(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】積層部材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20230926BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230926BHJP
C08G 18/65 20060101ALI20230926BHJP
C08G 18/62 20060101ALI20230926BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20230926BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/30 D
B32B27/40
C08G18/65 011
C08G18/62 016
C08J7/04 A CER
C08J7/04 CEZ
(21)【出願番号】P 2018237576
(22)【出願日】2018-12-19
【審査請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝子
(72)【発明者】
【氏名】吉沢 久江
(72)【発明者】
【氏名】目羅 史明
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-060586(JP,A)
【文献】特開2017-032945(JP,A)
【文献】特開2018-167574(JP,A)
【文献】特開2015-158687(JP,A)
【文献】特開2013-045090(JP,A)
【文献】特開2011-186433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08G 18/00-18/87
C08J 7/04-7/06
C08G 71/00-71/04
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含み、前記樹脂のSP値が8.1以上である透明支持基材と、
前記透明支持基材に直に接するよう配置され、水酸基価40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下でありフッ素原子を含むアクリル樹脂と、複数のヒドロキシル基を有し且つ前記ヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオールと、多官能イソシアネートと、を含む樹脂組成物の重合物であるポリアクリルウレタン樹脂を含み、最外表面でのフッ素原子量[F
S]と、前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[F
I]と、の比率[F
I/F
S×100(%)]が2%以上50%以下であ
り、平均厚さが10μm以上100μm以下である表面樹脂層と、
を有する積層部材。
【請求項2】
前記表面樹脂層は、前記比率[F
I/F
S×100(%)]が10%以上40%以下である請求項1に記載の積層部材。
【請求項3】
前記表面樹脂層は、最外表面でのフッ素原子量[F
S]と、前記透明支持基材との界面でのフッ素原子量[F
B]と、の比率[F
B/F
S×100(%)]が1%以上40%以下である請求項1又は請求項2に記載の積層部材。
【請求項4】
前記表面樹脂層は、前記樹脂組成物に含まれる前記アクリル樹脂中の全水酸基の量[OH
A]と、前記ポリオール中の全水酸基の量[OH
P]と、のモル比[OH
A/OH
P]が0.1以上4以下である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の積層部材。
【請求項5】
前記表面樹脂層は、23℃でのマルテンス硬度が0.5N/mm
2以上220N/mm
2以下、且つ23℃での戻り率が70%以上100%以下である請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載の積層部材。
【請求項6】
前記透明支持基材が、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリアクリレート樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を含む請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載の積層部材。
【請求項7】
前記透明支持基材は、前記表面樹脂層との界面での表面粗さが、JIS B0601(1994年)で定義される算術平均高さRaで、5nm以上100nm以下である請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の積層部材。
【請求項8】
前記透明支持基材は、前記表面樹脂層との界面での表面粗さが、JIS B0601(1994年)で定義される算術平均高さRaで、10nm以上50nm以下である請求項
7に記載の積層部材。
【請求項9】
前記透明支持基材の前記表面樹脂層を有しない面に、粘着剤を含む粘着層を有する請求項1~請求項
8のいずれか1項に記載の積層部材。
【請求項10】
前記積層部材の、前記透明支持基材を有する側の表面における60°光沢度が130以上である請求項1~請求項
9のいずれか1項に記載の積層部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な分野において、表面での傷付きを抑制する観点から表面保護膜等の表面保護樹脂部材を設けることが行われている。そして、近年では耐傷性のために表面を保護する部材としてウレタン樹脂等の樹脂層が多く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、炭素数が10未満の側鎖ヒドロキシル基に対する炭素数が10以上の側鎖ヒドロキシル基の含有比(モル比)が1/3未満(但し前記炭素数が10以上の側鎖ヒドロキシル基を有しない場合を含む)であるアクリル樹脂と、複数のヒドロキシル基を有し且つその全てのヒドロキシル基同士が炭素数6以上の鎖によって連結されるポリオールと、イソシアネートと、を、重合に用いられる全ての前記アクリル樹脂に含有されるヒドロキシル基の総モル量(A)と、重合に用いられる全ての前記ポリオールに含有されるヒドロキシル基の総モル量(B)との比率(B/A)が0.1以上10以下となる重合比で重合し形成された画像形成装置用部材に用いる樹脂材料が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、合成樹脂基材の少なくとも片面に粒子を含有する樹脂層を設けた改質プラスチックシートであって、前記樹脂層がバインダー樹脂として、ポリオール樹脂、及びブロックポリイソシアネートから形成されてなる改質プラスチックシートが開示されている。
【0005】
また特許文献3には、熱可塑性ポリオレフィン樹脂シートと、該シート上に直接またはプライマー層を介して形成されてなるトップコート層とを有してなり、かつ、該トップコート層が、分子中にマスキングされたイソシアネート基を含有する自己架橋型ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を主成分としてなる樹脂組成物によって形成されたものである熱可塑性ポリオレフィン樹脂製の表皮材が開示されている。
【0006】
また特許文献4には、ポリオレフィン系樹脂からなる基材上に、少なくとも装飾層、プライマー層、及び表面保護層を積層してなる化粧シートであって、該表面保護層が、(1)炭素数13~25の長鎖アルキル基と電離放射線硬化性官能基を有し、かつポリカプロラクトン変性されてなるウレタンアクリレート(A)及び1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する有機イソシアネートと、ヒドロキシ変性(メタ)アクリレート及びポリカプロラクトン含有多官能アルコールとを反応させることによって得られるウレタンアクリレート(B)が、ウレタンアクリレート(A)とウレタンアクリレート(B)の配合質量比を25:75~75:25で配合されてなる電離放射線硬化性樹脂を架橋硬化したものであり、(2)塗膜厚みが10~50μm、及び(3)(1)の電離放射線硬化性樹脂による塗膜を、厚さ140μmのポリプロピレンフィルムに電離放射線硬化性樹脂を厚さ15μmとなるよう塗工・硬化させた後、温度25℃、引張速度50mm/分で引張試験を行い破断する際の伸度を測定する引張試験により測定した引張り伸度が50~90%である、化粧シートが開示されている。
【0007】
また特許文献5には、基材フィルムの少なくとも片側に、A層を有し、A層表面にオレイン酸を塗布して60℃で1時間保持したときのA層の質量増加率が10質量%以下であり、微小硬度計測定において0.5mN荷重を10秒間加えたときの、A層の厚み方向の最大変位量が1.0~3.0μm、A層の厚み方向のクリープ変位量が0.05~0.5μmであり、荷重を0mNにしたときの、A層の厚み方向の残存変位量が0.2~0.65μmである、積層フィルムが開示されている。
【0008】
また特許文献6には、支持基材の少なくとも一方の面に表面層を有する積層フィルムであって、表面層が、1.JIS Z8741(1997年)で規定する60°鏡面光沢度が60%以上であり、2.オレイン酸の後退接触角θrが50°以上であり、3.微小硬度計測定において0.5mN荷重を10秒間加えたときの、前記表面層の厚み方向の最大変位量が1.0μm以上3.0μm以下であり、前記表面層の厚み方向のクリープ変位量が0.05μm以上0.5μm以下であり、荷重を0mNまで解放したときの、前記表面層の厚み方向の永久変位量が0.2μm以上0.7μm以下である、積層フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5870480号公報
【文献】特開2003-311909号公報
【文献】特開2012-031262号公報
【文献】特開2013-078847号公報
【文献】特開2013-244650号公報
【文献】国際公開第2014/109177号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
なお、表面保護を目的として物の表面に設けられる部材には、例えば防汚性等の観点から表面層としてフッ素原子を含むウレタン樹脂層が用いられることがあるが、フッ素原子を含む場合、基材との密着性に劣ることがあった。
一方で、画面上に設けられる表面保護のための部材などにおいては、高い視認性(表面保護の対象物が部材を介して視認される度合い)、つまり可視光の透過性が求められている。また、この視認性に関しては、傷の発生によって視認性自体が低下することを抑制することも求められている。
【0011】
本発明の課題は、樹脂を含む透明支持基材と、透明支持基材に直に接するよう配置される表面樹脂層と、を有する積層部材であって、前記表面樹脂層が、水酸基価40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下でありフッ素原子を含むアクリル樹脂と、複数のヒドロキシル基を有し且つ前記ヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオールと、多官能イソシアネートと、を含む樹脂組成物の重合物であるポリアクリルウレタン樹脂を含まない場合、又は前記表面樹脂層が、最外表面でのフッ素原子量[FS]と、最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI]と、の比率[FI/FS×100(%)]が50%超である場合に比べ、透明支持基材と表面樹脂層との高い密着性、及び優れた視認性を有する積層部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の手段により解決される。
<1>
樹脂を含む透明支持基材と、
前記透明支持基材に直に接するよう配置され、水酸基価40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下でありフッ素原子を含むアクリル樹脂と、複数のヒドロキシル基を有し且つ前記ヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオールと、多官能イソシアネートと、を含む樹脂組成物の重合物であるポリアクリルウレタン樹脂を含み、最外表面でのフッ素原子量[FS]と、前記最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI]と、の比率[FI/FS×100(%)]が2%以上50%以下である表面樹脂層と、
を有する積層部材。
<2>
前記表面樹脂層は、前記比率[FI/FS×100(%)]が10%以上40%以下である<1>に記載の積層部材。
<3>
前記表面樹脂層は、最外表面でのフッ素原子量[FS]と、前記透明支持基材との界面でのフッ素原子量[FB]と、の比率[FB/FS×100(%)]が1%以上40%以下である<1>又は<2>に記載の積層部材。
<4>
前記表面樹脂層は、前記樹脂組成物に含まれる前記アクリル樹脂中の全水酸基の量[OHA]と、前記ポリオール中の全水酸基の量[OHP]と、のモル比[OHA/OHP]が0.1以上4以下である<1>~<3>のいずれか1項に記載の積層部材。
<5>
前記表面樹脂層は、平均厚さが10μm以上100μm以下である<1>~<4>のいずれか1項に記載の積層部材。
<6>
前記表面樹脂層は、23℃でのマルテンス硬度が0.5N/mm2以上220N/mm2以下、且つ23℃での戻り率が70%以上100%以下である<1>~<5>のいずれか1項に記載の積層部材。
<7>
前記透明支持基材が、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリアクリレート樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を含む<1>~<6>のいずれか1項に記載の積層部材。
<8>
前記透明支持基材は、前記表面樹脂層との界面での表面粗さが、JIS B0601(1994年)で定義される算術平均高さRaで、5nm以上100nm以下である<1>~<7>のいずれか1項に記載の積層部材。
<9>
前記透明支持基材は、前記表面樹脂層との界面での表面粗さが、JIS B0601(1994年)で定義される算術平均高さRaで、10nm以上50nm以下である<8>に記載の積層部材。
<10>
前記透明支持基材の前記表面樹脂層を有しない面に、粘着剤を含む粘着層を有する<1>~<9>のいずれか1項に記載の積層部材。
<11>
前記積層部材の、前記透明支持基材を有する側の表面における60°光沢度が130以上である<1>~<10>のいずれか1項に記載の積層部材。
【発明の効果】
【0013】
<1>、<2>、又は<10>に係る発明によれば、樹脂を含む透明支持基材と、透明支持基材に直に接するよう配置される表面樹脂層と、を有する積層部材であって、前記表面樹脂層が、水酸基価40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下でありフッ素原子を含むアクリル樹脂と、複数のヒドロキシル基を有し且つ前記ヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオールと、多官能イソシアネートと、を含む樹脂組成物の重合物であるポリアクリルウレタン樹脂を含まない場合、又は前記表面樹脂層が、最外表面でのフッ素原子量[FS]と、最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI]と、の比率[FI/FS×100(%)]が50%超である場合に比べ、透明支持基材と表面樹脂層との高い密着性、及び優れた視認性を有する積層部材が提供される。
<3>に係る発明によれば、表面樹脂層が、最外表面でのフッ素原子量[FS]と、透明支持基材との界面でのフッ素原子量[FB]と、の比率[FB/FS×100(%)]が40%超である場合に比べ、透明支持基材と表面樹脂層との高い密着性を有する積層部材が提供される。
<4>に係る発明によれば、表面樹脂層が、樹脂組成物に含まれるアクリル樹脂中の全水酸基の量[OHA]と、ポリオール中の全水酸基の量[OHP]と、のモル比[OHA/OHP]が0.1以上3以下である場合に比べ、優れた視認性を有する積層部材が提供される。
<5>に係る発明によれば、表面樹脂層の平均厚さが10μm未満である場合に比べ、優れた視認性を有する積層部材が提供される。
<6>に係る発明によれば、表面樹脂層が、23℃でのマルテンス硬度が220N/mm2超である場合、又は23℃での戻り率が70%未満である場合に比べ、優れた視認性を有する積層部材が提供される。
<7>に係る発明によれば、透明支持基材が樹脂としてポリプロピレン樹脂のみを含む場合に比べ、透明支持基材と表面樹脂層との高い密着性を有する積層部材が提供される。
<8>、又は<9>に係る発明によれば、透明支持基材の表面樹脂層との界面での表面粗さ(算術平均高さRa)が5nm未満である場合に比べ、透明支持基材と表面樹脂層との高い密着性を有する積層部材が提供される。
<11>に係る発明によれば、積層部材の透明支持基材を有する側の表面における60°光沢度が130未満である場合に比べ、優れた視認性を有する積層部材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について以下説明する。なお、本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<積層部材>
本実施形態に係る積層部材は、樹脂を含む透明支持基材(以下単に「基材」とも称す)と、透明支持基材に直に接するよう配置される表面樹脂層(以下単に「表面層」とも称す)と、を有する。
表面樹脂層は、水酸基価40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下でありフッ素原子を含むアクリル樹脂(以下単に「特定アクリル樹脂」とも称す)と、複数のヒドロキシル基を有し且つヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介するポリオール(以下単に「長鎖ポリオール」とも称す)と、多官能イソシアネートと、を含む樹脂組成物の重合物であるポリアクリルウレタン樹脂を含む。
また表面樹脂層は、最外表面でのフッ素原子量[FS]と、最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI]と、の比率[FI/FS×100(%)]が2%以上50%以下である。
【0016】
本実施形態に係る積層部材は、上記の構成を満たすことにより、透明支持基材と表面樹脂層との高い密着性と、優れた視認性と、が得られる。
その理由は、以下のように推察される。
【0017】
まず、本実施形態における表面層は、特定アクリル樹脂(a)、長鎖ポリオール(b)、及び多官能イソシアネート(c)を含む樹脂組成物の重合物であるポリアクリルウレタン樹脂を含む。なお、この重合物は、特定アクリル樹脂(a)中のOH基及び長鎖ポリオール(b)中のOH基と多官能イソシアネート(c)中のイソシアネート基とが反応して形成されたウレタン結合(-NHCOO-)を有している。つまり、特定アクリル樹脂(a)が長鎖ポリオール(b)と多官能イソシアネート(c)を介して架橋構造を形成している。この構造を備えるポリアクリルウレタン樹脂は、高い透明性を有する。
そして、特定アクリル樹脂(a)の水酸基価が40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下であることで、上記架橋構造が調和性高く形成される。これにより、表面層には自己修復性が付与されるものと考えられる。なお、自己修復性とは、他の物質との接触(例えば擦り)等によって表面に傷が生じた場合であっても、その傷が修復されて元の状態又はそれに近い状態に復元される性質を指す。つまり、表面層においては、一旦傷が生じた場合であってもその傷が復元されるため、表面における傷の発生による透明性の低下が抑制される。
以上の通り、本実施形態における表面層は、高い透明性を有すると共に、傷の発生による透明性の低下も抑制されるため、優れた視認性が得られる。
【0018】
また、本実施形態における表面層は、上記比率[FI/FS×100(%)]が2%以上50%以下であり、つまりフッ素原子が表面層の最外表面側に高密度で存在し、一方表面層の内部ではフッ素原子が低密度になっている。これにより、基材との界面におけるフッ素原子の影響が抑制され、表面層と基材との密着性が高められる。
【0019】
さらに、本実施形態における表面層では、上記の通りフッ素原子が最外表面側に高密度で存在しているため、表面エネルギーが低減され、これによって防汚性も高められる。
【0020】
・フッ素原子量の比率
本実施形態では、表面層において、最外表面でのフッ素原子量[FS]と、最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI]と、の比率[FI/FS×100(%)]が2%以上50%以下である。
上記比率[FI/FS×100(%)]が50%超であると、基材との高い密着性が得られない。一方、2%未満であると、最外表面におけるフッ素量が少なくなり高い防汚性が得られない。
なお、上記比率[FI/FS×100(%)]は、好ましくは10%以上40%以下であり、より好ましくは12%以上35%以下である。
【0021】
なお、高い密着性及び高い防汚性を得る観点から、表面層において、最外表面でのフッ素原子量[FS]と、最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で1分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-2]と、の比率[FI-2/FS×100(%)]についても、2%以上50%以下であることが好ましい。また、より好ましくは10%以上40%以下であり、さらに好ましくは12%以上35%以下である。
また同様に、高い密着性及び高い防汚性を得る観点から、表面層において、最外表面でのフッ素原子量[FS]と、最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で5分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-3]と、の比率[FI-3/FS×100(%)]についても、2%以上50%以下であることが好ましい。また、より好ましくは10%以上40%以下であり、さらに好ましくは12%以上35%以下である。
【0022】
ここで、フッ素原子量の測定方法について説明する。
フッ素原子量はXPS(X線光電子分光法)によって測定する。具体的には、アルバック・ファイ株式会社製のXPS分析装置(型式:PHI5000 Versa Probe II)を用いて、以下の条件にてXPSにより、フッ素原子量を測定する。
-測定条件-
X線源:単色化AlKa
出力:25W、15kV
検出面積:100μmφ
入射角:90度
取り出し角:45度
帯電中和:中和銃条件1.0V/イオン銃10V
【0023】
また、表面層に対するエッチング方法について説明する。
具体的には、表面層における最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃でエッチングする。
-エッチング条件-
エッチング銃:アルゴンガスクラスターイオン銃
加速電圧:5kV
掃引領域:2mm×2mm
レート:5nm/min(ポリエステル換算)
【0024】
さらに、高い密着性及び高い防汚性を得る観点から、表面層において、最外表面でのフッ素原子量[FS]と、基材との界面でのフッ素原子量[FB]と、の比率[FB/FS×100(%)]は、1%以上40%以下であることが好ましい。また、より好ましくは1%以上35%以下であり、さらに好ましくは2%以上35%以下である。
【0025】
ここで、表面層の基材との界面でのフッ素原子量[FB]の測定方法について説明する。界面でのフッ素原子量[FB]の測定は、傾斜を有する切片を作製してその断面について測定することで行う。
まず、基材と表面層とを有する積層部材から、ミクロトームで角度θの傾斜を有する切片を作製する。なお、切片の作製には、特開2004-219261号に記載の方法を用い得る。この切片における傾斜において、基材と表面層との界面におけるフッ素原子量を、前述の方法により測定する。なお、前記θは0.5°以上2°以下の間の角度とする。
【0026】
・フッ素原子量の比率の達成方法
次いで、比率[FI/FS×100(%)]を前記範囲に制御する方法について説明する。なお、前述の比率[FI-2/FS×100(%)]、比率[FI-3/FS×100(%)]、及び比率[FB/FS×100(%)]も、下記の方法によって制御する事が出来る。
上記達成方法については、特に限定されるものではないが、例えば以下の方法が挙げられる。
【0027】
達成方法(1)
表面層を構成するポリアクリルウレタン樹脂は、フッ素原子を有する特定アクリル樹脂(a)と長鎖ポリオール(b)と多官能イソシアネート(c)との重合物である。なお、フッ素原子は長鎖ポリオール(b)及び多官能イソシアネート(c)との相溶性が低いことから、フッ素原子を有する特定アクリル樹脂(a)が表面層の最外表面側に配向し易く、一方長鎖ポリオール(b)及び多官能イソシアネート(c)が基材との界面側に配向し易い。これにより、比率[FI/FS×100(%)]が前記範囲に制御され易くなると考えられる。
【0028】
達成方法(2)
また、比率[FI/FS×100(%)]を前記範囲に制御する観点から、基材に含まれる樹脂のSP値(溶解度パラメータ)が8.1以上であることが好ましい。基材中の樹脂のSP値が8.1以上であることで、比率[FI/FS×100(%)]が前記範囲に制御され易くなる理由は、以下のように推察される。
樹脂のSP値が高くなると、樹脂の分子構造内における極性成分が大きくなる。この極性成分の存在により、長鎖ポリオール(b)及び多官能イソシアネート(c)を基材との界面側に配向させ易くし、一方フッ素原子を有する特定アクリル樹脂(a)を表面層の最外表面側に配向させ易くするものと考えられる。
また、基材中に上記極性成分が存在することで、ポリアクリルウレタン樹脂が有する水酸基等の官能基と結合し、表面層と基材との密着性が、より向上するものと考えられる。
【0029】
以上の観点から、基材に含まれる樹脂のSP値(溶解度パラメータ)は8.1以上であることが好ましく、より好ましくは8.15以上であり、さらに好ましくは8.2以上である。一方、基材の安定性との観点から、上記SP値の上限値は、20以下であることが好ましく、より好ましくは18以下であり、さらに好ましくは16以下である。
【0030】
なお、SP値が8.1以上である樹脂、つまり分子構造内に極性成分を多く含む樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリレート樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の少なくとも一種を基材中に含むことで、表面層中における長鎖ポリオール(b)及び多官能イソシアネート(c)が基材との界面側に配向し易くなると考えられる。
【0031】
ここで、樹脂のSP値の算出方法について説明する。
樹脂のモノマー組成を公知の方法で解析した上で、Fedor法(具体的には、Polym.Eng.Sci.,14[2](1974)に記載の方法)により、下記式を用いて計算される。
SP値=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
Δei:原子または原子団の蒸発エネルギー
Δvi:原子または原子団のモル体積
【0032】
達成方法(3)
また、達成方法として、フッ素原子を含む特定アクリル樹脂(a)として、樹脂の分子構造における側鎖にフッ素原子を含むアクリル樹脂を用いる方法が挙げられる。
特定アクリル樹脂(a)の側鎖に存在するフッ素原子は、表面層中でも柔軟に動き得るものと考えられ、つまりフッ素原子を有する側鎖の部分が表面層の最外表面に表出する可動性を備えるものと考えられる。そのため、フッ素原子を有する特定アクリル樹脂(a)を表面層の最外表面側に配向させ易くし、一方長鎖ポリオール(b)及び多官能イソシアネート(c)を基材との界面側に配向させ易くするものと考えられる。
【0033】
次いで、本実施形態に係る積層部材を構成する各部材について詳述する。
【0034】
[透明支持基材]
本実施形態に係る積層部材は、樹脂を含む透明支持基材を有する。
【0035】
ここで、基材における「透明」とは、透過率が80%以上であることを指す。なお、基材の透過率は、積層部材の視認性の観点から、さらに85%以上であることが好ましく、89%以上であることがより好ましく、100%に近いほど好ましい。
なお、透過率は、JIS K7361-1(1997年)に準じて、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH2000)を用いて、全光線透過率(%)を測定する。
【0036】
基材は樹脂を含む。基材は、樹脂を主成分として含んでいることが好ましく、具体的には基材の全量に対する樹脂の含有量が1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、100%であってもよい。
【0037】
基材に含まれる樹脂は、表面層と基材との密着性向上の観点から、そのSP値(溶解度パラメータ)が8.1以上であることが好ましい。
【0038】
基材に含まれる樹脂としては、基材の透明性(つまり透過率)を高め且つSP値を上記範囲に制御して密着性を向上させ易くするとの観点から、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリレート樹脂等が挙げられる。
【0039】
なお、基材には、樹脂以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば充填剤(無機粒子、有機粒子等)、帯電防止剤、摩擦低減添加剤、表面改質剤、紫外線吸収剤、光安定化剤等が挙げられる。
【0040】
・基材の物性
基材は、表面層との界面での表面粗さが、JIS B0601(1994年)で定義される算術平均高さRaで、5nm以上100nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは15nm以上40nm以下である。
基材の表面の算術平均高さRaが5nm以上であることで、表面層との界面の面積が増加するため密着性が高められる。なお、基材が極性成分を有する樹脂を含有する場合(例えばSP値8.1以上の樹脂を含有する場合、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリアクリレート樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を含有する場合等)には、表面層との界面の面積が増加することでより強固に結合が形成され、高い密着性が得易くなる。
算術平均高さRaは、JIS B0601(1994年)の規定に準じて、表面粗さ測定機(サーフコム1400A、(株)東京精密製)によって測定する。
【0041】
基材の厚さ(平均厚さ)は、特に限定されるものではないが、積層部材の強度の観点から、例えば30μm以上5000μm以下が好ましく、50μm以上2000μm以下がより好ましく、75mm以上1000μm以下がさらに好ましい。
なお、基材の平均厚さは、基材について無作為に選んだ10箇所での厚さの算術平均とする。
【0042】
[表面樹脂層]
本実施形態に係る積層部材は、基材に直に接するよう配置された表面樹脂層(表面層)を有する。
【0043】
表面層は、ポリアクリルウレタン樹脂を主成分として含んでいることが好ましく、具体的には表面層の全量に対するポリアクリルウレタン樹脂の含有量が20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、100%であってもよい。
【0044】
本実施形態に係る表面層に含有されるポリアクリルウレタン樹脂は、特定アクリル樹脂(a)、長鎖ポリオール(b)、及び多官能イソシアネート(c)を少なくとも含む樹脂組成物が重合されてなる。
【0045】
(a)特定アクリル樹脂
本実施形態では、アクリル樹脂としてヒドロキシル基(-OH)を有する特定アクリル樹脂が用いられる。この特定アクリル樹脂の水酸基価は40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下である。
ヒドロキシル基を有する特定アクリル樹脂としては、分子構造中にヒドロキシル基を有するものに加えて、カルボキシ基を有するものも含まれる。
【0046】
ヒドロキシル基は、例えば特定アクリル樹脂の原料となるモノマーとしてヒドロキシル基を有するモノマーを用いることで導入される。ヒドロキシル基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、及びN-メチロールアクリルアミン等の、(1)ヒドロキシル基を有するエチレン性モノマー等が挙げられる。
また、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、及びマレイン酸等の、(2)カルボキシ基を有するエチレン性モノマーを用いてもよい。
【0047】
また、特定アクリル樹脂の原料となるモノマーには、ヒドロキシル基を有しないモノマーを併用してもよい。ヒドロキシル基を有しないモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、及び(メタ)アクリル酸n-ドデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルなど、前記モノマー(1)及び(2)と共重合し得るエチレン性モノマーが挙げられる。
【0048】
なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両者を含むことを意味する。
【0049】
・フッ素原子
特定アクリル樹脂は、分子構造中にフッ素原子を有する。
フッ素原子は、例えば特定アクリル樹脂の原料となるモノマーとしてフッ素原子を有するモノマーを用いることで導入される。フッ素原子を有するモノマーとしては、2-(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート、パーフルオロヘキシルエチレン、ヘキサフルオロプロペン、ヘキサフルオロプロペンエポキサイド、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等が挙げられる。
【0050】
フッ素原子は、特定アクリル樹脂の側鎖に含まれることが好ましい。なお、フッ素原子を含む側鎖の炭素数としては、例えば2以上20以下のものが挙げられる。またフッ素原子を含む側鎖における炭素鎖は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
フッ素原子を有するモノマー1分子に含まれるフッ素原子数は特に限定されないが、例えば1以上25以下が好ましく、3以上17以下がより好ましい。
【0051】
特定アクリル樹脂全体に対する、フッ素原子の割合としては、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、1質量%以上20質量%以下が更に好ましい。
【0052】
・水酸基価
特定アクリル樹脂の水酸基価は40mgKOH/g以上280mgKOH/g以下である。前記水酸基価は、70mgKOH/g以上250mgKOH/g以下がより好ましい。
水酸基価が40mgKOH/g以上であることにより架橋密度が高いポリアクリルウレタン樹脂が重合され、表面層内部への汚染物質の浸透が抑制され、優れた防汚性が得られる。一方280mgKOH/g以下であることにより適度な柔軟性をもつポリアクリルウレタン樹脂が得られ、また特定アクリル樹脂を溶解させた溶液の粘度が低減され、表面層の形成性に優れる。
特定アクリル樹脂の水酸基価は、特定アクリル樹脂を合成する全モノマー中における、ヒドロキシル基を有するモノマーの割合等によって調整される。
【0053】
なお、水酸基価とは、試料1g中の水酸基(ヒドロキシル基)をアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数を表す。本実施形態における水酸基価の測定は、JIS K0070(1992年)に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定される。但しサンプルが溶解しない場合は溶媒にジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等の溶媒が用いられる。
【0054】
特定アクリル樹脂の合成は、例えば、前述のモノマーを混合し通常のラジカル重合やイオン重合等を行った後、精製することによって行なわれる。
【0055】
(b)長鎖ポリオール
長鎖ポリオールは、複数のヒドロキシル基(-OH)を有し、且つ前記ヒドロキシル基が炭素数(ヒドロキシル基同士を結ぶ直鎖の部分における炭素数)が6以上の炭素鎖を介するポリオールである。つまり、長鎖ポリオールは全てのヒドロキシル基同士が炭素数(ヒドロキシル基同士を結ぶ直鎖の部分における炭素数)が6以上の炭素鎖によって連結されるポリオールである。
【0056】
長鎖ポリオールは、官能基数(すなわち、長鎖ポリオール1分子中に含まれるヒドロキシル基の数)が、例えば2以上5以下の範囲が挙げられ、2以上3以下であってもよい。
【0057】
長鎖ポリオールにおける炭素数が6以上の炭素鎖とは、ヒドロキシル基同士を結ぶ直鎖の部分における炭素数が6以上である鎖を表す。炭素数が6以上の炭素鎖としては、アルキレン基、又は1種以上のアルキレン基と-O-、-C(=O)-、及び-C(=O)-O-から選択される1つ以上の基とを組み合わせてなる2価の基が挙げられる。ヒドロキシル基が炭素数6以上の炭素鎖を介する長鎖ポリオールは、-[CO(CH2)n1O]n2-H(ここで、n1は1以上10以下(好ましくは3以上6以下、より好ましくは5)を表し、n2は1以上50以下(好ましくは1以上35以下、より好ましくは1以上10以下、さらに好ましくは2以上6以下)を表す。)の構造を有することが好ましい。
【0058】
長鎖ポリオールとしては、例えば、2官能ポリカプロラクトンジオール、3官能ポリカプロラクトントリオール、4官能以上のポリカプロラクトンポリオール等が挙げられる。
【0059】
2官能ポリカプロラクトンジオールとしては、例えば-[CO(CH2)n11O]n12-H(ここで、n11は1以上10以下(好ましくは3以上6以下、より好ましくは5)を表し、n12は1以上50以下(好ましくは3以上35以下)を表す。)で表される、末端にヒドロキシル基を有する基を2つ有する化合物が挙げられる。中でも、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0060】
【0061】
(一般式(1)中、Rはアルキレン基、又はアルキレン基と、-O-及び-C(=O)-から選択される1つ以上の基とを組み合わせてなる2価の基を表し、m及びnはそれぞれ独立に1以上35以下の整数を表す。)
【0062】
一般式(1)中、Rで表される2価の基に含まれるアルキレン基は、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。該アルキレン基としては、例えば炭素数1以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上5以下のアルキレン基がより好ましい。
Rで表される2価の基としては、炭素数1以上10以下(好ましくは炭素数2以上5以下)の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキレン基が好ましく、また炭素数1以上5以下(好ましくは炭素数1以上3以下)の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキレン基2つが-O-もしくは-C(=O)-(好ましくは-O-)で連結されてなる基が好ましい。これらの中でも、*-C2H4-*、*-C2H4OC2H4-*、又は*-C(CH3)2-(CH2)2-*で表される2価の基がより好ましい。なお、上記に列挙した2価の基は、それぞれ「*」部分で結合する。
m及びnは、それぞれ独立に1以上35以下の整数を表し、2以上10以下であることが好ましく、2以上5以下であることがより好ましい。
【0063】
3官能ポリカプロラクトントリオールとしては、例えば-[CO(CH2)n21O]n22-H(ここで、n21は1以上10以下(好ましくは3以上6以下、より好ましくは5)を表し、n22は1以上50以下(好ましくは1以上28以下)を表す。)で表される、末端にヒドロキシル基を有する基を3つ有する化合物が挙げられる。中でも、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0064】
【0065】
(一般式(2)中、Rはアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基、又はアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基と、アルキレン基、-O-、及び-C(=O)-から選択される1つ以上の基とを組み合わせてなる3価の基を表す。l、m、及びnはそれぞれ独立に1以上28以下の整数を表し、l+m+nは3以上30以下である。)
【0066】
一般式(2)中、Rがアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基を表す場合、その基は直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。このアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基としては、例えば炭素数1以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上6以下のアルキレン基がより好ましい。
また上記Rは、上記に示すアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基と、アルキレン基(例えば炭素数1以上10以下のアルキレン基)、-O-、及び-C(=O)-から選択される1つ以上の基と、を組み合わせてなる3価の基であってもよい。
Rで表される3価の基としては、炭素数1以上10以下(好ましくは炭素数3以上6以下)の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキレン基から水素原子を1つ除いた3価の基が好ましい。これらの中でも、*-CH2-CH(-*)-CH2-*、CH3-C(-*)(-*)-(CH2)2-*、CH3CH2C(-*)(-*)(CH2)3-*で表される3価の基がより好ましい。なお、上記に列挙した3価の基は、それぞれ「*」部分で結合する。
l、m、及びnは、それぞれ独立に1以上28以下の整数を表し、2以上10以下であることが好ましく、2以上5以下であることがより好ましい。l+m+nは3以上30以下であり、6以上30以下であることが好ましく、6以上20以下であることがより好ましい。
【0067】
なお、長鎖ポリオールは1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0068】
特定アクリル樹脂(a)に含まれる全水酸基の量[OHA]と、長鎖ポリオール(b)に含まれる全水酸基の量[OHP]と、のモル比[OHA/OHP]が0.1以上4以下であることが好ましく、0.15以上3以下であることがより好ましく、0.25以上2以下であることがさらに好ましい。
モル比[OHA/OHP]が0.1以上4以下であることで、ハードセグメントである特定アクリル樹脂(a)の量とソフトセグメントである長鎖ポリオール(b)の量との調和が高められ、表面層の自己修復性が高め易くなる。
【0069】
なお、長鎖ポリオールとしては、水酸基価が30mgKOH/g以上300mgKOH/g以下のものを用いることが好ましく、50mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることがより好ましい。水酸基価が30mgKOH/g以上であることにより、架橋密度が高いウレタン樹脂が重合され、一方300mgKOH/g以下であることにより、適度な柔軟性をもつウレタン樹脂が得易くなる。
【0070】
尚、上記水酸基価とは、試料1g中の水酸基(ヒドロキシル基)をアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数を表す。本実施形態における上記水酸基価の測定は、JIS K0070(1992年)に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定される。但しサンプルが溶解しない場合は溶媒にジオキサン、THF等の溶媒が用いられる。
【0071】
(c)多官能イソシアネート
多官能イソシアネート(c)はイソシアネート基(-NCO)を複数有する化合物であり、例えば特定アクリル樹脂(a)が有するヒドロキシル基、長鎖ポリオール(b)が有するヒドロキシル基等と反応してウレタン結合(-NHCOO-)を形成する。そして、特定アクリル樹脂(a)同士、特定アクリル樹脂(a)と長鎖ポリオール(b)、長鎖ポリオール(b)同士を架橋する架橋剤として機能する。
【0072】
多官能イソシアネートとしては、特に制限されるものではないが、例えばメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の、2官能のジイソシアネートが挙げられる。また、ヘキサメチレンポリイソシアネートの多量体でビュレット構造、イソシアヌレート構造、アダクト構造、弾性型構造などをもつ多官能イソシアネート等も好ましく用いられる。
なお、多官能イソシアネートとして市販品を用いてもよく、例えば旭化成(株)製のポリイソシアネート(デュラネート)等が挙げられる。
多官能イソシアネートは1種のみを用いても、2種以上を混ぜて用いてもよい。
【0073】
多官能イソシアネートの量としては、特定アクリル樹脂(a)及び長鎖ポリオール(b)中のヒドロキシル基(-OH)の総量に対して、イソシアネート基(-NCO)の割合がモル比で0.8以上1.6以下となる量に調整することが好ましく、さらにはモル比で1以上1.3以下が好ましい。
多官能イソシアネートの量が上記モル比で0.8以上であることで、架橋密度が高いウレタン樹脂が重合され、形成される表面層の自己修復性を高め易くなる。一方、多官能イソシアネートの量が上記モル比で1.6以下であることで、適度な弾性をもつウレタン樹脂が得易くなる。
【0074】
-他の添加剤-
本実施形態に係る表面層には、さらに他の添加剤が含まれていてもよい。例えば、他の添加剤としては帯電防止剤、特定アクリル樹脂(a)及び長鎖ポリオール(b)におけるヒドロキシル基(-OH)と多官能イソシアネート(c)におけるイソシアネート基(-NCO)との反応を促進させる反応促進剤等が挙げられる。
【0075】
・帯電防止剤
帯電防止剤の具体例としては、カチオン系の界面活性化合物(例えばテトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルアミンの塩酸塩、イミダゾリウム塩等)、アニオン系の界面活性化合物(例えばアルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフォスフェート等)、非イオン系の界面活性化合物(例えばグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、N,N-ビス-2-ヒドロキシエチルアルキルアミン、ヒドロキシアルキルモノエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステル等)、両性の界面活性化合物(例えばアルキルベタイン、アルキルイミダゾリウムベタイン等)等が挙げられる。
【0076】
また、帯電防止剤として、4級アンモニウムを含有する物が挙げられる。
具体的には、トリ-n-ブチルメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホンイミド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、オクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムパラトルエンスルフォネート、トリブチルベンジルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、オクタン酸アミドプロピルベタイン、ポリオキシエチレンステアリルアミンの塩酸塩等が挙げられる。これらの中でも、トリ-n-ブチルメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホンイミドが好ましい。
【0077】
また、高分子量の帯電防止剤を用いてもよい。
高分子量の帯電防止剤としては、例えば、4級アンモニウム塩基含有アクリレートを重合した高分子化合物、ポリスチレンスルホン酸型高分子化合物、ポリカルボン酸型高分子化合物、ポリエーテルエステル型高分子化合物、エチレンオキシド-エピクロルヒドリン型高分子化合物、ポリエーテルエステルアミド型高分子化合物等が挙げられる。
【0078】
4級アンモニウム塩基含有アクリレートを重合した高分子化合物としては、例えば下記の構成単位(A)を少なくとも有する高分子化合物などが挙げられる。
【0079】
【0080】
(構成単位(A)中、R1は水素原子又はメチル基を、R2、R3及びR4はそれぞれ独立にアルキル基を、X-はアニオンを、表す。)
【0081】
なお、高分子量の帯電防止剤の重合は公知の方法により行い得る。
高分子量の帯電防止剤は、同じ重合性単量体からなる高分子化合物のみを用いても、異なる重合性単量体からなる2種以上の高分子化合物を併用してもよい。
【0082】
なお、本実施形態では形成される表面層の表面抵抗が、1×109Ω/□以上1×1014Ω/□以下の範囲となるよう調整することが好ましく、また体積抵抗は1×108Ωcm以上1×1013Ωcm以下の範囲となるよう調整することが好ましい。
表面抵抗及び体積抵抗は、(株)ダイヤインスツルメント製ハイレスタUPMCP-450型URプローブを用いて、22℃、55%RHの環境下で、JIS-K6911に従い測定される。
なお、表面層の表面抵抗及び体積抵抗は、帯電防止剤を含有させる場合であれば、その種類や含有量等の調整によって制御される。
【0083】
帯電防止剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0084】
・反応促進剤
特定アクリル樹脂(a)及び長鎖ポリオール(b)におけるヒドロキシル基(-OH)と多官能イソシアネート(c)におけるイソシアネート基(-NCO)との反応を促進させる反応促進剤としては、例えばスズやビスマスの金属触媒がある。たとえば、日東化成株式会社のネオスタンU-28、U-50、U-600、ステアリン酸スズ(II)がある。また、楠本化成株式会社のXC-C277、XK-640等が挙げられる。
【0085】
-表面樹脂層の形成-
積層部材における表面層の形成方法は、特に限定されるものではない。例えば、特定アクリル樹脂(a)と、長鎖ポリオール(b)と、多官能イソシアネート(c)と、を含む表面層形成用の樹脂組成物を重合させて硬化させることで形成することができる。
【0086】
なお、表面層の形成方法の一例を挙げると、例えば特定アクリル樹脂(a)と、長鎖ポリオール(b)と、を含む第1溶液、及び多官能イソシアネート(c)を含む第2溶液を有する表面層形成用の溶液セットが用いられる。第1溶液と第2溶液とを混合し、基材上に塗布して塗膜を形成する。次いで、加熱して硬化させることで表面層を形成することができる。
【0087】
-表面層の物性-
・厚さ
表面層の厚さ(平均厚さ)としては、特に限定されるものではないが、例えば10μm以上100μm以下であることが好ましく、12.5μm以上80μm以下がより好ましく、15μm以上75μm以下がさらに好ましい。
表面層の厚さが10μm以上であることで、基材が表面に有する粗さに由来する高低差を表面層によって十分に埋められ、積層部材における表面(つまり表面層側における最外表面)の平滑性を高められ、透明性が高められる。一方、表面層の厚さが100μm以下であることで、表面層の形成性に優れる。
【0088】
・マルテンス硬度
表面層は、23℃でのマルテンス硬度が0.5N/mm2以上220N/mm2以下であることが好ましく、1N/mm2以上150N/mm2以下であることがより好ましく、1N/mm2以上80N/mm2以下であることがさらに好ましく、1N/mm2以上60N/mm2以下であることがさらに好ましい。
マルテンス硬度(23℃)が0.5N/mm2以上であることにより、表面層として求められる形状を保持し易くなる。一方、220N/mm2以下であることにより、傷の修復のし易さ(つまり自己修復性)が向上し易くなる。
【0089】
・戻り率
表面層は、23℃での戻り率が70%以上100%以下であることが好ましく、80%以上100%以下であることがより好ましく、90%以上100%以下であることがさらに好ましい。
戻り率は、樹脂材料の自己修復性(応力によってできた歪を応力の除荷後1分以内に復元する性質、即ち傷の修復の度合い)を示す指標である。つまり、戻り率(23℃)が70%以上であることで傷の修復のし易さ(つまり自己修復性)が向上する。
【0090】
表面層におけるマルテンス硬度及び戻り率は、例えば、特定アクリル樹脂(a)の水酸基価、長鎖ポリオール(b)におけるヒドロキシル基同士を連結する鎖の炭素数、特定アクリル樹脂(a)に対する長鎖ポリオール(b)の比率、多官能イソシアネート(c)における官能基(イソシアネート基)の数、特定アクリル樹脂(a)に対する多官能イソシアネート(c)の比率等を制御することで調整される。
【0091】
マルテンス硬度及び戻り率の測定は、測定装置としてフィッシャースコープHM2000(フィッシャー社製)を用い、表面層(サンプル)をスライドガラスに接着剤で固定して、上記測定装置にセットする。表面層に特定の測定温度(つまり23℃)で0.5mNまで15秒間かけて荷重をかけていき0.5mNで5秒間保持する。その際の最大変位を(h1)とする。その後、15秒かけて0.005mNまで除荷していき、0.005mNで1分間保持したときの変位を(h2)として、戻り率〔(h1-h2)/h1〕×100(%)を計算する。また、この際の荷重変位曲線から、マルテンス硬度が求められる。
【0092】
・自己修復特性
表面層は、その自己修復性の指標として、その最外表面を荷重250g/cm2で金属ブラシを30cm/minで3cm幅を50往復させて傷をつけた時の、傷の25℃での修復時間が0.1秒以上72時間以下であることが好ましい。さらには、0.5秒以上48時間以下であることがより好ましく、1秒以上24時間以下であることがより好ましい。
なお、ここで言う傷の修復とは、傷つける前の表面層に対して、ヘイズ値の変化が2.5%以内である状態にまで傷が修復されることを指す。
【0093】
・透過率
表面層は、高い視認性を得る観点から、厚さ(平均厚さ)を50μmとした場合における単体の層での透過率が89%以上99%以下であることが好ましい。さらには、90%以上98%以下であることがより好ましく、91%以上97%以下であることがより好ましい。
なお、透過率は、JIS K7361-1(1997年)に準じて、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH2000)を用いて、全光線透過率(%)を測定する。
【0094】
・基材と積層部材との透過率の変化特性
本実施形態に係る積層部材は、その透過率が、基材における透過率に比べて0.5%以上8%以下高いことが好ましく、1%以上6%以下で高いことがより好ましく、1%以上5%以下高いことがより好ましい。
つまり、表面層を備えていない状態の基材に比べて、基材上に表面層を備えた積層部材の方が、透過率が高いことが好ましい。これにより、高い視認性が得易くなる。
なお、表面層の形成によって透過率が上昇するのは、以下のように推察される。一般に基材の表面に表面層を設けて積層部材を作製した場合、積層部材を通過する光を吸収する吸収因子は基材と表面層とで積算されると考えられる。しかし、この現象とは異なり、表面層として平滑性が高く光沢が高い層を形成することで、効率的に光を透過することができ、その結果基材自体よりも積層部材の方が透過率を高められるものと考えられる。
【0095】
[粘着層]
積層部材は、基材及び表面層以外の他の層を備えていてもよい。例えば、基材の表面層を有しない側の面に配置された粘着層を有していてもよい。
粘着層は、例えば、積層部材を他の部材の表面に貼り付けることを目的として設けられる層である。粘着層は透明性を有していれば、特に限定されず、公知の粘着テープ、粘着フィルム等を用いることができる。
なお、粘着層における「透明」とは、基材と同様に、透過率が80%以上であることを指す。なお、粘着層の透過率も、積層部材の視認性の観点から、さらに85%以上であることが好ましく、89%以上であることがより好ましく、100%に近いほど好ましい。この透過率は基材と同様の方法により測定される。
【0096】
[積層部材の物性]
・光沢度
積層部材は、視認性を高め易くする観点から、その表面(つまり表面層を有する側における最外表面)における60°光沢度(グロス)が、130以上であることが好ましく、より好ましくは130以上180以下であり、さらに好ましくは135以上175以下である。
なお、光沢度は、グロスメータ(BYKガードナー社製、マイクロ-トリ-グロス)を用い、白色紙の上にサンプルを置き、60°の測定角で測定する。
【0097】
〔用途〕
本実施形態に係る積層部材は、例えば他の物質との接触により表面に傷が発生する可能性があり、且つ視認性が求められる物などに対する表面保護部材として、用いることができる。
具体的には、ポータブル機器(例えば携帯電話、ポータブルゲーム機等)における画面、タッチパネルの画面、メガネのレンズ、鏡、モニター、掲示版、カードなどが挙げられる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。尚、以下において「部」は特に断りのない限り質量基準である。なお、実施例6は参考例として示すものである。
【0099】
〔実施例1〕
<アクリル樹脂プレポリマーA1の合成>
n-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と、フッ素原子を含むアクリルモノマー(パーフルオロヘキシル基を有する。FAMAC6、ユニマテック株式会社製)と、の各重合性単量体を、2.5:3.0:0.5のモル比で混合した。さらに、対重合性単量体比2質量%の重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN))、及び対重合性単量体比40質量%のメチルエチルケトン(MEK)を添加して重合性単量体溶液を調製した。
この重合性単量体溶液を滴下ロートに入れ、窒素還流下で80℃に昇温した対重合性単量体比50質量%のMEK中に、攪拌下3時間かけて滴下し重合した。さらに対重合性単量体比10質量%のMEKと対重合性単量体比0.5質量%のAIBNとからなる液を1時間かけて滴下し、反応を完結させた。尚、反応中は80℃に保持して攪拌し続けた。こうしてアクリル樹脂プレポリマーA1を合成した。
得られたアクリル樹脂プレポリマーA1の水酸基価を、JIS K0070-1992に定められた方法(電位差滴定法)に準じて測定したところ、水酸基価175mgKOH/gであった。
また、アクリル樹脂プレポリマーA1の重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いた前述の方法により測定したところ、重量平均分子量17000であった。
【0100】
<表面層形成液(ポリマー1)の調製>
下記成分を混合撹拌した後、第1溶液を調製した。
・アクリル樹脂プレポリマーA1液(固形分50質量%):42部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル社製、分子量850、水酸基価190~200mgKOH/g):38部
・メチルエチルケトン:20部
なお、アクリル樹脂プレポリマーA1と長鎖ポリオールとの全水酸基の量の比率(モル比[OHA/OHP])は0.5であった。
【0101】
また、下記第2溶液を準備した。
・第2溶液(多官能イソシアネート、デュラネートTPA100、旭化成ケミカルズ社製、化合物名:ヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアヌレート体):40部
【0102】
前記第1溶液に前記第2溶液を加え10分間減圧下で脱泡した。さらに反応触媒(無機ビスマス)を添加して、表面層形成液(ポリマー1)とした。
【0103】
<積層フィルム(1)の形成>
基材1としてポリエステルフィルム(東洋紡(株)製、コスモシャイン(登録商標))を準備した。
前記表面層形成液(ポリマー1)を、ワイヤーバーにて基材上に塗布したのち、80℃で1時間硬化し、表面層を形成した。こうして積層フィルム(1)を得た。
【0104】
〔実施例2〕
実施例1における表面層形成液(ポリマー1)の調製の際の第1溶液の調製において、アクリル樹脂プレポリマーA1液(固形分50質量%)と長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル社製)とについて、総量を変えずに両者の質量比を変えて、両者の全水酸基の量の比率(モル比[OHA/OHP])が2.0となるよう調整したこと以外は、実施例1と同様にして表面層形成液(ポリマー2)を調製し、さらに積層フィルム(2)を得た。
【0105】
〔実施例3〕
実施例1において用いたアクリル樹脂プレポリマーA1を、アクリル樹脂プレポリマーA1と、下記のフッ素原子を有しないアクリル樹脂プレポリマーA2との混合物に変更し、さらに下記組成の表面層形成液(ポリマー3)を調製したこと以外、実施例1と同様にして積層フィルム(3)を得た。
【0106】
<アクリル樹脂プレポリマーA2の合成>
実施例1のアクリル樹脂プレポリマーA1の合成において、フッ素原子を含むアクリルモノマー(FAMAC6、ユニマテック株式会社製)を用いず、且つn-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)との各重合性単量体を3.4:2.6モル比で混合してプレポリマーを合成したこと以外、アクリル樹脂プレポリマーA1と同様にして、アクリル樹脂プレポリマーA2を合成した。
得られたアクリル樹脂プレポリマーA2の水酸基価は、水酸基価175mgKOH/gであった。また、アクリル樹脂プレポリマーA1の重量平均分子量は、重量平均分子量16000であった。
【0107】
<表面層形成液(ポリマー3)の調製>
下記成分を混合撹拌した後、第1溶液を調製した。
・アクリル樹脂プレポリマーA1液(固形分50質量%):18部
・アクリル樹脂プレポリマーA2液(固形分50質量%):22部
・長鎖ポリオール(ポリカプロラクトントリオール、プラクセル308、(株)ダイセル社製、分子量850、水酸基価190~200mgKOH/g):41部
・メチルエチルケトン:20部
なお、アクリル樹脂プレポリマーA1と長鎖ポリオールとの全水酸基の量の比率(モル比[OHA/OHP])は0.4であった。
【0108】
〔実施例4〕
実施例1において用いたアクリル樹脂プレポリマーA1を、下記のアクリル樹脂プレポリマーA3に変更したこと以外、実施例1と同様にして表面層形成液(ポリマー4)を調製し、さらに積層フィルム(4)を得た。
【0109】
<アクリル樹脂プレポリマーA3の合成>
実施例1のアクリル樹脂プレポリマーA1の合成において、n-ブチルメタクリレート(nBMA)と、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と、フッ素原子を含むアクリルモノマー(パーフルオロヘキシル基を有する。FAMAC6、ユニマテック株式会社製)と、の各重合性単量体を0.5:5.0:0.5のモル比で混合してプレポリマーを合成したこと以外、アクリル樹脂プレポリマーA1と同様にして、アクリル樹脂プレポリマーA3を合成した。
得られたアクリル樹脂プレポリマーA3の水酸基価は、水酸基価285mgKOH/gであった。また、アクリル樹脂プレポリマーA1の重量平均分子量は、重量平均分子量20000であった。
【0110】
〔実施例5〕
実施例1において用いた基材1(コスモシャイン)を、基材2(ポリエチレンナフタレートフィルム、帝人(株)製、テオネックス(登録商標)、品番:Q51、平均厚さ:150μm)に変更したこと以外、実施例1と同様にして積層フィルム(5)を得た。
【0111】
〔実施例6〕
実施例1において用いた基材1(コスモシャイン)を、基材3(二軸延伸ポリプロピレンフィルム、フタムラ化学(株)製、FOS、平均厚さ:60μm)に変更したこと以外、実施例1と同様にして積層フィルム(6)を得た。
【0112】
〔比較例1〕
実施例1において、基材1(コスモシャイン)上に表面層を形成せず、つまり基材1のままのフィルム(7)を得た。
【0113】
〔比較例2〕
以下の方法により、基材1上に表面層形成液(ポリマー5)による表面層を形成して、積層フィルム(8)を得た。
【0114】
下記成分を混合撹拌した後、第1溶液を調製した。
・アクリル樹脂プレポリマーA1液(固形分50質量%):80部
・メチルエチルケトン:20部
【0115】
また、下記第2溶液を準備した。
・第2溶液(多官能イソシアネート、デュラネートTPA100、旭化成ケミカルズ社製、化合物名:ヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアヌレート体):40部 前記第1溶液に前記第2溶液を加え10分間減圧下で脱泡した。さらに反応触媒(無機ビスマス)を添加して、表面層形成液(ポリマー5)とした。
【0116】
基材1としてポリエステルフィルム(東洋紡(株)製、コスモシャイン(登録商標))を用い、実施例1と同様にして、前記表面層形成液(ポリマー1)を基材上に塗布し硬化させて表面層を形成した。こうして積層フィルム(8)を得た。
【0117】
[物性の測定]
基材の表面層界面での表面粗さRa(nm)、表面層の23℃でのマルテンス硬度(N/mm2)、表面層の23℃での戻り率(%)、積層フィルムの60°光沢度(グロス)を、それぞれ前述の方法により測定した。
また、表面層の最外表面でのフッ素原子量[FS]、最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI]、最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で1分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-2]、最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI-3]、表面層の基材との界面でのフッ素原子量[FB]を、それぞれ前述の方法により測定した。
さらに、基材の透過率(%)と、積層フィルムつまり基材上に表面層が形成された状態での透過率(%)を、前述の方法により測定した。
結果を表1及び表2に示す。
【0118】
[評価]
-修復時間-
実施例及び比較例で得られた積層フィルムに対し、表面層を荷重250g/cm2で金属ブラシを30cm/minで3cm幅を50往復させて傷をつけ、25℃環境下での傷の修復時間を測定した。なお、傷の修復とは、傷つける前の表面層に対して、ヘイズ値の変化が2.5%以内の状態にまで傷が修復されることを指す。
【0119】
-密着性クロスカット-
実施例及び比較例で得られた積層フィルムに対し、JISK5600-5-6(1999年)に従って、クロスカット法により基材と表面層との付着性(密着性)の評価を実施した。以下の評価基準により評価を行った。
・評価基準
A(〇):剥離なし
B(△):部分剥離あり
C(×):全面剥離する
【0120】
-視認性-
前記修復時間の試験と同様にして積層フィルムに対して傷をつけて、25℃環境下で24時間放置した。その後、各積層フィルムを携帯電話ディスプレイ上に置き、文字の視認性を確認した。以下の評価基準により評価を行った。
・評価基準
A(〇):文字がはっきり認識できる
B(△):部分的に不明瞭な部分があるが認識できる
C(×):文字が認識できない
【0121】
-防汚性-
実施例及び比較例で得られた積層フィルムに対し、表面層を油性マジック(マッキー)で塗りつぶし、24時間放置した後、アルコールで拭き取って、マジックによる塗りつぶしの残渣を確認した。以下の評価基準により評価を行った。
・評価基準
A(〇):汚れなし
B(△):部分的にうすく汚れが残る
C(×):濃く汚れが残る
【0122】
【0123】
【0124】
表に示す通り、表面層が、最外表面でのフッ素原子量[FS]と、最外表面の2mm四方の範囲を出力5kVのアルゴンガスクラスターイオン銃で20分間エッチングした後の表面でのフッ素原子量[FI]と、の比率[FI/FS×100(%)]が50%超である比較例2に比べ、各実施例では透明支持基材と表面樹脂層との高い密着性が得られ、且つ優れた視認性を有する積層フィルムが得られている。