(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】ガラスの製造方法及び板ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 5/16 20060101AFI20230926BHJP
C03C 4/08 20060101ALI20230926BHJP
C03C 3/072 20060101ALN20230926BHJP
C03C 3/07 20060101ALN20230926BHJP
【FI】
C03B5/16
C03C4/08
C03C3/072
C03C3/07
(21)【出願番号】P 2019200441
(22)【出願日】2019-11-05
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】福田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅登
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-044838(JP,A)
【文献】特開昭62-119138(JP,A)
【文献】特開2005-060193(JP,A)
【文献】特開2007-137758(JP,A)
【文献】特表2012-509246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00-5/44
8/00-8/04
19/12-20/00
C03C 1/00-14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PbOを含有するガラスの製造方法であって、
溶融炉内に酸素を供給することにより、前記PbOを含有するガラスに酸素濃度が10体積%以上の気体を接触させる接触工程を備え
、
前記接触工程では、前記溶融炉内を加熱する酸素燃焼式バーナーにより、前記溶融炉内に前記酸素を供給し、
前記酸素燃焼式バーナーで用いる燃料ガスに、93体積%以上の酸素濃度のガスを混合する、ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記接触工程を1時間以上、48時間以下の範囲内で行う、請求項1に記載のガラスの製造方法。
【請求項3】
前記PbOを含有するガラスは、酸化物系清澄剤をさらに含有する、請求項1
又は請求項
2に記載のガラスの製造方法。
【請求項4】
前記PbOを含有するガラスは、5ppm以上のFe
2O
3をさらに含有する、請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載のガラスの製造方法。
【請求項5】
前記PbOを含有するガラスは、質量%で50~80%のPbOを含有する放射線遮蔽ガラスであり、
前記放射線遮蔽ガラスは、5ppm以上のFe
2
O
3
と、100~20000ppmの酸化物系清澄剤とを含有する、請求項1又は請求項2に記載のガラスの製造方法。
【請求項6】
PbOを含有するガラスから得られる板ガラスの製造方法であって、
溶融炉内に酸素を供給することにより、前記PbOを含有するガラスに酸素濃度が10体積%以上の気体を接触させる接触工程と、
前記接触工程の後、前記ガラスを板状に成形する成形工程と、を備え
、
前記接触工程では、前記溶融炉内を加熱する酸素燃焼式バーナーにより、前記溶融炉内に前記酸素を供給し、
前記酸素燃焼式バーナーで用いる燃料ガスに、93体積%以上の酸素濃度のガスを混合する、板ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスの製造方法及び板ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されるように、PbOを含有するガラスは、例えば、放射線遮蔽ガラスとして用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにガラスがPbOを含有する場合、例えば、ガラス原料に含有する鉄分等の不純物を要因としてガラスの光透過性が低下し易い。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、PbOを含有するガラスの光透過性の低下を抑えることを可能にしたガラスの製造方法及び板ガラスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するガラスの製造方法は、PbOを含有するガラスの製造方法であって、溶融炉内に酸素を供給することにより、前記PbOを含有するガラスに酸素濃度が10体積%以上の気体を接触させる接触工程を備える。
【0006】
一般に、溶融ガラスの温度が上昇することで、溶融ガラス中の鉄分等の不純物は還元され易くなる。この方法によれば、溶融炉内でガラスに接触する気体の酸素濃度が10体積%以上であることで、溶融炉内における酸素が過多となり、ガラスが還元され難い環境となるため、ガラスに含まれる鉄分等の不純物の還元反応を抑えることができる。その結果、ガラスの光透過性の低下を抑えることができる。
【0007】
上記ガラスの製造方法において、前記接触工程を1時間以上、48時間以下の範囲内で行うことが好ましい。
この方法によれば、PbOを含有するガラスの光透過性をより高めることが可能となり、かつガラスの生産性を確保することができる。
【0008】
上記ガラスの製造方法において、前記接触工程では、前記溶融炉内を加熱する酸素燃焼式バーナーにより、前記溶融炉内に前記酸素を供給することが好ましい。
この方法によれば、例えば、溶融炉内に酸素を供給するための供給流路を別途設けずに、溶融炉内に酸素を供給することが可能となる。
【0009】
上記ガラスの製造方法において、前記PbOを含有するガラスは、酸化物系清澄剤をさらに含有することが好ましい。
この方法によれば、接触工程において、溶融炉内に供給する酸素によって酸化物系清澄剤の清澄効果を促進することができる。
【0010】
上記ガラスの製造方法において、前記PbOを含有するガラスは、5ppm以上のFe2O3をさらに含有してもよい。
上記のようにガラスの透過性を低下させる成分を多く含有する場合でも、ガラスの光透過性の低下を抑えることができる。
【0011】
板ガラスの製造方法は、PbOを含有するガラスから得られる板ガラスの製造方法であって、溶融炉内に酸素を供給することにより、前記PbOを含有するガラスに酸素濃度が10体積%以上の気体を接触させる接触工程と、前記接触工程の後、前記ガラスを板状に成形する成形工程と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、PbOを含有するガラスの光透過性の低下を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態におけるガラスの製造装置を示す模式断面図である。
【
図3】ガラスの製造装置の変更例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、ガラスの製造方法の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、ガラスGの製造には、ガラス原料を溶融させる溶融炉11が用いられる。ガラスGは、PbOを含有する。ガラスGは、ガラス組成として質量%で、PbO:50~80%を含有することが好ましく、より好ましくはPbO:55~80%である。このように、ガラス組成として質量%で、PbO:50%以上を含有するガラスは、放射線遮蔽能力が高く、放射線遮蔽ガラスとして好適に用いられる。
【0015】
ガラスGは、ガラス組成として質量%で、SiO2:10~30%、PbO:50~80%、B2O3:0~10%、Al2O3:0~10%、SrO:0~10%、BaO:0~10%、Na2O:0~10%、K2O:0~10%を含有することが好ましい。
【0016】
ガラス原料には、鉄系の不純物が含有される場合があり、これによりガラスGにはFe2O3が含有される場合がある。本実施形態のガラスGは、ガラス組成の質量割合で、Fe2O3:5ppm以上を含有していてもよく、Fe2O3:10ppm以上を含有していてもよい。
【0017】
ガラスGは、酸化物系清澄剤を含有することが好ましい。酸化物系清澄剤としては、例えば、Sb2O3、As2O3等が挙げられる。酸化物系清澄剤は、Sb2O3であることが好ましい。
【0018】
ガラスG中の酸化物系清澄剤の含有量は、100~20000ppmであることが好ましく、より好ましくは500~15000ppmであり、さらに好ましくは1000~10000ppmである。ガラスG中の酸化物系清澄剤の含有量を増加させると、ガラスG中の泡をより低減することができる。ガラスG中の酸化物系清澄剤の含有量を低下させると、ガラスGのコストを削減することができる。
【0019】
溶融炉11中におけるガラスGの加熱温度は、例えば、950℃以上、1300℃以下の範囲内であることが好ましい。ガラスGの加熱温度をより高くすることで、ガラスGの清澄性をより高めることができる。ガラスGの加熱温度をより低くすることで、ガラスGの光透過性をより高めることができる。
【0020】
次に、ガラスGの製造方法について板ガラスの製造方法とともに説明する。
図2に示すように、板ガラスの製造方法は、溶融炉11内に酸素を供給することにより、溶融炉11内のPbOを含有するガラスGに酸素濃度が10体積%以上の気体を接触させる接触工程(ステップS1)を備えている。ステップS1の接触工程は、PbOを含有するガラスGの光透過性を高める。本実施形態のステップS1の接触工程は、酸化物系清澄剤の清澄効果を促進する。ステップS1の接触工程で用いる気体の酸素濃度は、12体積%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは14体積%以上である。
【0021】
ステップS1の接触工程は、1時間以上、48時間以下の範囲内で行うことが好ましい。ステップS1の接触工程の時間が1時間以上の場合、PbOを含有するガラスGの光透過性をより高めることが可能なとなる。また、ステップS1の接触工程の時間が1時間以上の場合、酸化物系清澄剤による清澄効果をより促進することができる。ステップS1の接触工程の時間が48時間以下の場合、ガラスGの生産性を確保することができる。
【0022】
本実施形態のステップS1の接触工程では、溶融炉11内を加熱する酸素燃焼式バーナー12により溶融炉11内に酸素を供給している。詳述すると、酸素燃焼式バーナー12は、天然ガス等の燃料ガスに混合するガスとして酸素を用いるものをいう。燃料ガスに混合するガス中の酸素濃度は、例えば、93体積%以上であればよく、燃料ガスに混合するガスとして酸素と空気との混合ガスを用いてもよい。ステップS1の接触工程では、燃料ガスの燃焼に必要な酸素よりも多くの酸素を酸素燃焼式バーナー12から溶融炉11内に噴射することで、燃料ガスの燃焼に使用されない余剰の酸素を溶融炉11内に供給することができる。ステップS1の接触工程では、例えば、溶融炉11から排出される排ガス中の酸素濃度を測定することで、溶融炉11内の気体の酸素濃度を管理することが好ましい。
【0023】
なお、本実施形態のガラスGの製造方法では、溶融炉11内でガラスGの清澄も行われるが、溶融炉11の下流側に清澄槽をさらに配置し、清澄槽内でさらに清澄を行うこともできる。
【0024】
板ガラスの製造方法は、ステップS1の接触工程と、ステップS1の接触工程の後、ガラスGを板状に成形する成形工程(ステップS2)とを備えている。ステップS2の成形工程は、溶融炉11で得られたガラスGが供給される成形装置で行われる。ステップS2成形工程で用いる成形方法としては、例えば、ロールアウト法、フロート法、スロットダウンドロー法、オーバーフローダウンドロー法、リドロー法等が挙げられる。成形方法の中でも、厚さ寸法の比較的大きい板ガラスを効率的に製造するという観点から、ロールアウト法を用いることが好ましい。板ガラスの厚さは、例えば、2mm以上であることが好ましく、より好ましくは5mm以上であり、さらに好ましくは10mm以上である。また、板ガラスが強い放射線を遮蔽する放射線遮蔽ガラスの場合、板ガラスの厚さの上限は、例えば、500mm以下であることが好ましい。
【0025】
次に、試験例について説明する。
(試験例1)
試験例1では、溶融炉及び酸素燃焼式バーナーを用いて、ガラス組成として質量%で、PbO:56%を含有するガラスを得た。このガラスには、酸化物系清澄剤としてのSb2O3をガラス中において5000ppmの含有量となるように配合した。また、溶融炉内への酸素の供給には、酸素燃焼式バーナーを用いた。試験例1の溶融炉内に満たされる気体の酸素濃度は、10体積%以上である。また、溶融炉内のガラスの加熱温度を1000~1100℃とし、溶融炉内でガラス原料を溶融してから24時間後に溶融炉からガラスを取り出した。すなわち、上述した接触工程を24時間行うことで、PbOを含有するガラスを得た。続いて、得られたガラスから厚さ5mmの板ガラスのサンプルを成形した。得られたサンプル中におけるFe2O3の含有量は、55ppmであった。
【0026】
(試験例2)
試験例2では、酸素燃焼式バーナーを空気燃焼式バーナーに変更した以外は、試験例1と同様にガラスを得た。試験例2の溶融炉内に満たされる気体の酸素濃度は、5体積%以下である。次に、得られたガラスから厚さ5mmの板ガラスのサンプルを成形した。得られたサンプル中におけるFe2O3の含有量は、55ppmであった。
【0027】
(光透過率の測定)
試験例1,2で得られた板ガラスのサンプルの光透過率を測定した。ここでいう光透過率は、全光線透過率であり、光透過率の測定に用いる光の波長は、550nm及び400nmである。
【0028】
試験例1で得られた板ガラスの光透過率は、86.7%(550nm)及び75.2%(400nm)であった。
試験例2で得られた板ガラスの光透過率は、85.7%(550nm)及び73.9%(400nm)であった。
【0029】
この結果から、試験例1のように接触工程を行うことで、板ガラスの光透過率を高めることができることが分かる。
(泡数の算出)
試験例1,2で得られた板ガラス中の泡数をカウントし、板ガラス1kg当たりの泡数を算出した。
【0030】
試験例1で得られた板ガラスの泡数は、25個/kgであった。
試験例2で得られた板ガラスの泡数は、50個/kgであった。
この結果から、試験例1のように接触工程を行うことで、ガラスの清澄性を高めることができることが分かる。
【0031】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)PbOを含有するガラスGの製造方法は、溶融炉11内に酸素を供給することにより、PbOを含有するガラスGに酸素濃度が10体積%以上の気体を接触させる接触工程(ステップS1)を備えている。
【0032】
この方法によれば、溶融炉11内でガラスGに接触する気体の酸素濃度が10体積%以上であることで、ガラスGに含まれる成分の還元反応を抑えることができる。これにより、PbOを含有するガラスGの光透過性の低下を抑えることが可能となる。従って、例えば、ガラスGから得られた板ガラスを窓や衝立に用いた場合、一方の主面側から他方の主面側の視認性を十分に確保することが可能となる。
【0033】
(2)ガラスGの製造方法において、ステップS1の接触工程を1時間以上、48時間以下の範囲内で行うことが好ましい。この場合、PbOを含有するガラスGの光透過性をより高めることが可能となり、かつガラスGの生産性を確保することができる。
【0034】
(3)ガラスGの製造方法において、ステップS1の接触工程では、溶融炉11内を加熱する酸素燃焼式バーナー12により、溶融炉11内に酸素を供給することが好ましい。この場合、例えば、溶融炉11内に酸素を供給するための供給流路を別途設けずに、溶融炉11内に酸素を供給することが可能となる。従って、溶融炉11の構造の複雑化を回避することが可能となる。
【0035】
(4)ガラスGの製造方法において、PbOを含有するガラスGは、酸化物系清澄剤を含有することが好ましい。この場合、ステップS1の接触工程において、溶融炉11内に供給する酸素によって酸化物系清澄剤の清澄効果を促進することができる。従って、例えば、ガラスGから得られる板ガラス中の泡数が削減されることで、より高品位の板ガラスを得ることができる。
【0036】
また、例えば、ガラスG中の泡数を所定数以下に抑えるための酸化物系清澄剤の使用量を削減することも可能となるため、ガラスGの製造コストを抑えることが可能となる。
(5)PbOを含有するガラスGが、5ppm以上のFe2O3をさらに含有する場合、ガラスGの光透過性が低下し易くなる。このようにガラスGの透過性を低下させる成分を多く含有する場合でも、ガラスGの光透過性の低下を抑えることができる。このため、鉄系の不純物を含有する比較的安価なガラス原料を使用することで、ガラスGの製造コストを抑えることが可能となる。
【0037】
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0038】
・ガラスGの製造方法において、酸素燃焼式バーナー12を用いて溶融炉11内に酸素を供給しているが、酸素燃焼式バーナー12と空気燃焼式バーナーとを併用してもよい。
・
図3に示すように、溶融炉11内に酸素を供給する供給流路を別途設けることで、溶融炉11内に酸素を供給してもよい。この場合、溶融炉11内を加熱するバーナーとして、空気燃焼式バーナー13のみを用いてもよいし、空気燃焼式バーナー13と酸素燃焼式バーナーとを併用してもよい。この変更例において、酸素燃焼式バーナーを用いる場合、酸素燃焼式バーナーは、溶融炉11内に余剰の酸素を供給しないように燃料ガスを燃焼させるものであってもよい。
【0039】
・ガラスGは、板ガラス以外のガラス物品の製造に用いることもできる。
【符号の説明】
【0040】
11…溶融炉、12…酸素燃焼式バーナー、13…空気燃焼式バーナー、G…ガラス。