IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

特許7354554熱伝導シートおよび熱伝導シートの製造方法
<>
  • 特許-熱伝導シートおよび熱伝導シートの製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】熱伝導シートおよび熱伝導シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20230926BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
B32B27/20 Z
H01L23/36 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019033085
(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公開番号】P2020138328
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】村上 康之
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-141345(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145954(WO,A1)
【文献】特開2011-208024(JP,A)
【文献】特開2019-112568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と膨張化黒鉛とを含む1次シートを厚み方向に複数枚積層してなる積層体をスライスして熱伝導シートを得る工程を含む、熱伝導シートの製造方法であって、
前記膨張化黒鉛の体積平均粒子径が40μm以上180μm以下であり、
前記積層体のアスカーC硬度が60以上90以下であり、
前記熱伝導シートの厚みの標準偏差が3.0μm以下であり、
前記熱伝導シートの一方の主面の表面粗さSaをSa1とし、他方の主面の表面粗さSaをSa2としたときの、Sa1とSa2との比(Sa1/Sa2)が85/100以上100/85以下である、熱伝導シートの製造方法。
【請求項2】
前記1次シートの引張強度が1.5MPa以上である、請求項1に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項3】
前記1次シート中の前記膨張化黒鉛の含有割合が35体積%以上55体積%以下である、請求項1または2に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項4】
前記1次シートが分散剤を更に含む、請求項1~3のいずれかに記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項5】
主面の面積が30cm以上である、請求項1~4のいずれかに記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項6】
樹脂と膨張化黒鉛とを含む熱伝導シートであって、
前記膨張化黒鉛の体積平均粒子径が40μm以上180μm以下であり、
前記熱伝導シートのアスカーC硬度が60以上90以下であり、
前記熱伝導シートの厚みの標準偏差が3.0μm以下であり、
前記熱伝導シートの一方の主面の表面粗さSaをSa1とし、他方の主面の表面粗さSaをSa2としたときの、Sa1とSa2との比(Sa1/Sa2)が85/100以上100/85以下である、熱伝導シート。
【請求項7】
平均厚みが200μm以下である、請求項6に記載の熱伝導シート。
【請求項8】
前記熱伝導シート中の前記膨張化黒鉛の含有割合が35体積%以上55体積%以下である、請求項6または7に記載の熱伝導シート。
【請求項9】
引張強度が1.3MPa以上である、請求項6~のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項10】
分散剤を更に含む、請求項6~のいずれかに記載の熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体および熱伝導シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル(PDP)や集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、熱伝導性を有するシート状の部材(熱伝導シート)が用いられている。例えば、発熱体と放熱体の間に、樹脂および粒子状フィラーを含む熱伝導シートを挟持し、この熱伝導シートを介して発熱体と放熱体とを密着させることで、発熱体から放熱体へと伝熱を行う。そして、従来から、熱伝導シートの諸特性を高めるための試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1では、樹脂および粒子状炭素材料を含む1次シートを厚み方向に積層する等して得られる積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスした後、スライスにより得られたシートを加圧することで熱伝導シートを得る方法が開示されている。そして、特許文献1によれば、上述した方法により得られる熱伝導シートは、比較的低い挟持圧力での使用に際しても優れた熱伝導性を発揮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-67695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、近年、熱伝導シートを介して発熱体と放熱体とを良好に密着させつつ、発熱体から放熱体への伝熱を均一に行う観点から、熱伝導シートの厚み精度を高めることが求められている。
しかしながら、上記従来の手法により製造される熱伝導シートは、厚み精度を高める点に改善の余地があった。
また、当該熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導性にも改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートを形成可能な積層体を提供することを目的とする。
また、本発明は、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行なった。そして、本発明者らは、樹脂と、体積平均粒子径が所定範囲内である粒子状フィラーと、を含む1次シートを厚み方向に複数枚積層してなり、アスカーC硬度が所定範囲内である積層体を用いれば、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートを形成可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の積層体は、樹脂と粒子状フィラーとを含む1次シートを厚み方向に複数枚積層してなる積層体であって、前記粒子状フィラーの体積平均粒子径が40μm以上180μm以下であり、前記積層体のアスカーC硬度が60以上90以下であることを特徴とする。このように、樹脂と、体積平均粒子径が所定範囲内である粒子状フィラーと、を含む1次シートを厚み方向に複数枚積層してなり、アスカーC硬度が所定範囲内である積層体であれば、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートを形成可能である。
なお、本発明において、「アスカーC硬度」は、日本ゴム協会規格(SRIS)のアスカーC法に準拠し、硬度計を用いて温度25℃で測定される値であり、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
また、本発明において「体積平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠して測定することができ、レーザー回折法で測定された粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を表し、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0010】
ここで、本発明の積層体は、前記1次シートの引張強度が1.5MPa以上であることが好ましい。このように、1次シートの引張強度が上記所定値以上であれば、スライス時にスライスして得られる熱伝導シートが変形することなく、熱伝導シートの厚み精度を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「引張強度」は、JIS K6251に準拠して得られる値であり、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0011】
また、本発明の積層体は、前記粒子状フィラーが膨張化黒鉛であることが好ましい。このように、粒子状フィラーが膨張化黒鉛であれば、熱伝導シートの厚み方向に、更に良好に伝熱させることができる。
【0012】
さらに、本発明の積層体は、前記1次シート中の粒子状フィラーの含有割合が35体積%以上55体積%以下であることが好ましい。このように、1次シート中の粒子状フィラーの含有割合が上記所定範囲内であれば、熱伝導シートの厚み方向に、更に良好に伝熱させつつ、熱伝導シートの厚み精度を更に向上させることができる。
なお、1次シート中の粒子状フィラーの含有割合(体積%)は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0013】
さらに、本発明の積層体は、前記1次シートが分散剤を更に含むことが好ましい。このように、1次シートが分散剤を更に含めば、粒子状フィラーを分散させて、アスカーC硬度を容易に調整することができる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートは、上述したいずれかの積層体をスライスして得られる熱伝導シートであって、厚みの標準偏差が3.0μm以下であることを特徴とする。このように、上述したいずれかの積層体をスライスして得られ、且つ、厚みの標準偏差が上記所定値以下である熱伝導シートは、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることができる。
なお、本発明において、「厚みの標準偏差」は、熱伝導シートの任意の5点における厚みを測定し、これらの測定値から得られる値であり、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて算出することができる。
【0015】
ここで、本発明の熱伝導シートは、主面の面積を30cm以上とすることができる。
なお、本発明において「主面」とは、熱伝導シートにおける最大面積を有する面を指す。
【0016】
また、本発明の熱伝導シートは、一方の主面の表面粗さSaをSa1とし、他方の主面の表面粗さSaをSa2としたときの、Sa1とSa2との比(Sa1/Sa2)が85/100以上100/85以下であることが好ましい。このように、一方の主面の表面粗さ(Sa1)と、他方の主面の表面粗さ(Sa2)との比(Sa1/Sa2)が上記所定範囲内であれば、ロボットアームでのつかみ易さ等のハンドリング性を向上させることができる。
なお、本発明において、「表面粗さSa」とは、国際規格ISO 25178に準拠して得られる値であり、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0017】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートは、樹脂と粒子状フィラーとを含む熱伝導シートであって、前記粒子状フィラーの体積平均粒子径が40μm以上180μm以下であり、前記熱伝導シートのアスカーC硬度が60以上90以下であることを特徴とする。このように、樹脂と、体積平均粒子径が上記所定範囲内である粒子状フィラーと、を含み、アスカーC硬度が上記所定範囲内である熱伝導シートは、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることができる。
【0018】
ここで、本発明の熱伝導シートは、平均厚みが200μm以下であることが好ましい。このように、平均厚みが上記所定値以下であれば、熱伝導シートの厚み方向に、更に良好に伝熱させることができる。
なお、本発明において、「平均厚み」は、熱伝導シートの任意の5点における厚みを測定し、これらの測定値から得られる値であり、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて算出することができる。
【0019】
また、本発明の熱伝導シートは、厚みの標準偏差が3.0μm以下であることが好ましい。このように、厚みの標準偏差が上記所定値以下であれば、熱伝導シートは熱源などの駆体に対してより密着することが出来る。
【0020】
さらに、本発明の熱伝導シートは、前記熱伝導シート中の粒子状フィラーの含有割合が35体積%以上55体積%以下であることが好ましい。このように、熱伝導シート中の粒子状フィラーの含有割合が上記所定範囲内であれば、熱伝導シートの厚み方向に、更に良好に伝熱させつつ、熱伝導シートの厚み精度を更に向上させることができる。
【0021】
また、本発明の熱伝導シートは、引張強度が1.5MPa以上であることが好ましい。このように、引張強度が上記所定値以上であれば、熱伝導シートの厚み精度を更に向上させることができる。
【0022】
さらに、本発明の熱伝導シートは、分散剤を更に含むことが好ましい。このように、分散剤を更に含めば、粒子状フィラーを分散させて、アスカーC硬度を容易に調整することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートを形成可能な積層体を提供することができる。
また、本発明によれば、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に従う熱伝導シートの製造方法の一例を用いて熱伝導シートを製造する過程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の熱伝導シートは、例えば、発熱体に放熱体を取り付ける際に発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の熱伝導シートは、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。
ここで、本発明の積層体は、樹脂と、体積平均粒子径が所定範囲内である粒子状フィラーと、を含む1次シートを厚み方向に複数枚積層してなり、アスカーC硬度が所定範囲内である積層体である。
そして、本発明の熱伝導シートは、
(1)上述した本発明の積層体をスライスして得られ、厚みの標準偏差が所定値以下である、熱伝導シート、および、
(2)樹脂と、体積平均粒子径が所定範囲内である粒子状フィラーとを含み、アスカーC硬度が所定範囲内である、熱伝導シート
の2つの構成のいずれであってもよい。
以下、説明の便宜上、上記(1)の構成を有する熱伝導シートを「熱伝導シート1」と称し、上記(2)の構成を有する熱伝導シートを「熱伝導シート2」と称するものとする。
【0026】
(熱伝導シート1)
本発明の熱伝導シート1は、後述する本発明の積層体をスライスして得られる熱伝導シートであって、厚みの標準偏差が所定値以下であることを特徴とする。
そして、本発明の熱伝導シート1は十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることができる。したがって、本発明の熱伝導シート1を発熱体と放熱体との間に介在させることで、発熱体と放熱体とを良好に密着させつつ、発熱体から放熱体への伝熱を均一に行うことができる。
【0027】
<積層体>
本発明の積層体は、樹脂と、体積平均粒子径が所定範囲内である粒子状フィラーと、を含む1次シートを厚み方向に複数枚積層してなり、アスカーC硬度が所定範囲内であることを特徴とする。
本発明の積層体を用いれば、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートを形成可能である。
そして、本発明の積層体は、本発明の熱伝導シート1の製造に用いることができる。
【0028】
<<1次シート>>
本発明の積層体を構成する一次シートは、樹脂と、体積平均粒子径が所定範囲内である粒子状フィラーと、を含む。なお、一次シートは、任意で、上記樹脂および粒子状フィラー以外の添加剤を更に含み得る。
【0029】
-樹脂-
1次シートに含まれる樹脂としては、特に限定されず、任意の樹脂を用いることができる。例えば、樹脂としては、液状樹脂および固体樹脂の何れも用いることができる。なお、樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、1次シートは、液状樹脂および固体樹脂の少なくとも一方を含むことができるが、熱伝導シートの厚み精度を更に向上させつつ、厚み方向に更に良好に伝熱させる観点から、1次シートは、液状樹脂と固体樹脂の双方を含むことが好ましい。
【0030】
--液状樹脂--
そして、液状樹脂としては、常温常圧下で液体である限り、特に限定されることなく、例えば、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を用いることができる。
なお、本発明において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0031】
液状樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、液状樹脂としては、シリコーン樹脂およびフッ素樹脂が好ましく、フッ素樹脂がより好ましい。液状樹脂として、シリコーン樹脂とフッ素樹脂の少なくとも一方を用いれば、熱伝導シートの難燃性を向上させることができる。また、液状樹脂としてフッ素樹脂を用いれば、得られる熱伝導シートの耐熱性、耐油性、および耐薬品性を向上させることができる。
【0032】
--固体樹脂--
固体樹脂としては、常温常圧下で液体でない限り、特に限定されることなく、例えば、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂、常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0033】
〔常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂〕
常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸またはそのエステル、ポリアクリル酸またはそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム);アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、ゴムは、「樹脂」に含まれるものとする。
【0034】
〔常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂〕
常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
--樹脂の含有割合--
1次シート中の樹脂の含有割合は、特に限定されないが、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更に好ましく、85質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、65質量%以下であることが更に好ましい。1次シート中の樹脂の含有割合が30質量%以上であれば、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、熱伝導シートの厚み精度を更に向上させることができる。一方、1次シート中の樹脂の含有割合が85質量%以下であれば、熱伝導シートの厚み方向に更に良好に伝熱させることができる。
【0036】
〔液状樹脂の含有割合〕
また、樹脂中における液状樹脂の含有割合(換言すると、固形樹脂と液状樹脂の合計中に占める液状樹脂の割合)は、特に限定されないが、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以上であることが特に好ましく、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることが更に好ましく、80質量%以下であることが特に好ましい。樹脂中に占める液状樹脂の含有割合が30質量%以上であれば、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、厚み精度を更に向上させることができる。一方、樹脂中に占める液状樹脂の含有割合が95質量%以下であれば、1次シートに適した強度を与えるため、積層体をスライスしやすくなり、得られる熱伝導シートの厚み精度を更に向上させることができる。
【0037】
-粒子状フィラー-
1次シートに含まれる粒子状フィラーとしては、熱伝導シートに熱伝導性を付与することができるものであれば特に限定されない。そして、このような粒子状フィラーとしては、高い熱伝導性を有する粒子状炭素材料を好適に使用することができる。なお、粒子状フィラーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
--粒子状炭素材料--
粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
上述した中でも、粒子状炭素材料としては、膨張化黒鉛を用いることが好ましい。膨張化黒鉛を用いることで、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まり、当該熱伝導シートの厚み方向に更に良好に伝熱させることができる。ここで、膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0040】
--粒子状フィラーの性状--
粒子状フィラーは、体積平均粒子径が、40μm以上であることが必要であり、45μm以上であることが好ましく、180μm以下であることが必要であり、160μm以下であることが好ましく、140μm以下であることがより好ましく、100μm未満であることが特に好ましい。粒子状フィラーの体積平均粒子径が40μm以上であると、熱伝導シート中で粒子状フィラーの伝熱パスが良好に形成可能であるためと推察されるが、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まる。結果として、当該熱伝導シートの厚み方向に良好に伝熱させることができる。一方、粒子状フィラーの体積平均粒子径が180μm以下であると、熱伝導シートの厚み精度を十分に確保することができる。
【0041】
また、粒子状フィラーは、アスペクト比(長径/短径)が、1超10以下であることが好ましく、1超5以下であることがより好ましい。粒子状フィラーのアスペクト比が1超10以下であれば、熱伝導シート中で粒子状フィラーが厚み方向に良好に配向し易くなるためと推察されるが、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まる。結果として、当該熱伝導シートの厚み方向に更に良好に伝熱させることができる。
なお、本発明において、「アスペクト比」は、粒子状フィラーをSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状フィラーについて、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。なお、上記において、例えば粒子状フィラーが鱗片形状である場合、「長径」は当該鱗片形状が有する主面の長軸の方向の長さを指し、「短径」は当該主面の長軸に直交する方向の長さを指すものとする。
【0042】
<<粒子状フィラーの含有割合>>
1次シート中の粒子状フィラーの含有割合は、特に限定されないが、35体積%以上であることが好ましく、38体積%以上であることがより好ましく、55体積%以下であることが好ましく、50体積%以下であることがより好ましい。1次シート中の粒子状フィラーの含有割合が35体積%以上であれば、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まり、当該熱伝導シートの厚み方向に更に良好に伝熱させることができる。一方、1次シート中の粒子状フィラーの含有割合が55体積%以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、厚み精度を更に向上させることができる。
【0043】
また、1次シート中の粒子状フィラーの含有割合は、特に限定されないが、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更に好ましく、65質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。1次シート中の粒子状フィラーの含有割合が30質量%以上であれば、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まり、当該熱伝導シートの厚み方向に更に良好に伝熱させることができる。一方、1次シート中の粒子状フィラーの含有割合が65質量%以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、熱伝導シートの厚み精度を更に向上させることができる。
【0044】
加えて、1次シート中の粒子状フィラーの含有量は、特に限定されないが、樹脂100質量部当たり、40質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、60質量部以上であることが更に好ましく、150質量部以下であることが好ましく、120質量部以下であることがより好ましく、95質量部以下であることが更に好ましい。1次シート中の粒子状フィラーの含有量が樹脂100質量部当たり40質量部以上であれば、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まり、当該熱伝導シートの厚み方向に更に良好に伝熱させることができる。一方、1次シート中の粒子状フィラーの含有量が樹脂100質量部当たり150質量部以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、熱伝導シートの厚み精度を更に向上させることができる。
【0045】
-添加剤-
1次シートには、必要に応じて、熱伝導シートの形成に使用され得る既知の添加剤を更に配合することができる。そして、1次シートに配合し得る添加剤としては、特に限定されることなく、例えば、セバシン酸エステルといった脂肪酸エステルなどの可塑剤;赤リン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤などの難燃剤;ウレタンアクリレートなどの靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物などの接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などの濡れ性向上剤;無機イオン交換体などのイオントラップ剤;等が挙げられる。なお、添加剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
そして、1次シートが添加剤を更に含む場合は、添加剤の配合量は、例えば、上述した樹脂100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下とすることができ、10質量部以下とすることが好ましい。
【0047】
また、1次シートには、添加剤として分散剤を配合してもよい。1次シートに分散剤を配合することにより、粒子状フィラーの分散性を高め、積層体のアスカーC硬度を低下させることができる。したがって、分散剤は、積層体のアスカーC硬度を調整する目的で使用される。
分散剤の具体例としては、特に限定されないが、例えば、高分子量コポリマーのアルキルアンモニウム塩、酸性、あるいは塩基性の吸引基をもったポリマー、長鎖アルコールの極性酸エステル等が挙げられる。
また、分散剤としては、ビックケミー社製「BYK-9076」、「BYK-111」等の市販品を用いることもできる。
1次シート中の分散剤の配合量は、例えば、上述した樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上とすることができ、0.2質量部以上であることが好ましく、0.4質量部以上であることがより好ましく、10質量部以下とすることができ、5質量部以下であることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましい。1次シート中の分散剤の配合量が樹脂100質量部に対して0.1質量部以上であれば、積層体のアスカーC硬度を適度に低下させて、積層体をスライスして得られる熱伝導シートの厚み精度(特に、スライス幅を小さくして熱伝導シートの厚みを低減した場合の厚み精度)を更に向上させることができる。一方、1次シート中の分散剤の配合量が樹脂100質量部に対して10質量部以下であれば、積層体のアスカーC硬度が過度に低下することを抑え、積層体のスライスする際の刃先のブレを抑制する等して、得られる熱伝導シートの厚み精度を更に向上させることができる。
【0048】
―1次シートの性状―
1次シートは、引張強度が、1.5MPa以上であることが好ましく、1.8MPa以上であることがより好ましく、2.5MPa以下であることがより好ましく、2.2MPa以下であることが更に好ましい。引張強度が1.5MPa以上であれば、1次シートを積層して得られる積層体のアスカーC硬度が高まる。そのため、当該積層体をスライスする際の刃先のブレを抑制する等して、得られる熱伝導シートの厚み精度を更に向上させることができる。一方、引張強度が2.5MPa以下であれば、1次シートを積層して得られる積層体のアスカーC硬度が過度に高まることもない。そのため、積層体のスライスが容易となり、得られる熱伝導シートの厚み精度(特に、スライス幅を小さくして熱伝導シートの厚みを低減した場合の厚み精度)を更に向上させることができる。
なお、1次シートの引張強度は、1次シートの製造に用いる材料(樹脂、粒子状フィラー等)の種類および含有割合や、1次シートの製造方法を変更することにより調整することができる。例えば、1次シート中の樹脂の含有割合を高めることで、1次シートの引張強度を上昇させることができる。
【0049】
また、1次シートの厚み(平均厚み)は、特に限定されることなく、例えば、0.05mm以上2mm以下とすることができる。
なお、1次シートの「厚み(平均厚み)」は、熱伝導シートの「平均厚み」と同様にして測定することができる。
【0050】
―1次シートの調製方法―
1次シートの調製方法は、特に限定されない。1次シートは、例えば、樹脂および粒子状フィラー、並びに、任意に用いられる添加剤を含む組成物を、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法で成形することにより得ることができる。
【0051】
<<積層>>
本発明の積層体は、上述した1次シートを厚み方向に複数枚積層することで形成される。
ここで、1次シートの積層による積層体の形成は、特に限定されることなく、積層装置を用いて行ってもよく、手作業にて行ってもよい。
なお、本明細書中において、「1次シートを厚み方向に複数枚積層する」ことには、1次シートを折畳または捲回することも含まれるものとする。
熱伝導シートの折り畳みによる積層体の形成は、特に限定されることなく、折り畳み機を用いて1次シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。さらに、1次シートの捲き回しによる積層体の形成は、特に限定されることなく1次シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りに1次シートを捲き回すことにより行うことができる。
【0052】
<<積層体のアスカーC硬度>>
ここで、積層体のアスカーC硬度は、60以上であることが必要であり、65以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましく、90以下であることが必要であり、87以下であることが好ましく、85以下であることがより好ましい。積層体のアスカーC硬度が60以上であると、積層体をスライスする際に積層体の樹脂成分が持つ粘着性の影響を受けにくくなり、刃先のブレを抑制できるため、得られる熱伝導シートの厚み精度を十分に確保することができる。一方、積層体のアスカーC硬度が90以下であると、得られる熱伝導シートの厚み精度(特に、スライス幅を小さくして熱伝導シートの厚みを低減した場合の厚み精度)を十分に確保することができる。
なお、積層体のアスカーC硬度は、積層体を構成する1次シートの製造に用いる材料(樹脂、粒子状フィラー等)の種類および含有割合や、積層体の製造方法を変更することにより調整することができる。例えば、積層体を構成する一次シートが熱可塑性樹脂を含む場合、積層体の製造において後述する加熱工程を実施することで、積層体のアスカーC硬度を低下させることができる。
【0053】
<<積層体の製造方法>>
積層体の製造方法は、上述した1次シートを厚み方向に複数枚積層する積層工程を含み、任意で、積層工程以外のその他の工程を更に含む。
ここで、積層工程において、1次シートを厚み方向に複数枚積層する方法としては、上述した積層の方法を用いることができる。
なお、積層工程で得られた積層体は、本発明の積層体として、そのまま熱伝導シート1の製造に供することができる。
また、積層工程で得られた積層体は、任意のその他の工程を経た後に、本発明の積層体として、熱伝導シート1の製造に供してもよい。
このようなその他の工程としては、例えば、積層工程で得られた積層体を加熱する加熱工程などが挙げられる。
【0054】
-加熱工程-
加熱工程における加熱温度は、例えば、50℃以上170℃以下とすることができ、加熱時間は、例えば、1分以上8時間以下とすることができる。加熱工程を経ることにより、積層体のアスカーC硬度を調整することができる。例えば、積層体が熱可塑性樹脂を含む場合、加熱工程を実施することにより、積層体のアスカーC硬度を低下させることができる。
【0055】
<スライス>
本発明の熱伝導シート1は、上述した本発明の積層体をスライスして得られる。
積層体をスライスする方法は、特に限定されることはなく、例えば、刃を備える切断具を用いたスライス方法を用いることができる。ここで、刃の形状は、特に限定されず、片刃、両刃、非対称刃いずれでもよいが、得られる熱伝導シートの厚み精度を十分に確保する観点からは、両刃であることが好ましい。また、刃の材質は特に限定されないが、金属製であることが好ましい。このような刃を備える切断具としては、例えば、カッター、カンナ、スライサー等が挙げられる。
【0056】
そして、積層体をスライスする角度は、1次シートが積層される方向(以下、単に「積層方向」と称することがある。)に対して45°以下であることが好ましく、積層方向に対して30°以下であることがより好ましく、積層方向に対して15°以下であることが更に好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが特に好ましい。ここで、上述した1次シートを厚み方向に積層してなる積層体の内部においては、粒子状フィラーが積層方向に略直交する方向に配向していると推察される。そして、このような積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスすれば、熱伝導シートの厚み方向に更に良好に伝熱させることができる。なお、積層体を積層方向に対して上記所定値以下の角度でスライスすることで、熱伝導シートの厚み方向に更に良好に伝熱させることができる理由は、得られる熱伝導シート中で粒子状フィラーが厚み方向(即ち、1次シートの積層方向に略直交する方向)に配向しつつ、粒子状フィラーの接触によって形成される伝熱経路が、主に熱伝導シートの厚み方向に良好に形成されるためと推察される。
【0057】
また、積層体を容易にスライスして、得られる熱伝導シートの厚み精度を十分に確保する観点からは、スライスする際の積層体の温度は-20℃以上80℃以下とすることが好ましく、-10℃以上50℃以下とすることがより好ましい。
さらに、積層体を容易にスライスして、得られる熱伝導シートの厚み精度を十分に確保する観点からは、スライスする際に積層体を加圧する等して固定することが好ましい。このような加圧において、圧力を加える面は特に限定されない。
【0058】
<熱伝導シート1の性状>
<<厚み方向の熱伝導率>>
熱伝導シート1の厚み方向の熱伝導率は、12W/m・K以上であることが好ましく、13W/m・K以上であることがより好ましく、15W/m・K以上であることが更に好ましい。熱伝導シート1の厚み方向の熱伝導率が12W/m・K以上であれば、熱伝導シートの厚み方向に更に良好に伝熱させることができる。そして、熱伝導シート1の厚み方向の熱伝導率の値の上限は、特に限定されないが、例えば、45W/m・K以下である。
なお、熱伝導シート1の厚み方向の熱伝導率は、熱伝導シート1の製造に用いる材料(樹脂、粒子状フィラー等)の種類および1次シート中での含有割合、ならびに熱伝導シート1の製造条件等を変更することにより調整することができる。例えば、上述した1次シート中の粒子状フィラーの体積平均粒子径および/または含有割合を変更することで、熱伝導シート1の厚み方向の熱伝導率を更に上昇させることができる。
【0059】
<<平均厚み>>
熱伝導シート1の平均厚みは、70μm以上であることが好ましく、80μm以上であることがより好ましく、200μm以下であることが好ましく、160μm以下であることがより好ましく、130μm以下であることが更に好ましく、110μm以下であることが特に好ましい。熱伝導シート1の平均厚みが70μm以上であれば、熱伝導シートの強度を確保することができ、熱伝導シート1の平均厚みが200μm以下であれば、熱伝導シートの厚み方向に更に良好に伝熱させることができる。
【0060】
<<厚みの標準偏差>>
熱伝導シート1の厚みの標準偏差は、3.0μm以下であることが必要であり、2.8μm以下であることが好ましく、2.6μm以下であることがより好ましい。厚みの標準偏差が3.0μm以下であると、熱伝導シートは十分な厚み精度を有する。そのため、熱伝導シート1を介して発熱体と放熱体を良好に密着させることが可能となり、また発熱体から放熱体への伝熱を均一に行うことができる。そして、熱伝導シート1の厚みの標準偏差の値の下限は、特に限定されないが、例えば、1.0μm以上である。
なお、熱伝導シート1の厚みの標準偏差は、熱伝導シート1の製造に用いる材料(樹脂、粒子状フィラー等)の種類および1次シート中での含有割合、ならびに熱伝導シート1の製造条件等を変更することにより調整することができる。具体的には、熱伝導シート1の製造方法において、1次シートの引張強度および/または積層体のアスカーC硬度等を変更することで、熱伝導シート1の厚みの標準偏差を低下させることができる。
【0061】
<<主面の面積>>
熱伝導シート1は、主面の面積を、例えば、30cm以上とすることができ、50cm以上とすることができ、80cm以上とすることができ、100cm以上とすることができ、1000cm以下とすることができる。
【0062】
<<表面粗さSa>>
熱伝導シート1の少なくとも一方の主面の表面粗さSaは、2.80μm以下であることが好ましく、2.60μm以下であることがより好ましく、2.20μm以下であることが更に好ましく、2.00μm以下であることが特に好ましい。主面の表面粗さSaが2.80μm以下であれば、当該主面が十分に平滑であるため、熱伝導シートを発熱体および放熱体の間に挟み込んで使用した場合に、熱伝導シートと発熱体および/または放熱体が良好に密着し、界面抵抗が低減する。そのため、熱伝導シートの厚み方向に更に良好に伝熱させることができる。そして、熱伝導シート1の主面の表面粗さSaの値の下限は、特に限定されないが、例えば、1.0μm以上である。
さらに、熱伝導シートの厚み方向に一層良好に伝熱させる観点から、熱伝導シート1の両方の主面(表面および裏面)の表面粗さSaが上記好適上限値以下であることが好ましい。
また、熱伝導シート1の一方の主面の表面粗さSaをSa1とし、他方の主面の表面粗さSaをSa2としたときの、Sa1とSa2との比(Sa1/Sa2)は、85/100以上であることが好ましく、90/100以上であることがより好ましく、100/85以下であることが好ましく、100/90以上であることがより好ましい。このように、熱伝導シート1の一方の主面の表面粗さ(Sa1)と、他方の主面の表面粗さ(Sa2)との比(Sa1/Sa2)が上記所定範囲内であれば、熱伝導シートのロボットアームでのつかみ易さ等のハンドリング性を向上させることができる。
なお、熱伝導シート1の主面の表面粗さSaは、熱伝導シート1の製造に用いる材料(樹脂、粒子状フィラー等)の種類および含有割合、ならびに熱伝導シート1の製造条件等を変更することにより調整することができる。具体的には、熱伝導シート1の製造方法において、1次シートの引張強度、積層体のアスカーC硬度等を変更することで、熱伝導シート1の主面の表面粗さSaを低下させることができる。
【0063】
<<アスカーC硬度>>
熱伝導シート1のアスカーC硬度は、60以上であることが好ましく、65以上であることがより好ましく、70以上であることが更に好ましく、90以下であることが好ましく、87以下であることがより好ましく、85以下であることが更に好ましい。
【0064】
<熱伝導シート1の製造方法>
熱伝導シート1は、上述した本発明の積層体を用いて製造することができる。
ここで、熱伝導シート1の製造方法は、上述した本発明の積層体をスライスするスライス工程を含む。なお、スライス工程において積層体をスライスする方法としては、上述したスライス方法を用いることができる。
そして、熱伝導シート1の製造方法では、アスカーC硬度が所定範囲内である本発明の積層体をスライスするため、得られる熱伝導シート1の厚みの標準偏差を上述した所定値以下に容易に収めることができ、熱伝導シート1の厚み精度を十分に確保することができる。また、熱伝導シート1の製造方法では、上述した本発明の積層体をスライスするため、得られる熱伝導シート1は厚み方向に良好に伝熱させることができる。
【0065】
(熱伝導シート2)
本発明の熱伝導シート2は、樹脂と粒子状フィラーとを含む熱伝導シートであって、粒子状フィラーの体積平均粒子径が所定範囲内であり、熱伝導シートのアスカーC硬度が所定範囲内であることを特徴とする。
そして、本発明の熱伝導シート2は十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることができる。したがって、本発明の熱伝導シート2を発熱体と放熱体との間に介在させることで、発熱体と放熱体とを良好に密着させつつ、発熱体から放熱体への伝熱を均一に行うことができる。
ここで、樹脂および粒子状フィラーとしては、「熱伝導シート1」の項で上述した樹脂および粒子状フィラーを用いることができる。なお、好適な例等も「熱伝導シート1」の項で上述した通りである。
なお、本発明の熱伝導シート2は、任意で、上述した樹脂および粒子状フィラー以外の添加剤(例えば、分散剤)を更に含み得る。そして、添加剤としては、「熱伝導シート1」の項で上述した添加剤を用いることができる。
そして、熱伝導シート2中の樹脂、粒子状フィラー、および任意の添加剤の各成分の含有割合等は、「熱伝導シート1」の項で上述した1次シート中の各成分の含有割合の範囲と同じ範囲で適宜設定することができる。
【0066】
<熱伝導シート2の性状>
<<アスカーC硬度>>
熱伝導シート2のアスカーC硬度は、60以上であることが必要であり、65以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましく、90以下であることが必要であり、87以下であることが好ましく、85以下であることがより好ましい。アスカーC硬度が上記所定範囲内である熱伝導シート2は、十分な厚み精度を有している。
なお、熱伝導シート2のアスカーC硬度の調整方法は、製造方法に関連して後述する。
【0067】
<<引張強度>>
熱伝導シート2の引張強度は、1.3MPa以上であることが好ましく、1.4MPa以上であることがより好ましく、1.5MPa以上であることが更に好ましく、2.3MPa以下であることが好ましく、2.0MPa以下であることがより好ましく、1.8MPa以下であることが更に好ましい。引張強度が上記所定範囲内である熱伝導シート2は、より十分な厚み精度を有している。
なお、熱伝導シート2が引っ張られる方向によって異なる複数の引張強度の値を示す場合、当該複数の引張強度の値のうちの最大値が上記所定範囲内にあることが好ましい。
そして、熱伝導シート2の引張強度は、熱伝導シート2の製造に用いる材料(樹脂、粒子状フィラー等)の種類および含有割合や、熱伝導シート2の製造方法を変更することにより調整することができる。例えば、熱伝導シート2中の樹脂の含有割合を高めることで、熱伝導シート2の引張強度を上昇させることができる。
【0068】
<<厚みの標準偏差>>
熱伝導シート2の厚みの標準偏差は、3.0μm以下であることが好ましく、2.8μm以下であることがより好ましく、2.6μm以下であることが更に好ましい。厚みの標準偏差が3.0μm以下であれば、熱伝導シート2は十分な厚み精度を有する。そのため、熱伝導シートを介して発熱体と放熱体を良好に密着させることが可能となり、また発熱体から放熱体への伝熱を均一に行うことができる。そして、熱伝導シート2の厚みの標準偏差の値の下限は、特に限定されないが、例えば、1.0μm以上である。
なお、熱伝導シート2の厚みの標準偏差は、熱伝導シート2の製造に用いる材料(樹脂、粒子状フィラー等)の種類および含有割合、ならびに熱伝導シート2の製造条件等を変更することにより調整することができる。
【0069】
<<その他>>
熱伝導シート2の厚み方向の熱伝導率、平均厚み、主面の面積、表面粗さSaは、「熱伝導シート1」の項で上述した範囲内で適宜設定することができる。
【0070】
<熱伝導シート2の製造方法>
熱伝導シート2の製造方法は、得られる熱伝導シートが、樹脂と、体積平均粒子径が上述した所定範囲内である粒子状フィラーとを含み、且つ、当該熱伝導シートのアスカーC硬度が上述した所定範囲内である限り、特に限定されることはない。
【0071】
熱伝導シート2の製造方法の具体例としては、
(1)樹脂および粒子状フィラーを含む組成物をブロック状に成形した後、得られたブロック体をスライスする方法、および、
(2)樹脂および粒子状フィラーを含む組成物を直接シート状に成形する方法、
などが挙げられる。
そして、熱伝導シート2の厚み精度を更に向上させつつ、熱伝導シート2の厚み方向に更に良好に伝熱させる観点から、上記(1)の製造方法を用いることが好ましい。
【0072】
ここで、上記(1)および(2)の製造方法において、上記組成物をブロック状またはシート状に成形する方法としては、特に限定されることはなく、圧延成形、プレス成形、押し出し成形、射出成形等の既知の成形方法から、所望の形状に応じて適宜選択することができる。
なお、上記(1)の製造方法において、上記組成物を成形して得られるブロック体には、上記組成物からなる1次シートを厚み方向に複数枚積層してなる積層体が含まれるものとする。1次シートの調製方法および積層方法としては、「熱伝導シート1」の項で上述した1次シートの調製方法および積層方法を用いることができる。
【0073】
また、上記(1)の製造方法において、ブロック体をスライスする方法は、特に限定されることはなく、例えば、「熱伝導シート1」の項で上述したスライス方法を用いることができる。
【0074】
そして、上記(1)および(2)のいずれの製造方法においても、組成物中の樹脂および粒子状フィラーなどの種類および含有割合や、組成物の成形時の温度等の条件を変更することにより、得られる熱伝導シート2のアスカーC硬度を上述した所定範囲内に収めることができる。
なお、上記組成物および/またはブロック体に別途加熱処理を行うことで、得られる熱伝導シート2のアスカーC硬度を上述した所定範囲内に調整することもできる。
ただし、得られる熱伝導シート2の厚み精度を更に向上させる観点から、上記(1)の製造方法では、ブロック体のアスカーC硬度を上記所定範囲内に調整してから、スライスを行うことが好ましい。
【実施例
【0075】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例および比較例において、粒子状フィラーの体積平均粒子径、1次シート中の粒子状フィラーの含有割合(体積分率)、1次シートの引張強度、ブロック体(積層体)のアスカーC硬度、並びに、熱伝導シートの平均厚み、厚みの標準偏差、表面粗さSa、スライス面からの面積減少率、および厚み方向の熱伝導率は、それぞれ以下の方法に従って測定または評価した。
【0076】
<粒子状フィラーの含有割合(体積分率)>
1次シート形成時に使用した各材料の重量を当該材料の比重で除した値を当該材料の体積とすることで、1次シート中の粒子状フィラーの含有割合(体積分率)を算出した。なお、樹脂の比重は液状樹脂、固体樹脂共に1.77、粒子状フィラー(膨張化黒鉛)の比重は2.25、添加剤の比重は1.17として計算を行った。
<引張強度>
1次シートを、JIS K6251に準拠してダンベル2号にて打ち抜き成型し、試料片を作製した。引張試験機(株式会社島津製作所製、製品名「AG-IS20kN」)を用い、試料片の両末端から1cmの箇所をつまみ、温度23℃で、試料片の表面から出る法線に対して垂直な方向に、500mm/分の引張速度で引っ張り、破断強度(引張強度)を測定した。
<積層体のアスカーC硬度>
積層体のアスカーC硬度の測定は、日本ゴム協会規格(SRIS)のアスカーC法に準拠し、硬度計(高分子計器社製、製品名「ASKER CL-150LJ」を使用して温度25℃で行った。具体的には、得られた積層体を温度25℃に保たれた恒温室内に48時間以上静置して、試験体とした。次に、積層面から針先の距離が2cmになるように硬度計を設置し、ダンパーを降ろして、積層体とダンパーとを衝突させた。当該衝突から60秒後の積層体のアスカーC硬度を、硬度計(高分子計器社製、商品名「ASKER CL-150LJ」)を用いて2回測定し、測定結果の平均値を採用した。
<体積平均粒子径>
熱伝導シート1gを溶媒としてのメチルエチルケトン中に入れ、熱伝導シートの樹脂成分等を溶解することにより、熱伝導シートに含まれる粒子状フィラー(膨張化黒鉛)を分離および分散させた懸濁液を得た。次に、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA960」)を用いて、当該懸濁液に含まれる粒子状フィラーの粒子径を測定した。そして、得られた粒子径を横軸とし、体積換算した粒子の頻度を縦軸とした粒度分布曲線を作成した。そして、当該粒度分布曲線において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(D50)を求め、当該粒子状フィラーの体積平均粒子径の値とした。
<熱伝導シートのアスカーC硬度>
熱伝導シートのアスカーC硬度の測定は、日本ゴム協会規格(SRIS)のアスカーC法に準拠し、硬度計(高分子計器社製、製品名「ASKER CL-150LJ」を使用して温度25℃で行った。具体的には、得られた熱伝導シートを幅25mm×長さ50mm×厚さ0.1mmの大きさに切り取り、90枚重ね合わせることにより試験片を得た。得られた試験片を温度25℃に保たれた恒温室内に48時間以上静置することにより、試験体としての熱伝導シート層を得た。次に、指針が95~98となるようにダンパー高さを調整し、熱伝導シート層とダンパーとを衝突させた。当該衝突から60秒後の熱伝導シート層のアスカーC硬度を、硬度計(高分子計器社製、商品名「ASKER CL-150LJ」)を用いて2回測定し、測定結果の平均値を採用した。
<平均厚み>
膜厚計(ミツトヨ製、製品名「デジマチックインジケーター ID-C112XBS」)を用いて、熱伝導シートの略中心点および四隅(四角)の計五点における厚みを測定し、測定した厚みの平均値(μm)を求めた。
<厚みの標準偏差>
膜厚計(ミツトヨ製、製品名「デジマチックインジケーター ID-C112XBS」)を用いて、熱伝導シートの略中心点および四隅(四角)の計五点における厚みを測定し、測定した厚みの標準偏差(μm)を求めた。
<表面粗さSa>
熱伝導シートの主面の表面粗さSaは、三次元形状測定機(株式会社キーエンス製、製品名「ワンショット3D測定マクロスコープ」)を用いて測定した。ここで、1cm角以上の任意の大きさの略正方形に切り取った熱伝導シートを試料とし、解析範囲は、1cm×1cmとし、当該試料の表面および裏面の両主面について、それぞれ三次元形状を測定した。そして、三次元形状の測定結果に対して更にソフトウェアでフィルター処理(2.5mm)を行い、うねり成分を取り除くことにより、表面粗さSa(μm)を自動計算した。
さらに、熱伝導シートの一方の主面の表面粗さSaをSa1とし、他方の主面の表面粗さSaをSa2としたときの、Sa1とSa2との比(Sa1/Sa2)を算出した。
<スライス面からの面積減少率>
ブロック体(積層体)をスライスすることで形成された積層体のスライス面の面積と、当該スライスにより得られた熱伝導シートの面積とを各々測定し、下記の式を用いて、スライス面からの面積減少率を計算した。なお、正常なスライスを行なった場合は積層体のスライス面の面積と熱伝導シートの面積は一致するが、特に柔らかい積層体をスライスした場合は、スライス時の刃物の圧力により熱伝導シートが圧縮され、積層体のスライス面の面積よりも小さい面積の熱伝導シートが得られる。
(面積減少率)={(積層体のスライス面の面積)-(熱伝導シートの面積)}÷(積層体のスライス面の面積)
<厚み方向の熱伝導率>
熱伝導シートについて、厚み方向の熱拡散率α(m/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)、および比重ρ(g/m)を、それぞれ、以下の方法で測定した。
[厚み方向の熱拡散率α]
熱物性測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して測定した。
[定圧比熱Cp]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下、25℃における比熱を測定した。
[比重ρ(密度)]
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER-H」)を用いて測定した。
そして、各測定値を、下記式(I):
λ=α×Cp×ρ・・・(I)
に代入し、25℃における熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
【0077】
(実施例1)
<1次シートの形成>
樹脂としての常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、製品名「ダイエルG-101」)70部および常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、製品名「ダイニオンFC2211」)30部、並びに、粒子状フィラーとしての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC300」、体積平均粒子径:50μm)90部を、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、得られた混合物を解砕機(大阪ケミカル社製、製品名「ワンダークラッシュミルD3V-10」)に投入して、10秒間解砕した。
解砕後の混合物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形することにより、厚みが0.8mmの1次シートを得た。そして、1次シート中の粒子状フィラーの含有割合(体積分率)および1次シートの引張強度を算出および測定した。結果を表1に示す。
<積層工程>
得られた1次シートを縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断し、1次シートの厚み方向に100枚積層し、更に、温度120℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレスすることにより、高さ約80mmのブロック体(積層体)を得た。そして、得られたブロック体のアスカーC硬度を測定した。結果を表1に示す。
<スライス工程>
その後、スライスに必要な長さを残して、得られたブロック体の上面の全体を金属板で押え、積層方向に(即ち、上から)0.1MPaの圧力をかけて、ブロック体を固定した。なお、ブロック体の側面、背面の固定は行わなかった。このとき、ブロック体の温度は25℃であった。
次いで、サーボプレス機(放電精密加工研究所製)のプレス部分に、図1に示す形状の刃10(両刃、刃角2θ:20°、刃部の最大厚み:3.5mm、材質:超鋼、ロックウェル硬度:91.5、刃面のシリコン加工:なし、全長:200mm)を取り付け、スライス幅:100μm、スライス速度:200mm/秒の条件でブロック体(積層体)の積層方向(換言すれば、積層された1次シートの主面の法線に一致する方向に)にスライスして、縦150mm×横80mmの主面を有する熱伝導シートを得た。なお、スライス時の刃の姿勢は、図1に示す角度αが10°になり、刃面11の延在方向がブロック体20のスライス面21と平行な方向になる姿勢とした。
そして、得られた熱伝導シートの平均厚み、厚みの標準偏差、表面粗さSa、スライス面からの面積減少率、および、厚み方向の熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例2)
実施例1の1次シートの形成において、分散剤(高分子量コポリマーのアルキルアンモニウム塩、ビックケミー社製「BYK-9076」)0.9部を更に添加してから攪拌混合を行って混合物を得たこと以外は、実施例1と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例3)
実施例2の1次シートの形成において、分散剤の添加量を0.9部から4.5部に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
(実施例4)
実施例1の1次シートの形成において、粒子状フィラーとしての膨張化黒鉛の使用量を90部から80部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例5)
実施例1の1次シートの形成において、粒子状フィラーとしての膨張化黒鉛の使用量を90部から70部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例6)
膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC100」、体積平均粒子径:200μm)をコーヒーミルで解砕した後、ふるいで分級することで体積平均粒子径が150μmである膨張化黒鉛を得た。
実施例1の1次シートの形成において、粒子状フィラーとして、体積平均粒子径が50μmである膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC300」)90部に代えて、上記で得られた体積平均粒子径が150μmである膨張化黒鉛90部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例7)
実施例1の1次シートの形成において、粒子状フィラーとしての膨張化黒鉛の使用量を90部から130部に変更し、分散剤(高分子量コポリマーのアルキルアンモニウム塩、ビックケミー社製「BYK-9076」)6.0部を更に添加してから攪拌混合を行って混合物を得たこと以外は、実施例1と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
(比較例1)
実施例1の1次シートの形成において、粒子状フィラーとして、体積平均粒子径が50μmである膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC300」)90部に代えて、体積平均粒子径が200μmである膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC100」)50部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(比較例2)
実施例1の1次シートの形成において、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂の使用量を70部から100部に変更し、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂の使用量を30部から0部に変更し、粒子状フィラーとして、体積平均粒子径が50μmである膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC300」)90部に代えて、体積平均粒子径が30μmである膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC500」)80部を使用すると共に、可塑剤(ビス(2-エチルヘキシル)セバケート、大八化学工業株式会社製、商品名「DOS」)5部を更に添加してから攪拌混合を行って混合物を得たこと以外は、実施例1と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(比較例3)
実施例1の1次シートの形成において、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂の使用量を70部から100部に変更し、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂の使用量を30部から0部に変更し、粒子状フィラーとして、体積平均粒子径が50μmである膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC300」)90部に代えて、体積平均粒子径が200μmである膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC100」)50部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(比較例4)
実施例1の1次シートの形成において、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂の使用量を70部から45部に変更し、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂の使用量を30部から40部に変更し、粒子状フィラーとして、体積平均粒子径が50μmである膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC300」)90部に代えて、体積平均粒子径が200μmである膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC100」)85部を使用すると共に、可塑剤(ビス(2-エチルヘキシル)セバケート、大八化学工業株式会社製、商品名「DOS」)5部を更に添加してから攪拌混合を行って混合物を得たこと以外は、実施例1と同様にして、1次シート、およびブロック体を作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
さらに、上記で得られたブロック体を用いて、実施例1と同様にして、熱伝導シートの作製を試みたところ、ブロック体のスライス時にブロック体の半分程度のところで刃が逃げてしまい、ブロック体を最後までスライスすることができなかった。
そこで、スライス幅を10μmずつ増やしてスライスを行ったところ、スライス幅を150μmにしたところで、ブロック体を最後までスライスして、熱伝導シートを得ることができた。得られた熱伝導シートを用いて、各種評価を行った。結果を表1に示す。
なお、スライス幅を140μmにしてスライスをした際は、刃が逃げてしまい、ブロック体の80%程度しかスライスできなかった。
【0088】
(比較例5)
<1次シートの形成>
樹脂としての常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、製品名「ダイエルG-101」)45部および常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、製品名「ダイニオンFC2211」)40部、粒子状フィラーとしての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC100」、体積平均粒子径:200μm)85部、並びに、可塑剤としてのセバシン酸エステル(大八化学工業株式会社製、商品名「DOS」)5質量部を、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、得られた混合物を解砕機(大阪ケミカル社製、製品名「ワンダークラッシュミルD3V-10」)に投入して、10秒間解砕した。
解砕後の混合物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形することにより、厚みが0.8mmの1次シートを得た。そして、1次シート中の粒子状フィラーの含有割合(体積分率)および1次シートの引張強度を算出および測定した。結果を表1に示す。
<積層工程>
得られた1次シートを縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断し、1次シートの厚み方向に100枚積層し、更に、温度120℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレスすることにより、高さ約80mmのブロック体(積層体)を得た。そして、得られたブロック体のアスカーC硬度を測定した。結果を表1に示す。
<スライス工程>
その後、ブロック体(積層体)の側面(積層方向に沿う面)をスライド面に0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いて、ブロック体(積層体)の積層方向(換言すれば、積層された1次シートの主面の法線に一致する方向に)にスライスして、縦150mm×横150mm×厚み0.50mm(500μm)の2次シートを得た。なお、上記スライスは、ブロック体(積層体)がスライド面をスライド速度:1000mm/秒の条件でスライドすることにより行われた。なお、ブロック体の温度を室温とした。
<加圧工程>
精密ホットプレス機(新東工業株式会社製、製品名「CYPT-20」)を用いて、プレス板を50℃に加熱し、上記で得られた2次シートを2.6MPaの圧力で30秒間プレスする加圧工程を行って、縦150mm×横150mm×厚み0.125mm(125μm)の熱伝導シートを得た。
そして、得られた熱伝導シートの平均厚み、厚みの標準偏差、表面粗さSa、スライス面からの面積減少率、および、厚み方向の熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1より、樹脂と、体積平均粒子径が所定範囲内である粒子状フィラーと、を含む1次シートを厚み方向に複数枚積層してなり、アスカーC硬度が所定範囲内である実施例1~6の積層体を用いれば、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートを形成可能であることがわかる。
一方、樹脂と、体積平均粒子径が所定範囲内である粒子状フィラーと、を含む1次シートを厚み方向に複数枚積層してなり、アスカーC硬度が所定範囲内である積層体を用いていない比較例1~4の場合、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートを形成できないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートを形成可能な積層体を提供することができる。
また、本発明によれば、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートを提供することができる。
【符号の説明】
【0092】
10 刃
11 刃面
20 ブロック体
21 スライス面
30 熱伝導シート
図1