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特許7354510導電性樹脂組成物及びそれを用いたシールドパッケージの製造方法
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  • 特許-導電性樹脂組成物及びそれを用いたシールドパッケージの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】導電性樹脂組成物及びそれを用いたシールドパッケージの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/06 20060101AFI20230926BHJP
   C08K 5/1515 20060101ALI20230926BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20230926BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20230926BHJP
   H01L 23/28 20060101ALI20230926BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20230926BHJP
   H01L 23/00 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C08L33/06
C08K5/1515
C08K5/101
C08K3/08
H01L23/28 F
H01L21/56 E
H01L23/00 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019527640
(86)(22)【出願日】2018-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2018024005
(87)【国際公開番号】W WO2019009124
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2017133426
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅田 裕明
(72)【発明者】
【氏名】松田 和大
(72)【発明者】
【氏名】中園 元
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/023747(WO,A1)
【文献】特開平10-338844(JP,A)
【文献】特開2008-042152(JP,A)
【文献】特開2004-335651(JP,A)
【文献】特開2004-047174(JP,A)
【文献】特開2004-055543(JP,A)
【文献】特開2016-155920(JP,A)
【文献】特開2015-059196(JP,A)
【文献】特開2016-196606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、H01L23、H05K9
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重量平均分子量が1000以上40万以下である(メタ)アクリル系樹脂と、
(B)分子内にグリシジル基及び(メタ)アクリロイル基を有するモノマーと、
(C)平均粒子径が10~500nmである導電性フィラーと、
(D)平均粒子径が1~50μmである導電性フィラーと、
(E)ラジカル重合開始剤と
を少なくとも含有し、
モノマー(B)が、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルであり、
モノマー(B)の含有量が、(メタ)アクリル系樹脂(A)との合計量100質量部中、50~99質量部であり、
導電性フィラー(C)と導電性フィラー(D)との合計の含有量が、(メタ)アクリル系樹脂(A)とモノマー(B)との合計量100質量部に対して、2000~80000質量部であり、
導電性フィラー(C)と導電性フィラー(D)との含有割合(導電性フィラー(C):導電性フィラー(D))が、質量比で5:1~1:10であることを特徴とする、
導電性樹脂組成物。
【請求項2】
前記導電性フィラー(D)が、銅粉、銀被覆銅粉、及び銀被覆銅合金粉からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
電子部品のパッケージのシールド用である、請求項1又は2に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項4】
基板上に電子部品が搭載され、この電子部品が封止材によって封止されたパッケージがシールド層によって被覆されたシールドパッケージの製造方法であって、
基板上に複数の電子部品を搭載し、この基板上に封止材を充填して硬化させることにより前記電子部品を封止する工程と、
前記複数の電子部品間で封止材を切削して溝部を形成し、これらの溝部によって基板上の各電子部品のパッケージを個別化させる工程と、
前記個別化したパッケージの表面に、請求項1~3のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物を噴霧により塗布する工程と、
前記パッケージの表面に導電性樹脂組成物が塗布された基板を加熱して、前記導電性樹脂組成物を硬化させることによりシールド層を形成する工程と、
前記基板を前記溝部に沿って切断することにより個片化したシールドパッケージを得る工程と
を少なくとも有する、シールドパッケージの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂組成物及びそれを用いたシールドパッケージの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やタブレット端末等の電子機器においては、近年、多数の電子部品と共に、RFID(Radio Frequency IDentification)や非接触充電機能等、10MHz~1000MHzの電磁波を利用した無線通信機能が搭載されている。このような電子部品は、電磁波に対する感受性が高く、外部からの電磁波に曝されると誤動作を起こしやすいという問題を有する。
【0003】
一方で、電子機器の小型軽量化と高機能化を両立させるため、電子部品の実装密度を高めることが求められている。しかしながら、実装密度を高めると電磁波の影響を受ける電子部品も増えてしまうという問題がある。
【0004】
従来から、この課題を解決する手段として、電子部品をパッケージごとシールド層で覆うことで、電子部品に対する電磁波の侵入を防止した、いわゆるシールドパッケージが知られている。例えば特許文献1には、パッケージの表面に、導電性粒子を含有する導電性樹脂組成物をスプレー(噴霧)してコーティングし、加熱硬化することにより、シールド効果の高い電磁シールド部材を容易に得ることができる旨記載されている。
【0005】
また電磁波シールドに適用可能である導電性ペーストとして、例えば、特許文献2~5には、ミクロンサイズの導電性フィラーと、ナノサイズの導電性フィラーとを併用したものが記載されている。ナノサイズの導電性フィラーを併用することにより、ミクロンサイズの導電性フィラー同士の間に存在する間隙を充填することができ、良好なシールド特性が得られる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-258137号公報
【文献】特開2014-181316号公報
【文献】特開2005-294254号公報
【文献】特開2010-113912号公報
【文献】特開2010-118280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、10MHz~1000MHzの電磁波の侵入を防止することに着目した導電性ペーストはなく、従来の導電性ペーストによるシールド層は、10MHz~1000MHzの電磁波に対するシールド特性に改善の余地があった。
【0008】
また、ナノサイズの導電性フィラーを使用する場合、ナノサイズの導電性フィラーの分散性を高める観点から、(メタ)アクリル系樹脂が使用されることが多い。しかしながら、(メタ)アクリル系樹脂を用いた導電性樹脂組成物をシールド層に適用した場合、ハンダリフロー工程などの高温下に晒されると、シールド層とパッケージとの密着性が低下し易いという問題があった。
【0009】
さらに、10MHz~1000MHzの電磁波に対するシールド特性を向上させる手段として、導電性フィラーを高配合することが考えられるが、その場合シールド層とパッケージとの密着性の問題がより顕著に現れるおそれがあった。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、10MHz~1000MHzの電磁波に対しても良好なシールド性を有するシールド層がスプレー塗布により形成可能な導電性樹脂組成物であって、得られたシールド層はパッケージとの密着性が良好な導電性樹脂組成物を提供することを目的とする。また、上記のようなシールド層が容易に形成可能なシールドパッケージの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の導電性樹脂組成物は、(A)重量平均分子量が1000以上40万以下である(メタ)アクリル系樹脂と、(B)分子内にグリシジル基及び(メタ)アクリロイル基を有するモノマーと、(C)平均粒子径が10~500nmである導電性フィラーと、(D)平均粒子径が1~50μmである導電性フィラーと、(E)ラジカル重合開始剤とを少なくとも含有し、モノマー(B)が、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルであり、モノマー(B)の含有量が、(メタ)アクリル系樹脂(A)との合計量100質量部中、50~99質量部であり、導電性フィラー(C)と導電性フィラー(D)との合計の含有量が、アクリル系樹脂(A)とモノマー(B)との合計量100質量部に対して、2000~80000質量部であり、導電性フィラー(C)と導電性フィラー(D)との含有割合(導電性フィラー(C):導電性フィラー(D))は、質量比で5:1~1:10であるものとすることができる。
【0013】
上記導電性フィラー(D)は、銅粉、銀被覆銅粉、及び銀被覆銅合金粉からなる群より選択される少なくとも1種であるものとすることができる。
【0014】
上記導電性樹脂組成物は、電子部品のパッケージのシールド用であるものとすることができる。
【0015】
本発明のシールドパッケージの製造方法は、基板上に電子部品が搭載され、この電子部品が封止材によって封止されたパッケージがシールド層によって被覆されたシールドパッケージの製造方法であって、基板上に複数の電子部品を搭載し、この基板上に封止材を充填して硬化させることにより上記電子部品を封止する工程と、上記複数の電子部品間で封止材を切削して溝部を形成し、これらの溝部によって基板上の各電子部品のパッケージを個別化させる工程と、上記個別化したパッケージの表面に、上記導電性樹脂組成物を噴霧により塗布する工程と、上記パッケージの表面に導電性樹脂組成物が塗布された基板を加熱して、上記導電性樹脂組成物を硬化させることによりシールド層を形成する工程と、上記基板を上記溝部に沿って切断することにより個片化したシールドパッケージを得る工程とを少なくとも有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の導電性樹脂組成物によれば、スプレー法により均一な厚みの塗膜を形成可能であり、得られた塗膜は10MHz~1000MHzの電磁波からパッケージを保護することができる。従って、本発明の導電性樹脂組成物をパッケージ表面にスプレー塗布することにより、シールド効果が優れ、かつパッケージとの密着性に優れたシールド層を容易に形成することが可能となる。
【0017】
また本発明のシールドパッケージの製造方法によれば、上記のようなシールド性、パッケージとの密着性に優れたシールドパッケージを、大がかりな装置を用いずに効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】シールドパッケージの製造方法の一実施形態を示す模式断面図である。
図2】個別化前のシールドパッケージの例を示す平面図である。
図3】導電性塗膜の導電性の評価に用いた、硬化物のサンプルが形成された基板を示す平面図である。
【符号の説明】
【0019】
A……基板上で個別化されたパッケージ、
B……個片化されたシールドパッケージ、
1,B2,B9……個片化される前のシールドパッケージ、
1……基板、2……電子部品、3……グランド回路パターン(銅箔)、4……封止材、
5……シールド層(導電性塗膜)、11~19……溝、
20……基板、21……電極パッド、22……導電性樹脂組成物の硬化物
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る導電性樹脂組成物は、上記の通り、(A)重量平均分子量が1000以上40万以下である(メタ)アクリル系樹脂と、(B)分子内にグリシジル基、及び/又は(メタ)アクリロイル基を有するモノマーと、(C)平均粒子径が10~500nmである導電性フィラーと、(D)平均粒子径が1~50μmである導電性フィラーと、(E)ラジカル重合開始剤とを少なくとも含有し、導電性フィラー(C)と導電性フィラー(D)との合計の含有量が、(メタ)アクリル系樹脂(A)とモノマー(B)との合計量100質量部に対して、2000~80000質量部であり、導電性フィラー(C)と導電性フィラー(D)との含有割合(導電性フィラー(C):導電性フィラー(D))は、質量比で5:1~1:10である。
【0021】
この導電性樹脂組成物の用途は特に限定されるわけではないが、個片化される前のパッケージ又は個片化されたパッケージの表面に、スプレー等で霧状に噴射してシールド層を形成させてシールドパッケージを得るために好適に使用される。
【0022】
上記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを構成モノマーとして少なくとも含む重合体であり、特に限定されないが、例えば、構成モノマーとして、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、及びメタクリル酸n-ブチルからなる群より選択される少なくとも1種を含有する重合体を用いることができる。構成モノマーとしては、本発明の目的に反しない範囲でアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル以外を含んでいてもよい。2種以上のモノマーを含有する場合、交互共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、グラフト共重合体であってもよい。ここで、「(メタ)アクリル系樹脂」とは「アクリル系樹脂」及び「メタアクリル系樹脂」の総称である。
【0023】
上記(メタ)アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量は、1000以上であり、5000以上であることが好ましく、7000以上であることがより好ましく、10000以上であることがさらに好ましい。また、40万以下であり、20万以下であることが好ましく、15万以下であることがより好ましく、5万以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、「重量平均分子量」とは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定することができ、移動相としてテトラヒドロフランを用い、ポリスチレン換算の検量線を用いて算出した値とする。
【0024】
このような(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、特開2016-155920号公報、特開2015-59196号公報、特開2016-196606号公報、WO2016/132814に係る焼成ペースト用共重合体等を使用することができる。また、市販されている(メタ)アクリル系樹脂も使用可能であり、例えば、共栄社化学(株)製「KC-1100」や、「KC-1700P」を用いることができる。
【0025】
上記モノマー(B)は、分子内にグリシジル基及び/又は(メタ)アクリロイル基を有する化合物であり、好ましくは、分子内にグリシジル基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。なお、本明細書において、「モノマー(B)」は、オリゴマーや分子量が1000未満であるプレポリマーも含むものとする。
【0026】
グリシジル基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、t-ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、グリシジルフェニルエーテル、ビスフェノールA、ジグリシジルエーテル等のグリシジル化合物などが挙げられる。
【0027】
(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、イソアミルアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、及びジエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
【0028】
グリシジル基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、アクリル酸グリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジルエーテル、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー等が挙げられる。
【0029】
これらモノマー(B)は1種を単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。上述の通り、導電性樹脂組成物に(メタ)アクリル系樹脂を使用した場合、加熱硬化後のシールド層とパッケージとの密着性が劣る傾向にあるが、上記モノマー(B)を併用することにより、上記導電性フィラー(C)及び上記導電性フィラー(D)を高配合した場合であっても、シールド層とパッケージとの優れた密着性が得られ易い。
【0030】
上記モノマー(B)の含有量は、上記(メタ)アクリル系樹脂(A)との合計量100質量部中、20~99質量部であることが好ましく、40~99質量部であることがより好ましく、50~99質量部であることがさらに好ましい。以下、本明細書において、上記(メタ)アクリル系樹脂(A)と上記モノマー(B)との両者を含めたものをバインダー成分とする。
【0031】
平均粒子径が10~500nmである導電性フィラー(C)としては、特に限定されないが、銅ナノ粒子、銀ナノ粒子、金ナノ粒子であることが好ましい。導電性フィラー(C)の平均粒子径が10~500nmであることにより、ミクロンサイズの導電性フィラー同士の間隙を充填することができるため、導電性フィラーを高配合にしやすく、10MHz~1000MHzの電磁波に対するシールド性を向上させることができる。ここで、本明細書において、「平均粒子径」とは、レーザー回折・散乱法で測定した、個数基準の平均粒子径D50(メジアン径)の粒子径をいう。
【0032】
上記導電性フィラー(C)の含有量は、特に限定されないが、バインダー成分100質量部に対して、50~75000質量部であることが好ましく、100~35000質量部であることがより好ましく、300~10000質量部であることがさらに好ましく、500~5000質量部であることが特に好ましい。
【0033】
平均粒子径が1~50μmである導電性フィラー(D)としては、特に限定されないが、銅粉、銀粉、金粉、銀被覆銅粉または銀被覆銅合金粉であることが好ましく、コスト削減の観点からは、銅粉、銀被覆銅粉、又は銀被覆銅合金粉であることがより好ましい。導電性フィラー(D)の平均粒子径が1μm以上であると、導電性フィラー(D)の分散性が良好で凝集が防止でき、また酸化されにくく、50μm以下であるとパッケージのグランド回路との接続性が良好である。
【0034】
銀被覆銅粉は、銅粉と、この銅粉粒子の少なくとも一部を被覆する銀層又は銀含有層とを有するものであり、銀被覆銅合金粉は、銅合金粉と、この銅合金粒子の少なくとも一部を被覆する銀層又は銀含有層とを有するものである。銅合金粒子は、例えば、ニッケルの含有量が0.5~20質量%であり、かつ亜鉛の含有量が1~20質量%であり、残部が銅からなり、残部の銅は不可避不純物を含んでいてもよい。このように銀被覆層を有する銅合金粒子を用いることにより、シールド性、及び耐変色性に優れたシールドパッケージが得られ易い。
【0035】
上記導電性フィラー(D)の形状の例としては、フレーク状(鱗片状)、樹枝状、球状、繊維状、不定形(多面体)等が挙げられるが、抵抗値がより低く、シールド性がより向上したシールド層が得られる点からは、フレーク状であることが好ましい。
【0036】
また、導電性フィラー(D)がフレーク状である場合は、導電性フィラー(D)のタップ密度は4.0~6.5g/cmであることが好ましい。タップ密度が上記範囲内であると、シールド層の導電性がより良好となる。
【0037】
また、導電性フィラー(D)がフレーク状である場合には、導電性フィラー(D)のアスペクト比は2~10であることが好ましい。アスペクト比が上記範囲内であると、シールド層の導電性がより良好となる。
【0038】
導電性フィラー(D)の含有量は、特に限定されないが、バインダー成分100質量部に対して400~75000質量部であることが好ましく、400~55000質量部であることがより好ましく、400~45000質量部であることがさらに好ましく、400~30000質量部であることが特に好ましい。含有量が400質量部以上であるとシールド層の導電性が良好となり、10MHz帯の低周波領域の電磁波に対する優れたシールド性が得られやすく75000質量部以下であると、シールド層とパッケージとの密着性、及び硬化後の導電性樹脂組成物の物性が良好となりやすく、後述するダイシングソーで切断した時にシールド層のカケが生じにくくなる。
【0039】
上記導電性フィラー(C)と上記導電性フィラー(D)との合計の含有量は、バインダー成分100質量部に対して、2000~80000質量部であり、好ましくは、2000~65000質量部であり、より好ましくは2000~50000質量部であり、さらに好ましくは2000~35000質量部である。2000質量部以上であることにより、低周波領域である10MHz帯の電磁波に対する優れたシールド特性が得られやすく、80000質量部以下であることにより、シールド層とパッケージとの優れた密着性が得られやすい。
【0040】
導電性フィラー(C)と導電性フィラー(D)との含有割合(導電性フィラー(C):導電性フィラー(D))は、特に限定されないが、質量比で5:1~1:10であることが好ましい。
【0041】
上記ラジカル重合開始剤(E)としては、特に限定されないが、例えば、加熱によりラジカル重合を開始させる熱重合開始剤や、エネルギー線照射によりラジカル重合を開始させるエネルギー線重合開始剤を使用できる。
【0042】
熱重合開始剤は、特に制限されず、従来用いられている有機過酸化物系やアゾ系の化合物を適宜使用することができる。
【0043】
有機過酸化物系重合開始剤の例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセテートパーオキサイド、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、t-ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン等が挙げられる。
【0044】
また、アゾ系重合開始剤の例としては、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-フェニルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[N-(4-クロロフェニル)-2-メチルプロピオンアミジン]ジヒドリドクロリド、2,2’-アゾビス[N-(4-ヒドロフェニル)-2-メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(フェニルメチル)プロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルが挙げられる。
【0045】
上記熱重合開始剤は1種を単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。
【0046】
本発明の導電性樹脂組成物において、上記ラジカル重合開始剤(E)の含有量は、バインダー成分に対して化学量論的に必要な量であればよく、その種類によって異なるが、目安としてはバインダー成分100質量部に対して、熱重合開始剤の場合は0.1~30質量部であることが好ましく、1~15質量部であることがより好ましい。また、エネルギー線重合開始剤の場合は0.05~15質量部であることが好ましく、0.1~10質量部であることがより好ましい。ラジカル重合開始剤の含有量がこの範囲内である場合には、導電性樹脂組成物の硬化が十分となり、シールド層とパッケージ表面との密着性とシールド層の導電性が良好となって、シールド効果に優れたシールド層が得られやすい。また、ラジカル重合開始剤の種類や量を選ぶことで、硬化時間の短縮や室温での長期保存安定性など目的に応じた使用をすることができる。
【0047】
また、本発明の導電性樹脂組成物には、発明の目的を損なわない範囲内において、消泡剤、増粘剤、粘着剤、充填剤、難燃剤、着色剤等、公知の添加剤を加えることができる。
【0048】
本発明の導電性樹脂組成物は、導電性樹脂組成物をスプレー噴霧によりパッケージ表面に均一に塗布できるようにするためには、いわゆる導電性ペーストよりも低粘度であることが好ましい。
【0049】
本発明の導電性樹脂組成物の粘度は用途や塗布に使用する機器に応じて適宜調整するのが好ましく、特に限定されないが、一般的な目安としては以下に述べる通りである。粘度の測定方法も限定されるものではないが、導電性樹脂組成物が低粘度であれば円錐平板型回転粘度計(いわゆるコーン・プレート型粘度計)で測定することができ、高粘度であれば単一円筒形回転粘度計(いわゆるB型又はBH型粘度計)で測定することができる。
【0050】
円錐平板型回転粘度計で測定する場合は、ブルックフィールド(BROOK FIELD)社のコーンスピンドルCP40(コーン角度:0.8°、コーン半径:24mm)を用いて、0.5rpmで測定した粘度が100mPa・s以上であることが好ましく、150mPa・s以上であることがより好ましい。粘度が100mPa・s以上であると、塗布面が水平でない場合における液ダレを防止して導電性塗膜をムラなく形成しやすい。
【0051】
なお、100mPa・s付近やそれよりも低粘度の場合、所望の厚さの均一な塗膜を得るには、1回の塗布量を少なくして薄膜を形成し、その上にまた薄膜を形成する操作をくり返す、いわゆる重ね塗りを行う方法が有効である。なお、円錐平板型回転粘度計で測定可能な粘度であれば、高くとも問題はない。
【0052】
単一円筒形回転粘度計で測定する場合はローターNo.5を用いて10rpmで測定した粘度が30dPa・s以下であることが好ましく、25dPa・s以下であることがより好ましい。30dPa・s以下であるとスプレーノズルの目詰まりを防ぎ、ムラなく導電性塗膜を形成しやすい。なお、単一円筒形回転粘度計で測定可能な粘度であれば、低くとも問題はない。
【0053】
導電性樹脂組成物の粘度はバインダー成分の粘度や導電性フィラーの含有量等により異なるので、上記範囲内にするために、溶剤を使用することができる。本発明において使用可能な溶剤は、特に限定されないが、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、アセトフェノン、メチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、メチルカルビトール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらは1種を単独で使用することもでき、2種以上を併用してもよい。
【0054】
溶剤の含有量は、導電性樹脂組成物の用途や塗布に使用する機器等に応じて適宜調整するのが好ましい。従って、バインダー成分の粘度や導電性フィラーの含有量等により異なるが、目安としては、導電性樹脂組成物の含有成分(溶剤を除く)の合計量に対して10~60質量%程度である。
【0055】
本発明の導電性樹脂組成物によって得られるシールド層は、銅箔等で形成されたグランド回路との密着性に優れる。具体的には、シールドパッケージの一部から露出したグランド回路の銅箔とシールド層との密着性が良好であるため、シールドパッケージ表面に導電性樹脂組成物を塗布してシールド層を形成した後にパッケージを切断して個片化する際、切断時の衝撃によりシールド層がグランド回路から剥離することを防ぐことができる。
【0056】
本発明の導電性樹脂組成物により形成される塗膜は、シールド層として使用する場合は、低周波領域である10MHz帯の電磁波に対する優れたシールド特性が得られる観点から、比抵抗が5.0×10-5Ω・cm以下であることが好ましい。
【0057】
本発明の導電性樹脂組成物を用いてシールドパッケージを得るための方法の一実施形態について図を用いて説明する。
【0058】
まず、図1(a)に示すように、基板1に複数の電子部品(IC等)2を搭載し、これら複数の電子部品2間にグランド回路パターン(銅箔)3が設けられたものを用意する。
【0059】
同図(b)に示すように、これら電子部品2及びグランド回路パターン3上に封止材4を充填して硬化させ、電子部品2を封止する。
【0060】
同図(c)において矢印で示すように、複数の電子部品2間で封止材4を切削して溝部を形成し、これらの溝部によって基板1の各電子部品のパッケージを個別化させる。符号Aは、それぞれ個別化したパッケージを示す。溝を構成する壁面からはグランド回路の少なくとも一部が露出しており、溝の底部は基板を完全には貫通していない。
【0061】
一方で、上述したバインダー成分、導電性フィラー及び硬化剤の所定量と、必要に応じて使用される溶剤を混合し、導電性樹脂組成物を用意する。
【0062】
導電性樹脂組成物を公知のスプレーガン等によって霧状に噴射し、パッケージ表面にまんべんなく塗布する。このときの噴射圧力や噴射流量、スプレーガンの噴射口とパッケージ表面との距離は、必要に応じて適宜設定される。
【0063】
導電性樹脂組成物が塗布されたパッケージを加熱して溶剤を十分に乾燥させた後、さらに加熱して導電性樹脂組成物を十分に硬化させ、同図(d)に示すように、パッケージ表面にシールド層(導電性塗膜)5を形成させる。このときの加熱条件は適宜設定することができる。図2はこの状態における基板を示す平面図である。符号B1,B2,…B9は、個片化される前のシールドパッケージをそれぞれ示し、符号11~19はこれらシールドパッケージ間の溝をそれぞれ表す。
【0064】
図1(e)において矢印で示すように、個片化前のパッケージの溝の底部に沿って基板をダイシングソー等により切断することにより個片化されたパッケージBが得られる。
【0065】
このようにして得られる個片化されたパッケージBは、パッケージ表面(上面部、側面面部及び上面部と側面部との境界の角部のいずれも)に均一なシールド層が形成されているため、良好なシールド特性が得られる。またシールド層とパッケージ表面及びグランド回路との密着性に優れているため、ダイシングソー等によってパッケージを個片化する際の衝撃によりパッケージ表面やグランド回路からシールド層が剥離することを防ぐことができる。
【実施例
【0066】
以下、本発明の内容を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。また、以下において「部」又は「%」とあるのは、特にことわらない限り質量基準とする。
【0067】
[実施例、比較例]
次に示す(メタ)アクリル系樹脂(a1~a3)と、モノマー(b1~b3)との合計量100質量部に対して、導電性フィラー(c)、導電性フィラー(d)、導電性フィラー(α)、導電性フィラー(β)、ラジカル重合開始剤及び溶剤を表1に記載された割合で配合して混合し、導電性樹脂組成物を得た。使用した各成分の詳細は以下の通りである。
(メタ)アクリル系樹脂(a1):分子量=17000
(メタ)アクリル系樹脂(a2):分子量=100000、共栄社化学(株)製「KC-1700P」
(メタ)アクリル系樹脂(a3):分子量=130000、共栄社化学(株)製「KC-1100」
モノマー(b1):4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル
モノマー(b2):共栄社化学(株)製「ライトアクリレート P-1A(N)」
モノマー(b3):株式会社ADEKA製「ED503」
導電性フィラー(c):銀粒子(平均粒子径=150nm、球状)
導電性フィラー(d):銀被覆銅合金粉(平均粒子径=5μm、フレーク状、アスペクト比=2~10、タップ密度=5.8g/cm
導電性フィラー(α):銀粒子(平均粒子径=8nm、球状、界面活性剤により銀粒子が分散した水溶液として配合)
導電性フィラー(β):銀粒子(平均粒子径=800nm、球状)
ラジカル重合開始剤(e):2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル
溶剤:メチルエチルケトン(MEK)
【0068】
上記実施例及び比較例の導電性樹脂組成物の評価を以下の通り行った。結果を表1,2に示す。
【0069】
(1)導電性塗膜の導電性
実施例1の導電性樹脂組成物から得られた導電性塗膜の導電性を、比抵抗で評価した。
【0070】
具体的には、図3に示すように、銅箔で形成された電極パッド21が60mmの間隔をあけて両端に設けられたガラスエポキシ基板20上に、幅5mmのスリットを設けた厚さ55μmのポリイミドフィルムを、スリットの端部が両端の電極パッド21と重なるように貼り付けてマスキングした。その上に、各実施例及び比較例で得られた導電性樹脂組成物を、スプレー装置(SL-940E:Nordson Asymtek製)を用いてスプレー塗布した。
【0071】
190℃で30分間加熱することにより硬化させ、ポリイミドフィルムを剥離し、長さ70mm、幅5mm、厚さ約20μmの硬化物22が両端の電極パッド21間を接続するように形成された基板20を得た。この硬化物サンプルにつき、テスターを用いて電極パッド間の抵抗値(Ω)を測定し、断面積(S、cm)と長さ(L、cm)から次式(1)により比抵抗(Ω・cm)を計算した。
【0072】
【数1】
【0073】
サンプルの断面積、長さ及び比抵抗は、ガラスエポキシ基板3枚に硬化物サンプルを各5本、合計15本形成し、その平均値を求めた。なお、比抵抗が5×10-5Ω・cm以下であれば、低周波領域である10MHz帯の電磁波を妨げるシールド層として好適に使用できる。
【0074】
また、他の実施例及び比較例についても同様に比抵抗を測定した。
【0075】
(2)導電性樹脂組成物の密着性(ハンダディップ前後の比較)
シールド層とパッケージ表面又はグランド回路との密着性を、JIS K 5600-5-6:1999(クロスカット法)に基づき評価した。
【0076】
具体的には、グランド回路との密着性評価用に銅張積層板を用意し、パッケージ表面との密着性評価用のモールド樹脂を用意した。それぞれに、幅5cm、長さ10cmの開口部を形成するようにポリイミドテープでマスキングし、スプレーコーティング装置SL-940E(Nordson Asymtek製)を用いて導電性樹脂組成物をスプレー塗布後、190℃で30分間加熱することにより硬化させ、ポリイミドテープを剥離し、厚み約15μmの塗膜を形成した。塗膜が形成された銅箔、及びモールド樹脂上でクロスカット試験を行った。クロスカット試験は、リフロー前と、最高温度260℃で10秒間行うリフロー処理を3回行ったものについて実施した。
【0077】
密着性の評価は、次の基準で行った。
0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
1:カットの交差点において塗膜の小さなはがれが生じている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を上回ることはない。
2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を越えるが15%を上回ることはない。
3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に15%を越えるが35%を上回ることはない。
4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は数カ所の目が部分的又全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に35%を上回ることはない。
5:分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
表1,2に示す結果から、各実施例の導電性樹脂組成物により得られる塗膜はいずれも良好な導電性を有しており、低周波領域である10MHz帯の電磁波に対しても優れたシールド性を有していることが確認された。また、シールド層とパッケージ表面又はグランド回路との密着性も良好であることが確認された。

図1
図2
図3