(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】セラミックス球形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/626 20060101AFI20230926BHJP
B01J 2/14 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C04B35/626 950
B01J2/14
(21)【出願番号】P 2019204502
(22)【出願日】2019-11-12
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2018212686
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新貝 真之
(72)【発明者】
【氏名】吉野 正樹
(72)【発明者】
【氏名】野村 俊
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-140603(JP,A)
【文献】特開昭59-73036(JP,A)
【文献】特表2000-501981(JP,A)
【文献】特開平1-148707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J2/14
C04B35/626-35/638
B28C1/00-3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形容器、回転板および気体を導入する機構を有する造粒装置を用いたセラミックス球形体の製造方法であって、
前記造粒装置が回転板と円筒形容器の内壁との間に空隙が形成されてなり、前記回転板が円筒形容器の底部に設置されており、該円筒形容器の内径より小さい径を有し、前記気体を導入する機構が、前記回転板と前記円筒形容器の内壁との間に形成された空隙から前記円筒形容器内に気体が導入されるよう構成され、前記円筒形容器及び回転板の表面に、反発弾性率40%以上の樹脂層を有する、セラミックス球形体の製造方法。
【請求項2】
前記造粒装置にセラミックス球形体の核粒子を充填し、前記回転板の回転による遠心力および導入された気体による風力によって前記核粒子を運動させながらバインダ水溶液およびセラミックス粉末を順次添加して造粒を行う工程を有する
、請求項1に記載のセラミックス球形体の製造方法。
【請求項3】
前記回転板が撹拌用の羽根を有しない、請求項1または2に記載のセラミックス球形体の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂層の厚みが25μm以上である、請求項1~3のいずれかに記載のセラミックス球形体の製造方法。
【請求項5】
製造されるセラミックス球形体の粒径が0.01~0.3mmである、請求項1~4のいずれかに記載のセラミックス球形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーズミル等における粉砕・分散媒体として用いるのに好適なセラミックス球形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックスコンデンサー、リチウムイオン電池などの電子材料を製造する上で用いられる原料の粉砕・分散用媒体として、セラミックス球形体が使用されている。近年、電子材料の高集積・高品位化により、原料の微細化が進んでおり、より微細に粉砕・分散するため、セラミックス球形体に対しても小径化のニーズが高まってきている。
【0003】
一般に、セラミックス球形体は、窒化珪素、アルミナ、ジルコニアなどの各種セラミックス原料粉末を焼結助剤及び添加物と混合し、解砕した後、スプレードライヤー等で造粒し、造粒された粉末をプレス成形法や転動造粒法等により球形に成形し、さらに焼成し、必要に応じ表面加工を施して作製される。例えば、特許文献1に開示される転動造粒法は、容器内に成形核体(以降、核粒子とする)と成形用素地粉末(以降、添加粉末とする)を投入し、容器内にて、核粒子を転がしながら、核粒子の周囲に添加粉末を付着・凝集させて造粒し、球状成形体を得る手法である。転動造粒法では、
図2に示すように、造粒容器を地面に対して角度を付けて回転させる事が一般的である。これによって、粒子が遊星運動を起こし、自由落下のエネルギーを得る事により、付着、凝集させ造粒体を得る事が可能となる。
【0004】
しかしながら、小径のセラミックス球形体を製造する場合、核粒子の自重が軽いため、自由落下による十分なエネルギーを得る事が困難となり、粒子の成長や圧密化が起こりにくい。そのため、特許文献2に開示される水平型造粒を用いて、共回りを解消しつつ回転数を上げることによってエネルギーを得る方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-185976号公報
【文献】特開平5-137997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載される水平型造粒では、小径のセラミックス球形体を造粒する際に回転数を上げる必要があるが、核粒子の物理的強度が低いため、回転羽根によるせん断により、核粒子あるいは造粒中の粒子が破壊される課題があった。本発明は、小径のセラミックス球形体を造粒する場合であっても、造粒中の破壊を抑制しつつ、短時間で十分に圧密されたセラミックス球形体を製造し得る製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は以下のものである。
(1)円筒形容器、回転板および気体を導入する機構を有する造粒装置を用いたセラミックス球形体の製造方法であって、前記造粒装置が回転板と円筒形容器の内壁との間に空隙が形成されてなり、前記回転板が円筒形容器の底部に設置されており、該円筒形容器の内径より小さい径を有し、前記気体を導入する機構が、前記回転板と前記円筒形容器の内壁との間に形成された空隙から前記円筒形容器内に気体が導入されるよう構成され、前記円筒形容器及び回転板の表面に、反発弾性率40%以上の樹脂層を有する、セラミックス球形体の製造方法。
(2)前記造粒装置にセラミックス球形体の核粒子を充填し、前記回転板の回転による遠心力および導入された気体による風力によって前記核粒子を運動させながらバインダ水溶液およびセラミックス粉末を順次添加して造粒を行う工程を有する、(1)に記載のセラミックス球形体の製造方法。
(3)前記回転板が撹拌用の羽根を有しない、(1)または(2)に記載のセラミックス球形体の製造方法。
(4)前記樹脂層の厚みが25μm以上である、(1)~(3)のいずれかに記載のセラミックス球形体の製造方法。
(5)製造されるセラミックス球形体の粒径が0.01~0.3mmである、(1)~(4)のいずれかに記載のセラミックス球形体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、短時間で、十分に圧密された小径のセラミックス球形体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のセラミックス球形体の製造方法を実施するための造粒装置の一例の断面模式図。
【
図2】比較例1で使用した、従来のドラム型転動造粒装置の概要を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
セラミックス球形体の成分は、例えば、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素などが好ましく、これら単独でも用途に応じて適宜複合されていてもよい。また、必要に応じて安定化剤を含むことにより、セラミックス球形体の強度、靭性を向上させることができる。安定化剤としては、例えば、Y2O3、CeO2、Al2O3等が挙げられる。本発明に用いるセラミックス球形体の核粒子および添加粉末としては、同様の組成のものを用いることが好ましい。
【0011】
安定化剤の含有量は次のようにして求める。まず、セラミックス球形体の試料を、万能試験機を用いて圧壊し、圧壊片約0.3gを白金るつぼに入れ、硫酸水素カリウムで融解する。これを希硝酸で溶解して定溶し、ICP発光分光分析法を用いてY、Ce、Al等を定量し、さらにそれをY2O3、CeO2、Al2O3等の安定化剤の成分に換算する。
【0012】
製造されるセラミックス球形体の粒径は0.01~0.3mmであることが好ましい。製造されるセラミックス球形体の粒径を0.01mm以上とすることにより、後述する気流によってセラミックス球形体が飛散することを抑制することができる。セラミックス球形体の粒径を0.3mm以下とすることにより、造粒時のエネルギーによる割れ欠けが抑制でき、真球に近い球形体を得ることができる。セラミックス球形体の粒径は、後述する添加粉末の平均二次粒子径測定と同様の方法により、測定することができる。
【0013】
添加粉末として用いるセラミックス粉末は、平均二次粒子径0.3μm~0.6μmの粉末を使用することが好ましい。平均二次粒子径を0.3μm以上とすることにより、粒界が少なく腐食が進みにくいため、耐摩耗性、耐衝撃性が大きく向上する。平均二次粒子径を0.6μm以下とすることにより、焼結時の応力変化が大きく、圧縮の内部応力が大きくなるため、耐摩耗性、耐衝撃性が向上する。ここで、平均二次粒子径は、次のようにして求める。すなわち、300mlのビーカーに電気伝導度が5μm/Sの純水210gと、セラミックス粉末90gとを入れ、よく攪拌した後、超音波発生機に10分間かけて、30重量%のスラリ―を調製する。しかる後、粒度分布測定器を用いて平均二次粒子径を測定する。なお、平均二次粒子径は、累積分布が50%に相当するいわゆるメジアン径(D50)である。
【0014】
また、添加粉末は、累積分布が90%に相当する粒径(D90)が小径であることが好ましい。従って、添加粉末を製造する際に、篩い分けを行い、粒径を調整する事が好ましい。篩い分けは、JIS Z 8801-2006に規定される基準篩いを使用し、篩い分け法によって行う。添加粉末は、加水分解法、中和共沈法、熱分解法、水熱法等を用いて、粉末を合成した後に、900~1000℃で焼結し、ボールミル等で、湿式粉砕し、さらに噴霧乾燥法等により、乾燥する事によって得る事ができる。
【0015】
本発明において容器内に充填される核粒子は、上記添加粉末と同様のセラミックス粉末を用いて製造される。核粒子の製造には、噴霧造粒法、転動造粒法、遠心転動造粒法など、様々な手法があり、どの方式でも選択可能である。
【0016】
本発明の製造方法を実施するための製造装置の一例の概要を
図1に示す。
【0017】
本製造装置においては、円筒形容器2の底部に回転板1が水平に設置されている。回転板1は、円筒形容器2の内径より小さい径を有しており、回転板1と前記円筒形容器2の内壁との間には環状の空隙5が形成されている。そして、空隙5からは、円筒形容器2内に気体が導入され、円筒形容器2内において空隙5から略上方に向かって、
図1中に下から上へ向かう矢印で示したように気流が発生するよう構成されている。当該気流によってセラミックス粒子3等の原料が縦方向にも運動し、粒子が水平攪拌と遊星運動を同時に行う状態を作り出す事で、効率的な造粒が可能となる。空隙5から導入する気体は、空気、窒素、アルゴン等、用途によって選択し得るが、通常は空気を用いることで十分である。
【0018】
回転板は、粒子が円滑に転がるように、攪拌用の羽根を有しないものを用いることが好ましい。また、回転板の外縁部は、
図1に示すように、円筒形容器の外壁に近づくにつれて高くなるよう傾斜していることが好ましい。このように回転板の外縁部が傾斜していることで、円筒形容器内のセラミックス粒子等の運動が阻害されず、空隙5の閉塞を防止することができる。なお、
図1では回転板の外縁部が所定の箇所から斜め上方向に直線的に立ち上がっているが、曲線的にR形状に立ち上がっていると、セラミックス粒子等の運動がよりなめらかになるため好ましい。
【0019】
前記円筒形容器及び回転板の表面には、反発弾性率40%以上の樹脂層を有することが好ましい。樹脂層の反発弾性率を40%以上とすることにより、反発による運動エネルギーが得られ、セラミックス球形体の緻密化がより進行する。また、円筒形容器及び回転板を構成する金属の混入によるセラミックス球形体の着色を抑制することができる。さらに、反発により樹脂層とセラミックス球形体の接触時間が最小化され、樹脂層の摩耗が抑制される。反発弾性率40%以上の樹脂層を形成する樹脂としては、例えばポリエチレン、天然ゴム、ポリウレタン等があげられる。反発弾性率は反発弾性試験機などを用いて測定することができる。
【0020】
前記樹脂層の厚みは、25μm以上であることが好ましい。樹脂層の厚みを25μm以上とすることにより、上述した反発による運動エネルギーが十分に得られ、セラミックス球形体の緻密化がより進行する。また、円筒形容器及び回転板を構成する金属の混入によるセラミックス球形体の着色を抑制することができる。樹脂層の厚みはエリプソメトリ法や、超音波法により測定することができる。
【0021】
本発明の製造方法においては、このような造粒装置の円筒形容器2内に核粒子を充填することが好ましい。核粒子を充填する際には、空隙5から核粒子が漏出することを防止するため、空隙5から気体を導入する操作を開始した後に充填を開始することが好ましい。
【0022】
そして、円筒形容器2内に核粒子を充填した状態で、回転板1を回転させることが好ましい。回転板の周速は、3.7~7.5m/sであることが好ましい。回転板の周速を3.7m/s以上とすることにより、造粒時に十分なエネルギーが得られ、球形化が進みやすい。回転板の周速は、より好ましくは4.5m/s以上である。一方、回転板の周速を7.5m/s以下とすることにより、壁面との衝撃エネルギーが小さくなり、粒子に破壊が生じにくくなる。回転板の周速は、より好ましくは6.5m/s以下である。
【0023】
本発明のセラミックス球形体の製造方法は、円筒形容器、回転板および気体を導入する機構を有する造粒装置を用いる。上述した円筒形容器、回転板および気体を導入する機構を有する造粒装置を用いることにより、短時間で、十分に圧密された小径のセラミックス球形体を製造することができる。
【0024】
本発明のセラミックス球形体の製造方法は、円筒形容器、回転板および気体を導入する機構を有する造粒装置にセラミックス球形体の核粒子を充填し、前記回転板の回転による遠心力および導入された気体による風力によって前記核粒子を運動させながらバインダ水溶液およびセラミックス粉末を順次添加して造粒を行う工程を有することが好ましい。添加粉末とバインダの添加は、交互に行うことが好ましい。これは、バインダ水溶液を添加し、充填粒子の表面に水分がある状態で、粉末を付着させ成長させるためであり、粉末同士が凝集するのを防止し、充填粒子に粉末が付着させて、粒径が成長しやすい。基本的には、より少量の粉末、より少量のバインダを、より短いピッチで添加してゆくことが好ましいが、回転板1の回転数との兼ね合いで添加後の拡散に要する時間を考慮して適宜条件を設定することができる。
【0025】
このように造粒して得られたセラミックス成形体は、乾燥され、酸化性雰囲気の中で焼結されて焼結体のセラミックス球形体となる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明における実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0027】
[実施例1]
図1に示す構成の装置として回転板1の直径:168mm、空隙5の幅:約0.5mmの円筒形容器及び回転板の表面に、反発弾性率50%の樹脂を40μmコーティングしたものを使用した。回転板1の下部より、空隙5から装置内に空気を導入しながら、かさ密度2.0g/cm
2、D90=125μmのセラミックスの核粒子を円筒形容器に充填し、回転させながら、D90=40μmの添加粉末と、バインダ水溶液を用い、交互に添加して6時間造粒を行った。1回あたりに添加した添加粉末量は、容器内に充填された核粒子量の1重量%とし、バインダ添加量は添加粉末に対して20重量%とした。その結果、平均二次粒子径120μmのセラミックス成形体が得られた。
【0028】
得られたセラミックス成形体を、大気中にて1400℃、2時間焼結し、焼結体を得た。得られた焼結体を研削機で径の40%~60%まで研削し、さらに粒径6μmのダイヤモンドスラリーで10分間以上仕上げ研磨して略断面を得た。得られたサンプルを、デジタルマイクロスコープVHX-2000(Keyence製)で倍率10~200倍で600個観察した。結果、セラミックス成形体の内部に空隙は認められなかった。また、目視にて円筒形容器及び回転板の金属の混入による着色は認められなかった。
【0029】
[実施例2]
図1に示す構成の装置として回転板1の直径:168mm、空隙5の幅:約0.5mmの円筒形容器及び回転板の表面に、反発弾性率20%の樹脂を20μmコーティングしたものを使用した。回転板1の下部より、空隙5から装置内に空気を導入しながら、かさ密度2.0g/cm
2、D90=125μmのセラミックスの核粒子を円筒形容器に充填し、回転させながら、D90=40μmの添加粉末と、バインダ水溶液を用い、交互に添加して6時間造粒を行った。1回あたりに添加した添加粉末量は、容器内に充填された核粒子量の1重量%とし、バインダ添加量は添加粉末に対して20重量%とした。その結果、平均二次粒子径120μmのセラミックス成形体が得られた。
【0030】
得られたセラミックス成形体について実施例1と同様に焼結し、研磨して略断面を得た後、デジタルマイクロスコープを用いて観察を行った。結果、セラミックス成形体の内部に空隙は認められなかった。また、目視にて円筒形容器及び回転板の金属の混入による着色が認められた。
【0031】
[比較例1]
かさ密度2.0g/cm
2、D90=125μmのセラミックスの核粒子を
図2に示すような、密閉された円筒形容器を有するドラム型転動造粒機に充填し、回転させながら、D90=40μmの添加粉末とバインダ水溶液とを交互に添加しながら6時間造粒を行った。1回あたりに添加した添加粉末量は、容器内に充填された核粒子量の1重量%とし、バインダ添加量は添加粉末に対して20重量%とした。結果平均二次粒子径が100μmのセラミックス成形体が得られた。
【0032】
得られたセラミックス成形体について実施例1と同様に焼結し、研磨して略断面を得た後、デジタルマイクロスコープを用いて観察を行った。結果、セラミックス成形体の内部に空隙が認められ、十分に緻密化できていない事が確認された。
【符号の説明】
【0033】
1:回転板
2:円筒形容器
3:セラミックス粒子(核粒子)
4:導入気体
5:空隙