(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】粘着剤および粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 133/06 20060101AFI20230926BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230926BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20230926BHJP
【FI】
C09J133/06
C09J11/06
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2019233610
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田村 純子
(72)【発明者】
【氏名】福田 克哲
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-248489(JP,A)
【文献】特許第6562131(JP,B2)
【文献】特開2007-314595(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135546(WO,A1)
【文献】特開2004-359844(JP,A)
【文献】特開2005-255784(JP,A)
【文献】特開2010-209324(JP,A)
【文献】特許第6525098(JP,B1)
【文献】特開平09-087593(JP,A)
【文献】国際公開第2008/139742(WO,A1)
【文献】特開2008-169307(JP,A)
【文献】特開2017-196830(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0129653(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系共重合体(A)、硬化剤(B)、可塑剤(C)、および酸化防止剤(D)を含み、
前記アクリル系共重合体(A)は、炭素数8~10の分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)、およびカルボキシル基を有するモノマー(a2)を含有するモノマー混合物の共重合体であり、
前記可塑剤(C)は、150℃3時間加熱後の揮発減量が15質量%以下であり、
前記可塑剤(C)の含有量は、前記アクリル系共重合体(A)100質量部に対し、1質量部以上20質量部以下であり、
前記酸化防止剤(D)は、フェノール系化合物である、粘着剤。
【請求項2】
前記アクリル系共重合体(A)中のカルボキシル基1当量に対し、前記硬化剤(B)を0.5当量以上含有する、請求項1記載の粘着剤。
【請求項3】
前記アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量は、60万以上300万以下である、
請求項1または2記載の粘着剤。
【請求項4】
前記硬化剤(B)は、アジリジン化合物、エポキシ化合物、および金属キレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3いずれか1項記載の粘着剤。
【請求項5】
前記アクリル系共重合体(A)は、前記モノマー混合物の共重合体100質量%中、炭素数8~10の分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を50質量%以上含有する、請求項1~4いずれか1項記載の粘着剤。
【請求項6】
前記可塑剤(C)は、炭素数8~10の分岐アルキル基を有する、請求項1~
5いずれか1項記載の粘着剤。
【請求項7】
基材と、請求項1~
6いずれか1項記載の粘着剤から形成されてなる粘着剤層とを備えてなる粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤および粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
基材シート上に粘着剤から形成した粘着層を有する粘着シートは、接着剤と比べて取り扱いが容易であることから、表示用ラベル、固定用テープ、または表面保護シート等、幅広い分野で使用されている。
近年、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の画像表示装置とタッチパネルを組み合わせて用いるスマートデバイス、カーナビゲーション等の表示デバイスが普及してきている。これら表示デバイスには、偏光板、位相差板、反射防止フィルム、ガラスカバーパネル、透明導電性ガラス、透明導電性フィルム等の光学部材が使用されている。これら光学部材の製造、組み立ておよび次工程への搬送時には、光学部材の傷つきを防止するために、工程保護として表面保護シートが貼付される。
【0003】
工程保護において、表面保護シートは、各光学部材の製造、組み立ておよび次工程への搬送後に、光学部材から剥離して除去される。また、剥離工程時間の短縮によるコストダウンを目的とし、高速剥離での表面保護シートの除去が一般である。除去作業時、剥離時の接着強度が強い場合、保護対象の光学部材を破損する恐れがあるため、長時間貼付されたのちでも、接着強度上昇の少ない、再剥離性が必要となる。また、高速で表面保護シートを剥離除去した際、ジッピングと呼ばれる断続的な剥離モードが生じることがある。このジッピングは、局所的に剥離応力が集中して起きる現象であるが、ジッピングによって光学部材を損傷する恐れがあるため、剥離時にジッピングを抑制する必要がある。併せて、剥離後、保護対象の光学部材に粘着層が付着して残留しない耐汚染性が必要となる(高速剥離耐性)。
【0004】
また、透明導電性ガラスは基材である光学ガラス表面に、透明導電性フィルムは基材であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムや、シクロオレフィン(COP)フィルム表面に、酸化インジウムとスズの混合物の酸化物であるITOをスパッタにより印刷し、導電回路を形成することで製造される。スパッタ工程時には、基材への傷、汚れを防止するため、スパッタ面とは反対の面に表面保護シートが貼付される。現在のスパッタ工程は、150℃環境下で30~60分が一般的であるが、この間、表面保護シートには、基材からの浮き、剥がれが生じないという密着性が必要となる。また、スパッタ工程後に、表面保護シートは基材から剥離して除去されるため、高温環境下で長時間、光学部材と貼付された後でも、接着強度上昇の少ない、再剥離性および、保護対象の光学部材に粘着層が付着して残留しない、耐汚染性が必要となる。
【0005】
さらには、近年のディスプレイの高画質化、およびタッチパネルの高感度化に伴い、透明導電性ガラス又はフィルムには、さらなる導電回路の高精細化、通電容量の大容量化等の品質が求められている。高精細化を達成するため、導電回路幅および、スパッタピッチをより狭くする必要があり、従来と比較してITOスパッタ工程は複雑化し、そのため工程時間は、より長時間化している。また、大容量化を達成するため、導電性の高い銀やニッケル等の使用、カーボンナノチューブによる電極形成による製造方式への切り替えが始まっている。しかし、これら金属は、蒸着、加工時間を長くとる必要があるため、表面保護シートには、従来よりも、より厳しい加熱工程に耐えうる密着性、再剥離性(耐熱粘着力)、耐汚染性(耐熱汚染性)が求められている。
【0006】
特許文献1には、感圧性粘着剤層が(メタ)アクリル系樹脂、及びSP値が8.5~9.2の可塑剤を(メタ)アクリル系樹脂に対して0.5質量%以上含み、ITOフィルムに対して特定の粘着力を発現する表面保護フィルムが開示されている
しかしこのような従来の表面保護シートでは、150℃環境下で30~60分における密着性、再剥離性、耐汚染性を満足するものはあったが、その品質には限界がある。そのため、長時間(最長3時間程度)の高温環境下においては、粘着剤の分解による再剥離性の悪化、粘着剤に含まれる揮発成分による汚染性の悪化が問題となっているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、初期粘着力が低く、高速剥離耐性に優れるだけでなく、さらに長時間の高温環境下においても再剥離性の悪化、粘着剤に含まれる揮発成分による汚染性の悪化がないため、耐熱後の粘着力も低く、密着性に優れ、剥離後の耐熱汚染性も良好な粘着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の実施態様である粘着剤は、アクリル系共重合体(A)、硬化剤(B)、可塑剤(C)、および酸化防止剤(D)を含み、前記アクリル系共重合体(A)は、炭素数8~10の分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)、およびカルボキシル基を有するモノマー(a2)を含有するモノマー混合物の共重合体であり、前記可塑剤(C)の含有量は、前記アクリル系共重合体(A)100質量部に対し、1質量部以上20質量部以下であり、前記酸化防止剤(D)は、フェノール系化合物である。
【0010】
また、本発明の実施態様は、アクリル系共重合体(A)中のカルボキシル基1当量に対し、前記硬化剤(B)を0.5当量以上含有する、前記粘着剤である。
【0011】
また、本発明の実施態様は、アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量が、60万以上300万以下である、前記粘着剤である。
【0012】
また、本発明の実施態様は、硬化剤(B)が、アジリジン化合物、エポキシ化合物、および金属キレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記粘着剤である。
【0013】
また、本発明の実施態様は、アクリル系共重合体(A)は、前記モノマー混合物の共重合体100質量%中、炭素数8~10の分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を50質量%以上含有する、前記粘着剤である。
【0014】
また、本発明の実施態様は、可塑剤(C)が、150℃3時間加熱後の揮発減量が15質量%以下である、前記粘着剤である。
【0015】
また、本発明の実施態様は、可塑剤(C)が、炭素数8~10の分岐アルキル基を有する、前記粘着剤である。
【0016】
また、本発明の実施態様は、基材と、前記粘着剤から形成されてなる粘着剤層とを備えてなる粘着シートである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の粘着剤を用いた粘着シートは、初期粘着力が低く再剥離性に優れ、ジッピング現象を抑制し、剥離後の汚染も少ないという優れた高速剥離耐性を有する。さらには、長時間、高温環境下での耐熱粘着力も低く、密着性に優れ、耐熱汚染性も良好である。
耐熱保護用として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の詳細を説明する。なお、本明細書では、「(メタ)アクリル」、「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイルオキシ」と表記した場合には、特に説明がない限り、それぞれ、「アクリルまたはメタクリル」、「アクリロイルまたはメタクリロイル」、「アクリル酸またはメタクリル酸」、「アクリレートまたはメタクリレート」、「アクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシ」を表すものとする。「アクリル系共重合体(A)」、「(a1)炭素数8~10の分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル」、および「(a2)カルボキシル基を有するモノマー」はそれぞれ「共重合体(A)」、「モノマー(a1)」、および「モノマー(a2)」と略記することがある。
また、被着体とは、粘着シートを貼り付ける相手方をいう。本発明でシート、フィルムおよびテープは同義語である。
本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。
【0019】
《粘着剤》
本発明の粘着剤は、アクリル系共重合体(A)、硬化剤(B)、可塑剤(C)、および酸化防止剤(D)を含み、前記アクリル系共重合体(A)は、炭素数8~10の分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)、およびカルボキシル基を有するモノマー(a2)を含有するモノマー混合物の共重合体であり、前記可塑剤(C)の含有量は、前記アクリル系共重合体(A)100質量部に対し、1質量部以上20質量部以下であり、前記酸化防止剤(D)は、フェノール系化合物である。
このような粘着剤により、高速剥離耐性に優れるだけでなく、さらに長時間の加熱工程においても再剥離性の悪化、粘着剤に含まれる揮発成分による汚染性の悪化がないため、初期粘着力及び耐熱粘着力が共に低く、剥離後の耐熱汚染性に優れる粘着剤とすることができる。
【0020】
<アクリル系共重合体(A)>
アクリル系共重合体(A)は、炭素数8~10の分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)、カルボキシル基を有するモノマー(a2)、および必要に応じてその他モノマーを含有するモノマー混合物の共重合体である。
【0021】
[モノマー(a1)]
モノマー(a1)は、炭素数8~10の分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。炭素数8~10の分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル中の、アルキル基の炭素数が8~10であり、前記アルキル基が分岐構造を有するものを意味する。モノマー(a1)を含むことで、架橋密度が高くても塗膜に柔軟性を付与でき、高速剥離耐性が向上する。
【0022】
モノマー(a1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸イソデシル等が挙げられる。
これらの中でも、アクリル酸2-エチルヘキシルが好ましい。
【0023】
アクリル系共重合体(A)を構成するモノマー混合物100質量%中のモノマー(a1)の含有率は30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。また、99質量%以下が好ましく、98質量%以下がより好ましく、97質量%以下がさらに好ましい。含有率がこの範囲内であることで、より適度な粘着力を有しつつ、高速剥離耐性を付与できる。
【0024】
[モノマー(a2)]
モノマー(a2)は、カルボキシル基を有するモノマーである。モノマー(a2)を含むことで、塗膜の凝集力が向上し、耐熱後の粘着力上昇や被着体汚染が抑制される。
【0025】
モノマー(a2)の具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸β-カルボキシエチル等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸がより好ましい。
【0026】
アクリル系共重合体(A)を構成するモノマー混合物100質量%中のモノマー(a2)の含有率は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、10質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
含有率がこの範囲内であることで、より凝集力と柔軟性のバランスに優れ、耐熱汚染性と高速剥離耐性を両立しやすくなる。
【0027】
[その他モノマー]
アクリル系共重合(A)は、共重合体を構成するモノマーとして、上記モノマー(a1)、(a2)以外に、その他モノマーを含んでもよい。その他モノマーとしては、水酸基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アルコキシ基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アミノ基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アミド基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。
【0028】
水酸基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが好ましい。具体例としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸7-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルが好ましい。
【0029】
アルコキシ基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルが好ましい。ここで、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル中のアルコキシ基の炭素数は、1~12であることが好ましく、1~4であることがより好ましく、1または2であることがさらに好ましい。また、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル中のアルコキシ基に結合したアルキレン基の炭素数は、1~18であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、1~4であることがさらに好ましい。
アルコキシ基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸2-メトキシメチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸4-エトキシブチル等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル及び(メタ)アクリル酸2-エトキシエチルが好ましい。
【0030】
アミノ基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、無置換のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび置換されたアミノ基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられるが、好ましくは置換されたアミノ基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、より好ましくは置換されたアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステルであり、さらに好ましくはアルキル基で置換されたアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステルであり、特に好ましくは(メタ)アクリル酸N-アルキルアミノエステルおよび(メタ)アクリル酸N,N-ジアルキルアミノエステルである。ここで、置換されたアミノ基中の置換基としては、アルキル基、水酸基で置換されたアルキル基、カルボニル基で置換されたアルキル基等が挙げられるが、この内、アルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。
アミノ基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸アミノメチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノプロピル等が挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸N,N-ジメチルアミノエチルが好ましい。
【0031】
アミド基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アミド基(-C(=O)N-)を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであれば、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸アミドの窒素原子上の水素原子が、置換基を有しても良いアルキル基で一つ以上置換された誘導体であることが好ましい。ここで、置換基を有しても良いアルキル基としては、アルキル基、水酸基で置換されたアルキル基、カルボニル基で置換されたアルキル基等が挙げられる。アミド基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸アミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン、4-アクリロイルモルフォリン等が挙げられる。これらの中でも、ダイアセトンアクリルアミドが好ましい。
【0032】
上記以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等が挙げられる。これらは単独または2種以上を併用できる。
【0033】
[アクリル系共重合体(A)の製造方法]
アクリル系共重合体(A)は、公知の方法により製造することができるが、溶液重合により製造することが好ましい。溶液重合においては、重合する際に使用する溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤を使用することが好ましい。
【0034】
具体的には、溶剤、モノマー、重合開始剤等を窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で、反応温度50~90℃程度に加熱し、4~12時間で重合反応させるのが一般的である。
【0035】
重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤を挙げることができる。これらの重合開始剤は、原料モノマー100質量部に対して、通常は0.01~5質量部の範囲内の量で使用される。また、重合反応中に、連鎖移動剤、原料モノマー、溶媒を適宜添加してもよい。
【0036】
上記重合開始剤の内、アゾ系化合物としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4'-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2'-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等が挙げられる。
【0037】
また、上記重合開始剤の内、有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
【0038】
上記のような条件において、得られる共重合体の重量平均分子量は、公知技術に従って、使用する溶媒の種類および量、重合開始剤の種類および量、反応時間、反応温度などの反応条件を調整することにより調節することができる。
【0039】
アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量は、20万以上が好ましく、40万以上がより好ましく、60万以上がさらに好ましい。また、300万以下が好ましく、250万以下がより好ましく、200万以下がさらに好ましい。重量平均分子量が上記範囲内になることで、凝集力と柔軟性を両立しやすくなり、熱経時による粘着力上昇や被着体汚染を抑制しつつ、高速剥離耐性がより良好となる。
【0040】
アクリル系共重合体(A)の酸価は、1mgKOH/g以上が好ましく、3.5mgKOH/g以上がより好ましく、7mgKOH/g以上がさらに好ましい。また、80mgKOH/g以下が好ましく、55mgKOH/g以下がより好ましく、40mgKOH/g以下がさらに好ましい。
酸価がこの範囲内であることにより、凝集力と柔軟性のバランスに優れ、耐熱汚染性と高速剥離耐性を両立しやすくなる。
【0041】
<硬化剤(B)>
本発明の粘着剤は、硬化剤(B)を含む。硬化剤(B)は、アクリル系共重合体(A)のカルボキシル基と反応することで、塗膜の凝集力が向上し、適度な粘着力が付与され、被着体への糊残りが抑制される。
【0042】
硬化剤(B)としては、アジリジン化合物、エポキシ化合物、金属キレート、イソシアネート化合物、またはカルボジイミド化合物等が挙げられる。
これら硬化剤(B)は、単独または2種以上を併用できる。
これらの中でも、アジリジン化合物、エポキシ化合物、または金属キレートが、長時間の高温環境下の耐性に優れ、高い凝集力を付与し、耐熱後の粘着力上昇を抑制できる観点から好ましく、特にエポキシ化合物が好ましい。
硬化剤を2種以上併用する場合には、エポキシ化合物を50質量%以上含むことが好ましい。
【0043】
アジリジン化合物は、例えば、N,N’-ジフェニルメタン-4,4'-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、N,N’-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、ビスイソフタロイル-1-(2-メチルアジリジン)、トリ-1-アジリジニルホスフィンオキサイド、N,N’-ヘキサメチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、2,2’-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタントリ-β-アジリジニルプロピオネート、およびトリス-2,4,6-(1-アジリジニル)-1、3、5-トリアジン等が挙げられる。これらの中でも、反応性の高さから2,2’-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]が好ましい。
【0044】
エポキシ化合物は、例えば、ビスフェノールA-エピクロロヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、N,N,N',N'-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1、3-ビス(N、N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、およびN,N,N',N'-テトラグリシジルアミノフェニルメタン等が挙げられる。これらの中でも、反応性の高さからN,N,N',N'-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンが好ましい。
【0045】
金属キレートは、例えば、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロムおよびジルコニウムなどの多価金属と、アセチルアセトンまたはアセト酢酸エチルとの配位化合物が好ましい。金属キレートは、例えば、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート、アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレートが挙げられる。これらの中でも、アルミニウムトリスアセチルアセトネートが好ましい。
【0046】
イソシアネート化合物は、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、およびポリメチレンポリフェニルイソシアネート等のジイソシアネートと、トリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体、ならびにそのビュレット体、ならびにそのイソシアヌレート体、ならびに上記ジイソシアネートと、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、およびポリイソプレンポリオール等の内のいずれかのポリオールとのアダクト体などの分子内に3個以上のイソシアネート基を有する化合物;またはこれらのアロファネート体等の分子内に2個のイソシアネート基を有する化合物等が挙げられる。これらの中でも、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体が粘着物性を容易に調整できるため好ましい。なお、イソシアネート基の個数は平均個数である。
【0047】
カルボジイミド化合物は、カルボジイミド化触媒の存在下でジイソシアネート化合物を脱炭酸縮合反応させることによって生成した高分子量ポリカルボジイミドが好ましい。前記高分子量ポリカルボジイミドの市販品は、日清紡績社のカルボジライトシリーズが好ましい。その中でもカルボジライトV-03、07、09は有機溶剤との相溶性に優れており好ましい。
【0048】
硬化剤(B)は、アクリル系共重合体(A)中のカルボキシル基1当量に対して、0.5当量以上含有することが好ましく、0.7当量以上がより好ましく、0.8当量以上がさらに好ましい。また、3当量以下が好ましく、2.5当量以下がより好ましく、2当量以下がさらに好ましい。
硬化剤(B)は、共重合体(A)のカルボキシル基と反応することで粘着剤層の凝集力を向上させるが、硬化剤(B)が共重合体(A)中のカルボキシル基に対して0.5当量未満の場合、粘着剤層中に架橋構造に関与しない共重合体(A)成分が多く存在しやすい。一方、硬化剤(B)が共重合体(A)中のカルボキシル基に対して3当量以上の場合、架橋反応に関与しない過剰の硬化剤(B)が多く存在しやすい。
それに対し、含有量が0.5当量以上になると、粘着剤層が十分な架橋構造を形成し、凝集力が向上し、耐熱粘着力、密着性、耐熱汚染性がより向上する。3当量以下になると凝集力と柔軟性を両立しやすくなり、高速剥離耐性が担保され、過剰な硬化剤による耐熱後の被着体汚染も起きにくい。
そのため、硬化剤(B)は、アクリル系共重合体(A)中のカルボキシル基1当量に対して、0.5当量以上含有することが好ましい。
また、2種以上の硬化剤(B)を併用する場合には、カルボキシル基1当量に対して、エポキシ化合物を0.3当量以上含むことが好ましい。
【0049】
なお、アクリル系共重合体(A)中のカルボキシル基1当量に対する硬化剤(B)の当量は以下の式に基づいて算出する。
当量=[{(硬化剤の添加部数)/(硬化剤の分子量)}×(硬化剤の官能基数)]/(アクリル系共重合体(A)100部中のカルボキシル基のmol数)
また、2種以上の硬化剤(B)を併用する場合には、それぞれの当量を算出した後、合算して求める。
【0050】
<可塑剤(C)>
可塑剤とは、粘着シートを被着体から剥離する際、容易に剥離できる性能を付与できる材料のことをいう。本発明の粘着剤は、可塑剤(C)を含み、これをアクリル系共重合体(A)に配合することで、粘着力が低減し、高速剥離耐性を向上させることができる。
【0051】
可塑剤(C)は、例えば、炭素数1~18の一塩基酸または多塩基酸と炭素数18以下のアルコールとのモノエステル、ジエステル、トリエステル、または炭素数14~18の不飽和脂肪酸または分岐酸と4価以下のアルコールとのエステル、炭素数1~18の一塩基酸または多塩基酸とポリアルキレングリコールとのエステル、ヒドロキシ酸と一塩基酸またはアルコールのジエステル、トリエステル、テトラエステル、不飽和部位を過酸化物等でエポキシ化した脂肪酸エステル、リン酸エステル等が挙げられる。
【0052】
炭素数1~18の一塩基酸または多塩基酸と炭素数18以下のアルコールとのエステルとしては、例えば、ラウリン酸イソステアリル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソステアリル、ステアリン酸イソセチル、オレイン酸オクチルドデシル、アジピン酸ビス-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジイソステアリル、セバシン酸ジイソセチル、フタル酸ビス-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-オクチル、フタル酸ジイソノニル、ピロメリット酸テトラ-n-オクチル、ピロメリット酸テトラ-2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸トリス-2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリオレイル、およびトリメリット酸トリイソセチル等が挙げられる。
【0053】
炭素数14~18の不飽和脂肪酸または分岐酸と4価以下のアルコールとのエステルを構成する炭素数14~18の不飽和脂肪酸および分岐酸と4価以下のアルコールは以下の通りである。炭素数14~18の不飽和脂肪酸または分岐酸は、例えば、ミリストレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。4価以下のアルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン等が挙げられる。
【0054】
炭素数1~18の一塩基酸または多塩基酸とポリアルキレングリコールとのエステルとしては、ジヘキシル酸ポリエチレングリコール、ジ-2-エチルヘキシル酸ポリエチレングリコール、ジラウリル酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、およびアジピン酸ジポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0055】
ヒドロキシ酸と一塩基酸またはアルコールのエステルとしては、乳酸オクチルドデシル、リンゴ酸ジイソステアリル、2-ヒドロキシミリスチン酸メチル、12-ヒドロキシステアリン酸2-エチルヘキシル、リシノール酸エチル、o-アセチルリシノール酸メチル、o-アセチルリシノール酸ブチル、クエン酸トリエチル、o-アセチルクエン酸トリブチル、o-アセチルクエン酸トリ(2-エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0056】
不飽和部位を過酸化物等でエポキシ化した脂肪酸エステルは、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化綿実油等のエポキシ化油脂や炭素数8~18の不飽和脂肪酸をエポキシ化した化合物と、炭素数1~6の直鎖または分岐アルコールとのエステル化合物等が挙げられる。
【0057】
リン酸エステルは、例えば、亜リン酸またはリン酸と炭素数2~18の直鎖または分岐アルコールとのエステル化合物が挙げられる。これらの中でも、アクリル系共重合体(A)との相溶性に優れ、経時後の再剥離性が安定する点から、トリブチルホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、エチレングリコールアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0058】
可塑剤(C)は、150℃3時間加熱後の揮発減量が25質量%以下の材料が好ましく、20質量%以下の材料がより好ましく、15質量%以下の材料がさらに好ましい。150℃3時間加熱後の揮発減量が25質量%以下である可塑剤を用いることで、より初期粘着力と耐熱粘着力の粘着力比のバランスに優れる。
【0059】
150℃3時間加熱後の揮発減量が25質量%以下の可塑剤(C)としては、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、アジピン酸ビス-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、フタル酸ビス-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-オクチル、フタル酸ジイソノニル、ピロメリット酸テトラ-n-オクチル、ピロメリット酸テトラ-2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸トリス-2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリオレイル、ジ-2-エチルヘキシル酸ポリエチレングリコール、アジピン酸ジポリエチレングリコール、o-アセチルリシノール酸メチル、o-アセチルクエン酸トリ(2-エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0060】
さらに、可塑剤(C)は、炭素数1~18の多塩基酸と炭素数18以下のアルコールとのジエステルまたはトリエステル、もしくは炭素数1~18の一塩基酸とポリアルキレングリコールとのエステルが本発明において好適である。中でも可塑剤の構造中に炭素数8~10の分岐アルキル基を有する場合、アクリル系共重合体(A)に含まれる側鎖との絡み合いが生じ易くなることから、耐熱粘着力および耐熱汚染性の観点で好ましい。
炭素数8~10の分岐アルキル基を有する可塑剤としては、アジピン酸ビス-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、フタル酸ビス-2-エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、ピロメリット酸テトラ-2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリス-2-エチルヘキシル、ジ-2-エチルヘキシル酸ポリエチレングリコール等が挙げられる。
これらの中でも、トリメリット酸トリス-2-エチルヘキシル、ジ-2-エチルヘキシル酸ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0061】
150℃3時間加熱後の揮発減量が25質量%以下であり、かつ炭素数8~10の分岐アルキル基を有する可塑剤であることがより好ましく、このような可塑剤としては、アジピン酸ビス-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、フタル酸ビス-2-エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、ピロメリット酸テトラ-2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリス-2-エチルヘキシル、ジ-2-エチルヘキシル酸ポリエチレングリコール等が挙げられ、さらに好ましくは、アジピン酸ジイソデシル、フタル酸ビス-2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリス-2-エチルヘキシル、ジ-2-エチルヘキシル酸ポリエチレングリコールであり、特に好ましくは、トリメリット酸トリス-2-エチルヘキシル、ジ-2-エチルヘキシル酸ポリエチレングリコールである。
これらのうち、150℃3時間加熱後の揮発減量が15質量%以下の可塑剤(C)としては、ミリスチン酸オクチルドデシル、ピロメリット酸テトラ-n-オクチル、ピロメリット酸テトラ-2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸トリス-2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリオレイル、ジ-2-エチルヘキシル酸ポリエチレングリコール、o-アセチルクエン酸トリ(2-エチルヘキシル)等が挙げられる。
これらの可塑剤(C)を用いることにより、初期粘着力と耐熱粘着力の粘着力比のバランスに優れるだけでなく、耐熱粘着力および耐熱汚染性にもより、優れたものとすることができる。
【0062】
可塑剤(C)は、分子量(式量)350~1200のものが好ましい。分子量が前記範囲にあるとアクリル系共重合体(A)との相溶性が向上し、被着体を汚染し難い。
可塑剤(C)は、アクリル系共重合体(A)100質量部に対し、1質量部以上20質量部以下である。好ましくは3質量部以上であり、より好ましくは5質量部以上である。また、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。上記範囲内とすることで高速剥離耐性が向上し、必要な粘着力が維持され、被着体汚染が起こりにくい。
可塑剤(C)は、単独または2種類以上併用できる。
【0063】
<酸化防止剤(D)>
酸化防止剤(D)は、フェノール系化合物である。本発明の粘着剤は、フェノール系化合物を用いることで、アクリル系共重合体(A)の熱劣化を防ぐことができ、熱経時による粘着力上昇や被着体汚染が抑制される。
酸化防止剤(D)は、フェノール系化合物に加えて、その他酸化防止剤を併用してもよく、ラジカル補足剤、過酸化物分解剤のいずれも用いることができる。ラジカル補足剤としては、アミン系化合物等、過酸化物分解剤としては、硫黄系化合物およびリン系化合物等が挙げられる。
【0064】
フェノール系化合物は、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリン-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ベンゼンプロパン酸,3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-,C7-C9側鎖アルキルエステル、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-S-トリアジン-2,4,6-(1H、3H、5H)トリオン、およびトコフェノール等が挙げられる。
【0065】
中でも3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-S-トリアジン-2,4,6-(1H、3H、5H)トリオンが、分子量が高くブリードアウトしにくい点で好ましい。
【0066】
酸化防止剤(D)は、アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましく、0.3質量部以上がさらに好ましい。5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましく、2質量部以下がさらに好ましい。上記範囲内とすることで他の性能を劣化させずに粘着剤や粘着剤層の熱分解を抑制できる。
【0067】
<その他>
本発明の粘着剤には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、所望により各種樹脂や添加剤を添加することができる。例えば、タッキファイヤ、シランカップリング剤、熱または光安定剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、消泡剤、抗菌剤、保湿剤、ビタミン類、顔料、染料、香料などを挙げることができる。これらは、必要に応じて有効量を配合する。
【0068】
《粘着シート》
粘着シートは、基材と、本発明の粘着剤から形成されてなる粘着剤層とを備える。
粘着シートは、例えば、基材上に粘着剤を塗工、乾燥し、粘着剤の硬化物である粘着剤層を形成することにより製造できる。粘着剤層は基材の少なくとも一方の面に設けられていれば良い。
本発明の粘着シートは、再剥離性に優れ、かつ高速再剥離耐性、ならびに加熱工程に対する耐熱粘着力および耐熱汚染性が良好であることより、表面保護シートとして好適に用いることができる。
【0069】
粘着剤を塗工するに際し、適当な液状媒体、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶剤;ジエチルエーテル、メトキシトルエン、ジオキサン等のエーテル系溶剤、その他の炭化水素系溶剤等の有機溶剤を添加して、粘度を調整することもできるし、粘着剤を加熱して粘度を低下させることもできる。
【0070】
基材としては、例えば、セロハン、プラスチックシート、ゴム、発泡体、布帛、ゴム布、樹脂含浸布、ガラス板、木材等が挙げられ、板状であってもフィルム状であっても良い。その中でも液晶ディスプレイ装置に用いる場合、基材はフィルムが好ましい。さらに基材は単独で用いることもできるし、複数のものを積層してなる多層状態にあるものも用いることができる。さらに基材の表面を剥離処理したもの(以下、剥離シートと呼ぶ)を用いることもできる。
【0071】
プラスチックシートとしては、プラスチックフィルムともいわれ、ポリビニルアルコールフィルムやトリアセチルセルロースフィルム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリシクロオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系樹脂のフィルム、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂のフィルム、ポリカーボネート系樹脂のフィルム、ポリノルボルネン系樹脂のフィルム、ポリアリレート系樹脂のフィルム、アクリル系樹脂のフィルム、ポリフェニレンサルファイド樹脂のフィルム、ポリスチレン樹脂のフィルム、ビニル系樹脂のフィルム、ポリアミド系樹脂のフィルム、ポリイミド系樹脂のフィルム、エポキシ系樹脂のフィルムなどが挙げられる。
【0072】
本発明において粘着剤の塗工方法は、特に制限は無く、マイヤーバー、アプリケーター、刷毛、スプレー、ローラー、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、コンマコーター、ナイフコーター、リバースコ-ター、スピンコーター等が挙げられる。乾燥方法には特に制限はなく、熱風乾燥、赤外線や減圧法を利用したものが挙げられる。乾燥条件としては粘着剤の硬化形態、膜厚や選択した溶剤にもよるが、通常60~130℃程度の熱風加熱でよい。
【0073】
本発明の粘着シートは、(ア)剥離処理されたフィルムの剥離処理面に粘着剤を塗工、乾燥し、基材を粘着剤層の表面に積層したり、(イ)基材に粘着剤を直接塗工、乾燥し、粘着剤層の表面に剥離処理されたフィルムの剥離処理面を積層したりすることによって得ることができる。
【0074】
被着体に関しては、特に制限なく使用できる。被着体は、汎用ガラス、建材、ポリオレフィン、ABS、ポリスチレン、アクリル等のプラスチック、ダンボール、木材、合板、ステンテス、アルミ等の金属や、例えば、光学ガラスである無アルカリガラス、偏光板、楕円偏光フィルム、透明導電フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、超撥水ガラスなどの光学部材等が挙げられる。
本発明の粘着シートは、被着体として光学部材に用いられる光学粘着シートとして好適に用いることができる。
【0075】
粘着剤層の厚さは、0.1~300μmであることが好ましく、1~200μmであることがより好ましく、3~150μmであることがさらに好ましい。
【0076】
[高速剥離耐性]
光学部材の傷つきを防止するために貼付された表面保護シートは、光学部材の製造工程後に剥離される。その際、剥離工程時間の短縮によるコストダウンを目的とし、表面保護シートは高速で剥離される。
剥離時、光学部材への密着性が十分でない場合、ジッピングと呼ばれる断続的な剥離モードが生じることがある。このジッピングは、局所的に剥離応力が集中して起きる現象であるが、ジッピングによって光学部材を損傷する恐れがある。
また、光学部材への密着性が高すぎる場合、剥離後、保護対象の光学部材に粘着層が付着して残留し光学部材を汚染する。
本発明の粘着剤を用いた表面保護シートは、ジッピングの抑制と、耐汚染性とを両立することができる。
【0077】
[粘着力比]
被着体が、透明導電性ガラス、透明導電性フィルム等の製造工程において熱処理を必要とする光学部材の場合、貼付される表面保護シートには、高温環境下に長時間(例えば150℃3時間)曝されても、光学部材からの浮き、剥がれが生じないという密着性と、再剥離性、および耐汚染性の両立が必要とされる。
本発明の粘着剤を用いた表面保護シートは、高温環境下でも熱劣化しにくく、高温暴露の前後での粘着力変化(粘着力比)を小さくできる。これにより、密着性と再剥離性が両立でき、さらに分解物等による被着体汚染が生じにくい。
なお、粘着力比は、初期粘着力に対する耐熱粘着力(150℃3時間)の割合であり、下記式で表される。
粘着力比=(耐熱粘着力/初期粘着力)
【実施例】
【0078】
以下、合成例、本発明に係る実施例、および比較例について説明する。なお、以下の記載において、特に明記しない限り、「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味し、「RH」は相対湿度を意味するものとする。
また、表中の配合量は、質量部である。なお、表中の空欄は配合していないことを表す。
なお、アクリル共重合体の酸価、アクリル共重合体の重量平均分子量(Mw)、および可塑剤の揮発減量の測定方法は以下の通りである。
【0079】
[酸価の測定]
共栓三角フラスコ中に試料1gを精密に量り採り、トルエン/エタノール(容量比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解した後、0.1N-アルコール性水酸化カリウム溶液を用いて滴定を行う。酸価(単位:mgKOH/g)は次式により求める。
酸価={(5.61×a×F)/S}/(不揮発分濃度/100)
式中、各符号は以下のパラメータを示す。
S:試料の採取量(g)、
a:0.1N-アルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)、
F:0.1N-アルコール性水酸化カリウム溶液のファクター。
【0080】
[重量平均分子量(Mw)]
Mwは、下記の条件により測定した。Mwの決定は、重量平均分子量が既知のポリスチレンを標準物質に用いた検量線法により決定した。
装置名:島津製作所社製、LC-GPCシステム「Prominence」
カラム:東ソー社製GMHXL 4本、東ソー社製HXL-H 1本を直列に連結
移動相溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:1.0ml/分
カラム温度:40℃
【0081】
[可塑剤の揮発減量]
可塑剤の揮発減量は、メンタム缶に可塑剤を約3g量りとり、150℃3時間加熱前後での質量を測定することにより算出した。
【0082】
実施例で使用した材料を以下に示す。
《材料》
<モノマー>
[モノマー(a1)]
2EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
iDA:アクリル酸イソデシル
[モノマー(a2)]
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
[その他モノマー]
BA:アクリル酸ブチル
MA:アクリル酸メチル
HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
【0083】
<硬化剤(B)>
TGXA:N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン(分子量360.5、官能基数4)
HBAP:2,2’-ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート](分子量425.5、官能基数3)
AlAA:アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)(分子量324.3、官能基数3)
TDI-TMP:トリレンジイソシネートのトリメチロールプロパンアダクト体(分子量656.8、官能基数3)
【0084】
<酸化防止剤(D)>
D-1:テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン
D-2:3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン
D-3:1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-S-トリアジン-2,4,6-(1H、3H、5H)トリオン
<その他酸化防止剤>
DC-1:N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン
【0085】
<アクリル共重合体の製造>
(合成例1;アクリル共重合体(A-1))
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器(以下、単に「反応容器」と称することがある)に、アクリル酸2-エチルヘキシル45.0部、アクリル酸ブチル4.25部、アクリル酸0.25部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル0.5部、アセトン20部、酢酸エチル20部、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.02部を仕込んだ後、反応容器内の空気を窒素ガスで置換した。さらに、滴下漏斗に、アクリル酸2-エチルヘキシル45.0部、アクリル酸ブチル4.25部、アクリル酸0.25部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル0.5部、酢酸エチル20部、AIBN0.02部を仕込んだ。次いで、反応容器内を窒素雰囲気下で撹拌しながら、80℃まで加熱し、反応を開始した後、滴下漏斗内容部を2時間かけて滴下し、窒素雰囲気下にて還流温度で7時間重合反応を行った。反応終了後、冷却し、酢酸エチルを加えて希釈し、不揮発分35%のアクリル系共重合体(A)溶液を得た。また、GPCを用いてアクリル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)を測定したところ、重量平均分子量は91万であった。得られた共重合体を、共重合体(A-1)とする。
【0086】
(合成例2~4、6、7、9;アクリル共重合体(A-2~4、6、7、AC-1))
表1の材料および配合比率に変更した以外は、合成例1と同様の方法でそれぞれアクリル系共重合体を合成した。
【0087】
(合成例5、8、10;アクリル共重合体(A-5、8、AC-2))
表1の材料および配合比率に変更し、さらに合成例1における反応容器内の溶剤を酢酸エチル40部へ変更した以外は、合成例1と同様の方法でそれぞれアクリル系共重合体を合成した。
上記合成例で得られたアクリル系共重合体の内、合成例1~8で得られたアクリル系共重合体がアクリル系共重合体(A)に該当し、合成例9および10で得られたアクリル系共重合体がアクリル系共重合体(A)ではないアクリル系共重合体に該当する。
【0088】
【0089】
<可塑剤(C)の製造>
(可塑剤:C-1)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器(以下、単に「反応容器」と記述する。)に、2-エチルヘキサン酸100部、PEG-300[ポリエチレングリコール、Mw=300:(三洋化成工業株式会社製)]46部、及び触媒としてテトライソプロポキシチタン0.01部を仕込み、この反応容器内の雰囲気を窒素ガスで置換した。その後、窒素雰囲気下で撹拌しながら、220℃まで加熱し反応を開始した。その後、反応溶液を220℃で8時間反応させた。さらに、圧力4000Pa 、220℃で1時間反応させ、反応終了後、冷却し可塑剤(C-1)ジ-2-エチルヘキシル酸ポリエチレングリコールを得た。
【0090】
(可塑剤:C-2)
反応容器に、トリメリット酸100部、オクタノール186部、及び触媒としてテトライソプロポキシチタン0.01部を仕込み、この反応容器内の雰囲気を窒素ガスで置換した。その後、窒素雰囲気下で撹拌しながら、220℃まで加熱し反応を開始した。その後、反応溶液を220℃で8時間反応させた。さらに、圧力4000Pa 、220℃で1時間反応させ、反応終了後、冷却し可塑剤(C-2)トリメリット酸トリ-n-オクチルを得た。
【0091】
(可塑剤:C-3)
反応容器に、フタル酸100部、2-エチルヘキサノール235部、及び触媒としてテトライソプロポキシチタン0.01部を仕込み、この反応容器内の雰囲気を窒素ガスで置換した。その後、窒素雰囲気下で撹拌しながら、220℃まで加熱し反応を開始した。その後、反応溶液を220℃で8時間反応させた。さらに、圧力4000Pa 、220℃で1時間反応させ、反応終了後、冷却し可塑剤(C-3)フタル酸ビス-2-エチルヘキシルを得た。
【0092】
(可塑剤:C-4)
反応容器に、ミリスチン酸100部、イソプロパノール26部、及び触媒としてテトライソプロポキシチタン0.01部を仕込み、この反応容器内の雰囲気を窒素ガスで置換した。その後、窒素雰囲気下で撹拌しながら、220℃まで加熱し反応を開始した。その後、反応溶液を220℃で8時間反応させた。さらに、圧力4000Pa 、220℃で1時間反応させ、反応終了後、冷却し可塑剤(C-4)ミリスチン酸イソプロピルを得た。
【0093】
可塑剤(C)の150℃3時間加熱後の揮発減量[質量%]を表2に記した。
【0094】
【0095】
(実施例1)
<粘着剤の作製>
得られたアクリル系共重合体(A-1)の不揮発分100部に対して、硬化剤(B)TGXAを不揮発分換算で0.6部、可塑剤(C-1)ジ-2-エチルヘキシル酸ポリエチレングリコールを5部、酸化防止剤(D-1)テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.5部、希釈溶剤として酢酸エチルを添加し、撹拌し、粘着剤を得た。
【0096】
<粘着シートの作製>
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製フィルム上に、乾燥後の厚みが15μmとなるように上記で得られた粘着剤を塗工し、熱風オーブンにて100℃、2分間乾燥して粘着剤層を作製した。乾燥後、厚さ38μmのポリエステル製セパレーターにラミネートし、さらに23℃-50%RHで7日間養生し、粘着シートを得た。
【0097】
なお、上記粘着剤において、アクリル系共重合体(A)中のカルボキシル基に対する硬化剤(B)の含有量は、下記式より、1.0当量である。
当量=[{(硬化剤の添加部数)/(硬化剤の分子量)}×(硬化剤の官能基数)]/(アクリル系共重合体(A)100部中のカルボキシル基のmol数)
={(0.6/360.5)×4}/0.007=1.0
【0098】
(実施例2~26、比較例1~5)
表1~6に示す材料、組成、量になるよう変更した以外は、実施例1と同様に、それぞ
れ粘着剤および粘着シートを製造し、測定および評価を行った。なお、表中の数値は、特
に断りがない限り、部を表し、空欄は使用していないことを表す。
但し、実施例22は参考例である。
【0099】
[評価項目および評価方法]
粘着層の物性値、粘着剤および粘着シートの評価項目および評価方法は、以下の通りである。
【0100】
<高速剥離耐性>
得られた粘着シートを幅25mm、長さ100mmの大きさに切り出した。次いで23℃-50%RHの環境下、粘着シートからセパレーターを剥がして露出した粘着剤層を、厚さ100μmのアルカリガラス板に貼付し、50℃、5気圧の条件のオートクレーブ内に20分間保持して測定試料を作製した。この測定試料を、23℃-50%RHの環境下で24時間保存した後、引張試験機(オリエンテック社製「テンシロン」)を用いて、剥離速度10m/分、剥離角度180°の条件で剥離した際の挙動、およびガラス板表面の様子を観察した。評価基準は以下の通りである。
◎:剥離時にジッピング現象が認められず、かつガラス板表面に曇りや糊残りが認められない。(優良)
○:剥離時にジッピング現象が認められるが、ガラス板表面に曇りや糊残りが認められない。(良好)
△:剥離時にジッピング現象が認められ、ガラス板表面に曇りが認められる。(使用可)
×:剥離時にジッピング現象が認められ、かつガラス板表面に糊残りが認められる。(使用不可)
【0101】
<初期粘着力>
得られた粘着シートを幅25mm、長さ100mmの大きさに切り出した。次いで23℃-50%RHの環境下、粘着シートからセパレーターを剥がして露出した粘着剤層を、厚さ100μmのアルカリガラス板に貼付し、2kgロールにより1往復させて測定試料を作製した。圧着20分後、引張試験機(オリエンテック社製「テンシロン」)を用いて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で、剥離強度を測定した。評価基準は以下の通りである。
◎:粘着力が60mN/25mm未満(優良)
○:粘着力が60mN/25mm以上100mN/25mm未満(良好)
△:粘着力が100mN/25mm以上150mN/25mm未満(使用可)
×:粘着力が150mN/25mm以上(使用不可)
【0102】
<耐熱粘着力>
得られた粘着シートを幅25mm、長さ100mmの大きさに切り出した。次いで23℃-50%RHの環境下、粘着シートからセパレーターを剥がして露出した粘着剤層を、厚さ100μmのアルカリガラス板に貼付し、2kgロールにより1往復させて測定試料を作製した。圧着後、150℃環境下に1時間または3時間放置、さらにその後23℃-50%RH環境下に30分間放置し、上記初期粘着力と同様に剥離強度を測定した。評価基準は以下の通りである。
◎:粘着力150mN/25mm未満(優良)
○:粘着力が150mN/25mm以上250mN/25mm未満(良好)
△:粘着力が250mN/25mm以上400mN/25mm未満(使用可)
×:粘着力が400mN/25mm以上(使用不可)
【0103】
<粘着力比>
上記初期粘着力と耐熱粘着力(150℃3時間)との比率(耐熱粘着力/初期粘着力)を算出し、以下の基準に基づいて評価を行った。
◎:2.0未満(優良)
○:2.0以上3.5未満(良好)
△:3.5以上5.0未満(使用可)
×:5.0以上(使用不可)
【0104】
<耐熱汚染性>
上記耐熱粘着力(150℃3時間)試験後のアルカリガラス板に、市販ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製No.31Bテープ)を貼付し、上記初期粘着力と同様に剥離強度を測定した(耐熱剥離強度)。それとは別に、未使用のアルカリガラス板に上記ポリエステル粘着テープを貼付し、上述と同様に剥離強度を測定(初期剥離強度)し、初期剥離強度と耐熱剥離強度の剥離強度比率(耐熱剥離強度/初期剥離強度)を算出し、以下の基準に基づいて評価を行った。
◎:剥離強度比率が0.8以上(優良)
○:剥離強度比率が0.6以上0.8未満(良好)
△:剥離強度比率が0.4以上0.6未満(使用可)
×:剥離強度比率が0.4未満(使用不可)
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
表3~6より、本発明の、アクリル系共重合体(A)、硬化剤(B)、可塑剤(C)、および酸化防止剤(D)を含み、前記アクリル系共重合体(A)は、炭素数8~10の分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)、およびカルボキシル基を有するモノマー(a2)を含有するモノマー混合物の共重合体であり、前記可塑剤(C)の含有量は、前記アクリル系共重合体(A)100質量部に対し、1質量部以上20質量部以下であり、前記酸化防止剤(D)は、フェノール系化合物である粘着剤を用いた粘着シートは、初期粘着力が低く再剥離性に優れ、ジッピング現象を抑制し、剥離後の汚染も少ないという優れた高速剥離耐性を有していた。さらに、長時間、高温環境下での耐熱粘着力も低く、密着性に優れ、耐熱汚染性も良好であった。