(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】ステントグラフト及びステントグラフト留置装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/07 20130101AFI20230926BHJP
【FI】
A61F2/07
(21)【出願番号】P 2019555356
(86)(22)【出願日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2018043123
(87)【国際公開番号】W WO2019103084
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2017227227
(32)【優先日】2017-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】左 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】柚場 俊康
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106923943(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0114391(US,A1)
【文献】特表2014-533559(JP,A)
【文献】特表2007-508067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフレーム体を有する骨格部と、
前記骨格部に固定された管状のグラフト部と、を備え、
前記グラフト部の管壁の一部には、径方向内側に窪んだ凹部が設けられ、
前記凹部
の底面に、前記グラフト部の内腔に通じる側面開口部が設けられ、
前記管壁は、前記グラフト部の管軸の方向において、前記凹部が設けられていない第1管壁部と、前記凹部が設けられている第2管壁部と、に区画され、
複数の前記フレーム体は、前記管軸に沿って配列され、
複数の前記フレーム体のうち、前記側面開口部に対応して配設された前記フレーム体は、
ジグザグ状に折り返された1本の線材で形成され、前記管軸に直交し前記凹部
の底面を通る仮想平面で当該ステントグラフトを切断したとき当該仮想平面と交差し、
前記第1管壁部に配置される第1フレーム体構成部と、
前記第2管壁部の前記側面開口部を除いた一部領域に配置される第2フレーム体構成部と、を有し、
前記1本の線材は、折り返し部から次の折り返し部に至る長さが長い部分と、短い部分と、を有し、
前記長い部分は、前記第1管壁部から前記第2管壁部にわたって配置され、前記第1フレーム体構成部及び前記第2フレーム体構成部を形成し、
前記短い部分は、前記第1管壁部のみに配置され、前記第1フレーム体構成部を形成する、
ステントグラフト。
【請求項2】
請求項1に記載のステントグラフトにおいて、
前記凹部は、前記グラフト部の湾曲した部分の外側部に設けられているステントグラフト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のステントグラフトを備え、
前記ステントグラフトは、径方向に拡張可能に構成されているステントグラフト留置装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントグラフト及びステントグラフト留置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大動脈に生じた大動脈瘤や大動脈解離などの治療に用いるステントグラフトとして、分枝血管対応型のステントグラフトが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された従来のステントグラフトは、いわゆるステントと呼ばれる骨格部と、骨格部に固定されたグラフト部とを有する。グラフト部の管壁には、グラフト部の内腔と通じる側面開口部が設けられている。従来のステントグラフトにおいては、主となる血管内に従来のステントグラフトを配置した状態で、分枝部に分枝血管用のステントグラフトを接続し、分枝血管内に分枝血管用のステントグラフトを配置することにより、主血管と分枝血管との血流の維持が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ステントグラフトを留置する現場においては、分枝血管の血管口とステントグラフトの側面開口部との位置ずれが極力小さくなるよう、高い位置精度でステントグラフトを留置したいという要望がある。しかしながら、分枝血管の血管口の位置は患者ごとに個人差があり、分枝血管の血管口とステントグラフトの側面開口部とを精度良く位置合わせする上では、施術者の技術や経験の影響が大きくなってしまうといった問題がある。
【0005】
このような要望は、血管以外の管状組織(例えば、消化管や胆管等)に留置することを目的としたステントグラフトにおいても生じ得るものである。
【0006】
本発明の目的は、ステントグラフトを留置する際に、分枝した管状組織に対する高い精度での位置合わせを不要とすることができるステントグラフト及びステントグラフト留置装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のステントグラフトは、
複数のフレーム体を有する骨格部と、
前記骨格部に固定された管状のグラフト部と、を備え、
前記グラフト部の管壁の一部には、径方向内側に窪んだ凹部が設けられ、
前記凹部の底面に、前記グラフト部の内腔に通じる側面開口部が設けられ、
前記管壁は、前記グラフト部の管軸の方向において、前記凹部が設けられていない第1管壁部と、前記凹部が設けられている第2管壁部と、に区画され、
複数の前記フレーム体は、前記管軸に沿って配列され、
複数の前記フレーム体のうち、前記側面開口部に対応して配設された前記フレーム体は、
ジグザグ状に折り返された1本の線材で形成され、前記管軸に直交し前記凹部の底面を通る仮想平面で当該ステントグラフトを切断したとき当該仮想平面と交差し、
前記第1管壁部に配置される第1フレーム体構成部と、
前記第2管壁部の前記側面開口部を除いた一部領域に配置される第2フレーム体構成部と、を有し、
前記1本の線材は、折り返し部から次の折り返し部に至る長さが長い部分と、短い部分と、を有し、
前記長い部分は、前記第1管壁部から前記第2管壁部にわたって配置され、前記第1フレーム体構成部及び前記第2フレーム体構成部を形成し、
前記短い部分は、前記第1管壁部のみに配置され、前記第1フレーム体構成部を形成する。
【0008】
また、本発明のステントグラフト留置装置は、
本発明のステントグラフトを備え、前記ステントグラフトは、径方向に拡張可能に構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、管壁のうち、その周方向の側面開口部を除いた一部領域に存在する第2フレーム体構成部によって、例えば、主血管と分枝血管との分枝位置に留置されるステントグラフトの側面開口部と分枝血管の開口部との位置ずれに対する許容度を大きくすることができ、側面開口部の向きや位置の調整の容易化を図ることができる。
また、第2フレーム体構成部に隣接する第1フレーム体構成部によってグラフト部の強度をさらに高めることができ、側面開口部が血流により変位することを抑制することができる。
したがって、ステントグラフトを留置する際に、分枝した管状組織に対する高い精度での位置合わせを不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1Aは、ステントグラフト留置装置を構成する各部材を示す図である。
図1Bは、各部材を組み立てたステントグラフト留置装置を示す図である。
【
図2】
図2Aは、ステントグラフトの斜視図である。
図2Bは、ステントグラフトの斜視図であり、側面開口部を除いた一部領域を模式的に示す図である。
【
図3】
図3Aは、フレーム体の非全周部と全周部を模式的に示す斜視図である。
図3Bは、フレーム体の非全周部と全周部を模式的に示す側面図である。
【
図4】
図4は、ステントグラフトセットの斜視図である。
【
図5】
図5Aは、血管内にステントグラフトを留置した状態を模式的に示す図である。
図5Bは、ステントグラフトに分枝血管用ステントグラフトを取り付けた状態を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、ステントグラフトの第1変形例の斜視図である。
【
図7】
図7は、ステントグラフトの第2変形例の斜視図である。
【
図8】
図8は、ステントグラフトの第3変形例の斜視図である。
【
図9】
図9は、ステントグラフトの第4変形例の側面図である。
【
図10】
図10は、ステントグラフトの第5変形例の側面図である。
【
図11】
図11は、ステントグラフトの第6変形例の側面図である。
【
図12】
図12は、ステントグラフトの第7変形例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のステントグラフト留置装置1及びステントグラフト30の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0012】
まず、実施形態に係るステントグラフト留置装置1の構成について、
図1A及び
図1Bを用いて説明する。なお、
図1A及び
図1Bにおいては、ステントグラフト留置装置1を構成する各部材の大きさ(長さ、径寸法など)や形状などについては、模式的に図示している。また、
図1A及び
図1Bにおいて、図面右側を基端側、図面左側を先端側と呼ぶ。
【0013】
ステントグラフト留置装置1は、
図1A及び
図1Bに示すように、管状のシース10と、シース10の内側に配置され、シース10の軸方向(長手方向)に沿ってシース10内を進退可能に構成されたインナーロッド20と、ステントグラフト30とを備える。ステントグラフト留置装置1は、例えば、胸部大動脈の血管内にステントグラフトを留置するために使用する留置装置である。
【0014】
シース10は、管状のシース本体部11と、シース本体部11の基端側に設けられたハブ12とを有する。図示による説明は省略するが、ハブ12には、インナーロッド20をシース10に対して固定し又はその固定を解除するためのナットが設けられている。
【0015】
シース10は、可撓性を有する材料で形成されている。可撓性を有する材料として、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、及びポリ塩化ビニル系樹脂等から選択される生体適合性を有する合成樹脂(エラストマー)、これら樹脂に他の材料が混合された樹脂コンパウンド、これらの合成樹脂による多層構造体、並びに、これら合成樹脂と金属線との複合体などが挙げられる。
【0016】
インナーロッド20は、棒状のロッド本体部21と、収縮状態にあるステントグラフト30を保持する保持部22と、インナーロッド20の先端側の端部に設けられた先端チップ23とを有する。保持部22は、例えば、ステントグラフト30の厚さ分だけロッド本体部21よりも直径が小さく設定されている。
【0017】
ロッド本体部21及び保持部22を構成する材料として、例えば、樹脂(プラスチック、エラストマー)又は金属等、適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料が挙げられる。先端チップ23を構成する材料として、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂及びポリ塩化ビニル系樹脂等から選択される合成樹脂(エラストマー)等の、適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料が挙げられる。
【0018】
なお、図示は省略するが、ロッド本体部21、保持部22及び先端チップ23には、例えば、ガイドワイヤを通すためのガイドワイヤ用ルーメンや、収縮状態にあるステントグラフト30を患部で拡張させるためのトリガワイヤを通すためのトリガワイヤ用ルーメン等が、インナーロッド20の軸方向(長手方向)に沿って形成されている。
【0019】
次に、実施形態に係るステントグラフト30の構成について、
図2A及び
図2B並びに
図3A及び
図3Bを用いて説明する。これらの各図においては、ステントグラフト30のグラフト部40及び側面開口部42の厚みや幅寸法などについては、誇張して図示している。また、
図2Bは、管壁41における一部領域41Aを明確にするため、骨格部31の図示を省略している。
【0020】
ステントグラフト30は、
図2Aに示すように、例えば、管状をなし、骨格部31と、骨格部31に沿って縫合固定されたグラフト部40とを備える。
【0021】
骨格部31は、金属細線がジグザグ状に折り返された6つのフレーム体32~37を有し、管状に成形された自己拡張型のステント骨格である。骨格部31は、径方向内側に収縮した収縮状態から、径方向外側に拡張して拡張状態へと変形可能に構成されている。
骨格部31(フレーム体32~37)を構成する材料として、例えば、ステンレス鋼、ニッケル・チタン合金、コバルト・クロム合金、チタン合金等に代表される公知の金属又は金属合金が挙げられる。
【0022】
グラフト部40は、骨格部31に縫合固定されており、管状流路を画成している。グラフト部40は、骨格部31を外周から覆ってもよいし、骨格部31を内周から覆ってもよいし、骨格部31の外周と内周の両面から挟み込むように覆ってもよい。グラフト部40の材料として、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂等が挙げられる。なお、グラフト部40を骨格部31に固定する手段としては、例えば、グラフト部40の一部を骨格31に溶着することにより、グラフト部40を骨格部31に固定してもよい。
【0023】
グラフト部40の一部(グラフト部40の中間位置)には、
図2Aに示すように、管壁41の一部が径方向内側に窪んだ凹部44が形成されている。凹部44は、
図3Aに示すように、平面状の底面45及び半月面状の側面46を有する。また、凹部44には、管壁41により区画される内腔領域と当該ステントグラフト30の外側領域とを連通させる側面開口部42が設けられている。
【0024】
側面開口部42は、グラフト部40の管壁41(凹部44の底面45)からグラフト部40の径方向外側に向けて突出する筒形状であり、管壁41(底面45)を貫通した貫通孔43が形成されている。側面開口部42は、グラフト部40の凹部44の底面45の中央位置に配置されている。側面開口部42は、グラフト部40と同じ材料で一体的に形成されている。
【0025】
骨格部31を構成する6つのフレーム体32~37は、
図2Aに示すように、金属細線をジグザグ状に折り返すことで形成されている。これら6つのフレーム体32~37のうち、側面開口部42に対応して配設されたフレーム体34,35は、その他のフレーム体32,33,36,37と形状が異なる。すなわち、側面開口部42に対応して配設されていないフレーム体32,33,36,37は、例えば、円環状をなし、折り返し部から次の折り返し部に至る長さが一定である。一方、側面開口部42の位置に配設されているフレーム体34,35は、折り返し部から次の折り返し部に至る長さが一定ではない。
本発明において、「側面開口部に対応して配設されたフレーム体」とは、フレーム体34,35のように、管軸に直交し側面開口部42の形成領域(ここでは、凹部44)を通る仮想平面でステントグラフト30を切断したとき、当該仮想平面と交差するフレーム体である。
【0026】
フレーム体34,35は、
図3A及び
図3Bに示すように、グラフト部40の管壁41にその全周にわたるように存在する全周部(第1フレーム体構成部)Qと、全周部Qに隣接し、管壁41のうち、その周方向の側面開口部42を除いた一部領域41Aに存在する非全周部(第2フレーム体構成部)Pとを有する。
フレーム体34の全周部Qは、凹部44の先端側(
図3Bにおける左側)の端部から先端側に存在し、フレーム体35の全周部Qは、凹部44の基端側(
図3Bにおける右側)の端部から基端側に存在している。ここで、全周部Qが管壁41にその全周にわたるように存在するとは、フレーム体34,35を構成する金属細線の少なくとも一部(例えば、先端部等)が周方向(図中、上下方向)に間隔を空けて重なるように管壁41に配置されている状態を含むものとする。すなわち、全周部Qは、凹部44の管軸方向の端部に存在する凹部対応部Q1と、この凹部対応部Q1の略全体が周方向(図中、上下方向)に重なり、非全周部Pに連続して形成された凹部非対応部Q2とを有する。
フレーム体34、35の非全周部Pは、
図3Bにおける凹部44の下方に存在している。つまり、非全周部Pが存在する一部領域41Aは、管壁41の周面のうち、凹部44の底面45以外の領域である。
したがって、全周部Qのうち、凹部44の管軸方向両側に位置する領域に配置されている部分が凹部対応部Q1、一部領域41Aの管軸方向両側に位置する領域に配置されている部分が凹部非対応部Q2であり、非全周部Pによって凹部対応部Q1と凹部非対応部Q2とが連結されているということができる。具体的には、全周部Qの凹部対応部Q1は、管壁41の周面に凹部44の側面46に対応させて円弧状に配置されており、この凹部対応部Q1における凹部44の側面46と周方向に重なる端部に連続して非全周部Pが配置されている。また、非全周部Pは、
図3Bにおける凹部44の下方で折り返されており、非全周部Pにおける凹部44の側面46と周方向に重なる端部に連続して凹部非対応部Q2が配置されている。凹部非対応部Q2は、管軸方向において一部領域41Aとは反対側の端部で折り返され、この凹部非対応部Q2における凹部44の側面46と周方向に重なる端部に連続して非全周部Pが配置されている。
【0027】
図3Bに示すように、ジグザグ状に折り返されたフレーム体34,35には、折り返し部から次の折り返し部に至る長さが長い部分と短い部分が存在する。非全周部Pは、折り返し部から次の折り返し部に至る長さが長い部分の一部で構成され、全周部Qは、折り返し部から次の折り返し部に至る長さが長い部分の一部及び短い部分で構成されている。
【0028】
非全周部Pと全周部Qは、金属細線をジグザグ状に折り曲げることで一体的に形成することができる。なお、非全周部Pと全周部Qをそれぞれ個別に形成した後、非全周部Pと全周部Qを接続してもよい。
【0029】
次に、ステントグラフトセット5の構成について、
図4並びに
図5A及び
図5Bを用いて説明する。
【0030】
ステントグラフトセット5は、
図4に示すように、主血管V1に留置されるステントグラフト30と、分枝血管V2に留置される分枝血管用ステントグラフト90とを組み合わせたものである。
【0031】
分枝血管用ステントグラフト90は、両端に開口を有する管状部材であって、上述したステントグラフト30と同様、血液流が通過可能な管状流路を画成している。また、分枝血管用ステントグラフト90は、上述したステントグラフト30よりも細径で構成されている。
分枝血管用ステントグラフト90の一方端部93は、開口端に近づくにつれて開口面積が大きくなる拡径形状を有する。分枝血管用ステントグラフト90は、例えば金属細線からなる骨格部91と、骨格部91に固定されたグラフト部92とを有する。骨格部91及びグラフト部92の構成は、上述したステントグラフト30の骨格部31及びグラフト部40と同様であるため、これらの詳細な説明を省略する。
【0032】
ステントグラフト30の構成は、上述したとおりであるが、
図5Aに示すように、主血管V1に留置される際には、当該ステントグラフト30の側面開口部42を分枝血管V2の血管口に対向させるように配置される。このとき、分枝血管V1の血管口とステントグラフト30の側面開口部42との位置が完全に一致していなくとも、非全周部Pによって側面開口部42の向きや位置の自由度が確保されており、分枝血管V2に留置される分枝血管用ステントグラフト90の側面開口部42に対する取り付けに支障が生じ難くなる。
そして、分枝血管用ステントグラフト90をステントグラフト30の側面開口部42に取り付ける際は、例えば、
図5A及び
図5Bに示すように、主血管V1内で拡張させたステントグラフト30の中から側面開口部42を通す形で、収縮状態の分枝血管用ステントグラフト90を位置決めし、分枝血管用ステントグラフト90を拡張させる。このとき、図示による説明は省略するが、ステントグラフト30における側面開口部42の内面と、分枝血管用ステントグラフト90における一方端部93の外面が接するように、分枝血管用ステントグラフト90を留置する。
【0033】
以上のように構成された実施形態に係るステントグラフト30によれば、管壁41のうち、その周方向の側面開口部42を除いた一部領域41Aに存在するフレーム体34、35の非全周部Pによって、側面開口部42近傍の柔軟性を保つことができる。例えば、主血管V1と分枝血管V2との分枝位置に留置されるステントグラフト30の側面開口部42と分枝血管V2の血管口との位置ずれに対する許容度を大きくすることができることとなって、分枝血管V2に対する側面開口部42の向きや位置の調整の容易化を図ることができる。
また、フレーム体34、35の非全周部Pに隣接する全周部Qによって、グラフト部40の強度をさらに高めることができ、側面開口部42が血流により変位することを抑制することができる。
したがって、ステントグラフト30を留置する際に、分枝した管状組織(分枝血管V2)に対する高い精度での位置合わせを不要とすることができる。
【0034】
さらに、グラフト部40の管壁41に凹部44を設けることで、主血管V1の血管壁と凹部44の底面45との間に空間を生じさせることができ、仮に側面開口部42が分枝血管V2に対して十分に合致していなくても、主血管V1の血管壁と凹部44の底面45との間の空間内で側面開口部42と分枝血管V2を繋ぐように分枝血管用ステントグラフト90を留置することができる。
【0035】
また、全周部Qは、凹部44の管軸方向の端部に存在するため、グラフト部40の強度をさらに高めると共に、エンドリークを予防することができる。
【0036】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
以下に、ステントグラフト30の第1~第7変形例について、
図6~
図12を参照して説明する。
【0037】
上記実施形態では、フレーム体34及びフレーム体35の非全周部Pが分離しているが、例えば、
図6に示す第1変形例のステントグラフト30aのように、フレーム体34及びフレーム体35の非全周部Pが一体的に形成されていてもよい。具体的には、フレーム体34及びフレーム体35の非全周部Pは、例えば、折り返し部の対向している部分(頂点)どうしが接続部材50によって接続されることで、一体的に形成されている。非全周部Pを接続する手段としては、例えば、ジグザグ状のフレーム体34及びフレーム体35の頂点に金属細線を溶着して、又はかしめて接続する手段がある。なお、接続部材50は必ずしも必要ではなく、フレーム体34及びフレーム体35の頂点を直接溶接して一体的に形成することもできる。
【0038】
また、上記実施形態では、凹部44に側面開口部42以外は設けられていないが、例えば、
図7に示す第2変形例のステントグラフト30bのように、フレーム体34,35は、非全周部P及び全周部Qに加え、凹部44の底面45及び側面46に底面フレーム体構成部51及び側面フレーム体構成部52を有していてもよい。
底面フレーム体構成部51は、凹部44の端部に存在する。なお、底面フレーム体構成部51は、側面開口部42を除いた領域に存在すればよく、側面開口部42を囲うように配置されていてもよい。また、ステントグラフト30bは、底面フレーム体構成部51及び側面フレーム体構成部52の両方が配置されているが、底面フレーム体構成部51のみが配置されていてもよいし、側面フレーム体構成部52のみが配置されていてもよい。
【0039】
底面フレーム体構成部51及び側面フレーム体構成部52は、例えば、金属細線をジグザグ状に折り返すことで形成され、フレーム体34,35に接続されている。なお、底面フレーム体構成部51及び側面フレーム体構成部52は、ジグザグ状に限定されず、波状や直線状の金属細線であってもよい。底面フレーム体構成部51及び側面フレーム体構成部52を構成する材料は、実施形態に係る骨格部31と同様に公知の金属又は金属合金が挙げられる。
【0040】
また、側面開口部42の数は、1つに限定されるものではなく、例えば、
図8に示す第3変形例のステントグラフト30cのように、2つの凹部44、44を有し、それぞれの凹部44に側面開口部42を設けていてもよい。また、2つの凹部44、44の間に全周にわたってフレーム体38が配設されていてもよい。
なお、図示は省略するが、1つの凹部44に複数の側面開口部42を設けてもよい。その場合、複数の側面開口部42の隣り合うものどうしの間に全周にわたってフレーム体38を設けてもよい。
【0041】
また、全周部Qの形状は、ジグザグ状に限定されるものではなく、例えば、
図9に示す第4変形例のステントグラフト30dのように、フレーム体34d,35dの全周部Qが、ジグザグ状に屈曲しながら周方向に延在する部分と、周方向に円弧状に延在する部分によって構成されてもよい。
【0042】
また、全周部Qの位置は、フレーム体34,35の管軸方向における端に限定されるものではなく、例えば、
図10に示す第5変形例のステントグラフト30eのように、フレーム体34e,35eの非全周部Pの間に全周部Qが存在してもよい。同様に、
図11に示す第6変形例のステントグラフト30fのように、フレーム体34f,35fの非全周部Pの間に全周部Qが存在してもよい。第5変形例と第6変形例とでは、ジグザグ状の金属細線によって構成されるフレーム体34e,35e、34f,35fの形状が異なっており、例えば、フレーム体34e,35e、34f,35fの折り返し部の位置、並びに折り返し部から次の折り返し部に至る長さを調整することで、全周部Q及び非全周部Pを適切な位置に調整することができる。
【0043】
また、
図12に示す第7変形例のステントグラフト30gのように、フレーム体34g,35gの全周部Qが、凹部44の管軸方向の端部に存在する凹部対応部Q1と、この凹部対応部Q1の凹部44側の端部と周方向(図中、上下方向)に重なり、フレーム体34g,35gの非全周部Pに連続して形成された屈曲部Q3(フレーム体34gについては先端側の屈曲部Q3、フレーム体35gについては基端側の屈曲部Q3)とを有するように構成されていてもよい。
これにより、ステントグラフト30gは、側面開口部42近傍の柔軟性を保ちつつ、グラフト部40の強度を補強し、側面開口部42が血流により大きく変位することを緩和させることができる。
【0044】
上記実施形態では、金属細線からなる骨格部を備えるステントグラフトを例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、金属以外の材料(例えば、セラミックや樹脂等)からなる骨格部を備えるステントグラフトにも、本発明を適用可能である。また、骨格部が6つのフレーム体からなる場合を例示して説明したが、これに限らず、5つ以下又は7つ以上のフレーム体で構成されていてもよい。また、上記実施形では、自己拡張型のステントグラフトを例示して説明したが、これに限らず、バルーン拡張型のステントグラフトにも本発明を適用可能である。
【0045】
上記実施形態では、ジグザグ状のフレーム体を配設するステントグラフトを例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、波状のフレーム体を配設するステントグラフトにも、本発明を適用可能である。また、上記実施形態では、非全周部及び全周部が一体的に形成された場合を例示して説明したが、これに限らず、非全周部及び全周部が別々に形成された後、組み立ててもよい。
【0046】
また、例えば、
図7に示す第2変形例のステントグラフト30bにおいて、少なくとも凹部44の底面45に底面フレーム体構成部51、若しくは凹部44の側面46に側面フレーム体構成部52が配置されていれば、全周部Qを有しなくてもよい。このような構成としても、側面開口部42を除いた領域に底面フレーム体構成部51や側面フレーム体構成部52が存在するため、全周部Qが存在しなくても、側面開口部42近傍の柔軟性を保つことができ、貫通孔43の向きや位置の調整の容易化を図ることができるとともに、側面開口部が血流により変位することを抑制することができる。
【0047】
また、図示による説明は省略するが、先端側のフレーム体34と基端側のフレーム体35とで金属細線の位置や形状を異ならせてもよい。すなわち、例えば、血流が流れる血管の上流側に
図3Bに示すフレーム体34を配設し、下流側に
図12に示すフレーム体35gを配設してもよい。すなわち、少なくとも先端側(血流の上流側)のフレーム体34が、凹部対応部Q1及び凹部非対応部Q2を含む全周部Qを有する構成とすることで、グラフト部40の強度を適正に高めることができ、上流からの血流によるエンドリークを予防することができる。
【0048】
一方で、基端側(血流の下流側)のフレーム体35については、先端側(血流の上流側)のフレーム体34のように上流からの血流によるエンドリークの予防という観点よりも側面開口部42近傍の柔軟性の保持という観点が重要であると考えられるため、全周部Qや非全周部Pの配置の自由度を向上させることができる。すなわち、例えば、
図12に示す第7変形例のステントグラフト30gにおいて、凹部対応部Q1と非全周部Pとが管軸方向に離間するように配置されていてもよい。例えば、凹部対応部Q1と非全周部Pとの間に直線状の金属細線から構成される接続部を設けて、一体的に形成してもよい。また、凹部44の形状に適合するように、凹部対応部Q1や非全周部Pの管軸方向の幅並びに凹部対応部Q1と非全周部Pとの間の距離を適宜調整してもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、グラフト部が直管形状である場合を例示しているが、これに限定されず、弓状に湾曲した形状や、ねじれるように屈曲した形状であってもよい。例えば、
図2Aにおいて、ステントグラフト30の端を図面下側へ曲げるように、湾曲部を形成し、グラフト部の湾曲した部分の外側部(図面上側部分)に凹部が設けられていてもよい。
【0050】
また、上記実施形態及び変形例では、側面開口部がグラフト部と同じ材料からなり、一体的に形成されている場合を例示して説明したが、これに限らず、側面開口部とグラフト部とがそれぞれ独立した部材から構成され、これら2つの部材が貼り合わされたものであってもよい。この場合、側面開口部はグラフト部と同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。また、上記実施形態及び変形例では、凹部の底面の中央位置に側面開口部を設けていると説明したが、これに限らず、側面開口部を、凹部の底面の端又は側面に設けているステントグラフトにも、本発明を適用可能である。また、上記実施形態では、筒形状の側面開口部42を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、グラフトの管壁に貫通孔のみを設けた側面開口部でもよい。
【0051】
また、上記実施形態及び変形例では、凹部を設けている場合を例示して説明したが、これに限らず、凹部を設けずに、管壁41に側面開口部が設けられていてもよい。
【0052】
加えて、上記実施形態では、胸部大動脈用のステントグラフトである場合を例に挙げて説明したが、これに限らず、例えば、腹部大動脈用のステントグラフトや、胸腹部大動脈用のステントグラフトにも適用可能である。また、血管以外の器官(例えば消化管や胆管等)に留置することを目的としたステントグラフトにも本発明を適用可能である。
【0053】
2017年11月27日出願の特願2017-227227の日本出願に含まれる明細書、図面および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【符号の説明】
【0054】
1 ステントグラフト留置装置
30、30a、30b、30c、30d、30e、30f、30g ステントグラフト
5 ステントグラフトセット
90 分枝血管用ステントグラフト
V1 主血管
V2 分枝血管
31 骨格部
32,33,34,35,34d~34g,35d~35g,36,37,38 フレーム体
40 グラフト部
41 管壁
41A 一部領域
42 側面開口部
44 凹部
Q 全周部(第1フレーム体構成部)
P 非全周部(第2フレーム体構成部)