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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】溶接装置及び溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20230926BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20230926BHJP
   B23K 37/02 20060101ALI20230926BHJP
   B23K 9/028 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
B23K9/12 350B
B23K9/095 510D
B23K37/02 301A
B23K9/028 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019138809
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021020241
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 明
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/037200(WO,A1)
【文献】特開平06-087075(JP,A)
【文献】特開昭61-027177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
B23K 9/095
B23K 37/02
B23K 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチを備えた台車を、接合する部材間の接合部に沿って自走させる溶接装置であって、
前記台車の走行面の進行方向と水平面とのなす角度である台車角度を検出する台車角度検出部と、
前記台車が自走する方向である自走方向に向けてトーチ先端部を傾斜させるトーチ角度制御部と、
前記トーチ先端部の、前記自走方向の傾斜角度であるトーチ角度を検出するトーチ角度検出部と、
前記台車角度と前記トーチ角度との対応関係を記憶するトーチ角度対応テーブルと、
前記台車の走行を制御する走行制御部と、
前記台車角度と前記トーチに供給する溶接電流との関係、及び、前記溶接電流と前記接合部における溶加材の溶着量と、前記台車の走行速度との関係を示す走行速度対応テーブル、を備え、
前記トーチ角度制御部は、前記台車を自走させて前記接合部を溶接する際に、前記台車角度検出部で検出される台車角度に対応するトーチ角度となるように、前記トーチ角度を制御し、
前記走行制御部は、前記溶着量が設定された際に前記台車角度に基づき、前記走行速度対応テーブルを参照して前記台車の走行速度を設定すること
を特徴とする溶接装置。
【請求項2】
前記トーチ先端部の根本部分を円弧形状の方向に沿ってスライド移動するスライド機構を備え、
前記トーチ角度制御部は、前記スライド機構を作動して、前記トーチ角度を所望の角度に制御すること
を特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記部材の外周面の方向に沿って、互いに180°の方向となるように前記台車を2台設置したこと
を特徴とする請求項1または2に記載の溶接装置。
【請求項4】
トーチを備えた台車を、接合する部材間の接合部に沿って自走させて、前記接合部を溶接する溶接方法であって、
前記台車の走行面の進行方向と水平面とのなす角度である台車角度を検出するステップと、
前記台車を自走させて前記接合部を溶接する際に、前記台車角度とトーチ角度との対応関係を記憶したトーチ角度対応テーブルを参照して、トーチ角度を取得するステップと、
前記トーチ角度を制御するステップと、
溶着量が設定された際に前記台車角度に基づき、前記台車角度と前記トーチに供給する溶接電流との関係、及び、前記溶接電流と前記接合部における溶加材の溶着量と、前記台車の走行速度との関係、を示す走行速度対応テーブルを参照して、前記台車の走行速度を設定するステップと、
を備えたことを特徴とする溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、溶接装置及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、配管などの曲面を溶接する際に、配管の周囲に沿ってレールを設置し、該レールに沿って溶接用のトーチを搭載した台車走行させながら、配管の繋ぎ目を溶接することが開示されている。更に、トーチと台車のなす角度が一定になるように制御することが開示されている。
このような溶接装置では、溶接するパイプの位置に応じて台車の走行面と水平方向とのなす角度(台車角度)が変化し、台車角度に応じて重力が加わる方向が変化する。このため、特にマグ溶接法を採用する溶接装置では、台車に対して一定の角度で取り付けられたトーチにより溶接を行うと、安定した溶着量、ビード幅とすることが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭56-19992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、特許文献1に開示された溶接装置では、トーチと台車のなす角度を一定にすることが開示されているものの、台車角度とトーチの傾斜角度との関係が設定されておらず、安定した溶接量、ビード幅とすることが難しいという問題があった。
【0005】
本実施形態は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、接合部に溶加材を安定した溶着量、ビード幅で溶着させることが可能な溶接装置、及び溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、一態様に係る溶接装置は、トーチを備えた台車を、接合する部材間の接合部に沿って自走させる溶接装置であって、前記台車の走行面の進行方向と水平面とのなす角度である台車角度を検出する台車角度検出部と、前記台車が自走する方向である自走方向に向けてトーチ先端部を傾斜させるトーチ角度制御部と、前記トーチ先端部の、前記自走方向の傾斜角度であるトーチ角度を検出するトーチ角度検出部と、前記台車角度と前記トーチ角度との対応関係を記憶するトーチ角度対応テーブルと、前記台車の走行を制御する走行制御部と、前記台車角度と前記トーチに供給する溶接電流との関係、及び、前記溶接電流と前記接合部における溶加材の溶着量と、前記台車の走行速度との関係を示す走行速度対応テーブル、を備え、前記トーチ角度制御部は、前記台車を自走させて前記接合部を溶接する際に、前記台車角度検出部で検出される台車角度に対応するトーチ角度となるように、前記トーチ角度を制御し、前記走行制御部は、前記溶着量が設定された際に前記台車角度に基づき、前記走行速度対応テーブルを参照して前記台車の走行速度を設定することを特徴とする。
【0007】
また、一態様に係る溶接方法は、トーチを備えた台車を、接合する部材間の接合部に沿って自走させて、前記接合部を溶接する溶接方法であって、前記台車の走行面の進行方向と水平面とのなす角度である台車角度を検出するステップと、前記台車を自走させて前記接合部を溶接する際に、前記台車角度とトーチ角度との対応関係を記憶したトーチ角度対応テーブルを参照して、トーチ角度を取得するステップと、前記トーチ角度を制御するステップと、溶着量が設定された際に前記台車角度に基づき、前記台車角度と前記トーチに供給する溶接電流との関係、及び、前記溶接電流と前記接合部における溶加材の溶着量と、前記台車の走行速度との関係、を示す走行速度対応テーブルを参照して、前記台車の走行速度を設定するステップと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態によれば、接合部に溶加材を安定した溶着量、ビード幅で溶着させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係る溶接装置及びその周辺機器の構成を模式的に示す説明図である。
図2図2は、実施形態に係る溶接装置が配管に装着された様子を示す斜視図である。
図3図3は、実施形態に係る溶接装置に搭載される溶接台車の構成を示す斜視図である。
図4図4は、トーチ角度制御ユニットの詳細な構成を示す斜視図である。
図5図5は、トーチ角度制御ユニットの内部構成を示す斜視図である。
図6A図6Aは、実施形態に係る溶接装置に設けられる溶接トーチの側面図である。
図6B図6Bは、実施形態に係る溶接装置に設けられる溶接トーチの平面図であり、ノズルの振れ幅を示す。
図7図7は、本実施形態に係る溶接装置の電気的な構成を示すブロック図である。
図8A図8Aは、初層溶接時における台車角度に対する、トーチ角度、電流、電圧の対応関係を示すグラフである。
図8B図8Bは、初層溶接時における、溶接台車の走行速度と溶接電流の対応関係を示すグラフである。
図9A図9Aは、残層溶接時における台車角度に対する、トーチ角度、電流、電圧の対応関係を示すグラフである。
図9B図9Bは、残層溶接時における、溶接台車の走行速度と溶接電流の対応関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の構成説明]
以下、本実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る溶接装置101を用いて配管51の外周面の円周方向に沿って形成されている開先を溶接する様子を模式的に示す説明図である。また、図2は配管51に装着された溶接装置101の斜視図、図3は溶接台車11の拡大図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る溶接装置101は、配管51の周囲に装着可能な移動体M1を有している。更に、溶接装置101は、送給フィーダ14、溶接電源15、制御盤16を有している。本実施形態で示す溶接装置101は、マグ溶接、ミグ溶接などの、電極自体が消耗する溶極式のガスシールドアーク溶接(gas-shielded metal arc welding;GMAW)を実施する装置である。即ち、アークを放電するための電極が溶加材を兼ねる構成とされた溶接装置である。
【0012】
移動体M1は、互いに対向する位置(180°の位置)に設けられた2台の溶接台車11a、11b(台車)を備えている。各溶接台車11a、11bは、連結アーム17、ヒンジ18、車輪19、結束具20により連結されている。
【0013】
なお、以下では円筒形状をなす配管51は、水平面に対して平行に配置されているものとする。また、配管51の断面において、真上の位置(図中p1)を0°位置、真下の位置(図中p2)を180°位置ということにする。即ち、配管51の円周上の位置を、0°から180°の角度で示す。例えば、真横の位置(図中p3、p4)は90°位置である。また、以下の説明において、2台の溶接台車11a、11bを区別しないで示す場合には単に「溶接台車11」と言い、それぞれを特定して示す場合にはサフィックス「a」、「b」を付すものとする。
【0014】
また、「溶接台車11が配管51の0°位置にある」と言った場合には、溶接台車11に搭載される溶接トーチ12の先端に設けられたノズル12a(図3参照)の先端が0°位置に存在するものとする。更に、以下では溶接台車11において、該溶接台車11の前後方向(自走方向)をX方向、左右方向をY方向、上下方向をZ方向と定義する(図3参照)。
【0015】
図1図3に示すように、溶接台車11は、溶接トーチ12(以下、「トーチ12」と略す)を備えており、配管51の円周方向に自走しながら該トーチ12の先端に設けられたノズル12a(トーチ先端部)に送給されるワイヤー(溶加材)に電圧を印加する。該ワイヤーを電極として電圧を印加することにより、配管51の繋ぎ目となる開先q1(接合する部材間の接合部)の長手方向に沿って溶加材を溶着し、溶接ビードを形成する。なお、「開先」とは、2つの鋼管を突き合わせた時にできるV字型の溝を指す。
【0016】
溶接台車11には、4個の駆動輪13が搭載されており、各駆動輪13を走行モータ収納部24a内(図3参照)に収納されている走行モータ24(図7参照、図3では図示省略)により回転駆動することにより、溶接台車11を配管51の円周方向に沿って自走させることができる。即ち、各溶接台車11a、11bがそれぞれ4個の駆動輪13を備えているので、2台の溶接台車11a、11bを備えた移動体M1を、配管51の円周方向に沿って8輪駆動で回転させることができる。このため、配管51にレールを設置することなく、2台の溶接台車11a、11bを安定的に自走させることが可能である。
【0017】
また、図1に示すように移動体M1は、結束具20及びヒンジ18を備えており、結束具20を接続することにより移動体M1を配管51の周囲に装着することができる。また、結束具20を切り離すことにより移動体M1を配管51から取り外すことができる。即ち、結束具20の着脱により、配管51に対して簡便に移動体M1を取り付け、且つ、取り外すことが可能である。更に、連結アーム17、車輪19を増設することにより、異なる直径の配管に対して装着することが可能である。
【0018】
図1に示すように、溶接台車11には、トーチ12が設けられており、該トーチ12はコンジェットチューブ23を介して送給フィーダ14に接続されている。
【0019】
送給フィーダ14は、コンジェットチューブ23を経由して、ノズル12a(図3参照)に溶加材となるワイヤーを供給する機能を備えている。更に、送給フィーダ14は、溶接電源15に接続されており、該溶接電源15より出力される電圧をワイヤーに供給する。
【0020】
制御盤16は、配線21を介して溶接電源15、送給フィーダ14、トーチ12、溶接台車11に接続されており、溶接装置101を総括的に制御する機能を備える。具体的に、送給フィーダ14を制御してノズル12aにワイヤーを送給する制御、ワイヤーに電圧を印加してアーク溶接を実施する制御、溶接台車11を配管51の外周面の円周方向に向けて自走させる制御、ノズル12aの傾斜角度(後述するトーチ角度)を変更する制御、ノズル12aを自走方向に直交する方向(図3のY方向)に変動させる制御、ノズル12aと開先q1との距離(Z方向の距離)を調整する制御、などを行う。詳細については後述する。
【0021】
図2図3に示すように、溶接台車11には、水平方向に対する溶接台車11の傾斜角度(台車角度θ)を検出する傾斜計22(台車角度検出部)が設けられている。傾斜計22により溶接台車11の傾斜角度を検出することが可能であり、ひいては、配管51の周囲における溶接台車11の位置(ノズル12aの位置)を検出することができる。例えば、溶接台車11の位置が0°位置、90°位置などの位置データを検出することが可能である。即ち、傾斜計22は、溶接台車11が走行する走行面の進行方向と水平面とのなす角度である台車角度θ(図1参照)を検出する台車角度検出部としての機能を備えている。
【0022】
更に、図3に示すように溶接台車11には、トーチ角度制御ユニット27と、上下スライダ25と、オシレート機構26が設けられている。
【0023】
トーチ角度制御ユニット27は、トーチ12の先端に設けられたノズル12aの、溶接台車11の進行方向(自走方向)の傾斜角度φ、即ち、図3に示すX-Z平面上での傾斜角度を変更する機能を備えている。
【0024】
図4は、トーチ角度制御ユニット27の詳細な構成を示す斜視図、図5は、トーチ角度制御ユニット27の内部構成を示す斜視図である。図4図5に示すように、トーチ角度制御ユニット27は、ノズル12aの根本部分(図4に示すノズル12aの符号C1に対応する部位)を固定する旋回プレート28を備えている。ノズル12aは、固定具29により旋回プレート28に固定されている。該旋回プレート28は、3つの連結具30により長尺の円弧形状をなすガイドレール31に連結されている。ガイドレール31には、旋回用ギヤ31aが形成されている。
【0025】
更に、溶接台車11には、ノズル12aを旋回させるための旋回モータ32が設けられている。旋回モータ32の出力軸はフレームプレート33(図5)を貫通し、直径が異なる2つのギヤを備えるモータギヤ34に接続されている。
【0026】
モータギヤ34の、半径が小さいギヤは旋回用ギヤ31aに噛合している。また、半径が大きいギヤは、フレームプレート33に軸支された位置検出用ギヤ36に噛合している。位置検出用ギヤ36は、現在のノズル12aの傾斜角度を検出するトーチ角度センサ45(図7参照、図5では図示省略)に接続されている。トーチ角度センサ45(トーチ角度検出部)は、位置検出用ギヤ36の回転角度に基づき、例えばエンコーダなどにより現在におけるノズル12aの傾斜角度(トーチ角度)を検出する。
【0027】
フレームプレート33には、旋回プレート28をガイドするためのガイドローラ35が4か所に取り付けられている。従って、旋回モータ32を回転駆動させると、該旋回モータ32の出力軸に接続されたモータギヤ34が回転し、更に、該モータギヤ34に噛合された旋回用ギヤ31aが旋回する。即ち、ガイドレール31が4個のガイドローラ35にガイドされて旋回し、ひいてはガイドローラ35に固定された旋回プレート28が旋回する。
【0028】
このため、トーチ12のノズル12aの先端部を中心として、該ノズル12aの根本部分(図4の符号C1)を旋回させることができる。つまり、ノズル12aによる溶接位置を変化させることなく、ノズル12aの向きを、図3に示すX-Z平面に沿って変更することができる。即ち、旋回プレート28、ガイドレール31、及びガイドローラ35は、ノズル12a(トーチ先端部)の根本部分を円弧形状の方向に沿ってスライド移動するスライド機構としての機能を備えている。
【0029】
図3に戻って、溶接台車11に設けられた上下スライダ25は、トーチ角度制御ユニット27に連結されており、該トーチ角度制御ユニット27を上下方向、即ち、図3に示すZ方向に移動させる。該上下スライダ25を制御することにより、ノズル12aと開先q1との間の距離が所望の距離となるように制御することができる。
【0030】
溶接台車11に設けられたオシレート機構26は、トーチ角度制御ユニット27に連結されており、該トーチ角度制御ユニット27を左右方向(図3に示すY方向)に旋回させる。以下、図6A図6Bを参照して、オシレート機構26による制御について説明する。図6Aは、トーチ12の側面図、即ち、図3のY方向から見た図である。図6Bは、トーチ12の平面図、即ち、図3のZ方向から見た図である。
【0031】
オシレート機構26は駆動用のモータ(図示省略)を備えており、トーチ角度制御ユニット27(図3参照)をY方向に旋回させる。従って、図6Bに示すように、トーチ12のノズル12aを、中心位置s11を基準として、位置s12~s13の振れ幅で左右に旋回させることができる。オシレート機構26を作動させることにより、配管51の開先q1の幅(Y方向の長さ)が大きい場合であっても、ノズル12aが左右に旋回する振れ幅を制御することにより、所望の幅の溶加材を溶着させることができ、開先に溶加材を充填することができる。その結果、配管51の繋ぎ目を強固に、且つ、シール性を維持して固定することが可能となる。
【0032】
図7は、制御盤16の電気的な構成を示すブロック図である。図7に示すように、制御盤16は、入力受付部41と、制御部42と、記憶部43を備えている。更に、制御盤16は、操作者が各種の操作を入力する入力部44と、傾斜計22と、トーチ角度センサ45と、トーチ角度制御ユニット27と、オシレート機構26と、上下スライダ25と、走行モータ24に接続されている。
【0033】
入力受付部41は、入力部44よりユーザが入力する各種の情報を取得する。例えば、溶接パスの設定、溶接台車11の移動、溶接開始の操作、センターずれの補正、溶接停止の操作、などの操作が入力された際に、これらのデータを取得して、制御部42に出力する。
【0034】
制御部42は、トーチ角度制御部421と、オシレート制御部422と、上下位置制御部423と、走行制御部424と、溶接制御部425を備えている。
【0035】
トーチ角度制御部421は、傾斜計22で検出される溶接台車11の傾斜角度(台車角度)に基づいて、トーチ12の先端に設けられたノズル12aの傾斜角度(トーチ角度)を制御する制御指令を、トーチ角度制御ユニット27に出力する。
【0036】
オシレート制御部422は、開先q1を長手方向に沿って溶接する際の溶接の幅、即ち、溶接ビードのY方向の幅が所望の数値となるように制御する制御指令を、オシレート機構26に出力する。
【0037】
上下位置制御部423は、ノズル12aと開先q1との距離が所望の距離となるように制御する制御指令を、上下スライダ25に出力する。
【0038】
走行制御部424は、溶接台車11が所望の走行速度で走行するように、走行モータ24に制御指令を出力する。
【0039】
溶接制御部425は、ノズル12aの電極(ワイヤー)に供給する電圧、電流、ワイヤーの送給速度を含む、開先q1を溶接する際の各種の数値を制御する。
【0040】
なお、制御部42は、メモリに記憶されているコンピュータプログラム及び各種データに基づいて、CPUが制御を実行することにより情報処理演算を実行する。このため、制御部42が有するトーチ角度制御部421、オシレート制御部422、上下位置制御部423、走行制御部424、溶接制御部425の機能を実行することができる。
【0041】
記憶部43は、溶接台車11により開先q1を溶接する際に必要とする各種のデータ、及びテーブルを記憶する。具体的に、配管51の周囲に沿って自走する溶接台車11のX-Z平面に沿って傾斜する角度である台車角度と、ノズル12aがX-Z平面に沿って傾斜する角度であるトーチ角度との対応関係を示すトーチ角度対応テーブルを記憶する。トーチ角度対応テーブルは、過去においてアーク溶接を実施した際の、台車角度とトーチ角度との関係において、適切な溶着量、ビード幅となる溶接が実施されたときのデータに基づいて、統計的に求めることができる(図8A図9A)。
【0042】
更に、台車角度に対する、溶接時における適切な電圧、電流、溶接速度(溶接台車11の走行速度)が記憶される。例えば、図8A図9Aに示す如く台車角度に対する、適切なトーチ角度対応テーブルが記憶される。図8Aは、初層(1回目のパス;「裏波溶接」ともいう)の溶接時のトーチ角度対応テーブル、図9Aは残層(2回目以降のパス)の溶接時のトーチ角度対応テーブルを示している。
【0043】
更に、記憶部43には、統計的に求められた溶接速度に対する適正な電流の関係を示す走行速度対応テーブルが記憶されている。例えば、図8B図9Bに示す走行速度対応テーブルが記憶される。図8Bは、初層の溶接時の走行速度対応テーブル、図9Bは残層の溶接時の走行速度対応テーブルを示している。
【0044】
図8Bに示す「〇」、「×」、「横向き△」、「+」、「上向き△」の記号は、溶接台車11の台車角度ごと(0°、45°、90°、135°、180°)の、溶接台車11の走行速度に対して適正に溶接することが可能な電流値を示している。例えば、溶接台車11が0°位置に存在するときには、該溶接台車11の走行速度が10[cm/min]である場合に、溶接電流を80~110[A]とすることにより、適正な溶接が行われることを示している(図中の「〇印」を参照)。図9Bについても同様に、溶接台車11の台車角度ごとの、溶接台車11の走行速度に対して適正に溶接することが可能な電流値を示している。
【0045】
更に、溶接ビードの溶着量を所望の数値にするための、対応グラフが記憶されている。例えば、図8Bにおいて、溶着量を1.2[g/cm]とする場合の曲線f1、溶着量を1.6[g/cm]とする場合の曲線f2、溶着量を2.0[g/cm]とする場合の曲線f3が記憶されている。また、図9Bにおいて、溶着量を1.0[g/cm]とする場合の曲線f4、溶着量を3.5[g/cm]とする場合の曲線f5が記憶されている。なお、図8Bでは3つの曲線f1~f3を示し、図9Bでは2つの曲線f4~f5を示しているが、複数の溶着量に対する曲線を設定することができる。
【0046】
更に、記憶部43には、各種の配管ごとに、溶接のパス数とノズル12aの横方向の振れ幅との関係を示す振れ幅テーブルが記憶されている。例えば、5回のパスで溶接する場合には、1~5の各パスごとの振れ幅がテーブルに設定されている。
【0047】
[実施形態の作用の説明]
次に、上述のように構成された本実施形態に係る溶接装置101の作用について説明する。
初めに、作業者は、円筒形状を有する配管51の周囲に図1に示す移動体M1を装着し、その後結束具20を連結する。
【0048】
作業者は、開先q1を溶接する際のパス番号を選択する。具体的に、作業者は溶接対象の開先q1を複数層に溶接する場合において、初層であれば「1」、残層であれば、「2」「3」・・等の数値(パス番号)を入力部44より入力する。
【0049】
入力受付部41は、パス番号を取得し、このパス番号の情報を制御部42に出力する。オシレート制御部422は、パス番号に基づいて、記憶部43に記憶されている振れ幅テーブルを参照して、溶接を実行する際におけるノズル12aの左右方向の振れ幅を設定する。即ち、図6Bに記載した符号s12~s13の幅を設定する。
【0050】
その後、作業者は、入力部44においてトーチ角度の調整を行う旨の操作を入力する。この操作信号は入力受付部41にて取得され、制御部42に出力される。トーチ角度制御部421は、傾斜計22にて検出される溶接台車11の台車角度を取得する。更に、記憶部43に記憶されている、台車角度とトーチ角度との関係を示すトーチ角度対応テーブル(図8A図9A)を参照し、最適なトーチ角度を取得する。例えば、パス番号が「1」(即ち、初層)であり、溶接台車11が180°位置に存在する場合には、図8Aに示すように、トーチ角度を-45°に設定する。
【0051】
トーチ角度制御部421は、トーチ角度の設定指令信号を出力する。トーチ角度制御ユニット27は、トーチ角度の設定指令信号に基づいて、トーチ角度、即ちノズル12aの傾斜角度が設定した角度となるように制御する。例えば、溶接台車11が配管51の90°位置に存在しており(台車角度が90°)、初層を溶接する場合には、図8Aに示すようにトーチ角度が-17°となるように制御される。
【0052】
具体的に、図2図3に示した旋回モータ32を駆動させることにより、図5に示したモータギヤ34を回転させる。すると、ガイドレール31に設けられる円弧状の旋回用ギヤ31aが摺動して、ノズル12aのX-Z平面の方向の角度が変化し、所望のトーチ角度に設定される。
【0053】
なお、図6Aに示すように、ノズル12aが配管51の中心を向いている状態(即ち、溶接台車11の走行面の法線方向z1を向いている場合)が、トーチ角度0°であり、ノズル12aが走行方向の後方に傾斜する方向をマイナスとし、前方に傾斜する方向をプラスとする。即ち、図6Aに示すトーチ角度φはマイナスの数値である。
【0054】
その後、作業者は入力部44において、配管51の外周面の円周上における溶接台車11の初期位置、即ち、初期の台車角度を設定する。例えば、初期の台車角度として180°位置(図1に示す符号p2)を設定する。この情報は入力受付部41にて取得され、更に制御部42に出力される。
【0055】
走行制御部424は、溶接台車11が、設定された初期の台車角度の位置に来るように、走行モータ24の駆動を制御する。例えば、上記の例では配管51の180°位置に溶接台車11が来るように走行モータ24の駆動を制御する。
【0056】
次いで、作業者は入力部44において、溶接の開始操作を入力する。入力受付部41は、溶接の開始操作が入力されると、制御部42に溶接を開始する旨の指令信号を出力する。溶接制御部425は、リアルタイムで傾斜計22より、その時点における台車角度を取得し、この台車角度に基づいて記憶部43に記憶されているトーチ角度対応テーブルを参照し、適正な溶接条件、即ち、トーチ角度、ワイヤーに供給する電圧、電流を求める。
【0057】
具体的に、パス番号が「1」であり、溶接台車11の台車角度が180°位置である場合には、トーチ角度制御部421はトーチ角度が-45°となるように制御する(図8A参照)。更に、溶接制御部425は、ノズル12aに供給する電圧を17V、電流を110Aに設定する。更に、溶接ビードの溶着量に基づき図8Bを参照して、溶接台車11の走行速度を求める。
【0058】
台車角度が180°位置である場合には電流は110Aであり、更に、溶着量を1.2[g/cm]とする場合には、図8Bに示すf1を参照し、溶接台車11の走行速度を17[cm/min]に設定する。
【0059】
更に、オシレート制御部422は、現在のパス番号に応じたノズル12aの振れ幅を、記憶部43に記憶されている振れ幅テーブルより取得する。この振れ幅とするための指令信号をオシレート機構26に出力する。その結果、溶接台車11に固定されているトーチ12のノズル12aは、開先q1に対して所望の振れ幅となるように、ノズル12aが制御される。
【0060】
また、溶接台車11が自動で走行している際に、ノズル12aがY方向に位置ずれした場合には、作業者は入力部44において位置ずれを補正するための補正操作を行う。入力受付部41は、補正操作が入力されると、補正指令信号を走行制御部424に出力する。走行制御部424は、走行モータ24に位置ずれを補正する旨の指令信号に出力する。その結果、走行モータ24は位置ずれが解消するように溶接台車11の走行を制御する。例えば、マグ溶接では左右方向の多少のずれは許容できるので、作業者が見てずれを補正する。
【0061】
その後、溶接台車11が配管51の0°位置に達し、一連の溶接作業が終了した場合には、入力部44において、溶接作業を終了とする操作を行う。入力受付部41は、溶接作業の終了を示す指令信号を制御部42に出力する。溶接制御部425は、この指令信号を受けて、溶接作業を終了する。即ち、トーチ12への電圧供給を停止し、且つ、ワイヤーの供給を停止する。その後、次のパスの溶接に移行する。また、全てのパスの溶接が終了した場合には、本処理を終了する。
【0062】
[実施形態の効果の説明]
このようにして本実施形態に係る溶接装置101では、溶接台車11を自走させて開先q1を溶接する際に、溶接台車11のX-Z平面方向の傾斜角度(台車角度)に応じて、トーチ12のノズル12aの傾斜角度(トーチ角度)を変化させている。具体的には、配管51の外周面の円周上における溶接台車11の台車角度(0°位置、180°位置など)に応じて、トーチ角度を変化させている。
【0063】
また、トーチ角度対応テーブルは、過去においてアーク溶接を実施した際の、台車角度とトーチ角度との関係において、良好に溶接が実施されたときのデータに基づいて、統計的に求めている。従って、溶接台車11が配管51の周囲を自走して開先q1を溶接する際に、溶接台車の位置に関わらず、ほぼ一定の溶着量で且つ一定のビード幅でアーク溶接を実施することが可能となる。
【0064】
即ち、トーチ12のノズル12aは、溶接台車11の下方向に向けて配置されており、該ノズル12aに送給されるワイヤーに電圧を印加して配管51の開先q1を溶接する。従って、溶接台車11が配管51の0°位置(台車角度が0°)である場合には、ノズル12aは下方(Z方向の下側)を向くことになる。一方、溶接台車11が配管51の180°位置(台車角度が180°)である場合には、ノズル12aは上方(Z方向の上側)を向くことになる。
【0065】
更に、溶接台車11が配管51の90°位置(台車角度が90°)である場合には、ノズル12aは水平方向を向くことになる。従って、溶接台車11が位置する傾斜角度に応じて、重力が加えられる方向が異なり、同一の条件で溶接すると、安定した溶着量、ビード幅とすることが難しい。特に、初層の溶接は裏波溶接となるので、開先q1に隙間が空いており、重力の影響を大きく受ける。本実施形態ではこのような問題を解決することができる。
【0066】
また、図4に示すように、ノズル12aの根本部分は旋回プレート28に固定されており、該旋回プレート28を旋回させてトーチ角度を変化させている。従って、ノズル12aの先端部と開先q1における溶接部位との距離をほぼ一定に保持することができる。このため、安定的に溶接電流を流すことができ、且つ、安定的にシールドガスを供給することができるので、良好なアーク溶接を実施することが可能となる。
【0067】
更に、溶接台車11のX-Z平面に沿って傾斜する角度である台車角度と、ノズル12aがX-Z平面に沿って傾斜する角度であるトーチ角度との関係を示すトーチ角度対応テーブルが記憶部43に記憶され、このトーチ角度対応テーブルを参照して、トーチ角度が設定される。従って、過去の統計的なデータに基づく適正なトーチ角度を設定することが可能となる。
【0068】
また、本実施形態に係る溶接装置は、溶接台車11が自走して配管51の周囲を移動する構成であり、従来のように、レールを設けていないので、装置構成を簡素化することができ、且つ小型、軽量化を図ることができる。このため、移動が容易であり、配管を溶接する場所へ容易に移動して溶接作業を実施することが可能となる。また、レールを設けず、溶接台車11が自走するので、例えば配管51が熱により変形し、断面形状が円形でなくなる場合でも、良好なアーク溶接を実施することが可能となる。
【0069】
更に、移動体M1は、互いに180°の方向となる位置に2つの溶接台車11a、11bを備えているので、移動体M1の全体の重量バランスを安定化することができる。また、溶接台車11を一台のみとする場合には、該溶接台車11に対して180°となる位置に、重量バランス用の錘を設ける構成とすることも可能である。
【0070】
また、2台の溶接台車11a、11bを設置することにより、一方の溶接台車11aを180°位置から0°位置まで走行させると、他方の溶接台車11bは180°位置に到達する。従って、一方の溶接台車11aが180°位置から0°位置まで走行して溶接が終了すると、即時に他方の溶接台車11bによる180°位置からの溶接を実施することが可能となり、溶接に要する時間を短縮化することが可能となる。
【0071】
更に、本実施形態では、予め設定した走行速度対応テーブルを用いて、溶接台車11の走行速度を設定している。更に、トーチ12に供給する電圧、電流を設定している。従って、台車角度が変化した場合でも、安定的に溶加材を開先q1に溶着させることができる。このため、配管51の繋ぎ目を強固に、且つシール性を維持して固定することが可能となる。
【0072】
なお、上述した実施形態では、配管51が水平方向に対して平行に配置されている例について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、配管51が水平方向に対して所定の角度だけ傾斜して配置されている場合には、傾斜している角度に応じた補正係数を設定し、記憶部43に記憶されているトーチ角度に補正係数を乗じることにより、設定するトーチ角度を求めるようにしてもよい。また、傾斜角度に応じたトーチ角度対応テーブルを予め記憶部43に記憶しておき、このトーチ角度対応テーブルを用いてトーチ角度を設定するようにしてもよい。
【0073】
更に、本実施形態は、断面が円形状に形成された配管に限定されず、断面が円形状以外の配管についても適用することができる。即ち、本実施形態に係る溶接装置は、溶接台車11の進行方向に向く傾斜角度(図3に示すX-Z平面に沿った角度)が変化する条件下において、適用することが可能である。例えば、コーナが円弧形状に加工されているダクトなどにも採用することが可能である。
【0074】
以上、実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの実施形態を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0075】
11、11a、11b 溶接台車
12 溶接トーチ(トーチ)
12a ノズル
13 駆動輪
14 送給フィーダ
15 溶接電源
16 制御盤
17 連結アーム
18 ヒンジ
19 車輪
20 結束具
21 配線
22 傾斜計
23 コンジェットチューブ
24 走行モータ
24a 走行モータ収納部
25 上下スライダ
26 オシレート機構
27 トーチ角度制御ユニット
28 旋回プレート
29 固定具
30 連結具
31 ガイドレール(円弧状ギヤ)
31a 旋回用ギヤ
32 旋回モータ
33 フレームプレート
34 モータギヤ
35 ガイドローラ
36 位置検出用ギヤ
41 入力受付部
42 制御部
43 記憶部
44 入力部
45 トーチ角度センサ
51 配管
101 溶接装置
421 トーチ角度制御部
422 オシレート制御部
423 上下位置制御部
424 走行制御部
425 溶接制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9A
図9B