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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】エンジンの冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/16 20060101AFI20230926BHJP
   F01P 11/04 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
F01P7/16 502B
F01P11/04 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019218854
(22)【出願日】2019-12-03
(65)【公開番号】P2021088949
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】田山 貴彦
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-015197(JP,A)
【文献】特開2006-097664(JP,A)
【文献】実開昭61-078229(JP,U)
【文献】特開平04-284122(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0010392(US,A1)
【文献】特開2002-021562(JP,A)
【文献】特開2013-204523(JP,A)
【文献】特開2013-204524(JP,A)
【文献】特開2000-110561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/16
F01P 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースの上部にシリンダを配置したエンジンと当該エンジンを通過した冷却水を放熱するラジエータとの間で冷却水を循環させるエンジンの冷却装置であって、
前記エンジンに向けて冷却水を吐出するウォータポンプと、
冷却水温に応じて前記ラジエータに冷却水を送るサーモスタットと、を備え、
前記ウォータポンプが前記クランクケースに車幅方向の外側から取り付けられ、
前記サーモスタットが前記ウォータポンプに車幅方向の内側から取り付けられ、
前記エンジンの前面視にて前記サーモスタットが前記クランクケースに重なっており、
前記ウォータポンプは、一面が開口されたウォータポンプケースと、前記ウォータポンプケースの開口を覆うウォータポンプカバーと、を有し、前記ウォータポンプケース側が前記クランクケースに取り付けられ、
前記ウォータポンプカバーの一部が前記ウォータポンプケースよりも車幅方向に垂直な方向に突出して、前記サーモスタットを収容するサーモスタットケースを形成していることを特徴とするエンジンの冷却装置。
【請求項2】
前記ウォータポンプは冷却水を圧送するインペラを有しており、
前記サーモスタットが前記インペラよりも車幅方向の内側に位置付けられていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの冷却装置。
【請求項3】
前記シリンダの前方に前記ラジエータが位置付けられ、
前記サーモスタットが前記インペラよりも上方で、前記ラジエータと前記インペラの間に位置付けられていることを特徴とする請求項2に記載のエンジンの冷却装置。
【請求項4】
前記ウォータポンプケースには前記クランクケース内に冷却水を送り込む吐出口が形成されており、前記エンジンの側面視で前記サーモスタットと前記吐出口が前記インペラの上方で略同じ高さに位置し前記エンジンの前後方向に並んでいることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のエンジンの冷却装置。
【請求項5】
前記サーモスタットケースには前記サーモスタットの収容室を覆うサーモスタットカバーが取り付けられ、
前記サーモスタットカバーには配管ジョイント用のパイプが形成されており、
前記パイプの傾きが前記シリンダから下方に延びる排気管の傾きと平行で、前記パイプの先端が車幅方向の外側に向けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のエンジンの冷却装置。
【請求項6】
前記ウォータポンプには、前記ラジエータから延びるラジエータ配管が前記エンジンの上方から接続され、オイルクーラから延びるオイルクーラ配管が前記エンジンの下方から接続され、前記ラジエータを迂回するバイパス配管が前記エンジンの後方から接続されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のエンジンの冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にエンジンには、ウォータポンプからの冷却水がシリンダ内のウォータジャケット及びラジエータを経由してウォータポンプに戻る循環流路が形成されている。この循環流路にはラジエータを迂回するバイパス流路が接続されており、サーモスタットの閉弁によってバイパス流路に冷却水が導かれている。エンジン始動時にはサーモスタットが閉弁されており、冷却水がバイパス流路を通過してラジエータを迂回することでエンジンの暖機が早められている。この種のエンジンの冷却装置として、ウォータポンプのポンプカバーにサーモスタットを組み付けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3819681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のウォータポンプには、車両外側からサーモスタットが取り付けられている。一部のタイプのエンジンではクランクケースの外面にウォータポンプが取り付けられるため、ウォータポンプの外面にサーモスタットが取り付けられることでエンジンの車幅方向の幅寸法が増加する。また、ウォータポンプやサーモスタットには多くの配管が接続されるため、エンジンの外観が悪化すると共に、配管の組付性が悪化するという問題があった。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、エンジンの小型化を図ると共に、エンジンの外観及び配管の組付性を向上させることができるエンジンの冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のエンジンの冷却装置は、クランクケースの上部にシリンダを配置したエンジンと当該エンジンを通過した冷却水を放熱するラジエータとの間で冷却水を循環させるエンジンの冷却装置であって、前記エンジンに向けて冷却水を吐出するウォータポンプと、冷却水温に応じて前記ラジエータに冷却水を送るサーモスタットと、を備え、前記ウォータポンプが前記クランクケースに車幅方向の外側から取り付けられ、前記サーモスタットが前記ウォータポンプに車幅方向の内側から取り付けられ、前記エンジンの前面視にて前記サーモスタットが前記クランクケースに重なっており、前記ウォータポンプは、一面が開口されたウォータポンプケースと、前記ウォータポンプケースの開口を覆うウォータポンプカバーと、を有し、前記ウォータポンプケース側が前記クランクケースに取り付けられ、前記ウォータポンプカバーの一部が前記ウォータポンプケースよりも車幅方向に垂直な方向に突出して、前記サーモスタットを収容するサーモスタットケースを形成していることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様のエンジンの冷却装置によれば、ウォータポンプにサーモスタットが設けられても、クランクケースからサーモスタットが車幅方向の外側に大きく突き出ることがない。よって、エンジンの車幅方向の幅寸法の増加が抑えられてエンジンが小型化される。また、ウォータポンプの車幅方向の内側にサーモスタットが取り付けられているため、サーモスタットに接続される配管が目立たなくなってエンジンの外観性が向上される。さらに、ウォータポンプに対する配管が複雑になることがなく、配管の組付性が向上されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】エンジンの右前方から見た斜視図である
図2】エンジンの右後方から見た斜視図である。
図3】ウォータポンプを右側方から見た斜視図である。
図4】ウォータポンプを左側方から見た斜視図である。
図5】ウォータポンプケースとサーモスタットの斜視図である。
図6】ウォータポンプカバーを車幅方向の内側から見た側面図である。
図7】ウォータポンプを車幅方向の内側から見た側面図である。
図8】冷却装置の設置箇所の前面図である。
図9】冷却装置の設置箇所の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様のエンジンの冷却装置は、クランクケースの上部にシリンダを配置したエンジンと当該エンジンを通過した冷却水を放熱するラジエータとの間で冷却水を循環させている。ウォータポンプによってエンジンに向けて冷却水が吐出され、サーモスタットによって冷却水温に応じてラジエータに冷却水が送られている。ウォータポンプはクランクケースに対して車幅方向の外側から取り付けられ、サーモスタットはウォータポンプに対して車幅方向の内側から取り付けられている。このため、サーモスタットに接続される配管が目立たなくなってエンジンの外観が向上され、さらに、ウォータポンプに対する配管が複雑になることがなく、配管の組付性が向上されている。また、エンジンの前面視にてサーモスタットがクランクケースに重なっているため、クランクケースからサーモスタットが車幅方向の外側に大きく突き出ることがなく、エンジンの車幅方向の幅寸法の増加が抑えられてエンジンが小型化される。
【実施例
【0010】
以下、添付図面を参照して、本実施例について詳細に説明する。以下の図では、矢印FRは車両前方、矢印REは車両後方、矢印Lは車両左方、矢印Rは車両右方をそれぞれ示している。図1は、エンジンの右前方から見た斜視図である。図2は、エンジンの右後方から見た斜視図である。
【0011】
図1及び図2に示すように、エンジン10は、クランクケース11の上部にシリンダブロック13を配置した並列2気筒エンジンである。シリンダブロック13の上部にはシリンダヘッド14が取り付けられ、シリンダヘッド14の上部にはヘッドカバー15が取り付けられている。クランクケース11の下部には、潤滑及び冷却用のオイルが貯留されるオイルパン16が取り付けられている。クランクケース11の前部には、オイルから異物を除去するオイルフィルタ17とオイルを冷却するオイルクーラ18が取り付けられている。
【0012】
クランクケース11は、アッパーケース21とロアケース22とによって上下に分割可能に形成されている。クランクケース11の左側面にはケース内のマグネト室を覆うマグネトカバー23が取り付けられ、クランクケース11の右側面にはケース内のクラッチ室を覆うクラッチカバー24が取り付けられている。マグネト室にはクランクシャフトに連結したマグネト装置(不図示)が収容されており、クラッチ室にはクランクシャフトからの動力を伝達及び遮断するクラッチ装置(不図示)が収容されている。クランクケース11、シリンダブロック13、シリンダヘッド14には冷却水が通過する冷却流路が形成されている。
【0013】
シリンダブロック13の前方には、冷却水の熱を放熱するラジエータ31が設けられている。ラジエータ31は、多数の細管又は放熱フィンによって熱交換するラジエータコア32と、ラジエータコア32の左側から冷却水を流入させる流入タンク33と、ラジエータコア32の右側から冷却水を流出させる流出タンク34とを有している。流出タンク34の上面には冷却水の注水口が形成されており、注水口にはラジエータキャップ35が装着されている。ラジエータコア32の背面側には、車両の停止時等にラジエータコア32に向けて外気を導くラジエータファン36が設けられている。
【0014】
また、エンジン10には、エンジン10とラジエータ31の間で冷却水を循環させる冷却装置40が設けられている。エンジン10の冷却装置40として、クランクケース11の右側面にはエンジン10に向けて冷却水を吐出するウォータポンプ41が取り付けられている。ウォータポンプ41は、前後方向でクラッチカバー24よりもクランクケース11の前方で、上下方向でラジエータ31とオイルクーラ18の間に位置付けられている。ウォータポンプ41は、クランクケース11内のバランサシャフト(不図示)を回転軸とするインペラ53(図5参照)によって駆動する。なお、ウォータポンプ41の詳細については後述する。
【0015】
ウォータポンプ41の吐出口56(図5参照)はクランクケース11内の冷却流路に連通し、クランクケース11内の冷却流路はシリンダブロック13及びシリンダヘッド14のウォータジャケットに連通している。シリンダブロック13の後部には配管ジョイント用のコネクタ42が突設されており、コネクタ42にはラジエータ31の流入タンク33に冷却水を送るインレット配管43とラジエータ31を迂回してウォータポンプ41に冷却水を戻すバイパス配管44が接続されている。コネクタ42の上面には、冷却水からエアを除去するためのエア抜き配管45が接続されている。ラジエータ31の流出タンク34には、ラジエータコア32を経由した冷却水をウォータポンプ41に戻すアウトレット配管46が接続されている。
【0016】
ウォータポンプ41には、冷却水温に応じてアウトレット配管46からの冷却水の流れを制御する入口制御型のサーモスタット85(図4参照)が取り付けられている。冷却水温が所定温度未満のときにはサーモスタット85が閉弁し、エンジン10からラジエータ31に向かう冷却水の流れがラジエータ31の下流側のアウトレット配管46の出口で阻止される。バイパス配管44を通じてエンジン10からウォータポンプ41に冷却水が戻される。冷却水温が所定温度以上に上昇するとサーモスタット85が開弁し、エンジン10からラジエータ31にも冷却水が流れて、ラジエータ31で放熱された冷却水によってエンジン10が効果的に冷却される。
【0017】
このように、エンジン10の冷却装置40には、冷却水温に応じてラジエータ31に冷却水を送るサーモスタット85が設けられている。サーモスタット85によってラジエータ31に向かう冷却水の流れとラジエータ31を迂回する冷却水の流れが制御されている。また、ウォータポンプ41にはオイルクーラ18に冷却水を送るインレット配管47が接続されており、オイルクーラ18にはウォータポンプ41に冷却水を戻すアウトレット配管48が接続されている。ウォータポンプ41の駆動によってオイルクーラ18に冷却水が送られて、冷却水によってオイルクーラ18内のオイルが冷却される。
【0018】
上記したように、クランクケース11の右側面にウォータポンプ41が取り付けられているが、ウォータポンプ41はクラッチカバー24の外面25よりも車幅方向の内側に位置付けられている。このタイプのエンジン10において、ウォータポンプ41に対して車幅方向の外側からサーモスタット85が取り付けられると、ウォータポンプ41がクラッチカバー24の外面25よりも右側方に突き出して、エンジン10の車幅方向の幅寸法が増加する。また、ウォータポンプ41にサーモスタット85を取り付ける際には、エンジン10の外観性及び配管の組付性についても考慮することが求められている。
【0019】
そこで、本実施例の冷却装置40では、エンジン10の車幅方向の幅寸法、エンジン10の外観性及び配管の組付性を考慮して、ウォータポンプ41に対して車幅方向の内側からサーモスタット85が取り付けられている。また、サーモスタット85は、エンジン10の正面視にてクランクケース11に重ねられている。これにより、クランクケース11に対して車幅方向の外側からウォータポンプ41が取り付けられても、サーモスタット85がクラッチカバー24の外面25よりも右側方に大きく突き出ることがない。また、サーモスタット85によってエンジン10の外観性及び配管の組付性が悪化することがない。
【0020】
以下、図3から図7を参照して、エンジンの冷却装置について説明する。図3は、ウォータポンプを右側方から見た斜視図である。図4は、ウォータポンプを左側方から見た斜視図である。図5は、ウォータポンプケースとサーモスタットの斜視図である。図6は、ウォータポンプカバーを車幅方向の内側から見た側面図である。図7は、ウォータポンプを車幅方向の内側から見た側面図である。なお、図4は、ウォータポンプからサーモスタットカバーを取り外した状態を示している。
【0021】
図3から図5に示すように、ウォータポンプ41は、一面が開口されたウォータポンプケース51と、ウォータポンプケース51の開口を覆うウォータポンプカバー71とを有している。ウォータポンプケース51及びウォータポンプカバー71の外縁部には3か所のボス部52、72が形成されている。ウォータポンプ41は、各ボス部52、72を介してウォータポンプカバー71側がクランクケース11に接するようにネジ止めされる。ウォータポンプケース51及びウォータポンプカバー71の内側には、インペラ53が収容される円形のポンプ室54とポンプ室54から接線方向に延びる吐出流路55が形成されている。
【0022】
インペラ53は遠心力を利用して冷却水を圧送する遠心式の羽根車であり、インペラ53の回転によって冷却水が吐出流路55に送り出されている。ウォータポンプケース51には、吐出流路55の先端側からクランクケース11内に冷却水を送り込む吐出口56が形成されている。ウォータポンプケース51の下部前方には配管ジョイント用の一対のパイプ57、58が突設されている。一方のパイプ57にはウォータポンプ41からオイルクーラ18(図1参照)に向かうインレット配管47が接続され、他方のパイプ58にはオイルクーラ18からウォータポンプ41に戻るアウトレット配管48が接続されている。
【0023】
ウォータポンプケース51には、ポンプ室54から一方のパイプ57に冷却水の一部が流れ込む流出口61が形成されている。ウォータポンプケース51には、他方のパイプ58からポンプ室54の上方の流出口62に向かって延びる連通流路63が形成されている。連通流路63は、ウォータポンプケース51の設置面64側が筒状に膨出することで形成されている。ウォータポンプケース51の上部は、ポンプ室54から後方に向かって上昇するように傾斜する吐出流路55に沿って形成されている。このため、ウォータポンプケース51の上部前方には、サーモスタット85用に空きスペースが確保されている。
【0024】
図6及び図7に示すように、ウォータポンプカバー71は、側面視にてウォータポンプカバー71と略同一形状のカバー本体73と、カバー本体73から上方に突出したサーモスタットケース74とによって形成されている。カバー本体73の内側面75には、ポンプ室54(図5参照)及び吐出流路55を形成する浅溝76が形成されている。カバー本体73の外側面77(図3参照)が車幅方向の外側に向かって矩形状に膨出しており、この膨出部分の内側にはサーモスタットケース74からポンプ室54に冷却水を吸い込む吸込流路78が形成されている。吸込流路78の流出口81は、インペラ53(図5参照)の回転軸上に開口されている。
【0025】
また、カバー本体73の内側面75には、ウォータポンプケース51の流出口62(図5参照)に対応する箇所に、吸込流路78に向かって開口した流入口82が形成されている。このため、オイルクーラ18からの冷却水が吸込流路78を経由してポンプ室54に戻されている。カバー本体73の上部はウォータポンプケース51と同様に吐出流路55に沿って形成され、カバー本体73の上部前方にサーモスタットケース74が形成されている。ウォータポンプケース51の上部前方が空きスペースであるため、カバー本体73の内側面75よりも車幅方向の内側にサーモスタットケース74を膨出させることができる。
【0026】
このように、ウォータポンプカバー71の一部がウォータポンプケース51よりも車幅方向に垂直な方向に突出して、サーモスタット85(図5参照)を収容するサーモスタットケース74を形成している。サーモスタットケース74は、有底の略円筒状に形成されており、車幅方向の内側の一面が円形状に開口している。サーモスタットケース74の開口縁にはサーモスタット85が装着されており、サーモスタットケース74の内側はサーモスタット85の収容室になっている。サーモスタットケース74の後壁には、バイパス配管44(図2参照)が接続される貫通路83が形成されている。
【0027】
また、サーモスタットケース74には、サーモスタット85の収容室を覆うサーモスタットカバー87が取り付けられている。サーモスタットカバー87には、配管ジョイント用のパイプ88が形成されている。パイプ88には、ラジエータ31(図1参照)からウォータポンプ41に戻るアウトレット配管46が接続されている。サーモスタット85は、アウトレット配管46からの冷却水を止める方向に取り付けられている。サーモスタットケース74のサーモスタット85の開き具合に応じて、アウトレット配管46からサーモスタットケース74に向かって流れ込む冷却水の流量が調整される。
【0028】
サーモスタット85の内部にはワックスが封入されており、冷却水温に応じてワックスが膨張することでサーモスタット85が開弁する。冷却水温が低くワックスが収縮した状態では、サーモスタット85が閉弁してバイパス配管44から貫通路83を通じてサーモスタットケース74に冷却水が流れ込む。冷却水温が上昇してワックスが膨張すると、サーモスタット85が開弁してアウトレット配管46からサーモスタットケース74に冷却水が流れ込む。アウトレット配管46からサーモスタットケース74への冷却水の流量の増加分だけ、バイパス配管44からサーモスタットケース74への冷却水の流量が減少する。
【0029】
図8及び図9を参照して、冷却装置の設置構造について説明する。図8は、冷却装置の設置箇所の前面図である。図9は、冷却装置の設置箇所の右側面図である。
【0030】
図8に示すように、クランクケース11に対してウォータポンプ41が車幅方向の外側から取り付けられ、ウォータポンプ41のサーモスタットケース74に対してサーモスタット85が車幅方向の内側から取り付けられている。サーモスタットケース74は、ウォータポンプケース51と上下方向で重なるように車幅方向の内側に延出している。このとき、サーモスタットケース74内のサーモスタット85は、ウォータポンプケース51内のインペラ53よりも車幅方向の内側で、かつクランクケース11とクラッチカバー24の合わせ面89よりも車幅方向の内側に位置付けられている。
【0031】
このため、エンジン10の前面視にて、サーモスタット85がクランクケース11に対して部分的に重ねられる。ウォータポンプ41がクラッチカバー24の外面25よりも車幅方向の内側に位置付けられて、エンジン10の車幅方向の幅寸法の増加が抑えられている。サーモスタットカバー87がウォータポンプ41に対して車幅方向の内側から取り付けられるため、サーモスタットカバー87に接続される配管が目立たなくなる。右側面視にてウォータポンプカバー71によってサーモスタットカバー87及びアウトレット配管46が遮蔽されることでエンジン10の外観性が向上される(図9参照)。
【0032】
シリンダヘッド14から下方に一対の排気管19が延出しており、一方の排気管19がサーモスタットカバー87の左側方に位置している。サーモスタットカバー87の高さ位置では排気管19が上方に向かって車幅方向の外側(右側)に傾斜している。サーモスタットカバー87のパイプ88の傾きは排気管19の傾きと平行であり、パイプ88の先端が車幅方向の外側に向けられている。アウトレット配管46が車幅方向の内側に寄せられても、アウトレット配管46と排気管19に隙間が確保されて排気管19によるアウトレット配管46の熱害が抑えられる。また、パイプ88に対するアウトレット配管46の組付性が向上される。なお、パイプ88と排気管19は実質的に平行であればよく、略平行であってもよい。
【0033】
図9に示すように、エンジン10の上下方向において、サーモスタット85は、インペラ53よりも上方でラジエータ31とインペラ53の間に位置付けられている。エンジン10の前後方向において、サーモスタット85はウォータポンプ41の前側に位置しており、エンジン10の側面視にてサーモスタット85がシリンダブロック13に部分的に重ねられている。また、ウォータポンプ41の吐出口56とサーモスタット85が略同じ高さでエンジン10の前後方向に並んでいる。このような位置関係によって、クランクケース11からウォータポンプ41が前方に大きく突き出ることがなく、エンジン10の前後方向の幅寸法が抑えられる。
【0034】
サーモスタットカバー87(図8参照)には、ラジエータ31から延びるアウトレット配管46がエンジン10の上方から接続されている。サーモスタットケース74の後部には、ラジエータ31を迂回するバイパス配管44がエンジン10の後方から接続されている。ウォータポンプケース51の下部には、オイルクーラ18から延びるインレット配管47及びアウトレット配管48がエンジン10の下方から接続されている。すなわち、ウォータポンプ41に対してエンジン10の上方、後方、下方の3方向から複数の配管44、46、47、48がそれぞれ接続されている。
【0035】
アウトレット配管46、バイパス配管44、インレット配管47、アウトレット配管48は、ウォータポンプカバー71の外面よりも車幅方向の内側に位置付けられている(図8参照)。このため、アウトレット配管46、バイパス配管44、インレット配管47、アウトレット配管48は、車幅方向に重ならないように延在しており、クラッチカバー24の外面25よりも車幅方向の外側に食み出していない。このため、ウォータポンプ41に対して複数の配管44、46、47、48が接続される構成であっても、エンジン10の車幅方向の幅寸法の増加が抑えられている。
【0036】
また、サーモスタットケース74がウォータポンプ41の上部に位置し、シリンダブロック13の前方のラジエータ31とシリンダブロック13の後部のコネクタ42の間に位置している。このため、ラジエータ31からサーモスタットケース74に向かうアウトレット配管46とコネクタ42からサーモスタットケース74に向かうバイパス配管44を短く形成することができる。さらに、ウォータポンプ41の下方にはオイルクーラ18が位置しているため、ウォータポンプ41の下部からオイルクーラ18に向かうインレット配管47及びアウトレット配管48を短く形成することができる。
【0037】
以上、本実施例によれば、ウォータポンプ41にサーモスタット85が設けられても、クランクケース11からサーモスタット85が車幅方向の外側に大きく突き出ることがない。よって、エンジン10の車幅方向の幅寸法の増加が抑えられてエンジン10が小型化される。また、ウォータポンプ41の車幅方向の内側にサーモスタット85が取り付けられているため、サーモスタット85に接続される配管が目立たなくなってエンジン10の外観性が向上される。さらに、ウォータポンプ41に対する配管が複雑になることがなく、配管の組付性が向上されている。
【0038】
なお、本実施例では、サーモスタットがインペラよりも車幅方向の内側に位置付けられる構成にしたが、この構成に限定されない。ウォータポンプに対して車幅方向の内側からサーモスタットが取り付けられる構成であれば、サーモスタットがインペラよりも僅かに車幅方向の外側に位置付けられてもよい。
【0039】
また、本実施例では、ウォータポンプカバーの一部がウォータポンプケースよりも上方に突出してサーモスタットケースを形成する構成にしたが、この構成に限定されない。サーモスタットケースは、ウォータポンプカバーの一部がウォータポンプケースよりも車幅方向に垂直な方向に突出してサーモスタットケースを形成する構成であればよい。例えば、ウォータポンプカバーの一部がウォータポンプケースよりも前方に突出してサーモスタットケースを形成してもよい。
【0040】
また、本実施例では、サーモスタットカバーのパイプが排気管と平行に形成される構成にしたが、この構成に限定されない。パイプは、排気管からの熱害を受けない程度に排気管と非平行に形成されてもよい。
【0041】
また、本実施例のエンジンの冷却装置は、エンジンが設置される他の乗り物、例えば、自動四輪車、バギータイプの自動三輪車の他に、水上バイク、芝刈り機、船外機等に適宜適用することができる。
【0042】
以上の通り、本実施例のエンジン(10)の冷却装置(40)は、クランクケース(11)の上部にシリンダ(シリンダブロック13)を配置したエンジンと当該エンジンを通過した冷却水を放熱するラジエータ(31)との間で冷却水を循環させるエンジンの冷却装置であって、エンジンに向けて冷却水を吐出するウォータポンプ(41)と、冷却水温に応じてラジエータに冷却水を送るサーモスタット(85)と、を備え、ウォータポンプがクランクケースに車幅方向の外側から取り付けられ、サーモスタットがウォータポンプに車幅方向の内側から取り付けられ、エンジンの前面視にてサーモスタットがクランクケースに重なっている。この構成によれば、ウォータポンプにサーモスタットが設けられても、クランクケースからサーモスタットが車幅方向の外側に大きく突き出ることがない。よって、エンジンの車幅方向の幅寸法の増加が抑えられてエンジンが小型化される。また、ウォータポンプの車幅方向の内側にサーモスタットが取り付けられているため、サーモスタットに接続される配管が目立たなくなってエンジンの外観性が向上される。さらに、ウォータポンプに対する配管が複雑になることがなく、配管の組付性が向上されている。
【0043】
本実施例のエンジンの冷却装置において、ウォータポンプは冷却水を圧送するインペラ(53)を有しており、サーモスタットがインペラよりも車幅方向の内側に位置付けられている。この構成によれば、エンジンの車幅方向の幅寸法をより抑えることができる。
【0044】
本実施例のエンジンの冷却装置において、シリンダの前方にラジエータが位置付けられ、サーモスタットがインペラよりも上方で、ラジエータとインペラの間に位置付けられている。この構成によれば、エンジンの上下方向でラジエータとインペラの間にサーモスタットが位置付けられ、エンジンの前後方向の幅寸法を抑えることができると共に、ラジエータとサーモスタットを接続する配管を短くすることができる。
【0045】
本実施例のエンジンの冷却装置において、ウォータポンプは、一面が開口されたウォータポンプケース(51)と、ウォータポンプケースの開口を覆うウォータポンプカバー(71)と、を有し、ウォータポンプケース側がクランクケースに取り付けられ、ウォータポンプカバーの一部がウォータポンプケースよりも車幅方向に垂直な方向に突出して、サーモスタットを収容するサーモスタットケース(74)を形成している。この構成によれば、ウォータポンプケースから車幅方向に垂直な方向に突出したウォータポンプカバーの一部によってサーモスタットケースが形成されている。よって、ウォータポンプカバーを車幅方向の外側に膨出させることなく、ウォータポンプカバーにサーモスタットを収容することができる。ウォータポンプがコンパクトに形成されると共に、サーモスタットの収容室が目立たなくなってエンジンの外観性が向上される。
【0046】
本実施例のエンジンの冷却装置において、サーモスタットケースにはサーモスタットの収容室を覆うサーモスタットカバー(87)が取り付けられ、サーモスタットカバーには配管ジョイント用のパイプ(88)が形成されており、パイプの傾きがシリンダから下方に延びる排気管(19)の傾きと平行で、パイプの先端が車幅方向の外側に向けられている。この構成によれば、サーモスタットに対する配管が車幅方向の内側に寄せられても、この配管と排気管に隙間が確保されて排気管による配管への熱害が抑えられる。また、パイプの先端が車幅方向の外側に向けられることで、サーモスタットカバーに対する配管の組付性が向上される。
【0047】
本実施例のエンジンの冷却装置において、ウォータポンプには、ラジエータから延びるラジエータ配管(アウトレット配管46)がエンジンの上方から接続され、オイルクーラ(18)から延びるオイルクーラ配管(インレット配管47、アウトレット配管46)がエンジンの下方から接続され、ラジエータを迂回するバイパス配管(44)がエンジンの後方から接続されている。この構成によれば、ウォータポンプに対して三方から配管が接続されるため、複数の配管が車幅方向に重なり難くなってエンジンの車幅方向の幅寸法を抑えることができる。
【0048】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0049】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0050】
10 :エンジン
11 :クランクケース
13 :シリンダブロック(シリンダ)
18 :オイルクーラ
19 :排気管
31 :ラジエータ
40 :冷却装置
41 :ウォータポンプ
44 :バイパス配管
46 :アウトレット配管(ラジエータ配管)
47 :インレット配管(オイルクーラ配管)
48 :アウトレット配管(オイルクーラ配管)
51 :ウォータポンプケース
53 :インペラ
71 :ウォータポンプカバー
74 :サーモスタットケース
85 :サーモスタット
87 :サーモスタットカバー
88 :サーモスタットカバーのパイプ
図1
図2
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図9