(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】耐炎化繊維束の製造方法および炭素繊維束の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 9/22 20060101AFI20230926BHJP
D01F 9/32 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
D01F9/22
D01F9/32
(21)【出願番号】P 2019550872
(86)(22)【出願日】2019-09-12
(86)【国際出願番号】 JP2019035858
(87)【国際公開番号】W WO2020066653
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2018183750
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久慈 祐介
(72)【発明者】
【氏名】高松 幸平
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-160435(JP,A)
【文献】特開2011-127264(JP,A)
【文献】特開平11-061574(JP,A)
【文献】特開2016-160560(JP,A)
【文献】特開2010-285710(JP,A)
【文献】特開2000-160436(JP,A)
【文献】特開2014-025167(JP,A)
【文献】特開平10-266023(JP,A)
【文献】特開2008-019526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 9/22
D01F 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の束を隣接させて引き揃えたアクリル系繊維束を、耐炎化炉外両側に設置されるガイドローラーによって搬送させながら、熱風加熱式の耐炎化炉内を走行させて酸化性雰囲気中で熱処理する耐炎化繊維束の製造方法であって、耐炎化炉内における熱風の方向が繊維束の走行方向に対して平行であって、次式(1)で定義される隣接繊維束間の接触率Pを2~18%と
し、前記ガイドローラー間の水平距離が20m以上であり、耐炎化炉内を流れる熱風の風速が2.0~5.0m/秒である耐炎化繊維束の製造方法。
P=[1-p(x){-t<x<t}]×100 (1)
ここで、Pは隣接繊維束間の接触率(%)、tは隣接する繊維束間の隙間(mm)、p(x)は正規分布N(0、σ
2)の確率密度関数、σは振幅の標準偏差、xは振幅の中央をゼロとする確率変数を表す。
【請求項2】
前記ガイドローラーが糸幅規制機構を有する請求項
1に記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【請求項3】
前記アクリル系繊維束の単繊維の表面が、円周方向2.0μm・繊維軸方向2.0μm四方の範囲において、繊維の長手方向に2.0μm以上延びる表面凹凸構造を有し、かつ前記単繊維断面の長径/短径の比が1.01~1.10である請求項1
または2に記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【請求項4】
前記アクリル系繊維束のフックドロップ長が300mm以下である請求項1~
3のいずれかに記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【請求項5】
前記アクリル系繊維束に付着するシリコン系油剤の付着量が0.1~3.0質量%である請求項1~
4のいずれかに記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【請求項6】
前記アクリル系繊維束の単繊維繊度が0.05~0.22texである請求項1~
5のいずれかに記載の耐炎化繊維束の製造方法。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の耐炎化繊維束の製造方法で製造された耐炎化繊維束を、不活性雰囲気中最高温度300~1,000℃で前炭素化処理して前炭素化繊維束を製造し、該前炭素化繊維束を不活性雰囲気中最高温度1000~2000℃で炭素化処理する炭素繊維束の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維束の製造方法に関するものである。更に詳しくは、高品質な耐炎化繊維束を操業トラブルなく、生産効率よく生産することのできる耐炎化繊維束の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は比強度、比弾性率、耐熱性、および耐薬品性に優れていることから、各種素材の強化材として有用であり、航空宇宙用途、レジャー用途、一般産業用途等の幅広い分野で使用されている。
【0003】
一般に、アクリル系繊維束から炭素繊維束を製造する方法としては、アクリル系重合体の単繊維を数千から数万本束ねた繊維束を耐炎化炉に送入し、200~300℃に熱せられた空気等の酸化性雰囲気の熱風に晒すことにより加熱処理(耐炎化処理)した後、得られた耐炎化繊維束を炭素化炉に送入し、300~1000℃の不活性ガス雰囲気中で加熱処理(前炭素化処理)した後に、さらに1000℃以上の不活性ガス雰囲気で満たされた炭素化炉で加熱処理(炭素化処理)する方法が知られている。また、中間材料である耐炎化繊維束は、その燃え難い性能を活かして、難燃性織布向けの素材としても広く用いられている。
【0004】
炭素繊維束製造工程中における処理時間が最も長く、消費されるエネルギー量が最も多くなるのは耐炎化工程である。このため耐炎化工程での生産性向上が炭素繊維束製造において最も重要となる。
【0005】
耐炎化工程での長時間の熱処理を可能とするため、耐炎化を行うための装置(以下、耐炎化炉という)は、耐炎化炉外部に配設した折り返しローラーによって、アクリル系繊維を水平方向に多数回往復させて耐炎化させながら処理するのが一般的である。耐炎化工程での生産性向上のためには、同時に多数の繊維束を搬送することで耐炎化炉内の繊維束の密度を上げることと、繊維束の走行速度を上げることが有効である。
【0006】
しかしながら、炉内の繊維束の密度を上げる場合、繊維束の振動による隣接する繊維束間の接触頻度が増す。そのため、繊維束の混繊や、単繊維切れ等が頻繁に発生することによる耐炎化繊維の品質の低下等を招く。
【0007】
また繊維束の走行速度を上げる場合については、同じ熱処理量を得るために、耐炎化炉のサイズを大きくする必要がある。とくに高さ方向のサイズを大きくすることは、建屋階層を複数に分けたり、床面の単位面積あたりの耐過重を上げる必要があるため、設備費増大につながる。そこで設備費増大を抑えて耐炎化炉のサイズを大きくするには、水平方向1パスあたりの距離(以下、耐炎化炉長という)を大きくすることで高さ方向のサイズを小さくすることが有効である。ただし、耐炎化炉長を大きくすることで、走行する繊維束の懸垂量が大きくなり、上記繊維束の密度を上げる場合と同じように、振動による隣接する繊維束間の接触、繊維束の混繊や、単繊維切れ等が頻繁に発生することよる耐炎化繊維の品質の低下等を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
上記の問題を解決するために、特許文献1では、耐炎化工程における繊維束シート状物の面占有率の規定し、さらに耐炎化炉内の風速、および耐炎化工程での工程張力の適正化を図ることが説明されている。
【0009】
また、特許文献2では、耐炎化工程における繊維束シート状物の面占有率、耐炎化炉内の風速、耐炎化炉内の繊維束の密度、具体的には走行繊維束の巾1mmあたりの繊度を規定することが説明されている。
【0010】
さらに、特許文献3では、耐炎化炉長が長くなった場合での耐炎化工程のラインスピード、繊維束の最大懸垂量の適正化を図ることが説明されている。
【文献】特開2000-160435号公報
【文献】特開2011-127264号公報
【文献】特開平11-61574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1および特許文献2では生産性向上のために耐炎化炉長も大きくする場合に、規定の面占有率のパラメータでは隣接する繊維束間の接触を回避することができない。そのため、高品質な耐炎化繊維を製造することができない懸念がある。また、特許文献3では、繊維束の最大懸垂量の規定により、耐炎化炉長の大きい場合の隣接繊維束間の接触抑制が考慮されているが、耐炎化炉内における繊維束の密度については言及されておらず、生産性を向上することができない。
【0012】
従って、本発明が解決しようとする課題は、高品質な耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を操業トラブルなく、生産効率よく生産することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の耐炎化繊維束の製造方法は、次の構成を有する。すなわち、
複数の束を隣接させて引き揃えたアクリル系繊維束を、耐炎化炉外両側に設置されるガイドローラーによって搬送させながら、熱風加熱式の耐炎化炉内を走行させて酸化性雰囲気中で熱処理する耐炎化繊維束の製造方法であって、耐炎化炉内における熱風の方向が繊維束の走行方向に対して平行であって、次式(1)で定義される隣接繊維束間の接触率Pを2~18%とし、前記ガイドローラー間の水平距離が20m以上であり、耐炎化炉内を流れる熱風の風速が2.0~5.0m/秒である耐炎化繊維束の製造方法、である。
【0014】
P=[1-p(x){-t<x<t}]×100 (1)
ここで、Pは隣接繊維束間の接触率(%)、tは隣接する繊維束間の隙間(mm)、p(x)は正規分布N(0、σ2)の確率密度関数、σは振幅の標準偏差、xは振幅の中央をゼロとする確率変数を表す。
【0015】
本発明における「隣接繊維束間の接触率P」とは、複数の繊維束を隣接するよう並列して走行させた時に、繊維束の幅方向の振動(糸揺れ)により、隣接する繊維束間の隙間がゼロになる確率を指す。上記繊維束の幅方向の振動の振幅は、繊維束の振幅平均を0、振幅の標準偏差をσとした時、正規分布Nに従うと仮定し、隣接繊維束間の接触率Pは上記式(1)で求めることができる。
【0016】
また、本発明の炭素繊維束の製造方法は、次の構成を有する。すなわち、
上記の耐炎化繊維束の製造方法で製造された耐炎化繊維束を、不活性雰囲気中最高温度300~1,000℃で前炭素化処理して前炭素化繊維束を製造し、該前炭素化繊維束を不活性雰囲気中最高温度1,000~2,000℃で炭素化処理する炭素繊維束の製造方法、である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の耐炎化繊維の製造方法によれば、高品質の耐炎化繊維を操業トラブルなく、生産効率よく生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】隣接繊維束間の接触率Pを説明するためのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の耐炎化繊維束の製造方法において被熱処理繊維束として使用するアクリル系繊維束は、アクリロニトリル100%のアクリル繊維、又はアクリロニトリルを90モル%以上含有するアクリル共重合繊維からなるのが好適である。アクリル共重合繊維における共重合成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、およびこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム金属塩、アクリルアミド、アクリル酸メチル等が好ましいが、アクリル系繊維束の化学的性状、物理的性状、寸法等はとくに制限されるものではない。
【0020】
本発明は、前記アクリル系繊維束を酸化性雰囲気中で耐炎化処理する方法であって、酸化性気体が内部を流れる耐炎化炉において実施される。
図1に示すように、耐炎化炉1は、多段の走行域を折り返しながら走行するアクリル系繊維束2に熱風を吹きつけて耐炎化処理する熱処理室3を有する。アクリル系繊維束2は、耐炎化炉1の熱処理室3側壁に設けた開口部(図示せず)から熱処理室3内に送入され、熱処理室3内を直線的に走行した後、対面の側壁の開口部から熱処理室3外に一旦送出される。その後、熱処理室3外の側壁に設けられたガイドローラー4によって折り返され、再び熱処理室3内に送入される。このように、アクリル系繊維束2は複数のガイドローラー4によって走行方向を複数回折り返すことで、熱処理室3内への送入送出を複数回繰り返して、熱処理室3内を多段で、全体として
図1の上から下に向けて移動する。なお、移動方向は下から上でもよく、熱処理室3内でのアクリル系繊維束2の折り返し回数はとくに限定されず、耐炎化炉1の規模等によって適宜設計される。なおガイドローラー4は、熱処理室3の内部に設けてもよい。
【0021】
アクリル系繊維束2は、折り返しながら熱処理室3内を走行している間に、熱風吹出口5から熱風排出口に向かって流れる熱風によって耐炎化処理されて、耐炎化繊維束となる。なお、アクリル系繊維束2は、
図2に示すように紙面に対して垂直な方向に複数本並行するように引き揃えられた幅広のシート状の形態を有している。
【0022】
熱風吹出口5には、その吹出し面に多孔板等の抵抗体およびハニカム等の整流部材(ともに図示せず)を配して圧力損失を持たせるのが好ましい。整流部材により、熱処理室3内に吹き込む熱風を整流し、熱処理室3内により均一な風速の熱風を吹き込むことができる。
【0023】
熱風排出口6には、熱風吹出口5と同様に、その吸込み面に多孔板等の抵抗体を配して圧力損失を持たせてもよく、必要に応じて適宜決定される。
【0024】
熱処理室3内を流れる酸化性気体は空気等でよく、熱処理室3内に入る前に加熱器7によって所望の温度に加熱され、送風機8によって風速が制御された上で、熱風吹出口5から熱処理室3内に吹き込まれる。熱風排出口6から熱処理室3外に排出された酸化性気体は排ガス処理炉(図示せず)で有毒物質を処理された後に大気放出されるが、循環経路(図示せず)を通って再び熱風吹出口5から熱処理室3内に吹き込まれてもよい。
【0025】
なお、耐炎化炉1に用いられる加熱器7としては、所望の機能を有していればとくに限定されず、例えば電気ヒーター等の公知の加熱器を用いればよい。送風器8に関しても、所望の機能を有していればとくに限定されず、例えば軸流ファン等の公知の送風器を用いればよい。
【0026】
また、ガイドローラー4のそれぞれの回転速度を変更することで、アクリル系繊維束2の走行速度、張力を制御することができ、これは必要とする耐炎化繊維束の物性や単位時間あたりの処理量に応じて固定される。
【0027】
さらに、ガイドローラー4の表層に所定の間隔、数の溝を彫り込む、あるいは所定の間隔、数のコームガイド(図示せず)をガイドローラー4直近に配置することで、複数本並行して走行するアクリル系繊維束3の間隔や束数を制御することができる。
【0028】
生産量を大きくするためには、耐炎化炉1の幅方向の単位距離あたりの繊維束数すなわち糸条密度を多くするか、アクリル系繊維束2の走行速度を大きくすればよい。
【0029】
ただし、糸条密度を大きくするということは、隣接する繊維束の間隔を小さくすることであり、上述のとおり、振動による繊維束間の混繊による品質の悪化等が起きやすくなる。
【0030】
また、アクリル系繊維束2の走行速度を大きくした場合、耐炎化熱処理室での滞留時間が小さくなり、熱処理量が不足するため、トータル熱処理長を大きくする必要がある。そのためには、耐炎化炉1の高さを大きくしてアクリル系繊維束の折返し回数を増やすか、耐炎化炉の1パスあたりの距離(以下、耐炎化炉長という)Lを長くすればよいが、設備費を抑えるためには耐炎化炉長Lを大きくするほうが好ましい。ただし、それによってガイドローラー4間の水平距離L’も長くなり繊維束が懸垂しやすくなり、振動による繊維束間の接触、繊維束の混繊による品質の悪化等が起きやすくなる。
【0031】
さらに繊維束間の接触を引き起こす繊維束の振動の振幅は、前記の糸条密度とガイドローラー4間の水平距離L’だけでなく、熱処理室を流れる酸化性気体の風速、走行するアクリル系繊維束の張力の影響を受ける。また、同じ振幅であっても混繊する頻度や程度はアクリル系繊維束の物性すなわち化学的性状、物理的性状、寸法等によって影響を受ける。
【0032】
本発明の耐炎化繊維束の製造方法は、耐炎化炉の設備仕様、運転条件、アクリル系繊維束の物性によらず、高品質の耐炎化繊維を操業トラブルなく効率的に生産するものである。
【0033】
具体的には、複数の束を隣接して引き揃えたアクリル系繊維束2を熱風加熱式の耐炎化炉1内に走行させながら熱処理することによって耐炎化繊維束にする連続熱処理方法において、前記アクリル系繊維束2は熱処理室3両側に設置するガイドローラー4によって搬送され、耐炎化炉1内における熱風の方向が糸に対して平行であって、隣接繊維束間の接触率Pを2~18%以下とすることを特徴とする耐炎化繊維の製造方法である。前記のとおり、ここでいう隣接繊維束間の接触率Pとは複数の繊維束を隣接するよう並列して走行させた時に、繊維束の幅方向の振動により、隣接する繊維束間の隙間がゼロになる確率を指す。上記繊維束の幅方向の振動は、繊維束の振幅平均を0、標準偏差をσとした時、隣接繊維束間の接触率Pは下記式(1)で求めることができる。
【0034】
P=[1-p(x){-t<x<t}]×100 (1)
ここで、Pは隣接繊維束間の接触率(%)、tは隣接する繊維束間の隙間(mm)、p(x)は正規分布N(0、σ2)の確率密度関数であり、σは振幅の標準偏差、xは振幅の中央をゼロとする確率変数である。
【0035】
図3は隣接繊維束間の接触率Pのイメージ図であり、上段が走行する複数の繊維束、下段が上段中央の繊維束の右端部を中心とした存在位置の確率分布を示している。アクリル系繊維束2は振動し、それに応じて隣接する繊維束間の隙間t、および振幅の標準偏差σは常に変化する。隣接する繊維束間の隙間tは下記式で表すことができる。
【0036】
t=(Wp-Wy)/2
ここで、Wpはガイドローラー等で物理的に規制されるピッチ間隔、Wyは走行する繊維束の幅である。
【0037】
図3は左からそれぞれ、t<1σ、t=1σ、t>1σの時のイメージ図である。Pは
図3下段の斜線部分に相当し、繊維束の振幅を正規分布と仮定し、隣接する繊維束の走行端位置(基準とする繊維束の位置をゼロとした時に、tの範囲)以下/以上となる累積確率がPであり、Wyとσを実測すれば統計的に算出できる。
【0038】
なお、繊維束の振幅や走行する繊維束の幅は、例えば走行する繊維束の上面あるいは下面から高精度二次元変位センサー等にて測定することが可能である。
【0039】
隣接繊維束間の接触率Pは2%以上18%以下であることが必須であり、5~16%であることが好ましい。隣接繊維束間の接触率Pが、2%未満になると、糸条密度が低くなりすぎ、生産効率が低下する。隣接繊維束間の接触率Pが18%を超えると、隣接する繊維束間の混繊が増大して、毛羽立ち等の耐炎化繊維の品質低下や糸切れ等の操業トラブルを抑制できない。
【0040】
ガイドローラー間の水平距離を20m以上にすることが必須であり、この場合、生産コストをより有利に低減させることができる。
【0041】
また、耐炎化炉内を流れる熱風の風速を2.0~5.0m/秒にすることが必須である。耐炎化炉内を流れる熱風の風速をこの範囲とすることで、生産コストを有利に低減することができる。
【0042】
また、耐炎化炉両側のガイドローラーが糸幅規制機構を有することが好ましい。ガイドローラーが糸幅規制機構を有するとは、ガイドローラーがローラー上あるいはローラー直近にて糸幅を規制する機構を持つことを意味し、当該機構を有することで耐炎化繊維束の品位や操業性はより優位になる。例えば、ガイドローラーに一定のピッチ間隔の溝を彫った溝ローラーを用いた場合(ローラー上で糸幅を規制)やガイドローラーから耐炎化炉の方向に数cmの位置に幅方向に一定のピッチ間隔を持つ櫛ガイドを設置した場合(ローラー直近で糸幅を規制)は、糸幅規制を行わないフラットローラーを用いた場合と異なり、容易に繊維束を溝寄せできるため、切れた一つの繊維束を処置する際に隣接する繊維束を巻き込みづらくなる。また、隣接繊維束間の混繊の場合にも、混繊の程度が小さければ、ローラーの溝部分で再び分繊され、後の工程に影響が波及しにくく、品位悪化が少ない。
【0043】
さらに、アクリル系繊維束の単繊維が単繊維表面の円周方向2.0μm・繊維軸方向2.0μm四方の範囲において、繊維の長手方向に2.0μm以上延びる表面凹凸構造を有し、かつ単繊維断面の長径/短径の比が1.01~1.10であることが好ましく、この場合、耐炎化繊維束の品位や操業性はより優位になる。一般的に、アクリル系繊維束を構成する一本一本である単繊維間は、耐炎化工程での急激な温度上昇等により、擬似接着を起こすことがある。同様に、繊維束間の接触においても、隣接する繊維束の単繊維間が擬似接着を起こす懸念がある。ただし、単繊維の表面に微細な凹凸があることでこの擬似接着は抑制することができ、隣接繊維束間の接触率Pが同じであっても絡みにくく大きな混繊に波及しにくくなる。また、単繊維断面が楕円に近づくと、繊維束内で短繊維の偏りができ、繊維束間が接触したときに、絡みやすい。反対に単繊維断面が真円に近ければ、繊維束間の混繊を抑制できるため、単繊維断面の長径/短径の比が1.01~1.10であることが好ましく、より好ましくは1.01~1.05である。
【0044】
また、アクリル系繊維束のフックドロップ長が300mm以下であることが好ましく、この場合、耐炎化繊維束の品位や操業性はより優位になる。フックドロップ長が小さいほど、繊維束内の単繊維間の交絡は大きくなる。単繊維間の交絡が大きければ、隣接する繊維束が混繊したとしても、同じ繊維束内に単繊維が戻ろうとする力が大きいために、繊維束の混繊が解消しやすい。
【0045】
また、アクリル系繊維束に付着するシリコン系油剤の付着量が0.1~3.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~1.5質量%である。アクリル系繊維束に付着するシリコン系油剤の付着量をこの好ましい範囲とすることで、耐炎化繊維束の品位や操業性はより優位になる。アクリル系繊維束の単繊維に一定の耐熱性を持つシリコン系油剤を付与することで、単繊維間の接着を抑制するのは一般的である。
【0046】
また、アクリル系繊維束の単繊維繊度が0.05~0.22texであることが好ましく、より好ましくは0.05~0.17texである。アクリル系繊維束の単繊維繊度を上記好ましい範囲とすることで、耐炎化繊維束の品位や操業性はより優位になる。単繊維繊度が適切な範囲であると、単繊維同一体積・質量に占める単繊維表面積が大きくなり過ぎず、隣接する繊維束が接触した際にも単繊維が絡み難くなる。
【0047】
上述の方法で製造した耐炎化繊維束は、不活性雰囲気中最高温度300~1000℃で前炭素化処理して前炭素化繊維束を製造し、不活性雰囲気中最高温度1,000~2,000℃で炭素化処理して炭素繊維束が製造される。
【0048】
前炭素化処理における不活性雰囲気の最高温度は550~800℃が好ましい。前炭素化炉内を満たす不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウム等の公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が好ましい。
【0049】
前炭素化処理によって得られた前炭素化繊維は、次いで炭素化炉に送入されて炭素化処理される。炭素繊維の機械的特性を向上させるためには、不活性雰囲気中最高温度1,200~2,000℃で、炭素化処理するのが好ましい。
【0050】
炭素化炉内を満たす不活性雰囲気については、窒素、アルゴン、ヘリウム等の公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が好ましい。
【0051】
このようにして得られた炭素繊維束は、取り扱い性や、マトリックス樹脂との親和性を向上させるため、サイジング剤を付与してもよい。サイジング剤の種類としては、所望の特性を得ることができればとくに限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ変性ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂を主成分としたサイジング剤が挙げられる。サイジング剤の付与は公知の方法を用いることができる。
【0052】
さらに炭素繊維束には、必要に応じて、繊維強化複合材料マトリックス樹脂との親和性および接着性の向上を目的とした電解酸化処理や酸化処理を行ってもよい。
【0053】
以上のように、本発明は、複数の束を隣接させて引き揃えたアクリル系繊維束を、耐炎化炉外両側に設置されるガイドローラーによって搬送させながら、熱風加熱式の耐炎化炉内を走行させて酸化性雰囲気中で熱処理する耐炎化繊維束の製造方法であって、耐炎化炉内における熱風の方向が繊維束の走行方向に対して平行であって、隣接繊維束間の接触率Pを2~18%とすることで、高品質の耐炎化繊維を操業トラブルなく、生産効率よく生産することが可能となる。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されない。なお、各特性の評価方法・測定方法は下記に記載の方法によった。
【0055】
<アクリル系繊維束の単繊維繊度の測定方法>
JIS L 1013に準拠して行った。
【0056】
<アクリル系繊維束の単繊維の表面凹凸構造の測定>
アクリル系繊維束の単繊維の両端を、走査型プローブ顕微鏡付属のSPA400用金属製試料台(20mm径)「エポリードサービス社製、品番:K-Y10200167」)上にカーボンペーストで固定し、以下の条件で測定を行った。
【0057】
(走査型プローブ顕微鏡測定条件)
装置:「SPI4000プローブステーション、SPA400(ユニット)」エスアイアイ・ナノテクノロジー社製
走査モード:ダイナミックフォースモード(DFM)(形状像測定)
探針:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、「SI-DF-20」
走査範囲:2.0μm×2.0μmおよび600nm×600nm
Rotation:90°(繊維軸方向に対して垂直方向にスキャン)
走査速度:1.0Hz
ピクセル数:512×512
測定環境:室温、大気中
単繊維1本に対して、上記条件にて1画像を得、得られた画像を走査型プローブ顕微鏡付属の画像解析ソフト(SPIWin)を用い、以下の条件にて画像解析を行った。
【0058】
(画像解析条件)
得られた形状像を「フラット処理」、「メディアン8処理」、「三次傾き補正」を行い、曲面を平面にフィッティング補正した画像を得た。平面補正した画像の表面粗さ解析より平均面粗さ(Ra)と面内の最大高低差(Rmax)を求めた。ここで、表面粗さ解析より平均面粗さ(Ra)と面内の最大高低差(Rmax)は、円周長さ600nm×繊維軸方向長さ600nmの走査範囲のデータを用いた。Raは下記式で算出されるものである。
【0059】
【0060】
中央面:実表面との高さの偏差が最小となる平面に平行で、かつ実表面を等しい体積で2分割する平面
f(x,y):実表面と中央面との高低差
Lx、Ly:XY平面の大きさ
測定は1サンプルについて単繊維10本を走査型プローブ顕微鏡で形状測定し、各測定画像について、平均面粗さ(Ra)、最大高低差(Rmax)を求め、その平均値をサンプルの平均面粗さ(Ra)、最大高低差(Rmax)とした。単繊維の表面に繊維の長手方向に2μm以上延びる表面凹凸構造の有無については、AFM(原子間力顕微鏡)モードにて単繊維の円周方向に2.0μmの範囲を繊維軸方向長さ2.0μmに渡り、少しずつ、ずらしながら繰り返し走査し、得られた測定画像から有無を判断した。
【0061】
(フラット処理)
リフト、振動、スキャナのクリープ等によってイメージデータに現れたZ軸方向の歪み・うねりを除去する処理のことで、SPM(走査型プローブ顕微鏡)測定上の装置因によるデータのひずみを除去する処理。
【0062】
(メディアン8処理)
処理するデータ点Sを中心とする3×3の窓(マトリクス)においてSおよびD1~D8(Sを中心に取り囲む8箇所のマトリックス)の間で演算を行い、SのZ(高さ方向)データを置き換えることで、スムージングやノイズ除去といったフィルタの効果を得るもの。
【0063】
メディアン8処理は、SおよびD1~D8の9点のZデータの中央値を求めて、Sを置き換える。
【0064】
(三次傾き補正)
傾き補正は、処理対象イメージの全データから最小二乗近似によって曲面を求めてフィッティングし、傾きを補正する。(1次)(2次)(3次)はフィッティングする曲面の次数を示し、3次では3次曲面をフィッティングする。三次傾き補正処理によって、データの繊維の曲率をなくしフラットな像とする。
【0065】
<アクリル系繊維束の単繊維の断面形状の評価>
繊維束を構成する単繊維の繊維断面の長径と短径との比(長径/短径)は、以下のようにして決定した。
【0066】
内径1mmの塩化ビニル樹脂製のチューブ内に測定用の繊維束を通した後、これをナイフで輪切りにして試料を準備する。ついで、前記試料を繊維断面が上を向くようにしてSEM試料台に接着し、さらにAuを約10nmの厚さにスパッタリングしてから、フィリップス社製XL20走査型電子顕微鏡により、加速電圧7.00kV、作動距離31mmの条件で繊維断面を観察し、単繊維の繊維断面の長径および短径を測定し、長径/短径での比率を評価した。
【0067】
<アクリル系繊維束のフックドロップ長測定方法>
アクリル系繊維束を120mm引き出して、垂下装置の上部に取り付け、撚りを抜いた後に、繊維束下部に200gの錘を吊り下げる。繊維束の上部から1cm下部の地点に繊維束を3分割するようにフック(φ1mmのステンレス線材製、フックのR=5mm)を挿入し、フックを下降させる。該フックは総質量が10gとなるように錘を付けて調整している。フックが繊維束の交絡によって停止した点までフックの下降距離を求める。試験回数は、N=50とし、その平均値をフックドロップ長とした。
【0068】
<耐炎化炉内の風速の測定方法>
カノマックス製アネモマスター高温用風速計Model6162を用いて、1秒毎の測定値30点の平均値を用いた。耐炎化炉1の両側のガイドローラー4の中央に当たる位置にある、熱処理室3側面の測定孔(図示せず)から測定プローブを挿入し、水平方向に流れる酸化性気体の風速を測定した。幅方向に5箇所測定し、その平均値を用いた。
【0069】
<走行する繊維束の糸幅および振幅の測定方法>
走行する繊維束の振幅が最大になる耐炎化炉1の両側のガイドローラー4の中央に当たる位置で測定を行った。具体的には、(株)キーエンス製レーザー変位計LJ-G200を、走行する繊維束の上方あるいは下方に設置して特定の繊維束にレーザーを照射した。その繊維束の幅方向の両端の距離を繊維束の幅とし、幅方向の一端の幅方向変動量を振幅とした。それぞれ、1回/60秒以上の頻度、0.01mm以下の精度で5分間測定し、繊維束の幅Wy(平均値)および振幅の標準偏差σを取得して、上述の隣接繊維束間の接触率Pを算出した。
【0070】
表1に、それぞれの実施例、比較例における操業性、品質、生産性の結果を定性的に示す。優、良、不可は下記基準のとおり評価した。
【0071】
(操業性)
優:混繊や繊維束切れ等のトラブルが1日あたり平均ゼロ回であり、極めて良好なレベル。
良:混繊や繊維束切れ等のトラブルが1日あたり平均数回程度で、十分に連続運転を継続できるレベル。
不可:混繊や繊維束切れ等のトラブルが、1日あたり平均数十回起こり、連続運転を継続できないレベル。
【0072】
(品質)
優:耐炎化工程を出た後に目視で確認できる繊維束上の10mm以上の毛羽の数が平均数個/m以下であり、毛羽品位が工程での通過性や製品としての高次加工性に全く影響しないレベル。
良:耐炎化工程を出た後に目視で確認できる繊維束上の10mm以上の毛羽の数が平均10個/m以下であり、毛羽品位が工程での通過性や製品としての高次加工性にほとんど影響しないレベル。
不可:耐炎化工程を出た後に目視で確認できる繊維束上の10mm以上の毛羽の数が平均数十個/m以上であり、毛羽品位が工程での通過性や製品としての高次加工性に悪影響を与えるレベル。
【0073】
(生産性)
優:製造コストが十分低く(「良」に対比して80%以下)、単位時間当たりの生産量が十分大きい(「良」に対比して120%以上)レベル。
良:製造コストが比較的低く、単位時間当たりの生産量が比較的大きいレベル
不可:製造コストが高い(「良」に対比して150%以上)、あるいは単位時間当たりの生産量が小さい(「良」に対比して60%以下)レベル。
【0074】
(実施例1)
単繊維繊度0.11tex、単繊維の表面の円周方向2.0μm・繊維軸方向2.0μm四方の範囲における繊維の長手方向に延びる表面凹凸構造が2.5μm、単繊維断面の長径/短径が1.04である単繊維20,000本からなるアクリル系繊維束2を100~200本引き揃え、耐炎化炉1で熱処理することにより耐炎化繊維束を得た。このアクリル系繊維束に付着するシリコン系油剤の付着量は0.5%であり、アクリル系繊維束のフックドロップ長を250mmとした。また、耐炎化炉1の熱処理室3両側のガイドローラー4間の水平距離L’は20mとし、ガイドローラー4は3~15mmの範囲の所定間隔(物理的に規制すべきピッチ間隔)Wpで溝を掘った溝ローラーとした。この時の耐炎化炉1の熱処理室3内の酸化性気体の温度は240~280℃とし、酸化性気体の水平方向の風速を3m/秒とした。糸の走行速度は、耐炎化処理時間が十分に取れるよう、耐炎化炉長Lに合わせて1~15m/分の範囲で調整し、工程張力は0.5~2.5g/texの範囲で調整した。
【0075】
得られた耐炎化繊維束を、その後、前炭素化炉において最高温度700℃で焼成した後、炭素化炉において最高温度1,400℃で焼成し、電解表面処理後サイジングを塗布して、炭素繊維束を得た。
【0076】
この時に耐炎化炉1の熱処理室3内の最上段を走行する繊維束の熱処理室中央での繊維束の幅Wyと振幅の標準偏差σを実測し、統計的に算出した隣接繊維束間の接触率Pは6%であった。
【0077】
上記の条件において、アクリル繊維束の耐炎化処理中には、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等は一切発生せず、極めて良好な操業性で、より生産効率よく耐炎化繊維束を取得した。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が無い極めて良好な品質であった。
【0078】
【0079】
(参考例1)
耐炎化炉1の熱処理室3両側のガイドローラー4間の水平距離L’を15mとし、隣接繊維束間の接触率Pを10%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0080】
上記の条件において、アクリル繊維束の耐炎化処理中には、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等は一切発生せず、極めて良好な操業性で耐炎化繊維束を取得した。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が無い極めて良好な品質であった。
【0081】
(実施例2)
耐炎化炉1の熱処理室3両側のガイドローラー4間の水平距離L’を30mとし、隣接繊維束間の接触率Pを15%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0082】
上記の条件において、アクリル繊維束の耐炎化処理中には、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等は一切発生せず、極めて良好な操業性で、より生産効率よく耐炎化繊維束を取得した。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が無い極めて良好な品質であった。
【0083】
(実施例3)
耐炎化炉1の熱処理室3内の酸化性気体の水平方向の風速を5m/秒とし、隣接繊維束間の接触率Pを7%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0084】
上記の条件において、アクリル繊維束の耐炎化処理中には、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等は一切発生せず、極めて良好な操業性で、より生産効率よく耐炎化繊維束を取得した。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が無い極めて良好な品質であった。
【0085】
(参考例2)
耐炎化炉1の熱処理室3両側のガイドローラー4間の水平距離L’を10mとし、隣接繊維束間の接触率Pを5%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0086】
上記の条件において、アクリル繊維束の耐炎化処理中には、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等は一切発生せず、極めて良好な操業性で耐炎化繊維束を取得した。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が無い極めて良好な品質であった。
【0087】
(参考例3)
耐炎化炉1の熱処理室3内の酸化性気体の水平方向の風速を8m/秒とし、隣接繊維束間の接触率Pを14%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0088】
上記の条件において、アクリル繊維束の耐炎化処理中には、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等は一切発生せず、極めて良好な操業性で耐炎化繊維束を取得した。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が無い極めて良好な品質であった。
【0089】
(実施例4)
耐炎化炉1の熱処理室3両側のガイドローラー4をフラットローラーにし、隣接繊維束間の接触率Pを14%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0090】
上記の条件において、アクリル繊維束の耐炎化処理中には、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等は少なく、良好な操業性で、より生産効率よく耐炎化繊維束を取得した。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が少ない良好な品質であった。
【0091】
(実施例5)
用いたアクリル系繊維束の単繊維断面の長径/短径を1.50とし、隣接繊維束間の接触率Pを14%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0092】
上記の条件において、アクリル繊維束の耐炎化処理中には、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等は少なく、良好な操業性で、より生産効率よく耐炎化繊維束を取得した。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が少ない良好な品質であった。
【0093】
(実施例6)
用いたアクリル系繊維束のシリコン系油剤付着量を4.0%とし、隣接繊維束間の接触率Pを6%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0094】
上記の条件において、アクリル繊維束の耐炎化処理中には、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等は少なく、良好な操業性で、より生産効率よく耐炎化繊維束を取得した。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が少ない良好な品質であった。
【0095】
(実施例7)
用いたアクリル系繊維束にシリコン系油剤を付与せず、隣接繊維束間の接触率Pを6%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0096】
上記の条件において、アクリル繊維束の耐炎化処理中には、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等は少なく、良好な操業性で、より生産効率よく耐炎化繊維束を取得した。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が少ない良好な品質であった。
【0097】
(実施例8)
用いたアクリル系繊維束のフックドロップ長を350mmとし、隣接繊維束間の接触率Pを14%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0098】
上記の条件において、アクリル繊維束の耐炎化処理中には、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等は少なく、良好な操業性で、より生産効率よく耐炎化繊維束を取得した。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が少ない良好な品質であった。
【0099】
(実施例9)
用いたアクリル系繊維束の単繊維繊度を0.18texとし、隣接繊維束間の接触率Pを14%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0100】
上記の条件において、アクリル繊維束の耐炎化処理中には、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等は少なく、良好な操業性で、より生産効率よく耐炎化繊維束を取得した。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が少ない良好な品質であった。
【0101】
(実施例10)
耐炎化炉1の熱処理室3両側のガイドローラー4をフラットローラーにし、さらにそのフラットローラーから耐炎化炉の方向に30mmの位置に櫛ガイドを設置し、その櫛ガイドは幅方向に3~15mmの範囲の一定の間隔の隙間を持ち、その隙間を繊維束が通ることにより物理的に規制される繊維束のピッチ間隔を3~15mmの範囲で所定の間隔Wpとし、隣接繊維束間の接触率Pを14%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0102】
上記の条件において、アクリル繊維束の耐炎化処理中には、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等は一切発生せず、極めて良好な操業性で、より生産効率よく耐炎化繊維束を取得した。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が無い極めて良好な品質であった。
【0103】
(比較例1)
耐炎化炉1の熱処理室3両側のガイドローラー4の溝の間隔を小さくする等により、隣接繊維束間の接触率Pを24%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0104】
上記の条件において、糸条密度を向上させることで、生産量自体は増やすことができたが、アクリル繊維束の耐炎化処理中に、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等が多発し、操業継続が困難となった。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が多く劣悪な品質であった。
【0105】
(比較例2)
耐炎化炉1の熱処理室3両側のガイドローラー4の溝の間隔を大きくする等により、隣接繊維束間の接触率Pを1%とした以外は、実施例1と同様にした。
【0106】
上記の条件において、アクリル系繊維束の耐炎化処理中には、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等は少なく、良好な操業性で耐炎化繊維束を取得した。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が少ない良好な品質であった。ただし、結果的に耐炎化炉1に投入することのできる繊維束の本数が少なくなり、生産性は大きく低下した。
【0107】
(比較例3)
耐炎化炉1の熱処理室3両側のガイドローラー4の溝の間隔を小さくする等により、隣接繊維束間の接触率Pを28%とした以外は、実施例3と同様にした。
【0108】
上記の条件において、糸条密度を向上させることで、生産量自体は増やすことができたが、アクリル繊維束の耐炎化処理中に、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等が多発し、操業継続が困難となった。また、得られた耐炎化繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、毛羽等が多く劣悪な品質であった。
【0109】
(比較例4)
耐炎化炉1の熱処理室3内の酸化性気体の水平方向の風速を8m/秒とし、隣接繊維束間の接触率Pを19%とした以外は、実施例3と同様にした。
【0110】
上記の条件において、アクリル繊維束の耐炎化処理中に、繊維束間の接触による混繊や繊維束切れ等が多発し、操業継続が困難となった。また、得られた耐炎化繊維ならびに炭素繊維を目視確認した結果、毛羽等が多く劣悪な品質であった。さらに、風速を8m/秒とすることで、それを可能とする送風器8の設備費が増大し、生産コストが大幅に悪化した。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、耐炎化繊維束の製造方法ならびに炭素繊維束の製造方法に関するもので、航空機用途、圧力容器・風車等の産業用途、ゴルフシャフト等のスポーツ用途等に応用できるが、その応用範囲がこれらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0112】
1 耐炎化炉
2 アクリル系繊維束
3 熱処理室
4 ガイドローラー
5 熱風吹出口
6 熱風排出口
7 加熱器
8 送風器
L 耐炎化炉長(1パスの耐炎化有効長)
L’ ガイドローラー間の水平距離
Wp 物理的に規制されるピッチ間隔
Wy 走行する繊維束の幅
t 隣接する繊維束間の隙間