(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】樹脂組成物、架橋樹脂組成物、成形体、電線被覆材及び電線
(51)【国際特許分類】
C08L 23/26 20060101AFI20230926BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230926BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20230926BHJP
H01B 7/295 20060101ALI20230926BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20230926BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20230926BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C08L23/26
C08K3/22
C08L23/04
H01B7/295
H01B7/02 F
H01B7/18 H
H01B3/44 F
H01B3/44 G
H01B3/44 P
(21)【出願番号】P 2019225621
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2019034533
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】若林 美穂
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/154585(WO,A1)
【文献】特開平11-116828(JP,A)
【文献】特開2012-199071(JP,A)
【文献】特開2012-177028(JP,A)
【文献】中田陽介,ポリオレフィン系樹脂改質剤,三洋化成ニュース,2016年,夏,No.497,URL:https://www.tenkazai.com/img/pdf/pk122.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、H01B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)、(B)、(C)、(D)、及び(E)を含
み、(E)の配合量が、(A)~(E)の合計100重量部に対し0.01重量部以上、1.0重量部以下である、樹脂組成物。
(A):不飽和シラン化合物によりグラフト変性された変性ポリオレフィン
(B):未変性ポリエチレン及び/又は無水マレイン酸によりグラフト変性されたポリエチレン
(C):金属水酸化物
(D):架橋触媒
(E):無水マレイン酸によりグラフト変性された、重量平均分子量1,000~70,000の変性ポリプロピレン
【請求項2】
前記(E)変性ポリプロピレンの酸価が1.0~60mgKOH/gであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を架橋反応させてなる架橋樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の架橋樹脂組成物を用いた成形体。
【請求項5】
請求項4に記載の成形体よりなる電線被覆材。
【請求項6】
請求項5に記載の電線被覆材を被覆してなる電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、架橋樹脂組成物、成形体、電線被覆材及び電線に関するものであり、詳しくは、高い耐熱性が要求される絶縁電線の被覆材として最適な樹脂組成物及び架橋樹脂組成物並びにそれらから得られる成形体及び電線被覆材と該電線被覆材を被覆した電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電線被覆、チューブ、建材、自動車部品などの分野では多くの場合高い耐熱性が求められることから、耐熱性を向上させるために、成形に用いる樹脂組成物を電子線照射架橋法、化学架橋法、水架橋法などの架橋法で架橋させることが行われている。中でも、樹脂組成物を水架橋して得られる架橋樹脂組成物の製造法が、他の電子線照射架橋法や化学架橋法に比べて製造コストの点からメリットがあることから、水架橋に適したポリオレフィン系樹脂組成物の検討が数多く報告されている。
【0003】
一般に水架橋法による架橋オレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂に、ジクミルパーオキサイドなどの遊離ラジカル発生剤とビニルトリメトキシシランなどのシラン化合物を添加して溶融混練することによりグラフト反応させた変性オレフィン系樹脂に、ジオクチルスズジラウレートなどのシラノール縮合触媒を配合して加熱成形(押出成形)することによって得られる。
【0004】
近年、被覆材の分野では、機械物性や難燃性、耐摩耗性、耐薬品性、加熱成形(押出成形)における優れた外観特性など、高い耐熱性と共に、数多くの特性が必要とされている。
【0005】
特許文献1には、水架橋性ポリオレフィン樹脂、金属水酸化物、水架橋触媒の配合割合を特定の割合に調整することによって、機械特性と耐熱性及び外観特性を改善することが記載されている。
【0006】
特許文献2には、ポリオレフィンにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフトポリオレフィン、未変性ポリオレフィン、カルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、アクリル基、メタクリル基およびエポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基により変性された変性ポリオレフィン、水酸化マグネシウム、架橋触媒、シリコーン変性ポリウレタン、酸化防止剤、金属不活性剤及び滑剤を含む電線被覆材用組成物によって、皮膜の柔軟化で電線取り扱い時の作業性を向上させ、高い耐摩耗性と耐薬品性を有する電線被覆材とすることが記載されている。
【0007】
特許文献3には、密度0.880g/cm3以上のエチレン-α-オレフィンと、密度0.950g/cm3以上のポリエチレンからなるベースポリマーをシラングラフトさせた難燃コンパウンドに対して、融点135℃以上160℃未満のポリプロピレンと、軟化点140℃以上160℃未満のプロピレンワックスと、シラノール縮合触媒のマスターバッチを添加してなる押出外観、ホットセット特性、耐油性等に優れた難燃性樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-177028号公報
【文献】特開2016-50272号公報
【文献】特開2014-196397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1によれば、外観の改善はある程度は図れるが、更なる改善が望まれる。
また、特許文献2では、押出外観の向上のために滑剤を添加しているが、使用する滑剤によっては、外観の改善が不十分な場合があった。
特許文献3では、押出外観の向上のためにポリプロピレンワックスを添加することで外観はある程度改善できるが、更なる改善が望まれる。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は耐熱性、機械的特性、難燃性を併せ持ち、外観に優れた樹脂組成物、架橋樹脂組成物、成形体、電線被覆材及び電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、滑剤としてある特定の構造を有する変性ポリプロピレンを用いることで、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、以下の[1]~[6]を要旨とする。
[1] 下記(A)、(B)、(C)、(D)、及び(E)を含む樹脂組成物。
(A):不飽和シラン化合物によりグラフト変性された変性ポリオレフィン
(B):未変性ポリエチレン及び/又は無水マレイン酸によりグラフト変性されたポリエチレン
(C):金属水酸化物
(D):架橋触媒
(E):無水マレイン酸によりグラフト変性された、重量平均分子量1,000~70,000の変性ポリプロピレン
【0013】
[2] 前記(E)変性ポリプロピレンの酸価が1.0~60mgKOH/gであることを特徴とする[1]に記載の樹脂組成物。
【0014】
[3] [1]又は[2]に記載の樹脂組成物を架橋反応させてなる架橋樹脂組成物。
【0015】
[4] [3]に記載の架橋樹脂組成物を用いた成形体。
【0016】
[5] [4]に記載の成形体よりなる電線被覆材。
【0017】
[6] [5]に記載の電線被覆材を被覆してなる電線。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐熱性、機械的特性、難燃性を併せ持ち、外観に優れる樹脂組成物、架橋樹脂組成物、成形体、電線被覆材及び電線が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。尚、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0020】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、下記(A)~(E)を含むことを特徴とする。
(A):不飽和シラン化合物によりグラフト変性された変性ポリオレフィン
(B):未変性ポリエチレン及び/又は無水マレイン酸によりグラフト変性されたポリエチレン
(C):金属水酸化物
(D):架橋触媒
(E):無水マレイン酸によりグラフト変性された、重量平均分子量1,000~70,000の変性ポリプロピレン
【0021】
以下、本発明の樹脂組成物に用いる各成分について詳述する。
【0022】
<(A):不飽和シラン化合物によりグラフト変性された変性ポリオレフィン>
本発明において、不飽和シラン化合物によりグラフト変性された変性ポリオレフィン(以下「シラン変性ポリオレフィン(A)」又は「成分(A)」と称す場合がある。)は、本発明の樹脂組成物及び架橋樹脂組成物並びに成形体及び電線被覆材に対して、主に耐熱性を付与するための成分である。
【0023】
本発明における不飽和シラン化合物によりグラフト変性された変性ポリオレフィン(A)とは、未だ架橋されていない変性ポリオレフィン樹脂を意味する。通常、水架橋が可能なように変性ポリオレフィンが好適に用いられる。
【0024】
シラン変性ポリオレフィン(A)は、以下に挙げる原料となるポリオレフィン樹脂に不飽和シラン化合物をグラフト化して変性することによって得られる。
【0025】
シラン変性ポリオレフィン(A)の原料として用いるポリオレフィン樹脂(以下、「原料ポリオレフィン樹脂」と称す場合がある。)は特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素数2~8程度のα-オレフィンの単独重合体、これらのα-オレフィンとエチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン等の炭素数2~20程度の他のα-オレフィンや、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等との共重合体等が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸」と「メタクリル酸」の一方又は双方を示す。後述の「(メタ)アクリロイル」についても同様である。
【0026】
原料ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低・中・高密度ポリエチレン等(分岐状又は直鎖状)のエチレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体等のエチレン系樹脂、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体等のプロピレン系樹脂、及び、1-ブテン単独重合体、1-ブテン-エチレン共重合体、1-ブテン-プロピレン共重合体等の1-ブテン系樹脂等が挙げられる。
これらの原料ポリオレフィン樹脂は、1種類を用いても2種類以上を併用してもよい。
【0027】
ここで、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、1-ブテン系樹脂とは、それぞれ、エチレン単位、プロピレン単位、または1-ブテン単位を、樹脂を構成する全モノマー単位中に50重量%以上の割合で含有する樹脂を言う。
【0028】
これらの中でも、シラン変性ポリオレフィン(A)の原料に用いるポリオレフィン樹脂としては、エチレン系樹脂が好ましい。
【0029】
本発明におけるシラン変性ポリオレフィン(A)は、後述する通り、遊離ラジカル発生剤によるグラフト反応で原料ポリオレフィン樹脂に対して不飽和シラン化合物をグラフトさせたものであるが、原料ポリオレフィン樹脂が、エチレン系樹脂であれば、グラフト化を好適に行うことができるので好ましい。また、原料ポリオレフィン樹脂がエチレン系樹脂であれば、本発明の樹脂組成物を電線被覆用に用いた場合に、耐熱性が良好となるので好ましい。
上記エチレン系樹脂の中でも、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。
【0030】
原料ポリオレフィン樹脂を不飽和シラン化合物によりグラフト変性してシラン変性ポリオレフィン(A)を得るには、通常、公知の方法で原料ポリオレフィン樹脂を有機過酸化物等の遊離ラジカル発生剤の存在下にエチレン性不飽和シラン化合物のグラフト反応工程に供してグラフト変性することが行われる。
例えば、原料ポリオレフィン樹脂に所定量の不飽和シラン化合物と遊離ラジカル発生剤を混合し、80~250℃の温度で溶融混練する方法を用いることができる。なお、この際、水を含んでいると、水架橋反応が進行するので、水を含まない状態で溶融混練することが好ましい。
【0031】
グラフト変性に用いる不飽和シラン化合物としては、下記一般式(I)で表されるエチレン性不飽和シラン化合物が挙げられる。
R1SiR2
nY3-n …(I)
【0032】
上記式(I)中、R1はエチレン性不飽和炭化水素基又はハイドロカーボンオキシ基を表し、R2は炭化水素基を表し、Yは加水分解可能な有機基を表し、nは0~2の整数である。
【0033】
ここで、R1としては、例えば、プロペニル基、ブテニル基、シクロヘキセニル基、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピル基等が、R2としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、デシル基、フェニル基等が、Yとしては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基等が、それぞれ挙げられる。
【0034】
このようなエチレン性不飽和シラン化合物の具体例としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらの中でも、臭気等の観点から、ビニルトリメトキシシランが好適に用いられる。
不飽和シラン化合物は、1種類を用いても2種類以上を併用してもよい。
【0035】
不飽和シラン化合物の使用量は限定されず、十分な架橋効果を得て本発明の樹脂組成物の耐熱性を得るためには多いほうが望ましいが、加工性の観点からは少ないほうが望ましい。具体的には、原料ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1.0重量部以上であり、一方、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下である。
【0036】
遊離ラジカル発生剤としては、原料ポリオレフィン樹脂に対して不飽和シラン化合物をグラフト化可能であれば限定されないが、ジクミルパーオキサイト、2,5-(第三ブチルペルオキシ)ヘキシン-3,1,3-ビス(第三ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどの有機過酸化物が主として使用できる。これらの有機過酸化物も、1種類を用いても2種類以上を併用してもよい。
【0037】
遊離ラジカル発生剤の使用量は限定されず、不飽和シラン化合物が原料ポリオレフィン樹脂に十分にグラフト共重合し十分な架橋効果を得るためには多いほうが望ましいが、加工性の観点からは少ないほうが望ましい。具体的には、原料ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.02重量部以上であり、一方、好ましくは0.2重量部以下、より好ましくは0.1重量部以下である。
【0038】
本発明で用いるシラン変性ポリオレフィン(A)は、密度が0.850~0.960g/cm3であることが好ましく、より好ましくは0.870~0.920g/cm3である。密度が高くなるほど、得られる電線の耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、耐屈曲性等が良好となり、一方で、密度が低くなるほど、柔軟性が良好となる。
【0039】
シラン変性ポリオレフィン(A)は、JIS K7210に従って測定した190℃、2.16kg荷重におけるMFRが、成形性の点では大きい方が好ましく、機械的特性の点では小さい方が好ましい。具体的には、シラン変性ポリオレフィン(A)の190℃、2.16kg荷重におけるMFRが0.1g/10min以上であることが好ましく、1g/10min以上であることがより好ましく、一方、20g/10min以下であることが好ましく、10g/10min以下であることがより好ましい。
【0040】
シラン変性ポリオレフィン(A)は、1種のみを用いてもよく、モノマー組成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
シラン変性ポリオレフィン(A)としては市販品を用いることもでき、例えば、三菱ケミカル株式会社製、商品名「リンクロン」を好適に用いることができる。
【0042】
本発明において、シラン変性ポリオレフィン(A)の配合量は、成分(A)~(E)の合計100重量部に対して、好ましくは10重量部以上、より好ましくは15重量部以上であり、一方、好ましくは60重量部以下、より好ましくは50重量部以下である。シラン変性ポリオレフィン(A)の配合量が上記下限以上であれば、十分な耐熱性を得ることができる。一方、シラン変性ポリオレフィン(A)の配合量が上記上限以下であれば、成形外観の悪化を抑制することができる。
【0043】
<(B):未変性ポリエチレン及び/又は無水マレイン酸によりグラフト変性されたポリエチレン>
本発明において、未変性ポリエチレン及び/又は無水マレイン酸によりグラフト変性されたポリエチレン(以下、「未変性/酸変性ポリエチレン(B)」又は「成分(B)」と称す場合がある。)は、主として本発明の樹脂組成物及び架橋樹脂組成物並びに成形体及び電線被覆材における機械的特性や成形性を向上させるための成分である。
【0044】
未変性ポリエチレンは、シランカップリング剤や官能基などにより変性されていないポリエチレンのことである。ここでいう、ポリエチレンとは、エチレン単位を全構成モノマー単位中に50重量%以上の割合で含有するポリエチレン(エチレン単独重合体又はエチレン系共重合体)である。
【0045】
未変性ポリエチレンは、エチレンと、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン等の炭素数3~20程度の他のα-オレフィンとの共重合体であってもよく、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等とエチレンとの共重合体等であってもよい。
【0046】
無水マレイン酸によりグラフト変性されたポリエチレンに用いられるポリエチレンとしては、上述の未変性ポリエチレンとして例示されたものを使用することが相溶性の面で好ましい。
無水マレイン酸によるポリエチレンのグラフト変性は、常法に従って行うことができる。
【0047】
未変性/酸変性ポリエチレン(B)は、密度が0.850~0.970g/cm3のものが好ましく用いられる。密度が0.850g/cm3以上であれば、得られる電線の耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、耐屈曲性等が良好となり、密度が0.970g/cm3以下であれば、柔軟性が良好となる。
【0048】
未変性/酸変性ポリエチレン(B)は、JIS K7210に従って測定した190℃、2.16kg荷重におけるMFRが1~10g/10分であることが好ましい。未変性/酸変性ポリエチレン(B)のMFRは、シラン変性ポリオレフィン(A)のMFRの規定と同様に、成形性の点では大きい方が好ましく、単位時間当たりの生産量を向上させることができ、機械的特性や耐熱性の点では小さい方が好ましい。
【0049】
未変性/酸変性ポリエチレン(B)は、1種のみを用いてもよく、モノマー組成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
本発明において、未変性/酸変性ポリエチレン(B)の配合量は、成分(A)~(E)の合計100重量部に対して、好ましくは1重量部以上であり、2重量部以上であることがより好ましく、一方、好ましくは30重量部以下であり、25重量部以下であることがより好ましい。未変性/酸変性ポリエチレン(B)の配合量が上記下限以上であれば、十分な機械的特性や成形性を得ることができる。一方、未変性/酸変性ポリエチレン(B)の配合量が上記上限以下であれば、耐熱性の低下を防止することができる。
【0051】
<(C):金属水酸化物>
本発明において、金属水酸化物(以下、「金属水酸化物(C)」又は「成分(C)」と称す場合がある。)は、本発明の樹脂組成物及び架橋樹脂組成物並びに成形体及び電線被覆材に対して、主として難燃性を付与するための成分である。
【0052】
金属水酸化物(C)の種類は限定されないが、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、ハイドロタルサイト等が挙げられ、中でも、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムが好適に用いられる。これらの金属水酸化物(C)は、1種類を用いても2種類以上を併用してもよい。
【0053】
金属水酸化物(C)は、表面処理剤によって表面処理されたものを使用してもよい。表面処理剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪酸または脂肪酸金属塩等が挙げられる。これらの表面処理剤で金属水酸化物(C)を処理する方法としては、湿式法、乾式法、直接混練法などの既知の方法を用いることができる。金属水酸化物(C)として表面処理されたものを使用することにより、得られる樹脂組成物中での分散性が向上し、機械的特性を向上させることができる場合がある。
【0054】
金属水酸化物(C)の平均粒子径は、機械的特性、分散性、難燃性の点から2μm以下例えば0.5~2μmであることが好ましい。
ここで、金属水酸化物(C)の平均粒子径とは、体積基準の累積分布50vol%の時の粒径である。
【0055】
本発明において、金属水酸化物(C)の配合量は、成分(A)~(E)の合計100重量部に対して、好ましくは40重量部以上、より好ましくは50重量部以上であり、一方、好ましくは90重量部以下、より好ましくは80重量部以下である。金属水酸化物(B)の配合量が上記下限以上であれば、難燃性能を十分に得ることができる。一方、金属水酸化物(B)の配合量が上記上限以下であれば、押出負荷が増大することによる生産性の低下や、機械的特性の低下を防止することができる。
【0056】
<(D):架橋触媒>
本発明において、架橋触媒(以下、「架橋触媒(D)」又は「成分(D)」と称す場合がある。)は、本発明の樹脂組成物中に含まれるシラン変性ポリオレフィン(A)を水架橋するための成分である。
【0057】
シラン変性ポリオレフィン(A)は、不飽和シラン化合物によりグラフト変性された変性ポリオレフィンであるため、架橋触媒(D)としては、当該架橋触媒(D)の存在下に水分と接触させてポリオレフィン樹脂内に架橋構造を形成させることができる化合物、いわゆるシラノール縮合触媒が好適に使用される。シラノール縮合触媒としては、具体的には、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクタエート、酢酸第1スズ、カプリル酸第1スズ、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト等の金属脂肪酸塩が挙げられる。
【0058】
架橋触媒(D)は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用しても良い。
【0059】
本発明において、架橋触媒(D)の配合量は、成分(A)~(E)の合計100重量部に対して、好ましくは0.0001重量部以上、より好ましくは0.0005重量部以上であり、一方、好ましくは0.02重量部以下、より好ましくは0.01重量部以下である。架橋触媒(D)の配合量が上記下限以上であれば、シラン変性ポリオレフィン(A)の架橋が十分に進行し、架橋特性を十分に得ることができる。一方、架橋触媒(D)の配合量が上記上限以下であれば、架橋が進行しすぎることによる成形性の低下を防止することができる。
【0060】
<(E):無水マレイン酸によりグラフト変性された、重量平均分子量1,000~70,000の変性ポリプロピレン(E)>
本発明において、無水マレイン酸によりグラフト変性された、重量平均分子量1,000~70,000の変性ポリプロピレン(以下、「酸変性低分子量ポリプロピレン(E)」又は「成分(E)」と称す場合がある。)は、本発明の樹脂組成物及び架橋樹脂組成物並びに成形体及び電線被覆材に対して、主として成形外観を良好にするために用いられる成分である。
【0061】
酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の配合により成形外観が良好になる理由については、以下のように推察される。
シラン変性ポリオレフィン(A)は、押出成形する際に、成形機内部に付着しやすく滞留が発生しやすい。滞留箇所において、金属水酸化物(C)から放出される水分によってシラン変性ポリオレフィン(A)の架橋反応が部分的に進行し、この架橋体が成形体の表面にツブ状物(架橋ブツ)として現れることによって、外観が悪化する。
酸変性低分子量ポリプロピレン(E)は、低分子量のポリプロピレンに無水マレイン酸をグラフトすることによってシラン変性ポリオレフィン(A)および未変性/酸変性ポリエチレン(B)との相溶性が低下しているため、押出成形中に樹脂の表面へ移行して、樹脂の成形機内部への付着を抑える作用があると推察される。
本発明では、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)によるこのような外部滑剤作用によって、押出機内部での樹脂の滞留が抑制され、架橋ブツが発生しにくくなり、成形外観が良好になると考えられる。
【0062】
無水マレイン酸によりグラフト変性された変性ポリプロピレン(E)に用いられるポリプロピレンとは、ポリプロピレンを全構成モノマー単位中に50重量%以上の組成で含有するポリプロピレン(ポリプロピレン単独重合体又はポリプロピレン系共重合体)である。
【0063】
該ポリプロピレンは、プロピレンと、エチレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン等の炭素数2又は4~20程度の他のα-オレフィンとの共重合体であってもよく、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等とポリプロピレンとの共重合体等であってもよい。
無水マレイン酸によるポリプロピレンのグラフト変性は、公知の方法に従って行うことができる。
【0064】
本発明において、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の重量平均分子量は、1,000以上であり、2,000以上であることが好ましく、一方、70,000以下であり、55,000以下であることが好ましい。酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の分子量が上記下限以上であれば、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の揮発を防止して滑剤としての作用を十分に発揮させることができ、良好な成形外観を得ることができる。一方、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の分子量が上記上限以下であれば、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)が成形中の樹脂表面に移行しやすくなり、滞留抑制効果を十分に得ることができ、良好な成形外観を得ることができる。
【0065】
なお、本発明において、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されたポリスチレン換算の値である。
【0066】
酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の溶融粘度は、50mPa・s(160℃)以上であり、100mPa・s以上であることが好ましく、一方、10,000mPa・s以下であり、6,500mPa・s以下であることが好ましい。酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の溶融粘度が上記下限以上であれば、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の揮発を防止して滑剤としての作用を十分に発揮させることができ、良好な成形外観を得ることができる。一方、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の溶融粘度が上記上限以下であれば、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)が成形中の樹脂表面に移行しやすくなり、滞留抑制効果を十分に得ることができ、良好な成形外観を得ることができる。
【0067】
酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の酸価は、好ましくは1.0mgKOH/g以上であり、3.0mgKOH/g以上であることがより好ましく、一方、好ましくは60mgKOH/g以下であり、30mgKOH/g以下であることがより好ましい。酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の酸価が上記下限以上であれば、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)が成形中の樹脂表面に移行しやすくなり、滞留抑制効果を十分に得ることができ、良好な成形外観を得ることができる。一方、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の酸価が上記上限以下であれば、酸の触媒効果によって架橋反応が促進され、架橋ブツが発生しやすくなることが防止され、良好な成形外観を得ることができる。
【0068】
酸変性低分子量ポリプロピレン(E)は、1種のみを用いてもよく、モノマー組成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0069】
酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の配合量は、成分(A)~(E)の合計100重量部に対し、好ましくは0.01重量部以上であり、0.05重量部以上であることがより好ましく、一方、好ましくは1.0重量部以下であり、0.5重量部以下であることがより好ましい。酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の配合量が上記下限以上であれば、滞留抑制効果を十分に得ることができ、良好な成形外観を得ることができる。一方、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の配合量が上記上限以下であれば、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)が成形体表面にブルームして成形体の表面外観を悪化させることを防止することができる。
【0070】
酸変性低分子量ポリプロピレン(E)は、酸変性していないポリプロピレン(以下、「未変性ポリプロピレン」と称す場合がある。)と併用してもよい。酸変性低分子量ポリプロピレン(E)と共に未変性ポリプロピレンを併用する場合、本発明の樹脂組成物における未変性ポリプロピレンの含有量は、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)100重量部に対して20~500重量部であることが好ましく、50~200重量部であることがより好ましい。未変性ポリプロピレンを併用することで、未変性ポリプロピレンによる流動性の向上効果で成形体の表面外観をより一層改善することができるが、その含有量が少な過ぎると未変性ポリプロピレンによる上記効果を十分に得ることができず、多過ぎると、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)が成形中に樹脂表面に移行しにくくなり、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)による滞留抑制効果を十分に得ることができなくなる恐れがある。
また、未変性ポリプロピレンの配合量は、成分(A)~(E)の合計100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上であり、0.03重量部以上であることがより好ましく、一方、1.0重量部以下であり、0.5重量部以下であることがより好ましく、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)と未変性ポリプロピレンとの合計の配合量は、成分(A)~(E)の合計100重量部に対して好ましくは0.02重量部以上であり、0.08重量部以上であることがより好ましく、一方、2.0重量部以下であり、1.0重量部以下であることがより好ましい。
【0071】
なお、未変性ポリプロピレンにおけるポリプロピレンは、前述の酸変性低分子量ポリプロピレン(E)の酸変性前のポリプロピレンと同程度の重量平均分子量を有する低分子量ポリプロピレンであることが好ましい。
【0072】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を著しく妨げない範囲で、上述の成分(A)~(E)以外の添加剤や樹脂等を、「その他の成分」として必要に応じて含んでいてもよい。その他の成分は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。また、その他の成分は、後述するように難燃マスターバッチと触媒マスターバッチと滑剤マスターバッチとを用いて樹脂組成物を製造する場合においては、何れのマスターバッチに含有されていてもよい。
【0073】
添加剤としては、具体的には、プロセス油、加工助剤、可塑剤、結晶核剤、衝撃改良剤、金属水酸化物(C)以外の難燃剤、難燃助剤、架橋助剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、充填剤、相溶化剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、カーボンブラック、着色剤等が挙げられる。
【0074】
金属水酸化物(C)以外の難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別されるが、非ハロゲン系難燃剤が好ましい。金属水酸化物(C)以外の非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤等が挙げられる。
【0075】
熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。
【0076】
充填剤は、有機充填剤と無機充填剤に大別される。有機充填剤としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。また、無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。
【0077】
また、本発明の樹脂組成物は、炭化水素系ゴム用軟化剤を含有していてもよい。炭化水素系ゴム用軟化剤としては、鉱物油系又は合成樹脂系の軟化剤が好ましく、鉱物油系軟化剤がより好ましい。
鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30~45%程度以上がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素であるものが炭素原子芳香族系オイルと各々呼ばれている。
炭化水素系ゴム用軟化剤としては、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、および炭素原子芳香族系オイルから選択される何れかを用いることが好ましい。これらのうち、色相が良好であることから、パラフィン系オイルを用いることがより好ましい。合成樹脂系軟化剤としては、ポリブテン及び低分子量ポリブタジエン等が挙げられる。
【0078】
シラン変性ポリオレフィン(A)、未変性/酸変性ポリエチレン(B)、及び酸変性低分子量ポリプロピレン(E)以外の樹脂としては、前述の未変性ポリプロピレンの他、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂等のアクリル/メタクリル系樹脂といった熱可塑性樹脂や各種熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0079】
本発明の樹脂組成物がこれらの添加剤や樹脂等のその他の成分を含有する場合、その含有量は限定されないが、成分(A)~(E)の合計量が本発明の樹脂組成物の50重量%以上を占めるような範囲とすることが好ましい。
【0080】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法には特に制限はなく、シラン変性ポリオレフィン(A)、未変性/酸変性ポリエチレン(B)、金属水酸化物(C)、架橋触媒(D)、及び酸変性低分子量ポリプロピレン(E)を含有するように製造することができればよい。本発明の樹脂組成物は、例えば、各成分を同時に又は任意の順序で混合することで製造することができる。
具体的には、
(1)シラン変性ポリオレフィン(A)、未変性/酸変性ポリエチレン(B)及び金属水酸化物(C)を先に混練し、架橋触媒(D)及び酸変性低分子量ポリプロピレン(E)を後に加える方法
(2)シラン変性ポリオレフィン(A)、未変性/酸変性ポリエチレン(B)、金属水酸化物(C)、及び酸変性低分子量ポリプロピレン(E)を先に混練し、架橋触媒(D)を後に加える方法
(3)全てを一括して混練する方法
などがある。
酸化防止剤や着色剤などのその他の成分は、均一に分散させることができればどのタイミングで加えても良い。
【0081】
前記の各原料成分を混合する際の装置に限定はないが、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール、一軸押出機、二軸押出機などの汎用のものが使用できる。溶融混合時の温度は、各原料成分の少なくとも一つが溶融状態となる温度であればよいが、通常は用いる全成分が溶融する温度が選択され、一般には150~250℃で行われる。
【0082】
本発明の樹脂組成物を製造する好ましい方法としては、金属水酸化物(C)をシラン変性ポリオレフィン(A)及び未変性/酸変性ポリエチレン(B)に含有させたマスターバッチ(以下、「難燃マスターバッチ」という。)と、架橋触媒(D)をシラン変性ポリオレフィン(A)以外の樹脂に含有させたマスターバッチ(以下、「触媒マスターバッチ」という。)と、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)をシラン変性ポリオレフィン(A)以外の樹脂に含有させたマスターバッチ(以下、「滑剤マスターバッチ」という。)とを別々に製造しておき、これを混合することによって製造する、もしくは、難燃マスターバッチと、架橋触媒(D)と酸変性低分子量ポリプロピレン(E)とをシラン変性ポリオレフィン(A)以外の樹脂に含有させたマスターバッチ(以下、「滑剤・触媒マスターバッチ」という。)とを別々に製造しておき、これを混合することによって製造することが好ましい。触媒マスターバッチ、滑剤マスターバッチ及び滑剤・触媒マスターバッチを構成する樹脂としては、未変性/酸変性ポリエチレン(B)または前記のその他の成分で例示した樹脂等を用いることができるが、難燃マスターバッチとの相溶性の観点から未変性/酸変性ポリエチレン(B)のうちの未変性ポリエチレンを用いることが好ましい。
また、酸変性低分子量ポリプロピレン(E)と未変性ポリプロピレンとを併用する場合、未変性ポリプロピレンは酸変性低分子量ポリプロピレン(E)と共に滑剤マスターバッチ、もしくは滑剤・触媒マスターバッチに含有させておくことが好ましい。
【0083】
このように、難燃マスターバッチと触媒マスターバッチと滑剤マスターバッチ、もしくは、難燃マスターバッチと滑剤・触媒マスターバッチとを用いれば、成形体を得る前に架橋反応が進行することを抑制することができる。
【0084】
難燃マスターバッチを製造する方法に限定は無く、前記した装置を同様に使用することができる。製造工程としては、
(1)シラン変性ポリオレフィン(A)を製造する工程、すなわちシラン化合物をグラフト化させる工程
(2)シラン変性ポリオレフィン(A)、未変性/酸変性ポリエチレン(B)及び金属水酸化物(C)やその他成分とを混合する工程
の二つがあり、これらを別々に分けて行っても、例えば二軸押出機などで両工程を一度に行ってもよいが、前者が好ましい。
【0085】
触媒マスターバッチ、滑剤マスターバッチ及び滑剤・触媒マスターバッチを製造する方法に限定は無く、前記した装置を同様に使用することができる。
【0086】
難燃マスターバッチと触媒マスターバッチと滑剤マスターバッチ、もしくは難燃マスターバッチと滑剤・触媒マスターバッチとを混合する際にも、前記した装置を同様に使用することができる。
【0087】
<水架橋処理>
本発明の樹脂組成物は水架橋性であるので、水分と接触させることにより樹脂組成物内に架橋構造を形成させることができる。水架橋処理は、常温~200℃程度、通常は常温~100℃程度の液状又は蒸気状の水に、10秒~1週間程度、通常は1分~1日程度接触させることにより行われるが、このような処理を行わなくても空気中の水分によって架橋させることが可能である。
【0088】
本発明の樹脂組成物は、水架橋処理することによって、耐熱性、機械的特性、難燃性、外観に優れた架橋樹脂組成物とすることができる。
【0089】
<成形品および用途>
本発明の樹脂組成物を成形する方法は、押出成形、圧縮成形、射出成形など特に限定するものではないが、樹脂組成物の溶融状態での流動性の観点から押出成形が望ましい。また成形温度は樹脂組成物の溶融温度より高温であれば限定されないが、150℃~200℃が望ましい。成形温度が上記下限以上であれば、溶融した樹脂組成物の流動性が高く、目的の形状の成形体を得やすい。一方、成形温度が上記上限以下であれば金属水酸化物(C)の分解による発泡及び架橋ブツによる外観の悪化が起こりにくい。
【0090】
なお、本発明の樹脂組成物は、水架橋処理を行う前に予め所望の形状に成形しておき、その後に水架橋処理を行うことが好ましい。本発明の樹脂組成物は成形性が良好であるので、例えば押出成形を行った場合に、表面が平滑であり、スコーチ(焼け痕)等が無い外観が良好な成形体を得ることができる。また、この成形体を水架橋処理することにより、水架橋前と同様に外観が良好な、水架橋樹脂組成物の成形体を得ることができる。
【0091】
本発明の樹脂組成物を用いて得られる成形体の用途は特に限定するものではないが、優れた耐熱性、機械的特性、難燃性を併せ持ち、外観に優れることから、絶縁体、シースとして電線・ケーブルに好適に用いることができる。更には、複数の樹脂被覆電線を束ねるチューブの他、各種絶縁フィルム、絶縁パイプ、電源ボックス等に好適に使用することができる。以上に挙げたものの中でも本発明の樹脂組成物は電線被覆材として電線に用いることが特に好ましい。
【実施例】
【0092】
以下、実施例を用いて本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。尚、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0093】
[原料]
以下の実施例及び比較例では、以下の原料を用いた。
【0094】
<成分(A):シラン変性ポリオレフィン>
・シラングラフトポリオレフィン-1:商品名 リンクロンSH710N(三菱ケミカル株式会社製、MFR:2g/10min、密度:0.892g/cm3、構成する全モノマー単位中のエチレン単位の含有量:50質量%以上)
・シラングラフトポリオレフィン-2:商品名 リンクロンHF800N(三菱ケミカル株式会社製、MFR:1.5g/10min、密度:0.943g/cm3、構成する全モノマー単位中のエチレン単位の含有量:50質量%以上)
【0095】
<成分(B):未変性/酸変性ポリエチレン>
・ポリエチレン-1:エチレン-酢酸ビニル共重合体 商品名 エバフレックスEV360(三井・デュポンポリケミカル株式会社製、MFR:2g/10min、密度:0.950g/cm3、酢酸ビニル単位含有量:25重量%)
・ポリエチレン-2:エチレン-酢酸ビニル共重合体 商品名 エバフレックスEV40LX(三井・デュポンポリケミカル株式会社製、MFR:2g/10min、密度:0.970g/cm3、酢酸ビニル単位含有量:41重量%)
・ポリエチレン-3:無水マレイン酸変性ポリエチレン 商品名 モディックMMHDH1(三菱ケミカル株式会社製、MFR:1g/10min、密度:0.955g/cm3)
・ポリエチレン-4:エチレン-1-ブテン共重合体 商品名 ENGAGE7256(ダウ・ケミカル日本株式会社製、MFR:2.5g/10min、密度:0.885g/cm3)
・ポリエチレン-5:高密度ポリエチレン 商品名 ノバテックHJ362(日本ポリエチレン株式会社製、MFR:5g/10min、密度:0.953g/cm3)。
【0096】
<成分(C):金属水酸化物>
・金属水酸化物-1:水酸化アルミニウム 商品名 MartinalOL104LEO(HUBER社製、平均粒子径:1.9μm)
・金属水酸化物-2:水酸化マグネシウム 商品名 マグシーズS-6(神島化学工業株式会社製、平均粒子径:1.0μm)
・金属水酸化物-3:水酸化マグネシウム 商品名 KISUMA5P(協和化学工業株式会社製、平均粒子径:0.8μm)
【0097】
<成分(D):架橋触媒>
・ジオクチルスズジラウレート(日東化成株式会社製)
【0098】
<成分(E):酸変性低分子量ポリプロピレン>
・滑剤-1:無水マレイン酸変性低分子量ポリプロピレン 商品名 ユーメックス100TS(三洋化成工業株式会社製、重量平均分子量:9,000、溶融粘度:120mPa・s(160℃)、酸価:3.5mgKOH/g)
・滑剤-2:無水マレイン酸変性低分子量ポリプロピレン 商品名 ユーメックス110TS(三洋化成工業株式会社製、重量平均分子量:10,000、溶融粘度:135mPa・s(160℃)、酸価:7mgKOH/g)
・滑剤-9:無水マレイン酸変性低分子量ポリプロピレン 商品名 ユーメックス5500(三洋化成工業株式会社製、重量平均分子量:52,000、溶融粘度:6,200mPa・s(160℃)、酸価:17mgKOH/g)
【0099】
<その他の樹脂>
・SEBS:スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体 商品名 TAIPOLSEBS-6151A(ジャパンケムテック株式会社製、密度:0.91g/cm3)
【0100】
<その他の添加剤>
・鉱油:プロセスオイル 商品名 ダイアナプロセスオイルPW-90(出光興産株式会社製、密度:0.87g/cm3)
・酸化防止剤:ペンタエリスリトール・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート] 商品名 イルガノックス1010(BASFジャパン株式会社製)
【0101】
<その他の滑剤>
・滑剤-3:ステアリン酸亜鉛 商品名 Zn-St(日東化成工業株式会社製)
・滑剤-4:エルカ酸アミド 商品名 アーモスリップE(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)
・滑剤-5:酸化低分子量ポリエチレン 商品名 ハイワックス4051E(三井化学株式会社製、重量平均分子量:3,200、酸価:12mgKOH/g)
・滑剤-6:低分子量ポリプロピレン 商品名 ビスコール660-P(三洋化成工業株式会社製、重量平均分子量:3,000、軟化点:145℃)
・滑剤-7:シリコーンオイル 商品名 KF96-1000CS(信越化学工業株式会社製、動粘度:1,000mm2/s(25℃))
・滑剤-8:無水マレイン酸変性高分子量ポリプロピレン 商品名 アドマーQB550(三井化学株式会社製、MFR:3g/10min、密度:0.89g/cm3、重量平均分子量:100,000以上)
【0102】
[製造例1:難燃マスターバッチ-1,2の製造]
シラングラフトポリオレフィン、ポリエチレン、その他の樹脂、その他の添加剤、金属水酸化物をそれぞれ表-1に示す割合で内容量1.0Lの加圧ニーダーへ投入し、加圧ニーダーの設定温度100℃で15分間混練した。得られた混練物をさらにロールによりシート化した後、ペレタイザーでペレット化して難燃マスターバッチ-1、2を作製した。
【0103】
[製造例2:触媒マスターバッチの製造]
ポリエチレン-5、架橋触媒(D)、および酸化防止剤をそれぞれ、100/0.1/1重量部の比率で混合したものを準備し、これを40mmφ単軸押出機(L/D=24、フルフライトスクリュー:圧縮比2.7)にて樹脂温度200℃で押出した。押出したストランドをペレタイザーでペレット化し、触媒マスターバッチを作製した。
【0104】
[製造例3:滑剤マスターバッチ-1~9の製造]
ポリエチレン、滑剤、酸化防止剤をそれぞれ表-2に示す割合で内容量1.0Lの加圧ニーダーへ投入し、加圧ニーダーの設定温度90℃で10分間混練した。得られた混練物をさらにロールによりシート化した後、ペレタイザーでペレット化して滑剤マスターバッチ-1~9を作製した。
【0105】
【0106】
【0107】
[押出シートの外観評価]
難燃マスターバッチ、触媒マスターバッチおよび滑剤マスターバッチを表-3及び表-4に示す割合で混合し、これを厚み0.5mm×幅45mmのダイスを装備した20mmφ単軸押出機(L/D=22、フルフライトスクリュー:圧縮比2.5)に供給し、20分間もしくは50分間連続で押出成形した際のシート外観を時間毎に3m観察し、外観ブツ(成形体表面のツブ状物)がシート1mあたりに0~9個であったものを「◎」、10~19個であったものを「○」、20~59個であったものを「△」、60~99個であったものを「×」、100個以上であったものを「××」と判定した。
【0108】
[実施例1、比較例1~7]
押出樹脂温度190℃で20分間連続で押出成形した際のシート外観をそれぞれ10分後、20分後において観察し、外観を判定した。判定した結果を表-3に示す。
【0109】
滑剤マスターバッチを添加していない比較例1においては、10分後の時点ではブツが少なかったが、時間が経過するごとにブツ個数が増えていき、20分後にはブツが大量に発生し、外観が悪かった。これは、押出機内部で滞留した樹脂が時間と共に架橋し、この架橋体がブツとしてシート上に発生するためと考えられる。
【0110】
滑剤マスターバッチ-1を添加した実施例1においては、10分後はブツはほとんど発生しておらず、20分後においてもブツ個数が少なく、良好な外観を維持していた。これは、特定の構造を有する滑剤-1には押出機内部での樹脂の滞留を抑制する効果があり、これによって架橋ブツの発生が抑制されたためであると考えられる。
【0111】
比較例3,5,6,7においては、滑剤マスターバッチを添加していない比較例1と同様に、時間が経過するごとにブツ個数が増えていき、20分後にはブツが大量に発生し、外観が悪かった。これは、滑剤-4,6,7,8は押出機内部での樹脂の滞留を抑制する効果が低く、顕著な外観改善効果が得られなかったためであると考えられる。
比較例2,4においては、10分後の時点ですでにブツが大量に発生し、外観が悪かった。これは、滑剤-3,5には架橋ブツの発生を促進し、外観を悪化させる性質があるためであると考えられる。
【0112】
[実施例2,3、比較例8~9]
押出樹脂温度200℃で50分間連続で押出成形した際のシート外観を10分後、30分後、50分後において観察し、外観を判定した。判定した結果を表-4に示す。
【0113】
実施例2,3においては、時間が経過してもブツ個数が増加することなく、50分後においてもブツ個数が少なく、良好な外観を維持していた。これは実施例1と同様の効果によるものであると考えられる。
【0114】
比較例8においては、時間が経過するごとにブツ個数が増えていき、50分後にはブツが大量に発生し、外観が悪かった。
比較例9においては、10分後の時点ですでにブツが大量に発生し、外観が悪かった。
【0115】
【0116】
【0117】
以上の結果から、本発明によれば、難燃成分、耐熱成分、補強成分を含み、従って、耐熱性、機械的特性、難燃性を併せ持ち、かつ成形外観に優れた樹脂組成物が提供されることが分かる。