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特許7354382トマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤、ならびに、トマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】トマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤、ならびに、トマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/20 20200101AFI20230925BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20230925BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
A01N63/20
A01P21/00
C12P1/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022135376
(22)【出願日】2022-08-26
(62)【分割の表示】P 2018140521の分割
【原出願日】2018-07-26
(65)【公開番号】P2022174121
(43)【公開日】2022-11-22
【審査請求日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2018039937
(32)【優先日】2018-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野原 偏弘
(72)【発明者】
【氏名】大野 勝也
(72)【発明者】
【氏名】高田 久美子
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-298777(JP,A)
【文献】特開2001-302427(JP,A)
【文献】特開2006-333829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リノール酸を0.1~8mg/lの溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させる脂肪酸代謝工程を含む、リノール酸代謝物を含むトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法。
【請求項2】
前記脂肪酸代謝工程を、Mg、P、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種以上のミネラルの存在下で実施する請求項1記載のトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法。
【請求項3】
前記プロテオバクテリアが、前培養されたプロテオバクテリアである請求項1または2記載のトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法。
【請求項4】
前記前培養されたプロテオバクテリアが、菌数1×108~9×1010cells/mlに前培養されたプロテオバクテリアである請求項3記載のトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法。
【請求項5】
バイオサーファクタントを含むトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法である請求項1~4のいずれか1項に記載のトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法。
【請求項6】
前記脂肪酸代謝工程を、20~30℃の条件下で実施する請求項1~5のいずれか1項に記載のトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法。
【請求項7】
トマトの茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として機能するトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法である請求項1~6のいずれか1項に記載のトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法。
【請求項8】
フェルラ酸、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、リコピンおよびアデノシンからなる群より選択される少なくとも1種である機能性成分の含有量を向上させる薬剤として機能するトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法である請求項1~7のいずれか1項に記載のトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤、ならびに、トマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トマトの可食部には、様々な機能性成分がアグリコンまたはその配糖体などの誘導体として含まれている。従来より食用とされているトマト、および、トマトに含まれるこれら機能性成分の需要は高い。しかしながら、有効成分の十分な含有量を確保しつつ、トマトの可食部の成長を促進させることは、従来のトマトの施設栽培や栽培方法では困難であり、トマトの可食部の成長を促進させるための試みが行われてきている。
【0003】
トマトの可食部の成長促進方法としては、特許文献1に、ジエチルアミノエチルアルキルエステルを用いてトマト果実重量を増加させたことが記載されている。また、特許文献2には、アブシジン酸を有効成分とする薬剤を作用させることによりトマト果実を肥大させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-290606号公報
【文献】特開平4-264007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のジエチルアミノエチルアルキルエステルは、非天然の化学合成品であり、有機栽培などの条件には適さないものである。さらに、このような化学合成品は生分解性に乏しいことが予測され、したがって、環境への影響が懸念される。また、特許文献2のアブシジン酸は天然に存在する化合物であるが、それを含む薬剤を製造する際に補助剤として有機溶剤や界面活性剤などを用いる記載があり、そのような薬剤は完全な天然物質であるとはいえない上、薬剤使用による果実重量の増加割合は1割程度であり大きくない。特許文献1および2には、機能性成分の含有量については記載されていない。
【0006】
果菜類の栽培時にストレスを与えることにより植物体中の機能性成分の含有量が増加することは知られているが、ストレス栽培には果実重量の低下という問題があり、前述のように、有効成分の十分な含有量を確保しつつ果実重量を増加させることは困難である。よって、トマト栽培において、トマト果実中の機能性成分の含有量を向上させつつ、トマト果実の果実重量の増加を図ることのできる効率的な品質向上剤が求められている。
【0007】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたもので、化学合成された物質を用いることなく、トマトに適宜散布または灌注することで安全に、トマト果実の果実重量の増加を図ることのできるトマト果実の成長促進剤、および、トマト果実中の機能性成分の含有量の向上を図ることのできるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤、ならびに、それらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、炭素数4~30の脂肪酸を0.1~8mg/l(リットル)の溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させることで得られる脂肪酸代謝物を含む、トマト果実の成長促進剤に関する。
【0009】
前記脂肪酸が、20℃で液体の脂肪酸であるトマト果実の成長促進剤が好ましい。
【0010】
前記代謝が、Mg、P、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種以上のミネラルの存在下での代謝であるトマト果実の成長促進剤が好ましい。
【0011】
前記プロテオバクテリアが、前培養されたプロテオバクテリアであるトマト果実の成長促進剤が好ましい。
【0012】
前記前培養されたプロテオバクテリアが、菌数1×108~9×1010cells/ml(ミリリットル)に前培養されたプロテオバクテリアであるトマト果実の成長促進剤が好ましい。
【0013】
前記トマト果実の成長促進剤が、バイオサーファクタントを含むトマト果実の成長促進剤であることが好ましい。
【0014】
前記代謝が、20~30℃の条件下での代謝であるトマト果実の成長促進剤が好ましい。
【0015】
前記トマト果実の成長促進剤が、トマトの茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として用いられるトマト果実の成長促進剤が好ましい。
【0016】
本発明は、また、炭素数4~30の脂肪酸を0.1~8mg/lの溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させる脂肪酸代謝工程を含む、脂肪酸代謝物を含むトマト果実の成長促進剤の製造方法に関する。
【0017】
前記脂肪酸が、20℃で液体の脂肪酸であるトマト果実の成長促進剤の製造方法が好ましい。
【0018】
前記脂肪酸代謝工程を、Mg、P、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種以上のミネラルの存在下で実施するトマト果実の成長促進剤の製造方法が好ましい。
【0019】
前記プロテオバクテリアが、前培養されたプロテオバクテリアであるトマト果実の成長促進剤の製造方法が好ましい。
【0020】
前記前培養されたプロテオバクテリアが、菌数1×108~9×1010cells/mlに前培養されたプロテオバクテリアであるトマト果実の成長促進剤の製造方法が好ましい。
【0021】
バイオサーファクタントを含むトマト果実の成長促進剤の製造方法であるトマト果実の成長促進剤の製造方法が好ましい。
【0022】
前記脂肪酸代謝工程を、20~30℃の条件下で実施するトマト果実の成長促進剤の製造方法が好ましい。
【0023】
トマトの茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として機能するトマト果実の成長促進剤の製造方法であるトマト果実の成長促進剤の製造方法が好ましい。
【0024】
本発明によれば、トマトの果実あたりの重量を増加させることができ、トマトの収量を向上させることができる。
【0025】
また、本発明は、炭素数4~30の脂肪酸を0.1~8mg/l(リットル)の溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させることで得られる脂肪酸代謝物を含む、トマト果実中の機能性成分含有量向上剤に関する。
【0026】
前記脂肪酸が、20℃で液体の脂肪酸であるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0027】
前記代謝が、Mg、P、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種以上のミネラルの存在下での代謝であるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0028】
前記プロテオバクテリアが、前培養されたプロテオバクテリアであるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0029】
前記前培養されたプロテオバクテリアが、菌数1×108~9×1010cells/ml(ミリリットル)に前培養されたプロテオバクテリアであるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0030】
前記トマト果実中の機能性成分含有量向上剤が、バイオサーファクタントを含むトマト果実中の機能性成分含有量向上剤であることが好ましい。
【0031】
前記代謝が、20~30℃の条件下での代謝であるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0032】
前記トマト果実中の機能性成分含有量向上剤が、トマトの茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として用いられるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0033】
前記機能性成分が、フェルラ酸、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、リコピンおよびアデノシンからなる群より選択される少なくとも1種であるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0034】
本発明は、また、炭素数4~30の脂肪酸を0.1~8mg/lの溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させる脂肪酸代謝工程を含む、脂肪酸代謝物を含むトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法に関する。
【0035】
前記脂肪酸が、20℃で液体の脂肪酸であるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0036】
前記脂肪酸代謝工程を、Mg、P、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種以上のミネラルの存在下で実施するトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0037】
前記プロテオバクテリアが、前培養されたプロテオバクテリアであるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0038】
前記前培養されたプロテオバクテリアが、菌数1×108~9×1010cells/mlに前培養されたプロテオバクテリアであるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0039】
バイオサーファクタントを含むトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法であるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0040】
前記脂肪酸代謝工程を、20~30℃の条件下で実施するトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0041】
トマトの茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として機能するトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法であるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0042】
フェルラ酸、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、リコピンおよびアデノシンからなる群より選択される少なくとも1種である機能性成分の含有量を向上させる薬剤として機能するトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法であるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0043】
本発明によれば、ストレス栽培や高含有品種を使用しなくとも、トマト果実中の機能性成分の向上を図ることができる。
【0044】
なお、本発明でいうトマト果実中の機能性成分含有量向上剤は、トマト内で機能性成分の生成促進および/または分解の抑制を起こさせ、トマト果実中の機能性成分含有量を向上させるものである。
【発明の効果】
【0045】
本発明のトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤は、ストレス栽培や高含有品種を使用しなくともトマトに適宜散布または灌注することで、トマトの果実重量を増加させ、トマト果実中の機能性成分含有量を向上させることができる。また、本発明のトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法によれば、ストレス栽培や高含有品種を使用しなくともトマトに適宜散布または灌注することで、トマト果実の果実重量を増加させ、トマト果実中の機能性成分含有量を向上させることができるトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
トマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤
本発明のトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤は、炭素数4~30の脂肪酸を0.1~8mg/lの溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させることで得られる脂肪酸代謝物を含むことを特徴とする。
【0047】
脂肪酸代謝物をトマトの茎葉または根の一部に接触させることで、トマト果実の果実重量を増加させたり、トマト果実中の機能性成分の含有量を向上させたりすることができる。脂肪酸代謝物をトマトの茎葉または根の一部に接触させることで、一般的に行われるストレス栽培において増加する成分と同じ成分のトマト果実内での増大が確認できることから、本発明の脂肪酸代謝物は、トマトに吸収されることによって、本来トマト内で環境ストレスによりシグナルとして産生され作用する分子と同様の作用をトマト内で行う物質および/またはその前駆体を含んでいると考えられる。すなわち、本発明の脂肪酸代謝物により、トマトが本来有しているストレス耐性機能を強化することができる。その結果、トマト内での機能性成分の生成促進および/または分解の抑制が起き、トマト果実中の機能性成分含有量が向上する。また、果実重量の増加も確認できることから、本発明の脂肪酸代謝物には、トマト果実の成長を活性化する物質も含まれていると考えられる。
【0048】
本発明における代謝とは、所定の溶存酸素濃度環境下においてプロテオバクテリアが外分泌または内分泌する酵素等により炭素数4~30の脂肪酸の分解が行われることをいう。例えば、所定の溶存酸素濃度環境下、脂肪酸を含有する培地でプロテオバクテリアを培養する方法が挙げられる。
【0049】
プロテオバクテリアは、脂肪酸の代謝に関わる酵素であるリポキシゲナーゼ(lipoxygenase:LOX)を産生する遺伝子を持っており、脂肪酸代謝物を生成できる。
【0050】
本発明において用いられる脂肪酸の炭素数は4~30であり、10~20が好ましい。炭素数が4未満の場合は、融点・沸点が低いため、培養時の温度で揮発性が高まり培地中に残存しにくくなる傾向がある。また、炭素数が30を超える場合は、融点・沸点が高くなるため、培養時の温度で固体となり培地と混合できず分離してしまう傾向がある。ただし、融点は水素結合の数によって炭素数のみに依存しない場合もある。
【0051】
本発明において用いられる脂肪酸は、代謝効率の観点や培地中で固化することを抑制する観点から、20~30℃で液体であることが好ましく、20℃で液体であることがより好ましい。
【0052】
本発明の脂肪酸は、飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸のいずれか、または両方を含む混合物とすることができる。また、植物油やグリセリドの形態や遊離脂肪酸を用いることができるが、分解速度に優れるという理由から遊離脂肪酸(モノカルボン酸)が好ましい。
【0053】
炭素数4~30の遊離脂肪酸としては、酪酸(ブチル酸)、吉草酸(バレリアン酸)、カプロン酸、エナント酸(ヘプチル酸)、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキジン酸、ミード酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸などが挙げられ、なかでも炭素数が10~20のカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキジン酸、ミード酸、アラキドン酸が好ましく、炭素数が18のオレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸がより好ましい。
【0054】
脂肪酸を含有する培地を使用する場合の脂肪酸の含有量は、120g/l以下が好ましく、100g/l以下がより好ましく、60g/l以下がさらに好ましい。120g/lを超える場合は、培地の水分との乳化が困難となり、代謝効率が悪化する恐れやプロテオバクテリアの生育を阻害する恐れがある。また、脂肪酸の含有量の下限は特に限定されないが、1.0g/l以上が好ましい。
【0055】
脂肪酸を含有する培地は、他にミネラル成分を含有することが好ましい。ミネラル成分としては、特に限定されず微生物培養に通常用いられるミネラル成分を挙げることができる。例えば、マグネシウム(Mg)、リン(P)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)を有する成分が挙げられる。これらの成分は単独で使用することも、複数を併用することもできる。好ましくはこれらの成分のうちの2種類、さらに好ましくは3種類以上が使用され得る。培地中のミネラル成分の含有量は特に限定されず、従来の好気性細菌の培養方法で使用される量とすることができるが、トマトへの施用時に塩害が発生する恐れがあるため、好ましくは15g/l以下、より好ましくは10g/l以下で使用され得る。
【0056】
本発明にて用いられるプロテオバクテリアは、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。好ましくは脂肪酸の代謝効率や生育効率の観点から、増殖に適した温度(至適温度)が10~40℃のプロテオバクテリアが好ましく、20~30℃のプロテオバクテリアがより好ましい。
【0057】
プロテオバクテリアは、脂肪酸の代謝効率に優れるという理由から、前培養されたプロテオバクテリアであることが好ましく、菌数が1×108~9×1010cells/mlまで前培養されていることがより好ましい。
【0058】
本発明においては、代謝は、0.1~8mg/lの溶存酸素濃度環境下で行われる。溶存酸素濃度が0.1mg/l未満の場合は、プロテオバクテリアの活動が低下し脂肪酸の代謝効率が極めて低くなる傾向がある。また、溶存酸素濃度が8mg/lを超える場合は、プロテオバクテリアによる代謝工程と並行して、基質である脂肪酸の培地中の酸素による分解が進行してしまい、代謝効率が低下し、ひいては有効成分である代謝産物の産生量が低下してしまう恐れがある。より好ましくは、溶存酸素濃度は0.1~5mg/lであり、さらに好ましくは0.1~4mg/lである。なお、溶存酸素濃度は株式会社堀場製作所製の溶存酸素計でPO電極に隔膜ガルバニ電極法または隔膜ポーラログラフ法により測定される値とする。
【0059】
代謝における温度は使用するプロテオバクテリアに応じて適宜調整することができ、脂肪酸の代謝効率の観点から、20~30℃がより好ましい。
【0060】
本発明において、トマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤は、脂肪酸代謝物に加えバイオサーファクタントを含有し得る。脂肪酸代謝物が水に分散されやすくなり、トマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の取扱性の観点から好ましいと考えられる。本発明に係るバイオサーファクタントとは、微生物が疎水性の高い物質を取り込むために産生し、細胞外へと分泌する界面活性剤様の物質を意味する。本発明において、プロテオバクテリアによって分泌されたバイオサーファクタントは、脂肪酸代謝物の水への分散も容易にするため、脂肪酸代謝物を含むトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の散布や灌注などが効率よく簡単に行えるようになる。しかしながら、バイオサーファクタントとしては、脂肪酸の分解時に本発明のプロテオバクテリアによって産生されたバイオサーファクタントだけではなく、他の微生物が産生したバイオサーファクタントが使用されてもよく、すなわち、本発明のトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤には他の微生物によって産生されたバイオサーファクタントがさらに添加されてもよい。人工的に合成された界面活性剤と比較して、バイオサーファクタントは生物に関する毒性が低く、また、生分解性も高いため、より環境に優しいトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤が得られると考えられる。また、プロテオバクテリアによる脂肪酸分解を促進させるために、他の微生物が産生したバイオサーファクタントが、プロテオバクテリアによる脂肪酸分解において添加されてもよい。プロテオバクテリアによる脂肪酸の取り込みが促進される可能性がある。
【0061】
本発明のトマト果実の成長促進剤は、微生物由来の脂肪酸代謝物を含むことを特徴とするため、土壌汚染や毒性に関わる問題を引き起こすことなく、トマト果実の成長を促進させることができ、トマト果実の果実重量を増加させることができる。すなわち、本発明のトマト果実の成長促進剤を用いることによって、安全かつ簡便に、トマト果実の果実重量を増加させることができる。
【0062】
本発明のトマト果実中の機能性成分含有量向上剤は、施用されるトマトにおいてストレス応答遺伝子PR1a、およびLOX-Dの発現を誘導することができる。この結果、トマトの種類・品種や生育ステージ、また栽培環境や季節に依存して、クチクラの発達、トライコームの発達、毛根発生促進、抗酸化物質の生成量増加、水分蒸散防止機能の促進(プロリンなどの生産増加や葉を厚くする)、茎が太くなる、などが起こる。すなわち、本発明の機能性成分含有量向上剤は、トマトが本来有しているストレス耐性機能を強化する。したがって、ストレス栽培を用いずとも、トマト果実中の機能性成分を向上させることができる。ストレス栽培や高含有品種を使用した場合に発生する収量の低下や病害虫に対する抵抗性の低下といった問題が生じることない。
【0063】
したがって、本発明において、本発明のトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤を用いることによって、ストレス栽培や高含有品種を使用することなく、すなわち従来の栽培方法を変えることなく、簡便な処理によって、トマト果実の果実重量を増加させると共に機能性成分含有量を向上させることができる。トマト果実中の機能性成分の含有量の向上とともに、トマト果実の果実重量の増加も達成することのできる効率的で優れた品質向上作用が得られると考えられる。
【0064】
本発明によって含有量が向上する機能性成分としては、フェルラ酸、リコピン、チオアデノシンやアデノシンなどの核酸物質などが挙げられる。本発明のトマト果実中の機能性成分含有量向上剤によって、トマト果実中の機能性成分のうちの少なくとも1つの含有量が向上され得る。
【0065】
本発明を適用することのできるトマトの品種としては、特に限定されないが、例えば、桃太郎、麗華などのトマトが挙げられる。
【0066】
トマトはどのように栽培されていてもよく、すなわち土壌に植え付けられていても、また水耕液に浸して栽培されていてもよい。本発明のトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤は、任意の方法で施用することができ、例えば、トマトの茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として使用され得る。特殊な設備等を用意せずとも、本発明のトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤を散布等するだけで安全に、トマト果実の果実重量を増加させ、トマト果実中の機能性成分の含有量を向上させることができるため、本発明は非常に有利である。
【0067】
本発明はまた、前述した栽培方法により栽培した機能性成分が増加したトマトに関する。そのようなトマトは、食用として或いは化粧品や医薬品、サプリメントなどの原料として有用であると考えられる。
【0068】
なお、本発明の脂肪酸代謝物、すなわち炭素数4~30の脂肪酸を0.1~8mg/l(リットル)の溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させることで得られる脂肪酸代謝物は、トマト果実以外にも葉物野菜の成長促進剤としても使用できる。葉物野菜の具体例としては、アブラナ科のルッコラ、コマツナ、ミズナ、ヒユ科のホウレンソウ、ビーツなどである。
【0069】
製造方法
本発明の脂肪酸代謝物を含むトマト果実の成長促進剤の製造方法およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の製造方法は、炭素数4~30の脂肪酸を0.1~8mg/lの溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させる脂肪酸代謝工程を含むことを特徴とする。
【0070】
本発明における脂肪酸代謝工程は、所定の溶存酸素濃度環境下においてプロテオバクテリアが外分泌または内分泌する酵素等により炭素数4~30の脂肪酸の分解が行われる工程である。例えば、所定の溶存酸素濃度環境下、脂肪酸を含有する培地でプロテオバクテリアを培養する方法が挙げられる。
【0071】
脂肪酸代謝工程における溶存酸素濃度は、0.1~8mg/lである。溶存酸素濃度が0.1mg/l未満の場合は、プロテオバクテリアの活動が低下し脂肪酸の代謝効率が極めて低くなる傾向がある。また、溶存酸素濃度が8mg/lを超える場合は、プロテオバクテリアによる代謝工程と並行して、基質である脂肪酸の培地中の酸素による分解が進行してしまい、代謝効率が低下し、ひいては有効成分である代謝産物の産生量が低下してしまう恐れがある。より好ましくは、溶存酸素濃度は0.1~5mg/lであり、さらに好ましくは0.1~4mg/lである。なお、溶存酸素濃度は株式会社堀場製作所製の溶存酸素計でPO電極に隔膜ガルバニ電極法または隔膜ポーラログラフ法により測定される値とする。
【0072】
溶存酸素濃度は、培養容器、振とう数、通気量などによって、調整することができる。
【0073】
脂肪酸代謝工程における培養条件は、溶存酸素濃度を所定の範囲とすること以外は、従来の好気性細菌を培養する条件と同様の条件とすることができる。例えば、フラスコによる振とうや、スピナーフラスコまたはジャーファメンターによる通気培養により3~7日間培養する方法が挙げられる。
【0074】
培養日数は、脂肪酸の乳化、分解等が十分に行われる日数とすることが好ましいが、撹拌や菌量によって培養日数は変化する。なお、脂肪酸代謝工程の終了は、脂肪酸の分解状態を、波長230nmにおける吸光度の測定、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)、液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS)等で確認することが好ましい。
【0075】
脂肪酸代謝工程における温度は、使用するプロテオバクテリアに応じて適宜調整することができ、脂肪酸の代謝効率の観点から、20~30℃の条件下で実施することが好ましい。
【0076】
脂肪酸代謝工程における脂肪酸およびプロテオバクテリアは、本発明のトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の説明で前述したものを使用することができる。
【0077】
なお、プロテオバクテリアの前培養工程としては、特に限定されず通常の好気性細菌の培養方法とすることができる。前培養液から遠心分離等により菌体のみを回収し、脂肪酸代謝工程に用いることが好ましい。
【0078】
本発明の製造方法により得られるトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤は、脂肪酸代謝物に加えバイオサーファクタントを含有し得る。本発明に係るバイオサーファクタントとは、微生物が疎水性の高い物質を取り込むために産生し、細胞外へと分泌する界面活性剤様の物質を意味する。本発明において、プロテオバクテリアによって分泌されたバイオサーファクタントは、脂肪酸代謝物の水への分散も容易にする。トマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の取扱性が向上すると考えられる。
【0079】
本発明のトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤は、培地、バイオサーファクタントを含むプロテオバクテリアの外分泌物、菌体などとの混合物である培養液として得られる。当該培養液をそのまま本発明のトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤としてもよく、培養液から遠心分離などにより菌体を除去した上澄み液をトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤としてもよい。本発明の製造方法により得られるトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤は、トマトに施用される。培養液は原液のままでも使用することができるが、原液の場合は高温時にトマトへの処理部分が、ミネラル分が蒸発濃縮され浸透圧の影響で縮む恐れがあるため、原液を希釈して使用することが望ましい場合がある。希釈倍率としては本発明の効果を発揮する限り特に限定されないが、10~1000倍希釈が好ましい。なお、除去した菌体を再度、脂肪酸を含有する培地で培養することにより本発明の脂肪酸代謝工程を繰り返し行うことが可能である。
【実施例
【0080】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0081】
試験用トマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の調製
<前培養工程>
1l(リットル)の水にペプトン(Difco製のタンパク質酵素加水分解物)10g、イーストエキストラクト5gおよび塩化ナトリウム10gを溶解させ、121℃、20分間オートクレーブ滅菌を行い、室温まで冷却後、プロテオバクテリアの菌液を植菌した。なお、培養容器の口はシリコン栓で密栓した。植菌後の容器をバイオシェーカー(タイテック株式会社製のBR-23UM)を用い、25±5℃、120rpmの条件下で、24時間培養を行った。培養液中の菌数は5×108cells/mlであった。培養後、培養液を15,000×G、20℃の条件で遠心分離することで培養液から菌体を回収した。
【0082】
<脂肪酸代謝工程>
ガラス製三角フラスコ内の1l(リットル)の滅菌水に、リノール酸(和光純薬工業株式会社製の一級リノール酸)12g、硫酸マグネシウム七水和物1.5gおよびリン酸水素二カリウム1.5g、および前培養工程から得られた菌体の全量を加えた。これを、バイオシェーカー(タイテック株式会社製のBR-23UM)を用い、20℃、120rpm、溶存酸素濃度4mg/lの条件下で、4日間培養を行った。なお、リノール酸の分解は、リノール酸中間生成物の1つである酸化脂質の培養液中の濃度を株式会社島津製作所製の分光光度計BioSpec-miniを用いて波長230nmにおける吸光度を測定することにより、確認した。培養後、菌体を含む培養液を試験用トマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤とし、下記の評価を行った。
【0083】
トマト果実の成長促進効果
・実施例1
室内土耕にて、トマト(品種:桃太郎)の幼苗2株を、穴を開けた40L肥料袋を容器にして各1株で植え付け、1週間ごとに、試験用トマト果実の成長促進剤を水で100倍希釈した希釈液を土壌灌注(200ml/株程度)で接種した。各トマトの栽培は、光源としてメタルハライドランプ(安定器:SODATEC バラスト 600W、ライト本体:GIBライティング Flower spectrum HPS E40)を用い、一日当たりの照射時間を12時間として行った。気温はレコーダで記録し、日中30~35℃、夜間15~20℃になるように管理した。また、できるだけ水ストレスを与えるため、灌水は必要最小限に抑え、葉が垂れ下がった折を見て灌水を繰り返した。結実して完熟したトマト果実を採取してそれぞれの重量を測定し、トマト果実重量の評価を行った。採取は、1段目から初め、4段目のトマト果実をすべて採取して終了した。
・実施例2
試験用トマト果実の成長促進剤を水で250倍希釈した希釈液を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行い、トマト果実重量の評価を行った。
・実施例3
試験用トマト果実の成長促進剤を水で500倍希釈した希釈液を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行い、トマト果実重量の評価を行った。
・比較例1
試験用トマト果実の成長促進剤を用いずにトマトの栽培を行った以外は、実施例1~3と同様に試験を行って、トマト果実重量の評価を行った。
【0084】
トマト果実重量の評価は、実施例1~3および比較例1によって得られたトマト果実の、一株当たりの個数(収穫果数)および累積果実重量(収穫果重量)、ならびに、トマト果実一個あたりの平均重量(収穫果個別重量)の平均値を計算して、比較することにより行った。結果を表1に示した。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示されるように、試験用トマト果実の成長促進剤で処理したトマト果実は、比較例1で栽培され、採取されたトマト果実と比べて、収獲果数はほぼ一定であり、果実重量が増加していた。一株当たりの累積果実重量の増加率は、100倍希釈(実施例1)で1.2倍、250倍希釈(実施例2)で1.6倍、500倍希釈(実施例3)で1.5倍であった。また、トマト果実一個あたりの平均重量の増加率は、100倍希釈(実施例1)で1.5倍、250倍希釈(実施例2)で1.7倍、500倍希釈(実施例3)で1.8倍であった。
【0087】
したがって、本発明のトマト果実の成長促進剤は、トマト果実の成長を促進する物質を含み、トマト果実の重量を顕著に増加することのできるトマト果実の成長促進剤として機能していることがわかる。
【0088】
トマト果実中の機能性成分含有量向上効果
・実施例4
室内土耕にて、トマト(品種:桃太郎)の幼苗2株を、穴を開けた40L肥料袋を容器にして各1株で植え付け、1週間ごとに、試験用トマト果実中の機能性成分含有量向上剤を水で100倍希釈した希釈液を噴霧(20ml/株程度)および/または土壌灌注(200ml/株程度)で接種した。各トマトの栽培は、光源としてメタルハライドランプ(安定器:SODATEC バラスト 600W、ライト本体:GIBライティング Flower spectrum HPS E40)を用い、一日当たりの照射時間を12時間として行った。気温はレコーダで記録し、日中30~35℃、夜間15~20℃になるように管理した。また、できるだけ水ストレスを与えるため、灌水は必要最小限に抑え、葉が垂れ下がった折を見て灌水を繰り返した。結実して完熟したトマト果実を採取して、各トマト果実中の機能性成分の含有量を評価した。
・実施例5
試験用トマト果実中の機能性成分含有量向上剤を水で500倍希釈した希釈液を用いた以外は、実施例4と同様に試験を行い、トマト果実中の機能性成分の含有量を評価した。
・比較例2
試験用トマト果実中の機能性成分含有量向上剤を用いずにトマト果実の栽培を行った以外は、実施例4および5と同様に試験を行って、トマト果実中の機能性成分の含有量を評価した。
【0089】
トマト果実中の機能性成分の評価は、実施例4および5、ならびに比較例2でそれぞれ栽培し、早く完熟した順に採取したトマト果実10個を、ナイフで細かく切断した後、乳鉢ですり潰して得られたペーストを凍結乾燥により乾燥させ、これらをそれぞれアセトニトリル:水=1:1の溶液にて抽出した成分の、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のMS-Exactive-Focusとサーモフィッシャーサイエンティフィック社製HPLCのUltimate3000を用いたLCMS多変量解析によりフェルラ酸、5’-S-メチル-5’-チオアデノシン、アデノシンの分析を行った。また、リコピンについては上記凍結乾燥の乾燥物をアセトン溶液にて抽出した成分をHPLCにて定量した。試験用トマト果実中の機能性成分含有量向上剤での処理を行っていない比較例2における機能性成分の含有量に対して実施例4および5において含有量の向上が見られた各成分を表2に示した。表2で、各成分の増加割合は、比較例2における各機能性成分の含有量を1とした場合の、試験用トマト果実中の機能性成分含有量向上剤で処理した場合(実施例4および5)の各機能性成分の含有量で計算して、結果を表した。
【0090】
【表2】
【0091】
試験用トマト果実中の機能性成分含有量向上剤で処理したトマト果実は、表2に示されるように、試験用トマト果実中の機能性成分含有量向上剤を用いずに比較例2で栽培されて採取されたトマト果実と比べて、フェルラ酸が最大で2.6倍、5’-S-メチル-5’-チオアデノシンは最大で1.6倍、アデノシンは最大で6.5倍、リコピンで1.2倍の含有量の向上が見られた。フェルラ酸には抗腫瘍活性や認知機能改善効果などがあること、また、アデノシンには育毛作用があることが報告されている。リコピンは一般的なカロテノイドの一種として、強い抗酸化性が広く認められている。
【0092】
この結果より、本発明のトマト果実中の機能性成分含有量向上剤は、トマト果実中の機能性成分の含有量を顕著に向上させることのできるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤として機能していることがわかる。また、本発明のトマト果実中の機能性成分含有量向上剤を使用することによって含有量の向上が観察された成分は、一般的に行われるストレス栽培において生成の促進および/または分解の抑制により含有量の向上が見られる成分であるため、本発明のトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の機能性成分含有量向上効果は、本発明のトマト果実中の機能性成分含有量向上剤の抵抗性誘導効果を引き起こしたストレス効果によってもたらされたと考えられる。すなわち、本発明におけるトマト果実中の機能性成分含有量向上効果は、トマト果実中での機能性成分の生成促進、トマト果実中で生成された機能性成分の分解抑制、またはそれらの組合せの結果によるものであると考えられる。
【0093】
上記の結果より、本発明のトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤、ならびに、本発明の製造方法により製造されるトマト果実の成長促進剤および本発明の製造方法により製造されるトマト果実中の機能性成分含有量向上剤が、トマト果実の成長促進効果およびトマト果実の機能性成分含有量向上効果に優れたトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤であることがわかる。
【0094】
また、本実施例ではトマトは室内栽培であり、また、上記実施例で記載したように、本実施例の栽培では全水準にて水分を制限したストレスをかけたにも関わらず、本発明のトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤は、トマト果実が本来もつ抵抗性を高めることができるため、たとえこのようなストレス条件下でもストレス下で問題となる果実の生理障害等が発生せず、さらに果実重量の減少を抑制することで重量増加に関与する。このため、本発明のトマト果実の成長促進剤およびトマト果実中の機能性成分含有量向上剤によれば、一般圃場において繰り返される多種のストレス状態による果実の重量低下を抑え、トマト果実の重量を増加させることができると考えられる。