(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】水素貯蔵容器
(51)【国際特許分類】
F17C 11/00 20060101AFI20230925BHJP
F17C 9/02 20060101ALI20230925BHJP
F17C 6/00 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
F17C11/00 Z
F17C9/02
F17C6/00
(21)【出願番号】P 2023067164
(22)【出願日】2023-04-17
【審査請求日】2023-05-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506217885
【氏名又は名称】イビデンケミカル 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】網野 俊和
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康隆
【審査官】加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-002020(JP,A)
【文献】特開2007-077035(JP,A)
【文献】特開2007-048546(JP,A)
【文献】再公表特許第2006/120808(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 11/00
F17C 9/02
F17C 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを貯蔵するための容器と、
前記容器内に充填された水素ガス溶解性液体とを有しており、
前記水素ガス溶解性液体が、非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方を含有
し、
前記水素ガス溶解性液体が、水を含有しており、
前記容器内における前記水素ガス溶解性液体の全質量を100質量%とすると、前記水の含有量が、50質量%未満であることを特徴とする水素貯蔵容器。
【請求項2】
水素ガスを貯蔵するための容器と、
前記容器内に充填された水素ガス溶解性液体とを有しており、
前記水素ガス溶解性液体が、非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方を含有
し、
前記水素ガス溶解性液体は、前記容器内の水素ガス濃度が99%、水素ガスの圧力が1MPaを5分間以上維持した後、前記容器内を常圧にした際に、前記水素ガス溶解性液体内の水素濃度が10ppm未満になることを特徴とする水素貯蔵容器。
【請求項3】
前記非イオン系界面活性剤は、グリセリンである請求項1
又は2に記載の水素貯蔵容器。
【請求項4】
前記容器の容積を100体積%とすると、前記容器内の前記水素ガス溶解性液体の充填量は、10体積%以上100体積%以下である請求項1
又は2に記載の水素貯蔵容器。
【請求項5】
前記容器内に水素ガスが充填されており、
前記容器内において、前記水素ガスは0.001MPa以上20MPa以下に加圧されている請求項1
又は2に記載の水素貯蔵容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵容器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、高圧水素貯蔵タンクについて記載している。高圧水素貯蔵タンクを水素ステーションにおいて使用する場合、通常、タンク内の圧力を30~90MPaに設定するとともに、温度を-20~70℃程度に設定することを記載している。
【0003】
特許文献2は、水素貯蔵方法について記載している。有機化合物と水素ガスを加圧下で接触させることによって水素分子化合物を形成している。この水素分子化合物を貯蔵することによって、常温常圧に近い状態においても安定な状態で水素を貯蔵することができる。水素ガスを放出する際には、水素分子化合物を加熱している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-44702号公報
【文献】国際公開第2004/000857号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、水素貯蔵タンクともいう水素貯蔵容器には、水素ガスの貯蔵量のさらなる増加が求められている。一般に、水素ガスの貯蔵量を増加させるためには、水素貯蔵容器に充填する水素ガスの圧力を高めることが行われる。しかし、特許文献1のように水素ガスの圧力を高めることは、付帯設備へのさらなる耐圧負荷がかかるとともに作業コストの上昇に繋がる。また、より安全性に配慮して作業を行う必要がある。そのため、水素ガスの貯蔵量を増加させることは容易でない。
【0006】
また、特許文献2の水素貯蔵方法では、有機化合物と水素ガスを加圧下で一定時間保持して水素分子化合物を形成する必要がある。また、水素分子化合物からなる故水素ガスを放出する際に水素分子を水素分子化合物から分離させるために水素化合物を加熱する必要がある。そのため、水素ガスの貯蔵や放出を簡単に行うことができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
態様1の水素貯蔵容器は、水素ガスを貯蔵するための容器と、前記容器内に充填された水素ガス溶解性液体とを有しており、前記水素ガス溶解性液体が、非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方を含有する。
【0008】
この構成によれば、容器内において、水素ガスを非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方に溶解させることによって、水素ガスの貯蔵量を簡単に増加させることができる。また、水素ガスの貯蔵及び放出を簡単に行うことができる。
【0009】
態様2は、態様1の水素貯蔵容器において、前記非イオン系界面活性剤は、グリセリンである。
態様3は、態様1又は2の水素貯蔵容器において、前記水素ガス溶解性液体が、水を含有しており、前記容器内における前記水素ガス溶解性液体の全質量を100質量%とすると、前記水の含有量が、50質量%未満である。この構成によれば、水素ガス溶解性液体が水を上記数値範囲程度含有することによって、水を50%以上含有する水素ガス溶解性液体に比べ、水素ガスの貯蔵量を増加させつつ、水素ガス溶解性液体の安定性を向上させることができる。
【0010】
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載の水素貯蔵容器において、前記容器の容積を100体積%とすると、前記容器内の前記水素ガス溶解性液体の充填量は、10体積%以上100体積%以下である。この構成によれば、水素ガス溶解性液体の充填量が上記数値範囲内であると溶解効果が得られやすい。
【0011】
態様5は、態様1~4のいずれか一態様に記載の水素貯蔵容器において、前記容器内に水素ガスが充填されており、前記容器内において、前記水素ガスは0.001MPa以上20MPa以下に加圧されている。この構成によれば、作業コストの上昇を抑制しつつ、より多くの水素ガスを水素ガス溶解性液体に溶解させることができる。
【0012】
態様6は、態様1~5のいずれか一態様に記載の水素貯蔵容器において、前記水素ガス溶解性液体は、前記容器内の水素ガス濃度が99%、水素ガスの圧力が1MPaの状態を5分間以上維持した後、前記容器内を常圧にした際に、水素ガス溶解性液体内の溶解水素濃度が10ppm未満になる。この構成によれば、容器内の圧力を低下させることによって簡単に水素ガスを無駄なく放出させ効率の良い繰り返し充填が可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水素貯蔵容器によれば、水素ガスの貯蔵及び放出を簡単に行うことができるとともに、水素ガスの貯蔵量を簡単に増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図2は液体・気体間の溶解・放出モデルを示す模式図である。
【
図3】
図3は水素分子1個と水分子1個のシミュレーション3次元モデル図である。
【
図4】
図4は水素分子1個と水分子2個のシミュレーション3次元モデル図である。
【
図5】
図5はアセチレン分子1個とアセトン分子2個のシミュレーション3次元モデル図である。
【
図6】
図6は水素と水、アセトン溶液および水へのアセチレンガス溶解での相互作用エネルギーと溶解量のグラフである。
【
図7】
図7は
図6に水素-グリセリンで計算された相互作用エネルギー域を追記したグラフである。
【
図8】
図8は
図7に実験から得られたグリセリンの溶解度をプロットしたグラフである。
【
図9】
図9は実施例及び比較例における気相圧力に対する水素貯蔵量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
水素貯蔵容器の実施形態を説明する。
図1に示すように、水素貯蔵容器10は、水素ガスを貯蔵するための筒状の容器本体(以下、単に容器ともいう。)11と、容器11内に充填された水素ガス溶解性液体20とを有する。容器11の形状は、水素ガスを貯蔵するための耐圧を有する形状であれば、特に限定されない。水素貯蔵容器10は、容器11に接続されたバルブ12と、圧力計13とを有する。
【0016】
以下、水素貯蔵容器10の詳細について説明する。
<容器>
図1に示すように、容器11は筒状の周壁11aを有している。容器11は、周壁11aの軸方向における一端側の端部に、周壁11aに接続された天壁11bを有するとともに、他端側の端部に、周壁11aに接続された底壁11cを有する。容器11は、天壁11bの中央部から周壁11aの軸方向に沿って突出した筒状のソケット11dを有する。ソケット11dの内部は、周壁11aの内部に連通しており、ソケット11dは容器11の開口部として機能する。ソケット11dにバルブ12が取り付けられている。容器11は、周壁11aの内部に空間を有しており、この空間に、水素ガス溶解性液体20が充填される。
【0017】
水素貯蔵容器10の内容積は、バルブ12を閉じた状態で水素貯蔵容器10が閉回路となる部材構成となる容器11の内容積、バルブ12の弁体からソケット11d及びこれらの接続配管内容積、圧力計13の容器11への接続配管の内容積が含まれる。
【0018】
周壁11a、天壁11b、底壁11c、及びソケット11dの材質は、特に制限されず、耐圧部材に用いられる公知の材質を適宜採用することができる。耐圧部材に用いられる公知の材質としては、金属や樹脂を挙げることができる。
【0019】
金属の具体例としては、例えばアルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽合金、ステンレス鋼等を挙げることができる。
樹脂としては、水素ガスのガスバリア性や耐圧性に優れるものを採用することができる。樹脂の具体例としては、例えばポリアミド樹脂やポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。樹脂は、繊維補強されていてもよい。すなわち、繊維補強材であってもよい。繊維補強に用いる繊維としては、炭素繊維やガラス繊維、もしくは樹脂製の強化繊維を含有してもよい。
【0020】
(バルブ)
図1に示すように、バルブ12は、容器11のソケット11dに取り付けられている。バルブ12は、開口部の開閉を行うために用いられる。バルブ12を有することによって、容器11は圧力容器として使用することが可能になる。バルブ12の材質は、耐圧、耐水素脆性を考慮した金属や樹脂を用いることができる。
【0021】
(圧力計)
水素貯蔵容器10は、容器11内の圧力を測定するための圧力計13を有している。この圧力計13は、容器11内の気相の圧力を測定することができる位置に取り付けられている。圧力計13の種類としては、耐圧、耐水素脆性を考慮した圧力計13を用いることができる。なお、以下の説明において、圧力はゲージ圧を意味する。
【0022】
また、水素貯蔵容器10は、容器11内のガスを排出する際、排出圧力を調整するための圧力調整弁(図示省略)を有していてもよい。
<水素ガス溶解性液体>
図1に示すように、水素貯蔵容器10は、容器11内に充填された水素ガス溶解性液体20を有する。また、水素ガス溶解性液体20は、非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方を含有する。
【0023】
非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤は、水素ガスを溶解させやすい性質を有している。そのため、水素ガス溶解性液体20が非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方を含有することによって、容器11内に充填された水素ガスが水素ガス溶解性液体20に溶解した状態になりやすい。
【0024】
非プロトン性極性溶媒の具体例としては、例えば、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ニトロメタン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、酢酸エチル、パーフルオロヘキサン、α,α,α-トリフルオロトルエン、ペンタン、メチルシクロヘキサン、デカリン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル(MTBE)、1,2-ジメトキシエタン、テトラハイドロフラン(THF)、ピリジン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)(MEK)、N-メチルピロリドン、スルホラン、炭酸プロピレン、テトラメチレンスルホキシド、アセチルピロリジン、メチラール又はジメトキシメタン、メチルナフトジオキサン、ギ酸メチル、酢酸メチル、ギ酸エチル、1-ホルミルピロリジン、エチレンオキサイド、オルト酢酸トリメチル、ほう酸トリメチル、アセタール、N-ニトロソピロリジン、安息香酸メチル、プロピオンアルデヒド、メチレンジアセテート、エチルブチレート、エチルパーフルオロブチレート、オルトギ酸トリエチル、ジメチルアニリン、メチルn-プロピルケトン(MPK)、ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、酢酸プロピレン等が挙げられる。
【0025】
非イオン系界面活性剤の具体例としては、例えばグリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、アシルグリセリン(アシルグリセリド)、グリセリンアルカノエート、脂肪酸グリセリン、親油型モノ脂肪酸グリセリン、ソルビトール、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタンアルカネート、脂肪酸ソルビタン、アルカノイルソルビタン、ショ糖脂肪酸エステル、アシルスクロース、シュガーエステル、脂肪酸ショ糖エステル、ショ糖エステル等のエステル型、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキリポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンアルキル、アルキルポリエトキシエタノール、POEアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニル、アルキルフェニルポリエトキシエタノール、POEアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリオキシアルキレンブロックポリマー等のエーテル型、脂肪酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルカノエート、アルキルカルボニルオキシポリオキシエチレン、脂肪酸ポリオキシエチレンゾルビタン、アシルポリオキシエチレンゾルビタン、ポリオキシエチレンゾルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンゾルビタンアルカノエート、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル、POEゾルビタン脂肪酸エステル等のエステル・エーテル型、オクチルグルコシド、デシルグルコシド、ラウリルグルコシド等のアルキルグリコシド等が挙げられる。
【0026】
これらの中でも、グリセリンは、比較的安価に入手することができる。また、食品添加物にも使用されているものもあり、安全に使用することができるため好ましい。
上記非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤は、それぞれ一種を単独で使用してもよいし、二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0027】
水素ガス溶解性液体20における非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方の含有量は、特に制限されない。水素ガス溶解性液体20における非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方の含有量は、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。また、好ましくは100質量%以下である。
【0028】
溶媒種、又は水素ガスの溶解量により違いはあるものの溶媒分子間へ水素分子が入るため、溶液の密度は水素分子が入る前に比べ低下する。言い換えれば、溶液化すると溶液の体積が膨張することや、気泡も予想される。これら溶液膨張や気泡分の空隙を水素貯蔵容器10内に確保しておく必要がある。水素ガスを溶解した水素ガス溶解性液体20を水素貯蔵容器10で作成し、その後別の水素貯蔵容器10へ配管接続し水素ガスが溶解した水素ガス溶解性液体20を移送充填する場合は、別の水素貯蔵容器10内の空隙は考慮する必要はない。
【0029】
水素貯蔵容器10内における水素ガス溶解性液体20の充填量は特に制限されない。水素貯蔵容器10の容積を100体積%とすると、水素貯蔵容器10内の水素ガス溶解性液体20の充填量は、好ましくは10体積%以上であり、より好ましくは20体積%以上であり、さらに好ましくは30体積%以上である。また、好ましくは100体積%以下であり、より好ましくは60体積%以下であり、さらに好ましくは50体積%以下であり、最も好ましくは40体積%以下である。水素ガス溶解性液体20の充填量は、水素ガス溶解性液体20へのガス溶解による容積膨張を考慮したものである。
【0030】
水素貯蔵容器10内における水素ガス溶解性液体20の充填量が上記数値範囲であることによって、水素ガスを水素ガス溶解性液体20に溶解させやすくなる。
<その他成分>
水素ガス溶解性液体20は、前述した非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤以外のその他成分、例えば、油剤、増粘剤、殺菌剤、抗菌剤、湿潤剤、安定化剤、防腐剤、pH調整剤、酸化防止剤、香料、着色剤、非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤以外の溶媒等を配合してもよい。これらの成分は、それぞれ一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
なお、本発明の水素ガス溶解性液体20が、上記非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤以外に、その他成分を含んでいる場合、非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤とその他成分をまとめて水素ガス溶解性液体20と呼ぶものとする。また、その他成分は、液体として均一に配合された態様に限定されず、微粒子状の固体や、コロイド状の液体として非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤に分散していてもよい。
【0032】
(非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤以外の溶媒)
非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤以外の溶媒の具体例としては、非極性溶媒、プロトン性極性溶媒等が挙げられる。非極性溶媒の具体例としては、例えばヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル等が挙げられる。プロトン性極性溶媒の具体例としては、例えば水、エタノール、メタノール、酢酸等が挙げられる。
【0033】
非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤以外の溶媒として水を含有すると、水素ガス溶解性液体20の安定性を向上させることができる。しかし、水素ガス溶解性液体20の水素ガス溶解性が低下するため可能な限り水の含有は少ない方が良い。ただし、いわゆる水素水の水素増量添加剤として利用する場合は、含有率100質量%に近い水に対しても利用ができる。
【0034】
水素ガス溶解性液体20に含有される上記その他成分の含有量は特に制限されない。その他成分の含有量は、水素ガス溶解性液体20全体の質量を100質量%とした際に、好ましくは0質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。また、好ましくは50質量%未満であり、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0035】
なお、水素ガス溶解性液体20が溶媒として水を含有する場合、水の含有量の数値範囲は、全体の50質量%未満であることが好ましい。
水素ガス溶解性液体20が、水を上記数値範囲程度含有することによって、水を50%以上含有する水素ガス溶解性液体20に比べ、水素ガスの貯蔵量を増加させつつ、水素ガス溶解性液体20の安定性を向上させることができる。
【0036】
<容器の用途>
水素貯蔵容器10の用途は特に制限されず、水素ガスを貯蔵して利用する用途に適宜用いることができる。
【0037】
水素貯蔵容器10の用途としては、例えば医薬品、指定医薬部外品、医薬部外品、又は化粧品等の組成物を充填する容器として使用することができる。すなわち、水素ガスを単独で、もしくは上記水素ガス溶解性液体やその他成分と合わせて、上記組成物として使用してもよい。水素ガスは、抗酸化効果、美肌効果、抗ストレス効果等を有すると言われており、これらの効果を有する組成物を充填する容器として使用することができる。
【0038】
上記組成物の剤形は、特に制限されず、例えば軟膏、乳液、スプレー剤、ローション等として使用することができる。
上記組成物の用途としては、特に制限されず、例えば保湿剤、消毒剤、アルコール消毒剤、皮膚外用剤等が挙げられる。
【0039】
水素貯蔵容器10を上記の組成物を充填する容器として使用する場合、水素貯蔵容器10の大きさは、持ち運びが容易であったり、携帯が可能であったりする程度に小型化されていてもよい。通常の圧縮水素ボンベにも適応できる。
【0040】
水素貯蔵容器10のその他の用途としては、燃料電池自動車や、水素エンジン自動車等の水素ガスを燃料とする水素自動車に使用することもできる。水素自動車に搭載して使用することもできるし、水素ステーション等に設置して水素自動車に水素ガスを供給することもできる。水素ガスを燃料とした発電設備のタンクとして使用することもできる。
【0041】
<作用及び効果>
本実施形態の作用について記載する。
図2に示すように、一般的な容器内における液体溶媒・気体溶質間の溶解・放出の分子モデルは次のように説明することができる。液体溶媒分子B(以下、単にBともいう。)からなる一定量のBが入っている容器の気相部分に気体溶質分子A(以下、単にAともいう。)からなるAを充填すると、液体(液体溶媒分子B)に比べ強いエントロピーを持つ気体(気体溶質分子A)は、液体との界面から液体内に拡散する。AとBの水素結合などにより引き合う関係にある時、液体中の溶質分子Aと溶媒分子Bとの間に発生する相互作用のエネルギー準位が溶質分子A、溶媒分子Bそれぞれ単独状態の時よりも低下し、安定な状態になって溶質分子Aは溶媒分子B間に溶解する。溶質分子Aが溶媒分子Bに溶解することによって、気相の圧力は低下する。これは、Aが溶媒に溶解すると、気相中のAの圧力要因となる分子数の減少とエントロピーともいう乱雑さが減少するためと考えられる。AとB間の分子量、分子間位置、分子の回転変化がある溶液内では溶液内でのエントロピーにより様々な安定状態が存在できる。そのため、溶液内の溶解は気体Aの圧力変化に追従した気液平衡状態となって溶液内のAの低濃度から高濃度まで様々なAの安定状態が形成される。
【0042】
AがBに溶解すること、及び容器内の気相の圧力が低下することは、更にAの容器内充填量を増加させ、容器内により多くのAを貯蔵することが可能になるとも解釈できる。
放出操作においては、容器内の気相にあるAを容器外へ放出し、気相の圧力を低下させると、前記溶解の反対のメカニズムで液相から分子Aが気相へ放出され、気相を常圧になるまで放出すると、常圧時の気液平衡状態での溶解となる。
【0043】
以上のように、Bに対するAの溶解のしやすさ、及び、BからのAの放出のしやすさは、AとBとの相互作用によるエネルギー準位と、Aのエントロピーとのバランスによって変化する。
【0044】
ここで、気体溶質分子Aとする水素分子の構造は、1S軌道に共有結合となる対電子を持っている。この対電子は、互いのスピン量子数を打ち消し合うように作用するため、水素分子は磁化し難く水素分子は溶媒との間に相互作用が生じにくい材料と考えられる。言い換えれば、溶媒親和性が低く、そのため、水素分子は液体に対して溶解しにくい性質を有していると言える。
【0045】
本実施形態の非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤は、水素イオン供与性ともいうプロトン供与性を有さない極性溶媒である。プロトン供与性とは、水素原子をプロトンとして放出する性質で、プロトンを放出することにより本来分子の持つ極性を見掛け上極性中和する挙動となることを意味する。プロトン供与性を有さないことによって、非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤は、分子の持つ極性を保持し、単体あるいは複数の分子の極性で磁化し難い水素分子を磁化させる。さらに、水素分子との間に相互作用を生じさせ、自由エネルギー低下による安定化状態に持ち込むことができると考えられる。すなわち、非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤は、水素分子を引き付けやすい性質を有しており、水素分子を引き付けることによって水素分子を溶解させやすいと考えられる。
【0046】
さらに、水素分子と非プロトン性極性溶媒との相互作用、水素分子と非イオン系界面活性剤との相互作用、非プロトン性極性溶媒同士の相互作用、及び非イオン系界面活性剤同士の相互作用はイオン結合および共有結合のような強い結合ではない。そのため、これらの相互作用を解除して、非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方に溶解した水素分子を気相中に放出することも比較的簡単に行うことができる。
【0047】
本実施形態の水素貯蔵容器10によれば、水素貯蔵容器10内に充填する水素分子の気相圧力を上昇させると、非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方と水素分子の相互作用によって、より多くの水素分子を非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤に溶解させることができる。そのため、水素貯蔵容器10内に水素ガス溶解性液体20を含有していない場合に比べて、水素ガスの貯蔵量をより多くすることが可能になる。
【0048】
また、本実施形態の水素貯蔵容器10によれば、水素貯蔵容器10内に水素ガス溶解性液体20を含有していない場合と比較して、水素貯蔵容器10内の水素ガスの圧力が同程度である場合、より多くの水素ガスを貯蔵することが可能になる。また、水素貯蔵容器10内の水素ガスを水素貯蔵容器10外へ排出し、圧力を低下させることによって、非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤中の水素ガスを、簡単に水素貯蔵容器10の気相に放出させることが可能になる。
【0049】
なお、水素ガスを非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤に溶解させる際の水素貯蔵容器10内の圧力は、特に制限されず、水素貯蔵容器10の耐圧性能によって決められる。
【0050】
水素ガスを非プロトン性極性溶媒や非イオン系界面活性剤に溶解させる際の水素貯蔵容器10内の圧力は特に制限されないが、0.001MPa以上100MPa以下であることが好ましく、0.001MPa以上20MPa以下であることがより好ましい。言い換えれば、水素貯蔵容器10内において、水素ガスは0.001MPa以上100MPa以下に加圧されていることが好ましく、0.001MPa以上20MPa以下に加圧されていることがより好ましい。
【0051】
また、水素ガスを非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方に溶解させる際の水素貯蔵容器10内の温度は、特に制限されず、操作圧力範囲における溶媒の融点以上、沸点以下にする。好ましくは、溶媒の蒸気圧を抑えるため操作圧力での沸点マイナス50℃以下がより好ましい。
【0052】
水素貯蔵容器10に貯蔵する水素ガスとしては特に制限されず、市販されている公知の水素ガスを用いることができる。
本実施形態の効果について記載する。
【0053】
(1)水素貯蔵容器10は、水素ガスを貯蔵するための水素貯蔵容器10と、水素貯蔵容器10内に充填された水素ガス溶解性液体20とを有しており、水素ガス溶解性液体20が、非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方を含有する。
【0054】
したがって、水素貯蔵容器10内において、水素ガスを非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方に溶解させることによって、水素ガスの貯蔵及び放出を簡単に行うことができる。また、水素ガスの貯蔵量を簡単に増加させることができる。
【0055】
(2)非イオン系界面活性剤は、グリセリンである。したがって、比較的安価に且つ安全に使用することができる。
(3)水素ガス溶解性液体20が、水を含有していてもよく、水素貯蔵容器10内における水素ガス溶解性液体20の全質量を100質量%とすると、水の含有量が、50質量%未満である。したがって、水素ガス溶解性液体20が水を上記数値範囲程度含有することによって、水を50%以上含有する水素ガス溶解性液体20に比べ、水素ガスの貯蔵量を増加させつつ、水素ガス溶解性液体20の安定性を向上させることができる。
【0056】
(4)水素貯蔵容器10内の容積を100体積%とすると、水素貯蔵容器10内の水素ガス溶解性液体20の充填量は、10体積%以上100体積%以下である。水素ガス溶解性液体20の充填量が上記数値範囲内であると溶解効果が得られやすい。
【0057】
(5)水素貯蔵容器10内に水素ガスが充填されており、水素ガス溶解性液体20は、水素ガスを内包した気泡を有する。気泡内の水素ガス圧は、それ以外の気相の圧力より高くなる。したがって、水素ガスの貯蔵量をより増加しているものと考えられる。
【0058】
(6)水素貯蔵容器10内に水素ガスが充填されており、水素貯蔵容器10内において、水素ガスは0.001MPa以上20MPa以下に加圧されている。したがって、作業コストの上昇を抑制しつつ、より多くの水素ガスを水素ガス溶解性液体20に溶解させることができる。
【0059】
(7)水素ガス溶解性液体20は、水素貯蔵容器10内の水素ガス濃度が99%以上、水素ガスの圧力が1MPaを5分間以上維持した後、水素貯蔵容器10内の気相をガス放出などで常圧にした際に、溶解水素濃度が10ppm未満になる。したがって、水素貯蔵容器10内の圧力を低下させることによって簡単に水素ガスを放出することができる。
【0060】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0061】
・本実施形態において、水素貯蔵容器10は、容器11に接続されたバルブ12と、圧力計13とを有していたが、この態様に限定されない。バルブ12と圧力計13は少なくとも一方が省略されていてもよい。例えば、容器11のソケット11dに水素ガスを供給するための配管が取り付けられており、配管が取り付けられた状態で容器11が圧力容器として使用できるように構成されていてもよい。
【0062】
・本実施形態において、容器11は、周壁11a、天壁11b、底壁11c、及びソケット11dを有していたがこの態様に限定されない。容器11の形状は特に制限されず、水素ガスを貯蔵することができる公知の容器、ボンベ、タンク等を採用することができる。
【0063】
・水素貯蔵容器10内に水素ガスが充填された状態において、水素ガス溶解性液体20は、水素ガスを内包した気泡を有していなくてもよい。
・水素ガス溶解性液体は、水素貯蔵容器10内の水素ガス濃度が99%、水素ガスの圧力が1MPaを5分間以上維持した後、水素貯蔵容器10内を常圧にした際に、溶解性液体内の水素濃度が10ppm以上であってもよい。
【実施例】
【0064】
以下、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
まず、ガスと溶液の公知の溶解度を用いて、量子化学計算シミュレーション(以下、シミュレーションともいう。)で求めたガスと液体の相互作用エネルギーと溶解度との関係を調べた。なお、相互作用エネルギーは、個々の分子が持つ自由エネルギーの和に対して、安定化時の自由エネルギーの差を意味する。
【0065】
(相互作用エネルギーの計算方法)
シミュレーションは、公知の第一原理擬ポテンシャルバンド計算ソフトウェア「PHASE/0」を用いて、平面波擬ポテンシャル法にて行った。カットオフエネルギーを、波動関数25Ryd、電化密度230Rydとした。絶対温度を0°Kとし、エントロピーを無視できると仮定した。
【0066】
シミュレーションは、公知の溶解度の水素-水(
図3、4参照)、アセチレン-アセトン(
図5参照)、アセチレン-水での組合せで選定した。二酸化炭素-水の溶解も公知であるが二酸化炭素の水溶解は炭酸化反応を伴うため今回の目的からは除外した。結果グラフ内の表記で、例えば水素分子1個と水分子1個(以下、「水素1水1」ともいう。)、水素分子1個と水分子2個(以下、「水素1水2」ともいう。)、アセチレン分子2個とアセトン分子1個(以下、「アセチレン2アセトン1」ともいう。)、アセチレン分子1個とアセトン分子2個(以下、「アセチレン1アセトン2」ともいう。)、アセチレン分子1個と水分子1個(以下、「アセチレン1水1」ともいう。)として示す。
【0067】
なお、
図3~5において、「O」、「C」、「H」はそれぞれ、酸素原子、炭素原子、水素原子を意味し、安定化状態、すなわちローカルミニマムでの位置を反映させたものである。
【0068】
水素分子と水分子の相互作用は、水素分子1個と水分子1個のみの間で生じるものではない。そのため、
図4に示すように、水素分子1個と水分子2個のシミュレーションも行うことによって、より実際に近い状態で相互作用を評価できるようにした(表1の番号1~5参照)。
【0069】
次に、グリセリン、ジメチルホルムアミド、ジメトキシメタン、アセトン、アセトンとフロンの混合液、又はアセトンと水の混合液と、水素分子との相互作用エネルギーも計算した。上記のシミュレーションに番号6~12を付与した。シミュレーションの結果を表1に示す。
【0070】
【0071】
(相互作用エネルギーと溶解度の関係)
表1の番号1、2である水素分子と水分子に対して計算された相互作用エネルギーと、水に対する水素ガスの溶解度、同様に、表1の番号3~5であるアセチレン分子と水分子、又はアセチレン分子とアセトン分子に対して計算された相互作用エネルギーと溶解度との相関線をプロットしたものを
図6に示す。
【0072】
なお、水に対する水素ガスの溶解量や、アセトンや水に対するアセチレンガスの溶解量は、溶解度文献(「アセチレン技術資料」溶解アセチレン協会 1976年、「化学工学便覧」改訂6版 (社)化学工学会 丸善出版 1999年)に示されている物性式を用いた。0.3MPa、20℃の条件で溶解度を求めた。
【0073】
なお、溶解度ともいう溶解量は、下記(1)式によって計算される。下記「量」の単位はmolとする。
溶解度(mol%)=溶解した溶質の量/(溶解した溶質の量+溶媒の量)・・・・(1)。
【0074】
図6において、横軸は相互作用エネルギーの計算結果、縦軸は各溶媒と、水素ガスやアセチレンガスのそれぞれの溶解度を表しており、溶解度と相互作用エネルギーとの間に相関関係が存在する可能性が示唆された。
【0075】
図7に、
図6に対して表1の番号6である「水素1グリセリン2」で計算された相互作用エネルギー域を追記したものを示す。
図7の矢印で示すように、「水素1グリセリン2」に対して計算された相互作用エネルギーは、0.21(eV)であり、水素ガスのグリセリンへの高溶解が期待できる。
【0076】
(水素貯蔵容器の作製)
表2に示すように、水素ガス溶解性液体20等の液体を水素貯蔵容器10に充填して、実施例1、比較例1、2の水素貯蔵容器を作製した。
【0077】
実施例1は、水素ガス溶解性液体20として非イオン系界面活性剤であるグリセリン(関東化学製 濃グリセリン グリセリン95質量%以上含有品)を用いた。比較例1は、水素貯蔵容器10に水素ガス溶解性液体20を充填せず、空のまま使用した。これは、通常の圧縮水素ガスの充填を模擬している。比較例2は、水素貯蔵容器10にイオン交換水を充填した。これは、水素ガスとの相互作用エネルギーの低い溶液である水を用いたものである。容器11は、材質がステンレス鋼製(SUS316)であり、内径60.9mm、肉厚4.3mm、深さ110mmであるものを使用した。
【0078】
【0079】
(評価試験)
実施例1、比較例1、2の水素貯蔵容器について、水素ガスの貯蔵量を評価した。評価方法、評価結果について以下に示す。
【0080】
さらに、
図7の「水素1グリセリン2」の相互作用エネルギー域に実験から得られた溶解度をプロットしたものを
図8に示す。
図8に示すように、グリセリンに対する水素の溶解度は、実験から得られた0.02
1mol%であった。これは、
図7に示した既知の溶解度と相互作用エネルギーでの相関線と、「水素1グリセリン2」での相互作用エネルギー域から算出されるエリアの交点領域である。この値を加えても、各種ガスの各種溶液への溶解度の大小は、それらの相互作用エネルギーの大小と強い関係があることがわかった。
【0081】
尚、
図8のグリセリンに対する水素溶解度0.02
1mol%は、
図9の気相圧力0.3MPa、空筒容積基準水素質量0.41mg/mLの結果から次のように(1)式を用いて算出されたものである。
【0082】
(i)水素貯蔵容器10内全水素ガス質量(mol)=((水素貯蔵容器10と内部グリセリン、水素ガス、全てを含む質量)-(水素貯蔵容器10とグリセリン質量))÷水素分子量・・・=0.066mol
(ii)水素貯蔵容器10内気相の水素ガス質量(mol)=(水素貯蔵容器10内容積-溶液容積(グリセリン容積で仮代用))×水素貯蔵容器10内気相圧力(ここでは絶対圧)×273÷(273+20)÷22400・・・=0.037mol
(iii)溶解した水素ガスの質量(mol)=水素貯蔵容器10内全水素ガス質量(mol)-水素貯蔵容器10内気相の水素ガス質量(mol)・・・0.029=0.066-0.037
(iv)水素のグリセリンへの溶解度は前記(1)式による。
【0083】
0.02
1=0.0
29÷(0.0
29+1.356)・・・・(1)
条件は、
図1における水素貯蔵容器10内外とグリセリン温度は室温20℃、グリセリン分子量は92、密度1.2g/cm
3とし、絶対温度は273°K、標準状態のmol物質量は22.4(l/mol)である。
【0084】
(水素ガス貯蔵量の評価方法)
室温20℃の条件下、空の状態の水素貯蔵容器10(容器本体11、ソケット11d、バルブ12、圧力計13が接続された状態)の質量W0を測定した。次に、水素貯蔵容器10内に気泡が残留していないことを確認しつつバルブ12上部まで20℃の水を満たしバルブ12を閉じて密閉系外の水を取り除いて水充填し、水素貯蔵容器10の質量W1を測定した。質量W1と質量W0の差分を、20℃における水の密度0.9982で除することによって、水素貯蔵容器10の容量を算出した。水素貯蔵容器10の容積は324mLであった。
【0085】
次に、バルブ12を開け、水素貯蔵容器10内の水を排出し水素貯蔵容器10内を空にした後、50℃の乾燥機内に載置して水素貯蔵容器10内を乾燥させた。乾燥後の水素貯蔵容器10を室温放置で室温に戻し質量W0を確認した。実施例1、比較例1、2毎に容器洗浄と乾燥、室温放置後、質量W0の確認を行った。実施例1、比較例1、2の液体を表2の充填量となるように充填した。各液体の温度は20℃であった。水素貯蔵容器10の開口部であるソケット11dに配管(図示省略)を取り付けて、配管を通じて水素貯蔵容器10内に窒素ガスを導入した。窒素ガスの圧力が0.5MPaになるように加圧することと、その後の排気を5回繰り返し行い、水素貯蔵容器10内の酸素濃度を100ppm以下にした。なお、水素貯蔵容器10内の酸素濃度は、酸素濃度測定器(TORAY製 Oxygen analyzer LC750)を用いて測定した。
【0086】
次に、配管から導入するガスを市販の濃度99%以上の水素ガスに切り替えた。水素ガスの圧力が0.5MPaになるように加圧することと、その後の排気を5回繰り返し行った。水素貯蔵容器10内の水素ガス濃度は、水素ガス濃度計(新コスモス電機製 XP-3340II水素)にて測定し、水素ガス濃度を99%以上を確認した。その後、水素貯蔵容器10内の水素ガスを放出し、圧力を0.001MPa以下にした。バルブ12を閉じて水素貯蔵容器10を配管から取り外した後、水素貯蔵容器10の質量W2を測定した。水素貯蔵容器10の質量W2を、基準の質量とした。
【0087】
再度、水素貯蔵容器10を配管に取り付けた後、配管から供給される水素ガスの圧力が所定の圧力、実施例1では略0.6MPaとなる状態でバルブ12を開き、水素貯蔵容器10内に水素ガスを充填した。5分間経過後、バルブ12を閉じて、水素ガスを充填した水素貯蔵容器10を配管から取り外した。その後、水素貯蔵容器10の質量W3を測定した。
【0088】
再び水素貯蔵容器10を配管に取り付けた後、配管から供給される水素ガスの圧力が所定の圧力、実施例1では略1MPaとなる状態でバルブ12を開き、水素貯蔵容器10内に水素ガスを充填した。5分間経過後、バルブ12を閉じて、水素ガスを充填した水素貯蔵容器10を配管から取り外した。その後、水素貯蔵容器10の質量W4を測定した。
【0089】
再び水素貯蔵容器10を排気用配管に取り付けた後、容器内水素ガスの圧力が所定の圧力、実施例1では略0.6MPaとなる状態でバルブ12を開き、水素貯蔵容器10内から水素ガスを排気した。5分間経過後、バルブ12を閉じて、水素ガスを充填した水素貯蔵容器10を配管から取り外した。その後、水素貯蔵容器10の質量W5を測定した。
【0090】
再び水素貯蔵容器10を排気用配管に取り付けた後、容器内水素ガスの圧力が所定の圧力、実施例1では略0.3MPaとなる状態でバルブ12を開き、水素貯蔵容器10内から水素ガスを排気した。5分間経過後、バルブ12を閉じて、水素ガスを充填した水素貯蔵容器10を配管から取り外した。その後、水素貯蔵容器10の質量W6を測定した。
【0091】
再び水素貯蔵容器10を排気用配管に取り付けた後、容器内水素ガスの圧力が所定の圧力、実施例1では略0.001MPaとなる状態でバルブ12を開き、水素貯蔵容器10内から水素ガスを排気した。5分間経過後、バルブ12を閉じて、水素ガスを充填した水素貯蔵容器10を配管から取り外した。その後、水素貯蔵容器10の質量W7を測定した。
【0092】
水素貯蔵容器10の質量W2を基準にして、水素貯蔵容器10の質量W3~W7の変化量(単位mg)を求めた。これらの変化量を水素貯蔵容器10の容積(324mL)で除することによって、水素貯蔵容器10の単位容積当たりの質量変化量(以下、「空筒容積基準水素質量」ともいう。)を求めた。なお、比較例1、2も、
図9に示す各圧力において、実施例1と同様の方法によって空筒容積基準水素質量を求めた。空筒容積基準水素質量の単位はmg/mLとする。結果を
図9に示す。
【0093】
(水素ガス貯蔵量の評価結果)
図9に示すように、水素貯蔵容器10に水素ガス溶解性液体20を充填していない比較例1は、水素貯蔵容器10内の圧力が増加するにつれて、空筒容積基準水素質量も比例して増加していた。水素貯蔵容器10内の圧力が約1MPaの時に、空筒容積基準水素質量は約0.9mg/mLであった。この結果はボイルの法則に従っていることを確認した。
【0094】
水素貯蔵容器10に水を24体積%充填した比較例2は、水素貯蔵容器10内の圧力が増加するにつれて、空筒容積基準水素質量も略比例して増加していた。水素貯蔵容器10内の圧力が約1MPaの時に、空筒容積基準水素質量は約0.6mg/mLであった。水への水素溶解がわずか数ppmであることから、水素貯蔵容器10内の有効容積が水の容積分だけ減った状態と考えられ、残りの空間内でガスが圧縮され、圧力と水素量が確定されたものであった。
【0095】
これに対し、グリセリンを32体積%充填した実施例1は、水素貯蔵容器10内の圧力が増加するにつれて、空筒容積基準水素質量も比例して増加していた。水素貯蔵容器10内の圧力が約1MPaの時に、空筒容積基準水素質量は約1.2mg/mLであり、比較例1、2よりも増加していることが確認された。また、
図9の矢印で示すように、実施例1では、圧力増加時の空筒容積基準水素質量と、圧力減少時の空筒容積基準水素質量とが、略同じ値となるように変化していた。すなわち、圧力を増加させた際にグリセリンに溶解して水素貯蔵容器10内に貯蔵された水素ガスは、圧力を低下させた際に、グリセリン内に留まることなく放出されていた。また、上記質量W7を測定した水素貯蔵容器10を常圧に戻してから、水素貯蔵容器10内のグリセリンを回収して、グリセリンに含まれる残留水素濃度ともいう溶解水素濃度をガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MSともいう。)を用いて測定した。その結果、溶解水素濃度は10ppm未満であった。圧力を0.001MPa以下の常圧にすると、グリセリンに溶解した水素ガスは、略全て放出されることが確認された。加えて、高温(500℃以上)で水素により分解され生成するとされる1-プロパノール、2-プロパノール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオールは検出されなかった。
【0096】
また、実施例1と同じ条件で、水素貯蔵容器10の気相圧力を略0.6MPaとし、水素貯蔵容器10と同様な0.6MPaの水素ガス圧に保持された観察窓付別容器に配管接続し、水素貯蔵容器10内の一部の水素ガス溶解溶液を観察窓付別容器へバルブを開けて移した。観察窓より液面を観察したところ、グリセリンの液内と表面に多数の気泡が確認された。具体的には、平均径が12μmの気泡が、グリセリン中の2mm×2mmの視野内に3個観察された。比較例2では、気泡は確認されなかった。なお、気泡の観察方法は、特に制限されないが、顕微鏡(キーエンス社製VHX-700)を用いて観察窓付別容器内を観察することによって行うことができる。
【0097】
実施例1は、比較例1、2に比べて、同じ圧力であればより多くの水素ガスを貯蔵できることが確認された。言い換えれば、実施例1は、より低い圧力で比較例1、2と同程度の水素ガスを貯蔵することができる。実施例1は、非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方を含有する水素ガス溶解性液体20を水素貯蔵容器10内に充填させるという簡単な構成によって、水素ガスの貯蔵量をより簡単に増加させることができる。また、水素貯蔵容器10内の水素ガスを圧入や放出によって水素貯蔵容器10の圧力を増減させるという簡単な構成によって、水素ガスの貯蔵及び放出を簡単に行うことができる。
【符号の説明】
【0098】
10…水素貯蔵容器
11…容器本体
11a…周壁
11b…天壁
11c…底壁
11d…ソケット
12…バルブ
13…圧力計
20…水素ガス溶解性液体
【要約】
【課題】水素ガスの貯蔵及び放出を簡単に行うとともに、水素ガスの貯蔵量を簡単に増加させる。
【解決手段】水素貯蔵容器10は、水素ガスを貯蔵するための容器と、容器内に充填された水素ガス溶解性液体20とを有しており、水素ガス溶解性液体20が、非プロトン性極性溶媒、及び非イオン系界面活性剤の少なくともいずれか一方を含有する。
【選択図】
図1