(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】取水口開閉制御装置
(51)【国際特許分類】
E02B 9/04 20060101AFI20230926BHJP
E02B 7/26 20060101ALI20230926BHJP
E02B 7/20 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
E02B9/04 Z
E02B7/26 B
E02B7/20 109
(21)【出願番号】P 2019139716
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】寺田 大治
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 克寿
(72)【発明者】
【氏名】上田 靖
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-154079(JP,A)
【文献】特開昭63-138012(JP,A)
【文献】特開2014-015710(JP,A)
【文献】特開昭60-016611(JP,A)
【文献】国際公開第2008/012887(WO,A1)
【文献】特開2013-133621(JP,A)
【文献】特開平11-061782(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0026660(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 9/04
E02B 7/26
E02B 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取水口の開閉を制御する取水口開閉制御装置であって、
中空領域を備えた中空構造をなす取水口ゲート
と、
前記取水口ゲートの壁面に設けられた前記中空領域に達する孔部と、
前記孔部にはめ込んで、前記中空領域への水の流入を防止する栓部材と、
を備え、
前記栓部材を前記孔部から外すことで、前記孔部を通じて前記中空領域へ水を流入させ、前記中空領域へ流入した水の重さで前記取水口ゲートを下降させて、前記取水口を閉じる制御をおこなうことを特徴とする取水口開閉制御装置。
【請求項2】
前記取水口ゲートの導水路側の水位が所定の水位に達した場合に、前記導水路側の水位の上昇の作用により、前記導水路側の水中に落下して、水流により下流側へ移動する流下体部材を備え、
前記孔部は、前記導水路側の壁面に設けられ、
前記流下体部材の移動により前記栓部材を前記孔部から外れさせることを特徴とする請求項
1に記載の取水口開閉制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、取水口の開閉を制御する取水口開閉制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
河川などから取水した水を発電に用いる水力発電設備は、河川と水力発電設備とを接続する導水路を備えている。河川と導水路との境界に位置する取水口には、取水量を調整する取水口ゲートが設けられている。取水口および取水口ゲートは、河川内の他、渓流などの山間部に設置されることが多い。
【0003】
山間部においては、商用電源を確保することが難しいことから、従来、作業員が取水口ゲートの設置現場に赴いた際に、取水口ゲートを手動で操作することによって取水口ゲートの開度を調整し、調整した開度に固定した状態で取水していた。取水口ゲートの開度は、過取水を防止するため、小開度に固定した状態で取水していた。
【0004】
関連する技術として、水位の変動に対応して浮力により上下動することによって貯水槽の側壁に設けた取水口を開閉する浮動ゲートの上半部中央位置に水の越流用の凹所を設け、浮動ゲートの浮力を凹所の越流面が水面より所定水深位置に維持されるように設定することにより、貯水槽内の水位の変動に応じて取水口の開閉を無電力かつ無人でほぼ一定水量ずつ取水できるようにした昇降ゲート式取水装置に関する技術があった(たとえば、下記特許文献1を参照。)。
【0005】
また、関連する技術として、導入口と取水口を有する取水升の垂直な壁面に複数のローラにより接触し、取水升の水位変動に対応して上下し、越流水深を一定に保つような浮力を提供する浮動ゲートを備えた浮動ゲート型取水装置に関する技術があった(たとえば、下記特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-84319号公報
【文献】特開2000-120047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の技術は、商用電源を確保することが難しく、取水口ゲートの開度を小開度に固定した状態で取水しており、河川における流量に応じて取水量を調節することが困難であるため、河川における流量によっては溢水が発生してしまうという問題があった。
【0008】
また、上述した従来の技術は、想定以上の大出水時には取水口ゲートの開度が小開度であっても取水量が増加するため、超過取水が生じたり、導水路における許容水量を超過したりして、地山が洗掘されるおそれがあるという問題があった。
【0009】
山間部に設置される取水口および取水口ゲートは、比較的取水量が少ないため、たとえば、太陽光発電や蓄電池を用いて取水口ゲートの開度を作業者の手動操作を介することなく調整する自動制御方式を採用する場合、取水量すなわち発電量に見合うより多くの費用を要するという問題があった。
【0010】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、安価でかつ簡易に、取水口の開閉を自動制御することができる取水口開閉制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかる取水口開閉制御装置は、取水口の開閉を制御する取水口開閉制御装置であって、河川側の水位に応じて上昇および下降する浮き部材を備え、前記浮き部材の上昇の移動に連動して取水口ゲートを下降させて、前記取水口を閉じる制御をおこなうことを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる取水口開閉制御装置は、上記の発明において、前記取水口ゲートが、中空領域を備えた中空構造をなしており、前記取水口ゲートの導水路側の壁面に設けられた前記中空領域に達する孔部と、前記孔部にはめ込んで、前記中空領域への水の流入を防止する栓部材と、前記導水路側の水位が所定の水位に達した場合に、前記導水路側の水位の上昇の作用により、前記導水路側の水中に落下して、水流により下流側へ移動する流下体部材と、を備え、前記流下体部材の移動により前記栓部材を前記孔部から外れさせ、前記孔部を通じて前記中空領域へ水を流入させ、前記中空領域へ流入した水の重さで前記取水口ゲートを下降させて、前記取水口を閉じる制御をおこなうこと特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明にかかる取水口開閉制御装置によれば、安価でかつ簡易に、取水口の開閉を自動制御することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明にかかる実施の形態の取水口開閉制御装置の構成を示す説明図(その1)である。
【
図2】この発明にかかる実施の形態の取水口開閉制御装置の構成を示す説明図(その2)である。
【
図3】この発明にかかる実施の形態の取水口開閉制御装置の構成を示す説明図(その3)である。
【
図4】この発明にかかる実施の形態の取水口開閉制御装置の構成を示す説明図(その4)である。
【
図5】この発明にかかる実施の形態の取水口開閉制御装置の構成を示す説明図(その5)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる取水口開閉制御装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
図1~
図5は、この発明にかかる実施の形態の取水口開閉制御装置の構成を示す説明図である。
図1~
図5において、符号Xは、取水口である。符号100は、取水口ゲートである。符号101は、取水口ゲート100の中空領域である。符号102は、取水口ゲート移動規制壁である。符号103は、ベアリング部材である。符号104、107は、浮き部材である。符号105、110、123は、接続ロープである。符号106は、滑車部材(軸部)である。符号108は、天秤棒部材である。符号109は、支点である。符号111は、支持棒部材である。符号112は、接続部である。符号121は、流下体部材である。符号122は、載置台である。符号124は、栓部材である。符号125、126は、孔部である。また、符号115は、取水口ゲート100の導水路側の壁面を示している。
図1~5の各図面においては、同一の部材には、同一の符号を付している。
【0017】
図1において、取水口開閉制御装置は、取水口Xの開閉を制御する。取水口Xは、取水口ゲート100が、取水口ゲート移動規制壁102に沿って上下することによって、その開口度、すなわち、開口面積が決まる。開口度(開口面積)が大きいほど、多くの水を取水することができる。取水口Xは、取水口ゲート100が上昇すれば、開口度が大きくなり、取水口ゲート100が下降すれば、開口度は小さくなる。取水口ゲート100が一番下(底部)まで下降すれば、取水口Xは全閉する。
【0018】
浮き部材104は、河川側の水位Aに応じて上昇および下降する。浮き部材104の上昇の移動に連動して取水口ゲート100を下降させる。それによって、取水口Xを閉じる制御をおこなう。したがって、河川側の水位Aが上昇した場合に、取水口Xの開口度を小さくして、さらには、取水口Xを全閉にして、それによって、取水量を抑制して、さらには、取水を停止して、過取水となってしまうことを防止することができる。
【0019】
取水口ゲート移動規制壁102は、取水口ゲート100を囲むように設けられており、取水口ゲート100が上昇・下降のみの移動をおこなうように、その移動を規制している。取水口ゲート移動規制壁102は、その一部が網や柵などの部材によって構成され、河川側から導水路側への水を通過させることができる。取水口ゲート100は、取水口ゲート移動規制壁102に沿ってのみ移動するので、確実に、上昇・下降の移動のみをおこなうことができる。ベアリング部材103は、取水口ゲート移動規制壁102の取水口ゲート100が接する面(たとえば戸当たりの部分)に複数設けられている。ベアリング部材103を設けることによって、取水口ゲート100が移動する際の、取水口ゲート移動規制壁102の取水口ゲート100との間に生じる摩擦を軽減し、取水口ゲート100の移動を、より円滑にかつ少ない動力でおこなわせることができる。さらには、取水口ゲート100は、中空領域101を備えた中空構造をなしている。このように、取水口ゲート100の浮力も利用することによって、より少ない動力で、取水口ゲート100を上昇させることができる。
【0020】
浮き部材104には、接続ロープ105の一端が結びつけられている。また、接続ロープ105の他端には、滑車部材(軸部)106を介して、取水口ゲート100の下側(底面部)に結びつけられている。取水口ゲート100の上側には、接続ロープ110の一端が結びつけられている。また、取水口ゲート100の下側(上面部)には、接続ロープ110の一端が結びつけられている。また、接続ロープ110の他端には、天秤棒部材108の一端が結びつけられている。天秤棒部材108は、支点109を中心にして回動可能に設置され、その他端には、支持棒部材111との接続部を有している。支持棒部材111には、浮き部材107がつり下げられている。したがって、
図2に示すように、水位Aが上昇し、浮き部材104が上昇すれば、その上昇の移動に連動して、接続ロープ105が引っ張られるため、取水口ゲート100が下降する。取水口ゲート100が下降すると、浮き部材107は上昇する。
【0021】
反対に、浮き部材104が下降すれば、浮き部材107、天秤棒部材108、支点109、接続ロープ110、支持棒部材111、接続部112の作用によって、取水口ゲート100が上昇する。すなわち、浮き部材107、天秤棒部材108、支持棒部材111の重さによって、取水口ゲート100を上昇させることができる。浮き部材107の設置位置や支点109の位置などを調整することによって、また、浮き部材107に錘を付けるなどしてバランスを調整し、導水路側の水位Bが低下しすぎないように、また、過取水の状態とならないように調節することができる。これにより、河川側の水位Aが低下または導水路側の水位Bが低下した場合は、取水口ゲート100を上昇させて、取水口Xを開ける方向に力を作用させ、所望量の取水が可能となるようにすることができる。
【0022】
このようにして、取水口ゲート100の上昇・下降を自動的におこなうことによって、適切な取水量を制御することができる。そして、河川側の水位Aが上昇した場合には、取水量を抑制し、過取水となることを適切に防止することができる。
【0023】
また、取水口開閉制御装置は、上述のように、取水口ゲート100が、中空領域101を備えた中空構造をなしている。取水口ゲート100の導水路側の壁面の所定の位置には、中空領域101に達する孔部125が設けられている。そして、その孔部125には、栓部材124がはめ込まれて、孔部125を閉塞している。それにより、中空領域101への水の流入を防止している。孔部125には、接続ロープ123の一端が結びつけられている。接続ロープ123の他端には、流下体部材121が結びつけられている。また、栓部材124が取水口ゲート100の上下移動にともなって移動できるように、導水路側の取水口ゲート移動規制壁102には、鉛直方向に、栓部材124の移動用の溝孔が設けられている。したがって、
図1~
図3においては、取水口ゲート100が移動すると、取水口ゲート移動規制壁102があるにもかかわらず、栓部材124も上下方向に自由に移動することができる。
【0024】
流下体部材121は、平常時は、載置台122に載置されており、非常事態、たとえば、接続ロープ105が切れるなどによって、取水口ゲート100の上昇・下降の制御が不能となった場合に用いられる。具体的には、導水路側の水位Bが上昇しすぎた場合に、取水口Xを確実に閉じるように制御することができる。
図3に示すように、導水路側の水位Bが所定の水位に達した場合に、流下体部材121は、導水路側の水位の上昇の作用により、載置台122から、導水路側の水中に落下するように構成されている。落下した流下体部材121は、水流により導水路の下流側へ移動することになる。流下体部材121が下流側へ移動すると、
図4に示すように、流下体部材121の移動によって、接続ロープ123が引っ張られ、それによって、栓部材124が孔部125から外れ、孔部125を通じて中空領域101へ水が流入する。孔部126は、水が中空領域101に流入する際に、中空領域101内の空気を排出するためのものである。この孔部126によって、水が中空領域101内に流入しやすくできる。水が中空領域101に流入し始めてからしばらくすると、
図5に示すように、中空領域101へ流入した水の重さで取水口ゲート100を下降させて、取水口Xを閉じることができる。すなわち、取水口ゲート100は、中空領域101に水が満たされ、自重により降下することになる。これによって、非常事態により導水路側の水位Bが上昇した場合に、取水口Xを閉じる制御をおこない取水量を抑制し、過取水を防止することができる。
【0025】
なお、浮き部材104、107は、係船用ブイなど、汎用品で対応することが可能であり、コスト面で有効である。また、流下体部材121も、浮き部材104、107と同様の材質によって構成することができる。流下体部材121は、たとえば、水位Bの上昇によって、載置台122から浮き上がり、水中に落下した際に、流下体部材121の全部または一部が、水中に沈み込んで、導水路の水流によって流される構成を備えていればよい。具体的には、たとえば、流下体部材121が中空構造になっており、一部に孔部を備え、水中に落下した際に、その孔部から水が流入する構成となっていてもよい。浮き部材104、107、流下体部材121は、上記の材質、構造には限定されない。その他の材質、構造により、上記実施の形態の作用を実現するものであればよい。
【0026】
以上説明したように、この発明にかかる実施の形態の取水口開閉制御装置は、取水口Xの開閉を制御する取水口開閉制御装置であって、河川側の水位Aに応じて上昇および下降する浮き部材104を備え、浮き部材104の上昇の移動に連動して取水口ゲート100を下降させて、取水口Xを閉じる制御をおこなうので、河川側の水位Aが上昇した場合に、取水量を抑制し、過取水を防止することができる。
【0027】
また、この発明にかかる実施の形態の取水口開閉制御装置は、取水口ゲート100が、中空領域101を備えた中空構造をなしており、取水口ゲート100の導水路側の壁面に設けられた中空領域101に達する孔部125と、孔部125にはめ込んで、中空領域101への水の流入を防止する栓部材124と、導水路側の水位Bが所定の水位に達した場合に、導水路側の水位Bの上昇の作用により、導水路側の水中に落下して、水流により下流側へ移動する流下体部材121と、を備え、流下体部材121の移動により栓部材124を孔部125から外れさせ、孔部125を通じて中空領域101へ水を流入させ、中空領域101へ流入した水の重さで取水口ゲート100を下降させて、取水口Xを閉じる制御をおこなうので、導水路側の水位Bが上昇した場合に、取水口Xを閉じる制御をおこない取水量を抑制し、過取水を防止することができる。
【0028】
この発明にかかる実施の形態の取水口開閉制御装置は、小河川・渓流からの取水をおこなっている水力発電事業のみでなく、農業用灌漑水路等の用水路などで、幅広く使用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上のように、この発明にかかる取水口開閉制御装置は、取水口の開閉を制御する取水口開閉制御装置に有用であり、特に、商用電源がない渓流取水口における取水口の制御に適している。
【符号の説明】
【0030】
X 取水口
100 取水口ゲート
101 中空領域
102 取水口ゲート移動規制壁
103 ベアリング部材
104、107 浮き部材
105、110、123 接続ロープ
106 滑車部材(軸部)
108 天秤棒部材
109 支点
111 支持棒部材
112 接続部
115 (取水口ゲート100の導水路側の)壁面
121 流下体部材
122 載置台
124 栓部材
125、126 孔部