(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】車両のアンチロックブレーキシステムを動作させる方法および対応するアンチロックブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
B60T 8/1761 20060101AFI20230925BHJP
【FI】
B60T8/1761
(21)【出願番号】P 2022501115
(86)(22)【出願日】2020-05-07
(86)【国際出願番号】 EP2020062664
(87)【国際公開番号】W WO2021008750
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-01-10
(31)【優先権主張番号】102019210330.8
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】クルーク,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】アイゼレ,アヒム
(72)【発明者】
【氏名】ヴァインガルト,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】クラニッヒ,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー,ジャン
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-315953(JP,A)
【文献】特公平07-029600(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のアンチロックブレーキシステムを動作させる方法であって、前記車両の少なくとも1つのホイールの制動トルク(102)が、前記ホイールのロックを阻止するために周期的に少なくとも発生フェーズ(108)および減少フェーズ(110)で制御され、発生フェーズ(108)において、前記ホイールの静止摩擦最大値を超えるまで前記制動トルク(102)を増加させ、それに続く減少フェーズ(110)において、
前記減少フェーズ(110)の制御時点(120)後のタイムステップ(118)内で検出され
る前記ホイールのホイール加速度値(114)と前記ホイールの目標加速度値(116)を使用して
算出される制動トルク差(112)の分だけ前記制動トルク(102)を低下させる、方法。
【請求項2】
ホイール加速度値(114)として、前記発生フェーズ(108)後に検出された前記ホイールのホイール加速度プロファイル(104)の最小値が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ホイールのホイール加速度勾配(122)が前記ホイールの限界勾配よりも小さい場合に、前記静止摩擦最大値を超過したと認識される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記制動トルク(102)は、減少フェーズ(110)に続くプラトーフェーズ(124)において、次の前記発生フェーズ(108)まで一定に保たれ、少なくとも前記プラトーフェーズ(124)中に前記ホイールのホイール加速度プロファイル(104)が検出され、前記ホイール加速度プロファイル(104)の最大値が前記目標加速度値(116)よりも小さい場合に、次の前記制動トルク差(112)を検知するためにファクタを増加させる、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記制動トルク(102)は、減少フェーズ(110)に続くプラトーフェーズ(124)において、次の前記発生フェーズ(108)まで一定に保たれ、前記プラトーフェーズ(124)中に前記ホイールのホイール加速度プロファイル(104)が検出され、前記ホイール加速度プロファイル(104)の最大値が前記目標加速度値(116)よりも許容範囲を超えて大きい場合に、次の前記制動トルク差(112)を検知するためにファクタを低下させる、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
アンチロックブレーキシステムであって、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法を対応する装置で実施する、実行する、および/または制御するように形成されているアンチロックブレーキシステム。
【請求項7】
コンピュータプログラム製品であって、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法を実施する、実行する、および/または制御するように設定されているコンピュータプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のコンピュータプログラムが記憶されている機械可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のアンチロックブレーキシステムを動作させる方法および対応するアンチロックブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
アンチロックブレーキシステムを用いたブレーキ過程では、車両のホイールで制動トルクが周期的に増加し、再び減少することにより、静止摩擦(Haftung)の低下時の車両のホイールの持続的ロックが阻止される。その場合、ホイールがロックし始めると、ホイールごとの制動トルクが、それぞれ車両固有に予め定められた、もしくは適用された制動トルクに減少する。この固定された制動トルクは非常に低いため、ホイールは、考えられるあらゆる状況において再び回転し始める。制動トルクは、この固定された値から、ホイールが再びロックし始めるまで再び増加する。低下と新たな上昇との間で、予め定められた制動トルクでの保持時間にわたり、ホイールが安定するための時間を与えるべく制動トルクが一定に保たれ得る。
【発明の概要】
【0003】
このことを背景として、本明細書中で提示される手順を用いて、独立請求項に記載の車両を動作させる方法、対応するアンチロックブレーキシステム、ならびにさらには対応するコンピュータプログラム製品、および機械可読記憶媒体が提示される。本明細書中で提示される手順の有利な発展形態および改良形態は、以下の記載から明らかになるとともに、従属請求項に記載されている。
【0004】
本発明の実施形態は、有利にも、各周期において、低下する前にホイールで検出された個々の量を使用して、制動トルクをどのレベルに低下させるべきかが算出されることにより、制動トルクの過度な低下を阻止することを可能にすることができる。それにより、後に続く制動トルクの上昇により、高い制動作用をより迅速に再び達成することができる。
【0005】
車両の少なくとも1つのホイールの制動トルクが、ホイールのロックを阻止するために周期的に少なくとも発生フェーズ(Aufbauphase)および減少フェーズ(Reduktionsphase)で制御され、発生フェーズにおいて、ホイールの静止摩擦最大値を超えるまで制動トルクを増加させ、それに続く減少フェーズにおいて、発生フェーズ後に検出されたホイールのホイール加速度値とホイールの目標加速度値を使用して検知される制動トルク差の分だけ制動トルクを減少させる、車両を動作させる方法が提案される。
【0006】
本発明の実施形態についての考えは、とりわけ以下に記載される思想および知見にもとづくものとみなすことができる。
【0007】
制動トルクとは、ホイールの回転運動に対して逆作用するトルクと解することができる。制動トルクは、車両のブレーキシステムによって生成され得る。例えば、制動トルクは、ホイールと結合されたブレーキシステムの液圧ブレーキによって生成され得る。液圧ブレーキでは、調整されるブレーキ圧が制動トルクに比例し得る。同様に、制動トルクは、車両の駆動システムによって生成され得る。例えば、制動トルクは、ホイールと結合された駆動システムの電気モータによって生成され得る。電気モータは制動トルクを生成するために的確に制御され得る。
【0008】
制動トルクによって、ホイールのタイヤとタイヤ下の地面との間にスリップが生じる。発生フェーズにおいて、制動トルクはランプ状に増加する。それに伴いスリップも増加する。例えば、制動トルクは直線的に上昇して増加する。制動トルクは、最小トルクを出発点として増加し得る。スリップが臨界値に達した場合に静止摩擦最大値に達し得る。静止摩擦最大値を超えた場合、スリップは、不均衡に、または指数関数的に増加し得るか、もしくは静止摩擦が不均衡に、または指数関数的に減少し得る。静止摩擦最大値では、最大ブレーキ力がタイヤから地面に伝達され得る。静止摩擦最大値を超えると、制動トルクを地面に完全には伝達できなくなるためホイールがロックし始める。
【0009】
ロックを終わらせるために、ホイールを再び加速させることができる。制動トルクが地面からホイールに伝達され得る瞬時トルクよりも小さい場合に、ホイールを再び加速させることができる。減少フェーズにおいて、制動トルクを迅速に低減することができる。制動トルクを、制動トルク差の分だけ低い制動トルクに低減することができる。例えば、液圧ブレーキの場合、吐出トバルブを開くことによって、ホイールの制動トルクが低くなるまでブレーキ圧を小さくすることができる。駆動システムによって提供される制動トルクでは、低下した制動トルクを直接制御することができる。制動トルク差は、その前の制動トルクと略同じ大きさでもあり得る。その場合、ホイールのトルクがなくなるまで制動トルクを低下させることができる。例えば、吐出バルブが完全に開かれてもよいし、または制動トルクの制御が中止されてもよい。制動トルク差を制動トルクより大きくすることもできる。その場合、制動トルクは、制動トルクに対して逆作用する駆動トルクによって相殺もしくは過補償され得る。駆動トルクによって、ホイールを能動的に加速させることができる。
【0010】
ホイール加速度値は、ホイールの瞬時回転加速度を数値として表すことができる。回転加速度をホイールの回転速度から導き出すことができる。回転速度は、ホイールのセンサによって検出され得る。目標加速度値は、予め定められた数値であり得る。目標加速度値は車両に予め設定されていてもよい。目標加速度値を適用パラメータと呼ぶことができる。本明細書中で提示される手順によって、適用パラメータを使用して制動トルクを制御することができる。検出されたホイール加速度値と目標加速度値から減少フェーズにおける制動トルク差を算出することができる。
【0011】
ホイール加速度値として、発生フェーズ後に検出されたホイールのホイール加速度プロファイルの最小値が使用され得る。ホイール加速度プロファイルは、ホイールの加速度の時間プロファイルを表す。ホイール加速度プロファイルは複数の値を含む。回転加速度は、ホイールおよびホイールとともに回転する部品の慣性モーメントにもとづいて、ホイールが再び加速されるまで発生フェーズの終了後も減少し得る。最小値は、減少する回転加速度と増加する回転加速度との転換点を示す。制動トルク差を算出するために最小値を使用することによって、高精度を達成することができる。
【0012】
ホイール加速度値は、代替的に、減少フェーズの制御時点後のタイムステップで検出され得る。タイムステップは、減少フェーズの1つの措置もしくは複数の措置がホイールに作用するまで継続し得る。制御時点に対してわずかに時間をずらしてホイールを再び加速させることができる。それまで、ホイールはさらに低速になり得る。タイムステップは、とりわけアンチロックブレーキシステムのデッドタイムによって予め定められていてよい。
【0013】
ホイールのホイール加速度勾配がホイールの限界勾配よりも小さい場合に静止摩擦最大値の超過が認識され得る。ホイール加速度勾配は、ホイールの回転加速度から導き出すことができる。ホイール加速度勾配は、ホイール加速度プロファイルの上り勾配を示す。ホイールが制動された場合、ホイール加速度勾配は負であり得る。したがって、静止摩擦最大値を超えた場合、ホイールの負のホイール加速度勾配がこのホイールの同様に負の限界勾配の値よりも数量的に大きくなり得る。ホイール加速度勾配は、簡単に監視することができる。
【0014】
制動トルクは、減少フェーズに続くプラトーフェーズにおいて、次の発生フェーズまで一定に保たれ得る。少なくともプラトーフェーズ中は、ホイール加速度プロファイルを検出することができる。ホイール加速度プロファイルの最大値が目標加速度値よりも小さく、したがってホイール加速度差に達しない場合、次の制動トルク差を検知するための目標加速度値のファクタを増加させることができる。ファクタの増加によって、次の減少フェーズにおいて制動トルク差をより大きくすることができ、それによって制動トルクをより大きく減少させる。制動トルクをより大きく減少させることによって、ホイールがより大きく加速される。逆に、ホイール加速度プロファイルの最大値が、目標加速度値よりも許容範囲を超えて大きく、したがってホイール加速度差を超える場合、次の制動トルク差を検知するための目標加速度値のファクタを低下させることができる。ファクタを低下させることによって、次の減少フェーズにおいて制動トルク差がより小さくなる。制動トルク差がより小さくなることによって、結果として制動トルク減少が小さくなる。制動トルク減少が小さくなることによって、ホイールは、あまり大きく加速されない。目標加速度値のファクタをサイクル単位で制御することができる。
【0015】
ホイール加速度値がプラトーフェーズの終わりに、前の発生フェーズの終わりのホイール加速度値よりもホイール加速度差分未満大きい場合に、次の制動トルク差を検知するための目標加速度値のファクタを増加させることができる。ファクタを増加させることによって、次の減少フェーズにおいて制動トルク差をより大きくすることができ、それによって、制動トルク減少がより大きくなる。制動トルク減少がより大きくなることによって、ホイールがより大きく加速される。逆に、ホイール加速度値がプラトーフェーズの終わりに、前の発生フェーズの終わりのホイール加速度値よりもホイール加速度公差を超えて大きい場合に、次の制動トルク差を検知するための目標加速度値のファクタを減少させることができる。ファクタを減少させることによって、次の減少フェーズにおける制動トルク差がより小さくなる。制動トルク差がより小さくなることによって、制動トルク減少がより小さくなる。制動トルク減少がより小さくなることによって、ホイールがあまり大きく加速されない。目標加速度値のファクタをサイクル単位で制御することができる。
【0016】
方法は、例えば制御装置において、例えばソフトウェアまたはハードウェアで、あるいはソフトウェアとハードウェアの混合形態で実装することができる。
【0017】
本明細書中で提示される手順は、さらに、本明細書中で提示される方法の一変形形態のステップを対応する装置において実施する、制御する、もしくは実行するように形成されているアンチロックブレーキシステムを提供する。
【0018】
アンチロックブレーキシステムは、信号またはデータを処理するための少なくとも1つの計算ユニットと、信号またはデータを記憶するための少なくとも1つの記憶ユニットと、通信プロトコルに埋め込まれているデータの読み取りまたは出力のための少なくとも1つのインターフェースおよび/または通信インターフェースと、を有する電気機器であり得る。計算ユニットは、例えば信号プロセッサ、いわゆるシステムASIC、またはセンサ信号を処理する、およびセンサ信号に依存してデータ信号を出力するためのマイクロコントローラであり得る。記憶ユニットは、例えばフラッシュメモリ、EPROM、または磁気記憶ユニットであり得る。インターフェースは、センサからのセンサ信号を読み取るためのセンサインターフェースとして、ならびに/あるいはデータ信号および/または制御信号をアクチュエータに出力するためのアクチュエータインターフェースとして形成され得る。通信インターフェースは、データをワイヤレスで、および/または有線で読み取るか、または出力するように形成され得る。インターフェースは、例えばマイクロコントローラに他のソフトウェアモジュールと並んで存在するソフトウェアモジュールでもあり得る。
【0019】
半導体記憶装置、ハードディスク記憶装置、または光学記憶装置などの機械可読キャリアまたは記憶媒体に記憶され得る、かつ特にプログラム製品またはプログラムがコンピュータまたは装置で実行される場合に上記の実施形態の1つによる方法のステップを実施する、実行する、および/または制御するために使用されるプログラムコードを有するコンピュータプログラム製品またはコンピュータプログラムも有利である。
【0020】
本発明の可能な特徴および利点のいくつかが本明細書中に異なった実施形態に関して記載されていることに留意されたい。当業者は、本発明のさらなる実施形態に到達するためにアンチロックブレーキシステムおよび方法の特徴を適切に組み合わせ、適合させ、または入れ替えることができることを認識する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施例による制動トルクとホイール加速度のプロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を添付の図面を参照しながら説明するが、図面も説明も本発明を限定するものと解釈されるべきでない。
【0023】
図は、単に模式的なものであり縮尺どおりでない。図において、同じ参照符号は同じ、または同じ機能の特徴を示す。
【0024】
図1は、車両のホイールの制動トルク102の制動トルクプロファイル100、およびホイールのホイール加速度106のホイール加速度プロファイル104を示す。ホイールのロックを阻止するための一実施例によるアンチロックブレーキシステムの制御介入中の制動トルクプロファイル100およびホイール加速度プロファイル104が示されている。制動トルク102は、周期的に、発生フェーズ108において増加し、減少フェーズ110において減少する。その場合、制動トルク102は、発生フェーズ108において、ホイールが静止摩擦最大値を超えてロックし始めるまで増加する。減少フェーズ110において、制動トルク102がそれぞれ制動トルク差112分だけ減少し、ホイールは、地面に接地し続けることによって再び加速される。
【0025】
制御されるべき制動トルク差112は、それぞれの発生フェーズ108後に検出されたホイール加速度値114を使用して、それに続く各減少フェーズ110について算出される。このために、発生フェーズ108後にホイール加速度106が測定され、ホイール加速度値114で示される。ホイール加速度値114および車両固有の目標加速度値116が、別の固定的な車両パラメータとともに処理規則に取り込まれ、制動トルク差112が算出される。その場合、目標加速度値116は、ロック開始後のホイールの望ましい再加速度を表す。
【0026】
一実施例では、ホイール加速度プロファイル104が発生フェーズ108の終了後に監視される。ホイールの慣性にもとづいて、ホイール加速度106が制動トルク102の減少に対して遅れて反応する。その場合、ホイール加速度プロファイル104の最小ホイール加速度値130がホイール加速度値として使用される。
【0027】
ホイールの慣性が既知であるため、ホイール加速度値114を、代替的に減少フェーズ110の制御時点120後のタイムステップ118の分だけ検出することができる。例えば、ホイール加速度106の加速度勾配122が限界勾配より小さい場合に減少フェーズ110を制御することができる。
【0028】
一実施例では、制動トルク102は、減少フェーズ110後に次の発生フェーズ108が開始するまで、プラトーフェーズ124の間一定に保たれる。プラトーフェーズ124においてホイールは安定する。プラトーフェーズ124において、ホイール加速度106が目標加速度値116に達するのに十分に大きく上昇するかどうかが監視される。目標加速度値116に達しないか、または超える場合、一実施例では、制動トルク差112を算出するために処理規則においてファクタを適合させる。目標加速度値116に達しない場合、すなわちホイールが十分に大きく加速されない場合、次の減少フェーズ110について、ホイール加速度値114が同様に検出された場合に、より大きい制動トルク差112が算出されるようにファクタを適合させる。逆に、目標加速度値116を超える場合、次の減少フェーズ110について、ホイール加速度値114が同様に検出された場合に、より小さい制動トルク差112が算出されるようにファクタを許容値分より多く適合させる。
【0029】
一実施例では、発生フェーズ108の終わりに、およびタイムステップ118後に、ホイール加速度値114が、達成されたホイール加速度値130と比較される。プラトーフェーズ124において、ホイール加速度値114とホイール加速度値130との差がホイール加速度差126を超えるか、または達しない場合、算出された制動トルク差112をファクタで付加的に補正することができる。
【0030】
一実施例では、プラトーフェーズ124の終わりの制動トルク102が次の発生フェーズ108の始めに急速に初期値128に上昇する。初期値128は、ホイールがまだロックされていないことは確かであるが、すでに制動作用が予想されるように選択されている。それによって、発生フェーズ108の継続時間を短縮できるか、もしくは制動トルク102を比較的小さい上り勾配で上昇させることができる。
【0031】
換言すると、不安定コントローラによるブレーキ力最適化のためのアルゴリズムが提示される。
【0032】
最近のABSコントローラは、周期的に実行される増圧フェーズ、圧力保持フェーズ、および減圧フェーズによる不安定制御原理にもとづいている。その場合、タイヤ特性曲線もしくはμスリップ特性曲線の最大値を超え、ホイールが不安定になるまでホイールの圧力が発生する。
【0033】
それによって、コントローラが路面摩擦値の変化に対してロバストに反応し、それに伴い伝達可能な最大ブレーキ力の変化を認識することが確保される。その後、ホイールを的確な減圧により安定させてから、次の増圧を開始することができる。減圧は、考えられる限りの摩擦値(Reibwerten)でロバストに機能すべきであり、それによりホイールがロックしないことを確保すべきである。
【0034】
現在、減圧量は相応の車両に複雑に適用される。その場合、法線力が大きく変化する転換フェーズ(Einschwingphase)において、減圧がスリップダイナミクスが大きい低速の車両速度、摩擦値が一時的に変化する障害、および転換状態(eingeschwungenen Zustand)において確実に機能してホイール安定性を確保するようにこの減圧を適用することは難題である。このことは、適用される基本減圧量が付加的な適用パラメータと状況認識によって的確に補正されることにより可能になる。
【0035】
本明細書中で提示されるモデルベースの減圧は、上記の状況に自主的に適合することから適応的である。この減圧は、入力量だけで拡大または縮小できる。したがって、新規の減圧は、上記の諸状況の膨大な適用を必要とせず、したがって格段に少ない適用パラメータを有する。
【0036】
ホイールが任意の増圧勾配でグリップ特性曲線(Kraftschlusskennlinie)の最大値を超えて操作された場合、本明細書中で提示される手順では、ホイールが再び安定するレベルに圧力が可能な限り迅速に再び低下する。ホイールダイナミクスが車両ダイナミクスよりも格段に大きくなることで、その場合、減圧中に法線力の変化が実質的に生じていないと推定することが容易にできる。さらに、減圧後、したがってホイール安定に必要な圧力レベルで、減圧(μ1)前に達したのと同じグリップ(Kraftschluss)(μ2)が生じるという簡素化が行われる。
【0037】
明確にするために、(1)で減圧開始時のトルクバランスを示す。
Fx1=1/RRad
*(JRad
*ax1/RRad+Cp*px1)(1)
ここで、Fx1は、減圧開始時のブレーキ力であり、
RRadは、ホイールのロール半径であり、
JRadは、ホイールの質量慣性モーメントであり、
ax1は、減圧開始時の加速度であり、
Cpは、制動係数(=ブレーキディスクのホイール半径*ブレーキピストンの面積*グリップ係数(Kraftschlussbeiwert))であり、
px1は、減圧開始時のブレーキ圧である。
【0038】
(2)に、減圧終了時のトルクバランスが示される。
Fx2=1/RRad
*(JRad
*ax2/RRad+Cp*px2)(2)
ここで、Fx2は、減圧終了時のブレーキ力であり、
ax2は、減圧終了時の加速度であり、
px1は、減圧終了時のブレーキ圧である。
【0039】
ブレーキ力Fxは、採用中の仮定μ=konst.およびFN=konst.では一定であり、そこから
Fx1=Fx2(3)
となる。
(1)および(2)を(3)に代入し、それにより圧力後の差を求めると、必要な減圧段階は(4)のようになる
Δp減=JRad/(RRad
*Cp)*(ax2-ax1)*K(4)
その場合、JRad、RRadおよびCpは車両パラメータであり、目標ホイール加速度aSoll=ax2は、唯一の適用パラメータである。Kは、目標ホイール加速度の達成に依存して増加または減少され得る補正ファクタである。
【0040】
図1において、ここに提示される手順による不安定コントローラの制御サイクルが示される。図の上部には、ホイール圧力プロファイルが、図の下部にはそれに関連するホイールプロファイルが示される。
【0041】
ABS制御の転換状態では、各制御サイクルにおいて減圧後のホイール安定化中にホイール再加速度が目標ホイール加速度に達する。減圧量は、ホイール減速が大きくなるにつれて大きくなり、ホイール減速が小さくなるにつれて小さくなる。障害が発生する、および摩擦値が変化する場合、減圧段階が自動的に適合する。結果として生じる減圧が少なくなる。結果としての減圧は、圧力段階量が均一でない。
【0042】
最後に、「有する」「含む」などの用語は、他の要素またはステップを排除しないこと、単数表記が複数を排除しないことに留意されたい。請求項中の参照符号は、限定するものと考えられるべきでない。
【符号の説明】
【0043】
100 制動トルクプロファイル
102 制動トルク
104 ホイール加速度プロファイル
106 ホイール加速度
108 発生フェーズ
110 減少フェーズ
112 制動トルク差
114 ホイール加速度値
116 目標加速度値
118 タイムステップ
120 制御時点
122 ホイール加速度勾配
124 プラトーフェーズ
126 ホイール加速度差
128 初期値
130 ホイール加速度値