(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】空気送風機、撮影システム、圧延設備、空気送風方法、及び撮影方法
(51)【国際特許分類】
B21C 51/00 20060101AFI20230925BHJP
B21B 1/22 20060101ALI20230925BHJP
B21B 9/00 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
B21C51/00 Z
B21C51/00 R
B21B1/22 A
B21B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2023140021
(22)【出願日】2023-08-30
【審査請求日】2023-08-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314017543
【氏名又は名称】Primetals Technologies Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】望月 智俊
(72)【発明者】
【氏名】金森 信弥
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0047886(US,A1)
【文献】特開2014-219222(JP,A)
【文献】特開2010-253504(JP,A)
【文献】中国実用新案第210435052(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-99/00
B21C 45/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯板を圧延する複数の圧延機のうち、上流側の前記圧延機から下流側の前記圧延機に向かって圧延方向に伸びるように、前記金属帯板の幅方向の外側の操作側、駆動側の両方にそれぞれ設けられ、前記金属帯板の幅方向の側面側からの圧延ライン外の外気の進入を塞ぐように空気を噴出する空気噴出部と、
前記空気噴出部に空気を供給する空気供給部と、を備える
空気送風機。
【請求項2】
請求項1に記載の空気送風機において、
前記空気噴出部は、圧延ライン外の雰囲気温度以上の空気を噴出する
空気送風機。
【請求項3】
請求項1に記載の空気送風機において、
前記空気供給部は、100℃以上の前記空気を前記空気噴出部に供給する
空気送風機。
【請求項4】
請求項1に記載の空気送風機において、
前記空気噴出部は、前記金属帯板の前記幅方向において複数の前記圧延機のハウジングの外壁外側に設けられる
空気送風機。
【請求項5】
請求項1に記載の空気送風機において、
吸気口及び排気口を有するケーシングを更に備え、
前記ケーシングは、前記空気の流路における上流側に前記空気供給部、下流側に前記空気噴出部を収納する
空気送風機。
【請求項6】
請求項5に記載の空気送風機において、
前記空気供給部は、前記吸気口から吸気された空気を加熱する加熱部を含む
空気送風機。
【請求項7】
請求項5に記載の空気送風機において、
前記吸気口は、前記金属帯板で加熱された前記空気を吸い込むように前記金属帯板の周囲に設けられ、
前記空気供給部は、前記吸気口から吸気された空気を前記空気噴出部に導く吸気ダクトを含む
空気送風機。
【請求項8】
請求項1に記載の空気送風機において、
前記空気噴出部は、クロスフローファンである
空気送風機。
【請求項9】
請求項1に記載の空気送風機において、
前記空気噴出部は、前記金属帯板の鉛直方向下方に設けられ、前記空気を鉛直方向上方に噴出する
空気送風機。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の空気送風機と、
前記金属帯板の前記幅方向のいずれか一方に設置され、前記金属帯板の表面に形成される反射光領域を撮影するための撮影装置と、を備える
撮影システム。
【請求項11】
請求項10に記載の撮影システムと、
前記金属帯板を圧延する複数の前記圧延機と、を備える
圧延設備。
【請求項12】
金属帯板を圧延する複数の圧延機のうち、上流側の前記圧延機から下流側の前記圧延機に向かって圧延方向に伸びた空気送風機により、前記金属帯板の幅方向の側面側からの圧延ライン外の外気の進入を塞ぐように、前記金属帯板の幅方向の外側の操作側、駆動側の両方で空気を噴出させる
空気送風方法。
【請求項13】
請求項12に記載の空気送風方法により、前記金属帯板の幅方向の側面側からの圧延ライン外の外気の進入を塞ぐように前記空気を噴出する空気送風工程と、
前記金属帯板の表面に形成される反射光領域を撮影する撮影工程と、を有する
撮影方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気送風機、撮影システム、圧延設備、空気送風方法、及び撮影方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、熱間圧延機によって鋼板を製造するプロセスにおいて、鋼板の走行ライン上方の適宜高さ位置に設けられたケースと、このケース内に収納され、鋼板表面に光を照射し表面から反射する反射光を検出する光学装置及びこの光学装置より出力される検出信号を処理して表面欠陥を検知する表面欠陥検知装置とを備え、ケースの走行ラインと対向する閉塞面に光学装置の光路となる部分にスリットを設け、且つケース内にスリットに対して開閉動作可能に遮蔽板を設けて、この遮蔽板を表面欠陥検査時のみ開動作させる、ことが記載されている。
【0003】
特許文献2には、被圧延鋼板の幅方向に回転軸が延びて設置され、被圧延鋼板を上方に持ち上げるロールと、ロールにより上方側に持ち上げられた被圧延鋼板の持ち上げられた領域を含む画像を撮影するカメラと、カメラが撮像した画像に基づき、被圧延鋼板の板形状の不良を判断する制御装置と、を備えた不良判断装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-156334号公報
【文献】特許第6808888号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱間圧延での圧延ラインでは、圧延中に冷却水が圧延されている金属帯板上で蒸発して水蒸気が発生する。この水蒸気が凝縮して湯気が発生すると、金属帯板の様子をカメラで撮影する場合に金属帯板上の雰囲気が湯気によって白くなり、正常に画像撮影しにくいことがある。
【0006】
この湯気の発生原因を検討した結果、圧延ライン外部の空気が圧延ライン内に流入して金属帯板上の雰囲気の温度低下を引き起こし、その雰囲気の飽和水蒸気量が少なくなることで、水蒸気が凝縮して湯気になってしまうためであることを本発明者らは見出した。
【0007】
画像撮影時における金属帯板上の雰囲気の水蒸気を考慮する技術として、例えば特許文献1には、鋼板の走行ライン上方のカメラをケースに収納し、カメラの光路部分にスリットを有する水冷遮熱板を設け、スリットの開口面に向けてエアを噴出することで開口面にエアカーテンを形成し、水蒸気等の進入を防止することが記載されている。
【0008】
しかし上記特許文献1の技術では、カメラを熱から保護するためにケース近傍の温度を下げるものである。このため、開口面に噴出されるエアも温度が低く、金属帯板上の雰囲気の温度低下を引き起こすと考えられ、湯気の発生により正常な画像撮影が困難になることから、改善が必要である。
【0009】
本発明は、従来に比べて金属帯板上での湯気の発生を抑制することが可能な空気送風機、撮影システム、圧延設備、空気送風方法、及び撮影方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、金属帯板を圧延する複数の圧延機のうち、上流側の前記圧延機から下流側の前記圧延機に向かって圧延方向に伸びるように、前記金属帯板の幅方向の外側の操作側、駆動側の両方にそれぞれ設けられ、前記金属帯板の幅方向の側面側からの圧延ライン外の外気の進入を塞ぐように空気を噴出する空気噴出部と、前記空気噴出部に空気を供給する空気供給部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来に比べて金属帯板上での湯気の発生を抑制することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施例の空気送風機を含めた撮影システムを備えた圧延設備の空気送風機の空気吹き出し方向を下方にした例を側面側から見た際の概要構成を示す図。
【
図2】本実施例の空気送風機を含めた撮影システムを備えた圧延設備を上面側から見た際の概要構成を示す図。
【
図3】本実施例の空気送風機を含めた撮影システムを備えた圧延設備を圧延方向に見た際の概要構成を示す図。
【
図4】雰囲気温度と飽和水蒸気量との関係を示す図。
【
図5】噴流特性の理論値と実験値との関係を示す図。
【
図6】本実施例の空気送風機の基本構造の一例を示す図。
【
図7】本実施例の空気送風機の基本構造を具体化した一例を示す図。
【
図8】本実施例の空気送風機を含めた撮影システムを備えた圧延設備の空気送風機の空気吹き出し方向を上方にした例を側面側から見た際の概要構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の空気送風機、撮影システム、圧延設備、空気送風方法、及び撮影方法の実施例について
図1乃至
図8を用いて説明する。
【0014】
図1は本実施例の空気送風機を含めた撮影システムを備えた圧延設備の空気送風機の空気吹き出し方向を下方にした例を側面側から見た際の概要構成を示す図、
図2は本実施例の空気送風機を含めた撮影システムを備えた圧延設備を上面側から見た際の概要構成を示す図、
図3は本実施例の空気送風機を含めた撮影システムを備えた圧延設備を圧延方向に見た際の概要構成を示す図、
図4は雰囲気温度と飽和水蒸気量との関係を示す図、
図5は噴流特性の理論値と実験値との関係を示す図、
図6は本実施例の空気送風機の基本構造の一例を示す図、
図7は本実施例の空気送風機の基本構造を具体化した一例を示す図、
図8は本実施例の空気送風機を含めた撮影システムを備えた圧延設備の空気送風機の空気吹き出し方向を上方にした例を側面側から見た際の概要構成を示す図である。
【0015】
本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0016】
最初に、圧延設備の全体構成について
図1乃至
図3を用いて説明する。
【0017】
図1乃至
図3において、金属帯板1を圧延する圧延設備100は、複数の圧延機(
図1では、図示の都合でミルハウジング10,20の2台のみ示す)、空気送風機50、カメラ70、照明装置60、張力制御用のルーパーロール40、制御装置90、表示装置95、等を備えている。
【0018】
このうち、本実施例の撮影システムは、必須の空気送風機50及びカメラ70と、任意の制御装置90、表示装置95から構成される。また、圧延設備100は、空気送風機50やカメラ70等から構成される撮影システムと、複数の圧延機(
図1では、ミルハウジング10,20)と、を備える。
【0019】
なお、圧延設備100については、
図1に示すような2台の圧延機が設けられている形態に限られず、3台以上の圧延機の構成とすることができる。
【0020】
ミルハウジング10やミルハウジング20を有する各々の圧延機は、上下1対のワークロール30、これらワークロール30にそれぞれ接触することで支持する上下1対のバックアップロール35等を備えている。なお、各ワークロールと各バックアップロールとの間に、更に中間ロールを設けた6段の構成とすることができる。圧延機のロール構成は、上述の形態に限られず、最低限上下1対のワークロールがあればよい。
【0021】
張力制御用のルーパーロール40は、圧延中の金属帯板1にかかるライン張力を制御するためのロールであり、金属帯板1を鉛直方向上方に持ち上げている。このルーパーロール40は、その回転軸が金属帯板1の幅方向に延びるように設置されるものであり、金属帯板1を鉛直方向下方から上方に持ち上げるロールとしてミルハウジング10やミルハウジング20を有する各々の圧延機との間に設けられている。
【0022】
なお、ルーパーロール40の替わりに、金属帯板1の形状を検出するためのルーパーロールタイプの形状検出器を用いることができる。形状検出器は、公知の構成のものを使用可能であり、その詳細は省略する。
【0023】
カメラ70は、ルーパーロール40により上方側に持ち上げられた金属帯板1の持ち上げられた領域を含む画像を撮影することが可能な位置に設けられている。このカメラ70が、好適には金属帯板1の表面に形成される反射光領域を撮影する撮影工程の実行主体となる。
【0024】
より具体的には、金属帯板1の表面に形成される反射光領域は、ルーパーロール40により持ち上げられた領域近傍に形成されているが、反射光領域とカメラ設置位置との間に障害物があると反射光がカメラ70まで届かないことになる。しかし、カメラ70は、この反射光領域を撮影することが必須条件であることから、光路を障害物で邪魔しないことが必要となる。このため、カメラ70は、金属帯板1の持ち上げられた領域との間に障害物のない位置に配置される。カメラ70が撮影したルーパーロール40により上方側に持ち上げられた金属帯板1の持ち上げられた領域を含む画像のデータは、制御装置90に送信される。
【0025】
照明装置60は、カメラ70が主に撮影する、ルーパーロール40により鉛直方向上方側に持ち上げられた金属帯板1の持ち上げられた撮影領域を照らす光源であり、圧延設備100が設置されている圧延工場の天井などに適宜配置される一般的な光源も使用可能である。
【0026】
より具体的には、照明装置60は、金属帯板1を挟んで金属帯板1の幅方向の一方に設置されるものであり、金属帯板1の表面に反射光領域を形成させるために設置されることがあるが、光路に障害物があると金属帯板1の表面の照度が十分でなく、反射光領域を形成できなくなる可能性があるため、光路を障害物で邪魔しないことが必要となる。このため、照明装置60と金属帯板1の持ち上げられた領域との間に障害物のない位置に設置されることが望まれる。
【0027】
図1及び
図2に示す空気送風機50は、空気噴出部、空気供給部、支持部などからなり、好適には、金属帯板1を圧延する複数の圧延機のうち、上流側の圧延機から下流側の圧延機に向かって伸びた空気送風機50により、金属帯板1の幅方向の側面側からの圧延ライン外の外気の進入を塞ぐように、金属帯板1の幅方向の外側の操作側、駆動側の両方で空気を噴出させる空気送風工程の実施主体となる。なお、本発明における「圧延ライン」とは、金属帯板1が存在している3次元空間のことを示すものとする。
【0028】
この空気送風機50は、既設の圧延設備に後付けしても良い(この際、併せて照明装置60やカメラ70のうち1つ以上も後付けで設置、もしくは位置変更が可能である)し、新設の圧延設備に初期設備として設けてもよい。
【0029】
空気送風機50の支持部は、圧延方向の上流側および下流側で空気噴出部及び空気供給部のケーシングを支持する複数の支柱52から成り、その支柱52には床設置面に設けられた車輪54が備えられても良く、メンテナンスなどの際に空気噴出部及び空気供給部を自由な方向に移動可能としても良い。
【0030】
空気送風機50の空気噴出部は、例えばクロスフローファン84(
図6等参照)で構成され、金属帯板1を圧延する複数の圧延機のうち、上流側のミルハウジング10から下流側のミルハウジング20に向かって伸びるように、金属帯板1の幅方向の外側の両方にそれぞれ設けられており、金属帯板1の側面側からの圧延ライン内への外気の進入を塞ぐように好適には圧延ライン外の雰囲気温度以上の空気を噴出するための装置である。
【0031】
前記空気噴出部は、
図1及び
図2に示すように、ミルハウジング10,20間の隙間を仕切っているとともに、
図1に示すように、パスラインの鉛直方向上方に設けられており、パスラインの鉛直方向上方側から空気を鉛直方向下方に噴出するように配置されていることで、外気を圧延ライン内に流入させることを抑制する。
【0032】
また、
図2に示すように、空気噴出部は、圧延ラインの幅方向において、ミルハウジング10,20の駆動側および操作側のいずれの側において外壁外側に設けられている。なお、空気噴出部は、ミルハウジング10,20の外壁外側に設けられている必要は無く、設置性の観点からミルハウジング10,20の外壁外側に設けられることが望ましいものの、外気を圧延ライン内に流入させることを抑制するという設置目的からはミルハウジング10,20の外壁内側であってもよい。
【0033】
空気送風機50の空気供給部は、主にクロスフローファン84からなる空気噴出部に金属帯板1の幅方向側面側からの圧延ライン内への外気の進入を塞ぐように好適には圧延ライン外の雰囲気温度以上の空気を供給する機構であり、より好適には、100℃以上の空気を空気噴出部に供給する。
【0034】
前記空気供給部は、空気噴出部による空気の供給による外気を圧延ライン内に流入させないことに加え、その供給元となる気体の温度により圧延ライン内の雰囲気温度が冷やされることを防ぐことを目的として設けられている。好適には100℃以上の空気であることで、冷却水が金属帯板1上で蒸発した場合に大気圧下で確実に気化させることが可能な温度以上の空気を供給することになるため、湯気の発生を確実に抑制可能となる。なお、圧延設備100の稼働する環境によっては100℃以下でもよく、環境に応じて適宜設定可能である。
【0035】
以下、本発明における空気送風機50を設ける理由の検討結果について
図4以降を用いて以下説明する。
【0036】
特許文献2に記載の板形状の不良を監視する不良判断装置のシステム体系では、ルーパーロール40部分の金属帯板1表面で、板幅方向に帯状に形成される反射光領域を検出し、その圧延方向の反射光領域の距離分布を、画像処理により計測することで板形状を判定しているが、この技術では、帯状の反射光領域が検出できることが前提となっており、ルーパーロール40部分の圧延ライン内での光学的な前記反射光領域の検出を妨害する湯気の発生を抑制することが重要となる。
【0037】
ここで、金属帯板1の熱間圧延では、鉄系の金属帯板1の温度は、通常900℃程度である。また、アルミ系の熱間圧延では、金属帯板1の温度は、通常400℃程度である。
【0038】
すなわち、金属帯板1は、高温の熱源である。しかし、高温の熱源があるにもかかわらず、ルーパーロール40部分では水蒸気の凝縮が起こり、湯気が発生することがある。この理由として考えられるのは、存在している水分量が、ルーパーロール40部分の圧延ライン内の雰囲気温度の飽和水蒸気量を超えて湯気になるものと考えられる。
【0039】
雰囲気温度をT[℃]とすると、テテン(Tetens)の式から、飽和水蒸気圧e(T)[hPa]は、以下の(1)式のように記述できる。
【0040】
e(T)=6.1078×10^{7.5T/(T+237.3)} … (1)
また、飽和水蒸気量a(T)[g/m3]は、以下の(2)式のように記述できる。
【0041】
a(T)=217e(T)/(T+273.15) … (2)
この(2)式をグラフで示すと
図4のように表せる。
【0042】
上記(2)式から、ルーパーロール40部分に存在する水分量がその雰囲気の飽和水蒸気量を超えないようにすれば、湯気の発生を防止できることがわかる。この対策として、2つの手法が考えられる。
【0043】
1つ目は、ルーパーロール40部分での水分量を減らして、その水分量が飽和水蒸気量を超えないようにすることである。
【0044】
2つ目は、ルーパーロール40部分での雰囲気温度を高くして、飽和水蒸気量を上げることで、その水分量が飽和水蒸気量を超えないようにすることである。
【0045】
しかしながら、圧延中の冷却水の水分量を減らすことは圧延操業上困難であると考えられることから、2つ目の手法であるルーパーロール40部分での雰囲気温度を高くして、飽和水蒸気量を上げるという湯気発生防止策をとることとする。
【0046】
さて、熱延板という高温熱源があるにも関わらず、ルーパーロール40部分での圧延ライン内の雰囲気温度を低下させる要因として、圧延ライン外部の低い温度の空気がルーパーロール40部分の圧延ライン内に流入して、雰囲気温度の低下を引き起こしている可能性が高いと考えられる。そこで、圧延ライン外部の空気を圧延ライン内に流入させないように対策を行う。
【0047】
図1乃至
図3に示すような圧延設備100において、ミルハウジング10,20を有する各々の圧延機間の圧延ラインに設置されているルーパーロール40部分で、湯気の発生を防止するための対策を行う。
【0048】
ルーパーロール40部分は、圧延方向の上流側の圧延機(ミルハウジング10を有する)と下流側の圧延機(ミルハウジング20を有する)との中間位置に設置されているので、圧延方向の上流側及び下流側からは圧延機自体が障壁となって外気の進入はほとんどないものと考えられる。
【0049】
一方、ルーパーロール40部分のラインセンターに直交する方向(幅方向)には何も障壁はなく、外気は容易に圧延ライン内に進入することが想定される。このラインセンターに直交する方向からの外気の圧延ライン内への進入を防止できれば、圧延ライン内の雰囲気温度が低下することによる水蒸気の凝縮を防止でき、湯気の発生を抑止できると考えられる。
【0050】
そこで、
図1及び
図2に示すように、上流側のミルハウジング10と下流側のミルハウジング20を有する両方の圧延機間の圧延ライン幅方向側面部の隙間をカバーするように横長の空気送風機50を設置し、エアカーテンと同様の原理で好適には圧延ライン外の雰囲気温度以上の高温の空気を鉛直下向き若しくは上向きに発生させて、圧延ライン内に圧延ライン内の雰囲気温度より温度の低い外気が進入しないようにすることを着想した。
【0051】
空気送風機50から送風される気流は、空気送風機50の設置位置からパスラインまで到達する必要がある。そこで、パスライン位置での風速が1m/s以上あるような条件とすると、気流の中心速度Ucは、
図5の実験値の関係から、以下のような関係が導きだせる。
【0052】
空気送風機50の吹き出し口位置をパスラインからの高さhを2mの位置とし、吹き出し口の厚さBを66mmとすると、およそh/B=30となる。
【0053】
この時の噴流の中心速度Ucを吹き出し口風速Uc1で割った値は、
図5から、およそUc/Uc1=0.38となる。
【0054】
従って、パスラインの位置での気流の中心速度Ucが1m/sとすると、吹き出し口風速Uc1は、およそUc1=Uc/0.38=1/0.38=2.6m/sとなる。
【0055】
但し、ルーパーロール40部分の金属帯板1表面で、幅方向に帯状に形成される反射光領域を検出して、板形状の変化を監視することができるようにした特許文献2に記載の不良判断装置のシステムでは、
図3のように、ルーパーロール40部分をカメラ70で撮影しており、また、ルーパーロール40部分に照明装置60から照明光を照射している場合がある。そのため、照明光とカメラ70の撮影の障害にならないように、空気送風機50の設置高さを決めることが求められる。
【0056】
図3から、パスラインから空気送風機50の吹き出し口までの距離C(=h)は、ラインセンターから空気送風機50取り付け位置までの距離Aの位置に空気送風機50を設置した場合の空気送風機50が照明装置60の障害にならない下限位置Dより大きく、かつ距離Aの位置に空気送風機50を設置した場合の空気送風機50がカメラ70撮影の障害にならない下限位置Eより大きくあることが求められる。
【0057】
なお、ラインセンターから空気送風機50取り付け位置までの距離Aは、ラインセンターからミルハウジング10,20の外壁より外側の位置とする。しかし、空気送風機50の設置位置となる距離Aは、なるべくミルハウジング10,20外壁に接近していることが望ましい。
【0058】
図3では、パスラインから空気送風機50の吹き出し口までの距離Cが金属帯板1の両側で同じ場合を示したが、異なっていてもよい。
【0059】
図6に示すように、空気送風機50は、
図1等で示した支持部の他に、ヒーター81、モーター82、ケーシング83、クロスフローファン84(空気噴出部は)等を更に備える。
【0060】
このうち、ヒーター81は、吸気口86から吸気された空気を加熱する機器であり、空気供給部の一部である。
【0061】
ケーシング83は、空気の流路における上流側にヒーター81、下流側にクロスフローファン84を収納する筐体であり、パスラインの鉛直方向上方側に設けられた、圧延ライン内の雰囲気空気を吸気する吸気口86、及びヒーター81で加熱されクロスフローファン84から噴出された空気を噴出する排気口87を有している。
【0062】
クロスフローファン84は、複数のブレードを円筒状に有する円筒形状のファンであって、その径方向に空気を取り込み、取り込んだ空気を異なる径方向に吹き出すように構成されている。クロスフローファン84は、モーター82により駆動される。なお、空気噴出部はクロスフローファン84に限られず、プロペラファンやブロワなどを用いることができる。
【0063】
空気送風機50は、
図6に示すような形態に限られない。以下、
図7及び
図8を用いて変形例の空気送風機50A,50Bについて説明する。
【0064】
図7に示すように、空気送風機50Aは、
図6に示した空気送風機50とは異なり、
図1等で示した支持部の他に、モーター82、ダクト付きケーシング83A、クロスフローファン84(空気噴出部は)等を更に備える。
【0065】
図7に示す空気送風機50Aでは、ヒーター81を備えておらず、吸気口86Aは、通常は400度を超える温度となっている金属帯板1により高温となっている金属帯板1上方の空気を吸い込むように、パスラインの鉛直上方に延伸して設けられている。
【0066】
また、ダクト付きケーシング83Aは、吸気口86Aから吸気された空気をクロスフローファン84に導くように構成されており、排気口87は、高温となっている金属帯板1の上方の空気を噴出する。この場合、ケーシング83Aやクロスフローファン84は、アルミなどの熱伝導性の高い素材を使うことにより、空気送風機50自体の温度を高温に保つことができ、高温の空気を効率よく排気することができる。
【0067】
なお、
図7では空気送風機が空気を鉛直方向下方に噴出する場合において金属帯板1により高温となっている金属帯板1上方の空気を吸い込む場合について例示したが、吸気口において吸い込む空気は金属帯板1の上方の空気に限られず、金属帯板1の鉛直下方や側方、又はこれら3箇所のうちいずれか2箇所以上であってもよい。
【0068】
図8に示す圧延設備100Bでの空気送風機50Bは、空気噴出部、空気供給部、支持部などからなる点は空気送風機50,50Aと同じであるが、空気送風機50,50Aとは異なり、金属帯板1の鉛直方向下方側から鉛直方向上方側へ空気を噴出するように構成されている。
【0069】
空気送風機50Bの支持部は、設置面55上を空気噴出部及び空気供給部を自由な方向に移動させるための車輪54Bからなる。
【0070】
前記空気噴出部は、主にクロスフローファン84で構成され、金属帯板1を圧延する複数の圧延機のうち、上流側のミルハウジング10から下流側のミルハウジング20に向かって伸びるように、金属帯板1の幅方向の外側の両方にそれぞれ設けられており、金属帯板1の側面側からの圧延ライン内への外気の進入を塞ぐように、好適には圧延ライン外の雰囲気温度以上の空気を噴出する点や他の構成は基本的には空気送風機50或いは空気送風機50Aと同じである。
【0071】
なお、
図8のように金属帯板1の鉛直方向下方側から鉛直方向上方側へ空気を噴出する構成においても、空気供給部を、ヒーター81のかわりに、
図7のように、金属帯板1により高温となっている金属帯板1上方の空気を吸い込む形態や、金属帯板1の鉛直下方や側方、又はこれら3箇所のうちいずれか1箇所以上から金属帯板1により加熱された空気を吸い込む形態を採用することができる。
【0072】
図1に戻り、制御装置90は、圧延設備100内の各機器の動作を制御する装置である。本実施例では、特には、制御装置90は、カメラ70が撮影した画像に基づき、特許文献2に記載の金属帯板1の表面に形成される反射光領域の圧延方向の距離分布を検知することにより、圧延中の金属帯板1の板形状の不良を判断し、板形状不良の発生状態に応じた各種制御を実行する。これらの操作は、湯気のない雰囲気が保持できているので、前記反射光領域を検知することができ、前記各種制御の実行が可能となる。
【0073】
表示装置95は、ディスプレイなどの表示機器や警報機や音響機器などであり、例えばオペレータに対して制御装置90が板形状不良であると判断されたときに板形状不良の発生やその対処作業について伝えるための装置であることから、このような表示装置95としては、ディスプレイ、モニターが用いられることが多い。
【0074】
オペレータは、圧延操業中、表示装置95の表示画面を注視することで板形状不良の有無を確認する。例えば、オペレータは、表示装置95に、中伸び等の板形状不良が表示されている場合、その対応指示に従って手動で介入して各アクチュエータを操作することにより、板形状不良となっている状態から良好となる状態に復帰させることができる。
【0075】
なお、オペレータに板形状の不良を伝える形態に限られず、表示するとともに板形状不良を修正する操作を制御装置90により自動で介入して行う形態や、表示せずに自動で修正介入操作する形態とすることができる。
【0076】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0077】
上述した本実施例の空気送風機50,50A,50Bは、金属帯板1を圧延する複数の圧延機のうち、上流側の圧延機から下流側の圧延機に向かって伸びるように、金属帯板1の幅方向の外側の操作側、駆動側の両方にそれぞれ設けられ、金属帯板1の幅方向の側面側からの圧延ライン外の外気の進入を塞ぐように空気を噴出する空気噴出部と、空気噴出部に空気を供給する空気供給部と、を備える。
【0078】
このようなエアカーテンをタンデムに並んだ圧延機間に形成することで、外気が圧延ライン内に入らず、且つエアカーテンの温度で圧延ライン内の雰囲気の温度を低下させにくくすることができるので、前記雰囲気の飽和水蒸量の低下を招かず高いまま維持することができ、金属帯板1上に水蒸気の凝縮が起こりにくくできることから、湯気の発生を低減することができる。従って、特許文献2に記載の不良判断装置のシステムを採用した場合、金属帯板1の表面に形成される反射光領域の画像撮影を従来に比べて確実に行うことができるようになり、それに伴って圧延中の金属帯板の板形状異常の判定をより高精度に、かつ確実に実施することができる。
【0079】
また、空気噴出部は、圧延ライン外の雰囲気温度以上の空気を噴出することで、エアカーテンの温度で圧延ライン内の雰囲気の温度を低下させにくくすることができるので、より雰囲気の飽和水蒸量の低下を招くことを抑制して高温のまま維持することができ、より金属帯板1上に水蒸気の凝縮が起こりにくくできる。
【0080】
更に、空気供給部は、100℃以上の空気を空気噴出部に供給することで、圧延ライン上で冷却水が蒸発した場合に大気圧下で確実に気化させることが可能な温度以上の空気を供給することになるため、万が一圧延ライン外から冷たい雰囲気が流入したとしても、その高温で加熱して湯気の発生を抑制できる可能性の非常に高い温度まで加熱できることが期待できることから、湯気の発生をより抑制できる。
【0081】
また、空気噴出部は、金属帯板1の幅方向の両側において2台の圧延機のハウジングの外壁外側の圧延方向に設けられることにより、上流側と下流側の2台の圧延機間にある金属帯板1の上部空間に湯気の発生しにくい空間を形成することができる。
【0082】
更に、吸気口86,86A及び排気口87を有するケーシング83を更に備え、前記ケーシング83は、空気の流路における上流側に空気供給部、下流側に空気噴出部を収納することで、空気供給部から供給される以外の温度の低い空気が空気噴出部から噴出される可能性を極力低くでき、より確実に高温のエアカーテンとして機能させることができる。
【0083】
また、空気供給部は、吸気口86から吸気された空気を加熱するヒーター81を含むことにより、圧延ライン外の雰囲気温度以上の空気を確実に噴出するものとすることができる。
【0084】
更に、吸気口86Aは、金属帯板1で加熱された圧延ライン外の雰囲気温度以上の空気を吸い込むように金属帯板1の周囲に設けられ、空気供給部は、吸気口86Aから吸気された空気を空気噴出部に導くダクト付きケーシング83Aを含むことで、金属帯板1上の雰囲気の高温の空気をそのまま吸気するため、熱源を別途用意する必要が無くなる。
【0085】
また、空気噴出部は、クロスフローファン84であることにより、圧延方向に均一な空気の噴出を容易に実現することができる。
【0086】
また、
図8では、空気噴出部は、金属帯板1の鉛直方向下方に設けられ、空気を鉛直方向上方に噴出するため、金属帯板1の反射光領域が形成される側により近い側から空気を送風でき、金属帯板1の近傍の風速が空気噴出部の初速度に近いため、比較的風速が速く、圧延ラインの側面側からの圧延ライン内への外気の進入を効率よく妨げることができ、圧延ライン内の雰囲気温度低下を有効的に防ぐことができるので、前記雰囲気の飽和水蒸量の低下の防止を確実に行い、より湯気の起こりにくい構成とすることができる。
【0087】
更に、圧延ライン幅方向両側に設置された空気送風機50,50A,50Bと、金属帯板1の幅方向のいずれか一方に設置され、金属帯板1の表面に形成される反射光領域を撮影するためのカメラ70と、を備える撮影システムによれば、湯気による光学経路の遮断がなくなるため、より高頻度で鮮明な反射光領域の撮影が可能となる。
【0088】
また、撮影システムと、金属帯板1を圧延する複数の圧延機と、を備える圧延設備100では、特許文献2に記載の不良判断装置のシステムを採用した場合、雰囲気内の湯気発生が抑制されており、圧延中に反射光領域の撮影が従来に比べて確実に行われることから、板形状異常判定もより高精度にかつ確実に行われ、異常発生を迅速に、かつより高確率に発見でき、圧延不良に対する対処をより適切に行える圧延設備とすることができる。
【0089】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【符号の説明】
【0090】
1…金属帯板
10,20…ミルハウジング
30…ワークロール
35…バックアップロール
40…ルーパーロール
50,50A,50B…空気送風機
52…支柱
54,54B…車輪
55…設置面
60…照明装置
70…カメラ(撮影装置)
81…ヒーター(空気供給部、加熱部)
82…モーター
83…ケーシング
83A…ダクト付きケーシング(空気供給部、吸気ダクト)
84…クロスフローファン(空気噴出部)
86,86A…吸気口
87…排気口
90…制御装置
95…表示装置
100,100B…圧延設備
【要約】
【課題】従来に比べて金属帯板上での湯気の発生を抑制することが可能な空気送風機、撮影システム、圧延設備、空気送風方法、及び撮影方法を提供する。
【解決手段】空気送風機50は、金属帯板1を圧延する複数の圧延機のうち、上流側の圧延機から下流側の圧延機に向かって伸びるように、金属帯板1の幅方向の外側の操作側、駆動側の両方にそれぞれ設けられ、金属帯板1の幅方向の側面側からの圧延ライン外の外気の進入を塞ぐように空気を噴出するクロスフローファン84と、クロスフローファン84に空気を供給する空気供給部と、を備える。
【選択図】
図1