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特許7354821蓄電素子用の正極活物質、蓄電素子用の正極、蓄電素子及び蓄電素子の製造方法
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  • 特許-蓄電素子用の正極活物質、蓄電素子用の正極、蓄電素子及び蓄電素子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】蓄電素子用の正極活物質、蓄電素子用の正極、蓄電素子及び蓄電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230926BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230926BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20230926BHJP
   C01D 15/02 20060101ALI20230926BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20230926BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20230926BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/485
C01D15/02
H01G11/06
H01G11/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019226577
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2021096929
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】水野 祐介
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/163475(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/163476(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/485
C01D 15/02
H01G 11/06
H01G 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドープ元素を含み、かつ逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiOを含有し、
Halder-Wagner法により算出される上記LiOの平均結晶子サイズが20nm以下であり、
Halder-Wagner法により算出される上記LiOの格子ひずみが0.75%以下である蓄電素子用の正極活物質。
【請求項2】
上記ドープ元素が、コバルト、鉄、銅、マンガン、ニッケル、クロム、バナジウム、モリブデン又はこれらの組み合わせである請求項1の正極活物質。
【請求項3】
正極活物質を含有する正極活物質層を備え、
上記正極活物質がドープ元素を含み、かつ逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiOを含有し、
Halder-Wagner法により算出される上記LiOの平均結晶子サイズが20nm以下であり、
Halder-Wagner法により算出される上記LiOの格子ひずみが0.75%以下である蓄電素子用の正極。
【請求項4】
正極を備え、
上記正極が正極活物質を含有する正極活物質層を有し、
上記正極活物質がドープ元素を含み、かつ逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiOを含有し、
Halder-Wagner法により算出される上記LiOの平均結晶子サイズが20nm以下であり、
Halder-Wagner法により算出される上記LiOの格子ひずみが0.75%以下である蓄電素子。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の正極活物質を用いて正極を作製することを備える蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子用の正極活物質、蓄電素子用の正極、蓄電素子及び蓄電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
蓄電素子の正極及び負極には、各種活物質が採用されており、正極活物質としては、様々な複合酸化物が広く用いられている。正極活物質の一つとして、LiOにCo、Fe等の遷移金属元素を固溶させた遷移金属固溶金属酸化物が開発されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-107890号公報
【文献】特開2015-32515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のLiOに遷移金属元素が固溶された正極活物質は、初期の放電電気量が大きいものではない。また、従来のLiOに遷移金属元素が固溶された正極活物質は、充放電サイクルに伴って放電電気量等が大きく低下し、十分な充放電サイクル性能が得られないおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、初期及び充放電サイクル後の放電電気量を増大できる蓄電素子用の正極活物質、蓄電素子用の正極及び蓄電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、ドープ元素を含み、かつ逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiOを含有し、Halder-Wagner法により算出される上記LiOの平均結晶子サイズが20nm以下であり、Halder-Wagner法により算出される上記LiOの格子ひずみが0.75%以下である蓄電素子用の正極活物質である。
【0008】
本発明の他の一態様は、正極活物質を含有する正極活物質層を備え、上記正極活物質がドープ元素を含み、かつ逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiOを含有し、Halder-Wagner法により算出される上記LiOの平均結晶子サイズが20nm以下であり、Halder-Wagner法により算出される上記LiOの格子ひずみが0.75%以下である蓄電素子用の正極である。
【0009】
本発明の他の一態様は、正極を備え、上記正極が正極活物質を含有する正極活物質層を有し、上記正極活物質がドープ元素を含み、かつ逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiOを含有し、Halder-Wagner法により算出される上記LiOの平均結晶子サイズが20nm以下であり、Halder-Wagner法により算出される上記LiOの格子ひずみが0.75%以下である蓄電素子である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、初期及び充放電サイクル後の放電電気量を増大できる蓄電素子用の正極活物質、蓄電素子用の正極及び蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す外観斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
図3図3は、実施例1から実施例3、比較例1から比較例3及び参考例の正極活物質のエックス線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
初めに、本明細書によって開示される蓄電素子用の正極活物質、蓄電素子用の正極及び蓄電素子の概要について説明する。
【0013】
本発明の一態様に係る蓄電素子用の正極活物質(以下、正極活物質ともいう。)は、ドープ元素を含み、かつ逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiOを含有し、Halder-Wagner法により算出される上記LiOの平均結晶子サイズが20nm以下であり、Halder-Wagner法により算出される上記LiOの格子ひずみが0.75%以下である蓄電素子用の正極活物質である。
【0014】
当該正極活物質は、初期及び充放電サイクル後の放電電気量を増大できる。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。正極活物質の結晶性と電気化学性能との関係性においては、平均結晶子サイズが小さいほどキャリアの移動距離が短くなることから放電電気量が増大する。また、格子ひずみが小さいほど、正極活物質の結晶のバルク内に存在する原子の安定性が高くなることから放電電気量が増大する。当該正極活物質は、ドープ元素を含み、かつ逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiO(以下、ドープ元素含有LiOともいう。)を含有し、平均結晶子サイズが20nm以下であり、格子ひずみが0.75%以下であることで、結晶子サイズと格子ひずみの均衡がとれる。このため、当該正極活物質は、放電電気量を増大できると推測される。
【0015】
ここで、本発明における「ドープ元素(ドーパント)」とは、逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiOの電気特性を向上させるために添加する少なくとも1種の元素を意味し、金属元素及び非金属元素を含む。
【0016】
当該正極活物質においては、上記ドープ元素が、コバルト、鉄、銅、マンガン、ニッケル、クロム、バナジウム、モリブデン又はこれらの組み合わせであることが好ましい。当該正極活物質が上記ドープ元素を含むことで、放電電気量がより向上する。
【0017】
本発明の一態様に係る蓄電素子用の正極(以下、正極ともいう。)は、正極活物質を含有する正極活物質層を備え、上記正極活物質がドープ元素を含み、かつ逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiOを含有し、Halder-Wagner法により算出される上記LiOの平均結晶子サイズが20nm以下であり、Halder-Wagner法により算出される上記LiOの格子ひずみが0.75%以下である。当該正極は当該正極活物質を含有する正極活物質層を備えることで、当該正極を備える蓄電素子の初期及び充放電サイクル後の放電電気量を増大できる。
【0018】
本発明の一態様に係る蓄電素子は、正極を備え、上記正極が正極活物質を含有する正極活物質層を有し、上記正極活物質がドープ元素を含み、かつ逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiOを含有し、Halder-Wagner法により算出される上記LiOの平均結晶子サイズが20nm以下であり、Halder-Wagner法により算出される上記LiOの格子ひずみが0.75%以下である。当該蓄電素子は、上記正極を備えることで、初期及び充放電サイクル後の放電電気量を増大できる。
【0019】
本発明の一態様に係る蓄電素子の製造方法は、当該正極活物質を用いて正極を作製することを備える。当該蓄電素子の製造方法によれば、初期及び充放電サイクル後の放電電気量を増大できる蓄電素子を製造することができる。
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る蓄電素子用の正極活物質、蓄電素子用の正極、蓄電素子及び蓄電素子の製造方法について、順に説明する。
【0021】
<正極活物質>
本発明の一実施形態に係る正極活物質は、ドープ元素を含み、かつ逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiOを含有する。
【0022】
当該正極活物質においては、上記ドープ元素が、コバルト、鉄、銅、マンガン、ニッケル、クロム、バナジウム、モリブデン又はこれらの組み合わせであることが好ましい。当該正極活物質が上記ドープ元素を含むことで、放電電気量がより向上する。また、当該正極活物質は、上記ドープ元素に加えて13族元素、14属元素、リン、アンチモン、ビスマス、テルル又はこれらの組み合わせをさらに含んでいてもよい。上記ドープ元素に加えて13族元素、14属元素、リン、アンチモン、ビスマス、テルル又はこれらの組み合わせをさらに含むことで、充放電サイクル性能をさらに向上できる。
【0023】
上記ドープ元素含有LiO中のリチウムLiとドープ元素との合計含有量に対するドープ元素の含有量のモル比率は特に限定されないが、例えば0.05以上0.3以下が好ましく、0.1以上0.2以下がより好ましく、0.14以上0.16以下がさらに好ましい。上記モル比率は、LiOに対するドープ元素との固溶量の目安となり、上記モル比率が上記範囲であることで、蓄電素子の初期及び充放電サイクル後の放電電気量をより向上できる。
【0024】
上記ドープ元素含有LiOは、リチウム、ドープ元素及び酸素以外の他の元素を含んでいてもよい。但し、上記ドープ元素含有LiOを構成する全元素の合計含有量に対する上記他の元素の含有量のモル比率は、0.1以下が好ましく、0.01以下がより好ましい。上記ドープ元素含有LiOは、リチウム、ドープ元素及び酸素から実質的に構成されていてよい。上記ドープ元素含有LiOが、リチウム、ドープ元素及び酸素から実質的に構成されていることで、初期及び充放電サイクル後の放電電気量がより向上する。
【0025】
なお、本明細書における正極活物質のドープ元素含有LiOの組成比は、充放電を行っていないドープ元素含有LiO、あるいは次の方法により完全放電状態としたドープ元素含有LiOにおける組成比をいう。まず、蓄電素子を、0.05Cの電流で通常使用時の充電終止電圧となるまで定電流充電し、満充電状態とする。30分の休止後、0.05Cの電流で通常使用時の下限電圧まで定電流放電する。その後、蓄電素子を解体して正極を取り出し、金属リチウム電極を対極とした試験電池を組み立てる。そして、この試験電池を用い、正極合剤1gあたり10mAの電流値で正極電位が2.0V(vs.Li/Li)となるまで定電流放電を行い、正極を完全放電状態に調整する。次に、上記試験電池を再解体し、正極を取り出す。取り出した正極から、正極活物質のドープ元素含有LiOを採取する。ここで、通常使用時とは、当該蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該蓄電素子を使用する場合であり、当該蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該蓄電素子を使用する場合をいう。
【0026】
ドープ元素含有LiOの平均結晶子サイズの上限としては、20nmである。上記平均結晶子サイズが上記範囲であることで、キャリアの移動距離が短くなり、放電電気量が増大する。
【0027】
上記ドープ元素含有LiOの格子ひずみの上限としては、0.75%である。上記平均結晶子サイズが上記範囲であることで、正極活物質の結晶のバルク内に存在する原子の安定性が高くなるため、放電電気量が増大する。
【0028】
上記「平均結晶子サイズ」及び「格子ひずみ」は、Halder―Wagner法によって算出される。具体的には、以下の方法により求めたものとする。
ドープ元素含有LiOのX線回折測定を、X線回折装置(Rigaku社の「MiniFlex II」)を用いて、線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとして行う。このとき、回折X線は、厚み30μmのKβフィルターを通り、高速一次元検出器(D/teX Ultra 2)にて検出される。また、サンプリング幅は0.02°、スキャンスピードは5°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとする。各測定試料は、気密性のX線回折測定用試料ホルダーを用い、アルゴン雰囲気下で充填される。
得られたX線回折パターンを、PDXL(解析ソフト、Rigaku製)を用いて解析する。はじめに、PDXLに測定データを読み込む。つぎに、測定データに計算データを合わせるために、誤差データが1000cps以下になるように「最適化」を実施する。この「最適化」の作業ウィンドウでは、「バックグラウンドを精密化する」および「自動」を選択する。最適化が完了したら、フローバーの「カード情報読み込み」欄から、「ICDD PDF 01-078-1519」のデータを抽出し、「結晶相候補欄」に移動して「確定」する。つぎに、フローバーの「結晶子サイズ・格子ひずみ」を選択し、解析対象相で「Lithium Cobalt Oxide」を選択し、33°および56°のNo.欄にチェックを入れる。「補正幅」で「補正しない」を、「解析対象」で「結晶子サイズと格子ひずみ」を、「解析手法」で「Halder-Wagner法」を選択し、「確定」することで、結晶子サイズと格子ひずみの値が出力される。
【0029】
当該正極活物質は、上記ドープ元素含有LiO以外の他の成分を含んでいてもよい。但し、当該正極活物質に占める上記ドープ元素含有LiOの含有量の下限は、70質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、99質量%がさらに好ましい。このドープ元素含有LiOの含有量の上限は100質量%であってよい。当該正極活物質は、実質的に上記ドープ元素含有LiOのみからなるものであってよい。このように、当該正極活物質の大部分が上記ドープ元素含有LiOから構成されることで、蓄電素子の初期及び充放電サイクル後の放電電気量をより向上できる。
【0030】
当該正極活物質が含んでいてもよい上記ドープ元素含有LiO以外の他の成分としては、上記ドープ元素含有LiO以外の従来公知の正極活物質等が挙げられる。
【0031】
[正極活物質の製造方法]
当該正極活物質は、例えば、逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiOと、ドープ元素となる特定の元素を含む酸化物とを固相反応させて得られる合成品を原料とし、上記原料に、メカノケミカル処理を行うことと、アニール処理を行うことにより製造することができる。このメカノケミカル処理により、逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiOを含有する酸化物に、ドープ元素が新たに配列される。次に、得られた酸化物にアニール処理を行う。このアニール処理により、結晶子サイズと格子ひずみのバランスが調整された当該正極活物質を得ることができる。
【0032】
メカノケミカル法(メカノケミカル処理ともいう。)とは、メカノケミカル反応を利用した合成法をいう。メカノケミカル反応とは、固体物質の破砕過程での摩擦、圧縮等の機械的エネルギーにより局部的に生じる高いエネルギーを利用する結晶化反応、固溶反応、相転移反応等の化学反応をいう。当該製造方法においては、メカノケミカル法による処理によって、LiOの結晶構造中にドープ元素が固溶した構造を形成する反応が生じていると推測される。メカノケミカル法を行う装置としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミルなどの粉砕・分散機が挙げられる。これらの中でもボールミルが好ましい。ボールミルとしては、タングステンカーバイド(WC)製のものや、酸化ジルコニウム(ZrO)製のものなどを好適に用いることができる。
【0033】
ボールミルにより処理する場合、処理の際のボール回転数としては例えば100rpm以上1,000rpm以下とすることができる。また、処理時間としては、例えば0.1時間以上10時間以下とすることができる。また、この処理は、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下又は活性ガス雰囲気下で行うことができるが、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0034】
メカノケミカル法による処理に供される原料としては、例えば、リチウム化合物(LiO等)、ドープ元素を含む化合物(CoO等)、ドープ元素を含むリチウム複合酸化物が挙げられる。ドープ元素を含むリチウム複合酸化物としては、LiCoO、LiCrO、LiFeO、LiNiO、LiCuO、LiMnO、LiAlO、LiGaO、LiInO、LiSiO、LiGeO、LiSnO、LiBO、LiSbO、LiBiO、LiTeOが挙げられる。なお、これらのリチウム複合酸化物は、例えばLiOとCoO等のドープ元素を含む酸化物とを所定比率で混合し、窒素雰囲気下で焼成することにより得ることができる。
【0035】
「アニール処理」とは、被処理物に熱などを加え、被処理物の結晶構造の歪みを取り除く処理である。被処理物に熱などを加えることで、被処理物の原子の熱振動が活発になり、格子内部で原子の再配列が起こる。その結果、結晶子サイズの増大や格子歪みの減少が生じ、被処理物の物理的および化学的な安定性が向上する。当該正極活物質の製造方法におけるメカノケミカル法による処理を行う工程は、ドープ元素含有LiOの合成を行うこと、すなわち化学物質を得ることを目的とする。そのため、メカノケミカル法による処理だけではその結晶子サイズや格子歪を充分に制御することが困難である。従って、上記メカノケミカル法による処理を行った後にアニール処理を実施することで、目的とする化学物質の構成を維持したまま、その結晶子サイズや格子歪みを制御することができる。このように結晶子サイズや格子歪みが好適に調整された当該正極活物質を正極に用いることで、蓄電素子の放電電気量が増大する。
【0036】
アニール処理の温度の下限としては、50℃が好ましく、150℃がより好ましい。一方、アニール処理の温度の上限としては、280℃が好ましく、250℃がより好ましい。アニール処理の温度が上記下限以上であることで、結晶子サイズの増大を抑えたまま、格子歪みを小さくできる。一方、アニール処理の温度が上記上限以下であることで、多少の結晶子サイズの増大を促すものの、格子歪みをさらに小さくできる。
【0037】
アニール処理における加熱時間は、格子歪を小さくでき、かつ過剰な結晶サイズの増大を抑制できる範囲であれば、特に限定されない。アニール処理における加熱時間としては、例えば45分以上90分以下とすることができる。
【0038】
アニール処理を行う雰囲気としては、空気中の水分やCOとの副反応抑制の観点からNやAr等の不活性ガス雰囲気が好ましい。
【0039】
当該正極活物質によれば、結晶子サイズと格子ひずみの均衡がとれる。このため、当該正極活物質は、放電電気量を増大できると推測される。
【0040】
アニール処理の方法としては、結晶子サイズと格子ひずみの均衡を図ることができれば特に限定されず、上記熱を加えること以外の方法を用いてもよい。加えるエネルギーとしては、上記熱以外に、例えば光、プラズマ、圧力、電気及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
<正極>
本発明の一実施形態に係る正極は、上述した当該正極活物質を有する蓄電素子用の正極である。当該正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。
【0042】
上記正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10Ω・cm超であることを意味する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0043】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。正極基材及び後述する負極基材の「平均厚さ」とは、所定の面積の基材を打ち抜いた際の打ち抜き質量を、基材の真密度及び打ち抜き面積で除した値をいう。
【0044】
中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0045】
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。上記正極活物質として、上述した本発明の一実施形態に係る正極活物質を含む。また、上記正極活物質としては、本発明の一実施形態に係る正極活物質以外の公知の正極活物質が含まれていてもよい。
【0046】
当該正極活物質における上記ドープ元素含有LiO(ドープ元素を含み、かつ逆蛍石型の結晶構造を有するLiO)の含有量は、10質量%超が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、65質量%以上が特に好ましい。このように、当該正極活物質に含有される上記ドープ元素含有LiOの含有割合を高めることで、蓄電素子の初期及び充放電サイクル後の放電電気量をより向上できる。一方、当該正極活物質に含有される上記ドープ元素含有LiOの含有量は、99質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。
【0047】
上記導電剤としては、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料;金属;導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛やカーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックの種類としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。これらの中でも、導電性及び塗工性の観点より、炭素質材料が好ましい。なかでも、アセチレンブラックやケッチェンブラックが好ましい。導電剤の形状としては、粉状、シート状、繊維状等が挙げられる。
【0048】
上記正極活物質と導電剤とは複合化されていてもよい。複合化する方法としては、後述するような、正極活物質と導電剤を含む混合物をメカニカルミリング処理する方法等が挙げられる。
【0049】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上40質量%以下が好ましく、3質量%以上30質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0050】
上記バインダーとしては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子などが挙げられる。
【0051】
正極活物質層におけるバインダーの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダーの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0052】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0053】
上記フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0054】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0055】
[正極の製造方法]
当該正極は、例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、本発明の一実施形態に係る正極の製造方法は、本発明の一実施形態に係る正極活物質を用いて正極を作製することを備える。
【0056】
上記正極の作製は、例えば正極基材に直接又は中間層を介して、正極合剤ペーストを塗布し、乾燥させることにより行うことができる。上記正極合剤ペーストには、正極活物質、及び任意成分である導電剤、バインダー等、正極合剤を構成する各成分が含まれる。正極合剤ペーストには、分散媒がさらに含まれていてよい。
【0057】
上記正極の作製において、上記正極活物質と導電剤とを混合する際に、上記正極活物質と導電剤とを含む混合物をメカニカルミリング処理することが好ましい。このように、ドープ元素を含むLiOを含有する正極活物質を用いる場合に、上記正極活物質と導電剤を含む混合物の状態でメカニカルミリング処理することにより、十分な放電性能を備えた蓄電素子とすることのできる正極を確実性高く製造することができる。
【0058】
ここで、メカニカルミリング処理とは、衝撃、ずり応力、摩擦等の機械的エネルギーを与えて、粉砕、混合、又は複合化する処理をいう。メカニカルミリング処理を行う装置としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミルなどの粉砕・分散機が挙げられる。これらの中でもボールミルが好ましい。ボールミルとしては、タングステンカーバイド(WC)製のものや、酸化ジルコニウム(ZrO)製のものなどを好適に用いることができる。なお、ここでいうメカニカルミリング処理は、メカノケミカル反応を伴うことを要しない。このようなメカニカルミリング処理により、正極活物質と導電剤とが複合化され、電子伝導性が改善されると推測される。
【0059】
ボールミルにより処理する場合、処理の際のボール回転数としては例えば100rpm以上1,000rpm以下とすることができる。また、処理時間としては、例えば0.1時間以上10時間以下とすることができる。また、この処理は、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下又は活性ガス雰囲気下で行うことができるが、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0060】
当該正極によれば、当該正極活物質を含有する正極活物質層を備えることで、当該正極を備える蓄電素子の初期及び充放電サイクル後の放電電気量を増大できる。
【0061】
<蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質を有する。以下、蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体は容器に収納され、この容器内に非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記容器としては、二次電池の容器として通常用いられる公知の金属容器、樹脂容器等を用いることができる。
【0062】
(正極)
当該二次電池が備える正極は、上述した本発明の一実施形態に係る正極である。上記正極は、正極活物質を含有する正極活物質層を備える。上記正極活物質がドープ元素を含み、かつ逆蛍石型構造に属する結晶構造を有するLiOを含有し、Halder-Wagner法により算出される上記LiOの平均結晶子サイズが20nm以下であり、Halder-Wagner法により算出される上記LiOの格子ひずみが0.75%以下である。
【0063】
(負極)
上記負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層を有する。上記中間層は正極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0064】
上記負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0065】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0066】
上記負極活物質層は、一般的に負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成される。また、負極活物質層を形成する負極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。負極活物質層は、実質的に金属Li等の負極活物質のみからなる層であってもよい。
【0067】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0068】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。例えばリチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;LiTi12、LiTiO2、TiNb等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0069】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0070】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてエックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0071】
ここで、炭素材料の「放電状態」とは、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極とし、金属Liを対極とする単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態をいう。開回路状態での金属Li対極の電位は、Liの酸化還元電位とほぼ等しいため、上記単極電池における開回路電圧は、Liの酸化還元電位に対する炭素材料を含む負極の電位とほぼ同等である。つまり、上記単極電池における開回路電圧が0.7V以上であることは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されていることを意味する。
【0072】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0073】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0074】
負極活物質の形態が粒子(粉体)の場合、負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が例えば炭素材料である場合、その平均粒径は1μm以上100μm以下が好ましい場合がある。負極活物質が、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、チタン含有酸化物、ポリリン酸化合物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下が好ましい場合がある。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。また、負極活物質が金属Liの場合、その形態は箔状又は板状であってもよい。
【0075】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、例えば負極活物質層が負極合剤から形成されている場合、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。負極活物質が金属Liである場合、負極活物質層における負極活物質の含有量は99質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0076】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダーとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の材質としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの材質の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0077】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0078】
(非水電解質)
非水電解質としては、公知の非水電解質の中から適宜選択できる。非水電解質には、非水電解液を用いてもよい。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0079】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0080】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0081】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもDMC及びEMCが好ましい。
【0082】
非水溶媒として、環状カーボネート及び鎖状カーボネートの少なくとも一方を用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0083】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0084】
リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPFがより好ましい。
【0085】
非水電解液における電解質塩の含有量は、0.1mol/dm以上2.5mol/dm以下であると好ましく、0.3mol/dm以上2.0mol/dm以下であるとより好ましく、0.5mol/dm以上1.7mol/dm以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm以上1.5mol/dm以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0086】
非水電解液は、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えばビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の上記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0087】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上7質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下が特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又は充放電サイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0088】
非水電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0089】
本実施形態の蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、ラミネートフィルム型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0090】
図1に角型電池の一例としての蓄電素子1(蓄電素子)を示す。なお、同図は、ケース内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0091】
本実施形態の蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子1を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの蓄電素子に対して、本発明の一実施形態に係る技術が適用されていればよい。
【0092】
図2に、電気的に接続された二以上の蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0093】
[蓄電素子の製造方法]
当該蓄電素子は、当該正極活物質を用いることにより製造することができる。すなわち当該蓄電素子の製造方法は、本発明の一実施形態に係る正極活物質を用いて正極を作製することを備える。例えば、当該蓄電素子の製造方法は、正極を作製すること、負極を作製すること、非水電解質を調製すること、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成すること、正極及び負極(電極体)を容器に収容すること、並びに上記容器に上記非水電解質を注入することを備える。注入後、注入口を封止することにより当該蓄電素子を得ることができる。上記正極の作製方法の詳細は、上述の通りである。当該蓄電素子の製造方法によれば、初期及び充放電サイクル後の放電電気量を増大できる蓄電素子を製造することができる。
【0094】
当該蓄電素子によれば、当該正極を備えることで、初期及び充放電サイクル後の放電電気量を増大できる。
【0095】
<その他の実施形態>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0096】
上記実施形態では、蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明の非水電解液蓄電素子は、種々の非水電解質二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。また、本発明の正極活物質及び正極は、蓄電素子以外の正極活物質及び正極に用いることもできる。
【実施例
【0097】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
[LiCoOの合成]
LiOとCoOとを3:1のモル比で混合した後、窒素雰囲気下、900℃で20時間焼成し、固相反応によりLiCoOを合成した。
【0099】
[CoドープLiOの合成]
(実施例1)
得られたLiCoOを、アルゴン雰囲気下にて直径5mmのタングステンカーバイド(WC)製ボールが250g入った内容積80mLのWC製ポットに投入し、蓋をした。これを遊星型ボールミル(FRITSCH社の「pulverisette 5」)にセットし、公転回転数400rpmで8時間乾式粉砕した。このようなメカノケミカル法による処理により、ドープ元素としてCoを含むLiO粉末を得た。
【0100】
次に、得られたドープ元素としてCoを含むLiO粉末0.5gをアルゴン雰囲気下にてアルミナるつぼに充填し、100℃で1時間アニール処理をして実施例1の正極活物質を得た。
【0101】
[実施例2、実施例3及び比較例1から比較例3]
得られた正極活物質(LiCoO)のアニール温度を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2、実施例3及び比較例1から比較例3の各正極活物質を得た。また、参考例として出発物質となるボールミル処理前のLiCoO(固相反応合成品)の結晶子サイズ及び格子ひずみを表1に示す。なお、「-」は、該当する処理又は評価を行わなかったことを示す。
【0102】
(正極活物質のエックス線回折測定)
上記実施例及び比較例で得られた各正極活物質について、上記の方法でエックス線回折測定を行った。気密性のエックス線回折測定用試料ホルダーを用い、アルゴン雰囲気下で粉末試料を充填した。用いたエックス線回折装置、測定条件、及びデータ処理方法は上記の通りとした。図3に実施例1から実施例3、比較例1から比較例3及び参考例の各正極活物質の2θ=10°から80°の範囲におけるエックス線回折(XRD)図を示す。実施例1から実施例3、比較例1から比較例3及び参考例の正極活物質のいずれの回折線も、LiO及びLiCoOの回折線に帰属されていた。アニール処理温度の増大とともに、回折パターンが明確になる様子が見られた。
【0103】
(結晶子サイズ及び格子ひずみ)
上述した方法で、エックス線回折測定から得られたパターンをPDXLにより解析した。最適化したパターンの33°および56°のピークと、ICDDデータ(01-078-1519)を使用し、Halder-Wagner法により結晶子サイズと格子ひずみを求めた。実施例1から実施例3、比較例1から比較例3及び参考例の正極活物質における結晶子サイズ及び格子ひずみを表1に示す。
【0104】
(正極の作製)
アルゴン雰囲気下にて、各実施例及び比較例で得られた正極活物質粉末と、導電助材としてのケッチェンブラックと、バインダーとしてのPTFE粉末を、質量比75:20:5で、瑪瑙乳鉢で混錬し、シート状に成型した。このシートを直径12mmφの円盤状に打ち抜き、質量約0.03gの正極シートを作製した。上記正極シートをアルミニウムメッシュ製の正極基材(直径19mmφ)に圧着し、正極を得た。
【0105】
(蓄電素子(評価セル)の作製)
銅箔からなる負極基材に、厚さ100μm、直径20mmφのリチウム金属を配し、負極とした。ECとDMCとEMCとを6:7:7の体積比で混合した非水溶媒に、1mol/dmの濃度でLiPFを溶解させ、非水電解質を調製した。セパレータにはポリプロピレン製微多孔膜を用いた。評価セル(蓄電素子)にはトムセル(有限会社日本トムセル社製)を用いた。ステンレス製の下蓋の上に配されているパッキンの内側に、上記負極、上記セパレータ、及び上記正極を積層し、上記非水電解質(電解液)0.3mLを注入し、スペーサー1枚、及びV字型板ばね1個を使用し、最後にステンレス製の上蓋をナットで締め付けて固定した。このようにして蓄電素子(評価セル)を作製した。上記正極の作製から評価セルの作製までの操作は、全て、アルゴン雰囲気下にて行った。
【0106】
(充放電試験)
実施例1から実施例3、比較例1から比較例3及び参考例の各正極活物質を用いて得られた評価セルについて、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内において、25℃の環境下で充放電試験を行った。電流密度は、正極が含有する正極活物質の質量あたり50mA/gとし、定電流(CC)充放電を行った。充電から開始し、充電は、上限電気量300mAh/gに到達した時点で終了とした。放電は、下限電圧1.5V(vs.Li/Li)に到達した時点で終了とした。この充放電のサイクルを10サイクル繰り返した。1サイクル目の放電電気量及び10サイクル目の放電電気量を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示されるように、アニール処理により、「結晶子サイズの増大」と「格子ひずみの減少」が生じた。そして、ドープ元素を含み、平均結晶子サイズが20nm以下であり、格子ひずみが0.75%以下である実施例1から実施例3は、格子ひずみが0.75%超である比較例1、並びに平均結晶子サイズが20nm超である比較例2及び比較例3と比較して高い1サイクル目の放電電気量及び10サイクル目の放電電気量が得られた。
以上のことから、平均結晶子サイズ及び格子ひずみが小さいほど、初期及び充放電サイクル後の電気化学性能が向上することが確認できた。また、アニール処理温度の増大とともに、平均結晶子サイズの増大と格子ひずみの低下が生じており、アニール処理温度が結晶性に影響を与えることが示された。アニール処理温度が300℃未満であれば、平均結晶子サイズの増加量が比較的小さい状態で格子ひずみの減少量が比較的大きくなるため、初期及び充放電サイクル後の電気化学性能が向上すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される蓄電素子、及びこれに備わる正極、正極活物質などに適用できる。
【符号の説明】
【0110】
1 蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
41 正極リード
5 負極端子
51 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3