(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】中流動コンクリートの配合選定方法と中流動コンクリート
(51)【国際特許分類】
E21D 11/12 20060101AFI20230926BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20230926BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20230926BHJP
G01N 11/00 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
E21D11/12
C04B28/02
G01N33/38
G01N11/00 E
(21)【出願番号】P 2020175307
(22)【出願日】2020-10-19
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】梁 俊
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-191097(JP,A)
【文献】特開2019-191096(JP,A)
【文献】特開2021-143944(JP,A)
【文献】特開平07-244043(JP,A)
【文献】特開2020-090410(JP,A)
【文献】中村泰誠 他2名,中流動覆工コンクリートの配合設計手法の検討,平成21年度 土木学会北海道支部 論文報告集,第66号,日本,土木学会,2009年,https://www.jsce.or.jp/branch/hokkaido/_contents/active/h22/100115/E/E-10.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/12
C04B 28/02
G01N 33/38
G01N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中流動コンクリートの
使用材料に関する配合選定に際し、フレッシュコンクリートの状態において、試料となる中流動コンクリートに対して振動を一方向に限って入力し、
その加振下において、スランプフロー試験器を用いてスランプフローが600mmに達するために要する流動性に関する振動エネルギ(Ef)と、U型充填試験器を用いてU型充填高さが350mmに達するために要する充填性に関する振動エネルギ(Eu)とが
Ef>Euという関係性を満たし、かつ、前記流動性に関する振動エネルギ(Ef)と前記充填性に関する振動エネルギ(Eu)との差が最大となる配合を最適配合として選定することを特徴とする中流動コンクリートの配合選定方法。
【請求項2】
中流動コンクリートの
使用材料に関する配合選定に際し、フレッシュコンクリートの状態において、試料となる中流動コンクリートに対して振動を一方向に限って入力し、
その加振下において、スランプフロー試験器を用いてスランプフローが600mmに達するために要する流動性に関する振動エネルギ(Ef)と、分離抵抗性試験において粗骨材残存率が70%となるときの分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)
がEs>Efという関係性を満たすように配合を選定することを特徴とする中流動コンクリートの配合選定方法。
【請求項3】
さらに、前記加振下において、U型充填試験器を用いてU型充填高さが350mmに達するために要する充填性に関する振動エネルギ(Eu)と、
前記流動性に関する振動エネルギ(Ef)と、前記分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)とが、Es>Ef>Euという関係性を満たすように配合を選定することを特徴とする請求項
2に記載の中流動コンクリートの配合選定方法。
【請求項4】
フレッシュコンクリートの状態において、振動を一方向に限って入力し、
その加振下において、スランプフロー試験器を用いてスランプフローが600mmに達するために要する流動性に関する振動エネルギ(Ef)と、分離抵抗性試験において粗骨材残存率が70%となるときの分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)と、U型充填試験器を用いてU型充填高さが350mmに達するために要する充填性に関する振動エネルギ(Eu)とが、下記式(3)を満足することを特徴とする中流動コンクリート。
式(3) Es>Ef>Eu
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中流動コンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高流動コンクリートが有する自己充填性のみで構造体コンクリートの充填性を確保するのではなく、打込み時に補助的に振動を加え、軽微な締固めを行うことでコンクリートを密実に充填させる「中流動コンクリート」が提案されている(非特許文献1、2等)。
「中流動コンクリート」は、普通コンクリートと高流動コンクリートの中間の流動性を持つスランプフロー35~50cm程度のコンクリートであり、平成20年頃からトンネル覆工コンクリートを中心に施工例が報告されている。
【0003】
中流動コンクリートは、自己充填性を有しておらず、構造体コンクリートとして密実な充填を確保するためには、外力による軽微な振動・締固めを必要とする。しかし、現状では、軽微な振動・締固めの程度が明確になっていないことが、施工計画の策定、および施工の実施における懸念事項となっている。例えば、施工中、コンクリートの流動性は目視により確認できるが、コンクリートが鉄筋間隙を通過して確実に充填されたかを目視することはできず、未充填部を生じる恐れがある。また、中流動コンクリートは、締固めの際に粘度が低下して流動性が向上するものであるが、粘度の低下により材料分離が起こり、粗骨材が沈降する恐れがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】NEXCO試験方法 第7編 トンネル関係試験方法 平成25年7月 第6版(P43-P46)
【文献】NEXCO トンネル施工管理要領 平成25年7月 第7版(P38-P47)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自己充填性に加え、間隙通過性と材料分離抵抗性のいずれか、または両方を満足する中流動コンクリートの配合選定方法と、自己充填性、材料分離抵抗性、間隙通過性に優れた中流動コンクリートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.中流動コンクリートの配合選定に際し、フレッシュコンクリートの状態において、試料となる中流動コンクリートに対して振動を一方向に限って入力し、
その加振下において、スランプフロー試験器を用いてスランプフローが600mmに達するために要する流動性に関する振動エネルギ(Ef)と、U型充填試験器を用いてU型充填高さが350mmに達するために要する充填性に関する振動エネルギ(Eu)とが、Ef>Euであり、その差が最大となる配合を最適配合として選定することを特徴とする中流動コンクリートの配合選定方法。
2.中流動コンクリートの配合選定に際し、フレッシュコンクリートの状態において、試料となる中流動コンクリートに対して振動を一方向に限って入力し、
その加振下において、スランプフロー試験器を用いてスランプフローが600mmに達するために要する流動性に関する振動エネルギ(Ef)と、分離抵抗性試験において粗骨材残存率が70%となるときの分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)と、の関係に基づいて配合を選定することを特徴とする中流動コンクリートの配合選定方法。
3.前記流動性に関する振動エネルギ(Ef)と、分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)とが、下記式(1)を満足する配合を選定することを特徴とする2.に記載の中流動コンクリートの配合選定方法。
式(1) Es>Ef
4.さらに、前記加振下において、U型充填試験器を用いてU型充填高さが350mmに達するために要する充填性に関する振動エネルギ(Eu)と、の関係に基づいて配合を選定することを特徴とする2.または3.に記載の中流動コンクリートの配合選定方法。
5.前記流動性に関する振動エネルギ(Ef)と、分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)と、充填性に関する振動エネルギ(Eu)とが、下記式(2)を満足する配合を選定することを特徴とする4.に記載の中流動コンクリートの配合選定方法。
式(2) Es>Ef>Eu
6.フレッシュコンクリートの状態において、振動を一方向に限って入力し、
その加振下において、スランプフロー試験器を用いてスランプフローが600mmに達するために要する流動性に関する振動エネルギ(Ef)と、分離抵抗性試験において粗骨材残存率が70%となるときの分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)と、U型充填試験器を用いてU型充填高さが350mmに達するために要する充填性に関する振動エネルギ(Eu)とが、下記式(3)を満足することを特徴とする中流動コンクリート。
式(3) Es>Ef>Eu
【発明の効果】
【0007】
本発明により、中流動コンクリートに求められる自己充填性に加え、間隙通過性と材料分離抵抗性のいずれか、または両方を満足する中流動コンクリートを選定することができる。
本発明の中流動コンクリートは、施工時に視認することができる充填性を満足したときに、視認することができない間隙通過性と材料分離抵抗性のいずれか、または両方を満足し、施工不良を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】分離抵抗性評価用容器における筒体の平面図(a)と断面図(b)。
【
図3】分離抵抗性評価用容器における受材の平面図(a)と断面図(b)。
【
図4】実験1における単位水量と流動性に関する振動エネルギ(Ef)との関係を示すグラフ。
【
図5】実験1における単位水量と充填性に関する振動エネルギ(Eu)との関係を示すグラフ。
【
図6】実験1におけるEfとEuとの関係を示すグラフ。
【
図7】実験2における粗骨材絶対容積と、流動性に関する振動エネルギ(Ef)及び充填性に関する振動エネルギ(Ef)との関係を示すグラフ。
【
図8】実験2におけるEfとEuとの関係を示すグラフ。
【
図9】実験3の分離抵抗性試験における、加振時間から算出されるコンクリートが受けたエネルギ(E)と粗骨材残存率との関係を示すグラフ。
【
図10】実験3でEfとEsの関係から選定した配合について、単位水量と、流動性に関する振動エネルギ(Ef)及び充填性に関する振動エネルギ(Eu)との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、中流動コンクリートの配合選定方法に関し、フレッシュコンクリートの状態において、試料となる中流動コンクリートに対して振動を一方向に限って入力し、
その加振下において、スランプフロー試験器を用いてスランプフローが600mmに達するために要する流動性に関する振動エネルギ(Ef)を求め、
さらに、同一加振下において、U型充填試験器を用いてU型充填高さが350mmに達するために要する充填性に関する振動エネルギ(Eu)、分離抵抗性試験において粗骨材残存率が70%となるときの分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)のいずれか、または両方を求め、これらに基づいて配合を選定することを特徴とする。
なお、以下、各エネルギについて、「振動エネルギ(Ef)」、「Ef」等とも表す。
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化した装置や方法を例示したものに過ぎず、本発明の技術的思想は、これらに限定されるものではない。
【0011】
・加振台
本発明の配合選定方法において振動を一方向に限って加えるために用いる加振台としては、例えば、本願発明者等による特開2019-191097号公報に記載の縦振動のみを加える加振台を用いることができる。なお、本発明において使用する加振台の振動方向は、縦方向のみに限定されず、水平方向のみ、斜め方向のみ等とすることができる。また、一方向の振動とは、当然に一軸上の往復運動であり、例えば、回転運動等ではないことを意味する。
【0012】
振動を一方向に限って入力する場合、下記式(4)により、加振台が振動した時間からコンクリートが受けるエネルギを正確に求めることができる。
式(4) Et=ραmax
2t/4π2f
Et :t秒間にコンクリートが受けるエネルギ(J/L)
ρ :試料の単位容積質量(kg/L)
αmax:最大加速度(m/s2)
t :振動時間(s)
f :振動数(s-1)
【0013】
・流動性に関する振動エネルギ(Ef)
本発明において、流動性に関する振動エネルギ(Ef)は、例えば、特開2019-191097号公報に記載の加振台の上でスランプフロー試験を行い、さらに振動を一方向に限って入力し、スランプフローが600mmに達するまでの時間を測定し、この時間を式(4)のtに代入することにより求めることができる。なお、スランプフロー試験は、JIS A1101(2005)に準拠して行う。
【0014】
・充填性に関する振動エネルギ(Eu)
さらに、同一条件の加振下において、U型充填試験器を用いてU型充填高さが350mmに達するために要する充填性に関する振動エネルギ(Eu)との関係に基づいて配合を選定することができる。
本発明において、充填性に関する振動エネルギ(Eu)は、例えば、特開2019-191097号公報に記載の加振台の上で振動を一方向に限って入力しながら、U型充填試験器を用いてコンクリートの充填試験を行い、U型充填高さが350mmに達したときの時間を測定し、この時間を式(4)のtに代入することにより求めることができる。なお、コンクリートの充填試験は、「高流動コンクリートの充填試験方法(案)」(JSCE-F511-2011)に準拠し、U型試験機で測定する。
【0015】
・分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)
本発明において、分離抵抗性試験において粗骨材残存率が70%となるときの分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)は、例えば、特開2019-191097号公報に記載の加振台の上で1~20秒の範囲内の少なくとも3条件で振動を一方向に限って入力しながら分離抵抗試験を行い、その振動時間を式(4)のtに代入することにより求められるコンクリートが受けたエネルギと、その振動時間における粗骨材残存率を求め、コンクリートが受けたエネルギと粗骨材残存率との関係から検量線を作成し、この検量線から粗骨材残存率が70%となるときの振動エネルギを算出して求められる。
【0016】
本実施形態の配合選定方法において、分離抵抗試験に使用する分離抵抗性評価用容器10を
図1に、この分離抵抗性評価用容器10の筒体11の平面図と断面図を
図2に、受材13の平面図と断面図を
図3に示す。
分離抵抗性評価用容器10は、
図1に示すように、底板12と複数の筒体11と受材13とを備えている。
底板12は、筒体11の外形状よりも大きな形状の板材であれば限定されるものではなく、加振台の載置面そのものであってもよい。
【0017】
複数の筒体11は、底板12の上面に上下に積み重ねられる。本実施形態では、七つの筒体11A~Gが底板12の上に積み上げられている。本実施形態の筒体11は、内径250mm、外径267mm、高さ50mmである。筒体11を構成する材料は、試験時に変形しない程度の剛性を有するものであれば、特に限定されない。また、筒体11の形状寸法は限定されるものではなく、例えば、内径を200mm~300mmの範囲内としてもよい。なお、下記で詳述するが、分離抵抗性試験は、最上部の筒体11Aを用いて行う。本発明の分離抵抗性試験において、縦方向に積み重ねた筒体全体の高さは300mm以上、最上部の筒体11Aは、高さ50mm以上、容積2リットル以上であることが必要である。
【0018】
最下段の筒体11G以外の筒体11A~Fには、係合部材111が取り付けられている。係合部材111は、外径が筒体11の内径と同等の外径を有した筒状部材からなり、筒体11の下端から突出して、直下の筒体11に挿入される。筒体11の係合部材111を直下の筒体11に挿入することで、上下の筒体11同士が係合する。係合部材111の筒体11の下端からの突出長は限定されるものではなく、下側の筒体11と係合可能な長さに適宜決定すればよい。
【0019】
受材13は、筒体11の外面に周設される。受材13は、プラスチック樹脂製で、平面視環状の底部131と、底部131の上面に立設された内壁部132と外壁部133とからなり、その中央部には、筒体11の外径と同等の開口径(本実施形態では268mm)を有した開口134が形成される。受材13の形状寸法は限定されるものではないが、底部131、内壁部132および外壁部133により囲まれた空間の容積が、一つの筒体11の内空の容積よりも大きくなっている。本実施形態の受材13は、上から2段目の筒体11Bの外面に添設されている。なお、受材13を筒体11の外面に取り付ける際には、治具を利用してもよい。
【0020】
次に、分離抵抗性試験について説明する。
分離抵抗性試験は、例えば、特開2019-191097号公報に記載の加振台の上に分離抵抗性評価用容器10を設置して行う。
分離抵抗性試験は、容器準備工程S1、充填工程S2、加振工程S3、コンクリート採取工程S4、骨材量測定工程S5、算出工程S6を備える。
容器準備工程S1は、加振台の上に分離抵抗性評価用容器10を用意する工程である。本実施態様では、加振台の載置面上に底板12を設置し、この底板上に分離抵抗性評価用容器10を設置する(
図1参照)。
【0021】
充填工程S2は、分離抵抗性評価用容器10内にフレッシュコンクリートを充填する工程である。フレッシュコンクリートは、分離抵抗性評価用容器10の上方から流し込み、その上面を分離抵抗性評価用容器10の上端面と一致させる。
【0022】
加振工程S3は、分離抵抗性評価用容器10に充填されたフレッシュコンクリートに振動エネルギを加える工程である。本実施形態では、加振台を用いて分離抵抗性評価用容器10をそれぞれ5秒、10秒、20秒振動させる。なお、振動させない場合(0秒)についても同様に実施する。
【0023】
コンクリート採取工程S4は、分離抵抗性評価用容器10の上部から、フレッシュコンクリートを採取する工程である。フレッシュコンクリートの採取は、最上部の筒体11Aを撤去することにより行う。最上部の筒体11Aを撤去すると、この筒体11Aの容積分(一定量)のフレッシュコンクリートが溢れ落ち、受材13に回収される。この受材13に回収されたフレッシュコンクリートを採取する。なお、フレッシュコンクリートは、加振直後の流動性を有した状態で採取する。
【0024】
骨材量測定工程S5は、採取したフレッシュコンクリート中の粗骨材の質量を測定する工程である。まず、採取したフレッシュコンクリートから粗骨材を採取し、当該粗骨材に付着したセメントペーストを洗い落とし、採取した粗骨材の質量を測定する。
【0025】
算出工程S6は、粗骨材残存率が70%となるときの分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)を算出する工程である。まず、採取した粗骨材の質量を、筒体11Aの容積で除することにより、単位粗骨材量を算出する。そして、算出した単位粗骨材量(測定単位粗骨材量)の、配合時の単位粗骨材量(配合単位粗骨材量)に対する割合から、粗骨材残存率を算出する。
加振工程S3における加振台の振動時間(本実施態様では0秒、5秒、10秒、20秒)から算出されるコンクリートが受けたエネルギと、それぞれの粗骨材残存率との関係から、粗骨材残存率が70%となるときの振動エネルギ(Es)を算出する。
なお、2段目以降の筒体11B、11C、・・・についても同様に粗骨材残存率を算出することで、最上面からの高さ位置(分離抵抗性評価用容器10では最上面から50mm間隔)における粗骨材残存率を算出することもできる。
【0026】
・配合選定方法1
本発明の第一の配合選定方法は、上記したような方法により、フレッシュコンクリートの状態において、試料となる中流動コンクリートに対して振動を一方向に限って入力し、その加振下において、スランプフロー試験器を用いてスランプフローが600mmに達するために要する流動性に関する振動エネルギ(Ef)と、U型充填試験器を用いてU型充填高さが350mmに達するために要する充填性に関する振動エネルギ(Eu)とが、Ef>Euであり、その差が最大となる配合を最適配合として選定する。
【0027】
施工中、コンクリートの流動性は目視により確認できる。しかし、流動中のコンクリートが、鉄筋間隙を通過して充填されたかは目視することができない。そのため、コンクリートが確実に充填するには、所定の流動性を確保した際に、必要な充填性も確保できる配合を選定することが合理的である。そして、Ef>Euとなる配合であれば、上記した条件を満足し、中流動コンクリートが高流動コンクリートと同等のスランプ600mmを示すときに、U型充填高さは350mmより高く、充填性に優れた配合であると評価できる。さらに、EfとEuの差が最大となる配合は、施工時に流動性を確保するために加える締固めエネルギが多少不足しても、十分な充填性を確保することができ、施工不良を防ぐことができる最適配合である。
【0028】
・配合選定方法2
本発明の第二の配合選定方法は、上記したような方法により、フレッシュコンクリートの状態において、試料となる中流動コンクリートに対して振動を一方向に限って入力し、その加振下において、スランプフロー試験器を用いてスランプフローが600mmに達するために要する流動性に関する振動エネルギ(Ef)と、分離抵抗性試験において粗骨材残存率が70%となるときの分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)とを求め、流動性に関する振動エネルギ(Ef)と分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)の関係に基づいて配合を選定する。
【0029】
分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)は、フレッシュコンクリートの粗骨材残存率が70%となるときのエネルギであり、Esよりも少ないエネルギを加えたときの粗骨材残存率は70%を上回り、Esよりも多いエネルギを加えたときの粗骨材残存率は70%を下回る。そのため、流動性に関する振動エネルギ(Ef)と分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)との関係から、中流動コンクリートが高流動コンクリートと同等のスランプ600mmを示すときの分離抵抗性を評価することができる。例えば、Es>Efであれば、中流動コンクリートが高流動コンクリートと同等のスランプ600mmを示すときに、粗骨材残存率は70%より大きく、分離しにくい配合であると評価できる。
EsとEfの関係から配合を選定する場合、EsがEfより大きく、かつ、EsとEfの差が最大となる配合が、流動性と分離抵抗性とに優れており、最適配合である。
【0030】
・配合選定方法3
本発明の第三の配合選定方法は、流動性に関する振動エネルギ(Ef)、充填性に関する振動エネルギ(Eu)、分離抵抗性に関する振動エネルギ(Es)の三者の関係に基づいて配合を選定する。
上記配合選定方法1に記載した通り、EfとEuの関係のみを考慮すれば、Ef>Euであり、その差が最大となる配合が最適である。また、上記配合選定方法2に記載した通り、EfとEsの関係のみを考慮すれば、Es>Efであり、その差が最大となる配合が最適である。しかし、一方の配合選定方法で選定した最適配合が、他方の配合選定方法における最適配合と近いとは限らない。
そのため、Ef、Eu、Esの関係に基づいて配合を選定するのであれば、Es>Ef>Euを満足する配合が好ましい。Es>Ef>Euを満足する配合は、中流動コンクリートが高流動コンクリートと同等のスランプ600mmを示すときに、分離抵抗性と充填性とに優れた配合である。さらに、施工時の締固めエネルギの誤差を考慮すると、確実な充填性と分離抵抗性を確保するためには、EsとEfの差(Es-Ef)、EfとEuの差(Ef-Eu)は、どちらも1.0J/L以上であることが好ましく、2.0J/L以上であることがより好ましく、2.5J/L以上であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を、下記実施例により説明する。ただし、本発明は、下記実施例の記載に何ら限定されない。
「使用材料」
セメント:普通ポルトランドセメント(密度3.16g/cm3)
細骨材 :千葉県君津産山砂(表乾密度2.62g/cm3、吸水率1.56%、F.M.2.44)
粗骨材 :青梅産石灰石砕石(最大寸法20mm、表乾密度2.66g/cm3、吸水率2.86%、F.M.6.39、実積率62.0%)
高性能AE減水剤:ポリカルボン酸エーテル系化合物(SP)
増粘剤含有型高性能AE減水剤:ポリカルボン酸エーテル系化合物と増粘性高分子化合物の複合体(VSP)
なお、空気量は、AE剤(アルキルエーテル系)で調整した。
【0032】
「実験1」
粗骨材絶対容積が一定の場合、単位水量の変化に伴うEfとEuの変化を確認するため、単位水量を150~175kg/m
3の間で変化させた。粗骨材絶対容積は360L/m
3(配合1~8)、390L/m
3(配合9~14)の2水準とした。また、ペーストの粘性がEfとEuに与える影響を確認するため、配合2、6における高性能AE減水剤を増粘剤含有型高性能AE減水剤に変えた配合(配合7~8)に関しても検討を行った。
配合を表1に、流動性に関する振動エネルギ(Ef)と充填に関する振動エネルギ(Eu)とを表2、単位水量の変化によるEfの変化を
図4に、単位水量の変化によるEuの変化を
図5に示す。
【0033】
【0034】
【0035】
図4より、単位水量が増加するとEfが小さくなる傾向が確認できた。水セメント比一定の条件で、単位水量が増えるとペースト量が増えることから、スランプフロー600mmに達するのに必要なエネルギEfが小さくなったと考えられる。
粗骨材絶対容積が360L/m
3である配合1~8のEfは、粗骨材絶対容積が390L/m
3の配合9~14のEfより大きくなっている。ペースト量が一定の条件で粗骨材絶対容積が少ないにもかかわらず、Efが大きくなっていることは、粗骨材絶対容積の減少によって増えた細骨材の噛み合わせが影響したと考えられる。
【0036】
図5より、単位水量が増加するとEuは小さくなる傾向であり、その傾向はEfよりもEuで顕著となっている。これは、単位水量の増加に伴い粗骨材を取り巻くペースト量が増えることにより、充填性が改善されたためと考えられる。
粗骨材絶対容積を少なくした場合に、Efの変化の傾向は同傾向であったことに対して、Euは単位水量155~160kg/m
3を境に増減傾向が異なる結果となった。このことは、細骨材量と粗骨材量のバランスが充填性に大きく影響することを説明している。
【0037】
図4、7に示すように、VSPを用いた配合はSPを用いた配合と比べて、Efは大きく、Euは小さくなる傾向となり、差は小さいものの、ペーストの粘性の増大による影響が確認された。
以上より、充填性の検討においては、粗骨材絶対容積のみでなく、細骨材量と粗骨材量のバランス、単位水量などと併せて検討する必要があることが確認できた。
【0038】
配合の相違によるEfとEuの大きさとその大小関係の変化を確認するため、Efを横軸、Euを縦軸にしたエネルギの測定結果を
図6に示す。
図6に示す斜めの分割線は、EfとEuが等しい場合である。
分割線より上方にプロットされる配合は、コンクリートの流動性が十分に確保される流動性に関する振動エネルギ(Ef)を加えても、コンクリートの充填性が確保できない配合であり、コンクリートの流動が目視で確認できたとしても、その内部では閉塞または未充填部が生じている恐れがある。
分割線より上方にプロットされる配合は、コンクリートの流動性を確保される流動性に関する振動エネルギ(Ef)を加えたときに、コンクリートの充填性が確保される配合であり、コンクリートの流動が目視で確認できたときには、その内部は充填されていると判断できる。
【0039】
「実験2」
単位水量を160kg/m
3一定で、粗骨材絶対容積を315~420L/m
3の間で変化させて最適な粗骨材絶対容積を検討した(配合15~20)。
配合を表3に、流動性に関する振動エネルギ(Ef)と充填性に関する振動エネルギ(Eu)とを表4に、粗骨材絶対容積に対するEfとEuを
図7に、Efを横軸、Euを縦軸にしたエネルギの測定結果を
図8に示す。
【0040】
【0041】
【0042】
実験1では、
図6に示すように粗骨材絶対容積360L/m
3の配合が、粗骨材絶対容積390L/m
3の配合に比べて右側にプロットされていて、粗骨材絶対容積を減らすことで施工に合理的な配合を選定できるようにみえる。しかし、
図8に示すように、スランプフローを一定として粗骨材絶対容積を少なくすることは、必ずしも配合が合理的になるとは言い切れない。
図7に示すように、粗骨材絶対容積が約315~375L/m
3の範囲にプロットされた配合が、Ef>Euの範囲でコンクリートの流動性が確保される振動エネルギ(Ef)でコンクリートの充填性を確保できる配合である。そして、施工時の締固めエネルギの誤差を考慮すると、確実な充填性を確保するためには、EfとEuの差が最大となる配合が安全な最適配合である。
したがって、
図7より、EfとEuの関係から選定されるコンクリートの最適粗骨材絶対容積は、EfとEuの差が最大となる345L/m
3である。
【0043】
「実験3」
求めた最適な粗骨材絶対容積をもとに、単位水量を155~180kg/m3の間で振って、最適な単位水量を検討した(配合21~27)。なお、配合27は、配合26で細骨材の表面水率設定-3%にした配合である。
配合を表5に示す。
【0044】
【0045】
配合22~27は、分離抵抗性試験を行った。加振時間から算出されるコンクリートが受けたエネルギ(E)と粗骨材残存率との関係を
図9に示す。
図9より、粗骨材残存率が70%となるときのエネルギを、分離抵抗性についての振動エネルギ(Es)として求めた。
流動性に関する振動エネルギ(Ef)と充填性に関する振動エネルギ(Eu)と分離抵抗性についての振動エネルギ(Es)を表6に示す。
【0046】
【0047】
配合27は、Es<Efであり、コンクリートの流動性を確保できる振動エネルギ(Ef:9.4J/L)を与えた際に、粗骨材残存率は約35%と低く、粗骨材が分離してしまう。
配合22~26は、Es>Efを満足する配合であり、コンクリートの流動性を確保できる振動エネルギ(Ef)を与えた際に、粗骨材残存率が70%以上と分離しておらず、強度を確保できる。よって、EsとEfの関係からは、配合22~26を選定できた。
【0048】
EsとEfの関係から選定した配合22~26における、単位水量に対するEfとEuを
図10に示す。
図10に示すように、単位水量約170~約175kg/m
3の範囲にプロットされた配合が、Es>Ef>Euを満足し、コンクリートの流動性が確保される振動エネルギ(Ef)を加えたときに、充填性と分離抵抗性の両方を確保できる配合である。そして、施工時の締固めエネルギの誤差を考慮すると、確実な充填性を確保するためには、EsとEfの差、EfとEuの差の両方が、十分に大きい配合が安全な最適配合である。
したがって、
図10に示すように、コンクリートの単位水量は、EsとEfの差、EuとEfの差の両方が2.5J/L以上である170kg/m
3近傍とすることが安全である。