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特許7354841プリプレグ、離型シート付プリプレグ、プリプレグ積層体、繊維強化複合材料、およびプリプレグの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】プリプレグ、離型シート付プリプレグ、プリプレグ積層体、繊維強化複合材料、およびプリプレグの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20230926BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019550873
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2019035730
(87)【国際公開番号】W WO2020059599
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2018173279
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「高生産性・高信頼性脱オートクレーブCFRP構造部材の知的生産技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山根 拓也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 成道
(72)【発明者】
【氏名】川本 史織
(72)【発明者】
【氏名】田林 未幸
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-276249(JP,A)
【文献】特表2015-515502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項3】
強化繊維[A]が一方向に配列した連続繊維であって、該連続繊維にエポキシ樹脂[B ]および硬化剤[C]を含むエポキシ樹脂組成物が部分的に含浸されたものからなる、請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項10】
強化繊維[A]が一方向に配列した連続繊維であって、該強化繊維[A]を一方向に配列 し、強化繊維シートとした後、片面にエポキシ樹脂[B]と硬化剤[C]を含み、エポキシ 樹脂に不溶な熱可塑性樹脂[D]を含まない第1フィルムを貼り付けて含浸させ、
つづけて、その両面にエポキシ樹脂[B]、硬化剤[C]、エポキシ樹脂に不溶な熱可塑性 樹脂[D]を含む第2フィルムを貼り付けて含浸させてできる請求項1に記載のプリプレ グの製造方法。
【請求項11】
強化繊維[A]が一方向に配列した連続繊維であって、該強化繊維[A]を一方向に配列 し、強化繊維シートとした後、片面にエポキシ樹脂[B]と硬化剤[C]を含み、エポキシ 樹脂に不溶な熱可塑性樹脂[D]を含まない第1フィルムを貼り付けて、
表面温度100~140℃のローラーを押し当てて含浸させ、つづけて、その両面にエポ キシ樹脂[B]、硬化剤[C]、エポキシ樹脂に不溶な熱可塑性樹脂[D]を含む第2フィ ルムを貼り付けて、
前記第1フィルムで押し当てたローラーの表面温度と同じか低い温度のローラーを押し当 てて含浸させてできる請求項1に記載のプリプレグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグ、プリプレグ積層体および繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料は、軽量でありながら強度や剛性などの力学特性、耐熱性、および耐食性に優れているため、従来から、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に適用されてきた。中でも、一般旅客機、リージョナルジェットなどの航空機向け部材や、人工衛星、ロケット、スペースシャトル等の宇宙船向け部材は、特に優れた力学的特性および耐熱性が必要とされる。そのため、かかる用途においては、強化繊維としては軽量かつ高剛性な炭素繊維が用いられることが多く、マトリックス樹脂としては耐熱性、弾性率および耐薬品性に優れるエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられることが多い。
【0003】
繊維強化複合材料の力学特性低下の主要因として、繊維強化複合材料内部に介在するボイドの存在が挙げられる。ボイドを含む繊維強化複合材料に力学的な負荷が加わると、クラックや剥離などの損傷が発生し易く、これが力学強度、および剛性を低下させる。そのため、古くからこのボイドを抑制する材料/成形技術について検討が多く行われてきた。
【0004】
繊維強化複合材料の製造方法の中でもボイドの発生を特に抑制可能な成形法として、オートクレーブ成形法がある。この成形法では圧力を加えながら樹脂を加熱硬化することができるため、ボイドのサイズを小さくすることができる。また、マトリックス樹脂に含まれる揮発成分の気化を抑制することができるため、ボイドの発生量を大幅に抑制することが可能である。しかし、オートクレーブ成形法においては、高い圧力に耐え得る圧力容器(オートクレーブ)の導入に多額の初期投資が必要であり、製造数の少ない航空・宇宙用途向け部材の技術としては高コストとなる主要因であった。
【0005】
そこで、オートクレーブ等の高価な加圧設備を使用しない、真空ポンプとオーブンのみを用いた脱オートクレーブ成形法が提案されている。しかし、従来の脱オートクレーブ成形法では、加熱時にエポキシ樹脂中の揮発成分が気化し易いため、この揮発分を除去するために予熱状態(例えば60~120℃)で真空下に長時間置く必要があった。そのため、従来のオートクレーブ成形法に比べ、成形時間が長くなり、さらにはボイドが残りやすく、不良品率が高いという問題があった。
【0006】
このような課題を解決する手段として、特許文献1には、強化繊維層にマトリックス樹脂を含浸させる際、樹脂の含浸を抑制し未含浸部をプリプレグ内部に介在させることで、プリプレグの揮発分および噛み込み空気を排気するための空隙部を設けた部分含浸プリプレグが提案されている。本手法を用いれば、真空ポンプとオーブンのみを用いた、オートクレーブを用いない大気圧環境下での成形であっても、前記空隙部を介してボイドの発生原因である揮発分や噛みこみ空気を排除することが可能であり、ボイドの少ない繊維強化複合材料を短時間で製造可能である。
【0007】
また、特許文献2には、航空機/宇宙船向け繊維強化複合材料として、繊維層の層間に高靭性な熱可塑性樹脂を局在化させることにより、耐衝撃性を飛躍的に高める層間高靭化の技術が提案されている。航空機や宇宙船の実運用において、鳥や雹などとの衝突などの衝撃損傷が問題となるが、前述の層間高靭化の技術を用いることにより、繊維強化複合材料の衝撃強度を飛躍的に高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第6139942号明細書
【文献】特開平10-231372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の部分含浸プリプレグを用いた場合であっても、揮発分を効率的に除去し、ボイドの発生頻度を低減するためには、前記未含浸部を大きくとり、空隙部の連続性を確保する必要があった。しかし、未含浸部を大きくとりすぎる場合、プリプレグを裁断加工する際に切断面から強化繊維の毛羽が発生したり、あるいはプリプレグが面外方向に引き割かれたりする不具合が発生し、プリプレグのハンドリング性の低下に繋がっていた。すなわち、ボイドの発生リスク低減とプリプレグのハンドリング性との間にトレードオフの関係があり、これらを同時に解決する手段は提案されていなかった。
【0010】
また、特許文献2に記載の層間に配置する熱可塑性樹脂は一般に成形温度にて固形、あるいは高粘度の状態である。そのため、成形時にマトリックス樹脂の移動(以下、フローと称する)が生じにくくなり、プリプレグ積層体に含有される空隙部に樹脂が含浸しないまま樹脂が硬化し易く、ボイドが多発することが問題となっていた。
【0011】
本発明の課題は、かかる背景技術に鑑み、オートクレーブを使用せず、かつ短時間で繊維強化複合材料を製造するのに好適なプリプレグであって、ボイドの発生が抑制され、かつ、優れた耐衝撃性を発現する繊維強化複合材料を得ることができ、ハンドリング性に優れたプリプレグを提供すること、および、それを用いた繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意検討を行い、プリプレグの強化繊維の層の未含浸部をプリプレグの片側表面近傍に局在化することで、この未含浸部の連続性を飛躍的に高め、積層の際に閉じ込められる空気やマトリックス樹脂中に含まれる揮発成分をプリプレグ積層体の外に効率的に除去することが可能となることを見出した。そして、それにより、未含浸部の小さいプリプレグであっても、ボイドの発生量が少なく耐衝撃性に優れた繊維強化複合材料を短時間で成形可能となることを見出した。
【0013】
かかる知見を踏まえて本発明は、次の手段を採用するものである。すなわち、本発明のプリプレグは、層状に配置された強化繊維[A]に、エポキシ樹脂[B]および硬化剤[C]を含むエポキシ樹脂組成物が部分的に含浸されてなるプリプレグであって、その含浸率φが30~95%であって、該エポキシ樹脂[B]に不溶な熱可塑性樹脂[D]がプリプレグ両側表面に偏在しており、かつ該強化繊維[A]の層において、エポキシ樹脂組成物の未含浸部がプリプレグのいずれかの表面側に局在化しており、かつ該局在化の度合いを規定する局在化パラメータσが、0.10<σ<0.45の範囲にある。
【0014】
また、本発明の離型シート付プリプレグは、本発明のプリプレグの少なくとも一方の表面に離型シートが付着してなる。
【0015】
また、本発明のプリプレグ積層体は、本発明のプリプレグを、エポキシ樹脂組成物の未含浸部が局在化している側が全て上側または全て下側となるように積層してなる。
【0016】
また、本発明の繊維強化複合材料は、本発明のプリプレグ、または、本発明のプリプレグ積層体を硬化してなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のプリプレグは、オートクレーブを使用せず、かつ短時間で繊維強化複合材料を製造するのに好適なプリプレグであって、ボイドの発生が抑制され、かつ、優れた耐衝撃性を発現する繊維強化複合材料を得ることができ、ハンドリング性に優れたプリプレグである。
【0018】
また、本発明の繊維強化複合材料は、ボイドの発生が抑制され、かつ、優れた耐衝撃性を発現する繊維強化複合材料である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】従来の真空圧成形対応プリプレグを示す概略断面図である。
図2】本発明の真空圧成形対応プリプレグの一例を示す概略断面図である。
図3】局在化パラメータσの算出方法を示すプリプレグの概略断面図である。
図4】プリプレグの面内方向の浸透係数Kを計測する構成を示す概略図である。
図5】層間の噛みこみ空気と樹脂未含浸部の距離を示すプリプレグ積層体の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のプリプレグは、層状に配置された強化繊維[A]に、エポキシ樹脂[B]および硬化剤[C]を含むエポキシ樹脂組成物が部分的に含浸されてなるプリプレグであって、その含浸率φが30~95%であって、該エポキシ樹脂[B]に不溶な熱可塑性樹脂[D]がプリプレグ両側表面に偏在しており、かつ該強化繊維[A]の層において、エポキシ樹脂組成物の未含浸部がプリプレグのいずれかの表面側に局在化しており、かつ該局在化の度合いを規定する局在化パラメータσが、0.1<σ<0.45の範囲にあるプリプレグである。
【0021】
本発明で用いる強化繊維[A]は、ガラス繊維、ケブラー繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、ボロン繊維等のいずれの繊維であってもよい。これらのうち、特に高い軽量化効果を得ようとする場合、炭素繊維が好ましい。炭素繊維は、比強度および比弾性率に優れるため、高い軽量化効果が得られやすい。
【0022】
本発明のプリプレグにおいて、強化繊維[A]が一方向に配列した連続繊維であることが好ましい態様の1つである。連続繊維を用いることにより、短く切断された繊維に比べ高い力学強度を発現することが可能となる。さらに繊維が一方向に配列していることにより、繊維含有率が高く、強度、剛性に優れた繊維強化複合材料が得られやすくなる。なお、本発明において“一方向に配列した”とは、プリプレグの表面を光学顕微鏡で観察し、各繊維の配向角度をθ、およびその平均値をΘとしたとき、Θ-10°<θ<Θ+10°を満たす繊維が全体の90%以上存在する状態のことを意味する。なお、平均値の算出においては、光学顕微鏡によって0.5mm視野を観察し、その範囲内に含まれる繊維のうち、任意の30本の繊維を選出し、その配向角度の平均値を用いることとする。さらに、本発明における“連続繊維“とは、高強度を発現可能な程度の長さを持つ強化繊維のことであり、具体的には10cm以上の強化繊維を意味する。
【0023】
また、本発明のプリプレグにおいて、強化繊維[A]が織物形態であることが別の好ましい態様である。織物形態の強化繊維を基材とすることで、基材自体が面内方向に変形し易くなり、3次元的な凹凸を有する形状にも基材を賦形し易くなる。織物形態の例としては、二方向織物、多軸織物、編物、組紐等が挙げられる。なお、これらの織物形態では、配向方向の異なる炭素繊維の束同士の接触面が基材の厚さ方向中央に位置することが多い。この場合、従来の部分含浸プリプレグのように中央部に未含浸部を設ける構成に比べて、本発明のように未含浸部を厚さ方向中央からずらすことによって、基材の割れを防止しやすくなる。これにより、通気性のみではなく、ハンドリング性にも優れたプリプレグが得られやすくなる。
【0024】
本発明のプリプレグにおける、さらに別の好ましい態様として、強化繊維[A]がシート状の短繊維基材であることが挙げられる。短繊維基材は織物基材よりもさらに伸長し易く、3次元的にさらに複雑な形状にも基材を賦形し易くなる。短繊維基材の例として、不織布、マット、シートモールディングコンパウンド材などが挙げられる。本態様に含まれる強化繊維の繊維長は、力学強度を優先して考える場合は12mm以上であることが好ましく、25mm以上であることがより好ましい。12mm未満の強化繊維に比べ、高い力学強度を発現しやすいためである。また、基材の伸長性を優先して考える場合は、強化繊維の繊維長は25mm以下であることが好ましく、12mm以下であることがより好ましい。また、これらの好ましい態様は用途や使用環境によって適宜選択できる。
【0025】
本発明に含まれるエポキシ樹脂[B]は、1つ以上のグリシジル基を有するものであればいずれのエポキシ樹脂でも良いが、好ましくは1分子中に2個以上のグリシジル基を有するのがよい。1分子中にグリシジル基を2個以上有するエポキシ樹脂の場合、後述する硬化剤との混合物(以下、エポキシ樹脂組成物と称する)を加熱硬化して得られる硬化物のガラス転移温度が、グリシジル基を1個有するエポキシ樹脂の硬化物に比べて高くなる。
【0026】
本発明で用いることができるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルなどの臭素化エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルスルホン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、メタキシレンジアミン型エポキシ樹脂、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂などのグリシジルアミン型エポキシ樹脂などを挙げることができる。中でも、1分子中にグリシジル基を3個以上有するエポキシ樹脂は、さらに高いガラス転移温度や弾性率を発現することが可能であり好ましい。
【0027】
これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし、複数のエポキシ樹脂を混合させて用いてもよい。複数のエポキシ樹脂を混合させて用いる場合、例えば、エポキシ樹脂組成物の硬化開始温度以下の任意の温度において、流動性を示すエポキシ樹脂と、流動性を示さないエポキシ樹脂とを混合することは、プリプレグ成形時のマトリックス樹脂の流動性制御に有効である。流動性が制御されていない場合、例えば、プリプレグ成形時に、マトリックス樹脂がゲル化するまでの間に示す流動性が大きいと、強化繊維の配向に乱れを生じたり、あるいはマトリックス樹脂が強化繊維層から流れ出すことにより繊維質量含有率が過度に高くなり、得られる繊維強化複合材料の力学物性が低下することがある。また、任意の温度において様々な粘弾性挙動を示すエポキシ樹脂を複数種組み合わせることは、得られるプリプレグのタック(粘着性)やドレープ性を適切なものとしやすくするためにも有効である。
【0028】
本発明において、エポキシ樹脂[B]には、前記エポキシ樹脂に相溶可能な熱可塑性樹脂を混合することも有効である。特に、エポキシ樹脂[B]に相溶可能な熱可塑性樹脂を混合することは、得られるプリプレグのタックの適正化、プリプレグ加熱硬化時のマトリックス樹脂の流動性制御、および得られる繊維強化複合材料の靭性向上に効果的である。かかる熱可塑性樹脂としては、ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルスルホンなどが候補として挙げられる。これらのポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂もまた、単独で用いてもよいし、適宜併用して用いてもよい。中でも、ポリエーテルスルホンおよびポリエーテルイミドは得られる繊維強化複合材料の耐熱性や力学物性を低下することなく靭性を付与することができるため、好ましく用いることができる。
【0029】
また、ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂において、エポキシ樹脂との親和性や反応性の制御のために、末端官能基の種類を適宜選択することが有効である。例えば、選択可能な末端官能基としては、第1級アミン、第2級アミン、水酸基、カルボキシル基、チオール基、酸無水物やハロゲン基(塩素、臭素)などが候補として挙げられる。このうち、ハロゲン基を末端官能基とする場合は、エポキシ樹脂との反応性が低いために保存安定性に優れたプリプレグが得られやすくなる。一方、エポキシ樹脂との反応性を高め、エポキシ樹脂組成物の硬化時間の短縮を図りたい場合は、末端官能基として、第1級アミン、第2級アミン、水酸基、カルボキシル基、チオール基、酸無水物などの官能基を選択することが有効である。
【0030】
本発明に含まれる硬化剤[C]は、グリシジル基と架橋反応し得る活性基を有するいずれの化合物であってもよい。例えばアミノ基、酸無水物基またはアジド基を有する化合物が硬化剤[C]として好適である。硬化剤[C]の具体的な例としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体、アミノ安息香酸エステル類、各種酸無水物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、脂肪族アミン、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、他のカルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリメルカプタン、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体および他のルイス酸錯体等が挙げられる。これらの硬化剤もまた、単独または組み合わせて用いることができる。
【0031】
中でも硬化剤[C]として芳香族ジアミンを用いることにより、耐熱性の良好な硬化樹脂を得ることができる。特にジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な硬化樹脂が得られるため最も好適である。芳香族ジアミンの硬化剤の含有量はエポキシ樹脂組成物中のグリシジル基1個に対し、芳香族アミン化合物中の活性水素が0.7~1.3個の範囲になる量であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.2個になる量である。ここで、活性水素とは有機化合物においてアミノ基、水酸基、チオール基の窒素、酸素、硫黄と結合する水素原子をいう。エポキシ基と活性水素の比率が所定の前記の範囲内である場合、耐熱性や弾性率に優れた樹脂硬化物が得られる。
【0032】
また、本発明のプリプレグにおいて、比較的低温で硬化しながらも高い耐熱性および耐水性を発現するために、硬化剤[C]の中に、硬化助剤を含んでいてもよい。ここで硬化助剤とは、エポキシ樹脂[B]のグリシジル基と直接的に反応し架橋構造を形成しないが、触媒としてエポキシ樹脂[B]と硬化剤[C]との架橋反応を促進するものである。硬化助剤の一例としては、3-フェノール-1,1-ジメチル尿素、3-(3-クロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、2,4-トルエンビスジメチル尿素、2,6-トルエンビスジメチル尿素)などの尿素化合物が挙げられる。
【0033】
また、これらのエポキシ樹脂と硬化剤からなるエポキシ樹脂組成物(硬化助剤を含んでいても良い)の粘度が低く、プリプレグのハンドリング性に問題が生じる場合は、エポキシ樹脂組成物を予備反応させ、粘度を増加させることも有効である。粘度の増加に伴い、プリプレグに適切な粘着性を付与することができ、ハンドリング性が向上したり、あるいはプリプレグの保存安定性を向上させることが可能となる。
【0034】
本発明に含まれる熱可塑性樹脂[D]は、エポキシ樹脂[B]に不溶であり、かつプリプレグの表面に配置される。このプリプレグを複数枚重ねて得られたプリプレグ積層体およびその硬化物においては、繊維層と繊維層の層間に前記熱可塑性樹脂[D]が偏在化することとなる。一般に繊維強化複合材料に面外方向から衝撃荷重が加わると層間を剥離が進展するが、層間に熱可塑性樹脂を含む繊維強化複合材料では、層間に高靭性な熱可塑性樹脂が局在化しているため、優れた耐衝撃性を実現できる。熱可塑性樹脂の形態としては層状に配置できるものであればいずれの形態でもよく、粒子、短繊維のマット、不織布、あるいはフィルムなどのいずれの形態でもよい。
【0035】
本発明で用いる熱可塑性樹脂[D]は、結晶性を有していてもいなくてもよい。具体的な熱可塑性樹脂の例としては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールなどが挙げられる。中でも、優れた靭性のため耐衝撃性を大きく向上させることから、ポリアミドが最も好ましい。ポリアミドの中でも、ポリアミド12、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド6/12共重合体や特開平1-104624号公報の実施例1記載のエポキシ化合物にてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたポリアミド微粒子(セミIPNポリアミド)は、エポキシ樹脂との接着強度が特に良好である。したがって、落錘衝撃時の繊維強化複合材料の層間剥離強度が高くなり、耐衝撃性が向上するため、好ましい。
【0036】
熱可塑性樹脂[D]として、粒子を用いる場合、その形状は、球状、非球状、多孔質、ウイスカー状、フレーク状のいずれでも良い。ただし、エポキシ樹脂の強化繊維への含浸性を確保し、かつ熱可塑性樹脂とマトリックス樹脂との剛性差により誘発される応力集中の影響を軽減するためには、球状の粒子を用いることが最も好ましい。なお、繊維強化複合材料としたときに層間にこれらの粒子を留めるためには、互いに隣接する強化繊維間の隙間に入り込まない程度に粒子のサイズを大きくとることが好ましい。一方で、粒子のサイズを小さくすることで、層間の樹脂層の厚さを薄く抑えることができ、繊維体積含有率を高めることが可能である。これらを両立するための粒子サイズとして、その平均粒子径を3μm~40μmの範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは、5μm~30μmの範囲とするのがよい。
【0037】
一方、熱可塑性樹脂[D]として、繊維を用いる場合、その形状は、短繊維でも長繊維でもよい。短繊維の場合、特開平2-69566号公報に示されるように繊維を粒子と同じように用いる方法、またはマットに加工する方法が可能である。長繊維の場合、特開平4-292634号公報に示されるように長繊維をプリプレグの表面に平行に配列させる方法、または国際公開第94/016003号に示されるように繊維をランダムに配列させる方法を用いることができる。また、繊維を加工して、特開平2-32843号公報に示されるような織物、または国際公開第94/016003号に示されるような不織布材料もしくは編物等のシート型の基材として用いることもできる。また、短繊維チップ、チョップドストランド、ミルドファイバーおよび短繊維を糸に紡いだ後、平行またはランダムに配列させて織物や編物とする方法も用いることができる。
【0038】
ここでエポキシ樹脂に不溶であるとは、かかる熱可塑性樹脂[D]を分散したエポキシ樹脂を加熱硬化した際に、熱可塑性樹脂[D]がエポキシ樹脂中に実質的に溶解しないことを意味する。より具体的には、例えば透過型電子顕微鏡を用い、エポキシ樹脂硬化物の中で、熱可塑性樹脂[D]が元のサイズから実質的に縮小することなく、熱可塑性樹脂[D]とマトリックス樹脂の間に明確な界面をもって観察できるものであることを指す。
【0039】
本発明のプリプレグは、該エポキシ樹脂[B]に不溶な熱可塑性樹脂[D]がプリプレグ両側表面に偏在していることを特徴とする。
【0040】
本発明のプリプレグにおける樹脂質量含有率は、25~45%の範囲とすることが好ましい。ここで、樹脂質量含有率とは、強化繊維[A]を除く樹脂成分(エポキシ樹脂[B]、硬化剤[C]、および熱可塑性樹脂[D]と他添加物の和)がプリプレグ中に占める質量割合のことを指す。樹脂質量含有率を25%以上とすることにより、プリプレグ中におけるマトリックス樹脂が十分フローし、プリプレグを硬化させる際に強化繊維層の未含浸部にマトリックス樹脂を充填しやすくなり、得られる繊維強化複合材料中にボイドが発生しにくくなる。樹脂質量含有率を45%以下とすることにより、比強度および比弾性率に優れるという、繊維強化複合材料の利点が得られやすくなる。これらに鑑みると、さらに好ましい樹脂質量含有率の範囲は30~36%である。
【0041】
本発明のプリプレグは、前記強化繊維に前記エポキシ樹脂組成物を部分的に含浸させたプリプレグである。ここで、部分的に含浸させたプリプレグとは、プリプレグの強化繊維の層において、樹脂が含浸されていない領域(未含浸部)を含む状態のことを意味する。
【0042】
本発明において、プリプレグ中におけるエポキシ樹脂組成物の含浸率φは、30~95%であり、50~95%が好ましく、60~90%がより好ましい。プリプレグ中のエポキシ樹脂組成物の含浸率φが高ければ、例えばプリプレグの裁断作業や積層作業を行う際に、未含浸部を起点としたプリプレグの割れの発生頻度を低下させることができる。具体的には、含浸率を30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上とすることにより、ハンドリング性に優れたプリプレグを得ることができる。一方、プリプレグ中のエポキシ樹脂組成物の含浸率φを低くすることで、揮発分除去のための未含浸部の連続性が確保し易く、揮発分を効率的に除去することが可能である。その結果、繊維強化複合材料中にボイドが発生することを抑制できるが、特に含浸率を95%以下、好ましくは90%以下とすることにより、ボイドの発生し難いプリプレグを得ることができる。ここで、プリプレグ中におけるエポキシ樹脂組成物の含浸率φは、
(単位幅あたりに存在する、エポキシ樹脂組成物が付着していない強化繊維の本数)/(単位幅あたりに存在する強化繊維の総本数)
の面内方向に1mm分の平均値として算出する。なお、ここで単位幅とは、後述のSEMにより500倍の倍率で撮影されたプリプレグ断面の連結前の画像1枚中の面内方向の長さをいう。強化繊維の本数を数える方法は、プリプレグをナイフによりプリプレグの表面に対して垂直方向に切断し、その破面をSEMにより観察する。このとき、プリプレグの切断方向は、切断面に含まれる強化繊維の数が最も多くなる面とする。例えば、一方向に強化繊維が配列したプリプレグであれば、繊維直交方向を切断面とする。また、短繊維基材など、切断面に含まれる強化繊維の数が多くなる面の特定が困難な場合は、プリプレグを45度間隔で4断面(0度方向、45度方向、90度方向、135度方向)観察し、各断面に含まれる炭素繊維の数が最も多くなる断面を採用する。プリプレグの含浸率φを計測する際には、SEMの観察倍率は500倍とし、撮影領域が互いに重複しないようにプリプレグの面内方向(たとえば一方向に強化繊維が配列したプリプレグの場合には面内の繊維直交方向)に1mm分、プリプレグの面外方向にはプリプレグの上下面が含まれる範囲で連結画像を取得し、500倍で撮影される面内方向の幅毎の連結画像(面外方向はプリプレグの上下面が含まれる範囲の連結画像)に対してプリプレグの含浸率φを計測し、面内方向に1mm分にわたり、500倍で撮影される面内方向の幅毎に計算された含浸率φの平均値を算出する。
【0043】
本発明のプリプレグは、前記エポキシ樹脂[B]に不溶な熱可塑性樹脂[D]が該プリプレグ両側表面に偏在しており、かつ強化繊維[A]の層において、エポキシ樹脂組成物の未含浸部がプリプレグのいずれかの表面側に局在化していることを特徴とする。
【0044】
本発明をさらに具体的に説明するために、従来の真空圧成形対応プリプレグの断面の模式図を図1の(a)および(b)に、本発明のプリプレグの断面の模式図を図2にそれぞれ示す。以後はこれらの図を用いて説明する。
【0045】
従来の真空圧成形対応のプリプレグでは、図1の(a)に示すように、エポキシ樹脂組成物1と、エポキシ樹脂に不溶な熱可塑性樹脂2とを含有する層間形成層3がプリプレグ両表面に配置されており、強化繊維5が層状に配置された強化繊維層6の中央に、エポキシ樹脂組成物が付着していない強化繊維の集合体、すなわち未含浸層7が存在する。この未含浸層7が揮発分や噛み込み空気を除去するための流路として機能することにより、ボイドの少ない繊維強化複合材料を得ることができる。しかし、従来のプリプレグでは、含浸率φを向上させた場合、例えば強化繊維の粗密や強化繊維-樹脂間の濡れ性のムラなどにより、場所ごとに樹脂の含浸距離(強化繊維層の表面から樹脂含浸部先端までの距離)が異なる。ここで、プリプレグの両表面からエポキシ樹脂組成物が含浸される場合、含浸距離の大きい箇所が確率的に重なってしまえば、図1(b)のように両表面の層間形成層のエポキシ樹脂組成物が連結し、未含浸層7の連続性が失われる。そのため、未含浸層の揮発分除去のための流路としての機能が失われ、ボイドが発生する要因となっていた。
【0046】
それに対して、本発明のプリプレグでは、図2に示すように、エポキシ樹脂組成物が付着していない強化繊維の集合体、すなわち未含浸層7が、強化繊維層6のうち層間形成層3側に局在化している。ここで、図2における層間形成層3と層間形成層4のうち、未含浸層7に近い方を層間形成層3(未含浸部の局在側)、未含浸層7から遠い方を層間形成層4(未含浸部の反対側)とする。本発明のプリプレグにおいては、層間形成層3側にて、エポキシ樹脂組成物の強化繊維層への含浸を抑制し、樹脂含浸部先端を平滑とする。そのため、層間形成層3側の含浸部の樹脂表面は比較的平滑となり、層間形成層4側の含浸距離が場所ごとにムラがあっても、揮発分を除去するための未含浸層の連続性を確保することが可能となる。
【0047】
層間形成層3側にて、エポキシ樹脂組成物の強化繊維層への含浸を抑制する手段としては複数の方法が考えられる。たとえば、層間形成層3側のエポキシ樹脂組成物の粘度を、層間形成層4側のエポキシ樹脂組成物の粘度よりも高く設定することが有効である。また、含浸プロセスを2段階に分け、層間形成層4側のエポキシ樹脂フィルムをまず高温で含浸し、その後層間形成層3側のエポキシ樹脂フィルムを低温で含浸することも有効である。
【0048】
以上のように、本発明のプリプレグは、プリプレグのいずれか片側の層間形成層を形成するエポキシ樹脂組成物の樹脂含浸距離を短くし、一方の層間形成層を形成するエポキシ樹脂組成物の樹脂含浸距離を長く取ることで、連続的な揮発分除去のための流路を確保しつつ、プリプレグの含浸率を高くすることができることを特徴とする。すなわち、未含浸層7が強化繊維層6の中央ではなく、層間形成層3側に局在化することを特徴とする。
【0049】
ここで、未含浸層が層間形成層3側に局在化することを定量的に表現するため、以下の手順により局在化パラメータσを定義する。ここでは、図3の(a)、(b)のプリプレグ断面の模式図を引用しながら、局在化パラメータσの算出方法を示す。なお、簡便のため、図3においてはエポキシ樹脂組成物の含浸距離の短い側である層間形成層3側を上側、エポキシ樹脂組成物の含浸距離の長い側である層間形成層4側を下側と定義する。
【0050】
まず、図3の(a)で示すように、プリプレグ断面像の幅1mmに相当する領域を抜き出し、強化繊維シートに対して垂直な線であって、領域を幅方向に11等分する線(等分線8)を10本引く。次に、その等分線上にて、層間形成層4側の強化繊維層6の端部のy座標を算出し、これを強化繊維層の下側の端部y座標とする。同様の手順にて、10本の等分線8について下側の端部y座標を算出し、その平均値をy座標軸の0とする。次に、同様の手順により、上側の端部y座標の平均値を求め、このy座標をTとする。Tは強化繊維層6の厚さに相当する。画像中に存在する全強化繊維層の中心y座標H2はH2=T/2で定義される。また等分線8において、未含浸層にある強化繊維の下側端部のy座標を取得し、その平均値をH3とする。同様に等分線8において、未含浸層にある強化繊維の上側端部のy座標を取得し、その平均値をH4とする。ただし、H3、H4の算出において、等分線8上に未含浸繊維がない場合はその等分線8を平均値算出の計算から除外する。すなわち、未含浸繊維が確認出来ない等分線8が1本有る場合は、残りの9本の未含浸繊維座標から平均からH4を算出する。
【0051】
このとき、未含浸繊維の中心座標H5はH5=(H4+H3)/2で定義される。この値を用いて、局在化パラメータσを
σ=(H5-H2)/T
と定義する。
【0052】
本パラメータにおいて、図3の(c)のように等分線8上の未含浸層にある強化繊維の下側端部のy座標の平均値であるH3と、等分線8上の未含浸層にある強化繊維の上側端部のy座標の平均値であるH4が一致し、かつ層間形成層3側で実質的にエポキシ樹脂組成物が強化繊維に完全含浸している場合、H2=T/2、H5=Tとなり、σは0.5となる。また、図3の(d)のように強化繊維層の中心座標と未含浸層の中心座標が一致する場合、H2=T/2、H5=T/2となり、σは0となる。なお、本発明では、0.05<σ<0.50の範囲に収まることを、“層間形成層3側に局在化している”と定義する。本発明のプリプレグでは局在化パラメータσは0.10<σ<0.45であり、好ましくは0.20<σ<0.45の範囲とするのがよい。局在化パラメータをこの範囲とすることでプリプレグ積層体内部の未含浸部の面内方向の連続性を確保し易く、効率的に揮発分を除去することが可能となる。その結果、繊維強化複合材料中に発生するボイドを抑制することができる。
【0053】
本発明のプリプレグは、単位面積あたりの強化繊維量が30~600g/mであることが好ましい。かかる強化繊維量を30g/m以上とすることにより、繊維強化複合材料を成形する際に所定の厚みを得るために積層枚数を多くする必要がなく、作業負荷が軽減されやすい。また、強化繊維量を600g/m以下とすることにより、プリプレグのドレープ性が向上しやすくなる。あるいはプリプレグを作製するとき、あるいはプリプレグを加熱し硬化させる際に、エポキシ樹脂組成物を強化繊維層の空隙部に含浸させやすくなり、ボイドが発生しにくくなる場合がある。さらに、高い含浸率φを発現しつつ連続的な通気パスとするためには、含浸距離を短くするために目付が少ないほうが良いが、薄い場合には繊維の粗密の影響を受けやすいため、100~300g/mの範囲とすることがより好ましい。
【0054】
また、本発明のプリプレグは真空吸引部からプリプレグの未含浸部までの連続性を確保することでプリプレグ中の揮発分をさらに効率的に除去することができる。そのためには、プリプレグ内の未含浸部の連続性を確保し、プリプレグが通気性を有することが好ましい。ここで未含浸部の連続性を確保する簡便な方法の一つは含浸率φを小さくし未含浸部を増やすことである。ただし、揮発分を除去した後に樹脂流動により空隙部をなくし繊維強化複合材料中のボイドを抑制するためには、あるいはプリプレグ積層時のプリプレグの面外方向の割れを抑制するためには、含浸率φを高く保つことが好ましい。これらを実現するためには、本発明のプリプレグにおいて、面内方向の浸透係数Kが1.1×(1-φ/100)×10-13[m]以上(φ=含浸率(%))であることが好ましく、1.5×(1-φ/100)×10-13[m]以上がより好ましい。
【0055】
ここで、本発明における面内方向の浸透係数Kを算出するための測定は、図4に模式的に示す通気量測定方法を用いて測定される。その測定方法の詳細を以下に記す。まず、短冊状のプリプレグ(繊維配向方向100mm、繊維垂直方向50mm)を10層積層したプリプレグ積層体9にて、プリプレグの繊維配向方向の両端部のみを開放した状態でシーラント10によりプリプレグ厚さ方向、および側面の通気性を遮断する。プリプレグ積層体9とシーラント10を、カバーフィルム11と金属板12で密閉する。プリプレグ積層体9の端部にガラステープ13に沿わせ空気流路を確保する。通気口15を大気圧開放(通気口15側の圧力計16の圧力をPa(単位:Pa)とする)し、反対側を真空ポンプ17により、真空圧環境(真空ポンプ17側の圧力計16の圧力をPv(単位:Pa)とする)とする。このとき、プリプレグの両側に圧力差が発生する。次の式(1)により、プリプレグの面内方向の浸透係数K(単位:m)を定義する。
【0056】
【数1】
【0057】
ここで、μは空気粘度(単位:Pa・s)、Lはプリプレグ長さ(単位:m)、Apはプリプレグ断面積(単位:m)、Qaは空気流量計14で測定される空気流量(単位:m/s)を意味する。
【0058】
なお、本発明における配向方向とは、プリプレグの表面を光学顕微鏡で観察し、各繊維の配向角度をθとし、平均値をΘとしたとき、Θ方向の断面を意味する。なお、平均値Θの算出においては、光学顕微鏡によって観察される繊維のうち、任意の30本の繊維を選出し、その配向角度の平均値を用いることとする。
【0059】
本発明のプリプレグにおいて、前記エポキシ樹脂[B]に不溶な熱可塑性樹脂[D]はプリプレグ両側表面に偏在していればよく、熱可塑性樹脂[D]の量はプリプレグ両面に同等量含有されていても異なった量が含有されていてもよい。ここで、両側表面に偏在しているとは、熱可塑性樹脂[D]が両側表面近傍に配置しており、強化繊維[A]の層内に入り込んでいないことをいう。熱可塑性樹脂[D]が強化繊維[A]の層内に入り込んでいないというのは、図3で定義したy座標軸の0とTの間に熱可塑性樹脂[D]が存在しないことをいう。SEMの観察でエポキシ樹脂[B]と熱可塑性樹脂[D]の区別がつきにくい場合には、X線CTなどを用いて観察しても良い。図3で定義したy座標軸の0とTの決定、およびy座標軸の0とTの間に熱可塑性樹脂[D]が存在しないことを判断するのは、含浸度φの計算のときと同様にSEM画像やX線CT画像において、プリプレグの面内方向へ幅1mmにわたる連結画像(面外方向はプリプレグの上下面が含まれる範囲の連結画像)を用いて判断する。ただし、熱可塑性樹脂[D]の量がプリプレグの両面で異なる場合には、プリプレグの表裏を区別せず積層した際に、熱可塑性樹脂[D]の量が層間によって変化する場合がある。この場合、得られる繊維強化複合材料の力学特性がばらついたり、積層体としての品位低下が生じたりするおそれがある。そのため、本発明においては、熱可塑性樹脂[D]の含有量がプリプレグ両面において同等であることが好ましい。これにより、プリプレグの表裏を区別せずに積層しても、プリプレグ積層体の任意の層間において同等量の熱可塑性樹脂[D]を確保できるという利点が生じる。ここで、「熱可塑性樹脂[D]の含有量がプリプレグ両面において同等である」とは、プリプレグ両面で熱可塑性樹脂[D]の含有量の差が、プリプレグに含有される熱可塑性樹脂[D]の総量の10質量%以内の範囲に収まる状態を指す。
【0060】
プリプレグの表面に偏在する熱可塑性樹脂[D]の量を測定する方法の一例を説明する。プリプレグを10cm角に切り出し、樹脂の未含浸部を起点として面外方向に引き剥がし、2枚の薄いプリプレグとする。プリプレグ全体を浸すのに十分な量であるジクロロメタンをビーカーに入れ、引き剥がした薄いプリプレグのうち片方をビーカーに入ったジクロロメタンに浸し、撹拌してエポキシ樹脂[B]を溶解させたのち、強化繊維[A]を取り除き、ジクロロメタン溶液を濾紙により濾過し、濾紙に溜まった熱可塑性樹脂[D]の重量を測定する。引き剥がした薄いプリプレグのもう一方も同様の手順にて熱可塑性樹脂[D]の重量を測定する。この手順により、各表面に存在している熱可塑性樹脂[D]の量を測定することができる。
【0061】
本発明のプリプレグを製造する方法として複数の方法が考えられる。
【0062】
比較的簡易な本発明のプリプレグを製造する方法の一例として、エポキシ樹脂のフィルムをシート状に配列した強化繊維シートの表面に重ね、加圧/加熱含浸するホットメルト法が挙げられる。例えば、シート状に配列した強化繊維シートの表面に、層間形成層3を形成するエポキシ樹脂フィルムを片方から、層間形成層4を形成するエポキシ樹脂フィルムをもう片方から挟み込み、加熱含浸ロールに通すことによって、本発明のプリプレグを得ることができる。また、この製造方法において、未含浸部の連続性をより高めるためには、層間形成層3側のエポキシ樹脂組成物の強化繊維層への含浸を抑制することが好ましい。これを実現する手段として、層間形成層3側のエポキシ樹脂フィルムの粘度を、層間形成層4側のエポキシ樹脂フィルムの粘度よりも高く設定することも有効である。別の手段としては、含浸プロセスを2段階に分け、層間形成層4側のエポキシ樹脂フィルムをまず高温で含浸し、その後層間形成層3側のエポキシ樹脂フィルムを低温で含浸することも有効である。さらにはこれらの手順を組み合わせることも有効である。
【0063】
別のプリプレグの製造方法としては、シート上に配列した強化繊維シート表面に、エポキシ樹脂組成物のみからなるエポキシ樹脂フィルムを片方から、もう片方の表面にエポキシ樹脂組成物のみを含むエポキシ樹脂フィルムを配置し、さらにその両表面に熱可塑性樹脂を含むエポキシ樹脂組成物のフィルムを配置することである。このような手段を取ることにより、前記プリプレグの製造方法よりも、未含浸部の連続性を確保し易く、ボイドの発生リスクをさらに低減することが可能となる。
【0064】
本発明の離型シート付プリプレグは、本発明のプリプレグの少なくとも一方の表面に離型シートが付着してなる。プリプレグの表面に離型シートを付着させることにより、本発明のプリプレグを保管する際に、未含浸部の連続性を維持することができる。また、表面付近に存在するエポキシ樹脂組成物の強化繊維シート内への含浸の進行を抑制することができ、未含浸部を介した揮発分や噛み込み空気の除去効率を維持することができる。
【0065】
本発明における離型シートは空孔のないもの、または微小な空孔のみを有するものが好ましい。より具体的には、本発明における離型シートは、空気透過係数が10-6cm/cmHg未満であることが好ましい。例えば、空孔の大きな不織布や発泡シートのように多くの空孔を有する離型シートではなく、空孔のない、または微小な空孔のみを有する離型シート、すなわち、空気透過係数が10-6cm/cmHg未満である離型シートをプリプレグに貼り付けることにより、プリプレグの表面樹脂のうち離型シートとの非接触部が少なくなり、時間が経過してもプリプレグの表面樹脂がプリプレグ内部または不織布や発泡シート内に含浸しにくくなる。
【0066】
本発明における離型シートは、表面が平滑であることが好ましい。より具体的には、本発明における離型シートは、プリプレグに貼り付ける範囲において、ISO25178で規定された算術平均高さSaがプリプレグの強化繊維径未満であることが好ましい。表面が平滑である、すなわち、前記算術平均高さSaの小さい離型シートをプリプレグに貼り付けることにより、離型シートの谷の部分でもプリプレグの表面樹脂が離型シートに接触しやすくなり、十分な含浸抑制の効果が得られやすくなる。
【0067】
離型シートの例としては、離型紙やプラスチックフィルムなどが挙げられるが、この限りではない。また、プラスチックフィルムの例としては、ポリエチレン製フィルム、ポリテトラフルオロエチレン製フィルムなどが挙げられる。中でも、ポリエチレン製フィルムが好ましい。
【0068】
本発明の離型シート付プリプレグは、離型シートが離型紙であり、エポキシ樹脂組成物の未含浸部が局在化していない表面側に前記離型紙が付着してなることが好ましい。かかる離型シート付プリプレグは、例えば、以下の方法により得ることができる。すなわち、プリプレグの製造においては、強化繊維シートに転写するエポキシ樹脂フィルムを支持するために離型紙が用いられることがある。その際、エポキシ樹脂フィルムを転写後に離型紙をそのままプリプレグに貼り付けたままにすることにより、上述の離型シート付プリプレグを得ることができる。かかる離型シート付プリプレグとすることにより、特に、プリプレグが薄い場合に、離型紙などの比較的剛性のあるシートで支持させることで、自重で折れ曲がりにくくなり、ハンドリング性が良くなる。また、本発明のプリプレグの層間形成層4は含浸距離が長く、従来の真空圧成形対応のプリプレグの層間形成層よりも曲げ剛性が高いため、離型紙を貼り付ける表面を層間形成層4側(エポキシ樹脂組成物の未含浸部が局在化していない表面側)にすることで、積層作業などで離型紙を剥がす際にも、未含浸部を起点とした割れが発生しにくくさらにハンドリング性の良いプリプレグとなる。
【0069】
離型シートが離型紙である場合の離型紙の厚さは、100~140μmであることが好ましい。離型紙の厚さがかかる範囲であることにより、離型紙を用いた場合の上述の効果が得られやすくなる。
【0070】
本発明の離型シート付プリプレグは、離型シートがプラスチックフィルムであり、エポキシ樹脂組成物の未含浸部が局在化している表面側に前記プラスチックフィルムが付着してなることが好ましい。本発明のプリプレグの層間形成層3は含浸距離が短いため、層間形成層3側(エポキシ樹脂組成物の未含浸部が局在化している表面側)の表面には、微小な力で剥がすことが可能であるプラスチックフィルムを貼り付けることが好ましい。
【0071】
離型シートがプラスチックフィルムである場合のプラスチックフィルムの厚さは、10~40μmであることが好ましい。また、プラスチックフィルムは、厚さが10~40μmのポリエチレン製フィルムであることがより好ましい。
【0072】
本発明の離型シート付プリプレグは、一方の離型シートが離型紙であり、他方の離型シートがプラスチックフィルムであり、エポキシ樹脂組成物の未含浸部が局在化していない表面側に前記離型紙が付着し、エポキシ樹脂組成物の未含浸部が局在化している表面側に前記プラスチックフィルムが付着してなることがより好ましい。かかる離型シート付プリプレグとすることにより、未含浸部の連続性が維持されやすく、かつ、積層時のハンドリング性が向上しやすくなる。
【0073】
本発明のプリプレグ積層体は、本発明のプリプレグを、エポキシ樹脂組成物の未含浸層が局在化している側が全て上側または全て下側となるように積層してなる。かかるプリプレグ積層体を硬化させることでボイドのさらなる抑制が可能となる。これは、積層時に層間において噛みこんだ空気を排除する過程において、強化繊維層内の未含浸層と層間の距離が短いほうが噛みこみ空気の排除が容易であることによる。この状況を、図5に示す。図5(a)は、本発明のプリプレグを未含浸層の局在化している側が上側になるように積層したプリプレグ積層体を示しており、図5(b)は、従来の真空圧成形用プリプレグを従来通り積層したプリプレグ積層体を示している。両者層間に噛みこみ空気18を含んでいるが、層間と未含浸層までの距離Lは図5(a)のほうが短く、脱気が効率化される。未含浸層の局在化している側を統一せずに積層する場合には、強化繊維層への含浸距離が長い樹脂層に挟まれた層間の噛みこみ空気の脱気が非効率となり、ボイド発生につながる恐れがある。層間と未含浸層との距離を短くするという観点では、図3、または図5における未含浸層の上端であるH4とプリプレグの上端までの距離は短いほうが好ましい。
【0074】
本発明の繊維強化複合材料は、本発明のプリプレグ、または、本発明のプリプレグ積層体を硬化してなる。すなわち、本発明の繊維強化複合材料は、本発明のプリプレグ、またはその積層体である本発明のプリプレグ積層体を加熱硬化させることにより作製できる。本発明のプリプレグは真空圧成形に好適なものであるが、オートクレーブ成形、およびプレス成形においても同様にボイドが発生し難いプリプレグとして用いることができる。
【0075】
本発明のプリプレグをオーブンで加熱して硬化させる場合は、例えば、以下の成形法を用いることでボイドの少ない繊維強化複合材料を得ることが可能である。単層のプリプレグまたは複数枚のプリプレグを積層して得られるプリプレグ積層体を、内部の圧力が11kPa以下の袋に包んで20~70℃の温度に保ち揮発分を除去し、圧力を11kPa以下に維持したまま硬化温度まで昇温する。ここで、揮発分の除去は、圧力が0.1kPa~11kPaである条件で行うことが好ましく、0.1kPa~7kPaである条件で行うことがより好ましい。真空度が高いほど、すなわち、内部の圧力が低いほど、揮発分の除去を短時間で実施することが可能となる。内部の圧力を11kPa以下とすることにより、プリプレグ中における揮発分の除去を十分にしやすくなり、得られる繊維強化複合材料中にボイドが発生しにくくなる。
【0076】
また、成形時には未含浸部にエポキシ樹脂組成物が充填される必要があるが、そのためにはエポキシ樹脂組成物の粘度を低下させることが効果的である。例えば、加温状態でありながらエポキシ樹脂組成物の硬化開始温度よりも低い温度(40℃~130℃)にて長時間保持し、未含浸部にエポキシ樹脂組成物を充填させた後、エポキシ樹脂組成物の硬化温度(130℃~200℃)とし、エポキシ樹脂組成物を硬化させるのが良い。
【実施例
【0077】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0078】
<本発明の実施例および比較例に用いた材料>
(1)構成要素[A]:強化繊維
[炭素繊維]
・炭素繊維(製品名:“トレカ(登録商標)”T800S-24K-10E、フィラメント数24,000、引張強度5.9GPa、引張弾性率290GPa、引張伸度2.0%、東レ株式会社製)。
【0079】
(2)構成要素[B]:エポキシ樹脂
[エポキシ樹脂]
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(製品名:“jER(登録商標)”825、三菱ケミカル(株)製)
・テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(製品名:“アラルダイト(登録商標)”MY721、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)
(3)構成要素[C]:硬化剤
[芳香族アミン硬化剤]
・4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(製品名:“セイカキュアS”、和歌山精化工業(株)製)。
【0080】
(4)構成要素[D]:エポキシ樹脂[B]に不溶な熱可塑性樹脂
[熱可塑性樹脂]
・下記の製造方法で得られたポリアミド微粒子(平均粒子径:13μm)
透明ポリアミド(“グリルアミド(登録商標)”TR55、エムスケミー・ジャパン(株)製)90部、エポキシ樹脂(“jER(登録商標)”828、三菱ケミカル(株)社製)7.5部および硬化剤(“トーマイド(登録商標)”#296、(株)ティーアンドケイ東華製)2.5部を、クロロホルム300部とメタノール100部の混合溶媒中に添加して均一溶液を得た。次に、得られた均一溶液を塗装用のスプレーガンを用い、撹拌している3000部のn-ヘキサンの液面に向かって霧状に吹き付けて溶質を析出させた。析出した固体を濾別し、n-ヘキサンでよく洗浄した後に、100℃の温度で24時間の真空乾燥を行い、球状のセミIPN構造を有するエポキシ改質ポリアミド粒子を得た。
【0081】
(5)その他の構成要素:エポキシ樹脂[B]に可溶な熱可塑性樹脂
・ポリエーテルスルホン(製品名:“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P、住友化学(株)社製)。
【0082】
<評価方法>
以下の測定方法を用いて各実施例のエポキシ樹脂組成物およびプリプレグを測定した。
【0083】
(1)プリプレグのエポキシ樹脂組成物の含浸率φの測定
プリプレグをナイフにより切断し、その破面をSEM(“VHX(商標登録)”D510、キーエンス社製)により観察し、前記手法に従い、含浸率φ=(単位幅あたりに存在する、エポキシ樹脂組成物が付着していない炭素繊維の本数)/(単位幅あたりに存在する炭素繊維の総本数)とした。
【0084】
(2)局在化パラメータσの測定
プリプレグをナイフにより切断し、その破面をSEM(“VHX(商標登録)”D510、キーエンス社製)により観察し、各炭素繊維の中心点の座標を取得し、前記手法に従い、局在化パラメータσを算出した。
【0085】
(3)面内方向の浸透係数K
前記手法に従い、繊維配向方向100mm、繊維垂直方向50mmの短冊状プリプレグを8層積層し、プリプレグ積層体の繊維方向に流れる空気量、プリプレグ両端の気圧Pa、Pvを測定した。また、式1に従い、面内方向の浸透係数Kを評価した。
【0086】
(4)プリプレグのハンドリング性
23℃の環境下でプリプレグをナイフで切断した際に、その端部に発生する毛羽、積層時のプリプレグの面外方向の剥離、積層時の貼り合わせによる修正のしやすさを確認し、以下の基準によりその優劣を判断した。
A :良好
B :積層可能であるが、端部から一部の毛羽が発生
C :積層可能であるが、端部から毛羽が発生し、貼り合わせの修正も工夫を要する
D :不良。
【0087】
(5)繊維強化複合材料のボイド率測定
縦300mm×横150mmのプリプレグを一方向に16枚積層し、プリプレグ積層体とした後、プリプレグ積層体の両表面に厚さ100μmのPTFEフィルムを配置し、厚さ10mmのアルミ板の上にのせ、ナイロンフィルムで覆った。さらに、25℃環境下で、プリプレグ積層体の周囲の真空度を3kPaとし、3時間放置し、揮発分を除去した。その後、真空度を3kPaに維持したまま1.5℃/分の速度で120℃の温度まで昇温して180分間保持し、さらに1.5℃/分の速度で180℃の温度まで昇温して120分間保持し、樹脂を硬化させることにより、繊維強化複合材料を得た。この繊維強化複合材料から縦10mm×横10mmのサンプル片を3個切り出し、その断面を研磨後、繊維強化複合材料の上下面が視野内に収まるように50倍のレンズを用いて光学顕微鏡で観察し、画像を取得した。取得画像から、ボイド領域と総断面積の割合を算出することにより各画像のボイド率を算出した。同様の作業を各サンプルにつき3箇所、合計9箇所実施し、その平均値を各評価水準のボイド率とした。
【0088】
(6)繊維強化複合材料の耐衝撃性評価(衝撃後圧縮強度(CAI)測定)
一方向プリプレグを、45度ずつずらしながら24枚積層することで、[+45°/0°/-45°/90°]3sの積層構成を有するプリプレグ積層体とした。プリプレグ積層体の両表面に厚さ100μmのPTFEフィルムを配置し、厚さ10mmのアルミ板の上にのせ、ナイロンフィルムで覆った。さらに、25℃環境下で、プリプレグ積層体の周囲の真空度を3kPaとし、3時間放置し、揮発分を除去した。その後、1.5℃/分の速度で120℃の温度まで昇温し、真空度を3kPaに維持したまま180分間保持した。その後1.5℃/分の速度で180℃の温度まで昇温し、120分間保持してプリプレグを硬化させ、繊維強化複合材料を作製した。この繊維強化複合材料から、縦150mm×横100mmのサンプルを切り出し、SACMA SRM 2R-94に従ってサンプルの中心部に6.7J/mmの落錘衝撃を与え、衝撃後圧縮強度を求めた。
【0089】
<実施例1>
60質量部の“アラルダイト(登録商標)”MY721および40質量部の“jER(登録商標)”825を混練機中に加え、さらに12質量部の“スミカエクセル(登録商標)”PES5003Pを加えて加熱溶解させ、次いで硬化剤としてセイカキュアSを46質量部混練して、エポキシ樹脂に不溶な熱可塑樹脂を含まないエポキシ樹脂組成物(第1フィルム用)を作製した。
【0090】
同様に、60質量部の“アラルダイト(登録商標)”MY721および40質量部の“jER(登録商標)”825を混練機中に加え、さらに12質量部の“スミカエクセル(登録商標)”PES5003Pを加えて加熱溶解させ、熱可塑性樹脂粒子であるポリアミド微粒子を45質量部混練し、次いで硬化剤として“セイカキュアS”を46質量部混練して、エポキシ樹脂に不溶な熱可塑樹脂を含むエポキシ樹脂組成物(第2フィルム用)を作製した。
【0091】
作製した2種のエポキシ樹脂組成物をそれぞれナイフコーターで離型紙に塗布し、樹脂フィルムを作製した。熱可塑性樹脂粒子を含まない樹脂フィルムは52g/m、熱可塑性樹脂粒子を含む樹脂フィルムは26g/mとした。ここで熱可塑性樹脂粒子を含まない樹脂フィルムを第1フィルム、熱可塑性樹脂を含む樹脂フィルムを第2フィルムとする。次に、炭素繊維を一方向に190g/mとなるように配列し、炭素繊維シートとした後、片面に第1フィルムを貼り付け、表面温度100℃のローラーを押し当てながら樹脂を含浸させた後、第1フィルムに付着した離型紙を剥がした。続いて、前記炭素繊維シートの両面にポリアミド微粒子を含む第2フィルムを表面温度100℃のローラーを押し当てながら含浸し、第2フィルムのみ貼り付けた表面側の離型紙を剥がした。次に、離型紙が剥がされた側のプリプレグ表面にプラスチックフィルムとして厚さ23μmのポリエチレン製フィルムを貼り付けた。このようにして、樹脂質量分率が35%の一方向プリプレグを作製した。
【0092】
前記一方向プリプレグに付随した離型紙、ポリエチレン製フィルムを剥がし、積層した。積層方法および繊維強化複合材料の作製方法は、前述の<評価方法>(6)に記載のとおりであった。
【0093】
<実施例2~5:通気量、ハンドリング性、ボイド率に対する含浸率の影響検証>
第1フィルムを転写する際のローラー表面温度を、実施例2は110℃、実施例3は120℃、実施例4は130℃、実施例5は140℃にした以外は実施例1と同様の方法でプリプレグを作製し、繊維強化複合材料を得た。
【0094】
<比較例1、2>
熱可塑性粒子を含まない第1フィルムは用意せず、熱可塑性粒子を含む第2フィルムを52g/mとなるように作製した点、ローラー表面温度を比較例1は140℃、比較例2は120℃に変えた点、および、離型紙を剥がしてポリエチレン製フィルムを貼り付ける表面を任意(プリプレグの上面でも下面でもどちらでもよい)とした点以外は、実施例1と同様の方法でプリプレグを作製し、繊維強化複合材料を得た。
【0095】
<比較例3>
第1フィルム用エポキシ樹脂組成物および第2フィルム用のエポキシ樹脂組成物の“スミカエクセル(登録商標)”PES5003Pの含有量を8質量部、第1フィルムを転写する際のローラー表面温度を130℃、第2フィルムを転写する際のローラー表面温度を120℃とする以外は、実施例1と同様の方法でプリプレグを作製し、繊維強化複合材料を得た。
【0096】
<比較例4>
第1フィルム用エポキシ樹脂組成物および第2フィルム用のエポキシ樹脂組成物の“スミカエクセル(登録商標)”PES5003Pの含有量を6質量部、第1フィルムを転写する際のローラー表面温度を140℃、第2フィルムを転写する際のローラー表面温度を100℃とする以外は、実施例1と同様の方法でプリプレグを作製し、繊維強化複合材料を得た。
【0097】
<実施例1~4および比較例1、2>
含浸率φが同等のプリプレグにおいても、未含浸部の重心位置を片側に局在化させることにより、通気量が高く、繊維強化複合材料のボイド率も1%以下となった。未含浸領域の揮発分の除去効率が向上することにより、ボイド発生量の低下につながったと考えられる。
【0098】
<実施例5および比較例3、4>
実施例5と比較例3の比較より、含浸率φを30%~95%、およびプリプレグの面内方向の浸透係数Kを1.1×(1-φ/100)×10-13以上にすることにより、低ボイド率を示すことが明らかとなった。比較例4はボイドが多数発生したが、局在化パラメータσが高すぎるため、未含浸部の連続性の確保が困難であり、浸透係数が低くなったことが原因と考えられる。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【符号の説明】
【0101】
1:エポキシ樹脂組成物
2:エポキシ樹脂に不溶な熱可塑性樹脂
3:層間形成層(未含浸部の局在側)
4:層間形成層(未含浸部の反対側)
5:強化繊維
6:強化繊維層
7:未含浸層
8:等分線
9:プリプレグ積層体
10:シーラント
11:カバーフィルム
12:金属板
13:ガラステープ
14:空気流量計
15:通気口
16:圧力計
17:真空ポンプ
18:層間の噛みこみ空気
図1
図2
図3
図4
図5