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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】白金錯体の調製物
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/08 20060101AFI20230925BHJP
   C07F 15/00 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
C23C18/08
C07F15/00 F
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022521388
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2020069375
(87)【国際公開番号】W WO2021089203
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】19207342.7
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515131116
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】シエヴィ、ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ゴック、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ワルター、リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ウルランド、ホルガー
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05695815(US,A)
【文献】特開2005-129933(JP,A)
【文献】特表平04-504133(JP,A)
【文献】国際公開第2014/060864(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/043254(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/142252(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/151073(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/022151(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00
C07C
C07F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)30~90重量%の少なくとも1種の有機溶媒と、
前記有機溶媒は、ハロゲン化炭化水素、芳香族、芳香脂肪族、アルコール、エーテル、グリコールエーテル、2~12個の炭素原子を持つエステル、およびケトンからなる群から選択される1種以上であり、
(B)10~70重量%の[L1L2Pt[O(CO)R1]X]型の少なくとも1種の白金錯体であって、
L1とL2は、同一もしくは異なるモノオレフィン配位子であるか、または共同してジオレフィン配位子として作用する化合物L1L2であり、
Xは、臭化物、塩化物、ヨウ化物、-O(CO)R2の中から選択され、
-O(CO)R1と-O(CO)R2は、同一もしくは異なる非芳香族C6-C18-もしくはC8-C18-モノカルボン酸残基であるか、または共同して、非芳香族C8-C18-ジカルボン酸残基-O(CO)R1R2(CO)O-であり、
n=1の単核白金錯体であるか、あるいはL1L2および/または-O(CO)R1R2(CO)O-が存在する場合には、整数n>1の多核白金錯体であってもよい白金錯体と、
(C)0~10重量%の少なくとも1種の添加剤と、
を含む、または(A)~(C)から成る調製物。
【請求項2】
L1L2は、ジオレフィン配位子として作用する化合物であり、
Xは、臭化物、塩化物、ヨウ化物、-O(CO)R2の中から選択され、
-O(CO)R1および-O(CO)R2は、同一もしくは異なる非芳香族C6-C18-もしくはC8-C18-モノカルボン酸残基であり、
n=1の単核白金錯体であるか、または整数n>1の多核白金錯体である、請求項1に記載の調製物。
【請求項3】
整数n>1は、2~5の範囲にある、請求項1または2に記載の調製物。
【請求項4】
非コロイド性有機溶液の形での、請求項1~3のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項5】
前記少なくとも1種の白金錯体に由来する白金含有量が2.5~25重量%の範囲にある、請求項1~4のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項6】
前記少なくとも1種の白金錯体は、式[(COD)Pt[O(CO)R1]または[(NBD)Pt[O(CO)R1]を有し、このときnは1または2であり、R1は非芳香族C5-C17-もしくはC7-C17-炭化水素残基を示している、請求項1~5のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項7】
前記少なくとも1種の白金錯体の分解温度は、150~200℃または150~250℃の範囲にある、請求項1~6のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項8】
少なくとも1種の添加剤(C)は、湿潤剤、レオロジー添加剤、消泡剤、表面張力に影響を与える添加剤、付臭剤から成るグループの中から選択されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の調製物。
【請求項9】
基板上に白金層を製造するための方法であって、
(1)請求項1~8のいずれか一項に記載の調製物から成る被覆層を基板上に塗布する工程と、
(2)被覆層を熱分解して、白金層を形成する工程と、
を含む方法。
【請求項10】
前記基板は、ガラス、セラミック、半導体基板、金属、プラスチック、変性または未変性の天然ポリマー、炭素基板、段ボール、紙から成るグループの中から選択された1種以上の材料を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記基板には、内部表面および/または外部表面あるいは内部表面の一部および/または外部表面の一部に前記被覆層が設けられている、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記被覆層を製造するために使用される塗布方式は、浸漬、スプレー塗布、印刷、刷毛による塗布、ブラシによる塗布、フェルトによる塗布、布による塗布から成るグループの中から選択されている、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(1)で設けられる前記被覆層を最初に乾燥させ、その際に前記被覆層を部分的または完全に有機溶媒から遊離させ、その後で前記被覆層を工程(2)で熱分解する、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(2)による前記熱分解は、前記少なくとも1種の白金錯体の分解温度を上回る物体温度まで加熱することを含む熱処理によって行われる、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記物体温度までの前記加熱は、炉の中でおよび/または赤外線放射によって行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記白金層は、50nm~5μmの厚さである、請求項9~15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金錯体の調製物と、基板上に白金層を製造するための調製物の使用とに関する。
【0002】
WO90/07561A1は、化学式LM[O(CO)R]の白金錯体を開示し、このとき、Lは窒素を含まない環状ポリオレフィン配位子、好ましくはシクロオクタジエン(COD)またはペンタメチルシクロペンタジエンであり、Mは白金またはイリジウムであり、Rは4個以上の炭素原子を持つベンジル、アリールまたはアルキル、特に好ましくはフェニルである。白金錯体は燃料添加剤として用いられる。
【0003】
本発明の課題は、温度感受性の基板を含めた基板上の白金層を製造するために使用できる調製物を提供することである。
【0004】
この課題は、
(A)30~90重量%の少なくとも1種の有機溶媒と、
(B)10~70重量%の[L1L2Pt[O(CO)R1]X]型の少なくとも1種の白金錯体であって、
L1とL2は、同一もしくは異なるモノオレフィン配位子であるか、または共同して、ジオレフィン配位子として作用する化合物L1L2であり、
Xは、臭化物、塩化物、ヨウ化物、-O(CO)R2の中から選択され、
-O(CO)R1と-O(CO)R2は、同一もしくは異なる非芳香族C6-C18-もしくは好ましくはC8-C18-モノカルボン酸残基であるか、または共同して、非芳香族C8-C18-ジカルボン酸残基-O(CO)R1R2(CO)O-であり、
n=1の単核白金錯体であるか、あるいはL1L2および/または-O(CO)R1R2(CO)O-が存在する場合には、整数n>1の多核白金錯体であってもよい白金錯体と、
(C)0~10重量%の少なくとも1種の添加剤と、
を含む、または(A)~(C)から成る調製物を準備することによって解決できる。
【0005】
好ましい実施形態は、10~70重量%を占める構成成分(B)が[L1L2Pt[O(CO)R1]X]型の少なくとも1種の白金錯体から成る調製物であって、L1とL2は共同して、ジオレフィン配位子として作用する化合物L1L2であり、
Xは、臭化物、塩化物、ヨウ化物、-O(CO)R2の中から選択され、
-O(CO)R1と-O(CO)R2は、同一もしくは異なる非芳香族C6-C18-もしくは好ましくはC8-18-モノカルボン酸残基であり、
n=1の単核白金錯体であるか、または整数n>1の多核白金錯体である調製物である。ここで、L1L2は、ジオレフィン配位子として作用する化合物である。
【0006】
多核白金錯体の場合、数字nは、通常、例えば2~5の範囲の整数である。言い換えれば、整数n>1は、通常、2~5の範囲にあり、特にnはちょうど2であり、二核白金錯体に関係している。特に化合物L1L2またはジカルボン酸残基-O(CO)R1R2(CO)O-は、多核白金錯体において架橋配位子として作用する。Xも架橋として作用することができる。
【0007】
白金は、白金錯体の中で酸化状態+2で存在している。
【0008】
本発明に基づく調製物では、構成成分(B)が構成成分(A)の中に溶解した状態で存在する。本発明に基づく調製物に任意の構成成分(C)が存在する場合、この構成成分(C)も好ましくは構成成分(A)の中に溶解した状態で存在する。言い換えれば、任意の構成成分(C)がない場合、本発明に基づく調製物は有機溶液であり、詳細には真性、すなわち非コロイド性有機溶液であり、任意の構成成分(C)が好ましい形で、すなわち成分(A)の中に溶解した状態で存在する場合も、同じことが当てはまる。
【0009】
本発明に基づく調製物は、30~90重量%の少なくとも1種の有機溶媒(A)を含んでいる。1種以上の有機溶媒は、多数の一般的な有機溶媒から選択されていてよい。なぜなら、白金錯体はそのような有機溶媒に無制限に良く溶解するからである。好ましくは、1種以上の有機溶媒は本発明に基づく調製物の処理条件の下でほぼ揮発性であり、特にこのことは、本発明に基づく調製物を基板に塗布した後の段階に該当する。通常、1種以上の有機溶媒の沸点は50~200℃、またはそれ以上、例えば50~300℃の範囲にある。有機溶媒(A)の例としては、それぞれ6~12個の炭素原子を持つ脂肪族および脂環式化合物;ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素;芳香族;トルエンまたはキシレンなどの芳香脂肪族;エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール;エーテル;モノ-C1-C4-アルキルグリコールエーテルおよびジ-C1-C4-アルキルエーテルなどのグリコールエーテル、例えばエチレングリコールモノ-C1-C4-アルキルエーテル、エチレングリコールジ-C1-C4-アルキルエーテル、ジエチレングリコールモノ-C1-C4-アルキルエーテル、ジエチレングリコールジ-C1-C4-アルキルエーテル、プロピレングリコールモノ-C1-C4-アルキルエーテル、プロピレングリコールジ-C1-C4-アルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-C1-C4-アルキルエーテルおよびジプロピレングリコールジ-C1-C4-アルキルエーテル;2~12個の炭素原子を持つエステル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトンが含まれる。ここでは、トルエンまたはキシレンなどの芳香脂肪族、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール、モノ-C1-C4-アルキルグリコールエーテルおよびジ-C1-C4-アルキルグリコールエーテルなどのグリコールエーテル、例えばエチレングリコールモノ-C1-C4-アルキルエーテル、エチレングリコールジ-C1-C4-アルキルエーテル、ジエチレングリコールモノ-C1-C4-アルキルエーテル、ジエチレングリコールジ-C1-C4-アルキルエーテル、プロピレングリコールモノ-C1-C4-アルキルエーテル、プロピレングリコールジ-C1-C4-アルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-C1-C4-アルキルエーテルおよびジプロピレングリコールジ-C1-C4-アルキルエーテルが好ましい。特に好ましくは、構成成分(A)または少なくとも1種の有機溶媒(A)は、少なくとも1種のアルコール、特に例として挙げた少なくとも1種のアルコール、および/または少なくとも1種のグリコールエーテル、例として挙げた少なくとも1種のグリコーレーテルから成る。構成成分(A)として特に好ましいのは、30~70重量%のアルコールと、重量比率が100重量%弱のグリコールエーテルとから成る該当する混合物である。
【0010】
本発明に基づく調製物は、10~70重量%の少なくとも1種の[L1L2Pt[O(CO)R1]X]型白金錯体(B)を含む。少なくとも1種の白金錯体に由来する、本発明に基づく調製物の白金含有量は、例えば2.5~25重量%の範囲にあってよい。
【0011】
L1L2Pt[O(CO)R1]X型の単核白金錯体の第1の実施形態では、L1およびL2が同一もしくは異なるモノオレフィン配位子であり、Xは臭化物、塩化物、ヨウ化物または-O(CO)R2であり、-O(CO)R1と-O(CO)R2は、同一もしくは異なる非芳香族C6-C18-もしくは好ましくはC8-C18-モノカルボン酸残基であり、好ましくはそれぞれフェニル酢酸残基が除外される。
【0012】
L1L2Pt[O(CO)R1]X型の単核白金錯体の第2の好ましい実施形態では、L1とL2が共同して、同一の白金中心原子でジオレフィン配位子として作用する化合物L1L2であり、Xは臭化物、塩化物、ヨウ化物または-O(CO)R2であり、-O(CO)R1と-O(CO)R2は、同一もしくは異なる非芳香族C6-C18-もしくは好ましくはC8-C18-モノカルボン酸残基であり、好ましくはそれぞれフェニル酢酸残基が除外される。
【0013】
L1L2Pt[O(CO)R1]X型の単核白金錯体の第3の実施形態では、L1とL2が同一もしくは異なるモノオレフィン配位子であり、Xは-O(CO)R2であり、-O(CO)R1と-O(CO)R2は共同して、二座配位子として同一の白金中心原子で作用する非芳香族C8-C18-ジカルボン酸残基-O(CO)R1R2(CO)O-である。
【0014】
L1L2Pt[O(CO)R1]X型の単核白金錯体の第4の実施形態では、L1とL2が共同して、同一の白金中心原子でジオレフィン配位子として作用する化合物L1L2であり、Xは-O(CO)R2であり、-O(CO)R1と-O(CO)R2は共同で、二座配位子として同一の白金中心原子で作用する非芳香族C8-C18-ジカルボン酸残基-O(CO)R1R2(CO)O-である。
【0015】
[L1L2Pt[O(CO)R1]X]型の二核または多核白金錯体の第1の好ましい実施形態では、L1とL2が共同して、異なる白金中心を架橋する、ジオレフィン配位子として作用する化合物L1L2であり、Xは臭化物、塩化物、ヨウ化物または-O(CO)R2であり、nは2、3、4または5、好ましくは2であり、-O(CO)R1と-O(CO)R2は、同一もしくは異なる非芳香族C6-C18-もしくは好ましくはC8-C18-モノカルボン酸残基であり、好ましくはそれぞれフェニル酢酸残基が除外される。
【0016】
[L1L2Pt[O(CO)R1]X]型の二核または多核白金錯体の第2の実施形態では、L1とL2が共同して、異なる白金中心を架橋する、ジオレフィン配位子として作用する化合物L1L2であり、Xは-O(CO)R2であり、nは2、3、4または5、好ましくは2であり、-O(CO)R1と-O(CO)R2は共同で、異なる白金中心を架橋する非芳香族C8-C18-ジカルボン酸残基-O(CO)R1R2(CO)O-である。
【0017】
[L1L2Pt[O(CO)R1]X]型の二核または多核白金錯体の第3の実施形態では、L1とL2が同一もしくは異なるモノオレフィン配位子であり、Xは-O(CO)R2であり、nは2、3、4または5、好ましくは2であり、-O(CO)R1と-O(CO)R2は共同して、異なる白金中心を架橋する非芳香族C8-C18-ジカルボン酸残基-O(CO)R1R2(CO)O-である。
【0018】
言及した白金錯体は、個別化された形で、しかしまた関連付けられた形で、すなわち単独、またはそれぞれ[L1L2Pt[O(CO)R1]X]型の複数の異なる種の混合物として、本発明に基づく調製物の中に存在することができる。
【0019】
L1とL2は、単独で、同一もしくは異なる、好ましくは同一のモノオレフィンであるか、または共同して、オレフィン性多価不飽和化合物L1L2であり、例えばジオレフィン配位子として作用することができるジオレフィンまたはポリオレフィンである。このとき、オレフィン性多価不飽和化合物L1L2は、ジオレフィン配位子として作用できることが好ましい。
【0020】
モノオレフィンの例としては、オレフィン性一価不飽和二重結合を有するC2-C18-炭化水素がある。これらは、直鎖化合物、分岐型化合物または環状構造を持つ化合物であってよい。ここで関係しているのは、好ましくは純粋な炭化水素であるが、ヘテロ原子は、例えば官能基の形で存在することも可能である。モノオレフィンの好ましい例としては、エテン、プロペン、シクロヘキセンがある。
【0021】
ジオレフィンまたはジオレフィン配位子として作用可能なL1L2型化合物の例としては、COD(1,5-シクロオクタジエン)、NBD(ノルボルナジエン)、COT(シクロオクタテトラエン)、1,5-ヘキサジエンなどの炭化水素があり、特にCODおよびNBDが挙げられる。ここで関係しているのは、好ましくは純粋な炭化水素であるが、ヘテロ原子は、例えば官能基の形で存在することも可能である。
【0022】
Xは臭化物、塩化物、ヨウ化物または-O(CO)R2であってよく、好ましくは塩化物または-O(CO)R2であり、特に-O(CO)R2である。
【0023】
それぞれの非芳香族モノカルボン酸残基-O(CO)R1と-O(CO)R2は、単独で、同一もしくは異なる非芳香族C6-C18-もしくは好ましくはC8-C18-モノカルボン酸残基であり、好ましくはそれぞれがフェニル酢酸残基を例外とし、またはこれらは共同して、-O(CO)R1R2(CO)O-型の非芳香族C8-C18-ジカルボン酸残基-O(CO)R1R2(CO)O-である。この関連で使用される用語「非芳香族」は、純粋な芳香族モノカルボン酸残基とジカルボン酸残基を除外するものであるが、カルボキシル機能が脂肪族炭素に結合している芳香脂肪族モノカルボン酸残基とジカルボン酸残基は除外しない。-O(CO)R1と-O(CO)R2は、それぞれ好ましくはフェニル酢酸残基ではない。好ましくは、-O(CO)R1と-O(CO)R2は、同一もしくは異なる非芳香族C6-C18-もしくは特にC8-18-モノカルボン酸残基であり、好ましくはそれぞれフェニル酢酸残基を例外とし、特に好ましくは、-O(CO)R1と-O(CO)R2が同一の非芳香族C6-C18-もしくは特にC8-C18-モノカルボン酸残基であり、このとき好ましくはフェニル酸残基ではない。
【0024】
残基-O(CO)R1または-O(CO)R2を持つ非芳香族C6-C18-もしくは好ましくはC8-C18-モノカルボン酸の例としては、ほんの数例を挙げると、n-ヘキサン酸を含む異性体ヘキサン酸、n-ヘプタン酸を含む異性体ヘプタン酸、n-オクタン酸および2-エチルヘキサン酸を含む異性体オクタン酸、n-ノナン酸を含む異性体ノナン酸、n-デカン酸を含む異性体デカン酸がある。代表的な例には直鎖構造を持つものだけではなく、分岐構造および/または環状構造を持つものも含まれており、例えば2-エチルヘキサン酸、シクロへキサンカルボン酸、ネオデカン酸などがある。それぞれカルボキシル基に結合している残基R1とR2には、5~17個または7~17個の炭素原子が含まれ、このとき、それぞれにおいて好ましくはベンジル残基が除外されている。
【0025】
HOOCR1R2COOH型の非芳香族C8-C18-ジカルボン酸の例としては、ほんの数例を挙げると、適切に置換されたマロン酸、適切に置換された1,1-シクロブタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸がある。2つのカルボキシル基を持つ構造要素-R1R2-には、6~16個の炭素原子が含まれる。
【0026】
白金錯体(B)の好ましい例としては、[(COD)Pt[O(CO)R1]および[(NBD)Pt[O(CO)R1]があり、このときnは1または2、特に1であり、R1は非芳香族C5-C17-もしくはC7-C17-炭化水素残基を示し、好ましくはベンジル残基を例外とする。
【0027】
白金錯体[L1L2Pt[O(CO)R1]X]は、配位子交換によって簡単に、特に銀のカルボン酸塩を使用することなく製造できる。この製造工程には、二相系の混合または懸濁、あるいは乳化が含まれる。一方の相には、臭化物、塩化物、ヨウ化物から選択されたX、好ましくは塩化物を持つ[L1L2PtX型の遊離体が含まれ、この遊離体はそのような遊離体として、またはそのような遊離体の少なくとも大部分が水非混和性有機溶液の形で含まれている。好ましい遊離体には[L1L2PtClが含まれ、nは1~5の整数であり、特にn=1である。適切な少なくとも大部分が水非混和性の有機溶媒の例としては、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタンなどの芳香族および塩素化炭化水素の他に、酸素含有溶媒、例えば該当する水非混和性ケトン、エステル、エーテルがある。これに対して他方の相には、R1COOH型ならびに場合によっては追加的にR2COOH型のC6-C18-もしくはC8-C18-モノカルボン酸のアルカリ塩(特に塩化ナトリウムまたは塩化カリウム)および/またはマグネシウム塩の水性溶液、あるいはHOOCR1R2COOH型のC8-C18-ジカルボン酸の該当するアルカリ塩および/またはマグネシウム塩の水性溶液が含まれる。カルボン酸塩の種類の選択は、製造する白金錯体または製造する白金錯体群の種類に依存する。両方の相は、懸濁液または乳濁液の形成中に、例えば振動および/または攪拌によって集中的に混合される。この混合は、懸濁液または乳濁液の状態を維持するために、例えば0.5~24時間かけて、温度は例えば20~50℃の範囲で実行される。このとき配位子交換が行われ、そこで形成される白金錯体は有機相の中に溶解し、一方、同様に形成されるアルカリX塩またはMgX塩は水性相の中に溶解する。懸濁または乳化が終了すると、有機相と水性相を互いに分離する。有機相からは、形成された白金錯体を得ることができ、引き続き、任意で一般的な方式によって精錬することが可能である。
【0028】
このようにして例えば、具体的な例を挙げると、ジクロロメタン中の(COD)PtClの溶液と2-エチルヘキサン酸ナトリウムの水性溶液とを一緒に乳化することによって、(COD)Pt[O(CO)CH(C)Cを製造することができる。乳化の終了後、配位子交換によって形成された生理食塩水をジクロルメタン相から分離し、後者から(COD)Pt[O(CO)CH(C)Cを分離し、必要に応じて一般的な精錬プロセスによって精錬することができる。同時に、化学量論的組成を適切に選択すれば、例えば白金錯体(COD)Pt[O(CO)CH(C)C]Clも製造することができる。
【0029】
一般的な有機溶媒における先に言及した溶解性以外に重要な特性としては、白金錯体(B)の比較的低い分解温度があり、例えば150℃~250℃、通常は200℃以下である。この特性の組み合わせにより、基板上に白金層を製造するための本発明に基づく調製物の構成成分(B)として、そのような白金錯体を使用することが可能になる。この種の使用では、本発明に基づく調製物が被覆剤(コーティング剤)になるため、この調製物を被覆剤として準備し、使用することができる。
【0030】
本発明に基づく調製物には、0~10重量%、好ましくは0~3重量%の少なくとも1種の添加剤(C)が含まれている。つまり、本発明に基づく調製物は添加剤なしでもよく、または10重量%以内で少なくとも1種の添加剤を含んでいてもよい。例えば添加剤には、湿潤剤、レオロジー添加剤、消泡剤、表面張力に影響を与える添加剤、付臭剤が含まれる。
【0031】
本発明に基づく調製物は、構成成分(A)、(B)および任意で(C)の単純な混合によって製造することができる。このとき、当業者は構成成分の量の割合をそれぞれの用途および/または適用する施用方式に合わせて選択する。
【0032】
本発明に基づく調製物は、基板上に、特に温度感受性の基板上に白金層を製造するためにも使用できる。この場合、本発明に基づく調製物は、最初に被覆層(コーティング)を製造するために用いることができ、これらの被覆層は引き続き熱分解することができる。熱処理の際、被覆層は分解して白金を形成する。すなわち、被覆層は最終的に白金層に置き換えられる。従って、本発明は、基板上に白金層を製造するための方法にも関し、
(1)本発明に基づく調製物から成る被覆層を基板上に塗布する工程と、
(2)被覆層を熱分解して、白金層を形成する工程と、
を含んでいる。
【0033】
工程(1)で被覆層が設けられる基板は、さまざまな材料を含む基板であってよい。このとき、基板は一種以上の材料を有することができる。材料の例としては特にガラスがあり、その他にも例えば炭化チタン、炭化モリブデン、炭化タングステン、炭化ケイ素などの炭化物基板、例えば窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ケイ素などの窒化物基板、例えばホウ化チタン、ホウ化ジルコニウムなどのホウ化物基板などがあり、また酸化物セラミックベースのものや触媒担体として一般的に使用されているものを含むセラミック基板、例えばシリコン基板などの半導体基板、金属、プラスチック、変性または未変性の天然ポリマー、炭素基板、木材、段ボール、紙なども含まれる。基板には、内部表面および/または外部表面あるいは内部表面の一部および/または外部表面の一部に被覆層が設けられていてよい。
【0034】
工程(1)による被覆層の製造では、周知の塗布方式を使用することができる。
【0035】
第1の塗布方式は浸漬である。ここでは、被覆層または最終的に白金層が設けられる基板を、本発明に基づく調製物の中に浸漬して、再び取り出す。好ましくは、浸漬での構成成分(A)の割合は、本発明に基づく調製物の30~90重量%の範囲にあり、構成成分(B)の割合は10~70重量%の範囲にある。
【0036】
第2の塗布方式はスプレー塗布である。ここでは、被覆層または最終的に白金層が設けられる基板に、一般的なスプレー塗布ツールを用いて本発明に基づく調製物をスプレー塗布する。スプレー塗布ツールの例としては、空気圧式スプレーガン、エアレススプレーガン、回転式アトマイザーなどがある。好ましくは、スプレー塗布での構成成分(A)の割合は、本発明に基づく調製物の50~90重量%の範囲にあり、構成成分(B)の割合は10~50重量%の範囲にある。
【0037】
第3の塗布方式は印刷である。ここでは、被覆層または最終的に白金層が設けられる基板に、本発明に基づく調製物を印刷する。好ましい印刷方式はインクジェット印刷である。別の好ましい印刷方式はスクリーン印刷である。好ましくは、印刷での構成成分(A)の割合は、本発明に基づく調製物の50~90重量%の範囲にあり、構成成分(B)の割合は10~50重量%の範囲にある。
【0038】
第4の塗布方式は、本発明に基づく調製物を含浸させた塗布ツール、例えば刷毛、ブラシ、フェルト、布などを用いた塗布である。ここでは、本発明に基づく調製物を、塗布ツールによって被覆層の上に、または最終的に白金層が設けられる基板の上に塗布する。好ましくは、この種の塗布技術での構成成分(A)の割合は、本発明に基づく調製物の30~90重量%の範囲にあり、構成成分(B)の割合は10~70重量%の範囲にある。
【0039】
本発明に基づく調製物から得られる、[L1L2Pt[O(CO)R1]X]型の少なくとも1種の白金錯体を含む被覆層を最初に乾燥させ、その際にこの被覆層を部分的または完全に有機溶媒から遊離させ、その後でこの被覆層または乾燥させた残滓を熱分解して、層の形の金属白金を形成することが可能である。熱分解のために行われる熱処理には、少なくとも1種の白金錯体の分解温度を上回る物体温度まで加熱することが含まれる。[L1L2Pt[O(CO)R1]X]型の複数の異なる白金錯体が存在する場合、当業者は、最も高い分解温度を有する(B)型の白金錯体の分解温度を上回る物体温度を選択するであろう。一般的に、そのためには、例えば分解温度を上回る物体温度まで、例えば1分から30分の短時間に150℃から200℃または150℃から250℃以上、例えば最高1000℃の物体温度まで加熱を行う。この加熱は、特に炉の中でおよび/または赤外線放射によって行うことができる。一般的には、該当する分解温度を僅かに上回る物体温度が選択される。一般的に、この加熱、正確に言えば物体温度の維持は、15分以上かかることはない。
【0040】
有利には、本発明に基づく調製物を用いる白金錯体の製造では、コロイド状白金またはナノ白金を含む調製物を使用する必要がないため、それに関連して起こり得るリスクを回避することができる。さらに、言及した第2および第3の塗布方式では、本発明に基づく調製物の使用により、塗布ツールの詰まり、正確に言えばスプレー塗布ツールの細かい開口部やノズルまたはインクジェットノズルの詰まりを回避することが可能であり、最終的にコロイド状白金またはナノ白金の乾燥や凝集という問題もここでは発生しない。
【0041】
そのようにして得られた白金層は、粗すぎない滑らかな表面を持つ基板での作業を前提にすれば、鏡に匹敵する高い金属光沢によって特徴づけられ、白金層は粒状でない滑らかな外部表面という意味で均質である。本発明に基づく方法で得られる白金層の厚さは、例えば50nmから5μmの範囲にあり、このような白金層は、表面内に望ましい中断が入っていても、入っていなくても平面的性質を有することができるし、また望ましいパターンやデザインを施すこともできる。言及した基板の例から分かるように、このような白金層は、温度感受性の基板、すなわち例えば200℃以上で温度安定性を失う基板上にも形成することができ、例えば、ポリオレフィンまたはポリエステルなどをベースにするような温度感受性のポリマー基板であってよい。
【0042】

例1(白金層によるスライドガラスの仕上げ):
100mlジクロロメタン中の65mmol(COD)PtCl溶液を攪拌し、水500ml中の260mmolナトリウム-2-イソデカノアート溶液を添加した。この二相混合液を24時間、20℃で集中的に攪拌し、乳化させた。このとき、ジクロロメタン相は黄色に変色した。
【0043】
ジクロロメタン相を分離し、溶媒を留去した。粘性のある黄色い残滓を150ml石油ベンジン(40-60)の中に加え、溶液を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した。次に、石油ベンジンを完全に留去した。後には粘性のある黄色い残滓(COD)Pt[O(CO)(CHC(CHが残った。
【0044】
黄色い残滓10gを20gの溶媒/添加剤混合物(50重量%エタノール、49.9重量%プロピレングリコールモノプロピルエーテル、0.1重量%BYK-333(BYK製表面添加剤)に溶解した。10重量%白金を含む溶液を、エアブラシスプレーガンでスライドガラス上に噴霧した。コーティングしたスライドガラスを、実験室炉に入れて200℃の物体温度まで加熱し、この温度で15分間維持した。スライドガラス上には、光沢のある白金の導電層が形成された。
【0045】
例2a~2d(白金層による酸化アルミニウム小片の仕上げ):
2a:例1の溶液に酸化アルムニウム製の素焼き小片(50mm x 50mm)を浸漬し、取り出してから実験室炉に入れ、200℃の物体温度まで加熱し、この温度で15分間維持した。プレート上には、光沢のある白金の導電層が形成された。
2b:実験2aを900℃の物体温度で繰り返し、同等の結果を得た。
2cおよび2d:実験2aおよび2bを、酸化アルムニウムの艶入り小片で繰り返し、それぞれ同等の結果を得たが、ここでは実験2aおよび2bとは異なり、鏡反射する白金の導電層が得られた。
【0046】
例3(白金層によるポリウレタンホースの仕上げ):
ポリウレタン製の厚さ5mmのホースを、例1の溶液を染みこませたフェルトに3回続けて通した。そのようにコーティングしたホースを、実験室炉に入れて175℃の物体温度まで加熱し、この温度で5分間維持した。ホース上には、光沢のある白金の導電層が形成された。
【0047】
例4(パターン入り白金層によるポリイミドフィルムの仕上げ):
Kapton(登録商標)フィルム(ポリイミド)を、解像度1270dpiのインクジェットプリンタを使って例1の溶液で蛇行模様に印刷した。そのように印刷されたフィルムを、実験室炉に入れて200℃の物体温度まで加熱し、この温度で5分間維持した。フィルム上には、導体幅2.5mmの蛇行模様の入った光沢のある白金の導電層が形成された。
【0048】
例5(白金層によるスライドガラスの仕上げ):
例1と同様に、ジクロロメタン100ml中の32.5mmol(COD)PtClを、水200ml中のナトリウムシクロヘキサノアート130mmolと反応させた。(COD)Pt[O(CO)C11の黄色い残滓が得られた。
【0049】
黄色い残滓2gを、4.86gのプロピレングリコールモノプロピルエーテルに溶解した。10重量%の白金を含むこの溶液にスライドガラスを浸漬し、取り出してから実験室炉に入れ、200℃の物体温度まで加熱し、この温度で15分間維持した。スライドガラス上には、光沢のある白金の導電層が形成された。
【0050】
例6(白金層によるポリイミドフィルムの仕上げ):
例1と同様に、ジクロロメタン100ml中の65mmol(COD)PtClを、水500ml中のナトリウム-2-シクロヘキサノアート260mmolと反応させた。(COD)Pt[O(CO)CH(C)Cの黄色い残滓が得られた。
【0051】
黄色い残滓の10gを、15gプロピレングリコールモノプロピルエーテルと15gエタノールの混合物に溶解した。8.2重量%の白金を含むこの溶液に10 x 40mmのKapton(登録商標)フィルムストリップを浸漬し、取り出してから実験室炉に入れ、200℃の物体温度まで加熱し、この温度で3分間維持した。フィルム上には、光沢のある白金の導電層が形成された。
【0052】
例7(白金層による艶入り酸化アルムニウム小片の仕上げ):
例6の溶液に酸化アルムニウム製の艶入り小片を浸漬し、取り出してから実験室炉に入れ、200℃の物体温度まで加熱し、この温度で5分間維持した。プレート上には、光沢のある白金の導電層が形成された。
【0053】
例8(白金層によるポリイミドフィルムの仕上げ):
例1と同様に、ジクロロメタン100ml中の27.3mmol(NBD)PtClを、水100ml中のナトリウム-2-シクロヘキサノアート110mmolと反応させた。(NBD)Pt[O(CO)CH(C)Cの黄色い残滓が得られ、これを例6と同様にさらに加工し、光沢のある白金の導電層が施されたKapton(登録商標)フィルムを得た。