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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】金属空気電池、及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20230926BHJP
   H01M 50/77 20210101ALI20230926BHJP
   H01M 50/609 20210101ALI20230926BHJP
【FI】
H01M12/06 A
H01M12/06 E
H01M50/77
H01M50/609
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020536438
(86)(22)【出願日】2019-07-23
(86)【国際出願番号】 JP2019028911
(87)【国際公開番号】W WO2020031688
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2018147530
(32)【優先日】2018-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】成田 奨
(72)【発明者】
【氏名】雨森 由佳
(72)【発明者】
【氏名】阪間 寛
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-004644(JP,A)
【文献】特許第6316529(JP,B1)
【文献】特開2018-067448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/06
H01M 50/77
H01M 50/609
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属極と、
前記金属極の両側に、対向して配置される空気極と、
前記金属極及び前記空気極を支持する筐体と、を有して構成される金属空気電池セルが複数個、並設された金属空気電池ユニットを備え、
前記空気極は、前記筐体の両側の外面に露出しており、
各金属空気電池セルには、夫々、液室が形成されており、複数個の前記金属空気電池セルを組み合わせた前記金属空気電池ユニットには、各金属空気電池セルの間にて対向する前記空気極間に、上方が開放された空気室が形成されており、
各金属空気電池セルには、前記液室と連通して電解液を前記液室に供給すると共に、前記金属極と前記空気極との反応により生じる生成物を前記金属空気電池ユニットの外部へ放出が可能な貫通孔が形成されている、ことを特徴とする金属空気電池。
【請求項2】
前記金属極は、下端が、自由端として前記筐体に支持されており、前記貫通孔は、前記筐体の底部に形成されており、前記金属極の下端と前記貫通孔の上端とが対向していることを特徴とする請求項1に記載の金属空気電池。
【請求項3】
前記金属極の下端は、前記貫通孔の上端以上の位置に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の金属空気電池。
【請求項4】
前記筐体の、前記空気極が配置される両側の側部は、前記空気極を固定する固定部と、前記固定部の外周を、上方を除いて囲み、前記固定部よりも突き出した枠部と、を有して構成され、
前記空気極は、前記固定部に固定されるとともに、
前記金属空気電池セルの前記枠部同士が突き合わされて、上方が開放された前記空気室が形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の金属空気電池。
【請求項5】
前記金属極、或いは、前記金属空気電池セルは、前記筐体に、交換可能に支持されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の金属空気電池。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の金属空気電池ユニットと、電解液を収容可能な発電槽と、を有し、
前記金属空気電池ユニットの下面と、前記発電槽との底面との間に隙間が空くように、前記金属空気電池ユニットが、前記空気室の開放された上部を上向きにした状態で、前記電解液を収容した前記発電槽内に入れられて、前記電解液が、前記貫通孔を介して前記液室内に注入され、前記生成物は、前記貫通孔を通って前記隙間に排出されることを特徴とする金属空気電池。
【請求項7】
前記発電槽内の前記電解液を循環させる循環部が設けられることを特徴とする請求項6に記載の金属空気電池。
【請求項8】
前記発電槽内に排出された前記生成物を収集する収集部が設けられることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の金属空気電池。
【請求項9】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の金属空気電池ユニットと、電解液を収容可能な発電槽と、を使用して、
前記金属空気電池ユニットの下面と、前記発電槽との底面との間に間隔が空くように、前記金属空気電池ユニットを、前記電解液を収容した前記発電槽内に、前記空気室の開放された上部を上向きにした状態で入れ、或いは、前記金属空気電池ユニットが配置された前記発電槽内に、前記電解液を入れて、発電を開始させることを特徴とする金属空気電池の使用方法。
【請求項10】
前記発電槽内で水流を作り、前記電解液を循環させながら発電させることを特徴とする請求項9に記載の金属空気電池の使用方法。
【請求項11】
前記発電槽に排出された生成物を収集しながら発電させることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の金属空気電池の使用方法。
【請求項12】
前記金属極、或いは、前記金属空気電池セルを、交換しながら、発電を継続することを特徴とする請求項9から請求項11のいずれかに記載の金属空気電池の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の金属空気電池セルを備えた金属空気電池、及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池では、正極である空気極において、大気中の酸素を正極活物質として利用し、当該酸素の酸化還元反応が行われる。一方、負極である金属極において、金属の酸化還元反応が行われる。金属空気電池のエネルギー密度は高く、災害時等における非常用電源等の役割として期待されている。電解液を金属空気電池に給水する事で発電が開始される。
【0003】
従来においては、様々な金属空気電池の構造が提案されている(例えば、特許文献1から特許文献4)。
【0004】
特許文献1によれば、金属極と空気極とをセル内に組み込み、セルの底面に設けられた海水取入口から、セル内のセル電解液室に電解液が注入されるように構成されている。
【0005】
特許文献2によれば、電槽内に、空気極と金属極とを取り付けた空気供給箱を複数収容して、複数セルを形成している。電槽には注液口が設けられており、海水を、注液口を介して電槽内に注入することが出来る。
【0006】
特許文献3によれば、セル内には、空気極と金属極とが2組、組み込まれており、給水部がセルの上面に配置されている。給水部から電解液を注入し発電させる。
【0007】
特許文献4によれば、ホルダに固定された金属極と空気極を備える電池を、電解液が注入された容器内に入れて発電させ、ホルダを容器から移動させて、電池を電解液から離すことで、発電を停止させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開昭52-22526号公報
【文献】実開昭54-137732号公報
【文献】特開2017-4644号公報
【文献】特開2016-76319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した特許文献のうち、特に、特許文献1及び特許文献2について考察する。特許文献1では、第2図に示すように、セル内部を区画壁(2)で区画して、中央に、セル電解室(9)を設け、セル電解室(9)の両側に空気室(7)を形成している。空気室(7)は、単セルの側壁(8)により外壁が区画されており、単セル構造で発電が可能である。第2図に示す単セル構造を海水に入れると、海水は、海水取入口(12)からセル電解室(9)内に注入されるが、区画された空気室(7)には入り込まないようになっている。このように、特許文献1は、単セル構造にて、セル電解室(9)と空気室(7)とを完全に部屋に区画するため、空気室(7)の外壁としての側壁(8)が必要となり、また、空気室(7)に十分な空気を導くように、空気室(7)を十分な大きさで形成することが必要である等、セル幅(ここで、「セル幅」は、特許文献1の第2図に示す電槽(1)の幅寸法が該当する)を広くすることが必要となる。
【0010】
そのため、高出力を得るために、複数のセルを並設する構成を考えたとき、複数セルのトータル幅を所定範囲に収めるには、並設可能なセル数を少なくしなければならない。
【0011】
すなわち、特許文献1では、金属極の両側に空気極を配置し、金属極の両側で反応を起こすことができるため、個々のセルの出力を期待できるものの、省スペースで、セル数を効果的に増やすことができず、十分な高出力を得ることができない。
【0012】
また、特許文献2では、空気供給体箱体の両側に夫々、空気極と金属極とを配置し、これを1セルとして、複数のセルを電槽内に配置している。しかしながら、特許文献2の構成では、金属極の片側にのみ空気極が配置された構成であるため、高出力を期待できない。また、特許文献2では、電槽の底面に生成物が溜まってしまい、これを取り除く手段を有していない。このため、生成物が、金属極と空気極との間の反応の阻害し、出力が経時的に低下してしまう。
【0013】
更に、従来の金属空気電池では、発電が終了すると、使用ができなくなり、処分する必要があった。すなわち、従来の金属空気電池は、使い切りの一次電池であった。
【0014】
そこで、本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、高出力を得ることができるとともに、発電に伴う生成物の排出を促進でき、出力の経時的安定性を図ることができる金属空気電池、及びその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の金属空気電池は、金属極と、前記金属極の両側に、対向して配置される空気極と、前記金属極及び前記空気極を支持する筐体と、を有して構成される金属空気電池セルが複数個、並設された金属空気電池ユニットを備え、前記空気極は、前記筐体の両側の外面に露出しており、各金属空気電池セルには、夫々、液室が形成されており、複数個の前記金属空気電池セルを組み合わせた前記金属空気電池ユニットには、各金属空気電池セルの間にて対向する前記空気極間に、上方が開放された空気室が形成されており、各金属空気電池セルには、前記液室と連通して電解液を前記液室に供給すると共に、前記金属極と前記空気極との反応により生じる生成物を前記金属空気電池ユニットの外部へ放出が可能な貫通孔が形成されている、ことを特徴とする。
【0016】
本発明では、前記金属極は、下端が、自由端として前記筐体に支持されており、前記貫通孔は、前記筐体の底部に形成されており、前記金属極の下端と前記貫通孔の上端とが対向していることが好ましい。
【0017】
本発明では、前記金属極の下端は、前記貫通孔の上端以上の位置に配置されていることが好ましい。
【0018】
本発明では、前記筐体の、前記空気極が配置される両側の側部は、前記空気極を固定する固定部と、前記固定部の外周を、上方を除いて囲み、前記固定部よりも突き出した枠部と、を有して構成され、前記空気極は、前記固定部に固定されるとともに、前記金属空気電池セルの前記枠部同士が突き合わされて、上方が開放された前記空気室が形成されることが好ましい。
【0019】
本発明では、前記金属極、或いは、前記金属空気電池セルは、前記筐体に、交換可能に支持されていることが好ましく、作業性や筐体設計の観点から、前記空気電池セルが交換可能に支持されていることが更に好ましい。
【0020】
本発明では、上記に記載の金属空気電池ユニットと、電解液を収容可能な発電槽と、を有し、前記金属空気電池ユニットの下面と、前記発電槽との底面との間に隙間が空くように、前記金属空気電池ユニットが、前記空気室の開放された上部を上向きにした状態で、前記電解液を収容した前記発電槽内に入れられて、前記電解液が、前記貫通孔を介して前記液室内に注入され、前記生成物は、前記貫通孔を通って前記隙間に排出されることが好ましい。
【0021】
本発明では、前記発電槽内の前記電解液を循環させる循環部が設けられることが好ましい。
【0022】
本発明では、前記発電槽内に排出された前記生成物を収集する収集部が設けられることが好ましい。
【0023】
本発明の金属空気電池の使用方法は、上記に記載の金属空気電池ユニットと、電解液を収容可能な発電槽と、を使用して、前記金属空気電池ユニットの下面と、前記発電槽との底面との間に間隔が空くように、前記金属空気電池ユニットを、前記電解液を収容した前記発電槽内に、前記空気室の開放された上部を上向きにした状態で入れ、或いは、前記金属空気電池ユニットが配置された前記発電槽内に、前記電解液を入れて、発電を開始させることを特徴とする。
【0024】
本発明では、前記発電槽内で水流を作り、前記電解液を循環させながら発電させることが好ましい。
【0025】
本発明では、前記発電槽に排出された生成物を収集しながら発電させることが好ましい。
【0026】
本発明では、前記金属極、或いは、前記金属空気電池セルを、交換しながら、発電を継続することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の金属空気電池によれば、高出力を得ることができるとともに、発電に伴う生成物の排出を促進でき、出力の経時的低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施の形態における、金属空気電池ユニットの斜視図である。
図2】本実施の形態における、金属空気電池セルの斜視図である。
図3図3Aは、図2に示す金属空気電池セルの正面図であり、図3Bは、図3Aに示す金属空気電池セルをA―A線に沿って切断し矢印方向から見た断面図であり、図3Cは、金属空気電池セルの平面図であり、図3Dは、金属空気電池セルの裏面図である。
図4】本実施の形態における、金属空気電池の断面図である。
図5】電解液の循環方式を説明するための、金属空気電池の模式図である。
図6】本実施形態における、沈殿槽を備えた金属空気電池の斜視図である。
図7図6に示す沈殿槽内の断面図である。
図8】別の実施の形態における、金属空気電池の斜視図である。
図9】別の実施の形態における、金属空気電池の断面図である。
図10】別の実施の形態における、金属空気電池ユニットの底面図である。
図11】定電流放電試験における、時間と電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0030】
なお、以下に図面を用いながら説明する本実施形態において、「金属空気電池」とは、複数の金属空気電池セルを並設した金属空気電池ユニットを指すこともあるし、金属空気電池ユニットと、電解液を収容した発電槽との組み合わせを指すこともある。
【0031】
図1は、本実施の形態における、金属空気電池ユニットの斜視図である。図1に示すように、金属空気電池ユニット1は、例えば、6つの金属空気電池セル2を並設して構成される。ただし、金属空気電池セル2の数を限定するものでない。
【0032】
本実施形態における金属空気電池ユニット1は、同じ構造の金属空気電池セル2を複数組み合わせたものである。金属空気電池セル2の構造について、図2及び図3を用いて詳述する。
【0033】
図2に示すように、金属空気電池セル2は、金属極3と、空気極4と、金属極3及び空気極4を支持する筐体5と、を有して構成される。
【0034】
図3B及び図3Cに示すように、空気極4は、金属極3の両側に間隔を空けて配置されると共に、筐体5の両側外面に露出している。
【0035】
図2及び図3A図3Dに示すように、筐体5は、上部5aと、下部5bと、上部5aと下部5bとを繋ぐ前部5c、後部5d、及び側部5e、5fと、を有する。筐体5は、一体的に成形されたものであってもよいし、複数に分割された各成形体を組み合わせて筐体5が構成されてもよい。
【0036】
筐体5の上部5a、下部5b、前部5c及び後部5dは、略平面で形成されている。ただし、上部5aには、スリット5gが設けられ、金属極3が、このスリット5g内に固定支持されている。図3Cに示すように、金属空気電池セル2の筐体5の上部5aに形成されたスリット5gの幅のほうが、金属極3の幅よりも広くされている。金属極3とスリット5gとの間には、後述する液室6に繋がる連通孔5kが形成されている。
【0037】
筐体5の側部5e、5fには、夫々、窓5hが設けられている(図3Bを参照)。また、各窓5hの上側、下側、左側及び右側の全周を囲む固定部5iが形成されている。図3Bには、窓5hの上側及び下側に位置する固定部5iが図示されているが、実際には、窓5hの左側及び右側にも固定部5iは存在し、窓5hの全周囲が、固定部5iで取り囲まれている。
【0038】
図3Bに示すように、各空気極4は、各側部5e、5fの固定部5iに接着剤等で固定されており、各窓5hを塞いでいる。筐体5の側部5e、5fに夫々設けられた窓5hが塞がれたことで、側部5e、5fに固定された空気極4の間には、液室6が形成されている。液室6は、後述する電解液の供給口としての貫通孔8を除いて囲まれている。
【0039】
図2図3A図3B及び図3Cに示すように、固定部5iの外周には、上側を除いて、枠部5jが形成されている。すなわち、枠部5jは、固定部5iの下側、左側及び右側を囲むように形成されている。また、枠部5jは、固定部5iよりも外方に突き出している。このため、枠部5jと固定部5iとの間には、段差が形成されている。図2図3B及び図3Cに示すように、空気極4は、枠部5jの表面よりも奥まった位置(後方)に配置されている。よって、空気極4と枠部5jとの間には、上方及び空気極4の前方が開放された空間が形成されている。この空間は、複数の金属空気電池セル2を並設させることで、上方のみが開放した空気室7を構成する(図4を参照されたい)。
【0040】
図3B及び図3Dに示すように、筐体5の下部5bには、液室6に通じる貫通孔8が形成されている。貫通孔8の幅寸法Tは、金属極3の厚みより大きい。ここで、「幅寸法」とは、筐体5の一方の側部5eから他方の側部5fに向かう方向の寸法を指す。図3B及び図3Dに示すように、貫通孔8は、金属極3の下端3aと対向する位置に形成される。したがって、図3Dに示すように、貫通孔8を通して金属極3の下端3aを見ることが出来る。図3B及び図3Dに示すように、金属極3は、貫通孔8の幅寸法Tの中心に位置するように配置されることが好ましい。
【0041】
本実施形態では、金属極3の下端3aと貫通孔8の上端8aとの位置関係を限定するものではないが、図3Bに示すように、金属極3の下端3aは、貫通孔8の上端8a以上の位置に配置されることが好ましい。ここで、「上端8a以上の位置」とは、上端8aの位置、及び上端8aの上方の位置を含む。これによって、金属極3と空気極4との反応により生じた生成物を、貫通孔8から外部に効果的に排出することが出来る。また、本実施形態では、金属極3の左右両側に空気極4が設けられているので、金属極3の左右両側にて生成物が生成される。このため、上記したように、貫通孔8の幅寸法Tの中心に、金属極3を配置することで、金属極3の左右両側から生成される生成物を、適切に貫通孔8を通して外部に排出することが可能になる。
【0042】
また、図3Bに示すように、金属極3の下端3aは自由端とされている。これにより、金属極3の下端3aを揺動させることができる。このため、空気極4と金属極3との間に生成物が堆積したときに、金属極3を撓らせることができ、生成物による押圧力を緩和でき、金属極3及び空気極4の破損を抑制することが出来る。
【0043】
図3Dでは、貫通孔8の形状は矩形状であるが、矩形状に限定するものでなく、その他の形状であってもよい。また、図3Dでは、貫通孔8の数が3つであるが、貫通孔8の数を限定するものではない。
【0044】
貫通孔8は、電解液を液室6まで供給する供給口としての機能を有すると共に、金属極3と空気極4との反応により生じた生成物を、金属空気電池ユニット1の外部へ排出させる機能を有している。
【0045】
このように、電解液の供給と、生成物の排出とが可能であれば、貫通孔8の形成位置を、筐体5の下部5bに限定するものではなく、例えば、貫通孔8を、筐体5の前部5cや後部5dに設けることも出来る。このとき、貫通孔8は、前部5cや後部5dの下側に配置することが好ましい。「下側」とは、前部5c及び後部5dの高さ寸法の下半分、好ましくは、高さ寸法の1/2以下の下側部分、より好ましくは、高さ寸法の1/3以下の下側部分である。このように、貫通孔8を、筐体5の前部5cや後部5dに設けても、電解液10の供給と、生成物の排出とが可能である。
【0046】
ただし、生成物は、自重により、液室6内を降下するため、貫通孔8を、筐体5の下部5bに形成することが、生成物の排出を効果的に促進することができて好ましい。また、後述するように、筐体5の下部5b側に水流を発生させることで、より生成物の排出を促進させることができる。
【0047】
また、図3Dでは、貫通孔8は、金属極3の横幅方向(筐体5の前部5cから後部5dに向かう方向)に等間隔にて複数形成されているが、図3Dに示す、左側の貫通孔8から右側の貫通孔8にかけて連通する長いスリット状の貫通孔8が形成されていてもよい。ただし、貫通孔8が長いスリット状であると、金属極3と空気極4との反応により生じた生成物が、一旦、貫通孔8を介して外部に抜けても、水流などによっては、再び、生成物が貫通孔8を介して液室6内に戻りやすくなる。よって、貫通孔8は、図3Dに示すように、複数に分けて形成することが、生成物の排出効果に優れており好ましい。なお、水流がない構成では、各貫通孔8を連通する長いスリット状であってもよい。
【0048】
図1に示すように、複数個の金属空気電池セル2が並設されるとともに、両側に位置する金属空気電池セル2の枠部5jに外壁部9が接着剤等で固定されている。図1及び、図4の断面図に示すように、複数の金属空気電池セル2を並設することで、各金属空気電池セル2の間にて対向する空気極4間に、上方が開放された空気室7を形成することが出来る。また、金属空気電池ユニット1の最両端に位置する金属空気電池セル2の外側面に、夫々、外壁部9を配置することで、図4に示すように、最も左側に位置する金属空気電池セル2の左側の空気極4、及び最も右側に位置する金属空気電池セル2の右側の空気極4に対して、夫々、空気室7を設けることができる。
【0049】
図4に示すように、図1に示す金属空気電池ユニット1が、電解液10を収容した発電槽11内に浸される。このとき、電解液10は、貫通孔8を通して液室6内に注入される。また、図3Cを用いて説明したように、金属極3と、筐体5の上部5aのスリット5gとの間には、液室6に繋がる連通孔5kが形成されているので、電解液10の液室6内への注入の際、液室6の空気は連通孔5kから外部に抜けるため、電解液10を、貫通孔8を通してスムースに液室6内部に導くことが出来る。
【0050】
また、図4に示すように、発電槽11の底面11aと金属空気電池ユニット1の下面1aとの間には、突起部12が設けられており、発電槽11の底面11aと金属空気電池ユニット1の下面1aとの間には、所定高さの隙間13が形成されている。したがって、金属空気電池ユニット1の下面1aが、発電槽11の底面11aに接触することはない。突起部12は、金属空気電池ユニット1の下面1aに固定されていてもよいし、発電槽11の底面11aに固定されていてもよい。或いは、金属空気電池ユニット1の下面1a及び、発電槽11の底面11aの双方に、突起部が配置されていてもよい。この場合、金属空気電池ユニット1の下面1a及び、発電槽11の底面11aに設けられた各突起部は、夫々対向する位置に設けられていてもよいし、対向しないように設けられていてもよい。
【0051】
図4に示すように、金属空気電池ユニット1の下面1aと、発電槽11の底面11aとの間に隙間13を設けるために、突起部12の配置でなく、別の手段を用いることもできる。例えば、金属空気電池ユニット1の液室6に電解液10が満たされても、金属空気電池ユニット1の下面1aが、発電槽11の底面11aから浮いた状態となるように、発電槽11の深さ寸法を、金属空気電池ユニット1の高さより大きくしてもよい。
【0052】
図4に示すように、電解液10が液室6に注入されることで、例えば、金属極3がマグネシウムであるとき、金属極3の近傍においては、下記(1)で示す酸化反応が生じる。また、空気極4においては、下記(2)で示す還元反応が生じる。マグネシウム空気電池全体としては、下記(3)に示す反応が起こり、放電が行われる。
(1)2Mg →2Mg2++4e
(2)O+2HO+4e →4OH
(3)2Mg+O+2HO →2Mg(OH)
【0053】
このとき、電池反応の副反応にて発生した水素は、液室6に通じる連通孔5k(図3Cを参照)から外部に排出することが出来る。
【0054】
また、金属極3と空気極4の酸化還元反応の際に生じる生成物(Mg(OH))を、各金属空気電池セル2の下部に設けられた貫通孔8を介して、発電槽11の底面11a側に排出することが出来る。したがって、各金属空気電池セル2の液室6内部に生成物が溜まるのを抑制することができ、電極の破損や電気特性の劣化を抑制することが可能であり、長寿命化を図ることが出来る。
【0055】
このように、各金属空気電池セル2に設けられた貫通孔8は、電解液10を液室6に供給すると共に、金属極3と空気極4との反応により生じる生成物を、金属空気電池ユニット1の外部へ排出する役割を有している。
【0056】
以上、本実施形態の金属空気電池によれば、金属空気電池ユニット1を構成する複数の金属空気電池セル2には夫々、金属極3の両側に、空気極4が配置されており、各空気極4は、金属空気電池セル2の両側にて露出した状態で配置されている。そして、各金属空気電池セル2を並設することで、各金属空気電池セル2の露出した空気極4間に、上方が開放された空気室7を形成することが出来る。
【0057】
このように、本実施形態では、各金属空気電池セル2に、周囲を完全に区画した空気室7を形成せず、複数の金属空気電池セル2を並設することで、各金属空気電池セル2の空気極4間に空気室7が形成されるセル構造にしたので、各金属空気電池セル2を構成する筐体5の幅(図2に示す前部5c及び後部5dの幅)を小さく形成することが出来る。よって、金属空気電池ユニット1を、所定の幅寸法内(ここでの「幅寸法」は、金属空気電池セル2の並設方向の寸法である)で形成するにあたって、並設する金属空気電池セル2の数を増やすことができ、上記した各セル内で空気極4が金属極3の両側に配置されることと相まって、効果的に、高出力を得ることが出来る。
【0058】
また、各金属空気電池セル2の下部5bには、夫々、液室6に通じる貫通孔8が設けられており、金属空気電池ユニット1を、電解液10を収容した発電槽11内に入れることで、電解液10を液室6に注入でき、発電を開始することができる。このように、各金属空気電池セル2に対する電解液10の注入を簡単に行うことが出来る。
【0059】
しかも、本実施形態では、貫通孔8を通して、発電に伴う生成物の排出を促進できる。本実施形態では、図4に示すように、金属空気電池ユニット1を発電槽11内に配置したとき、金属空気電池ユニット1の下面1aと、発電槽11の底面11aとの間に隙間13が空くように制御しており、これにより、生成物を金属空気電池ユニット1の液室6から発電槽11の底面11a側に向けて放出することが出来る。このように、本実施形態では、各金属空気電池セル2の液室6から貫通孔8を通して生成物を外部へ放出することができるので、金属極3と空気極4との間で生じる反応を長時間持続でき、発電に伴う電圧を長時間一定に保つことができ、長寿命化を促進することが出来る。
【0060】
本実施形態では、図5に示すように、例えば、発電槽11の内部に、還流部としての水流ポンプ20を配置し、電解液10を還流させることが好ましい。図5では、水流ポンプ20を用いて、金属空気電池ユニット1の下面1aと、発電槽11の底面11aとの間の隙間13に水流を発生させ、電解液10を還流させることが出来る。これにより、図5に示すように、金属空気電池ユニット1の下面1aと発電槽11の底面11aとの間の隙間13に放出された生成物21は、発電槽11の底面11aに留まらず、金属空気電池ユニット1の側方等に流され拡散する。また、金属空気電池ユニット1の下面1aと、発電槽11の底面11aとの間の隙間13に水流を発生させることで、貫通孔8を通して隙間13に放出される生成物21の放出スピードを上げることができ、各金属空気電池セル2の液室6に溜まる生成物量をより効果的に低減することが出来る。
【0061】
以上により、図5のように、発電槽11内の電解液10に水流を生じさせることで、各金属空気電池セル2の液室6から発電槽11内への生成物21の放出を促進でき、金属極3を最後まで反応に供させることができる。このように、本実施形態では、金属極3を最後まで使い切ることが可能であり、長期放電による出力低下を抑制でき、より効果的に、出力の経時的安定性を得ることができる。
【0062】
また、金属極3を使い切った場合等、新たな金属極3を金属空気電池セル2内に配置できるように、金属極3は筐体5に交換可能に支持されていることが好ましい。これにより、更に、効果的に出力の経時的安定性を得ることができる。例えば、金属極3を、金属空気電池セル2の外側から内部に向けてスライドさせて挿入でき、所定位置まで挿入したらそれ以上挿入できないように構成されている。
【0063】
上記では、金属極3を交換したが、金属空気電池セル2を発電終了前後で、適宜交換することも可能である。このように、金属極3や金属空気電池セル2を適宜交換することで、一次電池でありながら、連続的な発電を得ることが可能になる。また、本実施形態では、後述するように、電解液を循環させることが可能であり、これにより、不純物の少ない(反応生成物が少ない)電解液を長時間、使用することが可能になる。このことも、連続的な発電効果を補助する役割を担っている。なお、作業性や筐体設計の観点から、金属空気電池セル2が交換可能に支持されていることが更に好ましい。すなわち、金属極3の交換では、金属空気電池セル2のうち金属極3のみを交換可能とするために、セル構造が複雑になりやすい。或いは、金属空気電池セル2の上部にスリット等を設けて、金属極3のみを取り出すことが可能な構造としなければならず、また交換の際に、塵埃等が混入しやすい。一方、金属空気電池セル2の交換であれば、セル毎にまとめて交換でき、作業性を向上させることができ、また筐体設計を容易化できる。
【0064】
図6に示す金属空気電池では、金属空気電池ユニット1を配置する発電槽11の隣に、沈殿槽(収集部)30が設けられている。図6に示すように、発電槽11と沈殿槽30との間は、仕切り板31で仕切られている。なお、仕切り板31には、切欠き31aが設けられており、沈殿槽30を還流した電解液を、切欠き31aから発電槽11内に流すことが出来る。
【0065】
図6及び図7に示すように、沈殿槽30には、電解液の還流方向に向けて、間隔を空けて複数の隔壁32が設けられており、沈殿槽30の外壁、及び隔壁32により区画された複数の沈殿室30a、30b、30c、30dが形成されている。切欠き31aに遠い側から近い側に向けて、第1の沈殿室30a、第2の沈殿室30b、第3の沈殿室30c、及び第4の沈殿室30dとする。図7に示すように、第1の沈殿室30a、第2の沈殿室30b、第3の沈殿室30c及び第4の沈殿室30dの順に、各沈殿室の長さ寸法Lが小さくなっている(図7では、代表して第1の沈殿室30aに長さ寸法Lを付した)。
【0066】
また、図6及び図7に示すように、隔壁32の高さは、沈殿槽30の外壁や仕切り板(切欠き31aの位置を除く)31の高さよりも低くされている。
【0067】
図6に示すように、各隔壁32の上部には、夫々筒状体33が配置されている。図6に示すように、筒状体33にはスリット33aが形成されており、筒状体33がスリット33aを介して隔壁32に固定支持されている。
【0068】
発電槽11内での、生成物による濁った電解液は、図示しないポンプ等の手段を用いて、第1の沈殿室30aに送られる。また、沈殿槽30では、電解液が、第1の沈殿室30aから第4の沈殿室30dに向けて流れるように水流が生じている。図7に示すように、電解液が、第1の沈殿室30aから第2の沈殿室30bに移動する際、電解液内に含まれる一部の生成物21は第1の沈殿室30aに沈殿し、第1の沈殿室30aの底部に溜まる。そして、電解液の上澄みが、第1の沈殿室30aから第2の沈殿室30b、第3の沈殿室30c及び第4の沈殿室30dの順に送られるが、その都度、電解液中に含まれる生成物21は、各沈殿室の底に溜まる。このとき、沈殿室の底に溜まる生成物の量は、第1の沈殿室30aから第4の沈殿室30dに向けて徐々に減っていく。このため、一番、生成物21が溜まりやすい第1の沈殿室30aの長さ寸法Lを一番長く形成し、第2の沈殿室30b、第3の沈殿室30c及び第4の沈殿室30dの順に徐々に長さ寸法Lを短くすることで、生成物21の収集効果を向上させることができ好ましい。
【0069】
本実施形態では、各隔壁32の上部に筒状体33が配置されており、図7に示すように、発電槽11から沈殿槽30に送られた電解液10の水面は、各筒状体33の上部よりも低い位置にある。このとき、電解液10の上澄みが、筒状体33の内部の流路を還流することで、生成物21の沈殿を促進させることが出来る。なお、筒状体33は、円筒である必要はなく,隣接する槽に上澄みが直接移動することを防ぐためのバリケードであり、沈殿を促すために槽内を流れる液体の流速を落とすことを目的としている。
【0070】
このように、沈殿槽30では、電解液10の上澄みを還流させ、生成物21をできる限り取り除いた電解液10を、切欠き31aから発電槽11に戻すことで、より効果的に、出力の経時的低下を抑制することができ、出力の経時的安定性を図ることが出来る。また既に記載したように、本実施形態では、金属極3や金属空気電池セル2を適宜交換することが可能であり、不純物の少ない(反応生成物が少ない)電解液を長時間、使用することと相まって、より効果的に連続的に発電させることが可能になる。
【0071】
なお、図6及び図7に示す沈殿槽30に代えて、或いは、沈殿槽30と共に、フィルタ装置(収集部)などを別途設けて、生成物21を収集し、電解液10の延命を図ることが出来る。フィルタ装置は、発電槽内に配置したり、或いは発電槽とは別に設けられた槽内に配置することもできる。
【0072】
発電を終了させたいときは、図4の状態から金属空気電池ユニット1を引き上げ、各金属空気電池セル2の液室6から電解液10を、貫通孔8を介して抜くことで、発電を簡単に止めることができる。或いは、金属空気電池ユニット1が配置された状態の発電槽11から電解液10を抜くことで、発電を止めてもよい。また、負極としての金属極を抜いても、電池反応を停止することが出来る。
【0073】
また、図1に示す金属空気電池ユニット1の上面には、図示しない天井部が設けられていてもよい。天井部には、各空気室7に通じる開口が設けられており、天井部の開口を介して各空気室7に空気が流れるようにしてもよい。
【0074】
また、上記した天井部には、電池出力を外部へ供給する外部接続用端子が設置されていてもよい。外部接続用端子は、コネクタであったり、USB端子等であり、特に限定するものではない。外部接続用端子は複数個、設けることができる。例えば、携帯機器を、直接、金属空気電池ユニット1に設けられた外部接続用端子に接続して電力供給することができる。或いは、例えば、USBハブ等の接続基板を金属空気電池ユニット1の外部接続用端子に接続し、接続基板を介して複数の携帯機器に電力供給する構成とすることも出来る。
【0075】
上記の本実施の形態の金属空気電池によれば、非常用電源の開発において、特に、省スペースにて多数のセルを設置することが可能で、且つ高出力と、出力の経時的安定性の観点から本実施の形態を開発するに至った。すなわち、本実施の形態の金属空気電池では、金属極の両側に空気極を対向配置すると共に、並設するセル数を増やすことで、高出力を得ることが可能になる。また、より効果的に、出力の経時的低下を抑制するために、発電に伴う生成物の排出を、効果的に促進できる。更には、一次電池でありながら、金属極、或いは、金属空気電池セルを交換可能であり、従来のような使い切りの使用でなく、連続的な発電が可能になる。
【0076】
本実施形態の金属空気電池は、省スペースの非常用電源として用いることができ、オフィスや工場、プラント施設等でも適用することが出来る。
【0077】
本実施形態では、各金属空気電池セル2の各電極を直列接続しても並列接続してもよく、配線方法を特に限定するものではない。
【0078】
また、図6図7に示す沈殿槽30の構成は一例であり、この構成に限定されるものでない。例えば、図6図7では、沈殿室が4つあるが、数を限定するものではない。また、筒状体33に代えて、或いは筒状体33と共に、別の還流手段を用いて、電解液の還流を促進できるようにしてもよい。
【0079】
また、本実施形態における金属空気電池の使用方法では、金属空気電池ユニット1を、電解液10が収容された発電槽11内に入れて、発電を開始させてもよいし、或いは、金属空気電池ユニット1が、予め又は使用者の手等によって、発電槽11内に配置され、空気室7に電解液10が入らないように注意しながら、電解液10を発電槽11に入れて、発電を開始してもよい。
【0080】
また、本実施形態では、金属極3、或いは、金属空気電池セル2が、筐体5に交換可能に支持されている。そして、本実施形態における金属空気電池の使用方法では、金属極3、或いは、金属空気電池セル2を、交換しながら、発電を継続することができる。なお、ここでいう「発電の継続」とは、通常の一次電池に比べて発電を延ばすことができることを意味し、交換の際に発電を停止しても、その前後において「発電が継続」されていると定義される。交換の際の作業性の観点から、金属空気電池セル2を交換できるようにすることが好ましく、金属空気電池セル2の交換により発電をスムースに継続させることができる。
【0081】
上記とは別の実施の形態の金属空気電池について説明する。図8に示すように、金属空気電池40は、金属空気電池ユニット42と、ケース43と、を有して構成される。
【0082】
図8に示すように、金属空気電池ユニット42は、例えば、3つの金属空気電池セル44を並設して構成される。金属空気電池セル44の数を限定するものでなく、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0083】
金属空気電池ユニット42は、同じ構造の金属空気電池セル44を複数組み合わせたものである。金属空気電池セル44の構造については後で詳述する。
【0084】
図8に示すように、3つの金属空気電池セル44の上面には、天井部53が取り付けられている。天井部53には、例えば、上面43aに第1の開口部45aが設けられている。また、図8に示すように、天井部53の側面(図1に示す左側面)には、第2の開口部45bが形成されている。また、図示しないが、天井部53の裏面や右側面にも、開口部が設けられていてもよい。
【0085】
ただし、図8に示す、第1の開口部45a及び第2の開口部45bの数や形成位置は、あくまでも一例である。すなわち、各開口部は1個でもよいし、複数でもよい。また、第1の開口部45a及び第2の開口部45bの少なくとも一方が形成されていない構成とすることもできる。また、天井部53が設けられていなくてもよく、或いは、天井部53に代えて、他の構成部材が設けられていてもよい。
【0086】
図8に示す各開口部45a、45bは、空気穴であるが、例えば、第2の開口部45bの位置に、電池出力を外部へ供給する外部接続用端子(図示せず)が設置されていてもよい。外部接続用端子は、コネクタであったり、USB端子等であり、特に限定するものではない。外部接続用端子は複数個、設けることができる。例えば、携帯機器を、直接、金属空気電池ユニット42に設けられた外部接続用端子に接続して電力供給することができる。或いは、例えば、USBハブ等の接続基板を金属空気電池ユニット42の外部接続用端子に接続し、接続基板を介して複数の携帯機器に電力供給する構成とすることも出来る。
【0087】
図8に示すケース43は、後述するように、電解液を収容可能な容器として機能させることができるが、金属空気電池40を使用せずに保管の際は、例えば、図8に示すケース43を、金属空気電池ユニット42の上から被せておく。これにより、塵埃等が開口部45a、45bを介して、入り込まないように、金属空気電池ユニット42を保護することができる。
【0088】
また、ケース43を、金属空気電池ユニット42の上から被せた際、ケース43と金属空気電池ユニット42との間が保持されて一体化される構造にできる。このとき、ケース3の外側面に取手を付けておけば、金属空気電池40の持ち運びに便利である。
【0089】
ケース43の形状を限定するものでないが、ケース43の外形は、金属空気電池ユニット42よりも一回り大きい金属空気電池ユニット42の相似形状であることが好ましい。
【0090】
図9は、ケース43を、図8の状態から上下逆向きにし、電解液55を収容したケース43内に、金属空気電池ユニット42を入れた状態の、金属空気電池40の断面図である。
【0091】
図9に示すように、各金属空気電池セル44は、空気極46と、金属極47と、筐体48とを、有して構成される。図9に示すように、空気極46及び金属極47は、夫々、筐体48に支持されている。空気極46と金属極47とは、横方向(紙面左右方向)に、所定の間隔を空けて対向配置されている。
【0092】
図9に示すように、各金属空気電池セル44の筐体48には、空気室50と液室51とが設けられる。図9に示すように、空気室50の上部は外部に開放された開口部50aを構成している。なお、図9には、図8に示す天井部53を図示していない。空気は、図8に示した天井部53の各開口部45a、45bから図9に示す空気室50へ導かれる。
【0093】
なお、図9に示す実施の形態では、図示左側の金属空気電池セル44と図示真ん中の金属空気電池セル44の各空気室50の右側面は、夫々、隣り合う右側の金属空気電池セル44の筐体48の側面で構成される。このように、空気室50の側面の一部を、隣接する金属空気電池セル44の筐体48で補うことで、各金属空気電池セル44を薄型化でき、金属空気電池ユニット42の小型化、ひいては、金属空気電池40の小型化を実現できる。ただし、図9に示す図示右側に位置する金属空気電池セル44の空気室50の右側面は、新たに側壁部52を配置して形成する。
【0094】
図9に示すように、空気極46は、空気室50と液室51との間に配置されている。このとき、空気極46は、その上部と下部、及び側部の各辺が、筐体48に固定支持されていることが好ましい。図9に示すように、空気極46は、空気室50及び液室51の双方に露出した状態で配置されている。
【0095】
図9に示すように、金属極47は、空気極46から液室51内に所定距離だけ離れた位置に配置されている。図9に示すように、金属極47は、その上部が筐体48に固定されるが、下部は、自由端(非固定)とされている。
【0096】
図9に示すように、筐体48の底部48aには、液室51にまで通じる貫通孔(給水口)56が設けられている。よって、図9に示すように、金属空気電池ユニット42を、電解液55を入れたケース43内に浸すと、電解液55は貫通孔56を介して各液室51内に同時に注入される。このとき、図9に示すように、電解液55の水位は、空気室50の開口部50aよりも下側であり、電解液55が空気室50内に流れ込むことはない。
【0097】
なお、図9に示す実施の形態では、貫通孔56を、筐体48の底部48aに設けたが、例えば、筐体48の側部48bに設けてもよく、或いは、底部48aと側部48bの双方に設けてもよい。また、貫通孔56を筐体48の上部に設けることも可能であるが、その場合は、貫通孔56を、空気室50の開口部50aよりも下側に位置させることが必要である。
【0098】
また、図示しないが、金属極47の周辺には、電池反応にて発生した水素等の生成ガスを液室51から外部へ排出する穴が、設けられている。
【0099】
迅速に、各金属空気電池セル44の液室51に電解液55を給水するには、貫通孔56を、筐体48の底部48aに設けることが好ましい。また、図10に示すように、貫通孔56を各金属空気電池セル44の底部48aに対して複数個、設けることができる。なお、貫通孔56の個数を限定するものではない。また、貫通孔56の形状を限定するものでなく、例えば、図10に示すように複数の小穴を設けた構造であっても、長穴の貫通孔56を各金属空気電池セル44に少なくも1つ設けた構成であってもよい。
【0100】
図9に示すように、金属極47は、筐体48の底部48aに設けられた貫通孔56と対向して配置されることが好ましい。金属極47と空気極46の酸化還元反応の際に生じる生成物を、貫通孔56を介してケース43側に放出しやすい。これにより、生成物が、各金属空気電池セル44内に溜まることによる電極の破損や電気特性の劣化を抑制することが可能である。
【0101】
例えば、貫通孔56を、筐体48の側部48bの下側に配置し、金属極47を、貫通孔56と対向配置させてもよい。「側部48bの下側」とは、側部48bの高さ寸法の下半分、好ましくは、高さ寸法の1/2以下の下側部分、より好ましくは、高さ寸法の1/3以下の下側部分である。これによっても、生成物の放出効果を得ることができる。なお、金属空気電池ユニット42を、ケース43内に入れた際に、ケース43内の電解液55が金属空気電池ユニット42上部に到達することなく、電解液55を液室51に入れることができれば、貫通孔56の位置を問うものではない。
【0102】
また、図9に示すように、金属極47の下部を自由端としている。これにより、金属極47を適切に貫通孔56に対向して配置することができる。また、金属極47の下部を自由端とすることで、金属極47の下部を揺動させることができる。このため、空気極46と金属極47との間に生成物が堆積したときに、金属極47を撓らせることができ、生成物による押圧力を緩和でき、金属極47及び空気極46の破損を抑制することが出来る。
【0103】
本実施の形態における金属空気電池40によれば、図8に示すように、空気極46と金属極47と、筐体48とを有する、同じ構造の金属空気電池セル44を、複数並設したものである。また、図9に示すように、各金属空気電池セル44の空気室50は、上部のみならず、液室51から離れた側の側部(図示右側の側部)を開放した形状とする。そして、複数の金属空気電池セル44を並設すると共に、一番端の金属空気電池セル44に対して側壁部52を配置する。このように、本実施の形態では、金属空気電池ユニット42は、金属空気電池セル44を構成する複合部品と、側壁部52との2種類の部品を組み合わせて構成される。なお、「複合部品」とは、金属空気電池セル44を構成する電極及び筐体を含む複数の部材からなることを意味する。
【0104】
図8図9に示す実施の形態の金属空気電池40においても、図1等に示す実施の形態の金属空気電池と同様に、並設するセル数を増やすことができ、高出力を得ることが可能になる。すなわち、本実施の形態では、部品点数を少なく簡単な構造で金属空気電池ユニット42を形成できる。また、薄型の各金属空気電池セル44に、上部のみが開放した空気室50を適切に形成でき、複数の金属空気電池セル44を備える金属空気電池ユニット42の小型化を実現できる。また、より効果的に、出力の経時的低下を抑制するために、発電に伴う生成物の排出を、効果的に促進できる。
【0105】
本実施の形態では、図9に示すように、ケース43に電解液55を注水し、そして、ケース43内に金属空気電池ユニット42を浸す。このとき、電解液55は、自然と貫通孔56を介して各金属空気電池セル44の液室51内に入り、液室51を満たす。このように、使用者は、各金属空気電池セル44に直接、電解液55を注入しなくてもよく、金属空気電池ユニット42を、電解液55を収容したケース43内に入れるだけでよいため、各金属空気電池セル44に対する電解液55の注入を簡略化できる。また、本実施の形態によれば、複数の金属空気電池セル44に対して、各液室51へ通じる貫通孔56を簡単な構造で形成できる。
【0106】
また、本実施の形態では、図9の状態から金属空気電池ユニット42を引き上げ、各金属空気電池セル44の液室51から電解液55を、貫通孔56を介して抜くことで、発電を簡単に止めることができる。
【0107】
本実施の形態では、図8に示すケース43は、電解液55を収容可能な容器である。よって、使用者は、図8に示すケース43をひっくり返して、ケース43内に電解液55を入れ、そして、金属空気電池ユニット42をケース43内の電解液55に浸せば発電するため、災害時等の非常時に、迅速に、金属空気電池40の使用が可能である。なお、ケース43に入れる電解液55の水位の目安となる目印を設けておくとよい。これにより、使用者は、ケース43内に適量の電解液55を入れることができる。
【0108】
図8から図10に示す金属空気電池40において、図5から図7に示す発電槽11や沈殿槽30を適用することが可能である。このように、金属空気電池40では、適宜、図1等に示す金属空気電池の構成の一部を適用することができる。
【0109】
また、本実施の形態における金属空気電池は、マグネシウム空気電池であっても他の金属空気電池であっても適用可能である。
【実施例
【0110】
以下、本発明の実験例により本発明の効果を説明する。なお、本発明の実施形態は以下の実験例によって何ら限定されるものではない。
【0111】
図11は、定電流放電試験の実験結果を示す。実験で使用した金属空気電池ユニットは、金属空気電池セルが3個並設された図1に示す構造を採用した。各金属空気電池セルの構成は、図2及び図3と同様とした。また、金属極と空気極との間の間隔を4mmとした。実験例1では、電解液に水流を生じさせなかった。一方、実験例2では、電解液に水流を生じさせた。
【0112】
図11に示す実験結果に示すように、水流を生じさせた実験例2のほうが、水流を生じさせなかった実験例1に比べて、出力の経時的低下を抑制することができるとわかった。このように水流を生じさせることで、電解液が、金属空気電池セルの内部から外部により排出しやすくなり、金属極と空気極との間の反応をより効果的に持続できる。
【0113】
また、以下に示す3つのサンプルを用意した。
実施例1:貫通孔あり+循環なし
実施例2:貫通孔あり+循環あり
比較例1:貫通孔なし
なお、各サンプルの金属極と空気極との間の間隔は4mmで統一した。
【0114】
以下の表1に示す出力の「経時的安定性」の◎は、出力が最後まで安定した状態、○は、出力がほぼ最後まで安定した状態、×は、出力が経時的に低下した状態を示す。また、表1の示す「出力時間」の◎は、所定通りの出力時間を確保できた状態、○は、ほぼ所定通りの出力時間を確保できた状態、×は、出力時間が短い状態を示す。
【0115】
【表1】
【0116】
表1に示すように、実施例1及び実施例2は、出力の経時的安定性及び出力時間がいずれも◎或いは、〇であり、良好な結果が得られた。なお、実施例1と実施例2とでは、循環を加えた実施例2のほうが、実施例1に比べて、出力の経時的安定性及び出力時間のいずれも良好な結果であった(実験例1及び実験例2も参照)。一方、貫通孔を有してない比較例1では、出力の経時的安定性及び出力時間がいずれも×であり、省スペース化で且つ安定した出力を得ることができず、非常用電源として実施例1や実施例2に劣ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の金属空気電池によれば、高出力且つ出力の経時的安定性に優れた非常用電源として使用することが出来る。
【0118】
本出願は、2018年8月6日出願の特願2018-147530に基づく。この内容は全てここに含めておく。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11