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特許7354383頭足類への給餌方法および頭足類への給餌器具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】頭足類への給餌方法および頭足類への給餌器具
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/85 20170101AFI20230925BHJP
【FI】
A01K61/85
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022135879
(22)【出願日】2022-08-29
(62)【分割の表示】P 2018020394の分割
【原出願日】2018-02-07
(65)【公開番号】P2022166329
(43)【公開日】2022-11-01
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】森島 輝
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103461256(CN,A)
【文献】特開2017-6054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/80
A01K 61/00
A23K 10/00 - 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タコへの給餌方法であって、養殖槽の水中に餌を保持する水中保持手段により水中に餌を保持する工程、前記タコに前記餌を摂餌させる工程、を含むタコへの給餌方法。
【請求項2】
前記水中保持手段により水中に餌を保持する工程に、前記餌を水中で揺動させる工程を含む、請求項1に記載の給餌方法。
【請求項3】
前記水中保持手段により水中に餌を保持する工程に、前記餌を前記養殖槽の開口部から水中に吊り下げて保持するための吊下保持手段により吊り下げる工程を含む、請求項1または2に記載の給餌方法。
【請求項4】
前記吊下保持手段が、前記餌を取り付けた紐状体または棒状体を備える請求項3に記載の給餌方法。
【請求項5】
前記水中保持手段により水中に餌を保持する工程に、前記餌を前記養殖槽に配置された支持体に取付けて水中に保持するための支持保持手段により前記餌を保持する工程を含む、請求項1または2に記載の給餌方法。
【請求項6】
前記支持保持手段が、養殖槽内に架け渡された紐状体または棒状体を備える請求項5に記載の給餌方法。
【請求項7】
前記支持保持手段が、養殖槽内に配置された棒状体を有する請求項5に記載の給餌方法。
【請求項8】
前記紐状体が、釣糸、凧糸、縫い糸、およびワイヤーからなる群から選択される少なくとも1以上の紐状体である請求項4または6に記載の給餌方法。
【請求項9】
前記棒状体が、筒状体、柱状体、および錘状体からなる群から選択される少なくとも1以上の棒状体である請求項4、6、または7のいずれかに記載の給餌方法。
【請求項10】
前記餌が、前記養殖槽の底部から離隔されている請求項1ないし9のいずれかに記載の給餌方法。
【請求項11】
少なくとも浮遊幼生期のタコの養殖に、請求項1ないし10のいずれかに記載の給餌方法を適用することを特徴とする、タコの養殖方法。
【請求項12】
養殖槽の水中にある餌を、養殖槽の底部から離隔して保持する餌水中保持手段を備えるタコへの給餌器具であって、餌水中保持手段が、餌を養殖槽の底部および/または側部に取り付ける棒状体である支持体に取付けて水中に保持する支持保持手段であるタコ用給餌器具。
【請求項13】
さらに、前記餌水中保持手段に保持した餌を揺動させる揺動手段を備える、請求項12に記載のタコ用給餌器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭足類への給餌方法および頭足類への給餌器具に関する。
【背景技術】
【0002】
イカ、タコなどの頭足類は、日本人の食生活に非常になじみがあるものの、それらの養殖技術が確立されていない。この養殖技術に関連して、その飼料は重要となる。例えば、特許文献1は、頭足類養殖用飼料を開示するものである。また、特にタコは、非特許文献1にも記載されているように、浮遊幼生期の飼育が困難であることが指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-275581号公報
【文献】特開2017-6054号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】秋山伸彦(東海大学海洋学部),「マダコの高密度収容技術と幼生飼育の現状」,平成29年度水産学会水産増殖懇話会第1回講演会,要旨集pp7-8,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水産生物の養殖では、特にその養殖対象となる水産生物としては魚類が多く対象となっており、魚類は水中を遊泳しながら摂餌する。そのため生餌や、ペレット状の餌などを手動、又は機械による撒き餌で給餌されてきた。この手法であれば、摂餌を行っている間遊泳し続けることができるため、その生態としても適した給餌方法となる。
【0006】
一方頭足類へ給餌する際も、従来はこれら魚類への給餌と同様に撒き餌による手法での給餌が行われている。前述の特許文献1においても、沈降速度が規定されているように、散布により給餌することが検討されている。しかし頭足類については、魚類への給餌方法を頭足類にも単純に適用するのみで、これまで適切な給餌方法及び給餌器具についての検討はされていない。本発明は頭足類に適した給餌方法および給餌器具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の発明が前記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0008】
(1) タコへの給餌方法であって、養殖槽の水中に餌を保持する水中保持手段により水中に餌を保持する工程、前記タコに前記餌を摂餌させる工程、を含むタコへの給餌方法。
(2) 前記水中保持手段により水中に餌を保持する工程に、前記餌を水中で揺動させる工程を含む、前記(1)記載の給餌方法。
(3) 前記水中保持手段により水中に餌を保持する工程に、前記餌を前記養殖槽の開口部から水中に吊り下げて保持するための吊下保持手段により吊り下げる工程を含む、前記(1)または(2)記載の給餌方法。
(4) 前記吊下保持手段が、前記餌を取り付けた紐状体または棒状体を備える前記(3)記載の給餌方法。
) 前記水中保持手段により水中に餌を保持する工程に、前記餌を前記養殖槽に配置された支持体に取付けて水中に保持するための支持保持手段により前記餌を保持する工程を含む、前記(1)または(2)に記載の給餌方法。
) 前記支持保持手段が、養殖槽内に架け渡された紐状体または棒状体を備える前記()に記載の給餌方法。
) 前記支持保持手段が、養殖槽内に配置された棒状体を有する前記()に記載の給餌方法。
) 前記紐状体が、釣糸、凧糸、縫い糸、およびワイヤーからなる群から選択される少なくとも1以上の紐状体である前記(4)または(6)記載の給餌方法。
) 前記棒状体が、筒状体、柱状体、および錘状体からなる群から選択される少なくとも1以上の棒状体である前記(4)、(6)、または(7)のいずれかに記載の給餌方法。
10) 前記餌が、前記養殖槽の底部から離隔されている前記(1)~()のいずれかに記載の給餌方法。
(11) 少なくとも浮遊幼生期のタコの養殖に、前記(1)~(10)のいずれかに記載の給餌方法を適用することを特徴とする、タコの養殖方法
【0009】
12養殖槽の水中にある餌を、養殖槽の底部から離隔して保持する餌水中保持手段を備えるタコへの給餌器具であって、餌水中保持手段が、餌を養殖槽の底部および/または側部に取り付ける棒状体である支持体に取付けて水中に保持する支持保持手段であるタコ用給餌器具。
13さらに、前記水中保持手段に保持した餌を揺動させる揺動手段を備える前記(12)記載のタコ用給餌器具。
【発明の効果】
【0010】
本発明の給餌方法および給餌器具によれば、頭足類の摂餌が効率的に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第一の実施形態に係る給餌器具の概要図である。
図2】本発明の第二の実施形態に係る給餌器具の概要図である。
図3】本発明の第三の実施形態に係る給餌器具の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施で きる。なお、本明細書において、「AからB」又は「A~B」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。また、本明細書において、「Aおよび/またはB」という表現は、「AおよびBのいずれか一方または双方」を意味する。すなわち、「Aおよび/またはB」には、「Aのみ」、「Bのみ」、「AおよびBの双方」が含まれる。
【0013】
本発明は、頭足類への給餌方法であって、養殖槽の水中に餌を保持する水中保持手段により水中に餌を保持する工程、前記頭足類に前記餌を摂餌させる工程、を含む頭足類への給餌方法に関する。また本発明は養殖槽の水中に餌を保持する水中保持手段を有する頭足類への給餌器具に関する。本発明の給餌器具によって本発明の給餌方法を実施することができる。
【0014】
[水中保持手段]
本発明の「水中保持手段」は、頭足類の餌を養殖槽の水面から底面までの間である水中に保持する手段である。この水中保持手段としては、餌を水中に保持することができる種々の方法を用いることができる。水中保持手段には、例えば後述する吊下保持手段や支持保持手段を用いることができる。この水中保持手段を用いて、本発明の給餌方法の養殖槽の水中に餌を保持する水中保持手段により水中に餌を保持する工程を行い、頭足類にその餌を摂餌させる工程を行う。
【0015】
本発明の頭足類への給餌においては、頭足類の餌を水中保持手段により養殖槽の水中に保持して給餌する。このような給餌を行うことで、頭足類の摂餌が思いがけなく良いことを本発明者らは見出した。この給餌を行うと、水槽中で遊泳状態にある頭足類に給餌を行うことができる。その結果、摂餌時間も増加するため摂餌量も増大する。また頭足類の種類によっては目視でその摂餌量の増加も確認することが容易になる。
【0016】
さらに、水中保持手段に餌を取付けておくことで、取付けた場所に餌があることが明確なため残餌量を把握することが容易となる。また頭足類が水中保持手段に取付けられた餌を各個体が任意の時間に摂餌することができるため給餌作業の回数も調整しやすい。また餌を取付けた水中保持手段の回収により残餌も回収することが容易である。そのため頭足類が摂餌しなかった餌が、養殖槽の底部に蓄積して養殖環境が汚染されることを防止することができる。特に頭足類は、養殖槽の底部に着底した餌は摂餌しない傾向が認められるため給餌の効率の観点からも本発明は有効である。
【0017】
本発明において、水中保持手段は紐状体や棒状体に餌を取り付けた構成とすることができる。例えば紐状体や棒状体に餌を結び付けたり、餌に孔を設けて挿通するなどして、餌を固定することができる。この紐状体には釣糸や、凧糸、縫い糸、ワイヤー、などの種々の繊維状体などを単独や適宜組み合わせて用いることができる。また棒状体には、筒状体や、柱状体、錘状体などを単独や適宜組み合わせて用いることができる。頭足類が、その水中保持手段に阻害されずに餌に接触しやすいように、水中保持手段の餌の取り付け位置周辺は細いほうが好ましい。これは棒状体のときは、その棒状体全体が細くてもよいし、取り付け位置のみ細いものでもよい。また本発明は頭足類への給餌に関するものであり、水中保持手段の餌周辺部は養殖槽内の塩水に浸かった状態で用いられるため、耐水性や耐塩性を有する素材で形成することが好ましい。これらの素材には、例えば樹脂や、木材、金属、炭素繊維、ガラス繊維などを用いることができる。
【0018】
[吊下保持手段]
本発明の水中保持手段として、吊下保持手段があげられる。この「吊下保持手段」は、餌を取り付けて吊り下げた状態で、その餌を養殖槽の開口部から水中に保持させる手段である。吊下保持手段としては、例えば餌を取り付けた紐状体や棒状体をそのまま用いることができる。また餌を取り付けた紐状体や棒状体を固定する固定具を備えたものを用いることもできる。本発明の給餌方法は、水中に餌を保持する工程に、餌を養殖槽の開口部から水中に吊下げて保持するための吊下保持手段により吊り下げる工程を含むことができる。
【0019】
本発明の吊下保持手段は、餌を取り付けた紐状体や棒状体を備え、それらの餌を取り付けた紐状体や棒状体を直接養殖槽の開口部から水中に吊下げる構成とすることができる。このような紐状体や棒状体を用いることで、餌の配置や回収を開口部側から簡易な作業で行うことができる。この紐状体や棒状体をその端部などを手で持って吊下げたり、開口部の縁から垂れ下げるように配置することができる。
【0020】
本発明の吊下保持手段は、餌を取り付けた紐状体や棒状体の吊下部を固定する固定具を備え、その吊下部を水中に吊り下げることで餌を養殖槽の水中に吊り下げる構成とすることができる。本発明における固定具は、餌を取り付けた紐状体や棒状体の吊下部を固定するものである。この固定具に吊下部を固定することで、吊下保持手段による餌の水中への配置、移動、回収などを固定具の取扱いで容易に行うことができる。この固定具には、例えば、竿状や、棒状、板状のものなどを用いることができる。これらの固定具は、その一部を養殖槽の外や蓋付近に配置して、吊下部を取り付けた部分を養殖槽上部の開口部に配置する構成としたり、養殖槽の開口部の縁を架け渡す構成とすることができる。
【0021】
[支持保持手段]
また他の水中保持手段として、支持保持手段があげられる。この「支持保持手段」は、前記養殖槽の側面や底部に配置された支持体に餌を取付けて水中に保持する手段である。この支持保持手段としては、例えば養殖槽内に架け渡された紐状体や棒状体とすることができる。また養殖槽に配置された棒状体とすることができる。本発明の給餌方法は、水中に餌を保持する工程に、餌を養殖槽に配置された支持体に取付けて水中に保持するための支持保持手段により保持する工程を含むことができる。
【0022】
支持保持手段としては、例えば養殖槽内に架け渡された紐状体や棒状体とすることができる。この紐状体や棒状体に餌を取り付けて餌が水中で保持されるように支持することができる。このように給餌することで頭足類の摂餌が効率的に行われる。この紐状体や棒状体は、養殖槽内の側面間や、底部と側面間とを架け渡すように配置することができる。紐状体や棒状体を取り付けやすいように養殖槽の側面や底部には取付用部を設けることができる。また紐状体や棒状体側にも養殖槽の側面や底部に取り付けやすいように取付用部を設けてもよい。取付用部は、紐状体や棒状体を取り付けるための部材である。取付用部は、鉤爪状やリング状、ピンチ状、ネジ状、差込プラグ状、吸盤状などの形状とすることができる。これらの取付用部を用いて、養殖槽内に紐状体や棒状体を架け渡すことができる。
【0023】
支持保持手段としては、養殖槽内に配置された棒状体等を用いて、その棒状体等に餌を取り付けて水中で保持されるように支持することができる。このように給餌することで頭足類の摂餌が効率的に行われる。この棒状体は、養殖槽の底部や側面に設けることができる。棒状体はその先端や中間部に餌を取り付けた状態でも、棒状体自体の形状を維持することができる。よって棒状体の少なくとも1か所を底部や側面に取り付けておくことで餌を水中に保持することができる。棒状体を底部や側面に設けるために前述の架け渡しに用いるような取付用部を養殖槽の側面や底部または棒状体に設けてもよい。
【0024】
[養殖槽]
本発明において「養殖槽」とは、頭足類を飼育可能な一定量の水を蓄積しておくことができる設備をいう。この養殖槽には、頭足類の養殖および、飼育、搬送、馴致のいずれを目的とする設備も含む。養殖槽内は、頭足類を飼育する上で、継続的にpH、溶存酸素量、アンモニア濃度などを適宜測定し、適切な範囲にすることが好ましい。養殖槽は、海洋、河川あるいは湖沼などの一部を利用してもよく、人工的な養殖設備を設置してもよい。特に、本発明においては、養殖槽の管理が容易である人工的な陸上設備が好ましい。
【0025】
[底部からの離隔]
本発明の頭足類への給餌において、水中保持手段により保持した餌は、養殖槽の底部から離隔されていることが好ましい。この底部から離隔する距離は水面方向に1cm以上、5cm以上、10cm以上、15cm以上、20cm以上、25cm以上、30cm以上、35cm以上、40cm以上とすることができる。頭足類は、沈降して底部に接触している餌を摂餌しにくいため、このように底部から離隔していることが好ましい。
【0026】
[水面からの離隔]
また水面からの距離は特に定めはなく、水面に浮遊するものでもよいが、水面から離隔していてもよい。水面から離隔する距離は深さ方向に、1cm以上、5cm以上、10cm以上、15cm以上、20cm以上、25cm以上、30cm以上、35cm以上、40cm以上とすることができる。餌が水面に位置してもよいが、水面から離れている方が、養殖槽の内部の頭足類が、水面付近に浮上せずとも摂餌できる点で好ましい。
【0027】
[餌の揺動]
また本発明の給餌方法においては、水中保持手段により保持した餌を、水中で揺動させることが好ましい。この揺動とは、餌が揺れ動くことである。例えば水中保持手段を手で揺らすことで餌を揺らすことができる。また養殖槽内の水流により餌を揺らすこともできる。また水中保持手段を揺れやすいものとすることで頭足類が餌に接触することで揺らすこともできる。また水中保持手段を揺動させる揺動手段により揺らすことで行うことができる。この水中保持手段に保持した餌を揺動させることで、頭足類の摂餌行動を誘導することができる。これにより餌が水中で動くことで、頭足類の興味を惹起したり、摂餌活性を刺激することができる。この揺動は、例えば5mm~5cm程度、水中で前後左右上下などの任意の方向に揺動するものであればよく、その揺動する周期も前記距離を1~5秒程度で移動するものとすることができる。
【0028】
[揺動手段]
本発明において、「揺動手段」とは、水中保持手段に保持した餌を揺動させるものである。本発明の給餌方法は、水中に餌を保持する工程に、餌を水中で揺動させる工程を含むことができる。これは、結果として餌が揺動すればよいため、餌を取り付けている紐状体や棒状体等自体や、吊り紐が固定されている水中保持手段自体を揺動させるものでもよい。揺動手法は、特に限定がなく、連続的あるいは断続的に揺動対象部分(餌、吊り紐、吊り下げ手段等)をシリンダや振り子、モーター、バイブレーター、水流を生じさせるポンプなどを単独あるいは適宜組み合わせたものによって、餌を揺動させるものを用いることができる。
【0029】
[頭足類]
本発明の給餌方法および給餌装置による給餌対象となる「頭足類」は、軟体動物門頭足綱に属するものである。本発明は、これらの頭足類で養殖や飼育等の対象となる頭足類全般への適用が可能である。具体的には、ヤリイカ、アオリイカ、コウイカ、マダコ、イイダコ、ミズダコ、オクトパス マヤなどがあげられる。
【0030】
特に本発明の給餌対象となる頭足類はマダコ上科であることが好ましく、マダコ上科のうちマダコ科であることがより好ましく、マダコ科のうちマダコであることが好ましい。マダコは、特に日本等で食用されており、完全養殖技術の確立が望まれている水産生物である。このマダコの完全養殖に本発明の給餌方法は非常に適しており、マダコは本発明のように水中保持手段により保持した餌に対して摂餌がよい。
【0031】
マダコは産卵されてからおよそ1月で孵化し、このとき0.05g程度の体重である。マダコは産卵後80日程度経過し、体重がおよそ3~5gになると底生生活を開始し、この底生生活を開始することを着底とよぶ。この孵化後から着底までの産卵後およそ30~80日は、浮遊期と呼ばれる。この浮遊期のマダコは、およそ4~8mm程度の体長である。本発明による給餌は、着底後のマダコでも有効であるが浮遊期のマダコに特に適している。
【0032】
この浮遊期はマダコが生育しにくい時期でもあるが、本発明によれば、浮遊期のマダコが効率よく摂餌するため生育率や生残率の向上等にも貢献することができる。なお、この浮遊期の給餌も含めて、本発明による給餌は他の撒き餌や生物餌料等による給餌と併用してもよい。また本発明による給餌は、生物餌料および/または配合飼料と併用することもできる。
【0033】
[餌]
本発明において水中保持手段に保持される「餌」は、頭足類の餌として利用される各種餌を使用することができる。特に水中保持手段に保持することから、固形の餌が利用される。このような餌としては、小魚や、貝、魚肉、貝肉、イカ肉、畜肉等の生原料を利用することができる。またこれらに加えて、カゼイン、グルテン、ゼラチン、澱粉、アルギン酸の成形剤、魚粉、イカミール、ミートミール等や、油脂、各種エキス、ビタミン、ミネラル等を適宜混合して、混練成形等したものなども利用することができる。
【0034】
[第一の実施形態]
図1に本発明の給餌器具に係る第一の実施形態の概要図を示す。図1は、給餌器具11をタコ5の養殖に用いる状態を示す図である。この給餌器具11は、吊下保持手段の吊紐21に、餌1が固定されて、養殖槽3の養殖水4の水中に吊り下げられて、水中に餌が保持されている。この吊紐21は、吊紐固定部211に固定されている。この吊紐固定部211は剛性があるほうが、複数の吊紐21間の距離を維持したり回収や配置といった取り扱いやすさに優れるため、棒状体としている。この給餌器具11には、吊紐固定部211に揺動装置6が取り付けられており、揺動装置6により吊紐固定部211、吊紐21を揺動させることで、吊紐21に固定されている餌1を揺動させることもできる。このような給餌器具によれば、餌が水中に保持されタコなどの頭足類が効率よく摂餌することができる。
【0035】
[第二の実施形態]
図2に本発明の給餌器具に係る第二の実施形態の概要図を示す。図2は、給餌器具12をタコ5の養殖に用いる状態を示す図である。この給餌器具12は、支持保持手段22に、餌1が固定されて、養殖槽3の養殖水4の水中に保持されている。この支持保持手段22は、紐状体であり、養殖槽3の側面間を横断するように架け渡されて配置されている。この給餌器具12には、支持保持手段22の紐に揺動装置6が連設されており、揺動装置6により、餌1を揺動させることもできる。このような給餌器具によれば、餌が水中に保持されタコなどの頭足類が効率よく摂餌することができる。
【0036】
[第三の実施形態]
図3に本発明の給餌器具に係る第三の実施形態の概要図を示す。図3は、給餌器具13をタコ5の養殖に用いる状態を示す図である。この給餌器具13は、支持保持手段23に、餌1が固定されて、養殖槽3の養殖水4の水中に保持されている。この支持保持手段23は、棒状体であり、その先端や、中間部に餌1を固定し、餌1を底面側から支持する構成である。この給餌器具13にも揺動装置(図示せず)を取り付けて、餌1を揺動させることもできる。このような給餌器具によれば、餌が水中に保持されタコなどの頭足類が効率よく摂餌することができる。
【実施例
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
養殖槽で、孵化後のマダコを100日齢まで養殖した。容積500Lの養殖槽に、マダコ約500個体を養殖した。吊り紐に固定する餌には、イカナゴを用いた。
【0039】
[実施例1]
図1の構成に準じた吊り紐を用いた水中保持手段により、水面から3~10cm、底面から50cm付近に、餌を吊り紐に吊り下げて固定して給餌しながら、マダコの摂餌状態などを観察した。釣り糸は木に固定して使用した。マダコの飼育は海水を用い、17~23℃の範囲で行った。
【0040】
[養殖結果]養殖中の観察結果として主として以下のような状態が観察された。成育の様子、着底の有無は目視により判断した。斃死についても目視で判断した。着底率は、水槽に投入した個体数のうち、着底した個体数の比率で計算した。
給餌開始から25日の時点で、マダコの胃袋に充満した餌料が見えるほど十分に摂餌していることが確認できた。なお、後述する比較例のような給餌方法では、摂餌行動が1~2分以内に終了し、胃袋に餌料が充満した個体も見られなかった。マダコは吊り紐に固定された餌料に付着しながら摂餌し、餌料から離れた際も再び餌料に付着して摂餌した。
同様に給餌開始から25日の時点で、餌を手動により、揺動しながら給餌したとき、揺動なしの場合よりもマダコが餌に集まりやすく、餌の減少も速くなることが確認された。
また養殖中、餌が養殖槽の底に蓄積しないため汚染が少なく、水槽底部の掃除を行う必要が無くなった。また100日経過時に、着底したマダコの個体数はおよそ28個体であった。
【0041】
[比較例1]
吊り紐による固定を行わずに、実施例1と同等量の餌を、撒き餌として2~3回/日の頻度で給餌した。ただし、実施例1と同じサイズで撒き餌とすると、直ちに沈降してしまうため、約2mm程度に切断した状態で給餌した。
【0042】
[養殖結果]養殖中の観察結果として主として以下のような状態が観察された。成育の様子、着底の有無は目視により判断した。斃死についても目視で判断した。着底率は、水槽に投入した個体数のうち、着底した個体数の比率で計算した。
吊り紐による固定を行わなかった場合には、撒き餌の多くが摂餌されずに沈降し、水槽底部に沈んだ。マダコが摂餌した場合には、養殖槽の水中に浮遊しながら摂餌したが摂餌時間が短く、餌を放すと餌が沈降してしまい、養殖槽の底に沈降した餌を再度摂餌することは無かった。また、60日経過時には5個体の着底したマダコが生産したが、生産個体は小さく、100日経過時に、生残したマダコの個体数はおよそ0個体であった。
【0043】
実施例および比較例の結果から明らかなように、本発明により給餌したマダコは着底率が高く、さらに、個体も80日以内で十分に着底可能な大きさに成長したものが多かった。一方、比較例の撒き餌による給餌方法では、着底率が低く、生育も遅かった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は頭足類の給餌方法や給餌器具として優れたものであり、これによれば、養殖が難しい頭足類の摂餌が効率よく行われ、養殖効率向上等に寄与することができ産業上有用である。
【符号の説明】
【0045】
1 餌
11、12、13 給餌器具
21 吊紐
211 吊紐固定部
22、23 支持保持手段
3 養殖槽
4 養殖水
5 タコ
6 揺動装置

図1
図2
図3