル残基の結合点として3つのヒドロキシル基を有するグリセロール、エーテル結合を介した3つ~4つのポリエーテル残基の結合点として4つのヒドロキシル基を有するペンタエリトリトール、エーテル結合を介した3つ~6つのポリエーテル分岐の結合点として6つのヒドロキシル基を有するジペンタエリトリトール、エーテル結合を介した3つ~8つのポリエーテル分岐の結合点として8つのヒドロキシル基を持つトリペンタエリスリトール又はヘキサグリセロールが好ましい。この実施形態において、リンカーLは、合計で3~500のエチレングリコール繰り返し単位を含む。
【0056】
本発明の特に有用な実施形態において、市販のマルチアームポリエチレングリコール(分岐PEG)は、分岐部分及びポリエーテル分岐を含むリンカーとして機能する。分岐PEGのアームの端は、前記したように、蛍光部分又は酵素により分解可能なスペーサーPの共有結合を可能にするように官能化又は活性化される。マルチアームポリエチレングリコールは、例えばNanocs Inc.又はNOF Corporationによって市販されている。
【0057】
リンカーLは、酵素により分解可能なスペーサーPに共有結合又は準共有結合できる。共有結合又は準共有結合の方法は当業者に公知であり、蛍光部分Xの接合について挙げたものと同一である。リンカーユニットLへの蛍光部分Xの準共有結合は、10~9Mの平衡解離定数を提供する結合システム、例えばビオチン-アビジン結合相互作用で達せられる。
【0058】
本発明の方法
本発明の方法の好ましい実施形態は、酵素により分解可能なスペーサーPを酵素によって分解し、それによって、標識付けした標的部分から蛍光部分Xを切断するステップd)を含む。
【0059】
ステップd)の他の実施形態において、酵素により分解可能なスペーサーPは、酵素によって分解され、それによりXから蛍光部分を切断し、そして抗原認識部分Yが、標識された標的部分から切断される。
【0060】
「スペーサーPを酵素的に分解し、それにより接合体から蛍光部分Xを切断する」という用語は、断片(XO-L)n-P-Ymの共有結合が、少なくとも蛍光部分X及びリンカーユニットLが標的部分から除去される方法でスペーサーPを分解することによって切断されることを意味する。
【0061】
本発明の変法において、酵素により分解可能なスペーサーPは、酵素によって分解され、それにより、Xから蛍光部分及び標識された標的部分から抗原認識部分Yの双方を切断する。この変法は、低い親和性の抗原認識部分、例えばFAB、及び/又はm>1、例えば2~5のいずれかを使用することによって開始される。
【0062】
本発明の方法は、1つ以上のステップa)~d)の順で実施してよい。それぞれの順序の後に、蛍光部分及びリンカーF、及び任意に抗原認識部分が、標的部分から遊離される(除去される)。特に、生物学的試験体がさらに処理されるべき生細胞である場合に、本発明の方法は、標識されていない細胞を提供するという利点を有する。
【0063】
それぞれのステップa)~d)の後及び/又は前に、1つ以上の洗浄ステップを実施して、不要な物質、例えば結合していない接合体(I)、又は接合体の遊離された部分、例えば蛍光部分Xもしくは抗原認識部分Y、又は破壊のために使用した試薬を除去してよい。「洗浄」という用語は、生物学的試験体の試料が、適切な手順、例えば、沈降、遠心分離、排出又は濾過によって環境バッファーから分離されることを意味する。この分離の前に、洗浄バッファーを添加し、任意に一定時間インキュベートしてよい。この分離後に、試料をバッファーで満たすか又は再懸濁できる。
【0064】
本発明の方法は、接合体での特異的な標識及び接合体の遊離について高い柔軟性を提供し、複数の異なる検出戦略を提供する。
【0065】
任意のステップを、使用される蛍光部分Xに従って、又は当業者に公知の他の適用可能な定量的方法もしくは定性的方法によって、例えば視覚的カウントによって、定性的又は定量的にモニタリングしてよい。これは、本発明の方法によって提供される個々のステップの効率を決定するために有用であってよい。
【0066】
以下に説明するように、一般式(III)~(VI)に従って非分解性接合体を利用するようなかかる標識方法は当業者に公知である。
【0067】
ステップa)
この方法のステップa)において、一般式(I)を有する少なくとも1つの接合体を提供する。異なる検出部分によって異なる標的部分又は同一の標的部分を検出するために、一般式(I)を有する異なる接合体を提供でき、ここで、接合体及びその成分、Y、P、L、X、o、n、mは同一の意味を有するが、同一又は異なる種類及び/又は量の抗原認識部分Y及び/又はリンカーユニットL及び/又は酵素により分解可能なスペーサーP及び/又は蛍光部分Xであってよい。この方法のさらなる実施形態において、生物学的試験体の試料を、リンカーLを含まない酵素により分解可能な接合体で標識付けすることが可能である。
【0068】
これらの実施形態の1つにおいて、一般式IIを有する少なくとも1つの接合体が提供される:
(II) (X)n-P-Ym
式中、
Y:標的部分を認識する抗原認識部分
P:酵素により分解可能なスペーサー
X:蛍光部分
n、m:1~100までの整数
ここで、X及びYは、酵素により分解可能なスペーサーPに共有結合し、生物学的試験体の試料と式(II)による接合体とを接触させ、それにより抗原認識部分Yによって認識された標的部分を標識付けする。
【0069】
さらに、一般式(I)又は(II)の接合体に加えて、酵素により分解可能なスペーサーPを含まず、任意の切断ステップd)に耐える接合体を提供することが可能である。かかる接合体を、定性的又は定量的モニタリングのために、ステップa)~d)のいずれかにおいて又はその後に、生物学的試験体の試料に標識付けするために使用できる。
【0070】
かかるさらなる接合体は、一般式(III)及び(IV)を有しうる;
(Xo-L)n-P’-Ym(III) 及び/又は Xn-P’-Ym(IV)
式中、Y、L、X、n、mは、式(I)における意味と同一の化学的意味を有するが、P’は酵素により分解可能ではないスペーサーである。X、Xo-L、P’及びYは、共有結合又は非共有結合される。
【0071】
さらに、一般式(V)及び(VI)(Xo-L)n-Ym(V)及び/又はXn-Ym(VI)[式中、Y、X、n、mは式(I)における意味と同一の意味を有する]を有する少なくとも1つの接合体を提供できる。X、Xo-L及びYは、互いに共有結合又は非共有結合される。
【0072】
前記方法は、接合体の種々の組合せを使用してよい。例えば、接合体は、2つの異なるエピトープに特異的な抗体、例えば2つの異なる抗CD34抗体を含みうる。異なる抗原は、異なる抗体を含む異なる接合体、例えば、2つの異なるT細胞集団の区別のための抗CD4及び抗CD8、又は異なる細胞亜集団、例えば調節性T細胞の決定のための抗CD4及び抗CD25で対処されうる。
【0073】
ステップb)
ステップb)において、生物学的試験体の試料の標的部分は、式(I)~(VI)による接合体で標識される。
【0074】
本発明の変法において、一般式(I)の1超の接合体との接触は、同時に又は続いて1超のステップb)で生じてよい。
【0075】
さらに、標的部分によって認識されない接合体は、接合体で標識された標的部分がステップc)において検出又は単離される前に、又は次の接触ステップb)の前に、例えば緩衝液で洗浄することによって除去されうる。
【0076】
本発明の変法において、複数のステップb)を実施することが可能である。式(I)による接合体に加えて、ステップb)は、同時に又は続いてインキュベートできる一般式(II)~(VI)の少なくとも1つの接合体を損ないうる。
【0077】
インキュベーション中の条件は当業者に公知であり、時間、温度、pH等に関して経験的に最適化してよい。通常、インキュベート時間は最大1時間、より通常は最大30分、好ましくは最大15分である。温度は通常4~37℃、より通常は37℃未満である。
【0078】
ステップc)
接合体で標識付けした標的部分を検出するための方法及び装置は、蛍光部分Xによって決定される。
【0079】
接合体で標識付けした標的は、蛍光部分Xを励起し、そして得られた蛍光シグナルを分析することによって検出される。励起の波長は、通常、蛍光部分Xの最大吸収に従って選択され、当技術分野において公知のレーザー又はLED源によって提供される。複数の異なる蛍光部分Xを複数の色/パラメータの検出のために使用する場合に、吸収スペクトル及び発光スペクトルの重複がなく、少なくとも吸収及び発光の最大値の重複がない蛍光部分を選択するように注意する必要がある。標的を、例えば、蛍光顕微鏡下で、フローサイトメーター、分光蛍光計、又は蛍光スキャナーで検出してよい。化学発光によって放出された光を、励起を省略した同様の機器によって検出できる。
【0080】
本発明の方法は、標的部分、すなわち、かかる標的部分を発現する標的細胞を検出するためだけでなく、蛍光部分Xに従って生物学的試験体の試料から標的細胞を単離するためにも利用されてよい。本発明の方法において、「検出」という用語は「単離」を包含する。
【0081】
例えば、蛍光による標的部分の検出を、光学的手段、静電力、圧電力、機械的分離又は音響手段による適切な分離プロセスを誘発するために使用してよい。
【0082】
本発明の1つの変法において、蛍光シグナルによるかかる分離に適しているのは、特にフローソーター、例えば、LACS又はTYTO又はMEMSベースのセルソーターシステムであり、例えば欧州特許出願公開第14187215.0号明細書(EP14187215.0)又は欧州特許出願公開第14187213.3号明細書(EP14187213.3)に開示されている。
【0083】
本発明のさらなる変法において、少なくとも1つの検出及び/又は単離ステップc)同時又は続くステップを組み合わせることが可能である。
【0084】
さらに、標的部分の単離中又は単離後に、生物学的試験体の試料の汚染している非標識部分を例えば緩衝液で洗浄することによって除去できる。
【0085】
ステップd)
ステップd)におけるステップc)での標的部分の検出及び/又は単離後に、スペーサーPを酵素により分解され、それによって少なくとも蛍光部分X、リンカーユニットLを接合体から切断する。
【0086】
抗原認識部分Yに依存して、スペーサーPを酵素により切断した場合に、低い親和性の抗原認識部分が単量体化され、解離する可能性があり、蛍光部分X、リンカーユニットL、スペーサーP及び抗原認識部分Yの完全な除去をもたらす。高い親和性の抗原認識部分は、安定した結合を提供し、蛍光部分X、リンカーユニットL及びスペーサーPの除去をもたらす。
【0087】
本発明の変法においては、ステップd)を、検出システム外で、例えば、管中の標的部分の溶液中で実施できる。
【0088】
他の変法において、酵素による分解を検出設定で実施できる。例えば、破壊を、シグナルの検出中に、例えば、蛍光顕微鏡学、サイトメトリー又は測光中に実施してよい。したがって、検出シグナルの減少を、リアルタイムで監視できる可能性がある。
【0089】
任意に、d)での破壊後に、標的部分を検出又は単離する別のステップc)があってよい。
【0090】
蛍光部分X、及びリンカーユニットL、及び/又は酵素により分解したスペーサーP、及び/又は抗原認識部分Y、及び/又は接合体(I)又は接合体(I)の非切断部分で標識付けした残りの標的部分、及び/又はc)において酵素により分解するために使用される試薬を、例えば、洗浄すること又はステップc)において記載した方法を使用することによって試料から分離できる。
【0091】
それらの1超の任意の検出及び/又は単離ステップは、遊離された標的部分を分離するか、又は破壊ステップd)の効率を決定する可能性を提供する。
【0092】
本発明の他の変法は、酵素分解及び酸化漂白の組み合わせによる蛍光発光の除去を含む。漂白に必要な化学物質は、「Multi Epitope Ligand Cartography」、「Chip-based Cytometry」又は「Multioymx」技術に関する前記した出版物から公知である。
【0093】
スペーサーPを分解するための酵素
酵素により分解可能なスペーサーPは、適切な酵素の添加により分解される。遊離試薬としての酵素の選択は、酵素により分解可能なスペーサーPの化学的性質によって決定され、1種又は異なる酵素混合物であってよい。
【0094】
酵素は、好ましくは加水分解酵素であるが、リアーゼ又はレダクターゼも可能である。好ましい酵素は、グリコシダーゼ、デキストラナーゼ、プルラナーゼ、アミラーゼ、イヌリナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、キトサナーゼ、キチナーゼ、プロテイナーゼ、エステラーゼ、リパーゼ、及びヌクレアーゼからなる群から選択されてよい。
【0095】
例えば、スペーサーPが多糖類である場合に、グリコシダーゼ(EC 3.2.1)が遊離剤として最適である。特定のグリコシド構造を認識するグリコシダーゼ、例えば、デキストランのα(l->6)結合で切断するデキストラナーゼ(EC 3.2.1.11)、プルランのα(l->6)結合を切断するプルラナーゼ(EC 3.2.1.142)もしくはα(1->4)結合を切断するプルラナーゼ(EC 3.2.1.41)、ネオプルラナーゼ(EC 3.2.1.135)、及びプルランにおけるα(1->4)結合を切断するイソプルラナーゼ(EC 3.2.1.57)、α-アミラーゼ(EC 3.2.1.1)、並びにアミロースにおけるα(1->4)結合を切断するマルトース生成アミラーゼ(EC 3.2.1.133)、イヌリンにおけるβ(2->1)を切断するイヌリナーゼ(EC 3.2.1.7)、セルロースのβ(1->4)結合で切断するセルラーゼ(EC 3.2.1.4)、キシランのβ(1->4)結合で切断するキシラナーゼ(EC 3.2.1.8)、ペクチナーゼ、例えばα(1->4)D-ガラクツロナンメチルエステル結合で除去して切断するエンド-ペクチンリアーゼ(EC 4.2.2.10)、又はペクチンのα(1->4)D-ガラクトースイズロン結合で切断するポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.15)、キトサンのβ(1->4)結合で切断するキトサナーゼ(EC 3.2.1.132)、並びにキチンの切断のためのエンド-キチナーゼ(EC 3.2.1.14)が好ましい。
【0096】
タンパク質及びペプチドを、細胞上の標的構造の分解を回避するために配列特異的である必要があるプロテイナーゼによって切断してよい。配列特異的プロテアーゼは、例えば、配列ENLYFQ¥Sで切断するシステインプロテアーゼであるTEVプロテアーゼ(EC 3.4.22.44)、配列DDDDKの後で切断するセリンプロテアーゼであるエンテロペプチダーゼ(EC 3.4.21.9)、配列IEGRもしくはIDGRの後で切断するセリンエンドペプチダーゼでありファクターXa(EC 3.4.21.6)、又は配列LEVLFQ¥GPで切断するシステインプロテアーゼであるHRV3Cプロテアーゼ(EC 3.4.22.28)である。
【0097】
ペプチド骨格においてエステル結合を含むペプチドであるデプシペプチド、又はポリエステルを、エステラーゼ、例えばブタ肝臓エステラーゼ(EC 3.1.1.1)又はブタ膵臓リパーゼ(EC 3.1.1.3)によって切断してよい。配列特異的であってよいエンドヌクレアーゼ、例えば制限酵素(EC 3.1.21.3、EC 3.1.21.4、EC 3.1.21.5)、例えばEcoRI、HindII又はBamHI、又はピリミジンに隣接するホスホジエステル結合を切断するより一般的なもの、例えばDNAse I(EC 3.1.21.1)によって、核酸を切断してよい。
【0098】
添加される酵素の量は、所望の期間でスペーサーを実質的に分解するために十分である必要がある。通常、効率は、少なくとも約80%、より通常は少なくとも約95%、好ましくは少なくとも約99%である。遊離についての条件は、温度、pH、金属補因子の存在、還元剤等に関して経験的に最適化されうる。分解は、通常、少なくとも約15分、より通常は少なくとも約10分で完了し、通常は約2時間以内に完了する。
【0099】
スペーサーPを完全に分解する必要はない。本発明の方法について、洗浄又は解離により、蛍光部分X又は蛍光部分X及び抗原認識部分Yを標識付けした標的部分から除去できる程度にスペーサーPを分解する必要がある。
【0100】
ステップa)~d)の順序
本発明の方法は、複雑な混合物からの特定の標的部分の検出及び/又は単離のために特に有用であり、ステップa)~d)の1つ以上の順序で実施してよい。それぞれの順序の後に、蛍光部分及び任意に抗原認識部分Yが、標的部分から遊離(除去)される。さらに、ステップa)~d)のいずれかを組み合わせた順序が可能である。順序は、ステップa)~d)のいずれかで停止できる。追加の洗浄ステップを実施できる。
【0101】
本発明の変法において、少なくとも2つの接合体を、同時に又は連続して染色の順序で提供し、その際、それぞれの抗原認識部分Yは異なる抗原を認識する。本発明のさらなる変法において、少なくとも2つの接合体を、同時に又は連続して染色の順序で提供し、その際、それぞれの接合体は、異なる蛍光部分Xを含む。代わりの変法において、少なくとも2つの接合体を、同時に又は連続して染色の順序で試料に提供でき、その際、それぞれの接合体は、異なる酵素によって切断される異なる酵素による分解可能なスペーサーPを含む。全ての場合において、標識付けした標的部分は、同時に又は連続して検出できる。順次検出は、スペーサー分子Pの同時の酵素のよる分解、又はその後の任意に非結合部分の中間除去(洗浄)を伴うスペーサー分子Pの酵素による分解を含んでよい。
【0102】
ステップa)~d)の順序の実施形態
本発明の方法は、次の実施形態で実施されうる。
【0103】
全ての変法及び実施形態において、一般式(I)の接合体を、混合して使用してよく、及び/又は異なる順序で使用する場合に一般式(II)、(III)、(IV)、(V)及び(VI)に従った1つ以上の接合体と組み合わせて使用してよい。
【0104】
本発明の実施形態Aは、ステップa)~d)を少なくとも1つの順序で実施し、その際それぞれの順序で一般式(I)又は(II)の1つの接合体を使用することを特徴とする。この実施形態において、少なくとも1つの順序において、生物学的試験体の試料をステップb)において1つの接合体と接触させ、ステップc)において検出を実施し、そしてステップd)において接合体を切断する。したがって、実施形態Aは、1つの接合体を使用する単一又は複数のサイクルを含む。それぞれのサイクルにおいて、使用される接合体のX、L、P、Y及びo、n、mは、同一又は異なる種類又は量の抗原認識部分Y及び/又はリンカーユニットL及び/又は蛍光部分X及び/又は酵素により分解可能なスペーサーPであってよい。
【0105】
単一の接合体での単一サイクルについてのこの変法の例は、生物学的試験体の試料からの接合体によって定義される細胞集団の蛍光ベースのフローソーティングによる単離であり、その際、蛍光標識は、異なる下流用途を提供する選別後に除去される。
【0106】
単一の接合体での複数サイクルについてのこの変法の例は、標識-検出-除去のサイクルで異なる抗原認識部分及び同一の蛍光部分を使用することによる異なる標的部分の順次検出であり、顕微鏡による細胞上での高い多重化の可能性、例えばタンパク質マッピングを可能にする。他の例は、同一の蛍光部分を使用した連続的な選別サイクルでの生物学的試験体の試料からの細胞亜集団の蛍光ベースのフローソーティングによる単離である。さらなる例においては、同一の標的部分は、フローソーティング目的のために適した蛍光部分を有する接合体での第1サイクルにおいて対処でき、この蛍光部分の放出後に、標的部分は、蛍光顕微鏡による分析のために特に適した他の蛍光部分を有する接合体によって再び対処されうる。
【0107】
本発明の実施形態Bは、ステップa)~d)を少なくとも1つの順序で実施し、その際それぞれの順序で一般式(I)又は(II)少なくとも第一の接合体及び第二の接合体を使用することを特徴とする。この実施形態において、少なくとも1つの順序において、生物学的試験体の試料を、同時又は続くステップb)において少なくとも第一の接合体及び第二の接合体と接触させ、検出を同時又は続くステップc)で実施し、そして続いて又は同時にステップd)で接合体を切断する。したがって、実施形態Bは、複数の接合体を使用する単一又は複数のサイクルを含む。それぞれのサイクルにおいて、使用される接合体のX、L、P、Y及びo、n、mは、同一又は異なる種類又は量の抗原認識部分Y及び/又はリンカーユニットL及び/又は蛍光部分X及び/又は酵素により分解可能なスペーサーPであってよい。
【0108】
複数の接合体での単一サイクルのこの変法の例は、フローサイトメトリー分析による異なる細胞亜集団の分化、及びフローソーティングに基づく蛍光によって定義された芦生団の分離を可能にし、その際、蛍光標識は、異なる下流用途を提供する選別後に除去される。
【0109】
複数の接合体での複数サイクルについてのこの変法の例は、標識-検出-除去のサイクルで異なる抗原認識部分及び異なる蛍光部分を使用することによる異なる標的部分の順次検出であり、さらにより高い多重化の可能性を可能にする。
【0110】
本発明の実施形態Cは、ステップa)~c)を少なくとも2つの順序で実施し、その際それぞれの順序で一般式(I)又は(II)の1つの接合体を使用し、そしてステップd)をその後に実施することを特徴とする。この実施形態において、少なくとも2つの順序において、生物学的試験体の試料をステップb)において1つの接合体と接触させ、そしてステップc)において検出を実施する。少なくとも2つのそれらの順序の後に、接合体を、続けて又は同時にステップd)において切断する。したがって、実施形態Cは、1つの接合体を使用する単一又は複数のサイクルa)~c)、及びステップd)を含む。それぞれのサイクルにおいて、使用される接合体のX、L、P、Y及びo、n、mは、同一又は異なる種類又は量の抗原認識部分Y及び/又はリンカーユニットL及び/又は蛍光部分X及び/又は酵素により分解可能なスペーサーPであってよい。
【0111】
本発明の実施形態Dは、ステップa)~c)を少なくとも2つの順序で実施し、その際それぞれの順序で一般式(I)又は(II)の少なくとも第一の接合体及び第二の接合体を使用し、そしてステップd)をその後に実施することを特徴とする。この実施形態において、少なくとも2つの順序において、生物学的試験体の試料を、同時又は続くステップb)において少なくとも第一の接合体及び第二の接合体と接触させ、そして検出を同時又は続くステップc)で実施する。少なくとも2つのそれらの順序の後に、接合体を、続けて又は同時にステップd)において切断する。したがって、実施形態Dは、複数の接合体を使用する単一又は複数のサイクルa)~c)、及びステップd)を含む。それぞれのサイクルにおいて、使用される接合体は、同一又は異なるX、L、P、Yであってよく、o、n、mは、同一又は異なる量の抗原認識部分Y及び/又はリンカーユニットL及び/又は酵素により分解可能なスペーサーP及び/又は蛍光部分Xであってよい。
【0112】
本発明の実施形態Eは、ステップa)~b)を少なくとも2つの順序で実施し、その際それぞれの順序で一般式(I)又は(II)の1つの接合体を使用し、そしてステップc)及びd)をその後に実施することを特徴とする。この実施形態において、少なくとも2つの順序において、生物学的試験体の試料をステップb)において1つの接合体と接触させる。少なくとも2つのそれらの順序の後に、続けて又は同時にステップc)で検出を実施し、そして接合体を、続けて又は同時にステップd)において切断する。したがって、実施形態Eは、1つの接合体を使用する単一又は複数のサイクルa)~b)、並びにステップc)及びステップd)を含む。それぞれのサイクルにおいて、使用される接合体のX、L、P、Y及びo、n、mは、同一又は異なる種類又は量の抗原認識部分Y及び/又はリンカーユニットL及び/又は蛍光部分X及び/又は酵素により分解可能なスペーサーPであってよい。
【0113】
本発明の実施形態Fは、ステップa)~b)を少なくとも2つの順序で実施し、その際それぞれの順序で一般式(I)又は(II)の少なくとも第一の接合体及び第二の接合体を使用し、そしてステップc)及びステップd)をその後に実施することを特徴とする。この実施形態において、少なくとも2つの順序において、生物学的試験体の試料を、同時又は続くステップb)において少なくとも第一の接合体及び第二の接合体と接触させる。少なくとも2つのそれらの順序の後に、同時に又は続けてステップc)で検出を実施し、そして接合体を、続けて又は同時にステップd)において切断する。したがって、実施形態Fは、複数の接合体を使用する単一又は複数のサイクルa)~b)、並びにステップc)及びステップd)を含む。それぞれのサイクルにおいて、使用される接合体のX、L、P、Y及びo、n、mは、同一又は異なる種類又は量の抗原認識部分Y及び/又はリンカーユニットL及び/又は蛍光部分X及び/又は酵素により分解可能なスペーサーPであってよい。
【0114】
実施形態C~Fの例は、シグナルの連続的なオーバーレイを伴う生物学的試験体の標本における個々の標的部分の段階的分析であり、一定量のサイクルの後に、シグナルは完全に又は単に部分的に排除されてさらなるサイクルを可能にする。実施形態A及びBと比較して、これらの実施形態は、より高い柔軟性を提供する。
【0115】
本発明の実施形態Gは、ステップa)~d)を少なくとも2つの組み合わせた順序で実施し、その際それぞれの順序で一般式(I)又は(II)の1つの接合体を使用することを特徴とする。この実施形態において、少なくとも1つの配列において、生物学的試験体の試料をステップb)において1つの接合体と接触させ、ステップc)において検出を実施し、そしてステップd)において接合体を切断し、ここで、第一サイクルのステップd)及び第二サイクルのステップd)を1つの同時ステップに合わせる。したがって、実施形態Gは、それぞれのサイクルの1つの接合体を使用する組み合わせた複数のサイクルを含む。それぞれのサイクルにおいて、使用される接合体のX、L、Y及びo、n、mは、同一又は異なる種類又は量の抗原認識部分Y及び/又はリンカーユニットL及び/又は蛍光部分Xであってよい。少なくとも第二のサイクルの酵素により分解可能なスペーサーPは異なる種類である。
【0116】
本発明の実施形態Hは、ステップa)~d)を少なくとも2つの組み合わせた順序で実施し、その際それぞれの順序で一般式(I)又は(II)少なくとも第一の接合体及び第二の接合体を使用することを特徴とする。この実施形態において、少なくとも2つの順序において、生物学的試験体の試料を、同時又は続くステップb)において少なくとも第一の接合体及び第二の接合体と接触させ、検出を同時又は続くステップc)で実施し、そして続いて又は同時にステップd)で接合体を切断し、ここで、第一サイクルのステップd)及び第二サイクルのステップd)を1つの同時ステップに合わせる。したがって、実施形態Gは、複数の接合体を使用する組み合わせた複数のサイクルを含む。それぞれのサイクルにおいて、使用される接合体のX、L、Y及びo、n、mは、同一又は異なる種類又は量の抗原認識部分Y及び/又はリンカーユニットL及び/又は蛍光部分Xであってよい。少なくとも第二のサイクルの酵素により分解可能なスペーサーPは異なる種類である。
【0117】
実施形態A及びBと比較して、実施形態G又はHによる方法は、スペーサーPの標識、検出及び酵素による分解の複数のサイクルについての時間を短縮する。これらの実施形態の要件は、少なくとも2つの異なる酵素により分解可能なスペーサーP、及びしたがって互いに直交して使用できる遊離試薬として異なる酵素の使用である。
【0118】
前記方法の使用
本発明の方法は、研究、診断及び細胞治療における種々の適用に使用できる。
【0119】
本発明の第一の使用において、生物学的試験体、例えば細胞は、計数目的のために、すなわち、接合体の抗原認識部分によって認識される特定の抗原のセットを有する試料から細胞の量を確立するために検出又は単離される。
【0120】
第二の使用において、生物学的試験体の1つ以上の集団を、標的細胞の精製のために分離する。それらの単離された精製した細胞を、複数の下流の用途、例えば分子診断、細胞培養、又は免疫療法において使用できる。
【0121】
本発明の他の使用において、接合体の抗原認識部分によって認識される生物学的試験体上の抗原のような標的部分の位置を決定する。高度な画像化方法が、「Multi Epitope Ligand Cartography」、「Chip-based Cytometry」又は「Multioymx」として公知であり、例えば欧州特許第0810428号明細書(EP0810428)、欧州特許第1181525号明細書(EP1181525)、欧州特許第1136822号明細書(EP1136822)又は欧州特許第1224472号明細書(EP1224472)において記載されている。この技術において、生物学的試験体の試料を、蛍光部分に結合させた抗原認識部分と連続サイクルで接触させ、抗原の位置を蛍光部分によって検出し、その後蛍光部分を除去する。したがって、少なくとも1つの蛍光部分での標識付け-検出-除去の続くサイクルは、タンパク質ネットワークのマッピング、種々の細胞タイプの局在化、又はプロテオームにおける疾患関連変化の分析の可能性を提供する。
【0122】
実施例
実施例1 - デキストラン-PEG-クマリン-色素とデキストラン-クマリン-色素の結合及び蛍光消光の測定
本発明による接合体を調製するために、有機小分子色素、例えば、Pacific Blue NHS-エステル(Thermo Fisher Scientific社から入手可能)を、DMSO中で溶解し、そしてカルボキシ-PEG-アミン、例えばCA(PEG)24(Thermo Fisher Scientific社から入手可能)をDMSO中に溶解して追加した。その反応混合物を2時間室温で撹拌した。その後、カルボキシ-PEG-クマリン-色素を、室温で一晩EDC及びNHS(例えばMerck社により入手可能)を添加することによって活性化した。
【0123】
次のステップにおいて、本発明による(Xo-L)n-Pの、及び従来技術による(X)n-Pの、デキストラン-蛍光色素-接合体を、それぞれNHS-クマリン-色素、例えばPacific Blueであり、デキストラン:NHS-クマリン-色素=1:10~1:24の異なるモル比で、NHS-PEG-クマリン-色素で活性化した10mg/mLの濃度でのアミノデキストラン(70kDa)(Fina Biosolutions社から入手可能)をインキュベートすることによって調製した。室温で60分インキュベートした後に、デキストラン-蛍光色素-接合体を、PBS/EDTA-緩衝液を使用したサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。接合したクマリン色素の量と標識の程度(DOL)を、クマリン色素416nmの蛍光色素の特定の波長での吸光度によって測定した。DOLは、デキストラン-PEG-クマリン-色素について4.1、6.5及び8.6であり、デキストラン-クマリン-色素について3.7、5.0、7.8であった。
【0124】
デキストラン-PEG-クマリン-色素-接合体及びデキストラン-クマリン-色素-接合体を同一の濃度のデキストランに希釈して、標識の程度に対する蛍光消光の依存性を測定した。クマリン色素416nmについての蛍光色素の特定の波長での吸光度、及び416nmでの励起後の発光強度を測定した。
【0125】
図2は、デキストラン-PEG-クマリン-色素-接合体及びデキストラン-クマリン-色素-接合体の例示的な吸収及び発光強度を示す。デキストラン-クマリン-色素について、蛍光発光強度は、それぞれDOLの吸光度の増加に伴って最小限にしか増加せず、デキストラン分子上のクマリン分子の蛍光が強力に消光することを示す。対照的に、デキストラン-PEG-クマリン-色素について、同等のDOLで蛍光発光強度が高くなる。強度は、それぞれDOLの吸光度の増加とともに増加し、PEGリンカーがクマリン分子の消光を防ぐことを示す。
【0126】
実施例2 - Fab-デキストラン-クマリン-色素-接合体及びFab-デキストラン-PEG-クマリン-色素-接合体での可逆的な細胞表面染色及びフローサイトメトリー分析
式(I)(Xo-L)n-P-Ym又は式(II)(X)n-P-Ymに従って、抗体-又はFab-デキストラン-蛍光色素接合体を調製するために、デキストラン-PEG-クマリン-色素-接合体及びデキストラン-クマリン-色素-接合体を、SMCCで室温で60分間インキュベートすることにより活性化させ、PBS/EDTA緩衝液を使用したサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。抗体又はFab、例えば抗-CD4を、MES緩衝液中で10mM DTTで還元した。室温で90分インキュベートした後に、抗体を、PBS/EDTA-緩衝液を使用したサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。抗体-又はFab-デキストラン-蛍光色素接合体の接合のために、活性化させたFab又は抗体を、活性化させたデキストランに添加した。室温で60分間インキュベートした後に、β-メルカプトエタノール、続いてN-エチルマレイミドをモル過剰で連続して添加して、未反応のマレイミド官能基又はチオール官能基をブロックした。抗体-又はFab-デキストラン-蛍光色素-接合体を、PBS/EDTA-緩衝液を使用したサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。抗体又はFab及び蛍光部分の濃度を、280nmでの吸光度及び蛍光色素の特定の波長での吸光度によって測定した。
【0127】
細胞表面染色
PBS/EDTA/BSA緩衝液中でのPBMCを、抗CD4-Fab-デキストラン-クマリン-色素接合体DOF5.0又は抗CD4-Fab-デキストラン-PEG-クマリン-色素-接合体DOF4.1、6.5、及び8.6で、4℃で10分間染色した。細胞を、冷PBS/EDTA-BSA-緩衝液で洗浄し、そしてフローサイトメトリーにより分析した。蛍光標識の可逆性のために、細胞をデキストラナーゼで21℃で10分間インキュベートし、PBS/EDTA-BSA-緩衝液で洗浄し、そしてフローサイトメトリーで分析した。
【0128】
図3は、異なる抗-CD4-Fab-デキストラン-PEG-クマリン-色素(a~c)及び抗-CD4-Fab-デキストラン-クマリン-色素-接合体(d)での単一パラメーター標識のフローサイトメトリー分析の結果の例示的なヒストグラムを示す(リンパ球の捕食、及びヨウ化プロピジウムによる死細胞の排除、右上:CD4+T細胞集団の平均蛍光強度)。DOFに応じて、抗-CD4-Fab-デキストラン-PEG-クマリン色素で染色した細胞は、抗-CD4-デキストラン-クマリン色素で染色した細胞よりも2.3~3.8倍明るくなる。デキストラン分解酵素であるデキストラナーゼの添加後に、標識付けしたCD4+T細胞集団の残りの蛍光強度は、検出限界の範囲にある。