(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】エレクトレット膜、エレクトレット部材、及びエレクトレット膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 7/02 20060101AFI20230926BHJP
【FI】
H01G7/02 A
H01G7/02 E
(21)【出願番号】P 2019057080
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木越 陽一
(72)【発明者】
【氏名】梶原 賢志
(72)【発明者】
【氏名】林 義之
(72)【発明者】
【氏名】山田 義晃
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-528549(JP,A)
【文献】特開昭48-006297(JP,A)
【文献】国際公開第2012/074115(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0207125(US,A1)
【文献】特開2016-139779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外分光分析装置(FT-IR)におけるATR(Attenuated Total Reflection)法
により、厚み方向に対向するエレクトレット膜の第一の面側および第二の面側から各々測定された赤外線吸収スペクトルにおける2800cm
-1乃至3150cm
-1の間の最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)が、0.95以下である樹脂製のエレクトレット膜であり、
かつ前記エレクトレット膜の樹脂が、-R-O-C(=O)-構造(ただし、Rはアルキル鎖又は芳香環を示す)を有する樹脂であるエレクトレット膜。
【請求項2】
前記最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)が、0.90以下である請求項1に記載のエレクトレット膜。
【請求項3】
前記アルキル鎖を主鎖および側鎖の少なくとも一方に有する樹脂が、ポリカーボネート樹脂材料、及びポリアリレート樹脂材料から選択される少なくとも1種である請求項1又は請求項2に記載のエレクトレット膜。
【請求項4】
エレクトレット膜の厚さが、1μm以上100μm以下である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のエレクトレット膜。
【請求項5】
エレクトレット膜の厚さが、5μm以上50μm以下である請求項4に記載のエレクトレット膜。
【請求項6】
基材と、
基材上に設けられた、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のエレクトレット膜であって、エレクトレック膜の前記第二の面側を前記基材に対向して設けられたエレクトレット膜と、
を有するエレクトレット部材。
【請求項7】
厚み方向に対向する樹脂製のエレクトレット膜の第一の面を、プラズマに暴露するプラ
ズマ暴露工程と、
前記プラズマに暴露したエレクトレット膜の第一の面を、帯電処理する帯電処理工程と、
を有し、
前記エレクトレット膜の樹脂が、-R-O-C(=O)-構造(ただし、Rはアルキル鎖又は芳香環を示す)を有する樹脂であ
り、
前記プラズマ暴露工程が、前記エレクトレット膜の第一の面を、水素プラズマに暴露する工程であるエレクトレット膜の製造方法。
【請求項8】
前記帯電処理工程が、前記エレクトレット膜の第一の面を、コロナ放電により帯電処理する工程である請求項
7に記載のエレクトレット膜の製造方法。
【請求項9】
厚み方向に対向する樹脂製のエレクトレット膜の第一の面を、プラズマに暴露するプラズマ暴露工程と、
前記プラズマに暴露したエレクトレット膜の第一の面を、帯電処理する帯電処理工程と、
を有し、
前記プラズマ暴露工程および前記帯電処理工程を経て、得られるエレクトレット膜が、赤外分光分析装置(FT-IR)におけるATR(Attenuated Total Reflection)法に
より、厚み方向に対向するエレクトレット膜の第一の面側および第二の面側から各々測定された吸収スペクトルにおける2800cm
-1乃至3150cm
-1の間の最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)が、0.95以下であるエレクトレット膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレット膜、エレクトレット部材、及びエレクトレット膜の製造方法。に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電荷を蓄積することが可能なエレクトレット膜が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「第1の電極と、中間層と、第2の電極とをこの順で積層してなる素子であって、前記中間層が、シリコーンゴムを含有するシリコーンゴム組成物からなり、前記中間層が、前記第1の電極面及び前記第2の電極面に対して垂直方向に赤外吸収スペクトルのピーク強度比(1095±5cm-1/1025±5cm-1)が異なることを特徴とする素子。」が開示されている。
【0004】
特許文献2には、「DC放電プラズマを使用することによる金属の表面のプラズマ重合による表面加工方法であって、(a)表面加工されるべき金属から実質的になる陽極電極、および陰極電極をチャンバー内に配置すること、(b)チャンバー内の圧力を予め決められた真空レベルに維持すること、(c)予め決められた圧力で不飽和脂肪族炭化水素モノマーガスもしくはフッ素含有モノマーガスおよび予め決められた圧力で非重合性ガスを前記チャンバー中に吹き込むこと、および、(d)DC放電を得るために電極に電圧を課し、それにより、前記不飽和脂肪族炭化水素モノマーガスもしくはフッ素含有モノマーガスおよび非重合性ガスから生じる陽イオンおよび陰イオン並びにラジカルからなるプラズマを得て、その後、プラズマ蒸着により陽極電極の表面上に親水性もしくは疎水性を有するポリマーを形成させること、の工程を含む方法。」が開示されている。
【0005】
特許文献3には、「振動発電装置に用いられる帯電樹脂基材であって、樹脂基材にフッ素化処理および帯電処理が施されていることを特徴とする振動発電装置用帯電樹脂基材。」が開示されている。そして、特許文献3には、「振動発電装置用帯電樹脂基材が導電性基板上に設けられてなるエレクトレット電極」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-139779号公報
【文献】特許3426582号明細書
【文献】特開2014-087149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、樹脂製のエレクトレット膜であって、赤外分光分析装置(FT-IR)におけるATR法により、厚み方向に対向するエレクトレット膜の第一の面側および第二の面側から各々測定された吸収スペクトルにおける2800cm-1乃至3150cm-1の間の最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)が、0.95超えである場合に比べ、帯電寿命が長いエレクトレット膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
【0009】
<1>
赤外分光分析装置(FT-IR)におけるATR(Attenuated Total Reflection)法により、厚み方向に対向するエレクトレット膜の第一の面側および第二の面側から各々測定された赤外線吸収スペクトルにおける2800cm-1乃至3150cm-1の間の最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)が、0.95以下である樹脂製のエレクトレット膜。
<2>
前記最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)が、0.90以下である<1>に記載のエレクトレット膜。
<3>
前記エレクトレット膜の樹脂が、-R-O-C(=O)-構造(ただし、Rはアルキル鎖又は芳香環を示す)を有する樹脂であるである<1>又は<2>に記載のエレクトレット膜。
<4>
前記アルキル鎖を主鎖および側鎖の少なくとも一方に有する樹脂が、ポリカーボネート樹脂材料、及びポリアリレート樹脂材料から選択される少なくとも1種である<3>に記載のエレクトレット膜。
<5>
エレクトレット膜の厚さが、1μm以上100μm以下である<1>~<4>のいずれか1項に記載のエレクトレット膜。
<6>
エレクトレット膜の厚さが、5μm以上50μm以下である<5>に記載のエレクトレット膜。
<7>
基材と、
基材上に設けられた、<1>~<6>のいずれか1項に記載のエレクトレット膜であって、エレクトレック膜の前記第二の面側を前記基材に対向して設けられたエレクトレット膜と、
を有するエレクトレット部材。
<8>
厚み方向に対向する樹脂製のエレクトレット膜の第一の面を、プラズマに暴露するプラズマ暴露工程と、
前記プラズマに暴露したエレクトレット膜の第一の面を、帯電処理する帯電処理工程と、
を有するエレクトレット膜の製造方法。
<9>
前記プラズマ暴露工程が、前記エレクトレット膜の第一の面を、水素プラズマに暴露する工程である<8>に記載のレクトレット膜の製造方法。
<10>
前記帯電処理工程が、前記エレクトレット膜の第一の面を、コロナ放電により帯電処理する工程である<8>又は<9>に記載のエレクトレット膜の製造方法。
<11>
前記プラズマ暴露工程および前記帯電処理工程を経て、得られるエレクトレット膜が、赤外分光分析装置(FT-IR)におけるATR(Attenuated Total Reflection)法により、厚み方向に対向するエレクトレット膜の第一の面側および第二の面側から各々測定された吸収スペクトルにおける2800cm-1乃至3150cm-1の間の最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)が、0.95以下である<8>~<10>のいずれか1項に記載のエレクトレット膜の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
<1>に係る発明によれば、樹脂製のエレクトレット膜であって、赤外分光分析装置(FT-IR)におけるATR法により、厚み方向に対向するエレクトレット膜の第一の面側および第二の面側から各々測定された吸収スペクトルにおける2800cm-1乃至3150cm-1の間の最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)が、0.95超えである場合に比べ、帯電寿命が長いエレクトレット膜が提供される。
<2>に係る発明によれば、樹樹脂製のエレクトレット膜であって、赤外分光分析装置(FT-IR)におけるATR法により、厚み方向に対向するエレクトレット膜の第一の面側および第二の面側から各々測定された吸収スペクトルにおける2800cm-1乃至3150cm-1の間の最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)が、0.90超えである場合に比べ、帯電寿命が長いエレクトレット膜が提供される。
<3>又は<4>に係る発明によれば、アルキル鎖を主鎖および側鎖の少なくとも一方に有する樹脂を含む樹脂製のエレクトレット膜であって、赤外分光分析装置(FT-IR)におけるATR法により、厚み方向に対向するエレクトレット膜の第一の面側および第二の面側から各々測定された吸収スペクトルにおける2800cm-1乃至3150cm-1の間の最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)が、0.95超えである場合に比べ、帯電寿命が長いエレクトレット膜が提供される。
<5>、又は<6>に係る発明によれば、樹脂製のエレクトレット膜であって、赤外分光分析装置(FT-IR)におけるATR法により、厚み方向に対向するエレクトレット膜の第一の面側および第二の面側から各々測定された吸収スペクトルにおける2800cm-1乃至3150cm-1の間の最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)が、0.95超えである場合に比べ、エレクトレット膜の厚さが1μm以上100μm以下であっても、帯電寿命が長いエレクトレット膜が提供される。
<8>、<9>、<10>、又は<11>に係る発明によれば、樹脂製のエレクトレット膜の製造方法であって、厚み方向に対向するエレクトレット膜の第一の面を、プラズマに暴露するプラズマ暴露工程を有さない場合に比べ、帯電寿命が長いエレクトレット膜の製造方法が製造される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】プラズマ処理装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0013】
本実施形態に係るエレクトレット膜は、赤外分光分析装置(FT-IR)におけるATR(Attenuated Total Reflection)法により、厚み方向に対向するエレクトレット膜の第一の面側および第二の面側から各々測定された吸収スペクトルにおける2800cm-1乃至3150cm-1の間の最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)が、0.95以下である樹脂製のエレクトレット膜である。
【0014】
本実施形態に係るエレクトレット膜は、上記構成により、帯電寿命が長いエレクトレット膜となる。その理由は、次の通り推測される。
赤外分光分析装置(FT-IR)におけるATR法により測定される赤外線吸収スペクトルにおける2800cm-1乃至3150cm-1の間に表れる最大吸収ピークは、炭素-炭素結合(不飽和炭素-炭素結合(C-C)結合、不飽和炭素-炭素(C=C)結合等)に由来するピークである。
つまり、上記最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)が、0.95以下であることは、第一の面を構成する樹脂が、本来の樹脂で構成された第二の面に比べ、炭素-炭素結合が切れていると考えられ、結合切断面にはトラップサイトが生じるために、第二の面に比べ、第一の面では、帯電したときに電荷が保持され易くなる。
【0015】
以上から、本実施形態に係るエレクトレット膜は、帯電寿命が長いエレクトレット膜となると推測される。
【0016】
以下、本実施形態に係るエレクトレット膜、および当該エレクトレット膜を有する本実施形態に係るエレクトレット部材について説明する。
【0017】
本実施形態に係るエレクトレット膜において、赤外分光分析装置(FT-IR)におけるATR法により、厚み方向に対向するエレクトレット膜の第一の面側および第二の面側から各々測定された赤外線吸収スペクトルにおける2800cm-1乃至3150cm-1の間の最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)は、0.95以下であるが、帯電寿命向上の観点から、0.93が好ましく、0.9がより好ましく、0.89がさらに好ましい。
ただし、製造上の観点から、最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)の下限は、例えば、0.80以上である。
【0018】
赤外分光分析装置(FT-IR)におけるATR(Attenuated Total Reflection)法により、エレクトレット膜の第一の面側から測定された赤外線吸収スペクトルにおける2800cm-1乃至3150cm-1の間の最大吸収ピークI(第一の面)、およびエレクトレット膜の第二の面側から測定された赤外線吸収スペクトルにおける2800cm-1乃至3150cm-1の間の最大吸収ピークI(第二の面)の強度は、次の通り測定する。
【0019】
まず、測定対象となるエレクトレット膜を、基板から剥離して測定試料を作製する。
次に、測定試料におけるエレクトレット膜の第一面および第二面に相当する面に対して、各々、赤外分光分析装置(パーキンエルマー製:Frontier FT IR)にセレン化亜鉛のATR法より、積算回数16回、分解能4cm-1の条件で、波数435cm-1以上5500cm-1以下の範囲を測定し、赤外線吸収スペクトルを得る。
次に、得られた赤外線吸収スペクトルから、2800cm-1乃至3150cm-1の間の最大吸収ピークI(第一の面)および最大吸収ピーク(第二面)の強度を算出する。
なお、最大吸収ピークI(第一の面)および最大吸収ピーク(第二面)の強度は、波数1600cm-1のベンゼン環由来のピークを1としたときの比で算出する。
【0020】
そして、得られた各最大吸収ピークの強度から、最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)を算出する。
【0021】
本実施形態に係るエレクトレット膜は、樹脂製のエレクトレット膜である。
エレクトレット膜の樹脂(以下、「エレクトレット樹脂」とも称する)としては、ポリカーボネート樹脂材料、ポリアリレート樹脂材料、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリスチレン樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート等)、ポリビニル樹脂(ポリ塩化ビニル等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂(テフロン(登録商標)(Teflon-FEP、Teflon-TFE)等)等の周知の樹脂が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、帯電寿命向上の観点から、エレクトレット樹脂としては、-R-O-C(=O)-構造(ただし、Rはアルキル鎖(例えば、炭素数2以上12以下のアルキル鎖等)又は芳香環(例えば、ベンゼン環等)を示す)を有する樹脂であることが好ましく、-R1-O-C(=O)-構造(ただし、R1は芳香環(例えば、ベンゼン環等)を示す)を有する樹脂がより好ましく、ポリカーボネート樹脂、及びポリアリレート樹脂から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0023】
本実施形態に係るエレクトレット膜は、酸化防止剤等の周知の添加剤を含んでいてもよい。
【0024】
本実施形態に係るエレクトレット膜の厚さは、帯電寿命向上の観点から、1μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上50μm以下がより好ましい。
エレクトレット膜は、厚さが「厚い」程、帯電寿命が低下する傾向がある。しかし、厚さが上記範囲でも、本実施形態に係るエレクトレット膜は帯電寿命の向上が図れる。
【0025】
(エレクトレット部材)
本実施形態に係るエレクトレット部材は、基材と、基材上に設けられた、上記本実施
形態に係るエレクトレット膜であって、エレクトレック膜の第二の面側を基材に対向して設けられたエレクトレット膜と、を有する。
【0026】
ここで、本実施形態に係るエレクトレット部材において、基材は、エレクトレット膜が形成される下地部材を示す。なお、エレクトレット膜は、薄膜を介して、基材上に設けられていてもよい。
基材としては、例えば、電極等の導電体、金属板、ガラス上に塗布された酸化インジウムスズ(ITO)膜が例示される。
【0027】
(エレクトレット膜およびエレクトレット部材の用途)
本実施形態に係るエレクトレット膜及びエレクトレット部材は、振動発電装置、音・振動検出センサ、電子時計、静電アクチュエータ、静電発電装置等に適用できる。
【0028】
(エレクトレット膜の製造方法)
本実施形態に係るエレクトレット膜の製造方法は、
厚み方向に対向する樹脂製のエレクトレット膜の第一の面を、プラズマに暴露するプラズマ暴露工程と、
プラズマに暴露したエレクトレット膜の第一の面を、帯電処理する帯電処理工程と、
を有する。
【0029】
-プラズマ暴露工程-
プラズマ暴露工程では、例えば、基材上に、未処理のエレクトレット膜が設けられたエレクトレット部材を準備する。
【0030】
ここで、未処理のエレクトレット膜(具体的には、最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)が同じエレクトレット膜)を形成する方法としては、次の方法が例示される。
・樹脂膜にコロナ放電処理する方法
・樹脂膜を軟化温度または溶融温度近くまで加熱し、高い直流電界を印加しつつ冷却する方法、
・樹脂膜に絶縁破壊電圧に近い高い直流電界を室温(25℃等)で印加する方法
・樹脂膜に真空中で、電子線、γ線等の放射線を照射する方法
・樹脂膜に、光照射しつつ、高い直流電界を印加する方法
・樹脂膜に、機械的な変形(加圧・延伸等による変形)を付与する方法
【0031】
そして、基材上に未処理のエレクトレット膜が設けられたエレクトレット部材に対して、プラズマ処理を実施し、未処理のエレクトレット膜の第一面(具体的には、基材と対向する面とは膜厚方向の反対側の面)をプラズマ(好ましくは水素プラズマ)に暴露する。
【0032】
プラズマ処理の好適な条件は、例えば、次の通りである。
・プラズマ処理時間:30分
・プラズマ処理圧力:25Pa
・プラズマ処理RF電力:500W
・プラズマ生成ガス種:水素
【0033】
プラズマ処理は、例えば、周知のプラズマCVD装置を利用し、成膜ガスを供給せずに、プラズマ生成ガスのみを供給する条件で実施可能である。
【0034】
以下、プラズマ処理について、プラズマ処理装置の一例を図面に示しつつ具体例を挙げて説明する。
ただし、以下で説明するプラズマ処理装置10では、プラズマ生成ガス供給管22及びプラズマ生成ガス供給管24の2か所から、プラズマ生成ガスを処理容器12内に供給する態様を説明するが、この態様に限られず、プラズマ生成ガス供給管22及びプラズマ生成ガス供給管24の少なくとも一方から、プラズマ生成ガスを処理容器12内に供給する態様であればよい。
【0035】
プラズマ処理装置10は、
図1に示すように、真空排気される処理容器12と、プラズマ処理装置10の装置各部を制御するための制御部16と、を含んで構成されている。
【0036】
処理容器12の内部には、円柱状部材18が設けられている。円柱状部材18は、処理容器12内において長尺方向を回転軸方向として、予め定められた方向に回転可能に設けられている。円柱状部材18の円柱軸方向の一端は、図示を省略する複数のギアを介して回転手段としてのモータに接続されている。モータ30の駆動力が図示を省略する複数のギア及び支持部材を介して円柱状部材18に伝達されることにより、円柱状部材18は予め定められた方向に回転する。なお、本実施形態では、円柱状部材18は円柱状であるものとして説明するが、回転軸方向に平坦な形状であればよく、柱状部材や多角形の長尺状部材であってもよい。
【0037】
円柱状部材18の外周面には、プラズマ処理装置10によってプラズマ処理する対象となる、基材上に設けられたエレクトレット膜を有するエレクトレット部材(以下、処理対象部材40」とも称する)が固定可能となっている。具体的には、処理対象部材40を1箇所又は複数箇所保持するための止め具(
図1中、保持部材32参照)などの機構が備えられているか、または粘着テープ(
図1中、保持部材32参照)などによって処理対象部材40を固定可能となっている。
【0038】
処理容器12の内部に設けられた円柱状部材18の近傍には、円柱状部材18の回転方向に沿って、排気管14と、プラズマ生成ガス供給管22及び放電電極20と、遮蔽部材26と、プラズマ生成ガス供給管24と、が設けられている。
【0039】
排気管14は、処理容器12の開口12Aを介して連続し、且つ処理容器12内のガスを排気するための管である。排気管14の一端は、開口12Aを介して処理容器12内に連らなっており、他端は、処理容器12内のガスを真空排気するための真空排気装置28に接続されている。
【0040】
真空排気装置28の駆動によって、処理容器12の内部は、予め定められた圧力まで減圧される。真空排気装置28は、一つ又は複数のポンプと必要に応じてコンダクタンスバルブなどの排気速度調整機構からなる。ガス供給量と排気速度から決まる膜形成時の処理容器12内の圧力は、処理容器12内においてプラズマを発生可能な程度の圧力であればよく、ガスの種類、電源の種類にも依存するが、具体的には、1Pa以上200Pa以下であることが好ましい。
【0041】
処理容器12の内壁を構成する材料としては、ここではデガスが少なく用いるガスに対して化学的に安定であるステンレス鋼を用いているがこれに限定されるものではない。
【0042】
放電電極20は、マッチングボックス34を介して高周波電源36に電力供給可能に接続されている。高周波電源36としての電力供給源としては、直流電源または交流電源を用いることができる。効率的にガスを励起できることから交流の高周波電源、マイクロ波電源等を用いることが好ましい。
【0043】
放電電極20は、円柱状部材18と対向するように円柱状部材の回転軸方向に向けて設けられ、且つ円柱状部材18の外周面から予め定められた距離で離間されて設けられている。放電電極20の向きは、生成したプラズマの少なくとも一部が円柱状部材18と接していればよく、完全に対向する向きでなくてもよい。
【0044】
なお、
図1に示す一例では、放電電極20による放電方式は、容量型である場合を説明するが、誘導型であってもよい。
【0045】
放電電極20は、中空状(空洞構造)で放電面に、プラズマ生成ガスを供給するための複数のガス供給孔(図示省略)を有するガス透過型のものである。
放電電極20が空洞構造でなく放電面にガス供給孔が無いものである場合、別に設けられたプラズマ生成ガス供給口から供給されたプラズマ生成ガスが放電電極20と円柱状部材18の間を通過するようにした構成でもよい。
放電電極20と処理容器12との間で放電が起こらないように、円柱状部材と対向している面以外の電極面が約3mm以下程度のクリアランスを有してアースされた部材により覆われていることが好適である。
【0046】
プラズマ生成ガス供給管22は、処理容器12内にプラズマ生成ガスを供給するための管である。プラズマ生成ガス供給管22の一端は、放電電極20の放電面に直交する方向に予め開けられた1または複数のプラズマ生成ガス供給口22Aを通して処理容器12内に連なっており、他端は、電磁弁38を介してプラズマ生成ガス供給源42に接続されている。
【0047】
プラズマ生成ガス供給源42は、プラズマ生成ガスが充填された容器と、レギュレーターなどの圧力を調整する機構と、マスフローコントローラーなどのガスの流量を調整する機構と、を必要に応じて備えている。複数のプラズマ生成ガスを用いる場合、これらのガスを合流させて供給してもよい。
プラズマ生成ガスは、プラズマ生成ガス供給源42からプラズマ生成ガス供給管22を介してプラズマ生成ガス供給口22Aから処理容器12内へと供給される。
【0048】
真空排気装置28によって処理容器12内が、予め定められた圧力まで減圧された状態で、マッチングボックス34を介して高周波電源36から放電電極20に高周波電力が供給されると共に、プラズマ生成ガス供給源42からプラズマ生成ガス供給管22及びプラズマ生成ガス供給口22Aを通って処理容器12内の放電電極20と円柱状部材18との対向する領域へプラズマ生成ガスが供給されると、プラズマ生成ガスからプラズマが生成される。
【0049】
なお、処理容器12内のプラズマ生成ガスのプラズマが生成された領域を、以下、「活性領域」44と称する。
すなわち、プラズマ生成ガスのプラズマが生成されることによって、処理容器12内の全ての領域は、活性領域44と、この活性領域44に連続する領域であってプラズマ生成ガスが励起分解されない領域としての不活性領域48と、に分けられる。このため、処理容器12内には、円柱状部材18の回転方向に沿って、活性領域44と不活性領域48とが連続して設けられることとなる。
【0050】
プラズマ生成ガス供給管24は、処理容器12の外部から処理容器12の内部へとプラズマ生成ガスを供給するための管である。プラズマ生成ガス供給管24は、プラズマ生成ガス供給管24の一端に設けられたプラズマ生成ガス供給口24Aを介して処理容器12内に連なっており、プラズマ生成ガス供給管24の他端は、電磁弁46を介してプラズマ生成ガス供給源49に接続されている。
【0051】
プラズマ生成ガス供給源49は、プラズマ生成ガスが充填された容器と、恒温槽などのガス温度を調整する機構と、レギュレーターなどの圧力を調整する機構と、マスフローコントローラーなどのガスの流量を調整する機構と、を必要に応じて備えている。
【0052】
プラズマ生成ガス供給源49からプラズマ生成ガス供給管24に供給されたプラズマ生成ガスは、プラズマ生成ガス供給管24を通ってプラズマ生成ガス供給口24Aに到り、プラズマ生成ガス供給口24Aから処理容器12内部へと噴き出される。
【0053】
プラズマ生成ガス供給口24Aは、処理容器12内の不活性領域48に位置するように、プラズマ生成ガス供給管24に設けられている。
【0054】
プラズマ生成ガス供給口24Aの不活性領域48内における位置は、不活性領域48内に位置されている。
【0055】
処理容器12中で、プラズマ生成ガス供給口24Aからプラズマ生成ガスを噴き出す方向は、好ましくは、処理対象部材40に向かってプラズマ生成ガスを噴き出すことが可能となるように、円柱状部材18の外周面に向かって噴き出し可能に設けられていることが好ましい。
【0056】
すなわち、プラズマ処理装置10によれば、不活性領域48において、活性領域44以外の方向に向かってプラズマ生成ガスが噴き出される。このように、円柱状部材18の外周面に向かってプラズマ生成ガスが噴き出されることによって、噴き出されたプラズマ生成ガスが均一に近い状態、又は均質とならずに処理容器12内を移動して活性領域44に到ることを抑制することができる。
プラズマ生成ガスが円柱状部材18の外周面や処理対象部材40の表面に噴き付けられると、プラズマ生成ガスはこれら表面上を流れ、処理対象部材40の表面で拡散、吸着、再蒸発が起こる。これらの効果によりプラズマ生成ガスは処理対象部材40の表面に密度が均一に近い状態となることが促進された状態で滞在し、処理対象部材40の移動とともに活性領域44に入り、プラズマ生成ガスからプラズマを生成することが可能である。
【0057】
プラズマ生成ガス供給管24を構成する材料としては、真空排気装置28によって減圧状態とされた処理容器12内の不活性領域48内に、上述のような方向に向かってプラズマ生成ガスを噴き出すことが可能な程度の硬度を有する材料であればよく、例えば、ステンレスパイプを用いることができる。
【0058】
ここで、プラズマ生成ガスの一例には、N2、H2、NH3、N2H4、O2、O3、NO、N2O、He、Ar、Ne、Kr、及びXe等の気体またはこれらの混合ガスを使用することができる。これらの中でも、H2(水素)が好ましい。
【0059】
また、不活性領域48と活性領域44とは、処理容器12内の連続した領域であり、遮蔽部材26を設けない構成も可能であるが、遮蔽部材26によって不活性領域48を、活性領域44から遮蔽することが好ましい。このような遮蔽部材を設けることにより、放電電極、プラズマ生成ガス供給口などの構成要素をコンパクトに配置することが可能となる。
【0060】
遮蔽部材26は、不活性領域48と活性領域44との境界の一部を遮蔽するように処理容器12の内周面に設けられている。遮蔽部材26は、不活性領域48にプラズマ生成ガスが供給された場合であっても、活性領域44のプラズマを遮蔽可能に設けられていればよく、どのような形状であってもよく、例えば板状であってもよい。
【0061】
遮蔽部材26と円柱状部材18との最小間隔は、不活性領域48と活性領域44との間の領域の一部を遮蔽し、且つ保持部材によって円柱状部材18上に保持された処理対象部材40表面へのプラズマ処理を妨げない程度の距離であることが好ましい。例えば、円柱状部材18上に保持され、かつ、プラズマ処理装置10による薄膜形成が成される前の状態の処理対象部材40が、遮蔽部材26と円柱状部材18との対向領域に位置した状態において、処理対象部材40と遮蔽部材26との最短距離は、10mm以下であることが好ましく、2mm以下であることが好ましい。
【0062】
処理対象部材40と遮蔽部材26との間の距離が調整されることが好ましい。この距離の調整は、例えば、遮蔽部材26を処理容器12に対して着脱可能に設けるようにし、処理対象部材40の厚みや目的とする層厚に応じた幅を有する遮蔽部材26を取付けるようにすればよい。
【0063】
遮蔽部材26と円柱状部材18とは、接触していてもよいが、遮蔽部材26と、円柱状部材18表面に保持された処理対象部材40上と、の間で摩擦が生じない程度の押し当て力で接触していることが好ましい。遮蔽部材26が円柱状部材18上に保持された処理対象部材40に対して摩擦が生じる程度の押し当て力で接触されると、処理対象部材40としての膜に傷又は剥がれが生じることがあるために好ましくない。
【0064】
遮蔽部材26の材質は、適度な機械強度を有するものであれば特に限定されるものではなく、導電性のものであっても、また絶縁性のものであってもよいが、上述のように遮蔽部材26が処理対象部材40に接触するように設けられている場合には、処理対象部材40または処理対象部材40上に形成された膜に傷が発生することを抑制するために、処理対象部材40よりも硬度が低い材料を用いる。
【0065】
制御部16は、上記真空排気装置28、モータ30、電磁弁46、電磁弁38、及びマッチングボックス34に信号授受可能に接続されている。このため、制御部16によって真空排気装置28の制御が行われることで、処理容器12内の圧力を目的とする圧力に減圧することができる。
制御部16により、モータ30の回転数が制御されることによって、目的とする速度で円柱状部材18を回転することができる。
制御部16によって、電磁弁46及び電磁弁38各々とプラズマ生成ガス供給源49に含まれるマスフローコントローラーが制御されることによって、プラズマ生成ガスの供給量を調整することができる。
【0066】
なお、処理促進等を目的として、処理対象部材40に熱を加えるための加熱装置(図示省略)を設けることも可能である。ただし、プラズマ処理装置10によれば、処理対象部材40に熱を加えない状態においても、プラズマ処理することができる。
【0067】
次に、プラズマ処理装置10におけるプラズマ処理方法を説明する。
制御部16の制御によって真空排気装置28が駆動して、処理容器12の内部が予め定められた圧力まで減圧されると、制御部16は、円柱状部材18を予め定められた速度で回転するようにモータ30を制御する。この回転速度の制御は、例えば、モータ30に円柱状部材の回転速度を測定するためのセンサを設けて、このセンサからの入力信号に基づいて、目的とする回転速度となるようにモータ30の回転速度を調整するようにすればよい。
【0068】
円柱状部材18の回転によって、円柱状部材18上に保持された処理対象部材40が処理容器12内で回転移動する。
【0069】
次に、制御部16は、電磁弁38を制御することによって、処理容器12内へのプラズマ生成ガスの供給を開始すると共に、高周波電源36からマッチングボックス34を介して放電電極20に高周波電力を供給する。このとき、放電電極20の放電面から円柱状部材18の外周面の対向領域に向かって広がるように、プラズマが生成される。このプラズマの生成により、処理容器12内に活性領域44が形成される。また、この活性領域44の形成により、処理容器12内には、活性領域44以外の領域としての不活性領域48が、活性領域44に連続して形成されることとなる。
【0070】
次に、制御部16は、処理容器12内の不活性領域48にプラズマ生成ガスを供給するように、電磁弁46を制御する。この電磁弁46の制御によって、プラズマ生成ガスがプラズマ生成ガス供給管24のプラズマ生成ガス供給口24Aを介して、処理容器12内の不活性領域48に噴き出される。
【0071】
プラズマ生成ガス供給口24Aから不活性領域48に噴き出され処理対象部材40に滞在しているプラズマ生成ガスは、円柱状部材18の回転による処理対象部材40の移動に伴って移動し、活性領域44に到る。なお、円柱状部材18の回転方向は、処理対象部材40の移動に伴ってプラズマ生成ガスを不活性領域48から遮蔽部材26との対向領域を介して活性領域44へと到る方向に移動させる方向であってもよく、反対に、プラズマ生成ガスを不活性領域48から遮蔽部材26との対向領域を介さずに活性領域44へと到る方向に移動させる方向であってもよい。
【0072】
不活性領域48から活性領域44に到ったプラズマ生成ガスは、活性領域44において、プラズマ生成ガスが励起されて、プラズマが生成する。
【0073】
円柱状部材18の回転が継続されることによって、処理対象部材40は、処理容器12内において、活性領域44と不活性領域48との間を繰り返し移動することとなり、処理対象部材40が継続的にプラズマ処理される。
【0074】
なお、プラズマ生成ガス供給口24Aから不活性領域48に噴き出されたプラズマ生成ガスは、処理対象部材40の表面に滞在し円柱状部材18の回転による処理対象部材40の移動に伴って移動して、不活性領域48から活性領域44に到る場合を説明したが、不活性領域48に供給されたプラズマ生成ガスが、処理対象部材40の移動に伴わずに処理容器12内を拡散移動することにより活性領域44に到り、活性領域44に位置する処理対象部材40をプラズマ処理することも可能である。
【0075】
この場合には、処理対象部材40の繰り返し移動は必須ではなく、むしろ円柱状部材18を繰り返し回転させない状態に近づける、すなわちプラズマ生成ガスを処理対象部材40の移動とともに移動させることが困難な程度の低速で円柱状部材18を回転させるようにすればよい。
【0076】
この場合、不活性領域48に供給されたプラズマ生成ガスが自然に拡散移動して、遮蔽部材26と円柱状部材18との間隙を通って活性領域44に到り、この活性領域44に到達したプラズマ生成ガスからプラズマを生成することで、処理対象部材40をプラズマ処理される。この場合、不活性領域48において、円柱状部材18に向かって噴き付けられたプラズマ生成ガスが円柱状部材18上、又は、処理対象部材40表面上を流れ、拡散することによって、不活性領域48においてプラズマ生成ガス密度の均一化が促進された後に、活性領域44に入る。その結果、活性領域44で均一なプラズマ処理することが可能である。
【0077】
なお、処理対象部材40の表面にプラズマ生成ガスが滞在し処理対象部材40の移動とともに移動して行われるプラズマ生成ガスの供給と、拡散移動によるプラズマ生成ガスの移動による供給は、同時に行われることが可能である。
【0078】
また、プラズマ生成ガスの種類、制御部16による電磁弁38及び電磁弁46各々の制御による処理容器12内に供給するプラズマ生成ガスの供給量の調節等により、適切なプラズマ処理が可能となる。
【0079】
また、処理容器12内に1つの放電電極20が設けられている場合を説明したが、複数設けられるようにしてもよい。この場合には、放電電極20毎に、プラズマ生成ガス供給管22、電磁弁38、プラズマ生成ガス供給源42、マッチングボックス34、及び高周波電源36を設けるようにすればよい。また、プラズマ生成ガス供給源42、マッチングボックス34、及び高周波電源36は、共有し可能であり、その場合、電力、ガスを分岐させて供給する。
また、不活性猟奇48に、プラズマ生成ガスを供給するためのプラズマ生成ガス供給管24は、処理容器12内に1つ設けられている場合を説明したが、プラズマ生成ガス供給口24Aが不活性領域48に位置していればよく、処理容器12に複数設けられるようにしてもよい。
【0080】
このように、複数の放電電極20を設けることによって、1つの処理容器12内に複数の活性領域44及び不活性領域48を設けることができるとともに、さらに複数のプラズマ生成ガス供給管24を処理容器12に設ければ、複数の不活性領域48各々にプラズマ生成ガスを供給することが可能となる。このようにすれば、1つの処理容器12内に放電電極20及びプラズマ生成ガス供給管24が各々1つ設けられている場合に比べて、プラズマ処理速度をあげることができる。
【0081】
活性領域44は、処理容器12内のプラズマ生成ガスのプラズマが生成された領域であるものとして説明したが、プラズマ生成ガスからプラズマが生成領域であればよく、プラズマが生成された領域に限られるものではない。
例えば、活性領域44は、光、熱によりプラズマ生成ガスを励起する領域であってもよい。
【0082】
-帯電工程-
帯電工程では、プラズマに暴露した、基材上に設けられたエレクトレット膜の第一の面(具体的には、基材と対向する面とは膜厚方向の反対側の面)を、帯電処理(好ましくはコロナ放電)する。
【0083】
帯電処理の好適な条件は、例えば、次の通りである。
・帯電処理時間: 1分
・基板加熱温度:160℃
・帯電手段:コロナ放電
・グリッド電圧: 700V
・ワイヤー電流: 1μA
【0084】
以上説明した本実施形態に係るエレクトレット膜の製造方法によれば、エレクトレット膜の第一面がプラズマに曝されることで、上記本実施形態に係るエレクトレット膜を製造できる。
【実施例】
【0085】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例において「部」は質量部を意味する。
【0086】
<実施例1>
まず、アルミ製の基材上にエレクトレット膜が設けられたエレクトレット部材を準備した。
なお、エレクトレット膜は、次の通り形成した。下記構造式(PC1)で表されるポリカーボネート樹脂(分子量4万)15質量部を、テトラヒドロフラン85重量部を加えて撹拌、溶解した。この溶液を、洗浄したアルミ基材に浸漬塗布した後、塗膜を135℃で40分間乾燥して、ポリカーボネート樹脂膜を形成した。ただし、塗布速度をコントロールすることで、厚さ15μmとした。このように、厚さ15μmのポリカーボネート樹脂膜からなるエレクトレット膜を形成した。
【化1】
【0087】
次に、
図1に示すプラズマ処理装置10を用いて、処理対象部材40としてのエレクトレット部材(そのエレクトレット膜)にプラズマ処理を実施した。
ただし、プラズマ生成ガス供給管24からプラズマ生成ガスを処理容器12に供給せず、プラズマ生成ガス供給管22からのみプラズマ生成ガスを処理容器12に供給する態様で、プラズマ処理を実施した。
具体的には、次の通りである。
【0088】
プラズマ処理装置10において、排気管14を介して処理容器12内を圧力が1×10-2Pa程度になるまで真空排気した。次に、プラズマ生成ガスとして、水素500sccmをプラズマ生成ガス供給管22から、放電電極20に設けられたプラズマ生成ガス供給口22Aを介して処理容器12内に導入するとともに、真空排気装置28に含まれるコンダクタンスバルブを調整し、処理容器12内の圧力を25Paとした。高周波電源36かららマッチングボックス34により、13.56MHzの交流波を出力500Wにセットしチューナでマッチングをとり、放電電極20から放電を行った。このときの反射波は0Wであった。
【0089】
この状態で、円柱状部材18を500rpmの回転速度で
図1に矢印で示した方向に回転させながら、30分間、プラズマ処理した。このとき、円柱状部材18の温度は、25℃から約50℃の範囲であった。
【0090】
このようにして、表面(つまり第一の面)がプラズマ処理されたエレクトレット膜を得た。
【0091】
<実施例2>
プラズマ処理時間を10分に変更した以外は、実施例1と同様にして、表面(つまり第一の面)がプラズマ処理されたエレクトレット膜を得た。
【0092】
<実施例3>
プラズマ生成ガス種をHeに変更した以外は、実施例1と同様にして、表面(つまり第一の面)がプラズマ処理されたエレクトレット膜を得た。
【0093】
<実施例4>
エレクトレット膜の樹脂種をポリアリレート樹脂に変更し、プラズマ処理時間を10分に変更した以外は、実施例1と同様にして、表面(つまり第一の面)がプラズマ処理されたエレクトレット膜を得た。
【0094】
<比較例1>
プラズマ処理時間を5分に変更した以外は、実施例1と同様にして、表面(つまり第一の面)がプラズマ処理されたエレクトレット膜を得た。
【0095】
<比較例2>
実施例1において、プラズマ処理を実施せず、準備したエレクトレット膜を比較例2のエレクトレット膜とした。
【0096】
<評価>
(各種特性)
各例のエレクトレット膜の下記特性を、既述の方法に従って測定した。
・赤外分光分析装置(FT-IR)におけるATR法により、厚み方向に対向するエレクトレット膜の第一の面側および第二の面側から各々測定された赤外線吸収スペクトルにおける2800cm-1乃至3150cm-1の間の最大吸収ピーク強度比=I(第一の面)/I(第二の面)
【0097】
(帯電寿命)
各例のエレクトレット膜の帯電寿命について、次の通り評価した。
まず、基材を160℃に熱し、グリッド電圧を700Vの条件でコロナ放電をしたのちに冷却することにより、エレクトレット膜に帯電処理した。
そして、帯電処理直後の表面電位の測定を表面電位計を用いて基板の5か所を測定し、その平均値を算出した(Vini)。帯電寿命の評価は、20℃、50RH%の環境下に保管し、240時間後(10日後)の電位を帯電処理後と同等の評価方法にて測定した(Vend)。そして、エレクトレット膜の帯電寿命を下記基準で評価した。
A:Vend/Vini≧ 0.95
B:0.85≦Vend/Vini<0.95
C:0.75≦Vend/Vini<0.85
D:Vend/Vini<0.75
【0098】
【0099】
上記結果から、本実施例のエレクトレット膜は、比較例のエレクトレット膜に比べ、帯電寿命が長いことがわかる。
【符号の説明】
【0100】
10 プラズマ処理装置
12 処理容器
14 排気管
16 制御部
18 円柱状部材
20 放電電極
22 プラズマ生成ガス供給管
22A プラズマ生成ガス供給口
24 プラズマ生成ガス供給管
24A プラズマ生成ガス供給口
26 遮蔽部材
28 真空排気装置
40 処理対象部材
42 プラズマ生成ガス供給源